説明

エンジンルーム用インシュレータ

【課題】自動車のエンジンからの熱や音に対し断熱性や吸音性を良好に発揮し得るのは勿論のこと、エンジンからの熱に対し十分な耐熱性を確保し得るエンジンルーム用インシュレータを提供する。
【解決手段】アウターインシュレータ50は、多孔質材料からなる基層51に表皮層52を積層して構成されている。表皮層52は、特殊酸化アクリル系繊維材料をポリエステル繊維材料に対し80(%)の割合となるように混ぜてスパンレース加工を施してなるスパンレース不織布でもって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンルーム内において配設されるエンジンルーム用インシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジンルーム内の温度は、一般的には、エンジンからの熱のために、200(℃)以上の高温に上昇することが知られている。従って、エンジンルーム内で用いられるインシュレータに対しては、当然のことながら、エンジンルーム内で高温を招くエンジンからの熱に対し、十分な耐熱性を発揮することが要請される。
【0003】
これに対しては、エンジンルーム用インシュレータの一例として、下記特許文献1に記載の自動車用エンジンカバーが挙げられる。このエンジンカバーは、キャブオーバー型自動車のエンジンの収納室内からその上部パネルに装着されるグラスウールマットと、このグラスウールマットにエンジン側から貼着される表皮材としてのアルミニウム箔とによって構成されている。
【特許文献1】特願昭63−18010号公告公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したエンジンカバーにおいて、表皮材としてガラスクロスに貼着されているアルミニウム箔は、金属であることから、エンジンからの熱によるエンジンルーム内の高温に対し耐熱性を発揮し得る。
【0005】
しかしながら、アルミニウム箔は、当然のことながら極めて薄く、しかも、伸縮性に欠ける。このため、当該アルミニウム箔は、グラスウールマットの成形形状に追従しにくい。従って、アルミニウム箔のグラスウールマットに対する貼着作業を円滑に行うことが困難である。また、上述の貼着作業中或いはエンジンカバーの完成後において、割れや皺がアルミニウム箔に生じた場合、当該割れや皺の補修に手間がかかるだけでなく、補修しなければ、アルミニウム箔としての耐熱性が損なわれる。
【0006】
以上によれば、上記エンジンカバーは、エンジンからの熱や音に対しては、断熱性や吸音性を発揮し得るとしても、当該エンジンカバーは、アルミニウム箔でもって表皮材を形成するために、十分な耐熱性を有するエンジンカバーとしては、円滑には製造或いは補修しにくいという不具合を生ずる。このような不具合は、アルミニウム箔に限ることなく、金属箔であっても同様である。
【0007】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、自動車のエンジンからの熱や音に対し断熱性や吸音性を良好に発揮し得るのは勿論のこと、エンジンからの熱に対し十分な耐熱性を確保し得るエンジンルーム用インシュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、エンジンルーム用インシュレータの十分な耐熱性を確保し得る材料として、少なくともアルミニウム箔等の金属箔と同様の役割を果たし得る材料につき種々検討を加えてみた。その結果、本発明者は、耐熱性有機繊維材料を利用した不織布を活用すれば、少なくともアルミニウム箔等の金属箔と同等の耐熱性をインシュレータに発揮させ得ることを見出した。なお、上述の不織布は、インシュレータとしての吸音性及び断熱性を発揮し得るのは勿論である。
【0009】
このような前提のもと、本発明に係る自動車のエンジン用インシュレータは、請求項1の記載のように、多孔質材料からなる基層(51、71)と、この基層に積層してなる表皮層(52、72)とを備える。そして、当該インシュレータにおいて、表皮層は、耐熱性有機繊維材料を不織布用繊維材料に混ぜてなる混合材料の繊維を交絡させた不織布でもって形成されていることを特徴とする。
【0010】
これにより、当該インシュレータが、その表皮層でもって、自動車のエンジンルーム内にて、エンジン側に向くように配設される場合、エンジンから生ずる熱は、放射熱として、インシュレータにその表皮層から入射することとなる。
【0011】
ここで、インシュレータの表皮層は、上述のごとく、耐熱性有機繊維材料を不織布用繊維材料に混ぜてなる混合材料の繊維を交絡させた不織布でもって形成されている。
