説明

エネルギー吸収部材

【課題】6角形又は8角形の外周壁と前記外周壁に接続される内壁からなるアルミニウム合金押出形材製のエネルギー吸収部材の改良。従来より軽量で、多くのエネルギー量を吸収できるようにする。
【解決手段】押出方向に垂直な断面において、外辺1〜6により構成される6角形の外周壁と、外周壁の各対辺の中央部に接続しかつ互いに1箇所でクロスする3個の内辺13〜15を有する。このエネルギー吸収部材を軸方向に圧縮変形させると、外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺のうち内壁との接続箇所に挟まれた部分(隣接する結節点に挟まれた屈曲辺22〜27)が、それぞれ各頂点を座屈変形の「腹」として外周壁の閉断面の内側又は外側の同一方向に座屈変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に衝撃又は静的荷重が負荷された場合に、軸方向に変形しながらエネルギーを吸収するエネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷を低減するという目的から、自動車をはじめとして、様々な分野で軽量化ニーズが高まっている。自動車用クラッシュボックスなどのエネルギー吸収部材もそのようなニーズが高い部品の一つである。このような背景から、従来の鋼製に代わってアルミニウム合金押出形材などの軽金属製エネルギー吸収部材の適用も検討され、実際に採用されている。
【0003】
アルミニウム合金押出形材からなるエネルギー吸収部材として、4角形の外周壁と2組の対辺にそれぞれ接続しかつ互いにクロスする2個の内壁からなる略田形断面のもの(特許文献1)、6角形の外周壁と対向する頂点に接続しかつ互いに1箇所でクロスする3個の内壁からなるもの(特許文献2)が、一般に知られている。この断面の押出形材に対し、軸方向に衝撃又は静的な圧縮荷重を掛けると、略田形断面では、4角形の頂点の強度が高いため各頂点を座屈変形の「節」とし、かつ内壁と外周壁との接続箇所も「節」として蛇腹状に軸方向に繰り返し変形しながらエネルギーを吸収し、6角形断面においても、頂点(外周壁と内壁との接続箇所でもある)を「節」として蛇腹状に軸方向に繰り返し変形しながらエネルギーを吸収する。また、8角形の外周壁と対向する頂点に接続しかつ互いに1箇所でクロスする複数個の内壁からなる断面が、特許文献3に記載されている。
なお、本発明において、座屈変形の「節(node)」とは外周壁又は内壁が蛇腹状に変形する際に張り出しの基点になる箇所であり、「節」自体は張り出さず、「節」と「節」の間の壁面が張り出し変形(外周壁であれば閉断面の内側又は外側に張り出し変形)する。このように張り出し変形する部分を座屈変形の「腹(loop)」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3520959号公報
【特許文献2】特開平11−208519号公報
【特許文献3】特開2004−106612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、軽量化ニーズの高まりの中で、この種のエネルギー吸収部材について、重量当たりのエネルギー吸収量をさらに高めて、所定のエネルギーを吸収するための重量をさらに低減することが求められている。
一方、エネルギー吸収部材が軸方向に圧縮荷重を受けて座屈変形するとき、荷重変動が大きくなるのを抑制し、エネルギー吸収性能を向上させるためには、多角形断面を構成する辺数を増やし、各辺の幅を短くすることが有効とされている。これは座屈変形の波長が短くなり、荷重変動の周期が短くなることで、荷重変動の振幅を抑える効果があるためである。また、多角形断面を構成する辺が偶数の方が、圧縮荷重を軸方向に受けたとき、蛇腹状変形の伝達の位相をそろえて変形の伝達がスムースに進行させることができる。従って、多角形断面は偶数角が望ましく、かつ4角形より6角形又は8角形が望ましい。
従って、本発明の目的は、6角形又は8角形の外周壁と前記外周壁に接続される内壁からなるアルミニウム合金押出材製のエネルギー吸収部材を改良し、従来より軽量で、多くのエネルギー量を吸収できるエネルギー吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエネルギー吸収部材は、押出方向に垂直な断面において6角形の外周壁と前記外周壁の各対辺に接続しかつ互いに1箇所でクロスする3個の内壁を有するアルミニウム合金押出材からなり、軸方向に圧縮荷重を受けて前記外周壁が座屈変形するとき、前記外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺のうち内壁との接続箇所に挟まれた部分が、それぞれ各頂点を座屈変形の「腹」として座屈変形することを特徴とする。
