説明

エコーキャンセラ装置

【課題】エリアシング歪みの影響を無くし、エコーキャンセラの減衰量を改善する。
【解決手段】FAX信号検出部21,22により、受話入力信号IN1や加算信号IN2’からFAX信号が検出されると、FAX信号の周波数帯域外における送話信号及び受話信号の周波数帯域内における周波数がLPF26,27によりカットされる。各帯域分割部12,13は、各LPF26,27の出力信号を低域信号と高域信号へ分離する。低域サブバンドエコーキャンセラ15は、分離された低域信号からエコーを消去する。エコーが消去された低域信号と、セレクタ25により選択されたグランド電位(無音)とが、帯域合成部14により合成され、送話出力信号OUTが出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域ネットワークにおけるファクシミリ(以下「FAX」という。)通信時のエコーキャンセラ減衰量を改善したエコーキャンセラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、広帯域の信号に対しては処理量の削減のため、帯域分割型エコーキャンセラ装置が用いられている。
【0003】
図6は、下記の特許文献1等に記載された従来の帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図である。
【0004】
この帯域分割型エコーキャンセラ装置は、受話入力信号IN1のうちのエコー信号E(このエコー信号Eは、受話側から出力された受話信号のうちハイブリッド回路におけるインピーダンス不整合等によって生じる回線的な回り込みや、ハンドセットなどのマイク・スピーカ間の音響的な回り込みによって再び送話側に入力される信号である。)と送話入力信号IN2とが加算されるエコーパス部(エコー経路部)1を有している。受話入力信号IN1を入力する入力側と、エコーパス部1の出力側と、送話出力信号OUTを出力する出力側との間には、周波数帯域分割部(以下単に「帯域分割部」という。)2,3、周波数帯域合成部(以下単に「帯域合成部」という。)4、低域サブバンドエコーキャンセラ5、及び高域サブバンドエコーキャンセラ6が接続されている。
【0005】
帯域分割部2は、受話入力信号IN1を低域受話信号S2aと高域受話信号S2bとに分離して低域サブバンドエコーキャンセラ5及び高域サブバンドエコーキャンセラ6にそれぞれ与える。受話入力信号IN1のエコー信号Eと送話入力信号IN2とは、エコーパス部1で加算され、この加算信号IN2’が帯域分割部3に入力される。帯域分割部3は、エコーパス部1から入力される加算信号IN2’を低域送話信号S3aと高域送話信号S3bとに分離して低域サブバンドエコーキャンセラ5及び高域サブバンドエコーキャンセラ6にそれぞれ与える。低域サブバンドエコーキャンセラ5は、低域受話信号S2aと低域送話信号S3aを用いて、低域送話信号S3aからエコー信号Eの低域成分を消去した低域残差信号S5を求め、帯域合成部4へ与える。同様に、高域サブバンドエコーキャンセラ6は、高域受話信号S2bと高域送話信号S3bとを用いて、高域送話信号S3bからエコー信号Eの高域成分を消去した高域残差信号S6を求め、帯域合成部4へ与える。低域サブバンドエコーキャンセラ5及び高域サブバンドエコーキャンセラ6は、LMS/NLMS(least mean square/normalized least mean square)アルゴリズムが一般的に用いられる。帯域合成部4は、低域残差信号S5と高域残差信号S6とを合成し、送話出力信号OUTを広帯域ネットワーク上へ出力する。
【0006】
帯域分割部2,3には、サンプリング周波数が16kHzの場合、ITU−T(International Telecommunication Union-Telecommunication)勧告G.722のクォードラチェア・ミラー・フィルタ(Quadrature Mirror Filter、以下「QMF」という。)が使用できる。更に、帯域合成部4には、インバース・クォードラチェア・ミラー・フィルタ(Inverse Quadrature Mirror Filter、以下「IQMF」という。)が使用できる。QMFでは、入力信号を高域成分と低域成分に分離した後、各成分を間引くダウンサンプリングを行っているため、各サブバンドエコーキャンセラ5,6は少ない処理量で達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−203358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の帯域分割型エコーキャンセラ装置では、次のような課題があった。
帯域分割部2,3をQMFによって構成し、帯域合成部4をIQMFによって構成した場合、低域サブバンドエコーキャンセラ5と高域サブバンドエコーキャンセラ6との特性が同時に同じでないと、エリアシング(aliasing)歪みが発生し、帯域境界付近のエコー信号Eが十分に除去されず、残留エコーが生じるという問題があった。