【0012】
従って、エンジンからの熱がエンジンルーム内の温度を高温にするような放射熱であっても、インシュレータは、その表皮層でもって、不織布中の耐熱性有機繊維材料の断熱作用のもと、断熱性を良好に確保し得るのは勿論のこと、良好な耐熱性を確保し得る。また、不織布は、多孔質材料と同様に吸音性を有するから、インシュレータは、エンジンルーム内のエンジンの音等の騒音に対し良好な吸音性を確保し得るのは勿論である。
【0013】
なお、請求項1の記載において、不織布に撥水処理を施せば、エンジンルーム内に雨水等の水分が浸入しても、上記水分のインシュレータ内への浸入を表皮層により阻止しつつ、上述の作用効果を達成することができる。
【0014】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の自動車のエンジン用インシュレータにおいて、エンジンを収容してなるエンジンルーム(10)と車室(20)とを区画するダッシュボード(30)に対し、表皮層をエンジン側に向けるようにして、エンジンルーム内からアウターインシュレータ(50)として配設されることを特徴とする。
【0015】
これによれば、当該アウターインシュレータは、請求項1に記載のインシュレータと同様に、断熱性及び吸音性を確保し得るのは勿論のこと、耐熱性を確保し得る。このため、当該アウターインシュレータは、エンジンの熱を車室の内部から良好に断熱するとともにエンジンルーム内のエンジンの音等の騒音から車室の内部を防音しつつ、エンジンからの熱に対し良好な耐熱性を維持し得る。
【0016】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1に記載の自動車のエンジン用インシュレータにおいて、エンジンを収容してなるエンジンルーム(10)の開口部に開閉可能に設けたフード(11)に対し、前記表皮層を前記エンジン側に向けるようにして、前記エンジンルーム内からフードインシュレータ(70)として配設されることを特徴とする。
【0017】
これによれば、当該フードインシュレータは、請求項1に記載のインシュレータと同様に、断熱性及び吸音性を確保し得るのは勿論のこと耐熱性を確保し得る。このため、フードインシュレータは、エンジンからの熱を車外から良好に断熱するとともにエンジンルーム内のエンジンの音等の騒音を車外から良好に防音しつつ、エンジンからの熱に対し良好な耐熱性を維持し得る。
【0018】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動車のエンジン用インシュレータにおいて、上記不織布は、上記混合材料に対しスパンレース加工を施すことで、スパンレース不織布として形成されていることを特徴とする。
【0019】
これによれば、表皮層としてのスパンレース不織布が、スパンレース加工のもと、高圧水流を混合材料に対し噴出させて形成される。従って、例えば、ニードルパンチ加工のもと、ニードルを混合材料に対し刺すことで表皮層としての不織布を形成する場合に比べれば、スパンレース加工によるスパンレース不織布の加工は速い加工処理を可能としつつ、請求項1〜3のいずれか1つの記載の発明と同様の作用効果を達成することができる。
【0020】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1〜4のいずれか1つに記載の自動車のエンジン用インシュレータにおいて、
基層は、上記多孔質材料の目付量を300(g/m2)〜2000(g/m2)の範囲以内の目付量として、2(mm)〜40(mm)の範囲以内の厚さを有するように形成されており、
上記混合材料は、上記不織布用繊維材料及び上記耐熱性有機繊維材料を、それぞれ、ポリエステル繊維材料及び特殊酸化アクリル系繊維材料とし、この特殊酸化アクリル系繊維材料の上記ポリエステル繊維材料に対する割合を50(%)以上とし、かつ、10(デシテックス)以下の太さの繊維からなるとともに30(g/m2)〜150(g/m2)の範囲以内の目付量を有することを特徴とする。
【0021】
これによれば、混合材料において、特殊酸化アクリル系繊維材料がポリエステル繊維材料に対し50(%)以上となるように含有されることとなる。従って、基層の表面温度が200(℃)を超えて上昇しても、ポリエステル繊維材料が融けたりすることがなく、基層の外観が良好に維持され得る。
【0022】
