説明

エアバッグ用ノンコート織物、コート織物およびその製造方法およびインフレータブルカーテンエアバッグ

【課題】機械的特性に優れ、低通気性または非通気性であり、かつコンパクト性、収納性に優れたエアバッグ用ノンコート織物を提供する。
【解決手段】フィラメントの断面形状が扁平率1.5〜8、沸騰水収縮率が5〜10%の範囲内にある扁平断面マルチフィラメント糸条を経糸および緯糸として用いた織物であって、該織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸a方向が織物の水平方向となす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.85〜1.0となるようにフィラメントの扁平断面の長軸aが織物の水平方向に配列しており、かつ該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が0.5〜3.0%の範囲内にあるエアバッグ用ノンコート織物。インフレータブルカーテンエアバッグ用として好適なエアバッグ用ノンコート織物、エアバッグ用コート織物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアバッグ用織物に関するものであり、更に詳しくは、機械的特性に優れると共に低通気性かつコンパクト性、収納性に優れたエアバッグ用ノンコート織物に関するものである。また該ノンコート織物に樹脂エラストマーが塗布された機械的特性に優れると共に非通気性かつコンパクト性、収納性に優れたエアバッグ用コート織物に関する。これらの織物はインフレ−タブルカ−テンエアバッグ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、エアバッグは自動車に搭乗した乗員の安全を確保するための装置として欠かせないものとなり、自動車への装着率が年々高まっている。
【0003】
そして、安全装置としてのエアバッグに対する信頼性向上の要求は益々強まっているが、同時に、エアバッグ装置のコンパクト化、コストダウン等といった要求も強い。このため、エアバッグを構成するエアバッグ用織物、エアバッグ用原糸の性能、および原糸や織物の製造方法等に対して、上記要求を満足させるよう一層の改善が求められている。
【0004】
これまでも、エアバッグ用織物として機械的特性を保持し、折り畳み性に優れ、収納容積の小さなエアバッグを実現させるための技術が開示されている。なかでも扁平断面糸を用いたエアバッグ用織物は、安全性および収納性等の要求が厳しい次世代エアバッグの性能を満足できることから展開が進んでいる。
【0005】
扁平断面糸織物をエアバッグに用いる技術は最近相次いで開示されている。
たとえば、「低通気性、柔軟性および機械的特性に優れた布帛およびエアバッグを提供すること」を目的とし、「断面形状が扁平率(長軸と短軸の長さの比)1.5〜8の範囲にある扁平断面フィラメント糸条からなる布帛であって、該布帛の断面において、該布帛を構成する該フィラメントの長軸方向と該布帛の水平方向とのなす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.75以上で、かつ、該フィラメントの扁平断面の長軸が布帛の水平方向に配列していることを特徴とする布帛」が提案されている(特許文献1)。上記特許文献1には、扁平断面糸フィラメントを布帛の水平方向に配列させた布帛とすることによって、扁平断面糸を用いた布帛の特徴が得られ、低通気性、柔軟性および機械的特性に優れた布帛が得られるとしている。扁平糸フィラメントが高い水平度指数を取ることによって、カバーファクタ−が低くても低通気性が確保でき、その結果薄地で柔軟な布帛が得られることから、特に低通気性と収納性の要求されるエアバッグ用ノンコ−ト基布として好適であると述べられている。
【0006】
特許文献1には、扁平糸基布の性能を左右する水平度指数をより高く達成する手段として、原糸に付与した交絡が製織後は解れていること、および製織工程において経糸張力を比較的高い範囲で製織することを開示している。しかしながら、上記条件だけでは必ずしも高い水平度指数を安定して達成することは困難であり、特に緯糸フィラメントの張力制御については検討されておらず、そのため、水平度指数のばらつきが生ずるという問題を抱えていた。従って、経糸および緯糸共に高い水平度指数を達成し、扁平糸基布の特徴を更に活かすための方法が課題として残されていた。
【0007】
また、「高い安全性と良好な収納性とを兼ね備えたエアバッグ、すなわち機械的特性、耐熱性に優れ、バッグ展開時にベントホ−ル以外から実質的にガスが漏れず、かつ、柔軟性、コンパクト性、収納性に優れた厚みの薄いコ−トエアバッグ用基布を提供すること」を目的として「単糸の断面形状が扁平率(長軸と短軸の長さの比)1.5〜8の扁平断面糸から構成されている基布に、樹脂エラストマ−が塗布されてなるコ−トエアバッグ用基布であって、該布帛の断面において、該基布を構成する各単糸の長軸方向と該基布の水平方向とのなす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.75以上で、かつ、該各単糸の扁平断面の長軸が布帛の水平方向に配列していることを特徴とする布帛」が提案されている(特許文献2)。
【0008】
特許文献2には、特許文献1と同様、扁平断面の各単糸を基布の水平方向に高度に配列させることによって、薄地で柔軟な基布が得られるが、更に扁平糸基布は表面が滑らかに仕上がるため、樹脂エラストマ−を該基布に塗布するに際し、塗布量が少なくても十分にエアバッグ用コ−ト基布の性能を達成できることを開示している。しかしながら、扁平糸基布の性能を左右する水平度指数をより高める方法、特に、経糸および緯糸共に水平度指数を高める方法については、前記特許文献1と同様の記述しかされていない。従って、経糸および緯糸の水平度指数を更に高め、扁平糸基布の性能をもっと発揮させる方法が課題として残されていた。
【0009】
さらに、「軽量で低通気性を有し、経済性にも優れたエアバッグ用基布を提供すること。」を目的とし、「合成フィラメントを製織し収縮加工させることによって製造されるエアバッグ用基布であって、エアバッグ用基布を構成する合成繊維のフィラメントが異形断面糸を含み、前記異形断面の扁平度が1.5〜5.0であること、および収縮加工前の合成繊維の沸水収縮率が6〜15%であることを特徴とするエアバッグ用基布。」が提案されている(特許文献3)。しかしながら、扁平断面糸を用いたエアバッグ用基布については、例えば、特許文献4や特許文献5等で知られており、また、エアバッグ用基布の製造に際し、収縮処理によって高密度織物を得る技術についても、例えば特許文献6、特許文献7、特許文献8等がある。これらの扁平糸基布を構成する扁平断面糸を基布の水平方向に配列させることによって、扁平糸基布特有の性能、例えば、薄地で柔軟となり、基布断面におけるフイラメントの充填率が高まり低通気性が得られるが、扁平糸基布に単に収縮処理を施すと、扁平断面フィラメントの配列が乱れてしまい、その配列の修復は後工程で加圧加熱処理や緊張熱処理を施しても困難であり、基布の水平方向に扁平糸フィラメントの長軸が配列した基布は得られないという問題があった。従って、十分な低通気性が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−213540号公報
