説明

エストロゲン受容体アルファのメチル化、およびその使用

ER-α遺伝子のプロモーターのメチル化状態に基づく、癌の診断、予後予測、および治療のための方法を開示する。ER-α遺伝子のプロモーターのメチル化は、癌および望ましくない予後の指標となる。癌は、脱メチル化剤によって治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
資金
本発明は部分的に、NIHの助成金(NCI Project II P0 CA029605、CA012582、およびR33-CA100314)による支援を受けて実施された。したがって、米国政府は一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本出願は、内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、2006年3月29日に出願された米国特許仮出願第60/787,719号の優先権を主張する。
【0003】
発明の分野
本発明は一般に、ER-α(エストロゲン受容体アルファ)の遺伝子に関する。具体的には、本発明は、ER-α遺伝子のプロモーターのメチル化、ならびに癌の診断、予後予測、および治療における、その有用性に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
原発性腫瘍が局所転移または遠隔転移に進行することを予測することは困難なので、皮膚黒色腫は未だ管理の困難な疾患である(1)。エピジェネティックなバイオマーカーの同定のための新たな戦略は、疾患の早期診断を促し、およびより正確な予後関連情報を提供することによって、黒色腫の臨床管理を改善する可能性がある。原発性から転移性の黒色腫への進行におけるホルモン受容体のエピジェネティックな変化について、大規模患者集団を対象に調べた主な研究はない。
【0005】
遺伝子のプロモーター中のCpGアイランドの高メチル化は、黒色腫を含むさまざまな癌の発生および進行に重要な役割を果たす(2〜6)。腫瘍における高メチル化遺伝子の同定は、腫瘍関連遺伝子の不活性化を評価する一般に認められた方法となりつつある(6〜9)。原発性および転移性の黒色腫における腫瘍関連遺伝子の高メチル化については過去に報告がある(10)。以降、原発性病変から転移性病変への進行中の複数の腫瘍関連遺伝子および腫瘍抑制遺伝子の高メチル化が報告されている(11)。原発性および転移性の黒色腫でメチル化された複数の遺伝子は、血清中にメチル化された循環性のDNAとしても検出されている(11)。腫瘍関連DNAが循環性の血清中に検出されうるという観察から、腫瘍全体の組織の入手可能性に依存しない疾患の監視法が提供されている(12〜17)。
【0006】
ER-αは、腫瘍の進行を含む複数の生理学的過程に関与する転写活性化因子のスーパーファミリー(18、19)に属する(20〜22)。ER-αの発現の喪失は、乳癌の細胞株および腫瘍(23〜27)におけるCpGアイランドの異常な高メチル化に関連づけられおり、ならびに乳癌の進行を調節することが報告されている(5)。複数の研究で、黒色腫細胞株におけるエストロゲン受容体の存在が報告されているが、ヒト黒色腫の解析では、ER-αの発現が多様であることが報告されている(28〜31)。複数のインビトロ実験では、タモキシフェンが黒色腫細胞の有効な成長阻害剤であることが明らかにされている(32、33)。黒色腫細胞におけるER-αの存在の可変性、ならびに抗エストロゲン療法に対する臨床反応の症例報告を元に、ホルモン療法およびホルモン療法と化学療法の併用療法に関する複数の研究が実施されている。初期の研究は有望であり、タモキシフェンが投与された患者(特に女性)において、反応率および全生存率の中央値に改善が認められた(34、35)。しかしながら、その後の研究は、タモキシフェンを単独で使用時に、または全身療法と併用時に、反応率または全生存率に有意差を見いだせていない(36〜42)。これらの試験間に見られた、抗エストロゲン療法に対する反応に関する違いの理由は不明である。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、癌の診断、予後予測、および治療におけるER-α遺伝子のプロモーターのメチル化の有用性に関する。
【0008】
1つの局面において、本発明は、対象の体液中の非細胞(acellular)DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化に基づく癌の診断および予後予測のための方法を提供する。
【0009】
具体的には、本発明は、対象が癌に罹患しているか否かを判定する方法を特徴とする。この方法は、(1)対象に由来する体液試料を提供する段階であって、試料が体液中で非細胞DNAとして存在するDNAを含む、段階;および(2)DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階を含む。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象が癌に罹患している可能性が高いことを示す。
【0010】
本発明は、癌の転帰を決定する方法も特徴とする。この方法は、(1)癌に罹患した対象に由来する体液試料を提供する段階であって、試料が体液中で非細胞DNAとして存在するDNAを含む、段階;および(2)DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階を含む。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象は癌の望ましくない転帰を有する可能性が高いことを示す。1つの態様では、DNA中のER-α遺伝子のプロモーターの、より高いメチル化レベルは、癌治療に対する反応、無憎悪生存率、または全生存率の低下を意味する。
【0011】
上記の方法では、癌は、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、肺癌、乳癌、または胃癌であってもよく;癌は、原発性または転移性の癌であってもよく;試料は、血清、血漿、腹膜/胸膜、または脳脊髄の試料であってもよい。
【0012】
別の局面において、本発明は、対象のPE(パラフィン包埋された)癌組織試料中に含まれる細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化を元に、癌の予後を予測する方法を提供する。具体的には、本発明は、癌の転帰を決定する方法を特徴とする。この方法は、(1)対象のPE癌組織試料を提供する段階であって、試料が細胞DNAを含む、段階;および(2)DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階を含む。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象は癌の望ましくない転帰を有する可能性が高いことを示す。この方法では、癌は、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、肺癌、乳癌、または胃癌であってもよく;癌は、原発性または転移性の癌であってもよい。
【0013】
さらに本発明は、対象の体液中の癌組織または癌細胞に含まれる細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化を元に、癌の予後を予測する方法を提供する。具体的には、本発明は、癌の転帰を決定する方法を特徴とする。この方法は、(1)試料が細胞DNAを含み、体液が癌細胞を含み、かつ対象が黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌に罹患している、対象に由来する癌組織試料または体液試料を提供する段階;および(2)DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階を含む。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象が黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の望ましくない転帰を有する可能性が高いことを示す。この方法では、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌は、原発性もしくは転移性の黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌であってもよい。
【0014】
本発明には、細胞内のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化を低下させることによって癌を治療する方法も含まれる。具体的には、本発明は、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の細胞に脱メチル化剤(例えば5-アザ-2-デオキシシチジン)を接触させることによって、細胞内のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化を低下させる段階を含む、細胞内のDNAのメチル化を低下させる方法を特徴とする。この方法はさらに、細胞にトリコスタチンAなどのヒストン脱アセチラーゼ阻害剤を接触させる段階を含んでいてもよい。この方法では、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌は、原発性もしくは転移性の黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌であってもよい。
【0015】
本発明の上述の、および他の特徴、ならびにこれらを入手して使用する方法は、以下の記述を参照することで明らかになり、ならびに添付図面を参照することで極めてよく理解されるであろう。これらの図面は、本発明の典型的な態様を示すだけであって、本発明の範囲を制限するものではない。
【0016】
発明の詳細な説明
黒色腫におけるER-αの果たす役割は不明である。黒色腫におけるER-αの発現を調節する機構については、ほとんど明らかにされておらず;現時点で黒色腫では、ER-α遺伝子の変異または他の大規模な構造的変化は報告されていない。
【0017】
本発明は少なくとも部分的には、原発性および転移性の黒色腫における遺伝子のプロモーターの高メチル化を介したER-α遺伝子のサイレンシングが黒色腫の進行に重要な役割を果たし、ならびに予後予測用の分子バイオマーカーとして使用可能であるというという予想外の発見に基づく。具体的には、潜在的な腫瘍進行マーカーとしての、原発性および転移性の黒色腫ならびに血清中のER-αの高メチル化が評価された。AJCCの病期がI〜IV期の黒色腫患者の腫瘍(n=107)および血清(n=109)中のER-αのメチル化状態がMSPで調べられた。血清中のメチル化されたER-αの臨床的意義は、タモキシフェンによるBCを受けた、AJCCの病期がIV期の黒色腫患者を対象に評価された。AJCCの病期がI期、II期、およびIII期の原発性黒色腫におけるER-αのメチル化率はそれぞれ36%(11人中4人)、26%(19人中5人)、および35%(23人中8人)であった。メチル化されたER-αは、III期の転移性黒色腫の42%(19人中8人)、およびIV期の転移性黒色腫の86%(35人中30人)で検出された。ER-αは、原発性の黒色腫より転移性の黒色腫において、より高頻度でメチル化されていた(p=0.0003)。AJCCの病期がI期、II期、III期、およびIV期の109人の黒色腫患者の血清のうち、メチル化されたER-αはそれぞれ10%(20人中2人)、15%(20人中3人)、26%(19人中5人)、および32%(50人中16人)で検出された。血清中のメチル化されたER-αは、局所性黒色腫より進行性黒色腫で高頻度で検出され(p=0.03)、ならびにBC患者の無憎悪生存率(RR 2.64、95%信頼区間(CI)1.36〜5.13、p=0.004)および全生存率(RR 2.31、95% CI 1.41〜5.58、p=0.003)を予測する唯一の因子であった。高メチル化されたER-αは、黒色腫の進行における重要な因子である。血清中のメチル化されたER-αは、望ましくない予後を予測する因子である。
【0018】
したがって本発明は、癌の診断、予後予測、および治療のためのさまざまな方法を提供する。本発明の診断法は一般に、対象に由来する生物学的試料中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを解析する段階を含む。試料中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照値より高い場合、対象は癌に罹患している可能性が高い。
【0019】
本発明の1つの診断法は、対象に由来する体液試料を対象とする。このような試料は、体液中で非細胞DNAとして存在するDNAを含む。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが決定される。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照のメチル化レベルより高い場合、対象は癌に罹患している可能性が高い。
【0020】
本明細書で用いる「対象」という用語は、ヒト、または霊長類(特に高等霊長類)、ヒツジ、イヌ、齧歯類(例えばマウスやラット)、モルモット、ヤギ、ブタ、ネコ、ウサギ、およびウシなどの全ての哺乳類を含む動物を意味する。好ましい態様では、対象はヒトである。別の態様では、対象は実験動物、または疾患モデルとして適切な動物である。
【0021】
「体液」という表現は、血液、血清、血漿、骨髄、脳脊髄液、腹水/胸水、リンパ液、腹水、漿液、痰、涙液、便、および尿を含むが、これらに限定されない、非細胞DNAまたは細胞(例えば癌細胞)が存在する可能性のある任意の体液を意味する。「非細胞(acellular)DNA」は、対象の体液中で細胞外に存在するDNA、または、このようなDNAの単離された状態を意味し、「細胞DNA」は、細胞内に存在するDNA、または細胞から単離されたDNAを意味する。
【0022】
体液試料は対象から、当技術分野で周知の任意の方法で得られる。このような試料から非細胞DNAを抽出する方法も当技術分野で周知である。一般に体液試料中の非細胞DNAは細胞から分離され、アルコール中に沈殿され、水溶液中に溶解される。
【0023】
「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼ、および隣接する遺伝子の転写速度を調節するいくつかのタンパク質の結合部位を含む、転写開始部位の150〜300 bp上流に位置するDNA領域である。ER-α遺伝子のプロモーター領域は、当技術分野で周知である。ER-α遺伝子のプロモーターのメチル化は、当技術分野で一般に使用されている任意の方法、例えばMSP、亜硫酸水素塩による配列決定、またはパイロス(pyrose)クエンチングで評価可能である。
【0024】
MSPは、DNAがDNAのメチル化状態に依存してPCRで増幅される手法である。この手法については例えば、米国特許第6,017,704号を参照されたい。核酸のメチル化状態の判定は、メチル化核酸と非メチル化核酸を識別するオリゴヌクレオチドプライマーによって核酸を増幅する段階を含む。MSPでは、メチル化感受性の制限酵素の使用に無関係に、CpGアイランド中の実質的に任意のグループのCpG部位のメチル化状態を速やかに評価することができる。このアッセイ法は、亜硫酸水素ナトリウムによるDNAの初期修飾、全ての非メチル化シトシン(メチル化シトシンではなく)のウラシルへの変換、およびこれに続く、メチル化されたDNAおよびメチル化されていないDNAに特異的なプライマーによる増幅を含む。MSPは少量のみのDNAを必要とし、任意のCpGアイランドの座位の0.1%のメチル化対立遺伝子に感受性を示し、ならびに体液、組織、およびPE試料から抽出されたDNAを対象に実施可能である。MSPでは、メチル化されたDNAとメチル化されていないDNAを区別するために制限酵素による切断の差に依存する従来のPCRベースの方法に固有の偽陽性の結果は除外される。この方法は極めて単純であり、および少量の組織または数個の細胞、ならびに新鮮な、凍結した、またはPE切片を対象に使用することができる。MSP産物は、ゲル電気泳動、CAE(キャピラリアレイ電気泳動)、またはリアルタイム定量PCRによって検出可能である。
【0025】
亜硫酸水素塩による配列の決定は、DNA中の5-MeC(5-メチルシトシン)の検出に広く使用されており、任意の配列環境中に任意のメチル化シトシンを単分子の解像度で検出する信頼性の高い方法となっている。亜硫酸水素塩による処理の過程では、酸性条件における亜硫酸水素塩による脱アミノ化に対するシトシンと5-MeCの感受性の差を利用する(シトシンはウラシルへの変換を受けるが、5-MeCは無反応のまま留まる)。
【0026】
対象(すなわち被験対象)が癌に罹患しているか否かを判定するために、被験対象の非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照値と比較される。適切な対照値は例えば、正常対象の体液に由来する非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルの場合がある。仮に、被験対象に由来する非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照値より高ければ、被験対象は癌に罹患している可能性が高い。
【0027】
本明細書で用いる「癌」とは、制御不能の細胞分裂、およびこのような細胞の、浸潤による隣接組織への直接的な成長によるか、または転移による遠隔部位への生着のいずれかによる拡散能力を特徴とする疾患または病気を意味する。例示的な癌は、原発性の癌、転移性の癌、AJCCの病期がI期、II期、III期、またはIV期の癌、癌(carcinoma)、リンパ腫、白血病、肉腫、中皮腫、神経膠腫、胚細胞腫、絨毛癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸直腸癌、消化器癌、膀胱癌、膵臓癌、子宮内膜癌、卵巣癌、黒色腫、脳腫瘍、精巣癌、腎臓癌、皮膚癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肝細胞癌、食道癌、胃癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、骨髄腫、神経芽腫、および網膜芽腫を含むが、これらに限定されない。好ましくは癌は、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、肺癌、乳癌、および胃癌などの、ER-α遺伝子の生物学的機能と関連する癌である。