【0009】
そこで、特許文献1の技術では、帯域分割部3から出力される低域送話信号S3aから、高周波成分のみを通過させるハイパスフィルタ(HPF)を設けることにより、帯域境界付近のエコー信号を除去するようにしている。
【0010】
ところが、特許文献1の技術において、FAX通信時ではエコーキャンセラ装置は十分な学習ができず、更に、残留エコーが発生しやすいという課題があった。しかも、残留エコーの量によっては、FAXの通信が通らなくなってしまうこともあるため、FAX信号入力時にも残留エコーを低減できるエコーキャンセラ装置が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエコーキャンセラ装置は、広帯域ネットワーク上の送話信号及び受話信号を入力し、FAX信号を検出して検出結果を出力するFAX信号検出手段と、前記FAX信号の周波数帯域外における前記送話信号及び前記受話信号の周波数帯域内における周波数を遮断するフィルタと、前記検出結果に基づき、前記フィルタをオン/オフ制御するフィルタ制御手段と、QMFにより構成され、前記受話信号及び前記送話信号を複数の周波数帯域のサブバンド受話信号及びサブバンド送話信号に分割する周波数帯域分割手段と、分割された前記サブバンド受話信号及び前記サブバンド送話信号における高域のエコー成分を除去して高域サブバンド信号を出力する高域サブバンドエコーキャンセラと、分割された前記サブバンド受話信号及び前記サブバンド送話信号における低域のエコー成分を除去して低域サブバンド信号を出力する低域サブバンドエコーキャンセラと、前記検出結果に基づき、前記高域サブバンドエコーキャンセラと前記高域サブバンドエコーキャンセラの出力とを制御するエコーキャンセラ制御手段と、IQMFにより構成され、前記高域サブバンド信号及び前記低域サブバンド信号を合成して送話出力信号を前記広帯域ネットワーク上へ出力する周波数帯域合成手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、FAX信号を検出した場合には、FAX信号の周波数帯域外における送話信号及び受話信号の周波数帯域内における周波数を遮断(カット)した信号を周波数帯域分割手段へ入力し、更に、高域サブバンドエコーキャンセラの出力を制御する構成にしている。そのため、エリアシング歪みの影響を無くし、エコーキャンセラの減衰量を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施例1における帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図である。
【図2】図2は図1中のLPF26,27における周波数特性例を示す図である。
【図3】図3は本発明の実施例2における帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図である。
【図4】図4は図3のエコーキャンセラ装置におけるFAX信号検出結果と動作を示す図である。
【図5】図5は本発明の実施例3における帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図である。
【図6】図6は従来の帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0015】
(実施例1の構成)
図1は、本発明の実施例1における帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図である。
【0016】
本実施例1の帯域分割型エコーキャンセラ装置では、従来の図6と同様に、広帯域ネットワークに接続され、受話入力信号IN1のうちのエコー信号Eと送話入力信号IN2とが加算されて加算信号IN2’が出力されるエコーパス部11、周波数帯域分割手段(例えば、受話入力信号側及び送話入力信号側の帯域分割部)12,13、周波数帯域合成手段(例えば、帯域合成部)14、低域サブバンドエコーキャンセラ15、及び高域サブバンドエコーキャンセラ16を有している。
【0017】
受話入力信号側の帯域分割部12は、QMFにより構成され、受話入力信号IN1を複数の周波数帯域のサブバンド低域受話信号S12aとサブバンド高域受話信号S12bとに分割して、低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16にそれぞれ与える機能を有している。送話入力信号側の帯域分割部13は、QMFにより構成され、加算信号IN2’を複数の周波数帯域のサブバンド低域送話信号S13aとサブバンド高域送話信号S13bとに分割して、低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16にそれぞれ与える機能を有している。
