説明

エアバッグ基布並びにそれを用いたエアバッグ及びエアバッグの製造方法

【課題】十分な強度等を有し、軽量なエアバッグ基布、それを用いてなり、高強度で、且つ軽量なエアバッグ、及び簡易な操作、簡略化された工程で、生産性の高いエアバッグの製造方法を提供する
【解決手段】一方向に引き揃えられた繊維2により構成された繊維体3が複数枚積層されてなる繊維積層体4を備えるエアバッグ基布1であって、少なくとも隣接して積層された2枚の繊維体3のうちの、一方の繊維体3の繊維2の引き揃え方向と、他方の繊維体3の繊維2の引き揃え方向とが相違する。また、このエアバッグ基布1を用いて、繊維体作製工程と、積層体作製工程と、基布作製工程と、接合工程と、裁断工程と、を備える製造方法によりエアバッグ7を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時に膨張し、乗員に加わる衝撃を吸収し、緩和するエアバッグの製造に用いられるエアバッグ基布、並びにそれを用いたエアバッグ、及びエアバッグの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、十分な強度等を有し、且つ軽量なエアバッグ基布、また、繊維体が3層以上、特に4層以上積層され、且つ各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が異なるときは、斜め方向も、縦方向、横方向と同等の強度等を有し、等方性が高く、且つ軽量なエアバッグ基布、並びにそれを用いた高強度で、且つ軽量なエアバッグ、及び工程が簡略化され、生産性の高いエアバッグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のエアバッグ基布は各種の方法により製造されており(例えば、特許文献1、2参照。)、経糸を引き揃え、製織等を容易にするため糸に油を塗布する整経工程と、織機を用いて平織りし、且つ袋織りする製織工程と、糸に塗布した油等を除去する精練工程と、表裏にシリコーンゴム分散体を塗布するコーティング工程と、加熱して媒体を除去するとともにシリコーンゴムを硬化させる加熱工程と、所定形状に裁断する裁断工程と、検査工程と、を備える製造方法等が知られている。このような製造工程により、例えば、図4のように、エアバッグ基布100は、経糸101と緯糸102が直交する平織布を有する製品として製造されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−273002号公報
【特許文献2】特開2000−296748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2に記載された方法により製造されたエアバッグ基布100は、平織布を用いた基布であるため、例えば、図4(A)のように、経糸101は、緯糸102の表面と裏面とに交互に屈曲して織られており、屈曲部分(例えば、101a)に変形による内部応力が生じ、強度が繊維本来のそれと比べて低下する傾向にある。また、糸が屈曲しているため、布の長さに比べて必要な糸長が長くなり、軽量化の観点でも不利である。
【0005】
更に、平織布は、縦方向と横方向の2方向については十分な強度等を有するものの、斜め方向では必ずしも同等の強度等を有していないため、強度等に異方性のある製品となってしまうことがある。そのため、基布からの材取り及びエアバッグの設計等に制約がある。また、この製造方法では、織機を用いて高密度の袋織りをする必要があり、更には精錬が必要である等、操作が煩雑で工程が多く、生産性が高いとはいえない。
【0006】
本発明は、前記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、十分な強度等を有し、軽量なエアバッグ基布であって、繊維体が3層以上、特に4層以上積層され、且つ各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が異なるときは、斜め方向も、縦方向、横方向と同等の強度等を有し、強度等の異方性が抑えられるとともに、軽量なエアバッグ基布、それを用いてなり、高強度で、且つ軽量なエアバッグ、及び簡易な操作、簡略化された工程で、生産性の高いエアバッグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
1.一方向に引き揃えられた繊維により構成された繊維体が複数枚積層されてなる繊維積層体を備えるエアバッグ基布であって、少なくとも隣接して積層された2枚の繊維体のうちの、一方の繊維体の繊維の引き揃え方向と、他方の繊維体の繊維の引き揃え方向とが相違することを特徴とするエアバッグ基布。
2.前記繊維積層体の、一面側の最表層を構成する繊維体と他面側の最表層を構成する繊維体とが、連結用繊維により互いに係止されており、且つ該一面側の最表層を構成する繊維体は、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されており、該他面側の最表層を構成する繊維体は、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されている請求項1.に記載のエアバッグ基布。
