説明

ウォームホイール

【課題】高強度、小型且つ軽量であり、また、歯打ち音の減衰効果に優れ、しかもコスト安価なウォームホイールを提供する。
【解決手段】ウォームホイール8は、金属製の歯形成部15と、金属製の軸14と、歯形成部15および軸14を繋ぐ合成樹脂製の樹脂部16と、を備える。樹脂部16は、軸14と接合する第2環状部22と、歯形成部14を保持する第3環状部23と、第2および第3環状部22,23間に介在する円盤部41と、を含む。円盤部41は、軸方向X1において第2環状部22の中間位置に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置の電動モータの出力を伝達する減速機構として、ウォーム減速機構が知られている。ウォーム減速機構は、螺旋状の金属歯を有するウォーム軸と、このウォーム軸に噛み合うウォームホイールとを含んでいる。ウォームホイールは、金属製の歯部と、歯部に対して内周側に配置された樹脂部材と、を含む構成(例えば、特許文献1参照)や、合成樹脂製の歯部を含む構成(例えば、特許文献2参照)を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−112553号公報
【特許文献2】特開2009−127677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電動パワーステアリング装置の高出力化に伴い、減速機構が大型化している。そのため、車両における減速機構のレイアウトが非常に難しくなってきている。特許文献2に記載されているように、ウォームホイールの歯部を合成樹脂製にした場合、強度を満足するためにウォームホイールがより大型で重くなる傾向にある。また、高出力に耐え得る樹脂は高価であり、製造コストが高くなる。また、歯部を合成樹脂製にすることで、ウォームホイールとウォーム軸との噛み合い時に生じる歯打ち音(ラトル音)を、合成樹脂部分によって抑制する(減衰する)効果があるように思われるけれども、実際には、単に合成樹脂を用いるだけでは、歯打ち音の抑制効果は小さい。
【0005】
一方、ウォームホイールの歯部を金属材料で成形した場合、ウォームホイールを小型にしつつ、歯部の強度を確保できる。しかしながら、単に歯部を金属材料で形成した場合には、ウォームホイールとウォーム軸との噛み合いによる歯打ち音が大きくなる。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、高強度、小型且つ軽量であり、また、歯打ち音の減衰効果に優れ、しかもコスト安価なウォームホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、ウォーム軸(7)の歯部(11)に噛み合うための歯部(49)が形成された金属製の歯形成部(15)と、金属製の軸(14)と、前記歯形成部および前記軸を繋ぐ合成樹脂製の樹脂部(16)と、を備え、前記樹脂部は、前記軸と接合する接合部(22)と、前記歯形成部を保持する保持部(23)と、前記接合部と前記保持部との間に介在する円盤部(41)と、を含み、前記円盤部は、前記軸の軸方向(X1)において前記接合部の中間位置に接続されていることを特徴とするウォームホイール(8)を提供する(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、主歯部を強度の高い材料としての金属で形成しているので、主歯部の強度を十分に高くしつつ、歯形成部を小型にできる。これにより、ウォームホイールを小型、且つ軽量にできる。また、軸部と歯形成部とを接続するための円盤部を、軸方向に関して接合部の中間部に接続する構成により、円盤部を薄肉にできる。これにより、円盤部の可撓性を高くできる。その結果、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合い時に生じる歯打ち音について、高い振動減衰効果を円盤部に発揮させることができる。その上、金属製の軸および歯形成部に合成樹脂を結合させるという簡易な構成でウォームホイールを形成できる。よって、製造コストが安価である。さらに、円盤部を接合部のうちの軸方向の中間位置に接続している。このため、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合いによって回転方向や径方向を向く応力が樹脂部に生じても、これらの応力が樹脂部の一部に偏り無く生じるようにできる。これにより、樹脂部における局所的な負荷の発生を抑制してウォームホイールの強度をより高くできる。
【0008】
