説明

エンジン過回転抑制装置およびエンジン過回転抑制方法

【課題】無負荷状態を常に正確に検出し、エンジンの過回転を高精度に抑制する。
【解決手段】エンジンの過回転を抑制するためのリミッタ制御において、実行率算出単位期間Ue内における点火カット実行回数をカウントし、点火カットの実行頻度を示すリミッタ動作実行率eを算出する。そして、リミッタ動作実行率eが継続基準回数Kc継続したとき、エンジンが無負荷状態であると判断し、点火カットを実行するか否かの基準となるエンジンの回転数であるリミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両等に搭載されたエンジンにかかる負荷に応じてエンジンの過回転を適切に抑制するエンジン過回転抑制装置およびエンジン過回転抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
点火装置による点火をカットしてエンジンの過回転を抑制する技術は知られている。この技術によれば、エンジンの回転数が基準回転数(設定回転数)以上となったことを検出したときに、点火装置による点火をカットしてエンジンの出力を低下させ、これによりエンジンの回転数の上昇を抑え、エンジンの過回転を抑制することができる。
【0003】
このような技術に関し、下記の特許文献1には、ニュートラルスイッチがニュートラルの状態か否か、またはクラッチスイッチがクラッチ断の状態か否かに基づいて無負荷状態を検出し、無負荷状態のときには、エンジンの回転数を第1回転数Necutの近傍の回転数に維持する技術が記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、エンジンの回転数が上昇して第1設定回転数に達すると失火させ、この失火状態を検出してタイマ回路を作動させ、タイマ回路が作動してから設定時間経過したときに、第1設定回転数を第2設定回転数に切り換えて設定回転数を下げる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−10165号公報
【特許文献2】特開平7−49075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したようなエンジンの過回転を抑制する技術では、点火装置による点火をカットしてエンジンの出力を低下させ、これによりエンジンの回転数の上昇を抑える。
【0007】
ここで、エンジンに負荷がかかっているとき(有負荷時)には、点火カットによるエンジンの出力低下の程度が比較的小さくても、エンジンの回転数の上昇を十分に抑えることができる。一方、エンジンに負荷がかかっていないとき(無負荷時)には、点火カットによるエンジンの出力低下の程度が比較的大きくないと、エンジンの回転数の上昇を十分に抑えることができない。また、無負荷時には、点火と点火カットとを繰り返す間に、点火時においてエンジンの回転数が急上昇するため、エンジンの過回転を効果的に抑制することが困難な場合がある。
【0008】
そこで、有負荷時には点火カットを実行するか否かの基準となるエンジンの回転数である基準回転数を比較的に高く設定し、無負荷時には当該基準回転数を比較的に低く設定し、負荷の有無に応じて2つの基準回転数を切り換えることが望まれる。
【0009】
この場合、基準回転数を切り換えるためにはエンジンにかかる負荷の有無を検出する必要がある。この点、上記特許文献1に記載の技術では、ニュートラルスイッチがニュートラルの状態か否か、またはクラッチスイッチがクラッチ断の状態か否かに基づいて無負荷状態を検出している。
【0010】
しかしながら、例えばオフロードバイクがオフロードを走行している際にタイヤが路面から離れたときや、車両が低μ路を走行しているときには、ニュートラル状態でなくても、あるいはクラッチが接続されていても無負荷状態(実質的に無負荷の状態)となる。このため、上記特許文献1に記載の技術では、タイヤが路面から離れたことや車両が低μ路を走行していることによって生じる無負荷状態を検出することができない。この結果、上記特許文献1に記載の技術では、負荷の有無に応じて上記2つの基準回転数を常に正確に切り換えることができず、エンジンの過回転を高精度に抑制することができないという問題がある。
【0011】
また、上記特許文献2に記載の技術では、2つの設定回転数を切り換えているものの、負荷の有無に応じてこの切換を行っているのではない。すなわち、上記特許文献2には、上記問題および上記問題の解決手段のいずれも記載も示唆もされていない。
