説明

エンジンおよびそれを備えたエンジン工具

【課題】シリンダヘッドを効率良く冷却することのできるエンジンを提供する。
【解決手段】エンジン1は、クランクシャフトに取付けられた冷却ファン32と、天井部に、シリンダの軸線方向視において、クランクシャフトの軸線26方向に並ぶように、冷却ファン32に近い側に燃焼室側吸気開口27を設け、冷却ファン32から遠い側に燃焼室側排気開口28を設けた燃焼室と、シリンダの軸線方向視において、燃焼室側吸気開口27からクランクシャフトの軸線26方向から離れる第1の方向に向かって延出する吸気ポート31と、第1の方向とは異なる方向であって、燃焼室側排気開口28からクランクシャフトの軸線26方向から離れる第2の方向に向かうとともに、クランクシャフトの軸線26方向における燃焼室側排気開口28からの距離が燃焼室側排気開口28から離れるにつれて増大するように、燃焼室側排気開口28から延出する排気ポート21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、特に刈払い機、チェンソーおよびブロア等の携帯型エンジン工具に好適な空冷4サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
空冷4サイクルエンジンでは、シリンダヘッドを冷却するために、例えば特許文献1に示すように排気ポートと吸気ポートの間を通過するように形成された空冷通路を形成したものがある。また、刈払機やチェンソー等の携帯エンジン工具用いられる空冷4サイクルエンジンでは、クランクシャフトに取り付けられた冷却羽根付きマグネトロータの冷却羽根により生じる冷却風でエンジン各部を冷却する。これらのエンジンでは、シリンダ軸線方向視において、吸気バルブと排気バルブがクランクシャフトの軸線方向と直角方向に配置され、吸気バルブと排気バルブの配置された場所から吸気ポートと排気ポートとがクランクシャフトに対して直角方向に伸びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-320396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のエンジンでは、シリンダヘッドの排気ポート側を流れる冷却風は、高温の排気ポート周囲を通過する際に温度が上昇し、排気ポートより風下側の冷却効率が劣るという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、シリンダヘッドを効率良く冷却することのできるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点にかかるエンジン工具用エンジンは、クランクケースから突出するクランクシャフトに取付けられた冷却ファンと、前記クランクシャフトに接続されてエンジンを始動するためのスタータ機構と、シリンダ内に配置されるピストンの頂面に対向する天井部に、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線方向に並ぶように、前記冷却ファンに近い側に燃焼室側吸気開口を設け、前記冷却ファンから遠い側に燃焼室側排気開口を設けた燃焼室と、前記シリンダの軸線方向視において、前記燃焼室側吸気開口から前記クランクシャフトの軸線方向から離れる第1の方向に向かって延出する吸気ポートと、前記シリンダの軸線方向視において、前記第1の方向とは異なる方向であって、前記燃焼室側排気開口から前記クランクシャフトの軸線方向から離れる第2の方向に向かうとともに、前記クランクシャフトの軸線方向における前記燃焼室側排気開口からの距離が前記燃焼室側排気開口から離れるにつれて増大するように、前記燃焼室側排気開口から延出する排気ポートと、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記吸気ポートは、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線方向における前記燃焼室側吸気開口からの距離が前記燃焼室側吸気開口から離れるにつれて増大するように、前記燃焼室側吸気開口から延出し、前記シリンダの軸線方向視において、点火プラグを前記吸気ポートの前記冷却ファンから離れた側に設けてもよい。
【0008】
さらに、前記シリンダの軸線方向視において、前記シリンダが形成されるシリンダブロックは略四角形状を有し、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線に直交する平面と略並行な前記シリンダブロックの第1の辺に対向するように前記冷却ファンが前記クランクシャフトに取付けられ、前記シリンダブロックには、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線と略平行な前記第1の辺に隣接する一方の辺に前記排気ポートの排出側開口が設けられるとともに、前記第1の辺に隣接する他方の辺に前記吸気ポートの吸入側開口が設けられてもよい。
【0009】
また、前記シリンダの軸線方向視において、前記排出側開口は、前記シリンダブロックの前記一方の辺の端部近傍に位置してもよい。
【0010】
さらに、前記シリンダの軸線方向視において、前記シリンダブロックの前記一方の辺に対向するように設けられ、前記排出側開口に接続されるマフラと、前記シリンダブロックの前記他方の辺に対向するように設けられ、前記吸入側開口に接続されるキャブレターと、を有し、前記スタータ機構は、前記一方の辺と前記他方の辺とに隣接する前記第1の辺とは異なる前記シリンダブロックの第2の辺に対向するように設けられてもよい。
【0011】
また、前記シリンダの軸線方向視において前記シリンダブロックの前記一方の辺に対向し、前記排出側開口に対応する位置に設けられた排気流入口と、前記シリンダの軸線方向視において前記マフラの内部をクランクシャフトと直交する方向に前記排気流入口が設けられた第1室と第2室とに分割する中間壁と、前記シリンダの軸線方向視において該中間壁の前記クランクシャフトの軸線方向における前記冷却ファン側の端部近傍に設けられて前記第1室と前記第2室とを接続する接続通路と、前記シリンダの軸線方向視において前記クランクシャフトの軸線方向における前記冷却ファンから離れた側の前記第2室の端部近傍に設けられた排気流出口と、を有するマフラを備えてもよい。
【0012】
さらに、本発明の第2の観点にかかるエンジン工具は、上述のエンジンを備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃焼室には、シリンダの軸線方向視において、一端に冷却ファンが取付けられたクランクシャフトの軸線方向に並ぶように、冷却ファンに近い側に燃焼室側吸気開口が設けられ、冷却ファンから遠い側に燃焼室側排気開口が設けられ、吸気ポートはシリンダの軸線方向視において、燃焼室側吸気開口からクランクシャフトの軸線方向から離れる第1の方向に向かって延出し、排気ポートは第1の方向とは異なる方向であって、燃焼室側排気開口からクランクシャフトの軸線方向から離れる第2の方向に向かうとともに、クランクシャフトの軸線方向における燃焼室側排気開口からの距離が燃焼室側排気開口から離れるにつれて増大するように、燃焼室側排気開口から延出するので、シリンダヘッドを効率良く冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る4サイクルエンジンを搭載した刈払機を示す図。
