説明

エレベータの停電運転装置

【課題】 エレベーターの停電運転装置において、停電運転時、エレベーター走行中に蓄電池容量不足による階間での停止を防止することができるとともに、利用者がかごに乗った段階で走行可能階、走行不可能階を報知することができるようにする。
【解決手段】 停電運転開始時の蓄電池容量A、蓄電池電流積算値B、蓄電池残容量Cおよびn回目走行時の予測蓄電池電流Dに基づいて蓄電池の放電可能時間T1を算出し(ステップS1〜S6)、エレベーターの現在位置、各サービス階までの距離、停電運転速度に基づいて停電運転走行時間T2を算出し(ステップS7)、前記時間T1,T2に基づいて走行可能階を判定し(ステップS8)、走行可能階、走行不可能階を報知するとともに、蓄電池の残量不足で走行できない階へのサービスを行えない場合があることを報知する(ステップS9〜S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源の停電時に、蓄電池電力によってエレベーターを非常停止させることなく目的階へ走行させ、その後運転を複数回継続させるエレベーターの停電運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベーターの停電運転装置としては、例えば継続運転型バッテリー装置を用いた装置が採用されている。この装置は、通常時は交流電源の電力によってエレベーターを運転させるとともに蓄電池を充電しておき、交流電源の停電時は蓄電池電力によってエレベーターを非常停止させることなく目的階へ走行させ、その後運転を複数回継続させるように構成されている。
【0003】
尚下記特許文献1には、蓄電池の蓄積電力量を、停電時にかごが走行可能な電力量よりも大となるように制御することが開示されている。
【0004】
また下記特許文献2には、停電検出時に、目的階までの必要電力量と電力蓄積装置の放置可能電力量との比較に基づいて走行の可否を判定し、走行不可の場合に、登録された呼びをキャンセルすることが開示されている。
【特許文献1】特開2002−154759号公報
【特許文献2】特開2004−43078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエレベーターの停電運転装置において、蓄電池の残容量が少ない場合、目的階に到達できず、階間で走行を停止し、軽負荷方向の最寄階へリカバーしてしまうという問題点があった。
【0006】
また特許文献1に記載の装置では、蓄電量制御手段が必要になるとともに、蓄電池の容量を電力量[Wh]で算出しているため演算が複雑になるという問題点があった。
【0007】
すなわち蓄電池放電時の端子間電圧は2次曲線的に変化する(放電時間と端子間電圧の関係が1次曲線にならない)ため、蓄電池の蓄積容量を電力量[Wh]で表すには単位時間あたりの電力を積算するといった複雑な計算が必要である。
【0008】
また特許文献2に記載の装置では、停電時に走行不可となった階への呼び登録がキャンセル、又は登録受付禁止とされてしまうので、利用者に不安感を与えるという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものでその目的は、停電運転時、簡単な装置構成によって、エレベーター走行中に蓄電池容量不足による階間での停止を防止することができるとともに、利用者がかごに乗った段階で走行可能階、走行不可能階を報知し、また蓄電池残容量不足で目的階走行ができないときに、走行可能な階までのサービスで終了する場合がある旨をあらかじめ報知することができるエレベーターの停電運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明のエレベーターの停電運転装置は、交流電源の停電時に、蓄電池電力によってエレベーターを非常停止させることなく目的階へ走行させ、その後運転を複数回継続させるエレベーターの停電運転装置において、エレベーターの走行方向およびかご内負荷に基づいてn(nは正数)回目走行時の蓄電池電流を予測し、蓄電池残容量および前記予測蓄電池電流から蓄電池の放電可能時間を算出し、エレベーターの現在位置、各サービス階までの距離および停電運転速度に基づいて停電運転走行時間を算出する演算手段と、前記蓄電池の放電可能時間および停電運転走行時間に基づいて走行可能階を判定し、走行可能階、走行不可能階を報知する報知手段とを備えたことを特徴としている。
【0011】
また前記蓄電池残容量は、停電運転開始時の蓄電池容量と停電運転がn−1回行われたときの蓄電池電流積算値から算出することを特徴としている。
【0012】
また前記報知手段は、前記報知した走行不可能階への呼び登録がなされた場合に、該登録階よりも手前の走行可能階までの走行で停電運転を終了することがある旨を報知することを特徴としている。
【0013】
また前記報知手段は、前記報知した走行可能階への呼び登録がなされた後に、かご内負荷の増減により登録階への走行が不可となった場合に、該登録階よりも手前の走行可能階までの走行で停電運転を終了することがある旨を報知することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
