エストロゲン受容体及び使用方法
本発明は、配列番号20に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドを提供し、ここで、該ポリペプチドはER−α36活性を有する。本発明は、さらに、かかるポリペプチドに結合する剤を同定する方法、かかるポリペプチドを検出するための方法、及びかかるポリペプチドの活性を変更する方法も提供する。配列番号1に示すアミノ酸配列に特異的に結合する抗体、又はその免疫原性断片、及びかかる抗体を作製し及び使用する方法も提供される。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
継続出願のデータ
本出願は、それぞれが参考文献として本明細書中に援用されている、2004年3月10日に出願された米国仮特許出願番号第60/552,067号、及び2005年1月13日に出願された同第60/643,469号に基く利益を請求する。
【0002】
政府補助金
本明細書中に記載された発明は、許可番号CA84328のもとに保健・福祉省からの援助によってなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
エストロゲンは、卵巣、精巣、そしておそらく副腎皮質において形成されるステロイド化合物の一般名称である。エストロゲン類及びエストロゲン活性を有する化合物の例は、ジエチルスチルベストロール、ホスフェストロール、ヘキセストロール、ポリエストラジオールホスフェート、ブロパロエストロール、クロロトリアニセン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、メテストロール、コルポルモン、エキレニン、エキリン、エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メストラノール、メキセストロール、キネストラジオール、及びキネストロールを含む。エストロゲン類は、生殖組織、乳腺、循環器、骨、肝臓、及び脳の組織において多様な生理学的プロセスを制御する。エストロゲン類は、また、経口避妊薬としても使用される。エストロゲン類の他の用途は、更年期の不快感の軽減、乳汁分泌の阻害、並びに骨粗鬆症、切迫流産及び様々な卵巣機能障害の治療を含む。抗エストロゲン剤は、転移性乳癌及び進行性前立腺癌の治療に使用される。
【0004】
エストロゲンの効果は、エストロゲン受容体を介する。最初のエストロゲン受容体(ER)は、1986年にクローン化された(Green et al., Nature, 320:134 (1986)及びGreene et. al., Science, 231:1150(1986))。1995年まで、天然及び合成エストロゲン及び抗エストロゲン剤のすべての生理学的及び薬理学的効果の原因であるエストロゲン受容体はただ1つであると予測されていた。しかしながら、1995年に第2のエストロゲン受容体がクローン化された(Kuiper et. al., PNAS, 93:5925 (1996))。最初に発見されたエストロゲン受容体は、今はエストロゲン受容体−アルファ(ER-α)、そして第2のエストロゲン受容体はエストロゲン受容体−ベータ(ER-β)と呼ばれている。
【0005】
ER-α及びER-βは、共通の構造を有している(Zhang et. al., FEBS Letters, 546:17(2003)及びKong et. al., Biochem. Soc. Trans., 31:56(2003))。両者は3つの独立した、しかし相互作用する機能的ドメイン:N-末端A/Bドメイン、C又はDNA結合ドメイン、及びD/E/F又はリガンド結合ドメインからなる(図1)。ER-αのN末端ドメインは、リガンド非依存性活性化機能(AF-1)、活性化補助因子との相互作用及び標的遺伝子の転写活性化に関与する領域をコードしている。DNA結合ドメイン又はCドメインは、2つのジンクフィンガー構造を有し、これは受容体の二量体化及び特異的DNA配列に対する結合に重要な役割を演じている。C−末端D/E/Fドメインは、リガンドの結合、受容体の二量体化、核転位、及びリガンド依存性のトランス活性化機能(AF-2)を仲介するリガンド結合ドメインである。AF-1及びAF-2の両方が転写制御に及ぼす相対的な貢献は、細胞特異的及びDNAプロモーター特異的に異なる(Berry et. al., EMBO J., 9:2811 (1990)及びTzukerman et. al., Mol. Endocrin., 8:21 (1994))。
【0006】
ER-α遺伝子の完全長遺伝子産物の最初の173アミノ酸(A/B又はAF-1ドメイン)を欠く、46kDaのER-αアイソフォームは、エキソン1を除くことによるER-α遺伝子のオルタナティブスプライシングに由来することが示された(Flouriot et.al., EMBO J., 19:4688(2000))。このオルタナティブスプライシング事象は、好ましいコザック配列中のフレーム内翻訳開始のためのAUGを本来のオープンリーディングフレームの残りとともに有するmRNAを生成する。したがって、ER-αのこの新しいアイソフォームは、ER-α46と名づけられ、そして本来のものはER-α66と名づけられた(Flouriot et. al., EMBO J., 19:4688 (2000))。ER-α46は、ホモダイマーを形成し、そしてエストロゲン応答要素(ERE)に結合し、そしてそれはER-α66とヘテロダイマーを形成することもできる(Flouriot et. al., EMBO J., 19:4688 (2000))。ER-α46ホモダイマーは、ER-α66ホモダイマーよりもEREに対して高い親和性を示す。さらに、ER-α46/66へテロダイマーは、ER-α66ホモダイマーよりも優先的に形成し、そしてER-α46はリガンド結合したER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるトランス活性化を競合的に阻害するが、AF-2依存性のトランス活性化には影響しない(Flouriot et. al., EMBO J., 19:4688 (2000))。したがって、ER-α46は、ER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるエストロゲンシグナル伝達を制御するER-αの天然のアイソフォームであると考えられる。
【0007】
ER-αは、管腔の上皮細胞のおよそ15〜30%において発現され、そして正常なヒト乳房における他の細胞タイプのいずれにおいても全く発現されない。二重標識免疫蛍光技術は、ER-α-発現細胞が正常なヒト及びげっ歯類乳腺のいずれにおいても増殖マーカーで標識されたものから離れていることを明らかにした(Clarake et. al., Cancer Res., 57:4987(1997))。ER-αの発現は、非定型性の乳管壁の肥厚及びインサイチュの低度〜中度の核グレードの乳管癌のほとんどの細胞がER-αを含むように、乳管壁の肥厚の極めて初期の段階において増加し、非定型性が高まるほど増加する(Khan et . al., Cancer Res., 54:993(1994)及びLawson et. al., Lancet, 351:1787(1994))。ER-αの発現が増加すると、受容体発現と細胞増殖の間の逆相関は調節不全となる(Shoker et. al., Amer. Jour. Path., 155:1811(1999)。)侵潤性乳癌の約70%がER-αを発現し、そしてこれらの腫瘍のほとんどがER-α陽性の増殖細胞を含む(Clarke et. al., Cancer Res., 57:4987(1997)。)
【0008】
エストロゲン受容体は、多数の生理学的プロセスを制御する、リガンドにより活性化された転写因子の核受容体スーパーファミリーのメンバーである。この制御はしばしば遺伝子転写の制御を通して起こる(Katzenellenbogen and Katzenellenbogen, Breast Cancer Res., 2:335(2000);Hull et al., J. Biol. Chem., 276:36869(2001);McDonnell and Norris, Science, 296:1642(2002))。エストロゲン受容体はその標的遺伝子の転写を活性化するか又は抑制するために複数のメカニズムを利用する。これらのメカニズムは、以下の:(a)転写補調節因子又はメディエーター複合体の補充がその後に続く、エストロゲン応答要素におけるリガンド被占受容体とDNAとの直接相互作用、(b)リガンド被占ERとAP−1(Kushner et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 74:311(2000))、Sp1(Safe, Vitam. Horm. 62:231(2001))若しくはNF-κB(McKay and Cidlowski, Endocr. Rev., 20:435(1999))などの他の転写因子との相互作用、又は(c)一般的/共通の転写構成要素の隔離を介する遺伝子転写の間接的調節(Harnish et al., Endocrinology, 141:3403(2000)及びSpeir et al., Circ. Res., 87:1006(2000))を含む。さらに、これらの多様なメカニズムを介して転写を調節するエストロゲン受容体の能力は、細胞タイプに特異的であるように見え、おそらく各細胞タイプにおいて利用可能な転写補調節因子の補体における相違によるものであろう(Cerillo et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 67:79(1998);Evans et al., Circ. Res., 89:823(2001);Maret et al., Endocrinology, 140:2876(1999))。また、転写調節は、エストロゲン受容体アゴニスト又はアンタゴニストのいずれかとして作用する多様な天然及び合成の選択的エストロゲン受容体調節剤とともにリガンドの性質に依存する(Shang and Brown, Science, 295:2380(2002);Katzenellenbogen and Katzenellenbogen, Science, 295:2465(2002);Margeat et. al., J. Mol. Biol., 326:77(2003);Dang et al, J. Biol. Chem., 278:962(2003))。
【0009】
「非古典的」、「非ゲノム」又は「膜シグナル伝達」経路としても知られるエストロゲンによって仲介される他のシグナル伝達経路が存在し、細胞質たんぱく質、成長因子及び他の膜性のシグナル伝達経路を含む(Segars et. al., Trends Endocrin. Met., 13:349(2002))。いくつかの細胞内シグナル伝達経路:アデニレートシクラーゼ経路(Aronica et al., PNAS, 91:8517(1994))、ホスホリパーゼC経路(Le Mellay et.al., J.Cell.Biochem., 75:138(1999))、G-タンパク質共役型受容体により活性化される経路(Razandi et al., Mol. Endocrin., 13:307(1999))及びマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路(Watters et. al., Endocrinology, 138:4030(1997))が、エストロゲン性の迅速な効果とクロストークすることが示された。しかしながら、これまで記載されたすべての膜形態がER-βでなくER-αに関連している(Segars et al., Trends Endocrin. Met. 13:349(2002)。
【0010】
エストロゲンシグナル伝達は病理学的に、乳癌及び子宮内膜癌のリスクの増加と関連してきた(Summer and Fuqua, Semin. Cancer Biol., 11:339(2001);Turner et al., Endocr. Rev., 15:275(1994); Farhat et al., FASEB J., 10:615(1996); Beato et al., Cell, 83:851(1995); Dobrzycka et al., Endo. Rel. Cancer, 10:517(2003))。したがって、エストロゲン受容体は、ほとんどのこれらの癌の開始及び発達において必須であることが発見された。エストロゲン受容体陽性の乳癌の最近の内分泌療法は、主としてエストロゲンレベル、エストロゲン受容体レベル、又はエストロゲン及びエストロゲン受容体の活性を標的とするように設計される。初期段階の乳癌の管理における部分的抗エストロゲン剤、タモキシフェンの使用は病気を有さない生存及び全体の生存の両方における増加を明白に実証した。さらに、最近の研究は、タモキシフェンがホルモン依存性の乳癌のための化学予防剤として使用可能であることを実証した。タモキシフェンによる長期の治療に関する主な懸念は、その子宮肥大効果であり、これは子宮内膜癌の増加のリスクそしてタモキシフェンに対する後天的な臨床的耐性を生じる。このことは、多様なエストロゲン応答性標的組織における最適のアゴニスト及びアンタゴニスト活性を示す、より良い選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)の活発な探求に導いた。
【0011】
したがって、必要とされているのは、エストロゲンシグナル伝達を調節する剤のスクリーニングに使用可能なさらなる方法及び材料並びにエストロゲンシグナル伝達の調節に使用可能な方法及び材料である。
【発明の開示】
【0012】
発明の要約
本発明は、配列番号1において示されるアミノ酸配列又はその免疫原性断片、好ましくは配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列に特異的に結合する単離された抗体、を提供する。抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であることができる。場合により、抗体はヒト化抗体である。抗体は、例えば化学療法剤又は蛍光マーカーなどの検出可能なマーカーのような化合物に共有結合で結合されてもよい。抗体は組成物中に存在することができ、そして該組成物は医薬として許容可能な担体を含むことができる。また、本発明の抗体を含むキットも提供される。
【0013】
本発明はまた、抗体の作製方法も提供する。抗体はポリクローナル又はモノクローナルであることができる。該方法は、配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、又はその免疫原性断片、好ましくは配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列、を動物に投与することを含む。該方法はさらに、動物から抗体を単離することを含み、ここで、単離された抗体は上記アミノ酸配列に特異的に結合する。そのポリペプチド又はその免疫原性サブユニットは担体ポリペプチドに共有結合されることができる。単離は、抗体を産生する細胞を動物から得ること及び該細胞を用いてモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することを含んでもよい。本発明はさらに、該方法によって産生されたポリクローナル抗体及び該方法によって産生されたモノクローナル抗体を含む。
【0014】
本発明はまた、外来性のコード領域を含む細胞に向けられ、ここで、該コード領域は配列番号20を含むポリペプチドをコードする。コード領域は配列番号20に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができ、ここで、該ポリペプチドはER-α36活性を有する。コード領域は恒常的プロモーターに作動可能に連結されることができる。細胞は真核細胞又は原核細胞でもよい。本発明により、かかるポリペプチドを発現する細胞も提供される。
【0015】
本発明はさらに、ポリペプチドに結合する剤の同定方法を提供する。該方法は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド及び剤を併合し、そして剤とポリペプチドとの間の複合体の形成を検出し、ポリペプチドの活性変化を検出し、又はそれらの組み合わせを検出することを含む。剤のポリペプチドへの結合は、剤のポリペプチドへの結合を直接検出すること、競合結合アッセイを用いて剤のポリペプチドへの結合を検出すること、又はそれらの組み合わせによって検出されることができる。場合により、該方法は、剤が配列番号18を含むポリペプチドに結合するかどうかを決定することも含む。
【0016】
本発明によって、ポリペプチドの検出方法も提供される。1つの側面において、該方法は細胞を提供し、ER-α36活性及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動後に測定された36kDaの分子量を有するポリペプチドについて該細胞を分析し、そして該細胞が該ポリペプチドを発現するか否かを決定することを含む。細胞はエクスビボ又はインビボであることができる。細胞は例えば、乳房腫瘍細胞などの腫瘍細胞であることができる。分析は、細胞を、配列番号1に示されたアミノ酸配列に特異的に結合する抗体、またはその免疫原性断片と接触させることを含んでもよい。分析は、mRNAポリヌクレオチドを増幅して、増幅されたポリヌクレオチドを形成することを含んでもよい。増幅は、細胞から得られたポリヌクレオチドを、配列番号22又は配列番号25、又はそれらの組み合わせを含むmRNAポリヌクレオチドを増幅させるプライマー対と接触させることを含み、ここで、増幅されたポリヌクレオチドの存在は、細胞がポリペプチドを発現することを示す。プライマー対の1つのプライマーは、配列番号22のヌクレオチド、配列番号25のヌクレオチドに相補的なヌクレオチド、又はそれらの組み合わせから選らばれることができる。
【0017】
本発明はまた、細胞のER-α36活性を阻害する方法を提供する。該方法は、配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現する細胞をER-α36活性を阻害する化合物と接触させることを含む。かかる化合物は配列番号1のアミノ酸13〜27に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合する抗体でもよい。細胞はインビボ又はエクスビボでもよく、そして場合によりER-α66陰性、ER-α46陰性又はそれらの組み合わせでもよい。いくつかの側面においては、該化合物は抗エストロゲン剤ではない。
【0018】
本発明によってさらに提供されるのは、配列番号1の13〜27のアミノ酸に示されたアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであり、好ましくは配列番号1に示されたアミノ酸配列、より好ましくは配列番号20に示されたアミノ酸配列である。他の側面においては、単離されたポリヌクレオチドは配列番号20に対して少なくとも70%の同一性を有し、ここで、該ポリペプチドはER-α36活性を有する。本発明はまた、配列番号1の免疫原性断片を含む。
【0019】
「含む」という用語およびその変形は、説明及び請求項に現れる場合、限定的な意味を持たない。特記されない限り、「a」、「an」、「the」及び「少なくとも1つの」は、相互に交換可能に使用され、1または1超を意味する。
【0020】
本発明の好ましい実施態様の詳細な説明
カベオリン-1(Cav-1)系の下方制御が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路を恒常的に活性化し、エストロゲン受容体−アルファ(ER-α)の発現を活性化し、そして正のエストロゲンシグナル伝達を引き起こすことが発見された。この発見は、最初に、活性化されたMAPKシグナル伝達と乳房の腫瘍形成、特にエストロゲンによって刺激された乳癌の進行の間の明白な関連を提供する。この発見はCav-1が、MAPKとエストロゲンシグナル伝達経路間のクロストークを協調させることによって乳房上皮細胞の正常な増殖の維持における重要な役割をはたし、そしてその下方制御が最終的に乳房の腫瘍形成に導く、これらの2つの重要な経路の調節不全に寄与するかもしれないことを強力に示唆する。エストロゲンシグナル伝達経路及びMAPKシグナル伝達経路の模式図を図2に表す。
【0021】
エストロゲン受容体−アルファアイソフォームもまた同定され、クローン化された。エストロゲン受容体−アルファのこの36−kDaアイソフォーム(ER-α36)はもとの66−kDaのER-α(ER-α66)遺伝子の第一イントロン中に位置するプロモーターから産生される。ER-α36は、ER-α66と異なる。なぜなら、それは両方の転写活性化ドメイン(AF-1及びAF-2)を欠いているが、DNA結合、二量体化及びほとんどのリガンド結合ドメインを保持しているからである。ER-α36の構造は、ER-α36がエストロゲンシグナル伝達の制御因子であることを示す。ER-α36はまた、ER-α36が主に細胞膜上そして細胞質及び核内においても発現されるため、エストロゲンシグナル伝達の膜効果を仲介することができる。
【0022】
ER-βは、ER-α66を介するエストロゲンシグナル伝達の恒常的調節因子として提案された。AF-1ドメインを欠くER-α46がER-α66に二量体化し、ER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるトランス活性化活性を阻害するという発見は、ER-α46がER-α66のAF-1ドメインによって仲介される機能的活性において調節的役割を演じることを示唆する。したがって、ER-α36がER-α66のAF-1及びAF-2の両方によって仲介される生物学的機能と同様にAF-2により仲介されるER-α46の機能も阻害すると考えられる。その両方が異なる組織中で異なるレベルで発現されるかもしれないER-α36及びER-α46によって仲介される調節によって、ER-α66は異なる標的組織において異なって機能するかもしれない。かかるメカニズムは異なる生物学的プロセスにおけるエストロゲンシグナル伝達の多指向性の役割に関する説明を提供すると考えられる。
【0023】
本発明のポリペプチド及びペプチド擬態
本発明はポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって一緒に連結された2つ以上のアミノ酸のポリマーを広くさす。ペプチド、オリゴペプチド、及びタンパク質という用語はすべてポリペプチドの定義に含まれ、これらの用語は相互に交換可能に使用される。これらの用語が特別な長さのアミノ酸のポリマーを内包するのでも、ポリペプチドが組換え技術、化学的又は酵素的合成を用いて産生されるか又は自然に発生するかを暗示又は識別することをそれらが意図するのでもないことは理解されるべきである。本発明の範囲内にあるポリペプチドの多数の例が本明細書中に開示され、そして記載される。自然のポリペプチド又はポリヌクレオチドの場合、かかるポリペプチド又はポリヌクレオチドが単離され、そして場合により精製されることが好ましい。「単離された」ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、その自然の環境から分別された又は分離されたものである。「精製された」ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、それらが自然に結合している他の成分の少なくとも60%、好ましくは75%、そして最も好ましくは90%を含まないものである。化学的又は組換え手段などによって、それらが自然に発生する生体の外で産生されたポリペプチド及びヌクレオチドは当然、単離及び精製されると考えられる。なぜなら、それらは自然の環境中では決して存在しなかったからである。「外因性のポリペプチド」は、外来ポリペプチド、すなわち、通常は細胞中に存在しないポリペプチド又は通常細胞中に存在するが該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの導入などの実験的手順によって細胞中に導入されたポリペプチドをさす。
【0024】
本発明のポリペプチドは生理活性を有することができる。かかる生理活性は本明細書において「ER-α36活性」と呼ばれる。本発明のポリペプチドが生理活性を有するかについて決定するために使用されることのできるバイオアッセイは、このポリペプチドを発現する細胞をエストロゲン又は抗エストロゲン剤と接触させ、そして、本発明のポリペプチドを発現しなかった対照細胞中のMAPK活性に比べた場合、MAPK経路の活性がエストロゲン又は抗エストロゲン剤の存在下で増加又は減少するかを決定することを含む。好ましくは、MAPK活性はERK1/2及びMek1/2のリン酸化であり、好ましくは本発明のポリペプチドによって誘導されたERK1/2のリン酸化は抗エストロゲン剤の存在下で減少しない。好ましくは、ER-α36活性は膜性である。ER-α36活性は、ER-α36活性を有するかもしれないポリペプチドを発現する細胞を異なるリガンドに露出することによって測定されてもよい。使用可能なリガンドの例は、エストロン(E1)、17α-エストラジオール(E2α)、17β-エストラジオール(E2β)、エストリオール(E3)、エステトロール(E4)、又は膜不透過性分子、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、に結合したエストロゲンを含むが、これらに限定されない。一般に、測定されるER-α36活性が膜性ER-α36活性に限定される場合、膜不透過性の分子に結合したエストロゲンが使用される。使用されるエストロゲンの量は変更可能であり、好ましくは1nM及び10nMの間の範囲にある。エストロゲンに露出される細胞は好ましくは静止状態の細胞である。露出は5及び90分の間で起こることができ、細胞はその後溶解され、細胞中に存在するポリペプチドはSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離される。分離されたポリペプチドを膜に移した後、非リン酸化及びリン酸化形態のERK1/2及びMek1/2に対する抗体が、MAPK経路の活性化を評価するために使用される。場合により、タモキシフェン、4OH-タモキシフェン、又はICI-182,780などの抗エストロゲン剤が含められて、ERK1/2のリン酸化が抗エストロゲン剤に対して非感受性であるかが決定されることができる。
【0025】
本発明は、配列番号20に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。このポリペプチド及び本明細書中に記載される関連するポリペプチドもまた、本明細書においてER-α36、ER-α36アイソフォーム、及びER受容体α36−サブユニットと呼ばれる。図1に示すとおり、ER-α36アイソフォームはER-α66アイソフォームと比較すると、アミノ末端のアミノ酸残基1−183、カルボキシル末端のアミノ酸残基430−595を欠き、そしてそのC-末端に27アミノ酸残基の付加を有する(図1を参照のこと)。エストロゲン受容体アルファアイソマーは、ER-α36、ER-α46、ER-α66を含む。エストロゲン受容体ベータアイソマーは、ER-βを含む。本発明はまた、ER-α36アイソフォームを含むエストロゲン受容体も提供する。制限的であることを意図せず、ER-α36アイソフォームは、ER-α66、ER-α46又はER-βとの二量体を形成することによるエストロゲン受容体機能の制御を通じてエストロゲンへの細胞の応答を調節すると考えられる。さらに、ER-α36は、活性化因子1(AF-1)及び活性化因子2(AF-2)活性を欠き、そしてしたがって、内因性の転写活性を欠くと考えられる。しかしながら、ER-α36は、ER-α36がER-α46、ER-α66又はER-βと二量体を形成するのを可能とする、完全な二量体化ドメインを保持すると考えられる。この相互作用は、ER-α36がER-α46、ER-α66及びER-βを含むエストロゲン受容体の活性を調節することを可能とすると考えられる。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
本発明のポリペプチドは、配列番号20に少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。かかるポリペプチドは、配列番号20に対して70%よりも少なくとも1単位パーセント超同一である、例えば、71%、72%、73%同一である、アミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。好ましくは、該ポリペプチドは、好ましさが順番に増す、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約90%の同一性、又は少なくとも約95%の同一性を配列番号20に対して有するアミノ酸配列を有するものを含む。好ましくは、該ポリペプチドは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動後に測定した分子量36kDaを有する。典型的には、ER-α66のリン酸化に関与する残基、例えば、S236、K302、及びK303は、保存され、それらの残基はER-α66のDNA結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、及び二量体化ドメインの機能に関与する。DNA結合、リガンド結合、及び/又は二量体化において機能する残基は本分野で知られている。
【0030】
2つのポリペプチド配列間の同一性パーセントは、一般に、2つのアミノ酸配列の残基を整列化することによって、それらの長さ方向に沿った同一のアミノ酸の数を最適化し;各配列中のアミノ酸がなおその本来の順番のままでなければならないにもかかわらず、一方又は両方の配列中のギャップが、同一のアミノ酸の数を最適化するために整列化において許容されることにより決定される。好ましくは、Tatusova らによって記載され(FEMS Microbiol. Lett., 174, 247-250(1999))、そしてhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/b12seq/bl2.htmlにおける世界的なウエブで利用可能である、BLAST2サーチアルゴリズムのBlastpプログラム、バージョン2.0.9を用いて2つのアミノ酸配列が比較される。好ましくは、マトリックス=BLOSUM62;オープンギャップペナルティー=11、エクステンションギャップペナルティー=1、ギャップx ドロップオフ=50、期待数=10、ワードサイズ=3、及び場合によりフィルターオンを含む、すべてのBLAST2サーチパラメーターのためのデフォルト値が使用される。BLASTサーチアルゴリズムを用いる2つのアミノ酸配列の比較においては、構造的類似性は「同一性」と呼ばれる。
【0031】
ER-α36エストロゲン受容体アイソフォームの断片であるポリペプチドもまた、本発明によって提供される。好ましくは、断片は免疫原性である。いくつかの側面において、断片はER-α36活性を有する。免疫原性断片の例は、配列番号1のアミノ酸13〜27において示されるアミノ酸配列、より好ましくは配列番号1の1〜27である。かかる断片はER-α36エストロゲン受容体アイソフォームに特異的に結合する抗体の調製に有用である。断片の例は、断片が少なくとも5つの近接するアミノ酸、より好ましくは少なくとも7つの近接するアミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも10個の近接するアミノ酸、そして最も好ましくは少なくとも12個の近接する酸アミノ酸を含む限り、N末端又はC末端のいずれか或いは両方において1つ以上のアミノ酸が切断されているエストロゲン受容体アイソフォームを含む。
【0032】
本発明は、本発明のポリペプチドに結合した担体ポリペプチドを有する融合ポリペプチドを提供する。担体ポリペプチドは、融合ポリペプチドの溶解度を増加又は減少させるために使用されることができる。担体ポリペプチドは、融合ポリペプチドの免疫原性を増加させて本発明のポリペプチドに結合する抗体の産生を増加させるためにも使用されることができる。例えば、担体ポリペプチドは本発明のポリペプチドの断片に融合されてER-α36に特異的に結合する抗体の産生を促進することができる。かかる断片の例は、配列番号1のアミノ酸13〜27を有するポリペプチドである。本発明は、本発明の融合ポリペプチドを作製するために使用される担体ポリペプチドのタイプによって制限されない。担体タンパク質の例はキーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、ウサギ血清アルブミンなどを含む。担体ポリペプチドは、融合ポリペプチドの分離又は検出を提供するためにも使用されることができる。かかる担体ポリペプチドの例は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、マルトース−結合タンパク質、キチン−結合タンパク質及び以下のアミノ酸配列:QFFGLM(配列番号2)、EQKLISEEDL(配列番号3)、KAEDESS(配列番号4)、YPYDVPDYA(配列番号5)、DYKDDDDK(配列番号6)、YTDIEMNRLGK(配列番号7)、MASMTGGQQMG(配列番号8)、DTYRYI(配列番号9)、TDFYLK(配列番号10)、HHHHHH(配列番号11)、HPOL(配列番号12)、QYPALT(配列番号13)、QRQYGDVFKGD(配列番号14)、EYMPME(配列番号15)、EFMPME(配列番号16)及びRYIRS(配列番号17)を有するポリペプチドを含む。したがって、融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドの担体ポリペプチド部分に結合する他の成分との相互作用によって検出又は単離されることができる。例えば、アビジンを担体ポリペプチドとして有する融合ポリペプチドは、既知の方法の使用によって、ビオチンを用いて検出又は分離されることができる。担体ポリペプチドはまた、細胞内での発現によって融合ポリペプチドに封入体を形成させることができる。担体ポリペプチドはまた、細胞からの融合ポリペプチドの排出を起こさせるか、又はペリプラズムなどの細胞内コンパートメントへの融合ポリペプチドに導く排出シグナルであることもできる。
【0033】
本発明はまた、単一のアミノ酸鎖に連続的に連結される、本発明の2つ以上のポリペプチドを提供する。かかるポリペプチドは、本明細書中でポリペプチドと呼ばれる。ポリペプチドは、リンカーによって接続されることができる(Stahl et al., 米国特許第6,558,924号)。かかるポリプロテインは、単離され、そして切断されて本発明のポリペプチド又は結合ポリペプチドを産生することができる。ポリプロテインは、化学的切断又はプロテアーゼによる切断などの多くの方法を使用して切断されることができる。したがって、リンカーは特異的なプロテアーゼ又は化学物質によって切断されるように設計されることができる。本発明のポリプロテインを切断するのに使用可能な化合物の例は、化学物質及び酵素を含む。化学物質の例は、臭化シアン、葉酸及び熱、ヒドロキシルアミン及び熱、酢酸中のヨードシル安息香酸−2−(2−ニトロフェニル)−3−メチル−3−ブロモインドール−ナインなどを含む。酵素の例は、Ala-64サブチリシン、クロストリパイン、コラゲナーゼ、エンテロキナーゼ、第Xa因子、レニン、α−トロンビン、トリプシン、キモトリプシン、タバコモザイクウイルスプロテアーゼ、などを含む。ポリプロテインは、本発明のポリペプチドの生産効率を高めるのに使用されることができる。ポリプロテインの製造方法は本分野において知られている(Coolidge et al., 米国特許第6,127,150号を参照のこと)。
【0034】
本発明のポリペプチドは、そのアナログが生理活性を保持又はER-α36に結合する抗体の産生を刺激することができる限り、1つ以上の連続的又は非連続的なアミノ酸の付加、置換、又は除去によって修飾された、或いはレポーター基の結合によって、N-末端、C-末端若しくは他の官能基の修飾若しくは誘導体化によって、又は環化によって化学的又は酵素的に修飾されたアナログを含む。アナログはしたがって、ポリペプチドの片方又は両方の末端における追加のアミノ酸を含む。好ましくは、アナログは免疫原性であり、より好ましくはアナログは免疫原性であり且つER-α36活性を有する。いくつかの側面においては、本発明はアナログでないポリペプチドを提供する。
【0035】
本発明のポリペプチド中のアミノ酸の置換は、好ましくは保存的置換であり、それは該アミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選ばれる。例えば、タンパク質生化学の分野では、特定のサイズ又は(電荷、疎水性及び親水性などの)特性を有するアミノ酸の群に属するアミノ酸が、一般的にポリペプチドの構造を実質的に変更せずに他のアミノ酸に置換可能であることは周知である。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸はアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンを含む。極性の中性アミノ酸は、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンを含む。陽性に荷電した(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジン及びヒスチジンを含む。陰性に荷電した(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。好ましい保存的置換の例は、陽性荷電を維持するためのArgからLysへ及びその逆;陰性荷電を維持するためのAspからGluへ及びその逆;遊離の−OHが維持されるThrからSerへ;及び遊離のNH2を維持するためのAsnからGluへの置換を含む。(3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、ホモシステイン、2−アミノアジピン酸、2−アミノピメリン酸、γ−カルボキシグルタミン酸、β−カルボキシアスパラギン酸、などの)関連するアミノ酸、(オルニチン、ホモアルギニン、N-メチルリジン、ジメチルリジン、トリメチルリジン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,4−ジアミノブチル酸、ホモアルギニン、サルコシン、及びヒドロキシルリジンなどの)アミノ酸アミド、及び置換フェニルアラニン、ノルロイシン、ノルバリン、2−アミノオクタン酸、2−アミノヘプタノイックアシッド、スタチン、β−バリン、ナフチルアラニン、テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸、及びハロゲン化チロシンは類似のアミノ酸に交換されることができる。
【0036】
本発明は、本発明のポリペプチドのペプチド擬態を提供する。ペプチド擬態は、非ペプチド薬物として医薬産業において一般に使用されるような、少なくとも1つのペプチド結合が非ペプチド結合に置換されているポリペプチドであって、テンプレートポリペプチドと類似の性質を有するものをいう(Fauchere, J., Adv. Drug Res., 15: 29(1986), Evans et al., J. Med. Chem., 30:1229(1987), 及びJanda et al., 米国特許第6,664,372号)。ペプチド擬態は、ペプチド結合を有するポリペプチドに構造的に類似するが、本分野で知られた方法によって、任意に--CH2NH--、--CH2S--、--CH2--CH2--、--CH=CH--(シス及びトランス)、--COCH2--、--CH(OH)CH2--、及び--CH2SO--などの連結によって置換される。自然のポリペプチド態様に対するペプチド擬態の利点は、より経済的な生産、より大きな化学的安定性、変更された特異性並びに半減期、吸収、力価及び有効性などの高められた薬理学的性質を含むことができる。
【0037】
ポリペプチド又はペプチド擬態中の1つ以上のアミノ酸の同じタイプのD-アミノ酸による置換(例えば、L-リジンの代わりにD-リジン)は、例えば、内因性プロテアーゼに対してより安定且つより耐性であるポリペプチド及びペプチド擬態を作り出すために使用されることができる。
【0038】
インビボでの分解を減少させるために、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態はアミノ末端及び/またはカルボキシル末端におけるブロッキング剤の付加によってインビボでの使用のために修飾されることができる。これは、ポリペプチド末端がインビボでのプロテアーゼによる分解を受ける傾向にある状況で有用であることができる。かかるブロッキング剤は、本発明のポリペプチド又はペプチド擬態のアミノ及び/又はカルボキシル末端残基に結合されることのできる追加の関連する又は関連しないペプチド配列を含むことができるが、これらに限られない。これは、化学合成の間に、又は当業者が精通した方法による組換えDNA技術によって行われることができる。或いは、ピログルタミン酸などのブロッキング剤又は本分野で知られた他の分子がアミノ及び/またはカルボキシル末端残基に結合されることができ、或いはアミノ末端におけるアミノ基又はカルボキシル末端におけるカルボキシル基が異なる部分に置換されることができる。したがって、本発明は、ブロックされたポリペプチド及びペプチド擬態並びにそのアミノ末端、カルボキシル末端又はそれらの組み合わせを提供する。
【0039】
本発明のポリペプチドは、本発明のポリヌクレオチドが挿入された組換えベクターで形質転換された細胞又は微生物を含むがこれらに限定されない多数の発現系の使用を通して、小規模又は大規模に産生されることができる。かかる組換えベクター及びそれらの使用方法は以下に記載される。これらのベクターは、多様な生物を形質転換するために使用されることができる。かかる生物の例は、(E.コリ又はB.サブチリスなどの)細菌;(サッカロミセス及びピキアなどの)酵母;(バキュロウイルスなどの)昆虫;植物;又は(COS、CHO、BHK、293、VERO、HeLa、MDCK、W138、及びNIH 3T3細胞などの)哺乳動物細胞を含む。宿主細胞としても有用なものには、ベクターでトランスフェクトされた哺乳動物から直接得られた一次細胞又は二次細胞がある。
【0040】
合成方法もまた、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態を製造するために使用されることができる。かかる方法は本分野でしられており、そして日常的なものである。例えば、固相ペプチド合成法は、確立され広く使用される方法である。ポリペプチドは、イムノアフィニティー又はイオン交換カラム上での分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ又はDEAEなどの陰イオン交換樹脂上でのクロマトグラフィー;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;SephadexG-75などを使用するゲル濾過;リガンドアフィニティークロマトグラフィーなどによって容易に精製されることができる。ポリペプチドは、融合ポリペプチドの分離媒体への結合、それに続く精製ポリペプチドの放出のための融合ポリペプチドの切断を通しても容易に精製されることができる。例えば、ポリペプチド及び担体ポリペプチドの間に第Xa因子切断部位を含む融合ポリペプチドが作製されることができる。該融合ポリペプチドは、該融合ポリペプチドの担体ポリペプチド部分が結合するアフィニティーカラムに結合されることができる。融合ポリペプチドはその後、第Xa因子によって切断されてポリペプチドを放出することができる。かかる系は、本発明のポリペプチドの精製のための第Xa因子除去キットとともに使用されてきた。
【0041】
ポリヌクレオチド
本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。「ポリヌクレオチド」という用語は、5’から3’の方向へ共有結合で連結した2つ以上のヌクレオチドのポリマーを広く指す。ポリヌクレオチドは、例えば、コード配列及び制御配列などの非コード配列を含む異なる機能を有するヌクレオチド配列を含むことができる。コード配列、非コード配列、及び制御配列は以下に定義される。核酸、核酸分子及びオリゴヌクレオチド及びタンパク質という用語は、ポリヌクレオチドの定義内に含まれ、そしてこれらの用語は交換可能に使用される。これらの用語が、特定の長さのヌクレオチドポリマーをさすものでも、ポリヌクレオチドが組換え技術、化学合成又は酵素的合成を用いて産生されたか、或いは天然のものであるかを意味するか又は区別することを意図するものでないことは、理解されるべきである。
【0042】
ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であることができ、第二の相補鎖の配列は、第一の鎖の配列によって指定される。「ポリヌクレオチド」という用語はしたがって、一本鎖核酸ポリマー、その相補体、及びそれらによって形成される二重鎖を包含するものとして広く解釈されるものである。ポリヌクレオチドの「相補性」は、2つの一本鎖ポリヌクレオチドがお互いに塩基対を形成する能力をさし、ここで、1つのポリヌクレオチド上のアデニンは他方上のチミジン(又はRNAの場合にはウラシル)と塩基対を形成し、そして1つのポリヌクレオチド上のシチジンは他方上のグアニンと塩基対を形成する。1つのポリヌクレオチド中のヌクレオチド配列が第二のポリヌクレオチド中のヌクレオチド配列と塩基対を形成する場合、2つのポリヌクレオチドはお互いに相補的である。例えば、5’−ATGC及び5’−GCATは、5’−GCTAと5’−TAGCと同様に完全に相補的である。
【0043】
本発明のポリヌクレオチドの例は、配列番号21である(表1、そしてGenBank寄託番号BX640939で存在するヌクレオチド配列のヌクレオチド234−1166も参照のこと)。本発明の好ましいポリヌクレオチドはまた、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「実質的に相補的な」ヌクレオチド配列又はかかるヌクレオチド配列の相補体を有するポリヌクレオチドも含む。「実質的に相補的な」ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの塩基対ミスマッチを含むことができるが、2つのポリヌクレオチドはなおハイブリダイズする能力を有するであろう。例えば、2つのDNA分子、5’−AGCAAATAT及び5’−ATATATGCTそれぞれの真ん中のヌクレオチドは塩基対を形成しないが、これらの2つのポリヌクレオチドはそれでも本明細書で記載されるとおり、実質的に相補的である。2つのポリヌクレオチドは、それらが55℃における2X SSC(SSC:150mM NaCl、15mM クエン酸3ナトリウム、pH7.6)によって例示されるハイブリダーゼーション条件下でハイブリダイズする場合、実質的に相補的である。本発明の目的のための実質的に相補的なポリヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも60%のヌクレオチド同一性、好ましくは少なくとも80%のヌクレオチド同一性、より好ましくは少なくとも90%のヌクレオチド同一性、そして最も好ましくは95%のヌクレオチド同一性を有する少なくとも20ヌクレオチド長の1つの領域を共有する。特別に好ましい実質的に相補的なポリヌクレオチドは、複数のかかる領域を共有する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列を有する。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対する同一性が70%よりも少なくとも1パーセント単位大きい、例えば、71%、72%、73%同一性、そしてこのようにして100%までの同一性を配列番号21に対して有するヌクレオチド配列を有する。なおさらに好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号21に対して、少なくとも80%同一、少なくとも90%同一又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する。最も好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対して100%同一であるヌクレオチド配列を有する。少なくとも70%の同一性を配列番号21に対して有するポリヌクレオチドは、ER-α36活性を有する。
【0044】
2つのポリヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、一般に、以下によって決定される:2つのポリヌクレオチド配列の塩基を整列化してそれらの配列の長さに沿って同一の塩基の数を最適化し;同一塩基の数を最適化するために、整列の作成においては、各配列中の塩基はそれらの本来の順番で維持しなればならないが、一方又は両方の配列中のギャップは許容される。2つのポリヌクレオチド配列は、Tatusovaら(FEMS Microbiol. Lett, 174, 247-250(1999))によって記載され、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/b12seq/bl2.htmlにおける世界的なウエブでも利用可能であるBLAST2サーチアルゴリズムのBlastnプログラム、バージョン2.0.11を用いて比較されるのが好ましい。好ましくは、一致に対する報酬=1、不一致に対するペナルティ=−2、オープンギャップペナルティ=5、エクステンションギャップペナルティ=2、ギャップx ドロップオフ=50、期待数=10、ワードサイズ=11を含むすべてのBLAST2サーチパラメーターのためのデフォルト値が使用され、場合によりフィルターがオンである。2つのポリヌクレオチド配列間のヌクレオチド配列同一性を有する位置及びそのレベルも、www.ebi.ac.uk/clustalw/における世界的なウエブにおいて利用可能なCLUSTLAW複数配列アラインメントソフトウエア(J. Thompson et al., Nucl. Acids Res., 22:4673-4680(1994))を用いて容易に決定されることができる。
【0045】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、天然のゲノム又はcDNAのヌクレオチド配列のすべて又は一部分を含むポリヌクレオチドに限られず、遺伝コードの縮重の結果としてのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのクラスも含むことは理解されるべきである。例えば、天然のポリヌクレオチド配列、配列番号21は、アミノ酸配列番号20を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のクラスの一員である。選択されたポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列のクラスは大きいが、しかし有限であり、そして、そのクラスの各メンバーのヌクレオチド配列は標準的な遺伝コードを参照することによって当業者に容易に決定されることができ、ここで、異なる3つのヌクレオチド(コドン)が同じアミノ酸をコードすることが知られている。
【0046】
本発明のポリペプチドを「コードする」ポリヌクレオチドは、場合により、コード領域及び非コード領域の両方を含み、そして、したがって、明らかに反対に記述されない限り、ポリペプチドを「コードする」ポリヌクレオチドは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に構造的に限定されず、コード領域の外の(すなわち、5’又は3’側の)他のヌクレオチド配列を含むことができることは理解されなければならない。「コード領域」又は「コード配列」は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、適切な制御配列の支配下に置かれた場合、コードされたポリペプチドを発現する。コード領域の境界は一般に、その5’末端における翻訳開始コドン及びその3’末端における翻訳停止コドンによって決定される。「外因性のコード領域」は、外来性のコード領域、すなわち、正常には細胞内に存在しないコード領域、又は正常に細胞内に存在するが実験的手順によって細胞内に導入されたコード領域がそれが正常には作動可能に連結しない制御領域に作動可能に連結したもの、或いはそれらの組み合わせをさす。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、直線又は環状の形態であることができる。例えば、ポリヌクレオチドはベクターの一部分であることができる。ベクターは、さらなるクローニング(ポリヌクレオチドの増幅)を提供する、すなわち、クローニングベクター、又はコード領域によってコードされたポリペプチドの発現を提供する、すなわち発現ベクター、であることができる。ベクターは、プラスミド、ファージミド、F-因子、ウイルス、コスミド、又はファージを含むことができるが、これらに限定されない。ベクターは、二重鎖又は一重鎖の直線又は環状形態であってよい。ベクターはまた、細胞ゲノム中への組み込みによるか又は(例えば、複製の起点を含む自律増殖プラスミドなどの)染色体外に存在することのいずれかによって原核生物宿主又は真核生物宿主を形質転換することができる。ベクター中のポリヌクレオチドは、適切なプロモーター、或いはインビトロでの又は真核細胞若しくは微生物(例えば細菌)などの宿主細胞中での転写のための他の制御配列の支配下にあり、そして作動可能に連結されることができる。真核細胞の好ましい例は、MDA-MB-231、Hela、CHO、及びMCF10Aを含む。制御配列又は制御領域は、コード配列の上流、その中又は下流に位置し、そしてコード配列に作動可能に連結されたヌクレオチド配列をさす。制御配列の例は、エンハンサー、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、及びポリアデニル化シグナル配列を含む。それらは、天然及び合成の配列、並びに天然及び合成の配列の組み合わせであることのできる配列を含む。制御配列はプロモーターに限られない。しかしながら、本発明において有用ないくつかの好適な制御配列は、恒常的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導プロモーター、及びウイルスプロモーターを含むがこれらに限定されない。「作動可能に連結された」という用語は、それらが意図したように機能することを可能とする関係となるように構成要素の近位であることを指す。制御配列は、コード領域の発現が制御配列に適合した条件下で達成されるように結合された場合に、コード領域に「作動可能に連結」されている。
【0048】
ベクターは、複数の宿主において機能するシャトルベクターであってよい。ベクターはまた、外来性のDNA配列が確定的な様式で挿入可能な1つ又は少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位を典型的に含むクローニングベクターであってもよい。かかる挿入は、クローニングベクターの基本的な生物学的機能を損なうことなくおこることができる。クローニングベクターはまた、クローニングベクターで形質転換された細胞の同定及び選択における使用に好適なマーカー遺伝子を含んでもよい。マーカー遺伝子の例は、テトラサイクリン耐性又はアンピシリン耐性である。多くのクローニングベクターは(Stratagene, New England Biolabs, Clonetechなどから)商業的に入手可能である。ベクターは、発現ベクター中に挿入されたポリヌクレオチドの発現を導く制御配列を含む発現ベクターであってよい。多数のベクターが商業的に入手可能であり、本分野で知られている(Stratagene, La Jolla,CA; New England Biolabs, Beverly, MA)。発現ベクターは、インビトロの転写及び翻訳アッセイにおいて使用されることができる。
【0049】
ポリヌクレオチドをベクター中に導入する方法は本分野で周知である(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001))。すなわち、ポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、平滑末端、5’又は3’オーバーハングを有する「粘着」末端、又はこれらのいずれかの組み合わせを有する直線化されたベクターを生成するために、1つ以上の制限酵素(制限エンドヌクレアーゼ)で処理される。ベクターはまた、制限酵素で処理され、その後、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ホスファターゼ、又はキナーゼなどの他の修飾酵素で処理されて、ポリヌクレオチドのベクター中へのライゲーションに有用な特徴を有する直線化されたベクターを生成することもできる。ベクター中に挿入されるポリヌクレオチドは、1つ以上の制限酵素で処理されて、平滑末端、5’又は3’オーバーハングを有する「粘着」末端、又はこれらのいずれかの組み合わせを有する直線化されたセグメントを生成する。ポリヌクレオチドはまた、制限酵素で処理され、その後他のDNA修飾酵素で処理されてもよい。かかるDNA修飾酵素は、ベクター中へのポリヌクレオチドのライゲーションに有用な特徴を有するポリヌクレオチドを生成するために、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ホスファターゼ、又はキナーゼを含むがこれらに限定されない。
【0050】
処理されたベクター及びポリヌクレオチドはその後、一緒にライゲーションされて、本分野で知られた方法(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001))に従って、ポリヌクレオチドを含む構築体を形成する。すなわち、処理された核酸断片及び処理されたベクターは、好適な緩衝液及びリガーゼの存在下で併合される。その後、混合物は、リガーゼが核酸断片をベクター中にライゲーションすることを可能とする適切な条件下でインキュベートされる。
【0051】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドを作製する方法及びそれらをコードするポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。該方法は、生物学的、酵素的及び化学的方法、並びにそれらの組み合わせを含み、本分野で周知である。例えば、ポリヌクレオチドは、標準的な組換えDNA技術を用いて宿主細胞中で発現されることができ、それは無細胞のRNAに基づく系を用いてインビトロで酵素的に合成されるか又はそれは固相ペプチド合成などの化学技術を用いて合成されることができる。組換えDNA技術が使用される場合、宿主細胞は、例えば、細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、又は哺乳動物細胞であることができる。
【0052】
本発明はまた、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドも提供する。1つの側面において、本発明のプロモーターは、配列番号22に示されるヌクレオチド配列、又はその部分を含む。他の側面においては、本発明のプロモーターは、配列番号22に対して、70%よりも少なくとも1単位パーセント大きい、例えば、71%、72%、73%、そして100%までの同一性を有するヌクレオチド配列を有する。同一性パーセントの決定方法は本明細書に記載される。より好ましくは、プロモーターは、配列番号22に対して、少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する。本発明のプロモーターは、エストロゲン受容体(ER)により制御される活性を有する。本明細書中で使用されるERにより制御される活性は、ER-α66、好ましくはエストロゲンに結合したER-α66の存在下での、作動可能に連結されたコード領域の発現の増加をさす。本発明のプロモーターは、エストロゲン依存性及び非依存性の様式で発現される。本発明のプロモーターは、マーカーポリペプチドを含むポリペプチドをコードするコード領域に作動可能に連結されてよい。マーカーポリペプチドの例は、(蛍光タンパク質、酵素、抗原マーカーなどの)検出可能なマーカー及び選択的マーカー(薬物耐性、薬物感受性又は栄養障害、又は栄養障害の矯正などをひき起こすポリペプチド)を含む。
【0053】
抗体
本発明は、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態に特異的に結合する抗体を提供する。本明細書中で使用される、ポリペプチドに「特異的に結合する」ことのできる抗体は抗体の合成を誘導した抗原のエピトープのみと相互作用するか又は構造的に関連するエピトープと相互作用する抗体である。エピトープに「特異的に結合する」抗体は、適切な条件下で、多様な潜在的な結合標的の存在下においてさえ、エピトープと相互作用する。いくつかの側面においては、本発明の抗体は、ER-α36又はその一部分と特異的に結合し、そしてER-α66又はER-α46とは特異的に結合しない。
【0054】
したがって、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態、並びにそれらの断片は、脊椎動物抗体、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、変更された抗体、一価の抗体、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、Fabタンパク質、及び単一ドメイン抗体を含む抗体を生成するために抗原として使用されることができる。例えば、配列番号1又は配列番号1のアミノ酸13−27などのその断片を有するポリペプチドは、ER-α36に特異的に結合する抗体を生成するために使用されることができる。本発明のポリペプチド又はペプチド擬態、或いはそれらの断片は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、ウサギ血清アルブミンなどの免疫原性担体に共有結合で結合することによって修飾されることができる。
【0055】
ポリクローナル抗体が望ましい場合、(マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ又はニワトリなどのトリなどの)選択された動物が所望の抗原で免疫化されることができる。免疫化された動物からの血清が集められ、そして既知の日常的な方法によって処理される。本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を含む血清が他の抗原に対する抗体を含む場合、該ポリクローナル抗体はイムノアフィニティークロマトグラフィーによって精製されることができる。ポリクローナル抗血清を製造及び加工する技術は、本分野で知られている(例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pub. 1988)。
【0056】
本発明のポリペプチド又はペプチド擬態或いはその断片に対するモノクローナル抗体もまた、当業者によって容易に製造可能である。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製するための一般的方法は周知である(例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pub. 1988を参照のこと)。不死的な抗体産生細胞株(ハイブリドーマ)は、細胞融合によって、そして癌遺伝子DNAによるBリンパ球の直接的形質転換又はエプシュタイン−バーウイルスによるトランスフェクションなどの他の技術によっても製造可能である。本発明のポリペプチド又はペプチド擬態に対して製造されたモノクローナル抗体のパネルは、エピトープ親和性などの様々な性質についてスクリーニングされることができる。他の周知の抗体作製方法は、ファージディスプレイ技術(例えば、Kay et al., Phage display of peptides and proteins: A laboratory manual. San Diego: Academic Press(1996)を参照のこと)の使用を含む。
【0057】
本発明の抗体は「ヒト化」モノクローナル抗体に由来してもよい。ヒト化モノクローナル抗体は、マウスイムノグロブリンの可変重鎖及び軽鎖からのマウス相補性決定領域をヒト可変ドメイン中へ転移させ、そして、マウス対応物のフレームワーク領域中にヒト残基を置換することによって製造されることができる。ヒト化モノクローナル抗体由来の抗体構成要素の使用は、マウス定常領域の免疫原性に関連する潜在的な問題を除去する。マウスイムノグロブリン可変ドメインのクローニングのための一般的方法が記載され(Orlandi et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 86:3833(1989))、そしてヒト化モノクローナル抗体の製造技術が記載される(Jones et all, Nature, 321:522(1986); Riechmann et al., Nature, 332:323 (1988))。
【0058】
本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質加水分解又は該断片をコードするポリヌクレオチドのE.コリ中での発現を含む日常的な既知の方法によって調製されることができる。抗体断片は慣用方法による抗体全体の(例えば、ペプシン又はパパインによる)消化によって得ることができる。例えば、抗体断片はペプシンによって抗体を酵素的に切断してF(ab')2と称される5S断片を提供することによって製造されることができる。この断片はさらに、チオール還元剤及び任意にジスルフィド結合の切断により生じたスルフヒドリル基のためのブロッキング基を用いて切断され、3.5S Fab'の一価の断片を生じる。或いは、ペプシンを用いる酵素的切断は、2つの一価のFab'断片及びFc断片を直接的に生成する。
【0059】
重鎖を分離して一価の軽鎖−重鎖断片を形成し、さらに断片を切断する方法、又は他の酵素的、化学的又は遺伝的技術も、該断片が完全な抗体によって認識される抗原に結合する限り、使用されてもよい。
【0060】
抗体は、それらが結合するエピトープの同一性を決定するためにスクリーニングされることができる。エピトープとは、本発明のポリペプチドなどの抗原上の部位であって、抗体のパラトープがそこへ結合する部位をいう。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの、分子表面の化学的に活性な群からなり、特異的な3次元構造特性並びに特異的電荷特性を有することができる。エピトープを同定するために使用されることのできる方法は本分野において知られている(Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, page 319(Cold Spring Harbor Pub. 1988)。
【0061】
抗体は、本発明のポリペプチド又はペプチド擬態に特異的に結合するそれらの能力についてスクリーニングされることができる。例えば、ER-α36アイソフォーム又はその部分に特異的に結合するが、ER-α46又はα66アイソフォームには結合しない抗体は、本分野で日常的な方法の使用を通じて選択されることができる(Kitajima et al., 米国特許第6,534,281号及びHarlow et al., Antibodies: A laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pub. 1988を参照のこと)。
【0062】
本発明の抗体は、非常に多様な化合物に結合されることができる。化合物の例は、検出可能なマーカーを含む。かかる検出可能なマーカーは、抗体の検出を可能とする、アビジン又はビオチンなどの蛍光マーカー、酵素、放射性同位体などを含む。抗体を検出可能なマーカーに結合させる方法及び有用な検出可能なマーカーは本分野で知られている。かかる抗体は、ER-α36の検出のための自動化システムにおいて有用である。抗体は化学療法剤に共有結合されることができる。乳癌及び前立腺癌などの癌の治療に有用な化学療法剤が本分野で知られている。化学療法剤の例は、セントクロマン、デルマジノンアセテート、ドロロキシフェン、イドキシフェン、タモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、フルベストラント及びファスロデックス、ビスホスホネート、カルシトニン、トリボロン、甲状腺ホルモン、又はストロンチウムラネレートを含む。他の例は、サイトカイン又はジフテリア毒素A鎖などの毒素を含む。
【0063】
組成物
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド、ペプチド擬態、又は抗体を含む組成物を提供する。かかる組成物は、典型的に、医薬として許容可能な担体を含む。本明細書において使用される「医薬として許容可能な担体」は、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含み、医薬の投与に適合している。さらなる活性化合物も組成物中に取り込まれることができる。
【0064】
本発明の組成物は、錠剤、ハードゼラチンカプセル及びソフトゼラチンカプセル、水溶液、懸濁液、及びリポソームならびに成型ポリマーゲルなどの他の徐放製剤を含む多くの形態に調製されることができる。経口剤型は、ポリペプチド、ペプチド擬態又は抗体が胃を通過後に小腸中へ放出されるように製剤されることができる。かかる製剤は、Hongら、 米国特許第6,306,434号及びその中に含まれる参考文献中に記載されている。
【0065】
経口液体組成物は、例えば、水性又は油性懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ又はエリキシルの形態であることができ、或いは使用前に水又は他の好適なビヒクルとともに構成されるための乾燥品として提示されることもできる。かかる液体組成物は、懸濁剤、乳化剤、(食用の油を含むことのできる)非水性ビヒクル、或いは保存剤などの慣用の添加物を含んでもよい。
【0066】
組成物は、(ボーラス注射又は持続輸注などの注射による)非経口投与のために製剤されることができ、そして保存剤を加えたアンプル、充填済み注射器、小容量輸注容器中の単一用量形態又はマルチドースコンテナ中で提示されることができる。組成物は、懸濁液、溶液又は油性又は水性のビヒクル中のエマルジョンのような形態をとることができ、そして懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤化のための剤を含んでよい。
【0067】
直腸投与に適した組成物は、単位用量坐剤として調製されることができる。該組成物中に含まれることのできる好適な担体は、生理食塩水溶液および本分野において一般的に使用される他の物質によって例示されるものを含む。
【0068】
吸入による投与のために、組成物は、インサフレーター、ネブライザー又は加圧パック或いはエアロゾルスプレーを送達する他の便利な手段から便利に送達されることができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体などの好適な噴射剤を含んでよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定されてよい。
【0069】
或いは、吸入又はインサフレーションによる投与のためには、組成物は例えば、調節剤及びラクトース又はスターチなどの好適な粉末基剤の粉末混合物などの乾燥粉末組成物の形態をとってもよい。粉末組成物は、例えば、カプセル又はカートリッジ又は粉末が吸入器又はインサフレーターの助けによってそこから投与されることのできるゼラチン又はブリスターパックなどの単位剤形で提示されることができる。鼻腔内投与のためには、組成物はプラスチックボトルアトマイザーのような液体スプレーを介して投与されてもよい。
【0070】
組成物は経皮投与のために製剤されることができる。組成物はまた、水溶液、懸濁液又は分散剤、水性ゲル、ウォーター・イン・オイルエマルジョン又はオイル・イン・ウォーターエマルジョンとして製剤されることもできる。経皮用製剤はまた、ポリマー内に組成物を封入することによっても調製されることができる。該剤形はローション、クリーム、サルブとして皮膚に直接に、またはパッチの使用を介して適用されることができる。
【0071】
本発明の組成物はまた、フレーバー剤、着色剤、抗菌剤、及び保存剤などの他の成分を含んでもよい。さらに、本発明の組成物はホルモン、抗壊死剤、血管拡張剤、医薬などの医薬として活性な成分を含むことができる。
【0072】
かかる組成物の毒性及び治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するための、培養細胞又は実験動物における標準的な薬学的手順によって決定されることができる。毒性効果及び治療効果の間の用量比は、治療係数であり、LD50/ED50の比として表されることができる。高い治療係数を示す化合物が好ましい。
【0073】
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲を製剤するために使用されることができる。かかる化合物の用量は、毒性がわずかであるか又はないED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は、採用された剤形及び利用された投与経路に依存して、この範囲内で変化してもよい。本発明の方法において使用される化合物については、治療的有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定されることができる。用量は動物モデルにおいて、細胞培養において決定されたIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する被験化合物濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために製剤されてもよい。かかる情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用されることができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定されてよい。1つの側面において、ヒトにおける使用のための用量範囲は、少なくとも10μモル(μM)、好ましくは少なくとも25μM、より好ましくは50μMの血清濃度とするのに十分な量である。
【0074】
組成物は、1日おきに1回を含む、1日当たり1回以上〜一週間に1回以上で投与されることができる。当業者は、病気又は障害の重篤度、先の治療、対象の一般的な健康状態及び/又は年齢及び存在する他の病気を含むがこれらに限られない、ある因子が対象を有効に治療するために必要とされる用量及びタイミングに影響することができることを理解するであろう。さらに、有効量の組成物による対象の治療は単回の治療を含むことができ、又は好ましくは一連の治療を含むことができる。
【0075】
検出方法
本発明は、本発明のポリペプチドを検出するための方法を提供する。該方法は典型的に、細胞を提供し、本発明のポリペプチドに関して該細胞を分析し、そして該細胞が該ポリペプチドを発現するか否かを決定することを含む。細胞はエクスビボ又はインビボであってよい。本明細書中で使用される「エクスビボ」という用語は、対象の体から取り出された、例えば、単離された、細胞をさす。エクスビボの細胞は、例えば、(対象から最近取り出され、そして組織培養培地中で限定された増殖又は維持が可能である細胞などの)一次細胞、及び(組織培養培地中で大きな増殖又は維持が可能な細胞などの)培養細胞を含む。本明細書中で使用される「インビボ」という用語は、対象の体内にある細胞をさす。インビボの細胞は、器官又は腫瘍内に存在する細胞であることができる。細胞は、好ましくは、マウス、ラット、又は(サル、ヒトなどの)霊長類など、好ましくはヒトの哺乳動物細胞である。細胞の好ましい例は、乳房腫瘍細胞などの乳房細胞、及び前立腺腫瘍細胞などの前立腺細胞を含む。細胞は、例えば、ヒト乳房又は前立腺組織のバイオプシーなどによって対象から得ることができる。ほとんどどのタイプの組織から得られたサンプルが使用されることができる。対照細胞は、本分野で知られた方法によってインビトロで培養されることができる。ER-α36kDaエストロゲン受容体を発現せず、したがって、陰性対照として使用可能な細胞は、HEK293細胞を含む。陽性対照細胞は、血清存在下、低い細胞密度で増殖された細胞、及びBRCA1陰性細胞を含む。好ましくは、細胞は血清の存在下、低密度で増殖される。対照細胞もまた、バイオプシーなどによって組織サンプルから得られることができる。
【0076】
1つの側面において、該方法は、細胞を本発明の抗体と接触させることによって該細胞を分析することを含む。細胞が本発明のポリペプチドを発現するか否かは、本分野で日常的かつ知られた検出方法を用いて決定されることができる。イムノアッセイの例は、ラジオイムノアッセイ、免疫酵素アッセイ、免疫蛍光アッセイ、又は酵素免疫アッセイなどの競合及び非競合アッセイを含む。西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ又は他の化学発光検出剤を用いる化学発光法もまた使用可能である。ウエスタンブロッティング及びクロマトグラフィーアッセイもまた、本発明の方法において使用可能である。本発明のポリペプチドを検出するために使用される本発明の抗体は、検出可能なマーカーに結合されることができ、それによって直接的に検出されるか又は二次抗体が使用されてもよい。細胞の異なる領域中のポリペプチドの検出を可能とする検出法が使用される場合、ER-α36を発現する細胞は、ポリペプチドが主に細胞膜及び細胞質に結合し、シグナルの20%未満が核に関連している場合、典型的にER-α36陽性であると考えられる。
【0077】
他の側面においては、該方法は、ポリヌクレオチド、好ましくは(mRNAなどの)RNAポリヌクレオチドを増幅して、増幅されたポリヌクレオチドを形成することによって細胞を分析することを含む。好ましくは、ポリヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、好ましくはリバーストランスクリプターゼ(RT)PCRによって増幅される。RNAポリヌクレオチドからDNAポリヌクレオチドを合成する方法は本分野で知られており、日常的なものである。細胞から得られたポリヌクレオチドは、配列番号22又は配列番号25、又はそれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを増幅するプライマー対と接触させられる。かかるプライマー対から得られた増幅されたポリヌクレオチドの存在は、細胞がエストロゲン受容体を発現することを示す。本明細書中で使用される「プライマー対」という用語は、増幅されるポリヌクレオチドの領域に隣接するように設計された2つのオリゴヌクレオチドをさす。1つのプライマーは、増幅されるポリヌクレオチドの1つの末端におけるセンス鎖上に存在するヌクレオチドに相補的であり、他のプライマーは、増幅されるポリヌクレオチドの他の末端におけるアンチセンス鎖上に存在するヌクレオチドに相補的である。ポリヌクレオチドのうちのプライマーが相補的であるヌクレオチドは、標的配列と呼ばれることができる。プライマーは、少なくとも約15ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約20ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも約25ヌクレオチドを有することができる。PCRによってポリヌクレオチドを増幅するための条件は、使用されるプライマーのヌクレオチド配列によって異なり、かかる条件を決定する方法は本分野において日常的なものである。
【0078】
増幅後、増幅されたポリヌクレオチドの存在が、ゲル電気泳動などによって判定される。増幅されたポリヌクレオチドは、(エチジウムブロマイドなどによる)染色又は放射能標識又は放射能を有しない標識を含む、当業者に知られた好適な標識で標識される。典型的な放射能標識は33Pを含む。放射能を有さない標識は、例えば、ビオチン又はジゴキシゲニンなどのリガンド並びにホスファターゼ又はペルオキシダーゼなどの酵素、又はルシフェリンなどの多様な化学発光物質、又はフルオレセイン及びその誘導体などの蛍光化合物を含む。
【0079】
場合により、細胞中でのER-α66ポリペプチド、ER-α46ポリペプチド、ER-β又はそれらの組み合わせの存在も判定されることができる。ER-α66、ER-α46、ER-β又はそれらの組み合わせの存在を検出する方法は、ポリヌクレオチドの増幅などの抗体又はポリヌクレオチドに基づく検出方法を用いる免疫学的検出法の使用を含む。細胞の異なる領域中のポリペプチドの検出を可能とする検出方法が使用される場合、ER-α66又はER-α46を発現する細胞は、ポリペプチドが主に核に結合し、シグナルの90%超が核に関連している場合、典型的にER-α66又はER-α46陽性であると考えられる。
【0080】
すべての乳癌の約70〜80%がER-α66を発現し、そしてER-陽性乳癌と呼ばれる。これらの腫瘍は通常、よりゆっくりと増殖し、より高分化型で、そしてより良い全体的な予後と関連する(Clark, :Harris JR編、Diseases of the breast, volume 2、 Lippincott Williams & Wilkins, 38:103-116(2000))。本発明のポリペプチドの存在を検出する方法は、エストロゲン陽性とエストロゲン陰性の癌、好ましくは乳癌を識別するための診断マーカーとして有用である。本明細書中の実施例に開示された結果は、ER-α36を介するエストロゲンシグナル伝達が乳房の腫瘍発生に寄与することを示し、そしてER-α36がER-α66陰性の乳癌の腫瘍発生に関与するかもしれないことを強力に示唆する。本明細書中の実施例に開示された結果は、本発明のポリペプチドを高度に発現する細胞が、高レベルのER-α66を発現するが、低レベルのER-α36を発現する細胞よりも低用量のタモキシフェンなどの抗エストロゲン剤に対して、より耐性であることも示す。したがって、本発明のポリペプチドの存在を検出するための方法は、新しいクラスの患者、すなわちER-α66陰性かつER-α36陽性の患者の同定を可能とする。本発明のポリペプチドの存在を検出するための方法はまた、抗エストロゲン剤に対する細胞の感受性を決定し、そして個人のための好適な治療過程を決定することなどに関する情報を提供するのに有用である。例えば、医師は、ER-α36陽性の乳癌細胞を有する対象が低レベルのタモキシフェンに対する耐性を克服するためにより高用量を必要とするかもしれないと判定することができる。
【0081】
ER-α66、ER-α46、ER-α36、ER-β又はそれらの組み合わせの存在の検出はまた、エストロゲン受容体の比率を比較することも可能とする。2つ以上のエストロゲン受容体の比率の決定は、タモキシフェンなどの抗エストロゲン剤に対する細胞の感受性を予測することを可能とする。本発明のこの側面においては、例えば、細胞中のER-α36対ER-α46の比率、ER-α36対ER-α66の比率、ER-α36対ER-βの比率又はそれらの組み合わせが決定され、対照細胞における対応する比率と比較される。かかる比率は、本明細書においてER-α36比と呼ばれる。1つの例において、対照細胞は、抗エストロゲン剤による処理に不応性な細胞であることができる。他の例においては、対照細胞は、抗エストロゲン剤に対して不応性でない細胞であることができる。被験細胞において決定された上記のER-α36比が、対照細胞について記載されたER-α36比と同じであったら、被験細胞は対照細胞の地位に分類される。例えば、被験細胞のER-α36対ER-α66の比率が、タモキシフェン処理に対して不応性であることが知られている対照細胞のER-α36対ER-α66の比率に等しければ、被験細胞はタモキシフェン処理に対して不応性であるとして分類される。しかしながら、被験細胞におけるER-α36対ER-α66の比率が、タモキシフェン処理に対して不応性でない対照細胞におけるER-α36対ER-α66の比率に等しければ、被験細胞は、タモキシフェン処理に対して不応性でないとして分類される。他の例においては、被験細胞において決定されたER-α36比がタモキシフェン処理に対して不応性であることが知られた対照細胞及びタモキシフェン処理に対して不応性でないことが知られた対照細胞における対応する比率と比較される。そして、被験細胞は、上記のように、タモキシフェン処理に対して不応性又はタモキシフェン処理に対して不応性でないとして分類される。タモキシフェン処理に対して不応性でないことが知られた対照細胞の例は、MCF7(ATCC Collection寄託番号HTB-22)である。低用量のタモキシフェン処理に対して不応性であることが知られた対照細胞の例は、MDA-MB-231である。タモキシフェン処理に対して不応性であることが知られた乳癌細胞はまた、被験細胞におけるER-α36と比較することによって対照細胞として使用可能である。
【0082】
本発明のポリペプチドに結合する剤の同定
本発明はまた、本発明のポリペプチドに結合する剤を同定するための方法も提供する。かかる方法は、スクリーニングアッセイとも呼ばれる。該方法は、本発明のポリペプチドを剤と併合し、そして該剤が該ポリペプチドに結合するかを決定することを含む。典型的には、剤がポリペプチドに結合するか否かを決定することは、該剤と該ポリペプチドの複合体の形成を検出することを含む。複合体の検出方法は、例えば、剤のポリペプチドへの結合を直接的に検出すること、及び競合結合アッセイを用いて剤のポリペプチドへの結合を検出することを含む。アッセイは無細胞アッセイでもよい。アッセイは、エストロゲン又は抗エストロゲン剤の存在下又は非存在下で行われることができる。場合により、該方法は、剤が、配列番号18に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドなどのER-α66ポリペプチドに結合するか否かを決定することも含む。ER-α66ポリペプチドに結合しない剤が好ましい。
【0083】
剤は、生物学的ライブラリー、空間的にアクセス可能なパラレル固相又は液相ライブラリー、デコンボルーションを必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物」ライブラリー法及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、本分野で知られたコンビナトリアルライブラリーにおける多くのアプローチのいずれを用いて得ることもできる。生物学的ライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーを含むが、一方、他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の小分子ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des. 12:145(1997))。分子ライブラリーの合成方法の例は、本分野において見出されることができる(例えば、DeWitt et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909(1993);Erb et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422(1994); Zuckermann et al. J. Med. Chem. 37:2678(1994); Cho et al. Science 261:1303(1993); Carrell et al. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059(1994); Carell et al.Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061(1994); 及び Gallop et al. J. Med. Chem. 37:1233(1994)を参照のこと)。スクリーニングされる潜在的な剤の供給源は、例えば、細菌及び真菌の発酵培地及び植物及び他の植生の細胞抽出物も含む。
【0084】
化合物のライブラリーは、例えば、(Houghten Bio/Techniques 13:412-421(1992)などの)溶液中、又は(Lam Nature 354:82-84(1991)の)ビーズ上、(Fodor Nature 364:555-556(1993)の)チップ、(米国特許第5,223,409号の)細菌、(米国特許第5,571,698号;同第5,403,484号;及び同第5,223,409号の)胞子、(Cull et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869(1992)の)プラスミド、又は(Scott et al. Science 249:386-390(1990); Devlin Science 249:404-406(1990); Cwirla et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-6382(1990); and Felici J. Mol. Biol. 222:301-310(1991)の)ファージにおいて表されることができる。
【0085】
