説明

エアタービンスピンドル

【課題】100,000rpm以上の超高速回転下でも数十nmオーダの回転精度を達成することが可能なエアタービンスピンドルを提供すること。
【解決手段】駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルにおいて、タービンの排気流路とエアベアリングの排気流路をそれぞれ独立に設けるように構成し、又、スラスト板の周上に、当該スピンドルの駆動源となるエアタービンを構成し、且つ、回転軸に垂直な方向で、且つ、スラスト板外周接線方向から当該エアタービンへの給気を行い、スラスト板両面に形成した静圧空気軸受の更に外周に、大気開放のための通気部を配置し、その更に外周に、狭いすきまによる非接触ラビリンスシールを設け、タービンの排気流路と多孔質静圧の排気流路を独立に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系にエアタービンを、軸受にエアベアリングを用いたスピンドル装置の高精度化に関するものである.
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械で使用するスピンドルへの高速化及び高精度化の要求が加速してきている。特に、金型を対象とした工作機械の場合、対象とする金型の複雑化が進むに連れて金型の最小Rが小さくなり、工具の小径化が望まれてきている。工具が小径化すると、必然的に工具の周速も低下してしまうため、周速の低下分を補うためにスピンドルの超高速回転化が必須である。又、レンズ金型を対象に考えると、数十nmオーダの回転精度も要求される。
【0003】
これらの要求を満たすためには、駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを採用するのが得策であると言える。駆動系にエアタービンではなくモータを用いると、高速回転時において、発熱や振れ回り不安定の発生(モータ重量分だけ軸重量が増加することにより危険速度が低下することから生じる現象)といったことが問題となり、又、軸受に非接触式であるエアベアリングではなく接触式ベアリングを用いると、高速回転時の寿命の問題は勿論のこと、回転精度の面でも問題となる。このような理由から100,000rpm以上の超高速回転及び数十nmオーダの回転精度を達成するには、駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いる構成が最も有効であると言える。
【0004】
具体的には、直径2mmの工具を200,000rpmで使用することを考える。軸受は回転精度の問題からエアベアリングが適切である。駆動系については、発熱回避のため、エアベアリングの軸受クリアランスを10μm以上の大きさにする必要が出てくるが、クリアランスを増加すると安定限界質量が100g程度となり、モータを付加すると安定限界質量を超えてしまう。即ち、モータの使用は考えにくく、重量増加がないエアタービンが有効であると言える。
【0005】
駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルの従来例としては、特許文献1が存在する。
【0006】
【特許文献1】特開平9−166143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案されているような、駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルでは、軸方向長さを短くするために、スラスト軸受を形成した板の円周上にエアタービンを配置した構成が殆どである。
【0008】
しかしながら、エアタービンの排気孔とエアベアリングからの排気孔が共通であり、排気孔に至までの空間もほぼ共有しているため、エアタービンの排気エアとエアベアリングの排気エアが干渉してしまっていた。その結果、安定した特性を持つためには一定であることが望ましいエアベアリング端部の圧力が変動し、軸受剛性の変動が起きていた。
【0009】
又、エアベアリングの排気エアがエアタービンの給気流路に回り込み、外乱として作用するという問題もあった。こうしたことから、100,000rpm以上の高速回転下で数十nmオーダの精度を実現するのが困難であった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、100,000rpm以上の超高速回転下でも数十nmオーダの回転精度を達成することが可能なエアタービンスピンドルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するための第1の手段は、駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルにおいて、タービンの排気流路とエアベアリングの排気流路をそれぞれ独立に設けた構成とすることである。
