説明

エスシンの使用

本発明は、活性化顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患、好ましくはI型もしくはIII型アレルギー、または敗血症性ショックを治療するための医薬製剤を製造するためのエスシンの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーは、I型およびIII型過敏症を含む重症の望ましくない免疫反応に属する。両タイプで、白血球の1サブセットである顆粒球がこれら疾患の病因に関与している。白血球は、すべて骨髄中の幹細胞に由来する種々の細胞種からなる。さらに、白血球はリンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞)、骨髄性細胞(単球、マクロファージ)、および顆粒球(好酸球、好中球、および好塩基球)に細分される。肥満細胞は、好塩基球と密接に関連し、組織に存在するタイプの顆粒球と考えられることが多い。したがって、下記では、顆粒球は好酸球、好中球、好塩基球、および肥満細胞と定義される。顆粒球は、固有の免疫反応、細菌のような病原体に対する非特異的反応の一部である。これは、顆粒球のリポ多糖(LPS、細菌細胞壁成分)活性化は腫瘍壊死因子(TNF-α)のようなサイトカインの顕著な放出をもたらすという事実によっても反映される。IgE-(I型アレルギー)またはIgG-複合体(III型アレルギー)による顆粒球の活性化は、他の方法では無害な物質(花粉、食物、自己免疫疾患のような自身の構造や組織に対する反応)に対する強い速やかな反応をもたらす。肥満細胞および好塩基球は、I型アレルギー(FcεRIを介するIgE介在性アレルギー)の細胞性の基礎であり、好中球は自己免疫疾患、例えば乾癬、関節炎、免疫性血小板減少症(ITP)、自己免疫性溶血性貧血(AHA)、および全身性紅斑性狼瘡(SLE)を含むIII型アレルギー(FcγRIIIを介する免疫複合体介在性反応)に関与し、他の自己免疫疾患、例えば関節リウマチ(RA)、I型糖尿病、および多発性硬化症の一因となる。両タイプのアレルギーは、鼻水程度の良性の症状から重症の慢性疾患、生命を脅かすアナフィラキシーショックや敗血症性ショックまで生じうる。
【0003】
I型アレルギーは、一般にコルチコステロイド(コーチゾン)、抗ヒスタミン剤、エピネフリン、テオフィリン、または肥満細胞安定化剤により治療される。これら化合物は、アレルギーメディエーターの作用をブロックし、細胞の活性化および脱顆粒過程を抑制する。これら薬剤は、アレルギーの症状を軽減するのを助けるが該疾患の慢性的軽減にはほとんど関与しない。これら治療的クラスはすべて特に長期使用後にかなり大きな副作用がある。アレルギーは、西半球で発生率が増加しており、現在人口の約20%が罹患している。アレルギー性鼻炎治療の概説および推奨は、British National Prescribing Center: MeReC Bulletin Volume 9, Number 3, 1998に記載されている。アレルギーの別の治療は、モノクローナル抗IgE抗体の静脈注射を含む。減感作は、患者を問題のアレルゲンの次第により大きな用量で徐々にワクチネーションする免疫療法の形である。減感作は、重症度を減少させるかまたは完全に過敏症を除去しうる。それはI型過敏症症例に見られるIgEの過剰産生ではなくIgG産生の進行性のゆがみ(skewing)に依存する。III型アレルギー疾患は、通常、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、メトトレキセート、およびTNF-α遮断薬(レセプター類似体または抗体)により治療される。
【0004】
乾癬や水疱形成疾患のようなある自己免疫疾患は、さらに、皮膚の二次感染を合併する。通常、抗生物質を適用する皮膚の急性損傷と反対に、乾癬のような慢性疾患の結果である二次感染は治療されないままのことが多い。結果として、炎症過程は悪化し、疾患が進行する。しかしながら、両タイプの過敏症において、多くのこれらの物質は慢性適用に適さず、広範に使用するには治療費が高すぎる(生物学的物質)ため、依然として強力な医薬の必要性がある。乾癬または関節リウマチは、人工の1〜2%が罹患している最も一般的な自己免疫疾患に属する。
【0005】
Sirtori (Pharmacological Research 44 (3) (2001):183-193)は、罹患組織中の白血球の密度を減少させることができる血管透過性の減少により作用するエスシン(aescin)の抗炎症効果を開示している。
【0006】
Matsuda et al. (Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 7 (13) (1997):1611-1616)は、ラットのカラゲニン誘発浮腫における抗腫脹効果により測定した血管収縮に基づくトチノキ由来の単離されたエスシン化合物の抗炎症効果を開示している。
【0007】
Dattner (Dermatologic Therapy 16 (2003):106-113)は、抗炎症および血管保護効果を有するハーブ医薬の分野でトチノキについて考察している。エラスターゼ阻害活性はエスシンによって生じる。
