説明

エルハルト穿孔方法

【課題】高Cr、高Niオーステナイト系合金管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する際、外面割れの発生を確実に防止できるエルハルト穿孔方法を提供する。
【解決手段】高温引張試験による高温最大絞り率が90%以下であるオーステナイト系合金の鋼塊を壺内に装入しエルハルト穿孔する際、鋼塊の高温最大絞り率がα[%]である場合、壺内の平均断面積に対する鋼塊の平均断面積の比率で表される充填面積率β[%]が下記(1)式を満足する条件で穿孔を行う。
β≧−4/3×α+170 ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルハルト・プッシュベンチ製管法により継目無管を製造する際のエルハルト穿孔方法に関し、特に、加工性が著しく悪い高Cr、高Niのオーステナイト系合金材を対象とするエルハルト穿孔方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料をエネルギー源にして発電を行う火力発電プラントでは、超々臨界圧発電ボイラの導入が盛んに行われている。超々臨界圧発電ボイラは、蒸気の温度および圧力を高めて高効率化を実現するものであり、地球温暖化対策の根幹をなすCO2ガスの排出量の削減に有益だからである。この発電ボイラの配管に用いられる大径で厚肉の継目無管は、エルハルト・プッシュベンチ製管法により製造することができる。
【0003】
図1は、エルハルト・プッシュベンチ製管法による継目無管の製造工程を説明する図であり、同図(a)〜(c)はエルハルト穿孔工程の状況を、同図(d)はプッシュベンチによる熱間押抜き工程の状況をそれぞれ示す。この製管法の主要な工程は、前工程のエルハルト穿孔と、後工程の熱間押抜きに区分される。
【0004】
エルハルト穿孔工程は、竪型プレスを使用し、次のステップからなる:
(1)図1(a)に示すように、所定温度に加熱された鋼塊(インゴット)1を壺(コンテナ)2に装入し、壺2の上端の開口にマンドレルガイド4を装着するとともに、鋼塊1の中心線上にマンドレル3を配置する;
(2)図1(b)に示すように、マンドレル3をマンドレルガイド4により案内しながら下降させて鋼塊1を穿孔し、カップ状の底付き素管6を成形する;
(3)図1(c)に示すように、マンドレル3およびマンドレルガイド4を壺2から退避させた後、底付き素管6を突き上げ棒5により突き上げて壺2から取り出す。
【0005】
これに続いて、熱間押抜き工程は、次のステップからなる:
(1)図1(d)に示すように、エルハルト穿孔によって得られた底付き素管6を加熱炉で所定温度に加熱した後、この底付き素管6にマンドレル7を挿入した状態で、底付き素管6をリングダイス8内に進入させて押抜く;
(2)このような加熱および押抜き加工を複数回繰り返し施し、最終的に所定寸法に仕上げた底付き仕上管9を成形する。
【0006】
熱間押抜き工程を経て得られた底付き仕上管9は、熱処理が施される。そして、底付き仕上管9は、底部を含む両端部が切断されるとともに、内外周面が切削され、これにより、所望の表面性状および寸法を有する製品としての継目無管となる。
【0007】
従来の超々臨界圧発電ボイラは、600℃程度以上の蒸気条件が規定されており、この600℃級ボイラには、通常、Crを9質量%程度含有する高Crフェライト鋼の継目無管が用いられる。
【0008】
ここ最近では、地球温暖化が急激に進展していることから、CO2ガスの排出量の削減がますます求められる動向にある。このため、蒸気温度をさらに高め700℃程度以上の蒸気条件を規定する超々臨界圧発電ボイラの実用化が検討されている。この700℃級ボイラにおいては、従来のような高Crフェライト鋼の継目無管では対応が困難であることから、Crの含有量をさらに高めるとともに、Niを多量に含有する高Cr、高Niオーステナイト系合金からなる継目無管の適用が望まれている。
【0009】
ところが、高Cr、高Niオーステナイト系合金材を対象としてエルハルト穿孔すると、得られた底付き素管の外面に、長手方向に沿って裂けたような割れが発生する場合がある。底付き素管にそのような外面割れが発生した場合、プッシュベンチによる押抜き加工を行う前に、グラインダーなどを用いて手入れし、外面割れを除去する必要がある。
【0010】
高Cr、高Niオーステナイト系合金材のエルハルト穿孔で発生する外面割れは、深さが30mm程度に達することもあり、手入れで除去するにも量が多く、多大な工数を強いる。このため、継目無管の製造に要するリードタイムが長くなり、また、外面割れの発生に伴って歩留りも低下する。したがって、高Cr、高Niオーステナイト系合金材のエルハルト穿孔では、製造コストを抑制することが至上の命題であり、外面割れの発生を防止することが課題となっている。