【0028】
本発明の予後予測法は一般に、癌に罹患している対象の生物学的試料中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを解析する段階を含む。試料中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照値より高い場合、対象は癌の転帰が不良である可能性が高い。例えば対象は、BCなどの癌治療に対する反応、無憎悪生存率、または全生存率が低い場合がある。
【0029】
本発明の1つの予後予測法は、癌に罹患している対象に由来する体液試料を対象とする。試料は、体液中で非細胞DNAとして存在するDNAを含む。本発明の別の予後予測法は、対象のPE癌組織試料を対象とする。試料は細胞DNAを含む。いずれの方法においても、DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが決定される。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照のメチル化レベルより高い場合、対象は癌の望ましくない転帰を有する可能性が高い。
【0030】
本発明の第3の予後予測法は、対象に由来する癌組織試料または体液試料を対象とする。試料は細胞DNAを含む。体液は癌細胞を含む。対象は、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌に罹患している。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが決定される。DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが対照のメチル化レベルより高い場合、対象は黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の望ましくない転帰を有する可能性が高い。
【0031】
対象に由来する組織試料は、生検標本試料、正常すなわち良性の組織試料、癌マーカー腫瘍の組織試料、新たに調製した組織試料、凍結組織試料、PE組織試料、原発性の癌もしくは腫瘍の試料、または転移試料の場合がある。例示的な組織は、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織、心臓組織、肺組織、脳組織、目の組織、胃の組織、脾臓組織、骨組織、膵臓組織、腎臓組織、消化器組織、皮膚組織、子宮組織、胸腺組織、リンパ節組織、結腸組織、乳房組織、前立腺組織、卵巣組織、食道組織、頭部の組織、頚部の組織、直腸組織、睾丸組織、咽喉組織、甲状腺組織、腸管組織、メラノサイト系組織、結腸直腸組織、肝細胞組織、胃の組織、および膀胱の組織を含むが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の予後予測法を実施するためには、非細胞DNAを上記の方法で入手できる。組織試料は、対象から当技術分野で周知の任意の方法で得られる。組織試料および体液試料から細胞DNAを抽出する方法も当技術分野で周知である。典型的には、細胞は界面活性剤で溶解される。細胞の溶解後に、さまざまなプロテアーゼを使用してDNAからタンパク質が除去される。次にDNAがフェノールで抽出され、アルコール中に沈殿され、水溶液中に溶解される。
【0033】
非細胞DNAおよび細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルは、上記の方法で決定し、対応する対照値と比較することができる。上述したように、被験対象の非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルに対する対照値は例えば、正常対象の体液に由来する非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルの場合がある。被験対象の細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルに対する対照値は例えば、ER-α遺伝子のプロモーターのメチル化が検出されない体液中の細胞株、組織、または細胞に由来する細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルの場合がある。好ましくは、対照細胞株は癌細胞株であり、および対照組織は、被験対象に由来する対照細胞株、対照組織、および癌組織が同じタイプの癌である癌組織である。被験対象に由来するDNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照値より高い場合、癌の転帰が望ましくないことを示す。
【0034】
黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、および胃癌の細胞においてER-α遺伝子のプロモーターがメチル化されているという知見は、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、および胃癌を治療するための化合物の同定に有用である。例えば、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の細胞に試験化合物を接触させることができる。接触段階に先立つか、または接触段階後の細胞内のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが比較される。細胞内のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが接触段階後に低下すれば、試験化合物は、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌を治療するための候補化合物であると同定される。
【0035】
同様に、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌に罹患している対象に試験化合物を接触させることができる。癌組織の試料、または癌細胞もしくは非細胞DNAを含む体液の試料は対象から得られる。接触段階前に対象から得られた試料中の細胞DNAまたは非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、接触段階後に対象から得られた試料中の細胞DNAまたは非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルと比較される。細胞DNAまたは非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが接触段階後に低下すれば、試験化合物は、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌を治療するための候補化合物として同定される。
【0036】
本発明の試験化合物は、当技術分野で既知の任意の数多くの方法(例えばコンビナトリアルライブラリー法)で入手できる。これについては例えば、米国特許第6,462,187号を参照されたい。このようなライブラリーは、ペプチドライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能は有するが、酵素による分解に耐性を示す新規の非ペプチド性バックボーンを有する分子のライブラリー)、空間的にアドレス可能な平行の固相または液相のライブラリー、逆重畳積分またはアフィニティクロマトグラフィーによる選択によって得られる合成ライブラリー、および「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリーを含むが、これらに限定されない。最後の3種類のライブラリー中の化合物は、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または小分子の場合がある。分子ライブラリーの合成法の例は、当技術分野で報告されている。化合物のライブラリーは、溶液中に、またはビーズ上に、チップ上に、細菌上に、胞子上に、プラスミド上に、またはファージ上に存在する場合がある。
【0037】
細胞または対象において、このように同定された候補化合物、ならびにDNAを脱メチル化することが既知である化合物(すなわち5-Azaなどの脱メチル化剤)を使用して、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、および胃癌の細胞内のER-α遺伝子のプロモーターをインビトロおよびインビボで脱メチル化することができる。1つの態様では、この方法は、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の細胞に脱メチル化剤を接触させることで、細胞内のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化を低下させる段階を含む。黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌に罹患している対象を治療するために、有効量の脱メチル化剤が対象に投与されて、対象におけるER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが低下される。治療を受ける対象は、対象または医療従事者の判断によって同定される場合があり、および主観的な場合(例えばオピニオン)または客観的な場合(例えば上述の試験法もしくは診断法によって測定可能なもの)がある。
