説明

エラスターゼ阻害剤

【課題】少量の使用でも高いエラスターゼ阻害作用を発揮するエラスターゼ阻害剤の提供。
【解決手段】一般式(I)で示される加水分解タンパクのN−シリル化誘導体(式中、R,R,Rは特定の置換基、Aは結合手を示し、aは0〜3、bは2〜15である)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラスターゼの活性を阻害する作用を有するエラスターゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
真皮の細胞外マトリックスでは、恒常的に合成・分解を繰り返す機能が働いていて、外的・内的刺激により真皮の細胞外マトリックスが損傷した場合、その損傷部位を修復しやすい状態にするため、コラーゲン線維やエラスチン線維などを分解する体内酵素(マトリックスメタロプロテアーゼ群、以下、「MMPs」という)が働くと言われている。ところが、長期間の紫外線被爆や加齢などによって、上記の恒常的合成・分解機能が低下していくため、自然老化性や光老化性のシワやタルミが進行すると言われている。
【0003】
皮膚の弾力性は、真皮に存在するコラーゲン線維とエラスチン線維などの細胞外マトリックスによって保たれていて、特に、エラスチン線維はコラーゲン線維間を繋ぐバネのような役割をしているため、この部分が損傷すると皮膚の弾力性が失われ、シワやタルミの原因になると考えられる。このエラスチン線維を分解する働きを有するMMPsの一つにエラスターゼがあり、このエラスターゼの働きを阻害することによってシワやタルミを軽減することができると考えられる。
【0004】
これまでにも、上記のような皮膚の損傷を抑制するため、加水分解タンパクを主成分とするエラスターゼ阻害剤が提案されている(特許文献1および2、非特許文献1参照)。
【0005】
エラスターゼは、ペプチド鎖中の低分子の中性アミノ酸(アラニン、グリシン、セリン、バリンなど)を認識し、その認識アミノ酸のC末端側のアミノ酸がプロリン以外のアミノ酸であれば、そのアミド結合を加水分解により切断する基質特異性の低いプロテアーゼである。そのため、それら低分子の中性アミノ酸を多く含むタンパク質や加水分解タンパクは、エラスターゼによって分解される基質の一つになり得る。その結果、それら低分子の中性アミノ酸を多く含むタンパク質や加水分解タンパクは、エラスターゼの活性に対して、皮膚の弾性成分と拮抗(競争)的に働き、エラスターゼの活性を阻害する阻害剤として機能することになる。
【0006】
しかしながら、加水分解タンパクが皮膚の弾性成分より優先的にエラスターゼによって分解されて、エラスターゼの皮膚の弾性成分に対する働きを阻害するという報告は見られない。これは、加水分解タンパクが皮膚の弾性成分に対する拮抗阻害剤として充分な阻害作用を得るためには、皮膚の弾性成分に対する加水分解タンパクの相対量を多くしなければ有効なエラスターゼ阻害作用が得られないためであると考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−343887号公報
【特許文献2】特開2004−182687号公報
【非特許文献1】フレグランスジャーナル;2004(8),p.49−54
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上記のような事情に鑑み、少量の使用でもエラスターゼに対して高い阻害作用を有するエラスターゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、加水分解タンパクのN−シリル化誘導体が、少量の使用でもエラスターゼに対して高い阻害作用を発揮することを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0010】
すなわち、本発明は、加水分解タンパクのアミノ酸側鎖の末端アミノ基を含むアミノ基にシリル官能基が結合した、加水分解タンパクのN−シリル化誘導体からなるエラスターゼ阻害剤に関するものである。そして、この本発明の加水分解タンパクのN−シリル化誘導体からなるエラスターゼ阻害剤は、上記の皮膚の弾性成分と拮抗的に働くという記載からも明らかなように、それ自身もエラスターゼの活性により加水分解を受け、それ自身以外のタンパク質、加水分解ペプチド、その誘導体などに対するエラスターゼの活性を阻害するものである。
【0011】
本発明のエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体の具体例としては、例えば、下記の一般式(I)
【0012】
【化1】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕で示されるN−シリル化加水分解ペプチド、
【0013】
前記の一般式(I)で示されるN−シリル化加水分解ペプチドが縮重合したもの、
【0014】
前記の一般式(I)で示されるN−シリル化加水分解ペプチドに、下記の一般式(II)
m−Si−Yn (II)
(式中、mは0〜3の整数、nは1〜4の整数で、m+n=4を示し、Rは水素原子またはケイ素原子に炭素原子が直接結合する有機基で、m個のRは同一でも異なっていてもよく、Yは塩素原子、水酸基または炭素数1〜4の低級アルコキシ基で、n個のYは同一でも異なっていてもよい)で示されるシラン化合物の1種以上を、両者の反応モル比が、N−シリル化加水分解ペプチド:シラン化合物=1:0.1〜1:2の範囲で縮重合させて得られたN−シリル化加水分解ペプチド−シラン化合物共重合組成物などが代表的なものとして挙げられ、それらはいずれも高いエラスターゼ阻害作用、すなわち、エラスターゼの活性に対する高い阻害作用を有している。
【0015】
また、加水分解タンパクのN−シリル化誘導体の中でも、その加水分解タンパク部分がフィブロイン、コンキオリン、ゴマタンパク、エンドウ豆タンパク、カゼインまたはケラチンを加水分解したものである場合は高いエラスターゼ阻害作用を有している。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエラスターゼ阻害剤は、少量の使用でもエラスターゼの活性を阻害することができるエララスターゼ阻害作用を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体における加水分解タンパクとしては、例えば、コラーゲン(その変性物のゼラチンを含む)、フィブロイン、セリシン、ケラチン、カゼイン、コンキオリン、鳥卵の卵黄タンパク、卵白タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、トウモロコシタンパク、米(米糠)タンパク、エンドウ豆タンパク、ゴマタンパク、ジャガイモタンパクなどの動植物由来のタンパク、あるいは酵母菌、キノコ類(担子菌)、クロレラなどから分離した微生物由来のタンパク質を、酸、アルカリ、酵素またはそれらの併用で部分的に加水分解して得られる加水分解タンパクが挙げられるが、上記の加水分解タンパクの中でも、フィブロイン、コンキオリン、ゴマタンパク、エンドウ豆タンパク、カゼイン、ケラチンなどを加水分解したものは、N−シリル化誘導体にしたときにエラスターゼ阻害作用が高く、特に好ましい。
【0018】
上記加水分解タンパクのN−シリル化誘導体の加水分解タンパク部分は、エラスターゼが結合しやすく、かつ高い水溶性を維持し、皮膚への浸透性がよい分子量のものが好ましい。そのため、加水分解タンパク部分のアミノ酸重合度は、3〜15(数平均分子量で約300〜約1800)が好ましく、3〜10(数平均分子量で約300〜約1200)がより好ましい。すなわち、一般式(I)においては、a+bが3〜15のものが好ましく、3〜10のものがより好ましい。加水分解タンパク部分のアミノ酸重合度が15より大きい場合は、加水分解タンパク部分が構造上大きくなりすぎて皮膚への浸透性が低下するおそれがあり、加水分解タンパク部分のアミノ酸重合度が3より小さい場合は、加水分解タンパク部分へのエラスターゼの結合性が低下するおそれがある。
【0019】
また、一般式(I)において、aは0〜3で、bは2〜15、a+bは3〜15であるが、好ましいaの値はa+bの値に左右される。すなわち、N−シリル化加水分解ペプチドにおいて、aで括られている側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の割合が多くなると親水性が低下するだけでなく、加水分解ペプチド中のシリル基に結合する水酸基の割合が多くなって保存中に縮重合を起こして保存安定性が低下するおそれがある。そのため、a+b中でaの占める割合は25%以下が好ましい。ただし、化粧品原料として利用されている天然由来のタンパク質には、塩基性アミノ酸の存在量が20モル%を超えるものはほとんどなく、通常の加水分解で得られる加水分解ペプチドでは、側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の存在割合は20モル%以下である。