【0012】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、無負荷状態を常に正確に検出することができ、これによりエンジンの過回転を高精度に抑制することができるエンジン過回転抑制装置およびエンジン過回転抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1のエンジン過回転抑制装置は、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、前記回転数検出手段により検出された前記エンジンの回転数が基準回転数以上となったときに前記エンジンの出力を低下させるリミッタ動作を実行するリミッタ動作実行手段と、前記リミッタ動作実行手段による所定の第1の期間内における前記リミッタ動作の実行頻度を検出するリミッタ動作検出手段と、前記リミッタ動作検出手段により検出された前記リミッタ動作の実行頻度が基準頻度以上となったときに前記基準回転数を下げる基準回転数変更手段とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第1のエンジン過回転抑制装置は次のような考え方を採用している。すなわち、有負荷時は、リミッタ動作(例えばエンジンにおける点火のカット、エンジンにおける燃料噴射の停止または制限等)の実行によるエンジンの出力低下の程度が比較的小さくても、エンジンの回転数の上昇を十分に抑えることができる。この結果、有負荷時におけるリミッタ動作の実行頻度は比較的低くなる。一方、無負荷時は、リミッタ動作の実行によりエンジンの出力低下の程度を比較的大きくしないと、エンジンの回転数の上昇を十分に抑えることができない。この結果、無負荷時におけるリミッタ動作の実行頻度は比較的高くなる。したがって、リミッタ動作の実行頻度に基づいて無負荷状態か否かを判断することができる。
【0015】
そこで、本発明の第1のエンジン過回転抑制装置は、リミッタ動作の実行頻度が基準頻度以上となったときに無負荷状態であると判断し、基準回転数を下げる。基準回転数が下がると、基準回転数が下がる前よりも低い回転数でリミッタ動作が実行されるようになるので、無負荷状態であってもエンジンの過回転を確実に抑制することができる。
【0016】
そして、本発明の第1のエンジン過回転抑制装置によれば、リミッタ動作の実行頻度に基づいて無負荷状態か否かを判断するので、ニュートラル状態であること、またはクラッチ断状態であることにより生じる無負荷状態だけでなく、タイヤが路面から離れていること、または低μ路を走行していることにより生じる無負荷状態(実質的に無負荷の状態)をも検出することができる。したがって、負荷の有無に応じて基準回転数の変更を常に正確に行うことができ、エンジンの過回転を高精度に抑制することができる。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第2のエンジン過回転抑制装置は、上述した本発明の第1のエンジン過回転抑制装置において、前記リミッタ動作検出手段は、前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数と前記リミッタ動作の実行回数との総数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合、または前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合であるリミッタ動作実行率を算出し、前記基準回転数変更手段は、前記リミッタ動作検出手段により算出された前記リミッタ動作実行率が基準値以上となったときに前記基準回転数を下げることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2のエンジン過回転抑制装置によれば、リミッタ動作実行率に基づいて無負荷状態か否かを判断することにより、負荷の有無に応じた基準回転数の変更を常に正確に行うことができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の第3のエンジン過回転抑制装置は、上述した本発明の第1のエンジン過回転抑制装置において、前記リミッタ動作検出手段は、前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数と前記リミッタ動作の実行回数との総数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合、または前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合であるリミッタ動作実行率を算出し、前記基準回転数変更手段は、前記リミッタ動作検出手段により算出された前記リミッタ動作実行率が基準値以上である状態が所定の第2の期間継続したときに前記基準回転数を下げることを特徴とする。
【0020】
本発明の第3のエンジン過回転抑制装置によれば、リミッタ動作実行率の高い状態が所定の第2の期間継続したか否かを判断することにより、無負荷状態を高精度に検出することができ、負荷の有無に応じた基準回転数の変更を、より一層正確に行うことができる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の第4のエンジン過回転抑制装置は、上述した本発明の第1のエンジン過回転抑制装置において、前記リミッタ動作検出手段は、前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数と前記リミッタ動作の実行回数との総数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合、または前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合であるリミッタ動作実行率を算出し、前記基準回転数変更手段は、前記リミッタ動作検出手段により所定の第2の期間内において算出された前記リミッタ動作実行率の平均値が基準値以上であるときに前記基準回転数を下げることを特徴とする。
【0022】
