説明

エレベータ用タッチ式操作ボタン装置

【課題】実際の据え付け状態でふさわしい検出距離となるように自動調整することで保守作業を削減し、周囲環境の変動によるエレベータ装置のサービス性低下を未然に防止することができるようにしたエレベータ用タッチ式操作ボタン装置を提供する。
【解決手段】温度、湿度および浮遊容量と、タッチ式操作ボタン7の各仕様毎の検出距離との関係を表す特性データをデータベース10に予め格納し、エレベータ装置の実際の据え付け状態で設定用温度、設定用湿度および設定用浮遊容量を測定し、データベース10内に格納した特性のデータを用いて設定用検出距離26に対応する設定用調整値27を算出し、この設定用調整値27を検出距離制御手段9から検出距離調整手段6に与えることによって、実際の使用環境に応じた検出距離を使用したタッチ式操作ボタン7とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの乗りかご内または乗場にて呼び登録するために用いる呼び登録用ボタンを有するエレベータ用タッチ式操作ボタン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータ用タッチ式操作ボタン装置としては、エレベータシステムとは別に調整用装置を用意し、タッチボタン内部の信号をマイコンに取り込み、事前に入力する調整時の条件を含めて演算処理し、その結果から作業者に対し調整の補助信号を出力して、タッチ式操作ボタンの検出距離が規定値となるようにするものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−227047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエレベータ用タッチ式操作ボタン装置では、作業者による調整が前提となるため、事前に条件を入力する作業が不可欠で、この入力作業で誤りがあると全てのボタンで適正な検出距離に調整することができず、利用者に不信感を与える可能性がある。また信号調整装置にマイコンを用いるため装置コストが高くなることから、タッチ式操作ボタン装置の出荷前に作業者が標準的な温湿度のみに対応した検出距離を規定値として設定しているが、この納入前の調整では、納入先の実際の周囲環境との違いにより検出距離が変動してしまい、利用者に不信感を与えたり、また検出距離の規定値を維持するために納入先で保守員が調整作業を実施する場合、調整工具の不備により検出距離を規定値に調整できず、周囲環境によっては登録不能、誤登録が発生してエレベータ装置のサービス性が低下することも考えられる。
【0005】
本発明の目的は、実際の据え付け状態でふさわしい検出距離となるように自動調整することで保守作業を削減し、周囲環境の変動によるエレベータ装置のサービス性低下を未然に防止することができるようにしたエレベータ用タッチ式操作ボタン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、人体の静電容量を検出してエレベータの乗りかごまたは乗場にて呼びを登録するタッチ式操作ボタンと、人体を検出するまでの検出距離を調整可能な検出手段とを備えたエレベータ用タッチ式操作ボタン装置において、使用環境で測定した温湿度、および上記検出手段を用いて使用環境で測定した浮遊容量とから設定用調整値を算出する検出距離制御手段と、上記検出距離制御手段によって算出した設定用調整値に基づいて上記タッチ式操作ボタンの検出距離を新たな検出距離に調整する検出距離調整手段とを設けたことを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、実際の使用環境で測定した温湿度および浮遊容量と、サイズ、個々の特性ばらつきなどタッチ式操作ボタン7の各仕様毎に応じて、検出距離を自動的に調整することができるので、保守調整作業がなくなり、作業コストを削減することができる。また周囲環境の変動により発生する恐れのあるタッチ式操作ボタン7の検出不能や誤検出といったサービス性低下を未然に防止でき、利用者が安心して利用可能なエレベータ装置を提供することができる。
【0008】
