説明

エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維

【課題】 電解液の吸液性、保液性および耐酸化性に優れた、アルカリ二次電池用セパレーターとして好適な繊維を提供すること。
【解決手段】 下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を含有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【化1】


(ここで、R1は水素原子または有機基を表わし、Xはエーテル結合を除く結合鎖を表わし、nは0または1を表し、R2〜R4はそれぞれ水素原子または有機基を表わす)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含有する繊維に関し、さらに詳しくは電解液としてアルカリ液を用いる二次電池のセパレータの材料として好適な繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下、EVOHと略記する)を原料とする繊維は、EVOH中に水酸基を有していることから、従来の合成繊維にない優れた親水性、吸放湿性を有しており、その単独繊維および他の熱可塑性樹脂との複合繊維はスポーツ用衣料等の素材として広く使用されていた。
その他様々な用途が検討されており、中でも、かかるEVOH繊維および複合繊維による不織布をアルカリ二次電池のセパレータに適用する検討が行われている。
【0003】
かかるセパレータは、電池の陽極活物質と陰極活物質とを隔離するもので、通常アルカリ二次電池では、ポリアミド繊維やポリオレフィン繊維からなる不織布が広く用いられている。
しかし、ポリアミド繊維は酸化されやすく、充電時に発生する酸素ガスによって酸化劣化するという欠点があった。また、ポリオレフィン繊維は親水性に劣るため、スルホン酸基導入などの親水化処理が必要となり、コストアップにつながる上、その親水性が長期間持続せず、さらに親水化処理を施したポリオレフィン繊維は劣化しやすいといった問題があった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、EVOHを含有する繊維およびその不織布を用いた電池用セパレータが検討されてきた。EVOHはその親水性から、電解液の吸液性・保持性への効果が期待でき、たとえば、特定ケン化度、エチレン含有量のEVOHからなるセパレータ用繊維(例えば、特許文献1参照。)や、特定エチレン含有量のEVOHとポリアミドとの混合物からなるセパレータ用繊維(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0005】
ところが、近年、アルカリ二次電池に対する小型化、高出力化の要求が大きくなり、それに伴って、セパレータも電解液の吸液性・保持性、耐酸化性に関してより高度な特性が求められるようになった。そこで、本発明者が、これらの特許文献に記載された電池セパレータ用繊維について詳細に検討したところ、現状の高度な要求に対しては、まだまだその特性が不充分であることが判明した。
【特許文献1】特開2002−227031号公報
【特許文献2】特開2002−242024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電解液の吸液性・保持性と耐酸化性に優れた、アルカリ二次電池用セパレータとして好適なEVOH繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、側鎖に1,2−グリコール構造を有する官能基を導入したEVOHによって、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の構造単位(1)を有するEVOHを含有する繊維であり、かかる構造単位を有するEVOHを、繊維に用いることに特徴を有するものである。
【化1】

(ここで、R1は水素原子または有機基を表わし、Xはエーテル結合を除く結合鎖を表わし、nは0または1を表し、R2〜R4はそれぞれ水素原子または有機基を表わす)
【0008】
本発明においては、EVOHがかかる構造単位を有することによって、従来のEVOH以上の優れた親水性や水分の保持性が得られ、かつかかる構造単位が酸化性条件等においても安定であることから、例えば電池セパレータの材料として用いた場合に、優れた電解液の吸液性、保持性が安定して得られるものと推定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のEVOH繊維は、電解液の吸液性・保持性と耐酸化性に優れており、アルカリ二次電池セパレータ用繊維として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されない。
【0011】
本発明のEVOH繊維は、下記構造単位(1)を含有するEVOH(A)を含有するEVOH繊維であり、R1は水素原子または有機基を表わし、Xはエーテル結合を除く結合鎖を表わし、nは0または1を表し、R2〜R4はそれぞれ水素原子または有機基を表わす。
【化2】

【0012】
本発明におけるEVOH(A)の組成は特に限定するものではない。
上記構造単位(1)のEVOH(A)中の含有量は通常0.1〜30モル%、好ましくは0.2〜20モル%、特に好ましくは0.3〜10モル%、殊に好ましくは1〜5モル%である。かかる含有量が小さすぎると本発明の効果が十分に発現されず、逆に多すぎると耐酸化性が低下する傾向にある。
また、かかる含有量を調整する際に、含有量の異なる少なくとも2種のEVOH(A)をブレンドして調整することも可能であり、そのうちの少なくとも1種が構造単位(1)を含有しないEVOHであっても構わない。
このようにして1,2−グリコール結合量が調整されたEVOHに関しては、1,2−グリコール結合量は重量平均で算出しても差し支えなく、またそのエチレン含有量についても重量平均で算出させても差し支えないが、正確には1H−NMRの測定結果より、エチレン含有量、1,2−グリコール結合量を算出することができる。
【0013】
