説明

エンドスタチンのN末端からの抗血管新生性ペプチド

ここでは、エンドスタチンのN末端を含む抗血管新生性物質、同抗血管新生性物質をコードする核酸、有効量の前記ペプチド及び核酸を含む医薬製剤、並びに、望ましくない血管新生に関連する疾患又は状態を治療又は防止する際の前記医薬の使用、が提供される。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
権利の申請
本発明は、米国国立保健機関により付与された助成金R01 CA064481による政府支援の下になされた。前記政府は本発明において特定の権利を有する。
【0002】
背景
エンドスタチンは、コラーゲン18のC末端に相当する183個のアミノ酸たんぱく質分解切断断片であり、毒性の副作用のないその抗腫瘍活性のために、数多くの研究室の調査対象となってきた(O'Reilly et al. (1997) Cell, 88: 277-285.; Kisker et al.
(2001) Cancer Res, 61:7669-7674; Dhanabal et al. (1999) Cancer Res, 59:
189-197; Yoon et al. (1999) Cancer Res, 59: 6251-6256; Folkman and
Kalluri, (2003)Cancer Medicine, 6th edition, pp. 161- 194. Hamilton: B.C. Decker Inc.)。内皮細胞の増殖、遊走、およびチューブ形成の阻害など、多くの抗腫瘍活性がこのたんぱく質について報告されている。更にエンドスタチンは、血管内皮細胞成長因子誘導性血管透過性を抑制する(Takahashi et al. (2003) Faseb J, 17: 896-898)。しかしながら、エンドスタチンの作用機序は未知のままである。エンドスタチンは、α5β1インテグリンへの結合を介した焦点接着キナーゼのリン酸化を阻害することにより、内皮細胞の遊走を阻害する(Wickstrom et al. (2002) Cancer Res, 62: 5580-5589)。また、細胞表面グリピカンは親和性の低いエンドスタチン受容体であることも示されている(Karumanchi
et al. (2001) Mol Cell, 7: 811-822)。エンドスタチンは、c-myc(Shichiri and Hirata
(2001) Faseb J, 15: 1044-1053)、サイクリン-D1(Hanai et al.
(2002) J Biol Chem, 277: 16464-16469)及びRhoA活性 (Wickstrom et
al. (2003) J Biol Chem, 278: 37895-37901)の下方調節、VEGFシグナル伝達の遮断(Hajitou
et al. (2002) Faseb J, 16: 1802-1804; Kim et al. (2002) J Biol Chem, 277:
27872-27879)、及びwntシグナル伝達経路の阻害(Hanai et al. (2002) J Cell Biol, 158:
529-539)など、複数のシグナル伝達経路への関与が示唆されている。更に、エンドスタチンはメタロプロティナーゼに結合して失活させること(Kim et al. (2000) Cancer Res, 60: 5410-5413; Nyberg et al.
(2003) J Biol Chem, 278: 22404-22411; Lee et al. (2002) FEBS Lett, 519:
147-152)、そして血管新生を抑制するある範囲の遺伝子群を調節すること(Abdollahi et al. (2004) Mol Cell, 13: 649-663)も示されている。
【0003】
マウス及びヒトの両方のエンドスタチンの結晶構造が解明されており(Hohenester et al. (1998) Embo J, 17: 1656-1664; Ding et al.
(1998) Proc Natl Acad Sci U S A, 95: 10443-10448)、共有結合以外の結合により結合した二量体が結晶化に必要な高濃度であることが示されている(Ding
et al. (1998) Proc Natl Acad Sci U S A, 95: 10443-10448)。二つのジスルフィド結合が存在するために、高度に折りたたまれた構造となっている。エンドスタチンは、この分子のN末端にある三つのヒスチジン(ヒスチジン1、3、及び11)及びアスパラギン酸76を通じて単量体一個当たり一つの亜鉛原子に結合する。エンドスタチンのヘパリン結合特性は、この分子の三次元的球状表面全体に集まった非連続なアルギニンにより媒介される(Sasaki et al. (1999) Embo J, 18: 6240-6248)。
【0004】
オリゴマ形のエンドスタチン(NC1及び二量体)は基底膜では主にラミニンに結び付いていることが示されている(Javaherian
et al. (2002) J Biol Chem, 277: 45211-45218)。この結合は、エンドスタチンが示す生物学的機能のいくつかにとって重要であろう。他方、エンドスタチンのヘパリン結合特性は、細胞表面とのその相互作用で現れる。エンドスタチンは、このたんぱく質の異なる領域が媒介する数多くの生物学的機能を有する可能性が高い。
【0005】
概要
本開示は、エンドスタチンのN末端領域がその抗血管新生活性を担っているという驚くべき発見に基づくものである。これらの発見に基づき、本開示は、配列番号2又は4の少なくとも約12個のアミノ酸を含む抗血管新生性ペプチドを特徴とする。他の抗血管新生性ペプチドは、配列番号2又は4の少なくとも約13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は 25個のアミノ酸を含む。抗血管新生性ペプチドの例は、配列番号6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124-131からなる群より選択される。
【0006】
更に、薬学的に許容可能な単体と、有効量の、配列番号2又は4の少なくとも約12個のアミノ酸を含む抗血管新生性ペプチドとを含む医薬組成物も特徴とする。いくつかの医薬組成物は、ここに開示された通りの抗血管新生性ペプチドと第二のペプチドとから成る。他の医薬組成物は、付加的に、有効量の亜鉛を含む。ここに開示されたペプチドを含むシリンジ及びステントなどの器具も解説される。
【0007】
更に、配列番号2又は4の少なくとも約12個のアミノ酸を含む抗血管新生性ペプチドをコードする核酸や、有効量の抗血管新生性ペプチドを発現させるために対象にとって適したベクタに入った、開示された核酸を含む医薬組成物も開示される。好適な核酸は、配列番号1、3又は5の少なくとも約36、54又は60個のヌクレオチドを含むものである。他の好適な核酸は、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103、105、107、109、111、113、115、117、119、121 及び 123から成る群より選択される。
【0008】
また、例えば癌又は腫瘍成長など、血管新生を原因とする疾患又は状態(血管新生関連疾患)を治療又は防止するために、開示されたペプチドを用いる方法も提供される。
【0009】
開示された抗血管新生性ペプチドの他の特徴及び長所は、以下の詳細な説明及び請求の範囲の理解をもとに明白となるであろう。
【0010】
詳細な説明
定義
ここで用いられる場合の以下の用語及び文言は、以下に挙げる意味を有するものとする。他に定義しない限り、ここで用いられる全ての技術用語及び科学用語は、当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。
【0011】
単一形「一つの(原語:“a”)」、「一つの(原語:“an”)」及び「その(原語:"the”)は、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、複数の言及を包含するものである。
【0012】
化合物に言及する場合の用語「生物学的利用能のある」は当業で公知であり、それが投与された対象又は患者に、それ又は投与された化合物量の一部分が吸収される、取り入れられる、又は生理学的に利用可能であるような化合物の形を言う。
【0013】
ここで用いられる場合の用語「組成物」は、特定の成分を特定の量、含む生成物や、前記特定の成分を特定の量、組み合わせたことで直接又は間接的に生じるいずれかの生成物を包含することが意図されている。
【0014】
「保存的置換」は、広い意味で類似の分子的特性を持つアミノ酸同士の間の変更である。例えば、脂肪族の基であるアラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン間の交換は保存的であるとみなすことができる。時には、これらのうちの一つのグリシンへの置換も保存的とみなされることがある。他の保存的な交換には、脂肪族の基アスパラギン酸及びグルタミン酸間のもの;アミド基アスパラギン及びグルタミン間のもの;水酸基セリン及びスレオニン間のもの;芳香族の基フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン間のもの;塩基性の基リジン、アルギニン及びヒスチジン間のもの;そして含硫基メチオニン及びシステイン間のもの、がある。時にはメチオニン及びロイシン基間の置換も保存的とみなされることがある。好適な保存的置換基はアスパラギン酸-グルタミン酸;アスパラギン−グルタミン;バリン−ロイシン−イソロイシン;アラニン−バリン;フェニルアラニン−チロシン;及びリジン−アルギニン、である。
【0015】
用語「非経口投与」及び「非経口的に投与する」は当業で公知であり、通常は注射による、腸管内及び局所投与以外の投与形態を言い、その中には、限定はしないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、及び胸骨内注射及び輸注がある。
【0016】
本方法により治療しようとする「患者」、「対象」又は「ホスト」は、ヒト又は非ヒト動物のいずれも意味する場合がある。
【0017】
用語「パーセント同一」とは、二つのアミノ酸配列間又は二つのヌクレオチド配列間の配列同一性を言う。同一性はそれぞれ、比較を目的としてアライメントしてもよい各配列中のある一つの位置を比較することにより、決定することができる。比較された配列中の同等の位置が同じ塩基又はアミノ酸で占められていれば、その分子はその位置において同一である;同等の部位が同じ又は類似のアミノ酸残基(例えば立体的及び/又は電子的性質)で占められていれば、その分子をその位置において相同(類似)であると言うことができる。相同性、類似性又は同一性のパーセンテージによる表現とは、比較された配列に共通の位置にある同一又は類似のアミノ酸の数の関数を言う。FASTA、BLAST、又はENTREZを含め、多様なアライメント・アルゴリズム及び/又はプログラムを用いてよい。FASTA及びBLASTは、GCG配列解析パッケージ(ウィスコンシン州マジソン、ウィスコンシン大学)の一部として入手可能であり、デフォルトを設定するなどして用いることができる。ENTREZ は、メリーランド州ベセズダの米国国立保健研究所、ナショナル・ライブラリー・オブ・メディスン、ナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジー・インフォメーションを通じて得ることができる。ある実施態様では、二つの配列のパーセント同一性を、各アミノ酸のギャップを、これら二つの配列間の一個のアミノ酸又はヌクレオチドのミス対合であるかのように重みを付けるなど、ギャップ・ウェイトを1にしたGCGプログラムにより決定することができる。アライメントのための他の技術はMethods in Enzymology, vol. 266: Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis
(1996), ed. Doolittle, Academic Press, Inc., a division of Harcourt Brace &
Co., San Diego, California, USAに解説されている。好ましくは、配列中のギャップを許容するアライメント・プログラムを用いて配列をアライメントするとよい。スミス・ウォーターマンは、配列アライメントにおいてギャップを許容するアルゴリズムの一種である。Meth. Mol. Biol. 70: 173-187 (1997) を参照されたい。更に、ニードルマン及びワンシュ・アライメント法を用いたGAPプログラムを用いて配列をアライメントすることもできる。代替的な検索戦略は、MASPARコンピュータで作動するMPSRCHソフトウェアを用いるものである。MPSRCHはスミス−ウォーターマン・アルゴリズムを用いて配列を大規模並列処理コンピュータで採点する。このアプローチは、関連の遠い対合を拾い出す能力を向上させるものであり、特に小さなギャップや、ヌクレオチド配列の誤差に寛容である。核酸にコードされたアミノ酸配列を用いてたんぱく質及びDNAの両方のデータベースを検索することができる。個々の配列を持つデータベースは上記のMethods in Enzymology, ed. Doolittleに解説されている。データベースにはGenbank、EMBL、及び日本のDNAデータベース(DDBJ)がある。
【0018】
用語「薬学的に許容可能な担体」は当業で公知であり、いずれかの当該組成物又はその成分をある一つの器官又は身体部分から別の器官又は身体部分に運搬又は輸送することに関与する、液体又は固体の充填剤、希釈剤、医薬品添加物、溶媒又は封入剤などの薬学的に許容可能な材料、組成物又は賦形剤を言う。各担体は、当該の組成物及びその成分にとって適合性があり、そして患者にとって有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。薬学的に許容可能な担体として役立つと思われる材料のいくつかの例には:(1)乳糖、ブドウ糖及びショ糖などの糖類;(2)コーンスターチ及びいもでんぷんなどのでんぷん;(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバター及び座薬用ろうなどの医薬品添加物;(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油などの油類;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチル及びラウリル酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)無発熱源水;(17)等張生理食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;及び(21)医薬の調合に用いられる他の非毒性の適合性物質、がある。
【0019】
用語「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は交換可能に用いられている。これらは、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドもしくはこれらの類似体のいずれかである、いずれかの長さのポリマ形のヌクレオチドを言う。以下がポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子又は遺伝子断片のコーディング又は非コーディング領域、連鎖解析から規定される遺伝子座(遺伝子座)、エキソン、イントロン、メッセンジャRNA(mRNA)、トランスファRNA、リボゾームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクタ、いずれかの配列の単離されたDNA、いずれかの配列の単離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマ。ポリヌクレオチドは、例えばメチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体など、修飾されたヌクレオチドを含んでもよい。存在する場合のヌクレオチド構造に対する修飾は、当該ポリマの集合の前に付与されたものでも、又は後に付与されたものでもよい。ヌクレオチドの配列は、途中にヌクレオチド以外の成分を持っていてもよい。更にポリヌクレオチドを、標識化成分との結合など、重合後に更に修飾してもよい。用語「組換え」ポリヌクレオチドは、天然では存在しないか、あるいは、別のポリヌクレオチドに非天然の配列で連結されているようなゲノム、cDNA、半合成、又は合成由来のポリヌクレオチドを意味する。用語「オリゴヌクレオチド」は、例えば約75、50、25、又は10ヌクレオチド未満など、約100ヌクレオチド未満を有する一本鎖のポリヌクレオチドを言うために用いられる場合がある。