3.前記繊維体がn枚積層され、各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度が160/n〜200/n°である前記1.又は2.に記載のエアバッグ基布。
4.前記繊維積層体を構成する各々の前記繊維体が、熱可塑性樹脂により一体に接合されている前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載のエアバッグ基布。
5.前記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載のエアバッグ基布を用いて製造されたことを特徴とするエアバッグ。
6.前記5.に記載のエアバッグの製造方法であって、一方向に繊維を引き揃えて前記繊維体を作製する繊維体作製工程と、複数の前記繊維体を、少なくとも隣接して積層される2枚の繊維体を構成する各々の繊維の引き揃え方向が相違するように積層し、前記繊維積層体を作製する積層体作製工程と、積層された複数の前記繊維体の各々を、一体に接合して前記エアバッグ基布を作製する基布作製工程と、前記繊維積層体を備える複数枚の前記エアバッグ基布を、所定形状の内部空間が形成されるように接合する接合工程と、前記接合により形成された接合部に沿って裁断する裁断工程と、を備えることを特徴とするエアバッグの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエアバッグ基布では、一方向に引き揃えられた繊維により構成された繊維体を複数枚積層し、隣接して積層された2枚の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が相違するようにしているため、十分な強度等を有し、且つ軽量である。また、積層された繊維には織布のような屈曲がないため、同じ長さの織物と比べて消費される糸長(繊維長)が短いため容易に軽量化することができ、且つ屈曲により生じる内部応力によって繊維の強度が低下することもない。更に、3枚以上、特に4枚以上の繊維体を積層し、且つ各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が相違するようにすれば、縦方向、横方向のみでなく、斜め方向にも同等の強度及び伸びを有する基布とすることができる、即ち、従来の平織布を用いた基布と比べて異方性のない、少なくとも異方性が低い基布とすることができる。従って、裁断の自由度が高まり、歩留まりを向上させることができる。しかも、繊維の引き揃え方向は任意に設定することができるため、各々の製品に最適な方向に設定することができる。
また、繊維積層体の、一面側の最表層を構成する繊維体と他面側の最表層を構成する繊維体とが、連結用繊維により互いに係止されており、且つ一面側の最表層を構成する繊維体が、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されており、他面側の最表層を構成する繊維体が、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されている場合は、繊維体を構成する繊維が分散することがなく、一体に保持されているため、取り扱い易く、繊維体作製及び積層体作製時の操作が容易であり、歩留まりを向上させることもできる。
更に、繊維体がn枚積層され、隣接して積層された各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度が、160/n〜200/n°である場合は、各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が異なるとともに、略等間隔になり、異方性をより低下させることができる。
また、繊維積層体を構成する各々の繊維体が、熱可塑性樹脂により一体に接合されている場合は、通気性を容易に、且つ十分に抑えることができ、従来のようにシリコーンゴム分散体を塗布し、加熱し、シリコーンゴムを硬化させる方法と比べて塗布工程及び加熱工程等が不要になるため、操作が簡易であり、工程を簡略化することができる。
本発明のエアバッグは、本発明のエアバッグ基布を用いて製造されているため、高強度で、且つ軽量である。
本発明のエアバッグの製造方法によれば、従来のような織機による製織工程及び精錬工程が不要になるため、操作が簡易であり、且つ工程を簡略化させ、生産性を向上させることができる。また、織機を用いて製織する工程がないため、製造時に繊維に加えられる負荷を低減させることができ、繊維が本来有する強度、伸び等が損なわれることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[1]エアバッグ基布