【0011】
エルハルト穿孔で外面割れの発生防止を図る従来技術は、下記のものがある。特許文献1には、エルハルト穿孔に際し、鋼塊を加熱する前にその表面層に加工歪みを付与する技術が開示されている。この技術では、加熱する前の鋼塊の表面層に加工歪みを付与することにより、その表面層の柱状晶組織を破壊し、その後の加熱でその破壊組織を再結晶させて消失させれば、表面層の変形能が向上するので、エルハルト穿孔で外面割れが生じにくくなるとしている。
【0012】
しかし、同文献に開示される技術は、加工性が著しく悪い高Cr、高Niオーステナイト系合金材を対象とする場合、加工歪みの十分な付与が困難であることから、エルハルト穿孔で外面割れの発生防止の効果が期待できない。また、同文献に開示される技術は、加工歪みを付与する工程が新たに追加されることから、継目無管の製造に要するリードタイムが実質的に長くなるという不都合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−81215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、高Cr、高Niのオーステナイト系合金管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する際、外面割れの発生を確実に防止することができるエルハルト穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するため、先ず、エルハルト穿孔時の鋼塊の変形挙動をFEM解析により調査し、エルハルト穿孔時に外面割れが発生する原因について検討した。
【0016】
図2は、エルハルト穿孔時に鋼塊が長手方向と直角な断面内で変形する挙動を模式的に示す図である。同図では、鋼塊1を壺2内に装入し、その鋼塊1の中心にマンドレル3を圧入してエルハルト穿孔する状況を示している。同図に示すように、鋼塊1は、断面形状が概ね四角形状であり、その外面1aに長手方向全長にわたる複数の凸部を有する。このため、鋼塊1は、その外面1aの複数の凸部のうちで一部の凸部1bが壺2の内面2aと接触した状態となる。同図では、点線で囲む4つの凸部1bが壺2の内面2aと接触した状態を例示している。
【0017】
この状態で、鋼塊1の中心にマンドレル3を圧入すると、鋼塊1の外面1aは、壺2の内面2aと接触する凸部1b同士の間の部分、すなわち壺2の内面2aと隙間を隔てた部分が次第に張り出す(同図中で太線矢印参照)。その結果、鋼塊1は、壺2内に充満し、断面形状が壺2の内面2aに沿って円形となる。その際、鋼塊1の外面1aには、壺2の内面2aと接触する凸部1b同士の中間部分に、同図中の実線矢印で示すように、周方向で相反する引張応力が作用する。
【0018】
実際に、高Cr、高Niオーステナイト系合金材のエルハルト穿孔において、外面割れが発生する位置は、図2に示す周方向の引張応力が作用する部分と一致する。このことから、外面割れは、エルハルト穿孔時に鋼塊が壺内に充満する段階で、鋼塊の外面に周方向の引張応力が作用することに起因して発生するといえる。そうすると、エルハルト穿孔時に外面割れの発生を防止するには、鋼塊の外面に作用する周方向の引張応力を低減することが有効であり、そのためには、寸法上の観点から、穿孔に用いる鋼塊の断面サイズおよび壺内の断面サイズの相対関係を適正化することが有効であると考えられる。
【0019】
また、実際のエルハルト穿孔においては、高Cr、高Niオーステナイト系合金の範疇であっても、鋼種によっては外面割れが発生する場合と発生しない場合とがある。実際に発生した外面割れの性状を調査すると、外面割れは延性破壊の形態を呈しており、このことから、外面割れの発生は高温延性の不足が要因であるといえる。この高温延性は鋼種ごとに固有のものであり、高温最大絞り率で表すことができる。そうすると、外面割れの発生は、高温最大絞り率から区別される鋼種に特有のものであると考えられる。
【0020】
以上の検討結果から、本発明者は、鋼種の異なる種々の高Cr、高Niオーステナイト系合金の鋼塊を用い、鋼塊の断面サイズおよび壺内の断面サイズの相対関係を種々変更してエルハルト穿孔する試験を行った。この穿孔試験に先立ち、予備試験として、各鋼種のオーステナイト系合金の鋼塊から試片を採取し、JIS G 0567(1998)に準拠して高温引張試験を行い、高温最大絞り率α[%]を調査した。各鋼種の穿孔試験では、当該鋼種の高温最大絞り率αとなる温度に加熱した。また、鋼塊の断面サイズおよび壺内の断面サイズの相対関係を示す指標として、壺内の平均断面積に対する鋼塊の平均断面積の比率で表される充填面積率β[%]を採用した。ここでいう「壺内の平均断面積」とは、壺内の断面積を長手方向全長にわたり平均した値を意味し、「鋼塊の平均断面積」とは、鋼塊の断面積を長手方向全長にわたり平均した値を意味する。