【0020】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「たんぱく質」(一本鎖の場合)はここではアミノ酸のポリマを言うために交換可能に用いられている。該ポリマは直線状でも、又は分枝状でもよく、またそれは修飾されたアミノ酸を含んでいてもよく、そして途中に非アミノ酸を持っていてもよい。この用語は更に、修飾されたアミノ酸ポリマも包含し;例えばジスルフィド結合の形成、糖鎖付加、脂質化、アセチル化、リン酸化、又はいずれか他の操作、例えば標識成分との結合などである。ここで用いられる場合の用語「アミノ酸」とは、グリシンや、D又はL光学異性体の両者、及びアミノ酸類似体及びペプチド・ミメティックを含む、天然及び/又は非天然もしくは合成のアミノ酸のいずれをも言う。
【0021】
用語「予防的」又は「治療的」治療は当業で公知であり、ホストへの薬物の投与を言う。それが望ましくない状態の(例えばホスト動物の疾患又は他の望ましくない状態)臨床上の発現前に投与されるのであれば、その治療は予防的であり、即ちそれはホストが望ましくない状態を発症しないように保護するものであり、他方、望ましくない状態の発現後に投与されるのであれば、その治療は治療的である(即ちそれは既存の望ましくない状態又はそれによる副作用を減らす、軽減する又は維持することを目的としている)。
【0022】
用語「合成の」は当業で公知であり、in vitroでの化学的又は酵素による合成による生成を言う。
【0023】
用語「全身投与」、「全身的に投与する」、「末梢投与」、「末梢的に投与する」は当業で公知であり、当該組成物、治療薬又は他の物質を、それが患者に全身に入って代謝及び他の同様のプロセスを受けるように、中枢神経系に直接投与する以外の投与を言う。
【0024】
用語「治療的作用薬」は当業で公知であり、対象において局所的又は全身的に作用する、生物学的、生理学的、又は薬理学的に活性な物質であるいずれかの化学的成分を言う。従ってこの用語は、動物又はヒトにおける疾患の診断、治癒、軽減、治療又は防止や、望ましい身体的及び/又は精神的発達及び/又は状態の促進で利用されることを意図したいずれかの物質を意味する。
【0025】
用語「治療効果」は当業で公知であり、薬理学的に活性な物質により引き起こされた、動物、特に哺乳動物、そしてより具体的にはヒトにおける局所効果又は全身効果を言う。文言「治療上有効量」は、いずれかの治療に適用可能な妥当な利益/リスク比で何らかの望ましい局所的又は全身的効果を生じるような、このような物質の量を意味する。このような物質の治療上有効量は、治療しようとする対象及び疾患状態、対象の重量及び年齢、疾患状態の重篤度、投与の態様等、当業者であれば容易に判断できるものに応じて様々であろう。例えば、ここで解説された特定の組成物を、このような治療に適用可能な妥当な利益/リスク比で生じるような充分な量、投与してもよい。
【0026】
用語「治療する」は当業で公知であり、いずれかの状態又は疾患の少なくとも一つの症状の治癒や軽減、又は、状態又は疾患の悪化の防止を言う。
【0027】
用語「ベクタ」とは、連結された先の別の核酸を輸送することのできる核酸を言う。本発明に従って用いてもよいベクタの一種はエピソーム、即ち染色体外複製が可能な核酸である。他のベクタには、それらが連結された先の核酸の自律的複製及び発現が可能なものがある。作動的に連結された先の遺伝子の発現を命令することのできるベクタは、ここでは「発現ベクタ」と呼ばれる。一般的には、組換えDNA技術で実用性のある発現ベクタは、しばしば、それらのベクタ型では染色体に結合していない環状の二本鎖DNA分子を言う「プラスミド」の形である。本明細書においては、プラスミドが最もよく用いられている形のベクタであるため、「プラスミド」及び「ベクタ」が交換可能に用いられている。しかしながら、本発明は、同等の機能を果たし、そして以下で当業において公知となる他の形の発現ベクタも包含することを意図している。
【0028】
組成物の例
ペプチド
ここでは、血管新生を阻害し、ひいては腫瘍成長及び/又は形成を阻害するペプチドが提供される。これらのヒト及びマウスペプチドのアミノ酸配列は、それぞれHSHRDFQPVLHLVALNSPLSGGMRGIR(配列番号2)及びHTHQDFQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR(mP1;配列番号4)である。配列番号2は以下の核酸配列:cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号1)にコードされている。配列番号4は、以下の核酸配列:
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号3)にコードされている。
【0029】
配列番号1とは僅かに異なるペプチドが抗血管新生活性を保持していることが示されている。このようなペプチドの一つが、 HSHRDFQPVLHLVALNSPLSGGMRG (hP1;配列番号6)であり、核酸配列:catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggt
(配列番号5)にコードされている。配列番号6は、配列番号2中の最もC末端側の二つのアミノ酸残基を含有しない。更なる抗血管新生性ペプチドは、配列番号2又は4のN又はC末端にある一つ以上のアミノ酸を欠くものであろう。抗血管新生性ペプチドの例は以下の通りである:
SHRDFQPVLHLVALNSPLSGGMRGIR
(配列番号 8);
HRDFQPVLHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 10);
RDFQPVLHLVALNSPLSGGMRGIR
(配列番号 12);
DFQPVLHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 14);
FQPVLHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 16);
QPVLHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 18);
PVLHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 20);
VLHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 22);
LHLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 24);
HLVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 26);
LVALNSPLSGGMRGIR (配列番号 28);
VALNSPLSGGMRGIR (配列番号 30);
ALNSPLSGGMRGIR (配列番号 32);
LNSPLSGGMRGIR (配列番号 34);
NSPLSGGMRGIR (配列番号 36);
HSHRDFQPVLHLVALNSPLSGGMRGI
(配列番号 38);
HSHRDFQPVLHLVALNSPLSGGMR
(配列番号 40);
HSHRDFQPVLHLVALNSPLSGGM
(配列番号 42);
HSHRDFQPVLHLVALNSPLSGG
(配列番号 44);
HSHRDFQPVLHLVALNSPLSG
(配列番号 46);
HSHRDFQPVLHLVALNSPLS (配列番号 48);
HSHRDFQPVLHLVALNSPL (配列番号 50);
HSHRDFQPVLHLVALNSP (配列番号 52);
HSHRDFQPVLHLVALNS (配列番号 54);
HSHRDFQPVLHLVALN (配列番号 56);
HSHRDFQPVLHLVAL (配列番号 58);
HSHRDFQPVLHLVA (配列番号 60);
HSHRDFQPVLHLV (配列番号 62);
HSHRDFQPVLHL (配列番号 64);
THQDFQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR
(配列番号 66);
HQDFQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 68);
QDFQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR
(配列番号 70);
DFQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 72);
FQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 74);
QPVLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 76);
PVLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 78);
VLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 80);
LHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 82);
HLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 84);
LVALNTPLSGGMRGIR (配列番号 86);
VALNTPLSGGMRGIR (配列番号 88);
ALNTPLSGGMRGIR (配列番号 90);
LNTPLSGGMRGIR (配列番号 92);
NTPLSGGMRGIR (配列番号 94);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLSGGMRGI
(配列番号 96);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLSGGMRG
(配列番号98);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLSGGMR
(配列番号 100);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLSGGM
(配列番号 102);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLSGG
(配列番号 104);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLSG
(配列番号 106);
HTHQDFQPVLHLVALNTPLS
(mP1-20; 配列番号 108);
HTHQDFQPVLHLVALNTPL (配列番号 110);
HTHQDFQPVLHLVALNTP (配列番号 112);
HTHQDFQPVLHLVALNT (配列番号 114);
HTHQDFQPVLHLVALN (配列番号 116);
HTHQDFQPVLHLVAL (mP1-15; 配列番号 118);
HTHQDFQPVLHLVA (配列番号 120);
HTHQDFQPVLHLV (配列番号 122);
HTHQDFQPVLHL (配列番号 124);
HSHRDFVALNSPLSGGMRGIR (配列番号125);
HSHRDFQPVLHLLSGGMRGIR (配列番号126);
QPVLHLVALNTPLSGGMRGIR (配列番号127);
HTHQDFVALNTPLSGGMRGIR
(配列番号128); 及び
HTHQDFQPVLHLLSGGMRGIR (配列番号129)。
【0030】
他の抗血管新生性ペプチドは以下のコンセンサス配列に基づく: HXaaHXaaDFQPVLHLVALNXaaPLSGGMRGIR (配列番号 130)又は
HXaaHXaaDFQPVLHLVALNXaaPLSG (配列番号 131)、但し式中、Xaa はいずれかのアミノ酸である。
【0031】
抗血管新生活性を有する他のペプチドは、上述したアミノ酸配列のいずれかを含む、から成る、又は、から基本的に成るであろう。更に他のペプチドは、N末端エンドスタチン・ペプチドに少なくとも約70%、80%、90%、95%、98% 又は 99%の同一性又は相同性を有するアミノ酸配列を含む、から成る、又は、から基本的に成るであろう。例えば、天然で生じるエンドスタチンたんぱく質から、約1、2、3、4、5又はそれ以上のアミノ酸で異なるペプチドは、抗血管新生活性を保持していると予測されよう。上述した配列に類似のペプチドは、例えば保存的置換、欠失又は追加などの置換を含むであろう。その違いは好ましくは、異なる種間で大きく保存されてはいない領域にあるとよい。このような領域は、多様な動物種由来のエンドスタチンたんぱく質のアミノ酸配列をアライメントすることにより、特定することができる。例えば、配列番号: 2、4、又は6のアミノ酸2、4、及び17や、配列番号8、10、12、30、32、又は34などのうちで強調されたアミノ酸は、抗血管新生活性に負の影響を与えずに置換できよう。なぜならこれらのアミノ酸はヒト及びマウス配列で異なるからである。これらのアミノ酸は、例えば別の種で見られるものなどと置換することができる。更にアミノ酸9も、ガルス−ガルス(原語:Gallus gallus )種では異なるため、置換することができる。これら又は他の位置で置換、挿入又は欠失させてもよい他のアミノ酸は、生物学的検定法と組み合わせた変異誘発により、特定することができる。
【0032】
更に、当該エンドスタチン・ペプチドを検出;精製;安定化;又は可溶化するために用いることのできるペプチドなど、異種のペプチドに融合させたエンドスタチン・ペプチドもここに包含される。
【0033】
ペプチドを免疫グロブリン(Ig)定常重鎖又は軽鎖ドメイン又はその一部分に連結してもよい。例えば、ペプチドを重鎖のCH1、CH2 及び/又はCH3 ドメインに連結してもよい。定常領域が軽鎖由来である場合、それはカッパ軽鎖由来でも、又はラムダ軽鎖由来でもよい。定常領域が重鎖由来である場合、それは以下のクラスの抗体:IgG、IgA、IgE、IgD、及びIgMのいずれの一つの抗体由来であってもよい。IgG はIgG1、IgG2、IgG3 又はIgG4であってよい。定常ドメインは、Fc断片であってもよい。定常ドメインは、ヒト抗体などの哺乳動物抗体由来であってもよい。可溶性の受容体−IgG 融合たんぱく質は、共通の免疫学的試薬であり、それらの構築法は当業で公知である(例えば米国特許第 5,225,538号、第5,726,044号;第5,707,632号;第750,375号、第5,925,351号、第6,406,697号及びBergers et al. Science 1999 284: 808-12を参照されたい)。免疫グロブリンとして好適なのは、二つの重鎖の間の二量体化がヒンジ領域で起きるヒトIgG、特にIgG1の重鎖の定常部分である。Fc領域のCH2及びCH3ドメインを融合ポリペプチドの一部として含めると、このFc領域を含む当該ポリペプチドと、このポリペプチドを含むオリゴマ又は二量体のin vivo循環半減期が増加することが認識されている。
【0034】
ヒンジ領域及びドメインCH2及びCH3を含むヒトIgG1のFc部分は、 ヌクレオチド配列 5’ gag ccc aaa tct tgt gac aaa act cac aca tgc cca ccg tgc cca gca
cct gaa ctc ctg ggg gga ccg tca gtc ttc ctc ttc ccc cca aaa ccc aag gac acc ctc
atg atc tcc cgg acc cct gag gtc aca tgc gtg gtg gtg gac gtg agc cac gaa gac cct
gag gtc aag ttc aac tgg tac gtg gac ggc gtg gag gtg cat aat gcc aag aca aag ccg
cgg gag gag cag tac aac agc acg tac cgt gtg gtc agc gtc ctc acc gtc ctg cac cag
gac tgg ctg aat ggc aag gag tac aag tgc aag gtc tcc aac aaa gcc ctc cca gcc ccc
