説明

エアバッグ装置

【課題】シートクッションの座面において隆起させられる箇所が、エアバッグの膨張領域の並設方向に狭くなるのを抑制しつつ、各膨張領域を充分な高さまで膨張させる。
【解決手段】複数人掛けの車両用シートにおいて、エアバッグ50の各膨張領域A1〜A3を、シートクッションの対応する着座部15〜17の座面18〜20よりも下方に配設する。エアバッグ50において膨張領域A1〜A3の並設方向についての両側部を車両に固定する。隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間に、膨張用ガスGにより膨張しない非膨張領域Bをそれぞれ設ける。各非膨張領域Bには、自身が変形することで、膨張領域A1〜A3の膨張に伴う並設方向への収縮を許容する収縮許容部を設ける。収縮許容部を、エアバッグ50における隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間で前後方向に延びるスリット61により構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数人掛けの車両用シートの座面よりも下方に配設されたエアバッグを膨張させて座面を隆起させ、着座している乗員が前方へ移動するのを抑制するようにしたエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両では、前突等により同車両に前方から衝撃が加わった場合、シートベルト装置によって車両用シートに拘束された乗員の腰部が、ラップベルト部から外れて前方へ移動する現象(サブマリン現象)が起り得る。そこで、このサブマリン現象を抑制するための技術が種々提案されている。
【0003】
その1つに、車両用シートの座面よりも下方にエアバッグを配置し、このエアバッグを膨張用ガス等の膨張流体により膨張させて座面を隆起させ、着座している乗員が前方へ移動するのを抑制するようにしたエアバッグ装置がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、エアバッグ装置を、ベンチシート等の複数人掛けの車両用シートに適用した例が記載されている。この車両用シートのシートクッションには、複数の着座部が車幅方向に並設されている。エアバッグには、上記着座部と同数の膨張領域が、それらの着座部の並設方向(車幅方向)に沿って並設されている。隣り合う膨張領域は互いに連通されている。このエアバッグは、各膨張領域が対応する着座部の座面よりも下方に位置するように配設されている。エアバッグの中央部分の膨張領域には、全ての膨張領域に膨張用ガスを供給するインフレータが配置されている。
【0005】
上記車両用シートによれば、インフレータからの膨張用ガスがエアバッグの各膨張領域に略均等に供給されて、同膨張領域が略均等に膨張させられる。この膨張により、各着座部の座面が隆起させられ、慣性力により前方移動しようとする乗員の大腿部が拘束され、同乗員の上記サブマリン現象が抑制される。
【特許文献1】特開2002−79862号公報
【特許文献2】特開2007−168599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エアバッグは、膨張用ガスが供給されると大きな曲率で曲面状に膨張しようとする。これに伴いエアバッグにおける寸法が、同エアバッグが膨張用ガスを充填されることなく展開させられたときの寸法よりも小さくなる。特に、車両用シートと同程度の幅を有する上記特許文献1に記載のエアバッグの場合、膨張領域の並設方向についての寸法が大きく変化(減少)する。これに伴い、エアバッグによって隆起させられる座面の領域が同並設方向に狭くなる。そのため、車両用シートにおける並設方向両側の着座部に着座した乗員については、サブマリン現象を意図したように抑制できないおそれがある。
【0007】
上記の問題については、上記エアバッグを並設方向両側で車両に固定することで対処可能である。しかし、この場合には、エアバッグの膨張に伴う並設方向の寸法変化を抑制できる反面、エアバッグにおける各膨張領域の膨張高さが低くなり、サブマリン現象を抑制する効果が充分得られない。
【0008】
なお、特許文献2には、エアバッグ装置を一人掛けの車両用シートに適用した例が記載されている。このエアバッグ装置では、車両の衝突時に膨張し、かつ互いに連結された複数の膨張部がエアバッグに設けられている。このエアバッグ装置によれば、膨張部に乗員による負荷が加わっても、連結部分により膨張部の移動が抑制されるため、エアバッグ自体の形状が大きく変化することがなく、乗員の移動が抑制される。
【0009】
従って、特許文献2に記載された上記技術を複数人掛けの車両用シートに適用することも考えられる。しかし、この場合であっても、膨張に伴い寸法変化する、各膨張部が充分な高さまで膨張しないといった問題については、上記特許文献1に記載されたエアバッグ装置と同様に起こり得る。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、シートクッションの座面において隆起させられる箇所が、エアバッグの膨張領域の並設方向に狭くなるのを抑制しつつ、各膨張領域を充分な高さまで膨張させることのできるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、シートクッションに複数の着座部が並設された複数人掛けの車両用シートに適用されるものであり、前記着座部と同数の膨張領域が同着座部の並設方向に沿って並設され、かつ隣り合う膨張領域が連通された状態のエアバッグを備え、同エアバッグの各膨張領域を、対応する前記着座部の座面よりも下方に配設し、膨張流体供給源から供給される膨張流体により前記各膨張領域を膨張させて前記着座部毎の座面を隆起させることで、同座面に着座した乗員の前方への移動を抑制するようにしたエアバッグ装置であって、前記エアバッグにおいて前記膨張領域の並設方向についての両側部を車両に固定し、前記エアバッグの隣り合う膨張領域間には、前記膨張流体により膨張しない非膨張領域を設け、さらに、前記非膨張領域には、自身が変形することで、前記膨張領域の膨張に伴う前記並設方向への収縮を許容する収縮許容部を設けることを要旨とする。
【0012】
上記の構成によれば、車両への衝撃に応じ膨張流体供給源から膨張流体がエアバッグに供給されると、そのエアバッグにおける複数の膨張領域がそれぞれ膨張する。この膨張により、各着座部の座面が隆起させられ、慣性力により前方移動しようとする乗員の大腿部が拘束され、同乗員のサブマリン現象が抑制される。
【0013】