【0020】
なお、加水分解タンパクは、アミノ酸重合度が異なるペプチドの混合物として得られるため、アミノ酸重合度の値は平均値になり、一般式(I)のa、bおよびa+bの値も平均値である。
【0021】
加水分解タンパクのN−シリル化誘導体の加水分解タンパク部分は、例えば、本出願人取得の特許第1144744号の公報に記載されているような方法で得ることができる。具体的には、タンパク質を1〜20倍量の水に均一に分散させた後、20〜80℃に加温し、1〜10mol/lの水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強アルカリ、1〜10mol/lの塩酸、硫酸などの強酸、ペプシン、トリプシン、サーモライシンなどのタンパク質分解酵素、またはそれらの併用で加水分解した後、pHを調整し、不溶物を除去することによって得られる。
【0022】
次に、このようにして得られた加水分解タンパクのN−末端にシリル官能基を付加することによって本発明のエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体が得られるが、その加水分解タンパクのN−シリル化誘導体としては、例えば、前記のように、下記のa)〜c)に示すものが挙げられる。
【0023】
a)下記の一般式(I)
【化2】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕で示されるN−シリル化加水分解ペプチド。
【0024】
上記一般式(I)において、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であるが、この側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、ヒドロキシリシンなどが挙げられる。また、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるが、このRが結合するアミノ酸としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、フロリン、ヒドロキシフロリン、トリプトファンなどが挙げられる。
【0025】
このようなN−シリル化加水分解ペプチドは、例えば、本出願人取得の特許第2748174号の公報に記載されている方法で製造することができる。すなわち、加水分解タンパクのアミノ酸側鎖の末端アミノ基を含むアミノ基にシラン化合物のエポキシ変性誘導体やイソシアネート変性誘導体を結合させることによって得られる。より具体的には、pH9〜11に調整した加水分解タンパク水溶液を40〜60℃に加温し、その中にシラン化合物のエポキシ変性誘導体やイソシアネート誘導体を滴下して15分〜6時間反応させることによって、上記一般式(I)で示されるN−シリル化加水分解ペプチドが得られる。
【0026】
b)下記の一般式(I)
【化3】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕で示されるN−シリル化加水分解ペプチドが縮重合したもの。
【0027】
このようなN−シリル化加水分解ペプチドの縮重合物は、前記一般式(I)で示されるN−シリル化加水分解ペプチドのシリル基に結合する水酸基同士が脱水縮合することによって得られるもので、具体的には、N−シリル化加水分解ペプチド水溶液を、酸剤やアルカリ剤によってpHを4以下あるいは9.5以上にし、高濃度に濃縮したり、加熱することによって得られる。縮重合させるための温度やN−シリル化加水分解ペプチド水溶液の濃度などの条件は、加水分解ペプチドの種類やアミノ酸重合度、反応時間などにより異なるため一定ではないが、概ね、N−シリル化加水分解ペプチド水溶液の濃度を30質量%以上にし、水溶液温度を40℃以上に保ち、30分〜24時間攪拌を続けることによって縮重合物が得られる。ただし、水溶液温度が室温程度でも、水溶液濃度が高い状態で、数日間攪拌を続けると水分の揮散により縮重合物が得られることもある。
【0028】
c)下記の一般式(I)
【化4】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕で示されるN−シリル化加水分解ペプチドに、下記の一般式(II)
m−Si−Yn (II)
(式中、mは0〜3の整数、nは1〜4の整数で、m+n=4を示し、Rは水素原子またはケイ素原子に炭素原子が直接結合する有機基で、m個のRは同一でも異なっていてもよく、Yは塩素原子、水酸基または炭素数1〜4の低級アルコキシ基で、n個のYは同一でも異なっていてもよい)で示されるシラン化合物の1種以上を、両者の反応モル比が、N−シリル化加水分解ペプチド:シラン化合物=1:0.1〜1:2の範囲で縮重合させて得られたN−シリル化加水分解ペプチド−シラン化合物共重合組成物。
【0029】
このようなN−シリル化加水分解ペプチド−シラン化合物共重合組成物は、例えば、本出願人取得の特許第3726939号の公報に記載の方法で製造することができる。すなわち、上記一般式(I)で示されるN−シリル化加水分解ペプチドと上記一般式(II)で示されるシラン化合物を酸性あるいは塩基性水溶液中で混合攪拌し、シラン化合物のアルコキシ基や塩素原子を加水分解し、水溶液を中和することにより、ケイ素原子に結合する水酸基を脱水縮合させることによって得られる。より具体的には、pH1〜4もしくはpH9〜10に調整したN−シリル化加水分解ペプチドを含む水溶液を40〜60℃に加温し、シラン化合物を滴下して15分〜6時間反応させ、反応液を中和することによってN−シリル化加水分解ペプチド−シラン化合物共重合組成物を得ることができる。
【0030】
上記シラン化合物を示す一般式(II)において、その有機基としては、炭素数が1〜8のアルキル基が好ましく、この一般式(II)で表されるシラン化合物の好適な具体例としては、シリコーン鎖の延伸を目的とする場合には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシランなどが挙げられ、シリコーン鎖の延伸を抑制することを目的とする場合には、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシランなどが挙げられる。
【0031】
本発明のエラスターゼ阻害剤のエラスターゼ阻害作用は、日本皮膚科学会大阪地方会発行の「皮膚」、Vol.29.No.5.p.793〜797に記載されている酵素活性測定方法に準じてエラスターゼ活性を測定することによって確認することができる。すなわち、基質にN−Suc−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリドを用い、エラスターゼによる基質の加水分解によって生じるp−ニトロアニリンの生成量を波長410nmの吸光度で測定し、単位時間あたりの吸光度変化量でエラスターゼ活性を求める方法で確認することができる。
【0032】
本発明のエラスターゼ阻害剤は、その使用量に応じてエラスターゼの活性を阻害する作用を発揮するので、その使用量は、特に限定されるものではないが、通常、エラスターゼ1μgに対して0.01mg以上、特に0.1mg以上が好ましい。つまり、本発明のエラスターゼ阻害剤の使用量が上記より少ない場合は、エラスターゼの活性を阻害する作用が充分に発揮されなくなるおそれがある。また、本発明のエラスターゼ阻害剤は、その使用量を多くしすぎても、その使用量の増加に伴なうエラスターゼ活性の阻害作用の増加がほとんど認められなくなることから、多くしても、エラスターゼ1μgに対して100mg以下、特に1.5mg以下が好ましい。本発明のエラスターゼ阻害剤は、通常、該エラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのシリル化誘導体の水溶液として流通にのせられるが、上記使用量は、その純分、つまり、エラスターゼ阻害剤自身の量として表したものである。
【0033】
