説明

エレベーター装置

【課題】簡易な構造で第3段の安全装置として求められる確実な制動性能を確保することができるとともに、それが作動した後の保守の負担を軽減することのできるエレベーター装置の提供。
【解決手段】非常止め装置を、昇降体の下部に設けるとともに、強制制動装置6を非常止め装置の鉛直投影面内に配置し、かつ、強制制動装置6は、ガイドレール3に摺接する制動子61a、61bと、これらの制動子61a、61bをガイドレール3に沿って保持する保持手段62とを備え、昇降体の異常下降に伴う非常止め装置の強制制動装置6への当接により、制動子61a、61bをガイドレール3に摺動させ昇降体を制動するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドレールに案内されて移動する昇降体に規定以上の速度での移動動作を生じた場合、その移動速度を減速するための安全装置を備えたエレベーター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーター装置は、一般に3段構えの安全装置を備えている。第1段の安全装置は調速機である。調速機は、かごの昇降速度を検出しており、それに異常が生じた場合にはロープを駆動している巻上機のブレーキを作動させて制動を行なうなどの安全処置がとられる。第2段の安全装置は非常止め装置である。非常止め装置は、かごに取り付けられており、必要時にガイドレールを強圧することで高い摩擦力を発生させて制動を行なう。この非常止め装置は、第1段の安全処置でもかごが減速せず増速した場合に、調速機からの信号で作動するようになっている。第3段の安全装置は、かごが昇降を行なう昇降路の下側に形成してあるピットに設置される緩衝器である。この緩衝器は、昇降路底部にかごが衝突しそうになった場合、衝突しないうちにかごの下降を緩やかに停止させるものである。
【0003】
緩衝器によるかごの停止はかごが緩衝器に衝突する状態でなされる。したがって、かごの乗客に与える衝撃を安全な範囲に抑えるには、緩衝器の動作ストロークを一定以上の高さにする必要がある。このことは緩衝器の大型化や高コスト化につながっている。また、ピットの深さは一般的に動作ストロークの2倍以上必要とされるが、緩衝器の大型化によりピットの深さも深くなりその結果、建築物の利用効率を低下させることになる。
【0004】
そこで、従来、かごを減速させることのできる非常用減速装置を設け、緩衝器に対する負荷をできるだけ小さくして緩衝器の小型化を図り、さらには緩衝器の設置も不要にしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、かごを案内するガイドレールに対してこれを挟み込む状態で係合するように形成された制動挟持体と、ガイドレールの終端部に設けられ、終端方向に向けて厚みが増大する増厚部を有するストッパからなり、制動挟持体へのストッパの進入を通してかごの運動エネルギを吸収することにより、非常時の減速をなすようにしたものである。すなわち、制動挟持体をかごに対して固定的に接続させるとともに、この制動挟持体をそれへのストッパの進入に際して増厚部に削れを生じさせるように形成し、この削れによりかごの運動エネルギの主たる吸収をなすようにている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−218678(段落番号0017〜0022、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の非常用減速装置では、かご側に、制動挟持体を新たに設ける必要があるとともに、ガイドレールを、その終端部に、終端方向に向けて厚みが増大する増厚部を有するストッパが備えられた特別なものとする必要があり、コストアップを招くという問題があった。また、ガイドレールにストッパを一体的に設けたものの場合、非常用減速装置が動作してストッパが消耗すると、ガイドレール全体を交換する必要があり、保守コストがかかるという問題があった。
【0007】
このため、前述した従来のものでは、保守の負担を軽減するため、ストッパ部材をガイドレールに着脱自在に取付けることも提案されているが、この場合、制動挟持体へのストッパの進入時にかかる大きな衝撃により、ストッパがガイドレールから脱落する恐れがあり、第3段の安全装置としての目的を考えた時に、その信頼性に懸念があった。
【0008】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、簡易な構造で第3段の安全装置として求められる確実な制動性能を確保することができるとともに、それが作動した後の保守の負担を軽減することのできるエレベーター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、昇降路を昇降する昇降体と、この昇降体の昇降を案内するガイドレールと、前記昇降体に取付けられ、必要時にガイドレールを強圧することで摩擦力を発生させる非常止め装置と、前記昇降路底部のピットに配置され、前記昇降体の下降を強制制動する強制制動装置とを備えたエレベーター装置において、前記非常止め装置を、前記昇降体の下部に設けるとともに、前記強制制動装置を前記非常止め装置の鉛直投影面内に配置し、かつ、前記強制制動装置は、前記ガイドレールに摺接する制動子と、この制動子を前記ガイドレールに沿って保持する保持手段とを備え、前記昇降体の異常下降に伴う前記非常止め装置の前記強制制動装置への当接により、前記制動子を前記ガイドレールに摺動させ前記昇降体を制動することを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明では、通常時、制動子は保持手段によりガイドレールに係止するかたちでピット底部から所定寸法離れた高さ位置に保持されている。