(1)請求項1〜4に記載の発明によれば、停電運転時のエレベーター走行中に蓄電池容量の不足による階間での停止を防止できる。また利用者がかごに乗った段階で即座に、蓄電池の残容量による走行可能階、走行不可能階がわかる。
(2)また請求項2に記載の発明によれば、蓄電池残容量の演算を蓄電池電流値から求めているので、従来のように例えば単位時間あたりの電力を積算するといった複雑な演算は不要となり、演算手段を簡素化することができる。
(3)また請求項3、4に記載の発明によれば、蓄電池残容量不足で目的階走行ができない場合、走行可能な階までのサービスで終了する場合があることを、あらかじめ利用者に報知できる。
(4)また請求項3に記載の発明によれば、停電時に走行不可能階への呼び登録があった場合、その登録を拒否することなく受け付けておき、報知手段によって「登録階よりも手前の走行可能階までの走行で停電運転を終了することがある旨」を知らせることができる。このためエレベーター利用者に安心感を与え、該利用者にとっては停電時の冷静な行動が可能となり、また呼び登録した走行不可能階に近い走行可能階まで到達することができ、非常にメリットが大きい。
(5)また請求項4に記載の発明によれば、停電時に走行可能階への呼び登録がなされた後に走行不可となった場合、その登録をキャンセルすることなく受け付けておき、報知手段によって「登録階よりも手前の走行可能階までの走行で停電運転を終了することがある旨」を知らせることができる。このためエレベーター利用者に安心感を与え、該利用者にとっては停電時の冷静な行動が可能となり、また走行不可となった呼び登録階に近い走行可能階まで到達することができ、非常にメリットが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施形態例に限定されるものではない。
【0016】
図1は本実施形態例の全体構成を表しており、1はエレベーター駆動用の電動機を駆動するドライブ装置である。このドライブ装置1は、PWM(パルス幅変調)コンバーター又は整流器から成り、商用電源2(交流電源)の交流電力を直流電力に変換するコンバーター3と、該コンバーター3の直流側に接続され、直流電力を交流電力に変換するインバーター4を備えている。
【0017】
5は電動機6により駆動される巻上機であり、該巻上機5には主ロープ7が掛け回され、該主ロープ7の一端にはかご8が、他端にはつり合いおもり9が各々接続されている。
【0018】
10は蓄電池11の電力を制御する蓄電池制御部であり、一端がコンバーター3およびインバーター4の共通接続点に接続され、他端が蓄電池11に接続された双方向コンバーター(昇降圧回路)12と、該双方向コンバーター12の直流電力を交流電力に変換する図示省略のインバーターとを備えている。
【0019】
13は、商用電源2又は蓄電池制御部10の図示しないインバーターの交流出力を電源とし、コンピュータによるエレベーターの各種制御を行うコントローラーであり、後述する蓄電池残容量、蓄電池の放電可能時間、停電運転走行時間等を演算する演算手段14を備えている。
【0020】
15は、演算手段14で求められた蓄電池の放電可能時間および停電運転走行時間に基づいて走行可能階を判定し、走行可能階、走行不可能階を報知する報知手段であり、停電運転時に、利用者がかごに乗った段階での各階への走行可否と、蓄電池11の残容量不足で走行できない階へのサービスを行えない場合がある旨とを報知する。
【0021】
この報知手段15は、例えばかご8内又は乗場若しくは両方に、視覚又は聴覚に訴えて報知する報知器を設置して構成され、また走行不可の場合、かご8内又は乗場若しくは両方の呼びボタンに内蔵された呼び登録灯を点灯させないように構成されている。
【0022】
上記のように構成された装置において、商用電源2の健全時は、例えばAC200Vの交流電力がコンバーター3およびコントローラー13に供給され、インバーター4はコンバーター3の、例えばDC300Vの直流出力を交流電力に変換して電動機6に供給しエレベーターの通常運転が行われるとともに、双方向コンバーター12はコンバーター3の直流電圧(DC300V)を降圧し蓄電池11を例えばDC180Vに充電する。
【0023】
また商用電源2の停電時は、蓄電池11の電圧を放電させ双方向コンバーター12によってDC300Vに昇圧してインバーター4の直流側に供給するとともに、蓄電池11の放電電力を双方向コンバーター12および蓄電池制御部10のインバーター(図示省略)によってAC200Vの交流電力に変換しコントローラー13に供給する。
【0024】
これによって停電時も通常時と同等の電圧(DC300V)がインバーター4に供給されるため、エレベーターが非常停止することなく停電運転が行われる。
【0025】
前記停電運転が開始されてから終了するまでの演算手段14、報知手段15の動作は、例えば図2のフローチャートに沿って行われる。図2のフローチャートは、例えばコントローラー13のプログラムにより実行される。
【0026】