さらに、本発明におけるEVOH(A)のエチレン含有量は通常0.1〜60モル%、好ましくは10〜60モル%、特に好ましくは20〜50モル%である。かかる含有量が少なすぎると繊維の強度が低下する傾向にあり、逆に多すぎると電解液の吸液性、保液性が低下する傾向にある。
ビニルアルコール構造単位の含有量は通常40〜90モル%、好ましくは50〜80モル%、特に好ましくは60〜70モル%である。かかる含有量が少なすぎる場合には親水性が低下する傾向があり、多すぎる場合には熱溶融安定性が低下するおそれがある。
残部は酢酸ビニル由来の構造単位である。
【0014】
EVOH(A)のケン化度は通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。ケン化度が低すぎると耐酸化性が低下する傾向にある。
【0015】
構造単位(1)の結合鎖(X)nのnが1の場合、エーテル結合を除くいずれの結合鎖を適用することも可能で、特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン等の非芳香族炭化水素鎖、フェニレン、ナフチレン等の芳香族炭化水素鎖(これらの炭化水素鎖はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、その中でも熱溶融安定性の点で非芳香族炭化水素鎖が好ましく、特にはアルキレンが好ましい。かかるアルキレンとしては、電解液の保液性が良好となる点で、炭素数が少ないものが好ましく、炭素数6以下のものが好適に用いられる。
なお、エーテル結合は溶融紡糸時に分解しやすく、EVOHの熱溶融安定性が低下する点で好ましくない。
【0016】
構造単位(1)のR1およびR2〜R4が有機基である場合、その有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0017】
本発明における最も好ましいEVOH(A)の構造は、構造単位(1)におけるR1、およびR2〜R4がすべて水素原子であり、結合鎖(X)nのnが0すなわち単結合であるものである。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位を含むものが好ましい。
【化3】

そして、本発明の共重合体の最も好ましい組成は、上記構造単位(1a)が1〜5モル%、エチレン含有量が20〜50モル%、ビニルアルコール構造単位の含有量は60〜70モル%、および残部が酢酸ビニル由来のビニルアセトキシ構造単位であるものである。
【0018】
本発明で用いられるEVOH(A)の製造方法については特に限定されないが、最も好ましい構造である構造単位(1a)を含有するEVOH(A)を例とすると、[1]コモノマーとして3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等を用い、これらとビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して共重合体を得、次いでこれをケン化する方法、あるいは、[2]コモノマーとしてビニルエチレンカーボネート等を用いてこれらとビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して共重合体を得、次いでこれをケン化、脱炭酸する方法、あるいは、[3]コモノマーとして2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン等を用い、これらとビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して共重合体を得、次いでケン化、脱アセタール化する方法等が挙げられる。
【0019】
中でも、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が共重合反応性に優れる点で好ましく、さらには3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとして、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いることが好ましい。また、これらのモノマーの混合物を用いてもよい。
また、少量の不純物として3,4−ジアセトキシ−1−ブタンや1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−ブタン等を含んでいても良い。
【0020】
以下、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンをコモノマーとした共重合方法について説明するが、これに限定されるものではない。
なお、かかる3,4−ジオール−1−ブテンとは、下記(2)式、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとは、下記(3)式、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテンは下記(4)式、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテンは下記(5)式で示されるものである。
【化4】

【化5】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化6】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化7】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【0021】
なお、上記の(2)式で示される化合物は、イーストマンケミカル社から、上記(3)式で示される化合物は工業生産用ではイーストマンケミカル社、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。また、1,4―ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することも出来る。
【0022】
又、ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0023】
