説明

エンジンの排気浄化装置

【課題】触媒の大型化やコスト増加を招くことなく触媒暖機に必要な熱量を確保して早期活性化を実現する。
【解決手段】ECU50は、触媒3の温度を検出する温度センサ30からの信号に基づいて、触媒3の温度が活性化温度に達していない場合、入口側切換バルブ6,出口側切換バルブ7,及びポンプ10を駆動制御し、熱交換器5内の発熱材を水和反応によって発熱させて排気ガスを昇温させる。そして、高温の排気ガスを触媒3に送り込むことにより、触媒3を早期活性化させる。また、触媒3の温度が活性化温度に達した後、再生用通路11の開閉バルブ12を開弁させ、触媒3を通過した高温の排気ガスを熱交換器5の発熱管21に送り込むこと、熱交換器5内の発熱材22を再生させる再生制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系に介装した触媒の早期活性化を促進するエンジンの排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンの排気浄化装置に用いられる触媒は、エンジンの冷態始動直後等の温度が低い状態では、触媒金属が活性化していないため、十分な排気ガス浄化性能を得ることは困難である。
【0003】
このため、従来から、触媒を電気ヒータで加熱する等して触媒の早期活性化を促進する技術が知られているが、電気ヒータは電気エネルギーの消費量が大きいことから、最近では、酸化カルシウム等の発熱材の発熱反応を利用して、触媒の早期活性化を図る技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、排気通路中に酸化カルシウムを担持した触媒を備え、エンジンの冷始動時に、酸化カルシウムの水和反応熱により触媒の活性化を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−254450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、排気ガス中の水分を利用して反応熱を得ているため、触媒を早期活性化させる十分な熱量を得られない可能性があるばかりでなく、触媒担体に触媒作用をする触媒金属に加えて水分と反応する酸化カルシウムを担持させる必要があるため、触媒の大型化やコスト増加を招く虞がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、触媒の大型化やコスト増加を招くことなく触媒暖機に必要な熱量を確保して早期活性化を実現することのできるエンジンの排気浄化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるエンジンの排気浄化装置は、エンジンの排気通路に介装した触媒によって排気ガスを浄化するエンジンの排気浄化装置において、前記触媒の上流側で前記排気通路から分岐されて排気ガスを前記触媒に導く流路を形成するバイパス通路と、水分と反応して発熱すると共に排気ガスによって反応生成物を元の物質に再生可能な発熱材を貯蔵し、前記バイパス通路を通過する排気ガスを前記発熱材の反応熱によって加熱する熱交換器と、前記排気通路と前記バイパス通路との接続部に介装され、排気ガスの流路を前記排気通路と前記バイパス通路との何れか一方に切換える切換バルブと、前記触媒を通過した排気ガスを前記熱交換器に導く再生用通路に介装されて、前記再生用通路を開閉する開閉バルブと、前記触媒の温度が活性化温度未満のとき、前記切換バルブにより排気ガスの流路を前記バイパス通路に切換えると共に、前記発熱材に水分を供給して反応熱により排気ガスを昇温させて前記触媒を早期活性化させる排気昇温制御を実行し、前記触媒の温度が活性化温度以上になった後は、適宜前記開閉バルブを開いて前記触媒を通過した排気ガスを前記熱交換器に導入し、前記水分との反応による反応生成物を元の物質に再生する再生制御を実行する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒の大型化やコスト増加を招くことなく触媒暖機に必要な熱量を確保することができ、触媒の早期活性化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】エンジンの排気浄化装置の全体構成図
【図2】熱交換器の構成図
【図3】図2のA−A線断面図
【図4】排気昇温制御のフローチャート