また本発明は、上記タッチ式操作ボタンの仕様毎に周囲温湿度および浮遊容量の検出距離と調整値の対応関係を有する特性データを格納したデータベースを設け、上記検出距離制御手段は、上記データベースに格納した特性データを使用して上記使用環境で測定した温湿度および浮遊容量から上記設定用調整値を算出することを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、据え付け状態での各種周囲環境条件を検出することによって、データベース内に格納した特性のデータを用いて実際の設定用検出距離に対応する設定用調整値を容易に算出することができ、この設定用調整値を検出距離制御手段から検出距離調整手段に与えることによって、実際の使用環境に応じた検出距離を使用したタッチ式操作ボタンとすることができ、タッチ式操作ボタンの検出距離調整のための保守作業を削減し、周囲環境の変動によるエレベータのサービス性低下を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるエレベータ用タッチ式操作ボタン装置は、実際の使用環境で測定した温湿度および浮遊容量と、サイズ、個々の特性ばらつきなどタッチ式操作ボタン7の各仕様毎に応じて、検出距離を自動的に調整することができるので、保守調整作業がなくなり、作業コストを削減することができる。また周囲環境の変動により発生する恐れのあるタッチ式操作ボタン7の検出不能や誤検出といったサービス性低下を未然に防止でき、利用者が安心して利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態によるエレベータ用タッチ式操作ボタン装置のブロック構成図である。
【図2】図1に示したエレベータ用タッチ式操作ボタン装置のデータベースに格納した周囲温度に対する検出距離の関係を示す特性図である。
【図3】図1に示したエレベータ用タッチ式操作ボタン装置のデータベースに格納した周囲湿度に対する検出距離の関係を示す特性図である。
【図4】図1に示したエレベータ用タッチ式操作ボタン装置のデータベースに格納した浮遊容量に対する検出距離の関係を示す特性図である。
【図5】図1に示したエレベータ用タッチ式操作ボタン装置のデータベースに格納した調整値に対する検出距離の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態によるエレベータ用タッチ式操作ボタン装置を示すブロック構成図であり、タッチ式操作ボタン7は、人体が直接接触するタッチ部1と、タッチ部1が押されたことを知らせる絶縁体でできた応答灯表示部2と、アース設置された金属製のボタン収納ボックス3と、調整値により決められた距離まで利用者が近づいたことを検出する検出手段4と、この検出手段4による検出があったことをボタン検出距離調整制御装置11へ出力する出力手段5と、検出手段4が人体を検出するまでの距離を外部制御信号により調整可能な検出距離調整手段6とから構成している。
【0014】
このタッチ式操作ボタン7におけるタッチ部1の近傍には、周囲の温度および湿度を測定する温湿度測定手段8が設置され、この温湿度測定手段8で測定した温湿度情報を受けて調整を行うボタン検出距離調整制御装置11を備えている。このボタン検出距離調整制御装置11は、納入先のタッチ式操作ボタン7のタッチ部1のボタン形状やサイズなどの仕様毎に、温度、湿度、浮遊容量、調整値に対する検出距離特性をデータ化して保管するデータベース10と、出力手段5からの出力、検出距離調整手段6へ出力している調整値、温湿度測定手段8からの周囲温湿度によりデータベース10のデータを読み出し、タッチ式操作ボタン7の検出距離を抽出し、新たに抽出した調整値を検出距離調整手段6へ出力する検出距離制御手段9とを有している。
【0015】
次に、データベース10内に格納した変動要素としての温度、湿度、浮遊容量、調整値に対する検出距離特性について説明する。データベース10内には、予め対象となるタッチ式操作ボタン7における形状やサイズなどの仕様毎に図2〜図5で説明した各変化曲線で示した各種データを記憶している。
【0016】
図2は、周囲温度と検出距離との関係を示す特性図であり、ある基準となる静電容量をもつ人体がある周囲温度のもとでタッチ部1へ近づいたことを検出するまでの距離との関係を変化曲線12によって示したものである。この変化曲線12は、初期設定の際に使用した基準温度での検出距離を規定値としており、実際の測定温度が基準温度よりも上昇すると検出距離は規定値よりも小さくなり、逆に実際の測定温度が基準温度よりも下がると検出距離は規定値よりも大きくなる傾向を示している。
【0017】
図3は、周囲湿度と検出距離との関係を示す特性図であり、ある基準となる静電容量をもつ人体がある周囲湿度のものでタッチ部1へ近づいたときに検出するまでの距離との関係を変化曲線16によって示したものである。この変化曲線16は、初期設定の際に使用した基準湿度での検出距離を規定値としており、実際の測定湿度が基準湿度よりも上昇すると検出距離は規定値よりも大きくなり、逆に実際の測定湿度が基準湿度よりも下がると検出距離は規定値よりも小さくなる傾向を示している。
【0018】
