ウェット処理装置
【課題】 安価に製造することができ、また環境負荷を低減し、被処理物の電気的ダメージを低減し、処理能力向上を実現するウェット処理装置を提供する。
【解決手段】 ウェット処理装置20は、スリット状の吐出口38を有するノズル22を含む。このノズル22には、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部37が設けられる。ラジカル生成部37は、吐出口38を構成する第1電極39と、第1電極39の対極として設けられる第2電極40と、第1および第2電極39,40に接し、かつノズル22内の空間36にあって吐出口38から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質41とを含んで構成される。
【解決手段】 ウェット処理装置20は、スリット状の吐出口38を有するノズル22を含む。このノズル22には、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部37が設けられる。ラジカル生成部37は、吐出口38を構成する第1電極39と、第1電極39の対極として設けられる第2電極40と、第1および第2電極39,40に接し、かつノズル22内の空間36にあって吐出口38から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質41とを含んで構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄には、RCA洗浄法が用いられている。RCA洗浄法は、ベースとする過酸化水素の高濃度水溶液中に、さらに硫酸、塩酸などの酸またはアンモニアなどのアルカリを高濃度で添加溶解し、高温に加熱した濃厚薬液に基板を浸漬することによって、基板に付着するパーティクル、有機物、金属、酸化膜などの除去対象物質を除去洗浄する方法である。
【0003】
このRCA洗浄法では、除去対象物質の除去後に、基板に付着する薬液を洗い流すために用いるリンス水の廃水が発生する。この廃水の中には、薬液中に含まれる酸、アルカリ、基板表面から除去される汚染物などが含まれる。また洗浄装置中では、揮発成分、酸性ガスなどが発生する。これらは自然環境にとって好ましくない物質であることが多く、そのまま外部環境に廃棄できないので、これらを処理するための設備が必要になる。このように、RCA洗浄法では、廃水の処理費用および廃水を処理するための設備の保守点検費用を要し、ランニングコストが増大するという問題がある。
【0004】
最近では、半導体ウエハおよび液晶パネルのマザー基板の大型化が進むのに伴って洗浄工程において発生する廃液の量が増加する傾向にあり、廃液処理費用の高騰および環境負荷の増大が問題となっている。その一方で、半導体および液晶における回路のデザインルールが一層微細化し、半導体においては0.1μm以下のレベル、液晶においてもサブミクロンレベルまで実用化がなされている。回路のデザインルールが微細化されている半導体および液晶において、その製造歩留を向上させるには、洗浄工程における洗浄力のさらなる向上が必要とされる。
【0005】
このような問題を解決し、低環境負荷かつ高洗浄力を両立する手段として、水分子を構成する酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を用いる方法がある。この方法は、洗浄水中でラジカル種を発生させ、ラジカル種を含む洗浄水を被処理物の表面に吐出して、被処理物の洗浄を実施するものである。酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種としては、水素ラジカル(原子状水素)、酸素ラジカル(原子状酸素)、水酸基ラジカル、スーパーオキサイドラジカルなどが挙げられる。これらのラジカル種の特徴は、反応性が非常に高く、反応種と瞬時に反応し、水、水素ガス、酸素ガスなどに変化するので、環境への負荷がほとんどなく、また反応性が非常に高いので、数十ppm程度の濃度でも充分な洗浄力を有することである。ラジカル種は、主に、水を電気分解することによって得られるので、薬液を使用する必要がなく、特別な処理を要する廃水および有害ガスが発生しないので、これらを処理する設備を必要としない。したがって、ラジカル種を用いる方法は、全般的に、クリーンでかつコストが低いという利点を有する。
【0006】
酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を利用する洗浄に係る従来技術が、種々提案されている(たとえば、特許文献1参照)。図4は、従来技術の一つである基板洗浄装置1の構成を概略的に示す断面図である。
【0007】
従来技術の基板洗浄装置1は、洗浄液をその内部空間に収容することができる洗浄槽2を備え、洗浄槽2の内部空間は2枚のH+イオン交換膜3a,3bによって、2枚のH+イオン交換膜3a,3bの間に位置する中央のカソード室4と、2枚のH+イオン交換膜3a,3bのそれぞれと洗浄槽2の内壁とで形成される2つのアノード室5a,5bの3室に区切られる。各H+イオン交換膜3a,3bのカソード室4側の面には、多孔板からなる内側電極6a,6bがそれぞれ固着され、アノード室5a,5b側の面には多孔板からなる外側電極7a,7bが固着される。またカソード室4に臨む洗浄槽2の底部には、超音波発振器8が設けられる。
【0008】
基板洗浄装置1は、洗浄槽2に純水を導入し、内側電極6a,6bに負の電圧を印加し、外側電極7a,7bには正の電圧を印加することによって水の電気分解を行い、カソード室4内をOH−リッチな状態にした後、超音波発振器8から発振される超音波を作用させてラジカル活性化させ、カソード室4内に載置される被洗浄物9の洗浄を行うというものである。
【0009】
また、カソード室とアノード室との配置を逆転させた構成の基板洗浄装置も提案されている(特許文献2参照)。特許文献1および特許文献2の基板洗浄装置による洗浄方法では、洗浄槽2に被洗浄物9を浸漬して洗浄を行うので、大量の洗浄水が必要であり、また汚れの再付着が懸念される。さらに、洗浄の対象物を洗浄するためには洗浄槽2中に浸漬し、洗浄が終了すると引上げるという作業を繰返さなければならないので、連続的な処理が困難であり処理時間の短縮が難しい。
【0010】
このような問題を解決するべく洗浄槽を用いずに洗浄液を噴射させて洗浄を行う方法が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。図5は、もう一つの従来技術である基板洗浄装置10の構成を概略的に示す断面図である。基板洗浄装置10は、前述の基板洗浄装置1に類似し、対応する部分については同一に参照符号を付して説明を省略する。
【0011】
基板洗浄装置10は、洗浄液を吐出するノズル11が備えられ、ノズル11の内部空間が2枚のH+イオン交換膜3a,3bによって、2枚のH+イオン交換膜3a,3bの間に位置する内側処理室12と、2枚のH+イオン交換膜3a,3bのそれぞれとノズル11の内壁とで形成される2つの外側処理室13a,13bとに分けられる。各H+イオン交換膜3a,3bには、その両側に多孔板からなる内側電極6a,6bと外側電極7a,7bとが固着され、内側処理室12の上部であってノズル11のノズル口11aに臨む部位には超音波発振器14が設けられる。
【0012】
基板洗浄装置10は、内側処理室12および外側処理室13に純水を導入し、内側電極6a,6bに負(または正)の電圧を印加し、外側電極7a,7bには正(または負)の電圧を印加することによって水の電気分解を行い、内側処理室12内をOH−(またはH+)リッチな状態にした後、超音波発振器14から発振される超音波を作用させてラジカル活性化させ、このラジカル含有洗浄液15をノズル口11aから吐出させて被洗浄基板を処理する。
【0013】
この特許文献3の基板洗浄装置10による方法では、洗浄液のラジカル活性化に超音波発振器14が必要不可欠である。超音波の作用が無くても、水の電気分解時にイオンと共に微量のラジカル種が生成されるけれども、ラジカル種の生成場所がH+イオン交換膜3a,3bと、電極6,7との接面であるため、生成されるラジカル種が水流に乗って運ばれにくく、またラジカル種が発生する部位と、ラジカル種を含む洗浄液が吐出されるノズル口11aとが離れているので、寿命の短いラジカル種がノズル口11aへ達する前に消滅し、充分な洗浄効果を得ることができないという問題がある。
【0014】
【特許文献1】特許第2832171号公報
【特許文献2】特許第2832173号公報
【特許文献3】特許第3286539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、安価に製造することができ、また環境負荷を低減し、被処理物の電気的ダメージを低減し、処理能力向上を実現するウェット処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、被処理物と対向して配置されスリット状に形成される吐出口を有するノズルから吐出される処理液によって被処理物を処理するウェット処理装置において、
ノズルには、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部が設けられ、
ラジカル生成部が、
スリット状に形成される吐出口を構成する第1電極と、
第1電極の対極として設けられる第2電極と、
第1および第2電極に接し、かつノズル内の空間にあって吐出口から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質とを含むことを特徴とするウェット処理装置である。