【図2】図1のエンジン部分の拡大断面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】図3のIV−IV線断面図。
【図5】図4のV−V線断面図。
【図6】図5のクランク室部分の拡大断面図。
【図7】図6のVII−VII線断面図。
【図8】図4におけるVIII−VIII線断面図。
【図9】図2のIX−IX線断面図。
【図10】図9のマフラ部分のX−X線断面図。
【図11】図9のキャブレター部分の拡大図。
【図12】エンジンとキャブレター間の部品の分解組み立て図。
【図13】キャブレターのエンジン側から見た正面図。
【図14】本発明のガスケットのエンジン側から見た正面図。
【図15】図11のXV−XV線断面図。
【図16】本発明に係る頭上弁式エンジンエンジンの変形例の図6に対応する図。
【図17】本発明に係るガスケットの変形例の図15に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に沿って説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る4サイクルエンジン1(以下エンジン)を搭載した刈払機1001を示す。刈払機1001は、操作桿1002の先端に回転刃1003が取り付けられ、操作桿1002の後端には、エンジン1が取り付けられている。エンジン1の出力は、操作桿1002内に挿通させたドライブシャフトを介して回転刃1003に供給される。作業者は操作桿1002に取り付けられたハンドル1004を把持して刈払機1001を操作する。作業者が刈払機1001を把持する通常の正立状態では、エンジン1のシリンダ(図示せず)の軸線方向が鉛直方向を向くように、エンジン1は操作桿1002に取り付けられている。また、作業中の回転刃1003は、矢印1010で示すように、上面視において半時計回りに回転するように構成されている。そして、作業者は操作桿1002が作業者の体の右側に位置するように刈払機1001を把持し、矢印1020に示すように左方に回転刃1003を動かす場合に、地面に生えた枝や草等の切断を行う。
【0016】
図2に示すように、エンジン1は空冷OHVエンジンであり、シリンダヘッド2がシリンダブロック3の上部に一体に形成され、シリンダブロック3の下部にはクランクケース4が取り付けられている。シリンダブロック3の周囲にはエンジン1を冷却するための冷却フィン31が形成され、シリンダブロック3のシリンダ(シリンダボア)5内では、図2中で上死点に位置しているピストン6がシリンダ軸線7の方向(図2中の上下方向)に上下動する。ピストン6はピストンピン8、コンロッド9を介してクランクケース4のクランク室41に回転可能に支持されたクランクウエイト101を有するクランクシャフト10に接続される。クランクケース4の内部はクランク室41と、クランク室41の下部に隣接して設けられるオイル室42とに区画されている。オイル室42にはオイル吸入口47が設けられ、オイル吸入口47は、オイルポンプ(図示せず)に接続されている。オイルポンプはオイル室42に溜まったオイルをオイル吸入口47から吸い上げて、カムシャフト(図示せず)に形成されたオイル突出孔(図示せず)からクランク室41内にオイルを吐出し、吐出したオイルはオイルミストとなってクランク室内を飛散する。
【0017】
クランクシャフト10の一方の端部には、エンジン1を始動するためのスタータ機構11が取り付けられ、他方の端部にはフライホイールマグネト12が取り付けられている。フライホイールマグネト12にはエンジン1を冷却するための冷却ファン32が一体に形成されている。また、フライホイールマグネト12にはクラッチ機構13が接続されている。クラッチ機構13はエンジン1の出力をドライブシャフト(出力軸)14に伝達して回転刃1003を駆動する。また、クランクシャフト10には、カムシャフト(図示せず)を駆動するためのカム駆動ギヤ15が取り付けられている。
【0018】
シリンダヘッド2には燃焼室20に混合気を供給する吸気ポート21と燃焼室20から燃焼ガスを排出する排気ポート22とが形成され、吸気ポート21は吸気弁18により開閉され、排気ポート22は排気弁19により開閉される。シリンダヘッド2の上部には動弁機構室50が設けられ、動弁機構室50には吸気弁18、排気弁19をそれぞれ開閉駆動する吸気用ロッカーアーム16および排気用ロッカーアーム17が収容される。
【0019】
図3に示すように、シリンダヘッド2の左側の側部には、吸気ポート21に接続するインシュレータ23を介してエンジン1に混合気を供給するキャブレター24が取付けられている。キャブレター24の上流(図3中の左側)にはエアクリーナ70が取付けられる。エアクリーナ70と動弁機構室50との間には、動弁機構室50に流入したブローバイガスをエアクリーナ70に還流させるための接続通路52が設けられている。また、シリンダヘッド2の右側の側部には排気ポート22に接続されるマフラ25が取付けられる。さらに、シリンダヘッド2には点火プラグ53が取付けられる。
【0020】
クランクケース4のクランク室41には、クランクシャフト10のカム駆動ギヤ15に噛合する被動ギヤ61を有するカムシャフト60が設けられる。カムシャフト60には吸気用カム(図示せず)と排気用カム(図示せず)とが形成されている。吸気用カムと排気用カムはそれぞれ、タペット(図示せず)を介して吸気用プッシュロッド(図示せず)と排気用プッシュロッド51を駆動する。そして、吸気用プッシュロッドと排気用プッシュロッド51はそれぞれ、動弁機構室50内に設けられた吸気用ロッカーアーム16と排気用ロッカーアーム17を駆動し、吸気用ロッカーアーム16と排気用ロッカーアーム17は吸気弁18、排気弁19をそれぞれ開閉駆動する。
【0021】