ここで、上記各膨張領域は、膨張流体が供給されると大きな曲率で曲面状に膨張しようとする。これに伴いエアバッグにおける寸法が、同エアバッグが膨張流体を充填されることなく展開させられたときの寸法よりも小さくなろうとする。特に、請求項1に記載の発明におけるような複数の膨張領域が並設されたエアバッグでは、同並設方向の寸法についての減少量が、前後方向の寸法についての減少量よりも多くなる傾向にある。
【0014】
しかし、エアバッグが、膨張領域の並設方向についての両側部において車両に固定されている請求項1に記載の発明では、同エアバッグの並設方向についての両側部の位置が変化せず、エアバッグが並設方向に寸法変化を起こしにくい。従って、同方向にエアバッグの寸法が小さくなることによる不具合、すなわち、シートクッションの座面においてエアバッグによって隆起させられる箇所が、同エアバッグの膨張領域の並設方向に狭くなる現象を抑制することができる。
【0015】
ただし、エアバッグを単に固定しただけでは、エアバッグにおける各膨張領域が並設方向に引張られて、それらの上方への膨張が規制される。エアバッグが並設方向についての両側部において車両に固定されていないものに比べ、各膨張領域の膨張高さが低くなり、それに伴い座面の高さも充分高くならない。
【0016】
この点、隣り合う膨張領域間に非膨張領域を設け、その非膨張領域に収縮許容部を設けた請求項1に記載の発明では、膨張のできない収縮許容部自身が変形することで、膨張領域の膨張に伴う並設方向への収縮が許容される。膨張領域は並設方向へ収縮することで、収縮しない場合よりも高い位置まで膨張する。これに伴い、膨張領域によって隆起させられる座面の高さが高くなり、サブマリン現象を抑制する効果が充分得られる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記収縮許容部は、前記エアバッグにおける隣り合う膨張領域間で前後方向に延びるスリットからなることを要旨とする。
【0018】
上記の構成によれば、隣り合う膨張領域が膨張する際、両膨張領域間の非膨張領域において前後方向に延びるスリットが並設方向へ拡開する。この際の拡開の量は、スリットが他の方向へ延びるように形成された場合よりも多くなる。この拡開により、膨張領域の膨張に伴う並設方向への収縮が許容され、同膨張領域が高い位置まで膨張するようになる。請求項1に記載の発明における収縮許容部による上記効果がスリットの拡開により得られる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記エアバッグは、前記スリットの前方近傍及び後方近傍の少なくとも一方において前記車両に固定されていることを要旨とする。
【0020】
エアバッグがスリットの前方近傍及び後方近傍の少なくとも一方において車両に固定されている上記請求項3に記載の発明では、そのスリットの位置(並設方向についての位置を含む)が変化しにくい。そのため、スリットが隣り合う膨張領域の適正な位置からずれること、ひいては各膨張領域が各着座部の下方となる初期の箇所からずれることを抑制することができる。
【0021】
なお、エアバッグの車両に対する上記固定位置は、スリットの拡開に影響を及ぼしにくい位置である。そのため、エアバッグが上記位置で固定されることにより、膨張領域の膨張に伴う並設方向への収縮が阻害されることは起こりにくい。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記スリットは、前記非膨張領域の前記並設方向についての中央部に設けられており、前記エアバッグは、前記非膨張領域の前記スリットと同一線上において前記車両に固定されていることを要旨とする。
【0023】
上記の箇所でエアバッグが車両に固定されることにより、スリットを挟んで隣り合う膨張領域がともに膨張したときには、収縮による引張り力がスリットに対し並設方向両側から同程度に作用する。スリットが並設方向両側へ同程度ずつ拡開することとなり、両膨張領域が同程度ずつ上方へ膨張することが可能となる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記複数の膨張領域の少なくとも1つにおける前後方向中間部には、同膨張領域を前後に連通した状態で隣り合う前部膨張領域及び後部膨張領域に区画し、かつ前記膨張流体により膨張しない補助非膨張領域が設けられ、さらに、前記補助非膨張領域には、自身が変形することで、前記前部膨張領域及び前記後部膨張領域の各膨張に伴う前後方向への収縮を許容する補助収縮許容部が設けられていることを要旨とする。
【0025】
上記の構成によれば、隣り合う一対の膨張領域では、膨張流体供給源からの膨張流体が、補助非膨張領域を挟んで前部膨張領域及び後部膨張領域に振り分けられて供給される。補助非膨張領域は膨張流体により膨張しないため、その分の膨張流体も前部膨張領域及び後部膨張領域に振り分けられる。前部膨張領域及び後部膨張領域のそれぞれには、補助非膨張領域の設けられていない場合よりも多くの膨張流体が供給される。
【0026】
また、補助収縮許容部では、前部膨張領域及び後部膨張領域の各膨張に際し、上述した収縮許容部と同様の作用が行われる。すなわち、膨張のできない補助収縮許容部自身が変形することで、前部膨張領域及び後部膨張領域の各膨張に伴う前後方向への収縮が許容される。前部膨張領域及び後部膨張領域はそれぞれ前後方向へ収縮することで、収縮しない場合よりも高い位置まで膨張する。これに伴い、膨張領域によって隆起させられる座面の高さが高くなり、サブマリン現象がより確実に抑制される。
【0027】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記補助収縮許容部は、前記前部膨張領域及び前記後部膨張領域間で前記並設方向に延びる補助スリットからなることを要旨とする。
【0028】
上記の構成によれば、互いに前後方向に隣り合う前部膨張領域及び後部膨張領域が膨張する際、前後両膨張領域間の補助非膨張領域において上記並設方向に延びる補助スリットが前後方向へ拡開する。この際の拡開の量は、補助スリットが他の方向へ延びるように形成された場合よりも多くなる。この拡開により、前部膨張領域及び後部膨張領域の膨張に伴う前後方向への収縮が許容され、前後両膨張領域がより高い位置まで膨張するようになる。請求項5に記載の発明における補助収縮許容部による上記効果が補助スリットの拡開により得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のエアバッグ装置によれば、エアバッグの隣り合う膨張領域間に、収縮許容部を有する非膨張領域を設けたため、シートクッションの座面において隆起させられる箇所がエアバッグの膨張領域の並設方向に狭くなるのを抑制しつつ、各膨張領域を充分な高さまで膨張させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図9を参照して説明する。なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下、左、右を規定している。また、各図において、「前」は車両前側を、「後」は車両後側をそれぞれ示している。
