説明

エッチング液成分の濃度制御方法

【課題】エッチング液成分の濃度制御方法の新たな技術の提供
【解決手段】ウェットエッチング装置のエッチング液タンクからエッチング液サンプルを採取すること、前記エッチング液サンプルのエッチング液成分の濃度をイオン交換クロマトグラフィーにより測定すること、及び、前記測定の情報に基づき、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように、前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加することを含み、前記エッチング液は、エッチング液成分としてリン酸を含む、エッチング液成分の濃度制御方法であって、
前記エッチング液成分の濃度測定において、前記イオン交換カラムを複数回使用した後、検出されるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に、溶離液のpHを変化させてリン酸のピークの保持時間を移動させることを含むエッチング液成分の濃度制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液成分の濃度制御方法に関する。また、本発明は、ウェットエッチング方法、ウェットエッチングシステム、及び、エッチング液成分の濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットエッチング方式によるエッチングには、リン酸、硝酸、酢酸、及び水を混合したエッチング液を使用するエッチング方法がある。このようなウェットエッチング技術は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする金属薄膜のテーパ加工に利用されている(特許文献1)。
【0003】
ウェットエッチングでは、エッチング液成分を所定の濃度範囲に制御することが重要となる。上記エッチング液の例では、エッチング液成分である硝酸の濃度が変化するとテーパ角度が大きく変化する。また、エッチング液成分である酢酸の濃度が変化するとエッチング速度が大きく変化する。この問題を解消するために、図6に記載のようなエッチング液濃度制御装置を備えたウェットエッチング装置を用いてエッチング液成分の濃度を所定の範囲に制御するという技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
図6は、従来のエッチング液成分の濃度制御システムの構成図である。図6において、ウェットエッチング装置61はエッチング液を保持可能なエッチング液タンク61aを有し、かつ、被エッチング面を有する基板をエッチング液に接触させてエッチングを行うことができる装置である。イオンクロマトグラフ62はエッチング液タンク61a内のエッチング液濃度を測定し、制御装置63はイオンクロマトグラフ62の測定情報に基づきエッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が所定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出できる制御装置であり、添加装置64は制御装置63からの情報に基づきエッチング液タンク61aにエッチング液成分を添加する装置である。このようなエッチング液の濃度制御システムによれば、エッチング液成分の濃度を所定範囲内とすることができ、エッチング速度の制御及びエッチングの安定化を達成できる(特許文献1)。
【0005】
また、エッチング液のイオンクロマトグラフ62においては、エッチング液成分の濃度制御の重要性に鑑み、標準液を用いた校正が行われ、イオンクロマトグラフィーの測定精度が管理されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−92966
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エッチング液に例えば、リン酸と酢酸が含まれる場合、イオン交換カラムを用いて複数回測定すると、溶離液の組成の変化及び/又はカラムの劣化に伴い、リン酸のピーク波形が他のエッチング液成分のピーク波形と重なって、エッチング液成分の濃度測定の精度が悪化し、その結果、エッチング液成分の濃度制御の精度が悪化するという問題がある。また、それに伴いイオン交換カラムの交換が必要となり、濃度測定及び濃度制御のランニングコストが上昇するという問題もある。
【0008】
本発明は、エッチング液成分の濃度制御方法の新たな技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ウェットエッチング装置のエッチング液タンクからエッチング液サンプルを採取すること、前記エッチング液サンプルのエッチング液成分の濃度をイオン交換クロマトグラフィーにより測定すること、及び、前記測定の情報に基づき、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加することを含み、前記エッチング液はエッチング液成分としてリン酸を含むエッチング液成分の濃度制御方法であって、
