説明

エンジン制御装置

【課題】無負荷運転の状態で待機中のエンジンの回転数をより低く抑えるために、エンジン負荷の有無を判断するスロットル開度の閾値をエンジン温度に応じて可変にして制御するエンジン制御装置を得る。
【解決手段】エンジンの回転数を一定に保つガバナ制御機構を備え、スロットル開度によってエンジン負荷「有」「無」をそれぞれ判断し、負荷の有無に応じてエンジン回転数を所定の回転数に強制的に変動させるエンジン制御装置において、エンジン1への燃料供給を制御するエンジン制御手段10と、前記エンジン1のエンジン温度を検出するエンジン温度検出手段4と、前記エンジン温度検出手段4で検出したエンジン温度により、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断する閾値である各スロットル開度を可変する閾値可変手段10aを具備して成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無負荷時にエンジンの回転数を自動的に低下させるオートスロットル装置に関し、特に、無負荷運転の状態で待機中のエンジンの回転数を更に低く抑えることが可能なオートスロットル装置におけるエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機等の駆動源として使用される汎用エンジンにおいて、センサ等の手段を使用してエンジンにかかる負荷を検出し、無負荷の時にはエンジン回転数を目標回転数(ローアイドル)に落とすことで、騒音の低減や燃費の向上を行う「オートスロットル機能」が一般的に知られている。
【0003】
また、エンジンの回転数を一定に保つガバナ機構と呼ばれる調整機構に対し、CPUにてスロットル開度を制御する「電子ガバナ」と呼ばれる技術が存在する。この技術を使用してオートスロットル機能を実現する場合、スロットル開度を検出することによりエンジンにかかる負荷を推定し、負荷が小さい場合には設定回転数を下げる手法が知られている。
【0004】
すなわち、電子ガバナでオートスロットル機能を実現する場合、エンジンを始動し暖気を終了させた後、負荷の無い時にはローアイドルと呼ばれる低いエンジン回転数(NEL)になるように電子ガバナの目標回転数を設定する。そして、外部負荷が増大することにより、スロットル開度が予め設定されたスロットル開度の閾値を超えた時には、エンジン負荷「有」と判断し目標回転数を高いエンジン回転数(NEH)に上げることが行われる。
逆に、負荷がなくなることにより、スロットル開度が予め設定されたスロットル開度の閾値より下がった時には、エンジン負荷「無」と判断し目標回転数をローアイドルである低いエンジン回転数(NEL)に下げることが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−229675
【特許文献2】特開2006−170037
【特許文献3】実公平8−11073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したガバナ機構において、例えば発電機用のエンジンの場合、発電機に接続される負荷が電球等の小負荷に対してもエンジンを高回転に維持して発電することが望まれる。そのため、上述のオートスロットル機能を実現する場合、エンジン負荷「有」と判断するスロットル開度の閾値の設定値としては、可能な限り低い値であることが要求される。
しかしながら、電子ガバナによるオートスロットル機能を実現した場合、外気温によるエンジン自体の内部負荷が変動するため、エンジン出力側の外部負荷がない状態でもスロットル開度がばらつくため、負荷の有無を判断するスロットル開度の閾値の設定が困難であるという課題があった。
【0007】
すなわち、外気温が変動すると、エンジン内部の膨張率の差やエンジンオイルの粘度等が変化してエンジンの内部負荷も変動するため、エンジン出力側の負荷が無い状態でも図4(a)に示すように例えばスロットル開度が点線の範囲でばらつくという現象が生じる。このような状態で外部負荷の有無をスロットル開度の閾値で判断するためには、閾値を高めに設定してスロットル開度の変動に対応することが必要となる。
【0008】
また、外部負荷の「無」を判断するスロットル開度の閾値に関しては、図4(b)に示すように本来であればスロットル全開(WOT)から閾値までが外部負荷の使用領域となるため、広い使用領域を確保するために閾値を低く設定できた方がよい。