3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等と、ビニルエステル系モノマー及びエチレン単量体を共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0024】
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用される。
なお、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等の共重合割合は特に限定されないが、前述の構造単位(1)の導入量に合わせて共重合割合を決定すればよい。
また、共重合体中のエチレン含有量は重合時のエチレンの圧力によって制御することが可能であり、目的とするエチレン含有量により一概にはいえないが、通常は25〜80kg/cm2の範囲から選択される。
【0025】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の飽和アルコール類やアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0026】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やt−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、α,α'ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート]、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類などの低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられる。
【0027】
重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して10〜2000ppmが好ましく、特には50〜1000ppmが好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により異なるが、通常は40℃〜沸点程度の範囲から選択することが好ましい。
【0028】
本発明では、上記触媒とともにヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸を共存させることが得られるEVOH(A)の色調を良好(無色に近づける)にする点で好ましく、該ヒドロキシラクトン系化合物としては、分子内にラクトン環と水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができ、好適にはL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が用いられ、また、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸等を挙げることができ、好適にはクエン酸が用いられる。
【0029】
かかるヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸の使用量は、特に限定するものではないが、酢酸ビニル100重量部に対して通常0.0001〜0.1重量部、好ましくは0.0005〜0.05重量部、特に好ましくは0.001〜0.03重量部であり、かかる使用量が少なすぎた場合にははこれらの添加効果が得られないことがあり、逆に多すぎた場合には酢酸ビニルの重合を阻害する結果となって好ましくない。
【0030】
かかる化合物を重合系に仕込むにあたっては、特に限定はされないが、通常は低級脂肪族アルコールや酢酸ビニルを含む脂肪族エステルや水等の溶媒又はこれらの混合溶媒で希釈されて重合反応系に仕込まれる。
【0031】
また、本発明では、前示一般式(1)の構造単位を含む、実質的にエチレンと酢酸ビニルからなる共重合体を製造するが、この際、場合によっては、共重合時に本発明の効果を阻害しない範囲で少量の共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよい。
【0032】
得られた共重合体は、次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等、炭素数1〜4の飽和アルコール類が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。
【0033】
ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等のモノマーの合計量に対して0.001〜0.1当量、好ましくは0.005〜0.05当量が適当である。
【0034】
かかるケン化方法に関しては目標とする鹸化度等に応じて、バッチ鹸化、ベルト上の連続鹸化、塔式の連続鹸化の何れも可能で、鹸化時のアルカリ触媒量が低減できることや鹸化反応が高効率で進み易い等の理由より、好ましくは、一定加圧下での塔式鹸化が用いられる。また、ケン化時の圧力は目的とするエチレン含有量により一概に言えないが、2〜7kg/cm2の範囲から選択され、このときの温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃から選択される。
【0035】
このようにして得られた本発明のEVOH(A)には各種配合剤を配合することができる。例えば、EVOH(A)に酢酸、リン酸、ホウ酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を添加するとEVOH(A)の熱安定性を向上させることができるので好ましい。
【0036】
EVOH(A)に添加される酢酸の添加量としてはEVOH(A)100重量部に対して通常は0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.010〜0.1重量部であり、かかる添加量が少なすぎた場合にはその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎた場合には均一な繊維を得ることが難しくなる傾向がある。
