説明

エレベーターの引掛かり防止装置及びそれを有するエレベーター

【課題】
エレベーター昇降路内において、主ロープやケーブル等の長尺部材が乗り場敷居またはドアヘッダーに引っ掛かることを防止し、さらに、美観を損ねず、施工の容易な引っ掛り防止装置を提供する。
【解決手段】
エレベーターの昇降路内の乗り場敷居7またはドアヘッダー10と、その乗り場敷居7上面若しくは下面またはドアヘッダー10上面にボルト11により固定され、そのボルト11を回転軸とし回転可能なアーム形状のプロテクター13を備えている。プロテクター13の昇降路接触部22が、昇降路壁2−1または2−2と接する位置で、ボルト11による締結固定を行うことで、プロテクター13によって、乗り場敷居7またはドアヘッダー10と昇降路壁2−1または2−2との隙間30に長尺部材の回り込むのを阻む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの昇降路内にて、主ロープやケーブルのような長尺部材が昇降路内の構造物に引掛かることを防止する引掛かり防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昇降路内に設置された乗り場敷居またはドアヘッダーは、昇降路の内壁よりも昇降路側に突出した構造となっている。そのため、地震時などで大きな揺れが発生した場合、この乗り場敷居またはドアヘッダーと乗り場側壁面(昇降路壁の一部)との隙間に、主ロープやケーブル等の長尺部材が引掛かり、昇降路内機器を損傷させる可能性が想定され得る。
【0003】
これまでの耐震対策では、乗り場敷居またはドアヘッダーと乗り場側壁面との隙間に、ワイヤー等の保護線を張り、その隙間への長尺部材の回り込みを防止している。この保護線を昇降路壁面に固定するため、昇降路壁面にアンカーボルト等で保護線取り付け用の金具等を設置しているが、各階ごとにその施工を行う必要があるため、階床数の多い高層エレベーター等の場合、その作業に長い時間を要する。また、施工作業者の違いにより、ワイヤーの張り具合や留め方の見栄えに差が生じてしまうことに加え、ワイヤーの場合には、ワイヤーの撚れが生じてしまう。そのため、昇降路内部を昇降路外部及びかご内から見ることの出来るような展望用のエレベーターの場合、その美観を損ねてしまう。
【0004】
なお、昇降路内の長尺部材の引っ掛り事故を防止するための従来装置としては、特許文献1(特開2009−18901号公報)に記載のように、昇降路内のガイドレールを支持する立柱のつなぎブラケットを有する構造において、昇降路壁と立柱のつなぎブラケットとの隙間へ長尺部材が回り込むのを防ぐため、昇降路内の立柱にL鋼製の腕を取付ける引っ掛かり装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−18901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は主ロープやケーブル等の長尺部材が、乗り場敷居またはドアヘッダーに引っ掛かることを防止するものである。さらに、美観を損ねず、施工の容易な引っ掛り防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る引っ掛り防止装置は、エレベーターの乗り場敷居又はドアヘッダーと昇降路壁との隙間にエレベーター用の長尺部材が回り込むことを阻むように、前記乗り場敷居又はドアヘッダーと前記昇降路壁との間にかかるプロテクターを備え、このプロテクターにより前記乗り場敷居又は前記ドアヘッダーへの前記長尺部材の引っ掛かりを防止する。さらに、前記プロテクターは、アーム形状を有し、一端が前記乗り場敷居又は前記ドアヘッダーに締付け部材により取り付けられ、他端が自由端となって、前記締付け部材による取付け位置から前記自由端までの距離L1が前記取付け位置から前記昇降路壁の最寄りの壁面までの距離Lよりも長く形成され、前記締付け部材を緩めた状態では前記締付け部材を軸として前記自由端が前記昇降路壁の壁面に当接するまで回動可能で、この当接位置で回動しないように締付け固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る引っ掛り防止装置によれば、乗り場側敷居またはドアヘッダーに、昇降路内の長尺部材が引っ掛ることを防止でき、しかも引っ掛かり防止の作業の簡便化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の長尺部材引っ掛り防止装置を有する単独昇降路エレベーターの一例を、乗り場付近で横断面して示す断面平面図。
【図2】本発明の第1実施例に係る引っ掛かり防止装置を乗り場敷居に設置した状態を図1の矢印A方向からみた側面図。
【図3】本発明の第1実施例に係る引っ掛かり防止装置をドアヘッダーに設置した状態を図1の矢印A方向からみた側面図。
【図4】上記実施例における引っ掛かり防止装置の部分拡大平面図。
【図5】上記引っ掛かり防止装置の第2の実施例を示す部分拡大平面図。
【図6】上記引っ掛かり防止装置の第3の実施例を示す部分拡大平面図。
【図7】上記第1の実施例に係る引っ掛かり防止装置の他の使用例を示す部分拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例により説明する。