或る剤の本発明のポリペプチドに結合する能力を決定することは、例えば、該剤の本発明のポリペプチドへの結合が複合体中の標識された化合物を検出することによって検出されるように、該剤を放射性同位体又は酵素的標識と結合させることによって達成されることができる。例えば、剤は125I、35S、14C、又は3Hで、直接的又は間接的に標識されることができ、そして放射性同位体は放射能放出の計測によって直接的に、又はシンチレーション計測によって検出される。或いは、剤は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼによって酵素標識されることができ、酵素標識は、好適な基質の生成物への変換を測定することによって検出される。
【0086】
同様のやり方で、本発明のポリペプチドの、該ポリペプチドの既知のリガンド、例えば、本発明のポリペプチドが自然に結合又は相互作用する分子、への結合を変更(例えば、刺激又は阻害)する剤の能力が決定されることができる。かかるリガンドの例はエストロゲン並びにタモキシフェンなどの抗エストロゲン剤である。好ましい側面において、本発明のポリペプチドのリガンドへの結合を変更する剤の能力が、本発明のポリペプチドの活性をモニタリングすることによって決定されることができる。
【0087】
さらに他の側面においては、本発明のアッセイは、本発明のポリペプチドを剤と接触させ、そして該剤の該ポリペプチドへ結合する能力を決定することを含む。該剤のポリペプチドへの結合は、上記のように直接的又は間接的に決定されることができる。好ましい側面において、アッセイは、本発明のポリペプチドを、本発明のポリペプチドに結合することが知られているリガンドと接触させて、アッセイ混合物を形成し、アッセイ混合物を剤と接触させ、そして該剤がリガンドに比べて優先的に該ポリペプチドに結合する能力を決定することを含む。
【0088】
他の側面において、アッセイは、本発明のポリペプチドを剤と接触させ、そして該剤の本発明のポリペプチドの活性を変更(例えば、刺激又は阻害)する能力を決定することを含む。
【0089】
さらなる側面においては、アッセイは、本発明のポリペプチドの能力を変更(例えば、刺激又は阻害)して、例えば、ER-α66のAF−1及び/またはAF−2ドメインを介する活性を含むエストロゲン応答要素、の転写のトランス活性化を制御する剤をスクリーニングすることを含む。好ましくは、本発明のポリペプチド及び転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインを有するポリペプチドを含む融合ポリペプチドが使用される。転写活性化ドメインを有するポリペプチドの例は、VP-16であり、転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインを有する他の有用なポリペプチドは本分野において知られている。典型的には、かかる融合ポリペプチドは、プロモーター及び作動可能に連結されたコード配列の上流にあるエストロゲン応答要素を有するポリヌクレオチドとともに使用される。チミジンキナーゼプロモーターなどを含む多様なプロモーターが使用可能である。好ましくは、作動可能に連結されたコード領域は、ルシフェラーゼ又は緑色蛍光タンパク質などの蛍光ポリペプチドなどの検出可能なマーカーをコードする。1つの側面においては、転写活性化ドメインを含む融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド及び剤は、剤の非存在下でポリヌクレオチド上に存在するコード領域の発現を促進する条件下で併合され、そして転写を変更する剤の効果が決定される。場合により、ER-α66ポリペプチド及び/又はERβポリペプチドも存在してもよく、本発明のポリペプチドが、ER-α66ポリペプチド又はERβのリガンド依存性及びリガンド非依存性の転写活性を調節する能力を変更(例えば、刺激又は阻害)する剤を同定するために、アッセイが用いられる。好ましくは、融合ポリヌクレオチド及びプロモーター及び作動可能に連結されたコード配列の上流のエストロゲン応答要素、を含むポリヌクレオチドの両方が細胞中に存在する。限定することを意図せずに、本発明のポリペプチドの能力を変更して転写のトランス活性化を制御する剤は、本発明のポリペプチドの立体構造を変化させて該ポリペプチドの能力を増加又は減少させることができることが期待される。
【0090】
アッセイにおいては、本発明のポリペプチド、そのリガンド又は剤のいずれかを固定して、分子の1つ又は両方の複合化形態から未複合化形態を分離することを容易にし、並びにアッセイの自動化の便宜をはかることが望ましい。1つの実施態様において、本発明のポリペプチドがマトリックスに結合されることを可能とするドメインを付加する融合タンパク質が提供されることができる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼを含む融合ポリペプチドは、グルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical, St. Luois, Mo.)又はグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレートに吸着されることができ、これらは剤と併合され、そして混合物が(塩及びpHについての生理学的条件などの)複合体形成を行うことのできる条件下でインキュベートされる。インキュベーション後に、ビーズ又はマイクロタイタープレートのウエルは洗浄されていかなる未結合成分も除去されることができ、そして、複合体形成が、例えば上記のように直接的又は間接的に測定される。或いは、複合体はマトリックスから分離され、そして結合のレベルが決定される。
【0091】
マトリックス上にポリペプチドを固定するための他の技術も、本発明のスクリーニングアッセイにおいて使用可能である。例えば、本発明のポリペプチドは、ビオチン及びストレプトアビジンのコンジュゲーションを用いて固定化されることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチン−NHS(N-ヒドロキシ-サクシニミド)を本分野において周知の技術(例えば、ビオチン標識キット、Pierce Chemicals, Rockford, III)とともに用いてビオチン標識され、そして、例えば、ストレプトアビジンコーティングされた96ウエルプレート(Pierce Chemicals)のウエル中に固定化されることができる。或いは、本発明のポリペプチドと反応性である抗体は、プレートのウエルに誘導体化されることができ、そして未結合の本発明のポリペプチドが抗体とのコンジュゲーションによってウエル中に捕捉される。上記のGST-固定化複合体に加えてかかる複合体を検出するための方法は、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体と反応性である抗体を用いる複合体の免疫検出を含む。
【0092】
本発明はまた、上記のスクリーニングアッセイによって同定された新規な剤及び本明細書に記載された治療のためのその使用も含む。
【0093】
治療方法
本発明はさらに、対象における一定の病気を治療するための方法を目的とする。対象は哺乳動物、好ましくはヒトである。本明細書で使用される用語「病気」は、特徴的な症状又は症状の組によって顕在化する対象の部分、器官又は系或いはそれらの組み合わせの正常な構造又は機能からの逸脱又はその妨害をさす。病気は、エストロゲン受容体などのステロイドホルモン受容体を介するシグナル伝達に依存する癌を含む。かかる病気の例は、エストロゲン関連の癌と呼ばれ、乳癌及び前立腺癌を含む。典型的には、対象が病気を有するか、そして対象が治療に応答しているかが、病気に関連する症状の評価によって決定される。本明細書中で使用される用語「症状」は、対象に存在する病気の客観的な証拠をさす。本明細書中で病気と関連する症状とよばれるもの、そしてかかる症状の評価は本分野において日常的なものであり、知られている。ステロイドホルモン受容体を介するシグナル伝達に依存する癌の症状の例は、例えば、腫瘍の存在及びサイズ、そして生物マーカーの存在及び量を含む。生物マーカーは、対象中に存在しそして癌の進行の指標である化合物、典型的にはポリペプチドである。生物マーカーの例は、例えば、Her-2発現及びサイクリンD1発現である。
【0094】
病気の治療は、予防的であることができ、又は病気の発生の後に開始されることができる。予防的である治療、例えば、対象が病気の症状を顕在化させる前に開始されるものは、本明細書において病気の発生の「リスク」を有する対象の治療をさす。病気の発生のリスクを有する対象の例は、遺伝子マーカーなどの病気に関連するリスクファクターを有する人である。対象が乳癌又は前立腺癌などの一定の癌を発生させる素因を有することを示す遺伝子マーカーの例は、BRAC1及び/又はBRAC2遺伝子における変化を含む。治療は、本明細書に記載の病気の発生の前、その間又はその後に実施されることができる。病気の発生の後に開始される治療は、状態のうちの1つの症状の重篤度を減少させるか又は症状を完全に取り除くことができる。
【0095】
いくつかの側面において、該方法は典型的に、本発明の方法を用いて同定される剤などの、本発明のポリペプチドの活性を阻害する剤の有効量を含む組成物と細胞を接触させることを含む。好ましくは、かかる剤は本発明のポリペプチドに結合する。いくつかの側面において、剤は抗エストロゲン剤でないことが好ましい。本明細書において使用される「有効量」は、細胞内で本発明のポリペプチドの活性を阻害し、病気に関連する症状を減少させること、又はそれらの組み合わせに有効な量である。1つの側面において、組成物は、本発明の抗体の有効量を含んでよい。好ましくは、抗体は、タモキシフェンなどの化学療法剤に共有結合する。組成物は場合により、他の化学療法剤を含んでよい。剤又は抗体、好ましくは抗体、が本発明のこの側面において機能することが期待されるか否かが、エキソビボモデル及び動物モデルを用いて評価されることができる。かかるモデルは本分野において知られており、そしてヒトの病気又は治療方法の代表的なものとして一般に受け入れられている。かかる動物モデルの好ましい例は、ヌードマウスである。例えば、乳癌細胞は卵巣切除した雌性ヌードマウスの乳房の浅胸筋膜中に接種され、その後に病変が形成され、そして触診によって、ノギスによる測定によって、及び腫瘍重量によって評価される。トランスジェニック動物モデルも利用可能である。例えば、TRAMPモデル(例えば、Greenberg et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:2429-3443(1995)を参照のこと)などの前立腺癌の研究のためのモデル及びMMTV-Wnt-1モデル(例えば、Tsukamoto et al., Cell, 55:619-625(1988)を参照のこと)などの乳癌の研究のためのモデルは、ヒトの病気のためのモデルとして一般に受け入れられている。
【0096】
他の側面において、細胞はポリヌクレオチドを含む組成物と接触させられ、ここで、ポリヌクレオチドは本発明のポリペプチドをコードするコード領域の転写後サイレンシングを引き起こす。かかるポリヌクレオチドは本明細書においてサイレンシングポリヌクレオチドと呼ばれる。サイレンシングポリヌクレオチドは、RNAポリヌクレオチドとして、又は該RNAポリヌクレオチドをコードし発現させるDNAポリヌクレオチドを含むベクターとして細胞中に導入されてもよい。1種類を超えるポリヌクレオチドが投与されることができる。例えば、同じmRNAをサイレンシングするように設計された2つ以上のポリヌクレオチドが組み合わされ、そして本発明の方法において使用されることができる。或いは、2つ以上のポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドのそれぞれが異なるmRNAをサイレンシングするように設計されて、ともに使用されることもできる。
【0097】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」は、いかなる長さのポリマー形態のヌクレオチド、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、又はそれらの組み合わせのいずれかを指し、そして一本鎖分子及び二本鎖の両方を含む。ポリヌクレオチドは、自然の供給源から直接に得られることができ、又は組換え、酵素的、又は化学的技術によって調製されることができる。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは単離される。本明細書に記載の「標的コード領域」及び「標的コード配列」は、その発現がサイレンシングポリヌクレオチドによって阻害されるコード領域をさす。本明細書に記載の「標的mRNA」は、標的コード領域によってコードされるmRNAである。標的コード領域の例は、エキソン9によってコードされるヌクレオチド配列(配列番号25)を含む、ER-α36をコードするヌクレオチド配列(配列番号21)、5’フランキングヌクレオチド配列(配列番号20)、又は3’フランキングヌクレオチド配列である。
【0098】
サイレンシングポリヌクレオチドは、二重鎖RNA(dsRNA)ポリヌクレオチドを含む。サイレンシングポリヌクレオチドの配列は、本明細書においてセンス鎖とよばれる16〜30ヌクレオチド、例えば、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30ヌクレオチドの1本鎖を含む。センス鎖は標的mRNAに実質的に同一、好ましくは同一である。本明細書において使用される用語「同一」は、センス鎖のヌクレオチド配列が標的mRNAの部分と同じヌクレオチド配列を有することを意味する。本明細書において使用される用語「実質的に同一」は、センス鎖の配列が、標的mRNAの配列と1、2、又は3ヌクレオチド、好ましくは1ヌクレオチドにおいて異なり、残りのヌクレオチドがmRNAの配列と同一であることを意味する。センス鎖のこれらの1、2又は3のヌクレオチドは、非相補的ヌクレオチドと呼ばれる。サイレンシングポリヌクレオチドが、標的mRNAに実質的に同一なセンス鎖を含む場合、1、2、又は3の非相補的ヌクレオチドは、好ましくはセンス鎖の真ん中に位置する。例えば、センス鎖が21ヌクレオチド長である場合、非相補的ヌクレオチドは典型的にヌクレオチド9、10、11、又は12、好ましくはヌクレオチド10又は11である。本明細書においてアンチセンス鎖と呼ばれる、dsRNAポリヌクレオチドの他の鎖は、センス鎖に相補的である。「相補的」という用語は、2つの一本鎖ポリヌクレオチドがお互いに塩基対を形成する能力をさし、ここで、1つのポリヌクレオチド上のアデニンは第二のポリヌクレオチド上のチミン又はウラシルと塩基対を形成し、そして1つのポリヌクレオチド上のシトシンは第二のポリヌクレオチド上のグアニンと塩基対を形成する。サイレンシングポリヌクレオチドは、dsRNAポリヌクレオチドに対応する二重鎖DNAポリヌクレオチドも含む。本明細書中に開示される、センス鎖に対応する一本鎖RNAポリヌクレオチド及び一本鎖DNAポリヌクレオチド並びにアンチセンス鎖も含まれる。DNA配列として本明細書中に開示される配列が、各チミジンヌクレオチドをウラシルヌクレオチドに置換することによって、DNA配列からRNA配列に変換されることができることは理解されるべきである。限定することを意図せずに、本発明のポリヌクレオチドは、標的コード領域の転写後サイレンシングを引き起こす。サイレンシングにおける使用のためにポリヌクレオチドを修飾することは、本分野において知られており、サイレンシングポリヌクレオチドはそのように修飾されることができる。
【0099】
本発明のdsRNAサイレンシングポリヌクレオチドのセンス及びアンチセンス鎖もまた共有結合され、典型的にはヌクレオチドからつくられるスペーサーによって共有結合されることができる。かかるポリヌクレオチドはしばしば、本分野においてショートヘアピンRNA(shRNA)と呼ばれる。センス及びアンチセンス鎖の塩基対形成によって、スペーサー領域はループを形成する。ループを作っているヌクレオチドの数は変化することができ、3及び23の間のヌクレオチドループが報告されている(Sui et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 99, 5515-5520(2002)及びJacque et al., Nature, 418, 435-438(2002))。
【0100】
サイレンシングポリヌクレオチドは、標的コード領域の、サイレンシングとも呼ばれる転写後の発現阻害を引き起こす。理論によって制限されることを意図せず、細胞中への導入後、サイレンシングポリヌクレオチドは標的mRNAとハイブリダイズし、そして細胞エンドヌクレアーゼに標的mRNAを切断するというシグナルを送る。結果として、mRNAによってコードされるポリペプチドの発現が阻害される。標的コード領域の発現が阻害されるか否かが、例えば、細胞内での標的mRNAの量の減少を測定すること、mRNAによってコードされるポリペプチド量の減少を測定すること、又はmRNAによってコードされるポリペプチドの活性の減少を測定することによって決定される。サイレンシングポリヌクレオチドはベクター中に存在することができる。サイレンシングポリヌクレオチドは、そのそれぞれが発現されてdsRNAのセンス及びアンチセンス鎖を生じる2つの離れた相補的ポリヌクレオチド、又は、発現されてdsRNAのセンス及びアンチセンス鎖を有するRNAポリヌクレオチドを生じるセンス鎖、ループ領域、及びアンチセンス鎖を含む一本鎖ポリヌクレオチドとしてベクター中に存在することができる。
【0101】
サイレンシングポリヌクレオチドは、本分野で日常的な既知の方法を用いて設計されることができる。例えば、サイレンシングポリヌクレオチドは、コード領域AAジヌクレオチド配列をスキャニングすることによって同定されることができ;AA及びmRNAの下流(3’)に続く16〜30ヌクレオチドのそれぞれは候補ポリヌクレオチドのセンス鎖として使用可能である。候補ポリヌクレオチドは、それが本発明のポリペプチドの1つの発現を減少させるかを決定するために試験されるポリヌクレオチドである。候補ポリヌクレオチドは、該ポリペプチドをコードする領域内、又はmRNAの5’又は3’非翻訳領域内に位置するヌクレオチドと同一であることができる。場合により、そして好ましくは、候補ポリヌクレオチドは、1、2又は3、好ましくは1つの非相補的ヌクレオチドを含むように修飾される。他の方法は本分野において知られており、そして候補ポリヌクレオチドを設計し選択するために日常的に使用される。サイレンシングポリヌクレオチドは、センス鎖の5’末端にあるジヌクレオチドAAで始まってもよいが、そうである必要はない。候補ポリヌクレオチドはまた、1、2又は3個のヌクレオチド、典型的にはセンス鎖、アンチセンス鎖、又は両方の3’末端上のオーバーハングも含んでよい。候補ポリヌクレオチドは典型的には、候補ポリヌクレオチド配列をコード配列と比較するために、公然と利用可能なアルゴリズム(BLASTなど)を使用してスクリーニングされる。非標的コード領域によって発現されたmRNAと二量体を形成しやすいものは、典型的にさらなる考慮から除外される。そして、残りの候補ポリヌクレオチドは、それらが本明細書に記載のポリペプチドの1つの発現を阻害するか否かについて試験されることができる。
【0102】
一般に、候補ポリヌクレオチドは、候補ポリヌクレオチドを本発明のポリペプチドを発現する細胞中に導入することによって個々に試験される。候補ポリヌクレオチドは、インビトロで調製され、そして細胞中に導入されることができる。インビトロでの合成のための方法は、例えば、慣用のDNA/RNA合成装置による化学的合成を含む。合成ポリヌクレオチド及びかかる合成のための試薬の商業的供給者は周知である。インビトロでの合成のための方法は、例えば、無細胞系での環状又は直線状ベクターを用いるインビトロ転写も含む。
【0103】
候補ポリヌクレオチドは、候補ポリヌクレオチドをコードする構築体を細胞中に導入することによっても調製可能である。かかる構築体は、本分野で知られており、例えば、候補ポリヌクレオチドのセンス鎖及びアンチセンス鎖をコードし、発現するベクター、並びにRNAポリメラーゼIIIプロモーター及びRNAポリメラーゼIIIターミネーターなどの作動可能に連結された制御配列に隣接する候補ポリヌクレオチドのセンス鎖及びアンチセンス鎖をコードする配列を含むRNAポリヌクレオチドを生成するRNA発現カセットを含む。細胞は、エクスビボ又はインビボであることができる。候補ポリヌクレオチドは、動物モデルにおいて試験されてもよい。
【0104】
候補ポリヌクレオチドが機能して本明細書に記載のポリペプチドの一つの発現を阻害するか否かを評価する場合、候補ポリヌクレオチドを含む細胞中の標的mRNA量が測定されることができ、そして候補ポリヌクレオチドを含まない同種の細胞と比較される。細胞中のmRNAレベルの測定方法は本分野で知られており、そして日常的なものである。かかる方法は、定量的RT-PCRを含む。mRNAの増幅のためのプライマー及び特異的条件は、mRNAに依存して異なり、そして当業者によって容易に決定されることができる。他の方法は、例えば、ノーザンブロッティング及びアレイ分析を含む。
【0105】
候補ポリヌクレオチドが機能して、本明細書に記載のポリペプチドの1つの発現を阻害するか否かを評価するための他の方法は、該ポリペプチドをモニタリングすることを含む。例えば、mRNAによってコードされたポリペプチドの量の減少を測定するため、又はmRNAによってコードされたポリペプチドの活性の減少を測定するためにアッセイが使用されることができる。ポリペプチド量の減少を測定するための方法は、候補ポリヌクレオチドを含む細胞中に存在するポリペプチドについてアッセイし、そして候補ポリヌクレオチドを含まない同種の細胞と比較することを含む。例えば、本発明の抗体は、ウエスタンイムノブロッティング、免疫沈降又は免疫組織化学において使用されることができる。本明細書に記載のポリペプチドのそれぞれに対する抗体は商業的に入手可能である。本発明のポリペプチドの1つの活性の減少を測定するための方法も使用されることができる。
【0106】
キット
本発明は、細胞が本発明のポリペプチドを発現するか否かを決定することを含む、本発明の方法において使用されることのできる試薬を含むキットを提供する。かかるキットは、包装材料及び本発明の抗体を含むことができる。かかるキットはまた、医薬組成物などの、本発明の抗体を含む組成物の製剤のために医師によって使用されてもよい。
【0107】
包装材料は、抗体に保護された環境を提供する。例えば、包装材料は抗体が汚染されるのを防ぐ。さらに、包装材料は、液体中の抗体を乾燥から保護する。包装材料として使用可能な好適な材料の例は、ガラス、プラスチック、金属などを含む。かかる材料は、抗体の包装材料への吸着を防ぐためにシラン化されてよい。
【0108】
1つの例において、本発明は、包装材料、本発明のポリペプチドに特異的に結合する第一抗体、及びER-α66ポリペプチドに特異的に結合する第二抗体を含むキットを提供する。キットは場合により、緩衝液、反応容器、二次抗体及びシリンジなどの追加の構成要素を含んでよい。
【実施例】
【0109】
実施例1 カベオリン−1ハプロ不全が、正常な乳房上皮細胞のER-α発現の活性化及びエストロゲン刺激による形質転換を起こす
正常なヒト乳房上皮MCF10A細胞からの細胞クローンの遺伝子トラップライブラリーを、Harvard Medical SchoolのDr. Philip Lederの研究室から入手したポリ−Aトラップレトロウイルスベクター(RET)を用いて作製した(Ishida et al., Nucl. Acad Res., 27: 580 (1999))。すなわち、このベクターは、機能的な遺伝子をそれらの標的細胞における発現状態にかかわりなく有効に同定するための改善されたポリ−Aトラップ法を使用した。強力なスプライスアクセプターと有効なポリアデニレーションシグナルの組み合わせは、「トラップされた」遺伝子の機能の完全な破壊を確実にする。RETベクター内にプロモーターのないGFP cDNAが含まれることは、トラップされた遺伝子の発現パターンを生きた細胞において容易にモニターすることを可能とする。RETベクターを含むレトロウイルスを、MCF10A細胞を感染させるのに使用した。その後、細胞をG418‐耐性についてスクリーニングして、MCF10A細胞の遺伝子トラップライブラリーを確立した。G418による3週間の選択の後、「トラップされた」遺伝子の内因性のプロモーターの制御下において、GFP発現をモニターし、そしてG418耐性のGFP発現クローンを選択した。このライブラリーは、機能的遺伝子の一つの対立遺伝子がRETベクターによって破壊された、3×105の独立した感染クローンを表した。
【0110】
腫瘍抑制活性を有する遺伝子の発現の損失が形質転換された表現型を正常なMCF10A細胞に付与したと考えられた。ソフト寒天クローニングアッセイを実施し、そしてアンカー非依存性の増殖、形質転換された表現型の特徴を獲得した、遺伝子トラップされた細胞ライブラリーからの細胞を確認した。G418耐性細胞のライブラリーからの100超の陽性コロニー(30以上の細胞)がソフト寒天中で増殖したが、親であるMCF10A細胞は増殖しなかった。20の細胞クローンを単離し、増殖させ、そして通常の血清+10-8M 17b−エストラジオール(E2)及びデキストリン被覆したチャコールで処理したステロイドホルモンを含まない血清を含むソフト寒天中で再度、3週間選択した。追加のE2を含むソフト寒天中で促進された増殖を示した4つの細胞クローン(ST1、ST3、ST4、及びST6)を単離し、そして増殖させた(図3)。
【0111】
候補遺伝子のエキソンとポリAテイルの間にある未知の3’mRNA配列を捕捉することを可能とする3’−RACEを使用してその破壊がMCF10A細胞の形質転換に導く潜在的な遺伝子をクローニングした。MCF10A細胞の形質転換は陽性のエストロゲンシグナル伝達によると考えられた。RACE手順から得られた精製されたPCR断片をクローニングしそして配列決定した。BLASTIN検索を用いると、2つのクローン(ST1及びST3)からのDNA配列は第7染色体上に位置するカベオリン−1(Cav-1)エキソン−3(GenBank 寄託番号XM048940)に一致した。この結果は、Cav-1遺伝子の対立遺伝子が少なくとも2つのクローンにおいて破壊されていることを示した。Cav-1に加えて、2つの他の遺伝子を同じ技術を用いて同定した。クローンST4において破壊された遺伝子は、角化細胞膜の構造構築に関与する、コルニフィン(cornifin)/小さなプロリンリッチタンパク質ファミリーの一員である、SPRR1Bであった(GenBank寄託番号NT-004441.5)。クローンST6からの他の遺伝子は、既知の機能を有さない推定上の新規遺伝子(GenBank寄託番号6599139)である。
【0112】
Cav-1遺伝子をトラップした細胞においてCav-1発現レベルが減少したか否かを試験するために、親であるMCF10A細胞においてCav-1タンパク質レベルを分析した。上記の4つの細胞クローン(ST1、3、4及び6)並びにMCF10A-Ha-ras(Ha-ras突然変異によって形質転換されたMCF10A細胞)を分析した。ウエスタンブロット分析によって実証されたとおり、親であるMCF10A細胞におけるレベルに比べて、Cav-1タンパク質レベルはすべての形質転換された細胞において約2倍低かった(図4)。このデータは、ST1及びST3細胞においてcav-1遺伝子のたった一つの機能的対立遺伝子が機能的である場合、Cav-1発現が減少したのと一致する。これは、「遺伝子トラッピング」によって生じたCav-1ハプロ不全が、E2によって刺激された形質転換に導くことを示している。このデータはまた、Cav-1の下方制御がST4及びST6細胞における他の遺伝子の破壊の結果としての形質転換に関与することも示す。
【0113】
Cav-1ハプロ不全がエストロゲンにより刺激された細胞増殖及び形質転換に導くメカニズムを決定するために、上記の形質転換された細胞におけるER-α及びER-βの発現レベルを調べた。4つの形質転換された細胞クローンのすべてが、Ha-rasで形質転換された細胞に匹敵するレベルでER-αを発現する一方、親であるMCF10A細胞及び他の正常な乳房上皮細胞株である、HBL-100細胞、が検出不可能なレベルのER-αを発現したことがわかった(図5)。ER-β発現は被験細胞のすべてにおいていかなる変化も起こさなかった(図5)このデータは、ER-αの発現が活性化され、そして、これらの形質転換された細胞におけるエストロゲンシグナル伝達によってソフト寒天上でのエストロゲン刺激による細胞増殖がおこることを示している。ER-α発現及びエストロゲンシグナル伝達の両方がHa-rasで形質転換された細胞において活性化されることが以前に示された(Schekhar et al., Int. J. Oncol., 13:907(1998)及びShekhar et al., Am. J. of Pathol., 152:1129(1998))。この結果は、Ras/MAPK経路がER-α発現及び陽性のエストロゲンシグナル伝達に関与することを示している。
【0114】
これらの形質転換細胞におけるMAPK経路の活性化は、リン特異的な抗体を用いてERK1/2のリン酸化レベルを調べることによって分析した。ERK1/2は、すべての細胞において高度に且つ恒常的にリン酸化されるが、MCF10A細胞ではそうでないことがわかった(図6)。
【0115】
まとめると、これらのデータは、Cav-1/Ras/MAPK経路が、ヒト乳癌の発生の間のER-α発現の活性化に関与し、エストロゲンシグナル伝達経路と協同して形質転換細胞の増殖を刺激することを示している。
【0116】
実施例2 エストロゲン受容体アルファ(ER-α36)のアイソフォームの同定、クローニング、発現及び特徴づけ
上記の研究の過程で、Research Diagnostic, INC.からのラット抗ER-α抗体(クローンH222)を用いるウエスタンブロット分析において3つのタンパク質バンド(66kDa、46kDa及び36kDa)を一致して観察した。H-222抗体は、ER-αのリガンド結合ドメインを認識する。先の報告(Abbondanza et al., Steroids, 58:4(1993))によって示唆された、46kDa及び36kDaのタンパク質バンドがER-α66の分解産物であるという可能性を除くために、8M尿素を含む緩衝液を用いて細胞を培養プレート中で溶解させ、そしてウエスタンブロット分析によって試験した。Cav-1ハプロ不全細胞、ST1及びST3、そしてMCF7乳癌細胞において3つの異なるバンドを容易に観察した(図7)。これらの結果は、抗体H222によって認識される類似のエピトープを共有するER-αアイソフォームの存在を示した。
【0117】
文献の調査を通して、ER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるトランス活性化のドミナントネガティブな阻害剤として機能する、ER-αの46-kDaアイソフォームがクローニングされたことがわかった(Flouriot et al., EMBO J., 19:4688(2000))。継続した調査により、5.4kbのcDNAを含む、正常なヒト子宮内膜cDNAライブラリーからのクローンを同定した(RZPDクローン番号:DKFZp686N23123)。このcDNAクローンは、理論的に予想分子量35.7kDaのタンパク質を生成することのできる310アミノ酸のオープンリーディングフレームを内部に有する。オープンリーディングフレームのcDNA配列は、ER-α66遺伝子のエキソン2〜6のDNA配列に100%一致した。cDNAの5’非翻訳領域(5’UTR)は、(ER-α66遺伝子の34,233bpの第一イントロンの最初の塩基対を1と名づけて)ER-α66遺伝子の734〜907の第一イントロンのDNA配列に対する100%相同性を示した。したがって、ER-α36の転写物は、ER-α66遺伝子の第一イントロン中の以前には同定されていなかったプロモーターから開始されると決定した。
【0118】
ER-α66遺伝子の第一イントロンの734〜907の小さな新規非コードエキソンを「エキソン1’」と名づけた。そして、エキソン1’をER-α66遺伝子のエキソン2中へ直接スプライシングし、ER-α66遺伝子のエキソン2〜エキソン6まで続けた。そして、エキソン6をER-α66遺伝子の64,141bp下流に位置するエキソン(GenBank寄託番号AY425004、表1を参照のこと)へスプライシングする。最後の27アミノ酸をコードするcDNA配列及び4,293bpの3’非翻訳領域が、染色体6q24.2−25.3上のクローンRP1-1304の遺伝子配列(GenBnak寄託番号AL078582)からの連続的な配列に100%一致したことは、この新規なER-αアイソフォームの残りのcDNA配列が、先に報告されたER-α66遺伝子の下流に位置する4,374bpの1つのエキソンから転写されたことを示している。このエキソンはしたがって、先に報告された8つのエキソン外のエキソンであることを反映してエキソン9と名づけた(図8)。これらのすべてのスプライシング事象を、スプライス連接部における完全なスプライスドナー及びアクセプターの同定が支持する。タンパク質ER-α36は、第二エキソン中に位置する完全なKozak配列から生成されることができ、同じ開始コドンがER-α46の生成に使用される(Flouriot et al., EMBO J., 19:4688(2000))。AF-1及びAF-2の両方の転写活性化ドメインを欠くことによってER-α36はER-α66と異なるが、二量体化、DNA-結合及び部分的なリガンド結合ドメインは保持している。それは、ER-α66のエキソン7及び8によってコードされる最後の138アミノ酸を置換するための、余分の特有の27アミノ酸ドメインも有する(図1)。ここで、ER-αの新規アイソフォームを本明細書においてER-α36を名づけた。
【0119】
ヒト胎盤RNA(Clonetech)から製造者により記載された手順にしたがって調製したMarathon Ready cDNAからのPCRを用いて、ER-α36をコードするオープンリーディングフレームを得た。PCRプライマー対は、DKFZp686N23123のcDNA配列にしたがって設計した。5’プライマーは、末端にEcoRI部位を有する5’−CGGAATTCCGAAGGGAAGTATGGCTATGGAATCC−3’(配列番号23)であり、3’プライマーは、末端にBamHI部位を有する5’−CGGGATCCAGAGGCTTTAGACACGAGGAAAC−3’(配列番号24)である。PCR産物を1%アガロースゲル上の電気泳動にかけ、そして予想された1.1kbのDNA断片を観察した(図9)。DNA断片を精製し、EcoRI及びBamHIで消化し、pBluescriptベクター(pBS-ER-α36)中にクローン化し、そして完全に配列決定した。配列は、cDNAクローンDKFZp686N23123に100%の同一性を示し、ER-α36が他の供給源からクローン化可能なER-αの天然のアイソフォームであることを示す。オープンリーディングフレームによってコードされたアミノ酸配列の予測を図10に示す。
【0120】
クローン化されたcDNAがER-α36タンパク質を生成するか否かを試験するために、ER-α66、ER-α46及びER-α36を含む発現ベクターを用いて、ヒト胚腎臓293細胞において、一過性トランスフェクションアッセイを実施した。これらのトランスフェクトされた細胞及びMCF7細胞からの全細胞抽出物を、ER-αのリガンド結合ドメインに対して作製したモノクローナル抗体H222を用いてウエスタンブロット分析に供した(Abbondanza et al., Steroids, 58:4(1993))。H222抗体によって認識された36kDaタンパク質を、ER-α36ベクターでトランスフェクトした細胞中で産生した(図11)。このタンパク質のサイズ及びそれがER-α66のB-ドメインに対する抗体H226並びにER-α66のC-末端を認識する抗体HC20と反応しないことは、ER-αアイソフォームが、ER-α66のN-末端及びC-末端の両方を欠き、結果としてAF-1及びAF-2ドメインの両方を欠くER-αアイソフォームをとなったことを示している。
【0121】
一連のコンピュータによる研究をER-α36タンパク質について実施した。FindMod 及びSCANPROSITEアルゴリズムは、ER-α36における3つのミリスチン酸付加部位を予測し、それが膜表面に位置するかもしれないことを示唆した。これは、ER-α36の21.7%、34.8%、17.4%、及び26%がそれぞれ、核、細胞質、ミトコンドリア、及び膜分画に局在することを予測するk最近傍推定(PSPORT II)アルゴリズムと一致した。これは、ER-α46についての予測と類似した(それぞれ、26.1%、30.4%、17.4%及び26・1%)。対照的に、ER-α66の73.9%、8.7%、0.1%及び17.3%は比較による予測である。したがって、ER-α66、ER-α46及びER-α36の示差的区分は、核受容体の機能部位及び主要な役割が異なるかもしれないことを示す。
【0122】
コンピュータによる研究をさらに、ER-α66遺伝子の第一イントロン中に位置するER-α36をコードする遺伝子の推定上の5’フランキング領域について実施した。TATA結合タンパク質(TBP)認識配列をcDNA開始部位の上流に、そして、いくつかのSp1、NF-κB及びAp1結合部位を5’フランキング領域中に発見した(図12)。完全な半分のエストロゲン応答要素(ERE)部位をER-α36の5’上流領域に見出したことは、ER-α36がE2を介する転写制御受けることを示している。
【0123】
実施例3 ER-α36が、膜性エストロゲンシグナル伝達を仲介し、そしてER-陰性乳癌において発現される
方法
細胞培養、安定な細胞株の確立及びE2-BSA-FITCによる膜の標識。MCF10A細胞をミズーリ州のデトロイトにあるKarmanos Cancer Instituteから、そして、ヒト胚腎臓293細胞及びすべての乳癌細胞をATCCから入手した。すべての細胞を5%CO2雰囲気中、37℃で適切な組織培養培地中で維持した。組換えER-α36を発現する安定な細胞を確立するために、HEK293細胞を60mm皿あたり1×105細胞の密度で播き、そして24時間後にFuGene6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals)を用いてサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターにより駆動されるER-α36発現ベクターによりトランスフェクトした。ER-α36の1.1-kb EcoRI-BamHI cDNA断片を、pBS-ER-α36から哺乳動物発現ベクターpCB6+のEcoRI及びBamHI部位へクローニングすることによって、ER-α36発現ベクターを構築した。対照として役立つために、空のベクターも細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を再播種し、そして500μg/mlのG418(Invitrogen)で2週間選択した。さらなる分析のために使用する細胞を作るために、得られたG-418耐性細胞のクローン化されない集団を増殖させた。組換えER-α36を発現する安定な細胞の表面を標識するために、細胞を4℃で15分間、E2β−ヘミサクシネート(Sigma)に共有結合した1μMのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識BSAで標識し、新たに調製した4%パラホルムアルデヒド中で固定し、そして顕微鏡による評価のために、DAPIを含む封入溶液を乗せた。
【0124】
エストロゲン及び抗エストロゲン剤による細胞の刺激、及びMTTアッセイ。処理の前、2.5%デキストリン被覆したチャコール処理したウシ胎児血清を含む、フェノールレッドを含まない培地で細胞を培養し、そして、PBSで洗浄し、新鮮なフェノールレッドを含まず、0.1μg/mlのBSA及び5μg/mlのインスリンを含む無血清培地中に12時間置いた。静止状態の細胞の刺激を、異なる期間、無血清培地中で37℃で実施した。異なるエストロゲン及び抗エストロゲン剤をSteraloids Inc.から購入した。BSA-E2βはSigmaから購入した。
【0125】
3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイのために、懸濁液中の細胞を96ウエル培養プレートの各ウエルに、最終濃度が1×103細胞/ウエルとなるように加え、そしてCO2インキュベータ中で37℃で24時間インキュベートした。10nM E2β、10nMのタモキシフェン又は4OH-タモキシフェン又は7.2nM UO126(Calbiochem)を含む培地を各ウエルに48時間、加えた。製造者の薦めのとおり、CellTiter96Aqueous One Solution Cell Proliferation Axxay Kit(BioRad)でMTTアッセイを実施した。マイクロプレートリーダー(Promega)を、490nmの吸収を測定するために使用した。
【0126】
細胞分画アッセイ。細胞分画をMarquezらの記載の通りに行った(Oncogene, 20, 5420-5430(2001))。
【0127】
ウエスタンブロット分析、間接的免疫蛍光法及び抗体。ウエスタンブロット分析のために、細胞をRIPA緩衝液で破壊し、ゲル負荷緩衝液中で煮沸し、10%SDS-PAGEゲル上で分離した。電気泳動の後、タンパク質をPVDF膜(Millipore)に移した。フィルターを様々な抗体でプローブし、そして好適なHRP-コンジュゲート2次抗体(Santa Cruz Biotechnology)及びECL試薬(Perkin Elmer Life Sciences)で可視化した。
【0128】
ERK1/2(K-23)に対する抗体をSanta Cruz Biotechnologyから購入した。MAPキナーゼ経路の活性化を分析するために使用する抗体は、Mek1及びERK1/2のリン酸化形態を含み、Cell Signaling Technologyから購入した。ラット抗-ER-α抗体(H222)をResearch Diagnostics Inc.から購入した。COPB(Y-20)、mSin3A(AK-11)、及び5’−ヌクレオチダーゼ(H-300)の抗体をSanta Cruz biotechnology Inc.から購入した。D4-GDI(クローン97A1015)をUpstate Biotechnologyから入手した。
【0129】
ER-α36に特有のER-α36のC-末端領域における最後の15アミノ酸にしたがって合成したペプチド抗原に対して、ポリクローナル抗-ER-α36抗体をウサギにおいて産生した。抗体産生に使用した合成ペプチドのアフィニティーカラムを、抗体の精製に使用した。ER-α36発現ベクターでトランスフェクトした、内因性のER-α36を発現しないHEK293細胞において、抗体の特異性も試験した。免疫蛍光アッセイは、抗-ER-α36抗体の免疫反応性シグナルが、ER-α36発現ベクターで一過性にトランスフェクトしたものにおいてのみ検出されたが、C-末端を欠くER-α36突然変異体を発現するトランスフェクタントでは検出されなかったことを示し、ER-α36抗体が高度に特異的であることを示唆した。
【0130】
DNAトランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ。一過性のトランスフェクションアッセイのために、6ウエルディッシュにHEK293細胞をサブシード(subseed)し、フェノールレッドを含まない培地+2.5%ステロイドを含まないウシ胎児血清中で60〜70%コンフルエントまで増殖させた。細胞を洗浄し、全部で5μgのプラスミド(2μgのレポータープラスミド2X ERE-tk-Lucと、1.5μgの発現ベクターpSG5、1.5μgのpSG hERα66又は1.5μgのpSG hERβ単独又は1.5μgのER-α36発現ベクター)とFuGene6試薬(Roche Molecular Biochemicals)で一過性にトランスフェクトした。チミジンキナーゼプロモーターの上流に位置する2つのERE(ニワトリビテロゲニンA2遺伝子の−331〜−289の配列)を含むレポータープラスミドを使用した(Kagtarine Pettersson, Karolinska Institute, Swedenから入手した2 X ERE-tk-Luc)。ER-α66及びβを含む発現ベクターも、Dr. Katarine Pettersson から入手した。ER-α46の発現ベクターは、Dr. Zafar Nawaz(Creighton University Medical Center, Omaha, Nebraska)から入手した。ルシフェラーゼ活性についてアッセイする前に、細胞をE2(10nM)の存在下又は非存在下で12時間処理した。ルシフェラーゼアッセイを、PromegaからのLuciferase Assay キットを用いて実施した。値は、3つ超の別々のトランスフェクション実験の平均±標準偏差に相当する。
【0131】