【0021】
図3は、エルハルト穿孔試験の結果として、鋼塊の高温最大絞り率αと充填面積率βとの関係で外面割れの発生状況を整理した図である。同図に示す結果から、高温最大絞り率αが90%を超えるオーステナイト系合金材では、熱間加工性が良好であることから、充填面積率βが小さくても、外面割れは発生しないことがわかる。一方、高温最大絞り率αが90%以下であるオーステナイト系合金材の場合は、熱間加工性が悪いことから、充填面積率βを大きくしないと、外面割れが発生することがわかる。この場合、高温最大絞り率αと充填面積率βとの間には、高温最大絞り率αの低下に伴って、外面割れが発生しない充填面積率βの限界が線形的に大きくなるという相関があり、高温最大絞り率αに応じ、充填面積率βが下記(1)式を満足すれば、外面割れの発生を防止できることが明らかとなる。
β≧−4/3×α+170 ・・・(1)
【0022】
本発明は、上記の検討結果および知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記のエルハルト穿孔方法にある。すなわち、高温引張試験による高温最大絞り率が90%以下であるオーステナイト系合金の鋼塊を壺内に装入しエルハルト穿孔する方法であって、鋼塊の高温最大絞り率がα[%]である場合、壺内の平均断面積に対する鋼塊の平均断面積の比率で表される充填面積率β[%]が下記(1)式を満足する条件で穿孔を行うことを特徴とするエルハルト穿孔方法である。
β≧−4/3×α+170 ・・・(1)
【0023】
上記の穿孔方法は、前記オーステナイト系合金として、質量%で、Cr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有するものに適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のエルハルト穿孔方法によれば、高Cr、高Niのオーステナイト系合金管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する際、対象鋼種に固有の高温最大絞り率に応じ、規定の条件式に基づいて鋼塊の断面サイズおよび壺内の断面サイズを選定しエルハルト穿孔を行うことにより、外面割れの発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】エルハルト・プッシュベンチ製管法による継目無管の製造工程を説明する図であり、同図(a)〜(c)はエルハルト穿孔工程の状況を、同図(d)はプッシュベンチによる熱間押抜き工程の状況をそれぞれ示す。
【図2】エルハルト穿孔時に鋼塊が長手方向と直角な断面内で変形する挙動を模式的に示す図である。
【図3】エルハルト穿孔試験の結果として、鋼塊の高温最大絞り率αと充填面積率βとの関係で外面割れの発生状況を整理した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のエルハルト穿孔方法は、上記の通り、高温引張試験による高温最大絞り率が90%以下であるオーステナイト系合金の鋼塊を壺内に装入しエルハルト穿孔する方法であって、鋼塊の高温最大絞り率がα[%]である場合、壺内の平均断面積に対する鋼塊の平均断面積の比率で表される充填面積率β[%]が上記(1)式を満足する条件で穿孔を行うことを特徴とする。以下に、本発明の穿孔方法を上記のように規定した理由および好ましい態様について説明する。
【0027】
1.穿孔対象材
本発明の穿孔方法では、高温最大絞り率αが90%以下である高Cr、高Niのオーステナイト系合金材を対象とする。上記の通り、高温最大絞り率αが90%を超えるオーステナイト系合金材では、外面割れの発生はなく、高温最大絞り率αが90%以下であるオーステナイト系合金材の場合に、外面割れの発生が問題となるからである。
【0028】
本発明で穿孔対象とする高Cr、高Niオーステナイト系合金材の具体的な組成は、以下の通りである。以下の記述において、成分含有量の「%」は「質量%」を意味する。
【0029】
Cr:21〜31%
