説明

エチレン重合用触媒、それを用いたエチレン系重合体の製造方法、並びにエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子

【課題】重合活性、触媒粒子性状、パウダー粒子性状に優れ、かつ、耐久性と剛性のバランス、耐衝撃性、成形性、溶融流動性に優れたエチレン系重合体粒子を製造することができる新規なエチレン重合用触媒、それを用いたエチレン系重合体の製造方法、並びにそれによって得られるパウダー粒子性状、溶融流動性等に優れたエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子の提供。
【解決手段】無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を少なくとも一部のクロム原子が6価となる状態で担持させた後、さらに有機アルミニウム化合物(c)を担持させてなるクロム触媒であって、無機酸化物担体(a)は、無機酸化物が触媒粒子内部よりも触媒粒子表面に多く集中して存在する粒子構造を有し、かつ、有機アルミニウム化合物(c)は、無機酸化物担体(a)の表面に集中して存在することを特徴とするエチレン重合用触媒等によって提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレン重合用触媒、それを用いたエチレン系重合体の製造方法、並びにそれによって得られるエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子に関し、さらに詳しくは、重合活性、触媒粒子性状に優れ、かつ、パウダー粒子性状、溶融流動性に優れたエチレン系重合体粒子を製造することが可能な新規なエチレン重合用触媒、それを用いたエチレン系重合体の製造方法、並びにそれによって得られるパウダー粒子性状、溶融流動性等に優れたエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業分野において、プラスチック製のパイプ、フィルム、射出成型体、及び中空成形体が盛んに用いられるようになった。特に安価・軽量であり、成形加工性、低温強度、耐薬品性、リサイクル性に優れる等の理由からポリエチレン系樹脂(エチレン系重合体)が広範に用いられている。
一般に、エチレン系重合体は、重合触媒を用いたエチレンの単独重合によって、あるいは、エチレンとα−オレフィン等のコモノマーとの共重合によって製造されるが、用途に応じた適切な特性を有するエチレン系重合体を製造するために、様々な重合触媒が開発されている。現在、主要な重合触媒として、ラジカル重合触媒、チーグラー触媒、メタロセン触媒と並んで、フィリップス触媒が重用されている。
フィリップス触媒は、クロム化合物をシリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア等の無機酸化物担体に担持させ、非還元性雰囲気で賦活することにより、担持されたクロム原子の少なくとも一部のクロム原子を6価としたクロム触媒であるが、比較的広い分子量分布と長鎖分岐構造に起因する、優れた溶融加工特性を有するエチレン系重合体を生成することから、特に中空成形分野において重要なエチレン重合用触媒となっている。
【0003】
フィリップス触媒に用いられる無機酸化物担体に対するこれまでの研究成果を紹介すると、金属酸化物のヒドロゲルを微粉砕して得られる微粉末を担体とすることにより、重合活性やメルトインデックス特性、更には生成ポリマー粒子性状が改善されたクロム触媒が特許文献1〜2に開示されている。また、特許文献3には、酸化物担体を微粉砕することにより粒子形状を制御されたフィリップス触媒が開示されている。
しかしながら、これらの方法により得られたエチレン重合用触媒は、粉砕による粒子形状や微細構造の破壊が生じることを避けることはできないため、触媒粒子性状やα−オレフィン共重合性が悪かったり、重合活性や生成ポリマー粒子性状の改善が不十分であったりして、改善の余地が大きかった。
【0004】
また、特許文献4〜6には、結合剤によりゆるく結合させた固体担体粒子の粗凝集体粒子や、微粉砕したシリカゲルをケイ酸ナトリウムの硫酸水溶液に再分散させて噴霧乾燥して得られる球状粒子や、シリカ微細粒子の集合体から形成された球状二次粒子からなるシリカマクロポア粒子を担体として用いたオレフィン重合用触媒の例が開示されている。
しかしながら、これらの方法により得られたエチレン重合用触媒は、固体担体粒子や原料シリカゲルの粒子性状や微細構造の特性が凝集後の形状や微細構造にそのまま受け継がれるため、粒子の不均一性が生じることが避けられず、触媒粒子性状や生成ポリマー粒子性状が必ずしも良好なものではなく、また、α−オレフィン共重合性や重合活性の改善への寄与が不十分であった。
【0005】
またフィリップ触媒が持つ課題として、上記で説明した粒子担体の改善の他に、成形性、耐久性に優れ、且つ耐衝撃性及び剛性のバランスに優れ、特に優れた高剛性化を達成できるポリエチレン及び中空プラスチック成形品、特に高性能の燃料タンクに適したポリエチレン及びその製造方法が望まれている。
【0006】
このような耐衝撃性及び剛性のバランスの改善を指向した研究については、例えば、次の特許文献7〜10に記載の提案が挙げられる。
特許文献7には、非還元性雰囲気で焼成活性化した固体クロム触媒成分、ジアルキルアルミニウム官能基含有アルコキシド、トリアルキルアルミニウムからなるエチレン系重合用触媒が提案されており、ここでは、耐クリープ性及びESCRに優れた、HLMFRが1〜100g/10分、密度が0.935〜0.955g/cmのブロー成形品用のエチレン系重合体が開示されている。
しかしながら、この提案では、トリアルキルアルミニウム化合物を用いた場合、副生物として1−ヘキセンを生じやすくなるため、ESCR及び耐衝撃性がともに優れたポリエチレンの製造法として好適ではなく、また、中空プラスチック成形品、特に耐衝撃性に優れた自動車用燃料タンクに適したポリエチレンについては、何ら示唆も、開示もされていない。
【0007】
また、特許文献8には、クロム化合物を無機酸化物担体に担持させ、非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子を6価としたクロム化合物担持無機酸化物担体に、不活性炭化水素溶媒中で特定の有機アルミニウム化合物(アルコキシド、シロキシド、フェノキシド等)を担持させたクロム触媒を用いるエチレン系重合体の製造方法が提案され、耐環境応力亀裂(ESCR)と剛性のバランスに優れたエチレン系重合体が開示されている。
また、特許文献9には、クロム化合物を無機酸化物担体に担持し、非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子を6価としたクロム触媒及び特定の有機アルミニウム化合物(アルコキシド、シロキシド等)からなることを特徴とするエチレン系重合体製造触媒が提案され、ESCRまたは耐クリープ性に優れたエチレン系重合体が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献10には、クロム化合物を無機酸化物担体に担持し非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子を6価としたクロム触媒を用い、直列に連結した複数の重合反応器により連続的にエチレン単独またはエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合を多段で行うに際し、特定の有機アルミニウム化合物(アルコキシド、シロキシド等)をいずれか一つまたは全ての重合反応器に導入することを特徴とするエチレン系重合体製造方法が提案され、耐環境応力亀裂(ESCR)、耐クリープ性に優れたエチレン系重合体が開示されている。
しかしながら、これらの方法の場合、特許文献10に、分子量分布(Mw/Mn)が20.9(実施例)のエチレン系重合体が開示されているのみであって、中空プラスチック成形品、特に自動車用燃料タンクに適した耐衝撃性に優れたポリエチレンについては、何ら示唆も開示もされていない。
上記のほか、自動車用燃料タンクに用いられる市販ポリエチレンとして、例えば、日本ポリエチレン社製高密度ポリエチレン「HB111R」、Basell社製高密度ポリエチレン「4261AG」などが知られている。
これらは、自動車メーカーの厳しい要求に応え、市場での評価を得た材料であるが、耐久性と剛性のバランス、耐衝撃性、成形性のレベルが必ずしも十分に高いレベルであるとは言えない。
【0009】
こうした状況下に、従来のフィリップス触媒のもつ問題点を解消し、重合活性、触媒粒子性状、パウダー粒子性状に優れ、かつ、耐久性と剛性のバランス、耐衝撃性、成形性、溶融流動性に優れたエチレン系重合体を製造することが可能なエチレン重合用触媒の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−80414号公報
【特許文献2】特表2007−520610号公報
【特許文献3】特表2003−517506号公報
【特許文献4】特表2000−513402号公報
【特許文献5】特開2001−122612号公報
【特許文献6】特開2006−273667号公報
【特許文献7】特開2002−020412号公報
【特許文献8】特開2003−096127号公報
【特許文献9】特開2003−183287号公報
【特許文献10】特開2003−313225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来のフィリップス触媒のもつ問題点に鑑み、重合活性、触媒粒子性状、パウダー粒子性状に優れ、かつ、耐久性と剛性のバランス、耐衝撃性、成形性、溶融流動性に優れたエチレン系重合体を製造することが可能なエチレン重合用触媒、それを用いたエチレン系重合体の製造方法、並びにそれによって得られるパウダー粒子性状、溶融流動性等に優れたエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の粒子形状と微細構造を有する無機酸化物担体にクロム化合物を少なくとも一部のクロム原子が6価となる状態で担持させた後、さらに有機アルミニウム化合物を特定の状態に担持させてなる新規なクロム触媒を調製し、それをエチレン重合用触媒に用いたところ、重合活性や触媒粒子性状等に優れているだけでなく、パウダー粒子性状、溶融流動性そして、耐久性と剛性のバランスに優れたエチレン系重合体粒子を製造することが可能であるという良好な特性が発現されることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を少なくとも一部のクロム原子が6価となる状態で担持させた後、さらに有機アルミニウム化合物(c)を担持させてなるクロム触媒であって、無機酸化物担体(a)は、無機酸化物が触媒粒子内部よりも触媒粒子表面に多く集中して存在する粒子構造を有し、かつ、有機アルミニウム化合物(c)は、無機酸化物担体(a)の表面に集中して存在することを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて、触媒粒子の断面におけるアルミニウム原子含量を測定したとき、触媒粒子表面に存在するアルミニウム原子検出量が、触媒粒子内部に存在するアルミニウム原子より多いことを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0015】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、無機酸化物担体(a)の表面に有機アルミニウム化合物(c)が存在することにより、少なくとも一部の6価のクロム原子が還元されていることを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて、触媒粒子の断面におけるケイ素原子含量を測定したとき、触媒粒子表面に存在するケイ素原子検出量が、触媒粒子内部に存在するケイ素原子より多いことを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0017】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記エチレン重合用触媒は、下記(イ)〜(ハ)の工程により製造されることを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
(イ):無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を担持し、非還元性雰囲気において焼成活性化する
(ロ):クロム化合物(b)を担持した無機酸化物担体(a)に、さらに有機アルミニウム化合物(c)を不活性炭化水素溶媒中で担持させる
(ハ):最後に、前記不活性炭化水素溶媒を除去・乾燥させる
