エレベーター用非常停止装置の制動子、エレベーター用非常停止装置及びエレベーター
【課題】
摩擦材の温度上昇を抑止して高速,大容量まで安定した制動力を発生できるようにする。
【解決手段】
エレベーターの乗りかご46を停止させるため、昇降路に設置されたガイドレール7を制動子1で押し付けて摺動することで制動力を発生させるエレベーター用非常止め装置において、制動子1はガイドレール7との間で制動力を発生させる複数の摩擦材3,5と、摩擦材3,5を支持する支持体2とからなり、摩擦材3,5は乗りかご46が落下する方向の先頭に配する第1摩擦材3と、第1摩擦3よりも後続側に配する第2摩擦材5からなり、第1摩擦材3の熱伝導率は第2摩擦材5よりも高く設定されている。
摩擦材の温度上昇を抑止して高速,大容量まで安定した制動力を発生できるようにする。
【解決手段】
エレベーターの乗りかご46を停止させるため、昇降路に設置されたガイドレール7を制動子1で押し付けて摺動することで制動力を発生させるエレベーター用非常止め装置において、制動子1はガイドレール7との間で制動力を発生させる複数の摩擦材3,5と、摩擦材3,5を支持する支持体2とからなり、摩擦材3,5は乗りかご46が落下する方向の先頭に配する第1摩擦材3と、第1摩擦3よりも後続側に配する第2摩擦材5からなり、第1摩擦材3の熱伝導率は第2摩擦材5よりも高く設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベーター用非常停止装置の制動子、エレベーター用非常停止装置及びエレベーターに係り、好ましくは高速或いは大容量のエレベーターであっても安定した制動力が得られるエレベーター用非常停止装置の制動子、エレベーター用非常停止装置及びエレベーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレベーターには異常発生等によって乗りかごが一定速度以上で下降した際に、所定の減速度で乗りかごを停止させるための安全装置として乗りかごに非常停止装置が設置されている。
【0003】
この非常停止装置は、乗りかごが所定の下降速度以上に達した場合に乗りかごが通過する昇降路の壁に設置されたガイドレールを少なくとも1対の台形型の摩擦材を配した制動子で挟み込んで強く押圧して制動子とガイドレール間の摩擦により乗りかごを減速して停止させるものである。
【0004】
制動子は非常停止装置自身に備えられたばねの弾性変形によって制動するのに適切な制動力を発生させている。そして、制動子のガイドレールとの摺接部は適度な摩擦係数と耐摩耗性を有する球状黒鉛を含有した鋳鉄や銅系焼結合金等の材料により形成されることが一般的である。
【0005】
ところで、近年高層タワーマンションや超高層オフィスビルが建築されるに至り、エレベーターの仕様としては高速或いは大容量化していく傾向にある。このため、乗りかごの下降速度が速くなったり、或いは乗りかごの乗員人数が増えて荷重が重くなったりする。 エレベーターの非常停止装置においては、一般に下降速度や乗りかごの荷重の増加に応じて制動力を高める必要があり、このため制動子とガイドレール間に発生する摩擦熱が大きくなることから高温の環境下でも安定した制動力を発生することが求められている。
このような高温の環境下でも安定した制動力を得るために、材料の選択アプローチとして制動子のガイドレールとの摺接部の摩擦材の材料として耐熱材料であるセラミックスを摩擦材に適用したものが提案されている。
【0006】
具体的には、安定的な摩擦・摩耗特性となるように、摩擦材には板状のセラミック母材にセラミック繊維もしくはその束をガイドレールの対向面となる面に対して垂直に埋設して露出させることが提案されており、この技術は特許文献1に紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−71769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に制動子の摺接部はセラミックスからなる摩擦材を複数個に分割して縦、横方向に並べて鋳鉄等からなる支持体に埋め込んでいる。
制動する場合は一対の制動子でガイドレールを両側から挟み込んで制動力を発生させるが、落下していく乗りかごを徐々に減速させていく過程で、複数個並べられた摩擦材のうち先頭の摩擦材は常に温度の低いガイドレールの新しい面と摩擦するためにレール材料の硬度が高く、このため後続の摩擦材に比べて大きな摩擦力が発生する傾向にある。
一方、後続の摩擦材は先頭の摩擦材で摩擦されてガイドレール温度が高くなりガイドレール表面が軟化することによって先頭の摩擦材に比べて摩擦係数が低くなり、摩擦熱も先頭側の摩擦材に比べて低くなる傾向にある。
【0009】
このように、先頭の摩擦材のほうが後続の摩擦材より摩擦係数が高くなる結果、摩擦熱も後続の摩擦材に比べ多く発生するので先頭の摩擦材の表面はより高温になり易いという現象が確認された。
【0010】
エレベーターが高速或いは大容量化すればするほど乗りかごを減速するのに必要な制動力も大きくなり、この結果摩擦熱も多く発生するため耐熱性のある材料、例えばセラミックスのような材料でも熱的に材料強度が低下する恐れがあり、所望の制動力を発生するのが困難になる場合がある。
【0011】
このため、摩擦材自身の放熱特性を改善することが考えられ、具体的には摩擦材自身の熱伝導率を高めて摩擦材に熱が溜まりにくくする方法が考えられる。しかしながら、この場合は摩擦材を埋め込んでいる鋳鉄等の金属の支持体側に熱が必要以上に多く流れて支持体自体の過剰な温度上昇を招いて支持体に熱変形を生じるようになる。
この結果、摩擦材とガイドレールが片当たりして安定して制動子をガイドレールに押し付けることが困難になるといった課題が生じ、安定した制動力が得られなくなるといった不具合を発生する。
【0012】
本発明の目的は、高速或いは大容量のエレベーターでも安定した制動力を発生し獲る非常停止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の特徴は、支持体の制動面側に配置され、支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とを配置したエレベーター非常停止装置用の制動子、にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摩擦熱が多く発生する先頭側の摩擦材の熱伝導率を後続側の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体側に多く逃がして摩擦材の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側はより放熱し易くして先頭側の摩擦材が熱による材料強度の低下を招くのを抑制し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして支持体に流れるのを抑制して全体として支持体側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることで安定した制動力を発生させることができるようになる。
【0015】
この場合、後続側の摩擦材の温度上昇はガイドレールの摩擦係数が低くなっていることから先頭側の摩擦材ほど高くならず、摩擦材の材料強度についての悪影響は抑制することができる。
実際には、上述した考え方に基づいてエレベーターの非常停止装置の製品仕様に合わせて摩擦材の構造や材料及び支持体の構造や材料を選択できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用されるエレベーターの乗りかごと非常停止装置の設置状態を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明が適用される非常停止装置の動作前の概略の構成を示す正面図である。
【図3】本発明が適用される非常停止装置の動作後の概略の構成を示す正面図である。
【図4】本発明が適用される非常停止装置を多段に設けた場合の概略の構成を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施例になる非常停止装置の制動子の構成を示す部分斜視図と取付状態を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施例になる制動子に用いられる摩擦材の構造を説明するための概略図である。
【図7】摩擦材素材から制動子に用いる摩擦材を切り出す方向を説明する概略図である。
【図8】制動子に摩擦材を取り付ける構造を説明するための斜視図である。
【図9】制動子の支持材の制動試験を実施した時の時間-温度特性図である。
【図10】制動子の摩擦材の制動試験を実施した時の時間-温度特性図である。
【図11】摩擦材と支持体の熱伝導率−温度特性の解析結果を示す比較図である。
【図12】摩擦材から支持体への熱の流れを示す説明図である。
【図13】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第1の変形例を示す正面図である。
【図14】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第2の変形例を示す正面図である。
【図15】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第3の変形例を示す正面図である。
【図16】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第4の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施例になるエレベーターの非常停止装置について図を参照して説明する。
【0018】
図1は非常停止装置を備えたエレベーターの乗りかごの概略を示す斜視図であり、乗客を乗せる乗りかご11は上部に周知の構成によって取り付けられたロープ12によって建物最上階にある図示しない駆動系に連結されている。尚、図1では簡略化のためにドア開閉機、外枠の詳細等は省略して図示している。
乗りかご11が上下動する昇降路の両側には、乗りかご11の昇降をガイドし、かつ制動子と協働して乗りかご11の意図しない下降を防ぐためのガイドレール13が設置されている。このガイドレール13は乗りかご11の両側に対抗するように一対配置されている。
【0019】
そして、乗りかご1の下端部にはこれも一対のガイドレール13に対応して一対の非常停止装置14が設けられている。この非常停止装置14は後述する一対の制動子15がガイドレール13を両側から挟むように設置されている。
制動子15はU字状の弾性体16に固定されたガイド部材17に対向配置されており、ガイド部材17と制動子15の相補的な動きによって制動子15がガイドレール13に強く押圧されてブレーキ作用が発生する構成となっている。そして、非常停止装置14は筐体等の構造物の詳細を簡略して図示しているが、実際にはU字状の弾性体16は筐体で覆われている。
【0020】
ここで、左右のガイドレール13が互いに向かい合う方向をガイドレール幅方向G1、制動子1がガイドレールを挟んで対抗する方向をガイドレール厚さ方向G2、ガイドレール7の長手をガイドレール鉛直方向G3と各方向を定義する。
