説明

エクオール産生組成物,エクオール産生方法及びエクオール含有組成物

【課題】 前立腺癌,乳癌,骨粗鬆症,更年期障害を含む中高年女性の不定愁訴等疾病の予防乃至措置に有効なエクオールを,ダイゼイン又はその含有物から高い変換効率と可及的に短時間に産生する。
【解決手段】 新種の微生物であるFJK1株が,ダイゼインの資化によってエクオール産生の優れたダイゼイン資化能を有することから,これとダイゼイン又はその含有物とを含有具備した飲食物等のエクオール産生組成物とし,その資化能を利用したエクオール製造方法によってダイゼイン又はその含有物からエクオールを産生するようにし,また該このエクオールを含有した飲食物等のエクオール含有組成物として利用する。FJK1株を用いると,培養時間48時間で変換率略100%のエクオール変換が見られ,変換スピードと変換効率において優れた結果を呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ダイゼイン資化能を有する微生物によってエクオールを産生するエクオール産生組成物,該エクオールを産生するエクオール製造方法及び該製造方法によって産生したエクオールを用いたエクオール含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マメ科の植物である大豆や大豆加工製品に含まれるイソフラボンの主要成分であるエクオールが前立腺癌,乳癌,骨粗鬆症,更年期障害を含む中高年女性の不定愁訴等疾病の予防乃至措置に有効であること,ダイゼイン含有物に,ダイゼイン資化能を有する微生物として,バクテロイデス・オバタス,ストレプトコッカス・インターメディアス,ストレプトコッカス・コンステラータスから選ばれた少なくとも1種又はラクトコッカス20−92(FERM BP−10036号)を作用させることによるエクオール製造方法や該微生物を作用させた飲食物,医薬品等のエクオール産生組成物を構成することが,下記特許文献1及び2によって知られている。
【0003】
【特許文献1】国際公開WO99/07392号公報
【特許文献2】特許第3864317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この場合,エクオール産生組成物を摂取し又は投与することによって,体内におけるエクオールの産生を行うことが可能とされ,これによって上記疾病の予防乃至措置を有効に行うことが可能となるものと認められるが,上記に示される微生物によるエクオールの産生は,ダイゼインからエクオールへの変換が必ずしもスムーズ且つ確実とは限らない。
【0005】
即ち,特許文献1(実施例6)の記載によれば,ストレプトコッカスA6G−225(FERM BP−6437)を用いた例においては,96時間培養しても100μg/ml(特許文献1は0.01mg/mlと記載するが0.1mg/mlの誤記と思われる)のダイゼインから得られたエクオールは17.9μg/mlであったとされ,また特許文献2(試験例1)のラクトコッカス20−92(FERM BP−10036)を用いた例においては,10μg/mlのダイゼインを含むBHI培地で培養した際,エクオールの産生は48時間後に開始し,72時間後に約10μg/mlのエクオールが得られたとされる。
【0006】
このようにダイゼインからエクオールへの変換は,その変換効率が必ずしもよくないか,また変換に長時間を必要とすることになると,例えば工場でエクオールを量産するに適したものとすることはできず,この点を改善する必要がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,その解決課題とするところは,ダイゼインからエクオールへの変換を可及的短時間で効率よくなし得る微生物を用いて上記疾病の予防や措置に好適なエクオール産生組成物を提供するにあり,工場での量産に適したエクオール産生方法を提供するにあり,更には該産生方法によって産生したエクオールを含有したエクオール含有組成物を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に沿って本発明者らは,ヒト由来の微生物FJK1株(寄託予定)が,優れたダイゼイン資化能を保有していること,該FJK1株を用いて10μg/mlのダイゼインを含むBHI培地で培養すると,40時間後には既に相当程度のエクオールを産生するのみならず,48時間後には9.3μg/mlのエクオールを産生すること,ダイゼインの分子量254.24,エクオールの分子量242.27であり,ダイゼインがエクオールに100%変換されたとき,エクオールは9.5μg/mlであるから,上記9.3μg/mlの産生は,97.9%,即ち略100%の変換効率を確保したものであること,従って該微生物FJK1株は,高度の変換効率とともに上記48時間という早い変換スピードを備えたものであることを見出した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであって,即ち請求項1に記載の発明を,ダイゼインの資化によってエクオールを産生するダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株と,該微生物によるエクオール産生用のダイゼイン又はその含有物とを含有具備してなることを特徴とするエクオール産生組成物とし,請求項2に記載の発明を,ダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株の資化によってダイゼイン又はその含有物からエクオールを産生することを特徴とするエクオール製造方法とし,また請求項3に記載の発明を,請求項2に記載のエクオール製造方法によって得られたエクオールを含有してなることを特徴とするエクオール含有組成物としたものである。
【0010】
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として上記課題解決の手段としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のとおりに構成したから,ヒト由来の優れたダイゼイン資化能を有して,略100%変換効率と高度な変換スピードを備えたヒト由来の微生物FJK1株を用いることによって,請求項1に記載の発明は,上記疾病の予防や措置に好適なエクオール産生組成物を提供することができ,請求項2に記載の発明は,工場での量産に適したエクオール製造方法を提供することができ,また請求項3に記載の発明は,該産生方法によって産生したエクオールを含有したエクオール含有組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を更に具体的に説明すると,FJK1株は,健康人のヒト糞便中から単離した微生物であり,16S−rDNA配列を読み同定を試みたが,Slackia faecicanis菌に対して90%の相同性しかなく,従ってFJK1株は新種の微生物と考えられる(分類依頼中)。
【0013】
この微生物FJK1株は,ダイゼインの資化によってエクオールを産生するダイゼイン資化能を有するとともにそのエクオール資化能は極めて優れている。FJK1株を用いてダイゼインを含むBHI液体培地で培養したときのエクオール産生活性を,ダイゼイン残存量とDHD(ジヒドロダイゼイン)及びエクオール産生量によって表1(単位μg/ml)に示す。培養時間48時間で変換率略100%のエクオール変換が見られ,変換スピードと変換効率において顕著なエクオール産生能力を発揮することが分る。
【0014】
【表1】