【0031】
まず、本実施形態のエアバッグ装置が適用される車両用シートの概略構成について説明する。
図1及び図3の少なくとも一方に示すように、車室10の後部側には、複数人掛けの車両用シートとして三人掛けのベンチシート11が配設されている。ベンチシート11は、3席共通のシートクッション12(座部)と、シートクッション12の後端側に配置されたシートバック(背もたれ部)13と、シートバック13の上側に配置されたヘッドレスト14とを備えて構成されている。
【0032】
上記シートクッション12は、互いに車幅方向に並設された着座部15〜17を有する。従って、着座部15〜17の並設方向は車幅方向と合致する。着座部15〜17の各上面は乗員Pが着座する座面18〜20を構成している。乗員Pは車両の前方を向いた姿勢で座面18〜20のいずれかに着座することとなる。従って、着座姿勢を採る乗員Pの前後方向は車両の前後方向と合致する。
【0033】
上記シートクッション12は、車両ボディの一部をなす金属製の後部フロアパン21上に載置されている。後部フロアパン21の後部は略水平に形成され、前部は前側ほど高くなるよう傾斜している。図2において二点鎖線で示すように、シートクッション12の前端部の2箇所と後端部の1箇所とには係止部22,23が設けられており、これらの係止部22,23においてシートクッション12が後部フロアパン21に係止されている。前端側の係止部22は、シートクッション12の車幅方向についての両側部に設けられ、後端部の係止部23はシートクッション12の車幅方向についての中央部に設けられている。
【0034】
図3及び図4に示すように、車両には、ベンチシート11に着座した乗員Pを拘束するためのシートベルト装置30が装備されている。
シートベルト装置30は、乗員Pを拘束する帯状のウェビング31と、ウェビング31に対しその長手方向への移動可能に取り付けられたタング32と、シートクッション12の一方の側方に配置されてタング32が係脱可能に装着されるバックル33とを備えている。ウェビング31は、その一端部が、シートクッション12においてバックル33の配設されていない側に固定され、他端部がベルト巻取り装置(図示略)により巻き取られる構成とされている。シートベルト装置30では、ウェビング31に対してタング32を摺動させることで、ラップベルト部34及びショルダベルト部35の各長さを変更可能である。
【0035】
ラップベルト部34は、ウェビング31において、タング32からウェビング31の端部までの部分であり、着座した乗員Pの腰部Ppの一側方から水平方向に腰部Ppの前を経由して他側方に架け渡される。ショルダベルト部35は、ウェビング31において、タング32からベルト巻取り装置までの部分であり、着座した乗員Pの肩部Psから斜めに胸部Ptの前を経由して腰部Ppの側方に架け渡される。なお、図1、図2、図5、図6では、シートベルト装置30の図示が省略されている。
【0036】
上記車両には、サブマリン現象を抑制するためのエアバッグ装置が装備されている。サブマリン現象は、前突等により、車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、シートベルト装置30によってベンチシート11に拘束されている乗員Pの腰部Ppが、ラップベルト部34から外れて前方へ移動してしまう現象である。
【0037】
図5に示すように、エアバッグ装置は、エアバッグモジュールAM、衝撃センサ71及び制御装置72を備えて構成されている。
エアバッグモジュールAMは、膨張流体供給源としてのインフレータ40と、そのインフレータ40から供給される膨張流体としての膨張用ガスG(図6参照)により膨張するエアバッグ50とを備えている。次に、これらの各構成部材について説明する。
【0038】
<インフレータ40>
インフレータ40には膨張用ガスGの生成態様の違いから複数のタイプがあるが、ここでは、パイロタイプと呼ばれるインフレータ40が用いられている。図3及び図5の少なくとも一方に示すように、インフレータ40は略円柱状をなしており、その軸線を車幅方向(図3では紙面に直交する方向、図5では左右方向)に合致させた状態で、後部フロアパン21上であって座面19の前端下方に配置されている。インフレータ40にはブラケット42が設けられており、このブラケット42において、インフレータ40がボルト及びナット(図示略)により後部フロアパン21に締結されている。
【0039】
インフレータ40の内部には、発熱を伴う化学反応によって膨張用ガスGを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ40の一方の端部には、上記ガス発生剤にて発生された膨張用ガスGを噴出する複数のガス噴出孔43が設けられている。また、インフレータ40の他方の端部には、インフレータ40への制御信号の印加配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0040】
なお、インフレータ40として、上記パイロタイプとは異なるタイプが用いられてもよい。こうしたタイプとしては、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスGを噴出させるストアードガスタイプや、パイロタイプとストアードガスタイプの両者を組み合わせた形態のハイブリッドタイプ等が挙げられる。
【0041】
<エアバッグ50>
エアバッグ50は、図4及び図5の少なくとも一方に示すように、車幅方向に細長い平面略長方形状をなす上下一対の布帛51,52(基布、パネル布等と呼ばれることもある)を備えている。なお、図5では、下側の布帛52を上側の布帛51とともに図示するために、上側の布帛51の一部が破断された状態で図示されている。各布帛51,52は、ポリエステル糸、ポリアミド糸等を経糸及び緯糸とした織布によって形成されており、高い強度と可撓性とを有している。
【0042】
エアバッグ50は、上記のように2枚の布帛51,52によって構成されるもののほか、1枚の布帛によって構成されるものであってもよい。この場合、所定形状をなす布帛が中央部分で二つに折られる。
【0043】