【0038】
「治療」は、疾患、疾患の症状、疾患による疾患状態、または疾患に対する傾向を、治癒、軽減、緩和、是正、予防、または改善することを目的とした物質の対象への投与であると定義される。
【0039】
「有効量」は、治療を受けた対象において医学的に望ましい結果を生じ得る化合物の量である。医学的に望ましい結果は、客観的な場合(すなわち、いくつかの試験もしくはマーカーによって測定可能なもの)があるほか、または主観的な場合(すなわち対象が作用について話したり作用を感じたりするもの)がある。
【0040】
いくつかの態様では、黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、もしくは胃癌の細胞を対象に、または黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、もしくは胃癌に罹患している対象に、さらに他の化合物もしくは放射線療法による治療が行われる。例えば、1つのタイプの他の化合物は、クロマチン領域中のヒストンを修飾可能であり、およびプロモーター領域中のCpGアイランドのメチル化によってサイレンシングされた遺伝子を活性化可能なTSA(トリコスタチンA)などのHDAC(ヒストン脱アセチラーゼ)阻害剤である。
【0041】
癌の治療に関しては、任意の残存する腫瘍細胞を治療するために、化合物は好ましくは、腫瘍の手術による切除後に腫瘍細胞に、例えば腫瘍または腫瘍床に直接輸送される。癌の浸潤および転移の予防に関しては、化合物は例えば、検出可能な浸潤および転移を生じてはいないが、ER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルの上昇が認められる対象に投与することができる。
【0042】
本発明の化合物は、薬学的組成物中に混合可能である。このような組成物は典型的には、化合物および薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与に適合する溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、ならびに抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤ほかの薬剤を含む。
【0043】
薬学的組成物は、その意図された投与経路に適合するように製剤化される。これについては例えば、米国特許第6,756,196号を参照されたい。投与経路の例は、非経口投与、例えば静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口(例えば吸入)投与、経皮(局所)投与、経粘膜投与、および直腸内投与を含む。非経口投与、皮内投与、または皮下投与に使用される溶液もしくは懸濁液には、以下の成分を含めることができる:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの無菌性希釈液;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤;および塩化ナトリウムやデキストロースなどの等張性を調節するための薬剤。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口用の調製物は、アンプル、ディスポーザブルシリンジ、またはガラス製もしくはプラスチック製の多回投与用バイアル中に封入することができる。
【0044】
1つの態様では、化合物は、植込錠およびマイクロカプセル化された輸送系を含む放出制御製剤などの、化合物を体内からの速やかな排出から保護する担体によって調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性で生体的適合性のポリマーを使用することができる。このような製剤の調製法は、当業者には明らかであろう。このような材料は、市販品をAlza CorporationやNova Pharmaceuticals, Inc.から入手することもできる。リポソーム懸濁液を、薬学的に許容される担体として使用することもできる。これらは例えば米国特許第4,522,811号に記載されているような、当業者に既知の方法で調製することができる。
【0045】
経口用または非経口用の組成物を、投与を容易にするために、および投与量を均一にするために、単位用量剤形に製剤化することは有益である。本明細書で用いる「単位投与剤形(dosage unit form)」は、治療される対象への単位投与量として適した物理的に明確な単位を意味し、個々の単位は、望ましい治療効果を生じるように計算された所定の量の活性化合物を、必要とされる薬学的担体とともに含む。
【0046】
対象の治療に必要な投与量は、投与経路の選択、製剤の性質、対象の疾患の性質、対象の身長、体重、体表面積、年齢、および性別、使用されている他の薬剤、ならびに担当医の判断に依存する。適切な投与量は0.01〜100.0 mg/kgの範囲である。使用可能な化合物の種類の多さ、およびさまざまな投与経路の効率の差に鑑みて、必要とされる投与量には幅があると予想される。例えば経口投与では、静脈注射による投与より高い投与量を必要とすることが予想される。このような投与量レベルの可変性は、当技術分野でよく理解されている最適化のための標準的で経験的な常用的な手段で調節することができる。適切な輸送溶媒中への化合物のカプセル化(例えば高分子微粒子(polymeric microparticle)または埋め込み可能な装置)は、輸送(特に経口輸送)の効率を高める可能性がある。
【0047】
以下の実施例は、説明を意図するものであり、本発明の範囲を制限する意図はない。これらの実施例は、使用可能な典型例であるが、当業者に既知の他の手順を代替的に使用することができる。実際、当業者であれば、本明細書に記載された手法を元に、過度の実験を行うことなく、別の態様を容易に想像して作製することができる。
【0048】
実施例I
ER-αのメチル化は黒色腫の進行を予測する
材料および方法
黒色腫の細胞株および腫瘍のDNAの単離
DNAを、John Wayne Cancer Institute(JWCI)で転移性腫瘍から確立された11の黒色腫細胞株から、およびアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(Manassas, VA)の1つの乳癌細胞株(MCF-7)から、文献(14)に記載された手順で抽出した。ヒト組織の使用に関する施設内審査委員会の承認は、試験開始前にSaint John's Health CenterおよびJWCIから得た。AJCCの病期がI期、II期、III期、およびIV期の黒色腫の手術を受けた患者(11人がI期の原発性腫瘍;19人がII期の原発性腫瘍;23人がIII期の原発性腫瘍;19人がIII期の転移性腫瘍;および35人がIV期の転移性腫瘍)が、データベースコーディネーターによって、施設の黒色腫患者および標本のデータベース(表1A)から連続的に選択された。これらの患者に由来するPE腫瘍標本は、Saint John's Health Centerの外科病理学部(Division of Surgical Pathology)から得た。
【0049】
(表1A)黒色腫患者の臨床的特徴

【0050】
複数の8μmの切片を、ホルマリンで固定されたPE塊から、文献(43)に記載された手順で切り出した。個々の腫瘍塊に由来する1枚の切片を脱パラフィン処理し、ガラススライド上にマウントし、ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色して顕微鏡による解析を行った。光学顕微鏡で腫瘍の位置を確認し、および組織の均一性を評価した。腫瘍塊に由来する別の切片をガラススライド上にマウントし、および光学顕微鏡下で顕微解剖を行った。切片化された組織を、50μlのプロテイナーゼKを含む溶解緩衝液で50℃で12時間にわたって消化した後に、95℃で10分間、加熱してプロテイナーゼKを失活させた(5)。DNAは、文献(10)に記載された手順で抽出した。
【0051】
血清DNAの単離
黒色腫であると診断された、AJCCの病期がI期(n=20)、II期(n=20)、III期(n=19)、およびIV期の患者(n=50)を本研究で評価した(表1A)。I期、II期、およびIII期の患者は、追加的な補充療法は受けなかったが、IV期の患者は、ダカルバジン(DTIC)またはtemazolamide、シスプラチン、ビンブラスチン、インターフェロンα-2b、インターロイキン-2(IL-2)、およびタモキシフェンの全身同時BC療法を、文献(40〜42)に記載された手順で、複数の第II相試験の1つとして受けた。
【0052】
AJCCの病期がIV期の患者(表1B)が選択され、および臨床試験のコーディネーターによってコード化され、ならびに検査室で評価が行われ、および統計解析が盲検下で行われた。IV期の患者の選択は、BCに対する患者の反応または無反応、臨床フォローアップデータの入手可能性、BC試験の完了、および標本の入手可能性に基づいた。患者は、臨床反応基準(42)を元に、BCに対する反応者または非反応者に分類された。完全反応(CR、n=13)または部分反応(PR、n=10)を示した患者を反応群(n=23)に含め、進行性の疾患を示した患者(PD、n=24)を非反応者と見なした。安定な疾患を示す患者(SD、n=3)は、反応者とも非反応者とも見なさなかった。反応群の1人の患者はフォローアップ中に死亡したため、生存解析から除外された。健康ドナー(n=40)から採取された血清を正常対照とした。
