説明

エレベータドアの診断装置

【課題】
ドアの閉端から開端までの複数区間毎にドア負荷状態を初期値と判定する手段を設けることで、ドアの閉端から開端までのどの部位でドア走行異常を発生させているかを判定するエレベータドアの診断装置を提供する。
【解決手段】
ドア2を開閉させる駆動用モータ5の負荷量を検出する負荷検出装置8と、ドアの開端から閉端まで複数区間における前記ドアモータ負荷量の標準値を記憶する記憶装置42を設け、負荷検出装置8で検出した負荷量と、記憶装置42に記憶された標準値の偏差値を演算する比較演算手段41と、ドアの閉端から開端までの複数区間における標準値との偏差値を初期値として記憶する記憶手段92と、記憶手段92に記憶された複数の偏差が一定値以上であるかを判定する比較判定手段91と、この比較判定手段の判定結果を表示する表示装置Aを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータかごのドア開閉時に、ドアの閉端から開端までの複数区間毎の負荷状態を点検するようにしたエレベータドアの診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエレベータには、乗りかごと乗場にそれぞれドアがあり、乗りかごが着床する際に、乗りかごの係合装置と乗場のドア係合装置とが係合し、乗りかごのドアの駆動装置によって乗りかごと乗場のドアが連動して開閉するように構成している。
【0003】
このエレベータドアの点検作業は通常、経験をつんだ専門の保守員によって行われており、各階でのドア開閉時におけるドアの動作状態を目視で確認したり、異常音がないかを確認することによって行われていた。
【0004】
また、自動的にエレベータドアを点検する装置として、ドア電流を計測し、この計測値と標準値との偏差の積算値が所定値以上となった場合にドア異常を検出するものが提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−278777号公報(段落0006〜0029、図1〜6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術によれば、ドアの負荷状態を見るために、ドアの開閉時に閉端と開端間のドアを開閉するドアモータの電流値を積算し、基準値と比較しているため、ドアの閉端から開端までのどの部位の走行異常であるかは判定できないものであった。
【0006】
本発明は、上記不都合を鑑みてなされたもので、その目的は、ドアの閉端から開端までの複数区間毎にドア負荷状態を初期値と判定する手段を設けることで、ドアの閉端から開端までのどの部位でドア走行異常を発生させているかを判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、エレベータドアを開閉させるドアモータと、このドアモータの負荷量をドアモータに流れる電流もしくはドアモータのトルクにより検出する負荷検出手段と、前記ドアの閉端から開端までの複数区間における前記ドアモータ負荷量の標準値を記憶する記憶手段と前記負荷検出手段で検出した検出値と前記記憶手段に記憶された標準値とを比較し偏差値を演算する比較演算手段と、前記ドアの閉端から開端までの複数区間における標準値との偏差値を初期値として記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された複数区間における初期値と前記比較演算手段により演算された最新の偏差値を比較し両者の偏差が一定値以上であるかを判定する比較判定手段と、この比較判定手段の判定結果を表示する表示手段とを備えて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ドアの閉端から開端までのどの部位で走行異常が発生しているかを判定できることから、ドアを調整する際の調整箇所を容易に推定できるようになり、ドア調整時間の短縮につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、エレベータドアの診断装置について図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1はエレベータドアの診断装置の構成を示すブロック図である。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を示す。図1において、1はエレベータのかご、2はかごに設けられたドア、3はエレベータの運転を制御する制御盤、4はドアの動作を制御するドア制御マイコン、5はドア2を開閉させる駆動用モータ、6はドア2が全閉状態にあることを検出するためのドア閉端スイッチ、7はドア2が全開状態にあることを検出するためのドア開端スイッチ、8はドア開閉用駆動モータの負荷量を検出する負荷検出装置、9は制御盤3に接続されエレベータの状態を監視及び診断し、かつ制御盤3を介してエレベータを走行させることが可能な監視端末、Aは監視装置を介しエレベータ状態を表示する、またはエレベータに指令を送信することが可能な表示装置、Bは電話回線、Cは複数の監視端末9と電話回線Bを介して接続される監視センタである。なお、8のドア開閉用駆動モータの負荷量を検出する負荷検出装置において、負荷量とはドアモータに流れる電流もしくはドアモータトルクにより検出するものである。
【0011】
また、同図においてドア制御マイコン4は処理装置41と、ROM42と、RAM43と、入出力装置44とを有しており、ドア2の開端から閉端まで複数区間におけるドアモータ負荷量の標準値を記憶する記憶手段はROM42が行い、負荷検出装置8で検出した検出値とROM42に記憶された標準値とを比較し、ドア2の閉端から開端までの複数区間における両者の偏差値の演算は処理装置41が行う。ドア制御マイコン4は、入出力装置44を介して制御盤3に接続されている。