Crは、耐酸化性、耐水蒸気酸化性および耐食性を確保するための重要な元素である。高温下での耐食性を確保するためには最低限21%の含有量が必要である。耐食性はCrの含有量が多いほど向上するが、その含有量が31%を超えると、組織安定性が低下してクリープ強度を損なう。また、オーステナイト組織を安定にするために高価なNi含有量の増加を余儀なくされるだけでなく、溶接性も低下する。したがって、Cr含有量は21〜31%とする。
【0030】
Ni:43〜60%
Niは、オーステナイト組織を安定にする元素であり、耐食性の確保にも重要な合金元素である。上記のCr含有量とのバランスから、Niは43%以上の含有が必要である。一方、Niの過剰な含有はコスト上昇を招くだけでなく、クリープ強度の低下を招くので、その上限は60%とする。
【0031】
本発明で穿孔対象とする高Cr、高Niオーステナイト系合金材は、上記のCrおよびNiを主要な合金元素とし、その他に、下記の元素を含有し、残部をFeおよび不純物とすることができる。ここで、不純物とは、合金材を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0032】
C:0.05〜0.10%
Cは炭化物を形成し、高温用オーステナイト系合金として必要な高温引張強さ、高温クリープ強度を確保する上で重要な成分であり、0.05%以上を含有させるのが好ましい。しかし、その含有量が0.10%を超えると、未固溶炭化物が生じたり、Crの炭化物が増えて溶接性が低下するので、上限は0.10%とするのが好ましい。
【0033】
Si:0.05〜0.4%
Siは、製鋼時に脱酸剤として添加されるが、合金の耐水蒸気酸化性を高めるためにも重要な元素であり、0.05%以上を含有させるのが好ましい。しかし、その含有量が過剰になると合金材の加工性が悪くなるので、上限は0.4%とするのが好ましい。
【0034】
Mn:0.01〜1.3%
Mnは、合金中に含まれる不純物のSと結合してMnSを形成し、熱間加工性を向上させるが、その含有量が0.01%未満ではその効果が低下するので、0.01%以上を含有させるのが好ましい。一方、その含有量が過剰になると、合金材が硬くなって脆くなり、かえって加工性や溶接性を損なうので上限は1.3%とするのが好ましい。
【0035】
P:0.030%以下
Pは不純物として不可避的に混入するが、過剰なPの含有は溶接性および加工性を害するので、上限を0.030%とするのが好ましい。なお、P含有量は少ないほどよい。
【0036】
S:0.010%以下
Sも上記のPと同様に不純物として不可避的に混入するが、過剰なSの含有は溶接性および加工性を害するため、上限は0.010%とするのが好ましい。
【0037】
Al:0.005〜1.5%
Alは、脱酸剤として添加する場合、十分な脱酸効果を得るには0.005%以上を含有させるのが好ましい。また、Alは、Niと結合し金属間化合物として微細に粒内析出し、高温でのクリープ強度を確保することができるため、この効果を必要とする場合は、0.1%以上含有させるのが好ましい。一方、Alの含有量が多くなって、特に1.5%を超えると、高温での使用中に金属間化合物相が急速に粗大化して、クリープ強度および靱性の極端な低下をきたすおそれがある。したがって、Alの含有量の上限は1.5%とするのが好ましい。
【0038】
B:0.001〜0.005%
Bは、粒界すべりクリープ抑制作用を有する元素であるが、その含有量が0.001%未満ではその作用効果が低下するので、0.001%以上を含有させるのが好ましい。一方、0.005%を超えて含有させると溶接性を損なうため、上限は0.005%とするのが好ましい。
【0039】
N:0.05%以下
Nは、オーステナイト相を安定にするのに有効な元素である。しかしながら、Nの含有量が過剰になって0.05%を超えると、TiやAlの窒化物以外にもCrの窒化物を形成し、クリープ延性や靱性の低下を招く。したがって、Nの含有量を0.05%以下とするのが好ましい。
【0040】
下記の1群および2群の各々のグループに属する1種以上の元素の含有
第1群:Mo、WおよびCo
Mo:10%以下、W:9%以下
WおよびMoは、いずれもマトリックスであるオーステナイト組織に固溶して高温でのクリープ強度の向上に寄与するので、このような効果を得るためにWやMoを添加してもよい。しかしながら、WおよびMoの含有量が多くなって、特にMo含有量が10%またはW含有量が9%を超えると、逆にオーステナイト相の安定性が低下してクリープ強度の低下を招くことに加え、長時間の使用中にHAZの脆化割れ感受性が高くなる。このため、WおよびMoの含有量は各々10%以下および9%以下とする。一方、WやMoの含有による上記の効果を確実に得るためには、合計で1%以上のWおよびMoを含有させるのが好ましい。