また、上述のごとく、混合材料、換言すれば、ポリエステル繊維材料及び特殊酸化アクリル系繊維材料の各繊維は、10(デシテックス)以下の太さを有する。これにより、混合材料の外面にトリミング処理を施したとき、繊維の切れが良好となり、当該混合材料を不織布として加工したとき、表皮層の外観が良好に維持され得る。
【0023】
また、上述のごとく、混合材料の目付量、換言すれば、ポリエステル繊維材料及び特殊酸化アクリル系繊維材料の各目付量の和は、30(g/m2)〜150(g/m2)の範囲以内である。これにより、表皮層の軽量化を確保しつつ、混合材料における繊維の交絡が良好に確保され得る。このことは、表皮層の軽量化及び強度が良好に維持され得ることを意味する。
【0024】
なお、基層は、上記多孔質材料の目付量を300(g/m2)〜2000(g/m2)の範囲以内の目付量として、2(mm)〜40(mm)の範囲以内の厚さを有するように形成されている。これにより、基層の軽量化を確保しつつ、当該基層の吸音性を確保し得る。
【0025】
以上のような作用効果の相乗的な作用によれば、軽量化、吸音性及び断熱性に加え、耐熱性をも含め、総合的に、良好に確保し得るインシュレータの提供が可能となる。
【0026】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形状に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の各実施形態を図面により説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明がセダン型自動車に適用されてなる第1実施形態を示している。当該自動車は、エンジンルーム10及び車室20を備えており、車室20は、当該自動車の車体において、エンジンルーム10に後続するように設けられている。エンジンルーム10は、その上側開口部にて、フード11(ボンネット11ともいう)により上下方向へ傾動可能に閉鎖されており、このエンジンルーム10内には、エンジンEが配設されている。
【0028】
当該自動車は、ダッシュボード30(ダッシュパネル30ともいう)、インナーインシュレータ40及びアウターインシュレータ50を備えている。ダッシュボード30は、エンジンルーム10と車室20との境界に設けられて、これらエンジンルーム10及び車室20を相互に区画している。なお、ダッシュボード30は、図1にて示すごとく、その中央部から上下両側部を前後方向へ上下に傾斜状に屈曲するように延出させて形成されている。
【0029】
インナーインシュレータ40は、図1にて示すごとく、ダッシュボード30の屈曲形状に沿う形状を有するように形成されており、このインナーインシュレータ40は、その前面にて、車室20内側から、ダッシュボード30の後面に沿い装着されている。なお、図1において、各符号S及びPは、それぞれ、運転席及びインストルパネルを示す。
【0030】
アウターインシュレータ50は、図1にて示すごとく、ダッシュボード30の屈曲形状に沿う形状を有するように形成されており、このアウターインシュレータ50は、その後面にて、エンジンルーム10内側から、ダッシュボード30の前面に沿い装着されている。
【0031】
当該アウターインシュレータ50は、図2にて拡大して示すごとく、基層51及び表皮層52を有している。基層51は、ダッシュボード30の屈曲形状に沿う形状となるように、所定の厚さ(例えば、20(mm))にて、多孔質材料により形成されており、この基層51は、ダッシュボード30の前面に沿い装着されている。本第1実施形態において、上記多孔質材料としては、所定の目付量(例えば、1000(g/m2))を有するフェノール系レジンフェルトが採用されている。
【0032】
表皮層52は、基層51の屈曲形状に沿う形状となるように、所定の厚さ(例えば、目付量50(g/m2)に対応する厚さ)にて、スパンレース不織布により形成されており、この表皮層52は、その後面にて、基層51の前面に沿い装着されて、エンジンEに対向している。
【0033】
本第1実施形態において、上述したスパンレース不織布の原材料(以下、混合材料ともいう)は、耐熱性有機繊維材料の1種である特殊酸化アクリル系繊維材料を、不織布用繊維材料の1種であるポリエステル繊維材料に含有させるとともにこれら特殊酸化アクリル系繊維材料及びポリエステル繊維材料を均一に混ぜて構成されている。
【0034】
本第1実施形態では、上記混合材料において、特殊酸化アクリル系繊維材料がポリエステル繊維材料に対し所定の割合(例えば、80(%))となるように当該ポリエステル繊維材料に含有されている。また、上述した特殊酸化アクリル系繊維材料は、300(℃)以下の温度に対し耐熱性を確保し得るように、特殊アクリル系繊維材料を焼成して成形したもので、この特殊酸化アクリル系繊維材料及びポリエステル繊維材料の総目付量は、50(g/m2)である。また、当該特殊酸化アクリル系繊維材料としては、東邦テナックス株式会社製パイロメックス(商品名)が採用されている。