両布帛51,52は、結合部53において気密状態で結合されている。図5では、結合部53は、上側の布帛51が破断されていない箇所では太い破線(符号53A参照)で示され、上側の布帛51が破断されて下側の布帛52が表出している箇所では、二点鎖線(符号53B参照)で示されている。
【0044】
また、結合部53の一部を除く大部分は、上下両布帛51,52の周縁部を縫糸で縫合することにより構成されている。ここでの一部は、エアバッグ50の内部空間を車幅方向に複数(この場合3つ)の膨張領域に区画する区画部54,55となっている。各区画部54,55は、車幅方向に略一定距離を隔てた状態で上下両布帛51,52の後端部から前方へ向けて延びる一対の延出部56と、両延出部56の前端を接続する接続部57とに区別することができる。接続部57は、上下両布帛51,52の前後方向中間部に位置している。区画部54は着座部15,16の境界部分に位置し、区画部55は着座部16,17の境界部分に位置している。
【0045】
なお、結合部53は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。
上記エアバッグ50は、膨張用ガスGを充填されることなく展開させられた状態で、後部フロアパン21及びシートクッション12間に配置されている。エアバッグ50の前後方向における位置は、シートクッション12に着座した乗員Pの膝部Pnから臀部Pb付近の下方である。
【0046】
エアバッグ50内において、上記区画部54よりも図5中右側の領域は、着座部15の座面18よりも下方に位置しており、インフレータ40からの膨張用ガスGにより膨張する膨張領域A1となっている。また、エアバッグ50内において、上記両区画部54,55によって挟まれた領域は、着座部16の座面19よりも下方に位置しており、上記膨張用ガスGにより膨張する膨張領域A2となっている。エアバッグ50内において、上記区画部55よりも図5中左側の領域は、着座部17の座面20よりも下方に位置しており、上記膨張用ガスGにより膨張する膨張領域A3となっている。表現を変えると、エアバッグ50には、着座部15〜17と同数(3つ)の膨張領域A1〜A3が同着座部15〜17の並設方向に沿って並設されている。そして、エアバッグ50の各膨張領域A1〜A3は、対応する着座部15〜17の座面18〜20よりも下方に位置している。隣り合う膨張領域A1,A2及び膨張領域A2,A3は相互に連通されている。従って、各膨張領域A1〜A3の並設方向は、車幅方向と合致する。
【0047】
エアバッグ50内において、上記膨張領域A2よりも前側には膨張用ガスGの導入領域A4が設けられており、ガス噴出孔43を含む上記インフレータ40の一端部がこの導入領域A4に配置されている。エアバッグ50は、上記導入領域A4の外側に配置された締結バンド60によってインフレータ40に気密状態で締め付け固定されている。
【0048】
上記エアバッグ50の前端部の複数箇所には、その上下両側から、強度の高い材料、例えば金属からなる取付プレート58が配置され、上下両取付プレート58がエアバッグ50を挟んだ状態で、かしめ等の方法によって相互に連結されている。そして、取付プレート58は、ボルト及びナット(図示略)によって後部フロアパン21に固定されている。
【0049】
さらに、区画部54において両延出部56,56及び接続部57によって囲まれた部分と、区画部55において両延出部56,56及び接続部57によって囲まれた部分とは、膨張用ガスGが供給されず膨張することのない非膨張領域Bとなっている。
【0050】
図5及び図7(A)の少なくとも一方に示すように、各非膨張領域Bには、自身が変形することで、隣接する膨張領域A1,A2又は膨張領域A2,A3の膨張に伴う車幅方向への収縮を許容する収縮許容部が設けられている。各収縮許容部は、エアバッグ50の隣り合う膨張領域A1,A2間又は膨張領域A2,A3間において前後方向に延びるように形成されたスリット61からなる。各スリット61は非膨張領域Bの車幅方向についての中央部に設けられている。
【0051】
上記エアバッグ50は、各スリット61の前方近傍及び後方近傍において後部フロアパン21に対し締結具62によって固定されている。ここでは、非膨張領域Bのスリット61と同一線上となる箇所であって、スリット61の前方近傍位置及び後方近傍位置が、エアバッグ50におけるスリット61近傍部分の後部フロアパン21に対する固定箇所として設定されている。
【0052】
上述したように、エアバッグ装置は、上記エアバッグモジュールAMのほかに衝撃センサ71及び制御装置72を備えている。衝撃センサ71は加速度センサ等からなり、車両のフロントバンパ(図示略)等に取付けられており、フロントバンパ等に前方から加わる衝撃を検出する。制御装置72は、衝撃センサ71からの検出信号に基づきインフレータ40の作動を制御する。
【0053】
上記のようにして構成された本実施形態のエアバッグ装置は、次のように作用する。
エアバッグ50は展開させられた状態でシートクッション12の下方に配置されているため、乗員Pが昇降するときや、着座位置を変えたとき等にシートクッション12を通じて押されることがある。しかし、このエアバッグ50は車幅方向両側部において車両(後部フロアパン21)に固定されているため、車幅方向へ位置ずれを起こしにくい。また、エアバッグ50は、その前端部と、後部の非膨張領域Bにおいて上記後部フロアパン21に固定されていることから、前後方向にも位置ずれを起こしにくい。
【0054】
走行中の車両が前突等により走行を停止すると、シートクッション12に着座した乗員Pは、慣性力により前方へ移動しようとする。また、上記前突により車両のフロントバンパに所定値以上の衝撃が加わると、エアバッグ装置では、そのことが衝撃センサ71によって検出される。その検出信号に基づき制御装置72からインフレータ40に対し、これを作動させるための指令信号が出力される。この指令信号に応じて、インフレータ40では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生し、これをガス噴出孔43から噴出する。この膨張用ガスGが供給されることで、エアバッグ50内の各膨張領域A1〜A3がそれぞれ膨張する。
【0055】
この膨張により、図9に示すように、各着座部15〜17の座面18〜20が隆起させられる。隆起の対象となる箇所は、前後方向については、後部を除く箇所である。各座面18〜20の中間部分よりも後側の部分の隆起により、乗員Pの大腿部Pf及びその近傍が上方へ押圧されて押し上げられる。乗員Pの腰部Ppがシートベルト装置30のラップベルト部34に押し付けられる。この押し付けにより、ラップベルト部34の拘束力が高められ、腰部Ppの前方移動が規制される。また、各座面18〜20の中間部分よりも前側の部分が隆起して、他の箇所よりも高くなり、乗員Pの前方への移動が抑制される。