EVOH(A)に添加される酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属塩や酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム等のアルカリ土類塩や酢酸亜鉛、酢酸マンガン等の遷移金属塩があげられ、添加量としてはEVOH(A)100重量部に対して金属換算で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部であり、かかる添加量が少なすぎた場合にはその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎた場合には均一な繊維を得ることが難しくなる傾向がある。
【0037】
EVOH(A)に添加されるホウ素化合物としてはホウ酸や、ホウ酸金属塩が挙げられ、かかるホウ酸金属塩はメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等のリチウム塩、メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のナトリウム塩、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のカリウム塩、およびこれらアルカリ金属塩、ホウ酸カルシウム等のカルシウム塩、オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等のマグネシウム塩、オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等のバリウム塩、およびこれらのアルカリ土類金属塩、ホウ酸コバルト等のコバルト塩、ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等のマンガン塩、オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等のニッケル塩、ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等の銅塩、メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等のホウ酸銀類、四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等の亜鉛塩、オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等のカドミウム塩、メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等の鉛塩、ホウ酸ビスマス類等のビスマス塩、ホウ酸アルミニウム・カリウム等の複塩類などの他、メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物類があげられる。
【0038】
かかるホウ素化合物の添加量としては、EVOH(A)100重量部に対してホウ素換算で通常0.001〜1重量部、好ましくは0.002〜0.2重量部、特に好ましくは0.005〜0.1重量部であり、かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一な繊維を得るのが困難となり好ましくない。
【0039】
EVOH(A)に添加されるリン化合物としては、リン酸やリン酸金属塩が挙げられ、かかるリン酸金属塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のナトリウム塩、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等のカリウム塩、およびこれらのアルカリ金属塩または1価の塩、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム等のカルシウム塩、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等のマグネシウム塩、およびこれらのアルカリ土類金属塩、リン酸水素亜鉛、リン酸水素バリウム、リン酸水素マンガン等の2価の塩を挙げることができ、好適にはリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウムがあげられる。かかるリン酸化合物の添加量としては、EVOH(A)100重量部に対してリン酸根換算で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部であり、かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一な繊維を得るのが困難となる傾向がある。
【0040】
EVOH(A)に酸類やその金属塩を添加する方法については、特に限定されず、ア)含水率20〜80重量%のEVOH(A)の多孔性析出物を、酸類やその金属塩の水溶液と接触させて、酸類やその金属塩を含有させてから乾燥する方法、イ)EVOH(A)の均一溶液(水/アルコール溶液等)に酸類やその金属塩を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法、ウ)EVOH(A)と酸類やその金属塩を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、エ)EVOH(A)の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の酸類で中和して、残存する酢酸等の酸類や副生成する酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。本発明の効果をより顕著に得るためには、酸類やその金属塩の分散性に優れるア)、イ)またはエ)の方法が好ましい。
【0041】