【0021】
図2は非常停止装置(動作前)の概略の構成を示す正面図であり、非常停止装置14は昇降路の壁に固定されているガイドレール13を挟んで左右対称に配置された一対の制動子15を主体に構成されており、この一対の制動子15を構成する支持体21の正面部22はガイドレール13を両方向から押圧可能にガイドレール13と僅かな隙間を持って略平行に対向配置されている。
また、制動子15の支持体21の背面部23は上方が狭くなるくさび状の平滑な傾斜面になっている。
【0022】
制動子15が上方向に円滑に所定位置に移動できるように、制動子15の移動を案内する案内板24がガイド部材17に設けられている。このガイド部材17は、内側が制動子15の傾斜する背面部23と相補的な関係を有する平行な傾斜面26が形成され、外側は垂直面27が形成されている。背面部23と傾斜面26の間には円柱状のころが介在されている。
【0023】
そして、ガイド部材17の垂直面27はU字状の弾性体16に固定され、支持体21とガイド部材25との間で弾発的に制動子21をガイドレール13側に附勢しているが、自由な状態で支持体21の正面部22とガイドレール13の間は所定の隙間が確保されている。
制動子15、案内板24、ガイド部材17及び弾性体16は筐体28内に収容されており、また、制動子15の上端には非常停止装置14を駆動させるための駆動手段が有する引き上げ棒が接続されている。尚、図示しない調速機ロープの下降速度が設定速度を超えたことを調速機で検出すると、この検出信号によって駆動手段が作動して引き上げ棒等の引き上げ手段で制動子15を引き上げてブレーキ作用を行わせるものである。
【0024】
図3は非常停止装置(動作後)の概略の構成を示す正面図であり、非常停止装置が動作した状態を示している。非常停止装置が動作した時は、制動子15が引き上げ棒によって案内板24に沿ってガイド部材17に対して引き上げられると、制動子15は互いの距離が狭まるように移動する。 この移動に伴って制動子15はガイド部材17、弾性体16を矢印の方向に押し広げるが、弾性体16の押し広げられた反力によって制動子15はガイド部材17によって逆方向にガイドレール13を押圧する方向に力を受け、ガイドレール7を両側から挟み込んで摺接するようになる。
これによって、制動子15とガイドレール13との間で摩擦によるブレーキ作用が働き、乗りかご11が徐々に減速して停止するものである。
【0025】
非常停止装置14はエレベーターの仕様によって1段組みから複数段組みの組み合わせが選ばれるようになっている。
所定の減速度でかごを停止させるための必要な制動力Fは一本の制動子について、
F=4μN=m×(a+g)
で表される。
【0026】
ここで、μ:制動子・レール間摩擦係数,N:弾性体の押付力(N),m:落下質量(kg),a:減速度(m/s2),g:重力加速度(9.8m/s2)である。
【0027】
1段組みの非常停止装置の場合は、制動子の本数は4本(2本/レール×レール2本)となり、したがって、制動力は4倍になる。
【0028】
上記の式からわかるように、制動力Fは落下質量に正比例しているので、製造上、弾性体16が発生できる力に限界があることから、乗りかご11の落下荷重が重くなると非常停止装置を上下に複数段組み化して制動力を確保することや、或いは、1段のまま制動子の長さを長くして、弾性体16を上下に2つ設ける方法等を採用することが考えられる。
また、下降速度が速くなると制動子15とガイドレール13間の摩擦係数が小さくなるので、下降速度が高速域ほど軽い落下荷重でも制動力が多く必要となるので多段化することが必要になる。
【0029】
よって、乗りかごが上下2階建てとなるダブルデッキエレベーターや高層ビル向けのエレベーターは多段化されることが望ましい。
例えば、落下荷重25,000kgの仕様で5.88m/s2の減速度で停止するのに必要な制動力は392kNになる。μ=0.2,最大押付力Fmaxが400kNとすると1段組みでは72kNの制動力不足となり、2段組み化が必要となる。
尚、市場での台数が最も多い低層ビル向けの30〜240m/minの速度域では、1段組みで十分である。
【0030】
図4は、2段組みの非常停止装置(動作後)の概略の構成を示す正面図であり、図2に示した非常停止装置を上下方向に重ねた構成となっている。
この場合、上下の非常停止装置はそれぞれの筐体28を締結ネジ41で締結して一体化構成としている。また、上下の制動子15の上端には2段組み非常停止装置を駆動させるための駆動手段によって引き上げ棒が引きあげられ、ほぼ同時に上下の制動子15が引上げられてガイドレール7を挟み組むようになっている。よって、約8倍の制動力を得ることができ、高速或いは大容量エレベーターに対応できるようになるものである。
ここで、2段組みの非常停止装置の場合は先頭側の非常停止装置の先頭側の摩擦材については後述する本発明の考え方を適用すれば十分な場合が多い。
【0031】
すなわち、後続の非常停止装置ではガイドレール13の温度が先頭側の非常停止装置によって既に上昇しているので摩擦係数が低くなっており、発生する摩擦熱がさほど重要な影響を与えるほど上昇しないからである。このため、後続の非常停止装置の制動子のコストを抑えることができるといった効果を奏するものである。
【0032】
以上は、本発明が適用されるエレベーターの非常停止装置の構成とその作用を説明したものであるが、以下は本発明の一実施例となる制動子15について説明する。
【0033】
図5(a)は、エレベーターの非常停止装置に用いられる制動子15の概略を示しており、制動子15は支持体21と、この支持体21に固定された第1摩擦材51及び第2摩擦材52とより構成されている。
【0034】
支持体21の上端面部53及び下端面部54は長方形状に形成され、両端面部53,54の長辺のひとつはそれぞれ直角に交わる正面部22が形成されている。この正面部22はガイドレール13に対して制動面を形成する。
他方の長辺は下端面部54の短辺が上端面部53の短辺より長く延長されており、矢視方向から見て台形となるように寸法が決められ、正面部22と対向する傾斜した背面部23が形成されている。このため支持体21は矢視方向で見て台形状の面を有する四角柱となっている。
【0035】
支持体21は鋳鉄から構成されており、この支持体2の正面部22にはガイドレール13に対向するブロック状の第1摩擦材51(図では2個)、第2摩擦材52(図では4個)だけ所定の間隔で埋設されている。この実施例では制動子15の下降方向で見て第1摩擦材51は1行2列で配置され、第2摩擦材52を2行2列で配置している。ここで、第2摩擦材52は1行2列で配置しても良いし、各摩擦材51,52について2列であるが1列であっても良いことはいうまでもない。
【0036】
第1摩擦材51、第2摩擦材52はセラミックス繊維を主材料とした摩擦材であり、詳細については後述するが、第1摩擦材51は第2摩擦材52に比べて熱伝導率の高いものが用いられている。
【0037】
第1摩擦材51、第2摩擦材52と支持体2の固定方法であるが、図5(b)に有るように、支持体21の正面部22にそれぞれの摩擦材が収納できる矩形の凹状の収納部55を3ケ所にわたり形成し、ひとつの収納部55に一対の摩擦材51或いは52を収納し、その後にくさび片56を中間材57で力を伝達する様にして各摩擦材51或いは52の間に打ち込むことにより、各摩擦材51或いは52の長辺端面を収納部55の壁部55aに矢印に示すような方向に押圧することで固定している。ただ、これ以外にも接着剤で固定したりすることも可能である。
【0038】
図5(c)は固定部の断面を示しており、支持体21に形成した収納部55に摩擦材51,52が配置され、くさび片56がくさび収納穴60に配置されてボルト58によって支持体21のボルト穴59に固定されている。したがって、くさび片56のくさび効果によって摩擦材51,52は中間材57と壁部55aの間で強固に固定されるものである。
そして、第1摩擦材51、第2摩擦材52は支持体21の正面部22の表面から外側に向けて突出した状態で固定されており、ガイドレール13とは第1摩擦材51、第2摩擦材52が両側から摺動するようになっている。
第1摩擦材51は下降方向に対して支持体21の先頭側に固定され、第2摩擦材52は第1摩擦材51の後続側に固定されている。第1摩擦材51は第2摩擦材52に比べ高熱伝導率になるように構成されている。
ここで、セラミックス繊維の熱伝導を高くするには、例えば繊維を結晶化した焼結構造にすることで達成できるが、このほかにも周知の方法で熱伝導率を高めたセラミックス繊維を用いても良いことはいうまでもない。
【0039】
一般に、セラミックスの熱伝導は電子の移動や格子振動の伝達により生じ、電気抵抗が低い金属や格子振動が伝わりやすい結晶、例えば、格子点に質量の近い原子やイオンが存在する結晶や結合が強い共有結合性の結晶は高い熱伝導率を示す傾向にある。
そして、本実施例で使用する摩擦材は基本的には主としてSiCの焼結構造からなる無機繊維であって少なくとも1種の金属原子を含有する無機繊維である。また繊維間には炭素を主成分とする境界層が形成されている。
このようなセラミックス繊維からなる摩擦材の熱伝導率を所望の値に調整して高熱伝導率の第1摩擦材51と低熱伝導率の摩擦材52を得ることができる。この場合の熱伝導率はもちろん実際に使用されるエレベーターの仕様に基づいて適切に調整/選択されることはいうまでもない
尚、熱伝導率を調整する摩擦材としてはセラミックス繊維を開示したが、上記に限らずそのほかの適切な材料を用いて本発明の摩擦材として用いることはなんらさしつかえないものである。
各摩擦材51,52の基本構成について図6を用いて説明する。図6は各摩擦材51,52の材料であるセラミックスシートブロック61の外観を示しており、セラミックスシートブロック61を構成する一枚の単位セラミックスシートはセラミックス繊維を絡み合わせたり、撚って糸として布状に織り込んで構成されている。
【0040】
そして、セラミックスシートブロック61は前述の単位セラミックスシートを必要な厚さが得られるように数百枚〜数千枚分だけ重ねあわせることで形成されている。
図6(a)はセラミックスシートブロック61の上面図であり、上述したようにセラミックス繊維を撚った縦糸62と横糸63を交互に織った平織りのシート状の織物にし、これを上述したように複数枚重ね合わせてブロック状のセラミックスシートブロック61としている。したがって、セラミックス繊維が占める割合が高くても互いに織り込むことによって機械的強度を確保できる。
【0041】
上面から見て垂直方向(図6(a)において、紙面に垂直方向)の強度は他の方向に比べて低くなる傾向を示すが、後述するように各摩擦材51,52の支持構造を工夫して垂直方向に圧縮力を与えるようにして破壊しないようにしている。
図6(b)はセラミックスシートブロック61を裁断した時の側断面図であり、断面は縦糸62の断面を横糸63縫うように並んで配列されている。これは、いわゆる平織りと称されるもので縦糸と横糸とを交互に浮き沈みさせた織物である。
尚、繊維の織り方によっては、図示した構造とは異なり、綾織り(縦糸が横糸の上を2又は3本、横糸の下を1本交差させた織物),しゅす(朱子)織り(縦糸と横糸とを交互に浮き沈みさせ、どちらかの糸の浮きを少なくした織物)と呼ばれる織り方を採用しても良いし、繊維を織らずに絡み合わせたシート状の不織布でも良いものである。
