説明

エレベータ装置

【課題】本発明は、ガイドレールを用いない構成であっても、かごの水平方向の位置を保持することができるエレベータ装置を提供する。
【解決手段】第1の変位量及び第2の変位量は、加算器100eによって互いに加算されて、水平位置制御演算部100fに送られる。水平位置制御演算部100fは、加算器100eからの第1の変位量及び第2の変位量に基づいて、水平面における所定の基準位置からのかごの変位量である絶対変位量を算出する。水平位置制御演算部100fは、かごの振り子運動を打ち消すように、アクティブマスダンパのアクチュエータ22dを駆動する。そして、かごの水平位置が所定の基準位置に追従するように、水平位置制御演算部100fによって水平位置制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、昇降路内に鉛直方向に沿って張り渡された案内索条によってかごの昇降が案内されるガイドレールレスのエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータ装置では、かごの昇降が昇降路内に立てて設けられたガイドレールによって案内される。また、このような従来のエレベータ装置では、制御装置が、事前に学習走行を実行し、かごの水平方向加速度、及びガイドレールとかごとの間の相対変位量を検出し、これらの検出値に基づいて、かごの高さ位置に応じたガイドレールの凹凸の情報を取得する。そして、制御装置は、かごの通常運転時に、ガイドレールの凹凸によるかごの揺動を相殺するように、学習走行の際に取得した情報を用いて、ガイドローラに接続されたアクチュエータを駆動する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−338083号公報
【特許文献2】特開2004−18203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ガイドレールは、かごの水平振動を防止するために、比較的高精度な加工や据付が必要であり、比較的高コストとなっている。このガイドレールに代えて、コスト的にも据付性にも優れたロープ等の案内索条でかごを案内することができれば大きなメリットとなる。
【0005】
ここで、例えば、特許文献2には、免震目的ではあるが、レールレスタイプのエレベータ装置が提案されている。しかしながら、特許文献2に示すような従来のレールレスタイプのエレベータ装置においては、かごの水平方向(かごの横方向及び前後方向)への変位がガイドレールによって規制されていない。このため、かごの昇降に伴って、かごに振り子運動が生じ、かごが水平方向へ変位してしまうという問題がある。
【0006】
これに対して、特許文献1に示すような従来のエレベータ装置のかご位置制御方式では、ガイドレールの凹凸によるかごの水平方向変位を抑制するものであり、かごに振り子運動が生じないため、案内索条を用いたレールレスタイプのエレベータ装置にそのまま適用することはできなかった。
【0007】
また、特許文献2に示すような従来のエレベータ装置は、かごの水平位置制御を行うものではなく、かごに生じる振り子運動を抑えることはできず、かごの水平方向の位置を保持することはできなかった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ガイドレールを用いない構成であっても、かごの水平方向の位置を保持することができるエレベータ装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るエレベータ装置は、昇降路内を昇降されるかごと、前記かごを前記昇降路内に吊り下げる主索と、前記主索が巻き掛けられたシーブを有し、前記かごの昇降を駆動する巻上機と、前記昇降路内に鉛直方向に沿って設けられ、前記かごの昇降を案内するための案内索条と、前記かごと前記案内索条との相対変位量に応じた信号を生成する相対変位量検出手段と、前記かごの水平方向加速度に応じた信号を生成する加速度検出手段と、前記かごを水平方向へ変位させるための駆動力を発する水平変位駆動部と、前記相対変位量検出手段及び前記加速度検出手段を介して、前記相対変位量及び前記水平方向加速度を監視し、前記かごの水平方向の位置制御を行う水平位置制御部とを備え、前記水平位置制御部は、監視している前記相対変位量及び前記水平方向加速度に基づいて、水平面における所定の基準位置からの前記かごの変位量を絶対変位量として算出し、その算出した前記かごの絶対変位量を用いて、前記かごの昇降に伴う振り子