図3に示すように、クランクケース4のクランク室41とオイル室42とは、左右方向に延びる水平方向区画壁(第1区画壁)43と上下方向に延びる垂直方向区画壁(第2区画壁)44とにより区画される。垂直方向区画壁44は、図3において、クランクシャフト10の左側に位置し、クランクケース4の上方左側の内壁から下方に向かって、クランクシャフト10の軸線26を越えて延びる。また、水平方向区画壁43は、クランクシャフト10の下側に位置し、クランクケース4の下方右側の内壁から左方向に向かって、クランクシャフト10の軸線26を越えて延びる。水平方向区画壁43の左側端部431は、図3の左右方向において、垂直方向区画壁44の下方端部441の下側又は下方端部441より左側に位置する。また、水平方向区画壁43は、左に向かうにつれて水平面から徐々に下方に下がっており、左側端部431が最下方に位置する。垂直方向区画壁44の下方端部441と水平方向区画壁43の左側端部431とは離間しており、この離間部分によりクランク室41とオイル室42とを連通する連通路45を形成している。そして、垂直方向区画壁44と水平方向区画壁43とは、図3に示すように断面において略V字形状を成し、クランクシャフト10の左側下方に位置する略V字形状の頂部に連通路45が形成されている。また、オイル室42は、水平方向区画壁43とクランクケース4の外壁とで形成される第1オイル室421と、垂直方向区画壁44とクランクケース4の外壁とで形成される第2オイル室422とから構成されている。
【0022】
シリンダブロック3には、動弁機構室50からシリンダ軸線7方向に沿ってクランクケース4に向かって延びる第1ブリーザ通路(第2の通路)54が設けられ、第1ブリーザ通路54は動弁機構室50に設けられる動弁機構室側開口541を有している。吸気用プッシュロッドと排気用プッシュロッド51とは第1ブリーザ通路54を貫通している。図4に示すように、第1ブリーザ通路54は、クランクケース4のクランク室41に連通する第2ブリーザ通路(第1の通路)55に、シリンダブロック3とクランクケース4との接続部分に形成される第3ブリーザ通路(第3の通路)56を介して接続する。なお、シリンダ軸線7方向視において、第1ブリーザ通路54と第2ブリーザ通路55とは、第3ブリーザ通路56におけるそれぞれの開口位置がオフセットして配置されている。また、第3ブリーザ通路56にはシリンダ軸線7方向に延び、シリンダ軸線7方向視において、第2ブリーザ通路55の周囲を図4中の上方を残して囲む区画壁561が設けられている。また、図5に示すように、第3ブリーザ通路56は、上方に向かって凹となるシリンダ側凹所564を有し、第2ブリーザ通路55のシリンダ軸線7方向の上方には天井壁562が設けられている。さらに、第3ブリーザ通路56のクランクケース4側には凹部(凹所)563が形成され、凹部563は、図4に示すように、シリンダ軸線7方向視において、第1ブリーザ通路54の一部と重なるように配置されている。
【0023】
図5に示すように、第2ブリーザ通路55は、第3ブリーザ通路56からシリンダ軸線7方向に沿って、クランク室41に向かって延びる。第2ブリーザ通路55は、クランク室41内のカムシャフト60の被動ギヤ61の右側の回転面611に対向して設けられるクランク室側開口551で、クランク室41に連通する。
【0024】
図6に示すように、被動ギヤ61の回転面611には環状の凹部612が形成されている。また、クランク室側開口551は被動ギヤ61の凹部612に向かって突出する筒状の突出壁552の図5、図6中の左側の端部に形成されている。クランク室側開口551は、カムシャフト60の軸線62方向において、凹部612内に、つまり、クランク室側開口551を形成する突出壁552の左側の端部が被動ギヤ61の回転面611の最も右側に位置する側面より左側に位置する。そして、図7に示すように、カムシャフト60の軸線62方向視において、クランク室側開口551は被動ギヤ61の歯底円613より内側に位置する環状の凹部612の内側に位置する。
【0025】
図8に示すように、カムシャフト60の左側の端部にはオイルポンプ63が接続されている。オイルポンプ63はトロコイドポンプであり、アウタロータ631とインナロータ632を有している。オイルポンプ63の吸入口(図示せず)には、オイル室42のオイル吸入口47がオイル吸入通路471を通じて接続されるとともに、第3ブリーザ通路56の凹部563がオイル戻し通路564(第4の通路)を通じて接続される。また、オイルポンプ63の吐出口はカムシャフト60の内部に形成されてカムシャフト軸26方向に延びるオイル供給通路601に接続され、オイル供給通路601はカムシャフト60の外周面に形成された複数のオイル吐出孔602に接続され、クランク室41内に通じている。そして、オイルポンプ63は、エンジン1回転中、オイル室42および第3ブリーザ通路56の凹部563に溜まっているオイルを吸入し、回転するカムシャフト60のオイル吐出孔602からクランク室41内にオイルを吐出し、吐出したオイルの一部はオイルミストとなってクランク室41内を飛散する。
【0026】
図9に示すように、シリンダヘッド2はシリンダ軸線7方向視において、略四角形の外周形状を有している。シリンダヘッド2の吸気ポート21の燃焼室20側の開口27(燃焼室側吸気開口)と排気ポート22の燃焼室20側の開口28(燃焼室側排気開口)は、シリンダ軸線7方向視において、クランクシャフト10の軸線26と略平行に、燃焼室側吸気開口27がフライホイールマグネト12側に位置するように、並んで配置されている。また、燃焼室側吸気開口27、燃焼室側排気開口28をそれぞれ開閉する吸気弁18、排気弁19も同様にクランクシャフト10の軸線26と略平行に並んで配置されている。シリンダヘッド2のクランクシャフト10の軸線26と略平行な図9中の上方の側面(一方の辺)には導風板29を介してマフラ25が取り付けられ、同様に下方の側面(他方の辺)には導風板30とインシュレータ23を介してキャブレター24が取付けられている。
【0027】
図9に示すように、シリンダ軸線7方向視において、吸気ポート21は、燃焼室側吸気開口27からクランクシャフト10の軸線26から離れる方向であってインシュレータ23を介してキャブレター24が取り付けられた下方の側面に向かう方向(第1の方向)に、フライホイールマグネト12に対向するシリンダヘッド2の外周面(第1の辺)に近づくように、つまり、図9中で左斜め下に向かって延びる。そして、吸気ポート21は、シリンダヘッド2の図9中の下方の側面に開口する吸入側開口211でインシュレータ23に接続される。インシュレータ23にはキャブレター24が接続され、キャブレター24から混合気がインシュレータ23の連通孔231を通じて吸気ポート21に供給される。
【0028】
また、図9に示すように、シリンダ軸線7方向視において、排気ポート22は、燃焼室側排気開口28からクランクシャフト10の軸線26から離れる方向であってマフラ25に向かう方向(第2の方向)に、クランクシャフト10の軸線26方向における燃焼室側排気開口28からの距離が燃焼室側排気開口28から離れるにつれて増大する(フライホイールマグネト12に対向するシリンダヘッド2の外周面から離れる)ように、つまり、図9中で右斜め上に向かって延びる。そして、排気ポート22は、シリンダヘッド2の上方の側面のフライホイールマグネト12から離れた側の端部に位置する排出側開口221でマフラ25に接続される。
【0029】