【特許文献2】特開2003−213574号公報
【特許文献3】特開2003−293240号公報
【特許文献4】特開平4−201650号公報
【特許文献5】特開平7−252740号公報
【特許文献6】特開平3−137245号公報
【特許文献7】特開平5−59632号公報
【特許文献8】特開平7−145552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、機械的特性に優れ、低通気性または非通気性であり、かつコンパクト性、収納性に優れたエアバッグ用織物を提供することである。具体的にはインフレ−タブルカ−テンエアバッグ用として好適なエアバッグ用ノンコート織物、エアバッグ用コート織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明のコートエアバッグ用織物は主として以下の構成を有する。すなわち、
1.フィラメントの断面形状が扁平率1.5〜8、沸騰水収縮率が5〜10%の範囲内にある扁平断面マルチフィラメント糸条を経糸および緯糸として用いた織物であって、該織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向が織物の水平方向となす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.85〜1.0となるようにフィラメントの扁平断面の長軸が織物の水平方向に配列しており、かつ該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が0.5〜3.0%の範囲内にあることを特徴とするエアバッグ用ノンコート織物。
2.扁平断面マルチフィラメント糸条の沸騰水収縮率が7〜9%の範囲内にあることを特徴とする、1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
3.該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が1.0〜2.5%の範囲内にあることを特徴とする、1〜2項のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
4.扁平断面マルチフィラメント糸条がポリアミド繊維であることを特徴とする、1〜3項のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
5.該織物が袋織り製織されたことを特徴とする、1〜4項のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
6.該織物が下記(1)〜(8)の特性を有することを特徴とする、1〜5項のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
(1)カバーファクター:1500〜2400
(2)引張強力:500〜850N/cm
(3)引裂強力:150〜350N
(4)124Paの差圧下での通気度:0〜0.1cc/cm/sec
(5)124Paの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜10%
(6)19.6KPaの差圧下での通気度:0〜10cc/cm/sec
(7)19.6KPaの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜15%
(8)織物の厚み:0.15〜0.35mm
7.1〜6項のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物の表面に樹脂エラストマ−が塗布されたエアバッグ用コート織物であって、樹脂エラストマ−の付着量が10〜70g/m2であることを特徴とするエアバッグ用コ−ト織物。
8.1〜6項のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物、または7項に記載のエアバッグ用コート織物からなるインフレ−タブルカ−テンエアバッグ。
9.フィラメントの断面形状が扁平率1.5〜8、沸騰水収縮率が5〜10%の範囲内にある扁平断面マルチフィラメント糸条を経糸および緯糸に用い製織して織物とし、続いて得られた織物を、60〜100℃の温水または100〜150℃の加圧熱水または水蒸気中で、張力付与下の制限収縮処理を施すことで、最終的に得られた織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向が織物の水平方向となす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.85〜1.0となるようにフィラメントの扁平断面の長軸を織物の水平方向に配列させ、かつ該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率を0.5〜3.0%の範囲内とすることを特徴とする、1〜6項に記載のエアバッグ用ノンコート織物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエアバッグ用扁平糸織物は、ノンコ−ト織物としては、機械的特性、低通気性にすぐれ、かつコンパクトで収納性に優れるという特徴を活かして有用であり、またコ−ト織物としては、機械的特性、非通気性、耐熱性に優れ、かつコンパクトで収納性に優れるという特徴を活かして有用である。さらにコ−ト織物においては、樹脂エラストマ−が薄く均一に塗布されるため、樹脂エラストマ−量が少なくてよく、薄地の織物が得られるという特徴も有する。
【0013】
かかる特徴を有する本発明エアバッグ用扁平糸織物は、ノンコ−ト織物およびコ−ト織物としてエアバッグの装着部位を問わず適用できるが、特に本発明エアバッグコ−ト織物はインフレ−タブルカ−テン用として好適な織物である。とりわけ袋織り製織された本願発明のエアバッグコ−ト織物はインフレ−タブルカ−テン用として極めて優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳述する。
本発明のエアバッグ用織物は合成繊維、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維等からなり、繊維の素材は特に限定されるものではないが、好適な素材はポリアミドである。ポリアミド繊維とは、ポリヘキサメチレンアジパミド(N66)、ポリカプラミド(N6)、ポリテトラメチレンアジパミド(N46)など、またそれらポリマーの共重合物、ブレンド物等からなる繊維である。
【0015】
特に本発明のような高強度、高タフネスの織物を得るためには硫酸相対粘度で3.0以上、好ましくは3.3〜4.0の高分子量ポリアミドポリマーを用いる。
【0016】
また本発明のエアバッグ用織物に用いるポリアミド繊維は、化学的耐久性、例えば、高度の耐熱性、耐候性、耐酸化防止性を有するよう、各種の耐熱剤、耐光剤、酸化防止剤等を含むことが好ましい。例えば、ポリアミド繊維の場合は、酢酸銅、沃化銅、臭化銅、塩化第二銅や無機または有機銅錯塩等の各種銅塩、沃化カリウム、沃化ナトリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム等のハロゲン化アルカリ金属およびハロゲン化アルカリ土類金属、ヒンダ−ドフェノ−ル系抗酸化剤やジフェニルアミン系酸化防止剤、イミダゾ−ル系抗酸化剤、無機、有機の燐化合物および紫外線吸収剤、マンガン塩等を用いる。含有量は通常、金属塩の場合は金属として10〜100ppm、その他の添加剤は500〜5000ppm程度である。