また図4は、浮遊容量と検出距離との関係を示す特性図であり、タッチ式操作ボタン7の周囲に発生している浮遊容量がタッチ部1へ近づいたときに検出するまでの距離の関係を変化曲線20によって示したものである。この変化曲線20は、初期設定の際に使用した基準浮遊容量での検出距離を規定値としており、実際に測定した浮遊容量が基準浮遊容量よりも上昇すると検出距離は規定値よりも小さくなり、逆に実際に測定した浮遊容量が基準湿度よりも下がると検出距離は規定値よりも大きくなる傾向を示している。
【0019】
図5は、調整値と検出距離との関係を示す特性図であり、タッチ式操作ボタン7の検出距離調整手段6に対して制御指令である調整値を変化し、検出するまでの検出距離との関係を検出距離変化曲線24で示したものである。この検出距離変化曲線24は、上述した初期設定の際に使用した基準温度、基準湿度、基準浮遊容量での検出距離を規定値としており、このときの基準調整値に対して実際に算出した設定用調整値が上昇すると検出距離は規定値よりも小さくなり、逆に実際に算出した設定用調整値が基準調整値よりも小さくなると検出距離は規定値よりも大きくなる傾向を示している。
【0020】
通常、タッチ部1の検出距離の設定は、エレベータ装置の納入前に行われているため、実際の使用環境とは各種条件が異なっている。そこで、エレベータ装置の納入前の初期設定では、上述した温度、湿度、浮遊容量をそれぞれ基準値とし、ボタン検出距離調整制御装置11から検出距離調整手段6に図5に示した基準調整値を与え、検出距離調整手段6を通して検出手段4の検出距離が既定値となるようにしている。しかし、エレベータ装置の納入後には、上述したエレベータ用タッチ式操作ボタン装置を作動させて、上述した実際の使用環境において測定した設定用温度、設定用湿度、設定用浮遊容量に基づいて図5に示した設定用調整値を新たに算出し、また変化曲線24に基づいて新たな設定用検出距離を算出し、この新たな設定用検出距離がタッチ部1における検出距離となるよう制御する。次に、この再設定について説明する。
【0021】
まず、検出距離制御手段9は、温湿度測定手段8によりタッチ式操作ボタン7を配置した周囲環境での設定用温度13を実際に測定し、図2に示した周囲温度に対する検出距離の変化曲線12から設定用周囲温度13に対応する設定用検出距離14を抽出し、規定値に対する検出距離の偏差15を求める。
【0022】
同様に、検出距離制御手段9は、温湿度測定手段8によりタッチ式操作ボタン7を配置した周囲環境での再設定用湿度17を実際に測定し、図3に示した周囲湿度に対する検出距離の変化曲線16から設定用湿度17に対応する設定用検出距離18を抽出し、規定値に対する検出距離の偏差19を求める。
【0023】
次に、検出距離制御手段9は、人が近づかない状態で、実際の使用環境におけるタッチ式操作ボタン7の浮遊容量を検出手段4により検出したときの規定値に対する検出距離の偏差23を求める。これは、検出距離制御手段9からの指令により検出距離調整手段6の調整値を変化させながら検出距離を変化して、タッチ式操作ボタン7が実際の設定用浮遊容量21を検出して出力したときの設定用検出距離22を測定し、この測定した設定用検出距離22と検出距離の既定値との偏差23を図4に示した変化曲線20から求める。
【0024】
続いて、上述のようにして求めたタッチ式操作ボタン7の実際の周囲温度での検出距離の偏差15と、実際の周囲湿度での検出距離の偏差19と、実際の浮遊容量での検出距離の偏差23とを組み合わせることにより、オフセット値25を求める。その後、図5に示した検出距離変化曲線24における検出距離の規定値からオフセット値25を考慮して、新たな設定用検出距離26を算出し、この新たな設定用検出距離26に対応する設定用調整値27を求める。
【0025】
次に、検出距離制御手段9は、タッチ式操作ボタン7の検出距離を新たな設定用検出距離26に変更するために、検出距離調整手段6に対して設定用調整値27を出力する。これを受けた検出距離調整手段6は、検出手段4を調整してタッチ式操作ボタン7が設定用検出距離26で検出するようにする。
【0026】
このようなエレベータ用タッチ式操作ボタン装置によれば、エレベータ装置の実際の使用環境において設定用温度、設定用湿度および設定用浮遊容量を測定し、タッチ式操作ボタン7の各仕様毎に温度、湿度および浮遊容量と検出距離の関係を表す特性のデータをデータベース10に予め格納しているため、実際の据え付け状態での検出を行った後、データベース10内に格納した特性のデータを用いて実際の設定用検出距離26に対応する設定用調整値27を容易に算出することができ、この設定用調整値27を検出距離制御手段9から検出距離調整手段6に与えることによって、実際の使用環境に応じた検出距離を使用したタッチ式操作ボタン7とすることができるので、タッチ式操作ボタン7の検出距離調整のための保守作業を削減し、周囲環境の変動によるエレベータのサービス性低下を未然に防止することができる。