RNA抽出及びノーザンブロット分析。細胞の全RNAを、製造者の指示にしたがって、Trizol(Invitrogen)を用いて単離した。全RNAの10μgを1.2%ホルムアミド/ホルムアルデヒドゲル上の電気泳動で単離し、そしてナイロン膜(Hybond-N、Amersham Pharmacia Biotech)上にブロッティングした。ブロットをQuick-Hybridization溶液(Amersham Pharmacia Biotech)中、65℃で、1時間プレハイブリダイズ、2時間ハイブリダイズした。プローブは、ER-α36に特有のER-α36の3’非翻訳領域からの410bpのcDNA断片、及びBD Clonetech からのβアクチンDNAプローブを含んだ。DNAプローブを32P dCTP及びRediprime II DNA標識キット(Amersham Biotech)で標識した。増感紙を用いて−70℃で一夜、ブロットのオートラジオグラフィーを行った。同じ膜をはがし、標識β-アクチンDNAプローブで再プローブして等しい負荷を確認した。
【0132】
乳癌検体及び免疫組織化学アッセイ。パラフィン包埋されたヒト乳癌検体をSir Run Run Shaw Hospital, Hangzhou P. R. Chinaの病理学部門から得た。製造者の指示にしたがってUltraSensitive(商標)S−Pキット(Maixin-Bio, China)を用い、ER-α66特異的抗体(Lab Vision Corporation, USA)及びER-α36特異的抗体を一次抗体として、免疫病理化学的染色を行った。
【0133】
結果
ER-α36がER-α66の天然のアイソフォームであることをさらに確認するために、正常な乳房上皮細胞株、MCF10A、並びにER-陽性及び-陰性(すなわち、ER-α66-陽性及び-陰性)の乳癌細胞からの全RNAのノーザンブロット分析を実施した。RT-PCR法とER-α36に特有のER-α36の3'-非翻訳領域(5’−GCAAAGAAGAGAATCCTGAACTTGCATCCT(配列番号26)及び5’−TTAGTCAGGTATTTAATAACTAGGAATTG(配列番号27))にしたがって設計したプライマー対を用いてDNAプローブを合成した。ノーザンブロット分析は、5.6kbの推定サイズの単一のmRNAがER-陽性の(すなわち、ER-α66-陽性)乳癌細胞MCF7において同定されたが、MCF10Aではそうでなかったことを示した(図13)。驚くべきことに、ER-α36も、周知のER-陰性の(すなわち、ER-α66-陰性)乳癌細胞株、MDA-MB-231細胞において発現された(図13)。このデータは、予測されたサイズのER-α36mRNAによる転写物が乳癌細胞において発現され、そしてER-α66を欠く乳癌細胞においてさえ発現されたことを示す。
【0134】
ER-α36はリガンド結合した又はリガンド結合していないER-α66及び-βのトランス活性化活性を阻害する。我々は最初にAF-1及びAF-2ドメインの両方を欠くER-α36が転写活性を保持するか否かを試験した。チミジンキナーゼプロモーター(2X ERE-tk-Luc)の上流に位置する2つのエストロゲン応答要素(ERE)を含むルシフェラーゼ−発現レポーター構築体を用いてHEK293細胞における一過性のトランスフェクションアッセイを実施した。HEK293細胞株は、ER-α66のAF-1及び-2がHEK293細胞において等しく上手く機能することが先に報告された(Denger et al., Mol. Endocrinol., 15, 2064-2077(2001))ため、選択された。図14に示すように、我々は、ER-α36が両方の転写活性化ドメインを欠くことと一致して、ER-α36がE2βの存在下及び非存在下において、内因性の転写活性を示さないことを発見した。そして、我々は、ER-α66のAF-1及び-2ドメインによって仲介される転写トランス活性化活性におけるER-α36の制御機能を評価した。ER-α36の共発現は、E2βの存在下及び非存在下におけるER-α66のトランス活性化活性を強力に阻害し(図14)、ER-α66のAF-1及び-2ドメインによって仲介されるトランス活性化活性をER-α36が阻害することを示唆した。さらに、ER-α36は、ER-βのリガンド依存性及び非依存性のトランス活性化活性も阻害した(図14)。
【0135】
ER-α36は、膜性のエストロゲンシグナル伝達経路を仲介する。先の報告は、E2βがMAPK/ERK経路の急速な活性化を刺激することを示した(Razandi et al., Mol. Endocrinol., 13, 307-319(1999)、Watters et al., Endocrinol., 138, 4030-4033(1997)、及びMigliaccio et al., EMBO J., 15, 1292-1300(1996))。ER-α36がこのシグナル伝達経路に関与するか否かを決定するために、我々は、内因性のER-αを発現しないHEK293細胞中で外来性のER-α36を発現する安定な細胞を確立した。膜不透過性のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)とコンジュゲート形成したE2β-BSA(E2β-BSA-FITC)とともにER-α36でトランスフェクトした全HEK293細胞をインキュベートした。ER-α36でトランスフェクトした細胞の細胞表面は、E2β-BSA-FITCで強力に標識されたが、空のベクターでトランスフェクトした対照細胞はE2β-BSA-FITCで標識されなかった。未処理又は様々な時間E2β(10nM)で処理した静止細胞から細胞ライセートを調製した。ERKの活性化はリン酸化状態依存性及び非依存性の抗体を用いるイムノブロッティングによって測定した。約45分間続いたERK1/2のリン酸化における10倍の増加は、ER-α36発現ベクターでトランスフェクトした細胞においては5分以内で観察されたが、空のベクターでトランスフェクトした対照細胞では観察されなかった(図15a及び15b)。しかしながら、血清はこれらの対照細胞においてERK1/2を(10分間で20%)活性化することができ(図15b)、これらの細胞中のMAPKシグナル伝達経路の全体的な欠陥のないことを示した。さらに、ERK1/2をリン酸化し活性化するキナーゼであるMek1もまた、ER-α36でトランスフェクトした細胞中でE2βに応答して活性化される(図15a)。膜性のエストロゲンシグナル伝達によるERK1/2の活性化の証拠をさらに提供するために、ER-α36でトランスフェクトした細胞をE2βの膜不透過性の形態である、E2β-BSAでも処理した。E2β-BSA処理した細胞においてもERK1/2リン酸化の強力な活性化が観察された(図15a)。
【0136】
ER-α36は、異なるエストロゲン及び抗エストロゲン剤によって刺激されたMAPKシグナル伝達経路の活性化を仲介する。我々は、ER-α36でトランスフェクトした細胞を、エストロン(E1)、17β-エストラジオール(E2β)、17α-エストラジオール(E2α)、エストリオール(E3)、又はエステトロール(E4)でも10分間処理し、E1を除くこれらのエストロゲンがすべてERK1/2リン酸化を非常に類似したレベルで活性化し、ER-α36がこれらのエストロゲンを類似のレベルで認識することかもしれないことを示唆することを発見した(図15c)。そして、我々は、タモキシフェン、4OH-タモキシフェン、ICI-182,780を含む抗エストロゲン剤を実験に含ませ、ER-α36を介するエストロゲンシグナル伝達が抗エストロゲン剤に対して感受性であるか否かを試験した。タモキシフェン、4OH-タモキシフェン、及び純粋な抗エストロゲン剤ICI-182,780は、ER-α36によって仲介されるERK1/2の活性化をブロックしなかった。反対に、その効果はE2βのみによって仲介される効果にくらべてより強力であった(図15c)。ER-α36でトランスフェクトした細胞を、ER-α66及びβの両方を鈍らせることのできる濃度である1μMのタモキシフェンのみで処理した場合、8時間よりも長く続いた強力かつ持続的なERK1/2活性化を観察した(図15d)。しかしながら、同じ濃度のタモキシフェンは、空の発現ベクターでトランスフェクトした対照293細胞に何の効果も有さなかった。
【0137】
ER-α36はE2-刺激による細胞増殖を仲介する。さらに、エストロゲンにより活性化されたER-α36を介するMAPK経路が細胞核における転写シグナル伝達に導くことができるか否かを決定するために、我々は膜性のエストロゲンシグナル伝達が、MAPK/ERKシグナル伝達経路の下流のエフェクターである転写因子Elkを活性化する能力を調べた。我々は、ヒトElk1のERK応答性のトランス活性化ドメインに融合した酵母転写因子GAL4のDNA結合ドメインからなるERK応答性のGAL-Elkキメラ転写因子によって、ER-α36を発現する293細胞を一過性にトランスフェクトし、E2βの存在下におけるGAL-4結合レポーター遺伝子の発現に対するインビボでの活性を測定した。レポーター遺伝子は、5つのGal4 DNA結合部位を含むルシフェラーゼレポータープラスミドである、5X Gal4-LUCである。細菌のβガラクトシダーゼ発現ベクターを使用してトランスフェクション効率を制御した。トランスフェクション後、36時間エストロゲンを含まない培地中に培養細胞を維持した後、12時間E2β(10nM)を加えた。標準偏差を伴うルシフェラーゼ活性は、二連で実施した3つ以上の試験を代表するものである。ER-α36でトランスフェクトした細胞のエストロゲン処理は、Elk/Gal4融合タンパク質を介するレポーターのトランス活性化を2倍増加させるが、E2βは空のベクターでトランスフェクトした対照細胞におけるElk/Gal4融合タンパク質の転写活性に影響しなかった(図16a)。
【0138】
我々は次に、ER-α36がエストロゲン刺激による細胞増殖を仲介することができるか否かに取り組んだ。ER-α36でトランスフェクトした細胞及び対照細胞のE2βの存在下及び非存在化での増殖をMTTアッセイによって評価した。ER-α36でトランスフェクトした細胞の増殖は、E2β処理によって刺激されたが、一方、E2βは空の発現ベクターでトランスフェクトした対照細胞の増殖には効果を有さなかった(図16b)。タモキシフェン及び4OH-タモキシフェンを含む抗エストロゲン剤を含ませることは、E2β刺激による細胞増殖をブロックしなかった(図16b)。タモキシフェン又は4OH-タモキシフェンのみではER-α36でトランスフェクトした細胞の増殖を強力に刺激した。しかしながら、MAPK経路の特異的阻害剤であるUO126はE2β刺激による細胞増殖を強力に阻害した。これらのデータは、ER-α36を介する膜のエストロゲンシグナル伝達がMAPK/EPKシグナル伝達経路の活性化を通じて細胞増殖を刺激することを示唆している。データは、抗エストロゲン剤もER-α36を通じて細胞増殖を刺激することを示唆している。
【0139】
ER-α36は、主に膜に基づくエストロゲン受容体である。さらにER-α36を特徴づけするために、我々はER-α36に特有のER-α36のC-末端領域における15アミノ酸に対する抗ER-α36ポリクローナル抗体の開発に成功した。抗体を産生するために使用した合成ペプチドのアフィニティーカラムを抗体を精製するために使用した。正常な乳房上皮細胞及びこの抗体を用いて確立された乳癌細胞株から調製したタンパク質のウエスタンブロット分析は、いくつかの乳癌細胞において37kDaの分子量の単一のタンパク質バンドを示したが、正常な乳房上皮細胞では示さなかった(図17a)。ER-α36は、3つの周知なER-α66陰性乳癌細胞株、MDA-MB-231、MDA-MB-436及びHB3396細胞、において発現され、ER-α66陽性乳癌細胞ではMCF7で発現したが、T47Dでは発現せず(図17a)、ER-α36がER-α66陰性乳癌細胞中で発現するという、我々のノーザンブロットデータと一致した。ER-α36がER-α66陰性乳癌細胞において発現する可能性をさらに評価するために、透過処理したMDA-MA-231細胞における、抗−ER-α36特異的抗体を用いる間接免疫蛍光アッセイ及び共焦点顕微鏡観察は、ER-α36がER-α66陰性乳癌細胞、MDA-MB-231、の細胞膜上、細胞質及び核で発現することを示した。
【0140】
細胞中のER-α36の区画化をさらに評価するために、細胞成分分画アッセイを実施して、ER-α36で形質転換したHEK293細胞から核、細胞膜、及びサイトソルを単離した。ER-α36を異なる分画から免疫検出によって同定した。高パーセンテージ(約50%)のER-α36は細胞膜上に局在し、その低パーセンテージはサイトソル(約40%)及び核(約10%)に局在した。異なる分画の相互汚染を排除するために、分画の純度をmSin3A(核)、GDP解離阻害剤(サイトソル)、5’ヌクレオチダーゼ(細胞膜)、及びβ-COP(ゴルジ体)を含む異なるマーカータンパク質を用いるウエスタンブロット分析によって試験した。これらの結果は、異なる分画の間で汚染のないことを確認した。この実験は、ER-α36が主に膜に基づくエストロゲン受容体であることを確立した(図17b)。
【0141】
ER-α36は、ER-α66陰性乳癌検体において発現する。ER-α36のヒト乳癌に対する関連性をさらに決定するために、我々はヒト乳癌検体におけるER-α36発現パターンを、特異的な抗-ER-α36抗体を用いる免疫病理学アッセイによって調べた。ヒト乳房組織のインサイチュ分析は、乳癌におけるER-α36の上方制御を示した。ヘマトキシリンで、ER-タンパク質陽性の細胞は茶色に染色し、核は青く染色した。試験した35例の乳癌検体のうち、21例(60%)はER-α36陽性に染色し、21例(60%)はER-α66陽性であった(表2)。我々のノーザン及びウエスタンブロット分析と一致して、ER-α66陰性に染色した14のうち11(78%)の乳癌検体は、ER-α36陽性に染色し、ほとんどのER-陰性(すなわち、ER-α66陰性)乳癌がなおER-α36を発現することを示した。ヒト乳管癌中に見出された正常切片におけるER-α36のインサイチュ染色は、ER-α36が管腔上皮細胞中においてのみ発現し、そして主に細胞質及び細胞膜に局在することを示した。腫瘍切片はヒト浸潤性乳管癌及び侵入性乳管癌由来であった。21例すべてのER-α36陽性検体は、主に核が染色するER-α66とは逆に、主に細胞核の外でER-α36免疫染色パターンを示した。ER-α66のように、隣接する正常組織中のいくつかの管腔上皮細胞もER-α36陽性に染色した。これらの結果は、ER-α66と同様に、試験したヒト乳癌の3分の2においてER-α36が発現することを実証し、そしてER-α36がER-α66陰性乳癌の発生に関与するかもしれないことを示唆する。
【0142】
【表4】
【0143】
この研究において、ER-αの新規な変異体、ER-α36を同定し、クローン化し、そして特徴づけした。このER-αアイソフォームは、ER-α66遺伝子の第一イントロン中の先に同定されなかったプロモーターから始まる転写の産物である。ER-α36の仮定のプロモーター領域は、ER-α36cDNA開始部位の上流のTATA結合タンパク質(TBP)認識配列、及びいくつかのSp1、NF-κB、及びAp1結合部位を含む(図12)。我々は、ER-α36の5’フランキング領域をクローン化し、そしてそれが強力なプロモーター活性を有することを確認した。さらに、完全な半ERE部位が、ER-α36の5’フランキング領域において同定され、ER-α36がERを介する転写調節に供されることを示唆した。
【0144】
ER-α36タンパク質は、ER-α66遺伝子のエキソン2〜6によりコードされるER-α66タンパク質と同一である。このアイソフォームは、トランス活性化活性を有することが先に同定されたドメイン、AF-1及び-2を欠く。実際に、ER-α36トランス活性化活性の分析は、ER-α36が内因性の転写活性を欠くことを実証した。しかしながら、ER-α36は、リガンド結合した、およびリガンド結合しないER-α66及び-βのAF-1及び-2ドメインによって仲介されるトランス活性化活性を効率よく抑制し、ER-α36がゲノムのエストロゲンシグナル伝達の強力な阻害剤であることを示す。この発見は、AF-1ドメインを欠くER-α46が、ER-α66のAF-1活性を抑制する強力な競合剤として機能するという先の報告と対応する。
【0145】
迅速なエストロゲンシグナル伝達の引き金となる、細胞膜に基づくERの存在は、長い間、議論の余地のあるものであり、それは、この受容体の分子的アイデンティティーが確立されていなかったからである。先に、Razandi はER-α66及び-βの両方が膜エストロゲンシグナル伝達を開始することができるが、それらの非常にわずかなパーセンテージが細胞表面上に発現する(Razandi et al., Mol. Endocrinol., 13, 306-319(1999))、と報告されたトランスフェクションアッセイを用いて、これらのERが、ゲノムのエストロゲンシグナル伝達におけるそれらの伝統的な役割に加えて、膜性のエストロゲンシグナル伝達に関与するかも知れないことを示唆した。近年、ER-αの46kDaアイソフォームは細胞表面上に局在化され、そしてエストロゲン刺激によるeNOSリン酸化を仲介することが発見された(Li et al., Pro. Natl.Acadl Sci.USA,100、4807〜4812(2003))。ここで、我々は、他のER-α変異体、ER-α36が主に細胞膜上に局在化し、そして、膜性のエストロゲンシグナル伝達によって誘導されるMAPK/ERK経路の活性化を仲介することを実証した。さらに、ER-α36が内因性トランス活性化活性を完全に欠き、ゲノムのエストロゲンシグナル伝達のレギュレーターとしてのみ機能するため、ER-α36は主に膜に基づくエストロゲン受容体として作用し、膜を介するエストロゲンシグナル伝達を仲介する。先に、いくつかのE2βにより仲介される迅速な作用がER-α遺伝子ノックアウト(aERKO)マウスのニューロンにおいて発生し、そしてこれらの作用がICI182,780によってブロックされない(Gu et al., Endocrinology, 140, 660-666(1999))ことが報告され、1つ超の膜性のエストロゲンシグナル伝達経路の存在を示唆した。我々は、ここで、抗エストロゲン剤がER-α36により仲介されるMAPK/ERK活性化をブロックせず、ER-α36が、先に記載された抗エストロゲン剤非感受性シグナル伝達経路に関与することを示唆した。αERKOマウスが、マウスER-α遺伝子の最初のコードエキソン(ER-α36の転写物の生成において読み飛ばされるエキソン)の挿入による破壊によって作製されたため、ER-α36のマウス対応物の生成は、これらのノックアウトマウスにおいては正常のままである可能性がある。したがって、ER-α36は、これらのマウスにおいて観察されるエストロゲンの残りの効果に寄与するかもしれない。最近、Toran-Allerandらは、細胞膜に結合した、分子量63〜65kDaと推定される新規なエストロゲン受容体(ER-X)の存在を報告した(J. Neuroscience 22, 8391-8401(2002))。ER-Xは、ER-α66のリガンド結合ドメインに対する抗体と反応し、そしてE2α及びβの両方に等しくよく応答するなど、ER-α36とのいくつかの類似性を示す。しかしながら、これらの2つの受容体の分子的アイデンティティーは、ER-Xのクローニング及び配列決定を待つ。
【0146】
我々は、エストロゲン刺激による細胞増殖に導くMAPK/ERK経路の膜性の活性化をER-α36が促進することも示した。したがって、内因性の転写活性を欠くER-α36は、エストロゲン刺激による細胞増殖の促進に十分であり、ER-α66の転写不活性な変異体がDNA合成を誘導するという先の報告への支持を提供するものである。これらのデータは一緒に、ERの転写活性がエストロゲン刺激による細胞増殖の促進に必要でないかもしれないことを示唆する。驚くべきことに、我々は、タモキシフェンなどの抗エストロゲン剤がMAPK/ERKシグナル伝達を強力に活性化し、実験期間(48時間)の間、細胞増殖を刺激したことも観察した。この発見は、タモキシフェンがエストロゲンシグナル伝達のアゴニスト及びアンタゴニストの両方として機能するという考えとよく一致し、そして、ER-α36が膜性の抗エストロゲン剤シグナル伝達にも関与するかもしれないと示唆する。
【0147】
ER-α66陽性表現型の乳癌細胞(ER-陽性乳癌)が、ER-α-陰性腫瘍に比べて、より分化し、そしてより低い転移能を有することは周知である(McGuire, W.L. Prognostic factors in primary breast cancer. Cancer Surv. 5, 527-536(1986))。ER-α36がER-α66陽性乳癌のサブセットのみでなく、試験したほとんどのER-α66陰性乳癌においても発現されることは興味深い。これらの結果を実証して、エストロゲンアンタゴニストによってブロックされることのできないMDA-MB-231細胞におけるPI3K/Akt経路の迅速な活性化を、エストロゲンシグナル伝達が誘導したことが報告され(Tsai et al., Cancer Res., 61, 8390-8392(2001))、これはER-非依存性の経路を通じたエストロゲンシグナル伝達として説明された。高濃度のタモキシフェンも、MDA-MB-231細胞においてアポトーシスを誘導することが示された(Mandleker et al., Apoptosis 6, 469-477(2001))。これらのデータは、ER-α66-陰性乳癌がなお、膜性のシグナル伝達により仲介されるエストロゲン又は抗エストロゲン効果を保持するかもしれないことを強力に示唆する。
【0148】
ER-α36はまた、ER-α66中の12のヘリックスの最後の5つのヘリックス(ヘリックス8〜12)を、特有の27アミノ酸ドメインで置換することによる特有のリガンド結合ドメインを有し、これはER-α36のリガンド結合特異性及び親和性を変化させることができる。実際に、我々は、ER-α36がE2α及びβ、E3及びE4に対して等しくよく応答して、膜性のシグナル伝達を引き出すことを発見した。したがって、ER-α36は、ER-α66に比べてかなり広いリガンド結合スペクトルを有するようであり、これはER-α36を分裂促進的なシグナル伝達の潜在的により強力なメディエーターとする。ER-α36のリガンド結合特異性及び親和性のさらなる分析は、ER-α陰性(すなわち、ER-α66-陰性)の乳癌を治療するために使用されることのできるER-α36に特異的な抗エストロゲン剤の設計を助けるであろう。
【0149】
実施例4 E2βがソフト寒天中のER-α66陰性MDA-MB-231細胞の増殖を促進する
E2β及びタモキシフェンの一緒の又は別々の、存在下及び非存在下でのソフト寒天中での足場非依存性の増殖を決定するために、500個のMDA-MB-231細胞を、フェノールレッドを含まないDMEM/F12培地+E2を含まないウシ胎児血清10%を含む3.5%(重量/体積)寒天の3ml中に懸濁した。そして、5つのレプリカ60mm皿中のフェノールレッドを含まないDMEM/F12培地+E2を含まないウシ胎児血清10%を含む、0.7%(重量/体積)寒天上を細胞で覆った。ソフト寒天上の細胞を1nM E2βを含むか又は含まない培地+E2を含まないウシ胎児血清10%或いはこれと1nMタモキシフェンを併合したもので覆った。3週間後、倒立顕微鏡を用いてコロニーを数えた。図18に見られるように、我々は、E2処理が、ER-α66陰性MDA-MB-231細胞のソフト寒天中での足場非依存性の増殖を強力に促進したが、抗エストロゲン剤であるタモキシフェンはE2βの効果を阻害し、ER-α66陰性MDA-MB-231細胞がおそらくEr-α36を通じてエストロゲンシグナル伝達に対する応答性を保持することを示したことを発見した。
【0150】
実施例5 E2βがER-α66陰性MDA-MB-231細胞における膜性のエストロゲンシグナル伝達を誘導する
E2βが、ER-α66陰性MDA-MB-231における膜性のエストロゲンシグナル伝達を誘導するか否かを決定するために、血清不足のMDA-MB-231細胞を1nM E2βで異なる時間の間処理した。ウエスタンブロット分析のために、細胞をRIPA緩衝液で破壊し、ゲル負荷緩衝液中で煮沸し、そして10%SDS-PAGEゲル上で分離した。電気泳動後、タンパク質をPVDF膜(Millipore)に移した。フィルターをERK1/2に対する抗体(K-23)(Santa Cruz Biotechnology)又はERK1/2のリン酸化形態に対する抗体(Cell Signaling Technology)でプローブした。図19に見られるように、MDA-MB-231細胞のエストラジオール−17β(E2β)処理はERK1/2の急速なリン酸化を誘導した。これらのデータは、ER-α66陰性MDA-MB-231細胞においてE2βがMAPK経路の活性化を刺激することを強力に示唆する。
【0151】
すべての刊行物、特許及び特許出願は、参考文献として本明細書中に援用される。上記の明細書において本発明がその一定の好ましい実施態様に関連して記載され、多くの詳細が例示の目的でしめされた一方、当業者には、本発明にさらなる実施態様の余地があり、本明細書に記載の詳細のあるものは本発明の基本原理を離れることなくかなり変更されてよいことは明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1は、ヒトエストロゲン受容体−アルファ(ER-α)アイソフォームのドメイン構造を表したものを図示する。(A〜Fで標識された)ドメイン、アミノ酸配列番号付け、AF-1及びAF-2、DNA結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、及び二量体化ドメインが示される。各ドメインのリン酸化部位及び機能も示される。
【図2】図2は、ER-αの膜及びゲノムのシグナル伝達経路間の可能なクロストークを模式的に示す。Cav-1はカベオリンー1を表し、ER-αはエストロゲン受容体−アルファを表し;RTKは受容体チロシンキナーゼを表し;RasはRas癌遺伝子を表し;Mekは、MAP/ERKキナーゼを表し;MAPKはマイトゲン活性化プロテインキナーゼを表し;PI3Kは、ホスホイノシトール−トリホスフェートキナーゼを表し;AKTはプロテインキナーゼ13を表し;PDK1は、ホスホイノシトール依存性プロテインキナーゼを表し;RSKは、p90リボソームS6キナーゼを表す。
【図3】図3は、pRET感染したMCF10A細胞がエストラジオール(E2)存在下のソフト寒天中で大きなコロニーに増殖することを示す写真である。ST1クローンは、E2含有ソフト寒天中で増殖の促進を示した。MCF7及びMCF10A細胞は、それぞれ、陽性及び陰性対照として含まれる。
【図4】図4は、pRET感染したMCF10A細胞におけるカベオリンー1(Cav-1)発現の下方制御を示すウエスタンブロットである。様々な細胞株からの等量の全細胞抽出物を、抗−Cav-1ウサギ抗体(N20)を用いるウエスタンブロットによって分析した。Cav-1の位置を矢印で示し、各レーンにおける分析された細胞抽出物を各レーンの上部に示した。
【図5】図5は、pRET感染したMCF10A細胞におけるER-αの発現の上方制御を示すウエスタンブロットである。様々な細胞株からの等量の全細胞抽出物を、ER-α(H222)及びER-βに対する抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。ER-α及びER-βの位置を矢印で示し、各レーンにおける分析された細胞抽出物を各レーンの上部に示した。
【図6】図6は、pRET感染したMCF10A細胞におけるERK1/2リン酸化の活性化を示すウエスタンブロットである。上記細胞株からの等量の全細胞抽出物を、ERK1/2及びリン酸化ERK1/2に対する抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。
【図7】図7は、Cav-1ハプロ不全細胞、ST1及びST3並びにMCF7乳癌細胞における3つのER-αタンパク質の存在を示すウエスタンブロットである。上記細胞株からの等量の全細胞抽出物を、ER-αに対するH222抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。ER-α66、ER-α46及びER-α36の位置を矢印で示し、各レーンにおける分析された細胞抽出物を各レーンの上部に示した。
【図8】図8は、ヒトER-α遺伝子のゲノム構造を示す。複数のプロモーターの位置を矢印で示す。翻訳開始及び停止部位をAUG及びUGAで示す。エキソンを番号のついた四角で示す。イントロン1もエキソン1’とともに四角中に示す。下のパネルは、ER-αアイソフォームのmRNA構造を示す。ポリA部位はAAAで示す。
【図9】図9は、ER-α36のオープンリーディングフレームをコードするcDNAのPCRによる単離を示すアガロースゲルの写真である。ゲル中のcDNAの位置を矢印で示す。
【図10】図10は、ER-α36オープンリーディングフレームの予測されたアミノ酸配列を示す。アミノ酸位置を、アミノ酸配列(配列番号20)の左側上の数字によって示す。ER-α36に特有の最後の27アミノ酸に下線を引く。
【図11】図11は、ER-α66、ER-α46及びER-α36のウエスタンブロット分析を示す。ER-α66、ER-α46及びER-α36とマークしたレーンは、示したエストロゲン受容体アイソフォームをコードする発現プラスミドでトランスフェクトしたHEK293細胞の別々の培養であり、トランスフェクトした2日後に溶解させた。各トランスフェクタントのライセートを抗−ER-α抗体(H222)で免疫検出した。MCF7細胞からの細胞抽出物を陽性対照として使用した。ER-α66、ER-α46及びER-α36の位置は矢印で示した。
【図12】図12は、(a)ER-α36プロモーターを含む、ER-α36をコードする遺伝子の5’フランキング配列(配列番号22)のDNA配列及び(b)エキソン9によりコードされるヌクレオチドを含む、ER-α36をコードする3’フランキング配列(配列番号25)のDNA配列を示す。5’フランキング配列においては、仮定の転写結合部位に下線をひき、核酸配列に結合するタンパク質もまた示す。cDNAの開始部位もまた矢印で示す。
【図13】図13は、異なる乳癌細胞、MCF10A、T47D、MCF7、及びMDA-MB-231中のER-α36のノーザンブロット分析を示す。ER-α36及びアクチンの位置を矢印で示す。
【図14】図14は、ER-α66及びER-βのAF-1及びAF-2ドメインによって仲介される転写トランス活性化活性のER-α36による阻害を示す。(+E2)、E2処理した細胞;(−E2)、E2処理しない細胞。
【図15a】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜性のMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(a)ウエスタンブロットは、エストラジオール-17β(E2β)によるER36−293細胞の処理がMek1/2及びERK1/2それぞれの急速なリン酸化を誘導することを示す。P-Mek1/2及びP-ERK1/2、それぞれ、Mek1/2及びERK1/2のリン酸化形態。
【図15b】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜性のMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(b)E2βではなく、血清が対照ベクター-293細胞におけるERK1/2のリン酸化を誘導する。P-ERK1/2、ERK1/2のリン酸化形態。
【図15c】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜性のMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(c)異なるエストロゲン及び抗エストロゲン剤が、ER36-293細胞におけるERK1/2の急速なリン酸化を誘導する。P-ERK1/2、ERK1/2のリン酸化形態。
【図15d】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜を介するMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(d)タモキシフェン処理が、ER36-293細胞におけるERK1/2のリン酸化を恒常的に刺激する。P-ERK1/2、ERK1/2のリン酸化形態。
【図16a】図16は、ER-α36が、E2βにより誘導されたMAPKキナーゼ核シグナル伝達を仲介し、そして細胞増殖を刺激することを示す。(a)E2βのMAPKキナーゼ核シグナル伝達に対する効果。ER36-293及び対照ベクター-293細胞を一過性に5X Gal4-LUC,5つのGal4 DNA結合部位を含むルシフェラーゼレポータープラスミド及びGal4 DNA結合ドメインと融合されたELK転写活性化ドメインを含むGal-ELK発現ベクターでトランスフェクトした(上のパネル)。トランスフェクト後、培養細胞をエストロゲンを含まない培地中で36時間、12時間E2β(1nM又は10nM)を加える前に保持した。標準偏差を伴うルシフェラーゼ活性は、二連で実施した3つを超える実験を代表する。
【図16b】図16は、ER-α36が、E2βにより誘導されたMAPKキナーゼ核シグナル伝達を仲介し、そして細胞増殖を刺激することを示す。(b)E2β及び抗エストロゲン剤がER36-293細胞の増殖を刺激する。490nmにおける吸収データを示す。5つ以上の独立した実験の結果を平均し;平均及びSEMを示す。これらの結果の統計学的有意性も対のt−検定によって評価した。ER36-293及びベクター-293細胞についてのP値は0.001未満であった。
【図17a】図17は、ER-α36が主に膜に基づくエストロゲン受容体であることを示す。(a)異なる確立された乳癌細胞株におけるER-α36の発現のウエスタンブロット分析。同じブロットをはがし、抗-アクチン抗体でプローブして等しい負荷であることを確認した。
【図17b】図17は、ER-α36が主に膜に基づくエストロゲン受容体であることを示す。(b)ER-α36でトランスフェクトした293細胞におけるER-α36の細胞内位置。異なる細胞内分画中のER-α36のER-α36特異的抗体によるイムノブロット。W、全細胞ライセート;PM、細胞膜;C、サイトソル;N、核。細胞内分画の純度を、細胞膜、サイトソル、核及びゴルジ体のための多様なタンパク質マーカーでイムノブロットすることによって試験した。5'NT、5’ヌクレオチダーゼ;D4-GDI、GDP解離阻害剤;mSin3A、ヒストンリモデリング複合体の成分;COPB、βコートタンパク質。
【図18】図18は、E2βがER-α66陰性乳癌細胞、MDA-MB-231のソフト寒天中での増殖を促進することを示す。MDA-MB-231細胞をE2βの非存在下(0)、及び10nMのE2β(E2)、10nMのE2β及び10nMタモキシフェン(E2+TAM)並びに10nMのタモキシフェンのみ(TAM)の存在下で3週間増殖させた。
【図19】図19は、E2βが、ER-α66陰性乳癌細胞MDA-MB-231における膜性のエストロゲンシグナル伝達を誘導することを示す。MDA-MB-231のエストラジオール17β(E2β)による処理は、ERK1/2の急速なリン酸化を誘導した。細胞をE2β(10nM)で異なる時間の間処理し、溶解し、そして、リン酸化依存性及び非依存性の抗体を用いてウエスタンブロットで分析した。
【背景技術】
【0001】
継続出願のデータ
本出願は、それぞれが参考文献として本明細書中に援用されている、2004年3月10日に出願された米国仮特許出願番号第60/552,067号、及び2005年1月13日に出願された同第60/643,469号に基く利益を請求する。
【0002】
政府補助金
本明細書中に記載された発明は、許可番号CA84328のもとに保健・福祉省からの援助によってなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
エストロゲンは、卵巣、精巣、そしておそらく副腎皮質において形成されるステロイド化合物の一般名称である。エストロゲン類及びエストロゲン活性を有する化合物の例は、ジエチルスチルベストロール、ホスフェストロール、ヘキセストロール、ポリエストラジオールホスフェート、ブロパロエストロール、クロロトリアニセン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、メテストロール、コルポルモン、エキレニン、エキリン、エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メストラノール、メキセストロール、キネストラジオール、及びキネストロールを含む。エストロゲン類は、生殖組織、乳腺、循環器、骨、肝臓、及び脳の組織において多様な生理学的プロセスを制御する。エストロゲン類は、また、経口避妊薬としても使用される。エストロゲン類の他の用途は、更年期の不快感の軽減、乳汁分泌の阻害、並びに骨粗鬆症、切迫流産及び様々な卵巣機能障害の治療を含む。抗エストロゲン剤は、転移性乳癌及び進行性前立腺癌の治療に使用される。
【0004】
エストロゲンの効果は、エストロゲン受容体を介する。最初のエストロゲン受容体(ER)は、1986年にクローン化された(Green et al., Nature, 320:134 (1986)及びGreene et. al., Science, 231:1150(1986))。1995年まで、天然及び合成エストロゲン及び抗エストロゲン剤のすべての生理学的及び薬理学的効果の原因であるエストロゲン受容体はただ1つであると予測されていた。しかしながら、1995年に第2のエストロゲン受容体がクローン化された(Kuiper et. al., PNAS, 93:5925 (1996))。最初に発見されたエストロゲン受容体は、今はエストロゲン受容体−アルファ(ER-α)、そして第2のエストロゲン受容体はエストロゲン受容体−ベータ(ER-β)と呼ばれている。
【0005】
ER-α及びER-βは、共通の構造を有している(Zhang et. al., FEBS Letters, 546:17(2003)及びKong et. al., Biochem. Soc. Trans., 31:56(2003))。両者は3つの独立した、しかし相互作用する機能的ドメイン:N-末端A/Bドメイン、C又はDNA結合ドメイン、及びD/E/F又はリガンド結合ドメインからなる(図1)。ER-αのN末端ドメインは、リガンド非依存性活性化機能(AF-1)、活性化補助因子との相互作用及び標的遺伝子の転写活性化に関与する領域をコードしている。DNA結合ドメイン又はCドメインは、2つのジンクフィンガー構造を有し、これは受容体の二量体化及び特異的DNA配列に対する結合に重要な役割を演じている。C−末端D/E/Fドメインは、リガンドの結合、受容体の二量体化、核転位、及びリガンド依存性のトランス活性化機能(AF-2)を仲介するリガンド結合ドメインである。AF-1及びAF-2の両方が転写制御に及ぼす相対的な貢献は、細胞特異的及びDNAプロモーター特異的に異なる(Berry et. al., EMBO J., 9:2811 (1990)及びTzukerman et. al., Mol. Endocrin., 8:21 (1994))。
【0006】
ER-α遺伝子の完全長遺伝子産物の最初の173アミノ酸(A/B又はAF-1ドメイン)を欠く、46kDaのER-αアイソフォームは、エキソン1を除くことによるER-α遺伝子のオルタナティブスプライシングに由来することが示された(Flouriot et.al., EMBO J., 19:4688(2000))。このオルタナティブスプライシング事象は、好ましいコザック配列中のフレーム内翻訳開始のためのAUGを本来のオープンリーディングフレームの残りとともに有するmRNAを生成する。したがって、ER-αのこの新しいアイソフォームは、ER-α46と名づけられ、そして本来のものはER-α66と名づけられた(Flouriot et. al., EMBO J., 19:4688 (2000))。ER-α46は、ホモダイマーを形成し、そしてエストロゲン応答要素(ERE)に結合し、そしてそれはER-α66とヘテロダイマーを形成することもできる(Flouriot et. al., EMBO J., 19:4688 (2000))。ER-α46ホモダイマーは、ER-α66ホモダイマーよりもEREに対して高い親和性を示す。さらに、ER-α46/66へテロダイマーは、ER-α66ホモダイマーよりも優先的に形成し、そしてER-α46はリガンド結合したER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるトランス活性化を競合的に阻害するが、AF-2依存性のトランス活性化には影響しない(Flouriot et. al., EMBO J., 19:4688 (2000))。したがって、ER-α46は、ER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるエストロゲンシグナル伝達を制御するER-αの天然のアイソフォームであると考えられる。
【0007】
ER-αは、管腔の上皮細胞のおよそ15〜30%において発現され、そして正常なヒト乳房における他の細胞タイプのいずれにおいても全く発現されない。二重標識免疫蛍光技術は、ER-α-発現細胞が正常なヒト及びげっ歯類乳腺のいずれにおいても増殖マーカーで標識されたものから離れていることを明らかにした(Clarake et. al., Cancer Res., 57:4987(1997))。ER-αの発現は、非定型性の乳管壁の肥厚及びインサイチュの低度〜中度の核グレードの乳管癌のほとんどの細胞がER-αを含むように、乳管壁の肥厚の極めて初期の段階において増加し、非定型性が高まるほど増加する(Khan et . al., Cancer Res., 54:993(1994)及びLawson et. al., Lancet, 351:1787(1994))。ER-αの発現が増加すると、受容体発現と細胞増殖の間の逆相関は調節不全となる(Shoker et. al., Amer. Jour. Path., 155:1811(1999)。)侵潤性乳癌の約70%がER-αを発現し、そしてこれらの腫瘍のほとんどがER-α陽性の増殖細胞を含む(Clarke et. al., Cancer Res., 57:4987(1997)。)
【0008】
エストロゲン受容体は、多数の生理学的プロセスを制御する、リガンドにより活性化された転写因子の核受容体スーパーファミリーのメンバーである。この制御はしばしば遺伝子転写の制御を通して起こる(Katzenellenbogen and Katzenellenbogen, Breast Cancer Res., 2:335(2000);Hull et al., J. Biol. Chem., 276:36869(2001);McDonnell and Norris, Science, 296:1642(2002))。エストロゲン受容体はその標的遺伝子の転写を活性化するか又は抑制するために複数のメカニズムを利用する。これらのメカニズムは、以下の:(a)転写補調節因子又はメディエーター複合体の補充がその後に続く、エストロゲン応答要素におけるリガンド被占受容体とDNAとの直接相互作用、(b)リガンド被占ERとAP−1(Kushner et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 74:311(2000))、Sp1(Safe, Vitam. Horm. 62:231(2001))若しくはNF-κB(McKay and Cidlowski, Endocr. Rev., 20:435(1999))などの他の転写因子との相互作用、又は(c)一般的/共通の転写構成要素の隔離を介する遺伝子転写の間接的調節(Harnish et al., Endocrinology, 141:3403(2000)及びSpeir et al., Circ. Res., 87:1006(2000))を含む。さらに、これらの多様なメカニズムを介して転写を調節するエストロゲン受容体の能力は、細胞タイプに特異的であるように見え、おそらく各細胞タイプにおいて利用可能な転写補調節因子の補体における相違によるものであろう(Cerillo et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 67:79(1998);Evans et al., Circ. Res., 89:823(2001);Maret et al., Endocrinology, 140:2876(1999))。また、転写調節は、エストロゲン受容体アゴニスト又はアンタゴニストのいずれかとして作用する多様な天然及び合成の選択的エストロゲン受容体調節剤とともにリガンドの性質に依存する(Shang and Brown, Science, 295:2380(2002);Katzenellenbogen and Katzenellenbogen, Science, 295:2465(2002);Margeat et. al., J. Mol. Biol., 326:77(2003);Dang et al, J. Biol. Chem., 278:962(2003))。