【0042】
セラミックスシートブロック61は単位セラミックスシートを複数枚重ね合わせ、その後で高温下で強い圧力を加える、いわゆるホットプレス加工によって結合体とされブロック形状に成型されるものである。
【0043】
セラミックスシートブロック61は図6(b)に有るように縦糸62及び横糸63の裁断断面が覗く側をガイドレール13と摺接するように切り出される。
図6(c)はセラミックシートブロック61を裁断して摩擦材51,52を切り出した状態のものを示している。この図からわかるようにガイドレール13と摺接する上面が裁断断面64とされている。
【0044】
ここで、セラミックス繊維は高い力学的特性と優れた耐熱性を有していることからセラミックスシートブロック61も力学的強度と耐熱性に優れているものである。
また、ファインセラミックスを母材としたものに比べて、バインダと称する硬度の低いつなぎ材が含まれることで全体的な見かけ上の硬度も低くなっている。例えば、窒化ケイ素の硬度が約1400HVであるのに対し、単位セラミックスシートの硬度は換算値で約1000HV(100HS)である。
【0045】
ブレーキ作用を発生させるための摩擦材と協働する相手材の摩耗は摩擦材の硬さに比例して増加するので、本実施例では摩擦材を低硬度化したほうがガイドレール13の傷みを抑止できる効果がある。発明者らの実験によると、セラミックスシートブロック61とガイドレール13の材料との摩擦ではガイドレールの材料の傷みは許容範囲内であることを確認できた。
【0046】
図7(a)はセラミックスシートブロック61からの素材の切り出し方向を示しており、摩擦材51,52は切り出し線71で示すように上面から見て縦糸62と横糸63に対して斜めになるように裁断して切り出し、切り出された裁断断面がガイドレール13と摺動することが良い。今実施例では繊維長手方向に対して約45度の角度で裁断している。
【0047】
図7(b)は、図7(a)の方法でセラミックブロック61から摩擦材51,52を切り出した後の摩擦材51,52の斜視図を示しており、切り出した摩擦材51,52は直方体に形成されている。図中、切り出し面72に対して隣接する2方向の繊維断面の表面は、縦糸62と横糸63それぞれの繊維の裁断断面64が覗き、この実施例では略楕円形状をなしている。
【0048】
尚、図6、図7ではセラミックス繊維の断面を誇張して表現しているが、実際の断面の径は数ミクロンから数十ミクロン程度の長さを有している繊維である。
【0049】
図8は各摩擦材51,52の支持体2への埋め込み方向を示しており、切り出した各摩擦材51,52は裁断断面64の長手方向がガイドレール鉛直方向G3となっており、裁断断面がガイドレール7と摺動するように所定量だけ支持体21の正面部22より突出して埋め込まれている。つまり、縦糸62、および横糸63の裁断断面64とガイドレール13との間に凝着、切削抵抗による摩擦力を発生させて制動力を得るようになっている。
各摩擦材51,52にセラミックスシートブロック61を用いることで、エレベーターの高速化や積載量が大型化しても摺動時の摺動熱による摩擦材3の軟化や焼き付きを防ぎ所定の制動力を確保できる。
【0050】
一方、各摩擦材51,52はレール幅方向G1に向けて単位セラミックスシートが複数枚積層された形態となるように配置されている。つまり、図5(c)にあるように各摩擦材51,52は単位セラミックシートが収納部55の底面に対してほぼ直角になるように縦方向に重ねられている。
【0051】
ここで、摩擦材の強度は繊維が編まれているシート面内方向よりもシートを積層した間の積層方向の強度が弱い。よって、くさび片56を用いて、単位セラミックスシートの積層方向(レール幅方向G1)に対して圧縮力を加えている構成を採用している。
図9は、制動試験を行ったときの支持体の時間に対する温度変化を示した図である。セラミックス繊維からなる摩擦材を縦方向に複数個支持体に埋め込んだ制動子を用いた場合の結果である。この場合、摩擦材の熱伝導率は全て同じもので試験を行い、温度計測位置は埋め込んだ摩擦材底面近傍の支持体とし、熱電対を支持体に埋め込んで計測した。
曲線91は支持体21の先頭側に埋め込んだ摩擦材底面近傍の支持体温度変化を示し、曲線92は支持体の後続側の温度変化を示している。
この図から後続側の第2摩擦材52の近傍付近の支持体温度よりも先頭側の第1摩擦材51の近傍付近の支持体温度のほうが高いことが分かる。
【0052】
支持体21は各摩擦材51,52がガイドレール13と摺動して発生した摩擦熱うち各摩擦材51,52側に流れてきた熱が各摩擦材51,52を伝導してくることによって昇温することがわかる。よって、先頭側の第1摩擦材51に生じる摩擦熱が後続側の第2摩擦材52に生じる摩擦熱に比べ多く発生することで多くの熱量が先頭側の第1摩擦材51に流れたことになる。
【0053】
すなわち、摩擦材表面温度は先頭側の第1摩擦材51のほうが後続側の第2摩擦材52よりも高くなることが本試験結果から明らかになった。
先頭側の第1摩擦材51による摩擦熱が多く発生するのは、前述したようにレールの新しい面(温度が低い側)と摩擦するために摩擦係数が大きくなることに起因すると考えられる。
【0054】
これは、摩擦材が通過した直後の面(後続の第2摩擦材52が通過する面)は、レールの新しい面(先頭の第1摩擦材51が通過する面)に比べレール表面温度が高くなるために表面が軟らかくなり、その結果摩擦力が小さくなると考えられる。
図10は、摩擦材の表面温度の解析結果を時刻歴で示した図である。解析条件は、制動開始速度1100m/min、制動質量15,000kgを約5.88m/s2の平均減速度で制動させる場合とした。
【0055】
解析対象の制動子は、摩擦材を上下方向に4分割して配置した構成とした。摩擦材は、市販されているセラミックス繊維材を想定し、その熱伝導率は約3W/mkである。解析に際し、先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52の発生熱量比は図9に示した温度計測結果の差より求めた比率を適用した。
ここで、総発生熱量は制動エネルギーが全て熱エネルギーに変換されたと仮定した場合は約6.7MJとなり、この熱量の一部が各摩擦材51,52、ガイドレール13に流れることになる。
【0056】
各摩擦材51,52に流れる熱量の比率は、ピンオンディスク試験機で初速度1100m/minから減速度5.88m/s2で減速停止させた摩擦試験を行い、その時に計測した支持体の温度結果を用いて決定した。
曲線101は先頭の第1摩擦材51の表面温度変化を示し、曲線102はその後側(先頭から2番目であり以下では後続と称する)の第2摩擦材52の表面温度変化を示している。
この図から後続側の第2摩擦材52の温度よりも先頭側の第1摩擦材51の温度のほうが高いことが分かる。ここで、図中の破線103は各摩擦材51、52の耐熱温度限界を示しており約1400℃前後である。
【0057】
そして、先頭側の第1摩擦材51は乗りかごの11の停止間際で最高温度を示し1700℃となって第1摩擦材51の耐熱温度以上となることが分かる。一方、後続側の第2摩擦材52の最高温度は1300℃で耐熱温度以下に抑えられていることが理解できる。
したがって、耐熱温度を超える先頭の第1摩擦材51では摩擦材の材料が軟化して摩擦力が低下したり、或いは極度に摩耗してしまうことになり、所定の減速度を確保するのは困難になる恐れがある。
【0058】
このような知見に基づいて、本発明は、摩擦熱が多く発生する先頭側の第1摩擦材51の熱伝導率を後続側の第2摩擦材51の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体21側に多く逃がして第1摩擦材51の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の第2摩擦材52の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側の第1摩擦材51はより放熱し易くして先頭側の第1摩擦材51が熱による材料強度の低下を招くのを抑制し、かつ後続側の第2摩擦材の熱伝導率を低くして第2摩擦材52から支持体21に流れる熱の移動を抑制して全体として支持体側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることで安定した制動力を発生させることができるようになる。
【0059】
尚、支持体21の受容熱容量を大きくして、すなわち支持体21の大きさを大きくして先頭側の第1摩擦材51及び後続側の第2摩擦材52の熱伝導性を共に高めれば、先頭側の第1摩擦材51の材料強度の低下や支持体21の熱変形が避けられることも考えられるが、このようなアプローチは支持体21の重量が増えてしまう不具合があり、結果として乗りかご11を駆動するモータの出力を大きくする必要があるとか、乗りかご11の構造強度を高める必要があるとった新たな課題を生じ望ましいものではない。
【0060】
これに対して本発明は、前述したように摩擦熱が多く発生する先頭側の第1摩擦材51の熱伝導率を後続側の第2摩擦材52の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体21側に多く逃がして第1摩擦材51の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の第2摩擦材52の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側はより放熱し易くして先頭側の第1摩擦材の熱による材料強度の低下を抑制し、かつ後続側の第2摩擦材の熱伝導率を低くして全体として支持体21側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることができ、結果として支持体21の重量増加を抑えることもできるものである。
【0061】
図11は、各摩擦材51,52の熱伝導率を変化させた場合の各摩擦材51,52の表面温度と支持体21の温度を比較したものであり、解析条件は図10で説明したものと同じであり、比較として併記した別の摩擦材の熱伝導率は80W/mkとした(市販のセラミックス繊維材の熱物性より抜粋)。
図11(a)図には摩擦材表面の最高温度を示しており、摩擦材の熱伝導率を3W/mkに対して80W/mkと高くした場合は摩擦材表面の最高温度が1700℃から800℃まで低下していることが分かる。また、図11(b)図には支持体21の最高温度を示しており、解析位置は図10と同様に熱伝対を摩擦材底面近傍に埋め込んで測定したもので、摩擦材の熱伝導率を3W/mkに対して80W/mkと高くした場合は支持体21の温度は170℃から450℃に上昇している。
【0062】
本解析結果から、各摩擦材51,52の表面温度上昇を抑止すべく各摩擦材51、52の熱伝導率を高くすると各摩擦材51,52の表面から流入した熱は各摩擦材51,52に溜まらずに支持体21側に流れて支持体21の温度が上昇するようになることがわかる。