【0015】
エクオール産生活性の評価方法は,次のとおりである。
1. ダイゼイン入りBHI液体培地
ダイゼイン入りBHI液体培地は,パールコア(R)ブレインハートインフュージョンブイヨン培地‘栄研’(栄研化学株式会社)3.7gに10mg/mlダイゼイン溶液(DMSOで溶解)を100μlと精製水を加え100mlとして形成した。ねじ口試験管(φ13×100mm)に5mlずつ分注し,121℃,15分間加圧蒸気滅菌した。
2. 培養方法
培養方法は,FJK1株の1コロニーを白金耳で採取し,ダイゼイン入りBHI液体培地に接種した(懸濁後の菌濃度は104.8cfu/ml)。培養は37℃で4日間嫌気培養を行なった。
3. 培養サンプルの解析
培養サンプルの解析は,培養終了後,ダイゼイン入りBHI液体培地で培養したサンプルをそれぞれ600μlマイクロチューブに取り,16100g,5分間,遠心分離し,上清250μlにNaCl0.01gとアセトニトリル250μlを加え,2分間mixした後,16100g,5分間,遠心分離し,アセトニトリル層(上層)100μlを別のマイクロチューブにとり,HPLCの移動相である溶媒Bを300μl加え,その20μlをHPLCに供して行った。