また、本発明において、前記円盤部の厚みが、前記軸の径方向外方に進むに従い小さくされており、前記軸方向における前記円盤部の両側には、前記軸方向に突出する突出縁をそれぞれ有し、軸方向に対向する各複数のリブ(43,44)が設けられ、前記軸方向に対向するリブの突出縁(431,441)の間の間隔が、前記軸の径方向外方に進むに従い小さくされている場合がある(請求項2)。
【0009】
この場合、ウォーム軸との噛み合いによる反力は、ウォームホイールの主歯部を介して先細り形状の円盤部に伝わる。円盤部が可撓性の高い先細り形状に形成されている結果、ウォーム軸との噛み合いによる振動(噛み合い振動)は、円盤部の周方向への弾性的な撓みによって吸収される。さらに、円盤部には、先細り形状であることにより可撓性に優れたリブが設けられている。これにより、円盤部の撓み変位による振動減衰効果を阻害することなく、樹脂部の強度(ラジアル方向およびスラスト方向の剛性)を高くできる。その結果、ウォームホイールの更なる小型化を達成でき、且つ、ウォームホイールの急な回転駆動に起因するウォームホイールの応力の上昇量を緩和できる。
【0010】
また、本発明において、前記歯形成部は、前記歯形成部の内周に配置され前記保持部に噛み合う複数の内歯部(45A,45B)を含み、前記軸の径方向内方に進むに従い前記内歯部間の溝幅が小さくされている場合がある(請求項3)。
この場合、内歯部間の溝は、内歯部の歯先側ほど幅狭の逆テーパ状に形成されている。これにより、樹脂部の成形の際に、内歯部間の溝に入った合成樹脂が冷却されて収縮しても、溝内の樹脂部分を確実に内歯部に結合させることができる。これにより、歯形成部が樹脂部に対してがたつくことを抑制できる。その結果、樹脂部に微小なクラックが生じることを抑制でき、ウォームホイールの強度が高い状態を長期間に亘って確実に維持できる。
【0011】
また、本発明において、前記樹脂部は、インサート成形によって形成されている場合がある(請求項4)。この場合、軸と樹脂部との結合強度、および歯形成部と樹脂部との結合強度をより高くできる。その結果、ウォーム軸との噛み合い振動を、歯形成部から樹脂部に確実に伝達できるので、樹脂部で振動減衰効果を確実に発揮できる。
また、本発明において、前記軸は、前記軸と前記樹脂部との相対回転を規制する第1規制部(19)と、前記軸方向における前記軸と前記樹脂部との相対移動を規制する第2規制部(19)と、を含む場合がある(請求項5)。この場合、樹脂部と軸とが周方向および軸方向に相対変位することをより確実に抑制できる。
【0012】
また、本発明において、前記軸の外周に設けられ前記樹脂部に結合する複数の凸部(19)を含み、前記凸部によって前記第1規制部および前記第2規制部が形成されている場合がある(請求項6)。この場合、軸に凸部を形成し、この凸部に溶融樹脂を射出する簡易な構成で、第1規制部および第2規制部に樹脂部を結合させることができる。
また、本発明において、前記歯形成部は、前記歯形成部の内周に配置され前記保持部に噛み合う複数の内歯部を含み、前記軸の周方向(C1)に関して、隣り合う2つの前記リブの間に少なくとも1つの前記内歯部が配置されている場合がある(請求項7)。
【0013】
この場合、歯形成部の内歯部の数を多くしており、これにより、歯形成部と樹脂部との接触面積をより多くできる。その結果、歯形成部と樹脂部との結合強度をより高くできる。
また、本発明において、前記内歯部の側面(451)および歯面(452)の少なくとも一方に、前記樹脂部に結合されたフェーススプラインが形成されている場合がある(請求項8)。この場合、歯形成部と樹脂部との結合強度をより一層高くできる。
【0014】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかるウォームホイールを備える電動パワーステアリング装置の概略構成を示す一部断面図である。
【図2】ウォームホイールの一部を破断して示す斜視図である。
【図3】ウォームホイールを軸方向から見た一部断面側面図である。
【図4】ウォームホイールの主要部の断面図であり、ウォームホイールを周方向から見た状態を示している。
【図5】ウォームホイールの主要部の断面図であり、ウォームホイールを軸方向から見た状態を示している。
【図6】本発明の別の実施形態のウォームホイールの主要部の一部断面図であり、周方向から見た状態を示している。
【図7】図6の第4歯部の周辺を軸方向から見た断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態のウォームホイールの主要部の一部断面図であり、周方向から見た状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかるウォームホイールを備える電動パワーステアリング装置の概略構成を示す一部断面図である。