【0017】
また本発明は、第1電極は、ノズル内の空間にある処理液に臨む側の表面が、曲面形状に形成されることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、第1電極は、厚さが連続的に変化する板状の形状を有し、吐出口に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置されることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、固体電解質は、酸性カチオン交換能を有する陽イオン交換物質または塩基性アニオン交換能を有する陰イオン交換物質であることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、第1および第2電極のいずれか一方または両方が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルからなる群より選択される1種または2種以上を含んで成ることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、処理液は、比抵抗値が1MΩ・cm以上の純水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のウェット処理装置によれば、スリット状の吐出口を有するノズルには、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部が設けられ、ラジカル生成部がスリット状吐出口を構成する第1電極と、その対極となる第2電極と、第1および第2電極に接し、かつノズル内の空間にあって吐出口から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質とを含んで構成されるので、処理液中により多くのラジカル種を含有させることができ、また吐出直前にラジカル種を含有させることができるので、より多くのラジカル種を被処理物に供給することができる。したがって、処理能力および処理速度が高く、たとえば被処理面に付着する微粒子由来のパーティクル、レジスト残渣などの有機物といった除去対象物質を容易に除去することができ、また被処理物の電気的特性を問わず、被処理物が導電体、半導体、絶縁体などのいずれであっても、被処理物を電気的に破壊することなく処理可能なウェット処理装置が実現される。
【0023】
また本発明によれば、第1電極は、ノズル内の空間にある処理液に臨む側の表面が、曲面形状に形成されるので、ラジカル生成部における電界強度をより強めることができる。このことによって、ラジカル種をより多く発生させることができるので、処理液中により多くのラジカル種を含有させることができる。
【0024】
また本発明は、第1電極は、厚さが連続的に変化する板状の形状を有し、吐出口に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置されるので、水流の圧損を低減することができ、処理液を被処理物の被処理面へ速やかに供給できる。このことによって、反応性が高い一方で寿命の短いラジカル種が、被処理面に到達する前に消失してしまう量を減少させることができるので、ラジカル種を高濃度で含む処理液を被処理面に供給することが可能になる。
【0025】
また本発明によれば、固体電解質を、酸性カチオン交換能を有する陽イオン交換物質または塩基性アニオン交換能を有する陰イオン交換物質とすることによって、処理液の電離が一層促進され、ラジカルなどの活性種の生成量をさらに増加させることができるので、処理能力の一層の向上を実現することができる。
【0026】
また本発明によれば、第1および第2の電極のいずれかまたは両方が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上を含んで成るので、処理液の電気分解効率が一層向上し、ラジカル種の生成量をさらに増加させることができ、処理能力の一層の向上を図ることができる。
【0027】
また本発明によれば、処理液として比抵抗値が1MΩ・cm以上の純水が用いられるので、特別な薬液を使用する必要がない。したがって、薬液に掛かるコストを低減し、生成する廃液、廃ガスなどを処理する設備を必要とせず、環境負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は本発明の実施の一形態であるウェット処理装置20の構成を簡略化して示す斜視図であり、図2は図1に示すウェット処理装置20に備わるノズル22の長辺方向に垂直な断面図である。ウェット処理装置20は、被処理物21と対向して配置されスリット状に形成される吐出口38を有するノズル22から吐出される処理液23によって被処理物21をウェット処理することに用いられる。
【0029】
ここで、ウェット処理とは、対向して設置される被処理物の表面(被処理面)に対して処理液を吐出することによって、被処理物上に存在する除去対象物質を除去、溶解、剥離あるいは分解し、または被処理物自体を溶解、剥離あるいは分解し、被処理物を洗浄、研削、加工、表面改質等の処理を施すことである。本実施の形態では、ウェット処理として、たとえば被処理物から有機物および/または無機物を除去する洗浄処理を例示するけれども、洗浄処理はウェット処理の一例を示すに過ぎず、本発明が用いられるウェット処理が洗浄に限定されるものではない。
【0030】
ウェット処理装置20は、大略、上記ノズル22と、ノズル22に処理液を供給する処理液供給手段24と、ノズル22のラジカル生成部37に対して給電する給電手段25とを含んで構成される。なお図1において、ウェット処理装置20と被処理物21とが、上下に対向して設置されているけれども、両者の配置は対向してさえいれば良く、その位置関係は上下に限定されるのもではない。特に被処理物21が鉛直方向に平行となるように配置される場合、被処理物21にウェット処理装置20のノズル22から吐出される処理液23が、被処理物21の表面に留まることなく流れ落ちるので、一度除去した除去対象物が被処理物21の表面に再付着することを防止する効果が期待される。
【0031】
被処理物21は、導電体および/または非導電体を含んで構成されても良い。すなわち本発明のウェット処理装置20では、被処理物21が導電体か非導電体かを問わずウェット処理を行うことが可能であり、かつ被処理物21が非導電体であっても、ウェット処理中に電気的破壊を生じることなく、効率的かつ安定的に短時間で処理を実施できる。ウェット処理装置20によって好適に処理できる被処理物21としては、たとえばシリコンウエハ、ガラス基板などが挙げられる。
【0032】
被処理物21から除去される除去対象物質は、一般的に有機物および無機物であって、処理液中に存在するラジカル種によって除去、溶解、剥離または分解することができる物質であれば良く、特に限定されるものではない。また、除去対象物質は、液体、ゲル状物、粘着物、固形物などいずれの形態のものであっても良い。有機物の具体例としては、たとえば、レジスト残渣、その他の有機物由来の付着汚染物などが挙げられる。無機物の具体例としては、たとえば、金属、金属酸化物、その他の無機物を含む微粒子(パーティクル)などが挙げられる。
【0033】
処理液供給手段24は、処理液貯留槽31と、加圧ポンプ32と、処理液供給配管33などを含んで構成される。処理液供給配管33は、加圧ポンプ32が設けられる供給主管33aと、供給主管33aが4つに分岐される第1分岐管33bと、個々の第1分岐管33bがそれぞれ2つに分岐されてノズル22に接続される第2分岐管33cとを含んで構成される。処理液貯留槽31に貯留される処理液は、加圧ポンプ32によって圧送され、処理液供給配管33中を流過してノズル22に供給される。
【0034】
本実施の形態では、処理液23として、紫外線照射で微生物類を滅菌し、メンブランフィルタで有機物および無機物を極限まで除去することによって得られる精製水であり、比抵抗値が1MΩ・cm以上である純水が用いられる。なお、ここでは、純水の中でも、比抵抗値が10MΩ・cm以下の精製水を単に純水と呼び、比抵抗値が10MΩ・mを超え、18.3MΩ・cmまでの精製水を超純水と呼ぶ。処理液23として、ラジカル種の生成効率が高い上記比抵抗値を有する純水または超純水を用いることによって、液晶パネル、半導体デバイス製造工程などの清浄な環境を必要とする精密洗浄分野において、特に効果を奏することができる。
【0035】
ノズル22は、ノズル本体35と、ノズル本体35の内部空間36内に設けられて処理液(純水または超純水)をラジカル活性化させるラジカル生成部37とを含んで構成される。ラジカル生成部37は、スリット状に形成される吐出口38を構成する第1電極39と、第1電極39の対極として設けられる第2電極40と、第1および第2電極39,40に接し、かつノズル本体35内の空間36にあって吐出口38から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質41と、絶縁体42とを含む。
【0036】
ノズル本体35は、たとえばステンレス鋼(JISG4305に規定されるSUS316L)を母材とし、これに厚さ2μmの白金めっきを施したものから成り、外形が略直方体形状を有し、長手方向に垂直な断面の形状がE字状を有する。すなわちノズル本体35は、直方体形状の一面が開口し、開口する面の反対側の面35aに前述の処理液供給手段24の第2分岐管33cが接続され、上記反対側の面35aの内部空間36側であって短手方向のほぼ中央部に長手方向に延びて半仕切板43が形成される。したがって、半仕切板43は、内部空間36を、長手方向に延びてほぼ対称に形成される2つの空間に仕切る。