【0017】
また用途によっては、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン等の艶消し剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を用いることもできる。
【0018】
本発明のエアバッグ用織物に用いる扁平断面マルチフィラメント糸条の各フィラメントの断面形状は、通常は図1に示すような楕円形、および図2に示すような向かい合う辺が平行である楕円形であるが、楕円形以外の形状であっても、長軸と短軸が後述の関係を満たすものであればよい。例えば、長方形、菱形、繭型のような左右対称型は勿論、左右非対称型でもよく、あるいはそれらの組み合わせ型でもよい。また、更に上記を基本型として、本発明の効果を損ねない範囲で突起や凹み、或いは中空部が存在しても良い。
【0019】
ここで、長軸および短軸とは楕円形の長径、短径に相当するものである。一方、フィラメント断面形状が上記のとおり楕円形以外の場合は、該フィラメントの断面において重心を通る重心線を引き、その最も長い線分をもって長軸と定義する。また、その長軸に対し垂直方向における最も長い線分を短軸と定義する。
【0020】
本発明における扁平断面マルチフィラメント糸条は、各フィラメントの断面形状が扁平率(長軸と短軸の長さの比)1.5〜8であることが必須であり、好ましくは2〜6である。かかる範囲の扁平断面マルチフィラメント糸条を使用することで、各フィラメントの長軸方向が織物の水平方向に配列することが可能となり、通常の円断面マルチフィラメント糸条を使用した場合に比べ、得られる織物の厚みは薄く収納性が向上する。扁平率が1.5未満では円断面フィラメントに近く、扁平断面フィラメントを用いた効果が十分に得られない。一方、扁平率が8を越えると、扁平断面フィラメントを用いる効果が飽和するばかりか、高強度、高タフネス繊維を安定に製糸することが困難である。
【0021】
一般の円断面マルチフィラメント糸条においては単糸繊度が小さいほど、織物上でのカバリング性が向上し、得られる織物の柔軟性、収納性は向上する。しかしながら一方で単糸繊度が細くなる従い製糸性が悪化するという問題が生じる。つまり、生産性(生産効率および収率)を考慮した場合、単糸繊度を細くすることによる柔軟性、収納性の向上には限界がある。
【0022】
これに対し上述の扁平断面糸は、実際の単糸繊度を小さくせずとも、円断面マルチフィラメント糸条の単糸細繊度化と同様の効果を十分に得られるようになる。例えば、扁平率3.5、単糸繊度10dtexの扁平断面形状のポリアミドフィラメントの短軸は、単糸繊度2.4dtexの円断面フィラメントの直径に相当するからである。さらに、例えば、扁平率3.5、単糸繊度4dtexの扁平断面フィラメントの短軸長は、通常は安定に製糸することが難しい単糸繊度1dtex以下、いわゆるマイクロファイバーの直径に相当する。つまり、扁平断面フィラメントを用いると円断面フィラメントでは得難い単糸細繊度化効果を容易に発揮できるのである。
【0023】
本発明のエアバッグ用織物は上記特定の扁平断面マルチフィラメント糸条からなるが、織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸フィラメントの長軸方向が該織物の水平方向に配列していることこそが最大かつ重要な特徴である。つまり、本発明のエアバッグ用織物を経糸と直角方向に切断しその経糸の断面を観察した場合、経糸フィラメントの扁平断面の長軸が実質的に織物の水平方向に並んでいること、同様に緯糸と直角方向に切断しその緯糸の断面を観察した場合、緯糸フィラメントの扁平断面の長軸が実質的に織物の水平方向に平行に整然と並んでいることが特徴である。
【0024】
このことを定量的に表現するため、水平度指数(HI:Horizontal Index)を定義した。水平度指数HIは、織物を構成する経糸及び緯糸の各フィラメントの長軸方向と織物の水平方向とのなす角度(θ)の余弦(hi)とし、その総和平均として表す。すなわち、以下の式で算出することができる。
HI=(Σhi)/f
hi=cosθ
θ:各フィラメントの長軸方向と織物の水平方向とのなす角度 f:フィラメント数。
【0025】
本発明の扁平断面マルチフィラメント糸条を用いたエアバッグ用織物においては、水平度指数HIは0.85〜1.0であることが必要である。好ましくは水平度指数HIは0.90〜1.0、より好ましくは0.95〜1.0である。水平度指数HIをかかる範囲とすることで、織物自体が薄くなり柔軟性、収納性に優れると共に低通気性のエアバッグ用織物を得ることが可能となる。
【0026】
本発明における扁平断面マルチフィラメント糸条は、沸騰水収縮率が5〜10%であることが必須であり、好ましくは7〜9%である。沸騰水収縮率が5%未満の場合は、織物を収縮処理した際の糸条の収縮能力が小さいため上記水平度指数HIが安定して得られない。一方、沸騰水収縮率が10%を超える場合には糸条が過度に収縮して織物の柔軟性が損なわれてしまう。
【0027】
本発明のエアバッグ用織物は、該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が0.5〜3.0%の範囲内にあることが必須であり、好ましくは1.0〜2.5%である。本発明においては織物を収縮処理することで織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向を該織物の水平方向に配列させる。
【0028】
ここで糸条の有する収縮性能を完全には利用せず、ある程度残留させたまま収縮処理を施すことにより、最終的に得られる織物において経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向を該織物の水平方向に配列させ、また織物全体に均一な織り組織が得られる。これが本発明の急所である。
【0029】
つまり残留沸騰水収縮率が0.5%未満の場合には織物を構成する経糸および緯糸フィラメントの長軸方向は該織物の水平方向に配列し前記水平度指数HIが得られるが、糸条の収縮能力をほとんど使い切っているため、織物を構成する糸条間の収縮能力のばらつきが顕在化して織物を構成する糸条間に微妙な糸長差が発生してしまう。このため織物全体に均一な通気度を得ることが困難である。
【0030】
一方、残留沸騰水収縮率が3.0%を超える場合には糸条の収縮が不十分であり、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向を該織物の水平方向に十分配列させることが困難で前記水平度指数を達成できない。
【0031】
繰り返しになるが本発明ではある程度十分な収縮能力(すなわち5〜10%の沸騰水収縮率)を持つ糸条を用いて織物を製造し、その糸条の有する収縮能力をある程度まで利用した(すなわち織物の分解糸条の残留収縮率が0.5〜3.0%)結果、高い水平度指数HIと織物全体に均一な通気度が得られる。