前記エッチング液成分の濃度測定において、イオン交換カラムを複数回使用した後、検出されるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に、溶離液のpHを変化させてリン酸のピークの保持時間を移動させることを含むエッチング液成分の濃度制御方法に関する。
【0010】
また、本発明は、その他の態様において、本発明のエッチング液成分の濃度制御方法で制御されたエッチング液を使用することを含むウェットエッチング方法に関する。
【0011】
また、本発明は、さらにその他の態様において、エッチング液を保持可能なエッチング液タンクを有し被エッチング面を有する基板をエッチング液に接触させてエッチングを行うウェットエッチング装置と、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分を測定するイオンクロマトグラフと、前記イオンクロマトグラフの測定情報に基づき前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出することができる第1の制御部と、前記第1の制御部からの情報に基づき前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加する第1の添加装置とを含むウェットエッチングシステムであって、
前記イオンクロマトグラフが、イオン交換カラムと、前記イオン交換カラムの後段に配置された検出器と、前記検出器からの情報に基づきエッチング液成分に含まれるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に溶離液のpHを調節してリン酸のピークの保持時間を移動させる制御を行う第2の制御部と、前記第2の制御部からの情報に基づき溶離液にpH調整液を添加する第2の添加装置とを備えるウェットエッチングシステムに関する。
【0012】
また、本発明は、さらにその他の態様において、本発明のエッチング液成分の濃度制御方法に用いるエッチング液成分の濃度測定装置であって、イオン交換カラムと、前記イオン交換カラムの後段に配置された検出器と、前記検出器からの情報に基づきエッチング液成分に含まれるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形との重なる場合に溶離液のpHを調節してリン酸のピークの保持時間を移動させる制御を行う制御部と、前記制御部からの情報に基づき溶離液にpH調整液を添加する添加装置とを備える、エッチング液成分の濃度測定装置に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数回測定後に濃度測定用のイオン交換カラムが劣化するなどしてピークの分離性が悪化して測定精度が悪化した場合であっても、好ましくは、測定精度を維持しつつ、カラムの交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、酢酸、リン酸、及び硝酸のイオン交換カラムにおける保持時間の一例を示し、図1Aは溶離液のpHが4の場合であり、図1Bは溶離液のpHが7の場合である。
【図2】図2は、本発明のウェットエッチングシステムの一実施形態を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明のウェットエッチングシステムのその他の実施形態を示す構成図である。
【図4】図4は、図2に示される実施形態のウェットエッチングシステムの第2制御部における処理動作の一例を示すフロー図である。
【図5】図5は、図3に示される実施形態のウェットエッチングシステムの制御部における処理動作の一例を示すフロー図である。
【図6】図6は、従来のエッチング液成分の濃度制御システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
例えば、一般的に使用されるリン酸、硝酸、及び酢酸の水溶液であるエッチング液の濃度測定を一般的な溶離液でイオン交換クロマトグラフィーにより行う場合、図1Aで示すとおり、リン酸のピークの保持時間が酢酸のピークの保持時間と近接している(通常の溶離液のpHは4)。このため、カラムの劣化、及び/又は、溶離液の組成の変化により酢酸のピーク波形とリン酸のピーク波形とが重なり、これらの濃度測定の精度が悪化する。本発明は、そのような場合に、溶離液のpHを変化させるとリン酸のピークの保持時間がとりわけ大きく移動し(図1B参照、溶離液のpHは7)、ピーク波形が他の成分のものと重なることなくエッチング液成分の濃度測定が可能となる、という知見に基づく。
【0016】
すなわち、本発明のエッチング液成分の濃度制御方法(以下、「本発明の濃度制御方法」ともいう)は、ウェットエッチング装置のエッチング液タンクからエッチング液サンプルを採取すること、前記エッチング液サンプルのエッチング液成分の濃度をイオン交換クロマトグラフィーにより測定すること、及び、前記測定の情報に基づき、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加することを含み、前記エッチング液はエッチング液成分としてリン酸を含む濃度制御方法であって、前記エッチング液成分の濃度測定において、イオン交換カラムを複数回使用した後、検出されるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に、溶離液のpHを変化させてリン酸のピークの保持時間を移動させることを含む濃度制御方法に関する。