【0053】
(表1B)生化学療法を受けたIV期の黒色腫患者の臨床背景特性

【0054】
IV期の患者の血液を、BCの実施前に採取した。10 mlの血液を血清分離用チューブに採取し、遠心分離し、13mmの血清フィルター(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)を通し、アリコートを得て、-30℃で凍結保存した。血清からDNAを抽出し、文献(6)に記載された手順で処理した。全ての血清標本を対象に、DNAをPicoGreen定量アッセイ法(Molecular Probes, Eugene, OR)(44)で定量した。
【0055】
細胞株および組織中のDNAの亜硫酸水素ナトリウムによる修飾
細胞株およびPE黒色腫腫瘍から抽出されたDNAを対象に、亜硫酸水素ナトリウムによる修飾(11)を行った。簡単に説明すると、2μgのDNAを0.3 M NaOHで95℃で3分間かけて変性させた後に、550μlの2.5 M亜硫酸水素ナトリウム/125 mMヒドロキノン溶液を添加した。試料を鉱油下で暗条件で60℃で3時間インキュベートした。Wizard DNA Clean-Up System(Promega, Madison, WI)を使用して塩を除去し、0.3 M NaOHで37℃で15分間かけて脱スルホン化した。修飾後のDNAを、Pellet Paint NF(Novagen, Madison, WI)を担体として使用してエタノールで沈殿させ、分子グレードのH2O中に再懸濁した。DNA試料を-30℃で、MSPの実施まで凍結保存した。
【0056】
血清DNAの亜硫酸水素ナトリウムによる修飾
血清から抽出されたDNAを対象に、亜硫酸水素ナトリウムによる修飾を行った(44)。簡単に説明すると、500μlの血清に由来するDNAに1μgのサケ精子DNA(Sigma, St. Louis, MO)を添加し、0.3 M NaOHで95℃で3分間かけて変性させた。全体としては、550μlの2.5 Mの亜硫酸水素ナトリウム/125 mMヒドロキノン溶液を添加した。試料を鉱油下で暗条件で60℃で3時間インキュベートした。Wizard DNA Clean-Up System(Promega, Madison, WI)を使用して塩を除去し、0.3 M NaOHで37℃で15分間かけて脱スルホン化した。修飾された血清DNAを調製し、組織試料と同様に保存した。
【0057】
メチル化されたER-αの検出
ER-αのプロモーター領域がメチル化されたDNA配列またはメチル化されていないDNA配列が増幅されるように特異的に設計された2組みの蛍光標識プライマーを使用して、ER-αのメチル化状態を評価した。プライマー配列は、アニーリング温度およびPCR産物サイズを考慮して、メチル化されたセンスおよびアンチセンスと、これに続く非メチル化のセンスおよびアンチセンス配列として提供された:
ER-αのメチル化特異的なフォワード

およびリバース

(61℃、96 bp);
非メチル化特異的なフォワード

およびリバース

(58℃、96 bp)。亜硫酸水素塩で修飾されたDNAを対象に、PCR緩衝液、2.5 mM MgCl2、dNTP、0.3μMのプライマー、および0.5 UのAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems, Foster, CA)を含む20μlの最終反応容量でPCR増幅を行った。PCRは、95℃で10分間の初回インキュベーションと、これに続く95℃で30秒間の変性、30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長を40サイクル、および最終的な72℃で7分間の維持によって行った。ER-α陽性の乳癌細胞株MCF-7に由来するDNAを、ER-αの存在を検証するための対照として使用した。ER-α陰性の黒色腫細胞株MCAに由来するDNAを、ER-αの非存在を検証するための対照として使用した。ユニバーサルな非メチル化対照を、正常DNAからphi-29 DNAポリメラーゼによって合成し、陽性の非メチル化対照として使用した(45)。非修飾型のリンパ球のDNAを、メチル化反応および非メチル化反応の陰性対照として使用した。SssIメチル化酵素(New England Bio Labs, Beverly, MA)で処理したリンパ球のDNAを陽性メチル化対照として使用した。PCR産物を、CAE(CEQ 8000XL;Beckman Coulter, Inc., Fullerton, CA)を使用して96ウェルマイクロプレートのフォーマット(6)で可視化した。各試料に由来するメチル化および非メチル化のPCR産物を、Beckman Coulter WellRED色素標識用ホスホラミダイト(Genset oligos, Boulder, CO)で標識されたフォワードプライマーを使用して同時に評価した。フォワードのメチル化特異的なプライマーをD4pa色素で標識し、およびフォワードの非メチル化特異的なプライマーをD2a色素で標識した。1μlのメチル化PCR産物および1μlの非メチル化PCR産物を40μlのローディング緩衝液および0.5μlの色素標識サイズ標準(Beckman Coulter, Inc., Fullerton, CA)と混合した。各マーカーをメチル化対照および非メチル化対照によって最適化した。非メチル化DNAの塩基対サイズマーカーにピークを示す試料はメチル化されなかったと見なし、メチル化DNAの塩基対サイズマーカーにピークを示す試料をメチル化されたと見なした。
【0058】
黒色腫細胞株の5-AzaおよびTSAによる処理
ER-αのプロモーター領域の高メチル化によるER-α発現のダウンレギュレーションを確認するために、細胞株をDNA脱メチル化剤5-AzaおよびHDAC阻害剤TSAで処理した。5-Aza処理と組み合わることで、TSAは、高メチル化のためにサイレンシングされた遺伝子のmRNA発現をアップレギュレート可能である(26、27)。MCF-7細胞株をER-αの正の対照として使用し、およびMCA細胞株をER-αの陰性対照として使用した。細胞株を、加熱失活させた10%ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリンG、およびストレプトマイシン(100 U/ml)が添加されたRPMI 1640培地で維持した。細胞を1000 nMのTSA(Wako Biochemicals, Osaka, Japan)で24時間処理し、および1000 nMの5-Aza(Sigma Chemical Co., St Louis, MO)で5日間処理した。5-AzaおよびTSAによる処理後に、黒色腫細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、および0.25%トリプシン-0.53 mM EDTA(Gibco, Auckland, NJ)によって回収した。ER-αのmRNAの発現レベルを、5-AzaおよびTSAによる処理の前後にRT-PCRによって評価した。
【0059】
mRNAの解析
黒色腫細胞株に由来する全細胞RNAを、Tri-Reagent(Molecular Research Center, Inc., Cincinnati, OH)を使用して、文献(6)に記載された手順で抽出した。RNAを定量し、紫外分光光度法およびRIBOGreen検出アッセイ法(Molecular Probes, Eugene, OR)で純度を評価した。内部基準となるハウスキーピング遺伝子GAPDHのmRNAの発現を、全RNA試料を対象にRT-PCRで評価してRNAの完全性を検証し、およびゲル電気泳動用のPCR産物が等量であることがわかった。
【0060】
全てのRT反応は、文献(6)に記載された手順で、モロニーマウス白血病ウイルスの逆転写酵素(Promega, Madison, WI)をオリゴ-dT(GeneLink, Hawthorne, NY)によるプライミングによって使用して実施した。250 ngの全RNAに由来するcDNAを各反応に使用した(46)。RT-PCR反応混合物は、1μMの各プライマー、1 UのAmpliTaq Goldポリメラーゼ(Applied Biosystems, Foster City, CA)、200μMの各dNTP、4.5 mMのMgCl2、およびAmpliTaq緩衝液からなるようにした(最終容量は25μl)。以下のプライマー配列を使用した:
ER-α:

(フォワード);

(リバース)。
GAPDH:

(フォワード);

(リバース)。試料をER-αとGAPDHのそれぞれについて、95℃で30秒間の変性、58℃で30秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長を40サイクル行って増幅した。
【0061】
