説明

エアバッグ用冷却剤放出装置及びエアバッグ装置

【課題】簡素な構成によって冷却剤のリークを防止できるエアバッグ用冷却剤放出装置等を提供する。
【解決手段】エアバッグ10の内部に、冷却剤を放出するエアバッグ用冷却剤放出装置100を、筒状に形成されたシリンダ110,120と、可撓性を有するフィルムによって形成され内部に冷却剤が封入されるとともに、シリンダ内に収容された冷却剤パック160と、シリンダ内に挿入されたピストン140と、ピストンをシリンダに対して駆動して冷却剤パックを押圧させる駆動手段150と、シリンダの駆動手段側とは反対側の端部に設けられ冷却剤パックから出た冷却剤をエアバッグ内に放出させるノズル122とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のエアバッグ内に冷却剤を放出してエアバッグの内圧を調整する冷却剤放出装置、及び、このような冷却剤放出装置を有するエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、自動車等の車両に設けられ、基布パネルによってバッグ状に形成され、衝突時に展開用ガスが吹込まれて展開膨張し、乗員を拘束するエアバッグを備えている。このようなエアバッグ装置においては、エアバッグを早期に展開させつつ乗員が受ける加速度ピークを軽減するために、エアバッグの内圧を適切に制御することが求められる。例えば、衝突直後にはエアバッグを早期に展開させるため内圧を比較的高圧とし、その後乗員拘束時には減圧して乗員が受ける加速度を軽減させることが提案されている。
従来、展開膨張後にエアバッグの内圧を適度な圧力まで低下させることを目的として、エアバッグにベントホール等の排気手段を設けて、その個数や配置等によって特性のチューニングを行うことが一般的であった。
【0003】
また、従来、エアバッグの展開用ガスを冷却することによって、エアバッグの内圧を適切な圧力まで低下させることが提案されている。
エアバッグの展開膨張中あるいは展開膨張後に、所定のタイミングで液体の冷却剤を放出すれば、冷却剤の気化熱によって展開用ガスを冷却してエアバッグの内圧を低下させ、良好な乗員拘束性能を得ることができる。
【0004】
このような冷却剤放出装置として、例えば、特許文献1には、円筒状のシリンダ内部に不凍液等の冷却剤をシリコンゴム等のピストンによって封入し、マイクロガスジェネレータ(MGG)が発生するガスを用いてピストンを押圧し、冷却剤を放出するものが提案されている。
また、特許文献2には、蛇腹状の脆弱部が形成されたチューブ状の容器内に冷却剤を貯留するとともに、これをシリンダ内に収容し、容器をピストンにより軸方向に圧縮して冷却剤を放出させるようにした冷却剤放出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−116230号公報
【特許文献2】特開2011−116229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
冷却剤放出装置は、例えば車両の寿命(一例として10年以上)にわたって冷却剤がリークしないように保持する必要がある。
特許文献1のようにシリンダ内周面とゴム製ピストンの外面との間で冷却剤をシールする場合、ゴム製ピストンとシリンダ内周面とで冷却剤をシールすることになるため、ここに異物等が入り込んだ場合には、漏洩が懸念される。
また、このような高いシール性を有するピストンは、厳密な寸法管理が必要であるうえシリンダへの組込作業の精密な管理も必要となり、製造工程の増加やこれに伴うコストの増加が懸念される。
また、特許文献2のようにチューブ状の容器内に冷却剤を収容する場合には、冷却剤容器を形成するための金型代等が別途必要になる。また、このような容器は、冷却剤放出装置の形状やサイズ毎に専用設計とせざるを得ないため、設計や金型製作等に要する工数、コストはさらに増加することが懸念される。
【0007】
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡素な構成によって冷却剤のリークを防止できるエアバッグ用冷却剤放出装置、及び、このような冷却剤放出装置を備えるエアバッグ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するため、本発明のエアバッグ用冷却剤放出装置は、エアバッグの内部に、冷却剤を放出するエアバッグ用冷却剤放出装置であって、筒状に形成されたシリンダと、可撓性を有するフィルムによって形成され内部に冷却剤が封入されるとともに、前記シリンダ内に収容された冷却剤パックと、前記シリンダ内に挿入されたピストンと、前記ピストンを前記シリンダに対して駆動して前記冷却剤パックを押圧させる駆動手段と、前記シリンダの前記駆動手段側とは反対側の端部に設けられ前記冷却剤パックから出た冷却剤を前記エアバッグ内に放出させるノズルとを有することを特徴とする。