【0017】
一般に、カラムの交換時期(劣化)は、ピークの分離性、ピークの形状、ピークの半値幅等が変化し始めることで認識され、最終的には標準液に対する再現性で判断される。よって、ピークの分離性が確保できれば、カラムが標準液に対して再現性を維持できなくなるまで使用することができ、カラムの寿命を延ばすことができる。
【0018】
すなわち、本発明によれば、複数回測定後に濃度測定用のイオン交換カラムが劣化するなどしてピークの分離性が悪化して測定精度が悪化した場合であっても、ピークの保持時間を移動させることにより測定精度を維持しつつ、カラムの交換頻度を低減することができ、エッチング液成分の濃度制御の精度の維持と低コスト化とを図ることができるという効果を奏する。
【0019】
[エッチング液]
本発明の濃度制御方法の対象となるエッチング液は、リン酸をそのエッチング液成分として含む。本発明の濃度制御方法は、エッチング液がリン酸及び酢酸を含む場合に濃度制御の維持と低コスト化という効果をより発揮しうるため好ましい。よって、エッチング液の組成の好ましい実施形態としては、リン酸と酢酸と硝酸と水とを含む混合物が挙げられ、より好ましくは、リン酸と酢酸と硝酸と水とからなる混合物である。
【0020】
エッチング液の成分組成は、当業者であれば、被エッチング物に応じて適宜設定できる。エッチング液がリン酸と酢酸と硝酸と水とを含む混合物である場合、それぞれの含有量としては、リン酸が30〜80重量%、酢酸が0を超え30重量%以下、硝酸が0を超え30重量%以下であることが好ましく、残りが水及びその他の成分であることが好ましい。前記その他の成分は含有されなくてもよい。このようなエッチング液は、通常、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする金属薄膜のテーパ加工のためのウェットエッチング工程に使用される。当業者であれば、エッチング液タンク内のエッチング液成分の濃度範囲を適宜設定できる。
【0021】
[エッチング液成分の濃度測定]
本明細書において、エッチング液成分の濃度測定は、少なくとも1つのエッチング液成分の濃度を測定することを含み、好ましくは少なくともリン酸の濃度を測定することを含み、より好ましくはエッチング液成分それぞれの濃度を測定することを含む。本発明において、エッチング液成分の濃度測定は、イオン交換クロマトグラフィーによって測定する。当業者であればエッチング液組成に応じて適宜イオン交換カラムを選択して使用できる。エッチング液成分の濃度は、具体的には、検出器から得られるクロマトグラム(チャート)におけるピーク面積(ピーク波形とベースラインとの間の面積)から算出されることが好ましい。本明細書において、「ピーク波形」とは、ベースライン上に形成されるピークを形成する波形をいう。イオン交換クロマトグラフィーで使用する検出器も当業者であれば適宜選択して使用できるが、そのなかでも電気伝導度検出器が好ましく使用できる。さらに、イオン交換カラムと検出器との間にサプレッサを配置して使用することは、分析精度を高める点から好ましい。
【0022】
本明細書において「前記イオン交換カラムを複数回使用した後、検出されるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合」とは、イオン交換クロマトグラフィーによりエッチング液成分の濃度測定を開始した後に、リン酸のピーク波形とその他のエッチング液成分のピーク波形との少なくとも一部が重なる場合を含み、ピーク波形の重なりによりピーク面積が正しく算出されないおそれがある場合を含む。ピーク波形の重なりは、好ましくは検出器に接続する制御部に内蔵されうるソフトウエアによって自動的に検出することもでき、あるいは、クロマトグラムを目視することで判断してもよい。
【0023】
本明細書において「溶離液のpHを変化させてリン酸のピークの保持時間を移動させること」とは、酸の中でもリン酸が特に溶離液のpHに応じて保持時間が大きく変化することを利用するものである。本明細書において「溶離液のpHの変化」は、移動相のpHの変化であってもよい。溶離液のpHを変化させる方法は、特に限定されず、酸又はアルカリを添加する方法が挙げられる。また、溶離液が緩衝剤を含む場合には緩衝剤の含有量を調節することでpHを変化させてもよい。この方法によれば、溶離液の成分組成を変化させることなくpHを調整できる。
【0024】
変化させた後の溶離液のpHは、測定精度の維持の点から、中和点近傍を避けることが好ましく、pH2〜4、pH6〜8、又はpH11.5以上がより好ましく、pH2.5〜4、pH6.5〜7.5、又はpH12以上がさらに好ましい。
【0025】
「前記イオン交換カラムを複数回使用した後」とは好ましくは少なくとも2回以上、より好ましくは5、10、又は15回以上使用した後をいう。「リン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる」ことの理由としては、まず、カラムに劣化が生じうることが挙げられる。あるいは、溶離液の組成が急激に変化する場合も挙げられる。通常は、カラムが劣化すると、ピークの分離性、ピークの形状、ピークの半値幅等が変化し始め、ピークの重なりが発生するなどして濃度測定の精度が悪化し、かつ、カラムの交換が必要になる。しかしながら、本発明によれば、上述のとおり、リン酸の保持時間を移動させることにより濃度測定の精度を維持することができ、標準液に対する再現性が得られなくなる程度までカラムの寿命を延ばすことができ、カラムの交換頻度を低減できる。