このため、一般的な支持体21を使用する前提にたつと、支持体21は鋳鉄等の金属系のものが使用されるので、摩擦材51、52であるセラミックスよりも線膨脹係数が大きく熱変形が大きくなる。よって、安易に全ての各摩擦材51,52の熱伝導率を高めると支持体21が熱変形して各摩擦材51、52とガイドレール13とが片当たりして摩擦力が低下したりして所定の減速度を確保するのが困難となる恐れがあるといった副作用を生じる。
【0063】
図12は摩擦材51、52から支持体21への熱の流れを模擬した図であり、支持体21の上下に2つの摩擦材を埋め込んだモデルである。
図12(a)図は先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52が同じ熱伝導率でしかも低熱伝導の摩擦材を使用した場合の熱の流れを示している。通常では各摩擦材51、52からの熱は支持体21に流れる際に矢印121で示すように拡散していく。
しかしながら、各摩擦材51,52の熱伝導率が低いため支持体21に流れる熱がさほど多くなく各摩擦材51,52の温度上昇を抑えることが難しい。このため、特に先頭側の第1摩擦材51の温度が高くなり先に述べた材料強度の低下を招くようになる。
【0064】
次に、図12(b)図は先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52が同じ熱伝導率でしかも高熱伝導の摩擦材を使用した場合の熱の流れを示している。通常では各摩擦材51、52からの熱は支持体21に流れる際に矢印122で示すように拡散していく。
しかしながら、各摩擦材51、52が上下に隣接して配されているため各摩擦材51,52からの熱の流れが隣接部分で交錯して旨く拡散出来ず支持体21に熱が溜まりやすい傾向にある。よって各摩擦材51,52の熱伝導率を高くすれば熱が多く移動して、摩擦材51,52の温度上昇は抑えられるが、逆に支持体21に流れる熱量が多くなり、また熱の流れの交錯から支持体21の温度上昇が高まり高温になる恐れが高い。
【0065】
図12(c)図は本発明の一実施例になるもので、先頭側の第1摩擦材51を後続側の第2摩擦材52よりも高い熱伝導率とした場合の熱の流れである。先頭側の第1摩擦材51から支持体21に流れる熱量は矢印122で示すように多いが、後続側の第2摩擦材52から流れる熱量は矢印121に示すように相対的に少ないので、先頭側の第1摩擦材51から支持体21へ流れる熱は矢印122で示したように後続側の第2摩擦材52がある上方向に容易に拡散するようになる。
【0066】
その結果、支持体21全体では各摩擦材51,52から流れてくる熱量が図12(b)の場合よりも少なくなり支持体21全体の熱変形はしにくくなる。かつ、発生する摩擦熱の大きい先頭側の第1摩擦材51は熱伝導率が高いので容易に支持体21側に熱が逃げやすくなり第1摩擦材51の表面温度上昇も抑えることができる。
【0067】
よって、本発明によれば先頭側の第1摩擦材51の摩擦熱による過度の温度上昇で材料強度が低下することもなく、また、後続側の第2摩擦材52からの摩擦熱が支持体21に流れるのを少なくできるので全体として支持体21に流れる熱量を抑えることができるので支持体21の熱変形によるガイドレール13と制動子15の片あたり等の発生を抑制することができる。
【0068】
図13は摩擦材51,52の他の配置例を示す図である。先に述べたように高層タワーマンション等のように、エレベーターが高速度でかつ大容量に大きくなってくると摩擦によって発生する熱量が多くなり、熱伝導率の高い第1摩擦材51を先頭側とこれに続く次段まで用いる必要があり、その配置の仕方についても工夫がされている。
図13に示す配置例の場合は、最後尾の熱伝導率の低い第2摩擦材52と間に配置した次段の第1摩擦材51bの間隔L2に比べて先頭側の第1摩擦材51aと次段の第1摩擦材51bの間隔L1を長く取るのが好ましい。
【0069】
この理由は間隔L1を長くすることで先頭側の第1摩擦材51aとこれに続く次段の摩擦材51bから支持体21側に流れる熱が間隔L1の部分が長い分だけ拡散しやすくなり摩擦材の温度上昇を抑えて材料強度の低下を抑止できるようになる。
また、第1摩擦材51aと第1摩擦材51bは高熱伝導率を有するので支持材21に多くの熱が流入する。しかしながら、支持材21に流れた直後の熱が上下方向に拡散する際に、第1摩擦材51aと第1摩擦材51b同士で挟まれた部分では間隔が狭いと上下から流れてくる熱が溜まってしまい温度上昇しやすくなるが、本実施例のように第1摩擦材51aと第1摩擦材51bの間隔が広く取られていると熱拡散しやすくなり、支持体21全体としてみると支持体21の温度上昇を抑えることができる。
【0070】
また、図14に示すように先頭側の摩擦材51の厚さを後続側の摩擦材52の厚さに比べて厚くすることで先頭側の摩擦材51内の温度差を大きくすることで、摩擦材51の摺動表面は熱が引け易く、かつ厚さ分だけ熱の移動を遅くして支持体21の温度上昇を抑える構成を採用することもできる。すなわち、一定の熱量が摩擦材に流入すると仮定すると、厚い摩擦材は薄い場合よりも摩擦材の底面温度が低くなり、その結果、摩擦材から支持材に流れる熱量が少なくなり温度上昇が抑えられるである。
【0071】
図15は、低熱伝導率の摩擦材と高熱伝導率の摩擦材を2層にして組み合わせた例を示す図であり、熱伝導率が高い摩擦材51をガイドレール13と接触する側に設け、熱伝導率が低い摩擦材52を支持体21と接触する側に設けて2層構造としたものである。
この構造を採用することによってガイドレール13との間で発生した摩擦材51の熱は支持体21との中間層にある摩擦材52に流れて蓄熱されるので摩擦材51の摺動面温度の上昇は抑えられ、かつ摩擦材52は低熱伝導率のため支持体21に流れる熱は少なくなり支持体21の温度上昇も抑えることができる。
【0072】
図16は、支持体21の物理的な冷却構造の例を示す図であり、支持体21に埋め込んだ複数個の摩擦材51,52のうち後続側の摩擦材52に比べて熱伝導率が高い摩擦材51を先頭側に埋め込んだ構成において、支持体21の重力方向に向かう底部面に冷却用の凹凸部47を備え冷却面積を増やした例を示したものである。
【0073】
この構造を採用することにより乗りかご11が下降していく際に流れる空気によって支持体21の冷却効果が増し先頭側の支持体の熱変形を抑制できる効果を期待できる。
本実施例では摩擦材として単位セラミックスシートを重ねたセラミックスシートブロックを用いているが、本実施例の材料に限らずにファインセラミックス材を組み合わせて使用しても問題ない。ファインセラミックスの場合は脆いため応力集中しにくい円柱形状にして使用するのが望ましい。
【0074】
以上説明したように、本発明によれば、摩擦熱が多く発生する先頭側の摩擦材の熱伝導率を後続側の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体側に多く逃がして摩擦材の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側はより放熱し易くして先頭側の摩擦材の熱による材料強度の低下を抑制し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして全体として支持体側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることで安定した制動力を発生させることができるようになる。
【0075】
この場合、後続側の摩擦材の温度上昇はガイドレールの摩擦係数が低くなっていることから先頭側の摩擦材ほど高くならず、摩擦材の材料強度についての悪影響を抑制することができるものである。
尚、実際には、上述した考え方に基づいてエレベーターの非常停止装置の製品仕様に合わせて摩擦材の構造や材料及び支持体の構造や材料を選択できるものである。
【符号の説明】
【0076】
11…乗りかご、13…ガイドレール、14…非常停止装置、15…制動子、21…支持体、22…正面部、51…高熱伝導率の摩擦材、52…低熱伝導率の摩擦材、55…収納部、56…くさび。
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベーター用非常停止装置の制動子、エレベーター用非常停止装置及びエレベーターに係り、好ましくは高速或いは大容量のエレベーターであっても安定した制動力が得られるエレベーター用非常停止装置の制動子、エレベーター用非常停止装置及びエレベーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレベーターには異常発生等によって乗りかごが一定速度以上で下降した際に、所定の減速度で乗りかごを停止させるための安全装置として乗りかごに非常停止装置が設置されている。
【0003】
この非常停止装置は、乗りかごが所定の下降速度以上に達した場合に乗りかごが通過する昇降路の壁に設置されたガイドレールを少なくとも1対の台形型の摩擦材を配した制動子で挟み込んで強く押圧して制動子とガイドレール間の摩擦により乗りかごを減速して停止させるものである。
【0004】
制動子は非常停止装置自身に備えられたばねの弾性変形によって制動するのに適切な制動力を発生させている。そして、制動子のガイドレールとの摺接部は適度な摩擦係数と耐摩耗性を有する球状黒鉛を含有した鋳鉄や銅系焼結合金等の材料により形成されることが一般的である。
【0005】
ところで、近年高層タワーマンションや超高層オフィスビルが建築されるに至り、エレベーターの仕様としては高速或いは大容量化していく傾向にある。このため、乗りかごの下降速度が速くなったり、或いは乗りかごの乗員人数が増えて荷重が重くなったりする。 エレベーターの非常停止装置においては、一般に下降速度や乗りかごの荷重の増加に応じて制動力を高める必要があり、このため制動子とガイドレール間に発生する摩擦熱が大きくなることから高温の環境下でも安定した制動力を発生することが求められている。
このような高温の環境下でも安定した制動力を得るために、材料の選択アプローチとして制動子のガイドレールとの摺接部の摩擦材の材料として耐熱材料であるセラミックスを摩擦材に適用したものが提案されている。
【0006】
具体的には、安定的な摩擦・摩耗特性となるように、摩擦材には板状のセラミック母材にセラミック繊維もしくはその束をガイドレールの対向面となる面に対して垂直に埋設して露出させることが提案されており、この技術は特許文献1に紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−71769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に制動子の摺接部はセラミックスからなる摩擦材を複数個に分割して縦、横方向に並べて鋳鉄等からなる支持体に埋め込んでいる。
制動する場合は一対の制動子でガイドレールを両側から挟み込んで制動力を発生させるが、落下していく乗りかごを徐々に減速させていく過程で、複数個並べられた摩擦材のうち先頭の摩擦材は常に温度の低いガイドレールの新しい面と摩擦するためにレール材料の硬度が高く、このため後続の摩擦材に比べて大きな摩擦力が発生する傾向にある。
一方、後続の摩擦材は先頭の摩擦材で摩擦されてガイドレール温度が高くなりガイドレール表面が軟化することによって先頭の摩擦材に比べて摩擦係数が低くなり、摩擦熱も先頭側の摩擦材に比べて低くなる傾向にある。
