説明

エアロゾル噴射ノズル及びレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル

【課題】長尺方向と短尺方向とを有する射出開口を備え、気体に固体粒子を分散させて成るエアロゾルを噴射するエアロゾル噴射ノズルであって、このノズルから噴射されるエアロゾルの空間分布や速度分布をより均一なものとするための構造を提案する。
【解決手段】エアロゾルを導入する導入開口36と、略直交する長尺方向と短尺方向とを有しエアロゾルを噴射する射出開口31と、導入開口36から射出開口31までエアロゾルが通過する流路であって流体が進むにつれて流路面積が小さくなる面積漸減部33を有するエアロゾル流路30をエアロゾル噴射ノズル25に備える。面積漸減部33の流路断面積を、射出開口31の長尺方向と略平行な二本の線分82,82と二つの円弧81,81とで画成されるトラック形(競技場形)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラスト工法やエアロゾルデポジション法で利用される噴射用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属,セラミック,ガラス,プラスチック等で成るワークの部分的な表面研削処理を行う方法として、エアブラスト工法が知られている。この方法は、圧縮気体中に分散させた投射材(研磨剤などの微小な固体粒子)をノズルから噴射し、高速でワークに衝突させることによって、前記ワークの部分的な切削や研磨を行うものである。以下、気体中に分散されて気体中を浮遊している微小な固体粒子を「エアロゾル」と呼ぶ。
【0003】
また、従来、圧電アクチュエータ等として用いられるセラミックス薄膜を形成する方法として、エアロゾルデポジション法が知られている。この方法は、気体中にセラミックス微粒子を分散してなるエアロゾルをノズルから噴射し、高速で基板表面に吹き付けることによって、当該基板上で微粒子を粉砕し堆積させてセラミックス薄膜を形成するものである。エアロゾルデポジション法はセラミックス微粒子の常温衝撃固化現象を利用し、従来のセラミックス薄膜形成法において実施されていた1000℃以上での焼結プロセスを不要とするものである。そのため、寸法精度を考慮した薄膜設計を行う必要がなくなり、また、微粒子の破砕によって緻密なナノ結晶組織が形成され、きわめて平滑な表面を持つセラミックス薄膜を製造することができる。
【0004】
上述のエアブラスト工法を用いた加工やエアロゾルデポジション法を用いた成膜において、広い範囲において均一深さに研削したり均一厚さに成膜したりすることが必要となる場合がある。そこで、特許文献1では、射出開口が円形のノズルと比較してより広い範囲にエアロゾルを噴射するために有利なノズルの構造が提案されている。特許文献1に記載されたノズルは、エアロゾルを噴射する長尺方向と短尺方向とを有する矩形の導出開口を有し、前記ノズルの内部に、前記導出開口の短尺方向は開口に向けて短尺方向寸法が連続的に減少し且つ前記導出開口の長尺方向は開口に向けて長尺方向寸法が連続的に拡大する形状の断面積減少部分と、この断面積減少部分に続く断面積一定部分とを併せ持つ流路が設けられている。かかる構成により、前記ノズルの前記導出開口の長尺方向にわたって濃度が均一なエアロゾルを噴射させるとともに、噴射されたエアロゾルの飛散する方向及び速度を一定にする効果がうたわれている。
【特許文献1】特開2003−247080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ノズルを通過するエアロゾル中の固体粒子が気流に追従しているか否かは、ストークス数Sを用いて判断することができる。ストークス数Sが1よりも十分に小さい場合は、固体粒子は気流にほぼ追従し、ストークス数Sが1より大きい場合は、固体粒子は気流の動きに関係なく運動し、ストークス数Sが1に近ければ、固体粒子は気流にほぼ追従するものの完全には一致せず複雑な動きをする。これを前提にストークス数Sが1に近い固体粒子のノズル内の動きを考えると、ノズルの流路面積が急激に縮小すれば、固体粒子は気流の動きに追従しきれずにノズル内壁に衝突し、逆に、ノズルの流路面積が急激に拡大すれば、固体粒子は流路全体に均一に分散せず流路の略中央部分の固体粒子密度が他と比較して高くなることとなる。つまり、ノズルを通過する固体粒子のストークス数Sが1に近い場合にもノズルから噴射されたエアロゾルの濃度(固体粒子の空間分布)や、エアロゾルの速度分布を均一とするためには、ノズルの流路形状の変化をより緩やかにする必要がある。