説明

エンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造

【課題】スタッドボルトへの、曲がり変形の発生を有効に防止して、スタッドボルトの破断耐久性を大きく向上させる、エンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造を提供する。
【解決手段】スタッドボルト5の延在方向の中間部に設けた大径部5aの位置より下端側5bをエンジン側ブラケット4に螺合固定するとともに、スタッドボルト5の大径部5aの位置より上端部側5cを上取付部材1に締付け固定することで、エンジン側ブラケット4を上取付部材1に連結する、吊下げタイプのエンジンマウントへのエンジン側ブラケット4の連結構造であって、スタッドボルト5の大径部5aの、エンジン側ブラケット4との対向面の中央域に、相互の対向面から遠去かる向きに窪む窪み面7を設け、その窪み面7の周縁を対向面に線もしくは面接触させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体側部材に対して、エンジン側ブラケット、ひいては、エンジンを吊下げ支持するタイプのエンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造に関するものであり、とくには、エンジン側ブラケットおよび、それに螺合固定されるスタッドボルトの加工精度等のいかんにかかわらず、たとえばエンジン振動等に起因する、スタッドボルトへの曲げ変形の発生を抑制して、スタッドボルトの耐久性を向上させる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
車体側部材に対してエンジンを吊下げ支持する、従来のこの種のエンジンマウントとしては、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
これは、「板状の鉄板のプレス加工品からなる上取付金具及び下取付金具と、それらの間に上下向きに介装されて、上端部と下端部とがそれぞれ上取付金具、下取付金具に加硫接着されたブロック状のゴム弾性体からなる一対のゴム脚とを有して」なるものであり、かかるエンジンマウントは、下取付金具によってそれを車体側に取付ける一方、エンジン側に締結固定されるエンジン側ブラケットから上向きに突出するスタッドボルトを、上取付金具に挿通させてそこにナットをねじ込んで、エンジン側ブラケットを上取付金具に締付固定することで使用に供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−185201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この従来技術では、スタッドボルトが、延在方向の中間部分に大径部を有しており、このスタッドボルトの、エンジン側ブラケットへの螺合固定位置を、エンジン側ブラケットの上端面と、スタッドボルトの大径部下端面との当接によって特定することとしているも、図5に縦断面図で模式的に例示するように、多くは、アルミニウム鋳製品からなるエンジン側ブラケットEBの、鋳造鋳肌になる上端面USには平面度のばらつきが大きく、これがため、前記、大径部ENの座面となるその上端面USと、スタッドボルトSTの大径部ENの、たとえば、鍛造面、機械加工面等からなる下端面LSとを正確に面接触させることが困難になる場合がしばしばあり、たとえば、図5に例示するように、スタッドボルトSTの大径部ENの中央部だけが、エンジン側ブラケットBEの上端面USに当接するときは、エンジンの、主には水平方向の振動が、エンジン側ブラケッチEBを介してスタッドボルトSTに入力されるに当り、そのスタッドボルトSTが、エンジン側ブラケットEBの上端面USと、大径部ENの下端面LSとの間の隙間に相当する角度範囲θにわたって曲がり変形されることがあり、このような曲がり変形の繰返しの発生に起因するスタッドボルトSTの疲労によって、それが、大径部ENの下面側位置で、比較的早期に破断することになるという問題があった。
【0006】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決するものであり、それの目的とするところは、たとえば、エンジン側ブラケットの上端面と、スタッドボルトの大径部下端面とを、十分な面積にわたって正確に面接触させることができない場合であっても、スタッドボルトへの、上述したような曲がり変形の発生を有効に防止して、スタッドボルトの破断耐久性を大きく向上させる、エンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のエンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造は、上下の取付部材の相互を本体ゴムで連結してなるエンジンマウントの、車体側に連結される下取付部材および、エンジン側に連結される上取付部材のそれぞれに貫通して延在するスタッドボルトの、延在方向の中間部に設けた、たとえばフランジとすることができる大径部の位置より下端側をエンジン側ブラケットに螺合固定するとともに、スタッドボルトの、大径部の位置より上端部側を上取付部材に連結する、吊下げタイプのエンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造であって、スタッドボルトの大径部と、エンジン側ブラケットとの対向面の少なくとも一方の中央域に、相互の対向面から遠ざかる向きに窪む窪み面を設け、少なくとも一方の窪み面の周縁を対向面に線もしくは面接触させてなるものである。
【0008】
ところで、前記窪み面の全体は、所要に応じた適宜の形態を有するものとできることはもちろんであるが、好ましくは、その窪み面を球面曲線形状とする。
【発明の効果】
【0009】
この連結構造において、スタッドボルトの大径部の中央域に窪み面を設けて、その窪み面の周縁を、エンジン側ブラケットに線もしくは面接触させた場合は、そのスタッドボルトへの、従来技術で述べたような水平方向等の振動の入力に対し、スタッドボルトはその入力を、大径部の窪み面周縁によって支持することで、あたかも、ボルト径を太くした如くの曲げ変形抗力を発揮できることになるので、スタッドボルトの曲がり変形を有効に防止して、スタッドボルトの破断耐久性を大きく向上させることができる。
【0010】
この一方で、エンジン側ブラケットの中央域に窪み面を設けて、その窪み面の周縁を、スタッドボルトの大径部の下面に線もしくは面接触させた場合は、エンジン側ブラケットからスタッドボルトへの水平方向等の振動入力を、エンジン側ブラケットの窪み面周縁を介して、上述したように、スタッドボルトに、ボルト径を太くした如くの曲げ抗力を発揮させて、スタッドボルトの曲がり変形を有効に防止することができる。