【0026】
したがって、本発明は、その態様として、エッチング液成分の濃度測定方法(以下、「本発明の濃度測定方法」ともいう)であって、イオン交換クロマトグラフィーにより濃度測定をすることを含み、前記エッチング液はエッチング液成分としてリン酸を含み、イオン交換カラムを複数回使用した後、検出されるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に、溶離液のpHを変化させてリン酸のピークの保持時間を移動させることを含むエッチング液成分の濃度測定方法に関する。本発明の濃度測定方法によれば、好ましくは、エッチング液成分の測定精度の維持とコストの低減が達成されうる。
【0027】
本発明の濃度制御方法は、後述する本発明のウェットエッチングシステム、又は本発明のエッチング液成分の濃度測定装置を用いて行うこともできる。また、本発明の濃度測定方法は、後述する本発明のエッチング液成分の濃度測定装置を用いて行うこともできる。
【0028】
[ウェットエッチングシステム]
本発明は、その他の態様として、エッチング液を保持可能なエッチング液タンクを有し被エッチング面を有する基板をエッチング液に接触させてエッチングを行うウェットエッチング装置と、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分を測定するイオンクロマトグラフと、前記イオンクロマトグラフの測定情報に基づき、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出することができる第1の制御部と、前記第1の制御部からの情報に基づき前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加する第1の添加装置とを含むウェットエッチングシステムであって、前記イオンクロマトグラフが、イオン交換カラムと、前記イオン交換カラムの後段に配置された検出器と、前記検出器からの情報に基づきエッチング液成分に含まれるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に溶離液のpHを調節してリン酸のピークの保持時間を移動させる制御を行う第2の制御部と、前記第2の制御部からの情報に基づき溶離液にpH調整液を添加する第2の添加装置とを備えるウェットエッチングシステムに関する。本発明のウェットエッチングシステムであれば、本発明の濃度制御方法を好適に行うことができる。
【0029】
前記ウェットエッチング装置は、被エッチング面を有する基板をエッチング液に接触させてエッチングを行うことができるものであれば特に制限されず、好ましくは、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする金属薄膜のテーパ加工が可能なウェットエッチング装置である。前記エッチング液タンクに保持されうるエッチング液としては、上述のとおり、リン酸をそのエッチング液成分として含むものが好ましく、より好ましくは、リン酸と酢酸と硝酸と水とを含む混合物であって、さらに好ましくは、リン酸と酢酸と硝酸と水とからなる混合物である。エッチング液がリン酸と酢酸と硝酸と水とを含む混合物である場合の各成分の含有量は、上述の通りであることが好ましい。
【0030】
前記イオン交換カラム及び前記検出器は、当業者であればエッチング液組成に応じて適宜選択して使用できる。上述のとおり、前記検出器としては、電気伝導度検出器が好ましく使用できる。さらに、前記イオン交換カラムと検出器との間にサプレッサを配置して使用することは、分析精度を高める点から好ましい。
【0031】
〔実施形態1〕
本発明のウェットエッチングシステムの一実施形態を図2の構成図を用いて説明する。図2のウェットエッチングシステム20は、エッチング液タンク21aを有するウェットエッチング装置21と、エッチング液タンク21a内のエッチング液成分の濃度測定をするイオンクロマトグラフ22と、イオンクロマトグラフ22から得られる測定情報に基づき添加すべきエッチング液成分の量を算出及び制御する第1の制御部23と、第1の制御部23からのシグナルに基づきエッチング液タンク21aにエッチング液成分を添加する第1の添加装置24を含む。
【0032】
イオンクロマトグラフ22は、溶離液リザーバ224からポンプ等(図示せず)により送流される溶離液(移動相)がイオン交換カラム225及び検出器226を通して廃液タンク227で回収されるように接続される構成である。イオンクロマトグラフ22は、さらに、検出器と接続する第2の制御部229と、溶離液リザーバ224内のpHを変化させうる第2の添加装置228を含む。エッチング液タンク21aから採取された試料221は、試料注入部223から注入され、校正用の標準液222も、必要に応じて試料注入部223から注入される。
【0033】