【0035】
また、本第1実施形態において、上述のスパンレース不織布は、次のようにして形成されている。即ち、上記混合材料をウェブ化して、このようにウェブ化した混合材料にウォータージェット方法(スパンレース加工方法)を施して当該混合材料の各繊維を相互に交絡させて形成されている。具体的には、上述のウェブ化した混合材料に対しその両面の少なくとも一方から当ニードル状の高圧水流を噴射することで、上記混合材料の各繊維を相互に良好に交絡させてスパンレース不織布として形成されている。さらに、当該スパンレース不織布には撥水処理が施されている。
【0036】
なお、図1において、符号60は、フードインシュレータを示しており、このフードインシュレータ60は、両支持部材61を介し、エンジンルーム10内からフード11に支持されている。
【0037】
以上のように構成した本第1実施形態において、エンジンEから生ずる熱は、放射熱として、アウターインシュレータ50にその表皮層52から入射することとなる。ここで、上述のごとく、アウターインシュレータ50の表皮層52は、上述したスパンレース不織布により形成されている。このスパンレース不織布の原材料(混合材料)に含有される特殊酸化アクリル系繊維材料は、上述のごとく、十分な耐熱性を有するように特殊アクリル系繊維材料を焼成したものであるから、当該スパンレース不織布は、エンジンルーム10内の温度を200(℃)以上の高温に上昇させるようなエンジンEからの熱に対して、十分な耐熱性を発揮し得る。
【0038】
従って、アウターインシュレータ50は、上述のように、基層51にスパンレース不織布からなる表皮層52を積層して構成するのみであるから、従来技術にて述べたアルミニウム箔等の金属箔を表皮層として用いることなく当該金属箔を用いた場合に生ずる不具合を確実に解消しつつ、エンジンルーム10内の温度を200(℃)以上の高温に上昇させるようなエンジンEからの熱に対して、十分な耐熱性を確保し得る。
【0039】
ここで、表皮層52を形成するスパンレース不織布は、上述のごとく混合材料に対しスパンレース加工を施すことで形成されている。従って、例えば、ニードルパンチ加工方法によりニードルを混合材料に対し刺すことで表皮層52を形成する場合に比べて、スパンレース加工により混合材料に対し高圧水流を噴出させて表皮層52を形成する方が、速く加工処理を行うことができる。また、ニードルパンチ加工による場合には、混合材料の目付量が80(g/m2)以上である必要があるのに対し、スパンレース加工による場合は、混合材料の目付量が、上述のごとく、50(g/m2)と少なくてもよいため、低コストで済む。
【0040】
また、上記混合材料は、上述のごとく、特殊酸化アクリル系繊維材料をポリエステル繊維材料に対し80(%)含有させるとともに均一に混ぜるように構成されているから、表皮層52の表面温度(エンジンE側の温度)が200(℃)以上に上昇しても、ポリエステル繊維材料が融けることがなく、表皮層52の外観が良好に維持され得る。
【0041】
また、上記混合材料においては、特殊酸化アクリル系繊維材料がポリエステル繊維材料に対し80(%)の割合で含有されるとともに、繊維が均一に交絡するように処理されているから、スパンレース不織布としての強度が良好に確保され得る。従って、表皮層が基層から脱落等することがない。
【0042】
また、上述の混合材料の目付量は、50(g/m2)であるから、スパンレース加工による各繊維の交絡が良好に確保される。従って、このように良好に繊維の交絡を確保した混合材料を用いて、上述のようにスパンレース不織布を形成することで、当該スパンレース不織布からなる表皮層52の強度が十分に維持され得る。その結果、アウターインシュレータ50の原形状及び外観が良好に維持され得る。
【0043】
また、上述したごとく、混合材料(特殊酸化アクリル系繊維材料及びポリエステル繊維材料)の各繊維の太さは、2(デニール)である。従って、特殊酸化アクリル系繊維材料をポリエステル繊維材料に混ぜて混合材料とした後にこの混合材料の外面にトリミング処理を施しても、各繊維の切れが良好となる。その結果、当該混合材料をスパンレース不織布として加工したときには、当該スパンレース不織布の外観、換言すれば、表皮層52の外観が良好に確保され得る。
【0044】