これによれば、冷却剤をフィルム製の冷却剤パックに封入することによって、通常時(衝突前時)にピストン等で冷却剤をシールする必要がなく、冷却剤の耐リーク性を向上することができる。
また、このような冷却剤パックは、金型等を必要とすることなく、安価かつ低工数で製造することが可能である。
さらに、通常時にピストンによって冷却剤をシールする必要がないことから、ピストン及びシリンダの径を大きくすることが容易であり、仮に容量が同等であればピストンによって冷却剤をシールする既存の装置に対してシリンダ中心軸方向の長さを短くすることができる。
これによって、冷却剤放出装置の全長を、展開用ガスを発生するディスクタイプのインフレータに近づけることが可能となり、エアバッグが収容されるリテーナの壁面にインフレータと並べて外付けで取り付けることが容易となって、既存のエアバッグ装置に軽微な設計変更により適用することが可能となる。
本発明において、前記冷却剤は液体の状態で前記冷却剤パックに封入される構成とすることができる。
【0009】
本発明のエアバッグ用冷却剤放出装置において、前記シリンダは、前記ノズルを有する第1の部材と、前記第1の部材に着脱可能に取り付けられる第2の部材とを有して構成され、前記第1の部材、前記第2の部材の一方に設けられた係止部、及び、前記第1の部材、前記第2の部材の他方に設けられ前記係止部と係合する被係止部からなる仮止め機構を有する構成とすることができる。
これによれば、第1の部材、第2の部材の最終的な締結前に、第1の部材と第2の部材とを簡単に仮止めすることができ、組立工程の作業性を向上することができる。
【0010】
本発明のエアバッグ用冷却材放出装置において、前記ノズルは、前記シリンダの端面に形成された開口の中央部に前記冷却剤パック側に配置された突端部を有する垂体を配置して構成される構成とすることができる。
これによれば、シリンダから噴出される冷却剤が垂体に衝突することによって、良好にスプレーを形成することができる。
また、冷却剤パックが垂体の突端部に突かれることによって、冷却剤パックを確実に破断させて冷却剤の放出を行なわせることができる。
【0011】
また、本発明のエアバッグ装置は、バッグ状に形成され内部に展開用ガスが吹込まれることによって展開膨張するエアバッグと、前記エアバッグが通常時に折り畳まれた状態で収容されるリテーナと、前記エアバッグの内部に前記展開用ガスを供給するインフレータ(展開用ガス供給装置)と、展開膨張中あるいは展開膨張後の前記エアバッグ内に冷却剤を放出する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエアバッグ用冷却剤放出装置とを備えることを特徴とする。
これによれば、上述したエアバッグ用冷却剤放出装置の効果を有するエアバッグ装置を提供することができる。
また、本発明のエアバッグ装置において、前記インフレータ、及び、前記エアバッグ用冷却剤放出装置を、前記リテーナの同一の壁面部に隣接して配置した構成とすることができる。
これによれば、エアバッグ用冷却剤放出装置を既存のエアバッグ装置にも軽微な設計変更により適用することができる。
また、本発明のエアバッグ装置において、前記エアバッグ用冷却剤放出装置の前記ノズルを前記リテーナの内側に突出させて配置した構成とすることができる。
これによれば、冷却剤が展開膨張中あるいは展開膨張後の前記エアバッグ内で確実にスプレーを形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、簡素な構成によって冷却剤のリークを防止できるエアバッグ用冷却剤放出装置、及び、このような冷却剤放出装置を備えるエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した冷却剤放出装置の実施形態を有するエアバッグ装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1のエアバッグ装置におけるリテーナ周辺部の分解斜視図である。
【図3】図1の冷却剤放出装置の分解斜視図である。