本発明の第4のエンジン過回転抑制装置によれば、所定の第2の期間内におけるリミッタ動作実行率の平均値が基準値以上であるか否かを判断することにより、無負荷状態を高精度に検出することができ、負荷の有無に応じた基準回転数の変更を、より一層正確に行うことができる。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の第5のエンジン過回転抑制方法は、エンジンの回転数を検出する回転数検出工程と、前記回転数検出工程において検出された前記エンジンの回転数が基準回転数以上となったときに前記エンジンの出力を低下させるリミッタ動作を実行するリミッタ動作実行工程と、前記リミッタ動作実行工程において所定の第1の期間内における前記リミッタ動作の実行頻度を検出するリミッタ動作検出工程と、前記リミッタ動作検出工程において検出された前記リミッタ動作の実行頻度が基準頻度以上となったときに前記基準回転数を下げる基準回転数変更工程とを備えていることを特徴とする。
【0024】
本発明のエンジン過回転抑制方法によれば、上述した本発明の第1のエンジン過回転抑制装置と同様に、負荷の有無に応じて基準回転数の変更を常に正確に行うことができ、エンジンの過回転を高精度に抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、無負荷状態を常に正確に検出することができ、エンジンの過回転を高精度に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態によるエンジン過回転抑制装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態によるエンジン過回転抑制装置の動作を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態によるエンジン過回転抑制装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態によるエンジン過回転防止装置としてのECU(エンジンコントロールユニット)等を示している。図1において、ECU1は、例えばオフロードバイク等の車両に搭載され、車両の動作を制御するユニットであり、CPU(Central Processing Unit)および記憶装置等を内蔵している。ECU1には、当該車両に搭載されたエンジンのクランクシャフトの回転角度を検出するクランク角センサ2、エンジンのシリンダのヘッド部分に設けられ、エンジンの燃焼室内の混合ガスに点火する点火装置3、エンジンのシリンダ内へ向けて燃料を噴射する燃料噴射装置4等が接続されている。
【0028】
ECU1は、クランク角センサ2から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転数rを検出する回転数検出部11、点火装置3を制御する点火制御部12、燃料噴射装置4を制御する燃料噴射制御部13、回転数検出部11により検出されたエンジンの回転数rに基づいて後述のリミッタ制御を行うリミッタ制御部14、およびリミッタ制御に用いられる後述する種々の基準値等が記憶された記憶部15を備えている。回転数検出部11、点火制御部12、燃料噴射制御部13およびリミッタ制御部14は、ECU1に内蔵された記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムをECU1に内蔵されたCPUにより読み取って実行することにより実現され、記憶部15はECU1に内蔵された記憶装置により実現される。
【0029】
図2はリミッタ制御部14によるリミッタ制御の一例を示している。図2中の上段は、エンジンの回転数rの変化を示すグラフであり、その横軸が時間であり、縦軸がエンジンの回転数rである。図2中の中段の●は点火カットが実行されたことを示し、○は点火が実行されたことを示している。図2中の下段は、リミッタ動作実行率eの算出結果等を示している。また、図2において縦方向に延びる多数の点線はそれぞれ、点火・点火カットが実行されるべきタイミングを示しており、上段のグラフ中の特性線上の点と、中段の●または○と、下段のリミッタ動作実行率eの算出結果とが同一の点線上にあるとき、これらの発生が実質的に同一のタイミングであることを示している。
【0030】
リミッタ制御部14は、リミッタ制御、すなわち、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数以上となったことを検出したときに、点火装置3による点火をカットしてエンジンの出力を低下させ、これによりエンジンの回転数rの上昇を抑え、エンジンの過回転を抑制する制御を行う。
【0031】
リミッタ制御部14は、エンジンの回転数rがリミッタ制御開始基準回転数N1以上となったときにリミッタ制御を開始する。例えば、図2において、リミッタ制御部14は、エンジンの回転数rがリミッタ制御開始基準回転数N1以上となった時点taからリミッタ制御を開始している。
【0032】