しかしながら、前記同様に、外気温によるエンジン自体の内部負荷が変動するため、エンジン出力側の外部負荷がない状態に確実にローアイドルとするためには、負荷の有無を判断するスロットル開度の閾値を高めに設定する必要があり、結果として、外部負荷の「負荷無し」を判断するスロットル開度の閾値の設定が困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて提案されたもので、無負荷運転の状態で待機中のエンジンの回転数をより低く抑えるに際し、エンジン負荷の有無を判断するスロットル開度の閾値を容易に設定可能なエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、エンジンの回転数を一定に保つガバナ制御機構を備え、スロットル開度によってエンジン負荷「有」「無」をそれぞれ判断し、負荷の有無に応じてエンジン回転数を所定の回転数に強制的に変動させるエンジン制御装置において、
エンジン(1)への燃料供給を制御するエンジン制御手段(10)と、前記エンジン(1)のエンジン温度を検出するエンジン温度検出手段(4)と、前記エンジン温度検出手段(4)で検出したエンジン温度により、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断する閾値である各スロットル開度を可変する閾値可変手段(10a)とを具備したことを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1のエンジン制御装置において、前記エンジン制御手段(10)は記憶手段(10b)を有し、前記記憶手段(10b)は、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断する各閾値について、エンジン温度に対応する各スロットル開度をプロットして構成されるマップデータを保持して成ることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1のエンジン制御装置において、前記マップデータの各スロットル開度は、エンジン温度が高くなるにしたがって小さい値とすることを特徴としている。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置において、エンジン温度検出手段(4)によるエンジン温度の検出は一定時間毎に行い、閾値可変手段(10a)による可変する閾値を更新することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1によれば、ガバナ機構によるオートスロットル機能を備えたエンジン制御装置において、エンジン負荷「有」「無」を判断するスロットル開度の閾値を決定する場合に、エンジン温度により決まるマップ値から求めるようにしたので、負荷検知の検知精度を向上させることができる。
その結果、軽い外部負荷であってもオートスロットル機構が実現可能となり、適応できる負荷の領域を拡大させることができるとともに、無負荷運転の状態で待機中のエンジンの回転数をより低く抑えることができる。
【0015】
請求項2によれば、マップデータを使用することで、閾値となるスロットル開度を容易に決めることができる。
【0016】
請求項3によれば、マップデータにおいて、エンジン温度が高くなるにしたがってスロットル開度を小さい値とすることで、エンジン温度の変動に適した閾値となるスロットル開度を設定することができる。
【0017】
請求項4によれば、エンジン温度の検出は一定時間毎に行って閾値を常時更新することで、エンジン負荷の「有」「無」を判断する閾値について、常時適したスロットル開度を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置のブロック図である。
【図2】エンジン制御装置における記憶手段に、マップデータとして記憶されているエンジン温度とスロットル開度の関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】エンジン制御装置においてスロットル開度の閾値を設定する手順を示すフローチャート図である。
【図4】(a)(b)は負荷の有無におけるスロットル開度のばらつきの例を説明するための波形図であり、(a)は負荷無から負荷有に変化する場合のスロットル開度波形図、(b)は負荷有から負荷無に変化する場合のスロットル開度波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のエンジン制御装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
本発明のエンジン制御装置は、発電機等の駆動源として用いられる汎用エンジンの制御を行うものであり、エンジンの回転数を一定に保つガバナ制御機構を備え、スロットル開度によってエンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断し、負荷の有無に応じてエンジン回転数を所定の回転数に強制的に変動させる。
【0020】