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、例えば、上記特許文献1に記載されているような長尺方向と短尺方向とを有する射出開口を備え、気体に固体粒子を分散させて成るエアロゾルを噴射するエアロゾル噴射ノズルであって、このノズルから噴射されるエアロゾルの空間分布や速度分布をより均一なものとするための構造を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエアロゾル噴射ノズルは、エアロゾルを導入する導入開口と、略直交する長尺方向と短尺方向とを有しエアロゾルを噴射する射出開口と、前記導入開口から前記射出開口までエアロゾルが通過する流路であって流体が進むにつれて流路面積が小さくなる面積漸減部を有するエアロゾル流路とを備え、前記エアロゾル流路の前記面積漸減部における流路横断面は、前記射出開口の長尺方向と略平行であって或点を対称の中心とする二本の直線と前記或点を中心とする円の前記二本の直線により挟まれた二つの円弧とで画成される形(以下、「トラック形」という)状であるものである。
【0008】
前記エアロゾル流路の前記面積漸減部は、二つの平面と二つの部分円錐面とで画成されているものであることがよい。
【0009】
また、前記射出開口はトラック形状であって、前記射出開口の長尺方向長さは前記導入開口の長尺方向長さよりも小さいものであってよい。
【0010】
さらに、前記面積漸減部は、前記エアロズル流路の中心線方向に沿って前記射出開口に近づくにつれて、前記二本の直線の間隔が徐々に狭まるとともに前記二つの円弧が属する前記円が徐々に縮径しているものであってよい。
【0011】
前記エアロゾル噴射ノズルは、エアロゾルデポジション法を実現する装置にエアロゾルを噴射するために備えることができる。
【0012】
本発明のレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルは、前記エアロゾル噴射ノズルと、前記エアロゾル噴射ノズルの前記導入開口に接続されたレデューサーとを備え、前記レデューサーは、エアロゾルを導入する略円形の入口開口と、前記エアロゾル噴射ノズルの導入開口と密接して接続される出口開口と、前記入口開口から前記出口開口までエアロゾルが通過する流路であって流体が進むにつれて流路面積が大きくなる面積漸増部を設けたエアロゾル流路とを有するものである。
【0013】
前記エアロゾル噴射ノズルの前記導入開口、前記レデューサーの前記出口開口、及び前記レデューサーの前記エアロゾル流路の前記面積漸減部における流路横断面は、共にトラック形状とすることができる。
【0014】
または、前記エアロゾル噴射ノズルの前記導入開口及び前記レデューサーの前記出口開口は共に円形状であり、前記レデューサーの前記エアロゾル流路は軸に対する母線の傾きが6°以下の円錐台形状とすることができる。
【0015】
また、本発明は、前記レデューサー付きエアロゾル噴射ノズルにおいて、前記エアロゾル噴射ノズルと前記レデューサーとが一体的に形成されているものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
本発明によれば、面積漸減部の流路は射出開口の長尺方向と略平行な二つの平面部で挟み込まれ且つ流路面積が漸減しているので、面積漸減部を通過するエアロゾルは、射出開口の長尺方向と略平行な方向にわたって均一に加速される。さらに、面積漸減部では、流路面積が滑らかに縮小されているのでエアロゾル流の流れの剥離は起こりにくく、しかも、流路横断面の形状の変化が緩やかであるのでエアロゾル中の固体粒子は気流の動きに追従して均一に分散される。よって、長尺方向と短尺方向とを有する射出開口を備えたエアロゾル噴射ノズルから噴射されるエアロゾルの空間分布や速度分布をより均一なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複説明を省略する。
【0019】
本発明に係るエアロゾル噴射ノズル及びレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルは、例えば、エアブラスト工法を用いた加工やエアロゾルデポジション法を用いた成膜の工程で、気体中に分散されている微小な固体粒子(以下、「エアロゾル」という)を噴射するために用いることができる。ここでは、エアロゾルデポジション法を用いた成膜の工程で使用するエアロゾル噴射ノズル及びレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルについて説明するが、本発明に係るエアロゾル噴射ノズル及びレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの用途は、本実施の形態に限定されない。