【図5】再生制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1に示す排気浄化装置100は、エンジン1から排出される排気ガスを、排気通路2に介装された触媒3で浄化して無害化するものであり、特に、低温時にも触媒3を早期に活性化することができる。このため、エンジン1の排気通路2には、排気通路2から分岐されて排気ガスを触媒3に導く流路を形成するバイパス通路4が設けられ、このバイパス通路4に、排気ガスを昇温させて触媒3を早期活性化させるための熱交換器5が介装されている。尚、図1においては、エンジン1の吸気系については図示を省略している。
【0012】
本実施の形態においては、排気通路2からバイパス通路4へ分岐する熱交換器5上流側の接続部、バイパス通路4から排気通路2に合流する熱交換器5下流側の接続部には、それぞれ、排気ガスの流路を切換える入口側切換バルブ6、出口側切換バルブ7が介装されている。以下では、エンジン1から入口側切換バルブ6までの排気通路2の区間を第1排気通路2a、入口側切換バルブ6から出口側切換バルブ7までの排気通路2の区間を第2排気通路2b、出口側切換バルブ7から触媒3までの排気通路2の区間を第3排気通路2cとして説明する。バイパス通路4は、第2排気通路2bをバイパスして排気ガスを触媒3に導く流路を形成する。
【0013】
尚、出口側切換バルブ7は省略することも可能であり、入口側切換バルブ6により、排気ガスの流路を第2排気通路2bとバイパス通路4との何れか一方に切換えるようにしても良い。
【0014】
バイパス通路4に介装される熱交換器5は、水和反応によって発熱すると共に排気ガスによって反応生成物を元の物質に再生可能な発熱材22(図3参照)を備えている。本実施の形態においては、熱交換器5は、酸化カルシウム(CaO)を発熱材22として備えており、水(H2O)を貯留するタンク8に給水通路9を介して接続されている。給水通路9にはポンプ10が介装されており、このポンプ10によってタンク8内の水が熱交換器5に送水される。
【0015】
また、熱交換器5には、水和反応によって生成された水酸化カルシウムを元の酸化カルシウムに再生するため、触媒3の下流側に連通する再生用通路11が接続されている。再生用通路11には、触媒3を通過した排気ガスを熱交換器5に導くための開閉バルブ12が介装されている。
【0016】
詳細には、図2に示すように、熱交換器5は、バイパス通路4に連通する筒状の本体ケース20内に、本体ケース20内を通過する排気ガスを加熱するための発熱管21を配設して構成されている。発熱管21は、排気ガスとの接触面積を大きくするため、本体ケース20内を通過する排気ガスの流れに略直交する平面上で屈曲路を描くように配設され、一端が給水通路9に接続されると共に、他端が再生用通路11に接続されている。
【0017】
より詳細には、発熱管21は、図3に示すように、外周壁面が排気ガスに晒されると共に、内部に酸化カルシウム(CaO)からなる発熱材22を貯蔵する外管23と、この外管23内に挿通される細径の内管24とからなる二重構造で構成されている。外管23の一端は、本体ケース20の内壁面付近で閉塞されて内管24のみが延出され、給水通路9に接続されている。また、外管23の他端は、再生用通路11に連通されている。
【0018】
内管24は、外管23内の発熱材22上部の空間内を挿通され、発熱材22に水を噴霧するための開口孔24aが複数箇所に穿設されている。内管24の再生用通路11側の末端は、閉塞されている。すなわち、タンク8内の水がポンプ10によって給水通路9から圧送されると、内管24の開口孔24aから発熱材22に水が噴霧され、酸化カルシウムと水が反応して熱が発生し、この反応熱によって外管23全体が加熱されて外管23の外周壁面に接触する排気ガスが昇温される。
【0019】
このような熱交換器5を用いた排気ガスの昇温は、マイクロコンピュータを中心として構成される電子制御ユニット(ECU)50によって制御される。ECU50は、エンジン1の冷態始動時等の触媒3が活性化していない状態で排気昇温制御を実行し、触媒3の早期活性化を促進する。具体的には、制御部としてのECU50は、触媒3の温度を検出する温度センサ30からの信号に基づいて、入口側切換バルブ6,出口側切換バルブ7,及びポンプ10を駆動制御し、触媒3の温度が活性化温度に達していない場合、排気ガスを熱交換器5を介して昇温させ、高温の排気ガスを触媒3に送り込むことにより、触媒3を早期活性化させる。
【0020】