【0018】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記無機酸化物の主成分は、シリカであることを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0019】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、無機酸化物担体(a)は、ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸を反応させてシリカゾルとし、固形物を分離、乾燥して得られたものであることを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0020】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、無機酸化物担体(a)の粒径分布は、粒子径が250μm以上の粒子が全体の0.3重量%以下、メディアン粒径の1/10倍の粒径以下の粒子が全体の0.3重量%以下であることを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0021】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、有機アルミニウム化合物(c)は、ジアルキルアルミニウムアルコキシドであることを特徴とするエチレン重合用触媒が提供される。
【0022】
さらに、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明に係るエチレン重合用触媒を用いて、エチレン単独重合又はエチレンとα−オレフィンとの共重合を行うことを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、前記α−オレフィンは、炭素数が3〜8であることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法が提供される。
【0024】
さらに、本発明の第12の発明によれば、第10または第11の発明に係る方法により製造されるエチレン系重合体であって、温度190℃、荷重21.6kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が1〜100g/10分、密度が0.935〜0.960g/cmであることを特徴とするエチレン系重合体が提供される。
【0025】
また、本発明の第13の発明によれば、第10または第11の発明に係る方法により製造されるエチレン系重合体であって、温度190℃、荷重21.6kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が1〜15g/10分、密度が0.940〜0.955g/cmであることを特徴とするエチレン系重合体が提供される。
【0026】
さらに、本発明の第14の発明によれば、第10または第11の発明に係る方法により製造されることを特徴とするエチレン系重合体粒子が提供される。
【0027】
また、本発明の第15の発明によれば、第14の発明において、第12または第13の発明に規定する特性を有することを特徴とするエチレン系重合体粒子が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明のエチレン重合用触媒は、重合活性と触媒粒子性状に優れ、これを用いることにより、経済性と生産プロセス安定性に極めて優れたエチレン系重合体の製造方法を提供することが可能である。また、本発明のエチレン重合用触媒は、水素等の連鎖移動剤を用いることなく高MFRのエチレン系重合体を製造可能とし、ヘキセン等のα−オレフィンコモノマーとの優れた共重合性により少量のコモノマーで効率的にエチレン・α−オレフィン共重合体を製造可能とするので、この点においても経済性に優れている。更に、本発明の方法で製造されるエチレン系重合体粒子は、微粉が少なく球形の極めて優れた粒子性状を有するため、重合パウダー粒子の乾燥、保管サイロへの空送、各種添加剤との混合等が容易であり、また、ペレット化工程を経ることなく直接成形機へ供給することも可能であるため、重合反応工程はもちろんのこと、その後の工業生産工程上において経済的効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のエチレン重合用触媒が「擬似二元系触媒」であることを説明する模式図である。
【図2】本発明のエチレン重合用触媒に係るEPMA分析の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を担持し、少なくとも一部のクロム原子を6価としたクロム触媒に有機アルミニウム化合物(c)を担持させた触媒粒子性状が良いことを特徴とするエチレン重合用触媒、該エチレン重合用触媒を用いてなるエチレン系重合体の製造方法、さらには、該エチレン系重合体の製造方法によって得られるエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子に係るものである。以下、本発明を各項目ごとに説明する。
【0031】
[I]本発明のエチレン系重合用触媒
本発明のエチレン系重合用触媒は、無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を少なくとも一部のクロム原子が6価となる状態で担持させた後、さらに有機アルミニウム化合物(c)を担持させてなるクロム触媒であって、無機酸化物担体(a)は、無機酸化物が触媒粒子内部よりも触媒粒子表面に多く集中して存在する粒子構造を有すること、および、有機アルミニウム化合物(c)は、無機酸化物担体(a)の表面に集中して存在することを特徴とする。
ところで、本発明のエチレン系重合用触媒は、有機アルミニウム化合物担持クロム触媒であるが、その前駆体となる無機酸化物担体にクロム化合物を担持し、非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となるクロム触媒は、一般にフィリップス触媒として知られており公知である。
そして、この触媒の概要は、例えば、以下の文献に記載されている。
(i)M.P.McDaniel著,Advances in Catalysis,Volume 33,47頁,1985年,Academic Press Inc.
(ii)M.P.McDaniel著,Handbook of Heterogeneous Catalysis,2400頁,1997年,VCH
(iii)M.B.Welchら著,Handbook of Polyolefins:Synthesis and Propert
【0032】
本発明でエチレン重合用触媒として使用されるクロム触媒は、上記フィリップス触媒を改良することによって、後述するような、触媒粒子内部よりも該触媒粒子表面に無機酸化物が多く集中して存在するという従来に無い特徴的な粒子構造を保有せしめた担体をつかったものである。この特徴的な粒子構造の形成は、使用する無機酸化物担体の粒子構造、粒子内細孔構造等を高度に制御することにより達成されたものである。以下、本発明を項目毎に具体的に説明する。
【0033】
I.有機アルミニウム化合物担持クロム触媒
クロム化合物を無機酸化物担体に担持し、非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となるクロム触媒は、一般にフィリップス触媒として知られており、公知である。なお、この触媒の概要は、前述の各文献に記載されている。
【0034】
1.無機酸化物担体(a)
無機酸化物担体としては、周期律表第2、4、13または14族の金属の酸化物を用いることができる。具体的には、マグネシア、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、トリア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナまたはこれらの混合物が挙げられる。
ESCR及び耐衝撃性が共に優れた自動車用燃料タンク用途には、無機酸化物担体として、シリカのみのほうが好ましい。シリカ以外のものを担体として用いたとき、重合活性が低下、あるいは、ポリエチレン系重合体の低分子量成分の増加が原因であると考えられるが耐衝撃性が低下する傾向にある。
そして、これらのクロム触媒に適する担体の製法、物理的性質および特徴は、例えば、以下の文献に記載されている。
(i)C.E.Marsden著,Preparation of Catalysts,Volume V,215頁,1991年,Elsevier Science Publishers
(ii)C.E.Marsden著,Plastics,Rubber and Composites Processing and Applications,Volume 21,193頁,1994年
【0035】
本発明によるエチレン重合用触媒は、触媒粒子内部よりも該触媒粒子表面に無機酸化物が多く集中して存在するという従来に無い特徴的な粒子構造を保有した担体を使ったものである。この特徴的な粒子構造の形成は、使用する無機酸化物担体の粒子構造、粒子内細孔構造等を高度に制御することにより達成されたものである。
【0036】
本発明においては、クロム触媒の担体の比表面積が250〜800m/g、好ましくは300〜700m/g、さらに好ましくは450〜600m/gと、なるように担体を選択することが好ましい。比表面積が250m/g未満の場合は、分子量分布が狭くかつ長鎖分岐が多くなることと関係すると考えられるが、耐久性、耐衝撃性がともに低下する。また、比表面積が800m/gを超える担体は、製造が難しくなる。
【0037】
担体の細孔体積としては、一般的なクロム触媒に用いられる担体の場合と同様に、0.5〜3.0cm/g、好ましくは1.0〜2.0cm/g、さらに好ましくは1.2〜1.8cm/gの範囲のものが用いられる。細孔体積が0.5未満の場合は、重合時に重合ポリマーによって細孔が小さくなり、モノマーが拡散できなくなってしまい活性が低下する。細孔体積が3.0cm/gを超える担体は、製造が難しくなる。
また、担体の平均粒径としては、10〜200μm、好ましくは20〜150μm、さらに好ましくは30〜100μmの範囲のものが用いられる。上記範囲を外れると、ESCR及び耐衝撃性のバランスがとりにくくなる。
また、優れた粒子性状のエチレン重合用触媒を得るためには、更には、後述する微粉が少なく球形の極めて優れた粒子性状を有するエチレン系重合体粒子を得るためには、前記無機酸化物担体は、径が250μm以上の粒子が全体の0.3重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることが更に好ましく、検出されないことが特に好ましい。更には、メディアン粒径の1/10倍の粒径以下の粒子が全体の0.3重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることが更に好ましく、検出されないことが特に好ましい。
【0038】
上述のような無機酸化物担体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、その一つとして、凝集成長法で合成した非晶質シリカ等の定形粒子とシリカヒドロゲルを微粉砕して得られた非晶質シリカ微粒子の混合スラリーを噴霧造粒して製造する方法が挙げられる。この製造方法によると、該定形粒子を主成分とするコアと該微粒子を主成分とするシェルから構成される非晶質シリカ系複合粒子が得られることが、例えば特開平11−60230号公報等に詳細に記載されている。
【0039】
コアを形成する粒子としては、凝集成長法で合成される非晶質シリカ等の定形粒子が好ましいが、それ以外にも、非晶質シリカ微粒子との混合スラリー形成と噴霧造粒に支障の無い範囲内で粒子形状を保持している粒子であればよく、例えば、従来公知の製法によるシリカゲル粉砕品を噴霧造粒して粒子形状を賦形した粒子も使用可能である。
凝集成長法による定形粒子は、ケイ酸アルカリ水溶液と酸水溶液の混合液を放置して生成する粒状ゾルとして得られるが、このとき、凝集成長剤としてカルボキシメチルセルロース、アクリルアミド系重合体等の水溶性高分子を添加したり、更に凝集成長助剤として、上記以外にも水溶性高分子や、水溶性無機電解質である金属鉱産塩あるいは有機酸塩を使用することも出来る。
