説明

インホイールモータ

【課題】車両の加速時および減速時に車体に伝達される高周波の振動を抑制する。
【解決手段】 インホイールモータは、車輪に設けられ、車輪に駆動力を付与する回転電機110と、回転電機を収納し、車輪を回転自在に支持する筐体134と、筐体134の車体側への取付部であるボールジョイント106,108と筐体134との間に設けられる制振部材124,126とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータに関し、特に、車輪に設けられる回転電機のトルク反力に基づく高周波の振動が車体側へ伝達されることを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題対策の1つとして、モータからの駆動力により走行するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などが注目されている。このような車両には駆動源としてモータが搭載され、車両の走行時においては、モータから振動および騒音が発生する場合がある。このような問題に鑑みて、たとえば、特開平5−162542号公報(特許文献1)は、電気自動車に複数の駆動用モータを搭載する場合の、車載性の向上と振動騒音低減の両立を図る電気自動車の駆動装置を開示する。この駆動装置は、複数の駆動用モータを備えた電気自動車において、モータの本体同士を制振材を介して結合したことを特徴とする。また、この駆動装置は、複数の駆動用モータを有する電気自動車において、モータの本体を制振材を介して車体へ取り付けたことを特徴とする。
【0003】
上述した公報に開示された電機自動車の駆動装置によると、電気自動車のモータ同士を結合するタイプの場合においても、相互の加振作用を抑制してその振動の伝達を小さくでき、モータの車載性の向上と振動騒音低減の両立を図り、ひいては、モータ自体の耐久性、車両の静寂性、走行安定性を向上させることが可能となる。
【0004】
また、モータを駆動源とする電気自動車としては、車体側にモータが設けられる車両ばかりでなく車輪にインホイールモータが設けられる車両が公知である。
【特許文献1】特開平5−162542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インホイールモータが設けられる車両においては、インホイールモータにおいて発生した振動が車体側に伝達されるという問題がある。モータの駆動時に発生する振動および騒音は、ロータの回転あるいはギヤ噛み合いなどに起因して発生する数百Hzから数kHzの周波数帯の振動である。これらの振動は、特に車両の加速時および減速時において顕著に発生する。
【0006】
インホイールモータの筐体は、ボールジョイントを介してサスペンションに取り付けられる。ボールジョイントのボールと受け皿との間には、グリスが充填されている。ボールジョイントは、車両の加速時および減速時におけるモータのトルク反力を受ける。ボールジョイントがトルク反力を受ける際に、ボールジョイント内部の受け皿あるいは壁面にボール部が接触する。ボールジョイントにおいて受け皿あるいは壁面にボール部が接触すると、インホイールモータにおいて発生した振動がサスペンション(たとえば、ロアアームおよびアッパーアーム)を介して車体側に伝達される度合が大きくなる(すなわち、振動が伝達されやすくなる)。これにより車室内に振動および振動に基づく騒音が発生するため、乗員は不快感を感じる場合がある。
【0007】
また、ショックアブソーバの付け根部分やサスペンションと車体との取付部分にはゴムブッシュ等の制振部材が設けられる。これにより、路面からの衝撃や振動が車内に伝達しない構造となっている。しかしながら、これらゴムブッシュは、路面からの10〜15Hz程度の振動の入力にしか対応していない。そのため、インホイールモータにおいて発生する高周波ノイズを抑制することはできない。
【0008】
上述した公報に開示された電気自動車の駆動装置において、モータは制振材を介して車体側に取り付けられるものである。また、上述したように車両の加速時および減速時にインホイールモータから車体に伝達される高周波の振動を抑制する具体的な技術について何ら開示されていない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、車両の加速時および減速時に車体に伝達される高周波の振動を抑制するインホイールモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係るインホイールモータは、車輪に駆動力を付与する回転電機と、回転電機を収納する筐体であって、車輪を回転自在に支持する回転支持部材と、回転支持部材の車体側への取付部と回転支持部材との間に設けられる制振部材とを含む。