【0009】
「非古典的」、「非ゲノム」又は「膜シグナル伝達」経路としても知られるエストロゲンによって仲介される他のシグナル伝達経路が存在し、細胞質たんぱく質、成長因子及び他の膜性のシグナル伝達経路を含む(Segars et. al., Trends Endocrin. Met., 13:349(2002))。いくつかの細胞内シグナル伝達経路:アデニレートシクラーゼ経路(Aronica et al., PNAS, 91:8517(1994))、ホスホリパーゼC経路(Le Mellay et.al., J.Cell.Biochem., 75:138(1999))、G-タンパク質共役型受容体により活性化される経路(Razandi et al., Mol. Endocrin., 13:307(1999))及びマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路(Watters et. al., Endocrinology, 138:4030(1997))が、エストロゲン性の迅速な効果とクロストークすることが示された。しかしながら、これまで記載されたすべての膜形態がER-βでなくER-αに関連している(Segars et al., Trends Endocrin. Met. 13:349(2002)。
【0010】
エストロゲンシグナル伝達は病理学的に、乳癌及び子宮内膜癌のリスクの増加と関連してきた(Summer and Fuqua, Semin. Cancer Biol., 11:339(2001);Turner et al., Endocr. Rev., 15:275(1994); Farhat et al., FASEB J., 10:615(1996); Beato et al., Cell, 83:851(1995); Dobrzycka et al., Endo. Rel. Cancer, 10:517(2003))。したがって、エストロゲン受容体は、ほとんどのこれらの癌の開始及び発達において必須であることが発見された。エストロゲン受容体陽性の乳癌の最近の内分泌療法は、主としてエストロゲンレベル、エストロゲン受容体レベル、又はエストロゲン及びエストロゲン受容体の活性を標的とするように設計される。初期段階の乳癌の管理における部分的抗エストロゲン剤、タモキシフェンの使用は病気を有さない生存及び全体の生存の両方における増加を明白に実証した。さらに、最近の研究は、タモキシフェンがホルモン依存性の乳癌のための化学予防剤として使用可能であることを実証した。タモキシフェンによる長期の治療に関する主な懸念は、その子宮肥大効果であり、これは子宮内膜癌の増加のリスクそしてタモキシフェンに対する後天的な臨床的耐性を生じる。このことは、多様なエストロゲン応答性標的組織における最適のアゴニスト及びアンタゴニスト活性を示す、より良い選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)の活発な探求に導いた。
【0011】
したがって、必要とされているのは、エストロゲンシグナル伝達を調節する剤のスクリーニングに使用可能なさらなる方法及び材料並びにエストロゲンシグナル伝達の調節に使用可能な方法及び材料である。
【発明の開示】
【0012】
発明の要約
本発明は、配列番号1において示されるアミノ酸配列又はその免疫原性断片、好ましくは配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列に特異的に結合する単離された抗体、を提供する。抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であることができる。場合により、抗体はヒト化抗体である。抗体は、例えば化学療法剤又は蛍光マーカーなどの検出可能なマーカーのような化合物に共有結合で結合されてもよい。抗体は組成物中に存在することができ、そして該組成物は医薬として許容可能な担体を含むことができる。また、本発明の抗体を含むキットも提供される。
【0013】
本発明はまた、抗体の作製方法も提供する。抗体はポリクローナル又はモノクローナルであることができる。該方法は、配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、又はその免疫原性断片、好ましくは配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列、を動物に投与することを含む。該方法はさらに、動物から抗体を単離することを含み、ここで、単離された抗体は上記アミノ酸配列に特異的に結合する。そのポリペプチド又はその免疫原性サブユニットは担体ポリペプチドに共有結合されることができる。単離は、抗体を産生する細胞を動物から得ること及び該細胞を用いてモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することを含んでもよい。本発明はさらに、該方法によって産生されたポリクローナル抗体及び該方法によって産生されたモノクローナル抗体を含む。
【0014】
本発明はまた、外来性のコード領域を含む細胞に向けられ、ここで、該コード領域は配列番号20を含むポリペプチドをコードする。コード領域は配列番号20に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができ、ここで、該ポリペプチドはER-α36活性を有する。コード領域は恒常的プロモーターに作動可能に連結されることができる。細胞は真核細胞又は原核細胞でもよい。本発明により、かかるポリペプチドを発現する細胞も提供される。
【0015】
本発明はさらに、ポリペプチドに結合する剤の同定方法を提供する。該方法は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド及び剤を併合し、そして剤とポリペプチドとの間の複合体の形成を検出し、ポリペプチドの活性変化を検出し、又はそれらの組み合わせを検出することを含む。剤のポリペプチドへの結合は、剤のポリペプチドへの結合を直接検出すること、競合結合アッセイを用いて剤のポリペプチドへの結合を検出すること、又はそれらの組み合わせによって検出されることができる。場合により、該方法は、剤が配列番号18を含むポリペプチドに結合するかどうかを決定することも含む。
【0016】
本発明によって、ポリペプチドの検出方法も提供される。1つの側面において、該方法は細胞を提供し、ER-α36活性及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動後に測定された36kDaの分子量を有するポリペプチドについて該細胞を分析し、そして該細胞が該ポリペプチドを発現するか否かを決定することを含む。細胞はエクスビボ又はインビボであることができる。細胞は例えば、乳房腫瘍細胞などの腫瘍細胞であることができる。分析は、細胞を、配列番号1に示されたアミノ酸配列に特異的に結合する抗体、またはその免疫原性断片と接触させることを含んでもよい。分析は、mRNAポリヌクレオチドを増幅して、増幅されたポリヌクレオチドを形成することを含んでもよい。増幅は、細胞から得られたポリヌクレオチドを、配列番号22又は配列番号25、又はそれらの組み合わせを含むmRNAポリヌクレオチドを増幅させるプライマー対と接触させることを含み、ここで、増幅されたポリヌクレオチドの存在は、細胞がポリペプチドを発現することを示す。プライマー対の1つのプライマーは、配列番号22のヌクレオチド、配列番号25のヌクレオチドに相補的なヌクレオチド、又はそれらの組み合わせから選らばれることができる。
【0017】
本発明はまた、細胞のER-α36活性を阻害する方法を提供する。該方法は、配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現する細胞をER-α36活性を阻害する化合物と接触させることを含む。かかる化合物は配列番号1のアミノ酸13〜27に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合する抗体でもよい。細胞はインビボ又はエクスビボでもよく、そして場合によりER-α66陰性、ER-α46陰性又はそれらの組み合わせでもよい。いくつかの側面においては、該化合物は抗エストロゲン剤ではない。
【0018】
本発明によってさらに提供されるのは、配列番号1の13〜27のアミノ酸に示されたアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであり、好ましくは配列番号1に示されたアミノ酸配列、より好ましくは配列番号20に示されたアミノ酸配列である。他の側面においては、単離されたポリヌクレオチドは配列番号20に対して少なくとも70%の同一性を有し、ここで、該ポリペプチドはER-α36活性を有する。本発明はまた、配列番号1の免疫原性断片を含む。
【0019】
「含む」という用語およびその変形は、説明及び請求項に現れる場合、限定的な意味を持たない。特記されない限り、「a」、「an」、「the」及び「少なくとも1つの」は、相互に交換可能に使用され、1または1超を意味する。
【0020】
本発明の好ましい実施態様の詳細な説明
カベオリン-1(Cav-1)系の下方制御が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路を恒常的に活性化し、エストロゲン受容体−アルファ(ER-α)の発現を活性化し、そして正のエストロゲンシグナル伝達を引き起こすことが発見された。この発見は、最初に、活性化されたMAPKシグナル伝達と乳房の腫瘍形成、特にエストロゲンによって刺激された乳癌の進行の間の明白な関連を提供する。この発見はCav-1が、MAPKとエストロゲンシグナル伝達経路間のクロストークを協調させることによって乳房上皮細胞の正常な増殖の維持における重要な役割をはたし、そしてその下方制御が最終的に乳房の腫瘍形成に導く、これらの2つの重要な経路の調節不全に寄与するかもしれないことを強力に示唆する。エストロゲンシグナル伝達経路及びMAPKシグナル伝達経路の模式図を図2に表す。
【0021】
エストロゲン受容体−アルファアイソフォームもまた同定され、クローン化された。エストロゲン受容体−アルファのこの36−kDaアイソフォーム(ER-α36)はもとの66−kDaのER-α(ER-α66)遺伝子の第一イントロン中に位置するプロモーターから産生される。ER-α36は、ER-α66と異なる。なぜなら、それは両方の転写活性化ドメイン(AF-1及びAF-2)を欠いているが、DNA結合、二量体化及びほとんどのリガンド結合ドメインを保持しているからである。ER-α36の構造は、ER-α36がエストロゲンシグナル伝達の制御因子であることを示す。ER-α36はまた、ER-α36が主に細胞膜上そして細胞質及び核内においても発現されるため、エストロゲンシグナル伝達の膜効果を仲介することができる。
【0022】
ER-βは、ER-α66を介するエストロゲンシグナル伝達の恒常的調節因子として提案された。AF-1ドメインを欠くER-α46がER-α66に二量体化し、ER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるトランス活性化活性を阻害するという発見は、ER-α46がER-α66のAF-1ドメインによって仲介される機能的活性において調節的役割を演じることを示唆する。したがって、ER-α36がER-α66のAF-1及びAF-2の両方によって仲介される生物学的機能と同様にAF-2により仲介されるER-α46の機能も阻害すると考えられる。その両方が異なる組織中で異なるレベルで発現されるかもしれないER-α36及びER-α46によって仲介される調節によって、ER-α66は異なる標的組織において異なって機能するかもしれない。かかるメカニズムは異なる生物学的プロセスにおけるエストロゲンシグナル伝達の多指向性の役割に関する説明を提供すると考えられる。
【0023】
本発明のポリペプチド及びペプチド擬態
本発明はポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって一緒に連結された2つ以上のアミノ酸のポリマーを広くさす。ペプチド、オリゴペプチド、及びタンパク質という用語はすべてポリペプチドの定義に含まれ、これらの用語は相互に交換可能に使用される。これらの用語が特別な長さのアミノ酸のポリマーを内包するのでも、ポリペプチドが組換え技術、化学的又は酵素的合成を用いて産生されるか又は自然に発生するかを暗示又は識別することをそれらが意図するのでもないことは理解されるべきである。本発明の範囲内にあるポリペプチドの多数の例が本明細書中に開示され、そして記載される。自然のポリペプチド又はポリヌクレオチドの場合、かかるポリペプチド又はポリヌクレオチドが単離され、そして場合により精製されることが好ましい。「単離された」ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、その自然の環境から分別された又は分離されたものである。「精製された」ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、それらが自然に結合している他の成分の少なくとも60%、好ましくは75%、そして最も好ましくは90%を含まないものである。化学的又は組換え手段などによって、それらが自然に発生する生体の外で産生されたポリペプチド及びヌクレオチドは当然、単離及び精製されると考えられる。なぜなら、それらは自然の環境中では決して存在しなかったからである。「外因性のポリペプチド」は、外来ポリペプチド、すなわち、通常は細胞中に存在しないポリペプチド又は通常細胞中に存在するが該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの導入などの実験的手順によって細胞中に導入されたポリペプチドをさす。
【0024】
本発明のポリペプチドは生理活性を有することができる。かかる生理活性は本明細書において「ER-α36活性」と呼ばれる。本発明のポリペプチドが生理活性を有するかについて決定するために使用されることのできるバイオアッセイは、このポリペプチドを発現する細胞をエストロゲン又は抗エストロゲン剤と接触させ、そして、本発明のポリペプチドを発現しなかった対照細胞中のMAPK活性に比べた場合、MAPK経路の活性がエストロゲン又は抗エストロゲン剤の存在下で増加又は減少するかを決定することを含む。好ましくは、MAPK活性はERK1/2及びMek1/2のリン酸化であり、好ましくは本発明のポリペプチドによって誘導されたERK1/2のリン酸化は抗エストロゲン剤の存在下で減少しない。好ましくは、ER-α36活性は膜性である。ER-α36活性は、ER-α36活性を有するかもしれないポリペプチドを発現する細胞を異なるリガンドに露出することによって測定されてもよい。使用可能なリガンドの例は、エストロン(E1)、17α-エストラジオール(E2α)、17β-エストラジオール(E2β)、エストリオール(E3)、エステトロール(E4)、又は膜不透過性分子、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、に結合したエストロゲンを含むが、これらに限定されない。一般に、測定されるER-α36活性が膜性ER-α36活性に限定される場合、膜不透過性の分子に結合したエストロゲンが使用される。使用されるエストロゲンの量は変更可能であり、好ましくは1nM及び10nMの間の範囲にある。エストロゲンに露出される細胞は好ましくは静止状態の細胞である。露出は5及び90分の間で起こることができ、細胞はその後溶解され、細胞中に存在するポリペプチドはSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離される。分離されたポリペプチドを膜に移した後、非リン酸化及びリン酸化形態のERK1/2及びMek1/2に対する抗体が、MAPK経路の活性化を評価するために使用される。場合により、タモキシフェン、4OH-タモキシフェン、又はICI-182,780などの抗エストロゲン剤が含められて、ERK1/2のリン酸化が抗エストロゲン剤に対して非感受性であるかが決定されることができる。
【0025】
本発明は、配列番号20に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。このポリペプチド及び本明細書中に記載される関連するポリペプチドもまた、本明細書においてER-α36、ER-α36アイソフォーム、及びER受容体α36−サブユニットと呼ばれる。図1に示すとおり、ER-α36アイソフォームはER-α66アイソフォームと比較すると、アミノ末端のアミノ酸残基1−183、カルボキシル末端のアミノ酸残基430−595を欠き、そしてそのC-末端に27アミノ酸残基の付加を有する(図1を参照のこと)。エストロゲン受容体アルファアイソマーは、ER-α36、ER-α46、ER-α66を含む。エストロゲン受容体ベータアイソマーは、ER-βを含む。本発明はまた、ER-α36アイソフォームを含むエストロゲン受容体も提供する。制限的であることを意図せず、ER-α36アイソフォームは、ER-α66、ER-α46又はER-βとの二量体を形成することによるエストロゲン受容体機能の制御を通じてエストロゲンへの細胞の応答を調節すると考えられる。さらに、ER-α36は、活性化因子1(AF-1)及び活性化因子2(AF-2)活性を欠き、そしてしたがって、内因性の転写活性を欠くと考えられる。しかしながら、ER-α36は、ER-α36がER-α46、ER-α66又はER-βと二量体を形成するのを可能とする、完全な二量体化ドメインを保持すると考えられる。この相互作用は、ER-α36がER-α46、ER-α66及びER-βを含むエストロゲン受容体の活性を調節することを可能とすると考えられる。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
本発明のポリペプチドは、配列番号20に少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。かかるポリペプチドは、配列番号20に対して70%よりも少なくとも1単位パーセント超同一である、例えば、71%、72%、73%同一である、アミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。好ましくは、該ポリペプチドは、好ましさが順番に増す、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約90%の同一性、又は少なくとも約95%の同一性を配列番号20に対して有するアミノ酸配列を有するものを含む。好ましくは、該ポリペプチドは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動後に測定した分子量36kDaを有する。典型的には、ER-α66のリン酸化に関与する残基、例えば、S236、K302、及びK303は、保存され、それらの残基はER-α66のDNA結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、及び二量体化ドメインの機能に関与する。DNA結合、リガンド結合、及び/又は二量体化において機能する残基は本分野で知られている。
【0030】
2つのポリペプチド配列間の同一性パーセントは、一般に、2つのアミノ酸配列の残基を整列化することによって、それらの長さ方向に沿った同一のアミノ酸の数を最適化し;各配列中のアミノ酸がなおその本来の順番のままでなければならないにもかかわらず、一方又は両方の配列中のギャップが、同一のアミノ酸の数を最適化するために整列化において許容されることにより決定される。好ましくは、Tatusova らによって記載され(FEMS Microbiol. Lett., 174, 247-250(1999))、そしてhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/b12seq/bl2.htmlにおける世界的なウエブで利用可能である、BLAST2サーチアルゴリズムのBlastpプログラム、バージョン2.0.9を用いて2つのアミノ酸配列が比較される。好ましくは、マトリックス=BLOSUM62;オープンギャップペナルティー=11、エクステンションギャップペナルティー=1、ギャップx ドロップオフ=50、期待数=10、ワードサイズ=3、及び場合によりフィルターオンを含む、すべてのBLAST2サーチパラメーターのためのデフォルト値が使用される。BLASTサーチアルゴリズムを用いる2つのアミノ酸配列の比較においては、構造的類似性は「同一性」と呼ばれる。
【0031】
ER-α36エストロゲン受容体アイソフォームの断片であるポリペプチドもまた、本発明によって提供される。好ましくは、断片は免疫原性である。いくつかの側面において、断片はER-α36活性を有する。免疫原性断片の例は、配列番号1のアミノ酸13〜27において示されるアミノ酸配列、より好ましくは配列番号1の1〜27である。かかる断片はER-α36エストロゲン受容体アイソフォームに特異的に結合する抗体の調製に有用である。断片の例は、断片が少なくとも5つの近接するアミノ酸、より好ましくは少なくとも7つの近接するアミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも10個の近接するアミノ酸、そして最も好ましくは少なくとも12個の近接する酸アミノ酸を含む限り、N末端又はC末端のいずれか或いは両方において1つ以上のアミノ酸が切断されているエストロゲン受容体アイソフォームを含む。
【0032】
本発明は、本発明のポリペプチドに結合した担体ポリペプチドを有する融合ポリペプチドを提供する。担体ポリペプチドは、融合ポリペプチドの溶解度を増加又は減少させるために使用されることができる。担体ポリペプチドは、融合ポリペプチドの免疫原性を増加させて本発明のポリペプチドに結合する抗体の産生を増加させるためにも使用されることができる。例えば、担体ポリペプチドは本発明のポリペプチドの断片に融合されてER-α36に特異的に結合する抗体の産生を促進することができる。かかる断片の例は、配列番号1のアミノ酸13〜27を有するポリペプチドである。本発明は、本発明の融合ポリペプチドを作製するために使用される担体ポリペプチドのタイプによって制限されない。担体タンパク質の例はキーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、ウサギ血清アルブミンなどを含む。担体ポリペプチドは、融合ポリペプチドの分離又は検出を提供するためにも使用されることができる。かかる担体ポリペプチドの例は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、マルトース−結合タンパク質、キチン−結合タンパク質及び以下のアミノ酸配列:QFFGLM(配列番号2)、EQKLISEEDL(配列番号3)、KAEDESS(配列番号4)、YPYDVPDYA(配列番号5)、DYKDDDDK(配列番号6)、YTDIEMNRLGK(配列番号7)、MASMTGGQQMG(配列番号8)、DTYRYI(配列番号9)、TDFYLK(配列番号10)、HHHHHH(配列番号11)、HPOL(配列番号12)、QYPALT(配列番号13)、QRQYGDVFKGD(配列番号14)、EYMPME(配列番号15)、EFMPME(配列番号16)及びRYIRS(配列番号17)を有するポリペプチドを含む。したがって、融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドの担体ポリペプチド部分に結合する他の成分との相互作用によって検出又は単離されることができる。例えば、アビジンを担体ポリペプチドとして有する融合ポリペプチドは、既知の方法の使用によって、ビオチンを用いて検出又は分離されることができる。担体ポリペプチドはまた、細胞内での発現によって融合ポリペプチドに封入体を形成させることができる。担体ポリペプチドはまた、細胞からの融合ポリペプチドの排出を起こさせるか、又はペリプラズムなどの細胞内コンパートメントへの融合ポリペプチドに導く排出シグナルであることもできる。
【0033】
本発明はまた、単一のアミノ酸鎖に連続的に連結される、本発明の2つ以上のポリペプチドを提供する。かかるポリペプチドは、本明細書中でポリペプチドと呼ばれる。ポリペプチドは、リンカーによって接続されることができる(Stahl et al., 米国特許第6,558,924号)。かかるポリプロテインは、単離され、そして切断されて本発明のポリペプチド又は結合ポリペプチドを産生することができる。ポリプロテインは、化学的切断又はプロテアーゼによる切断などの多くの方法を使用して切断されることができる。したがって、リンカーは特異的なプロテアーゼ又は化学物質によって切断されるように設計されることができる。本発明のポリプロテインを切断するのに使用可能な化合物の例は、化学物質及び酵素を含む。化学物質の例は、臭化シアン、葉酸及び熱、ヒドロキシルアミン及び熱、酢酸中のヨードシル安息香酸−2−(2−ニトロフェニル)−3−メチル−3−ブロモインドール−ナインなどを含む。酵素の例は、Ala-64サブチリシン、クロストリパイン、コラゲナーゼ、エンテロキナーゼ、第Xa因子、レニン、α−トロンビン、トリプシン、キモトリプシン、タバコモザイクウイルスプロテアーゼ、などを含む。ポリプロテインは、本発明のポリペプチドの生産効率を高めるのに使用されることができる。ポリプロテインの製造方法は本分野において知られている(Coolidge et al., 米国特許第6,127,150号を参照のこと)。
【0034】
本発明のポリペプチドは、そのアナログが生理活性を保持又はER-α36に結合する抗体の産生を刺激することができる限り、1つ以上の連続的又は非連続的なアミノ酸の付加、置換、又は除去によって修飾された、或いはレポーター基の結合によって、N-末端、C-末端若しくは他の官能基の修飾若しくは誘導体化によって、又は環化によって化学的又は酵素的に修飾されたアナログを含む。アナログはしたがって、ポリペプチドの片方又は両方の末端における追加のアミノ酸を含む。好ましくは、アナログは免疫原性であり、より好ましくはアナログは免疫原性であり且つER-α36活性を有する。いくつかの側面においては、本発明はアナログでないポリペプチドを提供する。
【0035】
本発明のポリペプチド中のアミノ酸の置換は、好ましくは保存的置換であり、それは該アミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選ばれる。例えば、タンパク質生化学の分野では、特定のサイズ又は(電荷、疎水性及び親水性などの)特性を有するアミノ酸の群に属するアミノ酸が、一般的にポリペプチドの構造を実質的に変更せずに他のアミノ酸に置換可能であることは周知である。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸はアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンを含む。極性の中性アミノ酸は、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンを含む。陽性に荷電した(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジン及びヒスチジンを含む。陰性に荷電した(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。好ましい保存的置換の例は、陽性荷電を維持するためのArgからLysへ及びその逆;陰性荷電を維持するためのAspからGluへ及びその逆;遊離の−OHが維持されるThrからSerへ;及び遊離のNH2を維持するためのAsnからGluへの置換を含む。(3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、ホモシステイン、2−アミノアジピン酸、2−アミノピメリン酸、γ−カルボキシグルタミン酸、β−カルボキシアスパラギン酸、などの)関連するアミノ酸、(オルニチン、ホモアルギニン、N-メチルリジン、ジメチルリジン、トリメチルリジン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,4−ジアミノブチル酸、ホモアルギニン、サルコシン、及びヒドロキシルリジンなどの)アミノ酸アミド、及び置換フェニルアラニン、ノルロイシン、ノルバリン、2−アミノオクタン酸、2−アミノヘプタノイックアシッド、スタチン、β−バリン、ナフチルアラニン、テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸、及びハロゲン化チロシンは類似のアミノ酸に交換されることができる。
【0036】
本発明は、本発明のポリペプチドのペプチド擬態を提供する。ペプチド擬態は、非ペプチド薬物として医薬産業において一般に使用されるような、少なくとも1つのペプチド結合が非ペプチド結合に置換されているポリペプチドであって、テンプレートポリペプチドと類似の性質を有するものをいう(Fauchere, J., Adv. Drug Res., 15: 29(1986), Evans et al., J. Med. Chem., 30:1229(1987), 及びJanda et al., 米国特許第6,664,372号)。ペプチド擬態は、ペプチド結合を有するポリペプチドに構造的に類似するが、本分野で知られた方法によって、任意に--CH2NH--、--CH2S--、--CH2--CH2--、--CH=CH--(シス及びトランス)、--COCH2--、--CH(OH)CH2--、及び--CH2SO--などの連結によって置換される。自然のポリペプチド態様に対するペプチド擬態の利点は、より経済的な生産、より大きな化学的安定性、変更された特異性並びに半減期、吸収、力価及び有効性などの高められた薬理学的性質を含むことができる。
【0037】
ポリペプチド又はペプチド擬態中の1つ以上のアミノ酸の同じタイプのD-アミノ酸による置換(例えば、L-リジンの代わりにD-リジン)は、例えば、内因性プロテアーゼに対してより安定且つより耐性であるポリペプチド及びペプチド擬態を作り出すために使用されることができる。
【0038】
インビボでの分解を減少させるために、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態はアミノ末端及び/またはカルボキシル末端におけるブロッキング剤の付加によってインビボでの使用のために修飾されることができる。これは、ポリペプチド末端がインビボでのプロテアーゼによる分解を受ける傾向にある状況で有用であることができる。かかるブロッキング剤は、本発明のポリペプチド又はペプチド擬態のアミノ及び/又はカルボキシル末端残基に結合されることのできる追加の関連する又は関連しないペプチド配列を含むことができるが、これらに限られない。これは、化学合成の間に、又は当業者が精通した方法による組換えDNA技術によって行われることができる。或いは、ピログルタミン酸などのブロッキング剤又は本分野で知られた他の分子がアミノ及び/またはカルボキシル末端残基に結合されることができ、或いはアミノ末端におけるアミノ基又はカルボキシル末端におけるカルボキシル基が異なる部分に置換されることができる。したがって、本発明は、ブロックされたポリペプチド及びペプチド擬態並びにそのアミノ末端、カルボキシル末端又はそれらの組み合わせを提供する。
【0039】
本発明のポリペプチドは、本発明のポリヌクレオチドが挿入された組換えベクターで形質転換された細胞又は微生物を含むがこれらに限定されない多数の発現系の使用を通して、小規模又は大規模に産生されることができる。かかる組換えベクター及びそれらの使用方法は以下に記載される。これらのベクターは、多様な生物を形質転換するために使用されることができる。かかる生物の例は、(E.コリ又はB.サブチリスなどの)細菌;(サッカロミセス及びピキアなどの)酵母;(バキュロウイルスなどの)昆虫;植物;又は(COS、CHO、BHK、293、VERO、HeLa、MDCK、W138、及びNIH 3T3細胞などの)哺乳動物細胞を含む。宿主細胞としても有用なものには、ベクターでトランスフェクトされた哺乳動物から直接得られた一次細胞又は二次細胞がある。
【0040】
合成方法もまた、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態を製造するために使用されることができる。かかる方法は本分野でしられており、そして日常的なものである。例えば、固相ペプチド合成法は、確立され広く使用される方法である。ポリペプチドは、イムノアフィニティー又はイオン交換カラム上での分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ又はDEAEなどの陰イオン交換樹脂上でのクロマトグラフィー;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;SephadexG-75などを使用するゲル濾過;リガンドアフィニティークロマトグラフィーなどによって容易に精製されることができる。ポリペプチドは、融合ポリペプチドの分離媒体への結合、それに続く精製ポリペプチドの放出のための融合ポリペプチドの切断を通しても容易に精製されることができる。例えば、ポリペプチド及び担体ポリペプチドの間に第Xa因子切断部位を含む融合ポリペプチドが作製されることができる。該融合ポリペプチドは、該融合ポリペプチドの担体ポリペプチド部分が結合するアフィニティーカラムに結合されることができる。融合ポリペプチドはその後、第Xa因子によって切断されてポリペプチドを放出することができる。かかる系は、本発明のポリペプチドの精製のための第Xa因子除去キットとともに使用されてきた。
【0041】
ポリヌクレオチド
本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。「ポリヌクレオチド」という用語は、5’から3’の方向へ共有結合で連結した2つ以上のヌクレオチドのポリマーを広く指す。ポリヌクレオチドは、例えば、コード配列及び制御配列などの非コード配列を含む異なる機能を有するヌクレオチド配列を含むことができる。コード配列、非コード配列、及び制御配列は以下に定義される。核酸、核酸分子及びオリゴヌクレオチド及びタンパク質という用語は、ポリヌクレオチドの定義内に含まれ、そしてこれらの用語は交換可能に使用される。これらの用語が、特定の長さのヌクレオチドポリマーをさすものでも、ポリヌクレオチドが組換え技術、化学合成又は酵素的合成を用いて産生されたか、或いは天然のものであるかを意味するか又は区別することを意図するものでないことは、理解されるべきである。
【0042】
ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であることができ、第二の相補鎖の配列は、第一の鎖の配列によって指定される。「ポリヌクレオチド」という用語はしたがって、一本鎖核酸ポリマー、その相補体、及びそれらによって形成される二重鎖を包含するものとして広く解釈されるものである。ポリヌクレオチドの「相補性」は、2つの一本鎖ポリヌクレオチドがお互いに塩基対を形成する能力をさし、ここで、1つのポリヌクレオチド上のアデニンは他方上のチミジン(又はRNAの場合にはウラシル)と塩基対を形成し、そして1つのポリヌクレオチド上のシチジンは他方上のグアニンと塩基対を形成する。1つのポリヌクレオチド中のヌクレオチド配列が第二のポリヌクレオチド中のヌクレオチド配列と塩基対を形成する場合、2つのポリヌクレオチドはお互いに相補的である。例えば、5’−ATGC及び5’−GCATは、5’−GCTAと5’−TAGCと同様に完全に相補的である。
【0043】
本発明のポリヌクレオチドの例は、配列番号21である(表1、そしてGenBank寄託番号BX640939で存在するヌクレオチド配列のヌクレオチド234−1166も参照のこと)。本発明の好ましいポリヌクレオチドはまた、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「実質的に相補的な」ヌクレオチド配列又はかかるヌクレオチド配列の相補体を有するポリヌクレオチドも含む。「実質的に相補的な」ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの塩基対ミスマッチを含むことができるが、2つのポリヌクレオチドはなおハイブリダイズする能力を有するであろう。例えば、2つのDNA分子、5’−AGCAAATAT及び5’−ATATATGCTそれぞれの真ん中のヌクレオチドは塩基対を形成しないが、これらの2つのポリヌクレオチドはそれでも本明細書で記載されるとおり、実質的に相補的である。2つのポリヌクレオチドは、それらが55℃における2X SSC(SSC:150mM NaCl、15mM クエン酸3ナトリウム、pH7.6)によって例示されるハイブリダーゼーション条件下でハイブリダイズする場合、実質的に相補的である。本発明の目的のための実質的に相補的なポリヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも60%のヌクレオチド同一性、好ましくは少なくとも80%のヌクレオチド同一性、より好ましくは少なくとも90%のヌクレオチド同一性、そして最も好ましくは95%のヌクレオチド同一性を有する少なくとも20ヌクレオチド長の1つの領域を共有する。特別に好ましい実質的に相補的なポリヌクレオチドは、複数のかかる領域を共有する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列を有する。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対する同一性が70%よりも少なくとも1パーセント単位大きい、例えば、71%、72%、73%同一性、そしてこのようにして100%までの同一性を配列番号21に対して有するヌクレオチド配列を有する。なおさらに好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号21に対して、少なくとも80%同一、少なくとも90%同一又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する。最も好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対して100%同一であるヌクレオチド配列を有する。少なくとも70%の同一性を配列番号21に対して有するポリヌクレオチドは、ER-α36活性を有する。
【0044】
2つのポリヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、一般に、以下によって決定される:2つのポリヌクレオチド配列の塩基を整列化してそれらの配列の長さに沿って同一の塩基の数を最適化し;同一塩基の数を最適化するために、整列の作成においては、各配列中の塩基はそれらの本来の順番で維持しなればならないが、一方又は両方の配列中のギャップは許容される。2つのポリヌクレオチド配列は、Tatusovaら(FEMS Microbiol. Lett, 174, 247-250(1999))によって記載され、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/b12seq/bl2.htmlにおける世界的なウエブでも利用可能であるBLAST2サーチアルゴリズムのBlastnプログラム、バージョン2.0.11を用いて比較されるのが好ましい。好ましくは、一致に対する報酬=1、不一致に対するペナルティ=−2、オープンギャップペナルティ=5、エクステンションギャップペナルティ=2、ギャップx ドロップオフ=50、期待数=10、ワードサイズ=11を含むすべてのBLAST2サーチパラメーターのためのデフォルト値が使用され、場合によりフィルターがオンである。2つのポリヌクレオチド配列間のヌクレオチド配列同一性を有する位置及びそのレベルも、www.ebi.ac.uk/clustalw/における世界的なウエブにおいて利用可能なCLUSTLAW複数配列アラインメントソフトウエア(J. Thompson et al., Nucl. Acids Res., 22:4673-4680(1994))を用いて容易に決定されることができる。
【0045】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、天然のゲノム又はcDNAのヌクレオチド配列のすべて又は一部分を含むポリヌクレオチドに限られず、遺伝コードの縮重の結果としてのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのクラスも含むことは理解されるべきである。例えば、天然のポリヌクレオチド配列、配列番号21は、アミノ酸配列番号20を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のクラスの一員である。選択されたポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列のクラスは大きいが、しかし有限であり、そして、そのクラスの各メンバーのヌクレオチド配列は標準的な遺伝コードを参照することによって当業者に容易に決定されることができ、ここで、異なる3つのヌクレオチド(コドン)が同じアミノ酸をコードすることが知られている。
【0046】
本発明のポリペプチドを「コードする」ポリヌクレオチドは、場合により、コード領域及び非コード領域の両方を含み、そして、したがって、明らかに反対に記述されない限り、ポリペプチドを「コードする」ポリヌクレオチドは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に構造的に限定されず、コード領域の外の(すなわち、5’又は3’側の)他のヌクレオチド配列を含むことができることは理解されなければならない。「コード領域」又は「コード配列」は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、適切な制御配列の支配下に置かれた場合、コードされたポリペプチドを発現する。コード領域の境界は一般に、その5’末端における翻訳開始コドン及びその3’末端における翻訳停止コドンによって決定される。「外因性のコード領域」は、外来性のコード領域、すなわち、正常には細胞内に存在しないコード領域、又は正常に細胞内に存在するが実験的手順によって細胞内に導入されたコード領域がそれが正常には作動可能に連結しない制御領域に作動可能に連結したもの、或いはそれらの組み合わせをさす。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、直線又は環状の形態であることができる。例えば、ポリヌクレオチドはベクターの一部分であることができる。ベクターは、さらなるクローニング(ポリヌクレオチドの増幅)を提供する、すなわち、クローニングベクター、又はコード領域によってコードされたポリペプチドの発現を提供する、すなわち発現ベクター、であることができる。ベクターは、プラスミド、ファージミド、F-因子、ウイルス、コスミド、又はファージを含むことができるが、これらに限定されない。ベクターは、二重鎖又は一重鎖の直線又は環状形態であってよい。ベクターはまた、細胞ゲノム中への組み込みによるか又は(例えば、複製の起点を含む自律増殖プラスミドなどの)染色体外に存在することのいずれかによって原核生物宿主又は真核生物宿主を形質転換することができる。ベクター中のポリヌクレオチドは、適切なプロモーター、或いはインビトロでの又は真核細胞若しくは微生物(例えば細菌)などの宿主細胞中での転写のための他の制御配列の支配下にあり、そして作動可能に連結されることができる。真核細胞の好ましい例は、MDA-MB-231、Hela、CHO、及びMCF10Aを含む。制御配列又は制御領域は、コード配列の上流、その中又は下流に位置し、そしてコード配列に作動可能に連結されたヌクレオチド配列をさす。制御配列の例は、エンハンサー、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、及びポリアデニル化シグナル配列を含む。それらは、天然及び合成の配列、並びに天然及び合成の配列の組み合わせであることのできる配列を含む。制御配列はプロモーターに限られない。しかしながら、本発明において有用ないくつかの好適な制御配列は、恒常的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導プロモーター、及びウイルスプロモーターを含むがこれらに限定されない。「作動可能に連結された」という用語は、それらが意図したように機能することを可能とする関係となるように構成要素の近位であることを指す。制御配列は、コード領域の発現が制御配列に適合した条件下で達成されるように結合された場合に、コード領域に「作動可能に連結」されている。
【0048】