その際、助剤として使用可能な水溶性高分子としては、例えば、澱粉、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビヤガム、トラガントガム、プリテイシュガム、クリスタルガム、セネガールガム、PVA、ポリアクリル酸ソーダ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、等のノニオン系の高分子を使用することができ、また、水溶性無機電解質としては、アルカリ金属塩、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等のアルカリ金属の鉱酸塩;アルカリ土類金属塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム等の鉱酸塩;塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸チタニル等の他の水溶性金属塩を使用することができる。
【0040】
析出条件としては、一般に0〜100℃、好ましくは10〜40℃の温度で、1〜50時間、好ましくは3〜20時間程度の放置が適している。一般に、温度が低い程、析出粒子の粒径が大きくなり、温度が高い程析出粒子の粒径が小さくなるので、温度を制御することにより、粒状物の粒径を制御可能である。該定形粒子の粒径は電子顕微鏡で測定して、0.1〜20μm、好ましくは0.3〜15μm、さらに好ましくは0.5〜10μmの数平均粒径を有するものである。また、ゾル形成時に、ケイ酸アルカリ以外にアルミナゾルやアルミニウムイオン等の他金属源を共存させることにより、複合酸化物粒子を得ることも出来る。更には上記以外の従来公知の方法により入手可能な無機酸化物粒子、例えば酸処理ゼオライト、イオン交換焼成ゼオライト、各種ケイ酸塩、粘土等の粒子を使用することが出来る。
【0041】
シェルを形成する非晶質シリカ微粒子は、シリカゾルをそのまま使用することも出来るが、取り扱いの利便上、シリカゲルの湿式粉砕物を用いるのが好ましい。シリカゾルあるいはシリカゲルは、通常従来公知の方法であるケイ酸アルカリ水溶液と酸水溶液との反応物が用いられる。ゾル形成時に、複合酸化物微粒子を得ることを目的として、ケイ酸アルカリ以外にアルミナゾルやアルミニウムイオン等の他金属源を共存させることも出来る。湿式粉砕により、2次粒子の粒径が4μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.5μm以下の微細ヒドロゲルスラリーを準備し、非晶質シリカ系複合粒子の製造に用いられる。
上記の定形粒子と微粒子のスラリーを噴霧造粒することにより、本発明のエチレン重合用触媒の担体として好適な無機酸化物担体を製造する。噴霧造粒に供するスラリーとしては、該定形粒子と微粒子がSiO基準のシリカ重量比が好ましくは20:80〜80:20、更に好ましくは30:70〜70:30で混合されたスラリーが用いられる。
【0042】
無機酸化物担体の粒子構造は、噴霧造粒時のノズル径、噴霧速度、原料濃度、原料組成等、従来公知の噴霧造粒条件を適宜選択することによって調整することが可能であり、無機酸化物の粒子表層と内部の濃度の大小は、該定形粒子と該微粒子の混合量比、スラリー濃度比によって制御が可能であり、該微粒子の含有量を大きくすると表層部の厚みを厚くなり、小さくすると厚みは薄くなり、該定形粒子の粒子サイズを大きくすると表層部の厚みは薄くなり、小さくすると厚みは厚くなる傾向にある。
【0043】
また、無機酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔径等の粒子内構造である細孔性状は、原料として使用する該定形粒子及び該微粒子の細孔性状を変化させることによって各々独立に制御することが可能である。該定形粒子及び該微粒子の細孔性状については従来公知の様々な方法が知られている。こうして得られた無機酸化物担体はそのまま使用しても良いし、従来公知の分級操作により好ましい粒径に調整したものを使用することも可能である。
また、上述のような無機酸化物担体を製造する方法の別の方法の一つとして、適切に選択された界面活性剤の共存下において生成せしめたヒドロゲルを利用する方法も考えられ、これについては、例えば特開2004−143026号公報等に詳細に記載されている。
【0044】
本発明の無機酸化物担体は、クロム原子を担持するために次項で説明するクロム化合物で処理する工程に処する前に、加熱処理を行っておくことが、製造するエチレン系重合体の機械的物性をより良いものとするために好ましい。これは、該加熱処理により、生成するエチレン系重合体に主成分よりも高分子量のポリマー成分が付与されるためである。
加熱処理は、通常窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下あるいは気流下、100〜900℃、好ましくは150〜700℃、更に好ましくは200℃〜650℃の温度で実施される。
【0045】
2.クロム化合物(b)
上記無機酸化物担体にクロム化合物を担持させる。クロム化合物としては、担持後に非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となる化合物であればよく、酸化クロム、クロムのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、クロム酸塩、重クロム酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、クロム−1,3−ジケト化合物、クロム酸エステル等が挙げられる。
具体的には、三酸化クロム、三塩化クロム、塩化クロミル、クロム酸カリウム、クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、トリス(2−エチルヘキサノエート)クロム、クロムアセチルアセトネート、ビス(tert−ブチル)クロメート等が挙げられる。なかでも三酸化クロム、酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートが好ましい。酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートのような有機基を有するクロム化合物を用いた場合でも、後に述べる非還元性雰囲気での焼成活性化によって有機基部分は燃焼し、最終的には三酸化クロムを用いた場合と同様に、無機酸化物担体表面の水酸基と反応し、少なくとも一部のクロム原子は6価となってクロム酸エステルの構造で固定化されることが知られている((i)V.J.Ruddickら著,J.Phys.Chem.,Volume 100,11062頁,1996年、(ii)S.M.Augustineら著,J.Catal.,Volume 161,641頁,1996年、を参照。)。
【0046】
無機酸化物担体へのクロム化合物の担持は、含浸、溶媒留去、昇華等の公知の方法によって行うことができ、使用するクロム化合物の種類によって適当な方法を用いればよい。担持するクロム化合物の量は、クロム原子として担体に対して、0.2〜2.0重量%、好ましくは0.3〜1.7重量%、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0047】
本発明では、無機酸化物担体にクロム化合物が担持されたクロム触媒に、さらにフッ素化合物を含有させることがある。
フッ素化合物の含有方法(フッ素化)は、溶媒中でフッ素化合物溶液を含浸させた後、溶媒を留去する方法、あるいは溶媒を用いずにフッ素化合物を昇華させる方法など、公知の方法によって行うことができ、使用するクロム化合物の種類によって、適宜好適な方法を用いればよい。無機酸化物担体にクロム化合物を担持してからフッ素化合物を含有させてもよいし、フッ素化合物を含有させてからクロム化合物を担持してもよいが、クロム化合物を担持してからフッ素化合物を含有させる方が好ましい。
フッ素化合物の含有量は、フッ素原子の含有量として、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。
【0048】
フッ素化合物としては、フッ化水素HF、フッ化アンモニウムNHF、ケイフッ化アンモニウム(NHSiF、ホウフッ化アンモニウムNHBF、一水素二フッ化アンモニウム(NH)HF、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムNHPF、テトラフルオロホウ酸HBFのようなフッ素含有塩類が用いられ、なかでも、ケイフッ化アンモニウム、一水素二フッ化アンモニウムが好ましい。
これらを、水又はアルコールなどの有機溶媒に溶解させた後、クロム触媒に含浸させるのが均一性の観点から好ましいが、固体のままクロム触媒と混合するだけでもよい。溶解して含浸させる場合は、表面張力による細孔体積の縮小(shrinkage)を抑えるために、アルコールなどの有機溶媒を用いるのがより好ましい。また、溶媒を用いた場合は、風乾、真空乾燥、スプレードライなど、既知の方法によって、溶媒を飛ばして乾燥させる。
【0049】
後述する非還元性雰囲気での賦活により、これらのフッ素化合物は、熱分解することによって、無機酸化物担体をフッ素化する。例えば、無機酸化物担体としてシリカを用い、フッ素化合物としてケイフッ化アンモニウムを用いた場合は、ケイフッ化アンモニウムが以下のように熱分解して、フッ化水素HF及びフッ化ケイ素SiFを発生する。
(NHSiF → 2NH + 2HF + SiF
【0050】
さらに、HF及びSiFがシリカ表面のシラノ−ル基と反応してフッ素化することが知られている(B.Rebenstorf;Journal of Molecular Catalysis Vol.66 p.59(1991)、A.Noshay etal.「Transition Metal Catalyzed Polymerizations−Ziegler・Natta and Metathesis Polymerizations」p.396(1988) Cambridge University Pressを参照。)。
Si−OH + HF → Si−F + H
Si−OH + SIF → Si−O−SiF + HF
2Si−OH + SiF → (Si−O)SiF + 2HF
【0051】
したがって、フッ素含有塩類のようなフッ素化合物の固体とクロム触媒を混合しただけの場合でも、結局はフッ素化合物が熱分解するので、同様の反応が起こってクロム触媒はフッ素化される。あるいは、賦活工程の間にフッ素化合物を投入する方法でもよい。ただし、の場合、フッ素化合物の固体をガス中で流動化させるので、均一性の観点からできるだけ微細な粒子状のフッ素化合物固体を用いることが好ましい。
【0052】
3.焼成活性化方法
クロム化合物の担持後、場合によっては、さらにフッ素化合物を担持した後、焼成して活性化処理を行う。焼成活性化は、水分を実質的に含まない非還元性雰囲気、例えば、酸素または空気下で行うことができる。この際、不活性ガスを共存させてもよい。好ましくは、モレキュラーシーブス等を流通させ、十分に乾燥した空気を用い、流動状態下で行う。焼成活性化は、400〜900℃、好ましくは420〜850℃、さらに好ましくは450〜800℃にて、30分〜48時間、好ましくは1時間〜36時間、さらに好ましくは2時間〜24時間行う。この焼成活性化により、無機酸化物担体に担持されたクロム化合物のクロム原子が少なくとも一部は6価に酸化されて担体上に化学的に固定される。焼成活性化を450℃未満で行うと、重合活性が低下し、400℃未満で行うと、重合活性はなくなる。一方、焼成活性化を、900℃を超える温度で行うと、シンタリングが起こり、活性が低下する。
【0053】
以上により、本発明で使用するクロム触媒が得られるが、本発明のポリエチレン系樹脂の製造に際しては、クロム化合物担持前、またはクロム化合物担持後の焼成活性化前に、チタンテトライソプロポキシドのようなチタンアルコキシド類、ジルコニウムテトラブトキシドのようなジルコニウムアルコキシド類、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド類、トリアルキルアルミニウムのような有機アルミニウム類、ジアルキルマグネシウムのような有機マグネシウム類などに代表される金属アルコキシド類もしくは有機金属化合物やケイフッ化アンモニウムのようなフッ素含有塩類等を添加して、エチレン重合活性、α−オレフィンとの共重合性や得られるエチレン系重合体の分子量、分子量分布を調節する公知の方法を併用してもよい。
【0054】
これらの金属アルコキシド類または有機金属化合物は、非還元性雰囲気での焼成活性化によって有機基部分は、燃焼し、チタニア、ジルコニア、アルミナまたはマグネシアのような金属酸化物に酸化されて触媒中に含まれる。また、フッ素含有塩類の場合は、無機酸化物担体がフッ素化される。
これらの方法は、例えば、以下の文献に記載されている。
(i)C.E.Marsden著,Plastics,Rubber and Composites Processing and Applications,Volume 21,193頁,1994年
(ii)T.Pullukatら著,J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.,Volume 18, 2857頁,1980年