試料221又は標準液222の試料注入部223における注入は、適宜サンプルインジェクタを利用できる。サンプルインジェクタは、オートサンプラを備えていてもよい。校正用の標準液222、及び溶離液224は、当業者であればエッチング液組成及びイオン交換カラム225に応じて適宜選択できる。
【0034】
検出器226で得られる情報は、第2の制御部229で分析される。第2の制御部229は、エッチング液成分濃度の測定情報を第1の制御部23に伝達し、また、溶離液のpHを変化させる場合には、添加すべきpH調整液の種類及び/又は量等のシグナルを第2の添加装置228に伝達する。第2の添加装置228は、第2の制御部229からのシグナルに基づき、pH調整液を溶離液リザーバ224に添加して溶離液のpHを変化させる。
【0035】
第2の制御部229における処理は、例えば、図4のフロー図に示すように行うことができる。第2の制御部229における処理は、まず、試料221の測定において検出器226で検出されたクロマトグラム情報を入手し(ST1)、リン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なっているか否かを判断する(ST2)。ピークの重なりがないと判断された場合、ピーク面積の測定及び濃度の算出を行う(ST3)。算出された濃度を含む測定情報は、第1の制御部23に伝達される(ST4)。
【0036】
一方、前記ST2でピークの重なりがあると判断された場合、溶離液のpHを変化させるため、添加すべき試薬の種類及び/又は量の算出を行い(ST5)、そのシグナルを第2の添加装置228に伝達し、溶離液リザーバ224へpH調整液などを添加させ、溶離液のpHを調整させる(ST6)。溶離液のpHの調整液としては、上述したとおり、酸、アルカリ、溶離液が緩衝剤である場合には同じ緩衝剤、及び、希釈するための水などが挙げられる。pH制御部において調整後の溶離液として設定されうるpHとしては、上述のおとり、測定精度の維持の点から、中和点近傍を避けることが好ましく、pH2〜4、pH6〜8、又はpH11.5以上がより好ましく、pH2.5〜4、pH6.5〜7.5、又は12以上がさらに好ましい。
【0037】
前記ST6で溶離液のpHが調整された後、再び試料221の再測定を行い、検出器226で検出されたクロマトグラム情報を入手し(ST7)、リン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なっているか否かを判断する(ST8)。ピークの重なりがないと判断された場合、標準液222を使用して検量線の作成を行い(ST9)、試料221のピーク面積の測定及び濃度の算出を行う(ST10)。算出された濃度を含む測定情報は、第1の制御部23に伝達される(ST11)。一方、前記ST2でピークの重なりがあると判断された場合、再びST5から繰り返して処理動作を行う。このような処理を行うことで、ピーク波形の重なりがない、測定に適した溶離液のpHを設定できる。
【0038】
したがって、第2の制御部229は、検出器226から得たクロマトグラム情報からリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なっているか否かの判断(ST2)を行う判断部を有することが好ましい。第2の制御部229はさらに、ピークの重なりがないと前記判断部が判断した場合に、ピーク面積の測定及び濃度の算出(ST3)を行う濃度算出部を含むことが好ましい。前記濃度算出部は、上述のST9及びST10も行うことができる。第2の制御部229はさらに、ピークの重なりがあると前記判断部が判断した場合に、溶離液のpHを変化させるため、添加すべき試薬の種類及び/又は量が算出(ST5)を行い、そのシグナルの第2の添加装置228への伝達(ST6)を行うpH制御部を含むことが好ましい。第2の添加装置228は、pHを調節するための前述したpH調整液を備えることが好ましい。
【0039】
第1の制御部23は、イオンクロマトグラフ22(具体的には、第2の制御部229)から得られる測定情報に基づきエッチング液タンク21a内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出し、そのシグナルを第1の添加装置24に伝達する。
【0040】
〔実施形態2〕
本発明のウェットエッチングシステムにおいて、第1の制御部と第2の制御部は1つの制御部であってもよい。そのような本発明のウェットエッチングシステムの実施形態を図3の構成図及び図5のフロー図を用いて説明する。図3のウェットエッチングシステム30は、図2のウェットエッチングシステム20の第1の制御部23と第2の制御部229とが1つの制御部33となった他は、図2のウェットエッチングシステム20と同様の構成である。
【0041】
図3のウェットエッチングシステム30は、エッチング液タンク31aを有するウェットエッチング装置31と、エッチング液タンク31a内のエッチング液成分の濃度測定をするイオンクロマトグラフ32と、イオンクロマトグラフ32から得られる測定情報に基づき添加すべきエッチング液成分の量を算出及び制御する制御部33と、制御部33からのシグナルに基づきエッチング液タンク31aにエッチング液成分を添加する第1の添加装置34を含む。
【0042】