上記ア)、イ)またはエ)の方法によってEVOH(A)に各種添加剤を添加した場合の乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能である。例えば、実質的にペレット状のEVOH(A)組成物が、機械的にもしくは熱風により撹拌分散されながら行われる流動乾燥や、撹拌、分散などの動的な作用を与えられずに行われる静置乾燥が挙げられ、流動乾燥を行うための乾燥器としては、円筒・溝型撹拌乾燥器、円管乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、振動流動層乾燥器、円錐回転型乾燥器等が挙げられ、また、静置乾燥を行うための乾燥器として、材料静置型としては回分式箱型乾燥器が、材料移送型としてはバンド乾燥器、トンネル乾燥器、竪型乾燥器等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。流動乾燥と静置乾燥を組み合わせて行うことも可能である。
【0042】
該乾燥処理時に用いられる加熱ガスとしては空気または不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)が用いられ、該加熱ガスの温度としては、40〜150℃が、生産性とEVOHの熱劣化防止の点で好ましい。該乾燥処理の時間としては、EVOH(A)組成物の含水量やその処理量にもよるが、通常は15分〜72時間程度が、生産性と熱劣化防止の点で好ましい。
【0043】
上記の条件で乾燥処理されるのであるが、該乾燥処理後の含水率は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜2重量%、特に好ましくは0.1〜1重量%であり、該含水率が少なすぎた場合には、ロングラン紡糸性が低下する傾向にあり、逆に多すぎた場合には、溶融紡糸時に発泡が発生するおそれがある。
【0044】
かくして目的とするEVOH(A)あるいはその組成物が得られるわけであるが、かかるEVOH(A)には、本発明の目的を阻害しない範囲において、多少のモノマー残査(3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、4,5−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等)やモノマーのケン化物(3,4−ジオール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン等)を含んでいてもよい。
【0045】
また、本発明で使用されるEVOH(A)は、構造単位(1)を含有するEVOHとこれと異なる他のEVOHのブレンド物であることも繊維の延伸性と延伸後の繊維強度を良好とする点で好ましく、かかる他のEVOHとしては、構造単位が異なるもの、エチレン含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、分子量が異なるものなどを挙げることができる。
【0046】
構造単位(1)を有するEVOHと構造単位が異なるEVOHとしては、例えばエチレン構造単位とビニルアルコール構造単位のみからなるEVOHや、EVOHの側鎖に2−ヒドロキシエトキシ基などの官能基を有する変性EVOHを挙げることができる。
【0047】
また、エチレン含有量が異なるものを用いる場合、その他の構造単位は同じであっても異なっていても良いが、そのエチレン含有量差は通常1モル%以上、好ましくは2モル%以上、特に好ましくは2〜20モル%である。かかるエチレン含有量差が大きすぎると延伸性が不良となる場合がある。また、異なる2種以上のEVOH(ブレンド物)の製造方法は特に限定されず、例えばケン化前のEVAの各ペーストを混合後ケン化する方法、ケン化後の各EVOHのアルコールまたは水とアルコールの混合溶媒に溶解させた溶液を混合する方法、各EVOHをペレット状、または粉体で混合した後、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0048】
かくして得られたEVOH(A)あるいはその組成物のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)についても特に限定はされないが、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜70g/10分、特に好ましくは10〜50g/10分であり、かかるメルトフローレートが小さすぎる場合には、溶融紡糸時に樹脂粘度が高くなり均一な繊維を紡糸することが困難となり、大きすぎる場合には繊維の強度が低下する傾向がある。
【0049】
かくして得られたEVOH(A)あるいはその組成物は、このままで繊維に加工することもできるが、本発明においては、かかるEVOH(A)に本発明の目的を阻害しない範囲において、さらに各種添加剤を配合した組成物として用いることもできる。かかる添加剤としては、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど)、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填材(例えば無機フィラー等)、他樹脂(例えばポリオレフィン、ポリアミド等)等が挙げられる。
【0050】
かくして得られたEVOH(A)あるいはその組成物を繊維化することで本発明のEVOH繊維が得られる。繊維化の方法については特に限定されるものではないが溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸等が挙げられ、中でも紡糸速度が速いこと、分割繊維の紡糸が容易であることから溶融紡糸が好ましく用いられる。
溶融紡糸の方法としては、特に限定されないが、公知の溶融紡糸機を用い、単一ノズルまたは複合ノズルから溶融紡糸される。紡糸温度は、EVOH(A)が溶融し、かつ変質しない温度で実施され、紡糸温度200〜320℃でEVOH(A)を押出し、所定の繊度の紡糸フィラメントを作製する。
【0051】
また、紡糸は単一繊維として紡糸されても良いが、不織布としたときの強度、柔軟性を良好とする為に、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂(B)との複合繊維として紡糸されることが好ましい。本願でいう複合繊維とは、単繊維中に成分の異なる2種類以上の樹脂が2相以上存在する繊維のことを意味し、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。