運動を打ち消すように前記水平変位駆動部を駆動して、前記かごの水平方向の位置制御を行うものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明のエレベータ装置によれば、水平位置制御部が、水平面における所定の基準位置からのかごの変位量を測定し、かごの昇降に伴う振り子運動を打ち消すように水平変位駆動部を駆動して、かごの水平方向の位置制御を行うので、ガイドレールを用いない構成であっても、かごの水平方向の位置を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1によるエレベータ装置を示す構成図である。
【図2】図1のアクチュエータの制御系を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態2によるエレベータ装置を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態3によるエレベータ装置を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4によるエレベータ装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるエレベータ装置を示す構成図である。
図1において、昇降路1の天井部(頂部)1aの上側には、機械室1bが設けられている。昇降路1の底部には、ピット部1cが設けられている。機械室1bには、巻上機2及び反らせ車3が設けられている。巻上機2は、モータ及びシーブを有している。
【0013】
天井部1aとピット部1cとの間には、案内索条としての一対のガイドロープ4A,4Bが鉛直方向に沿って張り渡されている。ガイドロープ4A,4Bは、ワイヤロープである。一対のガイドロープ4A,4Bのそれぞれの上端部及び下端部は、終端支持装置5A〜5Dによって、それぞれ機械室1bの床(天井部1a)、及びピット部1cの床に固定されている。
【0014】
終端支持装置5A,5Cと機械室1bの床との間には、それぞれ張力付与部材6A,6Cが設けられている。また、終端支持装置5B,5Dとピット部1cの床との間には、それぞれ張力付与部材6B,6Dが設けられている。張力付与部材(張力付与機構)6A〜6Dは、例えば、防振ゴムとベアリングとにより構成されている。また、張力付与部材6A〜6Dは、ガイドロープ4A,4Bにその破断荷重の20%程度の張力を加える。
【0015】
ガイドロープ4A,4Bへの張力付加による圧縮荷重は、張力付与部材6A〜6Dのベアリングによって保持される。また、地震等によって昇降路1が設けられた建物に揺れが生じた場合に、建物からの水平方向の振動に関しては、張力付与部材6A〜6Dの防振ゴムの免震効果により、ガイドロープ4A,4Bへの揺れの伝達を軽減する。
【0016】
巻上機2のシーブと反らせ車3とには、主索としての主ロープ10が巻き掛けられている。また、昇降路1内には、かご11及び釣合おもり(図示せず)が設けられている。かご11及び釣合おもりは、主ロープ10によって、昇降路1内に吊り下げられている。なお、かご11とガイドロープ4A,4Bとは、互いに非接触状態となっている。
【0017】
かご11の両側面部には、それぞれ相対変位量検出手段としての変位センサ20A,20Bが取り付けられている。変位センサ20A,20Bは、例えば、検出波(検出ビーム、超音波等)をガイドロープ4A,4Bへ向けて出射し、その反射波の強度に応じた電気信号を生成する光電センサ、又はガイドロープ4A,4Bとの間の距離の変動による磁束変化に応じた電気信号を生成する近接センサ等である。また、変位センサ20A,20Bは、かご11とガイドロープ4A,4Bとの相対変位量(基準寸法からの増減量)に応じた電気信号を生成する。なお、変位センサ20A,20Bの形状は、図1(図3,4)に示された形状に限定されるものではない。
【0018】
また、かご11の下部には、加速度検出手段としての加速度センサ21と、変位駆動部としてのアクティブマスダンパ22とが設けられている。加速度センサ21は、水平方向(水平面における360度のいずれかの方向)へのかご11の加速度である水平方向加速度に応じた電気信号を生成する。アクティブマスダンパ22は、おもり22a、複数の車輪22b、ばね22c及びアクチュエータ22dを有している。
【0019】