[成膜装置10]
まず、エアロゾル噴射ノズル(以下、単に「噴射ノズル25」という)を備える成膜装置10について説明する。なお、成膜装置10は噴射ノズル25及びレデューサー26を除いて公知のものを利用することができ、また、本発明は成膜装置10そのものの構成には限定されないので、ここでは成膜装置10の概略構成のみを説明する。
【0020】
図1はエアロゾルデポジション法を用いた成膜装置の概略構成を示した図である。図1に示すように、成膜装置10は、キャリアガスに材料粒子を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生器13と、内部で成膜を行うためのチャンバ14とを備えている。エアロゾル発生器13は、内部に材料粒子が収納された容器であり、この容器内にガスボンベ11からキャリアガス搬送管12を通じてキャリアガスを導入することにより、エアロゾルを発生させる。エアロゾル発生器13の上部にはエアロゾル搬送管24の一端が挿入され、このエアロゾル搬送管24の他端にはレデューサー26を介して噴射ノズル25が接続されている。
【0021】
前記材料粒子を構成する材料としては、エアロゾルデポジション法に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や、アルミナ等の無機粉体、樹脂等の有機粉体を使用することができる。本形態では、前記材料粒子を構成する材料としてセラミックスを用いる。前記材料粒子の粒径としても、エアロゾルデポジション法に使用可能な粒径であればよいが、例えば、数μm〜数十μm程度のものでよい。また、前記キャリアガスとしては、エアロゾルデポジション法に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスや、窒素、空気、酸素等を使用することができる。
【0022】
チャンバ14は、内部を減圧するための排気ポンプ18が接続された減圧容器であり、該チャンバ14の内部において、被処理物である基材16を保持するための基板ホルダ17が天井に設けられ、該基板ホルダ17の下方に噴射ノズル25が配置されている。基板ホルダ17には、基材16をその水平面を維持させながら前後方向及び左右方向に移動する移動機構(図示略)が備えられている。かかる構成により、チャンバ14の内部において、基板ホルダ17の下面に略水平方向に移動可能に吊り下げられた状態に保持されている基材16と、噴射ノズル25とが対向している。なお、基板23の材料としては特に限定されず、例えば、金属、シリコン、半導体、樹脂等であってよい。
【0023】
また、チャンバ14内において、噴射ノズル25と基材16との間には、噴射ノズル25から噴出するエアロゾルの濃度を測定するためのセンサ装置21が配設されている。このセンサ装置21から出力される信号は、フィードバック制御回路22へ送られて処理される。フィードバック制御回路22は、噴射ノズル25から基材16に噴射されるエアロゾルの濃度や基材16に衝突するエアロゾルの量を調整するために、エアロゾル発生器13やガスボンベ11を制御する。
【0024】
上記構成の成膜装置10を利用した成膜工程では、まず、エアロゾル発生器13でキャリアガスに材料粒子を分散させ、エアロゾルを発生させる。ここで、チャンバ14の内圧をエアロゾル発生器13の内圧と比較して低圧にすると、その差圧によって、エアロゾル発生器13内のエアロゾルは、エアロゾル搬送管24に吸い込まれ、これを経由してレデューサー26に供給される。さらに、エアロゾルはレデューサー26及び噴射ノズル25を通じて加速されて該噴射ノズル25から外部に噴出して基材16に吹き付けられる。このように、噴射ノズル25から噴射したエアロゾルを基材16の表面に高速で衝突させることにより、基板23の表面に衝突した材料粒子が破砕し、堆積することによって、セラミックス薄膜が形成される。
[噴射ノズル25]
続いて、噴射ノズル25について説明する。
【0025】