複合繊維の形状としては、例えば芯鞘型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、並列型複合繊維、分割型複合繊維、海島型複合繊維が挙げられ、その横断面形状としては特に限定せず、例えば円形、楕円形、のみならず中空、三角形、四角形、菱形、星形、偏平形等の異型等いずれであってもよい。
芯鞘型の場合は、鞘部分が(A)成分、芯部分が(B)成分である場合、および鞘部分が(B)成分、芯部分が(A)成分である場合のどちらでも採用可能であるが、好ましくは鞘部分が(A)成分、芯部分が(B)成分のものである。
分割型の場合は、(A)成分によって(B)成分が複数のセグメントに分割された場合、および(B)成分によって(A)成分が複数のセグメントに分割された場合のどちらでも採用可能であるが、好ましくは(B)成分によって(A)成分が複数のセグメントに分割されたものである。分割形状は公知の形状を採用することができるが、通常放射状に偶数分割されたものであり、好ましくは放射状に4〜8分割されたものである。
これらのなかでも保液性が良好である点から分割型複合繊維が好ましく用いられる。
【0052】
複合化される熱可塑性樹脂(B)としては特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系重合体、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系重合体等のホモポリマーあるいは共重合体、三元共重合体から任意に一あるいは二以上選択して使用することができる。
EVOH(A)と熱可塑性樹脂(B)EVOH組成物以外の樹脂の複合比(容積比)は、通常10/90〜90/10、好ましくは25/75〜75/25、特に好ましくは35/65〜65/35であり、EVOH(A)の複合比が小さすぎると電池セパレータとしたときの保液性が不足し、逆に多すぎると不織布の強度が不足する傾向がある。
【0053】
また、得られた紡糸フィラメントは、必要に応じて延伸され、延伸温度20〜90℃、延伸倍率2倍以上で処理すると、繊維強力が向上するので好ましい。そして、必要に応じて、捲縮付与装置で捲縮を与え、所定の長さに切断されて本発明のEVOH繊維が得られる。
【0054】
なお、EVOH繊維の繊維径は特に限定されるものではなく、その用途に応じて好ましい繊維径が選択されるが、通常0.1〜100デニールであり、特に電池セパレーターにおいては、電解液の保持性や電極活物質の移動防止のため、通常0.5〜50デニール、特に好ましくは1〜30デニールである。また、繊維長も同様であるが、湿式法によって不織布を形成する場合には、1〜70mm程度であることが好ましい。
【0055】
得られたEVOH繊維を用いて不織布を作成する方法については特に限定されず、不織布の形態としては、カード法、エアレイ法などにより得た乾式ウェブ、湿式法により得た湿式ウェブ、またはメルトブロー法やスパンボンド法などの直接法により得た繊維ウェブを単独、またはこれらを少なくとも1層含み2層以上に積層したものをニードルパンチ法またはスパンレース法などによる機械的交絡処理、熱ロール法、熱風接着法、超音波接合法などの熱接合処理、またはそれらの組み合わせにより不織布が作成される。
【0056】
次いで、繊維集合体は、ニードルパンチ法またはスパンレース法などによる機械的絡合処理、熱ロール法、熱風接着法、超音波接合法などの熱接合処理、またはそれらの組み合わせにより一体化される。例えば、繊維ウェブにスパンレース処理を施し、分割型複合繊維を分割させて繊度0.5デニール以下の極細繊維を形成させるとともに繊維間を交絡させるとよい。
【0057】
このようにして得られた不織布の目付けや見掛け密度は特に限定されるものではないが、通常、目付けが10〜100g/m2であり、見掛け密度が0.01〜10g/cm3である。特に電池セパレータの場合には目付けが30〜70g/m2、見掛け密度が0.1〜1g/cm3であるものが好ましく用いられる。なお、かかる不織布の一方向の引張強力は、30N/5cm以上であることが好ましく、特に、電池セパレータにおいては、50N/5cm以上であることが好ましい。引張強力が小さすぎると電池組み込み時の卷回性に劣り好ましくない。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
なお、以下「%」「部」とあるのは、特にことわりのない限り、重量基準を意味する。
【0059】
製造例1:EVOH(A1)
冷却コイルを持つ1m3の重合缶に酢酸ビニル500kg、メタノール100kg、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸20ppm(対酢酸ビニル)、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン14kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、エチレンで置換し、エチレン圧が35kg/cm2となるまで圧入して、攪拌しながら67℃まで昇温して重合を開始した。その後、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン4.5kgを15g/分の割合で添加、重合率が50%になるまで6時間重合し、エチレン含有量29モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を得た。
【0060】
得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を棚段塔(ケン化塔)の塔上部より10kg/時の速度で供給し、同時に該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を塔上部より供給した。一方、塔下部から15kg/時でメタノールを供給した。塔内温度は100〜110℃、塔圧は3kg/cm2Gであった。仕込み開始後30分から、構造単位(1)を含有するEVOH(A1)のメタノール溶液(EVOH(A1)30%、メタノール70%)が取出された。かかるEVOH(A1)のケン化度は99.5モル%であった。
【0061】