【0008】
本発明の目的は、顆粒球の過剰反応に基づく多様な免疫性疾患に有効なさらなる医薬を提供することである。
【0009】
本発明は、活性化顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患、好ましくはI型もしくはIII型アレルギーまたは敗血症性ショックを治療するための医薬製剤(または医薬)を製造するためのエスシンの使用を提供する。白血球、例えば顆粒球は、身体の防御系としてほとんどすべての疾患に役割を果たす。あらゆる疾患のある症状は、顆粒球の直接的エフェクター機能に関連するかもしれない。用語「顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患」は、疾患の起源および疾患の症状に関連して理解すべきである。したがって、該医薬製剤で治療すべき疾患は、顆粒球の異常または過剰な機能に関連する。アレルギーは、アレルゲン自体は無害であるので、疾患の原因と考えることができる過剰な顆粒球反応を仲介するアレルゲン(外部または内部)に対する接触により生じる。したがって、本発明は、疾患の起源が活性化顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患を治療するための医薬製剤を製造するためのエスシンの使用に関する。
【0010】
活性化顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患を治療(または予防、予防的処置)し、または疾患の起源が活性化顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患を治療(または予防)するためのエスシンも提供する。特定の態様において、これは炎症または浮腫の治療まで拡張されない。予防は、患者が関連疾患を決して発現し得ないという意味での絶対的な成功と解釈すべきでなく、予防的処置で該疾患の発現する機会が減少する。
【0011】
特定の態様において、顆粒球は過剰に活性化される。この過剰な活性化は、ショック症候群、例えばアレルギーショックのような重症の全身性副作用を生じうる。本明細書で定義している顆粒球は、好ましくは好酸球、好中球、好塩基球、および肥満細胞のいずれから独立して選ばれる。
【0012】
特定の局面において、本発明は、エスシンを含む医薬製剤を用いるI型もしくはIII型アレルギー、自己免疫疾患、または敗血症性ショックの治療を開示する。
【0013】
エスシン(escin)(aescinともいう)は、トチノキの種子から抽出したトリテルペンサポニン混合物である。エスシンは、市販の種々の医薬(オーストリアで:Reparil(Madaus)、Opino(Wabosan)、Venosin(Astellas)など)の成分である。しばしば、該製品はさらなる医薬活性化合物、例えばジエチルアンモニウムサリチル酸、ブフェニン、およびエッセンシャルオイルを含む。その主な適用は、リソソームタンパク質に対するエスシンの阻害能に基づく静脈機能不全、次いで毛細血管の透過性の低下である。その抗炎症、抗浮腫、および血管壮強性(venotonic)特性、エスシンに対して標準化されたトチノキ抽出物(HCE)もしくはトチノキ種子抽出物(HCSE)を、CVIの前臨床モデルおよび該疾患を有する患者において広範に試験した。エスシンに関する最近の知識およびエスシンの化学構造の広範な概説は、Sirtori, Pharmacological Research, Vol. 44 (3) 2001:183-193にまとめられており、該総説は、該薬剤の作用機序および臨床特性に関する広範なデータを含む。この文献によれば、β-エスシンは、混合物の活性成分であり、主に利用可能な医薬製品中に存在する分子形である。β-エスシンは、本発明におけるエスシンの好ましい形である。さらに、エスシンを含む製品は、外傷、浮腫(脳浮腫を含む)、血腫、打撲、ねんざ、腱滑膜炎、および脊椎の痛みに対して認可されている。エスシンは、主として浮腫の阻害により抗炎症物質としても知られている。細胞レベルの炎症反応の阻害は、これまで記載されていない。エスシンおよびトチノキ抽出物の使用に関する詳細な総説は、Tiffany at al., Journal of Herbal Pharmacotherapy, Vol. 2(1) 2002:71-85に記載されている。また、β-エスシンの抗浮腫メカニズムは特に分子レベルではまだ解っていない。この分子の作用機序についていくつかの推測が存在するのに加え、さらに研究が必要なことは明らかである。
【0014】
最近、ラットの脳外傷後の核因子-κB(NF-κB)および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の発現に対するβ-エスシンの効果が試験された(Xiao et al., J Zhejiang Univ SCI 2005 6B(1):28 28-32)。その著者は、ラットの脳外傷後の組織におけるNF-κBの発現レベルの顕著な低下をみいだし、これはエスシンが脳外傷の患者に有用かもしれないという主張を裏付ける。エスシンは前炎症性TNF-αの活性化因子であるNF-κB自体を阻害することができることがわかった。