また、本発明に係るエネルギー吸収部材は、押出方向に垂直な断面において8角形の外周壁と前記外周壁の各対辺に接続しかつ互いに1箇所でクロスする4個の内壁を有するアルミニウム合金押出材からなり、軸方向に圧縮荷重を受けて前記外周壁が座屈変形するとき、前記外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺のうち内壁との接続箇所に挟まれた部分が、それぞれ各頂点を座屈変形の「腹」として座屈変形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
アルミニウム合金押出形材が多角形の対向する頂点間を接続する内壁を有する場合、軸方向に圧縮荷重が作用すると、外周壁は頂点(外周壁と内壁との接続箇所)を座屈変形の「節」として蛇腹状に折畳まれるが、この蛇腹変形の間、「節」と「節」の間の座屈変形の「腹」になる壁面の座屈強度はそれほど高くない。一方、本発明の場合、外周壁と内壁の接続箇所が座屈変形の「節」となり、前記外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺のうち内壁との接続箇所に挟まれた部分(この部分を屈曲部を有する辺と見ることができる)が、それぞれ各頂点を座屈変形の「腹」として、外周壁の閉断面の内側又は外側の同一方向に座屈変形する。その結果、座屈変形の「腹」になる壁面の座屈強度が、屈曲部が無い場合に比べて高くなり、アルミニウム合金押出形材全体の平均圧壊荷重も高くなり、エネルギー吸収量が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】エネルギー吸収部材(本発明モデルA)の断面形状を示す図である。
【図2】エネルギー吸収部材(比較例モデルA)の断面形状を示す図である。
【図3】エネルギー吸収部材(本発明モデルB)の断面形状を示す図である。
【図4】エネルギー吸収部材(比較例モデルB)の断面形状を示す図である。
【図5】エネルギー吸収部材(本発明モデルA)の斜視図(左)及び変形図(斜視図:右上、平面図:右下)である。
【図6】エネルギー吸収部材(比較例モデルA)の斜視図(左)及び変形図(斜視図:右上、平面図:右下)である。
【図7】エネルギー吸収部材(本発明モデルB)の斜視図(左)及び変形図(斜視図:右上、平面図:右下)である。
【図8】エネルギー吸収部材(比較例モデルB)の斜視図(左)及び変形図(斜視図:右上、平面図:右下)である。
【図9】エネルギー吸収部材(本発明モデルA,比較例モデルA)の荷重/断面積−変位曲線である。
【図10】エネルギー吸収部材(本発明モデルB,比較例モデルB)の荷重/断面積−変位曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るエネルギー吸収部材(アルミニウム合金押出形材)について、図1〜図10を参照して説明する。
まず、比較例として、図2及び図4に従来のアルミニウム合金押出形材の断面(押出方向に垂直な断面)を示す。図2に示す断面(比較例A)は、6角形の外周壁(外辺1〜6)と、対向する頂点(頂点7と頂点10,頂点8と頂点11,頂点9と頂点12)に接続しかつ互いに1箇所で交差する内壁(内辺13〜15)からなる。外周壁はちょうど正6角形を横方向に潰した形状で、全ての頂点7〜12の内角は鈍角であり、外辺1〜6は同じ長さを有し、全体がX軸(横軸)及びY軸(縦軸)に対して面対称であり、外周壁と内壁の各辺はいずれも平板状である。
図4に示す断面(比較例B)は、8角形の外周壁(外辺31〜38)と、対向する頂点(頂点39と頂点43,頂点40と頂点44,頂点41頂点45,頂点42と頂点46)に接続しかつ互いに1箇所で交差する内壁(内辺47〜50)からなる。外周壁はちょうど正8角形を横方向に潰した形状で、全ての頂点39〜46の内角は鈍角であり、外辺31〜38は同じ長さを有し、全体がX軸及びY軸に対して面対称であり、外周壁と内壁の各辺はいずれも平板状である。
【0010】