【0018】
低域サブバンドエコーキャンセラ15は、低域受話信号S12aと低域送話信号S13aを用いて、低域送話信号S13aからエコー信号Eの低域成分を消去した低域残差信号S15を求め、帯域合成部14へ与える機能を有している。高域サブバンドエコーキャンセラ16は、高域受話信号S12bと高域送話信号S13bを用いて、高域送話信号S13bからエコー信号Eの高域成分を消去した高域残差信号S16を求め、帯域合成部14へ与える機能を有している。これらの低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16は、例えば、LMS/NLMSアルゴリズムが一般的に用いられる。帯域合成部4は、IQMFにより構成され、低域残差信号S15と高域残差信号S16とを合成し、送話出力信号OUTを広帯域ネットワーク上へ出力する機能を有している。
【0019】
本実施例1では、従来装置に対し、新たに、受話入力信号側のFAX信号検出手段(例えば、FAX信号検出部)21、送話入力信号側のFAX信号検出手段(例えば、FAX信号検出部)22、エコーキャンセラ制御手段(例えば、エコーキャンセラ制御部)23、フィルタ制御手段(例えば、フィルタ制御部)24、セレクタ25、フィルタ(例えば、受話入力信号側のロウパスフィルタ(以下「LPF」という。))26、及び、フィルタ(例えば、送話入力信号側のLPF)27が追加されている。
【0020】
FAX信号検出部21は、受話入力信号IN1側に接続され、更に、FAX信号検出部22が、加算信号IN2’側に接続されている。受話入力信号IN1側のFAX信号検出部21は、受話入力信号IN1からFAX信号を検出して検出結果を出力する機能を有し、この出力側に、エコーキャンセラ制御部23及びフィルタ制御部24が接続されている。同様に、FAX信号検出部22は、エコーパス部11を介して与えられる加算信号IN2’からFAX信号を検出して検出結果を出力する機能を有し、この出力側に、エコーキャンセラ制御部23及びフィルタ制御部24が接続されている。
【0021】
エコーキャンセラ制御部23は、この出力側に高域サブバンドエコーキャンセラ16及びセレクタ25が接続されており、FAX信号検出部21,22の検出結果に基づき、制御信号S23を出力し、高域サブバンドエコーキャンセラ16を制御する機能を有すると共に、この高域サブバンドエコーキャンセラ16の出力を制御する機能(例えば、高域サブバンドエコーキャンセラ16の出力を切り替えるためのセレクタ25を制御する機能)を有している。セレクタ25は、この出力側に帯域合成部14が接続されており、制御信号S23により切り替えられて、高域サブバンドエコーキャンセラ16から出力される高域残差信号S16、又は、グランド電位(=0V)のいずれか一方を帯域合成部14に与える機能を有している。
【0022】
フィルタ制御部24は、FAX信号検出部21,22の検出結果に基づき、制御信号S24を出力し、この制御信号S24により、受話入力信号側のLPF26と送話入力信号側のLPF27とのオン/オフ動作を切り替える機能(例えば、FAX信号検出部21,22の検出結果がFAX信号であれば制御信号S24によりLPF26,27をオン状態にし、その検出結果が非FAX信号であれば制御信号S24によりLPF26,27をオフ状態にする機能)を有している。受話入力信号側のLPF26は、フィルタ制御部24の制御信号S24によりオン/オフ動作し、FAX信号の周波数帯域外における受話入力信号IN1の周波数帯域内における周波数をカットする機能(例えば、オン状態の時に非FAX信号の周波数帯域をカットし、オフ状態の時に入力信号をそのまま出力する機能)を有し、この出力側に帯域分割部12が接続されている。同様に、送話入力信号側のLPF27は、フィルタ制御部24の制御信号S24によりオン/オフ動作し、FAX信号の周波数帯域外における加算信号IN2’の周波数帯域内における周波数をカットする機能(例えば、オン状態の時に非FAX信号の周波数帯域をカットし、オフ状態の時に入力信号をそのまま出力する機能)を有し、この出力側に帯域分割部13が接続されている。
【0023】
本実施例1のエコーキャンセラ装置は、例えば、電子回路上で動作するハードウェアにより構成されるか、又は、マイクロコントローラやディジタル信号プロセッサ(DSP)等上で動作するソフトウェアにより構成されている。
【0024】
図2は、図1中のLPF26,27における周波数特性例を示す図である。
各LPF26,27は同じ特性を持ち、例えば、G.712勧告を満足するようなフィルタ特性を持つ。このLPF26,27の周波数特性例が図2に示されている。LPF26,27は、例えば、有限インパルス応答(Finite-duration Impulse Response、以下「FIR」という。)フィルタ、無限インパルス応答(Infinite-duration Impulse Response、以下「IIR」という。)フィルタ等のディジタルフィルタにより構成されている。