イオンクロマトグラフ32は、溶離液リザーバ324からポンプ等(図示せず)により送流される溶離液(移動相)がイオン交換カラム325及び検出器326を通して廃液タンク327で回収されるように接続される構成である。エッチング液タンク31aから採取された試料321は、試料注入部323から注入され、校正用の標準液322も、必要に応じて試料注入部323から注入される。イオンクロマトグラフ32は、さらに、溶離液リザーバ324内のpHを変化させうる第2の添加装置328を含む。
【0043】
検出器326で得られる情報は、制御部33で分析される。制御部33は、エッチング液成分の濃度を算出した場合にはその測定情報に基づきエッチング液タンク31a内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出し、そのシグナルを第1の添加装置34に伝達する。また、制御部33は、溶離液のpHを変化させる場合には、添加すべきpH調整液の種類及び/又は量等のシグナルを第2の添加装置328に伝達する。第2の添加装置328は、制御部33からのシグナルに基づき、pH調整液を溶離液リザーバ324に添加して溶離液のpHを変化させる。
【0044】
制御部33における処理は、例えば、図5のフロー図に示すように行うことができる。まず、試料321の測定において検出器326で検出されたクロマトグラム情報を入手し(ST21)、リン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なっているか否かを判断する(ST22)。ピークの重なりがないと判断された場合、ピーク面積の測定及び濃度の算出を行う(ST23)。制御部33は、ST23で得られたエッチング液成分の濃度情報に基づきエッチング液タンク31a内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出し(ST24)、そのシグナルを第1の添加装置34に伝達する(ST25)。
【0045】
一方、前記ST22でピークの重なりがあると判断された場合、溶離液のpHを変化させるため、添加すべき試薬の種類及び/又は量の算出を行い(ST26)、そのシグナルを第2の添加装置328に伝達し、溶離液リザーバ324へpH調整液などを添加させ、溶離液のpHを調整させる(ST27)。溶離液のpHの調整液、及び設定されうるpHは上述のとおりである。前記ST27で溶離液のpHが調整された後、再び試料321の再測定を行い、検出器226で検出されたクロマトグラム情報を入手し(ST28)、リン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なっているか否かを判断する(ST29)。ピークの重なりがないと判断された場合、標準液322を使用して検量線の作成を行い(ST30)、試料321のピーク面積の測定及び濃度の算出を行う(ST31)。そして、算出されたエッチング液成分の濃度情報に基づきエッチング液タンク31a内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出し(ST32)、そのシグナルを第1の添加装置34に伝達する(ST33)。一方、前記ST29でピークの重なりがあると判断された場合、再びST26から繰り返して処理動作を行う。このような処理を行うことで、ピーク波形の重なりがない、測定に適した溶離液のpHを設定できる。
【0046】
したがって、制御部33は、検出器226から得たクロマトグラム情報からリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なっているか否かの判断(ST22)を行う判断部を有することが好ましい。制御部33はさらに、ピークの重なりがないと前記判断部が判断した場合に、ピーク面積の測定及び濃度の算出(ST23)並びにST23で得られたエッチング液成分の濃度情報に基づきエッチング液タンク31a内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量の算出(ST24)を行う濃度算出部を含むことが好ましい。前記濃度算出部は、上述のST30〜ST32も行うことができる。制御部33はさらに、ピークの重なりがあると前記判断部が判断した場合に、溶離液のpHを変化させるため、添加すべき試薬の種類及び/又は量が算出(ST26)を行い、そのシグナルの第2の添加装置328への伝達(ST27)を行うpH制御部を含むことが好ましい。第2の添加装置328は、pHを調節するためのpH調整液を備えることが好ましく、前記試薬としては、上述したとおりであり、pH制御部において調整後の溶離液として設定されうるpHも、上述のおとりである。
【0047】
[エッチング液成分の濃度測定装置]
本発明は、その他の態様として、本発明の濃度制御方法に用いるエッチング液成分の濃度測定装置であって、イオン交換カラムと、前記イオン交換カラムの後段に配置された検出器と、前記検出器からの情報に基づきエッチング液成分に含まれるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に溶離液のpHを調節してリン酸のピークの保持時間を移動させる制御を行う制御部と、及び、前記制御部からの情報に基づき溶離液にpH調整液を添加する添加装置とを備えるエッチング液成分の濃度測定装置に関する。本発明のエッチング液成分の濃度測定装置であれば、本発明の濃度制御方法及び本発明の濃度測定方法を好適に行うことができる。前記イオン交換カラム、前記検出器、前記制御部、及び前記添加装置については上述を参照でき、具体的な実施形態としては、図2のイオンクロマトグラフ22が挙げられる。