おもり22aは、複数の車輪22bによって、水平方向へ変位可能になっている。おもり22aの変位は、ばね22c及びアクチュエータ22dによって駆動される。アクチュエータ22dは、例えば電磁石やリニアモータである。ここで、おもり22aが変位することによって、慣性力が生じ、その慣性力がかご11に加わる。なお、アクティブマスダンパ22は、互いに異なる向きの慣性力を発生するために、おもり22a、ばね22c及びアクチュエータ22dを2つ以上有していてもよい。
【0020】
図2は、図1のアクチュエータ22dの制御系を示すブロック図である。図2において、アクチュエータ22dの駆動は、水平位置制御部としての水平位置制御装置100によって制御される。水平位置制御装置100は、変位センサ20A,20B及び加速度センサ21のそれぞれから電気信号を受ける。また、水平位置制御装置100は、ハイパスフィルタ100a、2つの積分器100b,100c、ローパスフィルタ100d、加算器100e、及び水平位置制御演算部100fを有している。
【0021】
ハイパスフィルタ100a及びローパスフィルタ100dには、互いにほぼ同一の値のカットオフ周波数が設定されている。ハイパスフィルタ100aは、加速度センサ21からの電気信号に基づく加速度のうち、カットオフ周波数以上の加速度の周波数成分を通過させる。即ち、ハイパスフィルタ100aは、カットオフ周波数未満の加速度の周波数成分を除去する。2つの積分器100b,100cは、ハイパスフィルタ100aを通過したかご11の加速度を二階積分する。この二階積分によって、かご11の加速度が、水平方向のかご11の変位量(水平方向の所定の基準位置からの移動距離)に変換される。そして、積分器100cからの電気信号は、加算器100eへ送られる。
【0022】
ローパスフィルタ100dは、変位センサ20Aからの電気信号に基づく相対変位量のうち、カットオフ周波数未満の相対変位量の周波数成分を通過させる。即ち、ローパスフィルタ100dは、カットオフ周波数以上の加速度の周波数成分を除去する。そして、ローパスフィルタ100dを通過した電気信号は、加算器100eへ送られる。
【0023】
加算器100eは、積分器100cからの電気信号に基づくかご11の変位量と、ローパスフィルタ100dからの電気信号に基づくかご11の変位量とを加算する。その加算後のかご11の変位量は、水平位置制御演算部100fへ送られる。水平位置制御演算部100fは、加算器100eからの変位量を用いて、かご11の水平位置制御(姿勢制御)を行う。
【0024】
また、水平位置制御演算部100fは、予めかご11の水平面における所定の基準位置の情報を記憶している。ここで、所定の基準位置とは、例えば、主ロープ10が静止状態(非振動状態)のときのかご11の水平方向の位置(の座標値)である。さらに、水平位置制御演算部100fは、基準位置からのかご11の水平方向の変位量を絶対変位量として算出する。そして、水平位置制御演算部100fは、算出したかご11の絶対変位量を相殺するように、アクティブマスダンパ22のアクチュエータ22dを駆動する。このアクティブマスダンパ22による慣性力によって、かご11が所定の基準位置へ移動する。
【0025】
なお、図2では、変位センサ20B及びその信号処理ブロックを省略して示すが、変位センサ20Bの電気信号に基づく変位量については、ローパスフィルタ100dと同等のローパスフィルタを経て、変位センサ20Aの電気信号に基づく変位量(ローパスフィルタ100dを通過した電気信号)とベクトル的に合成し、加算器100eに送ればよい。
【0026】
ここで、水平位置制御装置100は、演算処理部(CPU)、記憶部(ROM、RAM及びハードディスク等)及び信号入出力部を持ったコンピュータ(図示せず)により構成することができる。水平位置制御装置100のコンピュータの記憶部には、水平位置制御演算部100fの機能を実現するためのプログラムが格納されている。また、ハイパスフィルタ100a、2つの積分器100b,100c、ローパスフィルタ100d及び加算器100eは、コンピュータによる演算処理、及び回路構成のいずれでも実現可能となっている。
【0027】
次に、水平位置制御装置100によるかご11の水平位置制御方式について具体的に説明する。まず、実施の形態1のエレベータ装置では、かご11の水平方向への変位が規制されていない。これにより、かご11には、水平面における360度で、比較的低い周波数の振り子運動が生じる。この振り子運動による固有振動数f[Hz]は、主ロープ10の長さ(シーブからかご11の綱止位置までの長さ)をL[m]とすると、次の(1)式で表される。
【0028】
【数1】

但し、gは重力加速度であり、g=9.81[m/s]である。