【0056】
ここで、上記各膨張領域A1〜A3は、膨張用ガスGが供給されると大きな曲率で曲面状に膨張しようとする。これに伴いエアバッグ50における寸法が、同エアバッグ50が膨張用ガスGを充填されることなく展開させられたときの寸法よりも小さくなろうとする。特に、第1実施形態におけるような車幅方向に細長いエアバッグ50では、車幅方向の寸法についての減少量が、前後方向の寸法についての減少量よりも多くなる。
【0057】
しかし、エアバッグ50が、その車幅方向両側部において後部フロアパン21に固定されている第1実施形態では、同エアバッグ50の車幅方向両側部の位置が変化せず、エアバッグ50が車幅方向に寸法変化を起こしにくい。エアバッグ50によって隆起させられる座面18〜20(エアバッグ50による乗員Pの保護領域)が車幅方向に狭くなりにくい。
【0058】
ただし、エアバッグ50を単に固定しただけでは、すなわち、収縮許容部(スリット61)が設けられていないと、エアバッグ50における各膨張領域A1〜A3が車幅方向に引張られて、それらの上方への膨張が規制される。図8(A)は、収縮許容部(スリット61)が設けられていないエアバッグ50の各膨張領域A1〜A3が膨張した場合において、前後方向に直交する断面での各膨張領域A1〜A3の形態を示している。この図8(A)に示すように、上記上方への膨張規制により各膨張領域A1〜A3の膨張高さH1が低くなり、それに伴い座面18〜20の高さも充分高くならない。ここで、上記断面において円弧状となっている各膨張領域A1〜A3の車幅方向の長さを「周長L」というものとする。この周長Lは、各膨張領域A1〜A3の膨張時の形態に拘わらず一定となる。
【0059】
この点、隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間に非膨張領域Bが設けられ、その非膨張領域Bに収縮許容部が設けられた第1実施形態では、膨張のできない収縮許容部自身が変形することで膨張領域A1〜A3の膨張に伴う車幅方向への収縮が許容される。隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間において前後方向に延びるスリット61を収縮許容部とした第1実施形態では、図7(B)に示すようにスリット61が車幅方向へ拡開することにより、各膨張領域A1〜A3の上記車幅方向の収縮が許容される。この際の拡開の量は、スリット61が他の方向へ延びるように形成された場合よりも多くなる。上述したように、各膨張領域A1〜A3が、その膨張の形態に拘わらず周長L一定のもとで膨張することから、同膨張領域A1〜A3は、図8(B)に示すように車幅方向へ収縮することで、上方へ膨張することが可能となる。各膨張領域A1〜A3の膨張高さH2が、収縮しない場合の膨張高さH1(図8(A)参照)よりも高くなる。これに伴い膨張領域A1〜A3によって座面18〜20がより高い位置まで隆起させられる。
【0060】
また、図7(B)に示すように、エアバッグ50がスリット61の前方近傍及び後方近傍において締結具62によって後部フロアパン21に固定されていることから、そのスリット61の位置(車幅方向についての位置及び前後方向についての位置を含む)が変化しにくい。そのため、スリット61が隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間の初期の位置からずれることが起こりにくい。特に、第1実施形態では、エアバッグ50におけるスリット61近傍部分の後部フロアパン21に対する固定箇所として、非膨張領域Bのスリット61と同一線上が設定されている。そのため、スリット61を挟んで隣り合う膨張領域A1,A2及び膨張領域A2,A3がともに膨張したときには、収縮による引張り力がスリット61に対し車幅方向両側から同程度に作用する。スリット61が車幅方向両側へ同程度ずつ拡開することとなり、両膨張領域A1,A2及び両膨張領域A2,A3が同程度ずつ上方へ膨張することが可能となる。
【0061】
さらに、エアバッグ50よりも前側に配置されて後部フロアパン21に固定されたインフレータ40は、上述したようにエアバッグ50に膨張用ガスGを供給する機能を発揮するほか、膨張用ガスGにより膨張するエアバッグ50の前方への動きを規制する機能を発揮する。
【0062】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ50を、膨張領域A1〜A3の並設方向(車幅方向)についての両側部において車両の後部フロアパン21に固定している。そのため、膨張に伴いエアバッグ50の車幅方向の寸法が小さくなるのを抑制し、シートクッション12の座面18〜20(エアバッグ50による乗員Pの保護領域)においてエアバッグ50によって隆起させられる箇所が、同エアバッグ50の膨張領域A1〜A3の車幅方向に狭まる不具合を抑制することができる。
【0063】
(2)隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間にそれぞれ非膨張領域Bを設け、非膨張領域B毎に収縮許容部を設けている。そのため、各膨張領域A1〜A3をより高い位置まで膨張させ、これに伴い各膨張領域A1〜A3に対応する座面18〜20をより高い位置まで隆起させることができ、サブマリン現象を抑制する効果を充分得ることができる。
【0064】
(3)エアバッグ50における隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間において前後方向に延びるスリット61を形成し、これを収縮許容部としている。そのため、このスリット61を車幅方向へ拡開させることで、膨張領域A1〜A3の膨張に伴う車幅方向への収縮を許容し、同膨張領域A1〜A3をより高い位置まで膨張させることができる。収縮許容部による上記(2)の効果を、スリット61の拡開により得ることができる。
【0065】
(4)エアバッグ50を、スリット61の前方近傍及び後方近傍において後部フロアパン21に固定している。そのため、エアバッグ50の膨張に伴い、スリット61が隣り合う膨張領域A1,A2間及び膨張領域A2,A3間の適正な位置からずれること、ひいては各膨張領域A1〜A3が各着座部15〜17の下方となる箇所からずれる不具合を抑制することができる。
【0066】