また、リミッタ制御部14は、原則として、有負荷時においては、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2以上となったときにリミッタ動作を実行し、無負荷時においては、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N3以上となったときにリミッタ動作を実行する。本実施形態におけるリミッタ動作は、点火装置3における点火のカットである。すなわち、リミッタ制御部14は、原則として、有負荷時においては、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2以上となったときに点火カットを実行し、無負荷時においては、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N3以上となったときに点火カットを実行する。
【0033】
例えば、図2において、少なくとも時点tbから時点tcまでの期間はエンジンに負荷がかかっている状態(有負荷状態)である。この期間において、リミッタ制御部14は、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2以上となったときに点火カットを実行している。
【0034】
一方、図2において、少なくとも時点tcから時点tgまでの期間はエンジンに負荷がかかっていない状態(無負荷状態)である。この期間のうち、時点tfから時点tgまでの期間において、リミッタ制御部14は、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N3以上となったときに点火カットを実行している。時点tcから時点tfまでの期間は、無負荷状態を検出し、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3に下げるための期間であり、これについては後述する。
【0035】
また、リミッタ制御部14は、リミッタ制御を開始した後、エンジンの回転数rがリミッタ制御終了基準回転数N4以下となったときにリミッタ制御を終える。例えば、図2において、リミッタ制御部14は、エンジンの回転数rがリミッタ制御終了基準回転数N4以下となった時点thにおいてリミッタ制御を終えている。
【0036】
また、リミッタ制御部14は、エンジンにかかる負荷が実質的になくなった状態、すなわち無負荷状態を検出し、無負荷状態を検出したときには、点火カットを実行するか否かを決定する基準であるリミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ下げる。リミッタ制御部14による無負荷状態の検出方法は例えば次の通りである。
【0037】
まず、リミッタ制御部14はリミッタ動作実行率eを算出する。リミッタ動作実行率eとは、実行率算出単位期間Ue(第1の期間)内において点火を実行した回数と点火カットを実行した回数との総数に対する点火カットを実行した回数の割合である。リミッタ動作実行率eは、点火カット(リミッタ動作)の実行頻度を示す。具体的には、リミッタ制御部14はリミッタ動作実行率eを次のように算出する。例えば、図2に示すように、実行率算出単位期間Ueを「5」に設定した場合、リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行率eを算出する時点から遡って、点火・点火カットが実行されるべきタイミングが5回連続して到来した間において、点火カットが実行された回数mをカウントする。続いて、リミッタ制御部14は、点火カットが実行された回数mを、実行率算出単位期間Ue(実行率算出単位期間Ue内において到来する、点火・点火カットが実行されるべきタイミングの回数、すなわち「5」)で割ることによりリミッタ動作実行率eを算出する(すなわちe=m/Ue)。そして、リミッタ制御部14は、このようなリミッタ動作実行率eの算出を、原則としてリミッタ制御が実行されている期間中、点火・点火カットが実行されるべきタイミングが到来するごとに行う。ただし、リミッタ制御が実行されている期間中であっても、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ下げる処理を開始した後は、リミッタ動作実行率eの算出を行わないようにしてもよく、本実施形態では、このような方法を選択している。また、リミッタ制御が実行されている期間中であっても、リミッタ制御が開始されてから、点火・点火カットが実行されるべきタイミングの到来回数が5(Ue)回未満である期間は、リミッタ動作実行率eを算出することができないので、リミッタ動作実行率eの算出を行わない。
【0038】
次に、リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行率eを算出するたびに、当該算出したリミッタ動作実行率eを実行率基準値Keと比較し、リミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke以上である状態が連続して継続基準回数Kc(第2の期間)続いたら、エンジンが無負荷状態であると判断する。例えば、図2において、実行率基準値Keを「3/5」に設定し、継続基準回数Kcを「22」に設定した場合、時点tdから時点teまでの間、リミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke(=3/5)以上である状態が連続して継続基準回数Kc(=22回)続いたので、リミッタ制御部14は、時点teにおいてエンジンが無負荷状態であると判断している。
【0039】