【0012】
また、同図において監視端末9は、処理装置91とROM92と、RAM93と、入出力装置94とを有し、前記ドア制御マイコン4内の処理装置41で演算した偏差値は、入出力装置44,エレベータ制御盤3、監視端末9内の入力装置94,処理装置91を介してROM92に初期値として記憶することができる。さらに、ROM92に記憶された初期値と最新の偏差値とを比較し両者の偏差値が一定値以上であるかを判定する比較判定は処理装置91(比較判定手段に相当)が行う。
【0013】
また、同図において監視センタCは、処理装置C1と、ROMC2と、RAMC3と、入出力装置C4とを有する。
【0014】
次に、エレベータドアの診断装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図2はエレベータドアの診断装置全体の処理手順を示すフローチャートである。 まず、ステップ100において、監視端末9が表示装置Aからのドアモータ負荷状態の計測開始指令があるかを判定し、指令がある場合はステップ101に進む。ここでドアモータ負荷状態の計測開始指令は、エレベータの据付精度の検査を行う検査員もしくは保守作業者が表示装置Aを操作することにより行われる。次に、ステップ101において、監視端末9が入出力装置94を介して制御盤3から信号をもらいエレベータの状態が平常かを判定する。エレベータにかご呼び及びホール呼びが無い状態が3分以上続いている場合はエレベータを平常状態と判断し、ステップ102に進む。次に、ステップ102において、監視端末9がエレベータのかご1の位置が最下階にあるかを判定する。かご1が最下階になかったら103に、最下階にあったらステップ104に進む。次に、ステップ103において、監視端末9が制御盤3に指令を出し、最下階にかご呼びを作成し最下階に走行させ、ステップ104に進む。次に、ステップ104において、監視端末9から制御盤3に指令を出しドアを開閉させ、その時のドアモータの負荷量を診断し、診断終了後ステップ105に進む。なお、この時の処理の詳細については後に図3を用いて説明する。次に、ステップ105において、監視端末9が制御盤3に指令を出し、現在のかご1の位置より上階にあり停止可能な階床にかご呼びを作成し、走行させ、ステップ106に進む。次に、ステップ106において、監視端末9から制御盤3に指令を出しドアを開閉させ、その時のドアモータの負荷量を診断し、ステップ107に進む。次に、ステップ107において、監視端末9が現在のかご1の位置が最上階にあるかを判定する。最上階にある場合はステップ108に進み、最上階に無い場合は、ステップ105に戻り、かご1の位置が最上階になるまでステップ105及び106を繰り返す。次に、ステップ108において、監視端末9が制御盤3に指令を出しドアを開閉させ、その時のドアモータ負荷量を診断し、ステップ109に進む。次に、ステップ109において、監視端末9がステップ104,106及び108で計測した結果を表示装置Aに送信し表示させる、または電話回線Bを介して監視センタCにドア走行異常を送信し、専門保守員Cに報知する。
【0016】
以上で、全体のエレベータドアの診断装置の処理は終了である。
【0017】
次に、エレベータドアの診断装置の動作におけるドア診断時の処理について説明する。
【0018】
図3は図2のエレベータドアの診断装置の処理手順におけるドア診断時の処理手順を示すフローチャートである。まず、ステップ200において、ドア開端スイッチ7がONしているかを判定する。ONしていればステップ201に進み、OFFならば204に進む。次に、ステップ201において、ドア開端スイッチ7がOFFに切り替わる、つまりドアが閉まり始めたらステップ202に進む。ドアが閉まり始めるまでは、ステップ202の処理をループする。次に、ステップ202において、負荷検出装置8によりドアモータの負荷量検出を開始する。なお、ステップ202の処理は、ステップ203においてドア閉端スイッチ6がONになる、つまりドアが閉じきるまでループする。ステップ203においてドア閉端スイッチがONになればステップ207に進む。次に、ステップ204において、ドア閉端スイッチ6がOFFに切り替わる、つまりドアが開き始めたらステップ205に進む。ドアが開き始めるまでは、ステップ205の処理をループする。次に、ステップ205において、負荷検出装置8によりドアモータの負荷量検出を開始する。なお、ステップ205の処理は、ステップ206においてドア開端スイッチ7がONになる、つまりドアが開ききるまでループする。ステップ206においてドア開端スイッチがONになればステップ207に進む。次に、ステップ207,つまりドアの開閉が完了した時点でドアモータの負荷量の検出を終了しドア制御マイコン4へ送信する。その後、ステップ208においてドア制御マイコン4はROM42に記憶されたドア2の閉端から開端までの複数区間におけるドアモータの負荷量の標準値を取り出す。次に、ステップ209において、ドア制御マイコン4はステップ207で検出した検出値と、ステップ208で取り出した標準値を比較し両者のドア2の閉端から開端までの複数区間における偏差値を演算する。その後、ステップ210において、ステップ209で演算したドア2の閉端から開端までの複数区間における偏差値を、ドア制御マイコン4から制御盤3を介して監視端末9へ送信する。その後、ステップ211において、監視端末9はROM92に初期値が格納されているかを判定し、ドア診断実施階の初期値が格納されていればステップ212に進む。ここで、初期値が格納されていなければステップ213に進み、ステップ210においてドア制御マイコンから送信された偏差値を初期値として格納し、処理を終了する。次に、ステップ212において、監視端末9内の処理装置91はROM92に予め格納された初期値と、ステップ210においてドア制御マイコンから送信された偏差値を比較する。