【0025】
(実施例1の動作)
図1のエコーキャンセラ装置において、受話入力信号IN1は、FAX信号検出部21とLPF26へ入力され、そのまま受話出力信号となる。受話出力信号は、エコーとなり、このエコー信号Eがエコーパス部11において送話入力信号IN2と加算され、この加算信号IN2’がFAX信号検出部22及びLPF27に与えられる。受話入力信号IN1側のFAX信号検出部21と加算信号IN2’側のFAX信号検出部22とは、FAX信号のCED(着呼端末識別)応答トーンである2100Hzを検出する。これはFAXのシーケンスに使用される周波数1300HzのCNG(CalliNG)トーンを検出してもよい。このFAX信号検出部21,22の検出結果は、エコーキャンセラ制御部23とフィルタ制御部24にそれぞれ与えられる。
【0026】
フィルタ制御部24は、各FAX信号検出部21,22の検出結果が両方ともFAX信号非検出である場合には、FAX通信ではなくて音声通信(通話)なので、制御信号S24によりLPF26,27の動作を停止して入力をバイパスさせ、どちらか一方でも検出した場合には、FAX通信であるので、制御信号S24によりLPF26,27を動作させる。各LPF26,27は、図2のような周波数特性を持つ。FAX等の通信には狭帯域信号(300Hz〜3400Hz)しか使用されないため、周波数4000Hz以上の使わない信号は、LPF26,27でカットする。
【0027】
音声通信の場合は、LPF26,27の動作が停止されるので、入力がバイパスされて受話入力信号IN1側の帯域分離部12と加算信号IN2’側の帯域分離部13へそれぞれ送られる。受話入力信号IN1側の帯域分割部12は、LPF26を介して受話入力信号IN1を入力すると、従来と同様に、低域受話信号S12aと高域受話信号S12bとに分離して低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16にそれぞれ与える。更に、加算信号IN2’側の帯域分割部13は、エコーパス部11からLPF27を介して入力された加算信号IN2’を、従来と同様に、低域送話信号S13aと高域送話信号S13bとに分離して低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16にそれぞれ与える。
【0028】
エコーキャンセラ制御部23は、各FAX信号検出部21,22の検出結果が両方ともFAX信号非検出である場合には、高域サブバンドエコーキャンセラ16を有効にし、セレクタ25を高域サブバンドエコーキャンセラ16側へ接続選択するが、どちらか一方でもFAX信号検出の場合には、高域サブバンドエコーキャンセラ16を無効化し、セレクタ25をグランドへ接続選択する。
【0029】
そのため、音声通信の場合は、低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16が有効になる。すると、従来と同様に、低域サブバンドエコーキャンセラ15は、低域受話信号S12aと低域送話信号S13aを用いて、低域送話信号S13aからエコー信号Eの低域成分を消去した低域残差信号S15を求め、帯域合成部14へ与える。更に、高域サブバンドエコーキャンセラ16は、高域受話信号S12bと高域送話信号S13bとを用いて、高域送話信号S13bからエコー信号Eの高域成分を消去した高域残差信号S16を求め、セレクタ25を介して帯域合成部14へ与える。低域サブバンドエコーキャンセラ15及び高域サブバンドエコーキャンセラ16は、例えば、LMS/NLMSアルゴリズムが用いられる。帯域合成部14は、低域残差信号S15と高域残差信号S16とを合成し、送話出力信号OUTを広帯域ネットワーク上へ出力する。
【0030】
これに対してFAX通信の場合は、低域サブバンドエコーキャンセラ15から出力された低域残差信号S15と、高域サブバンドエコーキャンセラ16が無効化され、セレクタ25により接続選択されたグランド電位(即ち、高域残差信号S16に代えた無音)とが、帯域合成部14へ与えられる。そのため、帯域合成部14は、低域残差信号S15の成分のみを送話出力信号OUTとして出力する。
【0031】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、FAX信号を検出した場合には、4kHz以上をカットした信号を帯域分割部12,13へ入力し、更に、帯域合成部14へ入力される高域残差信号S16を無音とする構成にしている。そのため、エリアシング歪みの影響を無くし、エコーキャンセラの減衰量を改善することができる。その上、高域サブバンドエコーキャンセラ16を停止するため、処理量を削減することができる。
【実施例2】
【0032】
(実施例2の構成)