【図4】図1の冷却剤放出装置における冷却剤パックの外観斜視図であって、図4(a)は成型前の状態を示し、図4(b)は成型後の状態を示す。
【図5】図1の冷却剤放出装置をシリンダの中心軸を含む平面で切って見た断面図であって、作動前の状態を示す図である。
【図6】図1の冷却剤放出装置をシリンダの中心軸を含む平面で切って見た断面図であって、作動中の状態を示す図である。
【図7】図1の冷却剤放出装置をシリンダの中心軸を含む平面で切って見た断面図であって、作動完了後の状態を示す図である。
【図8】実施形態及び本発明の比較例におけるエアバッグ装置におけるダミー人形頭部の加速度の時間履歴の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した冷却剤放出装置及びエアバッグ装置の一実施形態について説明する。
実施形態のエアバッグ装置は、例えば乗用車等の自動車に設けられるものである。エアバッグ装置の適用部位は、一例として助手席前方のインストルメントパネルに設けられる助手席前面衝突用エアバッグであるが、本発明は例えば、ステアリングホイールのボス部分に設けられる運転席エアバッグ、インストルメントパネル下部等に設けられ乗員の膝部等を拘束するニーバッグ、座席側部に設けられるサイドエアバッグ、サイドウインドウに沿って幕状に展開するカーテンエアバッグ等にも適用が可能である。なお、各構成部材の形状、配置等は、適用箇所に応じて適宜変更される。
【0015】
図1に示すように、エアバッグ装置1は、エアバッグ10、リテーナ20、インフレータ30、冷却剤放出装置100等を備えて構成されている。
エアバッグ10は、例えばナイロン系やポリエステル系の基布を切り出して形成された複数のパネルを縫合してバッグ状に形成されている。エアバッグ10は、通常時においては、折り畳まれた状態でリテーナ20の内部に収容されている。
そして、衝突時には、エアバッグ10は、インフレータ30が発生する展開用ガスが導入されることによって、車両のキャビン内で展開膨張し、図示しない乗員を拘束する。
【0016】
図2においては、エアバッグ10を構成する基布パネルのうち、リテーナ20周辺の一部のみを切り出して図示している。
図2に示すように、エアバッグ10のリテーナ20周辺の基布パネル11には、インフレータ開口11a、冷却剤放出装置開口11bが形成されている。
インフレータ開口11aは、円形の開口であって、インフレータ30の端部が挿入される部分である。
冷却剤放出装置開口11bは、円形の開口であって、冷却剤放出装置100の端部が挿入される部分である。
冷却剤放出装置開口11bは、インフレータ開口11aと隣接して配置されている。
また、インフレータ開口11a、冷却剤放出装置開口11bの周囲には、後述するバッグリングを固定するためのボルトBが挿入される開口が形成されている。
【0017】
リテーナ20は、展開膨張前のエアバッグ10が折り畳まれて収容される容器状の部材である。
また、リテーナ20には、インフレータ30及び冷却剤放出装置100が設けられている。
リテーナ20は、底面部21、上面部22、下面部23、側面部24等を有し、乗員側が開口したボックス状に形成されている。
【0018】
底面部21は、乗員に略対向して配置され、インフレータ30及び冷却剤放出装置100が取り付けられる基部となる平板状の部分である。
底面部21には、インフレータ開口21a、冷却剤放出装置開口21bが形成されている。
インフレータ開口21aは、円形の開口であって、インフレータ30の端部が挿入される部分である。
冷却剤放出装置開口21bは、円形の開口であって、冷却剤放出装置100の端部が挿入される部分である。
冷却剤放出装置開口21bは、インフレータ開口21aと隣接して配置されている。
また、インフレータ開口21a、冷却剤放出装置開口21bの周囲には、後述するバッグリングを固定するためのボルトが挿入される開口が形成されている。
これらのリテーナ20側のインフレータ開口21a、冷却剤放出装置開口21bは、エアバッグ10側のインフレータ開口11a、冷却剤放出装置開口11bと重ねて配置される。
【0019】
上面部22、下面部23、側面部24は、底面部21の上端部、下端部、側面部からそれぞれ乗員側に突き出して配置されたほぼ平板状の部分である。
また、側面部24の外側の面部には、リテーナ20を車体側に取り付けるためのブラケット24aが設けられている。
【0020】
また、リテーナ20は、バッグリング25を備えている。バッグリング25は、エアバッグ10の内側に配置された金具であって、底面部21と協働して基布パネル11を挟持し、エアバッグ10をリテーナ20に固定するものである。
