説明

エマルション型の水溶性切削油の処理方法

【課題】簡単な処理工程で下水に排水処理できる程度にまで浄化することができる、エマルション型の水溶性切削油の処理方法の提供。
【解決手段】エマルション型の水溶性切削油の処理方法であって、前記水溶性切削油をpH5未満に調整する工程と、凝集剤としてポリアクリル酸を添加して凝集する工程とを有しており、切削油を含む上層と界面活性剤を含む下層に分離する処理方法。前記ポリアクリル酸は、重量平均分子量が2万〜100万のもので、添加量は200ppm以上(質量基準)となる量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工程で使用するエマルション型の水溶性切削油の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工で使用する切削油として、エマルション型の水溶性切削油が汎用されているが、使用後の水溶性切削油は焼却処分されており、固形分が5質量%程度であるため、処理効率が非常に悪い。
【0003】
特許文献1には、鋳造、鍛造、切削、研削、プレス、圧延、引き抜き、研磨等の金属加工のときに発生する廃液を、カチオン系およびアニオン系高分子凝集剤の少なくとも一つを加える凝集分離工程と、凝集分離工程で分離した凝集分離物を除いた廃水を活性汚泥を用いた微生物処理槽で処理する微生物処理工程とを備えた処理方法が記載されており、pHを6.5〜PH7.5の範囲に調整することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、少なくとも使用済切削油を含有する廃水に、カチオン系有機化合物を添加することにより該廃水中の少なくとも水不溶成分を凝結させて凝結粒子を形成する工程、さらにアニオン系有機高分子を添加して該凝結粒子を凝集フロックに成長させる工程、及び形成された凝集フロックを分離させる工程を含む切削油含有廃水の処理方法が記載されており、処理過程においてpHを7に調整することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、クーラント廃液に酸化アルミニウムを含む焼却灰およびアルミニウム塩を添加して凝集処理し、脱水するクーラント廃液の処理方法が記載されており、凝集処理時には、pH5〜8に調整することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−246142号公報
【特許文献2】特開2000−84567号公報
【特許文献3】特許第3675109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属加工で使用したエマルション型の水溶性切削油に対して、簡単な処理工程で下水に排水処理できる程度にまで浄化することができる、エマルション型の水溶性切削油の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
1.エマルション型の水溶性切削油の処理方法であって、
前記水溶性切削油をpH5未満に調整する工程と、凝集剤としてポリアクリル酸を添加して凝集する工程とを有しており、切削油を含む上層と界面活性剤を含む下層に分離する処理方法。
2.前記界面活性剤を含む下層を濾過により分取して、前記濾過液に対してさらに限外濾過処理する工程を有している、上記1記載の処理方法。
3.前記限外濾過処理した液に対して、さらに逆浸透膜処理する工程を有している、上記2記載の処理方法。
4.前記ポリアクリル酸が、重量平均分子量が2万〜100万のものである、上記1〜3のいずれか1記載の処理方法。
5.前記ポリアクリル酸の添加量が200ppm以上(質量基準)となる量である、上記1〜4のいずれか1記載の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の処理方法を適用することにより、使用後のエマルション型の水溶性切削油を、下水に排水できる程度にまで浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の処理方法において被処理液となるものは、金属加工等で使用後の水溶性切削油であり、通常は、固形分濃度が5質量%程度のものである。不要になった未使用の水溶性切削油を処理することもできるが、その場合には、必要に応じて水で希釈して処理する。
【0010】
本発明の処理方法は、水溶性切削油をpH5未満に調整する工程と、凝集剤としてポリアクリル酸を添加して凝集する工程とを有しており、pHを5未満に調整後に凝集剤を添加してもよいし、凝集剤を添加後にpHを調整してもよいし、凝集剤とpH調整剤を並行して添加してもよい。また、被処理液(使用後の水溶性切削油等)に大きめの異物が混入しているときには、予め除去することが望ましいが、砂や泥程度であれば、取り除くことなく処理することができる。
【0011】
pHの調整工程では、硫酸、塩酸等の無機酸、有機酸を用いて、pHを5未満、好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3以下に調整する。
【0012】