【0037】
ラジカル生成部37は、吐出口38を除いて、ノズル本体35の開口部を封止するように設けられる。したがって、ノズル本体35は、その内部空間36が、スリット状の吐出口38と処理液供給手段24の第2分岐管33cで外部と繋がっている他は全て閉じられている。
【0038】
ラジカル生成部37は、第1電極39が外方に臨んで配置され、第1電極39よりも内部空間側であって第1電極39の上に固体電解質41が配置され、固体電解質41よりも内部空間側であって固体電解質41の上に第2電極40が配置される。絶縁体42は、第1電極39と固体電解質41との界面をノズル本体35寄りで一部絶縁し、固体電解質41と第2電極40との界面をノズル本体35寄りで一部絶縁するようにしてそれぞれ配置されて設けられる。
【0039】
第1電極39は、細長く延びる大略板状の部材であり、一対が対向して設けられ、長辺を形成する一方の側の面でノズル本体35に装着される。装着された第1電極39の対向する遊端部同士でスリット状の吐出口38が形成される。このスリット状の吐出口38の間隔は、数10〜数100μm程度であることが好ましく、たとえば15μmに設定される。また第1電極39は、ノズル本体35の内部空間36にある処理液23に臨む側の表面が、曲面形状に形成され、さらにこの曲面は、第1電極39の厚さが連続的に変化し吐出口38に近づくのに伴って厚さが薄くなるように形成される。なお、曲面形状は、第1電極39の短手方向全長にわたって形成されても良いけれども、第2電極40の設置等のし易さから、遊端部近傍においてのみ、吐出口38に近づくのに伴って厚さが薄くなるように形成されることが好ましい。
【0040】
第1電極39は、後述する給電手段25の外部電源45から電圧の印加を受け、その表面が活性種に晒されるので、化学的酸化還元反応に高い耐久性を有する導電性材料であることが好ましく、たとえば金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上を含んで成ることが好ましい。また、電極の全体が上記の材料から成る必要はなく、たとえばステンレス鋼(SUS316L)を母材とし、これの表面に金、白金などを厚さ2μm程度にめっきしたものを用いても良い。
【0041】
固体電解質41を介し、第1電極39の対極として設けられる第2電極40は、細長く延びる板状の部材であり、短手方向の寸法が第1電極39の短手方向の寸法よりも短く形成される。第2電極40も一対が対向して設けられ、長辺を形成する一方の側の面でノズル本体35に装着される。また第2電極40の素材は、第1電極39と同様のものが用いられる。
【0042】
固体電解質41は、多孔質状、網目状、繊維状、粒子状、不織布状またはフィルムシート状の基材にイオン交換能を付与したものである。特に、イオン交換能を付与してなるフィルムシート状のものが、ノズル組立て時の扱い易さ、使用中の安全性などから最も好ましい。固体電解質41におけるイオン交換基の種類または量を適宜変更することによって、ラジカル種の生成濃度を制御することができる。
【0043】
固体電解質41にイオン交換能を付与する材料としては、たとえば純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有し、イオン交換反応の前後で同じ状態で存在することのできる物質であれば特に限定されることなく使用できる。一例を挙げると、たとえばイオン交換樹脂が好適に用いられる。イオン交換樹脂は、イオン交換できる酸性基または塩基性基を持つ水不溶性の合成樹脂である。イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および両性交換樹脂の3種に大別される。これらのイオン交換樹脂の中でも、純水のイオン積を増加させる機能が大きい酸性カチオン基または塩基性アニオン基を導入してなる樹脂が好ましく、スルホン酸基導入樹脂、四級アンモニウム基導入樹脂などがさらに好ましく、流体のイオン積Kwを14≧−logKwの範囲で増大させるイオン交換樹脂などが特に好ましい。
【0044】
このような固体電解質41の具体例としては、たとえば、フッ素樹脂からなる厚さ0.5〜1.0mmのフィルムを基材とし、これにスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からなるシートなどが挙げられる。
【0045】
ウェット処理装置20において、固体電解質41は、処理液である純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させるように作用する。固体電解質41を設け、たとえば比抵抗値18.2MΩ・cmの超純水中で50Vの電圧を印加すると、水酸基イオンおよび水素イオンの濃度が増加し、10A/cm2程度の電流が得られる。
【0046】
これに対して固体電解質を設けないこと以外は同じ条件の超純水中で50Vの電圧を印加した場合、10−2mA/cm2程度の電流値しか観測されない。つまり固体電解質41を設けることによって、設けない場合と比べて106倍の電流量が得られる。この電流量は、純水中におけるラジカル種の生成量に直接影響するので、固体電解質41を設けると、固体電解質を設けることなく電気分解する時と比べて、106倍のラジカル種濃度を有するラジカル含有水を得ることができ、高い処理性能を得ることができる。
【0047】
シート状の固体電解質41は、第1電極39と第2電極40とによって挟持されるようにして設けられるとともに、第1および第2電極39,40の遊端部側において、第1および第2電極39,40に接し、かつノズル本体35の内部空間36にあって吐出口38から吐出されるべき処理液に接するように設けられる。
【0048】
なお、第1電極39と固体電解質41とは、ノズル本体35への装着部寄りの部分において絶縁体42によって絶縁され、第2電極40と固体電解質41とは、ノズル本体35への装着部寄りの部分において絶縁体42によって絶縁される。絶縁体42は、フィルム状の部材であり、たとえばポリイミド樹脂などによって構成される。
【0049】
給電手段25は、第1電極39に接続される第1給電端子43と、第2電極40に接続される第2給電端子44と、外部電源45と、外部電源45と第1および第2給電端子43,44とを接続するケーブル46とを含む。外部電源45としては、たとえば直流電圧電源が用いられる。
【0050】
この外部電源45から第1および第2給電端子43,44を介して第1電極39と第2電極40とに対して、それぞれが陽極と陰極または陰極と陽極とになるように電圧が印加される。第1電極39と第2電極40との間に電圧を印加し、第1および第2電極39,40に触れるように固体電解質41が設置され、さらに固体電解質41がノズル本体35内の純水に接するので、純水由来のイオンをキャリアとした電流が流れる。流れる電流の量は、用いられる固体電解質41が同一である場合、第1電極39と第2電極40との間の距離に依存し、距離が短ければ短いほど多くの電流が流れる。したがって、第1電極39と第2電極40との間隔は、短ければ短いほど電気特性の観点から好ましい。
【0051】
両電極39,40に印加される電圧によって、固体電解質41内を泳動して一方の電極に達したイオンは、そこで電子の授受が行われるので、別のイオン、ラジカル、ガス等に変化する。一方、逆側の他方の電極では電子の授受によって、キャリアとなる純水由来のイオン、ラジカル、ガス等が生成され続ける。
【0052】
このように、ラジカルは電極39,40と固体電解質41とが接した部分で発生するので、本実施形態のように、第1電極39が、ノズル本体35内の空間36にある純水に臨む側の表面が曲面形状、すなわち純水に臨む側が凸状になるように形成されることによって、該曲面付近に電気力線を集中させて強電界を発生させることができるので、効率良くラジカル生成を行うことが可能になる。
【0053】
さらに厚さが連続的に変化し、上記曲面を有するように形成される第1電極39を、吐出口38に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置することによって、水流の圧損を低減できるので、より強い水流でより多くのラジカルを純水23の流れに乗せることができる。またラジカルの寿命は非常に短いけれども、ウェット処理装置20におけるラジカル生成部37は、ラジカル生成部37を構成する第1電極39自体が吐出口38を形成するようにして、吐出口38の直近に設置されているので、被処理物21に達する前に消滅するラジカル種の量が少なく、ラジカル種を高濃度で含む処理液23によってウェット処理を行うことができる。
【0054】
第1電極39と第2電極40との間に電圧を印加することによって流れる電流量は、生成されるラジカル種の生成量に直接的な影響を及ぼす。ノズル22に供給される純水の量をQ(リットル/分)とし、両電極間に流れる電流量をI(A)とすると、純水中に生成されるラジカル含有水における水素ラジカルと水酸基ラジカルとの合計濃度C(mol/リットル)は、下記式(1)で表される。
C=60I/96500Q …(1)
【0055】
たとえば、純水の流量:36リットル/分、電流量:8Aとすると、ラジカル含有水に含まれるラジカル濃度は138μmol/リットルとなる。このラジカル濃度のラジカル含有水を、たとえば長さ:400mm、スリットの間隔:15μmの吐出口38から、流速:100m/秒で吐出させると、被処理物21の表面での水素ラジカル濃度が4μmol/リットルになる。