【0029】
また、例えば、主ロープ10の長さ(シーブからかご11の綱止位置までの長さ)を25[m]とした場合には、固有振動数fは、約0.1[Hz]となる。従って、水平位置制御装置100は、この固有振動数f[Hz]を考慮して水平位置制御を行う必要がある。
【0030】
ここで、特許文献1に示すような従来のエレベータ装置では、変位センサを用いてある基準点に対するかごの変位を測定するか、又はかごに設置した加速度センサの加速度信号を二階積分してかごの変位を測定する。このような従来のエレベータ装置では、基準点に対する変位を測定する場合に、ガイドレールを基準点とすることができる。
【0031】
これに対して、実施の形態1のエレベータ装置では、ガイドレールに代えてガイドロープ4A,4Bが用いられる。このガイドロープ4A,4Bは、水平方向へ弦振動可能であるため、十分な基準点とはならない。よって、実施の形態1のエレベータ装置の水平位置制御装置100において、基準点に対するかご11の変位量を測定する際には、ガイドロープ4A,4Bの弦振動の固有振動数f[Hz]を考慮する必要がある。なお、突発的な外乱に対しても、かご11の水平位置を制御する必要があるため、10〜50Hz程度の周波数をも、水平位置制御の対象とすることが好ましい。
【0032】
このガイドロープ4A,4Bの弦振動のn次固有振動数f[Hz]は、ガイドロープ4A,4Bに加えられた張力(例えば、破断強度20%程度の張力)をT[N]とし、そのガイドロープ4A,4Bの長さをL[m]とし、ガイドロープ4A,4Bの単位長さ当たりの質量をρ[kg/m]とすると、次の(2)式に示すようになる。
【0033】
【数2】

ここで、例えば、かご11の昇降行程を25[m]程度とすると、ガイドロープ4A,4Bの弦振動の一次固有振動数fは、およそ3[Hz]程度となる。
【0034】
従って、ガイドロープ4A,4Bの張力、長さ、及び単位長さ当たりの質量で決まる弦振動の一次固有振動数f[Hz](この例では3[Hz])近辺とそれ以上のかご11の変位に対しては、ガイドロープ4A,4Bは、基準点として機能しない。このため、実施の形態1のエレベータ装置では、これよりも十分低い周波数で、ガイドロープ4A,4Bを基準点としての機能させている。
【0035】
即ち、実施の形態1のエレベータ装置の水平位置制御装置100では、ローパスフィルタ100dのカットオフ周波数(所定の周波数)が、例えば、弦振動の一次固有振動数f[Hz]の1/5の0.6[Hz]に予め設定され、その0.6[Hz]以下の周波数成分のかご11の相対変位量がローパスフィルタ100dによって取り出される。そして、その取り出されたかご11の相対変位量が第1の変位量(低周波域絶対変位量)として、加算器100eに送られる。
【0036】
他方、一般的に、加速度センサの加速度信号を二階積分して、かごの変位を測定する場合には、積分によって加速度センサの低周波ノイズが拡大される。この低周波ノイズが制御精度低下の要因となり、低周波領域の信頼性が低くなる。このため、実施の形態1のエレベータ装置の水平位置制御装置100では、加速度センサ21の出力の低周波成分をハイパスフィルタ100aにより取り除く。
【0037】
ここで、水平位置制御装置100は、0.6Hz以下の周波数帯域のかご11の変位量を、ローパスフィルタ100dを介して、変位センサ20A,20Bから取得する。このローパスフィルタ100dのカットオフ周波数に対応するように、ハイパスフィルタ100aのカットオフ周波数(所定の周波数)は、例えば、0.6[Hz]に設定されている。そして、このハイパスフィルタ100aによって、カットオフ周波数未満の低周波成分が除去され、この除去された後の加速度が積分器100b,100cによって二階積分され、かご11の第2の変位量(高周波域絶対変位量)として加算器100eへ送られる。
【0038】
そして、第1の変位量及び第2の変位量は、加算器100eによって互いに加算されて、水平位置制御演算部100fに送られる。水平位置制御演算部100fは、加算器100eからの第1の変位量及び第2の変位量に基づいて、水平面における所定の基準位置からのかご11の変位量である絶対変位量を算出する。
【0039】
また、水平位置制御演算部100fは、算出した絶対変位量を相殺するように、即ち、かご11の振り子運動を打ち消すように、アクティブマスダンパ22のアクチュエータ22dを駆動する(駆動力信号をアクチュエータ22dに送る)。これによって、かご11の水平位置が所定の基準位置に追従するように、水平位置制御演算部100fによって水平位置制御される。