文献(46)に記載された手順で、ER-α陽性(MCF-7細胞株)対照および陰性(MCA黒色腫細胞株)対照、ならびにRT-PCRアッセイ法用の試薬対照を含めた。全PCR産物を、ER-αについては1.5% Tris-ホウ酸EDTAアガロースゲルで分離し、GAPDHについては2% Tris-ホウ酸EDTAアガロースゲルで分離し、ならびにSYBR Gold(Invitrogen Detection Techonologies, Eugene, Oregon)で染色した。各アッセイ法を3回、繰り返した。
【0062】
生物統計解析
原発性および転移性の黒色腫のER-αのメチル化状態とAJCC病期の間の相関をカイ二乗法で評価した。同様に、既知の臨床予後因子による循環性の血清中のDNAのER-αのメチル化状態とBC反応の間の相関をカイ二乗法で評価した。さらに、臨床予後因子および血清中の循環性のER-αのメチル化状態と対BC反応の相関を見るために、多変量ロジスティック回帰モデルを開発した。
【0063】
BC治療の初日から死亡に至るまでの、または臨床フォローアップの最終日までの生存期間を決定した。カプラン-マイヤー法で生存曲線を得て、曲線間の差をlog-rank検定で解析した。多変量解析にはCox比例ハザード回帰モデルを使用した。年齢、性別、ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)状態、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)のレベル、転移部位の数、およびER-αのメチル化状態を、段階的変数選択法を使用して多変量モデルに含めた。
【0064】
結果
細胞株中のメチル化されたER-αのDNAの検出
最初に、確立された転移性黒色腫細胞株中のER-αの評価を行った。転移性黒色腫細胞株中の高メチル化されたER-αの頻度は91%(11株中10株)であった。これらの株のなかで、6株のみにメチル化特異的なピークが認められ、4株の細胞株については、メチル化特異的なピークと非メチル化特異的なピークの両方が認められた。これらの実験では、ER-αに関してMSPアッセイ法が最適化され、およびインビトロで培養された転移性黒色腫細胞でER-αが高頻度で高メチル化されていることが明らかとなった。
【0065】
5-AzaおよびTSAによる処理によるER-αの再発現
高メチル化されたER-αを有する細胞が、ER-αのmRNAの再発現を誘導し得るか否かを判定するために、細胞株を5-AzaおよびTSAで処理した。非処理細胞株では、ER-αのmRNAはMCBおよびMCCでは検出されたがMCAでは検出されなかった(図1)。ER-αのmRNAの発現は、MCAでは、5-AzaおよびTSAによる処理後に検出可能なレベルに回復した(図1)。5-Azaによる5日間の処理と、これに続くTSAによる24時間の処理後に、MCAは、MSPで評価時に非メチル化特異的なDNAのピークを示した(図2)。黒色腫におけるER-α遺伝子のプロモーター領域の高メチル化をさらに検証するために、亜硫酸水素ナトリウムによる修飾後に精製されたPCR産物の配列を、CEQ DYE Terminator Cycle Sequencing Kit(Beckman Coulter, Inc.)を使用して直接決定した。ER-αを発現しないMCA細胞株では、プロモーター領域のCpGアイランドは完全にメチル化されており、ER-αを発現する細胞株であるMCCでは、プロモーター領域のCpGアイランドの高メチル化の証拠は得られなかった。メチル化されたER-αの検出に関して最適化されたアッセイによって、およびメチル化の逆転がER-αのmRNAの再発現につながることが明らかにされたことで、メチル化されたER-αの検出が、PE黒色腫標本で接近した。
【0066】
黒色腫におけるメチル化されたER-αの検出
53のPE原発性黒色腫(I期、n=11;II期、n=19;III期、n=23)をMSPで評価した。全体としては、原発性黒色腫におけるメチル化されたER-αの頻度は32%(53個中17個)であった。同様の割合のメチル化されたER-αが、評価された患者の原発性腫瘍で病期に無関係に検出された。AJCCのI期、II期、およびIII期の原発性黒色腫腫瘍におけるER-αのメチル化の頻度はそれぞれ、36%(11個中4個)、26%(19個中5個)、および35%(23個中8個)であった(図3A)。
【0067】
加えて、III期のリンパ節転移(n=19)およびIV期の遠隔転移(n=35;14個が皮下、9個がリンパ節、6個が肺、5個が結腸直腸、および1個が肝臓)を含む54個のPE転移性黒色腫の評価を行った。メチル化されたER-αは、III期の転移性黒色腫の42%(19個中8個)、およびIV期の転移性黒色腫の86%(35個中30個)で検出された(図3A)。IV期の転移性腫瘍で検出されたメチル化されたER-αの頻度は、III期の転移性腫瘍の場合より有意に高かった(p=0.0003)。全体としては、ER-αは、転移性腫瘍の70%(54個中38個)でメチル化されており、これは原発性黒色腫より頻度が2倍以上、高かった。
【0068】
ER-αのメチル化状態は、さまざまな臓器部位に由来する10のPE正常組織についても決定された(膵臓、n=2;肝臓、n=2;胸腺、n=2;肺、n=2;および皮膚、n=2)。メチル化されたER-αは、正常組織の90%(10個中9個)で検出され、ER-αが通常メチル化されており、および正常組織ではサイレンシングされていることがわかった。
【0069】
PEの原発性および転移性の黒色腫では、メチル化されたER-αが高頻度で検出されたため、AJCCの病期がI〜IV期の黒色腫患者の血清中のメチル化されたER-αの検出の評価を、疾患の検出目的の血液マーカーとしてのその役割を見極めるために行った。
【0070】
血清中の循環性のメチル化されたER-αのDNAの検出
循環性のメチル化DNAマーカーが、腫瘍進行の有用な代理指標となり得ることは既にわかっている(11、44)。したがって、血清中の遊離の循環性のメチル化されたER-αのDNAの存在を検出するために、最適化されたアッセイ法を開発した。メチル化されたER-αが血清中に検出される頻度は、腫瘍の進行に伴って、およびAJCC段階に従って高まった。109人の黒色腫患者の血清の解析では、AJCCの病期がI期、II期、III期、およびIV期の血清中の循環性のメチル化されたER-αの頻度はそれぞれ、10%(20人中2人)、15%(20人中3人)、および26%(19人中5人)、および32%(50人中16人)であった(図3B)。血清中のメチル化されたER-αの頻度は、疾患がより進行した患者では高く;メチル化されたER-αは、I/II期よりIII/IV期で高頻度で検出された(p=0.034)。メチル化されたER-αは、40人の健康正常ドナーのうち1人の82歳の女性の血清中でのみ検出された。正常ドナーの血清、正常な肝臓組織、黒色腫患者の血清、および黒色腫の腫瘍に由来する代表的なメチル化のピークを図4に示す。健康な正常ドナーは20〜84歳であり(平均56歳);正常ボランティアの性別分布は、評価された黒色腫患者と同等であった。メチル化されたER-αが、黒色腫患者の血清中に高い信頼性で検出可能であるが、正常ボランティアでは検出されないことがわかったこと、およびメチル化されたER-αが疾患進行のマーカーとなることから、メチル化されたER-αの疾患転帰の予測因子としての臨床的有用性の評価に注目した。
【0071】
循環性のメチル化されたER-αの臨床的有用性
全身への同時BCの実施前に、AJCCの病期がIV期の黒色腫患者の血液を得て、循環性のメチル化されたER-αのDNAの検出に関する遡及的なアッセイ法を行った。IV期患者に由来する血清中のER-αのメチル化を評価して、BCに対して最も反応する可能性の高い患者を予測した。最初の血液採取後の臨床フォローアップの期間の中央値は12.5ヶ月であった。反応者における循環性のメチル化されたER-αの頻度(23人中4人、17%)は、非反応者(24人中12人、50%)より有意に低かった(p=0.018)。黒色腫の既知の臨床予後因子を含めた多変量ロジスティック回帰モデルでは、循環性の血清中のメチル化されたER-αのDNAの存在が対BC反応と有意に相関する唯一の因子であった(OR=0.21、95% CI=0.06〜0.81;p=0.023)。BC反応者であると分類された患者の全生存率は、BC非反応者と見なされた患者と比較して有意に良好であった(Log Rank, p<0.0001)。
【0072】
BCに対する反応にかかわらず、血清中にメチル化されたER-αを有する患者では、メチル化されたER-αが検出されなかった患者と比較して、無憎悪生存率が有意に悪かった(Log Rank, p=0.002)。血清中のメチル化されたER-αの存在、LDH>190 IU/L、および年齢が<50歳であることが、単変量解析で無憎悪生存率と有意に相関した(Log Rank;メチル化されたER-α、p=0.002;LDH>190 IU/L、p=0.013;年齢<50、p=0.028)。
【0073】
同様に、循環性のメチル化されたER-αを有する患者の全生存率は、メチル化されたER-αが検出されなかった患者と比較して有意に悪かった(Log Rank, p=0.002)。循環性のメチル化されたER-αの存在、および血清LDH>190 IU/Lは、全生存率と有意に相関した(Log Rank;メチル化されたER-α、p=0.002;LDH>190 IU/L、p=0.015)。他の予後因子(性別、年齢、ECOG、および転移部位数)は有意ではなかった。
【0074】