【0009】
このように、先頭の摩擦材のほうが後続の摩擦材より摩擦係数が高くなる結果、摩擦熱も後続の摩擦材に比べ多く発生するので先頭の摩擦材の表面はより高温になり易いという現象が確認された。
【0010】
エレベーターが高速或いは大容量化すればするほど乗りかごを減速するのに必要な制動力も大きくなり、この結果摩擦熱も多く発生するため耐熱性のある材料、例えばセラミックスのような材料でも熱的に材料強度が低下する恐れがあり、所望の制動力を発生するのが困難になる場合がある。
【0011】
このため、摩擦材自身の放熱特性を改善することが考えられ、具体的には摩擦材自身の熱伝導率を高めて摩擦材に熱が溜まりにくくする方法が考えられる。しかしながら、この場合は摩擦材を埋め込んでいる鋳鉄等の金属の支持体側に熱が必要以上に多く流れて支持体自体の過剰な温度上昇を招いて支持体に熱変形を生じるようになる。
この結果、摩擦材とガイドレールが片当たりして安定して制動子をガイドレールに押し付けることが困難になるといった課題が生じ、安定した制動力が得られなくなるといった不具合を発生する。
【0012】
本発明の目的は、高速或いは大容量のエレベーターでも安定した制動力を発生し獲る非常停止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の特徴は、支持体の制動面側に配置され、支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とを配置したエレベーター非常停止装置用の制動子、にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摩擦熱が多く発生する先頭側の摩擦材の熱伝導率を後続側の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体側に多く逃がして摩擦材の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側はより放熱し易くして先頭側の摩擦材が熱による材料強度の低下を招くのを抑制し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして支持体に流れるのを抑制して全体として支持体側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることで安定した制動力を発生させることができるようになる。
【0015】
この場合、後続側の摩擦材の温度上昇はガイドレールの摩擦係数が低くなっていることから先頭側の摩擦材ほど高くならず、摩擦材の材料強度についての悪影響は抑制することができる。
実際には、上述した考え方に基づいてエレベーターの非常停止装置の製品仕様に合わせて摩擦材の構造や材料及び支持体の構造や材料を選択できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用されるエレベーターの乗りかごと非常停止装置の設置状態を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明が適用される非常停止装置の動作前の概略の構成を示す正面図である。
【図3】本発明が適用される非常停止装置の動作後の概略の構成を示す正面図である。
【図4】本発明が適用される非常停止装置を多段に設けた場合の概略の構成を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施例になる非常停止装置の制動子の構成を示す部分斜視図と取付状態を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施例になる制動子に用いられる摩擦材の構造を説明するための概略図である。
【図7】摩擦材素材から制動子に用いる摩擦材を切り出す方向を説明する概略図である。
【図8】制動子に摩擦材を取り付ける構造を説明するための斜視図である。
【図9】制動子の支持材の制動試験を実施した時の時間-温度特性図である。
【図10】制動子の摩擦材の制動試験を実施した時の時間-温度特性図である。
【図11】摩擦材と支持体の熱伝導率−温度特性の解析結果を示す比較図である。
【図12】摩擦材から支持体への熱の流れを示す説明図である。
【図13】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第1の変形例を示す正面図である。
【図14】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第2の変形例を示す正面図である。
【図15】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第3の変形例を示す正面図である。
【図16】制動子へ配置する摩擦材の配置構造に関する第4の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施例になるエレベーターの非常停止装置について図を参照して説明する。
【0018】
図1は非常停止装置を備えたエレベーターの乗りかごの概略を示す斜視図であり、乗客を乗せる乗りかご11は上部に周知の構成によって取り付けられたロープ12によって建物最上階にある図示しない駆動系に連結されている。尚、図1では簡略化のためにドア開閉機、外枠の詳細等は省略して図示している。
乗りかご11が上下動する昇降路の両側には、乗りかご11の昇降をガイドし、かつ制動子と協働して乗りかご11の意図しない下降を防ぐためのガイドレール13が設置されている。このガイドレール13は乗りかご11の両側に対抗するように一対配置されている。
【0019】
そして、乗りかご1の下端部にはこれも一対のガイドレール13に対応して一対の非常停止装置14が設けられている。この非常停止装置14は後述する一対の制動子15がガイドレール13を両側から挟むように設置されている。
制動子15はU字状の弾性体16に固定されたガイド部材17に対向配置されており、ガイド部材17と制動子15の相補的な動きによって制動子15がガイドレール13に強く押圧されてブレーキ作用が発生する構成となっている。そして、非常停止装置14は筐体等の構造物の詳細を簡略して図示しているが、実際にはU字状の弾性体16は筐体で覆われている。
【0020】
ここで、左右のガイドレール13が互いに向かい合う方向をガイドレール幅方向G1、制動子1がガイドレールを挟んで対抗する方向をガイドレール厚さ方向G2、ガイドレール7の長手をガイドレール鉛直方向G3と各方向を定義する。
【0021】
図2は非常停止装置(動作前)の概略の構成を示す正面図であり、非常停止装置14は昇降路の壁に固定されているガイドレール13を挟んで左右対称に配置された一対の制動子15を主体に構成されており、この一対の制動子15を構成する支持体21の正面部22はガイドレール13を両方向から押圧可能にガイドレール13と僅かな隙間を持って略平行に対向配置されている。
また、制動子15の支持体21の背面部23は上方が狭くなるくさび状の平滑な傾斜面になっている。
【0022】
制動子15が上方向に円滑に所定位置に移動できるように、制動子15の移動を案内する案内板24がガイド部材17に設けられている。このガイド部材17は、内側が制動子15の傾斜する背面部23と相補的な関係を有する平行な傾斜面26が形成され、外側は垂直面27が形成されている。背面部23と傾斜面26の間には円柱状のころが介在されている。
【0023】
そして、ガイド部材17の垂直面27はU字状の弾性体16に固定され、支持体21とガイド部材25との間で弾発的に制動子21をガイドレール13側に附勢しているが、自由な状態で支持体21の正面部22とガイドレール13の間は所定の隙間が確保されている。
制動子15、案内板24、ガイド部材17及び弾性体16は筐体28内に収容されており、また、制動子15の上端には非常停止装置14を駆動させるための駆動手段が有する引き上げ棒が接続されている。尚、図示しない調速機ロープの下降速度が設定速度を超えたことを調速機で検出すると、この検出信号によって駆動手段が作動して引き上げ棒等の引き上げ手段で制動子15を引き上げてブレーキ作用を行わせるものである。
【0024】
図3は非常停止装置(動作後)の概略の構成を示す正面図であり、非常停止装置が動作した状態を示している。非常停止装置が動作した時は、制動子15が引き上げ棒によって案内板24に沿ってガイド部材17に対して引き上げられると、制動子15は互いの距離が狭まるように移動する。 この移動に伴って制動子15はガイド部材17、弾性体16を矢印の方向に押し広げるが、弾性体16の押し広げられた反力によって制動子15はガイド部材17によって逆方向にガイドレール13を押圧する方向に力を受け、ガイドレール7を両側から挟み込んで摺接するようになる。
これによって、制動子15とガイドレール13との間で摩擦によるブレーキ作用が働き、乗りかご11が徐々に減速して停止するものである。
【0025】
非常停止装置14はエレベーターの仕様によって1段組みから複数段組みの組み合わせが選ばれるようになっている。
所定の減速度でかごを停止させるための必要な制動力Fは一本の制動子について、
F=4μN=m×(a+g)
で表される。
【0026】
ここで、μ:制動子・レール間摩擦係数,N:弾性体の押付力(N),m:落下質量(kg),a:減速度(m/s2),g:重力加速度(9.8m/s2)である。
【0027】
1段組みの非常停止装置の場合は、制動子の本数は4本(2本/レール×レール2本)となり、したがって、制動力は4倍になる。
【0028】
上記の式からわかるように、制動力Fは落下質量に正比例しているので、製造上、弾性体16が発生できる力に限界があることから、乗りかご11の落下荷重が重くなると非常停止装置を上下に複数段組み化して制動力を確保することや、或いは、1段のまま制動子の長さを長くして、弾性体16を上下に2つ設ける方法等を採用することが考えられる。
また、下降速度が速くなると制動子15とガイドレール13間の摩擦係数が小さくなるので、下降速度が高速域ほど軽い落下荷重でも制動力が多く必要となるので多段化することが必要になる。
【0029】
よって、乗りかごが上下2階建てとなるダブルデッキエレベーターや高層ビル向けのエレベーターは多段化されることが望ましい。
例えば、落下荷重25,000kgの仕様で5.88m/s2の減速度で停止するのに必要な制動力は392kNになる。μ=0.2,最大押付力Fmaxが400kNとすると1段組みでは72kNの制動力不足となり、2段組み化が必要となる。
尚、市場での台数が最も多い低層ビル向けの30〜240m/minの速度域では、1段組みで十分である。
【0030】
図4は、2段組みの非常停止装置(動作後)の概略の構成を示す正面図であり、図2に示した非常停止装置を上下方向に重ねた構成となっている。
この場合、上下の非常停止装置はそれぞれの筐体28を締結ネジ41で締結して一体化構成としている。また、上下の制動子15の上端には2段組み非常停止装置を駆動させるための駆動手段によって引き上げ棒が引きあげられ、ほぼ同時に上下の制動子15が引上げられてガイドレール7を挟み組むようになっている。よって、約8倍の制動力を得ることができ、高速或いは大容量エレベーターに対応できるようになるものである。