次いで、かかるEVOH(A1)のメタノール溶液をメタノール/水溶液調整塔の塔上部から10kg/時で供給し、120℃のメタノール蒸気を4kg/時、水蒸気を2.5kg/時の速度で塔下部から仕込み、塔頂部よりメタノールを8kg/時で留出させると同時に、ケン化で用いた水酸化ナトリウム量に対して6当量の酢酸メチルを塔内温95〜110℃の塔中部から仕込んで塔底部からEVOH(A1)の水/アルコール溶液(樹脂濃度35%)を得た。
得られたEVOH(A1)の水/アルコール溶液を、孔径4mmのノズルより、メタノール5%、水95%よりなる5℃に維持された凝固液槽にストランド状に押し出して、凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの含水率45%のEVOH(A1)の多孔性ペレットを得た。
【0062】
なお、得られたEVOH(A1)の構造単位(1)の含有量は、ケン化前のエチレン−酢酸ビニル共重合体を1H−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)で測定して算出したところ、2.5モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
以下、構造単位(1)を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体の構造を化学式(6)に示す。
【化8】


[化学式(6)中、(I)は構造単位(1)由来のユニットであり、(II)はエチレン由来のユニットであり、(III)は酢酸ビニル由来のユニットである。また、m、n、lはそれぞれ独立して1以上の整数を示す。]
【0063】
1H−NMR](化学式(6)、図1参照)
1.0〜1.8ppm:メチレンプロトン(図1の積分値a)
1.87〜2.06ppm:メチルプロトン
3.95〜4.3ppm:構造(I)のメチレン側のプロトン+ 未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのプロトン(図1の積分値b)
4.6〜5.1ppm:メチンプロトン+構造(I)のメチン側のプロトン(図1の積分値c)
5.2〜5.9ppm:未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのプロトン(図1の積分値d)
【0064】
[構造単位(1)含有量の算出法]
5.2〜5.9ppmに4つのプロトンが存在するため、1つのプロトンの積分値はd/4、積分値bはジオールとモノマーのプロトンが含まれた積分値であるため、ジオールの1つのプロトンの積分値(A)は、A=(b−d/2)/2、積分値cは酢酸ビニル側とジオール側のプロトンが含まれた積分値であるため、酢酸ビニルの1つプロトンの積分値(B)は、B=1−(b−d/2)/2、積分値aはエチレンとメチレンが含まれた積分値であるため、エチレンの1つのプロトンの積分値(C)は、C=(a−2×A−2×B)/4=(a−2)/4と計算し、構造単位(1)の含有量は、100×{A/(A+B+C)}=100×(2×b−d)/(a+2)より算出した。
【0065】
また、ケン化後のEVOHに関しても同様に1H−NMR測定を行った結果を図2に示す。1.87〜2.06ppmのメチルプロトンに相当するピークが大幅に減少していることから、共重合された3,4− ジアセトキシ−1−ブテンもケン化され、1,2−グリコール構造となっていることは明らかである。
【0066】
次に、得られたEVOH(A1)ペレットを、かかるペレット100部に対して水100部で洗浄した後、0.032%のホウ酸及び0.007%のリン酸二水素カルシウムを含有する混合液中に投入し、30℃で5時間撹拌した。その後、回分式通気箱型乾燥器にて、温度70℃、水分含有率0.6%の窒素ガスを通過させて12時間乾燥を行って、含水率を30%とした。さらに、回分式塔型流動層乾燥器を用いて、温度120℃、水分含有率0.5%の窒素ガスで12時間乾燥を行って目的とするEVOH(A1)組成物ペレットを得た。
【0067】
得られたEVOH(A1)組成物ペレットは、EVOH(A1)100重量部に対して、ホウ酸およびリン酸二水素カルシウムをそれぞれ0.015重量部(ホウ素換算)および0.005重量部(リン酸根換算)含有していた。また、このEVOH(A1)組成物のMFRは4.0g/10分(210℃ 2160g)であった。
【0068】
製造例2:EVOH(A2)
製造例1において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに代えて3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと3−アセトキシ−4−オール−1−ブテンと1,4−ジアセトキシ−1−ブテンの70/20/10(重量比)の混合物を用いた以外は同様に行い、エチレン含有量29モル%、ケン化度99.5モル%、構造単位(1)含有量2.0モル%のEVOH(A2)を得た。
さらに、製造例1と同様の処理を行い、EVOH(A2)100重量部に対して、ホウ酸含有量0.015重量部(ホウ素換算)、リン酸二水素カルシウム含有量0.005重量部(リン酸根換算)であるEVOH(A2)組成物ペレットとした。
かかるEVOH(A2)組成物のMFRは3.7g/10分(210℃、2160g)であった。
【0069】
製造例3:未変性EVOH
構造単位(1)を含有しない未変性EVOH(エチレン含有量29モル%、ケン化度99.5モル%)に対し、製造例1と同様の処理を行い、EVOH100重量部に対して、ホウ酸含有量0.015重量部(ホウ素換算)、リン酸二水素カルシウム含有量0.005重量部である未変性EVOH組成物を得た。
かかる未変性EVOH組成物のMFRは3.2g/10分(210、2160g)であった。
【0070】
実施例1
製造例1で得られたEVOH(A1)組成物ペレットとMFRが11g/10分(JIS K7210)のポリプロピレン(日本ポリプロ社製「ノバテックPP SA3A」)を用い、紡糸温度260℃、引取速度600m/minで溶融紡糸し、複合比50/50、2成分が放射状に8分割された繊維断面を有する繊度5デニールの未延伸糸フィラメントを得た。これを延伸温度100℃、延伸倍率3倍で延伸して、繊度1.7デニールの8分割複合繊維を得た。