電動パワーステアリング装置1は、四輪自動車等の車両に備えられている。電動パワーステアリング装置1は、操舵補助用の電動モータ2と、ギヤハウジング3と、ウォーム減速機構4と、を備えている。
【0017】
電動モータ2のモータハウジング5は、ギヤハウジング3に固定されている。ギヤハウジング3は、アルミニウム合金製である。ギヤハウジング3内には、電動モータ2の出力軸6が延びている。ギヤハウジング3内には、減速機構4が収容されている。
減速機構4は、金属製のウォーム軸7と、ウォームホイール8と、を含んでいる。ウォーム軸7は、一対の支軸9,10と、一対の支軸9,10間に配置された螺旋状のウォーム歯部11と、を含んでいる。一対の支軸9,10は、一対の軸受12,13を介してギヤハウジング3に回転可能に支持されている。一方の支軸10は、電動モータ2の出力軸6に連結されている。
【0018】
ウォームホイール8は、ウォーム軸7に噛み合っている。ウォームホイール8は、ステアリングホイール(図示せず)と、転舵機構のラックアンドピニオン機構(図示せず)との間の動力伝達経路上に配置されている。電動モータ2の出力は、ウォーム軸7およびウォームホイール8を介して転舵機構に伝わるように構成されている。これにより、運転者によるステアリングホイールの操舵が補助される。
【0019】
次に、ウォームホイール8について説明する。図2は、ウォームホイール8の一部を破断して示す斜視図である。なお、以下では、ウォームホイール8の軸方向X1、周方向C1および径方向R1を、単に、軸方向X1、周方向C1および径方向R1という。
ウォームホイール8は、金属製の軸14と、金属製の歯形成部15と、これら軸14と歯形成部15とを繋ぐ合成樹脂製の樹脂部16と、を含んでいる。ウォームホイール8の歯形成部15および樹脂部16は、軸方向X1に略対称な形状に形成されている。
【0020】
軸14は、金属材料に切削加工や鍛造加工等を施して形成された一体成形品である。軸部は、軸本体17と、軸本体17の外周に形成された第1環状部18とを含んでいる。
軸本体17は、中空の棒状に形成されている。軸本体17の一端部は、例えば、トーションバー等を介して操舵部材(図示せず)に連結されている。軸本体17の他端部は、例えば、自在継手および中間軸を介して、転舵機構のピニオン軸(図示せず)に連結されている。
【0021】
第1環状部18は、軸方向X1における軸14の中間部に配置されている。第1環状部18は、1または複数(本実施形態において、2つ)設けられている。2つの第1環状部18は、軸方向X1に間隔をあけて並んでいる。各第1環状部18は、外歯としての複数の第1歯部19と、第1歯部19,19間に配置された第1歯溝部20とを有している。 図3は、ウォームホイール8を軸方向X1から見た一部断面側面図である。図2および図3を参照して、第1歯部19は、軸本体17の外周に設けられ樹脂部16に結合する凸部であり、第1規制部および第2規制部を構成している。第1歯部19は、周方向C1に等間隔に複数(本実施形態において、8つ)設けられている。第1歯部19は、軸方向X1に一様な形状を有している。
【0022】
第1歯部19は、一対の歯面21,21を有している。一対の歯面21,21は、逆テーパ状に形成されており、径方向R1の外方に進むに従い、互いの間隔が広くなっている。すなわち、第1歯部19の歯厚は、径方向外方に進むに従い大きくなっている。周方向C1に並ぶ2つの第1歯部19,19と、軸14とによって、第1歯溝部20が形成されている。第1歯溝部20の溝幅(周方向C1に関する第1歯溝部20の長さ)は、径方向R1の外方に進むに従い狭くされている。第1歯溝部20の溝幅は、第1歯部19の歯厚よりも大きくされている。
【0023】
樹脂部16は、インサート成形によって形成された一体成形品である。より具体的には、樹脂部16は、軸14および歯形成部15を金型にインサートし、この金型のキャビティに溶融した合成樹脂を射出することにより形成されている。樹脂部16は、軸14の第1環状部18を取り囲む第2環状部22と、第2環状部22を取り囲む第3環状部23と、第2環状部22と第3環状部23とを連結する連結部24と、を含んでいる。
【0024】
図4は、ウォームホイール8の主要部の断面図であり、ウォームホイール8を周方向C1から見た状態を示している。図2および図4に示すように、第2環状部22は、軸14と接合する接合部として設けられている。第2環状部22は、2つの第1環状部18,18双方を取り囲んでいる。第2環状部22は、内歯としての第2歯部25と、第2歯部25,25間に配置された第2歯溝部26と、を有している。