噴射ノズル25は、エアロゾルを導入する導入開口36と、エアロゾルを噴射する射出開口31と、導入開口36から射出開口31までエアロゾルが通過するエアロゾル流路30を備えている。射出開口31は長尺方向と短尺方向とを有する開口であり、導入開口36は略円形状の開口である。噴射ノズル25は、エアロゾル流路30の形状に特徴を有しており、ここでは、エアロゾル流路30について説明する。
【0026】
図2は本発明の実施の形態に係る噴射ノズルのエアロゾル流路形状の正面図、図3は噴射ノズルのエアロゾル流路形状の側面図、図4は噴射ノズルのエアロゾル流路形状の平面図、図5は図3におけるV−V矢視断面端面図、図6は噴射ノズルのエアロゾル流路形状の斜視図である。図2〜6では、噴射ノズル25の内部に設けられたエアロゾル流路30という空間の形状を理解するために、エアロゾル流路30の外形形状を実線で概念的に示し、噴射ノズル25の外形形状を二点鎖線で示している。エアロゾル流路30の外形形状は、すなわち、噴射ノズル25の内壁(内周)形状である。
【0027】
図2〜6に示すように、エアロゾル流路30は、射出開口31と連続し流路面積が略一定である面積一定部32と、面積一定部32と連続し流体が進むにつれて流路面積が小さくなる面積漸減部33とを、備えている。本実施の形態においては、面積漸減部33は導入開口36と連続している。ここで、導入開口36の中心と射出開口31の中心とを繋ぐ直線を「流路中心線60」といい、この流路中心線60と略直交するエアロゾル流路30の断面を「流路横断面」といい、この流路横断面の面積を「流路面積」という。
【0028】
エアロゾル流路30の面積一定部32は、射出開口31と略同一の流路横断面形状を有し、流路中心線60と略平行に延びている。射出開口31は、該射出開口31の中心となる点(中心点)を対称の中心とする二本の直線と、前記中心点を円心とする円の前記二本の直線により挟まれた二つの円弧とで画成される形(以下、「トラック形(競技場形)」という)状を有している。射出開口31は、例えば、前記円弧部分の弦の長さWが0.4mm、前記直線部分の線分の長さDが10mmというレベルであり(図2、参照)、スリット状の開口である。射出開口31はトラック形状であるが、前記円弧部分の弦の長さWは前記直線部分の線分の長さDと比較して十分に小さいので、射出開口31は略直交する長尺方向と短尺方向とを有する略矩形状であるとみなすことができる。
【0029】
なお、射出開口31はトラック形状又は略矩形状の開口であることに限定されず、比較的広範囲に対して一度にエアロゾルを吹き付けることができるように略直交する長尺方向と短尺方向とを有する開口であれば、例えば、長丸形状又は面取り矩形状の開口であってもかまわない。但し、射出開口31の開口の大きさや長尺方向と短尺方向との長さの比は限定しないが、射出開口31の長尺方向長さは導入開口36の長尺方向長さ(直径)よりも小さいものとする。例えば、射出開口31の長尺方向寸法を10mm、導入開口36の直径を18mmというレベルに噴射ノズル25を設計することができる。
【0030】
エアロゾル流路30の面積漸減部33は、図6に示すように、射出開口31の長尺方向寸法を上円91の直径とし、導入開口36の直径を下円92の直径とする円錐台93の両肩94,94を、流路中心線60に対して対称な二つの平面97,97でそれぞれ切り欠いた外形形状を有している。平面97は、射出開口31の長尺方向と略平行であって、面積一定部32と面積漸減部33との境界に形成される直線95を含み、円錐台93の軸と重複する流路中心線60に対して円錐台93の母線96よりも大きい傾きを有している。
【0031】
このような面積漸減部33の流路横断面は、図5に示すように、射出開口31の長尺方向と略平行であって流路中心線上の或点Gを対称の中心とする二本の直線L1,L2と、同じ点Gを中心とする円Cの二本の直線L1,L2により挟まれた二つの円弧81,81とで画成される形(トラック形)状である。つまり、面積漸減部33の流路横断面は、対峙する二つの円弧81,81と、射出開口31の長尺方向と略平行な二本の線分82,82とで画成されるトラック形形状を有している。ここで、面積漸減部33の流路横断面の円弧81が連続することにより形成している面を「部分円錐面部35」、同じく線分82が連続することにより形成している面を「平面部34」ということとする。面積漸減部33の外周形状は噴射ノズル25の内周(内壁)形状であることから、平面部34並びに部分円錐面部35はともに噴射ノズル25の内周面(内壁面)を形成している。
【0032】