【0032】
本発明における扁平断面マルチフィラメント糸条は、単糸繊度2〜7dtex、強度7〜10cN/dtex、伸度10〜30%、であることが好ましく、該物性を有する合成繊維を使用することで引張り強力、引裂き強力等の機械的特性に優れたエアバック用織物を得ることができる。これらの原糸特性は、通常のエアバッグ用原糸として使用されている円断面マルチフィラメント糸条とほぼ同レベルにある。
【0033】
本発明においては織物が袋織り製織されることが好ましい。袋織り製織は、特開平10−109607号等に開示される。通常の平織の織物からは裁断、縫製してエアバッグを得るのに対し、袋織りでは縫製糸を使用せずに織物を構成する織り糸を共通の織り組織にて製織することでエアバッグを形成することができる。このため厚みを薄くすることができ、収納性に有利であり、また低通気性が得られるため好ましい。
【0034】
本発明の好ましい態様の一つは、エアバッグ用ノンコ−ト織物であり、以下の(1)〜(8)の特性を有することが好ましい。
(1)カバーファクター:1500〜2400
(2)引張強力:500〜850N/cm
(3)引裂強力:150〜350N
(4)124Paの差圧下での通気度:0〜0.1cc/cm/sec
(5)124Paの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜10%
(6)19.6KPaの差圧下での通気度:0〜10cc/cm/sec
(7)19.6KPaの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜15%
(8)織物の厚み:0.15〜0.35mm。
【0035】
本発明のエアバッグ用ノンコート織物のカバーファクターは1500〜2400、好ましくは1800〜2200である。ここで、カバーファクターとは経糸の総繊度をD1(dtex)、織密度をN1(本/2.54cm)、緯糸の総繊度をD2(dtex)、織密度をN2( 本/2.54cm)としたときに、(D1×0.9)1/2 ×N1+(D2×0.9)1/2 ×N2で表される値である。カバーファクターはノンコ−ト織物の通気度および収納性と大きく関係し、適切な範囲にあることがエアバッグ用ノンコ−ト織物として極めて重要である。なお、本発明のエアバッグ用ノンコ−ト織物は、各フィラメントの断面形状が扁平形状であり、かつ該フィラメントの長軸方向が織物の水平方向に整然と配列しているために、カバリング性が良く、通常の円断面マルチフィラメント糸条を用いた織物よりカバーファクターが10〜30%低くても、低通気性が得られることが特徴である。カバーファクターを低く設定できることは、すなわち、使用する繊維量が減り、また打ち込み本数が少なくて済むことから製織時間を短縮でき、織物の製織コストを低減できる等のメリットがある。
【0036】
次に、本発明のエアバッグ用織物の機械的特性は、引張強力が500〜850N/cm、引裂き強力が150〜350Nであることが好ましい。かかる特性はエアバッグ用織物として十分であるため、エアバッグとして装着される部位にかかわらず用いることができる。すなわち、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、インフレータブルカーテンエアバッグ等のいずれにも適用可能である。
【0037】
本発明のエアバッグ用ノンコ−ト織物は、通常の円断面マルチフィラメント糸条からなるエアバッグ用ノンコ−ト織物に比べ、引裂強力が引張強力に対して相対的に高いことが特徴である。万一、衝撃により織物に破損が生じた場合でも、織物を次々と伝播するのを防ぐことができる。本発明のエアバッグ用ノンコ−ト織物は、扁平断面マルチフィラメント糸条が高密度に充填されて織り込まれているため、経糸および緯糸があたかもそれぞれ一本づつのモノフィラメントのように挙動しし、高い引裂き強力が発現すると考えられる。
【0038】
本発明のエアバッグ用ノンコ−ト織物は、扁平糸織物を用いた高密度織物からなり、低通気性かつ織物全体に通気性が均一であることを特徴とする。
【0039】
即ち、124Paの差圧下での通気度が0〜0.1cc/cm/secで、かつ19.6KPaの差圧下での通気度が0〜10cc/cm/secであることが好ましい。このように低圧下でも高圧下でも、低い通気度が達成されるため、該織物を用いたエアバッグは展開速度が速く、より高い確率で乗員の安全性を確保できるようになる。
【0040】
また本発明のエアバッグ用ノンコ−ト織物は、124Paの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜10%で、かつ19.6KPaの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜15%であることが好ましい。前記した理由で本発明では織物全体の通気度が低通気度でかつ織物全体でバラツキなく均一となるためエアバッグの信頼性が増し優れた内圧保持性が得られる。
【0041】
また本発明のエアバッグ用ノンコート織物の厚みは0.15〜0.35mmと薄いことが特徴である。より狭い場所への収納が必要となる用途、例えば小型車以下のエアバッグ用織物として好適である。本発明の織物では、扁平率1.5〜8である扁平断面マルチフィラメント糸条を用い、経糸および緯糸共に各フィラメントの断面の長軸方向が織物の水平方向に整然と配列する構造を有することから、同一の単糸繊度および同一のカバーファクターの円断面マルチフィラメント糸条からなる織物とその厚みを比較した場合、およそ20%以上薄くできることが特徴である。
【0042】
本発明のエアバッグ用織物が適用されるもう一つの好ましい態様は、エアバッグ用コ−ト織物であり上記のエアバッグ用ノンコート織物に樹脂エラストマーを塗布することで得ることができる。
【0043】
本発明のエアバッグ用織物をエアバッグ用コ−ト織物として用いた場合の特徴の一つは、該織物表面に塗布する樹脂エラストマ−を薄く均一に塗布できるため、付着量が少なくてもコ−ト織物としての性能を満たすことができることである。
【0044】
本発明のエアバッグ用コ−ト織物において、織物表面の樹脂エラストマー付着量は10〜70g/m2であり、好ましくは20〜40g/m2、より好ましくは25〜35g/m2である。樹脂付着量が10g/m2未満であると、本発明の扁平断面マルチフィラメント糸条を用いた織物であっても、織物全面への樹脂の均一塗布が困難となり、エアバッグの膨張時にエア漏れを起こしたり、破裂する危険が伴う。また、逆に樹脂塗布量が70g/m2を越えると、せっかく扁平断面マルチフィラメント糸条を用いても収納性、柔軟性が悪化し本発明の目的を達成できなくなる。本発明ではフィラメントの断面が扁平形状であること、また該フィラメントの長軸方向が織物の水平方向に整然と配列している特徴から、通常の円断面マルチフィラメント糸条からなる織物に比べ表面が平坦となり、樹脂エラストマーを均一かつ薄く塗ることができる。その結果、織物は薄く柔軟で収納性が向上する。
【0045】
本発明のエアバッグ用コ−ト織物表面に塗布する樹脂エラストマーは、シリコーン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリウレタン樹脂などが用いられるが、特にシリコーン樹脂が好ましい。
【0046】