atc gag aaa acc atc tcc aaa gcc aaa ggg cag ccc cga gaa cca cag gtg tac acc ctg
ccc cca tcc cgg gat gag ctg acc aag aac cag gtc agc ctg acc tgc ctg gtc aaa ggc
ttc tat ccc agc gac atc gcc gtg gag tgg gag agc aat ggg cag ccg gag aac aac tac
aag acc acg cct ccc gtg ctg gac tcc gac ggc tcc ttc ttc ctc tac agc aag ctc acc
gtg gac aag agc agg tgg cag cag ggg aac gtc ttc tca tgc tcc gtg atg cat gag gct
ctg cac aac cac tac acg cag aag agc ctc tcc ctg tct ccg ggt aaa tga 3’ (配列番号132)を有し、アミノ酸配列: Glu Pro Lys Ser Cys Asp Lys Thr His Thr Cys Pro Pro Cys Pro Ala Pro
Glu Leu Leu Gly Gly Pro Ser Val Phe Leu Phe Pro Pro Lys Pro Lys Asp Thr Leu Met
Ile Ser Arg Thr Pro Glu Val Thr Cys Val Val Val Asp Val Ser His Glu Asp Pro Glu
Val Lys Phe Asn Trp Tyr Val Asp Gly Val Glu Val His Asn Ala Lys Thr Lys Pro Arg
Glu Glu Gln Tyr Asn Ser Thr Tyr Arg Val Val Ser Val Leu Thr Val Leu His Gln Asp
Trp Leu Asn Gly Lys Glu Tyr Lys Cys Lys Val Ser Asn Lys Ala Leu Pro Ala Pro Ile
Glu Lys Thr Ile Ser Lys Ala Lys Gly Gln Pro Arg Glu Pro Gln Val Tyr Thr Leu Pro
Pro Ser Arg Asp Glu Leu Thr Lys Asn Gln Val Ser Leu Thr Cys Leu Val Lys Gly Phe
Tyr Pro Ser Asp Ile Ala Val Glu Trp Glu Ser Asn Gly Gln Pro Glu Asn Asn Tyr Lys
Thr Thr Pro Pro Val Leu Asp Ser Asp Gly Ser Phe Phe Leu Tyr Ser Lys Leu Thr Val
Asp Lys Ser Arg Trp Gln Gln Gly Asn Val Phe Ser Cys Ser Val Met His Glu Ala Leu
His Asn His Tyr Thr Gln Lys Ser Leu Ser Leu Ser Pro Gly Lys (配列番号133)を有するペプチドをコードしている。
【0035】
定常Igドメインは更に、例えばFc受容体への結合及び補体活性化など、一つ以上のエフェクタ機能を減少又は消失させる一つ以上の変異を有していてもよい(例えばS. Morrison, Annu. Rev. Immunol., 10, pp. 239-65 (1992); Duncan and
Winter (1988) Nature 332: 738-740; and Xu et al. (1994) J Biol. Chem. 269:
3469-3474を参照されたい)。例えば、ヒトIgG1のLeu 235及びPro 331に相当するアミノ酸をそれぞれGlu及びSerにする置換が提供される。このようなコンストラクトは、更に、米国特許第6,656,728号に解説されている。
【0036】
定常Igドメインを、ペプチドのN末端又はC末端に連結してもよい。
【0037】
更にペプチドを、例えばペプチドと免疫グロブリンドメインとの間など、スロンビン切断部位を持つリンカ配列に連結してもよい。このような部位をコードするヌクレオチド配列の一例は以下のヌクレオチド配列:5’ tct aga ggt ggt cta gtg ccg cgc ggc agc ggt tcc ccc ggg ttg cag
3’ (配列番号:134)を有し、アミノ酸配列: Ser Arg Gly Gly Leu Val Pro Arg
Gly Ser Gly Ser Pro Gly Leu Gln (配列番号: 135)を有するペプチドをコードしている。
【0038】
ペプチドをシグナル配列に融合させてもよい。例えば組換えにより調製する場合、当該ペプチドをコードする核酸を、その5'末端でシグナル配列に連結して、このペプチドが細胞から分泌されるようにしてもよい。
【0039】
ペプチドを実質的に純粋な製剤として用いてもよく、例えば、製剤中のペプチドの少なくとも約90%が所望のペプチドであるなどである。所望のペプチドを少なくとも約50%、60%、70%、又は80%含む組成物を用いてもよい。
【0040】
ペプチドを変性させても、又は変性させなくてもよく、また、その結果凝集させても、又は凝集させなくてもよい。ペプチドは、当業で公知の方法に従って変性させることができる。
【0041】
ペプチドを亜鉛に結合させてもよい。このように、例えばペプチドの大半が一つ以上のZn2+分子に結合するのに充分な量など、ペプチドをZn2+を含む組成物にしてもよい。Zn2+のペプチドへの結合は、以下の検定により実証することができる。亜鉛及びペプチド溶液を混合し、選択的に一緒にインキュベートし、その後透析して、当該ペプチドに結合していない亜鉛を取り除く。次に、ペプチド溶液中の亜鉛の検出を、原子吸光により行うことができる。
【0042】
ここで包含される更に他のペプチドは、修飾されたアミノ酸を含むものである。ペプチドの例は、糖鎖付加、ペグ化、リン酸化、又は、由来のもととなったペプチドの少なくとも一つの生物学的機能を保持するいずれかの類似のプロセスにより、修飾されたものでもよい誘導体ペプチドである。
【0043】
更にペプチドは、一つ以上の非天然で生じるアミノ酸を含んでいてもよい。例えば、非古典的なアミノ酸又は化学的アミノ酸類似体を、ペプチドの置換又は追加として導入することができる。非古典的なアミノ酸には、限定はしないが、通常のアミノ酸のD型異性体、2,4-ジアミノ酪酸、アルファ−アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、ガンマ-Abu、イプシロン−Ahx、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、ベータ−アラニン、フルオロ−アミノ酸、ベータ−メチルアミノ酸、Calpha−メチルアミノ酸、Nalpha−メチルアミノ酸などのデザイナアミノ酸、及び一般的なアミノ酸類似体、がある。更に、アミノ酸は
D (右旋)でも、又はL(左旋)でもよい。
【0044】
他の具体的な実施態様では、ここで挙げたペプチドの分枝状の形も、例えば当該配列内の一つ以上のアミノ酸を、一つ以上のアミノ酸とペプチド結合を形成することのできる(こうして「分枝」を形成することのできる)遊離側鎖を持つ一個のアミノ酸又はアミノ酸類似体と置換するなどにより、提供される。環状のペプチドも考察されている。
【0045】
更に、例えばベンジル化、糖鎖付加、アセチル化、リン酸化、アミド化、ペグ化、公知の保護/遮断基による誘導体化、たんぱく質分解による切断、別の分子又は細胞リガンドへの連結等により、合成中又は合成後に示差的に修飾されたペプチド誘導体も含まれる。具体的な実施態様では、当該のペプチドを、N末端でアセチル化及び/又はC末端でアミド化する。
【0046】
更に、例えば化学修飾されたペプチド及びペプチド・ミメティックなど、エンドスタチン・ペプチドの誘導体も提供される。ペプチド・ミメティックは、ペプチド及びたんぱく質に基づく、又は由来とする化合物である。ペプチド・ミメティックは、非天然のアミノ酸、コンホメーション拘束、公知のペプチド配列の等配電子置換等を用いた構造修飾により、得ることができる。当該のペプチド・ミメティックは、ペプチドと非ペプチド合成構造との間の構造空間の連続体を構成する;従って、ペプチド・ミメティックは、ファーマコフォアの輪郭を描き出したり、ペプチドを、親ペプチドの活性を持つ非ペプチド化合物に翻訳する手助けしたりする上で有用であろう。
【0047】
更に、当該ペプチドのミメトープを提供することができる。このようなペプチド・ミメティックには、例えば加水分解不能である(例えば相当するペプチドを分解するようなプロテアーゼ又は他の生理条件に対して安定性が高いなど)、特異性が高い、及び/又は、細胞分化を刺激する効力が高いなどの属性を有させることができる。描写を目的とすると、ペプチド類似体は、例えばベンゾジアゼピン(例えばFreidinger et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall
ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988を参照されたい)、置換ガマラクタム環 (Garvey et al. in Peptides:
Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden,
Netherlands, 1988, p123)、C-7 ミミック (Huffman et al. in Peptides: Chemistry and Biologyy, G.R. Marshall ed., ESCOM
Publisher: Leiden, Netherlands, 1988, p. 105)、ケト−メチレン・シュードペプチド
(Ewenson et al. (1986) J
Med Chem 29:295; and Ewenson et al. in Peptides:
Structure and Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium)
Pierce Chemical Co. Rockland, IL, 1985)、β−ターン・ジペプチド・コア (Nagai et al. (1985) Tetrahedron
Lett 26:647; and Sato et al. (1986) J
Chem Soc Perkin Trans 1:1231)、 β−アミノアルコール (Gordon et al. (1985) Biochem Biophys Res Commun126:419; 及び Dann et al. (1986) Biochem Biophys Res Commun 134:71)、ジアミノケトン (Natarajan et al. (1984) Biochem
Biophys Res Commun 124:141)、及びメチレンアミノで修飾された (Roark et al. in Peptides:
Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden,
Netherlands, 1988, p134)などを用いて作製することができる。更に、概略的には Session III: Analytic and synthetic methods, in in Peptides: Chemistry and Biology, G.R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands,
1988) を参照されたい。
【0048】
ペプチド・ミメティックを作製するために行うことのできる多種の側鎖置換に加え、本明細書では、ペプチド二次構造のコンホメーション上で拘束されたミミックの使用を具体的に考察する。数多くのサロゲートがペプチドのアミド結合の代わりに開発されてきた。アミド結合の代わりに頻繁に利用されるサロゲートには、以下の基(i)trans-オレフィン、(ii)フルオロアルケン、(iii)メチレンアミノ、(iv)ホスホンアミド、及び(v)スルホンアミドがある。
【0049】
【化1】

【0050】
加えて、ペプチドの骨格のより実質的な修飾に基づくペプチド・ミメティックを用いることができる。この分類に入るペプチド・ミメティックには、(i)レトロ−インベルソ類似体、及び(ii)N−アルキルグリシン類似体(所謂ペプトイド)がある。
【0051】
【化2】

【0052】
更に、コンビナトリアル化学法が、新しいペプチド・ミメティックの開発に集中しつつある。例えば、ある実施態様の所謂「ペプチド・モーフィング」戦略は、幅広いペプチド結合置換基を含むペプチド類似体のライブラリのランダムな作製に焦点を当てたものである。
【0053】
【化3】

【0054】
ある例示的な実施態様では、該ペプチド・ミメティックを当該ペプチドのレトロ−インベルソ類似体として得ることができる。このようなレトロ−インベルソ類似体は、Sisto らの米国特許第4,522,752号に解説されたものなど、当業で公知の方法に従って作製することができる。レトロ−インベルソ類似体は、例えばWO 00/01720などに解説されたように作製することができる。通常のペプチド結合を含むなど、混合したペプチドも作製できることは理解されよう。一般的な指針として、典型的には、たんぱく質分解を最も起こし易い部位を、ミメティック変換について選択的である、より起こし難いアミド結合に変更する。最終的な生成物、又はその中間体はHPLCにより精製することができる。
【0055】
ペプチドは、少なくとも一つのアミノ酸又は全てのアミノ酸がD型立体異性体になった状態で含んでいてもよい。他のペプチドは、反転した少なくとも一つのアミノ酸を含むものであろう。この反転したアミノ酸はD型立体異性体であってもよい。ペプチドの全てのアミノ酸が反転していても、及び/又は、全てのアミノ酸がD型立体異性体であってもよい。
【0056】
別の例示的な実施態様では、ペプチド・ミメティックをペプチドのレトロ−エナンチオ類似体として得ることができる。これなどのレトロ−エナンチオ類似体は、市販のD型アミノ酸(又はその類似体)と、WO 00/01720などに解説された標準的な固相又は液相ペプチド合成技術とにより、合成することができる。最終的な生成物をHPLCで精製して、純粋なレトロ−エナンチオ類似体を得てもよい。
【0057】
更に別の例示的な実施態様では、trans-オレフィン誘導体を当該のペプチドの代わりに作製することができる。trans-オレフィン類似体は、Y.K.
Shue et al. (1987) Tetrahedron Letters
28:3225 の方法に従って、そしてWO 00/01720に解説されたように、合成することができる。更に、上記の方法により合成されたシュードジペプチドを他のシュードジペプチドに結び付けて、アミド官能基の代わりにいくつかのオレフィン官能基を持つペプチド類似体を作製することもできる。
【0058】
更に別のクラスのペプチド・ミメティック誘導体には、ホスホネート誘導体がある。このようなホスホネート誘導体の合成は、公知の合成スキームから適合させることができる。例えばLoots et al. in Peptides:
Chemistry and Biology, (Escom Science Publishers, Leiden, 1988, p. 118);
Petrillo et al. in Peptides: Structure
and Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium, Pierce
Chemical Co. Rockland, IL, 1985)を参照されたい。
【0059】
数多くの他のペプチド・ミメティック構造が当業で公知であり、当該のペプチド・ミメティックで用いるために容易に適合させることができる。実例を挙げると、ペプチド・ミメティックには、1-アザビシクロ[4.3.0]ノナン・サロゲート(Kim et al.
(1997) J. Org. Chem. 62:2847を参照されたい)を、又はN−アシルピペラジック(原語:piperazic)酸(Xi et al. (1998) J. Am. Chem. Soc. 120:80を参照されたい)を、あるいは2-置換ピペラジン部分を拘束されたアミノ酸類似体として(Williams et al.