面積漸減部33では、流路中心線60に沿って射出開口31に近づくにつれて、流路横断面のトラック形状を形成している二本の線分82,82の間隔は略平行な関係を維持しながら徐々に狭まり、同じく二つの円弧81,81が属する円は徐々に縮径している。また、面積漸減部33の上流側では、流路横断面のトラック形を形成している線分82と比較して円弧81の弦が長いが、面積漸減部33の下流側では線分82と比較して円弧81の弦が短い。このように、面積漸減部33では、射出開口31(面積一定部32)に近づくにつれて流路横断面のトラック形を形成している線分82と円弧81の弦とのアスペクト比(長さの比)が増大して、噴射ノズル25の流路面積が漸次減少している。
【0033】
上記のような流路横断面の形状を有する面積漸減部33では、略円形状の導入開口36から、長尺方向と短尺方向とを有するトラック状(略矩形状)の導入開口36と略等しい流路横断面形状を有する面積一定部32まで、流路面積が滑らかに縮小され、且つ、流路横断面の形状の変化が抑制されている。
【0034】
上記構成のエアロゾル流路30を通過するエアロゾルは、流路面積が漸減する面積漸減部33を通過するうちに加速され、さらに、面積一定部32を通過して、射出開口31から噴出する。
【0035】
このとき、面積漸減部33の流路は射出開口31の長尺方向と略平行な二つの平面部34,34で挟み込まれ且つ流路面積が漸減しているので、面積漸減部33を通過するエアロゾルは、射出開口31の長尺方向と略平行な方向にわたって均一に加速される。さらに、面積漸減部33では、流路面積が滑らかに縮小されているのでエアロゾル流の流れの剥離は起こりにくく、しかも、流路横断面の形状の変化が緩やかであるのでエアロゾル中の固体粒子は気流の動きに追従して均一に分散される。
【0036】
また、エアロゾル流路30の面積一定部32を通過するエアロゾルの流れの方向は、面積一定部32が延びる方向、即ち、流路中心線60の延びる方向と略平行となるように整えられるので、射出開口31から噴出するエアロゾル流は、射出開口31の長尺方向にわたって固体粒子の飛散する方向及び速度が一定となる。
【0037】
図7は本発明の実施の形態に係る噴射ノズルから噴射される固体粒子の速度又は密度と噴射ノズルの射出開口の長尺方向位置との関係を示す図である。この図に示されるように、上述のエアロゾル流路30を有する噴射ノズル25を通じて噴射されたエアロゾル流は、エアロゾルが面積漸減部33と面積一定部32とを通過することにより、射出開口31の長さ方向にわたって均一な空間分布(密度)及び速度分布を有することとなる。
[レデューサー26]
ここで、噴射ノズル25の導入開口36に接続されたレデューサー26について説明する。
【0038】
レデューサー26は、エアロゾルを導入する略円形の入口開口41と、噴射ノズル25の導入開口36と密接して接続される出口開口46と、入口開口41から出口開口46までエアロゾルが通過するエアロゾル流路40を有している。レデューサー26もそのエアロゾル流路40の形状に特徴を有しており、ここでは、エアロゾル流路40について説明する。
【0039】
図8はレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルのエアロゾル流路形状の側面図である。図8では、噴射ノズル25の内部に設けられたエアロゾル流路30及びレデューサー26の内部に設けられたエアロゾル流路40という空間の形状を理解するために、エアロゾル流路30及びエアロゾル流路40の外形形状を概念的に実線で示し、噴射ノズル25及びレデューサー26の外形形状を二点鎖線で示している。エアロゾル流路30及びエアロゾル流路40の外形形状は、すなわち、噴射ノズル25及びレデューサー26の内壁(内周)形状である。
【0040】
図8に示すように、レデューサー26のエアロゾル流路40は、エアロゾル搬送管24に接続される入口開口41と連続し流路面積が略一定である入口部42と、入口部42と出口開口46との間に設けられて流体が進むにつれて流路面積が大きくなる面積漸増部43を有している。本実施の形態では、面積漸増部43と出口開口46とが連続している。ここで、入口開口41の中心と出口開口46の中心とを繋ぐ直線を「流路中心線61」といい、この流路中心線61と略直交するエアロゾル流路40の断面を「流路横断面」といい、この流路横断面の面積を「流路面積」という。
【0041】
エアロゾル搬送管24は、管径が大き過ぎるとエアロゾルを運搬するために多くのガス流量を必要とするため、管径は数mm程度が妥当である。従って、エアロゾル搬送管24に接続される入口部42の流路横断面は、エアロゾル搬送管24の管径に合わせた数mm程度の径を有する円状に形成されている。