【0015】
他の情報源によれば、エスシンは前炎症効果を有する。例えば、種々の医薬製剤でアジュバントとして用いられる(US 7,049,063、US 7,033,827、US 6,943,236、US 6,894,146、US 6,858,204、US 6,800,746、US 6,759,515、US 6,630,305、US 6,509,448、US 6,504,010)。アジュバントはそれ自身はいかなる特定の抗原性作用も持たないが免疫系を刺激し、ワクチンに対する応答を増加させる物質である。したがって、エスシンはある条件では免疫刺激性用途も有する。
【0016】
アレルギーの症状を治療する(すなわち、浮腫形成またはかゆみを治療する)のではなく、驚くべきことに、免疫系を刺激する前のレベルのエスシンを用いてアレルギーを治療することができることがわかった。肥満細胞においてIgE/抗原複合体はTNF-αの放出を引き起こす。驚くべきことに、肥満細胞の活性化(およびTNF-αの放出)は、NF-κB経路に頼らない肥満細胞中でエスシンによっても阻害された。エスシンによる治療は、異なる経路の選択的抗アレルギー作用を生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本明細書では、エスシンがアレルギー疾患の治療に、より広範には、LPS誘発ショック反応により例示される活性化顆粒球の阻害剤としてうまく用いることができることを最初に示した。例えば、エスシンは、アレルギー反応、次いでin vitroの免疫グロブリンE(IgE)および対応する抗原の複合体の刺激を減少させることができる。エスシンは、一次ヒト血液へのLPS誘発TNF-α放出を用量依存性に阻害する。さらに、エスシンは、in vivoモデルにおける免疫性ショックの効果を劇的に低下させ、色素性蕁麻疹に罹患した患者の進行中のアレルギー反応を治療するのに有効に用いられた。ヒトT細胞系Jurkatに代表される白血球やネズミ単球細胞系DC18に代表される骨髄細胞は、刺激後エスシンにより阻害されなかった(それぞれIL-2またはTNF-αを放出)。エスシンの分子標的の以前の仮説(Xiao et al.、上記)に反して、エスシンの抗アレルギー効果はNF-κB非依存性である。本発明では、エスシンがNF-κB経路非依存性肥満細胞(CFTL12)において依然として抗アレルギー作用を有することがわかった。好ましい態様では、本発明に用いる医薬製剤は唯一の顆粒球阻害成分として、好ましくは唯一の医薬活性物質としてエスシンを含む。
【0018】
好ましくは、アレルギー疾患は、慢性疾患または顆粒球の望ましくない過剰反応である。エスシン含有製品は長年にわたり市販されており、優れた安全性プロフィールを持っている。したがって、エスシンの単独または他の薬剤と組み合わせた使用は、慢性患者の魅力的選択肢である。
【0019】
特別な態様では、アレルギー疾患は、好ましくは骨髄細胞もしくは顆粒球に仲介されるI型またはIII型アレルギー、または顆粒球の望ましくない反応である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
さらなる態様において、該医薬は好ましくは以下のいずれかから選ばれるアレルギー疾患を治療するのに用いる:アレルギー性鼻炎、色素性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性喘息、食物アレルギー、アレルギー性結膜炎、腸管もしくは泌尿生殖器のアレルギー、および耳のアレルギー。さらに、該医薬は、好ましくはIII型アレルギー疾患もしくは他の自己免疫疾患、例えば乾癬、関節炎、免疫性血小板減少症(ITP)、自己免疫性溶血性貧血(AHA)、および全身紅斑性狼瘡(SLE)、関節リウマチ(RA)、I型糖尿病、および多発性硬化症を治療するのに用いられる。
【0021】
さらなる態様において、該医薬は、好ましくは顆粒球の活性化の増大を伴う皮膚疾患(細菌の二次感染症を合併した疾患も含む)を治療するのに用いられる。
【0022】
好ましくは、該医薬製剤は、局所もしくは粘膜使用のための製剤の形、好ましくは皮膚ローション、クリーム、粉末、スプレー、またはうがい溶液である。エスシン製剤は、顆粒球介在性疾患、例えば炎症の皮膚もしくは粘膜症状を治療するための局所適用に特に適している。しかし、全身性、例えば非経口または経口(特定の粘膜治療にも)も可能である。
【0023】
別の態様において、該製剤は、経口摂取用の形、好ましくはトローチ、錠剤、ガム、ローゼンジー、粉末、または飲用溶液の形である。エスシンの全身性分布は、全身性の顆粒球活性化を伴う症例、例えばアナフィラキシーショックまたは敗血症性ショックにおいて特に好ましい。
【0024】