そして、無負荷状態であると判断したときには、リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3に達するまで徐々に下げる。例えば、図2において、時点teから時点tfにかけて、リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ徐々に下げている。
【0040】
このようなリミッタ制御部14のリミッタ制御によれば、図2に示すように、少なくとも時点tbから時点tcまでの間の有負荷状態の期間中では、エンジンの回転数rを実質的にリミッタ動作実行基準回転数N2に抑えることができる。その後、時点tcを経過したとき、無負荷状態となったためにエンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2を超えて上昇しているが、時点tdから時点teまでの間に、リミッタ制御部14が、この無負荷状態を検出し、時点teから時点tfにかけてリミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ下げたので、時点tfから時点tgまでの間の無負荷状態の期間中では、エンジンの回転数rをリミッタ動作実行基準回転数N2よりも低い回転数に抑えることができる。総じて、リミッタ制御部14のリミッタ制御によれば、有負荷時においても無負荷時においてもエンジンの過回転を抑制することができる。また、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ徐々に下げるので、リミッタ動作実行基準回転数の変更時にエンジンないし車両に大きな振動が生じることを抑制することができる。
【0041】
図3はECU1によりリミッタ制御の具体的な流れを示している。これより、先に図2を参照しながら説明したリミッタ制御部14によるリミッタ制御について、図3を参照しながらより具体的に説明する。
【0042】
図3において、ECU1の稼働中、リミッタ制御部14はエンジンの回転数rを監視しており(ステップS1)、エンジンの回転数rがリミッタ制御開始基準回転数N1以上となったとき(ステップS1:YES)、リミッタ制御を開始する。リミッタ制御部14は、リミッタ制御を開始した直後、自身に内蔵されたカウンタのカウント値cを0にする(ステップS2)。
【0043】
続いて、リミッタ制御部14は点火または点火カットを実行する(ステップS3)。すなわち、点火・点火カットが実行されるべきタイミングが到来したときに、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2以上であるか否かを判断し、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2以上でないときには点火を実行し、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2以上であるときには点火カットを実行する。そして、リミッタ制御部14は、点火を実行したときには点火を実行したことを記憶部15に記憶し、点火カットを実行したときには点火カットを実行したことを記憶部15に記憶する(ステップS4)。
【0044】
続いて、リミッタ制御部14は、リミッタ制御を開始してから(例えばステップS1でYESの判断を下してから)、ステップS3の点火または点火カットを実行した回数が5回未満か否かを判断する(ステップS5)。そして、リミッタ制御を開始してから点火または点火カットを実行した回数が5回未満であるときには(ステップS5:YES)、リミッタ制御を開始してから点火または点火カットを実行した回数が5回に達するまでステップS3ないしS4を繰り返す。
【0045】
リミッタ制御を開始してから点火または点火カットを実行した回数が5回に達したときには(ステップS5:NO)、リミッタ制御部14はリミッタ動作実行率eを算出する(ステップS6)。すなわち、上述したように、実行率算出単位期間Ueを「5」に設定した場合には、リミッタ制御部14は、記憶部15に記憶された点火・点火カットの記憶を参照し、現時点から遡って点火・点火カットが実行されるべきタイミングが5回連続して到来した間において点火カットが実行された回数mをカウントし、当該回数mを「5」で割ることによりリミッタ動作実行率eを算出する。
【0046】
続いて、リミッタ制御部14は、ステップS6で算出したリミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke以上であるか否かを判断する(ステップS7)。当該リミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke以上でないときには(ステップS7:NO)、リミッタ制御部14は処理をステップS2に戻す。これにより、カウント値cが0にリセットされた後、ステップS3以下の処理がさらに実行される。一方、ステップS6で算出したリミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke以上であるときには(ステップS7:YES)、リミッタ制御部14はカウント値cを1増加させる(ステップS8)。
【0047】