【0042】
面積漸増部43は、エアロゾル搬送管24と噴射ノズル25の導入開口36との間の径の差を吸収する部分である。面積漸増部43の外形形状、即ち、レデューサー26の面積漸増部43の内周形状は、入口部42を上円とし出口開口46を下円とし緩やかな広がり角θを有する円錐台形状である。ここで、面積漸増部43の外形形状を成している円錐台の母線と該円錐台の軸と重複している流路中心線61との間の角度を1/2θとしたときに、広がり角θは2〜12°の範囲内とされる。なお、図19に示すように、発明者らにより面積漸増部43の広がり角θが2〜12°であれば流体の流れが壁から剥離しないことが確認されたので、広がり角θを2〜12°に設定している。
【0043】
このように、面積漸増部43は、その流路面積が滑らかに拡大し且つ流路横断面の形状の変化が緩やかであるので、レデューサー26を通じて噴射ノズル25の導入開口36へ搬送されるエアロゾル中の固体粒子をガス流に十分追従させ、均一に分散させた状態とすることができる。
[実施の形態1]
次に、本発明の実施の形態1に係る噴射ノズル25及びレデューサー26を説明する。噴射ノズル25は上述したエアロゾル流路30を有し、レデューサー26は上述したエアロゾル流路40を有している。これらのエアロゾル流路30,40についての詳細な説明は省略する。
【0044】
図9は本発明の実施の形態1に係る噴射ノズルの正面図、図10は実施の形態1に係る噴射ノズルの側面図、図11は実施の形態1に係る噴射ノズルの平面図、図12は実施の形態1に係る噴射ノズルの背面図、図13は実施の形態1に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの側面図、図14は実施の形態1に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの平面図である。
【0045】
図9〜12に示すように、噴射ノズル25は、エアロゾル流路30と成る溝が形成された二つのノズル部材50,50と、このノズル部材50,50の溝が形成された面同士を合わせて締結するボルト等の締結具54,54,,,等で構成されている。ノズル部材50,50に形成された溝は、何れも略同一形状であって、この溝の内壁によってエアロゾル流路30の外形形状が形作られている。このように構成されている噴射ノズル25の一端(正面)にはエアロゾルを噴射する射出開口31が現れ、他端(背面)にはエアロゾルを導入する導入開口36が現れている。
【0046】
また、図13〜14に示すように、レデューサー26は、エアロゾル流路40と成る溝が形成された二つのレデューサー部材65,65と、このレデューサー部材65,65の溝が形成された面同士を合わせて締結するボルト等の締結具62,62,,,等で構成されている。レデューサー部材65,65に形成された溝は、何れも略同一形状であって、この溝の内壁によってエアロゾル流路40の外形形状が形作られている。このように構成されているレデューサー26の一端にはエアロゾルが流出する出口開口46が現れ、他端にはエアロゾルが流入する入口開口41が現れている。
【0047】
そして、レデューサー26の出口開口46と噴射ノズル25の導入開口36とが密接するようにレデューサー26と噴射ノズル25とが接合されて、レデューサー付きエアロゾル噴射ノズル27が構成されている。このレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル27には、その内部にレデューサー26のエアロゾル流路40と噴射ノズル25のエアロゾル流路30とが連続して形成されている。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る噴射ノズル25及びレデューサー26を説明する。実施の形態2では、一体型のレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル27として、噴射ノズル25とレデューサー26とが一体的に形成されている。
【0048】
図15は実施の形態2に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの側面図、図16は実施の形態2に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの平面図、図17は図15におけるXVII−XVII矢視断面図、図18は図15におけるXVIII−XVIII矢視断面図である。