ベクターは、複数の宿主において機能するシャトルベクターであってよい。ベクターはまた、外来性のDNA配列が確定的な様式で挿入可能な1つ又は少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位を典型的に含むクローニングベクターであってもよい。かかる挿入は、クローニングベクターの基本的な生物学的機能を損なうことなくおこることができる。クローニングベクターはまた、クローニングベクターで形質転換された細胞の同定及び選択における使用に好適なマーカー遺伝子を含んでもよい。マーカー遺伝子の例は、テトラサイクリン耐性又はアンピシリン耐性である。多くのクローニングベクターは(Stratagene, New England Biolabs, Clonetechなどから)商業的に入手可能である。ベクターは、発現ベクター中に挿入されたポリヌクレオチドの発現を導く制御配列を含む発現ベクターであってよい。多数のベクターが商業的に入手可能であり、本分野で知られている(Stratagene, La Jolla,CA; New England Biolabs, Beverly, MA)。発現ベクターは、インビトロの転写及び翻訳アッセイにおいて使用されることができる。
【0049】
ポリヌクレオチドをベクター中に導入する方法は本分野で周知である(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001))。すなわち、ポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、平滑末端、5’又は3’オーバーハングを有する「粘着」末端、又はこれらのいずれかの組み合わせを有する直線化されたベクターを生成するために、1つ以上の制限酵素(制限エンドヌクレアーゼ)で処理される。ベクターはまた、制限酵素で処理され、その後、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ホスファターゼ、又はキナーゼなどの他の修飾酵素で処理されて、ポリヌクレオチドのベクター中へのライゲーションに有用な特徴を有する直線化されたベクターを生成することもできる。ベクター中に挿入されるポリヌクレオチドは、1つ以上の制限酵素で処理されて、平滑末端、5’又は3’オーバーハングを有する「粘着」末端、又はこれらのいずれかの組み合わせを有する直線化されたセグメントを生成する。ポリヌクレオチドはまた、制限酵素で処理され、その後他のDNA修飾酵素で処理されてもよい。かかるDNA修飾酵素は、ベクター中へのポリヌクレオチドのライゲーションに有用な特徴を有するポリヌクレオチドを生成するために、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ホスファターゼ、又はキナーゼを含むがこれらに限定されない。
【0050】
処理されたベクター及びポリヌクレオチドはその後、一緒にライゲーションされて、本分野で知られた方法(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001))に従って、ポリヌクレオチドを含む構築体を形成する。すなわち、処理された核酸断片及び処理されたベクターは、好適な緩衝液及びリガーゼの存在下で併合される。その後、混合物は、リガーゼが核酸断片をベクター中にライゲーションすることを可能とする適切な条件下でインキュベートされる。
【0051】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドを作製する方法及びそれらをコードするポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。該方法は、生物学的、酵素的及び化学的方法、並びにそれらの組み合わせを含み、本分野で周知である。例えば、ポリヌクレオチドは、標準的な組換えDNA技術を用いて宿主細胞中で発現されることができ、それは無細胞のRNAに基づく系を用いてインビトロで酵素的に合成されるか又はそれは固相ペプチド合成などの化学技術を用いて合成されることができる。組換えDNA技術が使用される場合、宿主細胞は、例えば、細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、又は哺乳動物細胞であることができる。
【0052】
本発明はまた、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドも提供する。1つの側面において、本発明のプロモーターは、配列番号22に示されるヌクレオチド配列、又はその部分を含む。他の側面においては、本発明のプロモーターは、配列番号22に対して、70%よりも少なくとも1単位パーセント大きい、例えば、71%、72%、73%、そして100%までの同一性を有するヌクレオチド配列を有する。同一性パーセントの決定方法は本明細書に記載される。より好ましくは、プロモーターは、配列番号22に対して、少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する。本発明のプロモーターは、エストロゲン受容体(ER)により制御される活性を有する。本明細書中で使用されるERにより制御される活性は、ER-α66、好ましくはエストロゲンに結合したER-α66の存在下での、作動可能に連結されたコード領域の発現の増加をさす。本発明のプロモーターは、エストロゲン依存性及び非依存性の様式で発現される。本発明のプロモーターは、マーカーポリペプチドを含むポリペプチドをコードするコード領域に作動可能に連結されてよい。マーカーポリペプチドの例は、(蛍光タンパク質、酵素、抗原マーカーなどの)検出可能なマーカー及び選択的マーカー(薬物耐性、薬物感受性又は栄養障害、又は栄養障害の矯正などをひき起こすポリペプチド)を含む。
【0053】
抗体
本発明は、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態に特異的に結合する抗体を提供する。本明細書中で使用される、ポリペプチドに「特異的に結合する」ことのできる抗体は抗体の合成を誘導した抗原のエピトープのみと相互作用するか又は構造的に関連するエピトープと相互作用する抗体である。エピトープに「特異的に結合する」抗体は、適切な条件下で、多様な潜在的な結合標的の存在下においてさえ、エピトープと相互作用する。いくつかの側面においては、本発明の抗体は、ER-α36又はその一部分と特異的に結合し、そしてER-α66又はER-α46とは特異的に結合しない。
【0054】
したがって、本発明のポリペプチド及びペプチド擬態、並びにそれらの断片は、脊椎動物抗体、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、変更された抗体、一価の抗体、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、Fabタンパク質、及び単一ドメイン抗体を含む抗体を生成するために抗原として使用されることができる。例えば、配列番号1又は配列番号1のアミノ酸13−27などのその断片を有するポリペプチドは、ER-α36に特異的に結合する抗体を生成するために使用されることができる。本発明のポリペプチド又はペプチド擬態、或いはそれらの断片は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、ウサギ血清アルブミンなどの免疫原性担体に共有結合で結合することによって修飾されることができる。
【0055】
ポリクローナル抗体が望ましい場合、(マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ又はニワトリなどのトリなどの)選択された動物が所望の抗原で免疫化されることができる。免疫化された動物からの血清が集められ、そして既知の日常的な方法によって処理される。本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を含む血清が他の抗原に対する抗体を含む場合、該ポリクローナル抗体はイムノアフィニティークロマトグラフィーによって精製されることができる。ポリクローナル抗血清を製造及び加工する技術は、本分野で知られている(例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pub. 1988)。
【0056】
本発明のポリペプチド又はペプチド擬態或いはその断片に対するモノクローナル抗体もまた、当業者によって容易に製造可能である。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製するための一般的方法は周知である(例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pub. 1988を参照のこと)。不死的な抗体産生細胞株(ハイブリドーマ)は、細胞融合によって、そして癌遺伝子DNAによるBリンパ球の直接的形質転換又はエプシュタイン−バーウイルスによるトランスフェクションなどの他の技術によっても製造可能である。本発明のポリペプチド又はペプチド擬態に対して製造されたモノクローナル抗体のパネルは、エピトープ親和性などの様々な性質についてスクリーニングされることができる。他の周知の抗体作製方法は、ファージディスプレイ技術(例えば、Kay et al., Phage display of peptides and proteins: A laboratory manual. San Diego: Academic Press(1996)を参照のこと)の使用を含む。
【0057】
本発明の抗体は「ヒト化」モノクローナル抗体に由来してもよい。ヒト化モノクローナル抗体は、マウスイムノグロブリンの可変重鎖及び軽鎖からのマウス相補性決定領域をヒト可変ドメイン中へ転移させ、そして、マウス対応物のフレームワーク領域中にヒト残基を置換することによって製造されることができる。ヒト化モノクローナル抗体由来の抗体構成要素の使用は、マウス定常領域の免疫原性に関連する潜在的な問題を除去する。マウスイムノグロブリン可変ドメインのクローニングのための一般的方法が記載され(Orlandi et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 86:3833(1989))、そしてヒト化モノクローナル抗体の製造技術が記載される(Jones et all, Nature, 321:522(1986); Riechmann et al., Nature, 332:323 (1988))。
【0058】
本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質加水分解又は該断片をコードするポリヌクレオチドのE.コリ中での発現を含む日常的な既知の方法によって調製されることができる。抗体断片は慣用方法による抗体全体の(例えば、ペプシン又はパパインによる)消化によって得ることができる。例えば、抗体断片はペプシンによって抗体を酵素的に切断してF(ab')2と称される5S断片を提供することによって製造されることができる。この断片はさらに、チオール還元剤及び任意にジスルフィド結合の切断により生じたスルフヒドリル基のためのブロッキング基を用いて切断され、3.5S Fab'の一価の断片を生じる。或いは、ペプシンを用いる酵素的切断は、2つの一価のFab'断片及びFc断片を直接的に生成する。
【0059】
重鎖を分離して一価の軽鎖−重鎖断片を形成し、さらに断片を切断する方法、又は他の酵素的、化学的又は遺伝的技術も、該断片が完全な抗体によって認識される抗原に結合する限り、使用されてもよい。
【0060】
抗体は、それらが結合するエピトープの同一性を決定するためにスクリーニングされることができる。エピトープとは、本発明のポリペプチドなどの抗原上の部位であって、抗体のパラトープがそこへ結合する部位をいう。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの、分子表面の化学的に活性な群からなり、特異的な3次元構造特性並びに特異的電荷特性を有することができる。エピトープを同定するために使用されることのできる方法は本分野において知られている(Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, page 319(Cold Spring Harbor Pub. 1988)。
【0061】
抗体は、本発明のポリペプチド又はペプチド擬態に特異的に結合するそれらの能力についてスクリーニングされることができる。例えば、ER-α36アイソフォーム又はその部分に特異的に結合するが、ER-α46又はα66アイソフォームには結合しない抗体は、本分野で日常的な方法の使用を通じて選択されることができる(Kitajima et al., 米国特許第6,534,281号及びHarlow et al., Antibodies: A laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pub. 1988を参照のこと)。
【0062】
本発明の抗体は、非常に多様な化合物に結合されることができる。化合物の例は、検出可能なマーカーを含む。かかる検出可能なマーカーは、抗体の検出を可能とする、アビジン又はビオチンなどの蛍光マーカー、酵素、放射性同位体などを含む。抗体を検出可能なマーカーに結合させる方法及び有用な検出可能なマーカーは本分野で知られている。かかる抗体は、ER-α36の検出のための自動化システムにおいて有用である。抗体は化学療法剤に共有結合されることができる。乳癌及び前立腺癌などの癌の治療に有用な化学療法剤が本分野で知られている。化学療法剤の例は、セントクロマン、デルマジノンアセテート、ドロロキシフェン、イドキシフェン、タモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、フルベストラント及びファスロデックス、ビスホスホネート、カルシトニン、トリボロン、甲状腺ホルモン、又はストロンチウムラネレートを含む。他の例は、サイトカイン又はジフテリア毒素A鎖などの毒素を含む。
【0063】
組成物
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド、ペプチド擬態、又は抗体を含む組成物を提供する。かかる組成物は、典型的に、医薬として許容可能な担体を含む。本明細書において使用される「医薬として許容可能な担体」は、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含み、医薬の投与に適合している。さらなる活性化合物も組成物中に取り込まれることができる。
【0064】
本発明の組成物は、錠剤、ハードゼラチンカプセル及びソフトゼラチンカプセル、水溶液、懸濁液、及びリポソームならびに成型ポリマーゲルなどの他の徐放製剤を含む多くの形態に調製されることができる。経口剤型は、ポリペプチド、ペプチド擬態又は抗体が胃を通過後に小腸中へ放出されるように製剤されることができる。かかる製剤は、Hongら、 米国特許第6,306,434号及びその中に含まれる参考文献中に記載されている。
【0065】
経口液体組成物は、例えば、水性又は油性懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ又はエリキシルの形態であることができ、或いは使用前に水又は他の好適なビヒクルとともに構成されるための乾燥品として提示されることもできる。かかる液体組成物は、懸濁剤、乳化剤、(食用の油を含むことのできる)非水性ビヒクル、或いは保存剤などの慣用の添加物を含んでもよい。
【0066】
組成物は、(ボーラス注射又は持続輸注などの注射による)非経口投与のために製剤されることができ、そして保存剤を加えたアンプル、充填済み注射器、小容量輸注容器中の単一用量形態又はマルチドースコンテナ中で提示されることができる。組成物は、懸濁液、溶液又は油性又は水性のビヒクル中のエマルジョンのような形態をとることができ、そして懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤化のための剤を含んでよい。
【0067】
直腸投与に適した組成物は、単位用量坐剤として調製されることができる。該組成物中に含まれることのできる好適な担体は、生理食塩水溶液および本分野において一般的に使用される他の物質によって例示されるものを含む。
【0068】
吸入による投与のために、組成物は、インサフレーター、ネブライザー又は加圧パック或いはエアロゾルスプレーを送達する他の便利な手段から便利に送達されることができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体などの好適な噴射剤を含んでよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定されてよい。
【0069】
或いは、吸入又はインサフレーションによる投与のためには、組成物は例えば、調節剤及びラクトース又はスターチなどの好適な粉末基剤の粉末混合物などの乾燥粉末組成物の形態をとってもよい。粉末組成物は、例えば、カプセル又はカートリッジ又は粉末が吸入器又はインサフレーターの助けによってそこから投与されることのできるゼラチン又はブリスターパックなどの単位剤形で提示されることができる。鼻腔内投与のためには、組成物はプラスチックボトルアトマイザーのような液体スプレーを介して投与されてもよい。
【0070】
組成物は経皮投与のために製剤されることができる。組成物はまた、水溶液、懸濁液又は分散剤、水性ゲル、ウォーター・イン・オイルエマルジョン又はオイル・イン・ウォーターエマルジョンとして製剤されることもできる。経皮用製剤はまた、ポリマー内に組成物を封入することによっても調製されることができる。該剤形はローション、クリーム、サルブとして皮膚に直接に、またはパッチの使用を介して適用されることができる。
【0071】
本発明の組成物はまた、フレーバー剤、着色剤、抗菌剤、及び保存剤などの他の成分を含んでもよい。さらに、本発明の組成物はホルモン、抗壊死剤、血管拡張剤、医薬などの医薬として活性な成分を含むことができる。
【0072】
かかる組成物の毒性及び治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するための、培養細胞又は実験動物における標準的な薬学的手順によって決定されることができる。毒性効果及び治療効果の間の用量比は、治療係数であり、LD50/ED50の比として表されることができる。高い治療係数を示す化合物が好ましい。
【0073】
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲を製剤するために使用されることができる。かかる化合物の用量は、毒性がわずかであるか又はないED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は、採用された剤形及び利用された投与経路に依存して、この範囲内で変化してもよい。本発明の方法において使用される化合物については、治療的有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定されることができる。用量は動物モデルにおいて、細胞培養において決定されたIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する被験化合物濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために製剤されてもよい。かかる情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用されることができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定されてよい。1つの側面において、ヒトにおける使用のための用量範囲は、少なくとも10μモル(μM)、好ましくは少なくとも25μM、より好ましくは50μMの血清濃度とするのに十分な量である。
【0074】
組成物は、1日おきに1回を含む、1日当たり1回以上〜一週間に1回以上で投与されることができる。当業者は、病気又は障害の重篤度、先の治療、対象の一般的な健康状態及び/又は年齢及び存在する他の病気を含むがこれらに限られない、ある因子が対象を有効に治療するために必要とされる用量及びタイミングに影響することができることを理解するであろう。さらに、有効量の組成物による対象の治療は単回の治療を含むことができ、又は好ましくは一連の治療を含むことができる。
【0075】
検出方法
本発明は、本発明のポリペプチドを検出するための方法を提供する。該方法は典型的に、細胞を提供し、本発明のポリペプチドに関して該細胞を分析し、そして該細胞が該ポリペプチドを発現するか否かを決定することを含む。細胞はエクスビボ又はインビボであってよい。本明細書中で使用される「エクスビボ」という用語は、対象の体から取り出された、例えば、単離された、細胞をさす。エクスビボの細胞は、例えば、(対象から最近取り出され、そして組織培養培地中で限定された増殖又は維持が可能である細胞などの)一次細胞、及び(組織培養培地中で大きな増殖又は維持が可能な細胞などの)培養細胞を含む。本明細書中で使用される「インビボ」という用語は、対象の体内にある細胞をさす。インビボの細胞は、器官又は腫瘍内に存在する細胞であることができる。細胞は、好ましくは、マウス、ラット、又は(サル、ヒトなどの)霊長類など、好ましくはヒトの哺乳動物細胞である。細胞の好ましい例は、乳房腫瘍細胞などの乳房細胞、及び前立腺腫瘍細胞などの前立腺細胞を含む。細胞は、例えば、ヒト乳房又は前立腺組織のバイオプシーなどによって対象から得ることができる。ほとんどどのタイプの組織から得られたサンプルが使用されることができる。対照細胞は、本分野で知られた方法によってインビトロで培養されることができる。ER-α36kDaエストロゲン受容体を発現せず、したがって、陰性対照として使用可能な細胞は、HEK293細胞を含む。陽性対照細胞は、血清存在下、低い細胞密度で増殖された細胞、及びBRCA1陰性細胞を含む。好ましくは、細胞は血清の存在下、低密度で増殖される。対照細胞もまた、バイオプシーなどによって組織サンプルから得られることができる。
【0076】
1つの側面において、該方法は、細胞を本発明の抗体と接触させることによって該細胞を分析することを含む。細胞が本発明のポリペプチドを発現するか否かは、本分野で日常的かつ知られた検出方法を用いて決定されることができる。イムノアッセイの例は、ラジオイムノアッセイ、免疫酵素アッセイ、免疫蛍光アッセイ、又は酵素免疫アッセイなどの競合及び非競合アッセイを含む。西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ又は他の化学発光検出剤を用いる化学発光法もまた使用可能である。ウエスタンブロッティング及びクロマトグラフィーアッセイもまた、本発明の方法において使用可能である。本発明のポリペプチドを検出するために使用される本発明の抗体は、検出可能なマーカーに結合されることができ、それによって直接的に検出されるか又は二次抗体が使用されてもよい。細胞の異なる領域中のポリペプチドの検出を可能とする検出法が使用される場合、ER-α36を発現する細胞は、ポリペプチドが主に細胞膜及び細胞質に結合し、シグナルの20%未満が核に関連している場合、典型的にER-α36陽性であると考えられる。
【0077】
他の側面においては、該方法は、ポリヌクレオチド、好ましくは(mRNAなどの)RNAポリヌクレオチドを増幅して、増幅されたポリヌクレオチドを形成することによって細胞を分析することを含む。好ましくは、ポリヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、好ましくはリバーストランスクリプターゼ(RT)PCRによって増幅される。RNAポリヌクレオチドからDNAポリヌクレオチドを合成する方法は本分野で知られており、日常的なものである。細胞から得られたポリヌクレオチドは、配列番号22又は配列番号25、又はそれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを増幅するプライマー対と接触させられる。かかるプライマー対から得られた増幅されたポリヌクレオチドの存在は、細胞がエストロゲン受容体を発現することを示す。本明細書中で使用される「プライマー対」という用語は、増幅されるポリヌクレオチドの領域に隣接するように設計された2つのオリゴヌクレオチドをさす。1つのプライマーは、増幅されるポリヌクレオチドの1つの末端におけるセンス鎖上に存在するヌクレオチドに相補的であり、他のプライマーは、増幅されるポリヌクレオチドの他の末端におけるアンチセンス鎖上に存在するヌクレオチドに相補的である。ポリヌクレオチドのうちのプライマーが相補的であるヌクレオチドは、標的配列と呼ばれることができる。プライマーは、少なくとも約15ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約20ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも約25ヌクレオチドを有することができる。PCRによってポリヌクレオチドを増幅するための条件は、使用されるプライマーのヌクレオチド配列によって異なり、かかる条件を決定する方法は本分野において日常的なものである。
【0078】
増幅後、増幅されたポリヌクレオチドの存在が、ゲル電気泳動などによって判定される。増幅されたポリヌクレオチドは、(エチジウムブロマイドなどによる)染色又は放射能標識又は放射能を有しない標識を含む、当業者に知られた好適な標識で標識される。典型的な放射能標識は33Pを含む。放射能を有さない標識は、例えば、ビオチン又はジゴキシゲニンなどのリガンド並びにホスファターゼ又はペルオキシダーゼなどの酵素、又はルシフェリンなどの多様な化学発光物質、又はフルオレセイン及びその誘導体などの蛍光化合物を含む。
【0079】
場合により、細胞中でのER-α66ポリペプチド、ER-α46ポリペプチド、ER-β又はそれらの組み合わせの存在も判定されることができる。ER-α66、ER-α46、ER-β又はそれらの組み合わせの存在を検出する方法は、ポリヌクレオチドの増幅などの抗体又はポリヌクレオチドに基づく検出方法を用いる免疫学的検出法の使用を含む。細胞の異なる領域中のポリペプチドの検出を可能とする検出方法が使用される場合、ER-α66又はER-α46を発現する細胞は、ポリペプチドが主に核に結合し、シグナルの90%超が核に関連している場合、典型的にER-α66又はER-α46陽性であると考えられる。
【0080】
すべての乳癌の約70〜80%がER-α66を発現し、そしてER-陽性乳癌と呼ばれる。これらの腫瘍は通常、よりゆっくりと増殖し、より高分化型で、そしてより良い全体的な予後と関連する(Clark, :Harris JR編、Diseases of the breast, volume 2、 Lippincott Williams & Wilkins, 38:103-116(2000))。本発明のポリペプチドの存在を検出する方法は、エストロゲン陽性とエストロゲン陰性の癌、好ましくは乳癌を識別するための診断マーカーとして有用である。本明細書中の実施例に開示された結果は、ER-α36を介するエストロゲンシグナル伝達が乳房の腫瘍発生に寄与することを示し、そしてER-α36がER-α66陰性の乳癌の腫瘍発生に関与するかもしれないことを強力に示唆する。本明細書中の実施例に開示された結果は、本発明のポリペプチドを高度に発現する細胞が、高レベルのER-α66を発現するが、低レベルのER-α36を発現する細胞よりも低用量のタモキシフェンなどの抗エストロゲン剤に対して、より耐性であることも示す。したがって、本発明のポリペプチドの存在を検出するための方法は、新しいクラスの患者、すなわちER-α66陰性かつER-α36陽性の患者の同定を可能とする。本発明のポリペプチドの存在を検出するための方法はまた、抗エストロゲン剤に対する細胞の感受性を決定し、そして個人のための好適な治療過程を決定することなどに関する情報を提供するのに有用である。例えば、医師は、ER-α36陽性の乳癌細胞を有する対象が低レベルのタモキシフェンに対する耐性を克服するためにより高用量を必要とするかもしれないと判定することができる。
【0081】
ER-α66、ER-α46、ER-α36、ER-β又はそれらの組み合わせの存在の検出はまた、エストロゲン受容体の比率を比較することも可能とする。2つ以上のエストロゲン受容体の比率の決定は、タモキシフェンなどの抗エストロゲン剤に対する細胞の感受性を予測することを可能とする。本発明のこの側面においては、例えば、細胞中のER-α36対ER-α46の比率、ER-α36対ER-α66の比率、ER-α36対ER-βの比率又はそれらの組み合わせが決定され、対照細胞における対応する比率と比較される。かかる比率は、本明細書においてER-α36比と呼ばれる。1つの例において、対照細胞は、抗エストロゲン剤による処理に不応性な細胞であることができる。他の例においては、対照細胞は、抗エストロゲン剤に対して不応性でない細胞であることができる。被験細胞において決定された上記のER-α36比が、対照細胞について記載されたER-α36比と同じであったら、被験細胞は対照細胞の地位に分類される。例えば、被験細胞のER-α36対ER-α66の比率が、タモキシフェン処理に対して不応性であることが知られている対照細胞のER-α36対ER-α66の比率に等しければ、被験細胞はタモキシフェン処理に対して不応性であるとして分類される。しかしながら、被験細胞におけるER-α36対ER-α66の比率が、タモキシフェン処理に対して不応性でない対照細胞におけるER-α36対ER-α66の比率に等しければ、被験細胞は、タモキシフェン処理に対して不応性でないとして分類される。他の例においては、被験細胞において決定されたER-α36比がタモキシフェン処理に対して不応性であることが知られた対照細胞及びタモキシフェン処理に対して不応性でないことが知られた対照細胞における対応する比率と比較される。そして、被験細胞は、上記のように、タモキシフェン処理に対して不応性又はタモキシフェン処理に対して不応性でないとして分類される。タモキシフェン処理に対して不応性でないことが知られた対照細胞の例は、MCF7(ATCC Collection寄託番号HTB-22)である。低用量のタモキシフェン処理に対して不応性であることが知られた対照細胞の例は、MDA-MB-231である。タモキシフェン処理に対して不応性であることが知られた乳癌細胞はまた、被験細胞におけるER-α36と比較することによって対照細胞として使用可能である。
【0082】
本発明のポリペプチドに結合する剤の同定
本発明はまた、本発明のポリペプチドに結合する剤を同定するための方法も提供する。かかる方法は、スクリーニングアッセイとも呼ばれる。該方法は、本発明のポリペプチドを剤と併合し、そして該剤が該ポリペプチドに結合するかを決定することを含む。典型的には、剤がポリペプチドに結合するか否かを決定することは、該剤と該ポリペプチドの複合体の形成を検出することを含む。複合体の検出方法は、例えば、剤のポリペプチドへの結合を直接的に検出すること、及び競合結合アッセイを用いて剤のポリペプチドへの結合を検出することを含む。アッセイは無細胞アッセイでもよい。アッセイは、エストロゲン又は抗エストロゲン剤の存在下又は非存在下で行われることができる。場合により、該方法は、剤が、配列番号18に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドなどのER-α66ポリペプチドに結合するか否かを決定することも含む。ER-α66ポリペプチドに結合しない剤が好ましい。
【0083】
剤は、生物学的ライブラリー、空間的にアクセス可能なパラレル固相又は液相ライブラリー、デコンボルーションを必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物」ライブラリー法及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、本分野で知られたコンビナトリアルライブラリーにおける多くのアプローチのいずれを用いて得ることもできる。生物学的ライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーを含むが、一方、他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の小分子ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des. 12:145(1997))。分子ライブラリーの合成方法の例は、本分野において見出されることができる(例えば、DeWitt et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909(1993);Erb et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422(1994); Zuckermann et al. J. Med. Chem. 37:2678(1994); Cho et al. Science 261:1303(1993); Carrell et al. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059(1994); Carell et al.Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061(1994); 及び Gallop et al. J. Med. Chem. 37:1233(1994)を参照のこと)。スクリーニングされる潜在的な剤の供給源は、例えば、細菌及び真菌の発酵培地及び植物及び他の植生の細胞抽出物も含む。
【0084】
化合物のライブラリーは、例えば、(Houghten Bio/Techniques 13:412-421(1992)などの)溶液中、又は(Lam Nature 354:82-84(1991)の)ビーズ上、(Fodor Nature 364:555-556(1993)の)チップ、(米国特許第5,223,409号の)細菌、(米国特許第5,571,698号;同第5,403,484号;及び同第5,223,409号の)胞子、(Cull et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869(1992)の)プラスミド、又は(Scott et al. Science 249:386-390(1990); Devlin Science 249:404-406(1990); Cwirla et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-6382(1990); and Felici J. Mol. Biol. 222:301-310(1991)の)ファージにおいて表されることができる。
【0085】
或る剤の本発明のポリペプチドに結合する能力を決定することは、例えば、該剤の本発明のポリペプチドへの結合が複合体中の標識された化合物を検出することによって検出されるように、該剤を放射性同位体又は酵素的標識と結合させることによって達成されることができる。例えば、剤は125I、35S、14C、又は3Hで、直接的又は間接的に標識されることができ、そして放射性同位体は放射能放出の計測によって直接的に、又はシンチレーション計測によって検出される。或いは、剤は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼによって酵素標識されることができ、酵素標識は、好適な基質の生成物への変換を測定することによって検出される。
【0086】
同様のやり方で、本発明のポリペプチドの、該ポリペプチドの既知のリガンド、例えば、本発明のポリペプチドが自然に結合又は相互作用する分子、への結合を変更(例えば、刺激又は阻害)する剤の能力が決定されることができる。かかるリガンドの例はエストロゲン並びにタモキシフェンなどの抗エストロゲン剤である。好ましい側面において、本発明のポリペプチドのリガンドへの結合を変更する剤の能力が、本発明のポリペプチドの活性をモニタリングすることによって決定されることができる。
【0087】
さらに他の側面においては、本発明のアッセイは、本発明のポリペプチドを剤と接触させ、そして該剤の該ポリペプチドへ結合する能力を決定することを含む。該剤のポリペプチドへの結合は、上記のように直接的又は間接的に決定されることができる。好ましい側面において、アッセイは、本発明のポリペプチドを、本発明のポリペプチドに結合することが知られているリガンドと接触させて、アッセイ混合物を形成し、アッセイ混合物を剤と接触させ、そして該剤がリガンドに比べて優先的に該ポリペプチドに結合する能力を決定することを含む。
【0088】
他の側面において、アッセイは、本発明のポリペプチドを剤と接触させ、そして該剤の本発明のポリペプチドの活性を変更(例えば、刺激又は阻害)する能力を決定することを含む。
【0089】
さらなる側面においては、アッセイは、本発明のポリペプチドの能力を変更(例えば、刺激又は阻害)して、例えば、ER-α66のAF−1及び/またはAF−2ドメインを介する活性を含むエストロゲン応答要素、の転写のトランス活性化を制御する剤をスクリーニングすることを含む。好ましくは、本発明のポリペプチド及び転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインを有するポリペプチドを含む融合ポリペプチドが使用される。転写活性化ドメインを有するポリペプチドの例は、VP-16であり、転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインを有する他の有用なポリペプチドは本分野において知られている。典型的には、かかる融合ポリペプチドは、プロモーター及び作動可能に連結されたコード配列の上流にあるエストロゲン応答要素を有するポリヌクレオチドとともに使用される。チミジンキナーゼプロモーターなどを含む多様なプロモーターが使用可能である。好ましくは、作動可能に連結されたコード領域は、ルシフェラーゼ又は緑色蛍光タンパク質などの蛍光ポリペプチドなどの検出可能なマーカーをコードする。1つの側面においては、転写活性化ドメインを含む融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド及び剤は、剤の非存在下でポリヌクレオチド上に存在するコード領域の発現を促進する条件下で併合され、そして転写を変更する剤の効果が決定される。場合により、ER-α66ポリペプチド及び/又はERβポリペプチドも存在してもよく、本発明のポリペプチドが、ER-α66ポリペプチド又はERβのリガンド依存性及びリガンド非依存性の転写活性を調節する能力を変更(例えば、刺激又は阻害)する剤を同定するために、アッセイが用いられる。好ましくは、融合ポリヌクレオチド及びプロモーター及び作動可能に連結されたコード配列の上流のエストロゲン応答要素、を含むポリヌクレオチドの両方が細胞中に存在する。限定することを意図せずに、本発明のポリペプチドの能力を変更して転写のトランス活性化を制御する剤は、本発明のポリペプチドの立体構造を変化させて該ポリペプチドの能力を増加又は減少させることができることが期待される。
【0090】
アッセイにおいては、本発明のポリペプチド、そのリガンド又は剤のいずれかを固定して、分子の1つ又は両方の複合化形態から未複合化形態を分離することを容易にし、並びにアッセイの自動化の便宜をはかることが望ましい。1つの実施態様において、本発明のポリペプチドがマトリックスに結合されることを可能とするドメインを付加する融合タンパク質が提供されることができる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼを含む融合ポリペプチドは、グルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical, St. Luois, Mo.)又はグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレートに吸着されることができ、これらは剤と併合され、そして混合物が(塩及びpHについての生理学的条件などの)複合体形成を行うことのできる条件下でインキュベートされる。インキュベーション後に、ビーズ又はマイクロタイタープレートのウエルは洗浄されていかなる未結合成分も除去されることができ、そして、複合体形成が、例えば上記のように直接的又は間接的に測定される。或いは、複合体はマトリックスから分離され、そして結合のレベルが決定される。
【0091】
マトリックス上にポリペプチドを固定するための他の技術も、本発明のスクリーニングアッセイにおいて使用可能である。例えば、本発明のポリペプチドは、ビオチン及びストレプトアビジンのコンジュゲーションを用いて固定化されることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチン−NHS(N-ヒドロキシ-サクシニミド)を本分野において周知の技術(例えば、ビオチン標識キット、Pierce Chemicals, Rockford, III)とともに用いてビオチン標識され、そして、例えば、ストレプトアビジンコーティングされた96ウエルプレート(Pierce Chemicals)のウエル中に固定化されることができる。或いは、本発明のポリペプチドと反応性である抗体は、プレートのウエルに誘導体化されることができ、そして未結合の本発明のポリペプチドが抗体とのコンジュゲーションによってウエル中に捕捉される。上記のGST-固定化複合体に加えてかかる複合体を検出するための方法は、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体と反応性である抗体を用いる複合体の免疫検出を含む。
【0092】
本発明はまた、上記のスクリーニングアッセイによって同定された新規な剤及び本明細書に記載された治療のためのその使用も含む。
【0093】
治療方法
本発明はさらに、対象における一定の病気を治療するための方法を目的とする。対象は哺乳動物、好ましくはヒトである。本明細書で使用される用語「病気」は、特徴的な症状又は症状の組によって顕在化する対象の部分、器官又は系或いはそれらの組み合わせの正常な構造又は機能からの逸脱又はその妨害をさす。病気は、エストロゲン受容体などのステロイドホルモン受容体を介するシグナル伝達に依存する癌を含む。かかる病気の例は、エストロゲン関連の癌と呼ばれ、乳癌及び前立腺癌を含む。典型的には、対象が病気を有するか、そして対象が治療に応答しているかが、病気に関連する症状の評価によって決定される。本明細書中で使用される用語「症状」は、対象に存在する病気の客観的な証拠をさす。本明細書中で病気と関連する症状とよばれるもの、そしてかかる症状の評価は本分野において日常的なものであり、知られている。ステロイドホルモン受容体を介するシグナル伝達に依存する癌の症状の例は、例えば、腫瘍の存在及びサイズ、そして生物マーカーの存在及び量を含む。生物マーカーは、対象中に存在しそして癌の進行の指標である化合物、典型的にはポリペプチドである。生物マーカーの例は、例えば、Her-2発現及びサイクリンD1発現である。
【0094】
病気の治療は、予防的であることができ、又は病気の発生の後に開始されることができる。予防的である治療、例えば、対象が病気の症状を顕在化させる前に開始されるものは、本明細書において病気の発生の「リスク」を有する対象の治療をさす。病気の発生のリスクを有する対象の例は、遺伝子マーカーなどの病気に関連するリスクファクターを有する人である。対象が乳癌又は前立腺癌などの一定の癌を発生させる素因を有することを示す遺伝子マーカーの例は、BRAC1及び/又はBRAC2遺伝子における変化を含む。治療は、本明細書に記載の病気の発生の前、その間又はその後に実施されることができる。病気の発生の後に開始される治療は、状態のうちの1つの症状の重篤度を減少させるか又は症状を完全に取り除くことができる。
【0095】
いくつかの側面において、該方法は典型的に、本発明の方法を用いて同定される剤などの、本発明のポリペプチドの活性を阻害する剤の有効量を含む組成物と細胞を接触させることを含む。好ましくは、かかる剤は本発明のポリペプチドに結合する。いくつかの側面において、剤は抗エストロゲン剤でないことが好ましい。本明細書において使用される「有効量」は、細胞内で本発明のポリペプチドの活性を阻害し、病気に関連する症状を減少させること、又はそれらの組み合わせに有効な量である。1つの側面において、組成物は、本発明の抗体の有効量を含んでよい。好ましくは、抗体は、タモキシフェンなどの化学療法剤に共有結合する。組成物は場合により、他の化学療法剤を含んでよい。剤又は抗体、好ましくは抗体、が本発明のこの側面において機能することが期待されるか否かが、エキソビボモデル及び動物モデルを用いて評価されることができる。かかるモデルは本分野において知られており、そしてヒトの病気又は治療方法の代表的なものとして一般に受け入れられている。かかる動物モデルの好ましい例は、ヌードマウスである。例えば、乳癌細胞は卵巣切除した雌性ヌードマウスの乳房の浅胸筋膜中に接種され、その後に病変が形成され、そして触診によって、ノギスによる測定によって、及び腫瘍重量によって評価される。トランスジェニック動物モデルも利用可能である。例えば、TRAMPモデル(例えば、Greenberg et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:2429-3443(1995)を参照のこと)などの前立腺癌の研究のためのモデル及びMMTV-Wnt-1モデル(例えば、Tsukamoto et al., Cell, 55:619-625(1988)を参照のこと)などの乳癌の研究のためのモデルは、ヒトの病気のためのモデルとして一般に受け入れられている。