【0041】
Co:13%以下
Coは、Niと同様オ−ステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与するので、このような効果を得るためにCoを添加してもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため、含有量が多くなるとコスト増加を招き、特に、その含有量が13%を超えるとコスト増加が著しくなる。したがって、添加する場合のCoの含有量は、13%以下とするのが好ましい。一方、Coの含有による上記の効果を確実に得るためには、Co含有量の下限は0.5%とすることが好ましい。
【0042】
第2群:Ti、NbおよびZr
Ti:1%以下
Tiは、高温域での使用において、炭化物の析出により高温強度の向上に寄与するので、このような効果を得るためにTiを添加してもよい。しかし、Tiは含有量が多くなると、未固溶炭窒化物や酸化物を形成してオーステナイト結晶粒の混粒化を助長したり、不均一なクリープ変形や延性低下の原因となるので、その含有量は1%以下とするのが好ましい。一方、その含有量が0.01%未満では、炭化物の析出により高温強度が向上する効果を得がたいので、Ti含有量は0.01%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは0.03〜0.2%である。
【0043】
Nb:1%以下
Nbは、Tiのように有害な酸化物にはならないことから、炭化物によるクリープ強度の向上のために添加してもよい。しかし、過剰なNbは溶接性を害するので、その含有量の上限は1%とするのが好ましい。一方、その含有量が0.01%未満では、炭化物によりクリープ強度を向上させる効果が得がたいので、Nb含有量は0.01%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは0.1〜0.5%である。
【0044】
Zr:0.5%以下
Zrは、粒界を強化して高温強度を向上させる作用を有する。したがって、その効果を得たい場合には積極的に添加含有させてもよい。しかし、その含有量が0.5%を超えると、前記のTiと同様に未固溶の酸化物や窒化物を生成し、粒界すべりクリープおよび不均一なクリープ変形を助長するだけでなく鋼質をも劣化させ、高温域でのクリープ強度および延性を損なう。したがって、Zr含有量は0.5%以下とするのが好ましい。一方、Zr含有量が0.0005%未満であると、粒界を強化して高温強度を向上させる効果が低下するので、Zr含有量は0.0005%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは0.001〜0.2%である。
【0045】
本発明で穿孔対象とする上記の高Cr、高Niオーステナイト系合金材は、必要に応じ、Feの一部に代えて、下記のCa、Mgおよび希土類元素(REM)の1種以上を含有することができる。
【0046】
Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下、希土類元素:0.1%以下
これらの元素は、いずれも無害で安定な酸化物や硫化物を形成して、OおよびSの好ましくない影響を小さくし、耐食性、加工性、クリープ強度およびクリープ延性を向上させる作用を有する。したがって、その効果を得たい場合には、これらの元素から選択される1種以上を積極的に添加含有させてもよく、その場合、それぞれ0.0005%以上の含有量で上記の効果が顕著になる。しかし、CaやMgはそれぞれの含有量が0.03%超えると、また希土類元素は含有量が0.1%を超えると、酸化物等の介在物が多くなり、加工性および溶接性を損なうだけでなく、コストの上昇を招く。したがって、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下および希土類元素:0.1%以下が好ましい。
【0047】
なお、希土類元素とは、原子番号57のLaから同71のLuまでのランタノイドの15元素にYおよびScを加えた17元素の総称であり、これらの元素から選択される1種以上を含有させることができる。希土類元素の含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0048】
希土類元素のうちで、Ndは、高温の加工性を阻害するSと結合して無害化し、熱間加工性や靭性、クリープ延性を大幅に改善する。したがって、希土類元素を含有させる場合には、Ndを選択するのが好ましい。Ndを使用する場合は、Ndの含有量の上限は0.1%とするのが好ましい。Ndを含有させることによる効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させるのが好ましく、0.05%がより好ましい。