また、本発明のエラスターゼ阻害剤は、化粧料などに配合することができる。例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェルなどの形態をとる化粧料に本発明のエラスターゼ阻害剤を配合することができ、それによって、紫外線曝露による光老化性のシワやタルミの改善、肌のハリの改善などを期待することができる。その際の配合量は、エラスターゼ活性の阻害作用が発揮される量でさえあれば特に限定されることはないが、通常、本発明のエラスターゼ阻害剤を、その純分として、化粧料中に0.001〜10質量%配合することが好ましい。つまり、本発明のエラスターゼ阻害剤の配合量が上記より少ない場合は、エラスターゼの活性を阻害する作用が充分に発揮されないおそれがあり、また、上記より多くなっても、それに見合う効果の増加がほとんどないからである。
【実施例】
【0034】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、それらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例に先立って、エラスターゼ阻害率を測定・算出するための試験法を示す。また、下記の実施例や比較例で用いる%は、いずれも質量%である。
【0035】
ヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験
本発明のエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体やその原料である加水分解タンパクのヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害率を以下の方法で測定した。すなわち、活性測定用緩衝液として0.1mol/lのTris−HCl(pH7.5)緩衝液を用い、活性測定用基質としては合成基質であるN−Suc−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリド(ペプチド研究所社製)を用い、あらかじめそれを1−メチル−2−ピロリドンで濃度が125mmol/lになるように溶解させておいた。そして、エラスターゼ酵素液としてはヒト好中球由来エラスターゼ(CALBIOCHEM Novabiochem Novagen社製)を上記活性測定用緩衝液で濃度が70.0μg/mlとなるように調製したものを用いた。
【0036】
エラスターゼ活性は、上記活性測定用緩衝液を用いて、試験液中で、活性測定用基質が1.4μmol/ml、エラスターゼ酵素液が13μl/ml、各測定試料濃度が0.001、0.01、0.1%となるように濃度調整して、それらを混合し、37℃で15分間反応させて生じたp−ニトロアニリンの生成量を分光光度計(410nm)で測定し、単位時間当たりの吸光度変化としてエラスターゼの活性値を求めた。つまり、この方法は、エラスターゼの活性により活性測定用基質のN−Suc−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリドのAlaとp−ニトロアニリドとの間が切断され、それによって生成するp−ニトロアニリンの生成量に伴なう吸光度の変化を分光光度計で測定し、それに基づいて、p−ニトロアニリンの生成量とエラスターゼ活性値を求める方法である。このエラスターゼ活性の測定方法は、前記のように、日本皮膚科学会大阪地方会発行の「皮膚」、Vol.29、No.5、p.793〜797に記載されている方法に基づくものであり、試験液の全量は2.7mlであるため、測定時の阻害剤のエラスターゼに対する濃度は、エラスターゼ1μg当り0.011mg、0.11mg、1.1mgとなる。
【0037】
そして、エラスターゼの純活性は、本発明のエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体やその原料である加水分解タンパクに代えて精製水を対照品(ブランク)として測定した。なお、本発明のエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体に属する一般式(I)で示されるN−シリル化加水分解ペプチドの生成にあたっては、副生成物として生成するエタノールや塩化ナトリウムが系中に少量残存することがあるが、この本ヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験では、試験液中に5%以下のエタノールや塩化ナトリウムが存在しても、エラスターゼ活性に影響がないことを確認している。
【0038】
エラスターゼ阻害率は、以下の計算式に基づいて算出した。なお、Aは精製水(比較対照=ブランク)のエラスターゼ活性値であり、Bは下記実施例1〜23および比較例1〜7のエラスターゼ活性値である。このエラスターゼ阻害率が高いほど、当然、エラスターゼ活性の阻害作用が高い。
【0039】
【数1】

【0040】
実施例1〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量350の加水分解フィブロインの20%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイスS−720(商品名)〕を300g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解フィブロインのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−402(商品名)〕55gを2時間かけて滴下し、その後さらに3時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインの28%水溶液(濃度が28%の水溶液)を400g得た。
【0041】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.1、bの平均値が4.7、a+bの平均値が4.8で、Rはフィブロインに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0042】
実施例2〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量350の加水分解フィブロインの20%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイスS−720(商品名)〕を300g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解フィブロインのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−403(商品名)〕60gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインの28%水溶液を390g得た。
【0043】
この3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.1、bの平均値が4.7、a+bの平均値が4.8で、Rはフィブロインに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0044】
実施例3〔3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解フィブロイン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量350の加水分解フィブロインの20%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイスS−720(商品名)〕を200g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解フィブロインのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−9007(商品名)〕36gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを17%塩酸で6.5〜7.0に調整し、加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体である3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解フィブロインの27%水溶液を220g得た。
【0045】
この3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解フィブロインは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHNHCO−、aの平均値が0.1、bの平均値が4.7、a+bの平均値が4.8で、Rはフィブロインに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0046】