【0056】
以下ウェット処理装置20による被処理物21の洗浄処理動作について説明する。ウェット処理装置20は、処理液供給手段24から供給される処理液である純水を元に、ノズル22の内部に設けられるラジカル生成部37でラジカル種を生成し、このラジカル種を含むラジカル含有水23を、吐出口38から被処理物21の表面に供給し、被処理物21の表面の一部または全面に付着、固着または堆積する除去対象物質にラジカル種を作用させて洗浄処理を行う。
【0057】
ウェット処理装置20を用いて被処理物21の洗浄処理を行うに際し、ノズル22は、被処理物21に対してラジカル供給が可能な位置に配置される。ここで、ラジカル供給が可能な位置とは、処理を実施するのに有効な量および流速で、ノズル22から被処理物21に対してラジカル含有水23の供給が可能な位置である。
【0058】
処理時、ノズル22は、被処理物21に対して、ラジカル含有水23を吐出する方向が傾斜角を有するように配置されていても良い。ノズル22が傾斜される角度は特に限定されないけれども、被処理物21が搬送される場合、被処理物21の搬送方向の上流側に向って、ノズル22の吐出口38が被処理物21の表面に近づくようにして傾斜させることが好ましく、また逆に被処理物21が固定されてノズル22が移動する場合、ノズル22の移動方向の下流側に向って、ノズル22の吐出口38が被処理物表面に近づくようにして傾斜させることが好ましい。
【0059】
なぜならば、被処理物21の表面に供給され、被処理物21の洗浄に用いられた後の処理液中には、たとえば微粒子、有機物残渣などの除去対象物質が含まれ、このような除去対象物質を含む処理液が、被処理物21の洗浄処理された後の部分に接触すると、除去対象物質が被処理物21の洗浄済みの表面に再付着するおそれがあるけれども、上記のようにノズル22を傾斜させて設置することによって、除去対象物質を含む処理液が被処理物21の洗浄済み表面に接触することなく除去対象物質が再付着することを防止できるからである。
【0060】
また、ノズル22と被処理物21との離隔距離は、特に限定されないけれども、たとえば処理液23の吐出速度を10〜100m/秒に設定する場合、ノズル22に処理液を供給する加圧ポンプ32などのユーティリティー、被処理物21の反り、歪みなども考慮すると、5〜10mm程度に設定されることが好ましい。
【0061】
上記のように設定されるウェット処理装置20の洗浄処理動作においては、まず処理液供給手段24から、ノズル22に対して処理液である純水が供給される。次いで、第1および第2給電端子43,44を介して外部電源45から第1および第2電極39,40に対して電圧が印加される。この電圧印加によって、ノズル本体35の内部空間36に供給された純水中にラジカル種が生成される。
【0062】
図3は、第1電極39において水酸基ラジカル(・OH)51が生成される状態を示す断面図である。図3を参照し、固体電解質41が陽イオン交換樹脂である場合について、ラジカルの生成機構を説明する。なお、ここでは第1電極39を陽極として水酸基ラジカル51が生成される場合を例示するけれども、このとき第2電極40では、第1電極39におけるのと同様の原理により水素ラジカル(・H)が発生する。また第1電極39を陰極とすれば、第1電極39と第2電極40とで発生するラジカルは逆転し、固体電解質41を陰イオン交換樹脂とすれば固体電解質41中を移動するイオン種が変化する。
【0063】
図3に示すように、第1電極39の近傍では、水分子(H2O)52が第1電極39によって電子(e−)53を奪われて電気分解され、水酸基ラジカル(・OH)51と水素イオン(H+)54とになる。水素イオン54は電界の作用によって固体電解質41内を第2電極40の方向へ引寄せられる。純水は残った水酸基ラジカル51を含んでラジカル含有水となりスリット状の吐出口38から吐出され、被処理物21の表面に供給される。
【0064】
以下に示す化学反応式は、図3に示す機構により生成されるラジカル種、およびこのラジカル種と純水との反応により派生する純水由来のラジカル種が生成される状態を示すものである。反応式(2)〜(4)は、ラジカル種の生成を示す。
【0065】
詳しくは、反応式(2)は、純水が解離し水素イオンおよび水酸基イオンとなる様子を示す。反応式(3)は、電解酸化による水酸基ラジカルの生成を示す。反応式(4)は、電解還元による水素ラジカルの生成を示す。反応式(5)〜(9)は、ラジカル種同士またはラジカル種と純水との反応により派生する純水由来のラジカル種が生成される状態、すなわちラジカル同士またはラジカルと純水との反応により消滅または変化する状態を示す。
【0066】
純水由来の活性種としては、水素ラジカル、水酸基ラジカル以外に、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HO2ラジカル、HO3ラジカル、オゾン、過酸化水素などがある。また、水中に含まれる酸素、水素、窒素、二酸化炭素などのガスにより、その他のラジカル種を生成させることも可能であり、本発明のラジカル種生成手段は、ここに記載されるラジカル種の生成のみに限定されるものではない。
H2O ⇔OH−+H+ …(2)
OH− ⇔・OH+e− …(3)
H++e− ⇔・H …(4)
・OH+・OH ⇔H2O2 …(5)
H2O+・OH ⇔OH+H2O …(6)
H2O+・H ⇔H2+・OH …(7)
・H+・H ⇔H2 …(8)
・OH+・H ⇔H2O …(9)
【0067】
上記のような反応によってラジカル種が生成されてラジカル含有水となった処理液23が、吐出口38から被処理物21へ向かって吐出される。このとき、たとえばノズル本体35の内部空間36において、処理液23に付与される圧力が数MPa〜10MPa程度であり、吐出口38の間隔が数10μmである場合、吐出されるラジカル含有水は10〜100m/s程度の流速が得られる。
【0068】
純水から生成されるラジカル種は反応性が高いので、たとえば、除去対象物である微粒子表面と、代表的な被処理物21であるシリコン基板またはガラス基板の表面との間に形成されるシラノール結合を切断、およびシリコン基板などの微粒子結合活性サイトであるダングリングボンドを不活性化することによって、微粒子と基板との付着力を低減し、微粒子の除去力を向上させることが可能である。また、ラジカル種は、レジスト残渣、製造工程内由来の有機成分などによる汚染の除去に対しても効果的であり、この場合、有機物は、有機物中の炭素−炭素、炭素−水素の共有結合などの強い結合が切断されて酸化されることによって、低分子の有機分子または二酸化炭素と水とに分解され除去される。
【0069】
このように、ウェット処理装置20においては、ラジカル生成部37によって生成されるラジカル種の洗浄力を利用して被処理物21が、洗浄処理される。
【0070】
以上に述べたように、本発明のウェット処理装置によれば、低設備費用で、環境負荷を低減し、被処理物の電気的ダメージを抑制し、かつ高処理能力化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の一形態であるウェット処理装置20の構成を簡略化して示す斜視図である。
【図2】図1に示すウェット処理装置20に備わるノズル22の長辺方向に垂直な断面図である。
【図3】第1電極39において水酸基ラジカル(・OH)51が生成される状態を示す断面図である。
【図4】従来技術の一つである基板洗浄装置1の構成を概略的に示す断面図である。
【図5】もう一つの従来技術である基板洗浄装置10の構成を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
20 ウェット処理装置
21 被処理物
22 ノズル
23 処理液
24 処理液供給手段
25 給電手段
35 ノズル本体
36 内部空間
37 ラジカル生成部
38 吐出口
39 第1電極
40 第2電極
41 固体電解質
42 絶縁体
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄には、RCA洗浄法が用いられている。RCA洗浄法は、ベースとする過酸化水素の高濃度水溶液中に、さらに硫酸、塩酸などの酸またはアンモニアなどのアルカリを高濃度で添加溶解し、高温に加熱した濃厚薬液に基板を浸漬することによって、基板に付着するパーティクル、有機物、金属、酸化膜などの除去対象物質を除去洗浄する方法である。
【0003】
このRCA洗浄法では、除去対象物質の除去後に、基板に付着する薬液を洗い流すために用いるリンス水の廃水が発生する。この廃水の中には、薬液中に含まれる酸、アルカリ、基板表面から除去される汚染物などが含まれる。また洗浄装置中では、揮発成分、酸性ガスなどが発生する。これらは自然環境にとって好ましくない物質であることが多く、そのまま外部環境に廃棄できないので、これらを処理するための設備が必要になる。このように、RCA洗浄法では、廃水の処理費用および廃水を処理するための設備の保守点検費用を要し、ランニングコストが増大するという問題がある。
【0004】
最近では、半導体ウエハおよび液晶パネルのマザー基板の大型化が進むのに伴って洗浄工程において発生する廃液の量が増加する傾向にあり、廃液処理費用の高騰および環境負荷の増大が問題となっている。その一方で、半導体および液晶における回路のデザインルールが一層微細化し、半導体においては0.1μm以下のレベル、液晶においてもサブミクロンレベルまで実用化がなされている。回路のデザインルールが微細化されている半導体および液晶において、その製造歩留を向上させるには、洗浄工程における洗浄力のさらなる向上が必要とされる。