【0049】
図15〜18に示すように、レデューサー付きエアロゾル噴射ノズル27は、噴射ノズルとして機能するエアロゾル流路30、及び、レデューサーとして機能するエアロゾル流路40と成る溝が形成された二つのノズル部材70,70と、このノズル部材70,70の溝が形成された面同士を合わせて締結するボルト等の締結具(図示略)等で構成されている。ノズル部材70,70に形成された溝は、何れも略同一形状であって、この溝の内壁によって噴射ノズルとして機能するエアロゾル流路30とレデューサーとして機能するエアロゾル流路40との外形形状が連続して形作られている。このように構成されているレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル27の一端にはエアロゾルを噴射する射出開口31が現れ、他端にはエアロゾル搬送管24と接続される入口開口41が現れている。
【0050】
噴射ノズルとして機能するエアロゾル流路30の導入開口36は、射出開口31の長尺方向と略平行であって流路中心線上の或点を対称の中心とする二本の直線と、前記或点を中心とする円の前記二本の直線により挟まれた二つの円弧とで画成されるトラック形の開口である。つまり、略直交する長尺方向と短尺方向とを有する射出開口31と、面積一定部32及び面積漸減部33で成るエアロゾル流路30の流路横断面と、エアロゾル流路30にエアロゾルを導入する導入開口とは、何れもトラック形状を有している。
【0051】
一方、レデューサーとして機能するエアロゾル流路40の出口開口46は、導入開口36と略同一のトラック形状を有している。このために、レデューサーとして機能するエアロゾル流路40も、噴射ノズルとして機能するエアロゾル流路30と同様に、射出開口31の長尺方向と略平行な二枚の平面で円錐台を切り欠いた外形形状を有し、この結果、面積漸増部43の流路横断面もトラック形状を有している。
【0052】
このように、噴射ノズルとして機能するエアロゾル流路30の導入開口36及びレデューサーとして機能するエアロゾル流路40の出口開口46は、円形状ではなくトラック形状とすることができる。かかる構成によれば、レデューサー付きエアロゾル噴射ノズル27は、その機能を維持しながらコンパクト化を実現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、エアブラスト工法やエアロゾルデポジション法などの、気体中に分散された微小な固体粒子を噴射するプロセスにおいて、気体中に分散された微小な固体粒子を噴射するためのノズル及びレデューサー付きノズルとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】エアロゾルデポジション法を用いた成膜装置の概略構成を示した図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る噴射ノズルのエアロゾル流路形状の正面図である。
【図3】噴射ノズルのエアロゾル流路形状の側面図である。
【図4】噴射ノズルのエアロゾル流路形状の平面図である。
【図5】図3におけるV−V矢視断面端面図である。
【図6】噴射ノズルのエアロゾル流路形状の斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る噴射ノズルから噴射される固体粒子の速度又は密度と噴射ノズルの射出開口の長尺方向位置との関係を示す図である。
【図8】レデューサー付きエアロゾル噴射ノズルのエアロゾル流路形状の側面図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る噴射ノズルの正面図である。
【図10】実施の形態1に係る噴射ノズルの側面図である。
【図11】実施の形態1に係る噴射ノズルの平面図である。
【図12】実施の形態1に係る噴射ノズルの背面図である。
【図13】実施の形態1に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの側面図である。
【図14】実施の形態1に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの平面図である。
【図15】実施の形態2に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの側面図である。
【図16】実施の形態2に係るレデューサー付きエアロゾル噴射ノズルの平面図である。