ここで、2段組みの非常停止装置の場合は先頭側の非常停止装置の先頭側の摩擦材については後述する本発明の考え方を適用すれば十分な場合が多い。
【0031】
すなわち、後続の非常停止装置ではガイドレール13の温度が先頭側の非常停止装置によって既に上昇しているので摩擦係数が低くなっており、発生する摩擦熱がさほど重要な影響を与えるほど上昇しないからである。このため、後続の非常停止装置の制動子のコストを抑えることができるといった効果を奏するものである。
【0032】
以上は、本発明が適用されるエレベーターの非常停止装置の構成とその作用を説明したものであるが、以下は本発明の一実施例となる制動子15について説明する。
【0033】
図5(a)は、エレベーターの非常停止装置に用いられる制動子15の概略を示しており、制動子15は支持体21と、この支持体21に固定された第1摩擦材51及び第2摩擦材52とより構成されている。
【0034】
支持体21の上端面部53及び下端面部54は長方形状に形成され、両端面部53,54の長辺のひとつはそれぞれ直角に交わる正面部22が形成されている。この正面部22はガイドレール13に対して制動面を形成する。
他方の長辺は下端面部54の短辺が上端面部53の短辺より長く延長されており、矢視方向から見て台形となるように寸法が決められ、正面部22と対向する傾斜した背面部23が形成されている。このため支持体21は矢視方向で見て台形状の面を有する四角柱となっている。
【0035】
支持体21は鋳鉄から構成されており、この支持体2の正面部22にはガイドレール13に対向するブロック状の第1摩擦材51(図では2個)、第2摩擦材52(図では4個)だけ所定の間隔で埋設されている。この実施例では制動子15の下降方向で見て第1摩擦材51は1行2列で配置され、第2摩擦材52を2行2列で配置している。ここで、第2摩擦材52は1行2列で配置しても良いし、各摩擦材51,52について2列であるが1列であっても良いことはいうまでもない。
【0036】
第1摩擦材51、第2摩擦材52はセラミックス繊維を主材料とした摩擦材であり、詳細については後述するが、第1摩擦材51は第2摩擦材52に比べて熱伝導率の高いものが用いられている。
【0037】
第1摩擦材51、第2摩擦材52と支持体2の固定方法であるが、図5(b)に有るように、支持体21の正面部22にそれぞれの摩擦材が収納できる矩形の凹状の収納部55を3ケ所にわたり形成し、ひとつの収納部55に一対の摩擦材51或いは52を収納し、その後にくさび片56を中間材57で力を伝達する様にして各摩擦材51或いは52の間に打ち込むことにより、各摩擦材51或いは52の長辺端面を収納部55の壁部55aに矢印に示すような方向に押圧することで固定している。ただ、これ以外にも接着剤で固定したりすることも可能である。
【0038】
図5(c)は固定部の断面を示しており、支持体21に形成した収納部55に摩擦材51,52が配置され、くさび片56がくさび収納穴60に配置されてボルト58によって支持体21のボルト穴59に固定されている。したがって、くさび片56のくさび効果によって摩擦材51,52は中間材57と壁部55aの間で強固に固定されるものである。
そして、第1摩擦材51、第2摩擦材52は支持体21の正面部22の表面から外側に向けて突出した状態で固定されており、ガイドレール13とは第1摩擦材51、第2摩擦材52が両側から摺動するようになっている。
第1摩擦材51は下降方向に対して支持体21の先頭側に固定され、第2摩擦材52は第1摩擦材51の後続側に固定されている。第1摩擦材51は第2摩擦材52に比べ高熱伝導率になるように構成されている。
ここで、セラミックス繊維の熱伝導を高くするには、例えば繊維を結晶化した焼結構造にすることで達成できるが、このほかにも周知の方法で熱伝導率を高めたセラミックス繊維を用いても良いことはいうまでもない。
【0039】
一般に、セラミックスの熱伝導は電子の移動や格子振動の伝達により生じ、電気抵抗が低い金属や格子振動が伝わりやすい結晶、例えば、格子点に質量の近い原子やイオンが存在する結晶や結合が強い共有結合性の結晶は高い熱伝導率を示す傾向にある。
そして、本実施例で使用する摩擦材は基本的には主としてSiCの焼結構造からなる無機繊維であって少なくとも1種の金属原子を含有する無機繊維である。また繊維間には炭素を主成分とする境界層が形成されている。
このようなセラミックス繊維からなる摩擦材の熱伝導率を所望の値に調整して高熱伝導率の第1摩擦材51と低熱伝導率の摩擦材52を得ることができる。この場合の熱伝導率はもちろん実際に使用されるエレベーターの仕様に基づいて適切に調整/選択されることはいうまでもない
尚、熱伝導率を調整する摩擦材としてはセラミックス繊維を開示したが、上記に限らずそのほかの適切な材料を用いて本発明の摩擦材として用いることはなんらさしつかえないものである。
各摩擦材51,52の基本構成について図6を用いて説明する。図6は各摩擦材51,52の材料であるセラミックスシートブロック61の外観を示しており、セラミックスシートブロック61を構成する一枚の単位セラミックスシートはセラミックス繊維を絡み合わせたり、撚って糸として布状に織り込んで構成されている。
【0040】
そして、セラミックスシートブロック61は前述の単位セラミックスシートを必要な厚さが得られるように数百枚〜数千枚分だけ重ねあわせることで形成されている。
図6(a)はセラミックスシートブロック61の上面図であり、上述したようにセラミックス繊維を撚った縦糸62と横糸63を交互に織った平織りのシート状の織物にし、これを上述したように複数枚重ね合わせてブロック状のセラミックスシートブロック61としている。したがって、セラミックス繊維が占める割合が高くても互いに織り込むことによって機械的強度を確保できる。
【0041】
上面から見て垂直方向(図6(a)において、紙面に垂直方向)の強度は他の方向に比べて低くなる傾向を示すが、後述するように各摩擦材51,52の支持構造を工夫して垂直方向に圧縮力を与えるようにして破壊しないようにしている。
図6(b)はセラミックスシートブロック61を裁断した時の側断面図であり、断面は縦糸62の断面を横糸63縫うように並んで配列されている。これは、いわゆる平織りと称されるもので縦糸と横糸とを交互に浮き沈みさせた織物である。
尚、繊維の織り方によっては、図示した構造とは異なり、綾織り(縦糸が横糸の上を2又は3本、横糸の下を1本交差させた織物),しゅす(朱子)織り(縦糸と横糸とを交互に浮き沈みさせ、どちらかの糸の浮きを少なくした織物)と呼ばれる織り方を採用しても良いし、繊維を織らずに絡み合わせたシート状の不織布でも良いものである。
【0042】
セラミックスシートブロック61は単位セラミックスシートを複数枚重ね合わせ、その後で高温下で強い圧力を加える、いわゆるホットプレス加工によって結合体とされブロック形状に成型されるものである。
【0043】
セラミックスシートブロック61は図6(b)に有るように縦糸62及び横糸63の裁断断面が覗く側をガイドレール13と摺接するように切り出される。
図6(c)はセラミックシートブロック61を裁断して摩擦材51,52を切り出した状態のものを示している。この図からわかるようにガイドレール13と摺接する上面が裁断断面64とされている。
【0044】
ここで、セラミックス繊維は高い力学的特性と優れた耐熱性を有していることからセラミックスシートブロック61も力学的強度と耐熱性に優れているものである。
また、ファインセラミックスを母材としたものに比べて、バインダと称する硬度の低いつなぎ材が含まれることで全体的な見かけ上の硬度も低くなっている。例えば、窒化ケイ素の硬度が約1400HVであるのに対し、単位セラミックスシートの硬度は換算値で約1000HV(100HS)である。
【0045】
ブレーキ作用を発生させるための摩擦材と協働する相手材の摩耗は摩擦材の硬さに比例して増加するので、本実施例では摩擦材を低硬度化したほうがガイドレール13の傷みを抑止できる効果がある。発明者らの実験によると、セラミックスシートブロック61とガイドレール13の材料との摩擦ではガイドレールの材料の傷みは許容範囲内であることを確認できた。
【0046】
図7(a)はセラミックスシートブロック61からの素材の切り出し方向を示しており、摩擦材51,52は切り出し線71で示すように上面から見て縦糸62と横糸63に対して斜めになるように裁断して切り出し、切り出された裁断断面がガイドレール13と摺動することが良い。今実施例では繊維長手方向に対して約45度の角度で裁断している。
【0047】
図7(b)は、図7(a)の方法でセラミックブロック61から摩擦材51,52を切り出した後の摩擦材51,52の斜視図を示しており、切り出した摩擦材51,52は直方体に形成されている。図中、切り出し面72に対して隣接する2方向の繊維断面の表面は、縦糸62と横糸63それぞれの繊維の裁断断面64が覗き、この実施例では略楕円形状をなしている。
【0048】
尚、図6、図7ではセラミックス繊維の断面を誇張して表現しているが、実際の断面の径は数ミクロンから数十ミクロン程度の長さを有している繊維である。
【0049】
図8は各摩擦材51,52の支持体2への埋め込み方向を示しており、切り出した各摩擦材51,52は裁断断面64の長手方向がガイドレール鉛直方向G3となっており、裁断断面がガイドレール7と摺動するように所定量だけ支持体21の正面部22より突出して埋め込まれている。つまり、縦糸62、および横糸63の裁断断面64とガイドレール13との間に凝着、切削抵抗による摩擦力を発生させて制動力を得るようになっている。
各摩擦材51,52にセラミックスシートブロック61を用いることで、エレベーターの高速化や積載量が大型化しても摺動時の摺動熱による摩擦材3の軟化や焼き付きを防ぎ所定の制動力を確保できる。
【0050】
一方、各摩擦材51,52はレール幅方向G1に向けて単位セラミックスシートが複数枚積層された形態となるように配置されている。つまり、図5(c)にあるように各摩擦材51,52は単位セラミックシートが収納部55の底面に対してほぼ直角になるように縦方向に重ねられている。
【0051】
ここで、摩擦材の強度は繊維が編まれているシート面内方向よりもシートを積層した間の積層方向の強度が弱い。よって、くさび片56を用いて、単位セラミックスシートの積層方向(レール幅方向G1)に対して圧縮力を加えている構成を採用している。
図9は、制動試験を行ったときの支持体の時間に対する温度変化を示した図である。セラミックス繊維からなる摩擦材を縦方向に複数個支持体に埋め込んだ制動子を用いた場合の結果である。この場合、摩擦材の熱伝導率は全て同じもので試験を行い、温度計測位置は埋め込んだ摩擦材底面近傍の支持体とし、熱電対を支持体に埋め込んで計測した。
曲線91は支持体21の先頭側に埋め込んだ摩擦材底面近傍の支持体温度変化を示し、曲線92は支持体の後続側の温度変化を示している。
この図から後続側の第2摩擦材52の近傍付近の支持体温度よりも先頭側の第1摩擦材51の近傍付近の支持体温度のほうが高いことが分かる。
【0052】