実施例4〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物〕
実施例1で調製した3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインの28%水溶液を100g用い、17%塩酸でpHを1.5〜2.0に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら有効成分のモル濃度に対して0.1当量のジメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−22(商品名)〕0.8gを0.5時間かけて滴下し、その後さらに2.5時間攪拌を続けた。反応開始から3時間経過した時点で、有効成分のモル濃度に対して2当量のトリメチルクロロシラン〔信越化学工業株式会社製KA−31(商品名)〕5.6gを一気に添加した後、さらに1時間攪拌を続けた。共重合反応終了後、pHを20%水酸化ナトリウムで6.5〜7.0に調整し、加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物の10%水溶液を290g得た。
【0047】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物の製造にあたって、シラン化合物として使用したジメチルジエトキシシランは、前記一般式(II)において、Rがメチル基、mが2、Yがエトキシ基、nが2で、m+nが4のものに相当し、トリメチルクロロシランは、前記一般式(II)において、Rがメチル基、mが3、Yが塩素原子、nが1で、m+nが4のものに相当する。
【0048】
実施例5〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物〕
実施例2で調製した3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインの28%水溶液を100g用い、17%塩酸でpHを1.5〜2.0に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら有効成分のモル濃度に対して0.1当量のジメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−22(商品名)〕0.8gを0.5時間かけて滴下し、その後さらに2.5時間攪拌を続けた。反応開始から3時間経過した時点で、有効成分のモル濃度に対して1当量のトリメチルクロロシラン〔信越化学工業株式会社製KA−31(商品名)〕5.5gを一気に添加した後、さらに1時間攪拌した。その後、溶液のpHを20%水酸化ナトリウムで6.5〜7.0に調整し、さらに2時間攪拌し、加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物の12%水溶液を260g得た。
【0049】
実施例6〔3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物〕
実施例3で調製した3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解フィブロインの27%水溶液を100g用い、17%塩酸でpHを1.5〜2.0に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら有効成分のモル濃度に対して0.1当量のジメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−22(商品名)〕0.8gを0.5時間かけて滴下し、その後さらに2.5時間反応を継続した。反応開始から3時間経過した時点で有効成分のモル濃度に対して1当量のトリメチルクロロシラン〔信越化学工業株式会社製KA−31(商品名)〕4.5gを一気に添加した後、さらに1時間攪拌を続けた。その後、溶液のpHを20%水酸化ナトリウムで6.5〜7.0に調整し、さらに2時間攪拌し、加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体である3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解フィブロイン−シラン化合物共重合組成物の12%水溶液を240g得た。
【0050】
上記実施例1〜6で調製した加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体のエラスターゼ阻害作用を前記のヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験で測定した。また、比較例1として実施例1〜6の加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体の原料である加水分解フィブロイン〔株式会社成和化成製プロモイスS−720(商品名)〕のエラスターゼ阻害作用および比較対照品(精製水)のエラスターゼ阻害作用も測定した。それら実施例1〜6、比較例1および比較対照品のエラスターゼ阻害率を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜6の原料である比較例1の加水分解フィブロインは、濃度が0.1%という高濃度でもエラスターゼ阻害作用がほとんど見られないのに対して、その加水分解フィブロインをN−シリル化誘導体化したものは、実施例1を除いて、実施例2〜6のいずれも0.001%という低濃度から高いエラスターゼ阻害作用を示した。また、実施例1の3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロインも、濃度が0.01%になるとエラスターゼ阻害率が64%になり、充分なエラスターゼ阻害作用を有していて、これらの加水分解フィブロインのN−シリル化誘導体で構成される実施例1〜6のエラスターゼ阻害剤が高いエラスターゼ阻害作用を有していることが明らかであった。
【0053】
実施例7〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量700の加水分解ゴマタンパクの25%水溶液100g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解ゴマタンパクのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−402(商品名)〕8gを2時間かけて滴下し、その後さらに3時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパクの28%水溶液を115g得た。
【0054】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパクは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.6、bの平均値が5.6、a+bの平均値が6.2で、Rはゴマタンパクに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0055】
実施例8〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量700の加水分解ゴマタンパクの25%水溶液を100g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解ゴマタンパクのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−403(商品名)〕9gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパクの27%水溶液を120g得た。
【0056】
この3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパクは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.6、bの平均値が5.6、a+bの平均値が6.2で、Rはゴマタンパクに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0057】