【0005】
このような問題を解決し、低環境負荷かつ高洗浄力を両立する手段として、水分子を構成する酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を用いる方法がある。この方法は、洗浄水中でラジカル種を発生させ、ラジカル種を含む洗浄水を被処理物の表面に吐出して、被処理物の洗浄を実施するものである。酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種としては、水素ラジカル(原子状水素)、酸素ラジカル(原子状酸素)、水酸基ラジカル、スーパーオキサイドラジカルなどが挙げられる。これらのラジカル種の特徴は、反応性が非常に高く、反応種と瞬時に反応し、水、水素ガス、酸素ガスなどに変化するので、環境への負荷がほとんどなく、また反応性が非常に高いので、数十ppm程度の濃度でも充分な洗浄力を有することである。ラジカル種は、主に、水を電気分解することによって得られるので、薬液を使用する必要がなく、特別な処理を要する廃水および有害ガスが発生しないので、これらを処理する設備を必要としない。したがって、ラジカル種を用いる方法は、全般的に、クリーンでかつコストが低いという利点を有する。
【0006】
酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を利用する洗浄に係る従来技術が、種々提案されている(たとえば、特許文献1参照)。図4は、従来技術の一つである基板洗浄装置1の構成を概略的に示す断面図である。
【0007】
従来技術の基板洗浄装置1は、洗浄液をその内部空間に収容することができる洗浄槽2を備え、洗浄槽2の内部空間は2枚のH+イオン交換膜3a,3bによって、2枚のH+イオン交換膜3a,3bの間に位置する中央のカソード室4と、2枚のH+イオン交換膜3a,3bのそれぞれと洗浄槽2の内壁とで形成される2つのアノード室5a,5bの3室に区切られる。各H+イオン交換膜3a,3bのカソード室4側の面には、多孔板からなる内側電極6a,6bがそれぞれ固着され、アノード室5a,5b側の面には多孔板からなる外側電極7a,7bが固着される。またカソード室4に臨む洗浄槽2の底部には、超音波発振器8が設けられる。
【0008】
基板洗浄装置1は、洗浄槽2に純水を導入し、内側電極6a,6bに負の電圧を印加し、外側電極7a,7bには正の電圧を印加することによって水の電気分解を行い、カソード室4内をOH−リッチな状態にした後、超音波発振器8から発振される超音波を作用させてラジカル活性化させ、カソード室4内に載置される被洗浄物9の洗浄を行うというものである。
【0009】
また、カソード室とアノード室との配置を逆転させた構成の基板洗浄装置も提案されている(特許文献2参照)。特許文献1および特許文献2の基板洗浄装置による洗浄方法では、洗浄槽2に被洗浄物9を浸漬して洗浄を行うので、大量の洗浄水が必要であり、また汚れの再付着が懸念される。さらに、洗浄の対象物を洗浄するためには洗浄槽2中に浸漬し、洗浄が終了すると引上げるという作業を繰返さなければならないので、連続的な処理が困難であり処理時間の短縮が難しい。
【0010】
このような問題を解決するべく洗浄槽を用いずに洗浄液を噴射させて洗浄を行う方法が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。図5は、もう一つの従来技術である基板洗浄装置10の構成を概略的に示す断面図である。基板洗浄装置10は、前述の基板洗浄装置1に類似し、対応する部分については同一に参照符号を付して説明を省略する。
【0011】
基板洗浄装置10は、洗浄液を吐出するノズル11が備えられ、ノズル11の内部空間が2枚のH+イオン交換膜3a,3bによって、2枚のH+イオン交換膜3a,3bの間に位置する内側処理室12と、2枚のH+イオン交換膜3a,3bのそれぞれとノズル11の内壁とで形成される2つの外側処理室13a,13bとに分けられる。各H+イオン交換膜3a,3bには、その両側に多孔板からなる内側電極6a,6bと外側電極7a,7bとが固着され、内側処理室12の上部であってノズル11のノズル口11aに臨む部位には超音波発振器14が設けられる。
【0012】
基板洗浄装置10は、内側処理室12および外側処理室13に純水を導入し、内側電極6a,6bに負(または正)の電圧を印加し、外側電極7a,7bには正(または負)の電圧を印加することによって水の電気分解を行い、内側処理室12内をOH−(またはH+)リッチな状態にした後、超音波発振器14から発振される超音波を作用させてラジカル活性化させ、このラジカル含有洗浄液15をノズル口11aから吐出させて被洗浄基板を処理する。
【0013】
この特許文献3の基板洗浄装置10による方法では、洗浄液のラジカル活性化に超音波発振器14が必要不可欠である。超音波の作用が無くても、水の電気分解時にイオンと共に微量のラジカル種が生成されるけれども、ラジカル種の生成場所がH+イオン交換膜3a,3bと、電極6,7との接面であるため、生成されるラジカル種が水流に乗って運ばれにくく、またラジカル種が発生する部位と、ラジカル種を含む洗浄液が吐出されるノズル口11aとが離れているので、寿命の短いラジカル種がノズル口11aへ達する前に消滅し、充分な洗浄効果を得ることができないという問題がある。
【0014】
【特許文献1】特許第2832171号公報
【特許文献2】特許第2832173号公報
【特許文献3】特許第3286539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、安価に製造することができ、また環境負荷を低減し、被処理物の電気的ダメージを低減し、処理能力向上を実現するウェット処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、被処理物と対向して配置されスリット状に形成される吐出口を有するノズルから吐出される処理液によって被処理物を処理するウェット処理装置において、
ノズルには、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部が設けられ、
ラジカル生成部が、
スリット状に形成される吐出口を構成する第1電極と、
第1電極の対極として設けられる第2電極と、
第1および第2電極に接し、かつノズル内の空間にあって吐出口から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質とを含むことを特徴とするウェット処理装置である。
【0017】
また本発明は、第1電極は、ノズル内の空間にある処理液に臨む側の表面が、曲面形状に形成されることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、第1電極は、厚さが連続的に変化する板状の形状を有し、吐出口に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置されることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、固体電解質は、酸性カチオン交換能を有する陽イオン交換物質または塩基性アニオン交換能を有する陰イオン交換物質であることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、第1および第2電極のいずれか一方または両方が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルからなる群より選択される1種または2種以上を含んで成ることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、処理液は、比抵抗値が1MΩ・cm以上の純水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のウェット処理装置によれば、スリット状の吐出口を有するノズルには、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部が設けられ、ラジカル生成部がスリット状吐出口を構成する第1電極と、その対極となる第2電極と、第1および第2電極に接し、かつノズル内の空間にあって吐出口から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質とを含んで構成されるので、処理液中により多くのラジカル種を含有させることができ、また吐出直前にラジカル種を含有させることができるので、より多くのラジカル種を被処理物に供給することができる。したがって、処理能力および処理速度が高く、たとえば被処理面に付着する微粒子由来のパーティクル、レジスト残渣などの有機物といった除去対象物質を容易に除去することができ、また被処理物の電気的特性を問わず、被処理物が導電体、半導体、絶縁体などのいずれであっても、被処理物を電気的に破壊することなく処理可能なウェット処理装置が実現される。
【0023】
また本発明によれば、第1電極は、ノズル内の空間にある処理液に臨む側の表面が、曲面形状に形成されるので、ラジカル生成部における電界強度をより強めることができる。このことによって、ラジカル種をより多く発生させることができるので、処理液中により多くのラジカル種を含有させることができる。
【0024】