また、表皮層52は、上述のごとくスパンレース不織布で形成されているから、当該表皮層52は、多孔質材料と同様に吸音性を有する不織布からなることに変わりはない。このため、当該表皮層52は、上述のようなスパンレース不織布のもと、良好な吸音性を発揮し得る。
【0045】
また、上述のごとく、スパンレース不織布には撥水処理が施されているから、アウターインシュレータ50は、表皮層52によりその前面にて、エンジンルーム10内に浸入する雨水を確実に反射し得る。従って、エンジンルーム10内に浸入した雨水が、ダッシュボード30を介し車室20内に浸入することはない。
【0046】
また、基層51を構成するフェノール系レジンフェルトは多孔質材料の1種であり、かつ、当該基層51の厚さは、上述のごとく、20(mm)であるから、基層51としての吸音性を良好に発揮するに十分な厚さである。従って、アウターインシュレータ50は、基層51及び表皮層52の各吸音性の相乗効果でもって、エンジンルーム10内に生ずるエンジンEの音その他の騒音を良好に吸音し得る。
【0047】
以上のような各作用効果が相乗的に作用することにより、軽量化、吸音性及び断熱性に加え、耐熱性をも含め、総合的に、良好に確保し得るアウターインシュレータ50の提供が可能となる。
【0048】
ちなみに、本第1実施形態にて述べたアウターインシュレータ50に対応する試料に加え、比較例をも準備して、上記試料の断熱特性につき、上記比較例との対比において調べてみた。ここで、上記試料は、図3にて示すごとく、基層1及び表皮層2を積層して構成されており、これら基層1及び表皮層2は、外形形状を除き、それぞれ、アウターインシュレータ50の基層51及び表皮層52と同様の構成を有する。また、上記比較例は、図4にて示すごとく、基層3及び表皮層4を積層して構成されており、基層3は、基層1と同様の構成を有する。但し、表皮層4は、アルミニウム箔でもって構成されている。
【0049】
しかして、上記試料及び上記比較例を、その各表面(各表皮層2、4の表面)にて、同一の温度雰囲気に晒すように配設して、上記試料及び上記比較例の各表面温度(各表皮層2、4の表面温度)及び各裏面温度(各基層1、3の裏面温度)を測定してみた。なお、上記表面温度及び裏面温度は、それぞれ、アウターインシュレータ50の表皮層52の前面温度及び基層51の後面温度に対応する。
【0050】
また、上述の測定にあたり、上記温度雰囲気の温度を、150(℃)、200(℃)、250(℃)及び300(℃)に調整した。また、上記表面温度の測定は、上記試料及び
上記比較例の各表面を上記温度雰囲気に30(分)の間晒した後に行った。これは、上記試料及び上記比較例の熱伝導性を考慮したものである。
【0051】
これによれば、次の表1及び表2にて示す結果が得られた。表1は、上記試料の測定結果を表し、また、表2は、上記比較例の測定結果を表す。なお、表1において、表面温度及び裏面温度は、上記試料の表面の温度及び裏面の温度を示し、表裏面温度差は、上記試料の表面温度と裏面温度との差を示す。また、表2において、表面温度及び裏面温度は、上記比較例の表面の温度及び裏面の温度を示し、表裏面温度差は、上記比較例の表面温度と裏面温度との差を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
これら両表1及び表2を対比してみると、表面温度150(℃)、200(℃)、250(℃)及び300(℃)毎に、上記試料の裏面温度及び表裏面温度差は、それぞれ、上記比較例の裏面温度及び表裏面温度差と殆ど同じであることが分かる。
【0055】
その結果、上記試料の表皮層2の形成材料を、上記比較例の表皮層3の形成材料であるアルミニウム箔とは異なり、スパンレース不織布としても、上記試料は、上記比較例と実質的に同様の断熱特性を発揮し得ることが分かる。
【0056】
また、上述した混合材料において、ポリエステル繊維材料が特殊酸化アクリル系繊維材料を含む割合につき、当該割合を変えて調べてみたところ、ポリエステル繊維材料が特殊酸化アクリル系繊維材料を含む割合が、50(%)未満である場合、このような割合の混合材料を用いて形成したスパンレース不織布の表面温度、換言すれば、上記試料の基層の表面温度が200(℃)を超えて上昇したとき、上記ポリエステル繊維材料が融けて上記試料の基層の外観不良を招く。従って、上述したポリエステル繊維材料が特殊酸化アクリル系繊維材料を含む割合は、50(%)以上であればよいことが分かった。これによれば、基層の表面温度が200(℃)を超えて上昇しても、ポリエステル繊維材料が、特殊酸化アクリル系繊維材料により熱的に保護されて融けることがなく、その結果、基層の外観が良好に維持され得る。