実施例9〔3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解ゴマタンパク〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量700の加水分解ゴマタンパクの25%水溶液を100g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながらN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−9007(商品名)〕8gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを17%塩酸で6.5〜7.0に調整し、加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体である3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解ゴマタンパクの27%水溶液を120g得た。
【0058】
この3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解ゴマタンパクは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHNHCO−、aの平均値が0.6、bの平均値が5.6、a+bの平均値が6.2で、Rはゴマタンパクに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0059】
実施例10〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク−シラン化合物共重合組成物〕
実施例7で調製した3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパクの28%水溶液を50g用い、17%塩酸でpHを1.5〜2.0に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら有効成分のモル濃度に対して0.1当量のジメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−22(商品名)〕0.3gを0.5時間かけて滴下し、その後さらに2.5時間攪拌を続けた。反応開始から3時間経過した時点で有効成分のモル濃度に対して0.75当量のトリメチルクロロシラン〔信越化学工業株式会社製KA−31(商品名)〕1.3gを一気に添加し、さらに1時間攪拌を続けた。その後、溶液のpHを20%水酸化ナトリウムで6.5〜7.0に調整してさらに2時間攪拌し、加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク−シラン化合物共重合組成物の10%水溶液150gを得た。
【0060】
実施例11〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク−シラン化合物共重合組成物〕
実施例8で調製した3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパクの27%水溶液を50g用い、17%塩酸でpHを1.5〜2.0に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら有効成分のモル濃度に対して0.1当量のジメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−22(商品名)〕0.3gを0.5時間かけて滴下し、その後さらに2.5時間攪拌を続けた。反応開始から3時間経過した時点で有効成分のモル濃度に対して0.75当量のトリメチルクロロシラン〔信越化学工業株式会社製KA−31(商品名)〕1.3gを一気に添加し、さらに1時間攪拌を続けた。その後、溶液のpHを20%水酸化ナトリウムで6.5〜7.0に調整してさらに2時間攪拌し、加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク−シラン化合物共重合組成物の10%水溶液を150g得た。
【0061】
実施例12〔3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解ゴマタンパク−シラン化合物共重合組成物〕
実施例9で調製した3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解ゴマタンパクの27%水溶液を50g用い、17%塩酸でpHを1.5〜2.0に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら有効成分のモル濃度に対して0.1当量のジメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−22(商品名)〕0.3gを0.5時間かけて滴下し、その後さらに2.5時間攪拌を続けた。反応開始から3時間経過した時点で有効成分のモル濃度に対して0.75当量のトリメチルクロロシラン〔信越化学工業株式会社製KA−31(商品名)〕1.3gを一気に添加し、さらに1時間攪拌を続けた。その後、溶液のpHを20%水酸化ナトリウムで6.5〜7.0に調整してさらに2時間攪拌し、加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体である3−トリヒドロキシシリルプロピルアミド加水分解ゴマタンパク−シラン化合物共重合組成物の12%水溶液を125g得た。
【0062】
上記実施例7〜12で調製した加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体のエラスターゼ阻害作用を前記のヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験で測定した。また、比較例2として実施例7〜12の加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体の原料である数平均分子量700の加水分解ゴマタンパクのエラスターゼ阻害作用および比較対照品(精製水)のエラスターゼ阻害作用も測定した。それら実施例7〜12、比較例2および比較対照品のエラスターゼ阻害率を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示す結果から明らかなように、実施例7〜12の原料である比較例2の加水分解ゴマタンパクは、濃度が0.001%という低濃度ではエラスターゼ阻害作用が低いのに対して、その加水分解ゴマタンパクをN−シリル化誘導体化した実施例7〜12は、いずれも、濃度が0.001%という低濃度から非常に高いエラスターゼ阻害率を示し、上記加水分解ゴマタンパクのN−シリル化誘導体で構成される実施例7〜12のエラスターゼ阻害剤が高いエラスターゼ阻害作用を有していることが明らかであった。
【0065】
実施例13〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量600の加水分解コンキオリンの5%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイス パールP(商品名)〕を35%に濃縮した水溶液100gを用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解コンキオリンのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−402(商品名)〕36gを2時間かけて滴下し、その後さらに3時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリンの25%水溶液を280g得た。
【0066】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリンは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.4、bの平均値が6.2、a+bの平均値が6.6で、Rはコンキオリンに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0067】
実施例14〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量600の加水分解コンキオリンの5%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイス パールP(商品名)〕を35%に濃縮した水溶液を100g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解コンキオリンのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−403(商品名)〕40gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリンの25%水溶液を300g得た。