【0048】
[ウェットエッチング方法]
本発明は、さらにその他の態様として、ウェットエッチング方法であって、本発明の濃度制御方法によりエッチング液の濃度を制御すること、若しくは、本発明の濃度測定方法によりエッチング液の濃度を測定すること、又は、本発明のウェットエッチングシステム、若しくは、本発明のエッチング液成分の濃度測定装置を使用することを含むウェットエッチング方法に関する。本発明によれば、好ましくは、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする金属薄膜のテーパ加工のためのウェットエッチング工程に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えば、ウェットエッチング工程を含む産業の分野で有用である。
【符号の説明】
【0050】
20、30・・・・・ウェットエッチングシステム
21、31・・・・・ウェットエッチング装置
21a、31a・・・エッチング液タンク
22、32・・・・・イオンクロマトグラフ
23・・・・・・・・第1の制御部
33・・・・・・・・制御部
24、34・・・・・第1の添加装置
221、321・・・試料
222、322・・・標準液
223、323・・・試料注入部
224、324・・・溶離液リザーバ
225、325・・・イオン交換カラム
226、326・・・検出器
227、327・・・廃液タンク
228、328・・・第2の添加装置
229・・・・・・・第2の制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェットエッチング装置のエッチング液タンクからエッチング液サンプルを採取すること、
前記エッチング液サンプルのエッチング液成分の濃度をイオン交換クロマトグラフィーにより測定すること、及び、前記測定の情報に基づき前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加することを含み、前記エッチング液はエッチング液成分としてリン酸を含む、エッチング液成分の濃度制御方法であって、
前記エッチング液成分の濃度測定において、前記イオン交換カラムを複数回使用した後、検出されるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に、溶離液のpHを変化させてリン酸のピークの保持時間を移動させることを含む、エッチング液成分の濃度制御方法。
【請求項2】
前記エッチング液は、リン酸と酢酸と硝酸と水とを含む混合物である、請求項1記載のエッチング液成分の濃度制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエッチング液成分の濃度制御方法で制御されたエッチング液を使用することを含む、ウェットエッチング方法。
【請求項4】
エッチング液を保持可能なエッチング液タンクを有し被エッチング面を有する基板をエッチング液に接触させてエッチングを行うウェットエッチング装置と、前記エッチング液タンク内のエッチング液成分を測定するイオンクロマトグラフと、前記イオンクロマトグラフの測定情報に基づき前記エッチング液タンク内のエッチング液成分濃度が設定範囲内となるように添加すべきエッチング液成分の種類及び量を算出することができる第1の制御部と、前記第1の制御部からの情報に基づき前記エッチング液タンクにエッチング液成分を添加する第1の添加装置とを含む、ウェットエッチングシステムであって、
前記イオンクロマトグラフが、イオン交換カラムと、前記イオン交換カラムの後段に配置された検出器と、前記検出器からの情報に基づきエッチング液成分に含まれるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に溶離液のpHを調節してリン酸のピークの保持時間を移動させる制御を行う第2の制御部と、前記第2の制御部からの情報に基づき溶離液にpH調整液を添加する第2の添加装置とを備える、ウェットエッチングシステム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエッチング液成分の濃度制御方法に用いるエッチング液成分の濃度測定装置であって、
イオン交換カラムと、前記イオン交換カラムの後段に配置された検出器と、前記検出器からの情報に基づきエッチング液成分に含まれるリン酸のピーク波形と他のエッチング液成分のピーク波形とが重なる場合に溶離液のpHを調節してリン酸のピークの保持時間を移動させる制御を行う制御部と、前記制御部からの情報に基づき溶離液にpH調整液を添加する添加装置とを備える、エッチング液成分の濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−267872(P2010−267872A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118911(P2009−118911)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】