(iii)M.P.McDanielら著,J.Catal.,Volume 82,118頁,1983年
本発明において、ESCR及び耐衝撃性が共に優れた自動車用燃料タンク用途には、無機酸化物であるシリカ担体のみであるほうが好ましい。これらの金属アルコキシド類もしくは有機金属化合物を無機酸化物に加えると、ポリエチレン重合体の低分子量成分の増加あるいは分子量分布の狭窄化が起きる傾向にある。
【0055】
4.有機アルミニウム化合物(c)
本発明においては、焼成活性化したクロム触媒に不活性炭化水素溶媒中で有機アルミニウム化合物を担持し、さらに、溶媒を除去・乾燥して、得られた有機アルミニウム化合物担持クロム触媒を、重合触媒として用いる。
用いる有機アルミニウム化合物としては、アルキルアルミニウムアルコキシド化合物が好ましい。
アルキルアルミニウムアルコキシド化合物は、次の一般式(1)で示される化合物である。
【0056】
【化1】

(式中、R、Rは、同一であっても異なってもよく、各々アルキル基を表す。ここで、R、Rのアルキル基は、シクロアルキル基も含む。)
【0057】
その中でも下記一般式(2)で示されるジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物が好ましい。
【0058】
【化2】

(式中、R、R、Rは、同一であっても異なってもよく、各々アルキル基を表す。ここで、R、R、Rのアルキル基は、シクロアルキル基も含む。)
【0059】
一般式(1)、(2)で示されるアルキルアルミニウムアルコキシド化合物の中でも、下記一般式(3)で示されるジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物が好ましい。
【0060】
【化3】

(式中、R、Rは、同一であっても異なってもよく、各々炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。R、Rは、同一であっても異なってもよく、各々水素原子またはアルキル基を表すが、少なくともいずれかの1つはアルキル基である。ここで、R、R、R、Rのアルキル基は、シクロアルキル基も含む。また、R、Rは、連結して、環を形成してもよい。)
【0061】
さらに、触媒の活性において、一般式(3)の化合物の中でも最も好ましいのは、下記一般式(4)で示されるジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物である。
【0062】
【化4】

(式中、R10、R11、R12は、同一であっても異なってもよく、各々アルキル基を表す。ここで、R10、R11、R12のアルキル基は、シクロアルキル基も含む。)
【0063】
一般式(1)で示されるアルキルアルミニウムアルコキシドにおいて、Rの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−デシル、n−ドデシル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチルが好ましく、なかでもメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルが特に好ましい。
また、Rの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘプチル、n−ノニル、n−ウンデシル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘプチルが好ましく、なかでもメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルが特に好ましい。
【0064】
一般式(2)で示されるアルキルアルミニウムアルコキシドにおいて、R、Rの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−デシル、n−ドデシル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチルが好ましく、なかでもメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルが特に好ましい。
また、Rの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘプチル、n−ノニル、n−ウンデシル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘプチルが好ましく、なかでもメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルが特に好ましい。
【0065】
一般式(2)で示されるジアルキルアルミニウムアルコキシドの具体例としては、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムメトキシド、ジn−ブチルアルミニウムメトキシド、ジi−ブチルアルミニウムメトキシド、ジメチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジn−ブチルアルミニウムエトキシド、ジi−ブチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムn−プロポキシド、ジエチルアルミニウムn−プロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、ジメチルアルミニウムi−プロポキシド、ジエチルアルミニウムi−プロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムi−プロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムi−プロポキシド、ジメチルアルミニウムn−ブトキシド、ジエチルアルミニウムn−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジメチルアルミニウムi−ブトキシド、ジエチルアルミニウムi−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムi−ブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムi−ブトキシド、ジメチルアルミニウムt−ブトキシド、ジエチルアルミニウムt−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムt−ブトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジメチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジエチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジメチルアルミニウムシクロブトキシド、ジエチルアルミニウムシクロブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロブトキシド、ジメチルアルミニウムシクロペントキシド、ジエチルアルミニウムシクロペントキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロペントキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロペントキシド、ジメチルアルミニウムシクロへキソキシド、ジエチルアルミニウムシクロへキソキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロへキソキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロへキソキシドが挙げられる。
【0066】
これらの中でも、一般式(3)で示されるアルコキシド部分の酸素に直接結合する炭素が一級又は二級炭素であるものが、触媒活性およびその他の触媒性能を考慮すると好ましい。
その例としては、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムメトキシド、ジn−ブチルアルミニウムメトキシド、ジi−ブチルアルミニウムメトキシド、ジメチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジn−ブチルアルミニウムエトキシド、ジi−ブチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムn−プロポキシド、ジエチルアルミニウムn−プロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、ジメチルアルミニウムi−プロポキシド、ジエチルアルミニウムi−プロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムi−プロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムi−プロポキシド、ジメチルアルミニウムn−ブトキシド、ジエチルアルミニウムn−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジメチルアルミニウムi−ブトキシド、ジエチルアルミニウムi−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムi−ブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムi−ブトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロプロピル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロブチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロペンチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(ジシクロヘキシル)メトキシド、ジメチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジエチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロプロポキシド、ジメチルアルミニウムシクロブトキシド、ジエチルアルミニウムシクロブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロブトキシド、ジメチルアルミニウムシクロペントキシド、ジエチルアルミニウムシクロペントキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロペントキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロペントキシド、ジメチルアルミニウムシクロへキソキシド、ジエチルアルミニウムシクロへキソキシド、ジn−ブチルアルミニウムシクロへキソキシド、ジi−ブチルアルミニウムシクロへキソキシドが挙げられる。
【0067】
さらに、これらの中でも、一般式(4)で示されるアルコキシド部分の酸素に直接結合する炭素が一級炭素であるものが、触媒活性およびその他の触媒性能を考慮すると好ましい。
その例としては、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムメトキシド、ジn−ブチルアルミニウムメトキシド、ジi−ブチルアルミニウムメトキシド、ジメチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジn−ブチルアルミニウムエトキシド、ジi−ブチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムn−プロポキシド、ジエチルアルミニウムn−プロポキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、ジi−ブチルアルミニウムn−プロポキシド、ジメチルアルミニウムn−ブトキシド、ジエチルアルミニウムn−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロプロピル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロブチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロペンチル)メトキシド、ジメチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジエチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジn−ブチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシド、ジi−ブチルアルミニウム(シクロヘキシル)メトキシドが挙げられる。