【0011】
第1の発明によると、回転支持部材(たとえば、回転電機の筐体)の車体側への取付部(たとえば、ボールジョイント)と回転支持部材との間には、制振部材が設けられる。たとえば、制振部材として回転電機において発生する高周波の振動を抑制する部材を用いるようにすると、車両の加速時および減速時に回転電機のトルク反力が取付部に付与されて、回転支持部材から車体側への振動の伝達の度合が取付部において大きくなったとしても、制振部材により高周波振動の車体側への伝達を抑制することができる。したがって、車両の加速時および減速時の車体に伝達される高周波の振動を抑制するインホイールモータを提供することができる。
【0012】
第2の発明に係るインホイールモータにおいては、第1の発明の構成に加えて、制振部材は、車両の加速時および減速時の回転電機のトルク反力に基づいて発生する振動のうち予め定められた周波数帯の振動を抑制する。
【0013】
第2の発明によると、取付部(たとえば、ボールジョイント)と回転支持部材(たとえば、回転電機の筐体)との間には、車両の加速時および減速時に回転電機のトルク反力に基づいて発生する振動のうち予め定められた周波数帯の振動を抑制する部材が設けられる。これにより、車両の加速時および減速時に回転電機のトルク反力が取付部に付与されて、回転支持部材から車体側への振動の伝達の度合が取付部において大きくなったとしても、制振部材により予め定められた周波数帯(たとえば、回転電機において発生する高周波振動の周波数帯)の振動の車体側への伝達を抑制することができる。
【0014】
第3の発明に係るインホイールモータにおいては、第2の発明の構成に加えて、予め定められた周波数帯は、取付部よりも車体側に設けられる制振部材が抑制する振動の周波数帯よりも高い周波数帯である。
【0015】
第3の発明によると、取付部(たとえば、ボールジョイント)と回転支持部材(たとえば、回転電機の筐体)との間には、取付部よりも車体側に設けられる制振部材(たとえば、路面からの10〜15Hzの振動を吸収するゴムブッシュ)よりも高い周波数帯(たとえば、回転電機において発生する高周波振動に対応する周波数帯)の振動を抑制する制振部材が設けられる。これにより、車両の加速時および減速時に回転電機のトルク反力が取付部に付与されて、回転支持部材から車体側への振動の伝達の度合が取付部において大きくなったとしても、制振部材により取付部よりも車体側に設けられる制振部材よりも高い周波数帯の振動の車体側への伝達を抑制することができる。
【0016】
第4の発明に係るインホイールモータにおいては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、制振部材は、取付部において鉛直線が通る位置から前記車両の前後方向に所定量オフセットした位置にそれぞれ設けられる。
【0017】
第4の発明によると、制振部材は、取付部(たとえば、ボールジョイント)において鉛直線が通る位置から車両の前後方向に所定量オフセットした位置にそれぞれ設けられる。これにより、車両の加速時および減速時に回転電機のトルク反力が取付部に付与されて、回転電機において発生した高周波振動の車体側への伝達の度合が取付部において大きくなったとしても、制振部材が伝達の度合が大きい部位に対応する位置に設けられることにより、回転支持部材から車体側に伝達される高周波振動を効果的に抑制することができる。
【0018】
第5の発明に係るインホイールモータにおいては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、車輪は、操舵時に車輪が操舵方向に向くように回転する操舵輪である。回転支持部材には、取付部を介して車体を懸架するサスアームが設けられる。取付部は、車体に対して車輪が操舵方向に回転自在になるように回転支持部材を支持し、かつ、車体に対して車輪が上下方向に揺動自在になるように回転支持部材を支持する。
【0019】
第5の発明によると、取付部(たとえば、ボールジョイント)は、車体に対して車輪を操舵方向に回転自在になるように回転支持部材(たとえば、回転電機の筐体)を支持し、かつ、車体に対して車輪が上下方向に揺動自在になるように回転支持部材を支持する。このような構造を有する取付部と回転支持部材との間に制振部材を設けることにより、回転電機において生じる高周波の振動が車体に伝達されることを抑制することができる。
【0020】
第6の発明に係るインホイールモータにおいては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、取付部は、ボールジョイントである。