マフラ25は略扁平直方体形状を有し、マフラ25の最大面積を有する面がシリンダヘッド2の排出側開口221が設けられた上方の側面に対向するように配置される。図10に示すように、マフラ25のシリンダヘッド2に対向する面の左上端部近傍には、シリンダヘッド2の排出側開口221に対応する位置に、排気流入口251が設けられる。排気流入口251は図示しないガスケットと導風板29を挟んで排出側開口221に接続される。図9に示すように、マフラ25の内部は、シリンダヘッド2に対向する面と略平行に設けられた仕切壁252によって第1室253と第2室254とに区切られる。仕切壁252には、第1室253と第2室254とを接続する複数の接続通路255が設けられる。図10に示すように、接続通路255は、排気流入口251からの距離が大きくなるように、仕切壁252の右下端部近傍に設けられている。そして、第2室254には外部と連通する排気流出口256が設けられる。図9に示すように、排気流出路256は、マフラ25のシリンダヘッド2への対向面に隣接し、シリンダ軸線7方向に延びる排気流入口251側の側面、図9中の右側面に設けられ、図10に示すようにシリンダ軸線7方向には、接続通路255と略同じ位置であって、側面の下端近傍に設けられている。
【0030】
図9に示すように、シリンダヘッド2には、クランクシャフト10の軸線26方向において燃焼室側吸気開口27と燃焼室側排気開口28との間であって、クランクシャフト10の軸線26と直角方向においては燃焼室側吸気開口27あるいは燃焼室側排気開口28よりキャブレター24側に、つまり、図9中の吸気ポート21の右側に、図示しない点火プラグを設けるための点火プラグ取付孔33が形成されている。
【0031】
図11、図12に示すように、キャブレター24とシリンダヘッド2との間には、キャブレター24側から、第1ガスケット126(ダイヤフラム式キャブレター用ガスケット)、ワイヤガイド127、第2ガスケット128、インシュレータ23、第3ガスケット130、導風板131、第4ガスケット132が設けられる。第1ガスケット126の材質はノンアスベストシートであり、厚さは約0.8mmである。また、第2ガスケット128、第3ガスケット130、第4ガスケット132の材質はいずれも第1ガスケット126と同様ノンアスベストシートであるが、厚さはいずれも0.3mmで、第1ガスケット126よりも薄くなっている。なお、各ガスケットはノンアスベストシートに限られるものでは無く、メタルガスケットであってもよい。
【0032】
インシュレータ23は取付ねじ129により、第3ガスケット130、導風板131、第4ガスケット132とともにシリンダヘッド2に取付けられる。また、キャブレター24は図示しない取付ねじにより、第1ガスケット126、ワイヤガイド127、第2ガスケット128とともにインシュレータ23に取付けられる。
【0033】
図13に示すように、キャブレター24の第1ガスケット126が取付けられる面には、混合気が流れる断面略円形の吸気通路241と、図13において吸気通路241の右斜め下に位置してキャブレター24に燃料を送るダイヤフラム(図示せず)を駆動するためにダイヤフラムに圧力変動を伝達するパルス孔242と、キャブレター24をインシュレータ23に取付ける取付ねじが貫通する取付孔243とが形成されている。エンジン1にキャブレター24を取付けた状態においては、シリンダ軸線方向の下死点から上死点に向かう方向を上とすると、パルス孔242は吸気通路241より下方に位置する。
【0034】
また、図14に示すように、キャブレター24に取付けられる第1ガスケット126には、取付け時にキャブレター24の吸気通路241に対応するように位置して混合気が流れる断面略円形の吸気通路用開口261と、キャブレター24をインシュレータ23に取付ける取付ねじが貫通する取付孔263と、吸気通路用開口261に第1の接続部264で接続するとともに取付け時にキャブレター24のパルス孔242に対応する位置に設けられるパルス連絡孔(第2の接続部)262で終端して吸気通路用開口261とパルス連絡孔262とを連絡するパルス圧連絡通路267とが形成されている。パルス圧連絡通路267の第1の接続部264は図14において吸気通路用開口261の上側、具体的には上端に接続する。そして、パルス圧連絡通路267は、第1の接続部264から吸気通路用開口261の半径方向外側に向かって延びる延出部265と、延出部265に接続して図14における上方に延びたパルス圧連絡通路267の延出方向を右側下方に向かって湾曲させる方向変換部266とから構成されている。なお、図14、図15に示すように、第1ガスケット126の吸気通路用開口261、取付孔263、パルス連絡孔262、パルス圧連絡通路267はいずれも第1ガスケット126の厚さ方向に貫通して形成されている。方向変換部266は、吸気通路241に対して所定の距離を維持してパルス連絡孔262に連結されており、吸気通路241との絶縁を維持している。吸気通路241には、図15に示すように、燃料タンク70から吸気通路241内に燃料を供給するための燃料供給部241Aが位置している。従って、吸気通路241内に供給された燃料は、燃料供給部241Aが位置する吸気通路241の下側が濃く、上側が薄くなって供給される。更に、パルス圧連絡通路267の第1の接続部264は、吸気通路241の径方向において、燃料供給部241Aの反対側に位置するため、第1の接続部264に燃料が詰まり難い構成となっている。
【0035】
このように構成されたエンジン1によれば、刈払機1001が正立状態でエンジン1が動作している状態では、オイルポンプによりクランク室41内に飛散しているオイル(オイルミスト)のうち、クランクシャフト10やクランクウエイト101に付着したオイルは、クランクシャフト10の回転による遠心力により、径方向に飛散する。図3中で上方に飛散するオイルは、シリンダ5内やピストン6に供給される。一方、エンジン1は矢印100で示すように時計回りに回転し、垂直方向区画壁44はクランクシャフト10から水平方向に飛散するオイルが付着しやすいクランクシャフト10の左側に位置している。このため、図3中で左方向に飛散するオイルは、垂直方向区画壁44に付着した後、垂直方向区画壁44に沿って自重により下方に落下する。また、下方に飛散するオイルや重力により落下するオイルは、水平方向区画壁43に付着することになる。そして、水平方向区画壁43は左下に向かって傾斜しているため、水平方向区画壁43に付着したオイルは左下の左側端部431に向かって移動する。そして、垂直方向区画壁44および水平方向区画壁43に沿って移動したオイルは連通路45に達し、連通路45からオイル室42に戻ることになる。このため、余分なオイルをクランク室41から速やかにオイル室42に戻すことが可能となり、クランクウェイト101でオイルをかき上げることを抑制でき、クランク室41内に余分なオイルが留まることを抑制し、エンジン1内のオイルを適切に循環させることが可能となる。したがって、クランク室41内に過剰なオイルが留まることにより動弁機構室50内にオイルミストが過剰に供給されることも抑制することができる。そして、動弁機構室50内に過剰に供給されたオイルミストが、ブローバイガスとともに接続通路52からエアクリーナ70に戻されることが抑制され、エアクリーナ70にオイルが付着して吸気抵抗となることや、オイルが燃焼してオイル消費の増大や燃焼室内のカーボン堆積、排気ガス特性値の悪化を抑制することが可能となる。また、クランクケース4内に水平方向区画壁43と垂直方向区画壁44とを設けるという簡単な構造であるため、エンジン1の製造コストを抑えながら上述の効果を得ることができる。