次に、本発明に係るアルミニウム押出形材の断面(押出方向に垂直な断面)を図1、図3に示す。図1に示す断面(本発明例A)は、6角形の外周壁(外辺1〜6)と前記外周壁の各対辺(外辺1と外辺4,外辺2と外辺5,外辺3と外辺6)の中央部に接続しかつ互いに1箇所でクロスする3個の内壁(内辺13〜15)からなる。外周壁と内壁の接続箇所(結節点という)に、16〜21の番号を付与している。この本発明例Aは、外周壁は図2の断面と同じであり、全体がX軸及びY軸に対して面対称であり、外周壁と内壁の各辺はいずれも平板状である。
図1において、外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺(例えば頂点8を挟んで隣接する2辺は外辺1と外辺2)のうち内壁との接続箇所(外辺1,2と内壁との接続箇所は結節点16,17)に挟まれた部分、言いかえれば隣接する2つの結節点に挟まれた部分は、折れ部を有する1つの屈曲辺(番号22〜27で示す)とみなすことができる。例えば隣接する結節点16,17に挟まれた部分が屈曲辺22である。
【0011】
図3に示す断面(本発明例B)は、8角形の外周壁(外辺31〜38)と前記外周壁の各対辺(外辺31と外辺35,外辺32と外辺36,外辺33と外辺37,外辺34と外辺38)の中央部に接続しかつ互いに1箇所でクロスする4個の内壁(内辺47〜50)からなる。外周壁と内壁の接続箇所(結節点という)に、51〜58の番号を付与している。この本発明例Bは、外周壁は図4の断面と同じであり、全体がX軸及びY軸に対して面対称であり、外周壁と内壁の各辺はいずれも平板状である。
図3において、外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺(例えば頂点39を挟んで隣接する2辺は外辺31と外辺32)のうち内壁との接続箇所(辺31,32と内壁との接続箇所は結節点51,52)に挟まれた部分、言いかえれば隣接する2つの結節点に挟まれた部分は、折れ部を有する1つの屈曲辺(番号59〜66で示す)とみなすことができる。例えば隣接する結節点51,52に挟まれた部分が屈曲辺59である。
【0012】
なお、上記の例では、6角形又は8角形断面のX軸方向とY軸方向の幅が異なり、かつ、外周壁の各外辺1〜6,31〜38が同じ長さを有し、断面全体がX軸及びY軸に対して面対称となっていたが、6角形又は8角形の外周壁を有し、各対辺に接続する3個又は4個の内壁が互いに1箇所でクロスするのである限り、本発明はこのような断面に限定されない。例えば正6角形又は正8角形の外周壁を有するものも,本発明に含まれる。
【実施例】
【0013】
図1〜図4に示す本発明モデルA,B及び比較例モデルA,Bについて、軸方向に圧縮変形させたときの変形形態をFEM解析して求めた。
FEM解析の材料モデルは、0.2%耐力が240MPaの6000系アルミニウム合金押出形材からなるものとし、基本断面の外形寸法が115mm×70mm、押出方向の長さが300mm、肉厚が全て2.0mmとした。
FEM解析には、汎用の有限要素法解析ソフトLS−DYNAを用いた。端部の拘束条件は端板を溶接で設置する場合を想定して、圧壊方向以外の変位と回転を拘束し、剛体で押し込む態様とし、HAZの軟化は無視した。
【0014】
FEM解析の結果を図5〜8、図9,10及び表1に示す。
図9,10は、図1〜図4に示す本発明モデルA,B及び比較例モデルA,Bで得られた応力−変位曲線を対比して示すものである。モデルにより断面積が若干異なるため。断面積の差を無視するために、荷重Pを断面積Aで除して、応力(単位断面積あたりの荷重)の次元で比較している。
表1は,図1〜図4に示す本発明モデルA,B及び比較例モデルA,Bの、断面積、変位60mm〜180mmの区間で求めた平均荷重及び断面積あたりの荷重を示す。
図5〜図8の変形図は,変位量150mmにおける変形図である。
【0015】
【表1】

【0016】
図6,8は比較例モデルA,Bの変形図である。比較例モデルAの外周壁は、頂点7〜12(外周壁と内壁との結節点でもある)を座屈変形の「節」(図中に□印を付与)として蛇腹状に変形し、比較例モデルBの外周壁も同じく、頂点39〜46(外周壁と内壁との結節点でもある)を座屈変形の「節」(図中に□印を付与)として蛇腹状に変形する。座屈変形の「腹」になる部分は屈曲部のない外辺1〜6又は外辺31〜38である。なお、比較例モデルA,Bの内壁は、外周壁と内壁の接続箇所(結節点)及び内壁同士がクロスする箇所を座屈変形の「節」として変形している.