【0012】
第2の手段は、前記エアタービンスピンドルにおいて、スラスト空気静圧軸受を両面に配置したスラスト板の周上に当該スピンドルの駆動源となるエアタービンを構成し、且つ、回転軸に垂直で、且つ、スラスト板外周接線方向から当該エアタービンへの給気を行うことを特徴とした構成にすることである。本構成により,エアタービンへの供給エアがスラスト方向へ及ぼす影響を低減することが可能となる。
【0013】
第3の手段は、前記エアタービンスピンドルにおいて、スラスト板両面に形成した静圧空気軸受の更に外周に大気開放のための通気部を配置し、その更に外周に狭いすきまによる非接触ラビリンスシールを設け、タービンの排気流路と多孔質静圧の排気流路を独立にしたことを特徴とした構成にすることである。本構成により、タービンの排気エアと多孔質静圧の排気エアの干渉を防ぐことで圧力変動を抑制でき、安定した軸受剛性及び安定したタービン供給圧を得ることができ、高い回転精度を得ることが可能となる。
【0014】
第4の手段は、前記エアタービンスピンドルにおいて、スラスト板両面に形成した静圧空気軸受の更に外周に設けた非接触ラビリンスシールのすきまがスラスト静圧空気軸受における軸受すきまよりも小さいことを特徴とした構成にすることである.本構成とすることで、前記第3の手段によるタービンへの給気流路及び排気流路と多孔質静圧の排気流路を独立にする効果をより高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルにおいて、エアタービンへの給気エアを回転軸に垂直な方向から与え、且つ、タービンへの給気エア及び排気エアとスラスト空気静圧軸受の排気エアを分離する構造とすることで、100,000rpm以上の超高速回転下でも数十nmオーダの回転精度を達成することが可能なスピンドルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に沿って説明していく。
【0017】
図1は、駆動系にエアタービンを、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルの概略図を示したものである。請求項2に記載したように、スラスト空気静圧軸受を両面に配置したスラスト板の周上に当該スピンドルの駆動源となるエアタービンを構成し、且つ、当該エアタービンへの給気を回転軸に垂直な方向で、且つ、スラスト板外周接線方向から行うことを特徴としており、タービンへの給気及び排気がスピンドルのスラスト方向への外乱とならないようにしている。タービンをスラスト静圧空気軸受が両面に形成されたスラスト板周上に配置することで、タービン配置のために軸方向に必要とされる領域を節約している。
【0018】
タービンの排気流路と多孔質静圧の排気流路を分離するためには、タービン形成のための板をスラスト板と別に形成するという手段もある。しかし、そのような手段を採ると、タービン形成板分の重量増加により回転軸質量が安定限界質量を超えてしまう可能性が高い。又、タービン部とスラスト軸受形成部が軸方向に離れた位置となることでタービンへの給気が軸にモーメントを加えることとなり(スラスト軸受部が軸の回転中心付近になると考えられるので)、回転精度の点でも問題が生じる。
【0019】
尚、図1にはラジアル軸受・スラスト軸受共に多孔質静圧空気軸受を採用したものを示しているが、自成絞り・オリフィス絞り・スロット絞りのような他形式の静圧空気軸受を採用したものも勿論本発明の対象となる。
【0020】
図2は、図1の破線円で示した領域の拡大図である。
【0021】
タービンの排気エアとスラスト空気静圧軸受の排気エアの干渉による圧力変動や、干渉したエアがタービン給気へ回り込むことを防ぐために、請求項3で示した対策を講じている。スラスト板面上の静圧空気軸受構成部の更に外周に大気開放のための通気部を配置し、その更に外周に狭いすきまによる非接触ラビリンスシールを設け、タービンの排気エアと多孔質静圧の排気エアを分離する構造にしている。通気部は多数の孔がスラスト板表面に対向する位置にあけられた円環溝に繋がっている構造である。
【0022】
図3は、図1で示したスピンドルのタービン部を軸方向から見た断面図を示している。
【0023】