【0021】
第6の発明によると、車両の加速および減速時に回転電機のトルク反力がボールジョイントに付与されて、回転支持部材から車体側へと振動の伝達の度合がボールジョイントにおいて大きくなったとしても、制振部材により回転電機において生じた高周波の振動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0023】
図1に本実施の形態に係るインホイールモータの正面図を示す。また、図2に本実施の形態の係るインホイールモータの車両の中央側から外側へ向けての側面図を示す。さらに、図3に本実施の形態に係るインホールモータの斜視図を示す。
【0024】
図1−図3に示すインホイールモータ100は、前輪に対応するインホイールモータであってもよいし、後輪に対応するインホイールモータであってもよく、特に限定されるものではない。本実施の形態において、インホイールモータ100は、前輪に対応するインホイールモータであるとして説明する。また、図1−図3は、左前輪側のインホイールモータの図であるが、右前輪側のインホイールモータの構成も左前輪のインホイールモータの構成と同じである。そのため、詳細な説明は繰り返さない。
【0025】
本実施の形態に係るインホイールモータ100は、図1−図3に示すように、回転電機110と、回転電機110の筐体134と、ボールジョイント106,108と、ブレーキキャリパ112と、ブレーキロータ114と、制振部材124,126とから構成される。
【0026】
回転電機110の筐体134の上部側には、支持部116が突設され、支持部116には、ボールジョイント106のボールジョイントソケット部130がボルト162の締結により固定される。また、筐体134の下部側には、支持部118が突設され、ボールジョイント108のボールジョイントソケット部132がボルト164の締結により固定される。ボールジョイント106は、ボールスタッド(図示せず)と、ダストブーツ152と、ボールジョイントソケット部130とから構成される。ボールジョイント106の詳細な構造については後述する。また、ボールジョイント108は、ボールスタッドと、ダストブーツ166と、ボールジョイントソケット部132とから構成される。
【0027】
ボールジョイント106のボールスタッドは、アッパーアーム102に貫通するように組付けられて、先端のねじ山部がナット120を用いて締結される。またボールジョイント108のボールスタッドは、ロアアーム104に貫通するように組付けられて、先端のねじ山部がナット122を用いて締結される。
【0028】
回転電機110は、ロータとステータとから構成される。筐体134は、リダクションギヤと、回転電機110、すなわち、ロータとステータとを収納する。筐体134の内部側にステータが固設される。ステータの内側には、ロータが筐体134に設けられたベアリング等により回転自在に支持される。
【0029】
リダクションギヤは、たとえば、サンギヤ、ピニオンギヤ、リングギヤおよびプラネタリキャリアによって構成されるプラネタリギヤである。回転電機のロータにサンギヤ軸が連結される。また、プラネタリキャリアがホイールハブ(図示せず)に連結される。ホイールハブは、筐体134に設けられたハブベアリングにより回転自在に支持される。
【0030】
ホイールハブには、ブレーキロータ114が組付けられる。ブレーキロータ114は、ホイールハブにボルト締結により固定されてもよいし、ホイールディスクの取付時にホイールナット(あるいはボルト)の締結によりホイールディスクとホイールハブとにより挟み込まれて固定されるようにしてもよい。
【0031】
また、筐体134には、ブレーキキャリパ112がボルト締結により固定される。ブレーキキャリパ112には、1組のブレーキパッド(図示せず)が設けられる。ブレーキキャリパ112は、1組のブレーキパッドでブレーキロータ114の図1の紙面左右方向の端面である摺動面を両側から挟み込むようにして設けられる。運転者がブレーキペダルを踏込むなどしてブレーキキャリパ112に供給される油圧が上昇することにより、ブレーキパッドによるブレーキロータ114の挟持力が上昇して制動力が発現する。
【0032】
ブレーキロータ114のホイールハブとの当接面と反対側のホイール取付面128には、タイヤが組付けられた略カップ型形状のホイールディスク(いずれも図示せず)が取り付けられる。本実施の形態において、「車輪」は、ホイールディスクとタイヤとから構成される。また、本実施の形態において、筐体134は、回転電機110を収納し、車輪を回転自在に支持する「回転支持部材」である。