また本発明は、第1電極は、厚さが連続的に変化する板状の形状を有し、吐出口に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置されるので、水流の圧損を低減することができ、処理液を被処理物の被処理面へ速やかに供給できる。このことによって、反応性が高い一方で寿命の短いラジカル種が、被処理面に到達する前に消失してしまう量を減少させることができるので、ラジカル種を高濃度で含む処理液を被処理面に供給することが可能になる。
【0025】
また本発明によれば、固体電解質を、酸性カチオン交換能を有する陽イオン交換物質または塩基性アニオン交換能を有する陰イオン交換物質とすることによって、処理液の電離が一層促進され、ラジカルなどの活性種の生成量をさらに増加させることができるので、処理能力の一層の向上を実現することができる。
【0026】
また本発明によれば、第1および第2の電極のいずれかまたは両方が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上を含んで成るので、処理液の電気分解効率が一層向上し、ラジカル種の生成量をさらに増加させることができ、処理能力の一層の向上を図ることができる。
【0027】
また本発明によれば、処理液として比抵抗値が1MΩ・cm以上の純水が用いられるので、特別な薬液を使用する必要がない。したがって、薬液に掛かるコストを低減し、生成する廃液、廃ガスなどを処理する設備を必要とせず、環境負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は本発明の実施の一形態であるウェット処理装置20の構成を簡略化して示す斜視図であり、図2は図1に示すウェット処理装置20に備わるノズル22の長辺方向に垂直な断面図である。ウェット処理装置20は、被処理物21と対向して配置されスリット状に形成される吐出口38を有するノズル22から吐出される処理液23によって被処理物21をウェット処理することに用いられる。
【0029】
ここで、ウェット処理とは、対向して設置される被処理物の表面(被処理面)に対して処理液を吐出することによって、被処理物上に存在する除去対象物質を除去、溶解、剥離あるいは分解し、または被処理物自体を溶解、剥離あるいは分解し、被処理物を洗浄、研削、加工、表面改質等の処理を施すことである。本実施の形態では、ウェット処理として、たとえば被処理物から有機物および/または無機物を除去する洗浄処理を例示するけれども、洗浄処理はウェット処理の一例を示すに過ぎず、本発明が用いられるウェット処理が洗浄に限定されるものではない。
【0030】
ウェット処理装置20は、大略、上記ノズル22と、ノズル22に処理液を供給する処理液供給手段24と、ノズル22のラジカル生成部37に対して給電する給電手段25とを含んで構成される。なお図1において、ウェット処理装置20と被処理物21とが、上下に対向して設置されているけれども、両者の配置は対向してさえいれば良く、その位置関係は上下に限定されるのもではない。特に被処理物21が鉛直方向に平行となるように配置される場合、被処理物21にウェット処理装置20のノズル22から吐出される処理液23が、被処理物21の表面に留まることなく流れ落ちるので、一度除去した除去対象物が被処理物21の表面に再付着することを防止する効果が期待される。
【0031】
被処理物21は、導電体および/または非導電体を含んで構成されても良い。すなわち本発明のウェット処理装置20では、被処理物21が導電体か非導電体かを問わずウェット処理を行うことが可能であり、かつ被処理物21が非導電体であっても、ウェット処理中に電気的破壊を生じることなく、効率的かつ安定的に短時間で処理を実施できる。ウェット処理装置20によって好適に処理できる被処理物21としては、たとえばシリコンウエハ、ガラス基板などが挙げられる。
【0032】
被処理物21から除去される除去対象物質は、一般的に有機物および無機物であって、処理液中に存在するラジカル種によって除去、溶解、剥離または分解することができる物質であれば良く、特に限定されるものではない。また、除去対象物質は、液体、ゲル状物、粘着物、固形物などいずれの形態のものであっても良い。有機物の具体例としては、たとえば、レジスト残渣、その他の有機物由来の付着汚染物などが挙げられる。無機物の具体例としては、たとえば、金属、金属酸化物、その他の無機物を含む微粒子(パーティクル)などが挙げられる。
【0033】
処理液供給手段24は、処理液貯留槽31と、加圧ポンプ32と、処理液供給配管33などを含んで構成される。処理液供給配管33は、加圧ポンプ32が設けられる供給主管33aと、供給主管33aが4つに分岐される第1分岐管33bと、個々の第1分岐管33bがそれぞれ2つに分岐されてノズル22に接続される第2分岐管33cとを含んで構成される。処理液貯留槽31に貯留される処理液は、加圧ポンプ32によって圧送され、処理液供給配管33中を流過してノズル22に供給される。
【0034】
本実施の形態では、処理液23として、紫外線照射で微生物類を滅菌し、メンブランフィルタで有機物および無機物を極限まで除去することによって得られる精製水であり、比抵抗値が1MΩ・cm以上である純水が用いられる。なお、ここでは、純水の中でも、比抵抗値が10MΩ・cm以下の精製水を単に純水と呼び、比抵抗値が10MΩ・mを超え、18.3MΩ・cmまでの精製水を超純水と呼ぶ。処理液23として、ラジカル種の生成効率が高い上記比抵抗値を有する純水または超純水を用いることによって、液晶パネル、半導体デバイス製造工程などの清浄な環境を必要とする精密洗浄分野において、特に効果を奏することができる。
【0035】
ノズル22は、ノズル本体35と、ノズル本体35の内部空間36内に設けられて処理液(純水または超純水)をラジカル活性化させるラジカル生成部37とを含んで構成される。ラジカル生成部37は、スリット状に形成される吐出口38を構成する第1電極39と、第1電極39の対極として設けられる第2電極40と、第1および第2電極39,40に接し、かつノズル本体35内の空間36にあって吐出口38から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質41と、絶縁体42とを含む。
【0036】
ノズル本体35は、たとえばステンレス鋼(JISG4305に規定されるSUS316L)を母材とし、これに厚さ2μmの白金めっきを施したものから成り、外形が略直方体形状を有し、長手方向に垂直な断面の形状がE字状を有する。すなわちノズル本体35は、直方体形状の一面が開口し、開口する面の反対側の面35aに前述の処理液供給手段24の第2分岐管33cが接続され、上記反対側の面35aの内部空間36側であって短手方向のほぼ中央部に長手方向に延びて半仕切板43が形成される。したがって、半仕切板43は、内部空間36を、長手方向に延びてほぼ対称に形成される2つの空間に仕切る。
【0037】
ラジカル生成部37は、吐出口38を除いて、ノズル本体35の開口部を封止するように設けられる。したがって、ノズル本体35は、その内部空間36が、スリット状の吐出口38と処理液供給手段24の第2分岐管33cで外部と繋がっている他は全て閉じられている。
【0038】
ラジカル生成部37は、第1電極39が外方に臨んで配置され、第1電極39よりも内部空間側であって第1電極39の上に固体電解質41が配置され、固体電解質41よりも内部空間側であって固体電解質41の上に第2電極40が配置される。絶縁体42は、第1電極39と固体電解質41との界面をノズル本体35寄りで一部絶縁し、固体電解質41と第2電極40との界面をノズル本体35寄りで一部絶縁するようにしてそれぞれ配置されて設けられる。
【0039】
第1電極39は、細長く延びる大略板状の部材であり、一対が対向して設けられ、長辺を形成する一方の側の面でノズル本体35に装着される。装着された第1電極39の対向する遊端部同士でスリット状の吐出口38が形成される。このスリット状の吐出口38の間隔は、数10〜数100μm程度であることが好ましく、たとえば15μmに設定される。また第1電極39は、ノズル本体35の内部空間36にある処理液23に臨む側の表面が、曲面形状に形成され、さらにこの曲面は、第1電極39の厚さが連続的に変化し吐出口38に近づくのに伴って厚さが薄くなるように形成される。なお、曲面形状は、第1電極39の短手方向全長にわたって形成されても良いけれども、第2電極40の設置等のし易さから、遊端部近傍においてのみ、吐出口38に近づくのに伴って厚さが薄くなるように形成されることが好ましい。
【0040】
第1電極39は、後述する給電手段25の外部電源45から電圧の印加を受け、その表面が活性種に晒されるので、化学的酸化還元反応に高い耐久性を有する導電性材料であることが好ましく、たとえば金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上を含んで成ることが好ましい。また、電極の全体が上記の材料から成る必要はなく、たとえばステンレス鋼(SUS316L)を母材とし、これの表面に金、白金などを厚さ2μm程度にめっきしたものを用いても良い。
【0041】
固体電解質41を介し、第1電極39の対極として設けられる第2電極40は、細長く延びる板状の部材であり、短手方向の寸法が第1電極39の短手方向の寸法よりも短く形成される。第2電極40も一対が対向して設けられ、長辺を形成する一方の側の面でノズル本体35に装着される。また第2電極40の素材は、第1電極39と同様のものが用いられる。
【0042】