ステップS8に続き、リミッタ制御部14は、カウント値cが継続基準回数Kc以上か否かを判断する(ステップS9)。カウント値cが継続基準回数Kc以上でないときには(ステップS9:NO)、リミッタ制御部14は処理をステップS3に戻す。これにより、カウント値cがリセットされることなく、ステップS3以下の処理がさらに実行される。一方、カウント値cが継続基準回数Kc以上であるときには(ステップS9:YES)、リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ徐々に下げる処理を開始する(ステップS10)。
【0048】
続いて、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ徐々に下げる処理を開始してからリミッタ動作実行基準回転数がN3に達するまでの間、リミッタ制御部14は、徐々に下がっていくリミッタ動作実行基準回転数に基づいて点火または点火カットを実行する。すなわち、リミッタ制御部14は、点火・点火カットが実行されるべきタイミングが到来したときに、エンジンの回転数rがその時点におけるリミッタ動作実行基準回転数以上であるか否かを判断し、エンジンの回転数rが当該リミッタ動作実行基準回転数以上でないときには点火を実行し、エンジンの回転数rが当該リミッタ動作実行基準回転数以上であるときには点火カットを実行する。
【0049】
続いて、リミッタ動作実行基準回転数がN3に達した後は、リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行基準回転数N3に基づいて点火または点火カットを実行する(ステップS11)。すなわち、点火・点火カットが実行されるべきタイミングが到来したときに、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N3以上であるか否かを判断し、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N3以上でないときには点火を実行し、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N3以上であるときには点火カットを実行する。
【0050】
リミッタ制御部14は、リミッタ動作実行基準回転数をN2からN3へ徐々に下げる処理を開始してからリミッタ動作実行基準回転数がN3に達するまでの間、またはリミッタ動作実行基準回転数がN3に達した後、エンジンの回転数rがリミッタ制御終了基準回転数N4以下となったとき(ステップS12:YES)、リミッタ制御を終了する。なお、図3には示していないが、リミッタ動作実行基準回転数がN2である期間においても、エンジンの回転数rがリミッタ制御終了基準回転数N4以下となったときにリミッタ制御部14はリミッタ制御を終了する。
【0051】
なお、リミッタ制御開始基準回転数N1、リミッタ動作実行基準回転数N2、N3、リミッタ制御終了基準回転数N4、実行率算出単位期間Ue、実行率基準値Ke、および継続基準回数Kcは記憶部15に記憶されており、リミッタ制御部14は、リミッタ制御においてこれらの値を用いるときには、これらの値を記憶部15から読み出して用いる。
【0052】
以上説明した通り、本発明のECU1におけるリミッタ制御部14のリミッタ制御によれば、点火カット(リミッタ動作)の実行頻度に基づいて無負荷状態か否かを判断するので、ニュートラル状態であること、またはクラッチ断状態であることにより生じる無負荷状態に加え、タイヤが路面から離れていること、または低μ路を走行していることにより生じる実質的な無負荷状態をも検出することができ、エンジンの過回転を高精度に抑制することができる。
【0053】
また、リミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke以上である状態が継続基準回数Kc以上継続したときに無負荷状態であることを判断することにより、無負荷状態を高精度に検出することができ、エンジンの過回転を、より一層高精度に抑制することができる。
【0054】
なお、上述した実施形態では、リミッタ制御において、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2またはN3以上であるときに点火装置3の点火カットを行う場合を例に挙げたが、この点火カットに代え、または加え、エンジンの回転数rがリミッタ動作実行基準回転数N2またはN3以上であるときに燃料噴射装置4の燃料噴射の停止または制限を行ってもよい。
【0055】
また、上述した実施形態では、リミッタ制御において、リミッタ動作実行率eが実行率基準値Ke以上である状態が継続基準回数Kc以上継続したときに無負荷状態であると判断してリミッタ動作実行率基準回転数をN2からN3へ下げる場合を例に挙げたが、本発明はこれに限らない。例えば所定の平均算出期間(第2の期間)内に算出された複数のリミッタ動作実行率eの平均値を算出し、この平均値が所定の平均実行率基準値以上であるときに、無負荷状態であると判断してリミッタ動作実行率基準回転数をN2からN3へ下げてもよい。
【0056】
また、上述した実施形態では、リミッタ動作実行率eを、実行率算出単位期間Ue内において点火を実行した回数と点火カットを実行した回数との総数に対する点火カットを実行した回数の割合としたが、本発明はこれに限らず、リミッタ動作実行率eを、実行率算出単位期間Ue内において点火を実行した回数に対する点火カットを実行した回数の割合としてもよい。