そして、何らかの要因により昇降体がピットに向かって異常下降した場合、所定の高さ位置で昇降体下部に設けられた非常止め装置と、この非常止め装置の鉛直投影面内に配置された強制制動装置とが当接し、これに応じて強制制動装置の制動子がガイドレールに沿って摺動し、摩擦力により昇降体を制動する。強制制動装置を作動させる非常止め装置は、十分な堅牢性をもってあらかじめ昇降体に設けられるべきものであるとともに、ガイドレールは、制動子のガイドレールへの摺動により生じる摩擦力により昇降体を制動させるものであることから通常のものを用いることができ、これによって、簡易な構造で第3段の安全装置として求められる確実な制動性能を確保することができる。また、制動子をガイドレールに摺接させ摩擦により昇降体を強制制動するものであることから、強制制動により制動子およびガイドレールのそれぞれに削れが生じるが、制動子の硬度を比較的柔らかいものにすることで、強制制動時にガイドレールに大きな摩耗が生じることを防ぎ、保守の際には制動子のみを交換すればよいようにし、これによって、強制制動装置が作動した後の保守の負担を軽減することができる。
【0011】
また、本発明は、前記保持手段に、前記制動子を前記ガイドレールに押圧する弾性体を備えたことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明では、保持手段に備えられた弾性体により制動子をガイドレールに押し付けることにより、制動時に適切な摩擦力を発生させ、安定した強制制動を実現することができる。
【0013】
さらに、本発明は、前記強制制動装置が所定の位置に装着されているかどうかを検出する検出スイッチを設けたことを特徴としている。
【0014】
このように構成した本発明では、通常、ガイドレールに係止するかたちでピット底部から所定寸法離れた高さ位置に保持される強制制動装置が、何らかの要因により脱落等した場合、検出スイッチがこの異常を検出しエレベーターを停止する。これによって、強制制動装置に異常が生じた状態でエレベーターが継続して稼働することを防ぎ、安全性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、緩衝器の小型化を図ったエレベーター装置、または緩衝器レスのエレベーター装置にあって、簡易な構造で第3段の安全装置として求められる確実な制動性能を確保することができるとともに、それが作動した後の保守の負担を軽減することができ、これによって、コストの低減を図りつつ、安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るエレベーター装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】本実施例におけるエレベーター装置の強制制動装置の概略正面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う要部概略横断面図である。
【図4】本実施例におけるエレベーター装置の強制制動装置の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るエレベーター装置の実施例を図に基づき説明する。
【0018】
本実施例のエレベーター装置は、図1に示すように、昇降路1を昇降する昇降体、例えば、かご2と、このかご2の昇降を案内するガイドレール3と、かご2に取付けられ、必要時にガイドレール3を強圧することで摩擦力を発生させる非常止め装置4と、昇降路底部のピット5に配置され、かご2の下降を強制的に制動する強制制動装置6とを備えている。
【0019】
かご2には、図示しない巻上機により駆動されるロープ7が接続されるとともに、その四隅には、ガイドレール3に摺接するガイドシュー8が配置されている。
【0020】
非常止め装置4は、かご2の下部にあってそれぞれのガイドレール3と対向するように設けられる。
【0021】
強制制動装置6は、図2乃至図4に示すように、ガイドレール3を挟む様に対となる制動子61aと、ガイドレール3頂部に対向するように設けられる制動子61bと、これらの制動子61a、61bをガイドレール3に沿って保持する保持手段62と、強制制動装置6の上部に設けられ、非常止め装置4と当接する緩衝用弾性体63とを備えている。
【0022】
制動子61a、61bは、保持手段62によりガイドレール3に係止するかたちでピット5底部から所定寸法離れた高さ位置にあらかじめ保持されている。
【0023】