図3は、本発明の実施例2における帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図であり、実施例1を示す図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0033】
本実施例2の帯域分割型エコーキャンセラ装置では、実施例1の帯域分割型エコーキャンセラ装置に対して、FAX信号検出部21A,22Aの内部構成が変更されている。FAX信号検出部21A,22Aは、受話入力信号IN1と加算信号IN2’とがそれぞれ2100Hz信号のFAX信号か又は450msの位相反転を伴う2100Hz信号のFAX信号かを判別する機能を有している。これはITU−T勧告G.168のTone Disablerの特性(即ち、2100Hz信号の検出と位相反転を含む2100Hz信号の検出によりエコーキャンセラ機能に制限を加えるという特性)を満足するものである。FAX信号検出部21A,22Aの検出結果は、FAX信号の非検出、2100Hz信号検出、又は位相反転を含む2100Hz信号検出となり、この検出結果がエコーキャンセラ制御部23及びフィルタ制御部24Aに供給される構成になっている。
【0034】
更に、帯域合成部14Aの出力側にセレクタ28が追加され、エコーキャンセラ制御部23から出力される制御信号S23が、低域サブバンドエコーキャンセラ15Aとセレクタ28にも供給されている。セレクタ28は、制御信号S23により、帯域合成部14Aの出力信号又はエコーパス部11の出力である加算信号IN2’のいずれか一方を選択し、送話出力信号OUTを出力するものである。フィルタ制御部24Aから出力される制御信号S24により、LPF26,27がオン/オフ動作すると共に、帯域分割部12A,13A及び帯域合成部14Aをオン/オフ動作する構成になっている。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0035】
(実施例2の動作)
図4は、図3のエコーキャンセラ装置におけるFAX信号検出結果と動作を示す図である。
【0036】
この図4には、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果と、帯域分割部12A,13A、帯域合成部14A、低域サブバンドエコーキャンセラ15A、高域サブバンドエコーキャンセラ16、セレクタ25,28、及びLPF26,27の動作状態が記載されている。
【0037】
図3及び図4を参照しつつ、本実施例2におけるエコーキャンセラ装置の動作を説明する。
【0038】
帯域分割部12A,13A、帯域合成部14A、低域サブバンドエコーキャンセラ15A、及び高域サブバンドエコーキャンセラ16の動作については、実施例1と同様である。
【0039】
FAX信号検出部21A,22Aは、受話入力信号IN1と加算信号IN2’とがそれぞれ2100Hz信号のFAX信号か又は450msの位相反転を含む2100Hz信号のFAX信号かを検出する。検出結果はFAX信号非検出、2100Hz信号検出、又は位相反転を含む2100Hz信号検出となり、この検出結果がエコーキャンセラ制御部23、及びフィルタ制御部24Aに与えられる。
【0040】
エコーキャンセラ制御部23は、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果がどちらもFAX信号非検出の場合、制御信号S23により、低域サブバンドエコーキャンセラ15A、及び高域サブバンドエコーキャンセラ16を通常動作させ、セレクタ25を高域サブバンドエコーキャンセラ16側へ接続選択し、セレクタ28を帯域合成部14A側へ接続選択する。
【0041】
エコーキャンセラ制御部23は、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果のいずれか、もしくは双方とも2100Hz信号検出の場合、低域サブバンドエコーキャンセラ15Aに非直線プロセッサ(Nonlinear Processor、以下「NLP」という。)が使用されているときにはそれを停止する。更に、高域サブバンドエコーキャンセラ16を停止し、セレクタ25をグランドへ接続選択し、セレクタ28を帯域合成部14A側へ接続選択する。
【0042】
エコーキャンセラ制御部23は、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果のいずれかもしくは双方とも位相反転を含む2100Hz信号検出の場合、低域サブバンドエコーキャンセラ15A、及び高域サブバンドエコーキャンセラ16を停止し、セレクタ28をエコーパス部11の出力である加算信号IN2’側へ接続選択する。セレクタ25は、以前の状態を保持する。
【0043】
フィルタ制御部24Aは、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果がどちらもFAX信号非検出の場合、帯域分割部12A,13A、及び帯域合成部14Aを通常動作させ、LPF26,27を停止する。