該製剤は、医薬的担体、賦形剤、好ましくは高分子賦形剤、または添加剤も含みうる。用語「担体」は、組成物とともに投与することができる希釈剤、例えば水、生理食塩水、賦形剤、またはビークルを表す。固体または液体組成物用の医薬組成物中の担体または添加剤には、SiO2、TiO2、結合剤、例えば微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン(ポリビドンまたはポビドン)、トラガカントゴム、ゼラチン、デンプン、ラクトースもしくはラクトース1水和物、アルギン酸、トウモロコシデンプンなど;潤滑剤または界面活性剤、例えばステアリン酸マグネシウム、もしくはラウリル硫酸ナトリウム;流動促進剤、例えばコロイド二酸化ケイ素;甘味料、例えばショ糖もしくはサッカリンが含まれうる。好ましくは、該製剤は、例えば以下から選ばれる緩衝剤またはpH調節剤を含む:クエン酸、酢酸、フマル酸、塩化水素酸、リンゴ酸、硝酸、リン酸、プロピオン酸、硫酸、酒石酸、またはその組み合わせ。医薬的に許容される塩の形のエスシン、例えばナトリウム塩を用いることもできる。他の医薬的に許容される塩には、特にカリウム、リチウム、およびアンモニウム塩が含まれる。好ましい賦形剤はポリマー、特にセルロースおよびセルロース誘導体である。
【0025】
好ましくは、エスシンは、用量が0.01mg/kg(患者の体重)〜500mg/kg、好ましくは0.1mg/kg〜100mg/kg、最も好ましくは1mg/kg〜40mg/kgである。本発明は、該医薬製剤の使用も提供する。該製剤の投与は、アレルギー反応と同時の投与に限定されず、該反応の前または後に、例えば予防的処置、すなわち反応の力を弱めるための予期されるアレルゲンへの曝露前の処置のために用いることもできる。
【0026】
本発明を以下の図および実施例によりさらに例示するが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】LPS刺激ヒト血液細胞のTNF-α産生の阻害。ヒト血液を示した濃度のエスシンとインキュベーションした。細胞を100ng/ml LPS(Sigma)で刺激し、刺激して18時間後に上清中のTNF-αを市販のELISAキット(Bender-Med-Systems)で測定した。x軸はエスシン濃度(μg/mL)であり、y軸はTNF-α濃度(pg/mL)である。
【0028】
【図2】IgE/抗原刺激肥満細胞からのTNF-α産生の阻害。CFTL12肥満細胞を3.1μM〜0.03μMの範囲の濃度のβ-エスシンと0.3μMのデキサメサゾンとそれぞれインキュベーションした。60分後、細胞をIgE/抗原複合体で刺激した。細胞を37℃で6時間インキュベーションし、上清中のTNF-αを市販のマウスTNF-α ELISA (Bender-Med-Systems)で測定した。誤差バーは、独立した4ウェル間の標準偏差を示す。1、デキサメサゾン;2、無刺激;3、IgE /抗原刺激;4、3.1μMエスシン;5、1μMエスシン;6、0.31μMエスシン;7、0.1μMエスシン;8、0.031μMエスシン;1および4〜8はIgE/抗原で刺激した;y軸はTNF-α濃度(pg/ml)である。
【0029】
【図3】Balb/cマウス(n=8)を15mg/kgリポ多糖(Sigma)で処置した。同時にマウスを15mg/kg β-エスシンの単用量で処置した。処置して1時間後に、マウスを屠殺し、血清を得た。TNF-αレベルを市販のELISAキット(Bender-Med-Systems)を用いて測定した。y軸は、マウス血清中のTNF-α量(ng/ml)を表す。バー1は、ビークル処置マウスを、バー2は、エスシン処置マウスの結果を示す。
【0030】
【図4】色素性蕁麻疹の患者の症状スコア:49歳の色素性蕁麻疹の患者の両脚の罹患領域を1.5% エスシン含有ゲルで処置した。各領域の症状スコアを記録し、デジタル写真で確認した。左脚の処置を0点で開始した。菱形は左脚のスコアを示す。左脚の驚くべき速やかな反応により、右脚の処置を1時間後に開始した(4分の1)。皮膚の小領域を無処置で残した(三角)。X軸は処置開始後の時点(時間)である。
【実施例】
【0031】
実施例1:エスシンはLPS誘発TNF-α放出に対して活性である。
TNF-αは、感染時に観察される炎症過程および自己免疫疾患で重要なメディエーターである。TNF-αは、例えば感染による損傷の過程でまたはアレルギー反応時に白血球、内皮細胞、および種々の他の組織により放出される。その放出は、種々の他のメディエーター、例えばインターロイキン1および細菌内毒素により刺激される。リポ多糖により刺激されたヒト一次血液細胞を用いる細胞ベースのアッセイは、エスシンが用量依存性にTNF-αの放出を阻害することを示した(図1)。
実施例2:エスシンは、アレルギー刺激肥満細胞からのTNF-α放出を抑制する。
【0032】
IgEまたは対応する抗原で刺激したネズミ肥満細胞は、抗アレルギー物質を同定するための指標としての役割をはたすTNF-αを含む種々のメディエーターの産生に反応する。エスシンの適用は、このメディエーターの放出を用量依存性に減少させる。TNF-α産生の少なくとも50%の阻害が0.31μMの濃度で観察された。30nMの濃度で阻害効果は有意であった。この結果は、阻害効果はコントロールのコルチコステロイド、デキサメサゾンで観察された程には有効ではなかったが、エスシンは強力な抗アレルギー特性を有することを示す(図2)。