【0025】
図2および図3を参照して、第2歯部25は、複数設けられている。第2歯部25は、各第1歯溝部20に隙間無く配置されている。第2歯部25は、第1歯部19に結合されている。第2歯部25の歯厚は、径方向R1の外方に進むに従い小さくされている。上記の構成により、第2歯部25は、第1歯溝部20から径方向R1の外方に抜けることが抑制されている。
【0026】
また、第1歯部19と第2歯部25との結合により、軸14と樹脂部16との相対回転が規制されている。すなわち、第1歯部19によって、樹脂部16と軸14の相対回転を規制する第1規制部が構成されている。第1歯部19は、第2歯溝部26に結合されている。
図2および図4を参照して、第2環状部22は、2つの第1環状部18,18間に介在する介在部27を含む。介在部27は、環状に形成されており、2つの第1環状部18,18のそれぞれの第1歯部19,19によって軸方向X1に挟まれている。これにより、軸14に対する樹脂部16の軸方向X1に関する変位が規制されている。すなわち、第1歯部19によって、軸方向X1における軸14と樹脂部16との相対移動を規制する第2規制部が構成されている。
【0027】
第3環状部23は、第2環状部22と同軸の円環状に形成されている。第3環状部23は、歯形成部15を保持する保持部として設けられている。第3環状部23は、環状凹部31と、環状凹部31内に配置された外歯としての第3歯部32と、を含んでいる。
環状凹部31は、第3環状部23の外周面23aから径方向R1の内方に延びており、断面T字形形状に形成されている。環状凹部31は、軸方向X1の幅が短い幅狭部33と、軸方向X1の幅が幅狭部33の幅よりも広い幅広部34とを含んでいる。幅狭部33は、外周面23aに開放されており、径方向R1の何れの箇所でも、溝幅が一定とされている。また、幅広部34は、径方向R1の何れの箇所でも、溝幅が一定とされている。
【0028】
第3歯部32は、例えばセレーション歯であり、環状凹部31の底部31aに多数形成されている。第3歯部32は、周方向C1における環状凹部31の全域に形成されている。第3歯部32は、幅広部34内に配置されている。
連結部24は、径方向R1に関して第2環状部22と第3環状部23との間に配置されている。連結部24は、円盤部41と、円盤部41の両側方へ突出するように円盤部41の一対の側面にそれぞれ設けられた各複数のリブ43,44とを含んでいる。円盤部41は、第2環状部22の外周面22aと第3環状部23の内周面23bの双方に連続している。円盤部41は、周方向C1の全域に亘って配置されており、第2環状部22と第3環状部23との間を塞いでいる。円盤部41は、軸方向X1において第2環状部22の中間位置に接続されている。軸方向X1に関する円盤部41の中心41aは、第2環状部22の中間位置(中央位置)に配置されており、且つ、第3環状部23の中間位置(中央位置)に配置されている。
【0029】
円盤部41の厚み(軸方向X1の長さ)は、径方向R1の外方に進むに従い連続的に小さくされており、円盤部41が先細り形状を有している。円盤部41の基端部41bの厚みは、軸方向X1に関する介在部27の長さと略同じとされている。円盤部41の先端部41cの厚みは、環状凹部31の幅狭部33の幅と略同じとされている。
上記の構成により、円盤部41は、径方向R1の外側部分ほど、周方向C1に弾性変形し易くされている。これにより、ウォーム軸7からの反力がウォームホイール8の周方向C1に沿って作用したときに、円盤部41の弾性変形を促すことができる。その結果、ウォーム軸7とウォームホイール8とが噛み合うときの歯打ち音を減衰できる。
【0030】
リブ43,44は、軸方向X1に関する樹脂部16の剛性(ラジアル荷重に対する剛性)を高めるために設けられている。各リブ43,44は、周方向C1に等間隔に多数設けられた薄板状部分であり、軸方向X1に対向するリブ43,44同士が、円盤部41から軸方向X1の反対側に延びている。リブ43およびリブ44は、軸方向X1に関する円盤部41の中心41a(中心面)に対して対称な形状を有している。
【0031】
リブ43は軸方向X1の一側に突出する突出縁431を有し、リブ44は、軸方向X1の他側に突出する突出縁441を有している。軸方向X1に対向するリブ43,44の突出縁431,441間の間隔(軸方向X1に関する間隔)は、径方向R1の外方に進むに従い小さくなっている。また、軸方向X1に関して、突出縁431,441間の間隔は、リブ43,44の径方向R1の内端部において、第2環状部22の長さと略同じとされている。また、軸方向X1に関して、突出縁431,441間の間隔は、リブ43,44の径方向R1の外端部において、第3環状部23の長さと略同じとされている。上記の構成により、リブ43,44を含めた円盤部41の可撓性は、径方向R1の外方に進むほど高くされている。