【0019】
図4は図1のエレベータドアの診断装置で検出したドアモータ負荷量の初期値と検出値との比較例である。例えば、図4のようにドア2の閉端から開端の複数区間において定常走行モードの区間で検出値と標準値との偏差が初期値と比較して一定値以上の場合は、この区間つまり『定常走行モード』にてドア走行異常と判定する。ここでドア走行異常の原因としては、ドアの遮煙材として使用されるハッチドアと三方枠・シル間に取付けられたゴムや樹脂などの摩耗により生じることが考えられる。この場合、ドアの開閉機能には問題ないが、ハッチドアと三方枠・シル間のギャップが増加するため遮煙性能が低下してしまうため、遮煙材の交換が必要となる。
【0020】
以上が、エレベータドアの診断装置の処理である。
【0021】
これまで説明したエレベータドアの診断装置は据付時及び保守点検時に検査員又は保守員が実施するツールであるが、ここで監視端末9が自動的にドア診断を行う場合の処理について説明する。
【0022】
図5は監視端末9が通常監視時の手順におけるフローチャートである。
【0023】
まず、ステップ300において、監視端末9が制御盤3から信号をもらい、かご1がかご呼びまたはホール呼びにより走行後、目的階に到着したかを判定し、目的階に到着した場合はステップ301に進む。次に、ステップ301において、かご1がかご呼びまたはホール呼びにより走行後、目的階に到着した場合自動的にドアの開閉が行われるので、その時のドアモータの負荷量を診断し、診断終了後ステップ302に進む。なお、この時の処理の詳細については前記した図3を用いてのドア診断時の処理に相当する。次に、ステップ302において、監視端末9がステップ302で初期値と検出値の偏差が一定値以上であるかを判定し、一定値以上である場合はドアの走行異常とし、ステップ303に進む。ドア走行異常でない場合は、ステップ300に戻る。次に、ステップ303において、監視端末9がドア走行異常であることを、電話回線を介して監視センタCに通報する。通報があった監視センタは、診断結果を現地の専門保守員に報知し、対応させる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】エレベータドアの診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】エレベータドアの診断装置全体の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】エレベータドアの診断装置のドア診断時の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図1で検出したドアモータ負荷量の初期値と検出値との比較例である。
【図5】通常監視時のエレベータドアの診断装置の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
1 かご
2 ドア
3 制御盤
4 ドア制御マイコン
5 ドアモータ
6 閉端スイッチ
7 開端スイッチ
8 負荷検出装置
9 監視端末
A 表示装置
B 電話回線
C 監視センタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータドアの開閉動作を診断するエレベータドアの診断装置において、
前記エレベータドアを駆動するドアモータ負荷量を検出する負荷検出手段と、前記ドアの開端から閉端まで複数区間における前記ドアモータ負荷量の標準値を記憶する記憶手段と、前記負荷検出手段で検出した検出値と前記記憶手段に記憶された標準値とを比較し偏差値を演算する比較演算手段と、前記ドアの閉端から開端までの複数区間における標準値との偏差値を初期値として記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された複数区間における初期値と前記比較演算手段により演算された最新の偏差値を比較し両者の偏差が一定値以上であるかを判定する比較判定手段と、この比較判定手段の判定結果を表示する表示手段もしくは報知手段とを設けて構成したことを特徴とするエレベータドアの診断装置。
【請求項2】
エレベータドアの開閉動作を診断するエレベータドアの診断装置と、エレベータ機器を制御する制御盤と接続されエレベータの診断を行う監視端末と、複数の前記監視端末と通信回線を介して接続される監視センタを有したエレベータにおいて、
前記エレベータドアを駆動するドアモータ負荷量を検出する負荷検出手段と、前記ドアの閉端から開端までの複数区間における前記ドアモータ負荷量の標準値を記憶する記憶手段と、前記負荷検出手段で検出した検出値と前記記憶手段に記憶された標準値とを比較し偏差値を演算する比較演算手段と、前記ドアの閉端から開端までの複数区間における標準値との偏差値を初期値として記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された複数区間における初期値と前記比較演算手段により演算された最新の偏差値を比較し両者の偏差が一定値以上であるかを判定する比較判定手段と、この比較判定手段の判定結果を前記監視センタに通信回線を介して通報する通報手段とを設けて構成したことを特徴とするエレベータドアの診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70102(P2007−70102A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262169(P2005−262169)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】