実施例3:エスシンは、免疫性ショックの効果を模倣するin vivo動物モデルにおいて活性である。
【0033】
マウスにおけるリポ多糖の投与によるTNF誘導は、速やかな免疫反応の十分確立されたモデルならびに敗血症性ショックのモデルである。図3に示すように、マウスの15mg/kgのエスシンによる処置は、TNF-αレベルを30%まで低下させた。
実施例4:アレルギー性皮膚反応を示す色素性蕁麻疹の患者の治療。
【0034】
患者は、肥満細胞の過剰反応によって生じる非特異的アレルギー反応を特徴とする色素性蕁麻疹と診断された。49歳の女性患者は、主に皮膚のアレルギー反応、ならびに時として抗ヒスタミン剤およびコルチコステロイドで治療された全身症状の病歴を持っていた。治療前に両脚および手の皮膚の広い領域に強いアレルギー反応が続いていた。患者は皮膚の痒みと痛みを報告した。明らかに皮膚の炎症がみられた。以下のスコアを用いて症状の重症度を決定した:5=皮膚の発赤、痒み、および痛みを含む本格的反応、開放した傷が一部にみられる;4=発赤減少、痒みなし、痛み軽度、傷は閉じている;3=まだ発赤がみられる、痛みなし;2=皮膚の色が非罹患領域と同等、症状軽度;1=罹患領域が健康領域と区別できない、傷は治癒しつつある;0=罹患していない健康な皮膚。
【0035】
患者の両脚を1.5%エスシンといくつかの製剤用賦形剤を含むゲルで処置した。各領域の症状スコアを記録し、デジタル写真で確認した(図4)。左脚の治療を0点で開始した。驚くべき速い反応により患者は右脚の治療を要求し、1時間後に開始した。またもや反応は非常に有効であった。左手の皮膚の罹患領域をコントロールに用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化顆粒球に仲介されるかまたは起因する疾患を治療するための医薬製剤を製造するためのエスシンの使用。
【請求項2】
エスシンがβ-エスシンであることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
該顆粒球が過剰に活性化していることを特徴とする請求項1また2記載の使用。
【請求項4】
該疾患がアレルギーまたはアレルギーの二次疾患であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
該疾患がI型もしくはII型アレルギー、または敗血症性ショック、好ましくはI型アレルギーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
該疾患が、アレルギー性鼻炎、色素性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性喘息、食物アレルギー、アレルギー性結膜炎、腸管のアレルギー、および耳のアレルギーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
該疾患が、乾癬、関節炎、免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチ、I型糖尿病、および多発性硬化症のいずれかから選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
該顆粒球が好酸球、好中球、好塩基球、および肥満細胞から選ばれることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
該製剤が局所または粘膜に使用するための製剤の形、好ましくは皮膚ローション、クリーム、粉末、スプレー、またはうがい溶液の形であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
該製剤が経口摂取用の形、好ましくはトローチ、錠剤、ゴム、ローゼンジー、粉末、または飲用溶液の形であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
該製剤が医薬担体、賦形剤、好ましくは高分子賦形剤、または添加剤を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
エスシンが0.01mg/kg〜500mg/kg、好ましくは0.1mg/kg〜100mg/kg、最も好ましくは1mg/kg〜40mg/kgの用量であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−545623(P2009−545623A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523182(P2009−523182)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006870
【国際公開番号】WO2008/015007
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(509035244)マリノメド・ビオテヒノロギー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】MARINOMED BIOTECHNOLOGIE GMBH
【Fターム(参考)】