【0068】
この3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリンは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.4、bの平均値が6.2、a+bの平均値が6.4で、Rはコンキオリンに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0069】
実施例15〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリン縮重合物〕
実施例13で調製した3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリンの25%水溶液100gを減圧濃縮して濃度35%に調整した。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.5〜10に調整し、50℃の湯浴上で10時間攪拌を続けて縮重合させた。攪拌終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、水で希釈して有効成分濃度20%の加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリン縮重合物を120g得た。この溶液の一部をゲル濾過分析に供したところ、数平均分子量約1560付近に大きなピークが見られ、元の3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリンの数平均分子量約750の2倍量の重合物が得られていることが確認できた。
【0070】
上記実施例13〜15で調製した加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体のエラスターゼ阻害作用を前記のヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験で測定した。また、比較例3として実施例13〜15の加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体の原料である数平均分子量600の加水分解コンキオリンのエラスターゼ阻害作用および比較対照品(精製水)のエラスターゼ阻害作用も測定した。それら実施例13〜15、比較例3および比較対照品のエラスターゼ阻害率を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示す結果から明らかなように、実施例13〜15の加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体は、濃度が0.001%という低濃度から高いエラスターゼ阻害作用を示したが、それらの原料である比較例3の加水分解コンキオリンは、濃度が0.01%になると、エラスターゼ阻害作用を示しはじめるものの、そのN−シリル化誘導体である実施例13〜15と比べると、エラスターゼ阻害率が25〜40%も低く、エラスターゼ阻害作用が低かった。すなわち、加水分解コンキオリンはN−シリル化誘導体にすると高いエラスターゼ阻害作用を有するようになり、この加水分解コンキオリンのN−シリル化誘導体で構成される実施例13〜15のエラスターゼ阻害剤が高いエラスターゼ阻害作用を有することが明らかであった。
【0073】
実施例16〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパク〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量500の加水分解エンドウ豆タンパクの25%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイスWJ(商品名)〕を250g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解エンドウ豆タンパクのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−402(商品名)〕35gを2時間かけて滴下し、その後さらに3時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパクの25%水溶液を390g得た。
【0074】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパクは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.6、bの平均値が3.7、a+bの平均値が4.3で、Rはエンドウ豆タンパクに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0075】
実施例17〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパク〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量500の加水分解エンドウ豆タンパクの25%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイスWJ(商品名)〕を250g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解エンドウ豆タンパクのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−403(商品名)〕39gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパクの27%水溶液を380g得た。
【0076】
この3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパクは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.6、bの平均値が3.7、a+bの平均値が4.3で、Rはエンドウ豆タンパクに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0077】
実施例18〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパク縮重合物〕
実施例16で調製した3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパクの27%水溶液100gを減圧濃縮して濃度35%に調整した。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.5〜10に調整し、50℃の湯浴上で8時間攪拌を続けて縮重合させた。攪拌終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、水で希釈して有効成分濃度20%の加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパク縮重合物を130g得た。この溶液の一部をゲル濾過分析に供したところ、数平均分子量約1400付近に大きなピークが見られ、元の3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパクの数平均分子量約700の2倍量の重合物が得られていることが確認できた。
【0078】
上記実施例16〜18で調製した加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体のエラスターゼ阻害作用を前記のヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験で測定した。また、比較例4として実施例16〜18の加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体の原料である数平均分子量500の加水分解エンドウ豆タンパクのエラスターゼ阻害作用および比較対照品(精製水)のエラスターゼ阻害作用も測定した。それら実施例16〜18、比較例4および比較対照品のエラスターゼ阻害率を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表4に示す結果から明らかなように、実施例16〜18の加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体は、濃度が0.001%という低濃度から高いエラスターゼ阻害率を示したが、それらの原料である比較例4の加水分解エンドウ豆タンパクは、濃度が0.001%という低濃度では、エラスターゼ阻害作用がほとんど見られず、濃度を0.01%にしてもエラスターゼ阻害作用が低く、濃度を0.1%まで高くするとエラスターゼ阻害作用が現れだしたが、そのシリル化誘導体である実施例16〜18に比べると、エラスターゼ阻害作用が低かった。すなわち、加水分解エンドウ豆タンパクは、N−シリル化誘導体化すると高いエラスターゼ阻害作用を有するようになり、その加水分解エンドウ豆タンパクのN−シリル化誘導体で構成される実施例16〜18のエラスターゼ阻害剤が高いエラスターゼ阻害作用を有することが明らかであった。