【0036】
また、刈払機1001を作業中に図3の正立状態から傾けてエンジン1を時計回りに例えば90度程度回転した場合であっても、オイル室42内のオイルは水平方向区画壁43により第1オイル室421内に留めることができる。また、エンジン1が図3中で反時計回りに例えば90度程度まで回転した場合であっても、オイル室42内のオイルは垂直方向区画壁44により第2オイル室421内に留めることができる。このため、クランクケース4内に水平方向区画壁43と垂直方向区画壁44とを設けるという簡単で製造コストを抑えながら、刈払機1001の作業中に想定されるエンジン1の傾きの範囲内ではオイル室42内のオイルは常にオイル室42内に留め、オイル室42内のオイルのクランク室41内への逆流を抑制することが可能となり、エンジン1内でオイルを適切に循環させることが可能となる。そして、動弁機構室50内へのオイルミストの過剰供給が抑制され、エアクリーナ70にオイルが付着して吸気抵抗となることや、オイルが燃焼してオイル消費の増大や燃焼室内のカーボン堆積、排気ガス特性値の悪化を抑制することが可能となる。
【0037】
さらに、図1に示すように上面視において反時計回りに回転する刈刃1003を有する刈払機1001では、刈払機1001を図1、図3に矢印1030で示す方向に僅かに傾け、刈刃1003を地面と水平にする状態から左端を地面に対して近づけて、切断対象物の左端を残さないように作業することが多い。刈払機1001では、エンジン1のドライブシャフト14が、クランクシャフト10から、エンジン1の正回転時のクランクシャフト10と同方向に回転する右ネジが進む方向、つまり、図3に示すように時計回りに回転するエンジン1から図2における左方向に延びている。このため、図3に示すように、矢印1030方向に傾いたエンジン1では、水平方向区画壁43の傾斜角度がより鉛直に近づくことになり、垂直方向区画壁44も依然として鉛直方向に近い角度が維持され、連通路45は水平方向区画壁43と垂直方向区画壁44の鉛直方向の最下部に位置する。このため、クランク室42内の垂直方向区画壁44および水平方向区画壁43に付着したオイルを連通路45からより速やかにオイル室42に戻すことが可能となり、より適切にエンジン1内でオイルを循環させることができる。したがって、多用されるエンジン1の姿勢において、クランク室41内に余分なオイルが留まることがより抑制され、上述と同様の効果をより効果的に得ることができる。
【0038】
なお、上述の実施形態では、水平方向区画壁43と垂直方向区画壁44の端部が離間することで連通路45を形成しているが、連通路45の構成はこのような構成に限られるものでは無い。例えば、水平方向区画壁43の左側端部431と垂直方向区画壁44の下端を結合する構成とし、結合部分に一つまたは複数の孔を形成して連通路を形成してもよい。さらに、水平方向区画壁43の断面は、図3に示すようにクランクシャフト10の下部でクランクシャフト10と同軸に湾曲した部分を有しているが、特に多用されるエンジン1を僅かに傾けた状態においてオイルが水平方向壁43に沿って連通路45に向かって流れる形状であれば、平坦に形成したり、他に部分的に湾曲面を有するように形成したりしてもよい。
【0039】
また、このように構成されたエンジン1によれば、カムシャフト60のオイル吐出孔602から吐出してクランク室41内に飛散されるオイルミストは、ピストン6が下降してクランク室41内の圧力が上昇すると、クランク室41内のブローバイガスとともに、第2ブリーザ通路55のクランク室側開口551から第2ブリーザ通路55に流入し、第2ブリーザ通路55をシリンダ軸線7方向上方に第3ブリーザ通路56に向かって流れる。そして、第3部ブリーザ通路56に流入したオイルミストを含む気体は、区画壁561によりシリンダ軸線7に対して直角方向に流れの向きが変えられて第1ブリーザ通路54に流入し、第1ブリーザ通路54内を動弁機構室側開口541に向かって流れ、動弁機構室50内に流入する。また、ピストン6が上昇してクランク室41内の圧力が下降すると、動弁機構室50内のオイルミストが第1ブリーザ通路54を経て第3ブリーザ通路56に流入する。この時、オイルミストは第3ブリーザ通路56内で区画壁561により垂直方向から水平方向に流れの方向が変更される。つまり、図4、図5、図6に示すように、オイルミストを含む気体は、第3ブリーザ通路56内を矢印90に示すように流れ、第2ブリーザ通路55内を矢印91に示すように流れ、第1ブリーザ通路54内を矢印92に示すように流れる。
【0040】
動弁機構室50内に流入したブローバイガスは接続通路52を通じてエアクリーナ70に還流し、再び燃焼室20に送られる。一方、動弁機構室50内に流入したオイルミストは動弁機構に付着して動弁機構の潤滑を行い、液状化したオイルは動弁機構室側開口541から第1ブリーザ通路54内を落下して第3ブリーザ通路56の凹部563に溜まる。そして、凹部563に溜まったオイルはオイル戻し通路564を介してオイルポンプ63で吸引されて再びカムシャフト60のオイル吐出孔602から再びクランク室41内に吐出する。
【0041】
クランク室41内のオイルミストが流入するクランク室側開口551は被動ギヤ61の回転面611に対向する位置に設けられているため、被動ギヤ61の回転により生じる遠心力によってクランク室側開口551に流入するオイルミストを制限することができ、すなわち、オイルミストが被動ギヤ61によってクランク室側開口551に入りにくくなっているため、動弁機構室50等への過剰なオイル供給を抑制することができる。クランク室41内のオイルミストが流入するクランク室側開口551は被動ギヤ61環状の凹部612内に位置しているため、オイルミストの流れる通路はラビリンス状に構成される。このため、クランク室41内のオイルミストはクランク室側開口551へ流入し難くなり、オイルミストの第2ブリーザ通路55内への流入量を規制することができる。したがって、クランク室41から動弁機構室50内に流入するオイルミストの量が規制され、過剰なオイルミストが動弁機構室50内に流入することを抑制することができ、ブローバイガスとともに接続通路52からエアクリーナ70に戻されることが抑制され、エアクリーナ70にオイルが付着して吸気抵抗となることや、オイルが燃焼してオイル消費の増大することや、燃焼室内のカーボン堆積、排気ガス特性値の悪化を抑制することが可能となる。また、被動ギヤ61環状の凹部612を形成するとともに、クランク室側開口551を凹部612に向かって突出する筒状の突出壁552として形成する、比較的単純な構造のため、エンジン1の製造コストを抑えながら上述の効果を得ることができる。さらに、カムシャフト60のオイル吐出孔602は、クランク室側開口551より図5、図6に示すように左側に位置するので、上述のラビリンス状の通路とともに、オイル吐出孔602から吐出するオイルはクランク室側開口551に流入し難くなる。したがって、過剰なオイルミストが動弁機構室50内に流入することをより抑制することができ、上述の効果をより効率的に得ることができる。