【0027】
上述したエレベータ用タッチ式操作ボタン装置は、エレベータ装置とは別個に独立したシステムとして導入すると規模が大きいためコストが高くなり、従来の作業者による調整作業の方が安価となってしまう。そのため検出距離制御手段9とデータベース10をエレベータ制御装置のマイコンと記憶媒体に組み込むことでシステムを共用化して構成すると、コストを削減することができる。
【0028】
また、エレベータ制御装置のマイコンが高性能であれば、図2〜図5に示した各変化曲線の特性データをデータベース10にデータ化して格納するのではなく、近似式としてマイコンへプログラムすると、記憶容量が非常に小さくなり、データベース10も不要となってコストを削減することができる。さらに周囲環境条件の温湿度変動が小さく空調設備が備わっている場所では、空調設備からの温湿度情報を取り込むことで温湿度測定手段8も不要となり、コストを削減することができる。
【0029】
また、上述した実施の形態では、初期設定の既定値を予めデータをデータベース10に予め登録し、実際の周囲環境条件における設定用測定値と初期設定の偏差を求め、実際の使用環境に応じたタッチ式操作ボタン7の設定用検出距離となるようにしたが、必ずしも初期設定は必要ではないので、現地据え付けの後、偏差15,19,23,24ではなく、タッチ式操作ボタン7の各仕様毎に実際の温度、湿度、浮遊容量の各測定値に基づいてふさわしい設定用検出距離26となるように設定用調整値27を算出し、この設定用調整値27を検出距離制御手段9から検出距離調整手段6に与えるようにしても良い。さらには、実際の周囲使用環境が大きく変化する場合は、据え付け時におけるタッチ式操作ボタン7の検出距離調整だけでなく、所定の時間間隔で再設定を行うことも可能である。
【0030】
以上説明したように本発明のエレベータ用タッチ式操作ボタン装置によれば、実際の使用環境で測定した温湿度および浮遊容量と、サイズ、個々の特性ばらつきなどタッチ式操作ボタン7の各仕様毎に応じて、検出距離を自動的に調整することができるので、保守調整作業がなくなり、作業コストを削減することができる。また周囲環境の変動により発生する恐れのあるタッチ式操作ボタン7の検出不能や誤検出といったサービス性低下を未然に防止でき、利用者が安心して利用可能なエレベータ装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 タッチ部
2 応答灯表示部
3 ボタン収納ボックス
4 検出手段
5 出力手段
6 検出距離調整手段
7 タッチ式操作ボタン
8 温湿度測定手段
9 検出距離制御手段
10 データベース
11 ボタン検出距離調整制御装置
12 変化曲線
13 設定用周囲温度
14 検出距離
15 偏差
16 変化曲線
17 設定用周囲湿度
18 検出距離
19 偏差
20 変化曲線
21 設定用浮遊容量
22 検出距離
23 偏差
24 変化曲線
25 オフセット値
26 設定用検出距離
27 設定用調整値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の静電容量を検出してエレベータの乗りかごまたは乗場にて呼びを登録するタッチ式操作ボタンと、人体を検出するまでの検出距離を調整可能な検出手段とを備えたエレベータ用タッチ式操作ボタン装置において、使用環境で測定した温湿度、および上記検出手段を用いて使用環境で測定した浮遊容量とから設定用調整値を算出する検出距離制御手段と、上記検出距離制御手段によって算出した設定用調整値に基づいて上記タッチ式操作ボタンの検出距離を新たな検出距離に調整する検出距離調整手段とを設けたことを特徴とするエレベータ用タッチ式操作ボタン装置。
【請求項2】
上記タッチ式操作ボタンの仕様毎に周囲温湿度および浮遊容量の検出距離と調整値の対応関係を有する特性データを格納したデータベースを設け、上記検出距離制御手段は、上記データベースに格納した特性データを使用して上記使用環境で測定した温湿度および浮遊容量から上記設定用調整値を算出することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用タッチ式操作ボタン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131624(P2012−131624A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286241(P2010−286241)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】