(1996) J. Med. Chem. 39:1345-1348を参照されたい)、取り入れてよい。更に他の実施態様では、いくつかのアミノ酸残基を、例えば単環式又は二環式の芳香族又はヘテロ芳香族の核、あるいは、二芳香族、芳香族−へテロ芳香族、又は二ヘテロ芳香族の核など、アリール又はビアリール部分に置換することができる。
【0060】
当該のペプチド・ミメティックを、例えば高スループット・スクリーニングと組み合わせたコンビナトリアル合成技術などにより、最適化することができる。
【0061】
更に、ミメトープの他の例には、限定はしないが、たんぱく質ベースの化合物、糖質ベースの化合物、脂質ベースの化合物、核酸ベースの化合物、天然有機化合物、合成由来の有機化合物、抗イディオタイプ抗体及び/又は触媒性抗体、又はその断片がある。ミメトープは、例えば天然及び合成化合物のライブラリを、血管新生及び/又は腫瘍成長を阻害することのできる化合物を探してスクリーニングするなどにより、得ることができる。更にミメトープは、例えば天然及び合成化合物のライブラリ、特に化学的又はコンビナトリアル・ライブラリ(即ち、配列又は大きさでは異なるが、同じビルディング・ブロックを有する化合物のライブラリ)などからも得ることができる。またミメトープは、合理的な薬物デザインなどでも得ることができる。合理的な薬物デザイン法においては、本発明の化合物の三次元構造を、例えば核磁気共鳴法(NMR)又はX線結晶学などで解析することができる。こうしてこの三次元構造を用いて、コンピュータ・モデリングなどにより潜在的なミメトープの構造を予測することができる。予測されたミメトープを、次に、例えば化学合成、組換えDNA技術によって、あるいは、天然源(例えば植物、動物、細菌及びカビ)からミメトープを単離することによっても生じさせることができる。
【0062】
「ペプチド、そのバリアント及び誘導体」又は「ペプチド及びその類似体」は「ペプチド治療薬」に含まれ、当該のペプチドや、又は、ペプチド・ミメティックなどのその修飾方のいずれも含まれることが意図されている。好適なペプチド治療薬は抗血管新生活性を有するものである。例えば、それらはここで解説された検定などで判定したときに、少なくとも約50%、2分の1、5分の1、10分の1、30分の1又は100分の1、血管新生を減じるか、又は阻害できよう。
【0063】
抗血管新生や、腫瘍の成長又は形成の阻害に関して候補ペプチドを検査する検定は当業で公知であり、例示的なものはここで更に解説されている。
【0064】
核酸
更に、抗血管新生性ペプチドをコードする核酸も開示される。好適な核酸は以下の通りである:
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 1)。
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 3)。
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggt
(配列番号 5)。
agccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 7);
caccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc(配列番号 9);
cgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 11);
gacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 13);
ttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 15);
cagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 17);
ccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 19);
gtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 21);
ctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 23);
cacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 25);
ctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 27);
gttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 29);
gcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 31);
ctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号 33);
aacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatccgc
(配列番号35);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcggggcatc
(配列番号 37);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatgcgg
(配列番号 39);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggcatg
(配列番号 41);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggcggc
(配列番号 43);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtcaggc
(配列番号 45);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctgtca
(配列番号 47);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagccccctg
(配列番号 49);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagcccc
(配列番号 51);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaacagc
(配列番号 53);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctcaac
(配列番号 55);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcgctc
(配列番号 57);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggttgcg
(配列番号 59);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctggtt
(配列番号 61);
cacagccaccgcgacttccagccggtgctccacctg
(配列番号 63);
actcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 65);
catcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 67);
caggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 69);
gactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 71);
atttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 73);
cagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 75);
ccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 77);
gtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 79);
ctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 81);
cacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 83);
ctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 85);
gtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 87);
gcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 89);
ctgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 91);
aacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatccgt
(配列番号 93);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggtatc
(配列番号 95);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgtggt
(配列番号 97);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatgcgt
(配列番号 99);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggcatg
(配列番号 101);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctggaggc
(配列番号 103);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtctgga
(配列番号 105);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctgtct
(配列番号 107);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacccccctg
(配列番号 109);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacaccccc
(配列番号 111);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaacacc
(配列番号 113);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactgaac
(配列番号 115);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggcactg
(配列番号 117);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtggca
(配列番号 119);
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctggtg
(配列番号 121); 及び
catactcatcaggactttcagccagtgctccacctg
(配列番号 123)。
【0065】
核酸には、ウィルスベクタなど、ペプチドを産生させるための発現ベクタなどのベクタが含まれる。更に、ここで解説されたペプチドをコードする核酸を含む細胞や、これらの細胞を培養してペプチドを産生させるステップを含む、ペプチドを作製する方法もここに包含される。これらの方法は、組換えペプチドを作製するため、又は、対象の細胞内など、細胞内でのペプチドの発現のために、用いることができる。
【0066】
適切なベクタを、例えば感染、形質導入、トランスフェクション、トランスベクション、エレクトロポレーション及び形質転換など、当業で公知の技術を用いてホスト細胞内に導入できよう。ベクタは、例えばファージ、プラスミド、ウィルス又はレトロウィルスベクタなどであってよい。レトロウィルスベクタは複製コンピテントでも、又は複製欠陥であってもよい。後者の場合、ウィルスの増殖は、一般的には、補償的なホスト細胞内でのみ起きるであろう。
【0067】
ベクタは、ホスト内での増殖に関する選択マーカを含有していてもよい。一般的には、プラスミドベクタを、リン酸カルシウム沈殿物などの沈殿物に入れて、又は、荷電した脂質との複合体として、導入する。ベクタがウィルスである場合、適したパッケージング細胞株を用いてそれをin vitroで梱包した後、ホスト細胞内に形質導入してもよい。
【0068】
好適なベクタは、当該のポリヌクレオチドに対するcis作用性制御領域を含むものである。適したtrans作用性因子は、ホストに提供させても、補償性のベクタに提供させても、又は、ホスト細胞内への導入時にベクタ自体に提供させてもよい。
【0069】
いくつかの実施態様では、ベクタが特異的発現に役立ち、該特異的発現は誘導性及び/又は細胞種特異的であってよい。このようなベクタの中で特に好適なのは、温度及び栄養添加物など、操作が容易な環境因子により誘導可能なものである。
【0070】
本発明において有用な発現ベクタには、染色体−、エピソーム−、及びウィルス由来ベクタ、例えば細菌性プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体因子、バキュロウィルス、パポバウィルス、ワクシニアウィルス、アデノウィルス、ニワトリ痘瘡ウィルス、偽狂犬病ウィルス及びレトロウィルスなどのウィルスや、コスミド及びファージミドなど、これらの組合せを由来とするベクタがある。
【0071】
DNAインサートは適したプロモータ、例えばファージ・ラムダPLプロモータ、E. coli lac、trp及びtacプロモータ、SV40初期及び後期プロモータ、ならびにレトロウィルスLTRのプロモータなど、に作動的に連鎖させなくてはならない。他の適したプロモータは当業者には公知であろう。当該の発現コンストラクトは、更に、転写開始、終了のための部位、そして転写領域には、翻訳のためのリボゾーム結合部位を含有するであろう。このコンストラクトにより発現する成熟転写産物のコーディング部分は、好ましくは、始まりには翻訳開始部位を、そして翻訳しようとするポリペプチドの末尾に適切に配置された終了コドン(UAA、UGA 又は UAG)を、含有するとよいであろう。
【0072】
提示したように、当該の発現ベクタは、好ましくは、少なくとも一つの選択マーカを含むとよいであろう。このようなマーカには、真核細胞培養株の場合にはジヒドロ葉酸レダクターゼ又はネオマイシン耐性遺伝子、そしてE. coli及び他の細菌で培養する場合にはテトラサイクリン、カナマイシン、又はアンピシリン耐性遺伝子、がある。適したホストの代表的な例には、限定はしないが、E. coli、ストレプトミセス(原語:Streptomyces )及びサルモネラ−チフィムリウム(原語:Salmonella typhimurium )細胞などの細菌細胞;酵母細胞などの真菌細胞;ドウロソフィラS2及びSf9細胞などの昆虫細胞;CHO、COS 及びBowes 黒色腫細胞などの動物細胞;及び植物細胞がある。上記のホスト細胞にとって適した培養基及び条件は当業で公知である。
【0073】
細菌で用いるために好適なベクタの中には、キアジェン社から入手可能なpQE70、pQE60 及びpQE9、pQE10;ストラタジーン社から入手可能なpBS
ベクタ、Phagescript ベクタ、Bluescriptベクタ、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;ノヴァジェン社から入手可能な
pET シリーズのベクタ;及びファルマシア社から入手可能なptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5がある。好適な真核性ベクタの中には、ストラタジーン社から入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1 及びpSG;及びファルマシア社から入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG 及び pSVLがある。他の適したベクタは当業者には容易に明白であろう。
【0074】
本発明に用いるために適した公知の細菌性プロモータの中には、E. coli lacI 及びlacZ プロモータ、T3、T5 及び T7プロモータ、gpt プロモータ、ラムダPR 及びPLプロモータ、trp プロモータ及びxyI/tet キメラ・プロモータがある。適した真核性プロモータには、CMV 最初期プロモータ; HSVチミジンキナーゼプロモータ;初期及び後期SV40プロモータ、レトロウィルスLTRのプロモータ、例えばラウス肉腫ウィルス(RSV)のものなど、及びマウスメタロチオネイン-Iプロモータなどのメタロチオネインプロモータ、がある。
【0075】
コンストラクトのホスト細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、陽イオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染及び他の方法により、行うことができる。このような方法は、数多くの標準的な研究室用手引き(例えばDavis, et
al., Basic Methods In Molecular Biology (1986))で解説されている。
【0076】
本発明のポリヌクレオチドをコードするDNAの高等真核生物による転写を、エンハンサ配列をベクタに挿入することにより、高めてもよい。エンハンサは、ホスト細胞種内でプロモータの転写活性を増加させる働きをする、通常は約10乃至300ヌクレオチドのcis作用性のDNA因子である。エンハンサの例には、複製開始点の後ろ側のヌクレオチド100から270に位置する SV40エンハンサ、サイトメガロウィルス初期プロモータエンハンサ、複製開始点の後ろ側のポリオーマエンハンサ、及びアデノウィルスエンハンサがある。
【0077】
本発明のポリペプチドの組換え可溶型を、例えばこのたんぱく質が細胞膜へ局在化できないように、膜内外ドメインの少なくとも一部分を欠失させるなどにより、作製してもよい。更に、スプライス・バリアントをコードする核酸や、又は、転写がイントロン内の部位から開始されたものなど、選択的な転写開始部位から合成された転写産物を表す核酸も、本発明の範囲内にある。このような相同体は、当業で公知の標準的な方法を用いたハイブリダイゼーション又はPCRにより、クローニングすることができる。
【0078】
ポリヌクレオチド配列には、天然のリーダ配列又は異種のリーダ配列など、リーダ配列もコードさせてよい。選択的には、天然のリーダ配列を欠失させ、異種のリーダ配列がその代わりに挿入されるように、核酸を操作することができる。用語「リーダ配列」はここでは用語「シグナル・ペプチド」と交換可能に用いられている。例えば、所望のDNA配列を、当該ペプチドのホスト細胞からの発現及び分泌に役立つようなDNA配列、例えば細胞からの当該ポリペプチドの輸送を制御する分泌配列として働くリーダ配列など、に同じ読み枠内で融合させてもよい。リーダ配列を有するたんぱく質はプレたんぱく質であり、ホスト細胞により切断されるリーダ配列を有することで、成熟型のたんぱく質を形成させてもよい。