バッグリング25は、矩形のプレート状に形成され、その外周縁部は乗員側(底面部21と反対側)に折り返されている。
バッグリング25には、インフレータ開口25a、冷却剤放出装置開口25bが形成されている。
インフレータ開口25aは、円形の開口であって、インフレータ30の端部が挿入される部分である。
冷却剤放出装置開口25bは、円形の開口であって、冷却剤放出装置100の端部が挿入される部分である。
冷却剤放出装置開口25bは、インフレータ開口25aと隣接して配置されている。
【0021】
バッグリング25には、底面部21側に突き出した複数のボルトBが設けられている。
このボルトBは、エアバッグ10の基布パネル11、リテーナ20の底面部21に形成された開口に挿入される。
バッグリング25は、ボルトBにナットNを締結されることによって、リテーナ20に固定され、エアバッグ10を固定する。
また、一部のボルトBは、インフレータ30、冷却剤放出装置100のフランジにも共締めされることによって、これらの固定にも用いられる。
【0022】
インフレータ30は、図示しないエアバッグ制御ユニットからの信号に基いて、エアバッグ10を展開膨張させる高温の展開用ガスを発生させる展開用ガス供給装置である。インフレータ30は、燃焼時に窒素ガスなどを発生するガス発生剤や、着火剤を介してガス発生剤に点火するイグナイタを備えている。
インフレータ30は、円盤状(外径に対して軸方向長が短い円柱状)に形成された本体部の周囲に固定用のフランジ30aが設けられたいわゆるディスク型のものである。
インフレータ30は、フランジ30aよりも乗員側における外周面部に形成された複数のガス噴出孔を有する。
インフレータ30は、ガス噴出孔がエアバッグ10内に突き出した状態で、フランジ30aをボルトB及びナットNで締結することによって、リテーナ20の底面部に固定される。
また、インフレータ30の乗員側と反対側の端部には、エアバッグ装置1を車体に固定するためのブラケット31が設けられている。
【0023】
冷却剤放出装置100は、エアバッグ10の展開膨張中あるいは展開膨張後に、エアバッグ制御ユニットからの信号に応じてエアバッグ10内へ例えば不凍液等の冷却剤を放出し、エアバッグ10の内圧を低下させるものである。
図3等に示すように、冷却剤放出装置100は、ボトルロワ110、ボトルアッパ120、ガスケット130、ピストン140、マイクロガスジェネレータ(MGG)150、冷却剤パック160等を有して構成されている。
【0024】
ボトルロワ110及びボトルアッパ120は、協働して冷却剤パック160及びこれを押圧するピストン140を収容するシリンダ部を構成するものである。
ボトルロワ110は、円筒状に形成された本体部111の一方の端部(エアバッグ10側とは反対側の端部)を端面112で実質的に閉塞して構成されている。
端面112の中央部には、MGG150が取り付けられる円筒状のマウント部113が本体部111と実質的に同心に形成されている。マウント部113は、端面112から本体部111とは反対側に突き出して形成されている。
マウント部113の外周面には、後述するMGG150のキャップ151が締結されるネジ部が形成されている。
本体部111の端面112とは反対側の端部には、外周面から外径側につば状に張り出したフランジ114が形成されている。
フランジ114の外周縁部における一部には、ボトルアッパ120の爪部125が引掛けられる引掛部115が形成されている。
【0025】
ボトルアッパ120は、ボトルロワ110の本体部111の開口端部を閉塞する実質的に円盤状の部材である。
ボトルアッパ120の外周縁部には、ボトルロワ110のフランジ114に結合されるフランジ121が形成されている。
また、ボトルアッパ120の中央部には、シリンダ内から冷却剤をエアバッグ10内へ噴出させるノズル122が形成されている。
ノズル122は、円形の開口123の中央部に、鋭利な突端部をボトルロワ110側へ向けて配置された円錐状部124を設けて構成されている。
円錐状部124は、開口123の内周縁部との間にわたして配置された連結部によって支持されている。
ボトルアッパ120は、ノズル122がリテーナ20の底面21から突出してエアバッグ10及びリテーナ20の内部に位置するように配置される。
【0026】
フランジ121の外周縁部には、ボトルロワ110の引掛部115と係合する爪部125が形成されている。