本発明に係るエアバッグ基布は、一方向に引き揃えられた繊維により構成された繊維体を複数枚積層してなる繊維積層体を備え、少なくとも隣接して積層された2枚の繊維体のうちの、一方の繊維体の繊維の引き揃え方向と、他方の繊維体の繊維の引き揃え方向とが相違する。
【0010】
前記「繊維」は特に限定されず、下記の各種の合成繊維及び麻、綿等の天然繊維を用いることができる。繊維としては合成繊維が好ましい。この合成繊維は特に限定されず、各種の合成繊維を用いることができる。合成繊維としては、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維等のポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維等のポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン系繊維などが挙げられる。合成繊維としては、特にポリアミド系繊維及びポリエステル系繊維が好ましい。繊維としては、これらの繊維のうちの1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、1種のみ用いられることが多い。
【0011】
繊維としては、低融点の鞘部と、鞘部が溶融する温度では溶融しない高融点の芯部とからなる芯鞘繊維を用いることもできる。この芯鞘繊維としては、鞘部が相対的に低融点のポリエステルからなり、芯部が相対的に高融点のポリエステルからなる芯鞘繊維、及び鞘部がポリエチレンからなり、芯部がポリプロピレンからなる芯鞘繊維等が挙げられる。芯鞘繊維を用いた場合、複数の繊維体を一体に接合させ、且つ通気性が抑えられたエアバッグ基布とするときに、熱可塑性樹脂フィルム及び接着剤等を用いてもよいが、これらは必須ではなく、加熱するのみで接合させ、一体化することもできる。
【0012】
繊維の繊度は特に限定されず、エアバッグの種類、及び形状、寸法等により、適宜の繊度の繊維を用いることが好ましい。繊度は100〜1000デシテックス、特に200〜500デシテックスであることが好ましい。繊維の繊度が100〜1000デシテックスであれば、エアバッグ基布(繊維体、繊維積層体)を薄く、且つ軽量とすることができ好ましい。
【0013】
前記「繊維体」は繊維を一方向に引き揃えることにより作製される。繊維体の糸密度は特に限定されないが、10〜80本/インチ、特に20〜60本/インチとすることが好ましい。糸密度が10〜80本/インチであれば、繊維体を薄くすることができ、且つ繊維を均一に配列させることができるため好ましい。また、各々の繊維体を構成する繊維の繊度は同じでもよく、異なっていてもよいが、エアバッグ基布における強度の等方性を実現させるためには、同じであることが好ましい。
【0014】
前記「繊維積層体」は、複数枚の繊維体が積層されてなる。また、積層された繊維体のうちの、少なくとも隣接して積層された2枚の繊維体のうちの、一方の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向と、他方の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向とが相違している。これにより、少なくとも繊維が引き揃えられた方向において十分な強度及び伸び等を有する繊維積層体とすることができる。繊維体の積層数は特に限定されないが、2〜8層、特に4〜8層、更に4〜6層であることが好ましい。例えば、積層数が4層であれば、縦方向、横方向及びこれらと略45°の角度をなす方向の、いずれの方向にも十分な強度及び伸び等を有する繊維積層体とすることができる。一方、それぞれの繊維体を構成する繊維の材質、繊度及び糸密度等を適宜選択することで、方向により異なる強度等を有する繊維積層体とすることもでき、エアバッグの種類等によっては、この異方性を有する繊維積層体を用いることもできる。
【0015】
繊維積層体の粗密はカバーファクターにより表すことができ、このカバーファクターは2500以下、特に1500〜2000であることが好ましい。カバーファクターが2500以下であれば、エアバッグ基布として用いられる通常の平織布より軽量な繊維積層体とすることができ好ましい。
尚、カバーファクターは、各々の繊維体の繊度の平方根と糸密度との積の総和により表される数値である。
【0016】
積層される各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向は、エアバッグ基布の一方向となる方向(エアバッグ基布の巻き取り方向)、及びこの方向に対して±20〜±90°の角度をなす方向とすることができる。それぞれの繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度は、同じでもよく、異なっていてもよいが、略同じであることが好ましい。また、積層される繊維体のうち、より多くの繊維体、特に全ての繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が異なっていることが好ましい。更に、より多くの繊維体、特に全ての繊維体を構成する繊維の引き揃え方向が異なっており、且つ各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度が略同じであることが特に好ましい。このようにすれば、等方性の高い繊維積層体とすることができる。