【0011】
図1は本発明の長尺部材引っ掛り防止装置を有する単独昇降路エレベーターの一例を、乗り場付近で横断面して示す断面平面図である。
【0012】
昇降路1は、昇降路壁2すなわち前側壁2−1、横側壁2−2、後側壁2−3により囲まれている。乗りかご3は、昇降路1内に上下方向に設置された左右一対の乗りかご用のガイドレール4にガイドシュー等のガイド装置(図示省略)を介して案内されて上下方向に昇降移動する。ガイドレール4は、側壁に設けたレール支持部材(図示省略)を介して支持されている。
【0013】
前側壁2−1には乗り場5があり、乗り場5には乗り場ドア6が設置されている。乗り場ドア6は、昇降路1内に突出するように設置された乗り場敷居7の溝32(図2参照)に案内され、左右に開閉する。乗り場ドア6上方には、乗り場ドアを開閉させる駆動装置9(図3参照)があり、その駆動装置はドアヘッダー10に固定されている。ドアヘッダー10は乗り場敷居7の直上に位置するが、図1では、作図の便宜上、乗り場敷居7と重ねて表示している。
【0014】
8は、昇降路1内の後部側に配置されたつり合いおもりである。つり合いおもり8は、図示されない巻き上げ用の主ロープ及び巻き上げ機を介して乗りかご3と連結され、つり合いおもり用のガイドレール4にガイドシュー等のガイド装置(図示省略)を介して上下方向に昇降移動する。
【0015】
15は、本発明の第1実施例に係る引っ掛かり防止装置であって、エレベーターの乗り場敷居7及びドアヘッダー10と昇降路壁(前側壁)2−1との隙間30にエレベーター用の長尺部材(昇降用の主ロープや乗りかごに設けられたケーブル)が回り込むことを阻むように、乗り場敷居7及びドアヘッダー10と昇降路壁2−1との間にかかるアーム形状のプロテクター13を備える。このプロテクター13により乗り場敷居7又はドアヘッダー10への長尺部材の引っ掛かりを防止する。各プロテクター13は、一端が乗り場敷居7又はドアヘッダー10に締付け部材(例えばボルト)11により取り付けられ、他端が自由端となっている。締付け部材11を緩めた状態では締付け部材を軸として前記自由端が昇降路壁2−1の壁面に当接するまで回動可能で、この当接位置で回動しないように締付け固定されている。
【0016】
図2及び図3は上記実施例における引っ掛かり防止装置15を設置した乗り場敷居7およびドアヘッダー10の各々の側面図であり、いずれも図1の矢印A方向から視た図である。図4は引っ掛かり防止装置15の部分拡大平面図である。
【0017】
乗り場敷居7およびドアヘッダー10は、図1に示すように、両端部付近に締付け部材であるボルト11を介してプロテクター13を取り付けるために、両端部付近のそれぞれにボルト11を通す穴12を設けている。また、プロテクター13の一端付近にもボルト11を通す穴20が設けられている。穴12はプロテクター13を取付けた際に、図4に示すように乗り場敷居7及びドアヘッダーの角部14がプロテクター13から僅かにはみ出るか、プロテクター13で隠れる位置に開ける。これにより、敷居角部14への長尺部材の引っ掛かりを防止することができる。
【0018】
本実施例における引掛かり防止装置15において、プロテクター13は、乗り場敷居7においては、その一端が乗り場敷居7の上面若しくは下面にボルト11及びナット17を介して取り付けられている。ドアヘッダー10においては、プロテクター13は、ドアヘッダー10の上面に上記同様のボルト、ナットを介して取付けられている。16は、ボルトの頭部と乗り場敷居7又はドアヘッダー10の間に介在するスプリングワッシャである。各々のプロテクター13は一本のボルト11により締結されているため、締結を緩めた状態ならばボルト11を軸として回転することが可能である。プロテクター13は、図4に示すように、ボルト11による取付け位置から自由端までの距離L1が取付け位置(ボルト11)から昇降路壁2の最寄りの壁面2−1までの距離Lよりも長く形成される。それによって、ボルト11を緩めた状態では、ボルト11を軸として自由端が昇降路壁の壁面(前側壁)2−1に当接するまで回動可能で、この当接位置で回動しないように締付け固定されている。これにより、乗り場敷居7またはドアヘッダー10と前側壁2−1間にプロテクター13がかかるので、乗り場敷居7及びドアヘッダー10と前側壁2−1との隙間30に長尺部材が回り込むことを阻むことができ、乗り場敷居7及びドアヘッダー10に長尺部材が引っ掛かるのを防止することができる。
【0019】
また、引掛かり防止装置15は、ワイヤー等の保護線を用いた従来技術のように、昇降路壁面に保護線取り付け用の金具等を設置する必要はなく、作業者はプロテクター13と乗り場敷居7またはドアヘッダー10とをボルト締結するだけで良い。そのため、施工時間の短縮を図ることができ、引っ掛かり保護措置の見栄えは作業者の技術に依存しない。さらに、ワイヤーの撚れによる美観低下の心配が無いという効果を奏する。
【0020】