【0057】
また、上述した混合材料の目付量について種々変更して調べてみたところ、当該目付量が30(g/m2)未満であると、上述のようにウェブ化した混合材料にスパンレース加工を施しても、繊維の交絡が少なく、スパンレース不織布としての強度が維持され得ない。また、混合材料の目付量が、150(g/m2)よりも増大すると、スパンレース不織布の重量が多くなって、アウターインシュレータ50の軽量化に支障をきたす。従って、上述した混合材料の目付量は、30(g/m2)以上で150(g/m2)以下であればよいことが分かった。
【0058】
また、上述した混合材料の繊維の太さについて種々変更して調べてみたところ、当該繊維が10(デシテックス)よりも太くなると、混合材料の外面にトリミング処理を施したとき、繊維の切れが悪化する。従って、当該混合材料をスパンレース不織布として加工したとき、当該スパンレース不織布の外観、換言すれば、表皮層52の外観不良を招く。よって、混合材料の繊維の太さは、10(デシテックス)以下であればよいことが分かった。これによれば、混合材料の外面にトリミング処理を施したとき、繊維の切れが良好となり、当該混合材料をスパンレース不織布として加工したとき、表皮層の外観が良好に維持され得る。
【0059】
また、基層51を構成する上述のフェノール系レジンフェルトの厚さ及び目付量について種々調べたところ、フェノール系レジンフェルトの厚さが2(mm)未満では、吸音性を確保できない。また、フェノール系レジンフェルトが40(mm)よりも厚くなると、アウターインシュレータ50の軽量化に支障をきたす。従って、上述のフェノール系レジンフェルトの厚さは、2(mm)以上で40(mm)以下であればよいことが分かった。
【0060】
また、上述のフェノール系レジンフェルトの目付量は、300(g/mm)未満では、良好な吸音性を確保できず、2000(g/mm)よりも多ければ、アウターインシュレータ50の軽量化に支障をきたす。従って、上述のフェノール系レジンフェルトの目付量は、300(g/mm)以上で2000(g/mm)以下であればよいことが分かった。
【0061】
その結果、本実施形態にて述べたアウターインシュレータ50であれば十分であることが分かる。
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態の要部を示している。この第2実施形態では、フードインシュレータ70が、上記第1実施形態において、フードインシュレータ60に代えて採用されている、
当該フードインシュレータ70は、基層71と、表皮層72を備えている。基層71は、上記第1実施形態にて述べたアウターインシュレータ50の基層51の形成材料を用いて、平板状に形成されており、この基層71は、その上面にて、上記第1実施形態にて述べた両支持部材61(図1参照)を介し、エンジンルーム10内からフード11に支持されている。
【0062】
表皮層72は、上記第1実施形態にて述べたアウターインシュレータ50の表皮層52の形成材料であるスパンレース不織布により、平板状に形成されており、当該表皮層72は、その上面にて、基層71の下面に沿い貼着されている。その他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0063】
このように構成した本第2実施形態では、フードインシュレータ70が、上記第1実施形態にて述べたアウターインシュレータ50の形状を除き、当該アウターインシュレータ50と同様に形成されている。このため、フードインシュレータ70は、アウターインシュレータ50と同様に、軽量性、断熱性及び吸音性を確保し得るのは勿論のこと、良好な耐熱性を確保し得る。
【0064】
従って、フードインシュレータ70は、表皮層72により、エンジンEの熱を車外から良好に断熱するとともに、基層71及び表皮層72の双方により、エンジンルームE内のエンジンの音等の騒音を車外から良好に防音しつつ、エンジンEからの熱に対し良好な耐熱性を維持し得る。
【0065】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)アウターインシュレータ50において、基層51を形成する多孔質材料は、上記実施形態にて述べた例に限ることなく、上記所定の目付量(例えば、1000(g/m2))を有するグラスウール或いはウレタンであってもよい。
(2)上述した混合材料においてポリエステル繊維材料に含まれる繊維は、特殊酸化アクリル系繊維材料に限ることなく、アラミド繊維材料或いはイミド繊維材料であってもよく、一般的には、耐熱性有機繊維材料であればよい。