保持手段62は、図3に示す断面形状を有しており、その立ち上がり辺とガイドレール3との間で制動子61a、61bを挟み込む本体62aと、一端が制動子61aおよび61b、他端が弾性体圧縮用板62b、62cに当接するように配置され、制動子61a、61bをガイドレール3に押圧する弾性体62d、62eと、本体62aに螺合され、弾性体圧縮用板62b、62cを介して弾性体62d、62eをガイドレール3方向へ押し付ける弾性体圧縮用ボルト62f、62gとを備えている。
【0024】
ガイドレール3の所定の高さ位置には、図1に示すように、強制制動装置6が所定の位置に装着されているかどうかを検出する検出スイッチ9が設けられている。
【0025】
本実施例にあっては、エレベーター装置に適用された強制制動装置6が非常止め装置4の後段で作動することを基本としている。すなわち何らかの故障でかご2が異常降下した場合に、非常止め装置4と非常止め装置4の鉛直投影面内に配置された強制制動装置6とが当接する。この状態でかご2が下降することで、強制制動装置6の制動子61a、61bがガイドレール3に沿って摺動し、摩擦力により、かご2がピット5底部に衝突する前に、かご2を制動する。また、通常、ガイドレール3に係止するかたちでピット5底部から所定寸法離れた高さ位置に保持される強制制動装置6が、何らかの要因により脱落等した場合、検出スイッチ9がこの異常を検出しエレベーターを停止する。
【0026】
本実施例によれば、強制制動装置6を作動させる非常止め装置4は、十分な堅牢性をもってあらかじめかご2に設けられるべきものであるとともに、ガイドレール3は、制動子61a、61bのガイドレール3への摺動により生じる摩擦力によりかご2を制動させるものであることから、通常のものを用いることができ、これによって、簡易な構造で第3段の安全装置として求められる確実な制動性能を確保することができる。また、制動子61a、61bをガイドレール3に摺接させ摩擦によりかご2を強制制動するものであることから、強制制動により制動子61a、61bおよびガイドレール3のそれぞれに削れが生じるが、制動子61a、61bの硬度を比較的柔らかいものにすることで、強制制動時にガイドレール3に大きな摩耗が生じることを防ぎ、保守の際には制動子61a、61bのみを交換すればよいようにすることで、強制制動装置6が作動した後の保守の負担を軽減することができる。したがって、緩衝器レスのエレベーター装置にあって、コストの低減を図りつつ、安全性の向上を図ることができる。さらに、保持手段62に備えられた弾性体62d、62eにより制動子61a、61bをガイドレール3に押し付けることにより、制動時に適切な摩擦力を発生させ、安定した強制制動を実現することができる。さらにまた、強制制動装置6が何らかの要因により脱落等した場合、検出スイッチ9がこの異常を検出しエレベーターを停止することで、強制制動装置6に異常が生じた状態でエレベーターが継続して稼働することを防ぎ、安全性の向上を図ることができる。
【0027】
なお、前述した実施例では、かご2に非常止め装置4および強制制動装置6を設置したものを例としたが、本発明はこれに限らず、つり合いおもり側にも同等の構成の非常止め装置および強制制動装置を設けてもよい。また、ピット5に緩衝器を設置しないものを例としたが、ピット5に第4段目の安全装置として小型の緩衝器を設けてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 昇降路
2 かご
3 ガイドレール
4 非常止め装置
5 ピット
6 強制制動装置
61a、61b 制動子
62 保持手段
62a 本体
62b、62c 弾性体圧縮用板
62d、62e 弾性体
62f、62g 弾性体圧縮用ボルト
63 緩衝用弾性体
7 ロープ
8 ガイドシュー
9 検出スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路を昇降する昇降体と、この昇降体の昇降を案内するガイドレールと、前記昇降体に取付けられ、必要時にガイドレールを強圧することで摩擦力を発生させる非常止め装置と、前記昇降路底部のピットに配置され、前記昇降体の下降を強制制動する強制制動装置とを備えたエレベーター装置において、
前記非常止め装置を、前記昇降体の下部に設けるとともに、前記強制制動装置を前記非常止め装置の鉛直投影面内に配置し、かつ、前記強制制動装置は、前記ガイドレールに摺接する制動子と、この制動子を前記ガイドレールに沿って保持する保持手段とを備え、前記昇降体の異常下降に伴う前記非常止め装置の前記強制制動装置への当接により、前記制動子を前記ガイドレールに摺動させ前記昇降体を制動することを特徴としたエレベーター装置。
【請求項2】
前記保持手段に、前記制動子を前記ガイドレールに押圧する弾性体を備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベーター装置。
【請求項3】
前記強制制動装置が所定の位置に装着されているかどうかを検出する検出スイッチを設けたことを特徴とする請求項1記載のエレベーター装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−180204(P2012−180204A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45371(P2011−45371)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】