【0096】
他の側面において、細胞はポリヌクレオチドを含む組成物と接触させられ、ここで、ポリヌクレオチドは本発明のポリペプチドをコードするコード領域の転写後サイレンシングを引き起こす。かかるポリヌクレオチドは本明細書においてサイレンシングポリヌクレオチドと呼ばれる。サイレンシングポリヌクレオチドは、RNAポリヌクレオチドとして、又は該RNAポリヌクレオチドをコードし発現させるDNAポリヌクレオチドを含むベクターとして細胞中に導入されてもよい。1種類を超えるポリヌクレオチドが投与されることができる。例えば、同じmRNAをサイレンシングするように設計された2つ以上のポリヌクレオチドが組み合わされ、そして本発明の方法において使用されることができる。或いは、2つ以上のポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドのそれぞれが異なるmRNAをサイレンシングするように設計されて、ともに使用されることもできる。
【0097】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」は、いかなる長さのポリマー形態のヌクレオチド、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、又はそれらの組み合わせのいずれかを指し、そして一本鎖分子及び二本鎖の両方を含む。ポリヌクレオチドは、自然の供給源から直接に得られることができ、又は組換え、酵素的、又は化学的技術によって調製されることができる。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは単離される。本明細書に記載の「標的コード領域」及び「標的コード配列」は、その発現がサイレンシングポリヌクレオチドによって阻害されるコード領域をさす。本明細書に記載の「標的mRNA」は、標的コード領域によってコードされるmRNAである。標的コード領域の例は、エキソン9によってコードされるヌクレオチド配列(配列番号25)を含む、ER-α36をコードするヌクレオチド配列(配列番号21)、5’フランキングヌクレオチド配列(配列番号20)、又は3’フランキングヌクレオチド配列である。
【0098】
サイレンシングポリヌクレオチドは、二重鎖RNA(dsRNA)ポリヌクレオチドを含む。サイレンシングポリヌクレオチドの配列は、本明細書においてセンス鎖とよばれる16〜30ヌクレオチド、例えば、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30ヌクレオチドの1本鎖を含む。センス鎖は標的mRNAに実質的に同一、好ましくは同一である。本明細書において使用される用語「同一」は、センス鎖のヌクレオチド配列が標的mRNAの部分と同じヌクレオチド配列を有することを意味する。本明細書において使用される用語「実質的に同一」は、センス鎖の配列が、標的mRNAの配列と1、2、又は3ヌクレオチド、好ましくは1ヌクレオチドにおいて異なり、残りのヌクレオチドがmRNAの配列と同一であることを意味する。センス鎖のこれらの1、2又は3のヌクレオチドは、非相補的ヌクレオチドと呼ばれる。サイレンシングポリヌクレオチドが、標的mRNAに実質的に同一なセンス鎖を含む場合、1、2、又は3の非相補的ヌクレオチドは、好ましくはセンス鎖の真ん中に位置する。例えば、センス鎖が21ヌクレオチド長である場合、非相補的ヌクレオチドは典型的にヌクレオチド9、10、11、又は12、好ましくはヌクレオチド10又は11である。本明細書においてアンチセンス鎖と呼ばれる、dsRNAポリヌクレオチドの他の鎖は、センス鎖に相補的である。「相補的」という用語は、2つの一本鎖ポリヌクレオチドがお互いに塩基対を形成する能力をさし、ここで、1つのポリヌクレオチド上のアデニンは第二のポリヌクレオチド上のチミン又はウラシルと塩基対を形成し、そして1つのポリヌクレオチド上のシトシンは第二のポリヌクレオチド上のグアニンと塩基対を形成する。サイレンシングポリヌクレオチドは、dsRNAポリヌクレオチドに対応する二重鎖DNAポリヌクレオチドも含む。本明細書中に開示される、センス鎖に対応する一本鎖RNAポリヌクレオチド及び一本鎖DNAポリヌクレオチド並びにアンチセンス鎖も含まれる。DNA配列として本明細書中に開示される配列が、各チミジンヌクレオチドをウラシルヌクレオチドに置換することによって、DNA配列からRNA配列に変換されることができることは理解されるべきである。限定することを意図せずに、本発明のポリヌクレオチドは、標的コード領域の転写後サイレンシングを引き起こす。サイレンシングにおける使用のためにポリヌクレオチドを修飾することは、本分野において知られており、サイレンシングポリヌクレオチドはそのように修飾されることができる。
【0099】
本発明のdsRNAサイレンシングポリヌクレオチドのセンス及びアンチセンス鎖もまた共有結合され、典型的にはヌクレオチドからつくられるスペーサーによって共有結合されることができる。かかるポリヌクレオチドはしばしば、本分野においてショートヘアピンRNA(shRNA)と呼ばれる。センス及びアンチセンス鎖の塩基対形成によって、スペーサー領域はループを形成する。ループを作っているヌクレオチドの数は変化することができ、3及び23の間のヌクレオチドループが報告されている(Sui et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 99, 5515-5520(2002)及びJacque et al., Nature, 418, 435-438(2002))。
【0100】
サイレンシングポリヌクレオチドは、標的コード領域の、サイレンシングとも呼ばれる転写後の発現阻害を引き起こす。理論によって制限されることを意図せず、細胞中への導入後、サイレンシングポリヌクレオチドは標的mRNAとハイブリダイズし、そして細胞エンドヌクレアーゼに標的mRNAを切断するというシグナルを送る。結果として、mRNAによってコードされるポリペプチドの発現が阻害される。標的コード領域の発現が阻害されるか否かが、例えば、細胞内での標的mRNAの量の減少を測定すること、mRNAによってコードされるポリペプチド量の減少を測定すること、又はmRNAによってコードされるポリペプチドの活性の減少を測定することによって決定される。サイレンシングポリヌクレオチドはベクター中に存在することができる。サイレンシングポリヌクレオチドは、そのそれぞれが発現されてdsRNAのセンス及びアンチセンス鎖を生じる2つの離れた相補的ポリヌクレオチド、又は、発現されてdsRNAのセンス及びアンチセンス鎖を有するRNAポリヌクレオチドを生じるセンス鎖、ループ領域、及びアンチセンス鎖を含む一本鎖ポリヌクレオチドとしてベクター中に存在することができる。
【0101】
サイレンシングポリヌクレオチドは、本分野で日常的な既知の方法を用いて設計されることができる。例えば、サイレンシングポリヌクレオチドは、コード領域AAジヌクレオチド配列をスキャニングすることによって同定されることができ;AA及びmRNAの下流(3’)に続く16〜30ヌクレオチドのそれぞれは候補ポリヌクレオチドのセンス鎖として使用可能である。候補ポリヌクレオチドは、それが本発明のポリペプチドの1つの発現を減少させるかを決定するために試験されるポリヌクレオチドである。候補ポリヌクレオチドは、該ポリペプチドをコードする領域内、又はmRNAの5’又は3’非翻訳領域内に位置するヌクレオチドと同一であることができる。場合により、そして好ましくは、候補ポリヌクレオチドは、1、2又は3、好ましくは1つの非相補的ヌクレオチドを含むように修飾される。他の方法は本分野において知られており、そして候補ポリヌクレオチドを設計し選択するために日常的に使用される。サイレンシングポリヌクレオチドは、センス鎖の5’末端にあるジヌクレオチドAAで始まってもよいが、そうである必要はない。候補ポリヌクレオチドはまた、1、2又は3個のヌクレオチド、典型的にはセンス鎖、アンチセンス鎖、又は両方の3’末端上のオーバーハングも含んでよい。候補ポリヌクレオチドは典型的には、候補ポリヌクレオチド配列をコード配列と比較するために、公然と利用可能なアルゴリズム(BLASTなど)を使用してスクリーニングされる。非標的コード領域によって発現されたmRNAと二量体を形成しやすいものは、典型的にさらなる考慮から除外される。そして、残りの候補ポリヌクレオチドは、それらが本明細書に記載のポリペプチドの1つの発現を阻害するか否かについて試験されることができる。
【0102】
一般に、候補ポリヌクレオチドは、候補ポリヌクレオチドを本発明のポリペプチドを発現する細胞中に導入することによって個々に試験される。候補ポリヌクレオチドは、インビトロで調製され、そして細胞中に導入されることができる。インビトロでの合成のための方法は、例えば、慣用のDNA/RNA合成装置による化学的合成を含む。合成ポリヌクレオチド及びかかる合成のための試薬の商業的供給者は周知である。インビトロでの合成のための方法は、例えば、無細胞系での環状又は直線状ベクターを用いるインビトロ転写も含む。
【0103】
候補ポリヌクレオチドは、候補ポリヌクレオチドをコードする構築体を細胞中に導入することによっても調製可能である。かかる構築体は、本分野で知られており、例えば、候補ポリヌクレオチドのセンス鎖及びアンチセンス鎖をコードし、発現するベクター、並びにRNAポリメラーゼIIIプロモーター及びRNAポリメラーゼIIIターミネーターなどの作動可能に連結された制御配列に隣接する候補ポリヌクレオチドのセンス鎖及びアンチセンス鎖をコードする配列を含むRNAポリヌクレオチドを生成するRNA発現カセットを含む。細胞は、エクスビボ又はインビボであることができる。候補ポリヌクレオチドは、動物モデルにおいて試験されてもよい。
【0104】
候補ポリヌクレオチドが機能して本明細書に記載のポリペプチドの一つの発現を阻害するか否かを評価する場合、候補ポリヌクレオチドを含む細胞中の標的mRNA量が測定されることができ、そして候補ポリヌクレオチドを含まない同種の細胞と比較される。細胞中のmRNAレベルの測定方法は本分野で知られており、そして日常的なものである。かかる方法は、定量的RT-PCRを含む。mRNAの増幅のためのプライマー及び特異的条件は、mRNAに依存して異なり、そして当業者によって容易に決定されることができる。他の方法は、例えば、ノーザンブロッティング及びアレイ分析を含む。
【0105】
候補ポリヌクレオチドが機能して、本明細書に記載のポリペプチドの1つの発現を阻害するか否かを評価するための他の方法は、該ポリペプチドをモニタリングすることを含む。例えば、mRNAによってコードされたポリペプチドの量の減少を測定するため、又はmRNAによってコードされたポリペプチドの活性の減少を測定するためにアッセイが使用されることができる。ポリペプチド量の減少を測定するための方法は、候補ポリヌクレオチドを含む細胞中に存在するポリペプチドについてアッセイし、そして候補ポリヌクレオチドを含まない同種の細胞と比較することを含む。例えば、本発明の抗体は、ウエスタンイムノブロッティング、免疫沈降又は免疫組織化学において使用されることができる。本明細書に記載のポリペプチドのそれぞれに対する抗体は商業的に入手可能である。本発明のポリペプチドの1つの活性の減少を測定するための方法も使用されることができる。
【0106】
キット
本発明は、細胞が本発明のポリペプチドを発現するか否かを決定することを含む、本発明の方法において使用されることのできる試薬を含むキットを提供する。かかるキットは、包装材料及び本発明の抗体を含むことができる。かかるキットはまた、医薬組成物などの、本発明の抗体を含む組成物の製剤のために医師によって使用されてもよい。
【0107】
包装材料は、抗体に保護された環境を提供する。例えば、包装材料は抗体が汚染されるのを防ぐ。さらに、包装材料は、液体中の抗体を乾燥から保護する。包装材料として使用可能な好適な材料の例は、ガラス、プラスチック、金属などを含む。かかる材料は、抗体の包装材料への吸着を防ぐためにシラン化されてよい。
【0108】
1つの例において、本発明は、包装材料、本発明のポリペプチドに特異的に結合する第一抗体、及びER-α66ポリペプチドに特異的に結合する第二抗体を含むキットを提供する。キットは場合により、緩衝液、反応容器、二次抗体及びシリンジなどの追加の構成要素を含んでよい。
【実施例】
【0109】
実施例1 カベオリン−1ハプロ不全が、正常な乳房上皮細胞のER-α発現の活性化及びエストロゲン刺激による形質転換を起こす
正常なヒト乳房上皮MCF10A細胞からの細胞クローンの遺伝子トラップライブラリーを、Harvard Medical SchoolのDr. Philip Lederの研究室から入手したポリ−Aトラップレトロウイルスベクター(RET)を用いて作製した(Ishida et al., Nucl. Acad Res., 27: 580 (1999))。すなわち、このベクターは、機能的な遺伝子をそれらの標的細胞における発現状態にかかわりなく有効に同定するための改善されたポリ−Aトラップ法を使用した。強力なスプライスアクセプターと有効なポリアデニレーションシグナルの組み合わせは、「トラップされた」遺伝子の機能の完全な破壊を確実にする。RETベクター内にプロモーターのないGFP cDNAが含まれることは、トラップされた遺伝子の発現パターンを生きた細胞において容易にモニターすることを可能とする。RETベクターを含むレトロウイルスを、MCF10A細胞を感染させるのに使用した。その後、細胞をG418‐耐性についてスクリーニングして、MCF10A細胞の遺伝子トラップライブラリーを確立した。G418による3週間の選択の後、「トラップされた」遺伝子の内因性のプロモーターの制御下において、GFP発現をモニターし、そしてG418耐性のGFP発現クローンを選択した。このライブラリーは、機能的遺伝子の一つの対立遺伝子がRETベクターによって破壊された、3×105の独立した感染クローンを表した。
【0110】
腫瘍抑制活性を有する遺伝子の発現の損失が形質転換された表現型を正常なMCF10A細胞に付与したと考えられた。ソフト寒天クローニングアッセイを実施し、そしてアンカー非依存性の増殖、形質転換された表現型の特徴を獲得した、遺伝子トラップされた細胞ライブラリーからの細胞を確認した。G418耐性細胞のライブラリーからの100超の陽性コロニー(30以上の細胞)がソフト寒天中で増殖したが、親であるMCF10A細胞は増殖しなかった。20の細胞クローンを単離し、増殖させ、そして通常の血清+10-8M 17b−エストラジオール(E2)及びデキストリン被覆したチャコールで処理したステロイドホルモンを含まない血清を含むソフト寒天中で再度、3週間選択した。追加のE2を含むソフト寒天中で促進された増殖を示した4つの細胞クローン(ST1、ST3、ST4、及びST6)を単離し、そして増殖させた(図3)。
【0111】
候補遺伝子のエキソンとポリAテイルの間にある未知の3’mRNA配列を捕捉することを可能とする3’−RACEを使用してその破壊がMCF10A細胞の形質転換に導く潜在的な遺伝子をクローニングした。MCF10A細胞の形質転換は陽性のエストロゲンシグナル伝達によると考えられた。RACE手順から得られた精製されたPCR断片をクローニングしそして配列決定した。BLASTIN検索を用いると、2つのクローン(ST1及びST3)からのDNA配列は第7染色体上に位置するカベオリン−1(Cav-1)エキソン−3(GenBank 寄託番号XM048940)に一致した。この結果は、Cav-1遺伝子の対立遺伝子が少なくとも2つのクローンにおいて破壊されていることを示した。Cav-1に加えて、2つの他の遺伝子を同じ技術を用いて同定した。クローンST4において破壊された遺伝子は、角化細胞膜の構造構築に関与する、コルニフィン(cornifin)/小さなプロリンリッチタンパク質ファミリーの一員である、SPRR1Bであった(GenBank寄託番号NT-004441.5)。クローンST6からの他の遺伝子は、既知の機能を有さない推定上の新規遺伝子(GenBank寄託番号6599139)である。
【0112】
Cav-1遺伝子をトラップした細胞においてCav-1発現レベルが減少したか否かを試験するために、親であるMCF10A細胞においてCav-1タンパク質レベルを分析した。上記の4つの細胞クローン(ST1、3、4及び6)並びにMCF10A-Ha-ras(Ha-ras突然変異によって形質転換されたMCF10A細胞)を分析した。ウエスタンブロット分析によって実証されたとおり、親であるMCF10A細胞におけるレベルに比べて、Cav-1タンパク質レベルはすべての形質転換された細胞において約2倍低かった(図4)。このデータは、ST1及びST3細胞においてcav-1遺伝子のたった一つの機能的対立遺伝子が機能的である場合、Cav-1発現が減少したのと一致する。これは、「遺伝子トラッピング」によって生じたCav-1ハプロ不全が、E2によって刺激された形質転換に導くことを示している。このデータはまた、Cav-1の下方制御がST4及びST6細胞における他の遺伝子の破壊の結果としての形質転換に関与することも示す。
【0113】
Cav-1ハプロ不全がエストロゲンにより刺激された細胞増殖及び形質転換に導くメカニズムを決定するために、上記の形質転換された細胞におけるER-α及びER-βの発現レベルを調べた。4つの形質転換された細胞クローンのすべてが、Ha-rasで形質転換された細胞に匹敵するレベルでER-αを発現する一方、親であるMCF10A細胞及び他の正常な乳房上皮細胞株である、HBL-100細胞、が検出不可能なレベルのER-αを発現したことがわかった(図5)。ER-β発現は被験細胞のすべてにおいていかなる変化も起こさなかった(図5)このデータは、ER-αの発現が活性化され、そして、これらの形質転換された細胞におけるエストロゲンシグナル伝達によってソフト寒天上でのエストロゲン刺激による細胞増殖がおこることを示している。ER-α発現及びエストロゲンシグナル伝達の両方がHa-rasで形質転換された細胞において活性化されることが以前に示された(Schekhar et al., Int. J. Oncol., 13:907(1998)及びShekhar et al., Am. J. of Pathol., 152:1129(1998))。この結果は、Ras/MAPK経路がER-α発現及び陽性のエストロゲンシグナル伝達に関与することを示している。
【0114】
これらの形質転換細胞におけるMAPK経路の活性化は、リン特異的な抗体を用いてERK1/2のリン酸化レベルを調べることによって分析した。ERK1/2は、すべての細胞において高度に且つ恒常的にリン酸化されるが、MCF10A細胞ではそうでないことがわかった(図6)。
【0115】
まとめると、これらのデータは、Cav-1/Ras/MAPK経路が、ヒト乳癌の発生の間のER-α発現の活性化に関与し、エストロゲンシグナル伝達経路と協同して形質転換細胞の増殖を刺激することを示している。
【0116】
実施例2 エストロゲン受容体アルファ(ER-α36)のアイソフォームの同定、クローニング、発現及び特徴づけ
上記の研究の過程で、Research Diagnostic, INC.からのラット抗ER-α抗体(クローンH222)を用いるウエスタンブロット分析において3つのタンパク質バンド(66kDa、46kDa及び36kDa)を一致して観察した。H-222抗体は、ER-αのリガンド結合ドメインを認識する。先の報告(Abbondanza et al., Steroids, 58:4(1993))によって示唆された、46kDa及び36kDaのタンパク質バンドがER-α66の分解産物であるという可能性を除くために、8M尿素を含む緩衝液を用いて細胞を培養プレート中で溶解させ、そしてウエスタンブロット分析によって試験した。Cav-1ハプロ不全細胞、ST1及びST3、そしてMCF7乳癌細胞において3つの異なるバンドを容易に観察した(図7)。これらの結果は、抗体H222によって認識される類似のエピトープを共有するER-αアイソフォームの存在を示した。
【0117】
文献の調査を通して、ER-α66のAF-1ドメインによって仲介されるトランス活性化のドミナントネガティブな阻害剤として機能する、ER-αの46-kDaアイソフォームがクローニングされたことがわかった(Flouriot et al., EMBO J., 19:4688(2000))。継続した調査により、5.4kbのcDNAを含む、正常なヒト子宮内膜cDNAライブラリーからのクローンを同定した(RZPDクローン番号:DKFZp686N23123)。このcDNAクローンは、理論的に予想分子量35.7kDaのタンパク質を生成することのできる310アミノ酸のオープンリーディングフレームを内部に有する。オープンリーディングフレームのcDNA配列は、ER-α66遺伝子のエキソン2〜6のDNA配列に100%一致した。cDNAの5’非翻訳領域(5’UTR)は、(ER-α66遺伝子の34,233bpの第一イントロンの最初の塩基対を1と名づけて)ER-α66遺伝子の734〜907の第一イントロンのDNA配列に対する100%相同性を示した。したがって、ER-α36の転写物は、ER-α66遺伝子の第一イントロン中の以前には同定されていなかったプロモーターから開始されると決定した。
【0118】
ER-α66遺伝子の第一イントロンの734〜907の小さな新規非コードエキソンを「エキソン1’」と名づけた。そして、エキソン1’をER-α66遺伝子のエキソン2中へ直接スプライシングし、ER-α66遺伝子のエキソン2〜エキソン6まで続けた。そして、エキソン6をER-α66遺伝子の64,141bp下流に位置するエキソン(GenBank寄託番号AY425004、表1を参照のこと)へスプライシングする。最後の27アミノ酸をコードするcDNA配列及び4,293bpの3’非翻訳領域が、染色体6q24.2−25.3上のクローンRP1-1304の遺伝子配列(GenBnak寄託番号AL078582)からの連続的な配列に100%一致したことは、この新規なER-αアイソフォームの残りのcDNA配列が、先に報告されたER-α66遺伝子の下流に位置する4,374bpの1つのエキソンから転写されたことを示している。このエキソンはしたがって、先に報告された8つのエキソン外のエキソンであることを反映してエキソン9と名づけた(図8)。これらのすべてのスプライシング事象を、スプライス連接部における完全なスプライスドナー及びアクセプターの同定が支持する。タンパク質ER-α36は、第二エキソン中に位置する完全なKozak配列から生成されることができ、同じ開始コドンがER-α46の生成に使用される(Flouriot et al., EMBO J., 19:4688(2000))。AF-1及びAF-2の両方の転写活性化ドメインを欠くことによってER-α36はER-α66と異なるが、二量体化、DNA-結合及び部分的なリガンド結合ドメインは保持している。それは、ER-α66のエキソン7及び8によってコードされる最後の138アミノ酸を置換するための、余分の特有の27アミノ酸ドメインも有する(図1)。ここで、ER-αの新規アイソフォームを本明細書においてER-α36を名づけた。
【0119】
ヒト胎盤RNA(Clonetech)から製造者により記載された手順にしたがって調製したMarathon Ready cDNAからのPCRを用いて、ER-α36をコードするオープンリーディングフレームを得た。PCRプライマー対は、DKFZp686N23123のcDNA配列にしたがって設計した。5’プライマーは、末端にEcoRI部位を有する5’−CGGAATTCCGAAGGGAAGTATGGCTATGGAATCC−3’(配列番号23)であり、3’プライマーは、末端にBamHI部位を有する5’−CGGGATCCAGAGGCTTTAGACACGAGGAAAC−3’(配列番号24)である。PCR産物を1%アガロースゲル上の電気泳動にかけ、そして予想された1.1kbのDNA断片を観察した(図9)。DNA断片を精製し、EcoRI及びBamHIで消化し、pBluescriptベクター(pBS-ER-α36)中にクローン化し、そして完全に配列決定した。配列は、cDNAクローンDKFZp686N23123に100%の同一性を示し、ER-α36が他の供給源からクローン化可能なER-αの天然のアイソフォームであることを示す。オープンリーディングフレームによってコードされたアミノ酸配列の予測を図10に示す。
【0120】
クローン化されたcDNAがER-α36タンパク質を生成するか否かを試験するために、ER-α66、ER-α46及びER-α36を含む発現ベクターを用いて、ヒト胚腎臓293細胞において、一過性トランスフェクションアッセイを実施した。これらのトランスフェクトされた細胞及びMCF7細胞からの全細胞抽出物を、ER-αのリガンド結合ドメインに対して作製したモノクローナル抗体H222を用いてウエスタンブロット分析に供した(Abbondanza et al., Steroids, 58:4(1993))。H222抗体によって認識された36kDaタンパク質を、ER-α36ベクターでトランスフェクトした細胞中で産生した(図11)。このタンパク質のサイズ及びそれがER-α66のB-ドメインに対する抗体H226並びにER-α66のC-末端を認識する抗体HC20と反応しないことは、ER-αアイソフォームが、ER-α66のN-末端及びC-末端の両方を欠き、結果としてAF-1及びAF-2ドメインの両方を欠くER-αアイソフォームをとなったことを示している。
【0121】
一連のコンピュータによる研究をER-α36タンパク質について実施した。FindMod 及びSCANPROSITEアルゴリズムは、ER-α36における3つのミリスチン酸付加部位を予測し、それが膜表面に位置するかもしれないことを示唆した。これは、ER-α36の21.7%、34.8%、17.4%、及び26%がそれぞれ、核、細胞質、ミトコンドリア、及び膜分画に局在することを予測するk最近傍推定(PSPORT II)アルゴリズムと一致した。これは、ER-α46についての予測と類似した(それぞれ、26.1%、30.4%、17.4%及び26・1%)。対照的に、ER-α66の73.9%、8.7%、0.1%及び17.3%は比較による予測である。したがって、ER-α66、ER-α46及びER-α36の示差的区分は、核受容体の機能部位及び主要な役割が異なるかもしれないことを示す。
【0122】
コンピュータによる研究をさらに、ER-α66遺伝子の第一イントロン中に位置するER-α36をコードする遺伝子の推定上の5’フランキング領域について実施した。TATA結合タンパク質(TBP)認識配列をcDNA開始部位の上流に、そして、いくつかのSp1、NF-κB及びAp1結合部位を5’フランキング領域中に発見した(図12)。完全な半分のエストロゲン応答要素(ERE)部位をER-α36の5’上流領域に見出したことは、ER-α36がE2を介する転写制御受けることを示している。
【0123】
実施例3 ER-α36が、膜性エストロゲンシグナル伝達を仲介し、そしてER-陰性乳癌において発現される
方法
細胞培養、安定な細胞株の確立及びE2-BSA-FITCによる膜の標識。MCF10A細胞をミズーリ州のデトロイトにあるKarmanos Cancer Instituteから、そして、ヒト胚腎臓293細胞及びすべての乳癌細胞をATCCから入手した。すべての細胞を5%CO2雰囲気中、37℃で適切な組織培養培地中で維持した。組換えER-α36を発現する安定な細胞を確立するために、HEK293細胞を60mm皿あたり1×105細胞の密度で播き、そして24時間後にFuGene6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals)を用いてサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターにより駆動されるER-α36発現ベクターによりトランスフェクトした。ER-α36の1.1-kb EcoRI-BamHI cDNA断片を、pBS-ER-α36から哺乳動物発現ベクターpCB6+のEcoRI及びBamHI部位へクローニングすることによって、ER-α36発現ベクターを構築した。対照として役立つために、空のベクターも細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を再播種し、そして500μg/mlのG418(Invitrogen)で2週間選択した。さらなる分析のために使用する細胞を作るために、得られたG-418耐性細胞のクローン化されない集団を増殖させた。組換えER-α36を発現する安定な細胞の表面を標識するために、細胞を4℃で15分間、E2β−ヘミサクシネート(Sigma)に共有結合した1μMのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識BSAで標識し、新たに調製した4%パラホルムアルデヒド中で固定し、そして顕微鏡による評価のために、DAPIを含む封入溶液を乗せた。
【0124】
エストロゲン及び抗エストロゲン剤による細胞の刺激、及びMTTアッセイ。処理の前、2.5%デキストリン被覆したチャコール処理したウシ胎児血清を含む、フェノールレッドを含まない培地で細胞を培養し、そして、PBSで洗浄し、新鮮なフェノールレッドを含まず、0.1μg/mlのBSA及び5μg/mlのインスリンを含む無血清培地中に12時間置いた。静止状態の細胞の刺激を、異なる期間、無血清培地中で37℃で実施した。異なるエストロゲン及び抗エストロゲン剤をSteraloids Inc.から購入した。BSA-E2βはSigmaから購入した。
【0125】
3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイのために、懸濁液中の細胞を96ウエル培養プレートの各ウエルに、最終濃度が1×103細胞/ウエルとなるように加え、そしてCO2インキュベータ中で37℃で24時間インキュベートした。10nM E2β、10nMのタモキシフェン又は4OH-タモキシフェン又は7.2nM UO126(Calbiochem)を含む培地を各ウエルに48時間、加えた。製造者の薦めのとおり、CellTiter96Aqueous One Solution Cell Proliferation Axxay Kit(BioRad)でMTTアッセイを実施した。マイクロプレートリーダー(Promega)を、490nmの吸収を測定するために使用した。
【0126】
細胞分画アッセイ。細胞分画をMarquezらの記載の通りに行った(Oncogene, 20, 5420-5430(2001))。
【0127】
ウエスタンブロット分析、間接的免疫蛍光法及び抗体。ウエスタンブロット分析のために、細胞をRIPA緩衝液で破壊し、ゲル負荷緩衝液中で煮沸し、10%SDS-PAGEゲル上で分離した。電気泳動の後、タンパク質をPVDF膜(Millipore)に移した。フィルターを様々な抗体でプローブし、そして好適なHRP-コンジュゲート2次抗体(Santa Cruz Biotechnology)及びECL試薬(Perkin Elmer Life Sciences)で可視化した。
【0128】
ERK1/2(K-23)に対する抗体をSanta Cruz Biotechnologyから購入した。MAPキナーゼ経路の活性化を分析するために使用する抗体は、Mek1及びERK1/2のリン酸化形態を含み、Cell Signaling Technologyから購入した。ラット抗-ER-α抗体(H222)をResearch Diagnostics Inc.から購入した。COPB(Y-20)、mSin3A(AK-11)、及び5’−ヌクレオチダーゼ(H-300)の抗体をSanta Cruz biotechnology Inc.から購入した。D4-GDI(クローン97A1015)をUpstate Biotechnologyから入手した。
【0129】
ER-α36に特有のER-α36のC-末端領域における最後の15アミノ酸にしたがって合成したペプチド抗原に対して、ポリクローナル抗-ER-α36抗体をウサギにおいて産生した。抗体産生に使用した合成ペプチドのアフィニティーカラムを、抗体の精製に使用した。ER-α36発現ベクターでトランスフェクトした、内因性のER-α36を発現しないHEK293細胞において、抗体の特異性も試験した。免疫蛍光アッセイは、抗-ER-α36抗体の免疫反応性シグナルが、ER-α36発現ベクターで一過性にトランスフェクトしたものにおいてのみ検出されたが、C-末端を欠くER-α36突然変異体を発現するトランスフェクタントでは検出されなかったことを示し、ER-α36抗体が高度に特異的であることを示唆した。
【0130】
DNAトランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ。一過性のトランスフェクションアッセイのために、6ウエルディッシュにHEK293細胞をサブシード(subseed)し、フェノールレッドを含まない培地+2.5%ステロイドを含まないウシ胎児血清中で60〜70%コンフルエントまで増殖させた。細胞を洗浄し、全部で5μgのプラスミド(2μgのレポータープラスミド2X ERE-tk-Lucと、1.5μgの発現ベクターpSG5、1.5μgのpSG hERα66又は1.5μgのpSG hERβ単独又は1.5μgのER-α36発現ベクター)とFuGene6試薬(Roche Molecular Biochemicals)で一過性にトランスフェクトした。チミジンキナーゼプロモーターの上流に位置する2つのERE(ニワトリビテロゲニンA2遺伝子の−331〜−289の配列)を含むレポータープラスミドを使用した(Kagtarine Pettersson, Karolinska Institute, Swedenから入手した2 X ERE-tk-Luc)。ER-α66及びβを含む発現ベクターも、Dr. Katarine Pettersson から入手した。ER-α46の発現ベクターは、Dr. Zafar Nawaz(Creighton University Medical Center, Omaha, Nebraska)から入手した。ルシフェラーゼ活性についてアッセイする前に、細胞をE2(10nM)の存在下又は非存在下で12時間処理した。ルシフェラーゼアッセイを、PromegaからのLuciferase Assay キットを用いて実施した。値は、3つ超の別々のトランスフェクション実験の平均±標準偏差に相当する。
【0131】
RNA抽出及びノーザンブロット分析。細胞の全RNAを、製造者の指示にしたがって、Trizol(Invitrogen)を用いて単離した。全RNAの10μgを1.2%ホルムアミド/ホルムアルデヒドゲル上の電気泳動で単離し、そしてナイロン膜(Hybond-N、Amersham Pharmacia Biotech)上にブロッティングした。ブロットをQuick-Hybridization溶液(Amersham Pharmacia Biotech)中、65℃で、1時間プレハイブリダイズ、2時間ハイブリダイズした。プローブは、ER-α36に特有のER-α36の3’非翻訳領域からの410bpのcDNA断片、及びBD Clonetech からのβアクチンDNAプローブを含んだ。DNAプローブを32P dCTP及びRediprime II DNA標識キット(Amersham Biotech)で標識した。増感紙を用いて−70℃で一夜、ブロットのオートラジオグラフィーを行った。同じ膜をはがし、標識β-アクチンDNAプローブで再プローブして等しい負荷を確認した。
【0132】
乳癌検体及び免疫組織化学アッセイ。パラフィン包埋されたヒト乳癌検体をSir Run Run Shaw Hospital, Hangzhou P. R. Chinaの病理学部門から得た。製造者の指示にしたがってUltraSensitive(商標)S−Pキット(Maixin-Bio, China)を用い、ER-α66特異的抗体(Lab Vision Corporation, USA)及びER-α36特異的抗体を一次抗体として、免疫病理化学的染色を行った。
【0133】
結果
ER-α36がER-α66の天然のアイソフォームであることをさらに確認するために、正常な乳房上皮細胞株、MCF10A、並びにER-陽性及び-陰性(すなわち、ER-α66-陽性及び-陰性)の乳癌細胞からの全RNAのノーザンブロット分析を実施した。RT-PCR法とER-α36に特有のER-α36の3'-非翻訳領域(5’−GCAAAGAAGAGAATCCTGAACTTGCATCCT(配列番号26)及び5’−TTAGTCAGGTATTTAATAACTAGGAATTG(配列番号27))にしたがって設計したプライマー対を用いてDNAプローブを合成した。ノーザンブロット分析は、5.6kbの推定サイズの単一のmRNAがER-陽性の(すなわち、ER-α66-陽性)乳癌細胞MCF7において同定されたが、MCF10Aではそうでなかったことを示した(図13)。驚くべきことに、ER-α36も、周知のER-陰性の(すなわち、ER-α66-陰性)乳癌細胞株、MDA-MB-231細胞において発現された(図13)。このデータは、予測されたサイズのER-α36mRNAによる転写物が乳癌細胞において発現され、そしてER-α66を欠く乳癌細胞においてさえ発現されたことを示す。
【0134】
ER-α36はリガンド結合した又はリガンド結合していないER-α66及び-βのトランス活性化活性を阻害する。我々は最初にAF-1及びAF-2ドメインの両方を欠くER-α36が転写活性を保持するか否かを試験した。チミジンキナーゼプロモーター(2X ERE-tk-Luc)の上流に位置する2つのエストロゲン応答要素(ERE)を含むルシフェラーゼ−発現レポーター構築体を用いてHEK293細胞における一過性のトランスフェクションアッセイを実施した。HEK293細胞株は、ER-α66のAF-1及び-2がHEK293細胞において等しく上手く機能することが先に報告された(Denger et al., Mol. Endocrinol., 15, 2064-2077(2001))ため、選択された。図14に示すように、我々は、ER-α36が両方の転写活性化ドメインを欠くことと一致して、ER-α36がE2βの存在下及び非存在下において、内因性の転写活性を示さないことを発見した。そして、我々は、ER-α66のAF-1及び-2ドメインによって仲介される転写トランス活性化活性におけるER-α36の制御機能を評価した。ER-α36の共発現は、E2βの存在下及び非存在下におけるER-α66のトランス活性化活性を強力に阻害し(図14)、ER-α66のAF-1及び-2ドメインによって仲介されるトランス活性化活性をER-α36が阻害することを示唆した。さらに、ER-α36は、ER-βのリガンド依存性及び非依存性のトランス活性化活性も阻害した(図14)。
【0135】
ER-α36は、膜性のエストロゲンシグナル伝達経路を仲介する。先の報告は、E2βがMAPK/ERK経路の急速な活性化を刺激することを示した(Razandi et al., Mol. Endocrinol., 13, 307-319(1999)、Watters et al., Endocrinol., 138, 4030-4033(1997)、及びMigliaccio et al., EMBO J., 15, 1292-1300(1996))。ER-α36がこのシグナル伝達経路に関与するか否かを決定するために、我々は、内因性のER-αを発現しないHEK293細胞中で外来性のER-α36を発現する安定な細胞を確立した。膜不透過性のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)とコンジュゲート形成したE2β-BSA(E2β-BSA-FITC)とともにER-α36でトランスフェクトした全HEK293細胞をインキュベートした。ER-α36でトランスフェクトした細胞の細胞表面は、E2β-BSA-FITCで強力に標識されたが、空のベクターでトランスフェクトした対照細胞はE2β-BSA-FITCで標識されなかった。未処理又は様々な時間E2β(10nM)で処理した静止細胞から細胞ライセートを調製した。ERKの活性化はリン酸化状態依存性及び非依存性の抗体を用いるイムノブロッティングによって測定した。約45分間続いたERK1/2のリン酸化における10倍の増加は、ER-α36発現ベクターでトランスフェクトした細胞においては5分以内で観察されたが、空のベクターでトランスフェクトした対照細胞では観察されなかった(図15a及び15b)。しかしながら、血清はこれらの対照細胞においてERK1/2を(10分間で20%)活性化することができ(図15b)、これらの細胞中のMAPKシグナル伝達経路の全体的な欠陥のないことを示した。さらに、ERK1/2をリン酸化し活性化するキナーゼであるMek1もまた、ER-α36でトランスフェクトした細胞中でE2βに応答して活性化される(図15a)。膜性のエストロゲンシグナル伝達によるERK1/2の活性化の証拠をさらに提供するために、ER-α36でトランスフェクトした細胞をE2βの膜不透過性の形態である、E2β-BSAでも処理した。E2β-BSA処理した細胞においてもERK1/2リン酸化の強力な活性化が観察された(図15a)。
【0136】
ER-α36は、異なるエストロゲン及び抗エストロゲン剤によって刺激されたMAPKシグナル伝達経路の活性化を仲介する。我々は、ER-α36でトランスフェクトした細胞を、エストロン(E1)、17β-エストラジオール(E2β)、17α-エストラジオール(E2α)、エストリオール(E3)、又はエステトロール(E4)でも10分間処理し、E1を除くこれらのエストロゲンがすべてERK1/2リン酸化を非常に類似したレベルで活性化し、ER-α36がこれらのエストロゲンを類似のレベルで認識することかもしれないことを示唆することを発見した(図15c)。そして、我々は、タモキシフェン、4OH-タモキシフェン、ICI-182,780を含む抗エストロゲン剤を実験に含ませ、ER-α36を介するエストロゲンシグナル伝達が抗エストロゲン剤に対して感受性であるか否かを試験した。タモキシフェン、4OH-タモキシフェン、及び純粋な抗エストロゲン剤ICI-182,780は、ER-α36によって仲介されるERK1/2の活性化をブロックしなかった。反対に、その効果はE2βのみによって仲介される効果にくらべてより強力であった(図15c)。ER-α36でトランスフェクトした細胞を、ER-α66及びβの両方を鈍らせることのできる濃度である1μMのタモキシフェンのみで処理した場合、8時間よりも長く続いた強力かつ持続的なERK1/2活性化を観察した(図15d)。しかしながら、同じ濃度のタモキシフェンは、空の発現ベクターでトランスフェクトした対照293細胞に何の効果も有さなかった。
【0137】
ER-α36はE2-刺激による細胞増殖を仲介する。さらに、エストロゲンにより活性化されたER-α36を介するMAPK経路が細胞核における転写シグナル伝達に導くことができるか否かを決定するために、我々は膜性のエストロゲンシグナル伝達が、MAPK/ERKシグナル伝達経路の下流のエフェクターである転写因子Elkを活性化する能力を調べた。我々は、ヒトElk1のERK応答性のトランス活性化ドメインに融合した酵母転写因子GAL4のDNA結合ドメインからなるERK応答性のGAL-Elkキメラ転写因子によって、ER-α36を発現する293細胞を一過性にトランスフェクトし、E2βの存在下におけるGAL-4結合レポーター遺伝子の発現に対するインビボでの活性を測定した。レポーター遺伝子は、5つのGal4 DNA結合部位を含むルシフェラーゼレポータープラスミドである、5X Gal4-LUCである。細菌のβガラクトシダーゼ発現ベクターを使用してトランスフェクション効率を制御した。トランスフェクション後、36時間エストロゲンを含まない培地中に培養細胞を維持した後、12時間E2β(10nM)を加えた。標準偏差を伴うルシフェラーゼ活性は、二連で実施した3つ以上の試験を代表するものである。ER-α36でトランスフェクトした細胞のエストロゲン処理は、Elk/Gal4融合タンパク質を介するレポーターのトランス活性化を2倍増加させるが、E2βは空のベクターでトランスフェクトした対照細胞におけるElk/Gal4融合タンパク質の転写活性に影響しなかった(図16a)。
【0138】
我々は次に、ER-α36がエストロゲン刺激による細胞増殖を仲介することができるか否かに取り組んだ。ER-α36でトランスフェクトした細胞及び対照細胞のE2βの存在下及び非存在化での増殖をMTTアッセイによって評価した。ER-α36でトランスフェクトした細胞の増殖は、E2β処理によって刺激されたが、一方、E2βは空の発現ベクターでトランスフェクトした対照細胞の増殖には効果を有さなかった(図16b)。タモキシフェン及び4OH-タモキシフェンを含む抗エストロゲン剤を含ませることは、E2β刺激による細胞増殖をブロックしなかった(図16b)。タモキシフェン又は4OH-タモキシフェンのみではER-α36でトランスフェクトした細胞の増殖を強力に刺激した。しかしながら、MAPK経路の特異的阻害剤であるUO126はE2β刺激による細胞増殖を強力に阻害した。これらのデータは、ER-α36を介する膜のエストロゲンシグナル伝達がMAPK/EPKシグナル伝達経路の活性化を通じて細胞増殖を刺激することを示唆している。データは、抗エストロゲン剤もER-α36を通じて細胞増殖を刺激することを示唆している。