【0017】
より具体的には、n枚の繊維体が積層されて繊維積層体が作製される場合、各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度が160/n〜200/n°となる繊維積層体であることが好ましい。このような繊維積層体であれば、例えば、繊維体の積層数が2枚であるときは、角度は80〜100°、積層数が3枚であるときは、角度は約53〜67°、積層数が4枚であるときは、角度は40〜50°となり、且つ各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度が略同じとなり、十分な強度等を有し、且つ等方性の高い繊維積層体とすることができるため好ましい。
【0018】
また、繊維積層体の、一面側の最表層を構成する繊維体と他面側の最表層を構成する繊維体とが、連結用繊維により互いに係止されており、且つ一面側の最表層を構成する繊維体が、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されており、他面側の最表層を構成する繊維体が、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されていることが好ましい。この場合、繊維体の積層数が3層以上であるときは、一面側の最表層と他面側の最表層との間の層を構成する繊維体及びこの繊維体を構成する繊維は、一面側及び/又は他面側の最表層を構成する繊維体及びこの繊維体を構成する繊維と、連結用繊維により係止されていてもよく、係止されていなくてもよい。また、最表層同士を係止する連結用繊維、一面側の最表層となる繊維体を構成する繊維同士を係止する連結用繊維、及び他面側の最表層となる繊維体を構成する繊維同士を係止する連結用繊維、はそれぞれ同じ(1本の連続した繊維)であってもよく、異なる繊維であってもよい。更に、これらの連結用繊維の材質及び繊度も同じであってもよく、異なっていてもよい。連結用繊維は特に限定されず、繊維体を構成する繊維と同様の合成繊維及び天然繊維を用いることができ、特にポリエステル系繊維及びポリアミド系繊維が好ましい。連結用繊維の繊度も特に限定されず、繊維体を構成する繊維の繊度等によって適宜の繊度の連結用繊維を用いることが好ましい。この繊度は30〜100デシテックス、特に40〜90デシテックス、更に50〜60デシテックスであることが好ましい。連結用繊維の繊度が30〜100デシテックスであれば、繊維体の物性に影響を及ぼさないため好ましい。
【0019】
前記「エアバッグ基布」は、繊維積層体を構成する各々の繊維体、即ち、積層された複数の繊維体が一体に接合されてなり、且つ通気性が十分に抑えられている。この一体化と通気性の抑制とは、どのようにしてなされていてもよいが、例えば、繊維積層体を構成する各々の繊維体が、熱可塑性樹脂により一体に接合されてなるエアバッグ基布とすることができる。この場合、より十分な強度等を有するエアバッグ基布とするためには、各々の繊維体が接合されているのみでなく、それぞれの繊維体に熱可塑性樹脂が含浸され、繊維積層体全体が一体に強固に接合されていることが好ましい。このようなエアバッグ基布は、後記のように、繊維体の一体化に熱可塑性樹脂フィルムを用いる方法により製造することができる。
【0020】
[2]エアバッグ
本発明のエアバッグは、本発明のエアバッグ基布を用いて製造される。従って、十分な強度及び伸び等を有し、且つ軽量なエアバッグとすることができる。エアバッグの種類は特に限定されず、運転席エアバッグ、助手席エアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ、ニーエアバッグ及びITSヘッド・エアバッグ等の各種の自動車用エアバッグとして用いることができる。
【0021】
[3]エアバッグの製造方法
本発明のエアバッグの製造方法は、一方向に繊維を引き揃えて繊維体を作製する繊維体作製工程と、複数の繊維体を、少なくとも隣接して積層される2枚の繊維体を構成する各々の繊維の引き揃え方向が相違するように積層し、繊維積層体を作製する積層体作製工程と、積層された複数の繊維体の各々を、一体に接合してエアバッグ基布を作製する基布作製工程と、繊維積層体を備える複数枚のエアバッグ基布を、所定形状の内部空間が形成されるように接合する接合工程と、接合により形成された接合部に沿って裁断する裁断工程と、を備える。
【0022】
前記「繊維体作製工程」では、装置から送出される繊維が直線状のまま同一方向に引き揃えられて繊維体が作製される。繊維体は、多軸繊維積層機等により作製することができ、下記の連結用繊維による繊維の係止も必要であれば同時になされる。
【0023】