【0079】
翻訳後のポリペプチドを、小胞体のルーメン内に、ペリプラスム間隙内に、又は、細胞外環境に分泌させるために、適した分泌シグナル、例えばアミノ酸配列KDELなどを発現後のポリペプチドに取り入れてもよい。シグナルは当該のポリペプチドにとって内因性でも、又はこれらは異種のシグナルであってもよい。
【0080】
当該のポリペプチドを融合たんぱく質などの修飾された形で発現させてもよく、そして、分泌シグナルだけでなく、付加的な異種の機能領域を含めてもよい。例えば、付加的なアミノ酸、特に荷電したアミノ酸の領域を当該のポリペプチドのN末端又はC末端に追加して、精製中、又は、その後の操作及び保管中のホスト細胞中での安定性及び持続性を高めてもよい。更に、精製を容易にするためにペプチド部分を当該ポリペプチドに追加してもよい。このような領域を、当該ポリペプチドの最終的な調製前に除去してもよい。中でも、分泌又は排出をもたらし、安定性を高め、そして精製を容易にするために、ペプチド部分をポリペプチドへ追加することは、当業において公知であり、慣例的な技術である。このような融合たんぱく質の一例は、たんぱく質を可溶化するために有用な、免疫グロブリン由来の異種領域を含むものであろう。
【0081】
方法の例
抗血管新生性ペプチド、又は、抗血管新生性ペプチドをコードする核酸ベクタを、これを必要とする対象に、血管新生及び/又は細胞増殖、例えば腫瘍成長、あるいはこれに関係する疾患又は以上を防ぐ又は減らすために、投与してもよい。対象はヒトであっても、又は哺乳動物などの動物であってもよい。
【0082】
無調節の血管新生は、複数の疾患状態、腫瘍転移、及び、内皮細胞の異常な成長で起き、これらの状態で見られる病的損傷を支援する。無調節の血管新生が原因で生じる多様な病的状態は、まとめて血管新生依存的又は血管新生関連疾患と分類されてきた。血管新生プロセスの制御を狙った治療法は、これらの疾患の消失又は軽減につながるかも知れない。このように、正常又は疾患のいずれに関連するかにかかわらず、血管新生はあらゆる新しい組織成長に関係している。従って、ここで解説された治療薬を、正常又は疾患のいずれに関連するかにかかわらず、あらゆる新しい組織成長に関連する血管新生を阻害するために用いることができる。
【0083】
治療薬を、血管新生及び/又は細胞増殖、例えば腫瘍成長、あるいはこれらに関連するいずれかの疾患又は異常を防ぐために、組織に接触させてもよい。血管新生により媒介される疾患及びプロセスには、血管腫、充実腫瘍、白血病、転移、血管拡張乾癬強皮症、化膿性肉芽腫、心筋の血管新生、プラークの新血管新生、冠状動脈側副路、大脳側副路、動静脈奇形、虚血性四肢血管新生、角膜疾患、ルベオーシス、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、水晶体後方線維増殖症、関節炎、糖尿病性血管新生、黄斑部変性、創傷治癒、消化性潰瘍、骨折、ケロイド、類天疱瘡、トラコーマ、脈管形成、血球新生、排卵、月経、及び胎盤形成、がある。ここで解説された治療薬を、更に、癌を治療又はその成長を抑制する、あるいは腫瘍の大きさを減らすために用いてもよい。
【0084】
血管新生は充実腫瘍の形成及び転移において顕著である。血管新生因子は、例えば黄紋筋肉腫、網膜芽腫、ユーイング肉腫、神経芽腫、及び骨肉腫などのいくつかの充実腫瘍に関連することが見出されている。腫瘍は、栄養分を提供し、細胞老廃物を取り除く血液供給なしでは大きくなることはできない。血管新生が重要である腫瘍には、聴神経腫、神経芽腫、トラコーマ及び化膿性肉芽腫などの充実腫瘍及び良性の腫瘍がある。血管新生を妨げると、これらの腫瘍の成長、そして腫瘍の存在を原因とする動物への傷害が止まるであろう。
【0085】
血管新生は腫瘍転移の二つの段階で重要である。血管新生の刺激が重要である一番目の段階は、腫瘍を血流に進入させて身体全体を循環できるようにする、腫瘍の血管化においてである。腫瘍細胞が原発部位を後にし、二次的な転移部位に定着すると、新しい腫瘍が成長し、拡大できるまでには血管新生が起きなければならない。従って、血管新生を妨げると、腫瘍の転移の防止につながり、そしておそらくは新生物の成長を原発部位に封じ込めるであろう。
【0086】
血管新生は、白血病などの血液由来の腫瘍や、白血球の無制限な増殖が起き、通常はそれに伴って貧血、血液凝固不全、並びにリンパ節、肝臓及び脾臓の肥大が起きるような、骨髄のあらゆる多様な急性又は慢性の新形成性疾患と関連付けられてきたことに注目されたい。血管新生は、白血病様の腫瘍を生じさせる骨髄中の異常において役割を果たすと考えられる。
【0087】
ここで解説された組成物をアテローム性硬化症を治療するために用いてもよい。従って、ここで解説されたペプチドを含む組成物を用いて、アテローム性硬化の成長又はプラーク形成を防いだり、又は緩解できよう。
【0088】
一般的には、ここで解説された組成物を、免疫性及び非免疫性の炎症などの炎症性異常、慢性関節リウマチ、不適切な又は時期を外した血管浸潤に関連する乾癬性異常、例えば糖尿病性網膜症、新生血管性緑内障、再狭窄、アテローム性硬化症プラーク中の毛管増殖及び骨粗しょう症を治療するために用いてよい。治療可能な癌関連異常には、充実腫瘍、充実腫瘍転移、血管線維腫、水晶体後方線維増殖症、血管腫、及びカポジ肉腫がある。
【0089】
血管新生が媒介する疾患の一例は眼の新生血管性疾患である。この疾患は、網膜又は角膜などの眼の構造への新しい血管の浸潤を特徴とする。それは失明の最もよくある原因であり、ほぼ20種の眼疾患に関与している。年齢に関係する黄斑部変性においては、随伴する視覚上の問題は、網膜色素上皮下方の維管束組織の増殖を伴った、ブルッフ膜の欠損を通じた脈絡毛細管の内植である。更に、血管新生性の損傷は、糖尿病性網膜症、未熟児の網膜症、角膜移植片拒絶、血管新生緑内障及び水晶体後方線維増殖症にも関連している。
【0090】
ここで解説した通りに治療することのできる、角膜新血管新生に関連する疾患には、限定はしないが、糖尿病性網膜症、未熟児の網膜症、角膜移植片拒絶、血管新生緑内障及び水晶体後方線維増殖症、流行性角結膜炎、ビタミンA欠損症、コンタクトレンズの着けすぎ、アトピー性角膜炎、上肢角膜炎、翼状片乾燥性角膜炎、シェーグレン、赤鼻、フリクテン症、梅毒、マイコバクテリア感染、脂質変性症、化学火傷、細菌性潰瘍、真菌性潰瘍、単純疱疹感染、帯状疱疹感染、原虫感染、カポジ肉腫、モーレン潰瘍、テリエン周辺変性症、辺縁角質溶解、外傷、リウマチ様関節炎、全身性エリテマトーデス、多発性動脈炎、ウェグナー類肉腫症、シエリティス(原語:Scieritis)、スティーブンズ−ジョンソン病、及びペリフィゴイド(原語:periphigoid)放射状角膜切開、がある。
【0091】
ここで解説した通りに治療することのできる、網膜/絨毛膜新血管新生に関連する疾患にに、限定はしないが、糖尿病性網膜症、黄斑部変性症、鎌状赤血球貧血、類肉腫、梅毒、弾性線維性偽性黄色腫、パジェット病、静脈閉塞、動脈閉塞、頚動脈閉塞性疾患、慢性ブドウ膜炎/硝子体炎、マイコバクテリア感染、ライム病、全身性エリテマトーデス、未熟児の網膜症、イールズ病、ベーチェット病、網膜炎又は脈絡膜炎を起こす感染、推定眼ヒストプラズマ症、ベスト病、近眼、眼陥凹、シュタルガルト病、扁平部炎、慢性網膜剥離、過粘稠度症候群、トキソプラズマ、外傷及びレーザ後合併症、がある。他の疾患には、限定はしないが、ルベオーシスに関連する疾患(隅角の新血管新生)及び糖尿病に関係あるなしに関係なく、全ての形の増殖性硝子体網膜症を含む、維管性又は線維性組織の異常な増殖により引き起こされる疾患がある。
【0092】
血管新生が関与していると考えられるもう一つの疾患はリウマチ様関節炎である。関節の滑膜層中の血管は血管新生を起こす。新しい血管網の形成に加え、その内皮細胞は、パンヌスの成長及び軟骨の破壊につながる因子及び反応性酸素種を放出する。血管新生に関与するこの因子は、リウマチ様関節炎の慢性炎症状態に能動的に寄与し、維持する助けをしているのであろう。
【0093】
血管新生に関連する因子は、更に、変形性関節症でも役割を有していると考えられる。血管新生関連因子による軟骨細胞の活性化は、関節の破壊に寄与する。後期の段階では、この血管新生因子は新しい骨形成を促進するのであろう。骨破壊を妨げる治療的介入により、この疾患の進行を止め、関節炎患者の苦痛を和らげることができるかも知れない。
【0094】
慢性の炎症にも、病的な血管新生が関与しているであろう。潰瘍性大腸炎及びクローン病などの疾患は、新しい血管の炎症組織への内植を伴う組織学的変化を示す。南アメリカで見られる細菌感染であるバルトネラ症は、血管内皮細胞の増殖を特徴とする慢性段階に至る場合がある。血管新生に関連するもう一つの病理学的役割は、アテローム性硬化症に見られる。血管の内腔で形成されるプラークは、血管新生刺激活性を有することが示されている。
【0095】
小児で最も頻繁にある血管新生性疾患の一つが血管腫である。大半の場合、その腫瘍は良性であり、介入なしで退行する。より重篤な場合、この腫瘍は大型の空洞性かつ浸潤性の形に進行して、臨床上の合併症を生じる。全身型の血管腫である血管腫症は、高い死亡率を有する。現在用いられている治療薬では治療することのできない治療耐性の血管腫が存在する。
【0096】
血管新生は、オスラーーウェーバーーランジュ病などの遺伝性疾患や、遺伝性の出血性血管拡張症などの遺伝性疾患でも損傷を担っている。これは、複数の小さな血管腫や、血管又はリンパ管の腫瘍を特徴とする遺伝性疾患である。その血管腫は皮膚及び粘膜で見られ、しばしば鼻出血(鼻血)又は胃腸管の出血を伴い、そして時には肺又は肝臓の動静脈瘻も伴う。
【0097】
本発明に従って治療することのできるもう一つの疾患は後天性免疫不全症候群である。
【0098】
更に本治療的ペプチドを、例えば脂肪組織、良性のポリープ、肥大した心臓組織、肥大した腎組織、肥大した前立腺組織、アミロイド沈着物を含有する組織、及び子宮類線維腫など、正常な血管化組織の過増殖を減らすために用いてもよい。本治療薬を、当該組織への血管供給を減らしたり、又は、脂肪組織、ポリープ(例えば腸管又は鼻のポリープ)、及び筋肉(心臓を含む)組織などの血管化組織の大きさ又は成長を減少させたりするために有効な量、投与してよい。従って、治療してもよい対象には、ポリープ症、及び肥大した前立腺、心臓又は腎臓の肥大を有するか、あるいは肥満している又は過体重である対象が含まれる。本ペプチド治療薬を、治療しようとする血管化組織の大きさ及び/又は成長を調節する血中レベルに至るような量及び期間、投与してもよい。
【0099】
体重を減らすための本治療薬は、正常な過体重の個体や、遺伝的欠陥を持つ個体の両方に適用することができる。更に本方法は、ホルモン性又は代謝性の欠陥又は薬物副作用を原因とする体重増加を伴う大半の症例にも、有用であるに違いない。脂肪なし体重を維持しつつ、体脂肪の消失を促進し、かつ、長期投与中の体重減少を維持することができる上に、この治療の他の利点には、肥満関連糖尿病において血中糖レベルの標準過がある。
【0100】
加えて、ここで解説された方法に従って治療することのできる、血管新生に関連する疾患を原因として生じるいずれの疾患又は二次的状態も、治療できよう。例えば過体重又は肥満を原因とするいずれの状態も、ここで解説されたとおりに治療又は防止できよう。代表的な疾患には、高脂血症、脂質生成不全、高コレステロール血症、糖耐性障害、高血糖レベル、X症候群、高血圧、アテローム性硬化症及び脂肪異栄養症、高血圧、高血中コレステロール、異脂肪血症、2型糖尿病、インシュリン耐性、糖不耐性、高インシュリン血症、冠状動脈心疾患、狭心症、うっ血性心不全、卒中、胆石、胆嚢炎及び胆石症、通風、変形性関節症、閉塞性睡眠時無呼吸及び呼吸の問題、いくつかの種類の癌(例えば子宮内膜、乳房、前立腺、及び結腸)、妊娠合併症、女性の低生殖能(例えば生理不順、不妊、排卵不順)、膀胱の調節上の問題(例えばストレス性失禁);尿酸腎結石症;及び精神障害(例えばう摂食障害、歪んだ身体像、及びセルフ・エスティームの低下)、がある。
【0101】
血管新生は、例えば生殖及び創傷治癒など、通常の生理学的プロセスにも関与している。血管新生は排卵、そして受精後の胞胚の着床においても重要なステップである。血管新生の阻止は、無月経を誘導したり、排卵を阻害したり、あるいは胞胚の着床を妨げるために、用いることができよう。
【0102】
創傷治癒においては、過剰な修復又は線維増殖は外科的手法の有害な副作用となる場合があり、血管新生により引き起こされる又は増悪すると考えられる。癒着は手術でしばしば起きる合併症であり、小腸の閉塞などの問題につながる。従って、これら等の状況では、ここで解説された治療的ペプチドにより創傷治癒を阻止することが好ましいであろう。
【0103】
ペプチドを医薬組成物に入れ、これを必要とする対象に投与してもよい。更にペプチドをin vitroの組織又は細胞に接触させてもよい。
【0104】
治療法は、一般に、治療的な、例えばここで解説されたペプチド又はそのバリアントもしくは誘導体あるいはこのようなものをコードする核酸を治療上有効量、これを必要とする対象に投与するステップを含む。対象は、例えばヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ヒツジ、マウス及びラットなどの哺乳動物であってよい。具体的には、ここで解説された方法を、獣医目的に用いることができる。本方法に、例えば悪性又は良性の腫瘍成長など、ここで解説されたペプチドの投与が有益であるような疾患又は異常のある対象をまず診断するステップを含めてもよい。更に本方法に、当該治療薬の効果を、その投与から特定の時間後に判定するステップを含めてもよい。例えば、腫瘍成長の大きさを、当該治療の開始から約1週間、一ヶ月又は二ヵ月後に評価してもよい。この評価には、更に、腫瘍などの組織の試料を得るステップや、血管新生のレベルを判定するステップを含めてもよい。
【0105】
本治療薬を、「成長阻害量」、即ち、細胞又は組織の増殖を阻害又は減少させるために治療上有効なペプチド量にして、投与することができる。本治療薬を、「抗血管新生量」、即ち、血管新生を阻害又は減少させるために治療上有効な治療薬量にして、投与してもよい。本治療薬を、哺乳動物、好ましくはヒト、に、単独で、又は、薬学的に許容可能な担体、医薬品添加物又は希釈剤と一緒に医薬組成物として、標準的な薬学的慣例に従って投与してもよい。治療薬を、血管新生又は腫瘍成長を阻害したい組織に直接、投与してもよい。更に本治療薬を、経口や、あるいは、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、直腸及び局所を含む非経口で投与してもよい。一つ以上の治療薬を、治療しようとする対象の腫瘍に直接、注射することもできる。
【0106】
本ペプチド又はそのバリアントもしくは誘導体を、亜鉛と一緒に同時投与してもよい。例えば、治療的組成物を、治療上有効量(下記を参照)にして、治療上有効量のZn2+(下記を参照)と一緒に投与してもよい。例えば亜鉛を本ペプチドと相互作用させるためなど、本ペプチド又はそのバリアントもしくは誘導体を、投与前又は投与時に、亜鉛溶液と配合してもよい。代替的には、本ペプチド又はそのバリアントもしくは誘導体を、亜鉛とは別に、亜鉛の投与前又は投与後に、少なくとも普通の時間の間、両者が循環中に存在することを条件に、投与する。例えば、亜鉛の溶液を、本ペプチドの投与前又は投与後の約2、3分間乃至2、3時間、投与してもよい。更に他の実施態様では、ペプチドを投与する対象に亜鉛を全く投与しない。しかしながら、投与されるペプチドは、対象が彼らの血液循環中に亜鉛を有する場合、やはり亜鉛に結合するであろう。
【0107】
本治療薬の毒性及び治療効果は、例えばLD50(集団の50%にとって致命的な用量)及びED50(集団中の50%で治療上有効な用量)を判定するためなど、細胞培養又は実験動物での標準的な薬学的手法により、決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、それは比LD50/ED50で表すことができる。大きな治療指数を示す試薬が好ましい。毒性の副作用を示す試薬を用いてもよいが、正常な細胞への潜在的損傷を抑え、ひいては副作用を減らすなどのためには、罹患組織の部位にこのような試薬を標的決定する送達系をデザインするように注意せねばならない。
【0108】
細胞培養検定及び動物実験で得られたデータを、ヒトで用いる投薬量範囲を処方する際に用いることができる。このような治療薬の投薬量は、好ましくは、毒性が少ないか、又は全くないED50を含むような循環濃度範囲に収まるとよい。投薬量は、用いる剤型及び利用する投与経路に応じて、この範囲内で様々であろう。用いられるいずれの治療薬についても、治療上の有効な用量は、まず細胞培養検定から推定することができる。細胞培養で判定したときにIC50(即ち、症状の最大時の半分を阻害する検査治療薬の濃度)を含むような循環血漿濃度範囲を達成するために、用量を動物モデルで作製してもよい。このような情報を用いると、ヒトで有用な用量をより精確に決定することができる。
【0109】
本治療薬の投薬量は、治療しようとする疾患の状況又は状態、並びに、当該のヒト又は動物の重量及び状態、及び当該化合物の投与経路といった他の臨床上の因子に依るであろう。ヒト又は動物を治療する場合、ほぼ0.5 mg/キログラム乃至 500 mg/キログラムの本治療薬を投与することができる。より好ましい範囲は約1 mg/キログラム乃至約 100 mg/キログラム
又は約 2 mg/キログラム乃至約 50 mg/キログラムであり、最も好ましい範囲は約 2 mg/キログラム 乃至 約 10 mg/キログラムである。特定の動物又はヒトにおける本治療薬の半減期に応じ、本治療薬を1日当たり数回から1週間に一回の間で投与することができる。本方法は、ヒト及び獣医学上の使用の両方への用途を有すると理解されたい。本発明の方法は、同時に又は長期間に渡って与えられる一回や複数回の投与を考察するものである。
【0110】
本ペプチド又はその類似体もしくは誘導体を亜鉛と一緒に投与する場合、約 0.1乃至 約 100 mg/kg/日;約 1 乃至 約 10 mg/kg/日;又は約 2-5 mg/kg/日の濃度で本ペプチド又はその類似体もしくは誘導体を含む治療的組成物中に、亜鉛を含めてもよい。亜鉛はZn2+の形又はその塩の形で投与してもよい。亜鉛の量は、対象の循環(例えば血液)内の亜鉛量や、対象に投与されるペプチド量に応じて様々であろう。必要であろう亜鉛量は、例えば特定の用量のペプチドを単独で又は亜鉛と組み合わせて投与された対象の血液試料を採り、例えば上述した通りに、亜鉛が複合体形成したペプチド量を決定するなどにより、決定することができる。
【0111】