【0033】
本実施の形態において、インホイールモータ100は操舵輪を構成する。すなわち、筐体134には、車輪が操舵方向に向くようにボールジョイント106,108を結ぶ線を回転軸(キングピン軸)として回転させる、図示されないステアリングタイロッドが連結される。
【0034】
回転電機110は、たとえば、三相交流回転電機である。回転電機110には、パワーケーブル136が電気的に接続される。パワーケーブル136は、車体側に設けられるインバータに電気的に接続される。インバータにはバッテリから直接あるいはコンバータを介して直流電力が供給される。インバータに供給された直流電力は、交流電力に変換されてパワーケーブル136を介して回転電機110に供給される。インバータから回転電機110に対して交流電力が供給されると、ステータに巻回されたコイルに磁力が発生して、磁束の流れに応じてロータは回転力を得る。すなわち、車輪を回転させる駆動力が発現する。なお、バッテリに代えてキャパシタを用いるようにしてもよい。
【0035】
図4に図2の4−4断面を示す。図4に示すように、ボールジョイント106は、ボールスタッド150と、ダストブーツ152と、ボールジョイントソケット部130とから構成される。ボールジョイントソケット部130の内部には、ボールスタッド150の一方端に形成されるボール部154がボールジョイントソケット部130から紙面上方向に抜けないように形成される受け皿156が設けられる。ボールスタッド150の他方端にはねじ山部158が形成され、アッパーアーム102を貫通してナット120により締結される。
【0036】
ボールスタッド150は、ねじ山部128側を紙面上方向に向けて、ボールジョイントソケット部130の下方向から受け皿156が形成される開口部を貫通するようにして組付けられる。ボールスタッド150のボール部154とボールジョイントソケット部130の受け皿156との間には、グリスが充填される。また、ボールスタッド150の軸回りの、ボールジョイントソケット部130との間隙はダストブーツ152により覆われる。なお、ボールジョイント108の構造は、ボールジョイント106の構造と同様の構造である。そのため、詳細な説明は繰り返さない。
【0037】
このようにホールスタッド150のボール部154とボールジョイントソケット部130の受け皿とが摺動することにより、筐体が、操舵方向に回転自在に支持され、車体に対して車輪が上下方向に揺動自在になるように支持される。
【0038】
以上のような構成を有するインホイールモータ100が設けられる車両においては、インホイールモータにおいて発生した振動が車体側に伝達される場合がある。インホイールモータが設けられる車両においては、モータの駆動時に発生する振動および騒音は、ロータの回転あるいはギヤの噛み合いなどに起因して発生する数百Hzから数kHzの周波数帯の振動である。これらの振動は、特に車両の加速時および減速時において顕著に発生する。
【0039】
これは、車両の加速時および減速時における回転電機110のトルク反力をボールジョイント106,108で受けることに起因する。ボールジョイント106,108が回転電機110のトルク反力を受ける際に、たとえば、ボールジョイント106において、ボール部150と受け皿156あるいは壁面に直接接触する場合がある。ボール部150と受け皿156とが接触すると、接触した部位において、回転電機110において発生した振動が筐体134、アッパーアーム102およびロアアーム104を介して車体側へと伝達される度合が大きくなる(伝達されやすくなる)。これにより、車室内に振動および振動に基づく騒音が発生するため、乗員は不快感を感じる場合がある。
【0040】
また、ショックアブソーバの付け根部分やアッパーアーム102およびロアアーム104と車体側との取付部分にはゴムブッシュが設けられる。これにより、衝撃や振動が車内に伝達しない構造となっている。しかしながら、これらゴムブッシュは、路面からの10〜15Hz程度の振動の入力にしか対応していない。そのため、インホイールモータにおいて発生する高周波ノイズを抑制することはできない。
【0041】
そこで、本発明は、回転電機110の車体側への取付部と筐体134との間に制振部材124,126が設けられる点に特徴を有する。本実施の形態において、図1−図3に示すように、ボールジョイント106のボールジョイントソケット部130と支持部116との間に制振部材124が設けられ、ボールジョイント108のボールジョイントソケット部132と支持部118との間に制振部材126が設けられる。
【0042】