前記「積層体作製工程」では、繊維体作製工程において作製された複数の繊維体が、少なくとも隣接して積層される2枚の繊維体を構成する各々の繊維の引き揃え方向が相違するように積層され、繊維積層体が作製される。積層体作製工程は、繊維体を多軸繊維積層機等により作製する場合、作製される各々の繊維体が、順次、連続的に積層されるようにすることができ、繊維体作製工程と積層体作製工程とを、連続的に一体に実施することができる。更に、積層体作製工程では、少なくとも積層体の最表層となる繊維体及びそれらを構成する各々の繊維が、装置から送出される連結用繊維により互いに係止され、それぞれの繊維体及び繊維が容易に分散しないように一体に係止されることが好ましい。
【0024】
前記「基布作製工程」では、積層された複数の繊維体を一体に接合し、且つ通気性が十分に抑制されるようにすることでエアバッグ基布を作製することができる。このように一体化させ、且つ通気性を抑える方法は特に限定されず、各種の方法が挙げられる。例えば、繊維積層体に熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせ、加熱して融解させ、流動させて、熱可塑性樹脂を含浸させ、その後、冷却することにより、各々の繊維体を一体化し、且つ通気性を抑える方法等が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム等を用いることができる。また、熱可塑性ウレタン系エラストマー、熱可塑性オレフィン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーフィルムを使用し、同様にしてエアバッグ基布を作製することもできる。
【0025】
熱可塑性樹脂フィルム等は、積層された繊維体を一体に接合し、保持することができ、且つ作製されるエアバッグ基布の通気性を十分に抑えることができる限り、繊維積層体の片面に貼り合わせてもよく、両面に貼り合わせてもよい。また、熱可塑性樹脂フィルム等の厚さも、繊維体の一体化と、エアバッグ基布の通気性の抑制とをすることができる限り、特に限定されないが、各々の繊維体の糸密度及び厚さ、並びにフィルムが繊維体の片面に張り合わされているか両面に張り合わされているか等により設定することが好ましく、100μm以下、特に10〜100μm、更に10〜50μmとすることが好ましい。
【0026】
更に、エアバッグ基布は、繊維積層体の片面又は両面から接着剤を含浸させ、必要に応じて加熱し、接着剤を硬化させ、作製することもできる。この場合、繊維積層体に接着剤を含浸させ、且つその両面に接着剤を塗布し、必要に応じて加熱し、接着剤を硬化させて作製してもよい。また、繊維積層体に接着剤を含浸させ、且つ少なくとも片面に熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせ、必要に応じて加熱し、接着剤を硬化させ、積層された繊維体を一体化するとともに、繊維積層体の少なくとも片面に熱可塑性樹脂フィルムを接合させて作製することもできる。いずれの方法であっても、通気性が十分に抑えられたエアバッグ基布を作製することができる。
【0027】
前記「接合工程」では、エアバッグの種類、形状及び寸法等により定まる所定形状の内部空間が形成されるように、複数枚のエアバッグ基布の各々の一面同士を接合する。接合方法は特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂フィルムを用いて複数の繊維体を一体化し、エアバッグ基布を作製したときのように、熱融着可能である場合(例えば、前記の、少なくとも片面に熱可塑性樹脂フィルムを接合させた繊維積層体を用いてなるエアバッグ基布)は、複数枚のエアバッグ基布を積層し、接合すべき箇所を加熱し、加圧して、熱融着させ、その後、冷却して接合させることができる。また、接合すべき箇所に接着剤を塗布し、必要に応じて、加熱し、加圧して、接合させることもできる。
【0028】
前記「裁断工程」では、複数枚のエアバッグ基布が接合され、形成された接合部に沿って裁断し、エアバッグの基体を製造することができる。接合部が広幅であるときは、接合部において裁断してもよく、接合部の外周線に沿って裁断してもよく、外周線より少し外側(例えば、10〜20mm外側)の外周縁に沿って裁断してもよい。このようにして製造されたエアバッグの基体を品質検査し、その後、これに他の所要部材を取り付け、自動車用エアバッグとして自動車の所定箇所に組み付けて用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、図面も参照しながら実施例により本発明を具体的に説明する。
(1)エアバッグ基布の構成
本実施例に係るエアバッグ基布1は、図1〜図3のように、一方向に引き揃えられた繊維2により構成された繊維体3が複数枚積層されてなる繊維積層体4を備える。そして、繊維体3のうち隣接して積層された2枚の繊維体3のうちの一方の繊維体3の繊維2の引き揃え方向と、他方の繊維体3の繊維2の引き揃え方向とが相違している。ここでは、図2のように、4層の繊維体3[図2(A)〜(D)]が積層され、各々の繊維体3を構成する繊維2の引き揃え方向が、それぞれ略45°の角度をなし、且つ略等間隔となっている[図2(E)]。