【0042】
また、第1ブリーザ通路54または第2ブリーザ通路55を流れて第3ブリーザ通路56に達したオイルミストの一部は、第1ブリーザ通路54と第2ブリーザ通路55とがオフセットされているため、流れの方向が矢印90、92に示すようにシリンダ軸線7と平行な方向から区画壁561により矢印91で示すようにシリンダ軸線7に垂直な方向に変えられる。このため、第3ブリーザ通路56内のシリンダ側凹所564の天井壁562または凹部563に接触して液状化しやすくなり、液状化したオイルは凹部563に溜まることになる。そして、凹部563に溜まったオイルはオイルポンプ63により吸入されて速やかにクランク室41内に散布される。したがって、オイルミストの動弁機構室50内への過剰な流入を抑えることが可能となり、上述のエアクリーナ70にオイルが付着して吸気抵抗となることや、オイルが燃焼することによるオイル消費の増大や、白煙の発生、燃焼室内のカーボン堆積、排気ガス特性値の悪化をより効果的に抑制することが可能となるうえ、オイルミストが液状化して溜まったオイルは速やかに循環されるので、効率よくオイルを利用することができる。
【0043】
なお、上述の実施形態では、第2ブリーザ通路55のクランク室側開口551は、図6、図7に示すように、被動ギヤ61の環状の凹部612の内側に位置していたが、必ずしもこの構成に限られるものではない。例えば、クランク室側開口551は、被動ギヤ61の歯底円613(図7参照)より内側に位置するもの、被動ギヤ61の外周縁614(図7参照)より内側に位置するもの、あるいは、クランクシャフト60の軸線62方向視においてクランク室側開口551の一部が被動ギヤ61の外周縁614の一部に重なるように位置するものであっても、動弁機構室50内へのオイルミストの過剰な流入を規制することができれば、位置は適宜選択することができる。また、クランク室側開口551の面積、形状、クランクシャフト60の軸線62方向におけるクランク室側開口551と被動ギヤ61の環状の凹部612との重なる量は、上述の実施形態のものに限られるものではなく、動弁機構室50内へのオイルミストの流入量に応じて適宜決定することができる。
【0044】
また、上述の実施形態では、第2ブリーザ通路55のクランク室側開口551は、図6に示すように、カムシャフト60の軸線方向62において、被動ギヤ61の環状の凹部612の内側に位置していたが、必ずしもこの構成に限られるものではない。例えば、図16に示すように、被動ギヤ161の回転面1611には環状の突出部1612を形成するとともに、クランク室側開口1551には被動ギヤ61の突出部1612に対向し、突出部1612を部分的に覆うことが可能な円弧状の凹所1552を形成する。そして、カムシャフト軸線62方向において、突出部1612の図16中の右側の端部が、凹所1552の最も左側に位置する側面より左側に位置するように構成してもよい。この場合も、クランク室側開口1551は、凹所1552と被動ギヤ61の突出部1612との間でラビリンス状に形成され、オイルミストのクランク室側開口1551内への流入を規制することが可能になり、上述と同様の効果を得ることができる。
【0045】
さらに、第3ブリーザ通路56内でオイルが溜まる凹部563はクランクケース側に形成されているので、燃焼室20のあるシリンダブロック3に比べて熱の影響が少なく、オイルの劣化を抑制することができる。さらに、第3ブリーザ通路56には凹部563とともにシリンダ側凹所564が形成されているので、刈払機1001等での作業時にエンジン1を傾けた場合でも、第3ブリーザ通路56内の凹部563またはシリンダ側凹所564にオイルを一時的に溜めることが可能となる。特に、エンジン1を大きく傾けた場合に凹部563に溜まったオイルが溢れた場合でもシリンダ側凹所564に留めることが可能となる。したがって、エンジン1が傾いた場合に動弁機構室50内にオイルが流入することが抑制され、エアクリーナ70にオイルが付着して吸気抵抗となることや、オイルが燃焼することによるオイル消費の増大や、白煙の発生、燃焼室内のカーボン堆積、排気ガス特性値の悪化をより効果的に抑制することが可能となる。
【0046】
なお、第1ブリーザ通路54と第2ブリーザ通路55のオフセット量、第3ブリーザ通路56内での開口面積、第3ブリーザ通路56の凹部563またはシリンダ側凹所564の深さ等は、必要に応じて適宜選択できるものである。
【0047】
上述のように構成されたエンジン1によれば、エンジン1が始動してフライホイールマグネト12が回転すると、フライホイールマグネト12に形成された冷却ファン32により、冷却風が発生する。冷却風は、図9に矢印で示すように、導風板29、30に導かれてシリンダヘッド2とシリンダブロック3に形成された冷却フィン31の間をシリンダヘッド2とシリンダブロック3に沿って流れ、シリンダヘッド2とシリンダブロック3を冷却する。
【0048】
そして、図9に示すように、シリンダ軸線7方向視において、燃焼室側吸気開口27と燃焼室側排気開口28がクランクシャフト10の軸線26と略平行に燃焼室側吸気開口27がフライホイールマグネト12側に位置するように並んで配置され、排気ポート22が、燃焼室側排気開口28からクランクシャフト10の軸線26から離れる方向であってマフラ25に向かう方向に、クランクシャフト10の軸線26方向における燃焼室側排気開口28からの距離が燃焼室側排気開口28から離れるにつれて増大するように延びている。このため、シリンダヘッド2およびシリンダブロック3のマフラ25側の側面では、シリンダヘッド2、シリンダブロック3に形成された冷却フィン31の間を流れる冷却風は、シリンダ軸線7方向視において、クランクシャフト10の軸線26方向に、排気ポート22および排出側開口221によって流れが妨げられること無く、燃焼室20の側部を越えて流れることが可能となる。したがって、高温の燃焼室20近傍を冷却風によって効率的に冷却することが可能となる。
【0049】
特に、図9に示すように、排出側開口221が、シリンダヘッド2の上方の側面のフライホイールマグネト12から離れた側の端部に位置している。このため、シリンダヘッド2およびシリンダブロック3の上方の側面を流れる冷却風のクランクシャフト10の軸線26方向の径路を長くすることが可能となり、シリンダヘッド2、シリンダブロック3、そして燃焼室20の側部周辺をより冷却効果を向上させることができる。
【0050】