【0032】
歯形成部15は、金属粉末を焼結してなる焼結金属製の一体成形品である。歯形成部15は、第4環状部47と、第4環状部47から径方向R1の内方に延びる突出部としての環状凸部48と、を含んでいる。
第4環状部47は、軸14と同軸の円環状に形成されている。第4環状部47の外周には、ウォーム歯部11と噛み合うための主歯部(ウォームホイール歯部)49が形成されている。主歯部49の歯厚は、歯すじ方向の中央が、歯すじ方向の両端と比べて小さくされている。主歯部49のうち、少なくとも一対の歯面49a,49aには、鍛造加工が施されている。これにより、主歯部49は、ウォーム軸7との噛み合いに関する耐摩耗性が向上されている。
【0033】
一方で、歯形成部15のうち、樹脂部16と接触する部分(内周面)には、鍛造加工が施されていない。これにより、歯形成部15の内周面では、空孔部分の開口面積が大きくされており、樹脂部16を射出成形した際の溶融樹脂の一部が、この空孔部分に入っている。これにより、樹脂部16と歯形成部15との結合強度が高くされ、且つ、樹脂部16と歯形成部15との結合による振動減衰効果(音圧減衰効果)が高められている。
【0034】
環状凸部48は、第4環状部47の内周面から径方向R1の内方に延びており、断面T字形形状に形成されている。環状凸部48は、連結部24の第3環状部23の環状凹部31に隙間無く嵌合している。環状凸部48の断面形状をT字形形状とすることにより、樹脂部16と歯形成部15との接触面積をより大きくしている。環状凸部48は、環状凹部31の幅狭部33に配置された幅狭部51と、環状凹部31の幅広部34に配置された幅広部52とを含んでいる。
【0035】
環状凸部48の幅広部52と、第4環状部47との間には、第3環状部23の外周部23cが嵌め込まれている。これにより、樹脂部16を射出成形により形成したときの樹脂の収縮に伴い、樹脂部16の外周部23cと歯形成部15の環状凸部48との結合力を、より大きくできる。
幅広部52の内周には、内歯部としての第4歯部45が形成されている。第4歯部45は、樹脂部16の第3歯部32と噛み合っている。これにより、樹脂部16と歯形成部15との相対回転が規制されている。また、樹脂部16の環状凹部31には、歯形成部15の環状凸部48が嵌め込まれている。これにより、樹脂部16に対する歯形成部15の軸方向X1への変位が規制されている。
【0036】
図5は、ウォームホイール8の主要部の断面図であり、ウォームホイール8を軸方向X1から見た状態を示している。図5に示すように、リブ43(44)の数は、第4歯部45の数よりも少なくされている。また、周方向C1に関して、隣接する2つのリブ43,43(44,44)間に、第4歯部45が1つ以上配置されている。本実施形態では、リブ43,43(44,44)間に、第4歯部45が2つ配置されている。
【0037】
また、図2を参照して、円盤部41と、周方向C1に隣接するリブ43,43とによって、保持溝53が区画されている。図示してないが、反対側のリブ44,44間にも保持溝が区画されている。保持溝53は、グリース等の潤滑剤を保持可能に構成されている。保持溝53のグリースがウォームホイール8とウォーム軸7との噛み合い部分に供給されることで、この噛み合い部分の摩耗を抑制できる。さらに、歯打ち音を潤滑剤によって減衰できる。なお、保持溝53内の潤滑剤を主歯部49に導く切欠部を、ウォームホイール8の外形部に設けてもよい。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、主歯部49を、強度の高い材料としての金属で形成しているので、主歯部49の強度を十分に高くしつつ、歯形成部15を小型にできる。これにより、ウォームホイール8を小型、且つ軽量にできる。また、軸14と歯形成部15とを接続するための円盤部41を、軸方向X1に関して第2の環状部22の中間部に接続する構成により、円盤部41を薄肉にできる。これにより、円盤部41の可撓性を高くできる。その結果、ウォーム軸7とウォームホイール8との噛み合い時に生じる歯打ち音について、高い振動減衰効果を円盤部41に発揮させることができる。その上、金属製の軸14および歯形成部に合成樹脂を結合させるという簡易な構成でウォームホイール8を形成できる。よって、製造コストが安価である。
【0039】
さらに、円盤部41を第2環状部22のうちの軸方向X1の中間位置に接続している。このため、ウォーム軸7とウォームホイール8との噛み合いによって回転方向(周方向C1)や径方向R1を向く応力が樹脂部16に生じても、これらの応力が樹脂部16の一部に偏り無く生じるようにできる。これにより、樹脂部16における局所的な負荷の発生を抑制してウォームホイール8の強度をより高くできる。