尚、繊維積層体4のカバーファクターは1729であった。
【0030】
繊維体3を構成する繊維2は、ポリエステル製であり、繊度は470デシテックスである。また、繊維体3の糸密度は20本/インチである。更に、各々の繊維体3を構成する繊維2の繊度及びそれぞれの繊維体3の糸密度は、いずれも同じである。また、繊維積層体4の一面側及び他面側の最表層の各々の繊維体3及びこれらを構成する繊維2は、図3のように、連結用繊維5により互いに係止されている。連結用繊維5としては、繊度50デシテックスのポリエステル製の繊維を用いた。
【0031】
更に、繊維積層体4の両面に張り合わされた熱可塑性樹脂フィルム6[図1(A)]が、加熱されて溶融し、溶融した熱可塑性樹脂が流動して、積層された繊維体3(繊維積層体4)の内部に含浸され、各々の繊維体3が一体に接合され、更には加圧されて、エアバッグ基布1が作製される。熱可塑性樹脂フィルム6としては、オレフィン系エラストマー製であり、厚さ50μmのフィルムを用いた。
【0032】
(2)エアバッグ基布及びエアバッグの製造
上記(1)のエアバッグ基布1及びエアバッグ7(実際にはエアバッグの基体となる袋状体であり、これに所要部材が取り付けられてエアバッグとなる。)は以下のようにして製造した。
多軸繊維積層機により、一方向に繊維2を引き揃えてなる繊維体3を連続的に作製し、且つ連結用繊維5により、繊維積層体4の一面側及び他面側の最表層となる各々の繊維体3及びこれらを構成する繊維2を係止し、これらの繊維体3を、それぞれの繊維体3を構成する繊維2の引き揃え方向が略45°相違するように順次4枚[図2(A)〜(D)]作製しながら積層させた[図2(E)]。
【0033】
その後、繊維体3が積層されてなる繊維積層体4の両面に熱可塑性樹脂フィルム6を貼り合わせ[図1(A)]、次いで、加熱してフィルムを溶融させ、流動する熱可塑性樹脂を繊維体3(繊維積層体4)の内部に含浸させ、その後、冷却し、繊維体3を互いに接合させ、エアバッグ基布1を製造した[図1(B)]。また、2枚のエアバッグ基布1の各々の一面に、所定形状の内部空間が形成されるように、接着剤を塗布し、接着させ[図1(C)]、これを接合部71の外周縁に沿って裁断し[図1(D)]、エアバッグ(基体)7を製造した。
【0034】
(3)実施例の効果
本実施例のエアバッグ基布1及びエアバッグ7によれば、一方向に引き揃えられた繊維2により構成される繊維体3が4枚積層されており、従来の平織布と比べて繊維が屈曲しておらず、内部応力が生じ難く、繊維に負荷が加わらないため、強度を高めることができるとともに、同寸法のエアバッグ基布等の場合、繊維2の長さ及び密度が小さくなり、軽量化を図ることができる。また、4層の繊維体3を積層して、それぞれの繊維体3の繊維2の引き揃え方向が、略45°の角度をなすように、且つ略等間隔となるようにしているため、平織布と比べて異方性を大幅に低下させることができ、裁断の自由度が高まり、歩留まりを向上させることもできる。
【0035】
更に、各々の繊維体3を構成する繊維2の繊度及び糸密度が同じであるため、斜め方向の強度及び伸び等が、縦方向、横方向と同等であり、十分な等方性を有するエアバッグ基布1及びエアバッグ7とすることができる。また、繊維積層体4が、熱可塑性樹脂フィルム6が溶融し、流動して、含浸された熱可塑性樹脂により一体に接合されているため、通気性が十分に抑えられる。更に、熱可塑性樹脂フィルム6を用いてエアバッグ基布1を作製する方法であるため、従来のように、シリコーンゴムを含有する分散体を用いるときと比べて、塗布及び熱硬化という煩雑な操作が不要となり、製造工程を簡略化することができる。また、最表層の繊維体3及びこれを構成する繊維2を連結用繊維5により互いに係止しているため、繊維体3及び繊維2が分散してしまうことがなく、取り扱いが容易であり、歩留まりを向上させることもできる。
【0036】
尚、本発明においては、前記の実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。例えば、前記の実施例では、4層の繊維体3を積層して、それぞれの繊維体3を構成する繊維2の引き揃え方向が略45°の角度をなすようにしたが、これに限定されず、例えば、3層の繊維体3を積層し、引き揃え方向が略60°の角度をなすようにすることもでき、2層の繊維体3を積層し、引き揃え方向が略90°の角度をなすようにすることもできる。また、5層の繊維体3を積層し、引き揃え方向が略36°の角度をなすようにすることもでき、6層の繊維体3を積層し、引き揃え方向が略30°の角度をなすようにすることもできる。更に、前記の実施例では、2枚のエアバッグ基布1を接合したが、これに限定されず、3枚以上のエアバッグ基布1を接合してもよい。
【0037】