なお、エアバッグ50の後部フロアパン21に対する上記固定位置は、スリット61の拡開に影響を及ぼしにくい位置である。そのため、エアバッグ50が上記位置で固定されることにより、膨張領域A1〜A3の膨張に伴う並設方向への収縮が阻害されることは起こりにくい。
【0067】
(5)スリット61を非膨張領域Bの車幅方向についての中央部に設け、エアバッグ50を、非膨張領域Bのスリット61と同一線上において後部フロアパン21に固定している。そのため、スリット61を挟んで隣り合う膨張領域A1,A2及び膨張領域A2,A3を同程度ずつバランスよく上方へ膨張させることができる。
【0068】
(6)インフレータ40をエアバッグ50の載置される後部フロアパン21上であって同エアバッグ50の前方に配置し、同後部フロアパン21に固定している。そのため、前突等の衝撃により前方へ移動しようとする乗員Pによってエアバッグ50が押されても、エアバッグ50が不用意に前方へ動く現象をインフレータ40によって抑制し、同エアバッグ50を上方へ膨張させ、乗員Pの前方移動を確実に抑制することができる。
【0069】
特に、上述したようにシートクッション12の前端部は、車幅方向についての両側部に設けられた係止部22において後部フロアパン21に係止されていて(図2参照)、中央部において後部フロアパン21に係止されていない。そのため、エアバッグ50が膨張したとき、シートクッション12の前端部では中央部分が両側部分よりも後部フロアパン21から上方へ大きく押し上げられて空隙が生じやすい。エアバッグ50の車幅方向についての中央部分は、この空隙を通ることで、両側部分よりも前方へ移動しやすい。従って、上記のようにこの箇所にインフレータ40を配置・固定することで、エアバッグ50の中央部分の前方への移動を効果的に抑制することができる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に、図10〜図13を参照して説明する。第2実施形態では、図10及び図13(A)の少なくとも一方に示すように、上下両布帛51,52が、上述した結合部53に加え、膨張領域A1〜A3毎の補助結合部75において気密状態で結合されている。各補助結合部75の位置は、各膨張領域A1〜A3における前後方向についての中間部である。各補助結合部75は無端状をなしている。ここではその一態様として、各補助結合部75が車幅方向に細長い平面略長方形状をなしている。この形状に代え、各補助結合部75は車幅方向に細長い平面長円形状であってもよい。各補助結合部75は、上下両布帛51,52を縫糸で縫合することにより形成されている。図10、図11、図13では、縫糸による補助結合部75が太い破線で図示されている。なお、補助結合部75は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。
【0071】
上下両布帛51,52間の空間であって各補助結合部75によって囲まれた領域は、膨張用ガスGが供給されず、膨張することのない補助非膨張領域Cとなっている。そして、各補助非膨張領域Cにより、各膨張領域A1〜A3は、前後に隣り合う前部膨張領域A1f,A2f,A3fと、後部膨張領域A1r,A2r,A3rとに区画されている。上記各補助結合部75の車幅方向両側部は、上記結合部53(区画部54,55を含む)から所定距離以上離れている。この構成により、前部膨張領域A1f〜A3fと、後部膨張領域A1r〜A3rとは、各補助非膨張領域Cの車幅方向両側の連通領域Dを介して相互に連通している。
【0072】
各補助非膨張領域Cには、自身が変形することで、前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rの各膨張に伴う前後方向への収縮を許容する補助収縮許容部が設けられている。各補助収縮許容部は、エアバッグ50について隣り合う前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3r間で車幅方向に延びるように形成された補助スリット76からなる。各補助スリット76は補助非膨張領域Cの前後方向についての中央部に設けられている。
【0073】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において第1実施形態と同様の部材、箇所等については、第1実施形態と同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0074】
上記の構成を有する第2実施形態のエアバッグ装置によると、図11及び図13(B)の少なくとも一方に示すように、補助収縮許容部(補助スリット76)を有する膨張領域A1〜A3では、インフレータ40からの膨張用ガスGが、前部膨張領域A1f〜A3f→連通領域D→後部膨張領域A1r〜A3rの順に流れる。同膨張用ガスGは、補助非膨張領域Cを挟んで前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rに振り分けられて供給される。補助非膨張領域Cは膨張用ガスGにより膨張しないため、その分の膨張用ガスGも前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rに振り分けられる。前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rには、補助非膨張領域Cの設けられていない場合よりも多くの膨張用ガスGが供給される。
【0075】
また、補助収縮許容部は、前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rの各膨張に際し、上述した収縮許容部と同様に作用する。すなわち、膨張のできない補助収縮許容部自身が変形することで、前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rの各膨張に伴う前後方向への収縮が許容される。前後方向に隣り合う前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3r間において車幅方向に延びる補助スリット76を補助収縮許容部とした第2実施形態では、補助スリット76が前後方向へ拡開することにより、上記前後方向の収縮が許容される。前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rはそれぞれ前後方向へ収縮することで、上方へ膨張することが可能となる。図12に示すように、前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rが、収縮しない場合よりも高い位置まで膨張する。これに伴い前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rによって隆起させられる座面18〜20の高さが高くなる。