【0017】
図5,図7は本発明モデルA,Bの変形図である。本発明モデルAの外周壁は、結節点16〜21を座屈変形の「節」(図中に□印を付与)として蛇腹状に座屈変形し、外周壁の頂点7〜12はこの座屈変形の「腹」となり(図中に○印で示す)、隣接する結節点に挟まれそれぞれ1つの折れ部を有する屈曲辺22〜27が、それぞれ1枚の板として外周壁の閉断面の内側又は外側の同一方向に変形する。
本発明モデルBの外周壁も同様に、結節点51〜58を座屈変形の「節」(図中に□印を付与)として蛇腹状に座屈変形し、外周壁の頂点39〜46はこの座屈変形の「腹」となり(図中に○印で示す)、隣接する結節点に挟まれそれぞれ1つの折れ部を有する屈曲辺59〜66が、それぞれ1枚の板として外周壁の閉断面の内側又は外側の同一方向に変形する。
結節点16〜21,39〜46に挟まれた屈曲辺22〜27,59〜66は、それぞれが折れ部を有するため各辺の座屈強度が高く、その結果、断面全体の圧壊荷重が高く、エネルギー吸収量も比較例の場合よりも増加する。なお、本発明モデルA,Bの内壁は、比較例の場合と同様に、外壁との接続箇所(結節点)と内壁がクロスする箇所を「節」として座屈変形している.
【0018】
図9,10及び表1をみると、本発明例A,Bはそれぞれ比較例A,Bよりも断面積あたりの圧壊荷重が高くなっており、発明の効果を確認することができる。
なお、上記の実施例で、座屈変形の「腹」となる頂点7〜12,39〜46はいずれも内角が鈍角とされている。そして、この内角が大きいほど、また各屈曲辺22〜27,59〜66の頂点7〜12,39〜46を挟む両辺(頂点と結節点の間の辺)の幅厚比L/t(Lは各辺の板幅、tは各辺の板厚・・・図1,図3に例示)が小さいほど、前記頂点が座屈変形の「腹」となりやすい。座屈変形の「腹」になり得る頂点の内角及び前記辺(頂点と結節点の間の辺)の幅厚比L/tは、FEM解析又は実験的に容易に確認することができ、一般に内角を直角又は鈍角、幅厚比L/tを35以下の範囲内に設定することが望ましい。
【符号の説明】
【0019】
1〜6,31〜38 外周壁を構成する外辺
7〜12,39〜46 頂点
13〜15,47〜50 内壁を構成する内辺
16〜21,51〜58 外周壁と内壁の接続箇所(結節点)
22〜27,59〜66 屈曲辺(隣接する結節点に挟まれた部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出方向に垂直な断面において6角形の外周壁と前記外周壁の各対辺に接続しかつ互いに1箇所でクロスする3個の内壁を有するアルミニウム合金押出材からなり、軸方向に圧縮荷重を受けて前記外周壁が座屈変形するとき、前記外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺のうち内壁との接続箇所に挟まれた部分が、それぞれ各頂点を座屈変形の「腹」として座屈変形することを特徴とするエネルギー吸収部材。
【請求項2】
押出方向に垂直な断面において8角形の外周壁と前記外周壁の各対辺に接続しかつ互いに1箇所でクロスする4個の内壁を有するアルミニウム合金押出材からなり、軸方向に圧縮荷重を受けて前記外周壁が座屈変形するとき、前記外周壁の各頂点を挟んで隣接する2辺のうち内壁との接続箇所に挟まれた部分が、それぞれ各頂点を座屈変形の「腹」として座屈変形することを特徴とするエネルギー吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−249236(P2010−249236A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99431(P2009−99431)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】