(3)上述した混合材料において特殊酸化アクリル系繊維材料を含有するポリエステル繊維材料に代えて、通常のアクリル系繊維、天然繊維、ナイロン繊維或いはポリアミド繊維等の材料を採用してもよく、一般的には、不織布用繊維材料を採用すればよい。
(4)上記第1実施形態において、アウターインシュレータ50に加え、上記第2実施形態にて述べたフードインシュレータ70を採用し、このフードインシュレータ70を、フードインシュレータ60に代えて、フード11に支持するようにしてもよい。これによれば、上記第1及び第2の実施形態にて述べた作用効果の双方が達成され得る。
(5)本発明は、セダン型自動車に限ることなく、ダッシュボードにより車室から区画されるエンジンルームを有する自動車であれば、どのような自動車のエンジンルームに対し適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明がセダン型自動車に適用されてなる第1実施形態を示す模式的部分縦断面図である。
【図2】図1のアウターインシュレータを示す拡大縦断面図である。
【図3】上記第1実施形態における試料を示す縦断面図である。
【図4】上記第1実施形態における比較例を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の要部であるフードインシュレータを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0067】
10…エンジンルーム、11…フード、20…車室、30…ダッシュボード、
50…アウターインシュレータ、51、71…基層、52、72…表皮層、
70…フードインシュレータ、E…エンジン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料からなる基層と、この基層に積層してなる表皮層とを備える自動車のエンジン用インシュレータにおいて、
前記表皮層は、耐熱性有機繊維材料を不織布用繊維材料に混ぜてなる混合材料の繊維を交絡させた不織布でもって形成されていることを特徴とする自動車のエンジン用インシュレータ。
【請求項2】
エンジンを収容してなるエンジンルームと車室とを区画するダッシュボードに対し、前記表皮層を前記エンジン側に向けるようにして、前記エンジンルーム内からアウターインシュレータとして配設されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のエンジン用インシュレータ。
【請求項3】
エンジンを収容してなるエンジンルームの開口部に開閉可能に設けたフードに対し、前記表皮層を前記エンジン側に向けるようにして、前記エンジンルーム内からフードインシュレータとして配設されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のエンジン用インシュレータ。
【請求項4】
前記不織布は、前記混合材料に対しスパンレース加工を施すことで、スパンレース不織布として形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動車のエンジン用インシュレータ。
【請求項5】
前記基層は、前記多孔質材料の目付量を300(g/m2)〜2000(g/m2)の範囲以内の目付量として、2(mm)〜40(mm)の範囲以内の厚さを有するように形成されており、
前記混合材料は、前記不織布用繊維材料及び前記耐熱性有機繊維材料を、それぞれ、ポリエステル繊維材料及び特殊酸化アクリル系繊維材料とし、この特殊酸化アクリル系繊維材料の前記ポリエステル繊維材料に対する割合を50(%)以上とし、かつ、10(デシテックス)以下の太さの繊維からなるとともに30(g/m2)〜150(g/m2)の範囲以内の目付量を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の自動車のエンジン用インシュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−101234(P2010−101234A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272831(P2008−272831)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(509069892)豊和繊維工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】