本発明のエアバッグ用コ−ト織物は、そのベースとなるエアバッグ用ノンコート織物が0.85〜1.0の高い水平度指数HIの達成し、緻密な織物構造をとって薄地の織物となっていること、また織物に塗布される樹脂エラストマ−が均一に薄く塗布されること等が相まって、従来のコ−ト織物に比べて柔軟である。
【0047】
本発明のエアバッグ用ノンコート織物、エアバッグ用コート織物はインフレータブルカーテンエアバッグとして用いることが好ましい。
【0048】
次に本発明のエアバッグ用織物の好ましい製造方法について下記する。
【0049】
フィラメントの断面形状が扁平率1.5〜8、沸騰水収縮率が5〜10%の範囲内にある扁平断面マルチフィラメント糸条を経糸および緯糸に用い製織して織物とし、続いて得られた織物を、60〜100℃の温水または100〜150℃の加圧熱水または水蒸気中で、張力付与下の制限収縮処理を施すことで、最終的に得られた織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向が織物の水平方向となす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.85〜1.0となるようにフィラメントの扁平断面の長軸を織物の水平方向に配列させ、かつ該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率を0.5〜3.0%の範囲内とするようにエアバッグ用ノンコート織物を製造する。
【0050】
さらに本発明のエアバッグ用織物の製造方法を以下に詳述する。
【0051】
本発明のエアバッグ用織物に用いる合成繊維は、前記した通り種々のポリマーからなる繊維を用いることができるが、高強度、高タフネスを有する繊維を得るためにはポリアミド繊維を用いることがが好ましい。特に硫酸相対粘度3.0〜4.0の高粘度のナイロン66ポリマが好ましく用いられる。
【0052】
繊維を製造するには、ポリマーを溶融し、濾過した後、口金の細孔から紡出するが、口金孔形状は各フィラメントの断面が本発明で特定する扁平断面となるよう設計した口金を用いる。特に、紡出され糸条が冷却固化するまでの、溶融ポリマの表面張力による断面形状の変化を考慮して口金孔形状を設計する。
【0053】
例えば、図1の楕円形状を有する繊維を得るには口金孔形状を図3に示すような長方形状に設計すればよい。長方形のタテ長さc、ヨコ長さdは得ようとする繊維の単糸繊度および扁平率によって適宜設定すればよい。一方、単糸断面が図2に示したように向かい合う辺が平行である楕円形状にするためには、図4のように、両端および内部に小円孔を配し、小円孔どおしをスリット孔で繋いだ形状に設計すればよい。この場合の小円孔の数、小円孔の径、スリット孔の長さ、スリット孔の幅、また、全体のタテ長さc、ヨコ長さd等については、得ようとする繊維の単糸繊度、扁平率に応じて適宜選択すればよい。向かい合う辺をより平行な直線状とするには、小円孔の数を4〜8個、直径を0.1〜0.3mm、スリットの幅を0.1〜0.3mm、長さを0.1〜0.3mmの範囲にすることが好ましい。
【0054】
紡出糸条は冷却固化した後、油剤を付与し、所定の回転速度で回転する引き取りロ−ラに捲回して引き取る。引き続き、連続して引き取り糸条を順次高速に設定したネルソンローラーに捲回して延伸を行う。より高強度の繊維を得るためには2段以上の多段延伸が好ましい。また、最終延伸ローラー温度は200℃以上に設定し、延伸熱処理を施した後、弛緩処理して巻き取る。製糸生産効率の向上に伴い、通常、巻き取り速度は2500〜4500m/minで4〜8糸条の同時直接紡糸延伸法で行われる。
【0055】
通常、巻き取り前の糸条に集束性を付与するため交絡処理を行う。交絡処理は走行糸条に対し交差方向に、ノズル孔から高圧の空気を噴射させて行う。交絡数が多いほど糸条は集束されており、製経や製織での工程通過性がよくなるため好まれる。しかしながら一方で、糸条に与えられた交絡は製織後は解れて、織物中での糸条交絡数は実質的に少ない方が好ましい。織物に交絡が多数残っていると各単糸がところどころで捻れていることになり、本発明における重要な要件である特定の水平度指数HIを得るのが難しくなることがある。本発明における繊維に付与する適当な交絡数は10〜25個/m、好ましくは17〜23個/mである。また織物中での該繊維の交絡数、すなわち織物の分解糸条の交絡数は経糸および緯糸ともに3個/m以下であることが好ましい。かかる範囲の交絡数とすることで、整経、製織における工程通過性を損なうことなく、該繊維からなる織物の経糸方向のHI、緯糸方向のHIを十分に高めることができ、その結果、薄くて柔軟で収納性に優れたエアバッグ織物が得られる。
【0056】
次に上記で得られた繊維は整経、製織される。織機はウォータージェットルームが多くく用いられるが、レピアル−ムやエア−ジェットル−ムなど何ら限定されるものではない。また、織物の織構造についても、通常は平織りが多いがツイル織りなどいずれの構造であっても構わない。そして袋織り製織されることが好ましい。
【0057】
整経工程および製織工程においては、本発明に係る扁平断面フィラメントの長軸方向が織物の水平方向に並ぶように、経糸張力を適度に設定し、かつ緯糸の打ち込み張力が適度となるよう制御しながら行う。適度な経糸張力の範囲は0.05〜0.6cN/dtexである。製織時の経糸張力が0.05cN/dtex未満であると、本発明の重要な要件である扁平断面フィラメントの配列状態を表す水平度指数(HI)が十分に高くならず、柔軟性および収納性に優れたエアバッグ用織物を得ることができなくなる。逆に、経糸張力が0.6cN/dtexを越えた場合においても、水平度指数(HI)はむしろ低下し、本発明のエアバッグ用織物の特徴が得られないことがある。また、製織時の経糸張力が高すぎると、単糸切れ、全糸切れが発生し製織機の停台を起し、織物の品位が低下しかつ生産効率が低下する。
【0058】
一方、緯糸は整経工程がなく、直接製織工程で緯糸打ち込みされるため、原糸に付与されている交絡の解除と扁平断面フィラメントの長軸方向が基布の水平方向に配列するよう、十分配慮した張力管理が必要である。通常、原糸チ−ズから糸条を解舒し、緯糸を打ち込む直前の測長ドラム上までの間で、緯糸の交絡が概ね解消されるよう、張力を付与する。その張力範囲は0.05〜0.6cN/dtexである。特に、0.2〜0.5cN/dtexの範囲が好ましい。そして、緯糸打ち込み時の張力も同様0.05〜0.6cN/dtexの範囲とする。最近の高速製織されるウォ−タ−ジェットル−ムの場合は、緯糸の打ち込み張力は比較的高いので、緯糸打ち込み直前までに交絡が解消されていなくても製織時に緯糸の各フィラメントの長軸は基布の水平方向に配列するが、レピア織機やエア−ジェット織機で製織する場合は緯糸打ち込み張力が低いので、緯糸打ち込みの前までに張力をかけて原糸の交絡を解消させておくことが好ましい。
【0059】
以上の方法によって、経糸および緯糸フィラメントの水平度指数を高めることができるが、特に緯糸に適度の張力を付与し、かつ均一に制御することは工業的に困難がある。そこで本発明では、製織した織物を以下の処理を施すことによって確実に上記水平度指数を達成することが重要である。
【0060】