臨床因子およびER-αのメチル化状態と無憎悪生存率および全生存率の相関を見るために、多変量Cox比例ハザード回帰モデルを開発した。年齢、性別、ECOG状態、LDHレベル、転移部位数、およびER-αのメチル化状態を、段階的変数選択法を使用してモデルに含めた。血清中のメチル化されたER-αが、無憎悪生存率(図5A;RR 2.64、95% CI 1.36〜5.13、p=0.004)および全生存率(図5B;RR 2.31、95% CI 1.41〜5.58、p=0.003)を予測する唯一の独立因子であった。
【0075】
メチル化されたER-α:性別および年齢
ER-αの高メチル化は、他の癌で年齢と性別の両方の影響を受けるので、これらの因子と、原発性および転移性の黒色腫ならびに血清中のER-αのメチル化状態の関連を評価した。PE腫瘍または血清中のメチル化されたER-αの頻度に、男性患者と女性患者の間で有意差はなく、腫瘍中のメチル化されたER-αの頻度についても、60歳以上の患者と50歳未満の患者の間で有意差はなかった。
【0076】
考察
メチル化されたER-αは、結腸直腸、肺、および乳房の新生物中に検出されている(21、22、24、26、27)。黒色腫について報告されているER-αの発現レベルはさまざまであり、複数の研究では、モノクローナル抗体を使用してER-αの存在を示せていない(28〜31)。タモキシフェンは化学療法およびBC療法に10年以上にわたって使用されている(36〜39)。タモキシフェンは、その使用に関する反応率の改善が報告されているものの、進行した黒色腫で全生存率を有意に改善することは報告されていない(40、41)。これは、タモキシフェンによる黒色腫の治療の失敗に関する潜在的な機構について報告した最初の研究である。本研究では、黒色腫におけるERのダウンレギュレーションの可変性が、ERの発現の、遺伝子のプロモーター領域の高メチル化を介したエピジェネティックな制御に起因することが明らかにされた。
【0077】
こうした研究から、メチル化されたER-αが黒色腫の細胞株中に検出され得ること、ならびにER-αのmRNAの発現が5-AzaおよびTSAによる脱メチル化後に再確立され得ることがわかる。加えて、メチル化されたER-αは、PEの原発性および転移性の黒色腫の腫瘍で検出され得ることから、腫瘍進行のバイオマーカーとして有用なことがわかる。メチル化されたER-αのDNAは、AJCCの病期がI〜IV期の黒色腫患者の血清中に検出され、疾患進行のバイオマーカーであった。さらに、AJCCの病期がIV期の黒色腫患者における血清中の循環性の高メチル化されたER-αから、対BC反応、無憎悪生存率、および全生存率が推定された。
【0078】
インビトロ実験では、アッセイ法の対象となった11の転移性黒色腫細胞株の1つを除いて全てがメチル化されたER-αを有することが明らかにされた。この結果は、インビトロにおける培養が、ER-αのエピジェネティックなサイレンシングを促進可能なこと、またはメチル化されたER-αを有する細胞の部分集団を選択可能なことを示唆する。5-Aza単独では、ER-αのmRNAの発現は有意に高められず(データは提示していない);ヒストン脱アセチラーゼ阻害剤TSAは、発現を処理前のレベル以上に有意に高めるために必要であった。TSAなどのHDAC阻害剤はクロマチンヒストンを調節し、および5-Azaを併用することで、遺伝子発現を効率よく活性化することができる。TSAによる処理が、ER-αのmRNAの再発現に必要な段階であったということは、ヒストンのアセチル化もER-αの発現に重要な調節的役割を果たすことを示唆している(26、27)。類似のエピジェネティックな調節は、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、および肝細胞癌で報告されている(3、23)。
【0079】
ER-αのメチル化の頻度は、原発性から転移性の疾患への、および局所リンパ節転移から遠隔内臓転移への進行のマーカーとなる。乳癌の場合、ER-αのメチル化によって調節されるER-αのmRNAの発現は、転移の発生と直接的または間接的に関連する。
【0080】
原発性および転移性の黒色腫におけるメチル化されたER-αは検出可能であったので、メチル化されたER-αが、診断および疾患の監視のための血液ベースのバイオマーカーとして機能可能か否かについて評価を行った。今回の研究では、メチル化されたER-αは、AJCC期がI〜IV期の黒色腫患者の血清中に、疾患の進行と関連するパターンで検出された。マッチされた黒色腫の腫瘍と血清試料のペアのサブセットでは、血清中にメチル化されたDNAが検出される全ての患者に、メチル化されたER-αを含む原発性または転移性の腫瘍も認められた(データは提示していない)。
【0081】
血清中にメチル化されたER-αが検出可能であることがわかったことで、同時に実施されたBC試験に登録されたIV期の黒色腫患者の選択集団において、同マーカーが予後予測に役立つことについて評価を行った。循環性のER-αのメチル化状態に基づく対治療反応の予測を試みた。進行性の転移性黒色腫を対象とした全身療法に対する反応率は著しく低い。化学療法を免疫調節因子を使用して行うBCでは、より高い反応率が認められている(40〜42)が、転帰は反応者と非反応者の間で大きく異なる。腫瘍に対する反応をBCの実施前またはBCの初期相において予測することは困難である。治療反応の分子予測因子を同定することによって、医師は、非反応患者における不必要な治療を行わず、および関連する罹病率を損なうことなく、治療に反応する可能性の極めて高い患者を治療できる可能性がある。メチル化されたER-αは、BCに反応しなかった患者の血清で、より一般的に検出され、対BC反応を予測する唯一の因子であった。血清中のメチル化されたER-αは、多変量解析で無憎悪生存率および全生存率の唯一の独立予測因子であり、既知の臨床的予後因子をはるかに凌ぐ。
【0082】
以上の知見に関しては、複数の説明が可能である。第1に、選択的エストロゲン受容体モジュレーターファミリーの成員であるタモキシフェンは、患者50人中44人を対象としたBC療法に使用された。血清中にメチル化されたER-αが認められなかったことから、ER-αを発現する患者はタモキシフェンの抗腫瘍作用に反応する可能性が高いと考えられる。逆に、患者がBCに反応しなかったことは、タモキシフェンが、プロモーター領域の高メチル化のためにER-αの発現がサイレンシングされている場合に、その抗腫瘍作用を発揮できないことによって部分的に説明できる。これは、ER-αを発現しない腫瘍がホルモン療法に反応せず、および予後が不良である乳癌に見られる臨床状況に似ている(23)。ER-αのメチル化は、腫瘍関連遺伝子のより大規模な高メチル化を含む病態生理学的事象に影響を及ぼすことによって、腫瘍細胞に成長上の利点を提供すると考えられる(8)。
【0083】
メチル化されたER-αは、組織像が異なる正常細胞内に存在する(47、48)。しかしながら血清解析では、ER-αは、正常な健康ドナーに由来する血清中には検出されなかった。メチル化されたER-αを含む正常細胞は、このDNAを血流中に放出することが推定される。このため、メチル化されたER-αが正常健康ドナーでは検出されなかった理由は何かという疑問が生じる。腫瘍に由来するメチル化されたER-αは、正常細胞に由来するメチル化されたER-αより低い効率で除かれると考えられている。正常細胞の破壊は主に、DNAの短い特徴的な酵素分解断片の放出につながるアポトーシス関連事象による。結果として、正常細胞から放出されたDNAは速やかに除去され、血液中に容易に検出されない。これとは対照的に、身体上の外傷または細胞の壊死によって破壊された腫瘍細胞は十分に大きなDNA断片を放出する(49)。黒色腫患者は、遊離のDNAと腫瘍細胞の両方を血流中に放出する。循環性の腫瘍細胞は、アポトーシスではない細胞死機構のために、大きなDNA断片を放出する可能性がある(未公表の結果)。黒色腫患者におけるメチル化されたER-αの検出は、循環性のDNAが腫瘍と関連することを強く示唆している。
【0084】
ER-αの年齢依存的なメチル化は、過去に他の研究で関連づけられている(50)。本研究では、ER-αのメチル化に年齢による差は認められなかった。40人の健康ボランティアのなかで、メチル化されたER-αは1人の82歳のドナーでのみ検出され、不顕性癌を含む加齢とは無関係の因子に起因すると考えられる。さらに詳細な研究を行うことで、健康な高齢ボランティアにおけるER-αのメチル化の存在および意味が検証されると考えられる。
【0085】
本研究は、黒色腫患者の腫瘍組織と血清の両方にメチル化されたER-αが検出されることを示す最初の研究である。腫瘍または血清中のメチル化されたER-αの検出は腫瘍の進行と相関するので、予後予測的に重要である。このような知見は、血清中のメチル化されたER-αの検出が、黒色腫の転帰が不良の患者集団、および代替的な治療の管理を考慮すべき全身療法に対する反応が不良の患者集団の同定を可能とすることを意味する。さらに、これらの結果は、血清中のER-αのメチル化状態に基づく、IV期の黒色腫を対象とした前向きなBC試験の開始を支持する。そのような試験では、黒色腫の治療におけるタモキシフェンの臨床的有用性に関する有用な情報が得られ、ER-αのメチル化アッセイ法による対BC反応の予測能力を検討できる可能性がある。
【0086】
参考文献






【0087】
実施例II
乳癌、膵臓癌、および結腸癌におけるER-αのメチル化