【0068】
さらに、これらの中でも、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムn−ブトキシド、ジn−ブチルアルミニウムエトキシド、ジn−ブチルアルミニウムn−ブトキシド、ジエチルアルミニウムi−ブトキシド、ジi−ブチルアルミニウムエトキシド、ジi−ブチルアルミニウムi−ブトキシドが好適である。
【0069】
ジアルキルアルミニウムアルコキシドは、(i)トリアルキルアルミニウムとアルコールを反応させる方法、(ii)ジアルキルアルミニウムハライドと金属アルコキシドを反応させる方法により、簡単に合成することができる。
すなわち、一般式(2)で示されるジアルキルアルミニウムアルコキシドを合成するには、以下の式に示すようにトリアルキルアルミニウムとアルコールを1:1のモル比で反応させる方法、
【0070】
【化5】

(式中、R’、R11,R12,R13は、同一でも異なってもよく、各々アルキル基を表す。)
【0071】
または、以下の式に示すように、ジアルキルアルミニウムハライドと金属アルコキシドを1:1のモル比で反応させる方法が好ましく用いられる。
【0072】
【化6】

(式中、R14,R15,R16は、同一でも異なってもよく、各々アルキル基を表す。ジアルキルアルミニウムハライド:R1415AlXにおけるXは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、特に塩素が好ましく用いられる。また、金属アルコキシド:R16OMにおけるMは、アルカリ金属であり、特にリチウム、ナトリウム、カリウムが好ましい。)
【0073】
副生成物:R’−Hは、不活性なアルカンであり、沸点が低い場合は反応過程で系外に揮発していくか、沸点が高い場合は溶液中に残るが、たとえ系中に残存しても、以後の反応には不活性である。また、副生成物:M−Xは、ハロゲン化アルカリ金属であり、沈殿するので、濾過またはデカンテーションにより簡単に除去できる。
これらの反応は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素中で行うことが好ましい。反応温度は、反応が進行するならば任意の温度でよいが、好ましくは0℃以上、さらに好ましくは20℃以上で行う。使用した溶媒の沸点以上で加熱し、溶媒の還流下で反応を行わせることは、反応を完結させる上でよい方法である。反応時間は任意でよいが、好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上行うのがよい。反応終了後は、そのまま冷却し、溶液のままクロム触媒との反応に供してもよいし、溶媒を除去して、反応生成物を単離してもよいが、溶液のまま用いるのが簡便で好ましい。
【0074】
また、アルキルアルミニウムジアルコキシドは、トリアルキルアルミニウムとアルコールを反応させる方法(トリアルキルアルミニウムとアルコールを1:2のモル比)により合成することができる。
【0075】
【化7】

【0076】
アルキルアルミニウムアルコキシド類の合成方法および物理的・化学的性質については、T.Moleら著,Organoaluminum Compounds,3rd.ed.,1972年,Elsevier,第8章等に詳しく書かれている。
【0077】
有機アルミニウム化合物の担持量は、クロム原子に対する有機アルミニウム化合物のモル比が0.1〜20、好ましくは0.3〜15、更に好ましくは0.5〜10である。
このモル比が0.1未満では、有機アルミニウム化合物を担持した効果が十分には発現されず、エチレン重合活性は、有機アルミニウム化合物を担持しない場合とさほど変わらない。一方、このモル比が20を超えると重合活性があらわれない。有機アルミニウムの副反応によるCr活性点の不活性化がおこっているものと考えられる。
【0078】
有機アルミニウム化合物を担持する方法としては、焼成活性化後のクロム触媒を不活性炭化水素中の液相で接触させる方法ならば、特に限定されない。例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒に焼成活性化後のクロム触媒を混合して、スラリー状態とし、これに有機アルミニウム化合物を添加する方法が好ましい。添加する有機アルミニウム化合物は、上記不活性炭化水素溶媒で希釈してもよいし、希釈せずに添加してもよい。希釈用溶媒と担持用の溶媒は同じでも異なってもよい。
【0079】
不活性炭化水素溶媒の使用量は、触媒の調製時に少なくともスラリー状態で攪拌を行えるに十分な量であることが好ましい。このような量であれば、溶媒の使用量は、特に限定されないが、例えば焼成活性化後のクロム触媒1g当たり溶媒2〜20gを使用することができる。
【0080】
本発明において、不活性炭化水素溶媒中でクロム触媒を有機アルミニウム化合物により処理する際の溶媒への有機アルミニウム化合物とクロム触媒の添加順序は任意である。
具体的には、不活性炭化水素溶媒にクロム触媒を懸濁させ、有機アルミニウム化合物を添加してこれを攪拌する担持反応の操作が好ましい。
【0081】
また、担持反応の温度は、0〜150℃、好ましくは10〜100℃、さらに好ましくは20〜80℃、担持反応の時間は、5分〜8時間、好ましくは30分〜6時間、さらに好ましくは1〜4時間である。
有機アルミニウム化合物は、焼成活性化後に少なくとも一部が6価となったクロム原子と反応し、これを低原子価のクロム原子に還元する。この現象は、焼成活性化後のクロム触媒が6価のクロム原子特有のオレンジ色であるのに対して、有機アルミニウム化合物による担持操作をされたクロム触媒が緑色もしくは青緑色であることから確認できる。すなわち、このクロム触媒の色の変化から6価クロム原子の少なくとも一部が3価または2価のクロム原子に還元されているものと、推定される。
【0082】
近年、Teranoらは、賦活したクロム触媒にトリエチルアルミニウムをヘプタン溶媒中で担持後に乾燥し、X線光電子分光法(XPS)でCr原子の原子価を測定しており、6価クロム原子だけではなく、2価、3価、5価のクロム原子の存在を観測している(M.Teranoら著,J.Mol.Catal.A:Chemical,Volume 238,142頁,2005年参照。)。
ただし、全Cr原子のなかで実際の重合活性点の割合は、約10%〜30%と言われており(M.P.McDanielら著、J.Phys.Chem.,Volume 95,3289頁、1991年参照。)、重合活性点のクロム原子の原子価が何であるかは現時点で結論は得られていない。Monoiらは、トリアルキルクロム錯体をシリカに担持した触媒がフィリップス触媒と同様の重合挙動を示すこと(T.Monoiら著,Polym.J.,Volume 35,608頁,2003年参照。)、また、Espelidらは、フィリップス触媒のモデル活性点におけるエチレン挿入反応の活性化エネルギーを理論計算することにより、3価のクロム原子が活性点の原子価であることを提唱している(O.Espelidら著,J.Catal.,Volume 195,125頁,2000年参照。)。
【0083】
攪拌を停止して担持操作を終了した後は、速やかに溶媒を除去することが必要である。この溶媒の除去は、減圧乾燥により行うが、この際濾過を併用することもできる。この減圧乾燥では、有機アルミニウム化合物担持クロム触媒が自由流動性の粉末として得られるように乾燥させる。触媒を溶媒と分離せずに長時間保管すると、触媒が経時劣化し、エチレン重合活性が低下する。
担持反応終了後、溶媒を分離し乾燥終了するのに要する時間は、20時間以内が好ましく、さらに15時間以内が好ましく、特に10時間以内が好ましい。担持開始から溶媒除去・乾燥完了となるまでの合計の時間は、5分〜28時間、好ましくは30分〜24時間、さらに好ましくは1〜20時間である。
【0084】
乾燥完了後の有機アルミニウム化合物担持クロム触媒は、自由流動性(free flowing)のさらさらの状態にあることが好ましい。物性的な目安としては、溶媒の残存重量は、クロム触媒の細孔体積に、溶媒の密度を掛けて得られた重量の1/10以下、好ましくは1/30、さらに好ましくは1/100以下になっていることが好ましい。
【0085】
なお、有機アルミニウム化合物をクロム触媒と併用する場合、クロム触媒と有機アルミニウム化合物とを反応器に希釈溶媒の存在下または不存在下に直接または別々にフィードする方法と、クロム触媒と有機アルミニウム化合物を一旦溶媒中で予備混合または接触させ、この混合スラリーを反応器にフィードする方法が考えられる。
しかし、いずれの方法も、クロム触媒と有機アルミニウム化合物を反応器に別々に供給しながら連続生産を行うものであるから、連続的に供給するクロム触媒とアルキルアルミニウムアルコキシド化合物の量とその比率を正確に調整しなければ、得られるポリエチレン系樹脂の重合活性や分子量が変動して同一規格の成形品を連続的に生産することは困難となる。
【0086】
しかしながら、本発明の方法によれば、有機アルミニウム化合物を予めクロム触媒に担持し、クロム原子に対する有機アルミニウム化合物のモル比が常に一定の触媒を反応器中に供給するので、同一規格の成形品を安定的に連続生産することができる。従って、本発明の方法は、一定品質のポリエチレン系樹脂を連続生産するのに好適な優れた方法である。
【0087】
さらに、本発明のように担持反応の際の溶媒を速やかに分離・除去した触媒を用いる方法ではなく、クロム触媒と有機アルミニウム化合物とを反応器に希釈溶媒の存在下または不存在下に直接または別々にフィードする方法と、クロム触媒と有機アルミニウム化合物を一旦溶媒中で予備混合または接触させ、この混合スラリーを反応器にフィードする方法では、エチレン重合活性が低下する。その上、分子量分布が広くなるため、耐久性は向上するものの耐衝撃性は低下し、耐久性と耐衝撃性のバランスは、悪化するので好ましくない。
【0088】
II.有機アルミニウム化合物担持クロム触媒の解析
本発明の有機アルミニウム化合物担持クロム触媒は、電子線プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer ;以下、EPMAと略する。)を用いてその構造・形態が解析される。なお、EPMAは、以下のような原理を持った装置である。
直径1μm以下に絞り加速させた電子線を試料表面にあて、そこから出てくる特性X線を、X線分光器で測定する。特性X線は、各元素の原子核を取り巻く内殻電子の遷移によって発生するX線で、元素に固有な幾つかの波長(エネルギー)としてあらわれる。よって特性X線の波長から元素の種類が、その強度から元素の含有量がわかる。
その結果を図2に示す。この結果より、ケイ素原子が触媒粒子内部よりも触媒粒子表面に多く集中して存在していること、そして、アルミニウム原子が触媒表面に集中して存在していることがわかる。この結果はシリカゲルが触媒粒子内部よりも触媒粒子表面に存在していること、そしてアルミニウムアルコキシドを反応させた時、触媒表面に集中して反応していることを示している。
【0089】
本発明のエチレン重合用触媒の担体は、上述のように、触媒粒子内部よりも該触媒粒子表面に無機酸化物が多く集中して存在するという従来に無い特徴的な粒子構造を保有することにより、特段大きな比表面積を保有していないにもかかわらず、担持されたクロム原子がエチレン等のモノマーと効率的に接触することが可能となり、更には重合の進行に伴い生成するエチレン系重合体に活性点が遮蔽されてしまうことがないので、極めて高い重合活性を維持することが可能となったものである。HLMFRの大きなエチレン系重合体を得たり、共重合性を改善するために、細孔容積を大きくしたり、平均細孔径を大きくすることは従来から知られていたものの、重合活性が低下してしまう欠点があったが、本発明のエチレン重合用触媒を使用すると重合活性を犠牲にすることなく、HLMFRや共重合性を向上させることがはじめて可能となったのである。また、本発明の担体は適度な強度を有するため、重合の初期段階においては、触媒粒子は比較的割れにくく効率的に重合が進行し、さらに重合が進行した段階においては、触媒粒子の適度な割れが発生して、細か過ぎる重合体微粉粒子の発生が抑制される。
【0090】
また、本発明のエチレン重合触媒は、有機アルミニウムを表面に集中して含んでいる。有機アルミニウムの効果としては、次のように考えている。
この有機アルミニウム化合物担持クロム触媒は、一つのシリカ粒子の中で有機アルミニウム化合物が存在していない内側部分(部分A)と、有機アルミニウムによって少なくとも一部のクロム原子が還元されている表面部分(部分B)を有しており、その意味でこの触媒は、「擬似二元系触媒」と呼ぶことができる(図1参照。)。アルミニウム原子は、担体表面に多く存在しているということから、模擬的に図示すると、図1のようになる。