また、図9に示すように、シリンダ軸線7方向視において、吸気ポート21が、燃焼室側吸気開口27からクランクシャフト10の軸線26から離れる方向であってインシュレータ23およびキャブレター24が取り付けられた下方の側面に向かう方向に、フライホイールマグネト12に対向するシリンダヘッド2の外周面に近づくように、シリンダヘッド2の図9中の下方の側面に開口する吸入側開口211まで延びている。このため、冷却ファン32で生じた冷却風のシリンダヘッド2およびシリンダブロック3のキャブレター24側の側面に沿った流れが、吸気ポート21および吸入側開口211により阻害されることになる。そして、阻害された流れの一部はシリンダヘッド2およびシリンダブロック3の冷却ファン32に対向する側面に沿って流れた後に、シリンダヘッド2およびシリンダブロック3のマフラ25に対向する側面に沿って流れることになる。したがって、冷却風をより多くシリンダヘッド2およびシリンダブロック3のマフラ25に対向する側面に導くことが可能となり、シリンダヘッド2およびシリンダブロック3を一層効率的に冷却することが可能となる。
【0051】
また、図9に示すように、図9中の吸気ポート21の右側に、図示しない点火プラグを設けるための点火プラグ取付孔33が形成されている。このため、吸気ポート21および吸入側開口211により阻害されて点火プラグ周辺への冷却風の流れが減少する場合であっても、低温の混合気が流れることで冷却される吸気ポート21により点火プラグ周辺を冷却することが可能になるという更なる効果を得ることもできる。また、点火プラグは、吸気ポート21に対して風下に位置するため、冷却風が吸気ポート21により阻害されることで、点火プラグに冷却風が流れにくくなり、冷却風による点火プラグの過剰な冷却を抑制することができる。
【0052】
さらに、マフラ25は略扁平直方体形状を有し、図9に示すように、マフラ25の最大面積を有する面がシリンダヘッド2の上方の側面に対向するように配置される。このため、導風板29と併せて冷却風をシリンダヘッド2、シリンダブロック3の側面に沿って導くことが可能となり、シリンダヘッド2、シリンダブロック3を効率的に冷却することができる。
【0053】
また、図10に示すように、マフラ25のシリンダヘッド2に対向する面の左上端部近傍には、シリンダヘッド2の排出側開口221に対応する位置に排気流入口251が設けられ、マフラ25内を第1室253と第2室254とに仕切る仕切壁255の右下端部近傍に接続通路255が設けられ、第2室254の図9中の右側面に排気流出口256が設けられている。このため、マフラ25内に排気流入口251から流入する排気は、マフラ25内でクランクシャフト10の軸線26方向にマフラ25内の一方の端部近傍から他方の端部近傍まで移動する、すなわち第1室253、接続通路255、第2室254を経由して長い通路を移動することで消音される。したがって、消音効果を維持したままマフラ25のシリンダ軸線7方向の寸法を抑えることが可能となり、エンジンあるいはエンジンを搭載した刈払機等エンジン工具全体のデザインや設計上の自由度を大幅に向上させることが可能となる。
【0054】
なお、上述の実施形態では、図9に示すように、排気ポート22は、シリンダヘッド2の上方の側面のフライホイールマグネト12から離れた側の端部に位置する排出側開口221に向かって延びているが、排出側開口221の位置は図9におけるシリンダヘッド2の上方の側面右端近傍に限られるものでは無く、右端から左側にずれた場所に位置していてもよい。また、吸気ポート21についても、点火プラグを設けるための点火プラグ取付孔33を形成するスペースを確保できれば、図9に示した吸気ポート21よりもシリンダヘッド2の下方の側面の左側に向かって延びていてもよい。
【0055】
上述の第1ガスケット126を取付けたエンジン1では、ピストン6が下降して吸気弁18が開くと、キャブレター24の吸気通路241および第1ガスケット126の吸気通路用開口261を混合気が高速で流れる。このため、吸気通路241および吸気通路用開口261の外周部分は負圧となり、第1ガスケット126の第1の接続部264からパルス圧連絡通路267を通じてキャブレター24のパルス孔242にこの圧力が伝達される。一方、吸気弁18が閉じると、吸気通路241および吸気通路用開口261内は大気圧となり、第1ガスケット126の第1の接続部264からパルス圧連絡通路267を通じてキャブレター24のパルス孔242にこの圧力が伝達される。したがって、吸気弁18の開閉による圧力変動を第1ガスケット126の第1の接続部264からパルス圧連絡通路267を通じてキャブレター24のパルス孔242に伝えることが可能となり、キャブレター24のダイヤフラムを動かして燃料をキャブレター24に供給することが可能となる。
【0056】
キャブレター24と第1ガスケット126とは隣接するため、キャブレター24の吸気通路241と第1ガスケット126の吸気通路用開口261の位置および、キャブレター24のパルス孔242と第1ガスケット126のパルス連絡孔262の位置の2箇所が位置決めされてキャブレター24と第1ガスケット126が取付けられれば、容易にキャブレター24のダイヤフラムを駆動することが可能となる。そして、キャブレター24は第1ガスケットとともにインシュレータ23に対して共通の取付ねじで取付けられることから、上述の2箇所の位置決めは容易に実現することができ、エンジン1の組立て作業を容易に行うことができ、製造コストを低減することができる。さらに、第1ガスケット126は他のガスケットより厚いため、第1の接続部264、パルス圧連絡通路267、パルス連絡孔262がキャブレター24の取付け作業時に潰れて圧力変動の伝達が妨げられることも抑制でき、この点からも組立て作業を容易に行うことができるようになり、圧力変動を確実に伝えるとともに製造コストをより低減することができる。
【0057】
また、第1ガスケット126のパルス圧連絡通路267の第1の接続部264は、エンジン1にキャブレター24を取付けた状態において、シリンダ軸線方向の下死点から上死点に向かう方向を上とすると、図14に示すように吸気通路用開口261の上端に接続する。そして、パルス圧連絡通路267は、第1の接続部264から上方に向かって延びる延出部265と、延出部265に接続して右側下方に向かって延びる方向変換部266を経てパルス連絡孔262に達する。このため、混合気の燃料の一部が吸気通路241内で液状化した場合であっても、第1の接続部264に入り難くなり、キャブレター24のダイヤフラムへの圧力変動の伝達が阻害されることが抑制され、圧力変動を確実に伝達することができる。さらに、エンジン1を傾けた場合に液状化した燃料がパルス圧連絡通路267に入っても、延出部265や方向変換部266により液体はいずれかの端部から排出されるので、パルス圧連絡通路267の内部に液体が留って圧力変動の伝達を阻害することを抑制できる。
【0058】