支持体21は各摩擦材51,52がガイドレール13と摺動して発生した摩擦熱うち各摩擦材51,52側に流れてきた熱が各摩擦材51,52を伝導してくることによって昇温することがわかる。よって、先頭側の第1摩擦材51に生じる摩擦熱が後続側の第2摩擦材52に生じる摩擦熱に比べ多く発生することで多くの熱量が先頭側の第1摩擦材51に流れたことになる。
【0053】
すなわち、摩擦材表面温度は先頭側の第1摩擦材51のほうが後続側の第2摩擦材52よりも高くなることが本試験結果から明らかになった。
先頭側の第1摩擦材51による摩擦熱が多く発生するのは、前述したようにレールの新しい面(温度が低い側)と摩擦するために摩擦係数が大きくなることに起因すると考えられる。
【0054】
これは、摩擦材が通過した直後の面(後続の第2摩擦材52が通過する面)は、レールの新しい面(先頭の第1摩擦材51が通過する面)に比べレール表面温度が高くなるために表面が軟らかくなり、その結果摩擦力が小さくなると考えられる。
図10は、摩擦材の表面温度の解析結果を時刻歴で示した図である。解析条件は、制動開始速度1100m/min、制動質量15,000kgを約5.88m/s2の平均減速度で制動させる場合とした。
【0055】
解析対象の制動子は、摩擦材を上下方向に4分割して配置した構成とした。摩擦材は、市販されているセラミックス繊維材を想定し、その熱伝導率は約3W/mkである。解析に際し、先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52の発生熱量比は図9に示した温度計測結果の差より求めた比率を適用した。
ここで、総発生熱量は制動エネルギーが全て熱エネルギーに変換されたと仮定した場合は約6.7MJとなり、この熱量の一部が各摩擦材51,52、ガイドレール13に流れることになる。
【0056】
各摩擦材51,52に流れる熱量の比率は、ピンオンディスク試験機で初速度1100m/minから減速度5.88m/s2で減速停止させた摩擦試験を行い、その時に計測した支持体の温度結果を用いて決定した。
曲線101は先頭の第1摩擦材51の表面温度変化を示し、曲線102はその後側(先頭から2番目であり以下では後続と称する)の第2摩擦材52の表面温度変化を示している。
この図から後続側の第2摩擦材52の温度よりも先頭側の第1摩擦材51の温度のほうが高いことが分かる。ここで、図中の破線103は各摩擦材51、52の耐熱温度限界を示しており約1400℃前後である。
【0057】
そして、先頭側の第1摩擦材51は乗りかごの11の停止間際で最高温度を示し1700℃となって第1摩擦材51の耐熱温度以上となることが分かる。一方、後続側の第2摩擦材52の最高温度は1300℃で耐熱温度以下に抑えられていることが理解できる。
したがって、耐熱温度を超える先頭の第1摩擦材51では摩擦材の材料が軟化して摩擦力が低下したり、或いは極度に摩耗してしまうことになり、所定の減速度を確保するのは困難になる恐れがある。
【0058】
このような知見に基づいて、本発明は、摩擦熱が多く発生する先頭側の第1摩擦材51の熱伝導率を後続側の第2摩擦材51の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体21側に多く逃がして第1摩擦材51の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の第2摩擦材52の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側の第1摩擦材51はより放熱し易くして先頭側の第1摩擦材51が熱による材料強度の低下を招くのを抑制し、かつ後続側の第2摩擦材の熱伝導率を低くして第2摩擦材52から支持体21に流れる熱の移動を抑制して全体として支持体側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることで安定した制動力を発生させることができるようになる。
【0059】
尚、支持体21の受容熱容量を大きくして、すなわち支持体21の大きさを大きくして先頭側の第1摩擦材51及び後続側の第2摩擦材52の熱伝導性を共に高めれば、先頭側の第1摩擦材51の材料強度の低下や支持体21の熱変形が避けられることも考えられるが、このようなアプローチは支持体21の重量が増えてしまう不具合があり、結果として乗りかご11を駆動するモータの出力を大きくする必要があるとか、乗りかご11の構造強度を高める必要があるとった新たな課題を生じ望ましいものではない。
【0060】
これに対して本発明は、前述したように摩擦熱が多く発生する先頭側の第1摩擦材51の熱伝導率を後続側の第2摩擦材52の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体21側に多く逃がして第1摩擦材51の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の第2摩擦材52の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側はより放熱し易くして先頭側の第1摩擦材の熱による材料強度の低下を抑制し、かつ後続側の第2摩擦材の熱伝導率を低くして全体として支持体21側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることができ、結果として支持体21の重量増加を抑えることもできるものである。
【0061】
図11は、各摩擦材51,52の熱伝導率を変化させた場合の各摩擦材51,52の表面温度と支持体21の温度を比較したものであり、解析条件は図10で説明したものと同じであり、比較として併記した別の摩擦材の熱伝導率は80W/mkとした(市販のセラミックス繊維材の熱物性より抜粋)。
図11(a)図には摩擦材表面の最高温度を示しており、摩擦材の熱伝導率を3W/mkに対して80W/mkと高くした場合は摩擦材表面の最高温度が1700℃から800℃まで低下していることが分かる。また、図11(b)図には支持体21の最高温度を示しており、解析位置は図10と同様に熱伝対を摩擦材底面近傍に埋め込んで測定したもので、摩擦材の熱伝導率を3W/mkに対して80W/mkと高くした場合は支持体21の温度は170℃から450℃に上昇している。
【0062】
本解析結果から、各摩擦材51,52の表面温度上昇を抑止すべく各摩擦材51、52の熱伝導率を高くすると各摩擦材51,52の表面から流入した熱は各摩擦材51,52に溜まらずに支持体21側に流れて支持体21の温度が上昇するようになることがわかる。
このため、一般的な支持体21を使用する前提にたつと、支持体21は鋳鉄等の金属系のものが使用されるので、摩擦材51、52であるセラミックスよりも線膨脹係数が大きく熱変形が大きくなる。よって、安易に全ての各摩擦材51,52の熱伝導率を高めると支持体21が熱変形して各摩擦材51、52とガイドレール13とが片当たりして摩擦力が低下したりして所定の減速度を確保するのが困難となる恐れがあるといった副作用を生じる。
【0063】
図12は摩擦材51、52から支持体21への熱の流れを模擬した図であり、支持体21の上下に2つの摩擦材を埋め込んだモデルである。
図12(a)図は先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52が同じ熱伝導率でしかも低熱伝導の摩擦材を使用した場合の熱の流れを示している。通常では各摩擦材51、52からの熱は支持体21に流れる際に矢印121で示すように拡散していく。
しかしながら、各摩擦材51,52の熱伝導率が低いため支持体21に流れる熱がさほど多くなく各摩擦材51,52の温度上昇を抑えることが難しい。このため、特に先頭側の第1摩擦材51の温度が高くなり先に述べた材料強度の低下を招くようになる。
【0064】
次に、図12(b)図は先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52が同じ熱伝導率でしかも高熱伝導の摩擦材を使用した場合の熱の流れを示している。通常では各摩擦材51、52からの熱は支持体21に流れる際に矢印122で示すように拡散していく。
しかしながら、各摩擦材51、52が上下に隣接して配されているため各摩擦材51,52からの熱の流れが隣接部分で交錯して旨く拡散出来ず支持体21に熱が溜まりやすい傾向にある。よって各摩擦材51,52の熱伝導率を高くすれば熱が多く移動して、摩擦材51,52の温度上昇は抑えられるが、逆に支持体21に流れる熱量が多くなり、また熱の流れの交錯から支持体21の温度上昇が高まり高温になる恐れが高い。
【0065】
図12(c)図は本発明の一実施例になるもので、先頭側の第1摩擦材51を後続側の第2摩擦材52よりも高い熱伝導率とした場合の熱の流れである。先頭側の第1摩擦材51から支持体21に流れる熱量は矢印122で示すように多いが、後続側の第2摩擦材52から流れる熱量は矢印121に示すように相対的に少ないので、先頭側の第1摩擦材51から支持体21へ流れる熱は矢印122で示したように後続側の第2摩擦材52がある上方向に容易に拡散するようになる。
【0066】
その結果、支持体21全体では各摩擦材51,52から流れてくる熱量が図12(b)の場合よりも少なくなり支持体21全体の熱変形はしにくくなる。かつ、発生する摩擦熱の大きい先頭側の第1摩擦材51は熱伝導率が高いので容易に支持体21側に熱が逃げやすくなり第1摩擦材51の表面温度上昇も抑えることができる。
【0067】
よって、本発明によれば先頭側の第1摩擦材51の摩擦熱による過度の温度上昇で材料強度が低下することもなく、また、後続側の第2摩擦材52からの摩擦熱が支持体21に流れるのを少なくできるので全体として支持体21に流れる熱量を抑えることができるので支持体21の熱変形によるガイドレール13と制動子15の片あたり等の発生を抑制することができる。
【0068】
図13は摩擦材51,52の他の配置例を示す図である。先に述べたように高層タワーマンション等のように、エレベーターが高速度でかつ大容量に大きくなってくると摩擦によって発生する熱量が多くなり、熱伝導率の高い第1摩擦材51を先頭側とこれに続く次段まで用いる必要があり、その配置の仕方についても工夫がされている。
図13に示す配置例の場合は、最後尾の熱伝導率の低い第2摩擦材52と間に配置した次段の第1摩擦材51bの間隔L2に比べて先頭側の第1摩擦材51aと次段の第1摩擦材51bの間隔L1を長く取るのが好ましい。
【0069】
この理由は間隔L1を長くすることで先頭側の第1摩擦材51aとこれに続く次段の摩擦材51bから支持体21側に流れる熱が間隔L1の部分が長い分だけ拡散しやすくなり摩擦材の温度上昇を抑えて材料強度の低下を抑止できるようになる。
また、第1摩擦材51aと第1摩擦材51bは高熱伝導率を有するので支持材21に多くの熱が流入する。しかしながら、支持材21に流れた直後の熱が上下方向に拡散する際に、第1摩擦材51aと第1摩擦材51b同士で挟まれた部分では間隔が狭いと上下から流れてくる熱が溜まってしまい温度上昇しやすくなるが、本実施例のように第1摩擦材51aと第1摩擦材51bの間隔が広く取られていると熱拡散しやすくなり、支持体21全体としてみると支持体21の温度上昇を抑えることができる。
【0070】