【0076】
従って、第2実施形態によれば、第1実施形態における上記(1)〜(6)に加え、次の効果が得られる。
(7)各膨張領域A1〜A3に補助非膨張領域Cを設けることにより、同膨張領域A1〜A3を、前後に連通した状態で隣り合う前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rに区画し、さらに、補助非膨張領域C毎に補助収縮許容部(補助スリット76)を設けている。そのため、補助非膨張領域Cの設けられていない場合よりも、多くの膨張用ガスGを前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rに供給して、これらをより高い位置まで膨張させることができる。
【0077】
また、前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rを膨張に伴い前後方向へ収縮させることで、収縮しない場合よりも高い位置まで膨張させることができる。これに伴い座面18〜20において前部膨張領域A1f〜A3fに対応する箇所と、後部膨張領域A1r〜A3rに対応する箇所とをそれぞれより高い位置まで隆起させることができる。前者の隆起により、乗員Pの大腿部Pfの前方移動をより確実に規制することができる。後者の隆起により、乗員Pの腰部Ppをラップベルト部34により確実に押し付けることができる。結果として、サブマリン現象を抑制する効果をより確実に得ることができる。
【0078】
(8)膨張領域A1〜A3毎の前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3r間に車幅方向に延びる補助スリット76を形成し、これを補助収縮許容部としている。そのため、この補助スリット76を前後方向へ拡開させることで、前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rの膨張に伴う前後方向への収縮を許容し、同前部膨張領域A1f〜A3f及び後部膨張領域A1r〜A3rをより高い位置まで膨張させることができる。補助収縮許容部による上記(7)の効果を、補助スリット76の拡開により得ることができる。
【0079】
(9)補助非膨張領域C及び補助収縮許容部(補助スリット76)の前後位置を、前方寄りに設定することで、膨張領域A1〜A3の膨張時の容積一定のもと、前部膨張領域A1f〜A3fが膨張時に占める容積を大きくすることができる。この大きな前部膨張領域A1f〜A3fにより、乗員Pの大腿部Pfの前方移動を規制する大きな効果が得られる。これとは逆に、上記前後位置を、後方寄りに設定することで、後部膨張領域A1r〜A3rが膨張時に占める容積を大きくすることができる。この大きな後部膨張領域A1r〜A3rにより、乗員Pの腰部Ppをラップベルト部34に押し付ける大きな効果が得られる。
【0080】
従って、大腿部Pfの前方移動を抑制するよりも、腰部Ppをラップベルト部34に押付けたいという要求があった場合や、その逆の要求があった場合にも、補助非膨張領域C及び補助収縮許容部(補助スリット76)の前後位置を適切に設定することで上記の要求に容易に応えることができる。
【0081】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<インフレータ40について>
・インフレータ40を上記各実施形態とは異なる箇所、例えばシートクッション12の前後方向についての後端部に配置してもよい。また、インフレータ40をシートクッション12の車幅方向についての中央部から偏倚した箇所に配置してもよい。さらに、インフレータ40を上記各実施形態とは異なる向き、例えば、インフレータ40の軸線を前後方向に合致させた状態で配置してもよい。
【0082】
・上記各実施形態において、インフレータ40の全体をエアバッグ50の導入領域A4内に配置する構成に変更してもよい。
・上記各実施形態において、後部フロアパン21に下方へ凹む凹部を設け、ここにインフレータ40を配置してもよい。ただし、この場合には、インフレータ40がエアバッグ50の前方への移動を規制する機能は発揮されにくくなる。
【0083】
<エアバッグ50について>
・上記各実施形態において、エアバッグ50を前後方向に折り畳んだ状態でシートクッション12及び後部フロアパン21間に配置してもよい。
【0084】
・上下各実施形態において、座面18〜20よりも下方であることを条件に、エアバッグ50の上下位置を、シートクッション12及び後部フロアパン21とは異なる箇所に変更してもよい。
【0085】
・上記第2実施形態において、補助収縮許容部(補助スリット76)を有する補助非膨張領域Cを、複数の膨張領域A1〜A3のうちの1つ又は2つにのみ設けてもよい。
・上記各実施形態におけるスリット61は、図14に示すように、多少の幅をもったものであってもよい。表現を変えると、線状をなすものに限らず長孔形状を有するものもスリット61に含まれるものとする。なお、図示はしないが、第2実施形態における補助スリット76についても同様である。
【0086】
・スリット61を、非膨張領域Bの並設方向(車幅方向)についての中央部から同方向へ偏倚した箇所に設けてもよい。また、補助スリット76を、補助非膨張領域Cの前後方向についての中央部から同方向へ偏倚した箇所に設けてもよい。
【0087】
・スリット61の近傍におけるエアバッグ50の車両(後部フロアパン21)に対する固定位置を、スリット61の前方近傍のみ、又は後方近傍のみに変更してもよい。
・スリット61の近傍でエアバッグ50を後部フロアパン21に固定する箇所として、上記第1及び第2実施形態とは異なる箇所を設定してもよい。例えば、非膨張領域Bのスリット61と同一線上とはならない箇所を設定してもよい。
【0088】
・上記各実施形態において、スリット61の近傍でエアバッグ50を後部フロアパン21に固定する際、その固定箇所の数を「1」又は「3以上」としてもよい。
・上記各実施形態において、エアバッグ50のスリット61近傍での固定を省略してもよい。
【0089】
・上記各実施形態において、エアバッグ50の車両(後部フロアパン21)に対する固定箇所を、「膨張領域A1〜A3の並設方向両側部であること」を条件に変更してもよい。
【0090】
この場合、並設方向両側部であれば、その前後位置に拘わらず、エアバッグの並設方向への寸法の減少を抑制する効果が得られる。