治療薬を含有する医薬組成物は、例えば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性の懸濁液、分散性粉末又は顆粒、乳濁液、硬質又は軟質のカプセル、あるいはシロップ又はエリキシルなど、経口使用に適した形であってよい。経口使用を意図した組成物を、医薬組成物の製造に関して当業で公知のいずれの方法に従って調製してもよく、そしてこのような組成物には、薬学的に優美かつ味のよい製剤を提供するために、甘味剤、着香料、着色剤及び保存剤から成る群より選択される一種以上の作用物質を含めてもよい。錠剤には、活性成分(即ち治療薬)を、錠剤の調製に適した無毒性の薬学的に許容可能な医薬品添加物と混合して含めてもよい。これらの医薬品添加物は、例えば、不活性の希釈剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウム;造粒及び崩壊剤、例えば微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、コーンスターチ、又はアルギン酸;結合剤、例えばでんぷん、ゼラチン、ポリビニル−ピロリドン又はアカシアゴム、及び潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであってよい。錠剤は被覆されていなくともよいが、あるいはこれらを公知の技術で被覆して、薬物の不快な味を隠す、又は、胃腸管での崩壊及び吸収を遅らせることで、長期に渡る持続的作用を提供してもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース又はヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性の食味被覆剤、又は、エチルセルロース、酪酸酢酸セルロースなどの時間遅延剤を用いてもよい。
【0112】
経口使用用の調合物を、硬質ゼラチンのカプセルとして提供してよく、この場合、活性成分を、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンやなどの不活性の硬質希釈剤と混合し、また軟質のゼラチン・カプセルとして提供してもよく、この場合は活性成分を、ポリエチレングリコールなどの水溶性の担体、又は、ピーナッツ油、流動パラフィン、又はオリーブオイルなどの水溶性の担体と混合する。
【0113】
水性の懸濁液には、活性物質を、水性の懸濁液の製造に適した医薬品添加物と混合して含めてもよい。このような医薬品添加物は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニル−ピロリドン、トラガカントゴム、及びアカシアゴムなどの懸濁剤であり;分散剤又は湿潤剤は、天然で生じるホスファチドでよく、例えばレシチン、又は、酸化アルキレンの脂肪酸との縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレンなど、や、あるいは、酸化エチレンの長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレン−オキシセタノール、あるいは酸化エチレンと脂肪酸及びヘキシトール由来の部分エステルとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレイン酸、あるいは酸化エチレンと脂肪酸及び無水ヘキシトール由来の部分エステルとの縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレイン酸、であってよい。水性の懸濁液には、更に、一種以上の保存剤、例えばエチル、又はn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエート、あるいは一種以上の着色剤、一種以上の着香料、及びショ糖、サッカリン又はアスパルテームなどの一種以上の甘味料、を含めてもよい。
【0114】
油性の懸濁液は、活性成分を、落花生油、オリーブ油、ゴマ油又はココナッツ油などの植物油、又は、流動パラフィンなどの鉱物油に懸濁あせることにより、調合できよう。油性の懸濁液には、みつろう、固形パラフィン又はセチルアルコールなどの増粘剤を含めてもよい。上述したような甘味料や着香料を添加して、美味な経口製剤を提供してもよい。これらの組成物は、ブチル化ヒドロキシアニソール又はアルファ−トコフェロールなどの抗酸化剤の添加により、保存できよう。
【0115】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性粉末及び顆粒は、分散剤又は湿潤剤、懸濁剤及び一種以上の保存剤と混合された活性成分を提供するものである。適した分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤は、上に既に言及されたものに例示されている。甘味料、着香料及び着色料などの付加的な医薬品添加物も存在してよい。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加により、保存できよう。
【0116】
更に、医薬組成物は、水中油乳濁液の形であってもよい。油相はオリーブ油又は落花生油などの植物油であっても、又は、流動パラフィンなどの鉱物油でも、あるいはこれらの混合物であってもよい。適した乳濁剤は、天然で生じるホスファチド、例えば大豆レシチン、及び、脂肪酸及び無水ヘキシトール由来のエステル又は部分エステル、例えばソルビタンモノオレエートや、前記部分エステルと酸化エチレンとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなど、であろう。乳濁液には、更に、甘味料、着香料、保存剤及び抗酸化剤も含めてよい。
【0117】
シロップ及びエリキシルを、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はスクロースなどの甘味料と一緒に調合してもよい。このような調合物には、更に、粘滑薬、保存剤、着香料及び着色剤並びに抗酸化剤も含めてよい。
【0118】
医薬組成物は無菌の注射可能な水溶液の形であってもよい。用いてもよい許容可能な賦形剤及び溶媒の中には、水、リンガー液及び等張の塩化ナトリウム溶液がある。
【0119】
前記の無菌の注射可能な製剤は、活性成分が油相中に溶解しているような、無菌の注射可能な水中油マイクロ乳濁液であってもよい。例えば、当該の活性成分をまず大豆油及びレシチンの混合物に溶解させてもよい。次に、この油性の溶液を水及びグリセロールの混合物に取り入れ、処理してマイクロ乳濁液を形成させる。
【0120】
前記の注射可能な溶液又はマイクロ乳濁液を、局所的な大量注射により、患者の血流に導入してもよい。代替的には、当該化合物の循環中濃度が一定に維持されるような方法で当該溶液又はマイクロ乳濁液を投与することも有利であろう。このような一定の濃度を維持するためには、連続的な静脈内送達器具を用いてもよい。このような器具の一例が Deltec CADD-PLUSTMモデル 5400 静脈内ポンプである。例えば、治療的ペプチドの血中レベルを、約100乃至500ng/ml、又は約200乃至400ng/mlあるいは約250-300ng/mlの範囲内にしてもよいであろう。
【0121】
本医薬組成物は、筋肉内及び皮下投与用の無菌の注射可能な水性又は油脂性懸濁液の形であってもよい。この懸濁液は、当業で公知のように、上で言及した適した分散剤又は湿潤剤並びに懸濁剤を用いて調合できよう。更に無菌の注射可能な製剤は、無毒性の非経口上許容可能な希釈剤又は溶媒に入れた無菌の注射可能な溶液又は懸濁液であってもよく、例えば1,3-ブタン−ジオールに溶かした溶液としてもよい。加えて、無菌の非揮発性油は従来、溶媒又は懸濁用媒質として用いられている。この目的のために、合成のモノグリセリド又はジグリセリドを含め、いずれの無菌の非揮発性油を利用してもよい。加えて、オレイン酸などの脂肪酸を、注射用製剤の調製で使用できる。
【0122】
いくつかの実施態様では、局所注射などにより、治療薬を局所的に投与することが好ましい場合がある。例えば、血管新生を阻害したい、過剰な増殖を示している組織に治療薬を直接、注射してもよい。ある実施態様では、治療薬を腫瘍母地に局所投与する。
【0123】
ある実施態様では、局所的薬物投与に一般的に適しており、当業で公知のいずれかのこのような物質を含む局所用担体などを含有する局所用調合物に治療的ペプチドを取り入れる。局所用担体は、例えば軟膏、ローション、クリーム、マイクロ乳濁液、ゲル、油、溶液等の所望の形で当該組成物を提供するように選択されてもよく、また天然で生ずる又は合成由来のいずれの物質から成っていてもよい。選択された担体が、当該局所用調合物の活性物質又は他の成分に悪影響を与えないことが好ましい。ここで用いるために適した局所用担体の例には、水、アルコール及び他の無毒性の有機溶媒、グリセリン、鉱物油、シリコーン、ワセリン、ラノリン、脂肪酸、植物油、パラベン、ろう等がある。調合物は無色無臭の軟膏、ローション、クリーム、マイクロ乳濁液及びゲルであってよい。
【0124】
当業者に公知の多様な添加剤を、局所用調合物などの調合物に含めてもよい。添加剤の例には、限定はしないが、可溶化剤、皮膚透過促進剤、乳白剤、保存剤(例えば抗酸化剤)、ゲル化剤、緩衝剤、界面活性剤(特に非イオン性及び両性の界面活性剤)、乳濁剤、皮膚軟化薬、増粘剤、安定化剤、湿潤剤、着色剤、芳香剤等がある。乳濁剤、皮膚軟化薬及び保存剤と併せて可溶化剤及び/又は皮膚透過促進剤を含めることが好ましい。最適な局所用調合物は、ほぼ2重量%乃至60重量%、好ましくは2重量%乃至50重量%の可溶化剤及び/又は皮膚透過促進剤;2重量%乃至50重量%、好ましくは2重量乃至20重量%の乳濁剤;2重量%乃至20重量%の皮膚軟化薬;及び0.01乃至0.2重量%の保存剤を含み、活性物質及び担体(例えば水)が当該調合物の残りを成すものである。
【0125】
例えば他の抗炎症剤、鎮痛薬、抗菌剤、抗カビ剤、抗生物質、ビタミン、抗酸化剤、及び、限定はしないが、アントラニル酸、ベンゾフェノン(特にベンゾフェノン−3)、カンフル誘導体、桂皮酸(例えばオクチメトキシシンナメート)、ジベンゾイルメタン(例えばブチルメトキシジベンゾイルメタン)、p-アミノ安息香酸(PABA)及びこれらの誘導体並びにサリチル酸炎(例えばサリチル酸オクチル)を含む、日焼け止め用調合物に通常見られる日焼け止め剤など、 他の活性物質も調合物に含めてよい。
【0126】
局所用調合物を、化学防御的など予防的組成物として用いてもよい。化学防御法で用いる場合、特定の個体におけるいずれかの可視の状態の前に、罹患性皮膚を治療する。
【0127】
更に、治療薬を、薬物の直腸投与用の座薬の形で投与してもよい。これらの組成物は、通常の温度では固体だが直腸の温度では液体となるため直腸で溶解して薬物を放出するような非刺激性の医薬品添加物に当該薬物を混合することにより、調製することができる。このような物質には、ココアバター、グリセロゼラチン、硬化植物油、多様な分子量のポリエチレングリコールの混合物及びポリエチレングリコールの脂肪酸エステル、がある。
【0128】
局所使用の場合、本治療薬を含有するクリーム、軟膏、ゼリー、溶液又は懸濁液等を用いてよい。この用途の目的のためには、局所用途には、口内洗浄剤及びうがい剤が含まれよう。
【0129】
治療薬は、適した鼻腔内用賦形剤及び送達器具の局所使用を通じた鼻腔内型で、あるいは、当業者に公知の経皮パッチの形を用いて、投与してもよい。経皮送達系の形で投与する場合、投薬量の投与は、もちろんではあるが、投薬計画全般にわたって間欠的ではなく継続的となるであろう。
【0130】
本治療的ペプチドを、循環中の濃度が一定に維持される用量計画に従って投与してもよい。またこれらを、例えば毎日一回の大量注射など、治療が周期的に中断されるような用量計画に従って投与してもよい。
【0131】
単一の治療的ペプチド又はそのバリアントもしくは誘導体を投与してもよい。代替的には、二種の異なるペプチドを同時投与してもよい。例えば、ある治療的ペプチドをそれ単独で投与しても、あるいは、それを、米国特許第5,290,807号に解説されたTNP-470;米国特許第5,639,725号に解説されたアンジオテンシン;エンドスタチン及びサリドマイドなど、他の抗血管新生阻害剤と同時投与してもよい。他の血管新生阻害剤は、1998年10月1日の遺伝子操作ニュースや、米国特許第6,306,819号に解説されている。
【0132】
他の実施態様では、本治療薬を、治療しようとする状態にとって特に有用であることから選択された他の公知の治療薬と同時投与する。例えば、本治療薬は、公知の抗癌剤及び細胞毒と組み合わせると有用な場合がある。同様に、本治療薬は、良性又は悪性腫瘍の治療及び防止で有効な薬剤と組み合わせると有用な場合がある。本治療薬を化学療法、放射線療法に加えても、あるいは、免疫療法又はワクチン療法と組み合わせてもよい。
【0133】
ここで解説された治療薬で治療しようとする対象に同時投与することのできる薬物には、ビンカアルカロイド、エピポドフィロトキシン、アントラサイクリン抗生物質、アクチノマイシンD、プリカマイシン、ピューロマイシン、グラミシジンD、タキソール、コルヒチン、シトカラシンB、エメチン、メイタンシン(原語:maytansine)、又はアムサクリンから選択される抗新生物薬がある。
【0134】
化学療法薬(抗新生物約)として用いることのできるクラスの化合物には:アルキル化剤、抗代謝産物、天然生成物及びそれらの誘導体、ホルモン及びステロイド類(合成類似体を含む)、及び合成物質がある。これらのクラスの中の化合物の例を以下に挙げる。アルキル化剤(ナイトロジェン・マスタード、エチレンイミン誘導体、アルキルスルホネート、ニトロソウレア及びトリアジン):ウラシルマスタード、クロルメチン、シクロホスファミド(CytoxanTM)、イフォスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレン−メラミン、トリエチレンチオホスホールアミン、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾトシン、ダカルバジン、及びテモゾロミド。抗代謝産物(葉酸アンタゴニスト、ピリミジン類似体、プリン類似体及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤を含む):メトトレキセート、5-フルオロウラシル、フロクスリジン、シタラビン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、フルダラビンホスフェート、ペントスタチン、及びゲムシタビン。天然生成物及びそれらの誘導体(ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗生物質、酵素、リンホカイン及びエピポドフィロトキシンを含む):ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、パクリタキセル(パクリタキセルはタキソールRTMとして市販のものを入手可能であり、以下の小項「微小管影響性の作用薬」として解説されている)でより詳細に解説されている)、ミトラマイシン、デオキシコフォルマイシン、ミトマイシン-C、L-アスパラギナーゼ、インターフェロン(特にIFN-a)、エトポシド、及びテニポシド。ホルモン及びステロイド類(合成類似体を含む):17.アルファ-エチニルエストラジオール。ジエチルスチルベストロール、テストステロン、プレドニゾン、フルオキシメステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、テストラクトン、メゲストロールアセテート、タモキシフェン、メチルプレドニゾロン、メチルテストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、メドロキシプロゲステロンアセテート、ロイプロリド、フルタミド、トレミフェン、ゾラデックス、合成物質(プラチナ配位錯体などの無機の錯体を含む):シスプラチン、カルボプラチン、ヒドロキシウレア、アムサクリン、プロカルバジン、ミトタン、ミトキサントロン、レバミソール、及びヘキサメチルメラミン。
【0135】
これらの化学療法薬の大半の安全かつ有効に投与する方法は当業者に公知である。加えて、それらの投与は標準的な文献に解説されている。例えば、前記の化学療法約の多くの投与が"Physicians' Desk Reference" (PDR)、例えば2004版(Thomson, PDR, Montvale, N.J. 07645-1742, USA)に解説されている。
【0136】
固定された用量として処方する場合、このような組合せの生成物は、ここで解説された組合せをここで解説された投薬範囲で、そして他の薬学的に活性な物質をその認可された投薬範囲で用いるものである。複数の組合せ調合物が不適当である場合、本発明の組合せを、公知の薬学的に許容可能な物質と一緒に順次、用いてもよい。
【0137】
外部から投光された光線から送達される、又は、極小の放射線源の移植により送達されるX線又はガンマ線を含む放射線療法を、ここで解説された治療薬と組み合わせて、癌を治療するために用いてもよい。
【0138】
治療薬をヒトの対象に投与する場合、一日当たりの投薬量は、通常、処方する医師により、概略的には個々の患者の年齢、重量及び応答や、患者の症状の重篤度に応じて様々である投薬量で決定されるであろう。
【0139】
ここで解説された治療的ペプチド又はその類似体を、同位体で標識する、あるいは、限定はしないが、ポジトロン放射型断層撮影法炎、オートラジオグラフィ、フローサイトメトリ、電磁波受容体結合検定、及び免疫組織化学法を含め、エンドスタチン結合部位を標準的な技術で検出及び視覚化する際に用いられる他の分子又はたんぱく質で標識することができる。標識されたペプチド又はその類似体を、体液内のエンドスタチンに特異的な抗体の存在を検出し、定量するために用いてよい。
【0140】
当業者であれば、エンドスタチン・ペプチドをコードする核酸を、ここで解説された大半の実施態様で、ペプチドの代わりに用いることができることは理解されよう。例えば、ここで解説されたペプチドをコードする核酸を組織内に導入することにより、その組織において血管新生を阻害することができる。プロモータ又はエンハンサなどの転写制御配列に核酸を連結しても、又は含ませてもよい。更に、核酸を、発現ベクタなどのベクタ内に含めてもよい。発現ベクタの例には、ウィルスベクタ、例えばアデノウィルス及びアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクタなど、がある。ウィルス以外のベクタを用いる場合は、リポソームなど、核酸の細胞内への進入を促す様々な方法を用いることができる。
【0141】
キットの例
治療用キットなどのキットもここで提供される。キットは、ここで解説された治療的ペプチドと、選択的には本治療的ペプチドの投与のための器具とを含むであろう。更にキットには、凍結乾燥型の治療的ペプチドと、該治療的ペプチドを可溶化させるための溶液又は緩衝液とが含まれる場合もある。更にキットに、使用に関する指示が含まれる場合もある。
【0142】
本発明の実施にあたっては、そうでないと明示しない限り、当業者の技術範囲内である細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学の従来技術を用いるであろう。このような技術は文献に十二分に解説されている。例えば Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd
Ed., ed. by Sambrook, Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory
Press: 1989); DNA Cloning, Volumes I and II (D. N. Glover ed., 1985);
Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed., 1984); Mullis et al. U.S. Patent No:
4,683,195; Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins eds.