上述の実施形態では、第1ガスケット126の吸気通路用開口261、取付孔263、パルス連絡孔262、パルス圧連絡通路267はいずれも第1ガスケット126の厚さ方向に貫通して形成されているが、この構成に限られるものでは無い。例えば、図17に示すように、第1ガスケット1026のキャブレター24に対向する面に凹溝状に第1の接続部(図示せず)、パルス連絡孔(図示せず)、パルス圧連絡通路1267を形成してもよく、この場合も上述と同様の効果を得ることができる。
【0059】
さらに、上述の実施形態では、キャブレター24のパルス孔242および第1ガスケット126のパルス連絡孔262の位置は、キャブレター24のエンジン1への取付状態において、シリンダ軸線方向の下死点から上死点に向かう方向を上とした場合に、吸気通路241および吸気通路用開口261より下方に位置していたが、必ずしもこの構成に限られるものでは無い。例えば、パルス孔242およびパルス連絡孔262を第1の接続部264より下方に位置するように構成してもよい。そして、この場合であっても、延出部265および方向変換部266により吸気通路241内で液状化した燃料によりパルス圧連絡通路267が塞がれて圧力変動の伝達の阻害が生じることを抑制することができる。
【0060】
なお、上述の実施形態では、エンジン1は刈払機1001に搭載されているが、このエンジン1は刈払機1001への搭載に限られるものでは無く、チェンソー、ブロワ、ヘッジトリマ等のエンジン工具に搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン
3 シリンダブロック
4 クランクケース
6 ピストン
10 クランクシャフト
11 スタータ機構
12 フライホイールマグネト
21 吸気ポート
22 排気ポート
23 インシュレータ
24 キャブレター
25 マフラ
27 燃焼室側吸気開口
28 燃焼室側排気開口
31 冷却フィン
32 冷却ファン
33 点火プラグ取付孔
41 クランク室
42 オイル室
44 垂直方向区画壁
43 水平方向区画壁
45 連通路
50 動弁機構室
60 カムシャフト
70 エアクリーナ
126 第1ガスケット
241 吸気通路
242 パルス孔
261 吸気通路用開口
262 パルス連絡孔
264 第1の接続部
267 パルス圧連絡通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースから突出するクランクシャフトに取付けられた冷却ファンと、
前記クランクシャフトに接続されて前記エンジンを始動するためのスタータ機構と、
シリンダ内に配置されるピストンの頂面に対向する天井部に、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線方向に並ぶように、前記冷却ファンに近い側に燃焼室側吸気開口を設け、前記冷却ファンから遠い側に燃焼室側排気開口を設けた燃焼室と、
前記シリンダの軸線方向視において、前記燃焼室側吸気開口から前記クランクシャフトの軸線方向から離れる第1の方向に向かって延出する吸気ポートと、
前記シリンダの軸線方向視において、前記第1の方向とは異なる方向であって、前記燃焼室側排気開口から前記クランクシャフトの軸線方向から離れる第2の方向に向かうとともに、前記クランクシャフトの軸線方向における前記燃焼室側排気開口からの距離が前記燃焼室側排気開口から離れるにつれて増大するように、前記燃焼室側排気開口から延出する排気ポートと、
を備えることを特徴とするエンジン工具用エンジン。
【請求項2】
前記吸気ポートは、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線方向における前記燃焼室側吸気開口からの距離が前記燃焼室側吸気開口から離れるにつれて増大するように、前記燃焼室側吸気開口から延出し、
前記シリンダの軸線方向視において、点火プラグを前記吸気ポートの前記冷却ファンから離れた側に設ける、
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジン工具用エンジン。
【請求項3】
前記シリンダの軸線方向視において、前記シリンダが形成されるシリンダブロックは略四角形状を有し、
前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線に直交する平面と略並行な前記シリンダブロックの第1の辺に対向するように前記冷却ファンが前記クランクシャフトに取付けられ、
前記シリンダブロックには、前記シリンダの軸線方向視において、前記クランクシャフトの軸線と略平行な前記第1の辺に隣接する一方の辺に前記排気ポートの排出側開口が設けられるとともに、前記第1の辺に隣接する他方の辺に前記吸気ポートの吸入側開口が設けられる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン工具用エンジン。
【請求項4】
前記シリンダの軸線方向視において、前記排出側開口は、前記シリンダブロックの前記一方の辺の端部近傍に位置する、
ことを特徴とする請求項3に記載のエンジン工具用エンジン。
【請求項5】
前記シリンダの軸線方向視において、
前記シリンダブロックの前記一方の辺に対向するように設けられ、前記排出側開口に接続されるマフラと、
前記シリンダブロックの前記他方の辺に対向するように設けられ、前記吸入側開口に接続されるキャブレターと、を有し、
前記スタータ機構は、前記一方の辺と前記他方の辺とに隣接する前記第1の辺とは異なる前記シリンダブロックの第2の辺に対向するように設けられている、
ことを特徴とする請求項3または4に記載のエンジン工具用エンジン。
【請求項6】
前記シリンダの軸線方向視において前記シリンダブロックの前記一方の辺に対向し、前記排出側開口に対応する位置に設けられた排気流入口と、前記シリンダの軸線方向視において前記マフラの内部をクランクシャフトと直交する方向に前記排気流入口が設けられた第1室と第2室とに分割する中間壁と、前記シリンダの軸線方向視において該中間壁の前記クランクシャフトの軸線方向における前記冷却ファン側の端部近傍に設けられて前記第1室と前記第2室とを接続する接続通路と、前記シリンダの軸線方向視において前記クランクシャフトの軸線方向における前記冷却ファンから離れた側の前記第2室の端部近傍に設けられた排気流出口と、を有するマフラを備える、
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載のエンジン工具用エンジン。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエンジンを備える、
ことを特徴とするエンジン工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−74874(P2011−74874A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229134(P2009−229134)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】