また、前記の実施例では、繊維体3を構成する繊維2としてポリエステル製の繊維を用いたが、これに限定されず、芯鞘繊維を用いてもよい。この場合、加熱により繊維同士が熱融着されるため、熱可塑性樹脂フィルム及び接着剤等を用いることなく、繊維体3を一体に接合することもできる。更に、前記の実施例では、それぞれの繊維体3を構成する繊維2の引き揃え方向がなす角度を等間隔としたが、これに限定されず、角度が異なっていてもよい。また、前記の実施例では、繊維積層体4の両面に熱可塑性樹脂フィルム6を貼り合わせているが、これに限定されず、繊維積層体4の片面のみに貼り合わせてもよい。更に、前記の実施例では、各々の繊維体3を構成する繊維2を連結用繊維5により互いに係止しているが、これに限定されず、連結用繊維5は用いなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、自動車用のエアバッグ基布及びエアバッグの技術分野において利用することができる。特に、カーテンシールドエアバッグに用いられるエアバッグ基布の技術分野において好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例に係るエアバッグ基布及びエアバッグの製造工程を説明するための概略図であり、(A)は繊維積層体に熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせる工程、(B)は2枚のエアバッグ基布を重ね合わせる工程、(C)は所定箇所を接合し、複数のエアバッグ(基体)を作製する工程、(D)は接合部に沿って裁断し、エアバッグ(基体)を切り出す工程である。
【図2】エアバッグ基布を構成する繊維体の繊維の引き揃え方向を説明する図であり、エアバッグ基布の巻き取り方向である(A)を基準として、(B)は+90°、(C)は+45°、(D)は−45°の角度をなす状態であり、(E)は4枚を重ね合わせた状態である。
【図3】各々の繊維が連結用繊維により係止された2枚の繊維体が積層された積層体の斜視図である。
【図4】従来の平織布を用いたエアバッグ基布に係る図であり、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【符号の説明】
【0040】
1;エアバッグ基布、2;繊維、3;繊維体、4;繊維積層体、5;連結用繊維、6;熱可塑性樹脂フィルム、7;エアバッグ、71;接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた繊維により構成された繊維体が複数枚積層されてなる繊維積層体を備えるエアバッグ基布であって、
少なくとも隣接して積層された2枚の繊維体のうちの、一方の繊維体の繊維の引き揃え方向と、他方の繊維体の繊維の引き揃え方向とが相違することを特徴とするエアバッグ基布。
【請求項2】
前記繊維積層体の、一面側の最表層を構成する繊維体と他面側の最表層を構成する繊維体とが、連結用繊維により互いに係止されており、且つ該一面側の最表層を構成する繊維体は、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されており、該他面側の最表層を構成する繊維体は、その繊維体を構成する繊維が連結用繊維により互いに係止されて一体化されている請求項1に記載のエアバッグ基布。
【請求項3】
前記繊維体がn枚積層され、各々の繊維体を構成する繊維の引き揃え方向がなす角度が160/n〜200/n°である請求項1又は2に記載のエアバッグ基布。
【請求項4】
前記繊維積層体を構成する各々の前記繊維体が、熱可塑性樹脂により一体に接合されている請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のエアバッグ基布。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載のエアバッグ基布を用いて製造されたことを特徴とするエアバッグ。
【請求項6】
請求項5に記載のエアバッグの製造方法であって、
一方向に繊維を引き揃えて前記繊維体を作製する繊維体作製工程と、
複数の前記繊維体を、少なくとも隣接して積層される2枚の繊維体を構成する各々の繊維の引き揃え方向が相違するように積層し、前記繊維積層体を作製する積層体作製工程と、
積層された複数の前記繊維体の各々を、一体に接合して前記エアバッグ基布を作製する基布作製工程と、
前記繊維積層体を備える複数枚の前記エアバッグ基布を、所定形状の内部空間が形成されるように接合する接合工程と、
前記接合により形成された接合部に沿って裁断する裁断工程と、を備えることを特徴とするエアバッグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−143208(P2010−143208A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326543(P2008−326543)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000238957)福井ファイバーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】