【0044】
フィルタ制御部24Aは、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果のいずれか、もしくは双方とも2100Hz信号検出の場合、帯域分割部12A,13A、及び帯域合成部14Aを通常動作させ、LPF26,27を動作させる。
【0045】
又、フィルタ制御部24Aは、FAX信号検出部21A,22Aの検出結果のいずれか、もしくは双方とも位相反転を含む2100Hz信号検出の場合、帯域分割部12A,13A、及び帯域合成部14Aを停止し、LPF26,27を停止する。
【0046】
以上の制御内容は、位相反転を含む2100Hz信号検出結果が2100Hz信号検出結果よりも優先される。
【0047】
(実施例2の効果)
本実施例2によれば、ITU−T勧告G.168のTone Disablerに準じた動作をする広帯域エコーキャンセラ装置を実現できる。
【実施例3】
【0048】
(実施例3の構成)
図5は、本発明の実施例3における帯域分割型エコーキャンセラ装置を示す概略の構成図であり、実施例1を示す図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0049】
本実施例3の帯域分割型エコーキャンセラ装置では、実施例1の帯域分割型エコーキャンセラ装置に対して、有音検出手段(例えば、有音検出部)29と、切替手段(例えば、セレクタ)30とが追加された構成となっている。
【0050】
即ち、本実施例3のエコーキャンセラ装置は、実施例1と同様の帯域分割部12,13、帯域合成部14、低域サブバンドエコーキャンセラ15、高域サブバンドエコーキャンセラ16、FAX信号検出部21,22、エコーキャンセラ制御部23、フィルタ制御部24、セレクタ25、及びLPF26,27により構成されるエコーキャンセラ装置本体10を有している。これに追加された有音検出部29は、受話入力信号IN1が有音か無音かを検出し、この検出結果が有音(即ち、通話中)の場合はエコーキャンセラ装置本体10を動作させるエコーキャンセラ機能と、検出結果が無音の場合はエコーキャンセラ装置本体10の動作を停止させる停止機能とを有している。セレクタ30は、有音検出部29の検出結果により切り替えられ、その検出結果が有音の場合は、帯域合成部14の出力側に接続選択されてその帯域合成部14の出力信号をそのまま送話出力信号OUTとして出力し、検出結果が無音の場合は、エコーパス部11の出力である加算信号IN2’側に接続選択されてその加算信号IN2’をバイパスして送話出力信号OUTとして出力するものである。
【0051】
(実施例3の動作)
本実施例3のエコーキャンセラ装置において、有音検出部29では受話入力信号IN1が有音か無音かを検出する。これは平均パワー値を求め、ある閾値より大きいか小さいかで判断すればよい。有音検出部29は、検出結果が有音の場合、エコーキャンセラ装置本体10を実施例1と同様に動作させ、検出結果が無音の場合、エコーキャンセラ装置本体10の動作を停止させる。検出結果が無音の場合は、セレクタ30により、エコーパス部11の出力である加算信号IN2’側が接続選択され、その加算信号IN2’がバイパスされて送話出力信号OUTとして出力される。
【0052】
(実施例3の効果)
本実施例3によれば、受話入力信号IN1が無音の場合はエコーも存在しない(エコー信号Eが0となる)ため、加算信号IN2’として送話入力信号IN2をバイパスさせることにより、高品質な信号を確保できる。しかも、エコーキャンセラ装置本体10における各機能や各制御を停止することにより、処理量を削減できる。
【0053】
(変形例)
本発明は、上記実施例1〜3に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(a)〜(c)のようなものがある。
【0054】
(a) 実施例1〜3では、信号検出時に帯域分割部12,12A,13,13Aの入力側にLPF26,27を置くことによって、G.712を満足する周波数特性を得ている。しかし、単純に「G.712を満足するダウンサンプラー」のブロック機能部分と帯域分割機能部分とをセレクタで選択し、「G.712を満足するアップサンプラー」のブロック機能部分と帯域合成機能部分とをセレクタで選択する構成に変更しても、実施例1〜3とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
(b) 本実施例3では、実施例1に有音検出部29を追加したが、実施例2に追加した構成にしても、実施例3とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0056】