【0040】
上記のような実施の形態1のエレベータ装置によれば、水平位置制御演算部100fは、水平面における所定の基準位置からのかご11の変位量を測定する。そして、水平位置制御演算部100fは、かご11の昇降に伴う振り子運動を打ち消すように、アクティブマスダンパ22のアクチュエータ22dを駆動して、かご11の水平方向の位置制御を行う。この構成により、ガイドレールを用いない構成であっても、かご11の水平方向の位置を保持することができる。これに加えて、水平位置制御演算部100fによるかご11の水平位置制御によって、かご11の揺動・振動も同時に抑えることができる。
【0041】
また、水平位置制御装置100のハイパスフィルタ100a及びローパスフィルタ100dのカットオフ周波数は、ガイドロープ4A,4Bの張力と、ガイドロープ4A,4Bの長さと、ガイドロープ4A,4Bの単位長さ当たりの質量とに基づくガイドロープ4A,4Bの弦振動の一次固有振動数に対応する値に設定されている。そして、水平位置制御演算部100fは、かご11の絶対変位量を算出する際に、相対変位量におけるカットオフ周波数未満の周波数成分と、水平方向加速度におけるカットオフ周波数以上の周波数成分の二階積分値とを用いる。即ち、水平位置制御演算部100fは、低い周波数成分のかご11の水平方向の変位量を変位センサ20A,20Bから取得し、高い周波数成分のかご11の水平方向の変位量を、加速度センサ21から取得する。この構成により、ガイドロープ4A,4Bの弦振動の一次固有振動数による影響を除去することができ、比較的広い周波数帯域に渡ってかご11の水平位置の検出精度を向上させることができる。
【0042】
ここで、特許文献1に示すような従来のエレベータ装置では、かご11の水平保持用の駆動力をアクチュエータからガイドローラに与えることによって、ガイドレールに反作用を生じさせて、かごの水平位置を保持していた。これに対して、実施の形態1のエレベータ装置では、アクティブマスダンパ22が変位駆動部として用いられている。この構成により、かご11の水平保持用の駆動力としての慣性力をかご11に直接加えることができ、かご11の水平保持用の駆動力の反作用を生じさせるための部材、即ちガイドレールを用いることなく、かご11の水平位置を保持することができる。
【0043】
なお、実施の形態1において、ローパスフィルタ100dのカットオフ周波数は、ガイドロープ4A,4Bの一次固有振動数に基づいて決定されるが、ガイドロープ4A,4Bを信頼性高く基準点として機能させるためには、一次固有振動数よりもある程度低い値に設定することが好ましい。
【0044】
また、実施の形態1において、このガイドロープ4A,4Bの弦振動の一次固有振動数は、ガイドロープ4A,4Bに加える張力によって変動する。このため、経年的なガイドロープ4A,4Bの伸びや季節的な温度変動により張力が変化した場合には、ガイドロープ4A,4Bの弦振動の一次固有振動数の値が変動する。従って、このような経時的な張力変動を考慮してハイパスフィルタ100a及びローパスフィルタ100dのカットオフ周波数を設定することがより好ましい。
【0045】
実施の形態2.
実施の形態1では、アクティブマスダンパ22が変位駆動部として用いられた。これに対して、実施の形態2では、アクティブマスダンパ22に代えて、コントロールモーメントジャイロ200が変位駆動部として用いられる。
【0046】
図3は、この発明の実施の形態2によるエレベータ装置を示す構成図である。図3において、コントロールモーメントジャイロ200は、かご11の下部に設けられている。また、コントロールモーメントジャイロ200の駆動は、先の図2に示す水平位置制御装置100によって制御される。
【0047】
実施の形態2の水平位置制御演算部100fは、所定の角速度で、コントロールモーメントジャイロ200のジャイロモータ(図示せず)を回転させる。また、水平位置制御演算部100fは、ジャイロモータの回転軸の傾斜角及び傾斜角速度を制御し、ジャイロモータの慣性モーメントによりかご11の水平方向の位置を、所定の位置となるように制御する。他の構成は実施の形態1と同様である。
【0048】
上記のような実施の形態2のエレベータ装置によれば、コントロールモーメントジャイロ200を変位駆動部として用いた場合であっても、モーメントトルクをかご11に直接加えることができ、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0049】
実施の形態3.