固体電解質41は、多孔質状、網目状、繊維状、粒子状、不織布状またはフィルムシート状の基材にイオン交換能を付与したものである。特に、イオン交換能を付与してなるフィルムシート状のものが、ノズル組立て時の扱い易さ、使用中の安全性などから最も好ましい。固体電解質41におけるイオン交換基の種類または量を適宜変更することによって、ラジカル種の生成濃度を制御することができる。
【0043】
固体電解質41にイオン交換能を付与する材料としては、たとえば純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有し、イオン交換反応の前後で同じ状態で存在することのできる物質であれば特に限定されることなく使用できる。一例を挙げると、たとえばイオン交換樹脂が好適に用いられる。イオン交換樹脂は、イオン交換できる酸性基または塩基性基を持つ水不溶性の合成樹脂である。イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および両性交換樹脂の3種に大別される。これらのイオン交換樹脂の中でも、純水のイオン積を増加させる機能が大きい酸性カチオン基または塩基性アニオン基を導入してなる樹脂が好ましく、スルホン酸基導入樹脂、四級アンモニウム基導入樹脂などがさらに好ましく、流体のイオン積Kwを14≧−logKwの範囲で増大させるイオン交換樹脂などが特に好ましい。
【0044】
このような固体電解質41の具体例としては、たとえば、フッ素樹脂からなる厚さ0.5〜1.0mmのフィルムを基材とし、これにスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からなるシートなどが挙げられる。
【0045】
ウェット処理装置20において、固体電解質41は、処理液である純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させるように作用する。固体電解質41を設け、たとえば比抵抗値18.2MΩ・cmの超純水中で50Vの電圧を印加すると、水酸基イオンおよび水素イオンの濃度が増加し、10A/cm2程度の電流が得られる。
【0046】
これに対して固体電解質を設けないこと以外は同じ条件の超純水中で50Vの電圧を印加した場合、10−2mA/cm2程度の電流値しか観測されない。つまり固体電解質41を設けることによって、設けない場合と比べて106倍の電流量が得られる。この電流量は、純水中におけるラジカル種の生成量に直接影響するので、固体電解質41を設けると、固体電解質を設けることなく電気分解する時と比べて、106倍のラジカル種濃度を有するラジカル含有水を得ることができ、高い処理性能を得ることができる。
【0047】
シート状の固体電解質41は、第1電極39と第2電極40とによって挟持されるようにして設けられるとともに、第1および第2電極39,40の遊端部側において、第1および第2電極39,40に接し、かつノズル本体35の内部空間36にあって吐出口38から吐出されるべき処理液に接するように設けられる。
【0048】
なお、第1電極39と固体電解質41とは、ノズル本体35への装着部寄りの部分において絶縁体42によって絶縁され、第2電極40と固体電解質41とは、ノズル本体35への装着部寄りの部分において絶縁体42によって絶縁される。絶縁体42は、フィルム状の部材であり、たとえばポリイミド樹脂などによって構成される。
【0049】
給電手段25は、第1電極39に接続される第1給電端子43と、第2電極40に接続される第2給電端子44と、外部電源45と、外部電源45と第1および第2給電端子43,44とを接続するケーブル46とを含む。外部電源45としては、たとえば直流電圧電源が用いられる。
【0050】
この外部電源45から第1および第2給電端子43,44を介して第1電極39と第2電極40とに対して、それぞれが陽極と陰極または陰極と陽極とになるように電圧が印加される。第1電極39と第2電極40との間に電圧を印加し、第1および第2電極39,40に触れるように固体電解質41が設置され、さらに固体電解質41がノズル本体35内の純水に接するので、純水由来のイオンをキャリアとした電流が流れる。流れる電流の量は、用いられる固体電解質41が同一である場合、第1電極39と第2電極40との間の距離に依存し、距離が短ければ短いほど多くの電流が流れる。したがって、第1電極39と第2電極40との間隔は、短ければ短いほど電気特性の観点から好ましい。
【0051】
両電極39,40に印加される電圧によって、固体電解質41内を泳動して一方の電極に達したイオンは、そこで電子の授受が行われるので、別のイオン、ラジカル、ガス等に変化する。一方、逆側の他方の電極では電子の授受によって、キャリアとなる純水由来のイオン、ラジカル、ガス等が生成され続ける。
【0052】
このように、ラジカルは電極39,40と固体電解質41とが接した部分で発生するので、本実施形態のように、第1電極39が、ノズル本体35内の空間36にある純水に臨む側の表面が曲面形状、すなわち純水に臨む側が凸状になるように形成されることによって、該曲面付近に電気力線を集中させて強電界を発生させることができるので、効率良くラジカル生成を行うことが可能になる。
【0053】
さらに厚さが連続的に変化し、上記曲面を有するように形成される第1電極39を、吐出口38に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置することによって、水流の圧損を低減できるので、より強い水流でより多くのラジカルを純水23の流れに乗せることができる。またラジカルの寿命は非常に短いけれども、ウェット処理装置20におけるラジカル生成部37は、ラジカル生成部37を構成する第1電極39自体が吐出口38を形成するようにして、吐出口38の直近に設置されているので、被処理物21に達する前に消滅するラジカル種の量が少なく、ラジカル種を高濃度で含む処理液23によってウェット処理を行うことができる。
【0054】
第1電極39と第2電極40との間に電圧を印加することによって流れる電流量は、生成されるラジカル種の生成量に直接的な影響を及ぼす。ノズル22に供給される純水の量をQ(リットル/分)とし、両電極間に流れる電流量をI(A)とすると、純水中に生成されるラジカル含有水における水素ラジカルと水酸基ラジカルとの合計濃度C(mol/リットル)は、下記式(1)で表される。
C=60I/96500Q …(1)
【0055】
たとえば、純水の流量:36リットル/分、電流量:8Aとすると、ラジカル含有水に含まれるラジカル濃度は138μmol/リットルとなる。このラジカル濃度のラジカル含有水を、たとえば長さ:400mm、スリットの間隔:15μmの吐出口38から、流速:100m/秒で吐出させると、被処理物21の表面での水素ラジカル濃度が4μmol/リットルになる。
【0056】
以下ウェット処理装置20による被処理物21の洗浄処理動作について説明する。ウェット処理装置20は、処理液供給手段24から供給される処理液である純水を元に、ノズル22の内部に設けられるラジカル生成部37でラジカル種を生成し、このラジカル種を含むラジカル含有水23を、吐出口38から被処理物21の表面に供給し、被処理物21の表面の一部または全面に付着、固着または堆積する除去対象物質にラジカル種を作用させて洗浄処理を行う。
【0057】
ウェット処理装置20を用いて被処理物21の洗浄処理を行うに際し、ノズル22は、被処理物21に対してラジカル供給が可能な位置に配置される。ここで、ラジカル供給が可能な位置とは、処理を実施するのに有効な量および流速で、ノズル22から被処理物21に対してラジカル含有水23の供給が可能な位置である。
【0058】
処理時、ノズル22は、被処理物21に対して、ラジカル含有水23を吐出する方向が傾斜角を有するように配置されていても良い。ノズル22が傾斜される角度は特に限定されないけれども、被処理物21が搬送される場合、被処理物21の搬送方向の上流側に向って、ノズル22の吐出口38が被処理物21の表面に近づくようにして傾斜させることが好ましく、また逆に被処理物21が固定されてノズル22が移動する場合、ノズル22の移動方向の下流側に向って、ノズル22の吐出口38が被処理物表面に近づくようにして傾斜させることが好ましい。
【0059】
なぜならば、被処理物21の表面に供給され、被処理物21の洗浄に用いられた後の処理液中には、たとえば微粒子、有機物残渣などの除去対象物質が含まれ、このような除去対象物質を含む処理液が、被処理物21の洗浄処理された後の部分に接触すると、除去対象物質が被処理物21の洗浄済みの表面に再付着するおそれがあるけれども、上記のようにノズル22を傾斜させて設置することによって、除去対象物質を含む処理液が被処理物21の洗浄済み表面に接触することなく除去対象物質が再付着することを防止できるからである。
【0060】
また、ノズル22と被処理物21との離隔距離は、特に限定されないけれども、たとえば処理液23の吐出速度を10〜100m/秒に設定する場合、ノズル22に処理液を供給する加圧ポンプ32などのユーティリティー、被処理物21の反り、歪みなども考慮すると、5〜10mm程度に設定されることが好ましい。
【0061】
上記のように設定されるウェット処理装置20の洗浄処理動作においては、まず処理液供給手段24から、ノズル22に対して処理液である純水が供給される。次いで、第1および第2給電端子43,44を介して外部電源45から第1および第2電極39,40に対して電圧が印加される。この電圧印加によって、ノズル本体35の内部空間36に供給された純水中にラジカル種が生成される。