1984); Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds.
1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987);
Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide
To Molecular Cloning (1984); the treatise, Methods In Enzymology (Academic
Press, Inc., N.Y.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and
M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Methods In Enzymology,
Vols. 154 and 155 (Wu et al. eds.), Immunochemical Methods In Cell And
Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987);
Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C.
Blackwell, eds., 1986); Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor
Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0143】
実施例
以上、本発明を概略的に解説したところで、以下の実施例を参照されればより容易に理解されよう。以下の実施例は、単に本発明の特定の局面及び実施例の描写を目的として含まれたのであり、本発明を限定するものとは意図されていない。
【0144】
実施例1
抗腫瘍活性を担う27個のアミノ酸のエンドスタチン・ペプチドの同定
マウスエンドスタチン及びヒトエンドスタチンの両方を由来とする24乃至27個のアミノ酸と重なるペプチドを合成した(表1)。
【0145】
【表1】

【0146】
ペプチドは完全長エンドスタチンの大きさのほぼ7分の1から8分の1だった。三つのシステイン33、165、173をアラニンに置換し(表1で下線)、システイン135を省いて、ジスルフィド結合の形成を妨げた。二つの付加的なリジンをhP8のC末端に追加して、その可溶性を高めた(二重の下線)。大半のペプチドは水溶性であったが、高濃度時のhP2は例外だった(>2.5mg/ml)。また、全てのペプチドはほぼ70%の純度であった。しかし、95%の純度を超えるペプチドを用いた場合では、腫瘍阻害に何ら違いは観察されなかった。
【0147】
これらのペプチドを、まず、抗腫瘍活性について、SCIDマウスの背中皮下に移植されたヒト膵臓腫瘍細胞BxPC-3細胞を用いて検査した。全身治療の場合、ヒトエンドスタチンペプチドP1-P8を、マウス循環からのクリアランス速度が高いために7mg/kg/dを一日に皮下(s.c.)で2回、投与した。完全長Fc-エンドスタチンhFcESを皮下で一日当たり1回のみ、20mg/kg/dの用量、投与した。PBSをコントロールとして用いた。腫瘍を3日毎に測定し、28日目での最後の測定値を図1に示す(T/Cは各棒中で示され、群の大きさはnイコール3とした)。
【0148】
エンドスタチンのN末端hP1ペプチドはBxPC-3を39%(p=0.077)阻害し、完全長エンドスタチンを44%(p=0.0057)、阻害した(図1)。他の二つのペプチドhP2及びhP5も、何らかの小さな抗腫瘍活性を示し、hP2はBxPC-3を19%(p=0.48)、そしてhP5を29%(p=0.15)、阻害した。その他のペプチドは何の効果も有さなかった(図1)。このように、抗腫瘍活性の大半は、完全長エンドスタチンと比較してN末端のhP1ペプチドと関連していた。hP1、hP2及びhP5による腫瘍阻害は、一群当たりのマウス数が小さい(n=3)ために統計上有意ではなかったが、これらのペプチドによる腫瘍阻害を示すこの傾向から、マウスLLCモデルにおける腫瘍阻害に対するこのようなペプチドの研究が更に促進された。更に、ペプチド及び完全長エンドスタチンは、等モル濃度ではなかった。しかし、このデータは、エンドスタチンの抗腫瘍特性が、そのN末端ドメインに位置していると思われることを示唆している。
【0149】
エンドスタチンのN末端の27個のアミノ酸から成るペプチドは、その抗腫瘍特性を担っている
これらのペプチドを特徴付けるために、マウスLLC腫瘍モデル(O'Reilly
et al. (1994) Cell, 79: 315-328)を用いた。なぜなら、この腫瘍はBxPC-3細胞よりも早く成長するため、治療期間を短くすることができるからである。エンドスタチン・ペプチドのマウス類似体を合成した。当該のヒト及びマウスペプチド間の唯一の違いは、マウスP1ペプチドは、ヒトP1のように25個のアミノ酸ではなく、27個のアミノ酸を含むことだった。我々は、前の実験で何らかの抗腫瘍活性を示したペプチドのみを検査した(図1を参照されたい)。
【0150】
BxPC-3処理とは異なり、LLC腫瘍を、等モル濃度のマウスエンドスタチン及びマウスペプチド(mP1、mP2、mP5、及びmP6)で処理した。mP6は、何の抗腫瘍活性も示さなかったため、それを代表的なコントロールペプチドとして用いた(図1を参照されたい)。コントロール・マウスはPBSで処理された。これらの実験において、LLC細胞をC57B1/6Jマウスの背中皮下に移植し、全身処理した。ペプチド(mP1、mP2、mP5、及びmP6)を一日に二回、2.8mg/kg/dの用量で注射(皮下)し、他方、エンドスタチン及びPBSを、一日に一回、20mg/kg/dの用量、投与した。N末端のmP1エンドスタチン・ペプチドは、LLCを44%(p<0.035)、阻害し、完全長エンドスタチンによる阻害(53%、p<0.01)に匹敵した(図2A;T/Cが図面中で示されている)。mP2、mP5及びmP6をmP1ペプチドと同じ濃度で用いた場合、全く活性が検出されないか、又は取るに足らない活性しか検出されなかった(図2A)。このように、この結果は、27個のアミノ酸から成るmP1ペプチドが、エンドスタチンに関連する抗腫瘍活性のすべてを含有することを示唆している。
【0151】
mP1処理後の血管新生に対する効果を調べるために、等モル濃度のmP1、mP2、及びエンドスタチンで処理されたLLC腫瘍を血管密度について分析した(CD31)。図2Bは、PBS(コントロール)、Fc-エンドスタチン(20mg/kg/d)、mP1(2.8mg/kg/d)、及びmP2(2.8mg/kg/d)で処理されたマウスからのLLC切片のCD31染色を示す。いずれの場合でも、ペプチドは、一日に二回、皮下投与され、13日目のLLC腫瘍切片を、ホルマリン固定し、パラフィン包埋した後、CD31(PECAM)で染色した。図2Cは、血管密度の判定を示し、Y軸は%CD31/強拡大の一視野(hpf)で表されている。LLCをmP1及びエンドスタチンで処理すると、血管密度が著しく(ほぼ65%、p<0.015)減少したが、他方、mP2及びPBSは何の効果も有さなかった。mP5及びmP6で処理したところ、mP2処理と同様な結果を示した。これらの結果は、mP1が、完全長エンドスタチンと同様な態様で血管密度を減少させることにより、LLC腫瘍成長を阻害することができることを示唆している。
【0152】
エンドスタチンの位置1及び3にあるヒスチジンが亜鉛結合にとって必須である
エンドスタチンの結晶構造から、高度に折り畳まれた分子であることが明らかである(図2D)。しかし、そのN末端領域はランダム・コイル構造に似ていることから、このドメインに相当する合成ペプチドがこの天然分子を模倣することができるという我々の分析と合致する(図2D)。
【0153】
エンドスタチンN末端ドメインはその抗腫瘍活性を担っているため、我々はmP1ペプチドを更に調査したかった。エンドスタチンの各分子には結びついた亜鉛原子(Zn)がある(Ding et al.
(1998) Proc Natl Acad Sci USA, 95: 10443-10448)。我々の結晶構造解析に基づくと、位置1、3、及び11にある三つのヒスチジンと、位置76にあるアスパラギン酸は、このZn原子に対して四つの配位を形成している(Ding et al. (1998) Proc Natl Acad Sci USA, 95: 10443-10448)。mP1は上述の三つのヒスチジンを含有する。このことから、このペプチドは、水分子に四番目の配位を占めさせることにより、Znを結合させることができるという可能性が浮かび上がる(図3A、左側パネル)。ヒスチジン1及び3を変異させると、エンドスタチンのZn結合が損なわれることが以前に示されている(Boehm et al. (1998)
Biochem Biophys Res Commun, 252: 190-19)。従って、位置1及び3にあるヒスチジンをアラニンに変異させた、ペプチドmP1の変異体を合成した。この変異ペプチドはmP1−H1/3Aと呼ばれ(mP1−Hとも言及される)、以下のアミノ酸配列:ATAQDFQPVLHLVALNTPLSGGMRGIR
(配列番号150)を有する。mP1及びmP1−H1/3Aの配列も図3Aで示されている。
【0154】
mP1及びmP1-H1/3AのZn結合能を調べるために、フレーム原子吸光を行った。各ペプチドをpH8.0の20mMのTrisに、0.5mg/mlの濃度になるように溶解し、過剰な塩化Zn(1mM)と混合し、上記の緩衝剤に対し、透析溶液で三回交換しながら72時間、よく透析した(分子量カットオフ(MWCO)=1000kDa;このペプチドの分子量を3000kDaと考えた)。最終的な亜鉛濃度(μg/ml)の原子吸光読み取り値を、mP1及びmP1-H1/3Aについてそれぞれ9.63及び1.05と判定した。これらのデータから、mP1-H1/3A1分子あたりの亜鉛比が0.1、そしてmP11分子当たりの亜鉛比が0.9と判明した(図3B)。従って、位置1及び3にあるヒスチジンをアラニンに変異させると、Zn結合が失われた(図3A、右側パネル)。
【0155】
エンドスタチンの亜鉛結合ドメインは、その抗腫瘍活性にとって重要である
Zn結合がエンドスタチンの抗腫瘍特性にとっても重要であるかどうかを判断するために、mP1及びmP1-H1/3Aを、LLC腫瘍モデルを用いて検査した。ペプチドを一日に二回(皮下)、2.8mg/kg/dの用量にして投与した。ペプチドmP1はLLCを42%(p=0.031)阻害したが、他方mP1-H1/3Aは何の効果も有さなかった(図3C)。血管新生に違いがあったかどうかを判断するために、LLC腫瘍の血管密度(CD31)を、mP1及びmP1-H1/3A処理後に分析した。mP1処理後では血管密度に相当な減少(67%の減少、p<0.01)があったが、他方、mP1-H1/3AはPBSと同様だった(図3D及び3E)。これらのデータは、Zn結合がエンドスタチンの抗腫瘍特性にとって重要であることを示唆している。独立スチューデントのt検定が統計解析に用いられた。
【0156】
更なる処理には、1mMのZn2+と一緒のmP1-Hペプチドの皮下注射;mP1ペプチドを単独で、又は1mMのZn2+と一緒の皮下注射;あるいはPBSの皮下注射が含まれた(図4)。図3及び4に示すその結果は、腫瘍体積が、ヒスチジン1及び3がアラニンに変更されたmP1-H1/3Aペプチドの投与では実質的に影響を受けなかったことを示した。なぜならこの腫瘍の大きさは、PBS(陰性コントロール)を注射した場合で得られたものと同様だったからである。
【0157】
このように、これらの結果は、N末端エンドスタチン・ペプチドの位置1及び3にあるヒスチジンをアラニンに置換することはできないこと、そしてそれらの別のアミノ酸との置換も、やはりこのペプチドの抗腫瘍効果を減じるか、又は無くすであろうことを示している。前記の結果は更に、循環中に亜鉛が既に存在しない限り、当該ペプチドを含む組成物中に亜鉛を含めることが有益であろうことも示している。
【0158】
エンドスタチンのN末端断片は、内皮細胞の遊走を阻害するその能力を保持している
エンドスタチン・ペプチドを、抗内皮細胞遊走活性について検査した。ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)のVEGF誘導性遊走の阻害を、いくつかの用量のエンドスタチン・ペプチドを用いて判定した(図5)。当該細胞がヒト由来であったためヒトペプチドを用い、HMVECの遊走応答を、改良されたボイデン・チャンバを用いて検定した。VEGF(5ng/ml)を化学走性薬剤として用い、細胞にヒトエンドスタチン(EntreMed;EM-ES)、ヒトFc-エンドスタチン(nFcES)、ヒトP1(hP1)、ヒトP2(hP2)、ヒトP6(hP6)、及びヒトP1-H1/3A(hP1-H1/3A)で刺激を与えた。1メンブレン当たりの総遊走量をキャプチャ画像からScionイメージ・ソフトウェア(米国国立保健研究所)を用いて定量し、独立スチューデントのt検定を統計解析に用いた。ヒト組換えエンドスタチン(EntreMed)はEC遊走を500及び200ng/ml(30%)のときに阻害したが、100ng/mlでは阻害せず、他方、ヒトFc-エンドスタチンは500及び100ng/ml(25-30%)間で等しく良好に阻害した(図5)。興味深いことに、EC遊走の僅かにより良好な阻害が、より高い濃度よりも、Fc-エンドスタチンでは100ng/mlで、そしてエンドスタチン(EntreMed)では200ng/mlで観察されたことから、エンドスタチン応答のU型が示唆された。hP1について最良の疎外は100、62.5、及び25ng/mlのときだった。これらの濃度間で、阻害に有意な違いは観察されなかった。それより高い又は低い濃度では、より小さな阻害が観察されたか、あるいは全く観察されなかった。500ng/mlのhP1では、阻害は全く観察されなかった。このように、完全長エンドスタチンと同様に、EC遊走のhP1阻害にもU型の応答がある。エンドスタチンhP2ペプチドはそれより高い濃度でも何ら効果を有さなかった。しかしながら、hP6はEC遊走を阻害したが、hP1より高い濃度においてであり、100ng/mlより低い濃度では何の阻害も観察されなかった。