図4に示すように、本実施の形態において、制振部材124は、ボールジョイントソケット部130と支持部116とが間隙を有するように形成される。具体的には、制振部材124は、ボールジョイントソケット部130に対して、図4の紙面上方向に間隙を有するようシート状の部分を有する。さらに、制振部材124は、ボールジョイントソケット部130の下部の円筒形状に形成される円筒部分160の外周面を覆う中空円筒形状の部分を有する。これにより、制振部材124によりボールジョイントソケット部130と支持部116とが当接しない位置関係となる。なお、制振部材124の厚さは、略一定であってもよいし、部位に応じて厚さを変更するようにしてもよい。たとえば、車両の加速時および減速時においては、ボールジョイント106において、ボールスタッド150は、車両の前後方向で受け皿156と接触する。したがって、制振部材124の円筒部分160の外周面を覆う中空円筒形状の部分において、車両の前後方向における厚さを左右方向よりも厚くするように形成してもよい。
【0043】
また、制振部材126についても同様に、ボールジョイントソケット部132と支持部118とが間隙を有するように形成される。これにより、制振部材126によりボールジョイントソケット部132と支持部118とが当接しない位置関係となる。また、制振部材126についても、車両の前後方向のおける厚さを左右方向の厚さよりも厚くするように形成してもよい。
【0044】
制振部材124,126は、たとえば、ゴムや樹脂等を材質とする部材であるが、前述のゴムブッシュに対応する路面からの10〜15Hz程度の振動よりも高い周波数帯の振動の伝達を抑制(すなわち、吸収)する部材であれば特に限定されるものではない。たとえば、制振部材124,126は、制振鋼板、ハニカム材などであってもよい。本実施の形態において、制振部材124,126は、回転電機110の作動時に発生する数百Hzから数kHzの高周波の振動を吸収するゴム系の制振材である。
【0045】
以上のような構造に基づく本実施の形態に係るインホイールモータの作用について説明する。
【0046】
インホイールモータ100を有する車両の加速時および減速時を想定する。車両の前進加速時においては、インバータから回転電機110に電力が供給されると、車輪に回転力が付与されて車両が加速を開始する。回転電機110のロータに回転力が生じるときには、ステータが固定される筐体134には、車輪の回転方向の逆方向の回転力(以下、単に加速時のトルク反力と記載する)が発現する。
【0047】
筐体134に生じた加速時のトルク反力は、支持部116においては、アッパーアーム102に対して車両の後方側に作用し、支持部118においては、ロアアーム104に対して車両の前方側に作用する。これにより、ボールジョイント106のボールスタッド150は、受け皿156の車両の前方側の部分に接触する。ボールジョイント108のボールスタッドは、受け皿の車両の後方側の部分に接触する。このとき、ボールジョイント106のボールスタッド150と受け皿156の接触部位においては、ボールジョイントソケット部130からボールスタッド150へと振動の伝達の度合が大きくなる(振動が伝達されやすくなる)。また、ボールジョイント108における接触部位においても同様に振動の伝達の度合が大きくなる。
【0048】
一方、車両の前進減速時においては、回転電機110において回生ブレーキ等の発電が行なわれる。このとき、車両の回転方向と同方向の回転力(以下、単に減速時のトルク反力と記載する)が発現する。
【0049】
筐体134に生じた減速時のトルク反力は、支持部116においては、車両の前方側に作用し、支持部118においては、車両の後方側に作用する。これにより、ボールジョイント106のボールスタッド150は、受け皿156の車両の後方側の部分に接触する。ボールジョイント108のボールスタッドは、受け皿の車両の前方側の部分に接触する。このとき、ボールジョイント106のボールスタッド150と受け皿156の接触部位においては、ボールジョイントソケット部130からボールスタッド150へと振動の伝達の度合が大きくなる(振動が伝達されやすくなる)。また、ボールジョイント108における接触部位においても同様に振動の伝達の度合が大きくなる。
【0050】
しかしながら、回転電機110の作動により生じる高周波の振動は、筐体134から支持部116,118と伝達され、制振部材124,126によりボールジョイントソケット部130,132への伝達が抑制される。したがって、車両の加速時および減速時において、ボールジョイント106が振動の伝達の度合が大きくなったとしても、制振部材124,126により回転電機110において生じる高周波の振動の車体側への伝達が抑制される。