また、図14に示すように先頭側の摩擦材51の厚さを後続側の摩擦材52の厚さに比べて厚くすることで先頭側の摩擦材51内の温度差を大きくすることで、摩擦材51の摺動表面は熱が引け易く、かつ厚さ分だけ熱の移動を遅くして支持体21の温度上昇を抑える構成を採用することもできる。すなわち、一定の熱量が摩擦材に流入すると仮定すると、厚い摩擦材は薄い場合よりも摩擦材の底面温度が低くなり、その結果、摩擦材から支持材に流れる熱量が少なくなり温度上昇が抑えられるである。
【0071】
図15は、低熱伝導率の摩擦材と高熱伝導率の摩擦材を2層にして組み合わせた例を示す図であり、熱伝導率が高い摩擦材51をガイドレール13と接触する側に設け、熱伝導率が低い摩擦材52を支持体21と接触する側に設けて2層構造としたものである。
この構造を採用することによってガイドレール13との間で発生した摩擦材51の熱は支持体21との中間層にある摩擦材52に流れて蓄熱されるので摩擦材51の摺動面温度の上昇は抑えられ、かつ摩擦材52は低熱伝導率のため支持体21に流れる熱は少なくなり支持体21の温度上昇も抑えることができる。
【0072】
図16は、支持体21の物理的な冷却構造の例を示す図であり、支持体21に埋め込んだ複数個の摩擦材51,52のうち後続側の摩擦材52に比べて熱伝導率が高い摩擦材51を先頭側に埋め込んだ構成において、支持体21の重力方向に向かう底部面に冷却用の凹凸部47を備え冷却面積を増やした例を示したものである。
【0073】
この構造を採用することにより乗りかご11が下降していく際に流れる空気によって支持体21の冷却効果が増し先頭側の支持体の熱変形を抑制できる効果を期待できる。
本実施例では摩擦材として単位セラミックスシートを重ねたセラミックスシートブロックを用いているが、本実施例の材料に限らずにファインセラミックス材を組み合わせて使用しても問題ない。ファインセラミックスの場合は脆いため応力集中しにくい円柱形状にして使用するのが望ましい。
【0074】
以上説明したように、本発明によれば、摩擦熱が多く発生する先頭側の摩擦材の熱伝導率を後続側の熱伝導率よりも高い材料を用いて摺動時に発生する熱を支持体側に多く逃がして摩擦材の摺接面の温度上昇を抑止し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして熱の逃げを抑制することで、先頭側はより放熱し易くして先頭側の摩擦材の熱による材料強度の低下を抑制し、かつ後続側の摩擦材の熱伝導率を低くして全体として支持体側に流れる熱を支持体が変形しない程度に抑えることで安定した制動力を発生させることができるようになる。
【0075】
この場合、後続側の摩擦材の温度上昇はガイドレールの摩擦係数が低くなっていることから先頭側の摩擦材ほど高くならず、摩擦材の材料強度についての悪影響を抑制することができるものである。
尚、実際には、上述した考え方に基づいてエレベーターの非常停止装置の製品仕様に合わせて摩擦材の構造や材料及び支持体の構造や材料を選択できるものである。
【符号の説明】
【0076】
11…乗りかご、13…ガイドレール、14…非常停止装置、15…制動子、21…支持体、22…正面部、51…高熱伝導率の摩擦材、52…低熱伝導率の摩擦材、55…収納部、56…くさび。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体の制動面側で前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とを配置したことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記第1の摩擦材は下降方向から見て少なくとも先頭段とこれに続く次段の2段に設けられ、この先頭段と次段の第1の摩擦材同士の配置間隔が前記次段の第1の摩擦材と後続側の前記第2の摩擦材の配置間隔より長く設定されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項3】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記第1の摩擦材の厚さは前記第2摩擦材の厚さよりも厚いことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項4】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記第1摩擦材はガイドレールと接触する側と前記支持体に接触側の間で少なくとも2層に形成され、前記ガイドレールに接触する側の摩擦材は前記支持体に接触する側の摩擦材より熱伝導率が高いことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項5】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記支持体の下降方向に向かう先端部面に凹凸部を有する冷却面が形成されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項6】
水平方向に拡開可能なU字形に形成された弾性体と、前記弾性体の両端部内面に互いに対向して取付けられ、対向面の下部が外側に向けて傾斜した一対のガイド部材と、前記ガイド部材間に前記ガイド部材の傾斜面に沿って上下動自在に、かつ前記ガイド部材の間にあるガイドレールを中心にして互いに対向して配置された垂直方向に延びる制動面を有する一対の制動子と、前記制動子にそれぞれ取付けられ非常時に前記制動子を前記ガイド部材に沿って上方に引き上げるための引上げ手段を備えたエレベーター用非常停止装置であって、
前記制動子が、支持体と、前記支持体の制動面側に配置され、前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とから構成されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置。
【請求項7】
水平方向に拡開可能なU字形に形成された弾性体と、前記弾性体の両端部内面に互いに対向して取付けられ、対向面の下部が外側に向けて傾斜した一対のガイド部材と、前記ガイド部材間に前記ガイド部材の傾斜面に沿って上下動自在に、かつ前記ガイド部材の間にあるガイドレールを中心にして互いに対向して配置された垂直方向に延びる制動面を有する一対の制動子と、前記制動子にそれぞれ取付けられ非常時に前記制動子を前記ガイド部材に沿って上方に引き上げるための引上げ手段を備えたエレベーター用非常停止装置を一つの乗りかごに少なくとも2台設け、下降方向から見て先頭側のエレベーター非常停止装置の前記制動子が、支持体と、前記支持体の制動面側に配置され、前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とから構成されていることを特徴とするエレベーター。
【請求項1】
支持体と、前記支持体の制動面側で前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とを配置したことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記第1の摩擦材は下降方向から見て少なくとも先頭段とこれに続く次段の2段に設けられ、この先頭段と次段の第1の摩擦材同士の配置間隔が前記次段の第1の摩擦材と後続側の前記第2の摩擦材の配置間隔より長く設定されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項3】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記第1の摩擦材の厚さは前記第2摩擦材の厚さよりも厚いことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項4】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記第1摩擦材はガイドレールと接触する側と前記支持体に接触側の間で少なくとも2層に形成され、前記ガイドレールに接触する側の摩擦材は前記支持体に接触する側の摩擦材より熱伝導率が高いことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項5】
請求項1に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、前記支持体の下降方向に向かう先端部面に凹凸部を有する冷却面が形成されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。
【請求項6】
水平方向に拡開可能なU字形に形成された弾性体と、前記弾性体の両端部内面に互いに対向して取付けられ、対向面の下部が外側に向けて傾斜した一対のガイド部材と、前記ガイド部材間に前記ガイド部材の傾斜面に沿って上下動自在に、かつ前記ガイド部材の間にあるガイドレールを中心にして互いに対向して配置された垂直方向に延びる制動面を有する一対の制動子と、前記制動子にそれぞれ取付けられ非常時に前記制動子を前記ガイド部材に沿って上方に引き上げるための引上げ手段を備えたエレベーター用非常停止装置であって、
前記制動子が、支持体と、前記支持体の制動面側に配置され、前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とから構成されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置。
【請求項7】
水平方向に拡開可能なU字形に形成された弾性体と、前記弾性体の両端部内面に互いに対向して取付けられ、対向面の下部が外側に向けて傾斜した一対のガイド部材と、前記ガイド部材間に前記ガイド部材の傾斜面に沿って上下動自在に、かつ前記ガイド部材の間にあるガイドレールを中心にして互いに対向して配置された垂直方向に延びる制動面を有する一対の制動子と、前記制動子にそれぞれ取付けられ非常時に前記制動子を前記ガイド部材に沿って上方に引き上げるための引上げ手段を備えたエレベーター用非常停止装置を一つの乗りかごに少なくとも2台設け、下降方向から見て先頭側のエレベーター非常停止装置の前記制動子が、支持体と、前記支持体の制動面側に配置され、前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とから構成されていることを特徴とするエレベーター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図11】
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【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−232812(P2012−232812A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101002(P2011−101002)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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