【0091】
この擬似二元化触媒に、エチレンを導入した時、予め有機アルミニウム化合物によって還元されているCr活性点から生じるポリエチレンと、エチレンを導入することによって還元されるCr活性点から生じるポリエチレンとでは、異なった特徴をもっていてもなんらおかしくはない。
実際、加える有機アルミニウム化合物の量を増やしていくと、生成ポリエチレンのHLMFR(ハイロードメルトフローレート、温度190℃、荷重21.6kg)が大きくなる、すなわち平均分子量が小さくなっていくということが確かめられている。有機アルミニウム化合物と全く反応していない部分A(内側部分)から生成する重合ポリマーよりも低分子量成分の山をもったポリマーが、少なくとも一部分は有機アルミニウム化合物によって還元されている部分B(表面部分)からは生成しているのではないかと考えられる。
つまり、ひとつの触媒で二種類の異なった性質をもつ分子量分布を掛け持ちしたポリエチレンが作られるのである。結果として、有機アルミニウム化合物を加えていないクロム触媒から得られるポリエチレンと比べると、擬似二元系触媒である本発明の触媒からは広い分子量分布を持つポリエチレンが得られる。実際、有機アルミニウム処理をした触媒を用いたとき、有機アルミニウム処理をしていない触媒と比べると、分子量分布が広いポリマーが得られており、ポリマーの耐久性の向上が期待できる。(表1の実施例1〜5と比較例1〜5の比較)。
本発明の触媒によって、微粉量が少なく、粒子性状の良く、かつ耐久性の向上に好ましい広い分子量分布をもったポリマーが得られる。
【0092】
[II]エチレン系重合体の製造方法
1.エチレン系重合体の重合
上記の有機アルミニウム担持クロム触媒を用いて、エチレン系重合体の製造を行うに際しては、スラリー重合、溶液重合のような液相重合法あるいは気相重合法など、いずれの方法を採用することができる。
液相重合法は、通常炭化水素溶媒中で行う。炭化水素溶媒としては、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素の単独または混合物が用いられる。
【0093】
また、気相重合法は、不活性ガス共存下にて、流動床、撹拌床等の通常知られる重合法を採用でき、場合により重合熱除去の媒体を共存させる、いわゆるコンデンシングモードを採用することもできる。
【0094】
液相または気相重合法における重合温度は、一般的には0〜300℃であり、実用的には20〜200℃、好ましくは50〜180℃、さらに好ましくは70〜150℃である。反応器中の触媒濃度およびエチレン濃度は、重合を進行させるのに十分な任意の濃度でよい。例えば、触媒濃度は、液相重合の場合、反応器内容物の質量を基準にして、約0.0001〜約5質量%の範囲とすることができる。同様にエチレン濃度は、気相重合の場合、全圧として0.1〜10MPaの範囲とすることができる。
【0095】
エチレンと共存させる水素とエチレンの濃度比または分圧比は、水素とエチレンの濃度または分圧を変えることによって、容易に調整することができる。水素は、連鎖移動剤としての働きも有するので、Hc/ETcまたはHp/ETpを変えた場合、同一HLMFRの製品を得るためには、重合温度も変えなければならない。すなわち、Hc/ETcまたはHp/ETpを上げた場合には、重合温度を下げ、Hc/ETcまたはHp/ETpを下げた場合には、重合温度を上げなければならない。ただし、水素濃度または分圧の絶対値によるので同一HLMFRの製品を得るためには、必ず重合温度を変える必要があるわけではない。
【0096】
本発明の方法により、エチレンの重合を行うに際し、コモノマーとして、α−オレフィンを共重合することが好ましい。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどを単独または2種類以上反応器に導入して共重合を行う。好ましくは1−ブテン、1−ヘキセン、さらに好ましくは1−ヘキセンがコモノマーとして好適に用いられる。得られるポリエチレン系樹脂中のα−オレフィン含量は、15mol%以下、好ましくは10mol%以下が望ましい。
【0097】
[III]本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子
本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子は、上記[II]のエチレン系重合体の製造方法によって製造される。
該エチレン系重合体は、エチレン単独重合体の場合もあるし、コモノマーとしてプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどのα−オレフィンを1種類以上含むエチレン・α−オレフィン共重合体の場合もあり、この時得られるエチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含量は15mol%以下、好ましくは10mol%以下が望ましい。α―オレフィンとしては好ましくは1−ブテン、1−ヘキセン、さらに好ましくは1−ヘキセンが好適に用いられる。また上述のように少量のジエン類やスチレン類等の改質用モノマーを含有することもできる。
【0098】
本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子は、HLMFRが0.1〜1000g/10分、好ましくは0.5〜500g/10分、密度が0.900〜0.980g/cm、好ましくは0.920〜0.970g/cmである。該エチレン系重合体は、ESCRと耐衝撃性が高くバランスに優れるので、特にブロー成形製品、なかんずく大型ブロー成形製品で大きな効果を発揮する。ブロー成形製品用のエチレン系重合体のHLMFRは、1〜100g/10分、特に大型ブロー成形製品用のエチレン系重合体は、1〜15g/10分である。ブロー成形製品用のエチレン系重合体の密度は、0.935〜0.960g/cm、特に大型ブロー成形製品用のエチレン系重合体の密度は、0.940〜0.955g/cmである。得られたエチレン系重合体は、混練することも好ましい。混練は単軸又は二軸の押出機又は連続式混練機を用いて行うことができる。また得られるエチレン系共重合体は、常法によりブロー成形することができる。また、本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子は、いわゆる伸長粘度のストレインハードニングパラメーターλmaxが1.05〜1.50であることもより良い成形性を保有するためには好ましい。
【0099】
HLMFRが0.1g/10分未満であると、パリソン(ブロー成形において、成形器の口金から押し出されたパイプ状の溶融ポリマー;金型内で空気圧により膨張させる以前の状態)の押出成形時に押出量が不足し、成形不安定な状態となり実用的でないし、また、1000g/10分を越えてもパリソンの形成が溶融粘度及び溶融張力の不足のため不安定となり実用的でない。HLMFRは、重合温度や水素濃度の制御などの方法で調整することができる。例えば、重合温度を高くする、又は水素濃度を高くすることによりHLMFRを高くすることができる。ここでHLMFRは、JIS K−7210に準拠し、温度190℃、荷重21.60kgの条件で測定したものである。
密度が0.900g/cm未満であると、中空プラスチック成形品の剛性が不足し、0.980g/cmを越えると中空プラスチック成形品の耐久性が不足する。密度は、α−オレフィンの種類や含有量の制御などの方法で調整することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂中のα−オレフィン含有量を低くする(重合時のα−オレフィン添加量を低くする)、又は同じ含有量であれば、炭素数の小さいα−オレフィンを用いることにより、密度を高くすることができる。密度は、JIS K−7112に準拠し、ペレットを温度160℃の熱圧縮成形機により溶融後25℃/分の速度で降温し、厚み2mmtのシートを成形し、このシートを温度23℃の室内で48時間状態調節した後、密度勾配管に入れ測定したものである。
【0100】
本発明のポリエチレン系樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される分子量分布(Mw/Mn)が好ましくは25以上、さらに好ましくは27以上のものである。上限は特に限定されないが、50までが一般的である。
【0101】
ところで、分子量分布(Mw/Mn)は、下記のGPC測定を行ない、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)を求めて分子量分布(Mw/Mn)を算出し求められる。
[ゲル透過クロマトグラフ(GPC)測定条件]
装 置:Waters社製150Cモデル、
カラム:昭和電工社製Shodex−HT806M、
溶 媒:1,2,4−トリクロロベンゼン、
温 度:135℃、
単分散ポリスチレンフラクションを用いてユニバーサル評定。
【0102】
MwのMnに対する比率(Mw/Mn)で示される分子量分布(Mw/Mnが大きいほど分子量分布が広い)については、「サイズ排除クロマトグラフィー(高分子の高速液体クロマトグラフィー)」(森定雄著,共立出版,96頁)に記載された分子量と検出器感度の式に、n−アルカン及びMw/Mn≦1.2の分別直鎖ポリエチレン系樹脂のデータを当てはめて、次式で示される分子量Mの感度を求めた後、サンプル実測値の補正を行なった。
分子量Mの感度=a+b/M
(式中、a、bは、定数であって、a=1.032、b=189.2である。)
【0103】
分子量分布は、触媒の賦活温度、重合温度の制御などの手法、特に賦活温度の制御で調整することができる。即ち、賦活温度を高くすれば分子量分布が狭くなり、逆に賦活温度を低くすれば分子量分布は広くなる。また、その効果は賦活温度の場合より小さいが、重合温度の制御によっても調整することができる。即ち、重合温度を高くすれば分子量分布はやや狭くなり、逆に重合温度を低くすれば分子量分布はやや広くなる。
得られたエチレン系重合体は、次いで混練することも好ましい。単軸又は二軸の押出機又は連続式混練機を用いて行われる。上記の方法により製造されたエチレン系重合体は、1種類でも複数種類を混合して使用してもよく、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができるが、本発明で製造されるエチレン系重合体粒子は、そのきわめて良好な粉体粒子性状を活用することにより、ペレット化を経ることなく、直接各種成形機に供給して成形を行って所望の成形品とすることも可能であり、ペレット化の工程を省略することが可能であるので省エネルギー化の観点で非常に好ましい。
【0104】
ここで、本発明で製造されるエチレン系重合体粒子とは、上述のエチレン重合用触媒を使用してエチレン系重合体の製造を重合反応槽内で行った直後の重合粒子形態を保持したままの状態をいい、更に詳述すると、重合反応終了後に溶媒等を乾燥留去させる程度に必要な150℃程度の温度、好ましくは130℃程度の温度、更に好ましくは110℃程度の温度より高温で処理されることの無い状態のエチレン系重合体粒子のことをいい、その粒子嵩密度が0.32〜0.60g/cm、好ましくは0.35〜0.55g/cm、更に好ましくは0.38〜0.50g/cmであって、目開き177μmの篩を通過する粒子が全体の0.8重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下であることが好ましい。下限は0重量%であることはいうまでもない。目開き40μmの篩を通過する粒子が全体の0.8重量%より多くなると、気流輸送時の微粉拡散による汚染が問題となったり、静電気による器壁への付着が酷くなるので好ましくない。
【0105】
本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子には、必要に応じて、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、パール顔料、偏光パール顔料、架橋剤、発泡剤、中和剤、熱安定剤、結晶核剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能である。いずれの場合でも、上記ポリエチレン系樹脂に、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0106】
[IV]中空プラスチック成形品の製造、及び製品或いは用途
本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子は、特に限定されず、従来からの公知の多層中空成形機を用いて押出ブロー成形法により成形することができる。例えば、複数の押出機で各層の構成樹脂を加熱溶融させた後、多層のダイにより溶融パリソンを押出し、次いでこのパリソンを金型で挟み、パリソンの内部に空気を吹き込むことにより、多層の中空プラスチック成形品が製造される。