【0051】
以上のようにして本実施の形態に係るインホイールモータによると、筐体の車体側への取付部であるボールジョイントと筐体との間に制振部材が設けられる。制振部材は、回転電機において発生する高周波の振動を抑制する部材である。車両の加速時および減速時に回転電機のトルク反力がボールジョイントに付与されると、ボールスタッドと受け皿が接触する部位において、支持部から車体側への振動の伝達の度合が大きくなる。しかしながら、制振部材により高周波振動の車体側への伝達を抑制することができる。したがって、車両の加速時および減速時の車体に伝達される高周波の振動を抑制するインホイールモータを提供することができる。
【0052】
なお、本実施の形態においては、ボールジョイントソケット部と支持部とが当接しないように制振部材を設けるようにしたが、特にこれに限定されるものではなく、たとえば、加速時および減速時における車体側への振動の伝達の度合が大きい部位に対応する位置、具体的には、鉛直線が通る位置から車両の前後方向に所定量オフセットした位置に制振部材を設けるようにしてもよい。たとえば、加速時および減速時は、ボールジョイントにおいて、鉛直線が通る位置から車両の前後方向に所定量オフセットした位置でボールスタッドとボールジョイントソケット部とが接触するため、ボールジョイントソケット部と支持部との間において少なくとも車両の前後方向で当接する部分に制振部材を介在させるようにしてもよい。このようにしても、筐体から車体側に伝達される高周波の振動を抑制することができる。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態に係るインホイールモータの正面図である。
【図2】本実施の形態に係るインホイールモータの側面図である。
【図3】本実施の形態に係るインホイールモータの斜視図である。
【図4】図2の4−4断面を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
100 インホイールモータ、102 アッパーアーム、104 ロアアーム、106,108 ボールジョイント、110 回転電機、112 ブレーキキャリパ、114 ブレーキロータ、116,118 支持部、120,122 ナット、124,126 制振部材、128 ホイール取付面、130,132 ボールジョイントソケット部、134 筐体、150 ボールスタッド、152,166 ダストブーツ、154 ボール部、156 受け皿、158 ねじ山部、160 円筒部分、162,164 ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前記車輪に駆動力を付与する回転電機と、
前記回転電機を収納する筐体であって、前記車輪を回転自在に支持する回転支持部材と、
前記回転支持部材の車体側への取付部と前記回転支持部材との間に設けられる制振部材とを含む、インホイールモータ。
【請求項2】
前記制振部材は、前記車両の加速時および減速時の前記回転電機のトルク反力に基づいて発生する振動のうち予め定められた周波数帯の振動を抑制する、請求項1に記載のインホイールモータ。
【請求項3】
前記予め定められた周波数帯は、前記取付部よりも車体側に設けられる制振部材が抑制する振動の周波数帯よりも高い周波数帯である、請求項2に記載のインホイールモータ。
【請求項4】
前記制振部材は、前記取付部において鉛直線が通る位置から前記車両の前後方向に所定量オフセットした位置にそれぞれ設けられる、請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ。
【請求項5】
前記車輪は、操舵時に前記車輪が操舵方向に向くように回転する操舵輪であって、
前記回転支持部材には、前記取付部を介して前記車体を懸架するサスアームが設けられ、
前記取付部は、前記車体に対して前記車輪が前記操舵方向に回転自在になるように前記回転支持部材を支持し、かつ、前記車体に対して前記車輪が上下方向に揺動自在になるように前記回転支持部材を支持する、請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ。
【請求項6】
前記取付部は、ボールジョイントである、請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−196904(P2007−196904A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19312(P2006−19312)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】