即ち、製織された織物を60〜100℃の温水、または100〜150℃の加圧熱水または水蒸気中で湿熱処理を行う。水蒸気は飽和水蒸気でも過熱水蒸気でも用いることができる。湿熱処理を織物に張力を付与した状態で実施、すなわち制限収縮させながら行うことが特徴である。これは収縮処理中に扁平糸フィラメントの水平度指数HIが低下しないようにというよりもむしろ湿熱収縮によって発生する収縮応力を利用して積極的に水平度指数を高める効果がある。制限収縮の程度は最終的な乾燥まで終了した後の織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が0.5〜3.0%となるように制御して実施する。張力としては0.05〜0.6cN/dtex、好ましくは、0.2〜0.5cN/dtexの張力が発現する条件が好ましい。湿熱処理は前記温水、加圧熱水および水蒸気を用い、上記温度で数秒から20分間の範囲で行い、エアバッグ用織物の最終的な乾燥まで終了した後の織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が0.5〜3.0%となる程度に処理する。湿熱処理は、製織工程に連続して行ってもよく、一旦製織した後、別工程の精練工程で行っても、また、オ−トクレ−ブ、連続加圧湿熱処理装置を用いることができる。特に、精練工程で、経方向および緯方向の収縮率を制御しながら処理する方法が効率的である。経方向の制限収縮は湿熱処理の際の織物のフィード率つまり、織物の供給量と排出量の比をコントロールする事で実施できる。緯方向に関しては湿熱処理の際に織物の両端を固定しながら行うことにより達成することができる。つまり湿熱処理前の緯方向の織り幅に対して両端の織物固定部の距離を一定に設定して湿熱処理する。
【0061】
湿熱処理後の織物は引き続き乾燥工程で乾燥する。乾燥温度は80〜200℃好ましくは120から180℃で行い、前記湿熱処理時の寸法が保持されるよう緊張させながら乾燥する。
【0062】
また場合によっては、さらに本発明効果を確実かつ安定に発現させ、かつ従来の扁平糸織物より一段と性能を発揮させるために、上記得られた織物に加熱加圧加工処理、所謂カ
レンダ−加工処理を加えることもできる。
【0063】
カレンダ−加工機は通常のカレンダ−機でよい。カレンダ−加工の温度は180〜220℃、圧力は3000〜10000N/cm、速度は4〜50m/分が好ましい。カレンダ−加工は、少なくとも片面に施してあれば性能は充分に得られる。
【0064】
以上によって、本発明の一態様であるエアバッグ用ノンコ−ト織物が得られる。次に別の態様であるエアバッグ用コ−ト織物を製造する場合は、引き続いてノンコート織物に、樹脂エラストマーをコーティングし、ヒートセット加工してエアバッグ用コ−ト織物とする。織物表面に樹脂エラストマーをコーティングする方法としては、織物を樹脂溶液槽に浸漬させたのち、余分な樹脂をマングル、バキューム、さらにはコーティングナイフ等を用いて除去・均一化する方法、スプレー装置やフォーミング装置を用いて樹脂を吹き付ける方法などが一般的である。これらのうち、樹脂を均一、かつ、少なく塗布するという観点からはコーティングナイフを用いたナイフコーティング法が好ましいが、何ら限定されるものではない。
【0065】
また、塗布する樹脂エラストマーは特定されるものではないが、難燃性、耐熱性、空気遮断性等に優れているものが好ましく、前述の通り、例えば、シリコーン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂等がよく使用される。
【0066】
なお、上記高次加工の工程順序は、本発明の効果を損ねない範囲で何ら限定されるものではない。
【0067】
以上の本発明のエアバッグ用織物の製造法によって、前記本発明のエアバッグ用織物、すなわちエアバッグ用ノンコ−ト織物およびエアバッグ用コ−ト織物が得られる。特にコ−ト織物は非通気性、収納性の特徴を活かしてインフレ−タブルカ−テンエアバッグ用として好適である。
【実施例】
【0068】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0069】
なお、明細書本文および実施例に示した物性の測定法は次のとおりである。ここで袋織りエアバッグ織物については袋部を対象としている。
【0070】
原糸および織物の分解糸条の特性
(1)扁平率:繊維を切断してその断面を、光学顕微鏡を用いて200〜500倍で写真撮影し、焼き付けた。写真上で単糸の長軸(a)と短軸(b)の長さを測定し、その比をもって扁平率とした。20本のフィラメントを測定しその平均値で示した。
扁平率=a/b。
【0071】
(2)総繊度:JIS L−1013の方法により、正量繊度を測定した。
【0072】
(3)単糸繊度:総繊度をフィラメント数で除して算出した。
【0073】
(4)強度、伸度:20℃−65%RHの温湿度調整室に24時間以上、カセ状にして放置した試料をJIS L−1013の方法により、試長25cm、引張速度30cm/分の条件で引っ張り試験により測定した。
【0074】
(5)沸騰水収縮率:原糸をカセ状にサンプリングして、20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に0.45mN/dtex相当の荷重をかけて長さL0を測定した。次に、この試料を無緊張状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、上記温室度調整室で4時間風乾し、再び試料に0.45mN/dtex相当の荷重をかけて長さL1を測定した。それぞれの長さL0およびL1から次式により沸騰水収縮率を求めた。測定回数5回の平均値とした。
沸騰水収縮率=[(L0−L1)/L0]×100(%)。
【0075】
(6)織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率:織物を解反して分解糸条を取り出した。引き抜く糸条と元の織物の端部とが約45度の角度を持つようにして極力張力のかからないようにそっと引き抜いて分解糸条を得た。分解糸条は20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に0.45mN/dtex相当の荷重をかけて長さL2を測定した。次に、この試料を無緊張状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、上記温室度調整室で4時間風乾し、再び試料に0.45mN/dtex相当の荷重をかけて長さL3を測定した。それぞれの長さL0およびL1から次式により沸騰水収縮率を求めた。5本の分解糸条を測定してその平均値で示した。
沸騰水収縮率=[(L2−L3)/L2]×100(%)。
【0076】
(7)交絡数:水浸漬法により長さ1mm以上の交絡部の個数を測定し、1mあたりの個数に換算した。原糸10本を測定し、その平均値で示した。
水浸漬バスは、長さ70cm、幅15cm、深さ5cmで、長手方向の両端より10cmの位置に仕切板を設けたものを用いた。このバスに純水を満たし、原糸サンプルを水浸させ、交絡部個数を測定した。なお、油剤等の不純物の影響を排除するために測定毎に純水を交換した。
【0077】
(8)織物の分解糸条の交絡数: 織物を解反して分解糸条を取り出した。引き抜く糸条と元の織物の端部とが約45度の角度を持つようにして極力張力のかからないようにそっと引き抜いて分解糸条を得た。該試料を上記交絡数と同様の水浸漬法で測定し、経糸、緯糸とも10本の平均値で示した。