さらに、本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子には、必要に応じて目的を損なわない範囲で、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、抗ブロッキング剤、防曇剤、有機あるいは無機系顔料、充填剤、無機フィラー、紫外線防止剤、分散剤、耐候剤、架橋剤、発泡剤、難燃剤などの公知の添加剤を添加することができる。
また、本発明のエチレン系重合体及びエチレン系重合体粒子は、具体的には、製品としては、燃料タンク等のタンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器、各種プラスチックボトル等の製品、特に自動車用燃料タンクとして供され、或いは本発明の中空プラスチック成形品の用途としては、燃料タンク等のタンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器、各種プラスチックボトル等が挙げられ、特に自動車用燃料タンクとして用いられるのが最も好ましい。
【実施例】
【0107】
以下においては、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明し、本発明の卓越性と本発明の構成における優位性を実証するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例において使用した測定方法は、以下の通りである。
【0108】
1.オートクレーブ重合で得られたポリエチレン系樹脂の物性評価:
(i)物性測定のためのポリマー前処理:
添加剤として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の酸化防止剤とリン系安定剤のブレンド物である「IRGANOX B225」を0.2重量%添加し、単軸押出機にて混練し、ペレタイズした。
(ii)ハイロードメルトフローレート(HLMFR):
JIS K7210(2004年版)の附属書A表1―条件Gに従い、試験温度190℃、公称荷重21.60kgおける測定値をHLMFRとして示した。
(iii)密度:
JIS K7112(2004年版)に従い、測定した。
(iv)分子量分布(Mw/Mn):
生成エチレン系重合体について、下記の条件でゲル透過クロマトグラフ(GPC)を行ない、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めて、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0109】
[ゲル透過クロマトグラフ測定条件]:
装置:Waters 150Cモデル、
カラム:Shodex−HT806M、
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン、
温度:135℃、
単分散ポリスチレンフラクションを用いてユニバーサル評定。
MwのMnに対する比率(Mw/Mn)で示される分子量分布(Mw/Mnが大きいほど分子量分布が広い)については、「サイズ排除クロマトグラフィー(高分子の高速液体クロマトグラフィー)」(森定雄著,共立出版,96頁)に記載された分子量と検出器感度の式にn−アルカンおよびMw/Mn≦1.2の分別直鎖ポリエチレンのデータを当てはめて、次式で示される分子量Mの感度を求め、サンプル実測値の補正を行った。
分子量Mの感度=a+b/M
(a、bは定数で、a=1.032、b=189.2である。)
【0110】
2.触媒構造の分析
(1)電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)による触媒分析:
触媒の試料を樹脂包埋後、研磨紙(粒度#1500〜#4000)を用いて研磨した。その後、ダイヤモンド懸濁液(粒度1μm)で更に研磨した。Au蒸着(約300Å)後、島津製作所(株)社製EPMA−1600でマッピング分析を行った。その結果を図1に示した。
【0111】
[マッピング条件]:
加速電圧(ACC.V):15kV
ビーム電流:50nA
ビーム径:1μm
測定時間:50msec
測定面積:512*512μm
分光結晶:Al;RAP(酸性フタル酸ルビジウム)C(COOH)(COORb)
Si;PET(ペンタ・エリスリトール)C(CHOH)
Cr;LiF(フッ化リチウム)
【0112】
3.触媒、ポリマー粒子の分析
(1)レーザー回折散乱法による粒子の粒径分布の測定
粉体試料を以下の条件にて粒径分布の測定を行った。
装置名:日機装(株)社製MICROTRAC MT3000型
屈折率:粒子1.81、ヘキサン溶媒1.38
測定時間:30s
【0113】
(2)篩い分けによる微粉量測定
内径75mmの標準篩7個(目開き45μm、90μm、180μm、355μm、710μm、1400μm、2800μm)に製品粒子5.0gを入れ、10分間振とうした。
【0114】
[実施例1]
(1)クロム触媒前駆体の調製
攪拌装置付き1Lフラスコにシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)50gとイオン交換水200mLを加え、回転数50rpmで攪拌しながら、オイルバスにて50℃に加温した。ここへ、別途調製した酢酸クロム(III)(和光純薬製)2.2gをイオン交換水70mLに溶解した水溶液全量を添加し、回転数を150rpmに上げて4時間攪拌を継続することによりクロム化合物をシリカゲルによく含浸させた。次に、オイルバス温度を155℃として水を全量留去した後、更に120℃で一晩乾燥して、緑白色を呈した流動性のよいクロム触媒前駆体粒子を得た。
【0115】
(2)クロム触媒の焼成活性化
上記(1)で得たクロム触媒前駆体粒子15gを多孔板目皿付き、管径5cmの石英ガラス管に入れ、円筒状焼成用電気炉にセットし、モレキュラーシーブスを通した空気にて流動化させ、線速6cm/sにて500℃で18時間焼成活性化を行った。6価のクロム原子を含有することを示すオレンジ色のクロム触媒が得られた。
【0116】
(3)ジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒
予め窒素置換した100mlのフラスコに、上記(2)で得られたクロム触媒2gを入れ、蒸留精製したヘキサン15mlを加えスラリーとした。東ソー・ファインケム社製ジエチルアルミニウムエトキシドの0.1mol/L−ヘキサン溶液を4.6ml(Al/Crモル比=1.2)添加し、40℃で2時間攪拌した。攪拌終了後直ちに減圧下で30分かけて溶媒を除去し、さらさらの自由流動性(free flowing)のジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒を得た。触媒は緑色であり、6価のクロムが還元されていることを示す。
【0117】
(4)重合
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに上記(2)で得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を98℃まで昇温した。1−ヘキセン6.0gをエチレンで加圧導入し、エチレン分圧を1.0MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が4000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0118】
[実施例2]
実施例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、シリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST191201)を用いた以外は、全て実施例1と同様に行った。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0119】
[実施例3]
実施例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、シリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST210601)を用いた以外は、全て実施例1と同様に行った。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
また、ここで得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒について、電子プローブマイクロアナライザーによって触媒分析を行った結果を図2に示す。
【0120】
[実施例4]
実施例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、グレース社製球形シリカゲル(イ)を用い、また加えるジエチルアルミニウムエトキシドの0.1mol/L−ヘキサン溶液を4.6ml(Al/Crモル比=1.2)から19ml(Al/Crモル比=5)に代えた以外は、実施例1(1)、(2)、(3)と同様にしてジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒を調製した。
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに、このジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を100℃まで昇温した。エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が3000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0121】
[実施例5]
実施例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、グレース社製球形シリカゲル(ロ)を用い、また加えるジエチルアルミニウムエトキシドの0.1mol/L−ヘキサン溶液を4.6ml(Al/Crモル比=1.2)から19ml(Al/Crモル比=5)に代えた以外は、実施例1(1)、(2)、(3)と同様にしてジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒を調製した。
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに、このジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を100℃まで昇温した。エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が3000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
また、ここで得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒について、電子プローブマイクロアナライザーによって触媒分析を行った結果を図2に示す。
【0122】
[比較例1]
(1)クロム触媒前駆体の調製
攪拌装置付き1Lフラスコにシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)50gとイオン交換水200mLを加え、回転数50rpmで攪拌しながら、オイルバスにて50℃に加温した。ここへ、別途調製した酢酸クロム(III)(和光純薬製)2.2gをイオン交換水70mLに溶解した水溶液全量を添加し、回転数を150rpmに上げて4時間攪拌を継続することによりクロム化合物をシリカゲルによく含浸させた。次に、オイルバス温度を155℃として水を全量留去した後、更に120℃で一晩乾燥して、緑白色を呈した流動性のよいクロム触媒前駆体粒子を得た。
【0123】
(2)クロム触媒の焼成活性化
上記(1)で得たクロム触媒前駆体粒子15gを多孔板目皿付き、管径5cmの石英ガラス管に入れ、円筒状焼成用電気炉にセットし、モレキュラーシーブスを通した空気にて流動化させ、線速6cm/sにて500℃で18時間焼成活性化を行った。6価のクロム原子を含有することを示すオレンジ色のクロム触媒が得られた。
【0124】
(3)重合
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに上記(2)で得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を98℃まで昇温した。1−ヘキセン6.0gをエチレンで加圧導入し、エチレン分圧を1.0MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が4000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0125】