【0057】
また、上述した実施形態において、回転数検出部11が回転数検出手段の具体例であり、リミッタ制御部14が、リミッタ動作実行手段、リミッタ動作検出手段、基準回転数変更手段の具体例である。また、図3中のステップS3がリミッタ動作実行手段またはリミッタ動作実行工程の具体例であり、ステップS6がリミッタ動作検出手段またはリミッタ動作検出工程の具体例であり、ステップS10が基準回転数変更手段または基準回転数変更工程の具体例である。
【0058】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うエンジン過回転抑制装置およびエンジン過回転抑制方法もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 ECU(エンジン過回転抑制装置)
11 回転数検出部(回転数検出手段)
12 点火制御部
13 燃料噴射制御部
14 リミッタ制御部(リミッタ動作実行手段、リミッタ動作検出手段、基準回転数変更手段)
15 記憶部
N1 リミッタ制御開始基準回転数
N2、N3 リミッタ動作実行基準回転数(基準回転数)
N4 リミッタ制御終了基準回転数
Ue 実行率算出単位期間(第1の期間)
Ke 実行率基準値
Kc 継続基準回数(第2の期間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記回転数検出手段により検出された前記エンジンの回転数が基準回転数以上となったときに前記エンジンの出力を低下させるリミッタ動作を実行するリミッタ動作実行手段と、
前記リミッタ動作実行手段による所定の第1の期間内における前記リミッタ動作の実行頻度を検出するリミッタ動作検出手段と、
前記リミッタ動作検出手段により検出された前記リミッタ動作の実行頻度が基準頻度以上となったときに前記基準回転数を下げる基準回転数変更手段とを備えていることを特徴とするエンジン過回転抑制装置。
【請求項2】
前記リミッタ動作検出手段は、前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数と前記リミッタ動作の実行回数との総数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合、または前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合であるリミッタ動作実行率を算出し、
前記基準回転数変更手段は、前記リミッタ動作検出手段により算出された前記リミッタ動作実行率が基準値以上となったときに前記基準回転数を下げることを特徴とする請求項1に記載のエンジン過回転抑制装置。
【請求項3】
前記リミッタ動作検出手段は、前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数と前記リミッタ動作の実行回数との総数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合、または前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合であるリミッタ動作実行率を算出し、
前記基準回転数変更手段は、前記リミッタ動作検出手段により算出された前記リミッタ動作実行率が基準値以上である状態が所定の第2の期間継続したときに前記基準回転数を下げることを特徴とする請求項1に記載のエンジン過回転抑制装置。
【請求項4】
前記リミッタ動作検出手段は、前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数と前記リミッタ動作の実行回数との総数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合、または前記第1の期間内における前記リミッタ動作の非実行回数に対する前記リミッタ動作の実行回数の割合であるリミッタ動作実行率を算出し、
前記基準回転数変更手段は、前記リミッタ動作検出手段により所定の第2の期間内において算出された前記リミッタ動作実行率の平均値が基準値以上であるときに前記基準回転数を下げることを特徴とする請求項1に記載のエンジン過回転抑制装置。
【請求項5】
エンジンの回転数を検出する回転数検出工程と、
前記回転数検出工程において検出された前記エンジンの回転数が基準回転数以上となったときに前記エンジンの出力を低下させるリミッタ動作を実行するリミッタ動作実行工程と、
前記リミッタ動作実行工程において所定の第1の期間内における前記リミッタ動作の実行頻度を検出するリミッタ動作検出工程と、
前記リミッタ動作検出工程において検出された前記リミッタ動作の実行頻度が基準頻度以上となったときに前記基準回転数を下げる基準回転数変更工程とを備えていることを特徴とするエンジン過回転抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246765(P2012−246765A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116508(P2011−116508)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】