エンジン制御装置は、エンジン1への燃料供給を制御するエンジン制御手段(ECU)10と、エンジンへの燃料供給通路に設置したスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段2と、エンジン1のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段3と、エンジン1のエンジン温度を検出するエンジン温度検出手段4を具備して構成されている。エンジン制御手段(ECU)10は、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断する閾値である各スロットル開度を可変する閾値可変手段10aと、閾値のマップデータを記憶する記憶手段10bを有している。
【0021】
エンジン制御手段10は、スロットル開度検出手段2、エンジン回転数検出手段3、エンジン温度検出手段4に接続され、これら手段から入力された情報等によりエンジン1への燃料供給を制御するものであり、この燃料供給制御は、エンジン1側に設置されたガバナ制御機構が備えるスロットルバルブ開閉手段でスロットル開度を調整することで行われる。
【0022】
ガバナ制御機構のスロットル開閉手段にはスロットルバルブの駆動源としてステッピングモータが使用され、スロットル開度検出手段2により、ステッピングモータの位置をディジタル的に把握することで、スロットル開度を検出し、スロットル位置をECUのEEPROMに記憶する。
スロットル開度検出手段2は、ステッピングモータの位置の検出に代えて、スロットルポジションセンサ(TPS)と呼ばれるスロットル開度センサを用いてスロットル開度を検出してもよい。
【0023】
エンジン回転数検出手段3は、パワーコイルを備え、エンジンのフライホイールの内側に設置された磁石により、前記パワーコイルを励磁して交流の電力を発生させ、この交流波形を波形成形してエンジン回転数を検出する。
また、発生した交流電力をエンジン制御手段(ECU)10の内部回路で整流することにより、エンジン制御手段(ECU)10及びスロットル開度検出手段2のステッピングモータの電源として使用する。
【0024】
エンジン温度検出手段4は、例えばエンジンヘッドに近い位置に配置されたサーミスタ方式のセンサから構成されている。エンジン温度検出手段4は、検出された温度とエンジン温度と相関が取れるものであれば、他の設置位置での検出でもよく、また検出方法も他の方法でもよい。
【0025】
閾値可変手段10aは、エンジン温度検出手段4で検出したエンジン温度に対して、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断するためのスロットル開度の閾値であるTHa,THbを設定するものである。
すなわち、同じエンジン回転数においては、エンジンにかかる負荷が小さい時にはスロットル開度が閉じ、負荷が大きくなるとスロットル開度が開く現象が生じるので、スロットル開度によりエンジン負荷の有無を判断できる。
【0026】
閾値THaは、無負荷の状態からエンジン負荷「有」と判断する場合のスロットル開度の値である。閾値THbは、負荷有の状態からエンジン負荷「無」と判断する場合のスロットル開度の値である。そして、閾値THa及び閾値THbはエンジン温度により可変するように設定する。閾値THa及び閾値THbは、図2に示すように、エンジン温度が高くなるにしたがってそれぞれ小さいスロットル開度をプロットするグラフから成るマップデータに基づいて選択される。また、グラフにおいて、閾値THaは、同じエンジン温度であれば閾値THbより高い値に設定されている。
【0027】
また、閾値THa及び閾値THbは、エンジン温度検出手段4によるエンジン温度の検出を一定時間毎に行うことで、閾値可変手段10aにより可変する閾値を常時更新するようになっている。
【0028】
記憶手段10bはエンジン制御手段(ECU)10に設けられ、予め設定された図2に示すような閾値THa及び閾値THbのマップデータを保持している。
【0029】
次に、上述したエンジン制御装置による制御手順について、図3を参照しながら説明する。
エンジンの始動を検出し(ステップ11)、無負荷状態での暖気モードでの運転を行い(ステップ12)、エンジン温度の検出によりエンジン温度が一定温度を超えた時に暖気運転を終了する(ステップ13)。
電子ガバナでオートスロットル機能を実現する場合、エンジンを始動し暖気を終了させた後、負荷の無い時にはローアイドルと呼ばれる低いエンジン回転数(NEL)になるように電子ガバナの目標回転数を設定する(ステップ14)。
【0030】
次に、エンジン温度センサ4からエンジン温度TEを検出する(ステップ15)。
記憶手段10bのマップデータのグラフに基づき、検出されたエンジン温度TEに対応するエンジン負荷「有」と判断するスロットル開度の閾値(THa)を閾値可変手段10aで決定する(ステップ16)。検出されるエンジン温度が低い場合は、内部負荷が大きいため、この閾値(THa)を高めに設定し、エンジン温度が高くなるにつれて内部負荷が小さくなるため、閾値も除々に小さい値を設定する。
【0031】