【0139】
ER-α36は、主に膜に基づくエストロゲン受容体である。さらにER-α36を特徴づけするために、我々はER-α36に特有のER-α36のC-末端領域における15アミノ酸に対する抗ER-α36ポリクローナル抗体の開発に成功した。抗体を産生するために使用した合成ペプチドのアフィニティーカラムを抗体を精製するために使用した。正常な乳房上皮細胞及びこの抗体を用いて確立された乳癌細胞株から調製したタンパク質のウエスタンブロット分析は、いくつかの乳癌細胞において37kDaの分子量の単一のタンパク質バンドを示したが、正常な乳房上皮細胞では示さなかった(図17a)。ER-α36は、3つの周知なER-α66陰性乳癌細胞株、MDA-MB-231、MDA-MB-436及びHB3396細胞、において発現され、ER-α66陽性乳癌細胞ではMCF7で発現したが、T47Dでは発現せず(図17a)、ER-α36がER-α66陰性乳癌細胞中で発現するという、我々のノーザンブロットデータと一致した。ER-α36がER-α66陰性乳癌細胞において発現する可能性をさらに評価するために、透過処理したMDA-MA-231細胞における、抗−ER-α36特異的抗体を用いる間接免疫蛍光アッセイ及び共焦点顕微鏡観察は、ER-α36がER-α66陰性乳癌細胞、MDA-MB-231、の細胞膜上、細胞質及び核で発現することを示した。
【0140】
細胞中のER-α36の区画化をさらに評価するために、細胞成分分画アッセイを実施して、ER-α36で形質転換したHEK293細胞から核、細胞膜、及びサイトソルを単離した。ER-α36を異なる分画から免疫検出によって同定した。高パーセンテージ(約50%)のER-α36は細胞膜上に局在し、その低パーセンテージはサイトソル(約40%)及び核(約10%)に局在した。異なる分画の相互汚染を排除するために、分画の純度をmSin3A(核)、GDP解離阻害剤(サイトソル)、5’ヌクレオチダーゼ(細胞膜)、及びβ-COP(ゴルジ体)を含む異なるマーカータンパク質を用いるウエスタンブロット分析によって試験した。これらの結果は、異なる分画の間で汚染のないことを確認した。この実験は、ER-α36が主に膜に基づくエストロゲン受容体であることを確立した(図17b)。
【0141】
ER-α36は、ER-α66陰性乳癌検体において発現する。ER-α36のヒト乳癌に対する関連性をさらに決定するために、我々はヒト乳癌検体におけるER-α36発現パターンを、特異的な抗-ER-α36抗体を用いる免疫病理学アッセイによって調べた。ヒト乳房組織のインサイチュ分析は、乳癌におけるER-α36の上方制御を示した。ヘマトキシリンで、ER-タンパク質陽性の細胞は茶色に染色し、核は青く染色した。試験した35例の乳癌検体のうち、21例(60%)はER-α36陽性に染色し、21例(60%)はER-α66陽性であった(表2)。我々のノーザン及びウエスタンブロット分析と一致して、ER-α66陰性に染色した14のうち11(78%)の乳癌検体は、ER-α36陽性に染色し、ほとんどのER-陰性(すなわち、ER-α66陰性)乳癌がなおER-α36を発現することを示した。ヒト乳管癌中に見出された正常切片におけるER-α36のインサイチュ染色は、ER-α36が管腔上皮細胞中においてのみ発現し、そして主に細胞質及び細胞膜に局在することを示した。腫瘍切片はヒト浸潤性乳管癌及び侵入性乳管癌由来であった。21例すべてのER-α36陽性検体は、主に核が染色するER-α66とは逆に、主に細胞核の外でER-α36免疫染色パターンを示した。ER-α66のように、隣接する正常組織中のいくつかの管腔上皮細胞もER-α36陽性に染色した。これらの結果は、ER-α66と同様に、試験したヒト乳癌の3分の2においてER-α36が発現することを実証し、そしてER-α36がER-α66陰性乳癌の発生に関与するかもしれないことを示唆する。
【0142】
【表4】
【0143】
この研究において、ER-αの新規な変異体、ER-α36を同定し、クローン化し、そして特徴づけした。このER-αアイソフォームは、ER-α66遺伝子の第一イントロン中の先に同定されなかったプロモーターから始まる転写の産物である。ER-α36の仮定のプロモーター領域は、ER-α36cDNA開始部位の上流のTATA結合タンパク質(TBP)認識配列、及びいくつかのSp1、NF-κB、及びAp1結合部位を含む(図12)。我々は、ER-α36の5’フランキング領域をクローン化し、そしてそれが強力なプロモーター活性を有することを確認した。さらに、完全な半ERE部位が、ER-α36の5’フランキング領域において同定され、ER-α36がERを介する転写調節に供されることを示唆した。
【0144】
ER-α36タンパク質は、ER-α66遺伝子のエキソン2〜6によりコードされるER-α66タンパク質と同一である。このアイソフォームは、トランス活性化活性を有することが先に同定されたドメイン、AF-1及び-2を欠く。実際に、ER-α36トランス活性化活性の分析は、ER-α36が内因性の転写活性を欠くことを実証した。しかしながら、ER-α36は、リガンド結合した、およびリガンド結合しないER-α66及び-βのAF-1及び-2ドメインによって仲介されるトランス活性化活性を効率よく抑制し、ER-α36がゲノムのエストロゲンシグナル伝達の強力な阻害剤であることを示す。この発見は、AF-1ドメインを欠くER-α46が、ER-α66のAF-1活性を抑制する強力な競合剤として機能するという先の報告と対応する。
【0145】
迅速なエストロゲンシグナル伝達の引き金となる、細胞膜に基づくERの存在は、長い間、議論の余地のあるものであり、それは、この受容体の分子的アイデンティティーが確立されていなかったからである。先に、Razandi はER-α66及び-βの両方が膜エストロゲンシグナル伝達を開始することができるが、それらの非常にわずかなパーセンテージが細胞表面上に発現する(Razandi et al., Mol. Endocrinol., 13, 306-319(1999))、と報告されたトランスフェクションアッセイを用いて、これらのERが、ゲノムのエストロゲンシグナル伝達におけるそれらの伝統的な役割に加えて、膜性のエストロゲンシグナル伝達に関与するかも知れないことを示唆した。近年、ER-αの46kDaアイソフォームは細胞表面上に局在化され、そしてエストロゲン刺激によるeNOSリン酸化を仲介することが発見された(Li et al., Pro. Natl.Acadl Sci.USA,100、4807〜4812(2003))。ここで、我々は、他のER-α変異体、ER-α36が主に細胞膜上に局在化し、そして、膜性のエストロゲンシグナル伝達によって誘導されるMAPK/ERK経路の活性化を仲介することを実証した。さらに、ER-α36が内因性トランス活性化活性を完全に欠き、ゲノムのエストロゲンシグナル伝達のレギュレーターとしてのみ機能するため、ER-α36は主に膜に基づくエストロゲン受容体として作用し、膜を介するエストロゲンシグナル伝達を仲介する。先に、いくつかのE2βにより仲介される迅速な作用がER-α遺伝子ノックアウト(aERKO)マウスのニューロンにおいて発生し、そしてこれらの作用がICI182,780によってブロックされない(Gu et al., Endocrinology, 140, 660-666(1999))ことが報告され、1つ超の膜性のエストロゲンシグナル伝達経路の存在を示唆した。我々は、ここで、抗エストロゲン剤がER-α36により仲介されるMAPK/ERK活性化をブロックせず、ER-α36が、先に記載された抗エストロゲン剤非感受性シグナル伝達経路に関与することを示唆した。αERKOマウスが、マウスER-α遺伝子の最初のコードエキソン(ER-α36の転写物の生成において読み飛ばされるエキソン)の挿入による破壊によって作製されたため、ER-α36のマウス対応物の生成は、これらのノックアウトマウスにおいては正常のままである可能性がある。したがって、ER-α36は、これらのマウスにおいて観察されるエストロゲンの残りの効果に寄与するかもしれない。最近、Toran-Allerandらは、細胞膜に結合した、分子量63〜65kDaと推定される新規なエストロゲン受容体(ER-X)の存在を報告した(J. Neuroscience 22, 8391-8401(2002))。ER-Xは、ER-α66のリガンド結合ドメインに対する抗体と反応し、そしてE2α及びβの両方に等しくよく応答するなど、ER-α36とのいくつかの類似性を示す。しかしながら、これらの2つの受容体の分子的アイデンティティーは、ER-Xのクローニング及び配列決定を待つ。
【0146】
我々は、エストロゲン刺激による細胞増殖に導くMAPK/ERK経路の膜性の活性化をER-α36が促進することも示した。したがって、内因性の転写活性を欠くER-α36は、エストロゲン刺激による細胞増殖の促進に十分であり、ER-α66の転写不活性な変異体がDNA合成を誘導するという先の報告への支持を提供するものである。これらのデータは一緒に、ERの転写活性がエストロゲン刺激による細胞増殖の促進に必要でないかもしれないことを示唆する。驚くべきことに、我々は、タモキシフェンなどの抗エストロゲン剤がMAPK/ERKシグナル伝達を強力に活性化し、実験期間(48時間)の間、細胞増殖を刺激したことも観察した。この発見は、タモキシフェンがエストロゲンシグナル伝達のアゴニスト及びアンタゴニストの両方として機能するという考えとよく一致し、そして、ER-α36が膜性の抗エストロゲン剤シグナル伝達にも関与するかもしれないと示唆する。
【0147】
ER-α66陽性表現型の乳癌細胞(ER-陽性乳癌)が、ER-α-陰性腫瘍に比べて、より分化し、そしてより低い転移能を有することは周知である(McGuire, W.L. Prognostic factors in primary breast cancer. Cancer Surv. 5, 527-536(1986))。ER-α36がER-α66陽性乳癌のサブセットのみでなく、試験したほとんどのER-α66陰性乳癌においても発現されることは興味深い。これらの結果を実証して、エストロゲンアンタゴニストによってブロックされることのできないMDA-MB-231細胞におけるPI3K/Akt経路の迅速な活性化を、エストロゲンシグナル伝達が誘導したことが報告され(Tsai et al., Cancer Res., 61, 8390-8392(2001))、これはER-非依存性の経路を通じたエストロゲンシグナル伝達として説明された。高濃度のタモキシフェンも、MDA-MB-231細胞においてアポトーシスを誘導することが示された(Mandleker et al., Apoptosis 6, 469-477(2001))。これらのデータは、ER-α66-陰性乳癌がなお、膜性のシグナル伝達により仲介されるエストロゲン又は抗エストロゲン効果を保持するかもしれないことを強力に示唆する。
【0148】
ER-α36はまた、ER-α66中の12のヘリックスの最後の5つのヘリックス(ヘリックス8〜12)を、特有の27アミノ酸ドメインで置換することによる特有のリガンド結合ドメインを有し、これはER-α36のリガンド結合特異性及び親和性を変化させることができる。実際に、我々は、ER-α36がE2α及びβ、E3及びE4に対して等しくよく応答して、膜性のシグナル伝達を引き出すことを発見した。したがって、ER-α36は、ER-α66に比べてかなり広いリガンド結合スペクトルを有するようであり、これはER-α36を分裂促進的なシグナル伝達の潜在的により強力なメディエーターとする。ER-α36のリガンド結合特異性及び親和性のさらなる分析は、ER-α陰性(すなわち、ER-α66-陰性)の乳癌を治療するために使用されることのできるER-α36に特異的な抗エストロゲン剤の設計を助けるであろう。
【0149】
実施例4 E2βがソフト寒天中のER-α66陰性MDA-MB-231細胞の増殖を促進する
E2β及びタモキシフェンの一緒の又は別々の、存在下及び非存在下でのソフト寒天中での足場非依存性の増殖を決定するために、500個のMDA-MB-231細胞を、フェノールレッドを含まないDMEM/F12培地+E2を含まないウシ胎児血清10%を含む3.5%(重量/体積)寒天の3ml中に懸濁した。そして、5つのレプリカ60mm皿中のフェノールレッドを含まないDMEM/F12培地+E2を含まないウシ胎児血清10%を含む、0.7%(重量/体積)寒天上を細胞で覆った。ソフト寒天上の細胞を1nM E2βを含むか又は含まない培地+E2を含まないウシ胎児血清10%或いはこれと1nMタモキシフェンを併合したもので覆った。3週間後、倒立顕微鏡を用いてコロニーを数えた。図18に見られるように、我々は、E2処理が、ER-α66陰性MDA-MB-231細胞のソフト寒天中での足場非依存性の増殖を強力に促進したが、抗エストロゲン剤であるタモキシフェンはE2βの効果を阻害し、ER-α66陰性MDA-MB-231細胞がおそらくEr-α36を通じてエストロゲンシグナル伝達に対する応答性を保持することを示したことを発見した。
【0150】
実施例5 E2βがER-α66陰性MDA-MB-231細胞における膜性のエストロゲンシグナル伝達を誘導する
E2βが、ER-α66陰性MDA-MB-231における膜性のエストロゲンシグナル伝達を誘導するか否かを決定するために、血清不足のMDA-MB-231細胞を1nM E2βで異なる時間の間処理した。ウエスタンブロット分析のために、細胞をRIPA緩衝液で破壊し、ゲル負荷緩衝液中で煮沸し、そして10%SDS-PAGEゲル上で分離した。電気泳動後、タンパク質をPVDF膜(Millipore)に移した。フィルターをERK1/2に対する抗体(K-23)(Santa Cruz Biotechnology)又はERK1/2のリン酸化形態に対する抗体(Cell Signaling Technology)でプローブした。図19に見られるように、MDA-MB-231細胞のエストラジオール−17β(E2β)処理はERK1/2の急速なリン酸化を誘導した。これらのデータは、ER-α66陰性MDA-MB-231細胞においてE2βがMAPK経路の活性化を刺激することを強力に示唆する。
【0151】
すべての刊行物、特許及び特許出願は、参考文献として本明細書中に援用される。上記の明細書において本発明がその一定の好ましい実施態様に関連して記載され、多くの詳細が例示の目的でしめされた一方、当業者には、本発明にさらなる実施態様の余地があり、本明細書に記載の詳細のあるものは本発明の基本原理を離れることなくかなり変更されてよいことは明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1は、ヒトエストロゲン受容体−アルファ(ER-α)アイソフォームのドメイン構造を表したものを図示する。(A〜Fで標識された)ドメイン、アミノ酸配列番号付け、AF-1及びAF-2、DNA結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、及び二量体化ドメインが示される。各ドメインのリン酸化部位及び機能も示される。
【図2】図2は、ER-αの膜及びゲノムのシグナル伝達経路間の可能なクロストークを模式的に示す。Cav-1はカベオリンー1を表し、ER-αはエストロゲン受容体−アルファを表し;RTKは受容体チロシンキナーゼを表し;RasはRas癌遺伝子を表し;Mekは、MAP/ERKキナーゼを表し;MAPKはマイトゲン活性化プロテインキナーゼを表し;PI3Kは、ホスホイノシトール−トリホスフェートキナーゼを表し;AKTはプロテインキナーゼ13を表し;PDK1は、ホスホイノシトール依存性プロテインキナーゼを表し;RSKは、p90リボソームS6キナーゼを表す。
【図3】図3は、pRET感染したMCF10A細胞がエストラジオール(E2)存在下のソフト寒天中で大きなコロニーに増殖することを示す写真である。ST1クローンは、E2含有ソフト寒天中で増殖の促進を示した。MCF7及びMCF10A細胞は、それぞれ、陽性及び陰性対照として含まれる。
【図4】図4は、pRET感染したMCF10A細胞におけるカベオリンー1(Cav-1)発現の下方制御を示すウエスタンブロットである。様々な細胞株からの等量の全細胞抽出物を、抗−Cav-1ウサギ抗体(N20)を用いるウエスタンブロットによって分析した。Cav-1の位置を矢印で示し、各レーンにおける分析された細胞抽出物を各レーンの上部に示した。
【図5】図5は、pRET感染したMCF10A細胞におけるER-αの発現の上方制御を示すウエスタンブロットである。様々な細胞株からの等量の全細胞抽出物を、ER-α(H222)及びER-βに対する抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。ER-α及びER-βの位置を矢印で示し、各レーンにおける分析された細胞抽出物を各レーンの上部に示した。
【図6】図6は、pRET感染したMCF10A細胞におけるERK1/2リン酸化の活性化を示すウエスタンブロットである。上記細胞株からの等量の全細胞抽出物を、ERK1/2及びリン酸化ERK1/2に対する抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。
【図7】図7は、Cav-1ハプロ不全細胞、ST1及びST3並びにMCF7乳癌細胞における3つのER-αタンパク質の存在を示すウエスタンブロットである。上記細胞株からの等量の全細胞抽出物を、ER-αに対するH222抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。ER-α66、ER-α46及びER-α36の位置を矢印で示し、各レーンにおける分析された細胞抽出物を各レーンの上部に示した。
【図8】図8は、ヒトER-α遺伝子のゲノム構造を示す。複数のプロモーターの位置を矢印で示す。翻訳開始及び停止部位をAUG及びUGAで示す。エキソンを番号のついた四角で示す。イントロン1もエキソン1’とともに四角中に示す。下のパネルは、ER-αアイソフォームのmRNA構造を示す。ポリA部位はAAAで示す。
【図9】図9は、ER-α36のオープンリーディングフレームをコードするcDNAのPCRによる単離を示すアガロースゲルの写真である。ゲル中のcDNAの位置を矢印で示す。
【図10】図10は、ER-α36オープンリーディングフレームの予測されたアミノ酸配列を示す。アミノ酸位置を、アミノ酸配列(配列番号20)の左側上の数字によって示す。ER-α36に特有の最後の27アミノ酸に下線を引く。
【図11】図11は、ER-α66、ER-α46及びER-α36のウエスタンブロット分析を示す。ER-α66、ER-α46及びER-α36とマークしたレーンは、示したエストロゲン受容体アイソフォームをコードする発現プラスミドでトランスフェクトしたHEK293細胞の別々の培養であり、トランスフェクトした2日後に溶解させた。各トランスフェクタントのライセートを抗−ER-α抗体(H222)で免疫検出した。MCF7細胞からの細胞抽出物を陽性対照として使用した。ER-α66、ER-α46及びER-α36の位置は矢印で示した。
【図12】図12は、(a)ER-α36プロモーターを含む、ER-α36をコードする遺伝子の5’フランキング配列(配列番号22)のDNA配列及び(b)エキソン9によりコードされるヌクレオチドを含む、ER-α36をコードする3’フランキング配列(配列番号25)のDNA配列を示す。5’フランキング配列においては、仮定の転写結合部位に下線をひき、核酸配列に結合するタンパク質もまた示す。cDNAの開始部位もまた矢印で示す。
【図13】図13は、異なる乳癌細胞、MCF10A、T47D、MCF7、及びMDA-MB-231中のER-α36のノーザンブロット分析を示す。ER-α36及びアクチンの位置を矢印で示す。
【図14】図14は、ER-α66及びER-βのAF-1及びAF-2ドメインによって仲介される転写トランス活性化活性のER-α36による阻害を示す。(+E2)、E2処理した細胞;(−E2)、E2処理しない細胞。
【図15a】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜性のMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(a)ウエスタンブロットは、エストラジオール-17β(E2β)によるER36−293細胞の処理がMek1/2及びERK1/2それぞれの急速なリン酸化を誘導することを示す。P-Mek1/2及びP-ERK1/2、それぞれ、Mek1/2及びERK1/2のリン酸化形態。
【図15b】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜性のMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(b)E2βではなく、血清が対照ベクター-293細胞におけるERK1/2のリン酸化を誘導する。P-ERK1/2、ERK1/2のリン酸化形態。
【図15c】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜性のMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(c)異なるエストロゲン及び抗エストロゲン剤が、ER36-293細胞におけるERK1/2の急速なリン酸化を誘導する。P-ERK1/2、ERK1/2のリン酸化形態。
【図15d】図15は、ER-α36が、E2によって刺激された膜を介するMAPKキナーゼ経路を仲介することを示す。(d)タモキシフェン処理が、ER36-293細胞におけるERK1/2のリン酸化を恒常的に刺激する。P-ERK1/2、ERK1/2のリン酸化形態。
【図16a】図16は、ER-α36が、E2βにより誘導されたMAPKキナーゼ核シグナル伝達を仲介し、そして細胞増殖を刺激することを示す。(a)E2βのMAPKキナーゼ核シグナル伝達に対する効果。ER36-293及び対照ベクター-293細胞を一過性に5X Gal4-LUC,5つのGal4 DNA結合部位を含むルシフェラーゼレポータープラスミド及びGal4 DNA結合ドメインと融合されたELK転写活性化ドメインを含むGal-ELK発現ベクターでトランスフェクトした(上のパネル)。トランスフェクト後、培養細胞をエストロゲンを含まない培地中で36時間、12時間E2β(1nM又は10nM)を加える前に保持した。標準偏差を伴うルシフェラーゼ活性は、二連で実施した3つを超える実験を代表する。
【図16b】図16は、ER-α36が、E2βにより誘導されたMAPKキナーゼ核シグナル伝達を仲介し、そして細胞増殖を刺激することを示す。(b)E2β及び抗エストロゲン剤がER36-293細胞の増殖を刺激する。490nmにおける吸収データを示す。5つ以上の独立した実験の結果を平均し;平均及びSEMを示す。これらの結果の統計学的有意性も対のt−検定によって評価した。ER36-293及びベクター-293細胞についてのP値は0.001未満であった。
【図17a】図17は、ER-α36が主に膜に基づくエストロゲン受容体であることを示す。(a)異なる確立された乳癌細胞株におけるER-α36の発現のウエスタンブロット分析。同じブロットをはがし、抗-アクチン抗体でプローブして等しい負荷であることを確認した。
【図17b】図17は、ER-α36が主に膜に基づくエストロゲン受容体であることを示す。(b)ER-α36でトランスフェクトした293細胞におけるER-α36の細胞内位置。異なる細胞内分画中のER-α36のER-α36特異的抗体によるイムノブロット。W、全細胞ライセート;PM、細胞膜;C、サイトソル;N、核。細胞内分画の純度を、細胞膜、サイトソル、核及びゴルジ体のための多様なタンパク質マーカーでイムノブロットすることによって試験した。5'NT、5’ヌクレオチダーゼ;D4-GDI、GDP解離阻害剤;mSin3A、ヒストンリモデリング複合体の成分;COPB、βコートタンパク質。
【図18】図18は、E2βがER-α66陰性乳癌細胞、MDA-MB-231のソフト寒天中での増殖を促進することを示す。MDA-MB-231細胞をE2βの非存在下(0)、及び10nMのE2β(E2)、10nMのE2β及び10nMタモキシフェン(E2+TAM)並びに10nMのタモキシフェンのみ(TAM)の存在下で3週間増殖させた。
【図19】図19は、E2βが、ER-α66陰性乳癌細胞MDA-MB-231における膜性のエストロゲンシグナル伝達を誘導することを示す。MDA-MB-231のエストラジオール17β(E2β)による処理は、ERK1/2の急速なリン酸化を誘導した。細胞をE2β(10nM)で異なる時間の間処理し、溶解し、そして、リン酸化依存性及び非依存性の抗体を用いてウエスタンブロットで分析した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列に特異的に結合する単離された抗体、又はその免疫原性断片。
【請求項2】
モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ポリクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
ヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
化合物に共有結合している、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記化合物が化学療法剤である、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記化合物が検出可能なマーカーである、請求項5に記載の抗体。
【請求項8】
前記検出可能なマーカーが蛍光マーカーである、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1に記載の抗体を含む組成物。
【請求項11】
さらに医薬として許容可能な担体を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
抗体の作製方法であって、以下のステップ:
配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその免疫原性断片を動物に投与し;そして、
上記動物から抗体を単離すること
を含み、ここで、上記単離された抗体が上記アミノ酸配列に特異的に結合する、前記方法。
【請求項13】
上記ポリペプチド又はその免疫原性サブユニットが、担体ポリペプチドに共有結合している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記単離が前記動物から前記抗体を産生する細胞を得ることを含む、請求項12に記載の方法であって、さらに、該細胞を用いてモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製することを含む、前記方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法によって作製されるポリクローナル抗体。
【請求項16】
請求項14に記載の方法によって作製されるモノクローナル抗体。
【請求項17】
外来性のコード領域を含む細胞であって、ここで、該コード領域が配列番号20を含む第一のポリペプチド又は配列番号20に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む第二のポリペプチドをコードし、ここで、該第二のポリペプチドがER−α36活性を有する、前記細胞。
【請求項18】
前記コード領域が恒常的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
真核細胞である、請求項17に記載の細胞。
【請求項20】
原核細胞である、請求項17に記載の細胞。
【請求項21】
外来性のポリペプチドを発現する細胞であって、ここで、該ポリペプチドが配列番号20を含むか、又は配列番号20に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み且つER−α36活性を有する、前記細胞。
【請求項22】
前記コード領域が恒常的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項21に記載の細胞。
【請求項23】
真核細胞である、請求項21に記載の細胞。
【請求項24】
原核細胞である、請求項21に記載の細胞。
【請求項25】
ポリペプチドに結合する剤を同定するための方法であって、以下のステップ:
配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと剤を併合し;そして、
上記剤と上記ポリペプチドの間の複合体の形成を検出する;
を含む、前記方法。
【請求項26】
前記剤の前記ポリペプチドへの前記結合が、以下の:上記剤の上記ポリペプチドへの上記結合を直接的に検出すること、及び上記剤の上記ポリペプチドへの上記結合を競合結合アッセイを用いて検出すること、からなる群から選ばれる方法によって、検出される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
さらに、前記剤が配列番号18を含むポリペプチドに結合するか否かを決定することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
さらに、前記剤が前記ポリペプチドのER−α36活性を阻害するか否かを決定することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
ポリペプチドの検出方法であって、以下のステップ:
細胞を提供し;
上記細胞を、ER−α36活性及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動後に測定した36kDaの分子量を有するポリペプチドについて分析し;そして
上記細胞が上記ポリペプチドを発現するか否かを決定する;
を含む、前記方法。
【請求項30】
前記細胞がエクスビボである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記腫瘍が乳房腫瘍である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞がインビボである、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記腫瘍が乳房腫瘍である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記分析が、前記細胞を、配列番号1に示すアミノ酸配列又はその免疫原性断片に特異的に結合する抗体と接触させることを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体が検出可能なマーカーに共有結合される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記検出可能なマーカーが蛍光マーカーである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記分析が、mRNAポリヌクレオチドを増幅して、増幅されたポリヌクレオチドを形成することを含み、ここで、上記増幅が上記細胞から得られたポリヌクレオチドと、配列番号22又は配列番号25或いはその組み合わせを含むmRNAポリヌクレオチドを増幅するプライマー対を接触させることを含み、ここで、増幅されたポリヌクレオチドの存在が上記細胞が上記ポリヌクレオチドを発現することを示す、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
前記プライマー対のうちの1つのプライマーが配列番号22のヌクレオチド、配列番号25のヌクレオチドに相補的なヌクレオチド、又はその組み合わせから選ばれ、ここで、各プライマーが少なくとも15のヌクレオチドを有する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
細胞のER−α36活性を阻害する方法であって、配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現する細胞を、ER−α36活性を阻害する化合物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項42】
前記化合物が、配列番号1のアミノ酸13〜27に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞がインビボである、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞がER−α66陰性である、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞がER−α46陰性である、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記化合物が抗エストロゲン剤でない、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
配列番号1のアミノ酸13〜27に示すアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項48】
さらに、配列番号1のアミノ酸1〜12を含む、請求項47に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項49】
さらに、配列番号20に示すアミノ酸配列を含む、請求項48に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項50】
配列番号20に対して少なくとも70%の同一性を有する、単離されたポリペプチドであって、ここで、該ポリペプチドがER−α36活性を有する、前記ポリペプチド。
【請求項51】
配列番号1の免疫原性断片。
【請求項52】
配列番号1に示すアミノ酸配列に特異的に結合する単離された抗体及び包装材料を含む、キット。
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列に特異的に結合する単離された抗体、又はその免疫原性断片。
【請求項2】
モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ポリクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
ヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
化合物に共有結合している、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記化合物が化学療法剤である、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記化合物が検出可能なマーカーである、請求項5に記載の抗体。
【請求項8】
前記検出可能なマーカーが蛍光マーカーである、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1に記載の抗体を含む組成物。
【請求項11】
さらに医薬として許容可能な担体を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
抗体の作製方法であって、以下のステップ:
配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその免疫原性断片を動物に投与し;そして、
上記動物から抗体を単離すること
を含み、ここで、上記単離された抗体が上記アミノ酸配列に特異的に結合する、前記方法。
【請求項13】
上記ポリペプチド又はその免疫原性サブユニットが、担体ポリペプチドに共有結合している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記単離が前記動物から前記抗体を産生する細胞を得ることを含む、請求項12に記載の方法であって、さらに、該細胞を用いてモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製することを含む、前記方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法によって作製されるポリクローナル抗体。
【請求項16】
請求項14に記載の方法によって作製されるモノクローナル抗体。
【請求項17】
外来性のコード領域を含む細胞であって、ここで、該コード領域が配列番号20を含む第一のポリペプチド又は配列番号20に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む第二のポリペプチドをコードし、ここで、該第二のポリペプチドがER−α36活性を有する、前記細胞。
【請求項18】
前記コード領域が恒常的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
真核細胞である、請求項17に記載の細胞。
【請求項20】
原核細胞である、請求項17に記載の細胞。
【請求項21】
外来性のポリペプチドを発現する細胞であって、ここで、該ポリペプチドが配列番号20を含むか、又は配列番号20に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み且つER−α36活性を有する、前記細胞。
【請求項22】
前記コード領域が恒常的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項21に記載の細胞。
【請求項23】
真核細胞である、請求項21に記載の細胞。
【請求項24】
原核細胞である、請求項21に記載の細胞。
【請求項25】
ポリペプチドに結合する剤を同定するための方法であって、以下のステップ:
配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと剤を併合し;そして、
上記剤と上記ポリペプチドの間の複合体の形成を検出する;
を含む、前記方法。
【請求項26】
前記剤の前記ポリペプチドへの前記結合が、以下の:上記剤の上記ポリペプチドへの上記結合を直接的に検出すること、及び上記剤の上記ポリペプチドへの上記結合を競合結合アッセイを用いて検出すること、からなる群から選ばれる方法によって、検出される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
さらに、前記剤が配列番号18を含むポリペプチドに結合するか否かを決定することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
さらに、前記剤が前記ポリペプチドのER−α36活性を阻害するか否かを決定することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
ポリペプチドの検出方法であって、以下のステップ:
細胞を提供し;
上記細胞を、ER−α36活性及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動後に測定した36kDaの分子量を有するポリペプチドについて分析し;そして
上記細胞が上記ポリペプチドを発現するか否かを決定する;
を含む、前記方法。
【請求項30】
前記細胞がエクスビボである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記腫瘍が乳房腫瘍である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞がインビボである、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記腫瘍が乳房腫瘍である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記分析が、前記細胞を、配列番号1に示すアミノ酸配列又はその免疫原性断片に特異的に結合する抗体と接触させることを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体が検出可能なマーカーに共有結合される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記検出可能なマーカーが蛍光マーカーである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記分析が、mRNAポリヌクレオチドを増幅して、増幅されたポリヌクレオチドを形成することを含み、ここで、上記増幅が上記細胞から得られたポリヌクレオチドと、配列番号22又は配列番号25或いはその組み合わせを含むmRNAポリヌクレオチドを増幅するプライマー対を接触させることを含み、ここで、増幅されたポリヌクレオチドの存在が上記細胞が上記ポリヌクレオチドを発現することを示す、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
前記プライマー対のうちの1つのプライマーが配列番号22のヌクレオチド、配列番号25のヌクレオチドに相補的なヌクレオチド、又はその組み合わせから選ばれ、ここで、各プライマーが少なくとも15のヌクレオチドを有する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
細胞のER−α36活性を阻害する方法であって、配列番号1のアミノ酸13〜27に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現する細胞を、ER−α36活性を阻害する化合物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項42】
前記化合物が、配列番号1のアミノ酸13〜27に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞がインビボである、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞がER−α66陰性である、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞がER−α46陰性である、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記化合物が抗エストロゲン剤でない、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
配列番号1のアミノ酸13〜27に示すアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項48】
さらに、配列番号1のアミノ酸1〜12を含む、請求項47に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項49】
さらに、配列番号20に示すアミノ酸配列を含む、請求項48に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項50】
配列番号20に対して少なくとも70%の同一性を有する、単離されたポリペプチドであって、ここで、該ポリペプチドがER−α36活性を有する、前記ポリペプチド。
【請求項51】
配列番号1の免疫原性断片。
【請求項52】
配列番号1に示すアミノ酸配列に特異的に結合する単離された抗体及び包装材料を含む、キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図15d】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図15d】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2007−528406(P2007−528406A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502975(P2007−502975)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/007857
【国際公開番号】WO2005/087811
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506083040)クレイトン ユニバーシティ (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/007857
【国際公開番号】WO2005/087811
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506083040)クレイトン ユニバーシティ (6)
【Fターム(参考)】
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