【0081】
実施例19〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解カゼイン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量600の加水分解カゼインの30%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイス ミルク(商品名)〕を200g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解カゼインのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−402(商品名)〕28gを2時間かけて滴下し、その後さらに3時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解カゼインのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解カゼインの30%水溶液を290g得た。
【0082】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解カゼインは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.5、bの平均値が4.6、a+bの平均値が5.1で、Rはカゼインに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0083】
実施例20〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解カゼイン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量600の加水分解カゼインの30%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイス ミルク(商品名)〕を200g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解カゼインのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−403(商品名)〕32gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解カゼインのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解カゼインの31%水溶液を300g得た。
【0084】
この3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解カゼインは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.5、bの平均値が4.6、a+bの平均値が5.1で、Rはカゼインに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0085】
上記実施例19〜20で調製した加水分解カゼインのN−シリル化誘導体のエラスターゼ阻害作用を前記のヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験で測定した。また、比較例5として実施例19〜20の加水分解カゼインのN−シリル化誘導体の原料である数平均分子量600の加水分解カゼインのエラスターゼ阻害作用および比較対照品(精製水)のエラスターゼ阻害作用も測定した。それら実施例19〜20、比較例5および比較対照品のエラスターゼ阻害率を表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
表5に示す結果から明らかなように、実施例19〜20の加水分解カゼインのN−シリル化誘導体は、濃度が0.001%という低濃度から高いエラスターゼ阻害作用を示したが、それらの原料である比較例5の加水分解カゼインは、濃度を0.1%にまで高めてもエラスターゼ阻害率が30%程度しかなく、そのN−シリル化誘導体である実施例19〜20に比べてエラスターゼ阻害作用が低かった。つまり、加水分解カゼインはN−シリル化誘導体にすることによって、高いエラスターゼ阻害作用を有するようになり、その加水分解カゼインのN−シリル化誘導体で構成される実施例19〜20のエラスターゼ阻害剤が高いエラスターゼ阻害作用を有することが明らかであった。
【0088】
実施例21〔3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量1000の加水分解ケラチンの25%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイス WK−H(商品名)〕を240g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解ケラチンのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−402(商品名)〕51gを2時間かけて滴下し、その後さらに3時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解ケラチンのN−シリル化誘導体である3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチンの30%水溶液を360g得た。
【0089】
この3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチンは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.9、bの平均値が8.4、a+bの平均値が9.3で、Rはケラチンに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0090】
実施例22〔3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチン〕
加水分解タンパクとしての数平均分子量1000の加水分解ケラチンの30%水溶液〔株式会社成和化成製プロモイスWK−H(商品名)〕を240g用い、20%水酸化ナトリウムでpHを9.0〜9.8に調整した後、液温を55℃に保ち、溶液を攪拌しながら加水分解ケラチンのN末端アミノ基のモル濃度に対して1当量の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社製KBE−403(商品名)〕57gを2時間かけて滴下し、その後さらに5時間攪拌を続けた。反応終了後、反応物のpHを6.5〜7.0に調整し、加水分解ケラチンのN−シリル化誘導体である3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチンの30%水溶液を390g得た。
【0091】
この3−(3’−トリヒドロキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチンは、前記一般式(I)において、Rが水酸基、Aが−(CHOCHCH(OH)CH−、aの平均値が0.9、bの平均値が8.4、a+bの平均値が9.3で、Rはケラチンに由来するアミノ酸のうちの側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であり、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖であるものに相当する。
【0092】