ここで、プロテクター13について説明する。プロテクター13は、乗り場敷居7の上面若しくは下面、及びドアヘッダー10の上面にボルト11によって締結されるため、既述したように取り付け部19にはボルト11が通る穴20を有している。プロテクター13のボルト11(穴20)の中心からボルト取り付け部19側の端部21までの長さL2は、自由端側の接触面18が昇降路壁面2−1に接した際、乗り場敷居7およびドアヘッダー10からはみ出さない或いは僅かにはみ出る長さとする。
【0021】
既述したように、ボルト11(穴20)の中心から昇降路接触部22の先端23までの長さL1は、ボルト11(穴20)の中心から昇降路壁2−1までの距離Lよりも長くする(L1>L)。これにより、地震によって長尺部材が振れ回り、プロテクター13に強く衝突したとしても、昇降路壁2−1の接触部位がプロテクター13のストッパーとなって、プロテクター13が回転することはない。
【0022】
プロテクター13の昇降路接触部22は、昇降路壁面2−1と面接触できるように、昇降路壁面に沿うような接触面18を有する形状となっている。これにより、昇降路壁2−1と接触面18とが面接触となるため、長尺部材の回り込み防止に対して有効である。
【0023】
この形状の場合、接触面18の角度θは階床やエレベーター毎に異なるため、各々に対応した設計が必要となる。
【0024】
一方、プロテクター13の形状を、図5の第2の実施例ように昇降路接触部22の先端23を尖らせた形状や、図6の第3実施例のように穴20の中心から昇降路接触部22の先端23に向かって徐々に幅Hが狭くなるようにテーパーを付け、先端23に丸みを持たせるアーム形状としても良い。これらの場合には、L1をLよりも長くして、プロテクター13と昇降路面2−1とが接するようにすれば良いだけなので、設計が容易となる。さらに、図6のように先端23に丸みを持たせることで、先端23に長尺部材が引っ掛かり難くなる。上記実施例におけるプロテクター13は、乗り場敷居7及びドアヘッダー10のそれぞれに装着しているが、いずれか一方に装着してもよい。
【0025】
次に上述した引っ掛かり防止装置15の変形例について図7により説明する。前述した引っ掛かり防止装置15は、乗り場敷居7及びドアヘッダー10のそれぞれと昇降路壁の前側壁2−1との間にプロテクター13がかかり隙間30と昇降路とを遮っている。しかし、図7のように、昇降路壁の左右側壁2−2と乗り場敷居7及び/又はドアヘッダー10の両端からの距離L’が小さい場合には、乗り場敷居7及び/又はドアヘッダー10と昇降路壁2−2との隙間を塞ぐように、プロテクター13を取付ける方が、長尺部材の引っ掛かりに対して有効である。この場合、ボルト11(穴20)の中心から昇降路接触部22の先端23までの長さL1は、穴20の中心から昇降路壁2−2までの距離L’よりも長くすれば良い。
【符号の説明】
【0026】
1:昇降路、2:昇降路壁(前側壁2−1、横側壁2−2、背面壁2−3) 3:乗りかご、4:ガイドレール、5:乗り場、6:乗り場ドア、7:乗り場敷居、10:ドアヘッダー、11:ボルト(締付け部材)、12:ボルト通し穴、13:プロテクター、15:引っ掛かり防止装置、16:スプリングワッシャ、17:ナット、18:接触面、19:プロテクター取り付け部、20:ボルト通し穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗り場敷居又はドアヘッダーと昇降路壁との隙間にエレベーター用の長尺部材が回り込むことを阻むように、前記乗り場敷居又は前記ドアヘッダーと前記昇降路壁との間にかかるプロテクターを備え、このプロテクターにより前記乗り場敷居又は前記ドアヘッダーへの前記長尺部材の引っ掛かりを防止する装置において、
前記プロテクターは、アーム形状を有し、一端が前記乗り場敷居又は前記ドアヘッダーに締付け部材により取り付けられ、他端が自由端となって、前記締付け部材による取付け位置から前記自由端までの距離L1が前記取付け位置から前記昇降路壁の最寄りの壁面までの距離Lよりも長く形成され、前記締付け部材を緩めた状態では前記締付け部材を軸として前記自由端が前記昇降路壁の壁面に当接するまで回動可能で、この当接位置で回動しないように締付け固定されていることを特徴とするエレベーターの引っ掛かり防止装置。
【請求項2】
前記プロテクターは、前記昇降路壁面との接触部がこの昇降路壁面と面接触するよう昇降路壁面に沿う形状を有している請求項1記載のエレベーターの引っ掛かり防止装置。
【請求項3】
前記プロテクターは、前記昇降路壁面との接触部の先端が尖った形状を有している請求項1記載のエレベーターの引っ掛かり防止装置。
【請求項4】
前記プロテクターは、前記乗り場敷居又は前記ドアヘッダーへの取り付け側から前記自由端に向かって、幅が狭くなるようにテーパーを付け、自由端側の先端に丸みを持たせた形状を有している請求項1記載のエレベーターの引っ掛かり防止装置。
【請求項5】
昇降路内を昇降移動する乗りかごと、一部が昇降路内に位置して昇降路壁との間に隙間が形成している乗り場敷居及びドアヘッダーと、を備えるエレベーターにおいて、
前記乗り場敷居または前記ドアヘッダーに請求項1ないし4のいずれか1項記載の引っ掛かり防止装置を有することを特徴とするエレベーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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