循環性の非細胞DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化はそれぞれ、乳癌(約30%)、膵臓癌(50人中39人;78%)、および結腸癌(63人中15人;24%)の患者で検出された。
【0088】
本明細書に引用された全ての参考文献の内容は、それらの全体が参照により組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】5-Aza(5-アザ-2-デオキシシチジン)およびTSA(トリコスタチンA)で処理した3つの黒色腫株(MCA、MCB、MCC)におけるER-αの代表的な発現および再発現を示す。mRNAの発現は、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)で解析した。ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)をRT-PCRの対照として含めた。NT:5-AzaおよびTSAで処理されなかった細胞株。T:5-AzaおよびTSAで処理された細胞株。
【図2】5-Azaに加えてTSAで処理された、および処理されなかった黒色腫細胞株(MCA)を対象とした代表的なMSP(メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応)の結果を示す。M:メチル化特異的産物。U:非メチル化特異的産物。メチル化のピークのみが当初は観察された(非処理)。非メチル化のピークは、5-Azaに加えてTSAによる処理後に出現した(処理)。
【図3】A.AJCC(American Joint Committee on Cancer)の病期による黒色腫の腫瘍におけるER-αのメチル化されたDNAの頻度。原発性:原発性の黒色腫腫瘍。転移性:転移性の黒色腫の腫瘍。B.AJCCの病期による黒色腫患者の血清中のメチル化されたER-αのDNAの頻度。正常<50:50歳未満の正常健康ボランティア。正常≧60:60歳以上の正常健康ボランティア。
【図4】血清標本および組織標本を対象とした代表的なMSPの結果を示す。非メチル化のピークは、健康ドナーの血清中には出現しなかった(a)。メチル化のピークは、正常な肝臓組織中に出現した(b)。メチル化の1本のピークが、IV期の黒色腫患者に由来する血清標本およびPE標本中に検出された(c〜h)。図eおよび図fは、同じ患者に由来する対となる標本である。
【図5】A.BC前(生化学療法(biochemotherapy))の血清のER-αのメチル化状態と無憎悪生存率の相関(Cox比例ハザード、p=0.004)を示すカプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)曲線。メチル化:ER-αのDNAがメチル化された血清を有する患者;非メチル化:血清中にメチル化されたER-αが検出されない患者。B.BC前の血清のER-αのメチル化状態と全生存率の相関(Cox比例ハザード、p=0.003)を示すカプラン-マイヤー曲線。メチル化:血清中にメチル化されたER-αを有する患者;非メチル化:血清中にメチル化されたER-αが検出されない患者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、対象が癌に罹患しているか否かを判定する方法:
対象に由来する体液試料を提供する段階であって、試料が体液中で非細胞DNAとして存在するDNAを含む、段階;および
DNA中のER-α(エストロゲン受容体-アルファ)遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階であって、DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象が癌に罹患している可能性が高いことを示す、段階。
【請求項2】
癌が、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、肺癌、乳癌、または胃癌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が、原発性または転移性の癌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
試料が、血清、血漿、腹膜/胸膜、または脳脊髄の試料である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
以下の段階を含む、癌の転帰を決定する方法:
癌に罹患した対象に由来する体液試料を提供する段階であって、試料が体液中で非細胞DNAとして存在するDNAを含む、段階;および
DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階であって、DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象が癌の望ましくない転帰を有する可能性が高いことを示す、段階。
【請求項6】
DNA中のER-α遺伝子のプロモーターの、より高いメチル化レベルが、癌治療に対する反応、無憎悪生存率、または全生存率の低下を示す、請求項5記載の方法。
【請求項7】
癌が、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、肺癌、乳癌、または胃癌である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
癌が、原発性または転移性の癌である、請求項5記載の方法。
【請求項9】
試料が、血清、血漿、腹膜/胸膜、または脳脊髄の試料である、請求項5記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、癌の転帰を決定する方法:
対象のPE(パラフィン包埋された)癌組織試料を提供する段階であって、試料が細胞DNAを含む、段階;および
DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階であって、DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象が癌の望ましくない転帰を有する可能性が高いことを示す、段階。
【請求項11】
癌が、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、肺癌、乳癌、または胃癌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
癌が、原発性または転移性の癌である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
以下の段階を含む、癌の転帰を決定する方法:
対象に由来する癌組織試料または体液試料を提供する段階であって、試料が細胞性DNAを含み、体液が癌細胞を含み、かつ対象が黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌に罹患している、段階;および
DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルを決定する段階であって、DNA中のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化レベルが、対照のメチル化レベルより高い場合、対象が黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の望ましくない転帰を有する可能性が高いことを示す、段階。
【請求項14】
黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌が、原発性もしくは転移性の黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌の細胞に脱メチル化剤を接触させ、それにより細胞内のER-α遺伝子のプロモーターのメチル化を低下させる段階を含む、細胞内のDNAのメチル化を低下させる方法。
【請求項16】
脱メチル化剤が5-アザ-2-デオキシシチジンである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
細胞にHDAC(ヒストン脱アセチラーゼ)阻害剤を接触させる段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
HDAC阻害剤がトリコスタチンAである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌が、原発性もしくは転移性の黒色腫、膵臓癌、肝細胞癌、食道癌、肉腫、または胃癌である、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−531065(P2009−531065A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503051(P2009−503051)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/008017
【国際公開番号】WO2007/123761
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(507082459)ジョン ウェイン キャンサー インスティチュート (3)
【Fターム(参考)】