爪部125は、フランジ121の外周縁部からボトルロワ110側へ突き出した突起の突端部から、さらにシリンダの周方向における一方側に突起を突き出させて鉤状に構成されている。
爪部125は、ボトルロワ110及びボトルアッパ120のフランジ114,121を突き合わせた状態で、ボトルアッパ120をボトルロワ110に対してシリンダの中心軸回りにひねることによって、ボトルロワ110の引掛部115に係止される。
この爪部125及び引掛部115は、エアバッグ装置1への組立時に、ボトルロワ110とボトルアッパ120とを仮止めするために用いられる。
ボトルロワ110とボトルアッパ120とは、仮止め状態でリテーナ20に取り付けられ、バッグリング25から突出したボルトBをフランジ114,121の開口に挿入してナットNで締結することによって固定される。
【0027】
ガスケット130は、ボトルロワ110のフランジ114とボトルアッパ120のフランジ121との間に挟持され、これらの間をシールするものである。
ガスケット130は、例えばシリコン系のゴム材料によって円環状に形成されるとともに、径方向に切って見た断面形状は、例えば矩形状に形成されている。
ガスケット130は、ボトルロワ110のフランジ114のボトルアッパ120側の面部に形成された溝部114aに嵌め込まれている。
【0028】
ピストン140は、ボトルロワ110の本体部111の内径側に挿入され、ボトルロワ110に対して軸方向に相対移動可能とされた実質的に円盤状の部材である。
ピストン140は、MGG150が発生したガスの圧力を受けてボトルアッパ120側へ駆動され、冷却剤パック160を押圧して破裂させ、冷却剤をエアバッグ10内に放出させるものである。
ピストン140の外周面には、例えば矩形断面の周方向溝であるピストンリング溝141が形成されている。
ピストンリング溝141には、例えばシリコン系ゴム等によって円環状に形成されたピストンリング142が組み込まれている。ピストンリング142は、ピストン140の外周面とボトルロワ110の本体部111内周面との間をシールして、ユニット作動時には、冷却剤の逆流及び冷却剤放出用ガスのリークを防止する。また、ピストン140の駆動時には、ピストンリング142は、本体部111の内周面に対して摺動する。
【0029】
MGG150は、例えば火薬を用いて冷却剤放出用ガスを発生させ、ピストン140を駆動する駆動手段である。
MGG150は、ほぼ円柱状に形成され、ボトルロワ110のマウント部113に挿入され保持される。
また、MGG150の後端部(ピストン140側とは反対側の端部)には、ほぼ円筒状に形成されたキャップ151が設けられる。
キャップ151は、内周面に形成されたネジ部をマウント部113に形成されたネジ部に締結することによってボトルロワ110に固定されるとともに、MGG150を固定する。
【0030】
冷却剤パック160は、例えば不凍液等の冷却剤を、可撓性を有するフィルムで袋状に形成されたパック内に封入したものである。
冷却剤パックを構成するフィルムは、例えばアルミニウム合金製の基材の両面に、例えばポリエチレン等の樹脂層をラミネートしたものである。
図4(a)に示すように、冷却剤パック160は、矩形のフィルムを中央部で折返し、その間に冷却剤を封入した状態で、外周縁部161を溶着することによって形成されている。
その後、冷却剤パック160は、ボトルロワ110の内径側に挿入可能なように、例えば作業者によって中央部を膨らませると共に端部を折り畳むことによって、図4(b)に示すように、円筒状あるいはキューブ状等のシリンダ内に挿入可能な形状に成型される。冷却剤パック160は、フィルムのアルミニウム層の強度によって、このように成型された形状を保持可能となっている。
成型後の冷却剤パック160は、シリンダ内におけるピストン140よりもノズル122側の領域に収容される。
このとき、冷却剤パック160の外周縁部(溶着部)がノズル122と対向しないように配置する。
【0031】
次に、上述したエアバッグ装置1の動作について説明する。
図示しないエアバッグ制御ユニットが、例えば加速度センサ等の衝突検出手段や、衝突の前兆を検出するプリクラッシュ検出手段の出力に基づいて、エアバッグ10の展開膨張が必要と判断した場合には、インフレータ30のイグナイタを点火させることによって、高温の展開用ガスの発生を開始させる。
インフレータ30から噴出された展開用ガスは、リテーナ20内に折り畳まれていたエアバッグ10内に吹きこまれて、これを展開膨張させる。
【0032】