【0062】
図3は、第1電極39において水酸基ラジカル(・OH)51が生成される状態を示す断面図である。図3を参照し、固体電解質41が陽イオン交換樹脂である場合について、ラジカルの生成機構を説明する。なお、ここでは第1電極39を陽極として水酸基ラジカル51が生成される場合を例示するけれども、このとき第2電極40では、第1電極39におけるのと同様の原理により水素ラジカル(・H)が発生する。また第1電極39を陰極とすれば、第1電極39と第2電極40とで発生するラジカルは逆転し、固体電解質41を陰イオン交換樹脂とすれば固体電解質41中を移動するイオン種が変化する。
【0063】
図3に示すように、第1電極39の近傍では、水分子(H2O)52が第1電極39によって電子(e−)53を奪われて電気分解され、水酸基ラジカル(・OH)51と水素イオン(H+)54とになる。水素イオン54は電界の作用によって固体電解質41内を第2電極40の方向へ引寄せられる。純水は残った水酸基ラジカル51を含んでラジカル含有水となりスリット状の吐出口38から吐出され、被処理物21の表面に供給される。
【0064】
以下に示す化学反応式は、図3に示す機構により生成されるラジカル種、およびこのラジカル種と純水との反応により派生する純水由来のラジカル種が生成される状態を示すものである。反応式(2)〜(4)は、ラジカル種の生成を示す。
【0065】
詳しくは、反応式(2)は、純水が解離し水素イオンおよび水酸基イオンとなる様子を示す。反応式(3)は、電解酸化による水酸基ラジカルの生成を示す。反応式(4)は、電解還元による水素ラジカルの生成を示す。反応式(5)〜(9)は、ラジカル種同士またはラジカル種と純水との反応により派生する純水由来のラジカル種が生成される状態、すなわちラジカル同士またはラジカルと純水との反応により消滅または変化する状態を示す。
【0066】
純水由来の活性種としては、水素ラジカル、水酸基ラジカル以外に、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HO2ラジカル、HO3ラジカル、オゾン、過酸化水素などがある。また、水中に含まれる酸素、水素、窒素、二酸化炭素などのガスにより、その他のラジカル種を生成させることも可能であり、本発明のラジカル種生成手段は、ここに記載されるラジカル種の生成のみに限定されるものではない。
H2O ⇔OH−+H+ …(2)
OH− ⇔・OH+e− …(3)
H++e− ⇔・H …(4)
・OH+・OH ⇔H2O2 …(5)
H2O+・OH ⇔OH+H2O …(6)
H2O+・H ⇔H2+・OH …(7)
・H+・H ⇔H2 …(8)
・OH+・H ⇔H2O …(9)
【0067】
上記のような反応によってラジカル種が生成されてラジカル含有水となった処理液23が、吐出口38から被処理物21へ向かって吐出される。このとき、たとえばノズル本体35の内部空間36において、処理液23に付与される圧力が数MPa〜10MPa程度であり、吐出口38の間隔が数10μmである場合、吐出されるラジカル含有水は10〜100m/s程度の流速が得られる。
【0068】
純水から生成されるラジカル種は反応性が高いので、たとえば、除去対象物である微粒子表面と、代表的な被処理物21であるシリコン基板またはガラス基板の表面との間に形成されるシラノール結合を切断、およびシリコン基板などの微粒子結合活性サイトであるダングリングボンドを不活性化することによって、微粒子と基板との付着力を低減し、微粒子の除去力を向上させることが可能である。また、ラジカル種は、レジスト残渣、製造工程内由来の有機成分などによる汚染の除去に対しても効果的であり、この場合、有機物は、有機物中の炭素−炭素、炭素−水素の共有結合などの強い結合が切断されて酸化されることによって、低分子の有機分子または二酸化炭素と水とに分解され除去される。
【0069】
このように、ウェット処理装置20においては、ラジカル生成部37によって生成されるラジカル種の洗浄力を利用して被処理物21が、洗浄処理される。
【0070】
以上に述べたように、本発明のウェット処理装置によれば、低設備費用で、環境負荷を低減し、被処理物の電気的ダメージを抑制し、かつ高処理能力化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の一形態であるウェット処理装置20の構成を簡略化して示す斜視図である。
【図2】図1に示すウェット処理装置20に備わるノズル22の長辺方向に垂直な断面図である。
【図3】第1電極39において水酸基ラジカル(・OH)51が生成される状態を示す断面図である。
【図4】従来技術の一つである基板洗浄装置1の構成を概略的に示す断面図である。
【図5】もう一つの従来技術である基板洗浄装置10の構成を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
20 ウェット処理装置
21 被処理物
22 ノズル
23 処理液
24 処理液供給手段
25 給電手段
35 ノズル本体
36 内部空間
37 ラジカル生成部
38 吐出口
39 第1電極
40 第2電極
41 固体電解質
42 絶縁体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物と対向して配置されスリット状に形成される吐出口を有するノズルから吐出される処理液によって被処理物を処理するウェット処理装置において、
ノズルには、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部が設けられ、
ラジカル生成部が、
スリット状に形成される吐出口を構成する第1電極と、
第1電極の対極として設けられる第2電極と、
第1および第2電極に接し、かつノズル内の空間にあって吐出口から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質とを含むことを特徴とするウェット処理装置。
【請求項2】
第1電極は、
ノズル内の空間にある処理液に臨む側の表面が、曲面形状に形成されることを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項3】
第1電極は、
厚さが連続的に変化する板状の形状を有し、吐出口に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置されることを特徴とする請求項1または2記載のウェット処理装置。
【請求項4】
固体電解質は、
酸性カチオン交換能を有する陽イオン交換物質または塩基性アニオン交換能を有する陰イオン交換物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項5】
第1および第2電極のいずれか一方または両方が、
金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルからなる群より選択される1種または2種以上を含んで成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項6】
処理液は、
比抵抗値が1MΩ・cm以上の純水であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項1】
被処理物と対向して配置されスリット状に形成される吐出口を有するノズルから吐出される処理液によって被処理物を処理するウェット処理装置において、
ノズルには、処理液をラジカル活性化させるラジカル生成部が設けられ、
ラジカル生成部が、
スリット状に形成される吐出口を構成する第1電極と、
第1電極の対極として設けられる第2電極と、
第1および第2電極に接し、かつノズル内の空間にあって吐出口から吐出されるべき処理液に接するように設けられるシート状の固体電解質とを含むことを特徴とするウェット処理装置。
【請求項2】
第1電極は、
ノズル内の空間にある処理液に臨む側の表面が、曲面形状に形成されることを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項3】
第1電極は、
厚さが連続的に変化する板状の形状を有し、吐出口に近づくのに伴って厚さが薄くなるように配置されることを特徴とする請求項1または2記載のウェット処理装置。
【請求項4】
固体電解質は、
酸性カチオン交換能を有する陽イオン交換物質または塩基性アニオン交換能を有する陰イオン交換物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項5】
第1および第2電極のいずれか一方または両方が、
金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルからなる群より選択される1種または2種以上を含んで成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項6】
処理液は、
比抵抗値が1MΩ・cm以上の純水であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2006−231130(P2006−231130A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46035(P2005−46035)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】
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