【0040】
また、ウォーム軸7との噛み合いによる反力は、ウォームホイール8の主歯部49を介して先細り形状の円盤部41に伝わる。円盤部41が可撓性の高い先細り形状に形成されている結果、ウォーム軸7との噛み合いによる振動(噛み合い振動)は、円盤部41の周方向C1への弾性的な撓みによって吸収される。さらに、リブ43,44を含めた円盤部41は、全体として先細り形状であることにより可撓性に優れている。これにより、円盤部41の撓み変位による振動減衰効果を阻害することなく、樹脂部16の強度(スラスト方向およびラジアル方向の剛性)を高くできる。その結果、ウォームホイール8の更なる小型化を達成でき、且つ、ウォームホイール8の急な回転駆動に起因するウォームホイール8の応力の上昇量を緩和できる。
【0041】
また、歯形成部15の内周に配置され径方向R1の内方に突出するT字形状の突出部としての環状凸部48が設けられ、さらに、環状凸部48の内周に、第3歯部32に噛み合う第4歯部45が設けられている。これにより、歯形成部15と樹脂部16との結合強度をより高くできる。具体的には、歯形成部15の第4歯部45と第3環状部23の第3歯部32との結合により、樹脂部16と歯形成部15との相対回転をより確実に規制できる。さらに、第3環状部23が、T字形状の環状凸部48を抱きかかえるように環状凸部48と結合しているので、樹脂部16と歯形成部15とが軸方向X1に相対移動することを、より確実に規制できる。
【0042】
また、本実施形態において、歯形成部15を焼結金属製としている。これにより、歯形成部15をより軽量化できる。また、歯打ち音を、燒結金属の空孔領域で減衰することでより小さくできる。
また、樹脂部16は、インサート成形によって形成されている。これにより、軸14と樹脂部16との結合強度、および歯形成部15と樹脂部16との結合強度をより高くできる。その結果、ウォーム軸7とウォームホイール8との噛み合いの振動を、歯形成部15から樹脂部16に確実に伝達できるので、樹脂部16で振動減衰効果を確実に発揮できる。
【0043】
また、第1規制部および第2規制部としての第1歯部19を軸14に設けている。これにより、樹脂部16と軸14とが周方向C1および軸方向X1に相対変位することを、より確実に抑制できる。
このように、軸14に凸部としての第1歯部19を形成し、この第1歯部19に溶融樹脂を射出する簡易な構成で、樹脂部16と軸14とが周方向C1および軸方向X1に相対変位することを、より確実に抑制できる。
【0044】
また、周方向C1に関して、隣り合う2つのリブ43,43(44,44)の間に少なくとも1つの第4歯部45が配置されている。このように、歯形成部15の第4歯部45の数を多くしており、これにより、歯形成部15と樹脂部16との接触面積をより多くできる。その結果、歯形成部15と樹脂部16との結合強度をより高くできる。
図6は、本発明の別の実施形態のウォームホイール8Aの主要部の一部断面図であり、周方向から見た状態を示している。図7は、図6の第4歯部45Aの周辺を軸方向X1から見た断面図である。なお、以下では、図1〜図5に示す実施形態と異なる点について説明し、同様の構成には図に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図6および図7に示すように、本実施形態では、第4歯部45Aが、第4環状部47から直接径方向R1の内方に突出している。また、周方向C1から第4歯部45Aを見たとき、径方向R1に関する第4歯部45Aの中間部がくびれた形状に形成されており、これにより、溶融樹脂を第4歯部45A間の第4溝部46に入り込ませ易くされている。また、軸方向X1から第4歯部45Aを見たとき、周方向C1に関する第4歯部45A間の溝としての第4溝部46間の幅が、径方向内方に進むに従い小さくされている。すなわち、第4溝部46は、径方向内方に進むに従い周方向C1の幅が小さくなる逆テーパ状とされている。
【0046】
また、各リブ43A,44Aの数と、第4溝部46の数は、同じとされている。さらに、周方向C1に関して、第4溝部46と各リブ43A,44Aの位置(中心位置)が揃えられている。なお、各リブ43A,44Aの数を、第4溝部46の数の整数倍としてもよい。また、第4溝部46の数を、各リブ43A,44Aの数の整数倍としてもよい。
また、各円盤部41Aの外側縁部を、周方向C1から見たときに湾曲状をなす滑らかな形状(くびれ形状)としている。これにより、第4溝部46への溶融樹脂の流動性を高くしている。