【0078】
織物特性
(9)カバーファクター:経糸の総繊度D1(dtex)、織密度N1(本/2.54cm)、緯糸の総繊度D2(dtex)、織密度N2( 本/2.54cm)を用いて、次式により算出した。
カバーファクター=(D1×0.9)1/2 ×N1+(D2×0.9)1/2 ×N2。
【0079】
(10)水平度指数HI:織物幅の幅方向の中央部分を経糸断面および緯糸断面方向にそれぞれ切断し、走査電子顕微鏡(SEM)でそれぞれ織物の断面を写真撮影した。写真上で経糸断面および緯糸断面それぞれについて、扁平断面フィラメントの長軸方向が織物の水平方向となす角度(θ)を各フイラメント毎に測定した。測定した角度の余弦値(hi)を求め、その総和平均を水平度指数(HI)とした。
水平度指数HI=(Σhi)/f
hi=cosθ
θ:各フィラメントの長軸方向と織物の水平方向とのなす角度
f:フィラメント数
特に断らない限り、経糸および緯糸各1本を選びその全フィラメントについて測定した。なお、測定はノンコ−ト織物およびコート織物共に行った。
【0080】
(11)引張強力:JIS L1096(6.12.1A法)の方法で測定し、経方向と緯方向の平均値を求めた。
【0081】
(12)引裂強力:JIS L1096(6.15.2A−2法)の方法で測定し、経方向と緯方向の平均値を求めた。
【0082】
(13)124Paの差圧下での通気度、試験数20回における変動係数CV値:
JIS L1096(6.27.1A法)の方法に準じ、タテ20cm、ヨコ15cmの織物サンプルにおいて、直径10cmの円形部分に層流管式通気度測定機を用いて、124Paの圧力に調整した空気を流したときに通過する空気量(cc/cm2/sec)を測定した。測定は織物20サンプルで実施し、その平均値を124Paの差圧下での通気度とした。また試験数20回における変動係数CV値は次式にて算出した。
変更係数CV値=(20サンプルの標準偏差)/(20サンプルの平均値)×100。
【0083】
(14)19.6KPaの差圧下での通気度、試験数20回における変動係数CV値:
JIS L1096(6.27.1A法)の方法に準じ、タテ20cm、ヨコ15cmの織物サンプルにおいて、直径10cmの円形部分に層流管式通気度測定機を用いて、19.6KPaの圧力に調整した空気を流したときに通過する空気量(cc/cm2/sec)を測定した。測定は織物20サンプルで実施し、その平均値を19.6KPaの差圧下での通気度とした。また試験数20回における変動係数CV値は次式にて算出した。
変更係数CV値=(20サンプルの標準偏差)/(20サンプルの平均値)×100。
【0084】
(15)織物の厚み:JIS L1096(6.5)の方法で測定した。
【0085】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
硫酸相対粘度(98%硫酸を用いて25℃で測定)が3.8のナイロン66に、酢酸銅を銅として70ppm、沃化カリウムおよび臭化カリウムを各0.1重量%含有させたナイロン66の組成物からなるチップをエクストルーダ型紡糸機を用いて溶融し、溶融ポリマを計量ポンプで計量した後紡糸パックに供給した。溶融ポリマは紡糸パック中で濾過された後、紡糸口金を通して紡出した。紡糸温度(紡糸パック入り口のポリマ温度)が295℃となるようエクストル−ダ−およびスピンプロック(スピンビ−ム)等の温度を調整した。紡糸口金は、扁平断面糸について総繊度、フィラメント数、扁平率等の異なる糸条を得るために、孔数、孔形状、孔寸法等を考慮して設計した口金を作製して適用した。
【0086】
口金直下には270℃に加熱した長さ250mmの加熱筒を設け、紡出糸条は一旦該270℃の加熱空気雰囲気中を通過させた後、20℃の冷風を吹きつけて冷却固化させた。次に該糸条に水系エマルジョン油剤を付与し、紡糸引き取りローラに捲回して引き取った。引き取り糸条は一旦巻き取ることなく連続して延伸・熱処理ゾーンに供給し、2段延伸後弛緩処理を施してナイロン66繊維を得た。
【0087】
まず、引き取りローラと給糸ローラの間で3%のストレッチをかけ、次いで給糸ローラと第1延伸ローラの間で1段目の延伸、該第1延伸ローラと第2延伸ローラの間で2段目の延伸を行った。引き続き、該第2延伸ローラと弛緩ローラとの間で一定ローラー比率での弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、巻き取り機にて巻き取った。1段目延伸、2段目延伸、弛緩率は強度、伸度、沸騰水収縮率の異なる糸条を得るために、適当な条件とした。また各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラが40℃、第1延伸ローラが140℃とした。第2延伸ローラ、弛緩ローラは沸騰水収縮率の異なる糸条を得るために、適当な条件とした。各ローラの周速度は、第2延伸ローラを3500m/minの一定とし、引き取りローラ、給糸ローラ、第1延伸ローラ、弛緩ローラの速度は、単糸繊度、単糸の断面形状、目的強度等の変化に応じた延伸倍率にそれぞれ変化させた。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に対し略直角方向に高圧空気を噴射することにより行った。噴射する空気の圧力を0.3〜0.4MPaの範囲で設定した。
【0088】
得られたナイロン66繊維の特性を表1に示した。
【0089】
次に各種得られたナイロン66繊維を300m/minの速度で整経し、次いで津田駒製ウォータージェットルーム(ZW303)を用いて織密度を調整し、回転速度1000rpmで製織し平織りの生機を得た。その際、経糸の整経張力は0.3cN/dtex、緯糸の解舒から測長ドラム間の張力は0.2cN/dtexとした。
【0090】
次いで生機はアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/lおよびソーダ灰0.5g/lを含んだ80℃の温水浴中に3分間浸漬して精練処理を行った。
【0091】
この精練の際に、実施例1〜4,比較例1〜4においては、最終的に得られる織物の分解糸条の経糸の残留沸騰水収縮率の異なる織物を得るため、織物フィード率を変えることで経糸方向の張力を0.1〜0.5cN/dtexの範囲で変更し制限収縮処理を行った。
【0092】
また実施例1〜4、比較例1〜3においては、最終的に得られる織物の分解糸条の緯糸の残留沸騰水収縮率の異なる織物を得るため、織物の緯糸方向の両端をつかんで固定する固定具間の間隔を変えることで緯糸方向の張力を0.1〜0.5cN/dtexの範囲で変更し制限収縮処理を行った。比較例4については織物の緯糸方向の両端をつかんで固定する固定具を使用せず、緯糸方向はフリーの状態で処理をした。つまり制限収縮処理は行わなかった。
【0093】
次いで精練後の織物は130℃で3分間乾燥処理を行った。
【0094】
得られた織物の織物特性を表1に示した。
【0095】
[実施例5]
実施例1〜4、比較例1〜4と同一のナイロン66繊維を300m/minの速度で整経し、次いで豊田自動織機製エアジェットルーム(JAT−610)および電子式ジャガード装置を用いて、回転速度700rpmで製織し袋織りの生機を得た。その際、経糸の整経張力は0.3cN/dtex、緯糸の解舒から測長ドラム間の張力は0.2cN/dtexとした。