上記実施例21〜22で調製した加水分解ケラチンのN−シリル化誘導体のエラスターゼ阻害作用を前記のヒト好中球由来エラスターゼ活性阻害試験で測定した。また、比較例6として実施例21〜22の加水分解ケラチンのN−シリル化誘導体の原料である数平均分子量1000の加水分解ケラチンのエラスターゼ阻害作用および比較対照品(精製水)のエラスターゼ阻害作用も測定した。それら実施例21〜22、比較例6および比較対照品のエラスターゼ阻害率を表6に示す。
【0093】
【表6】

【0094】
表6に示す結果から明らかなように、実施例21〜22の加水分解ケラチンのN−シリル化誘導体の原料である比較例6の加水分解ケラチンは、濃度を0.1%にまで高くしても、エラスターゼ阻害作用が低かったが、それをN−シリル化誘導体にした実施例20〜21は、高いエラスターゼ阻害率を示し、エラスターゼ阻害作用が高かった。なお、実施例21は濃度が0.001%という低濃度ではエラスターゼ阻害作用が低かったが、濃度が0.01%以上になると高いエラスターゼ阻害作用を示し、比較例6との差が明らかであった。
【0095】
本発明の加水分解タンパクのN−シリル化誘導体からなるエラスターゼ阻害剤は、皮膚のハリやシワの改善を目的とした化粧料に配合して利用できるが、以下に応用例として本発明のエラスターゼ阻害剤を配合した各種化粧料の処方例を示す。なお、エラスターゼ阻害剤は実施例番号とエラスターゼ阻害剤を構成する加水分解タンパクのN−シリル化誘導体名で示す。また、配合量は質量%で示しており、配合成分が固形物でないものについては括弧内に有効成分濃度を示している。
【0096】
応用例1〔化粧水〕
(配合成分) (%)
実施例1:3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 2.0
−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン(28%)
実施例7:3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 1.5
−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク(28%)
地黄抽出エキス水溶液(10%)*1 2.5
ソルビトール 2.0
濃グリセリン 1.0
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
プロピレングリコール 2.5
防腐剤 適量
精製水 計100とする
【0097】
応用例2〔ジェル〕
(配合成分) (%)
実施例1:3−(3’−(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 1.0
−2−ヒドロキシプロピル加水分解フィブロイン(28%)
実施例7:3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 0.5
−2−ヒドロキシプロピル加水分解ゴマタンパク(28%)
(アクリル酸ジヒドロキシエチル/アクリロイルジメチル 2.5
タウリンナトリウム)コポリマーを含むゲル状の乳化増粘
剤*2
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.3
ジメチコン 4.0
濃グリセリン 40.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
プロピレングリコール 5.0
防腐剤 適量
精製水 計100とする
【0098】
応用例3〔乳液〕
(配合成分) (%)
実施例13:3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 2.0
−2−ヒドロキシプロピル加水分解コンキオリン(28%)
ラウロイル加水分解シルクナトリウム水溶液(20%) 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.2
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール 0.11
ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル 1.0
スクワラン 2.0
エタノール 5.0
プロピレングリコール 2.5
防腐剤 適量
精製水 計100とする
【0099】
応用例4〔クリーム〕
(配合成分) (%)
実施例21:3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 1.0
−2−ヒドロキシプロピル加水分解ケラチン(30%)
実施例16:3−(3’−ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ) 1.0
−2−ヒドロキシプロピル加水分解エンドウ豆タンパク(25%)
地黄抽出エキス水溶液(10%)*1 2.5
イソステアリン酸イソプロピル 5.5
親油型モノステアリン酸グリセリル 1.0
イソステアリン酸グリセリル 0.5
ホホバ油 0.5
セタノール 1.0
ジメチコン 0.25
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.O.) 1.7
ステアリン酸 10.0
トリエタノールアミン 1.0
防腐剤 適量
精製水 計100とする
【0100】
上記処方例で使用した成分のうち*印を付したものは下記の通りである。
*1:株式会社成和化成製 ジオウエキス(商品名)
*2:セピック社(フランス)製 シマルゲルNS(商品名)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解タンパクのアミノ酸側鎖の末端アミノ基を含むアミノ基にシリル官能基が結合した、加水分解タンパクのN−シリル化誘導体からなるエラスターゼ阻害剤。
【請求項2】
加水分解タンパクのN−シリル化誘導体が、下記の一般式(I)
【化1】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕
で示されるN−シリル化加水分解ペプチドである請求項1記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項3】
加水分解タンパクのN−シリル化誘導体が、下記一般式(I)
【化2】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕
で示されるN−シリル化加水分解ペプチドが縮重合したものである請求項1記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項4】
加水分解タンパクのN−シリル化誘導体が、下記の一般式(I)
【化3】

〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはRが結合するアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖を示す。Aは結合手であって、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−および−(CHNHCO−よりなる群から選ばれる少なくとも1種を示し、aは0〜3、bは2〜15で、a+bは3〜15である(ただし、aおよびbはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順を示すものではない)〕
で示されるN−シリル化加水分解ペプチドに、下記の一般式(II)
m−Si−Yn (II)
(式中、mは0〜3の整数、nは1〜4の整数で、m+n=4を示し、Rは水素原子またはケイ素原子に炭素原子が直接結合する有機基で、m個のRは同一でも異なっていてもよく、Yは塩素原子、水酸基または炭素数1〜4の低級アルコキシ基で、n個のYは同一でも異なっていてもよい)
で示されるシラン化合物の1種以上を、反応モル比が、N−シリル化加水分解ペプチド:シラン化合物=1:0.1〜1:2の範囲で縮重合させて得られたN−シリル化加水分解ペプチド−シラン化合物共重合組成物である請求項1記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項5】
加水分解タンパクが、フィブロイン、コンキオリン、ゴマタンパク、エンドウ豆タンパク、カゼインまたはケラチンを加水分解したものである請求項1〜4のいずれかに記載のエラスターゼ阻害剤。

【公開番号】特開2008−100929(P2008−100929A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283458(P2006−283458)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】