凝集処理工程では、凝集剤としてのポリアクリル酸を添加後又は添加しながら攪拌することができる。
【0013】
ポリアクリル酸としては、重量平均分子量が2万〜100万のものが好ましく、2万〜30万のものがより好ましい。
【0014】
ポリアクリル酸の添加量は、被処理液に添加したときの濃度が200ppm以上(質量基準)となる量であり、好ましくは200〜10,000ppm、より好ましくは500〜5,000ppm、さらに好ましくは500〜2,000ppmである。
【0015】
このようなpH調整工程と凝集処理工程により、被処理液を、切削油を含む上層と界面活性剤を含む下層に分離することができる。
【0016】
本発明の処理方法では、さらに前記界面活性剤を含む下層を濾過により分取して、前記濾過液に対してさらに限外濾過処理する工程を付加することができる。上層部分は油を含む成分であり、焼却処分できる。
【0017】
切削油を含む上層と界面活性剤を含む下層の濾過方法は特に制限されるものではなく、例えば、100〜600メッシュ程度の篩い(JIS篩い)で濾過することができる。
【0018】
限外濾過処理は、分画分子量10,000〜500,000の限外濾過膜又はそれをケーシングに収容した限外濾過膜モジュールを用いて、限外濾過する方法を適用できる。限外濾過膜は、定期的に、40〜95℃の温水乃至は熱水を用いて、逆圧洗浄するか又は浸漬洗浄することが望ましい。
【0019】
本発明の処理方法では、前記限外濾過処理した液に対して、さらに逆浸透膜処理する工程を付加することができる。
【実施例】
【0020】
実施例1
被処理液として、市販のエマルション型の標準的水溶性切削油(出光社製)を水道水で20倍に希釈したものを用いた。
【0021】
被処理液500mlをビーカーに入れた後、50%硫酸を添加して、pH3.0に調整した。
【0022】
次に、ビーカー内を攪拌しながら、凝集剤(重量平均分子量2.5万のポリアクリル酸)を500ppmになるように添加し、約300r/mで、2分間攪拌した。その後、2分間放置して、ビーカー内の分離状態を観察した。なお、ポリアクリル酸は、10%水溶液(wt/vol)として添加した。
【0023】
次に、400メッシュの篩いで濾過して、上層部分を取り除き、下層(濾過液)を分取した。濾過液の濁度は115NTUであった。
【0024】
次に、濾過液を下記の条件で限外濾過した。限外濾過液の濁度は0.5NTUであった。
(限外濾過条件)
ダイセン・メンブレン・システムズ社製中空糸膜FUS1582(分画分子量15万)20本を、内径22φ、長さ30cmの透明PVCケースに入れて両端をウレタン樹脂で固定し、膜面積0.013m(内径換算)の中空糸モジュールとした。このモジュールで、圧力40kPa、常温にてクロスフロー式で濾過運転を行った。濾過流量は、平均で20リットル/(m・h)であった。
【0025】
次に、限外濾過液を、逆浸透膜を用いて、下記の条件で逆浸透膜による濾過処理をした。逆浸透膜処理後の濁度は0.2NTUであった。
(逆浸透膜処理条件)
ダイセン・メンブレン・システムズ社製複合膜DRA4510(平膜)を、有効直径5.6cmφで、平膜試験装置にセットし、1.5MPaの圧力、常温でクロスフロー式濾過を行った。平均濾過流量は、25リットル/(m・h)であった。
【0026】
(濁度)
ハック社製ポータブル濁度計2100pを用いて、常温で測定した。
【0027】
実施例2〜4及び比較例1〜5
表1に示すように、凝集剤の添加量を変化させた場合、pHを変化させた場合について、実施例1と同様にして実験を行った。
結果を表1に示す。尚、比較例1〜5の場合、濾過液の濁度が悪いため、以後の処理は行っていない。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルション型の水溶性切削油の処理方法であって、
前記水溶性切削油をpH5未満に調整する工程と、凝集剤としてポリアクリル酸を添加して凝集する工程とを有しており、切削油を含む上層と界面活性剤を含む下層に分離する処理方法。
【請求項2】
前記界面活性剤を含む下層を濾過により分取して、前記濾過液に対してさらに限外濾過処理する工程を有している、請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
前記限外濾過処理した液に対して、さらに逆浸透膜処理する工程を有している、請求項2記載の処理方法。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸が、重量平均分子量が2万〜100万のものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の処理方法。
【請求項5】
前記ポリアクリル酸の添加量が200ppm以上(質量基準)となる量である、請求項1〜4のいずれか1項記載の処理方法。

【公開番号】特開2010−58019(P2010−58019A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224279(P2008−224279)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】