また、ECU50は、エンジン1が始動して暖機運転が完了し、通常の運転状態になったとき、所定の条件下で熱交換器5内の発熱材22を再生させる再生制御を実行する。この発熱材22の再生は、再生用通路11の開閉バルブ12を開弁させ、触媒3を通過した高温の排気ガスを熱交換器5の発熱管21に送り込むことで実行される。
【0021】
以下、ECU50による排気昇温制御、再生制御のプログラム処理について、それぞれ、図4,図5のフローチャートを用いて説明する。
【0022】
先ず、図4のフローチャートに示す排気昇温制御について説明する。
この排気昇温制御は、エンジン始動時にのみ実行されるプログラム処理であり、最初のステップS1において、温度センサ30からの信号を読み込み、触媒3の温度が活性化温度に達しているか否かを調べる。
【0023】
その結果、触媒3の温度が活性化温度未満の場合、ステップS1からステップS2へ進んで入口側切換バルブ6及び出口側切換バルブ7とを切換え、バイパス通路4を開、第2排気通路2bを閉とする。その結果、エンジン1から排出される排気ガスの流路が、第1排気通路2a→バイパス通路4→第3排気通路2c→触媒3に流れるような流路に切換えられる。
【0024】
次に、ステップS3へ進み、ポンプ10を駆動してタンク8内の水を熱交換器5に圧送し、熱交換器5の発熱管21への通水を開始する。そして、通水を開始した後は、ステップS1へ戻り、触媒3の温度をモニタする。尚、ポンプ10は、触媒3の温度や発熱管21内の発熱材22の容量等に応じた通水量となるように、設定時間だけ駆動される。
【0025】
発熱管21に通水されると、内管24の開口孔24aから外管23内に貯蔵されている発熱材22に水が噴霧され、酸化カルシウム(CaO)と水(H2O)とが反応して、以下の(1)式に示すように、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が生成される。
CaO+H2O→Ca(OH)2 …(1)
【0026】
その際、反応熱が生じ、この反応熱によって外管23の周囲を通過する排気ガスが加熱され、高温の排気ガスが触媒3に送り込まれる。そして、触媒3の温度が上昇し、ステップS1で触媒3の温度が活性化温度に達すると、ステップS1からステップS4以降の処理に進む。
【0027】
ステップS4では、熱交換器5への通水中であれば、ポンプ10を停止させ、熱交換器5への通水を停止する。更に、ステップS5で入口側切換バルブ6及び出口側切換バルブ7を切換えてバイパス通路4を閉とし、エンジン1から排出される排気ガスが第1排気通路2a→第2排気通路2b→第3排気通路2c→触媒3へと流れる通常の運転状態として本処理を終了する。
【0028】
これにより、エンジンの冷態始動時にも排気ガスを効果的に昇温させて高温の排気ガスで触媒3を暖機し、触媒3を早期に活性化することができ、エンジン始動時の早い段階から排気ガスを浄化することが可能となる。
【0029】
以上の触媒暖機制御により触媒3が暖機されて活性化した後は、図5のフローチャートに示す再生制御処理が実行される。次に、この再生制御処理について説明する。
【0030】
この再生制御処理は、触媒3の温度が活性化温度に達し、エンジンの暖機が完了した後に実行され、最初のステップS11において、再生用通路11の開閉バルブ12を開弁して触媒3を通過した高温の排気ガスを、熱交換器5の発熱管21内に導入する。
【0031】
発熱管21の外管23内には、触媒暖機制御による水噴霧で生成された水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が存在しており、この水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が排気ガス中の二酸化炭素(CO2)を吸収して、以下の(2)式に示すように、炭酸カルシウム(CaCO3)となる。
Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O …(2)
【0032】
更に、炭酸カルシウムは、以下の(3)式に示すように、排気ガスの熱により、酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)に分解され、酸化カルシウム(CaO)を再生して発熱管21内の状態を、触媒暖機制御実行前の状態に戻すことができる。尚、このとき、高温(700〜900°C程度)の排気ガスが必要であるため、エンジンのリッチ燃焼や点火時期の遅角化等を実行し、エンジンから排出される排気ガスの温度を通常よりも昇温させることが望ましい。
CaCO3→CaO+CO2 …(3)
【0033】