得られた複合繊維を繊維長10mmになるように裁断して、水中に分散させ、濃度0.5%のスラリーを調製、湿式抄紙して目付50g/m2の原紙とし、スパンレース法にて交絡させて不織布を得た。
得られた不織布について、以下の評価を行った。
【0071】
[吸液性]
5cm×5cmの不織布試験片の重量(W0)を測定し、30℃の水酸化カリウム飽和水溶液に15分間浸漬させた後、水平な板の上におき、5kgの荷重をかけ30分間放置した後、試験片の重量(W1)を測定し、吸液率を下記式(7)より求めた。
吸液率(%)=(W1−W0)/W0×100 (7)
【0072】
[耐酸化性]
5cm×5cmの不織布試験片を充分に乾燥させた後、重量(W2)を測定し、30%の濃硫酸水溶液に60℃、24hr浸漬したのち、良く洗浄し、充分乾燥させた後、重量(W3)を測定し、下記式(8)より重量変化率を求めた。濃硫酸処理による重量変化率が小さい方ものほど耐酸化性が高いと評価される。
重量変化率(%)=(W2−W3)/W2×100 (8)
【0073】
実施例2
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A2)を使用した以外は同様に不織布を得て、同様に評価を行った。
【0074】
比較例1
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりに未変性EVOH組成物を使用した以外は同様に不織布を得て、同様に評価を行った。
【0075】
実施例及び比較例の評価結果を表1にまとめて示す。
〔表1〕


上記の結果より、本発明の不織布は、前記構造単位(1)を有していないEVOH繊維からなる不織布よりも電解液の吸液率が高いために、電池用セパレータとしたときに電池が充分な起電反応を起こすことができる。同様に、酸処理による重量変化が小さいために、電池が劣化しにくいという特徴を有することが示された。
本願発明の効果は前記構造単位(1)を有するEVOH(A)を含むことによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】重合例1で得られたEVOHのケン化前の1H−NMRチャートである。
【図2】重合例1で得られたEVOHの1H−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造単位(1)を有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を含有することを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【化1】

(ここで、R1は水素原子または有機基を表わし、Xはエーテル結合を除く結合鎖を表わし、nは0または1を表し、R2〜R4はそれぞれ水素原子または有機基を表わす)
【請求項2】
上記構造単位(1)のR1が水素原子であり、nが0であり、R2〜R4がいずれも水素原子であることを特徴とする請求項1記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項3】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)において、構造単位(1)の含有量が0.1〜30モル%であることを特徴とする請求項1または2記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項4】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項5】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が、ホウ素化合物を含有する組成物であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項6】
下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と、(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含有する複合繊維であることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【化2】

(ここで、R1は水素原子または有機基を表わし、Xはエーテル結合を除く結合鎖を表わし、nは0または1を表し、R2〜R4はそれぞれ水素原子または有機基を表わす)
【請求項7】
前記複合繊維が、分割型複合繊維であることを特徴とする請求項6記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(B)が、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体のいずれかであることを特徴とする請求項6または7記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項9】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)の複合比が、10/90〜90/10であることを特徴とする請求項6〜8いずれか記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項10】
繊維径が0.1〜100デニールであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維を含有することを特徴とする不織布。
【請求項12】
目付けが10〜100g/m2であることを特徴とする請求項11記載の不織布。
【請求項13】
請求項11または12記載の不織布を含むことを特徴とする電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154402(P2007−154402A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306638(P2006−306638)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】