【0049】
2.穿孔条件
本発明では、上記の通り、高温最大絞り率αが90%以下であるオーステナイト系合金の鋼塊を穿孔対象とする。そして、穿孔対象の鋼塊に固有の高温最大絞り率αに応じ、充填面積率β{(鋼塊の平均断面積)/(壺内の平均断面積)×100[%]}が下記(1)式を満足する条件でエルハルト穿孔を行う。前記図3に示すように、充填面積率βが下記(1)式を満足すれば、エルハルト穿孔で外面割れの発生を防止できるからである。
β≧−4/3×α+170 ・・・(1)
【0050】
具体的には、予め鋼種ごとに高温最大絞り率αを把握し、この高温最大絞り率αから充填面積率βが下記(1)式を満足するように、鋼塊の断面サイズおよび壺内の断面サイズを選定し、エルハルト穿孔を行う。その際、高温最大絞り率αは、JIS G 0567(1998)に準拠する高温引張試験により把握することができる。
【0051】
ただし、充填面積率βが100%以上となる条件では、壺内に鋼塊を装入するのが不可能な状況となるため、本発明で採用する高温最大絞り率αの実質的な下限は、上記(1)式に基づき、52.5%を超えるものである。
【実施例】
【0052】
本発明の穿孔方法による効果を確認するため、鋼種、すなわち高温最大絞り率αの異なる種々の高Cr、高Niオーステナイト系合金の鋼塊を穿孔対象とし、直径が335mmのマンドレル、および長手方向全長にわたる平均内径が660mmの壺を使用して、エルハルト穿孔する試験を行った。その際、断面サイズの異なる鋼塊を用いて充填面積率βを種々変更し、当該鋼種の高温最大絞り率αとなる温度に加熱してから穿孔した。そして、得られた各底付き素管の外面を目視観察し、外面割れの発生有無を調査した。下記表1に、その試験条件および試験結果を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、試験番号1、2、4、6および12は、いずれも本発明で規定する条件(鋼塊の高温最大絞り率α:90%以下、充填面積率β:上記(1)式の範囲内)を満たし、外面割れが発生しなかった。一方、試験番号3、5、7および13は、充填面積率βが上記(1)式を満足しないことから、外面割れが発生した。なお、試験番号8〜11は、鋼塊の高温最大絞り率αが90%を超えることから、鋼塊の熱間加工性が良好であり、充填面積率βを問わず外面割れが発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のエルハルト穿孔方法によれば、高Cr、高Niのオーステナイト系合金管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する際、穿孔に用いる鋼塊の断面サイズおよび壺内の断面サイズの相対関係を適正化することにより、外面割れの発生を確実に防止することができる。したがって、本発明の穿孔方法は、製造コストの上昇を招くことなく、700℃級の超々臨界圧発電ボイラに適用される合金管を製造できる技術として極めて有用である。
【符号の説明】
【0056】
1:鋼塊(インゴット)、 1a:鋼塊の外面、
1b:壺の内面と接触する鋼塊の凸部、
2:壺(コンテナ)、 2a:壺の内面、 3:マンドレル、
4:マンドレルガイド、 5:突き上げ棒、 6:底付き素管、
7:マンドレル、 8:リングダイス、 9:底付き仕上管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温引張試験による高温最大絞り率が90%以下であるオーステナイト系合金の鋼塊を壺内に装入しエルハルト穿孔する方法であって、
鋼塊の高温最大絞り率がα[%]である場合、壺内の平均断面積に対する鋼塊の平均断面積の比率で表される充填面積率β[%]が下記(1)式を満足する条件で穿孔を行うことを特徴とするエルハルト穿孔方法。
β≧−4/3×α+170 ・・・(1)
【請求項2】
前記オーステナイト系合金は、質量%で、Cr:21〜31%およびNi:43〜60%を含有することを特徴とする請求項1に記載のエルハルト穿孔方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−200764(P2012−200764A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67929(P2011−67929)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】