続くステップS12では、開閉バルブ12を開弁した後の経過時間Tが設定時間Trに達したか否かを調べる。設定時間Trは、発熱管21の経路長や貯蔵する酸化カルシウムの量、運転条件等を考慮して、酸化カルシウムの再生に要する時間を予め設定したものであり、T<Trの場合には、ステップS12からステップS11へ戻り、T≧Trになったとき、ステップS12からステップS13へ進んで再生用通路11の開閉バルブ12を閉弁し、本再生制御処理を終了する。
【0034】
このように本実施の形態においては、触媒担体に発熱材を担持させる必要がないため、既存の触媒を変更することなく触媒の早期活性化を図ることが可能であり、触媒の大型化やコスト増加を招くことなく触媒暖機に必要な熱量を確保してエンジン始動時の早い段階から排気ガスを浄化することが可能となる。しかも、エンジンの冷態始動時のみに熱交換器5を作動させて排気ガスを昇温させるため、構成部品の耐久性を向上させることができる。更に、熱交換5に貯蔵する発熱材22は、水分と反応して発熱すると共に排気ガスによって反応生成物を元の物質に再生可能であるため、資源を有効に再利用することができる。
【0035】
尚、本実施の形態においては、熱交換器5の発熱管21内に貯蔵する発熱材22として、酸化カルシウムを用いる例について説明したが、発熱材としては、水分と反応して発熱し、排気ガスの熱により反応生成物が元の物質に再生し得るものであれば良く、例えば、カルシウム単体又はカルシウム元素を含む他のカルシウム化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属を含む化合物又はアルカリ土類金属を含む化合物であっても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
2 排気通路
3 触媒
4 バイパス通路
5 熱交換器
6 入口側切換バルブ
7 出口側切換バルブ
8 タンク
9 給水通路
10 ポンプ
11 再生用通路
12 開閉バルブ
20 本体ケース
21 発熱管
22 発熱材
23 外管
24 内管
24a 開口孔
30 温度センサ
50 電子制御ユニット
100 排気浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に介装した触媒によって排気ガスを浄化するエンジンの排気浄化装置において、
前記触媒の上流側で前記排気通路から分岐されて排気ガスを前記触媒に導く流路を形成するバイパス通路と、
水分と反応して発熱すると共に排気ガスによって反応生成物を元の物質に再生可能な発熱材を貯蔵し、前記バイパス通路を通過する排気ガスを前記発熱材の反応熱によって加熱する熱交換器と、
前記排気通路と前記バイパス通路との接続部に介装され、排気ガスの流路を前記排気通路と前記バイパス通路との何れか一方に切換える切換バルブと、
前記触媒を通過した排気ガスを前記熱交換器に導く再生用通路に介装されて、前記再生用通路を開閉する開閉バルブと、
前記触媒の温度が活性化温度未満のとき、前記切換バルブにより排気ガスの流路を前記バイパス通路に切換えると共に、前記発熱材に水分を供給して反応熱により排気ガスを昇温させて前記触媒を早期活性化させる排気昇温制御を実行し、前記触媒の温度が活性化温度以上になった後は、適宜前記開閉バルブを開いて前記触媒を通過した排気ガスを前記熱交換器に導入し、前記水分との反応による反応生成物を元の物質に再生する再生制御を実行する制御部と
を備えることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
前記熱交換器は、前記発熱材を貯蔵する外管と、この外管内に挿通されて前記発熱材に水分を噴霧する開口孔を有する内管との2重構造で形成される発熱管を備え、前記外管の外周壁面に前記バイパス通路を流れる排気ガスが接触し、前記外管内に前記触媒を通過した排気ガスが前記開閉バルブを介して導入されることを特徴とする請求項1記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記発熱材は、酸化カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219660(P2012−219660A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83848(P2011−83848)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】