また、エアバッグ制御ユニットは、インフレータ30の展開用ガス発生開始から所定の時間だけ遅延させて、冷却剤放出装置100のMGG150に点火させ、MGG150から冷却剤放出用ガスの発生を開始させる。
これによって、図5に示す状態から、図6に示す状態のように、ピストン140が冷却剤放出用ガスの圧力によってノズル122側に移動を開始し、ピストン140は冷却剤パック160の押圧を開始する。
【0033】
ピストン140によって押圧された冷却剤パック160は、ボトルアッパ120に押し付けられ、内圧が上昇する。更に、ピストン140によって押圧されることで、冷却剤パック160は、一部がノズル122の開口123内に入り込み、円錐状部124の突端部で突かれることによって破断する。
冷却剤パック160の破断によって放出された冷却剤は、高圧状態でかつノズル122の円錐状部124に衝突することで、噴霧状(スプレーS)となってエアバッグ10内に放出され、エアバッグ10内部の高温の展開用ガスを冷却し、急速に内圧を低下させる。
その後、冷却剤のスプレーSの放出は、図7に示すように、ピストン140がボトルアッパ120に突き当たるまで継続し、ピストン140の停止とともに完了する。
このとき、冷却剤パック160内に収容されていた冷却剤は、実質的にそのほぼ全量がエアバッグ10内に放出され、気化潜熱等によって展開用ガスを冷却する。
【0034】
図8は、本実施形態のエアバッグ装置における衝突試験時のダミー人形頭部加速度の時間履歴の一例を示すグラフである。
横軸は衝突後の時間を示し、縦軸はダミー人形の頭部における加速度(G)を示している。
また、本実施形態のデータを実線で示し、本発明の比較例のデータを破線で示す。
比較例のエアバッグ装置は、本実施形態のエアバッグ装置1から、冷却剤放出装置100を省略したものである。
本実施形態においては、エアバッグ10の展開膨張後、所定の遅延時間後にエアバッグ10内に冷却剤を放出し、その気化潜熱等で展開用ガスを冷却することによって、エアバッグ10の過度な内圧上昇を防止することができる。
これによって、図8に示すように、ダミー人形頭部が受ける加速度のピーク値を低減することができる。
【0035】
以上説明した本実施形態の冷却剤放出装置100及びエアバッグ装置1によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)冷却剤をフィルム製の冷却剤パック160に封入することによって、通常時にピストン140等で冷却剤をシールする必要がなく、冷却剤の耐リーク性を向上することができる。
また、このような冷却剤パック160は、金型等の治工具を必要とすることなく、例えば市販のレトルトパウチ食品用のフィルム及び製造設備等を流用して、安価かつ低工数で製造することが可能である。
(2)通常時にピストン140によって冷却剤をシールする必要がないことから、ピストン及びシリンダの径を大きくすることが容易であり、仮に容量が同等であればピストンによって冷却剤をシールする既存の装置に対してシリンダ中心軸方向の長さを短くすることができる。
これによって、冷却剤放出装置100の全長を、ディスクタイプのインフレータ30に近づけることが可能となり、リテーナ20の底面21にインフレータ30と並べて外付けで取り付けることが容易となって、既存のエアバッグ装置に軽微な設計変更により適用することが可能となる。
(3)冷却剤放出装置100のシリンダを構成するボトルロワ110及びボトルアッパ120を仮止めする爪部125及び引掛部115を設けたことによって、ボトルロワ110及びボトルアッパ120の最終的な締結前にこれらを簡単に仮止めすることができ、組立工程の作業性を向上することができる。
(4)ノズル122が開口123の中央部に冷却剤パック160側に配置された突端部を有する円錐状部124を配置して構成されることによって、冷却剤パック160が円錐状部124の鋭利な突端部に突かれることによって、冷却剤パック160を確実に破断させて冷却剤の放出を行なわせることができ、また、シリンダから噴出される冷却剤が円錐状部124に衝突して良好にスプレーSを形成することができる。
【0036】
なお、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態によって限定されるものではなく、冷却剤放出装置及びエアバッグ装置の構成には適宜変更を加えることができ、エアバッグ装置を構成する各部材の形状、構造、配置等は適宜変更することができる。