[比較例2]
比較例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、シリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST191201)を用いた以外は、全て比較例1と同様に行った。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0126】
[比較例3]
比較例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、シリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST210601)を用いた以外は、全て比較例1と同様に行った。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0127】
[比較例4]
比較例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、グレース社製球形シリカゲル(イ)を用いた以外は、比較例1(1)、(2)と同様にして焼成活性化クロム触媒を調製した。
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに、この焼成活性化クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を100℃まで昇温した。エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が3000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0128】
[比較例5]
比較例1で用いたシリカゲル(水澤化学工業社製;商品名 MST190801)の代わりに、グレース社製球形シリカゲル(ロ)を用いた以外は、比較例1(1)、(2)と同様にして焼成活性化クロム触媒を調製した。
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに、この焼成活性化クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を100℃まで昇温した。エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が3000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0129】
[比較例6]
(1)クロム触媒の焼成活性化
グレース社製のクロム触媒前駆体粒子(HA30W)を15g多孔板目皿付き、管径5cmの石英ガラス管に入れ、円筒状焼成用電気炉にセットし、モレキュラーシーブスを通した空気にて流動化させ、線速6cm/sにて500℃で18時間焼成活性化を行った。6価のクロム原子を含有することを示すオレンジ色のクロム触媒が得られた。
【0130】
(2)ジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒
予め窒素置換した100mlのフラスコに、上記(1)で得られたクロム触媒2gを入れ、蒸留精製したヘキサン15mlを加えスラリーとした。東ソー・ファインケム社製ジエチルアルミニウムエトキシドの0.1mol/L−ヘキサン溶液を4.6ml(Al/Crモル比=1.2)添加し、40℃で2時間攪拌した。攪拌終了後直ちに減圧下で30分かけて溶媒を除去し、さらさらの自由流動性(free flowing)のジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒を得た。触媒は緑色であり、6価のクロムが還元されていることを示す。
ここで得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒について、電子プローブマイクロアナライザーによって触媒分析を行った結果を図2に示す。
【0131】
(3)重合
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに上記(2)で得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒100mgおよびイソブタン0.8Lを仕込み、内温を100℃まで昇温した。エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、触媒生産性が3000g−ポリマー/g−触媒となるように重合を行った。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0132】
[比較例7]
触媒として、比較例6(2)で得られたジエチルアルミニウムエトキシド化合物担持クロム触媒の代わりに、比較例6(1)で得られた活性化クロム触媒を用いた以外は、比較例(3)と同様にして、重合を行った。重合結果、重合ポリマーのHLMFR、密度、分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、の測定結果等を表1、2に示した。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
上記表1、2より明らかなように、本発明の要件を満たす実施例1〜5では、調製されたクロム触媒はいずれも優れた重合活性と触媒粒子性状を示した。そしてそのクロム触媒を用いて製造されたエチレン系重合体とエチレン系重合体粒子は、パウダー粒子性状、溶融流動性の点で優れた特性を示した。一方、比較例1〜5では、良好な活性を示し、重合ポリマーの微粉量は少ない。しかし、分子量分布が狭く、高耐久性は期待できない。
このことから、本発明で提供されている触媒は、有機アルミニウム処理の効果によって、耐久性向上に好ましい広い分子量分布をもつポリマーが得られたと考えられる。
また、比較例6、7では、触媒粒子の粒径分布は広くなったものを使った場合も優れた重合活性を示しているが、ポリマー微粉量が多い。
以上から、本発明の触媒によって、重合活性、触媒粒子性状に優れ、かつ、パウダー粒子性状、溶融流動性に優れたエチレン系重合体粒子を製造することができることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0136】
以上から明らかなように、本発明のエチレン重合用触媒は、重合活性と触媒粒子性状に優れているため、これを用いることにより、エチレン系重合体を経済的かつ安定的に製造することができる。また、本発明のエチレン重合用触媒は、水素等の連鎖移動剤を用いることなく高MFRのエチレン系重合体を製造可能とする。また、従来クロム触媒と較べて有機アルミニウム処理をしていることにより高耐久性化に好ましい広い分子量分布が得られる。更に、本発明の方法で製造されるエチレン系重合体粒子は、微粉が少なく球形の極めて優れた粒子性状を有するため、重合パウダー粒子の乾燥、保管サイロへの空送、各種添加剤との混合等が容易であり、また、ペレット化工程を経ることなく直接成形機へ供給することも可能であるため、重合反応工程はもちろんのこと、その後の工業生産工程上において経済的効果を発揮する。
したがって、このようなエチレン系重合体粒子を安定にかつ効率的に製造する本発明のエチレン重合用触媒の工業的価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を少なくとも一部のクロム原子が6価となる状態で担持させた後、さらに有機アルミニウム化合物(c)を担持させてなるクロム触媒であって、
無機酸化物担体(a)は、無機酸化物が触媒粒子内部よりも触媒粒子表面に多く集中して存在する粒子構造を有し、かつ、
有機アルミニウム化合物(c)は、無機酸化物担体(a)の表面に集中して存在することを特徴とするエチレン重合用触媒。
【請求項2】
電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて、触媒粒子の断面におけるアルミニウム原子含量を測定したとき、触媒粒子表面に存在するアルミニウム原子検出量が、触媒粒子内部に存在するアルミニウム原子より多いことを特徴とする請求項1に記載のエチレン重合用触媒。
【請求項3】
無機酸化物担体(a)の表面に有機アルミニウム化合物(c)が存在することにより、少なくとも一部の6価のクロム原子が還元されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン重合用触媒。
【請求項4】
電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて、触媒粒子の断面におけるケイ素原子含量を測定したとき、触媒粒子表面に存在するケイ素原子検出量が、触媒粒子内部に存在するケイ素原子より多いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン重合用触媒。
【請求項5】
前記エチレン重合用触媒は、下記(イ)〜(ハ)の工程により製造されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン重合用触媒。
(イ):無機酸化物担体(a)にクロム化合物(b)を担持し、非還元性雰囲気において焼成活性化する
(ロ):クロム化合物(b)を担持した無機酸化物担体(a)に、さらに有機アルミニウム化合物(c)を不活性炭化水素溶媒中で担持させる
(ハ):最後に、前記不活性炭化水素溶媒を除去・乾燥させる
【請求項6】
前記無機酸化物の主成分は、シリカであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエチレン重合用触媒。
【請求項7】
無機酸化物担体(a)は、ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸を反応させてシリカゾルとし、固形物を分離、乾燥して得られたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエチレン重合用触媒。
【請求項8】
無機酸化物担体(a)の粒径分布は、粒子径が250μm以上の粒子が全体の0.3重量%以下、メディアン粒径の1/10倍の粒径以下の粒子が全体の0.3重量%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエチレン重合用触媒。
【請求項9】
有機アルミニウム化合物(c)は、ジアルキルアルミニウムアルコキシドであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエチレン重合用触媒。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のエチレン重合用触媒を用いて、エチレン単独重合又はエチレンとα−オレフィンとの共重合を行うことを特徴とするエチレン系重合体の製造方法。
【請求項11】
前記α−オレフィンは、炭素数が3〜8であることを特徴とする請求項10に記載のエチレン系重合体の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法により製造されるエチレン系重合体であって、温度190℃、荷重21.6kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が1〜100g/10分、密度が0.935〜0.960g/cmであることを特徴とするエチレン系重合体。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の方法により製造されるエチレン系重合体であって、温度190℃、荷重21.6kgにおけるハイロードメルトフローレート(HLMFR)が1〜15g/10分、密度が0.940〜0.955g/cmであることを特徴とするエチレン系重合体。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の方法により製造されることを特徴とするエチレン系重合体粒子。
【請求項15】
請求項12又は請求項13に記載の特性を有することを特徴とする請求項14に記載のエチレン系重合体粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131958(P2012−131958A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287367(P2010−287367)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】