その後、外部負荷が加わり、スロットル開度(TH)が最新の閾値(THa)を超えるとエンジン負荷「有」と判断し(ステップ17)、目標回転数を高い回転数(NEH)に上げる(ステップ18)。
スロットル開度(TH)が閾値(THa)以下である場合は、エンジン負荷「無」と判断し(ステップ17)、再度エンジン温度TEを検出し(ステップ15)。閾値可変手段10aでエンジン温度TEに対応する閾値を更新しておく。
この処理が連続することで、検出されたエンジン温度TEに対応する最新の閾値(THa)を選択することができる。
【0032】
目標回転数を高い回転数(NEH)に上げ(ステップ18)、エンジン負荷「無」の検出を行う場合は、先ず、エンジン温度センサ4からエンジン温度TEを検出する(ステップ19)。
記憶手段10bのマップデータのグラフに基づき、エンジン温度に対応するエンジン負荷「無」と判断するスロットル開度の閾値(THb)を閾値可変手段10aで決定する(ステップ20)。
【0033】
その後、外部負荷が無くなり、スロットル開度(TH)が最新の閾値(THb)を下回るとエンジン負荷「無」と判断し(ステップ21)、目標回転数をローアイドルである低いエンジン回転数(NEL)に下げる(ステップ22)。
スロットル開度(TH)が閾値(THb)以上である場合は、エンジン負荷「有」を維持していると判断し(ステップ21)、再度エンジン温度TEを検出し(ステップ19)、閾値可変手段10aでエンジン温度TEに対応する閾値を更新しておく。
この処理が連続することで、エンジン温度に対応する最新の閾値(THb)を選択することができる。
【0034】
目標回転数をローアイドルである低いエンジン回転数(NEL)に下げた後、エンジン停止であるかを判断し(ステップ23)、エンジン停止でない場合はステップ19に戻って制御を続行する。
エンジン停止である場合は(ステップ23)、制御を終了する。
【0035】
上述のエンジン制御装置によれば、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断するスロットル開度の閾値をエンジン温度に応じて可変にして制御するので、外気温によるエンジンの内部負荷の変動が生じた場合でも、エンジン負荷の「有」「無」を判断するに適した各閾値(THa及びTHb)を設定でき、オートスロットル機能に関する外部負荷の誤検知を防止できる。
その結果、低い外部負荷でも負荷を検知してオートスロットル検出が可能となり、スロットル全開から閾値までの外部負荷の使用領域の拡大を図るとともに、無負荷運転の状態で待機中のエンジンの回転数をより低く抑えることができる。
【符号の説明】
【0036】
1…エンジン、 2…スロットル開度検出手段、 3…エンジン回転数検出手段、 4…エンジン温度検出手段、 10…エンジン制御手段、 10a…閾値可変手段、 10b…記憶手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転数を一定に保つガバナ制御機構を備え、スロットル開度によってエンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断し、負荷の有無に応じてエンジン回転数を所定の回転数に強制的に変動させるエンジン制御装置において、
エンジン(1)への燃料供給を制御するエンジン制御手段(10)と、
前記エンジンのエンジン温度を検出するエンジン温度検出手段(4)と、
前記エンジン温度検出手段(4)で検出したエンジン温度により、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断する閾値である各スロットル開度を可変する閾値可変手段(10a)と
を具備したことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御手段(10)は記憶手段(10b)を有し、
前記記憶手段(10b)は、エンジン負荷の「有」「無」をそれぞれ判断する各閾値について、エンジン温度に対応する各スロットル開度をプロットして構成されるマップデータを保持して成る
請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記マップデータの各スロットル開度は、エンジン温度が高くなるにしたがって小さい値とする請求項2に記載にエンジン制御装置。
【請求項4】
エンジン温度検出手段(4)によるエンジン温度の検出は一定時間毎に行い、閾値可変手段(10a)による可変する閾値を更新する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−47064(P2012−47064A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187437(P2010−187437)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】