【0047】
本実施形態によれば、第4歯部45A間の第4溝部46は、第4歯部45Aの歯先側ほど幅狭の逆テーパ状に形成されている。これにより、樹脂部16の成形の際に、第4溝部46に入った合成樹脂が冷却されて収縮しても、第4溝部46内の樹脂部分を確実に第4歯部45Aに結合させることができる。これにより、歯形成部15が樹脂部16に対してがたつくことを抑制できる。その結果、樹脂部16に微小なクラックが生じることを抑制でき、ウォームホイール8の強度が高い状態を長期間に亘って確実に維持できる。
【0048】
また、周方向C1に関して、第4溝部46と各リブ43A,44Aの位置が揃えられている。これにより、リブ43A,44Aを構成する樹脂が冷えて収縮したときに、収縮した樹脂のうち、第4歯部45A間に位置する樹脂を、より確実に第4歯部45Aに結合できる。
図6において、第4歯部45Aの側面451(軸方向X1に対向する面)に、樹脂部16に結合する公知のフェーススプラインを設けて、歯形成部15と樹脂部16との結合をより強固にしてもよい。特に、フェーススプラインの延びる方向とは直交する方向に関して、歯形成部15と樹脂部16との相対移動を抑制して、両者間のガタの発生を抑制することができる。
【0049】
また、図7において、第3歯部45Aの歯面452(周方向C1に対向する面)に、樹脂部16に結合する公知のフェーススプラインを設けて、歯形成部15と樹脂部16との結合をより強固にしてもよい。この場合、フェーススプラインの延びる方向とは直交する方向に関して、歯形成部15と樹脂部16との相対移動を抑制して、両者間のガタの発生を抑制することができ、ひいては、樹脂部16の微小クラック等の発生を未然に防止することができる。例えば、フェーススプラインの延びる方向を、例えば軸方向X1と直交する方向とすることにより、特に、歯形成部15と樹脂部16の軸方向X1の相対移動を抑制する効果がある。
【0050】
上記のフェーススプラインは、第4歯部45A(内歯部)の側面451または歯面452の少なくとも一方に設けられていればよい。
また、上記のフェーススプラインを、図4の実施形態の第4歯部45(内歯部)の側面および歯面の少なくとも一方に設けてもよい。また、上記のフェーススプラインを、図4の実施形態の環状凸部48(突出部)の側面(幅狭部51の側面または幅広部52の側面)に設けてもよい。
【0051】
また、各リブ43A,44A(43,44)の数と上記のフェーススプラインの数は、同一かまたは整数倍であることが好ましい。また、リブとフェーススプラインの溝との位相が一致していることが好ましい。
次いで、図8は、本発明のさらに別の実施形態のウォームホイール8Bの主要部の一部断面図であり、周方向から見た状態を示している。図8を参照して、本実施の形態が、図4ないし図6の実施の形態と主に異なるのは、下記である。
【0052】
すなわち、図6の実施の形態では、径方向R1に関する第4歯部45A(内歯部)の中間部がくびれた形状を呈していた。これに対して、本実施の形態では、径方向R1の内方に向かうに従い、軸方向X1の幅が次第に拡がる逆テーパ状の第4歯部45B(内歯部)を設けている。具体的には、第4歯部45Bの側面453がテーパ面となっている。これにより、インサート成形後の樹脂部16の収縮によって、歯形成部15の第4歯部45Bが樹脂部16に径方向R1に強固に食い込むので、歯形成部15と樹脂部16との結合強度を高くすることができる。
【0053】
また、第4歯図45Bの側面453および歯面(図示せず)の少なくとも一方に、公知のフェーススプライン(図示せず)を設けて、樹脂部16と係合させている。これにより、歯形成部15と樹脂部16の結合強度をより高くすることができる。
このように、歯形成部15と樹脂部16との結合強度を高くすることがきるので、両者間のガタの発生を抑制でき、ひいては、樹脂部16に微小なクラックが生じることを抑制でき、ウォームホイール8Bの強度が高い状態を長期間に亘って確実に維持できる。
【0054】
また、各リブ43A,44A(43,44)の数と上記のフェーススプラインの数は、同一かまたは整数倍であることが好ましい。また、リブとフェーススプラインの溝との位相が一致していることが好ましい。
また、図4の実施の形態では、円盤部41が径方向R1の外方に向かって先細り状とされており、円盤部41の先端部41cの厚み(軸方向X1の幅に相当)が最も小さくなっていた。これに対して、本実施の形態では、円盤部41の途中部から先端部41cに向かうに従って、円盤部41の厚み(軸方向X1の幅に相当)が次第に大きくなっている。これにより、円盤部41から径方向R1外方の第3環状部23への接続部において、インサート成形時の溶融樹脂の流動性を良くすることができる。当該部分の強度を強くすることができる。