図2において、まずステップS1では周囲温度と電池容量の温度テーブルから、停電運転開始時の蓄電池11の電池容量A[Ah]を算出する。次に1回目走行〜(n−1)回目までの電池電流を積算し電池消費容量B[Ah]を積算する(ステップS2、S3)。
【0027】
次にステップS4において(n−1)回目走行後の電池残容量(A−B=)C[Ah]を算出する。次にステップS5において、n回目走行前にエレベーターの走行方向およびかご8の積載情報からn回目走行の電池(負荷)電流D[A]を予測する。次にステップS6において、電池残容量C[A]と前記予測した電池電流D[A]とから、電池(負荷)電流D[A]の放電可能時間T1[sec]を算出する(放電可能時間=走行可能時間)。
【0028】
次にステップS7において現在位置と各サービス階までの距離を算出し、停電運転走行時間T2[sec]を算出する。次にステップS8において、放電可能時間T1[sec]と停電運転走行時間T2[sec]を比較し、T1>T2の場合を走行可能階とする。
【0029】
走行可能階についてはステップS9において走行可能階を利用者に報知する。報知の方法としては、例えば走行可能階の呼びボタンを点滅させるか、2色以上のLED、ランプを内蔵したボタン等で別の色のランプを点灯させるといった方法を用いる。またアナウンスによって報知することも可能である。
【0030】
次にステップS10において走行可能階への呼び登録が行われた後、かご内負荷の増減により走行不可となった場合は、ステップS11において、登録された階よりも手前の階にてサービスが終了する場合がある旨をあらかじめアナウンス等で報知する。
【0031】
一方、前記ステップS8において走行不可と判定された階については、呼びボタンは呼び登録を受け入れることができる通常の状態とされ(ステップS12)、ステップS13において走行不可階への呼び登録があった場合は、ステップS14において登録された階よりも手前の階にてサービスが終了する場合がある旨をあらかじめアナウンス等で報知する。
【0032】
次にステップS15においてn回目走行が行われ、走行可能階有りの場合はステップS2に戻り、走行可能階無しの場合は停電運転を終了する。
【0033】
以上のようにして階間での停止を防止することができ、走行可能階を利用者がかごに乗った段階で報知すると同時に、電池残量不足で走行できない階へのサービスを行えない場合があることを利用者に報知することが可能となる。
【0034】
尚前記停電運転時のエレベーターの走行速度は、例えば蓄電池11の電池残量に関係なく一定にしておく。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態例の全体構成図。
【図2】本発明の一実施形態例における、要部動作のフローチャート。
【符号の説明】
【0036】
1…ドライブ装置
2…商用電源
3…コンバーター
4…インバーター
5…巻上機
6…電動機
7…主ロープ
8…かご
9…つり合おもり
10…蓄電池制御部
11…蓄電池
12…双方向コンバーター
13…コントローラー
14…演算手段
15…報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源の停電時に、蓄電池電力によってエレベーターを非常停止させることなく目的階へ走行させ、その後運転を複数回継続させるエレベーターの停電運転装置において、
エレベーターの走行方向およびかご内負荷に基づいてn(nは正数)回目走行時の蓄電池電流を予測し、蓄電池残容量および前記予測蓄電池電流から蓄電池の放電可能時間を算出し、
エレベーターの現在位置、各サービス階までの距離および停電運転速度に基づいて停電運転走行時間を算出する演算手段と、
前記蓄電池の放電可能時間および停電運転走行時間に基づいて走行可能階を判定し、走行可能階、走行不可能階を報知する報知手段とを備えたことを特徴とするエレベーターの停電運転装置。
【請求項2】
前記蓄電池残容量は、停電運転開始時の蓄電池容量と停電運転がn−1回行われたときの蓄電池電流積算値から算出することを特徴とする請求項1に記載のエレベータの停電運転装置。
【請求項3】
前記報知手段は、前記報知した走行不可能階への呼び登録がなされた場合に、該登録階よりも手前の走行可能階までの走行で停電運転を終了することがある旨を報知することを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベータの停電運転装置。
【請求項4】
前記報知手段は、前記報知した走行可能階への呼び登録がなされた後に、かご内負荷の増減により登録階への走行が不可となった場合に、該登録階よりも手前の走行可能階までの走行で停電運転を終了することがある旨を報知することを特徴とする請求項1又は2又は3に記載のエレベータの停電運転装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−143388(P2006−143388A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335249(P2004−335249)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】