実施の形態1では、アクティブマスダンパ22が変位駆動部として用いられた。これに対して、実施の形態3では、アクティブマスダンパ22に代えて、巻上機加振装置303が変位駆動部として用いられる。
【0050】
図4は、この発明の実施の形態3によるエレベータ装置を示す構成図である。図4において、実施の形態3の機械室1bには、実施の形態1の巻上機2及び反らせ車3に代えて、巻上機ユニット300が設けられている。巻上機ユニット300は、巻上機301、反らせ車302及び巻上機加振装置303を有している。巻上機301及び反らせ車302は、巻上機加振装置303のハウジング(アクチュエータフレーム)303aに組み込まれている。他の巻上機301及び反らせ車302の構成は、それぞれ実施の形態1の巻上機2及び反らせ車3と同様である。
【0051】
巻上機加振装置303は、ハウジング303aに加えて、複数の車輪303b、ばね303c及びアクチュエータ303dを有している。複数の車輪303bは、ハウジング303aの下部に回転自在に取り付けられている。ばね303c及びアクチュエータ303dは、ハウジング303aの側面部と機械室1bの壁部1dとの間に接続されている。アクチュエータ303dは、例えば、電磁石又はリニアモータ等である。
【0052】
ここで、ハウジング303aは、複数の車輪303bによって、水平方向へ変位可能になっている。また、ハウジング303aの変位は、ばね303c及びアクチュエータ303dによって駆動される。アクチュエータ303dの駆動は、先の図2に示す水平位置制御装置100によって制御される。ハウジング303aが変位することによって、巻上機301及び反らせ車302が加振され、主ロープ10を介して、かご11の水平位置が変位される。なお、巻上機加振装置303は、互いに異なる向きに巻上機301及び反らせ車302を加振するために、ばね303c及びアクチュエータ303dを2つ以上有していてもよい。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0053】
上記のような実施の形態3のエレベータ装置によれば、水平位置制御装置100の指令によって、巻上機加振装置303のアクチュエータ303dが巻上機2を加振し、主ロープ10を介して、かご11の水平位置が所定の位置となるように、かご11を変位させる。この構成により、かご11の水平方向変位用の駆動力を発生するための機構をかご11に設ける必要がなく、かご11の自重の増大を抑えつつ、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0054】
実施の形態4.
実施の形態1〜3においては、かご11の昇降行程が25m程度のエレベータ装置について説明した。ここで、建物が比較的高く、かご11の昇降行程が比較的長い場合には、ガイドロープ4A,4Bの弦振動の固有振動数が更に低くなる(3[Hz]以下となる)。このため、ローパスフィルタ100d及びハイパスフィルタ100aのカットオフ周波数を、更に低く設定する必要が生じる。この場合、加速度センサ21の低周波ノイズの影響が大きくなり、かご11の変位を正しく検知することができなくなる。
【0055】
これに対して、実施の形態4では、図5に示すように、ガイドロープ4Aが複数のロープ拘束部材(案内索条拘束部材)400A〜400Cによって、昇降路1の内壁1eに接続されている。複数のロープ拘束部材400A〜400Cは、高さ方向に、例えば、25[m]程度の間隔をおいて配置されている。また、複数のロープ拘束部材400A〜400Cは、例えば、金属の棒状体であり、一端部が内壁1eに固定されており、他端部がガイドロープ4Aに接続されている。
【0056】
従って、ガイドロープ4Aは、ロープ拘束部材400A〜400Cによって、拘束されている。これにより、ガイドロープ4Aの弦振動の固有振動数は、実施の形態1と同様に、例えば3[Hz]程度となっている。つまり、ロープ拘束部材400A〜400Cによりガイドロープ4Aが拘束されることによって、ガイドロープ4Aの弦振動の固有振動数の低下が抑えられている。
【0057】
他の構成は、実施の形態1〜3のいずれかと同様である。なお、図5においては、ガイドロープ4Aの構成を示すが、ガイドロープ4Bの構成についても、ガイドロープ4Aと同様である。さらに、ロープ拘束部材400A〜400Cの数は、3つに限定するものではない。
【0058】
上記のような実施の形態4のエレベータ装置によれば、ガイドロープ4A,4Bと昇降路1の内壁1eとが複数のロープ拘束部材400A〜400Cによって接続されており、ロープ拘束部材400A〜400Cによりガイドロープ4Aが拘束されることによって、ガイドロープ4Aの弦振動の固有振動数の低下が抑えられている。この構成により、水平位置制御装置100の水平位置制御に関する制御の精度を維持することができる。