ただし、エアバッグ50をその後部で固定するよりも前部で固定する方が望ましい。エアバッグ50を後部で固定した場合、前突により大きな衝撃が加わると、前方移動に伴い乗員Pがエアバッグ50を乗り越えるおそれがある。こうした現象が起ると、エアバッグ50による乗員Pの拘束(保護)性能が得られにくくなる。これに対し、エアバッグ50を前部で固定した場合には、上記のように大きな衝撃が加わって乗員Pが前方へ移動しても、エアバッグ50が乗員Pによって押されて前方へ動き、前部固定部分で止まる。そのため、乗員Pがエアバッグ50を乗り越える上記の現象を抑制することができる。
【0091】
・エアバッグ50を、車両の後部フロアパン21とは異なる箇所に固定してもよい。
<その他>
・本発明のエアバッグ装置は、シートクッション12に複数の着座部が並設された複数人掛けの車両用シートであれば適用可能であり、例えば車両の前席及び後席のいずれも適用対象である。また、本発明のエアバッグ装置は、3人掛け以外の複数人掛け(例えば二人掛け)の車両用シートにも適用可能である。
【0092】
また、本発明のエアバッグ装置は、シートクッション12に複数の着座部15〜17が車両の車幅方向以外の方向に並設された車両用シートにも適用可能である。例えば、着座部15〜17が車両の前後方向に並設された車両用シートは、これに該当する。この場合、複数の着座部15〜17及びエアバッグ50における膨張領域A1〜A3の並設方向は車両の前後方向と合致する。また、着座姿勢を採る乗員Pの前後方向は、車幅方向と合致する。
【0093】
・膨張流体として膨張用ガスG以外の流体を用いてもよい。これに伴い膨張流体供給源として上記インフレータ40とは異なる構成を有するものを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態のエアバッグ装置が適用されたベンチシートを示す斜視図。
【図2】同実施形態における着座部とエアバッグとの位置関係を示す部分平面図。
【図3】図2のQ−Q線に沿った断面構造を示す断面図。
【図4】図3のR部を拡大して示す部分断面図。
【図5】同実施形態におけるエアバッグモジュールを示す一部破断平面図。
【図6】図5におけるエアバッグが膨張したときのエアバッグモジュールを示す一部破断平面図。
【図7】(A)は図5におけるS部を拡大して示す部分平面図、(B)は図6におけるT部を拡大して示す部分平面図。
【図8】(A)はスリットを設けない場合の各膨張領域の膨張態様を示す説明図、(B)はスリットを設けた場合の各膨張領域の膨張態様を示す説明図。
【図9】図4の状態からエアバッグが膨張して座面が隆起させられた状態を示すエアバッグ装置及びベンチシートの部分側断面図。
【図10】本発明を具体化した第2実施形態におけるエアバッグモジュールを示す一部破断平面図。
【図11】図10におけるエアバッグが膨張したときのエアバッグモジュールを示す一部破断平面図。
【図12】同実施形態において、図9に対応してエアバッグが膨張して座面が隆起させられた状態を示すエアバッグ装置及びベンチシートの部分側断面図。
【図13】(A)は図10におけるU部を拡大して示す部分平面図、(B)は図11におけるV部を拡大して示す部分平面図。
【図14】図7(A)に対応する図であり、スリットの別の実施形態を示す部分平面図。
【符号の説明】
【0095】
11…ベンチシート(車両用シート)、12…シートクッション、15〜17…着座部、18〜20…座面、40…インフレータ(膨張流体供給源)、50…エアバッグ、61…スリット(収縮許容部)、76…補助スリット(補助収縮許容部)、G…膨張用ガス(膨張流体)、A1,A2,A3…膨張領域、A1f,A2f,A3f…前部膨張領域、A1r,A2r,A3r…後部膨張領域、B…非膨張領域、C…補助非膨張領域、P…乗員。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションに複数の着座部が並設された複数人掛けの車両用シートに適用されるものであり、
前記着座部と同数の膨張領域が同着座部の並設方向に沿って並設され、かつ隣り合う膨張領域が連通された状態のエアバッグを備え、同エアバッグの各膨張領域を、対応する前記着座部の座面よりも下方に配設し、膨張流体供給源から供給される膨張流体により前記各膨張領域を膨張させて前記着座部毎の座面を隆起させることで、同座面に着座した乗員の前方への移動を抑制するようにしたエアバッグ装置であって、
前記エアバッグにおいて前記膨張領域の並設方向についての両側部を車両に固定し、
前記エアバッグの隣り合う膨張領域間には、前記膨張流体により膨張しない非膨張領域を設け、
さらに、前記非膨張領域には、自身が変形することで、前記膨張領域の膨張に伴う前記並設方向への収縮を許容する収縮許容部を設けることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記収縮許容部は、前記エアバッグにおける隣り合う膨張領域間で前後方向に延びるスリットからなる請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグは、前記スリットの前方近傍及び後方近傍の少なくとも一方において前記車両に固定されている請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記非膨張領域の前記並設方向についての中央部に設けられており、
前記エアバッグは、前記非膨張領域の前記スリットと同一線上において前記車両に固定されている請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記複数の膨張領域の少なくとも1つにおける前後方向中間部には、同膨張領域を前後に連通した状態で隣り合う前部膨張領域及び後部膨張領域に区画し、かつ前記膨張流体により膨張しない補助非膨張領域が設けられ、
さらに、前記補助非膨張領域には、自身が変形することで、前記前部膨張領域及び前記後部膨張領域の各膨張に伴う前後方向への収縮を許容する補助収縮許容部が設けられている請求項1〜4のいずれか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記補助収縮許容部は、前記前部膨張領域及び前記後部膨張領域間で前記並設方向に延びる補助スリットからなる請求項5に記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−248675(P2009−248675A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97192(P2008−97192)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】