【図17】図15におけるXVII−XVII矢視断面図である。
【図18】図15におけるXVIII−XVIII矢視断面図である。
【図19】レデューサーの広がり角と流れの剥離との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10 成膜装置
11 ガスボンベ
12 キャリアガス搬送管
13 エアロゾル発生器
14 チャンバ
15 ノズル
16 基材
17 基板ホルダ
18 排気ポンプ
21 センサ装置
22 フィードバック制御回路
24 エアロゾル搬送管
25 噴射ノズル
26 レデューサー
27 レデューサー付きエアロゾル噴射ノズル
30 エアロゾル流路
31 射出開口
32 出口部
33 面積漸減部
34 平面部
35 部分円錐面部
36 導入開口
40 エアロゾル流路
41 入口開口
42 入口部
43 面積漸増部
46 出口開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゾルを導入する導入開口と、略直交する長尺方向と短尺方向とを有しエアロゾルを噴射する射出開口と、前記導入開口から前記射出開口までエアロゾルが通過する流路であって流体が進むにつれて流路面積が小さくなる面積漸減部を有するエアロゾル流路とを備え、
前記エアロゾル流路の前記面積漸減部における流路横断面は、
前記射出開口の長尺方向と略平行であって或点を対称の中心とする二本の直線と
前記或点を中心とする円の前記二本の直線により挟まれた二つの円弧と
で画成される形(以下、「トラック形」という)状である、
エアロゾル噴射ノズル。
【請求項2】
前記エアロゾル流路の前記面積漸減部は、二つの平面と二つの部分円錐面とで画成されている、
請求項1に記載のエアロゾル噴射ノズル。
【請求項3】
前記射出開口はトラック形状であって、前記射出開口の長尺方向長さは前記導入開口の長尺方向長さよりも小さい、
請求項1又は請求項2に記載のエアロゾル噴射ノズル。
【請求項4】
前記面積漸減部は、前記エアロズル流路の中心線方向に沿って前記射出開口に近づくにつれて、前記二本の直線の間隔が徐々に狭まるとともに前記二つの円弧が属する前記円が徐々に縮径している、
請求項3に記載のエアロゾル噴射ノズル。
【請求項5】
エアロゾルデポジション法を実現する装置にエアロゾルを噴射するために備えられた、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のエアロゾル噴射ノズル。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のエアロゾル噴射ノズルと、
前記エアロゾル噴射ノズルの前記導入開口に接続されたレデューサーとを備え、
前記レデューサーは、エアロゾルを導入する略円形の入口開口と、前記エアロゾル噴射ノズルの導入開口と密接して接続される出口開口と、前記入口開口から前記出口開口までエアロゾルが通過する流路であって流体が進むにつれて流路面積が大きくなる面積漸増部を設けたエアロゾル流路とを有する、
レデューサー付きエアロゾル噴射ノズル。
【請求項7】
前記エアロゾル噴射ノズルの前記導入開口、前記レデューサーの前記出口開口、及び前記レデューサーの前記エアロゾル流路の前記面積漸減部における流路横断面は、共にトラック形状である、
請求項6に記載のレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル。
【請求項8】
前記エアロゾル噴射ノズルの前記導入開口及び前記レデューサーの前記出口開口は共に円形状であり、前記レデューサーの前記エアロゾル流路は軸に対する母線の傾きが6°以下の円錐台形状である、
請求項6に記載のレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル。
【請求項9】
前記エアロゾル噴射ノズルと前記レデューサーとが一体的に形成されている、
請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載のレデューサー付きエアロゾル噴射ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−221161(P2010−221161A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72904(P2009−72904)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】