【0059】
なお、実施の形態1〜4における水平位置制御装置100の各機能100a〜100fを、かご11の運転を制御する運転制御装置に組み込むこともできる。
【0060】
また、実施の形態1〜4におけるガイドロープ4A,4Bの長さ及び張力や、各周波数の値は一例であり、これに限定されるものではない。
【0061】
さらに、実施の形態1〜4では、ワイヤロープ(ガイドロープ4A,4B)を案内索条として用いた。しかしながら、案内索条は、この例に限定するものではなく、その固有振動数を十分高く設定できるものであれば、ワイヤロープ以外のテープ、ベルト状の索条、及び単一線からなるものでもよい。さらに、昇降路内に鉛直方向に沿って張り渡され、かごの過速度を検出するためのガバナに接続されたガバナロープを、案内索条として用いることもできる。
【0062】
また、実施の形態1〜4では、かご11の水平位置を制御する例について説明したが、釣合おもりについても、かご11と同様の方式で水平位置を制御することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 昇降路、1e 内壁、2,301 巻上機、4A,4B ガイドロープ(案内索条)、10 主ロープ(主索)、20A,20B 変位センサ(相対変位量検出手段)、21 加速度センサ(加速度検出手段)、22 アクティブマスダンパ(変位駆動手段)、100 水平位置制御装置(水平位置制御部)、100a ハイパスフィルタ、100b,100c 積分器、100d ローパスフィルタ、100e 加算器、100f 水平位置制御演算部、200 コントロールモーメントジャイロ(変位駆動手段)、303 巻上機加振装置(変位駆動手段)、400A〜400C ロープ拘束部材(案内索条拘束部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内を昇降されるかごと、
前記かごを前記昇降路内に吊り下げる主索と、
前記主索が巻き掛けられたシーブを有し、前記かごの昇降を駆動する巻上機と、
前記昇降路内に鉛直方向に沿って設けられ、前記かごの昇降を案内するための案内索条と、
前記かごと前記案内索条との相対変位量に応じた信号を生成する相対変位量検出手段と、
前記かごの水平方向加速度に応じた信号を生成する加速度検出手段と、
前記かごを水平方向へ変位させるための駆動力を発する水平変位駆動部と、
前記相対変位量検出手段及び前記加速度検出手段を介して、前記相対変位量及び前記水平方向加速度を監視し、前記かごの水平方向の位置制御を行う水平位置制御部と
を備え、
前記水平位置制御部は、監視している前記相対変位量及び前記水平方向加速度に基づいて、水平面における所定の基準位置からの前記かごの変位量を絶対変位量として算出し、その算出した前記かごの絶対変位量を用いて、前記かごの昇降に伴う振り子運動を打ち消すように前記水平変位駆動部を駆動して、前記かごの水平方向の位置制御を行う
ことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
前記水平位置制御部には、前記案内索条の張力と、前記案内索条の長さと、前記案内索条の単位長さ当たりの質量とに基づく前記案内索条の弦振動の一次固有振動数に対応する所定の周波数が予め設定されており、
前記水平位置制御部は、前記かごの絶対変位量を算出する際に、前記相対変位量における前記所定の周波数未満の周波数成分と、前記水平方向加速度における前記所定の周波数以上の周波数成分の二階積分値とを用いる
ことを特徴とする請求項1のエレベータ装置。
【請求項3】
前記水平変位駆動部は、前記かごに設けられたアクティブマスダンパである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記水平変位駆動部は、前記かごに設けられたコントロールモーメントジャイロである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項5】
前記水平変位駆動部は、前記巻上機に接続され、前記巻上機を水平方向に加振する巻上機加振装置である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項6】
前記案内索条と前記昇降路の内壁とを接続し、前記案内索条を拘束して、前記案内索条の弦振動の固有振動数の低下を抑える案内索条拘束部材
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−215391(P2010−215391A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66464(P2009−66464)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】