【0011】
そしてこのことは、スタッドボルトの大径部の中央域および、エンジン側ブラケットの中央域および、エンジン側ブラケットの中央域の両者に窪み面を設けて、一方の窪み面周縁を、他方の窪み面に、または、両者の窪み面周縁を相互に線もしくは面接触させた場合にも同様である。
【0012】
ところで、窪み面の形態は、テーパ状、角錐状等の所要のものを適宜に選択できることはもちろんであるが、それを球面曲線形状とするときは、窪み面を簡易にかつ常に正確に形成することができ、しかも、スタッドボルトの、エンジン側ブラケットへの締め込みに当って、対向面に接触する、窪み面の周縁が、その締め込みの妨げとなることもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の要部を示す拡大断面図である。
【図3】スタッドボルトの拡大図である。
【図4】他の実施形態を示す、図2と同様の断面図である。
【図5】従来技術を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示す縦断面図において、図中1は上取付部材を、2は下取付部材をそれぞれ示し、3は、それらの両取付部材1,2に加硫接着等されて、それぞれの両取付部材1,2を連結する本体ゴムを示す。
ここでは、これらの両取付部材1,2と本体ゴム3とがエンジンマウントを構成する。
また図中4は、図示しないエンジンに連結されるエンジン側ブラケットを、そして5は、上下の取付部材1,2に貫通して延在するスタッドボルトをそれぞれ示す。
【0015】
ここで、このスタッドボルト5は、延在方向の中間に、たとえば、締め込み工具の掛合部を設けることを可とする大径部5a、図ではフランジを有する。
そしてここでは、大径部5aより下端側の雄ねじ部分5bを、エンジン側ブラケット4に螺合させて締付け固定する一方で、スタッドボルト5の大径部5aより上端側の雄ねじ部分5cをそこに螺合させたナット6によって上取付部材1に締付け固定することにより、エンジンブラケット4を、スタッドボルト5で上取付部材1に連結する。
【0016】
なおここでは、エンジンマウントの下取付部材2を、たとえばブラケットを介して車体に連結し、そして、上取付部材1から吊下したエンジン側ブラケット4をエンジンに連結することにより、エンジンは、エンジンマウントに吊下げ支持されることになる。
【0017】
エンジン側ブラケット4の前述したような連結構造において、ここでは、スタッドボルト5の大径部5aの下端面と、エンジン側ブラケット4の上端面との対向面間で、スタッドボルト5の大径部5aの下端面中央域に、図2に拡大断面図で示すところから明らかなように、エンジン側ブラケット4の上端面から遠去かる向きに窪む窪み面7、好ましくは、球面曲線形状の窪み面7を設け、そして、この窪み面7の周縁を、エンジン側ブラケット4の上端面に、その上端面の加工精度等のいかんにかかわらず、線もしくは面接触させる。
【0018】
これによれば、エンジン側ブラケット4に連結したエンジンの水平振動等が、そのブラケット4からスタッドボルト5に入力される場合、その入力は、エンジン側ブラケット4の上端面に接触する、スタッドボルト5の窪み面周縁によって有効に支持されることになって、スタッドボルト5の、従来技術で述べたような曲がり変形は有効に阻止されるので、スタッドボルト5の破断耐久性は大きく向上されることになる。
【0019】
ところで、この場合のエンジンの水平振動等は、スタッドボルト5から、上取付部材1を介して本体ゴム3に入力され、その本体ゴム3の変形によって、車体に対して十分に絶縁されるとともに、吸収されることになる。
【0020】
ここで、スタッドボルト5の大径部5aの下端面に形成される窪み面7の最大深さは、たとえば、図3に一部を破断除去した拡大図で示すように、0.1〜0.2mmの範囲とすることができる。
【0021】
なお、上述したような窪み面は、図4(a)に拡大断面図で例示するように、スタッドボルト5の大径部5aに形成することに代えて、エンジン側ブラケット4の上端面に設け、そして、その窪み面の周縁を、スタッドボルト5の大径部5aの端面に線もしくは面接触させることもでき、また、図4(b)に例示するように、スタッドボルト5の大径部下端面および、エンジン側ブラケット4の上端面のそれぞれに形成し、そして、一方の窪み面の周縁を他方の窪み面それ自体に、または、図示のように、両窪み面のそれぞれの周縁どうしを相互に接触させることもでき、図4に示すこれらのいずれの場合にあっても、窪み面周縁の、対向端面への接触に基き、スタッドボルト5の曲がり変形を有効に防止して、スタッドボルト5の破断耐久性を大きく向上させることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 上取付部材
2 下取付部材
3 本体ゴム
4 エンジン側ブラケット
5 スタッドボルト
5a 大径部
5b 下端側雄ねじ部分
5c 上端側雄ねじ部分
6 ナット
7 窪み面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下の取付部材の相互を本体ゴムで連結してなるエンジンマウントの、車体側に連結される下取付部材および、エンジン側に連結される上取付部材のそれぞれに貫通して延在するスタッドボルトの延在方向の中間部に設けた大径部の位置より下端側をエンジン側ブラケットに螺合固定するとともに、スタッドボルトの大径部の位置より上端部側を上取付部材に締付け固定することで、エンジン側ブラケットを上取付部材に連結する、吊下げタイプのエンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造であって、
スタッドボルトの大径部と、エンジン側ブラケットとの対向面の少なくとも一方の中央域に、相互の対向面から遠ざかる向きに窪む窪み面を設け、少なくとも一方の窪み面の周縁を対向面に線もしくは面接触させてなるエンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造。
【請求項2】
窪み面を球面曲線形状としてなる請求項1に記載のエンジンマウントへのエンジン側ブラケットの連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−122612(P2011−122612A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278650(P2009−278650)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】