【0096】
次いで生機はアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/lおよびソーダ灰0.5g/lを含んだ80℃の温水浴中に3分間浸漬して精練処理を行った。
【0097】
精練の際に、織物フィード率を調整することで経糸方向の張力を0.3cN/dtexで制限収縮処理を行った。また織物の緯糸方向の両端をつかんで固定する固定具間の間隔を調整することで緯糸方向の張力を0.3cN/dtexで制限収縮処理を行った。
【0098】
次いで精練後の織物は130℃で3分間乾燥処理を行った。
【0099】
得られた織物の織物特性を表1に示した。なお織物特性は袋部の特性である。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例1〜5で得られたノンコート織物は高い水平度指数を有しており、低圧124Pa下、高圧19.6kPa下、いずれの通気度とも低く、かつそれぞれの通気度のバラツキも少ない、均一な通気性を有する織物が得られた。
【0102】
一方、比較例1〜4は織物分解糸条の残留沸騰水収縮率、または原糸の沸騰水収縮率が適当ではないため、織物の通気度が高い、またはバラツキが大きい織物になってしまった。
【0103】
実施例1〜5で得られたノンコート織物に、コンマコーターを用いて塗工量が25g/mとなるように溶剤型メチルビニル系シリコーン樹脂にてコーティングを行い、3分間乾燥した後、180℃で1分間加硫処理してコート織物を製造した。
【0104】
得られたコート織物の通気度はゼロ、織物の厚みは0.27〜0.29mmであり非通気性かつコンパクト性に優れたものが得られた。
【0105】
また得られたコート織物を裁断、縫製することでインフレータブルカーテンエアバッグを製造した。実施例1〜4の平織りノンコート織物をコーティングした織物ついては縫製部にシール材を適用した。実施例5の袋織り織物については袋部の周辺に沿って裁断することで縫製することなくインフレータブルカーテンが得られた。得られたインフレータブルエアバッグはいずれも内圧保持性が高く機能に全く問題のないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明のエアバッグ用織物に用いる扁平断面フィラメントの断面形状の一例を示す図である。
【図2】本発明のエアバッグ用織物に用いる扁平断面フィラメントの断面形状の他の一例を示す図である。
【図3】本発明に用いる扁平断面糸を得るための紡糸口金の一例を示す図である。
【図4】本発明に用いる扁平断面糸を得るための紡糸口金の他の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
a:単糸の長軸
b:単糸の短軸
c:口金の長軸
d:口金の短軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントの断面形状が扁平率1.5〜8、沸騰水収縮率が5〜10%の範囲内にある扁平断面マルチフィラメント糸条を経糸および緯糸として用いた織物であって、該織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向が織物の水平方向となす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.85〜1.0となるようにフィラメントの扁平断面の長軸が織物の水平方向に配列しており、かつ該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が0.5〜3.0%の範囲内にあることを特徴とするエアバッグ用ノンコート織物。
【請求項2】
扁平断面マルチフィラメント糸条の沸騰水収縮率が7〜9%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
【請求項3】
該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率が1.0〜2.5%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
【請求項4】
扁平断面マルチフィラメント糸条がポリアミド繊維であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
【請求項5】
該織物が袋織り製織されたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
【請求項6】
該織物が下記(1)〜(8)の特性を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物。
(1)カバーファクター:1500〜2400
(2)引張強力:500〜850N/cm
(3)引裂強力:150〜350N
(4)124Paの差圧下での通気度:0〜0.1cc/cm/sec
(5)124Paの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜10%
(6)19.6KPaの差圧下での通気度:0〜10cc/cm/sec
(7)19.6KPaの差圧下での通気度の試験数20回における変動係数CV値が0〜15%
(8)織物の厚み:0.15〜0.35mm
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物の表面に樹脂エラストマ−が塗布されたエアバッグ用コート織物であって、樹脂エラストマ−の付着量が10〜70g/m2であることを特徴とするエアバッグ用コ−ト織物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物、または請求項7に記載のエアバッグ用コート織物からなるインフレ−タブルカ−テンエアバッグ。
【請求項9】
フィラメントの断面形状が扁平率1.5〜8、沸騰水収縮率が5〜10%の範囲内にある扁平断面マルチフィラメント糸条を経糸および緯糸に用い製織して織物とし、続いて得られた織物を、60〜100℃の温水または100〜150℃の加圧熱水または水蒸気中で、張力付与下の制限収縮処理を施すことで、最終的に得られた織物の断面において、織物を構成する経糸および緯糸のフィラメントの長軸方向が織物の水平方向となす角度(θ)の余弦(hi)の総和平均で表した水平度指数(HI)が0.85〜1.0となるようにフィラメントの扁平断面の長軸を織物の水平方向に配列させ、かつ該織物の分解糸条の残留沸騰水収縮率を0.5〜3.0%の範囲内とすることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のエアバッグ用ノンコート織物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−162187(P2007−162187A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363154(P2005−363154)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】