【0055】
図8の実施形態の構成要素において、図6の実施形態と同じ構成要素には、図6の実施形態と同じ参照符号を付してある。
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、図1〜図5に示す実施形態において、環状凸部48を軸方向X1に貫通する貫通孔を設け、この貫通孔に樹脂部16の一部を配置してもよい。これにより、樹脂部16と歯形成部15との結合の強度をより高くできる。この貫通孔は、周方向C1に等間隔に複数設けられていることが好ましい。
【0056】
また、本発明のウォームホイールを、電動パワーステアリング装置以外の他の装置に備えられるウォームホイールに適用してもよい。特に、車両のうち、静粛性を要求される減速機構に本発明を適用することが好ましい。
また、ウォームホイールの大ききは、特に限定されない。ウォームホイールの大きさに応じて適宜樹脂部を設計することにより、強度と音の減衰効果とを高次元でバランスさせることができる。
【符号の説明】
【0057】
7…ウォーム軸、8,8A,8B…ウォームホイール、11…ウォーム歯部(ウォーム軸の歯部)、14…軸、15…歯形成部、16…樹脂部、19…第1歯部(第1規制部、第2規制部、凸部)、22…第2環状部(接合部)、23…第3環状部(保持部)、41…円盤部、43,44;43A,44A…リブ、431,441…突出縁、45,45A,45B…第4歯部(内歯部)、451,453…側面、452…歯面、48…環状凸部(突出部)、49…主歯部、C1…周方向、X1…軸方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーム軸の歯部に噛み合うための主歯部が形成された金属製の歯形成部と、
金属製の軸と、
前記歯形成部および前記軸を繋ぐ合成樹脂製の樹脂部と、を備え、
前記樹脂部は、前記軸と接合する接合部と、前記歯形成部を保持する保持部と、前記接合部と前記保持部との間に介在する円盤部と、を含み、
前記円盤部は、前記軸の軸方向において前記接合部の中間位置に接続されていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項2】
請求項1において、前記円盤部の厚みが、前記軸の径方向外方に進むに従い小さくされており、
前記軸方向における前記円盤部の両側には、前記軸方向に突出する突出縁をそれぞれ有し、軸方向に対向する各複数のリブが設けられ、
前記軸方向に対向するリブの突出縁の間の間隔が、前記軸の径方向外方に進むに従い小さくされていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項3】
請求項1または2において、前記歯形成部は、前記歯形成部の内周に配置され前記保持部に噛み合う複数の内歯部を含み、
前記軸の径方向内方に進むに従い前記内歯部間の溝幅が小さくされていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項において、前記樹脂部は、インサート成形によって形成されていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、前記軸は、前記軸と前記樹脂部との相対回転を規制する第1規制部と、前記軸方向における前記軸と前記樹脂部との相対移動を規制する第2規制部と、を含むことを特徴とするウォームホイール。
【請求項6】
請求項5において、前記軸の外周に設けられ前記樹脂部に結合する複数の凸部を含み、 前記凸部によって前記第1規制部および前記第2規制部が形成されていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項7】
請求項2において、前記歯形成部は、前記歯形成部の内周に配置され前記保持部に噛み合う複数の内歯部を含み、
前記軸の周方向に関して、隣り合う2つの前記リブの間に少なくとも1つの前記内歯部が配置されていることを特徴とするウォームホイール。
【請求項8】
請求項3または7において、前記内歯部の側面および歯面の少なくとも一方に、前記樹脂部に結合されたフェーススプラインが形成されているウォームホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61008(P2013−61008A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199474(P2011−199474)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】