(c) 実施例2では、ITU−T勧告G.168のTone Disabler特性を満足する構成について説明したが、その勧告に限定されず、他の規格を満足する構成に変更することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
11 エコーパス
12,12A,13,13A 帯域分割部
14,14A 帯域合成部
15,15A 低域サブバンドエコーキャンセラ
16 高域サブバンドエコーキャンセラ
21,21A,22,22A FAX信号検出部
23 エコーキャンセラ制御部
24,24A フィルタ制御部
25,28,30 セレクタ
29 有音検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域ネットワーク上の送話信号及び受話信号を入力し、ファクシミリ信号を検出して検出結果を出力するファクシミリ信号検出手段と、
前記ファクシミリ信号の周波数帯域外における前記送話信号及び前記受話信号の周波数帯域内における周波数を遮断するフィルタと、
前記検出結果に基づき、前記フィルタをオン/オフ制御するフィルタ制御手段と、
クォードラチェア・ミラー・フィルタにより構成され、前記受話信号及び前記送話信号を複数の周波数帯域のサブバンド受話信号及びサブバンド送話信号に分割する周波数帯域分割手段と、
分割された前記サブバンド受話信号及び前記サブバンド送話信号における高域のエコー成分を除去して高域サブバンド信号を出力する高域サブバンドエコーキャンセラと、
分割された前記サブバンド受話信号及び前記サブバンド送話信号における低域のエコー成分を除去して低域サブバンド信号を出力する低域サブバンドエコーキャンセラと、
前記検出結果に基づき、前記高域サブバンドエコーキャンセラと前記高域サブバンドエコーキャンセラの出力とを制御するエコーキャンセラ制御手段と、
インバース・クォードラチェア・ミラー・フィルタにより構成され、前記高域サブバンド信号及び前記低域サブバンド信号を合成して送話出力信号を前記広帯域ネットワーク上へ出力する周波数帯域合成手段と、
を備えたことを特徴とするエコーキャンセラ装置。
【請求項2】
前記フィルタは、オン状態の時には、前記ファクシミリ信号の周波数帯域外における前記送話信号及び前記受話信号の周波数帯域内における周波数を遮断し、オフ状態の時には、入力信号がそのまま出力され、
前記フィルタ制御手段は、前記検出結果が前記ファクシミリ信号であれば前記フィルタを前記オン状態にし、前記検出結果が非ファクシミリ信号であれば前記フィルタを前記オフ状態にすることを特徴とする請求項1記載のエコーキャンセラ装置。
【請求項3】
前記ファクシミリ信号検出手段は、前記ファクシミリ信号を検出して前記検出結果を出力する機能を有すると共に、前記ファシミリ信号における2100Hz信号と位相反転を伴う2100Hz信号とを判別して判別結果を出力する機能を有し、
前記低域サブバンドエコーキャンセラは、ノンリニア・プロセッサにより構成され、
前記フィルタ制御手段は、前記検出結果及び前記判別結果に基づき、前記フィルタ、前記周波数帯域分割手段、及び前記周波数帯域合成手段をオン/オフ制御する機能を有し、
前記エコーキャンセラ制御手段は、前記検出結果及び前記判別結果に基づき、前記高域サブバンドエコーキャンセラ及び前記低域サブバンドエコーキャンセラと前記高域サブバンドエコーキャンセラの出力とを制御する機能を有することを特徴とする請求項1又は2記載のエコーキャンセラ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエコーキャンセラ装置は、更に、
前記受話信号を入力して前記受話信号が有音か無音かを判定して判定結果を求め、前記判定結果が前記有音であれば、前記ファクシミリ信号検出手段、前記フィルタ、前記フィルタ制御手段、前記周波数帯域分割手段、前記高域サブバンドエコーキャンセラ、前記低域サブバンドエコーキャンセラ、前記エコーキャンセラ制御手段、及び前記周波数帯域合成手段を動作させるエコーキャンセラ機能と、前記判定結果が前記無音であれば、前記エコーキャンセラ機能を停止させる停止機能とを有する有音検出手段と、
前記判定結果に基づき、前記判定結果が前記有音であれば、前記周波数帯域合成手段から出力された前記送話出力信号を前記広帯域ネットワーク上へ出力し、前記判定結果が前記無音であれば、入力された前記送話信号をバイパスして前記広帯域ネットワーク上へ出力する切替手段と、
を備えたことを特徴とするエコーキャンセラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−212864(P2010−212864A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55025(P2009−55025)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(308033711)OKIセミコンダクタ株式会社 (898)
【Fターム(参考)】