分析条件
ダイゼイン・DHD・エクオールの定性,定量はHPLCを用いた。
(1)使用機器
システムコントローラ:(株)島津製作所ProminenceCBM‐20A
送液ユニット:(株)島津製作所ProminenceLC‐20AB
オートサンプラ:(株)島津製作所ProminenceSIL‐20AC
カラムオーブン:(株)島津製作所ProminenceCTO‐20A
フォトダイオードアレイ検出器:(株)島津製作所ProminenceSPD‐M20A
オンラインデガッサ:(株)島津製作所Prominence DGU‐20
フラクションコレクタ:(株)島津製作所Prominence FRC‐10A
分析ソフト:(株)島津製作所LCワークステーション LCsolution
カラム:Zorbax Eclipse XDB‐C18(カラム温度 40℃)
(2)移動相
以下の移動相を用いた。なお,調製後それぞれの溶媒を十分に脱気して使用した。
溶媒A:アセトニトリル(ナカライテスク(株))100%
溶媒B:ジメチルホルムアミド(ナカライテスク(株))5%
アセトニトリル(ナカライテスク(株))0.1%
リン酸(和光純薬工業(株))0.1%
溶液の割合:A液25%,B液75%
(3)脱気方法
調製した溶媒を500ml容三角フラスコに入れ,超音波洗浄機(SIBATA ULTRASONIC CLEANER SU‐2T)を用いて,15分間脱気を行った。
(4)検出波長
ダイゼイン及びDHD,エクオールの検出には280nmの波長を用いて行った。
(5)流速
1.0ml/minで行った。
【0016】
このように優れたダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株は,これと,該微生物によるエクオール産生用のダイゼイン又はその含有物とを含有具備したものとしてエクオール産生組成物とすることができる。
【0017】
即ち,エクオール産生組成物としてFJK1株とともに含有具備するダイゼイン又はその含有物として,マメ科の植物,例えば大豆,葛,これらの加工品,大豆インフラボンやその誘導体等を使用することができる。該組成物は,例えば飲食物,医薬品乃至飼料等として供給することができ,飲食品として,飲料,ヨーグルト,牛乳,菓子,パン,健康食品(粉末,顆粒,錠剤等)等,医薬品として粉末,顆粒,錠剤,水溶液,乳化剤等が上げられる。これらは上記FJK1株とダイゼイン又はその含有物による組成物として,またこれにその余の飲食用素材,添加物等を併用した組成物として供給することができ,その摂取乃至投与によって腸内でエクオールを産生することができる。
【0018】
一方,上記ダイゼイン又はその含有物として,例えばクローバー等のマメ科の植物を用いて,これとFJK1株との組成物として家畜飼料乃至家畜用の医薬品とし,これを家畜に与えることによって,例えば乳牛にあっては,その産生したエクオールは体内で牛乳に移行する(R. King, et. al., J. Dairy Res., 65, 479−489(1998))ことによって,エクオールを含む牛乳やこれを使用したヨーグルト等の牛乳加工品を得ることができ,また鶏にあってはその体内で同様に鶏卵(卵黄)に移行する(S. Saitoh, et. al., Biochem. Biophys. Acta., 1674, 122−130(2004))ことによって,エクオールを含む鶏卵やこれを使用したプリン等の鶏卵加工品とすることができる。
【0019】
同じく該優れたダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株は,その資化によってダイゼイン又はその含有物からエクオールを産生するエクオール製造方法として,エクオールを製造するように使用することができ,また該エクオール製造方法によって得られたエクオールを含有したエクオール含有組成物とすることができる。
【0020】
エクオールの製造は,ダイゼイン又はその含有物とともに培地で培養することによって行うことができる。即ちダイゼイン又はその含有物の溶液を含むBHI液体培地又はEG寒天培地,BL寒天培地等の培地に,FJK1株の培養液を接種して,該FJK1株を培地で常法に従って,例えば37℃で50時間程度培養を施すようにすればよく,エクオールを精製する場合には,同じく常法に従ってイオン交換樹脂を用いて,イオン交換樹脂に吸着した培養体についてその溶出と乾燥固化しエクオールを分離するように,これを行えばよく,従って,例えばFJK1株の微生物が生体に対して何らかの影響を与えるものであったとしても,エクオールの精製によって,該エクオールを含有するエクオール含有組成物として,その有効利用を図ることができる。エクオール含有組成物は,上記エクオール産生組成物の場合と同様に飲食物,医薬品乃至飼料等各種の形態のものとすることができる。
【0021】
本発明の実施に当って,ダイゼインの資化によってエクオールを産生するダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株を用いることを必須とするが,ダイゼイン,その含有物,エクオール産生組成物,エクオールを製造するエクオール製造方法,該製造方法によって得たエクオールを含有するエクオール含有組成物の各具体的な製品,その用途,使用する素材,製造方法,製造装置等は,上記発明の要旨に反しない限り様々な形態のものとすることができ,殊更に上記説明のものに限定するには及ばない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼインの資化によってエクオールを産生するダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株と,該微生物によるエクオール産生用のダイゼイン又はその含有物とを含有具備してなることを特徴とするエクオール産生組成物。
【請求項2】
ダイゼイン資化能を有する微生物FJK1株の資化によってダイゼイン又はその含有物からエクオールを産生することを特徴とするエクオール製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエクオール製造方法によって得られたエクオールを含有してなることを特徴とするエクオール含有組成物。

【公開番号】特開2009−232712(P2009−232712A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81113(P2008−81113)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390001270)グリコ乳業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】