例えば、実施形態では冷却剤パックを構成するフィルムは、アルミニウム系合金層の両面にポリエチレンの層を形成しているが、本発明はこれに限らず、他の構成を有するフィルムによって冷却剤パックを構成してもよい。例えば、基材となる金属層はアルミニウム系合金に限らず、他の材料を用いてもよい。また、その表面に形成される樹脂層も、例えばPET等他の材料であってもよい。
また、冷却剤パックの折り畳み方も特に限定されず、冷却剤パックをシリンダ内に収容可能な折り畳み方であればどのような折り畳み方であってもよい。
1 エアバッグ装置
10 エアバッグ 11 基布パネル
11a インフレータ開口 11b 冷却剤放出装置開口
20 リテーナ 21 底面部
21a インフレータ開口 21b 冷却剤放出装置開口
22 上面部 23 下面部
24 側面部 24a ブラケット
25 バッグリング 25a インフレータ開口
25b 冷却剤放出装置開口
B ボルト N ナット
30 インフレータ 30a フランジ
31 ブラケット
100 冷却剤放出装置
110 ボトルロワ 111 本体部
112 端面 113 マウント部
114 フランジ 115 引掛部
120 ボトルアッパ 121 フランジ
122 ノズル 123 開口
124 円錐状部 125 爪部
130 ガスケット
140 ピストン 141 ピストンリング溝
142 ピストンリング
150 マイクロガスジェネレータ 151 キャップ
160 冷却剤パック 161 外周縁部
S スプレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグの内部に、冷却剤を放出するエアバッグ用冷却剤放出装置であって、
筒状に形成されたシリンダと、
可撓性を有するフィルムによって形成され内部に冷却剤が封入されるとともに、前記シリンダ内に収容された冷却剤パックと、
前記シリンダ内に挿入されたピストンと、
前記ピストンを前記シリンダに対して駆動して前記冷却剤パックを押圧させる駆動手段と、
前記シリンダの前記駆動手段側とは反対側の端部に設けられ前記冷却剤パックから出た冷却剤を前記エアバッグ内に放出させるノズルとを有すること
を特徴とするエアバッグ用冷却剤放出装置。
【請求項2】
前記冷却剤は液体の状態で前記冷却剤パックに封入されること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用冷却剤放出装置。
【請求項3】
前記シリンダは、前記ノズルを有する第1の部材と、前記第1の部材に着脱可能に取り付けられる第2の部材とを有して構成され、
前記第1の部材、前記第2の部材の一方に設けられた係止部、及び、前記第1の部材、前記第2の部材の他方に設けられ前記係止部と係合する被係止部からなる仮止め機構を有すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ用冷却剤放出装置。
【請求項4】
前記ノズルは、前記シリンダの端面に形成された開口の中央部に前記冷却剤パック側に配置された突端部を有する垂体を配置して構成されること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエアバッグ用冷却剤放出装置。
【請求項5】
バッグ状に形成され内部に展開用ガスが吹込まれることによって展開膨張するエアバッグと、
前記エアバッグが通常時に折り畳まれた状態で収容されるリテーナと、
前記エアバッグの内部に前記展開用ガスを供給するインフレータと、
展開膨張中あるいは展開膨張後の前記エアバッグ内に冷却剤を放出する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエアバッグ用冷却剤放出装置と
を備えるエアバッグ装置。
【請求項6】
前記インフレータ、及び、前記エアバッグ用冷却剤放出装置を、前記リテーナの同一の壁面部に隣接して配置したこと
を特徴とする請求項5に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記エアバッグ用冷却剤放出装置の前記ノズルを前記リテーナの内側に突出させて配置したこと
を特徴とする請求項5又は請求項6に記載のエアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−67216(P2013−67216A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205560(P2011−205560)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】