タービンへの給気路が回転軸に垂直な方向で、且つ、スラスト板外周接線方向に設けられており、タービンへの給気圧がスラスト方向への外乱となって作用する影響を低減している。又、タービンの円周方向に配置した給気孔は、タービンの回転軸に対して対向配置となるように数組配置する。このように対向させることで、対向した1組の給気孔からタービンに与えられる力としてモーメントのみが取り出され、並進成分が互いに打ち消し合い、回転軸を並進方向に押す力が働かないため、高回転精度を達成するために効果がある。
【0024】
更に、エアタービンのブレード数xと給気孔数yを「x>y且つx≠ny(nは整数)」とすることで、ジッタ特性の安定化を図っている。エアタービンのブレード数xと給気孔数yを「x=ny(nは整数)」という関係にしてしまうと、各給気孔からタービンブレードに給気されて発生する回転力が周期的に変動することになり、ジッタ特性が不安定になる。
【0025】
図4は、請求項4の実施例を示すものであり、スラスト板面上の静圧空気軸受構成部の更に外周に設けた非接触ラビリンスシールのすきまをスラスト静圧空気軸受の軸受すきまよりも小さくすることで、タービンの排気流路とスラスト空気静圧軸受の排気流路を分離する効果を高めたものである。このような構成とすることで、より一層高い回転精度の達成が可能である。
【0026】
図5は、駆動系にエアタービンを、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルの従来の形式を示した概略図である。又、図6は、図5の破線円で示した領域の拡大図である。
【0027】
図5及び6で示した従来形式にすると、図6の楕円で示した領域でタービンの排気エアとスラスト空気静圧軸受の排気エアが干渉するため、圧力変動が生じ、スラスト軸受剛性が円周方向及びスラスト板表裏で絶えず変化するため、高回転精度を狙う上で大きな障害となる。又、スラスト空気静圧軸受の排気エアがエアタービンのタービンブレードに回り込み、タービンへの給気圧を不安定にし、ラジアル方向への外乱及びジッタ特性の悪化を招く危険性がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】エア圧分離を施した、駆動系にエアタービンを軸受にエアベアリングを用いたスピンドルを示す図である。
【図2】図1中の破線円で示したタービン最外周部の拡大図である。
【図3】図1に示すスピンドルのタービンブレード中心部を軸方向からみた断面図である。
【図4】エア圧分離を施し、更に非接触ラビリンスシールのすきまを軸受すきまより小さくしたタービン最外周部の拡大図である。
【図5】駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルの従来形式を示す図である。
【図6】図5中の破線円で示したタービン最外周部の拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
1 回転軸
2 軸受スリーブ
3 スラスト静圧軸受を形成する多孔質パッド
4 ラジアル静圧軸受を形成する多孔質パッド
5a 空気軸受給気部
5b タービン給気部
6 排気部
7 スラスト板円周上に配置したエアタービンブレード
8 エア圧干渉をおこす領域
9 エア圧分離のために新たに設けた排気部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動系にエアタービン、軸受にエアベアリングを用いたスピンドルにおいて、タービンの排気流路とエアベアリングの排気流路をそれぞれ独立に設けたことを特徴とするエアタービンスピンドル。
【請求項2】
スラスト板の周上に、当該スピンドルの駆動源となるエアタービンを構成し、且つ、回転軸に垂直な方向で、且つ、スラスト板外周接線方向から当該エアタービンへの給気を行うことを特徴とする請求項1記載のエアタービンスピンドル。
【請求項3】
スラスト板両面に形成した静圧空気軸受の更に外周に、大気開放のための通気部を配置し、その更に外周に、狭いすきまによる非接触ラビリンスシールを設け、タービンの排気流路と多孔質静圧の排気流路を独立にしたことを特徴とする請求項2記載のエアタービンスピンドル。
【請求項4】
スラスト板両面に形成した静圧空気軸受の更に外周に設けた非接触ラビリンスシールのすきまがスラスト静圧空気軸受の軸受すきまよりも小さいことを特徴とする請求項3記載のエアタービンスピンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−194203(P2006−194203A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8467(P2005−8467)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】