【0159】
Zn結合部位が抗内皮細胞遊走活性にとって重要であるかを判断するために、hP1-H1/3Aも検査した。この変異ペプチドは200及び100ng/mlで何らかの小さな阻害を示した。しかしながら、この阻害は統計上、有意ではなかった。このように、ペプチドhP1は完全長エンドスタチン又はヒトエンドスタチン(EntreMed)(200ng/ml)と等モル濃度(25ng/ml)でVEGF誘導性EC遊走を阻害することができたが、他方、hP6は、100及び200ng/mlの用量においてのみ、阻害した。興味深いことに、hP1は、完全長エンドスタチンよりもEC遊走を阻害する上でより強力だった。これらの結果は、エンドスタチンのN末端P1ペプチドがVEGF誘導性EC遊走の阻害能を維持していること、そして、そのZn結合部位がこの活性に必須であること、を示すものである。
【0160】
エンドスタチン・ペプチドの抗透過性活性
エンドスタチンのVEGF誘導性透過性阻害能も、マイルズ検定を用いて検査された(Miles and Miles (1952) J Physiol, 118: 228-257)。以前、エンドスタチンがVEGF誘導性透過性を阻害することがマイルズ検定を用いて示されたことがある。免疫無防備状態のSCIDマウスを、マイルズ検定を行う5日前に処理した。具体的には、SCIDマウスに、100mg/kg/dの用量のヒトエンドスタチン(EntreMed;EM-ES);20mg/kg/dの用量のマウスFc-エンドスタチン;2.8mg/kg/d又は14mg/kg/dの用量のマウスエンドスタチンペプチドmP1及びmP1-H1/3A;又はPBS(n=5)を5日間、皮下(s.c.;一日に二回)注射した。用量が高い(14mg/kg/d)ときには、mP1及びmP1-H1/3Aの両方とも、VEGF誘導性透過性を、ヒトエンドスタチン(EntreMed)及びマウスFc-エンドスタチンと同様に阻害した(図6)。しかしながら、同様な結果は、等モル濃度(2.8mg/kg/d)を用いたときにも得られた(図6)。mP1-H1/3AはmP1と同じ阻害を、等モル濃度でも示したため、このことは、抗腫瘍及び抗透過性の間に活性の分離があることを示唆している。
【0161】
mP1由来のより小さなペプチドも腫瘍成長を阻害することが示されている。二つのペプチドmP1-15(配列番号118)及びmP1-20 (配列番号108)を、抗腫瘍活性についてLLC腫瘍モデルを用いて検査した。ペプチドを4日目、7日目10日目及び14日目に2.8mg/kg/日の用量にして一日に二回、皮下投与した。PBSがコントロールとして用いられた。図7は、mP1-15 及びmp1-20 の両者とも腫瘍の体積を阻害することを示している。(T/Cが示されており、群の大きさはnイコール5である)。
【0162】
このように、我々は、エンドスタチンのN末端に相当する合成ペプチドがその抗腫瘍、抗遊走、及び抗透過性活性を担っていることを示した。亜鉛の結合は抗腫瘍及び抗遊走活性に必要であるが、それはなぜなら、このペプチド中のアミノ酸位置1及び3にある二つのヒスチジンを置換するとその特性が完全に遮断されるからである。しかし、亜鉛の結合は抗透過性特性に必要ではなかった。
【0163】
腫瘍形成を阻害するためにはエンドスタチンに亜鉛が必要であるという要件は議論を呼んできており、様々なグループから相反する結果が報告されている(Boehm et al. (1998) Biochem Biophys Res Commun, 252: 190-19; Yamaguchi et al. (1999) Embo J, 18: 4414-4423; Sim et al. (1999) Angiogenesis, 3: 41-51)。即ち、最も初期の報告は、LLCでヒスチジン1及び3をアラニンに置換すると、エンドスタチンの阻害効果が遮断されたことを示しており(Boehm et al. (1998) Biochem Biophys Res Commun, 252: 190-194)、その後の二つの文献ではこの発見に異論を唱えている(Yamaguchi et al.
(1999) Embo J, 18: 4414-4423; Sim et al. (1999) Angiogenesis, 3: 41-51)。これらの報告の一つで、変異エンドスタチンは、C末端及びN末端の両方の5個のアミノ酸を欠失させることにより、調製された(Yamaguchi
et al. (1999) Embo J, 18: 4414-4423)。このコンストラクトは、完全長エンドスタチンと同様な抗腫瘍活性を引き出した。しかし、用いられた腎臓Rc-9カルシノーマ腫瘍モデルにおいては、エンドスタチンの投与は、腫瘍の大きさが300mm3のときに開始されており、僅かに4日間続行され、このとき腫瘍の大きさは500mm3に達した。その注射部位は腫瘍の周辺であり、注射投薬量は10μg/kg/dだった。対照的に、我々の実験で、我々はLLC腫瘍が最高100mm3の大きさに達した時点で処理を開始し、腫瘍が最高6000乃至7000mm3になるまで続けた。更に、我々は全身的に処理をし、腫瘍の周辺には注射しなかった。
【0164】
エンドスタチンの抗腫瘍活性にとっての亜鉛結合の重要性を扱った別の文献では、ヒトエンドスタチンのN末端からとこのアミノ酸「HSHR」を除去しても、その抗腫瘍活性には影響しなかったことが実証された(Sim et al.
(1999) Angiogenesis, 3:41-51)。亜鉛結合を測定すると、この変異体は、エンドスタチン1分子あたり2個の亜鉛に結合し、他方、野生型はエンドスタチン一分子あたり10個の亜鉛原子に結合していたことが判明した。しかしながら、我々のエンドスタチンの結晶構造研究では、我々は、結晶化研究に用いられたエンドスタチンは、エンドスタチン1分子あたり1個の亜鉛原子を含有し、N末端から4個のアミノ酸「HSHR」を除去すると亜鉛結合が無くなることを実証した(Ding et al. (1998) Proc Natl Acad Sci U S A, 95: 10443-10448)。
【0165】
エンドスタチンはコラーゲン18のたんぱく質分解により生成する(O'Reilly
et al. (1997) Cell, 88: 277-285; Wen et al. (1999) Cancer Res, 59: 6052-6056;
Felbor et al. (2000) Embo J, 19: 1187-1194)。エンドスタチンのN末端の一番目のアミノ酸はヒスチジンである。このヒスチジンの存在が亜鉛をエンドスタチンに結合させるために重要である。結論的に、我々は、コラーゲン18のエンドスタチンへのプロセッシングは高度に調節されているのではないかという結論を導き出した。
【0166】
複数のグループが、エンドスタチンを由来とするペプチドが抗血管新生効果を有することを示している(Wickstrom et al. (2004) J Biol Chem, 279: 20178-20185;
Cattaneo et al. (2003) Exp Cell Res, 283: 230-236; Chillemi et al.
(2003) J Med Chem, 46: 4165-4172; Morbidelli et al. (2003) Clin Cancer
Res, 9: 5358-5369; Cho et al. (2004) Oncol Rep, 11: 191-195)。アミノ酸6-49を含む(亜鉛に結合するヒスチジンを欠く)N末端ペプチドは内皮細胞の増殖及び遊走を阻害した(Cattaneo
et al. (2003) Exp Cell Res, 283: 230-236; Chillemi et al. (2003) J Med
Chem, 46: 4165-4172)。このペプチドを用いたMatrigel検定の結果、in vivoで血管新生の阻害があった。しかし、抗腫瘍データは提供されていない。別の研究では、Cys135-Cys165のジスルフィド結合を残したC末端ペプチド(アミノ酸135-184)が抗腫瘍活性を示している(Morbidelli et al. (2003) Clin
Cancer Res, 9: 5358-5369)。しかしながら、このペプチドは全身ではなく、腫瘍周辺に投与されている。 Choらは、エンドスタチンの、Zn結合部位を含むN末端とC末端は、抗腫瘍活性には必要でないことを示した(Cho
et al. (2004) Oncol Rep, 11: 191-195)。しかし、このペプチド及び完全長エンドスタチンは等モル濃度では検査されていない。我々の結果は、P1ペプチドが腫瘍形成、遊走、及び透過性を、完全長エンドスタチンと等モル濃度で阻害できたという点でこれらのグループとは異なる。更に、より高い濃度(14mg/kg/d)では、mP2は、2.8mg/kg/dのときのmP1と同様にLLC腫瘍形成を阻害することができた。しかしながら、14mg/kg/dのときのmP1は、2.8mg/kg/dのときよりも低く、LLC腫瘍形成を阻害した。このように、U型の曲線がエンドスタチンの抗腫瘍活性に、このたんぱく質濃度の関数として関連しているようである。同様な結果は、膵臓BxPC-3及びASPC-1腫瘍モデルを用いて完全長エンドスタチンでも観察された。従って、最適なエンドスタチン濃度の決定が重要な因子であろう。In vitroでの検定では、遊走検定などで見られるのと同様な、エンドスタチンによる二相性が示された(図5を参照されたい)。
【0167】
完全長エンドスタチンはその抗腫瘍活性に必要でないという事実は、エンドスタチン活性の最初の矛盾を説明するものである。エンドスタチンは二つのジスルフィド結合を有する。E. coli製剤中でのエンドスタチンの凝集は、PBS透析後にランダムな分子間ジスルフィドにより引き起こされる。エンドスタチンは還元条件下では単一のたんぱく質分子を示すが、非還元条件下では、同一試料中のこのたんぱく質の大半はポリアクリルアミドゲルに進入しない。おそらくは非特異的凝集の程度が、この製剤のうちのいくつかに活性がないことの原因であろう。エンドスタチンは動物においてはある一定の期間にわたって凝集体から放出されていき、こうしてそれらのN末端ペプチドのために、抗腫瘍性を示すことのできる変性たんぱく質又は部分断片が生じている可能性が高い。おそらくは、製剤のうちのいくつかはより大型の凝集体を生じるために、このような放出が非効率になり、マウスで抗血管新生性の応答を惹起することのできない生成物が生じるのであろう。
【0168】
エンドスタチンの抗腫瘍活性の基礎は何なのか?多数の機序が提案されてきた。より詳細に研究されてきたもののひとつは、エンドスタチンのインテグリンα5β1への結合である(Wickstrom et al. (2002) Cancer Res, 62:
5580-5589)。これらの著者の発見に基づくと、アルファ5β1を含め、いくつかの細胞表面たんぱく質及び成分の集合が、エンドスタチンとこのインテグリンとの間の相互作用を担っている(Wickstrom et al. (2003) J Biol Chem, 278: 37895-37901)。しかしながら、上記の機序を裏付ける抗腫瘍データは提供されていない。より最近では、同じ著者が、アルギニンを含有するとともにヘパリン結合を示すエンドスタチンを由来とする11個のアミノ酸によるペプチドが、エンドスタチンの抗血管新生活性を担っていることを示した(Wickstrom et al. (2004) J Biol Chem, 279: 20178-20185)。我々は、これらの研究者が観察した現象は、エンドスタチンのヘパリン結合という特長に関連する特性のいくつかを反映したものであり、その抗腫瘍活性を反映したものではないと考える。以前、我々は、エンドスタチンのヘパリン結合を損なう(このたんぱく質表面上の二つの不連続なアルギニンを変異させることにより達成される)と細胞運動性が阻害されたことを報告した(Kuo et al. (2001) J Cell
Biol, 152: 1233-1246)。更に、前記著者が報告したペプチドを含有する我々のエンドスタチンhP3ペプチド(表1を参照されたい)は腫瘍成長を阻害することができなかった。
【0169】
材料及び方法
細胞培養及び試薬
ヒトBxPC-3膵臓アデノカルシノーマ及びルイス肺癌(LLC)細胞を、先に解説したように成長させ、維持した(Kisker et al. (2001) Cancer Res, 61:7669-7674; O'Reilly et
al. (1994) Cell, 79: 315-328)。BxPC-3腫瘍細胞の注射の場合、細胞を900cm2の回転ビン内で成長させた。ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC-d;メリーランド州ウォーカーズビル、Clonetics社)を微小血管内皮細胞成長培地(EGM-2 MV;Clonetics社)で培養し、5%の CO2で37℃の加湿したインキュベータ内に維持した。組換えヒトエンドスタチンはEntreMed社(メリーランド州ロックビル)からご厚誼により提供され、組換えヒト及びマウスFcエンドスタチンは先に解説したように調製された(Bergers et al. (1999)
Science, 284: 808-812)。ヒト及びマウスエンドスタチンペプチドはSynPep社(カリフォルニア州ダブリン)により合成された。ペプチドをPBS又は50mM Tris、150mM NaCl、pH7.5中に再懸濁させた。精製されたラット抗マウスCD31であるPECAMはBD Pharmingen社(カリフォルニア州サンディエゴ)から得られ、ヒト組換えVEGFはNIH(メリーランド州ベセズダ)から得られた。
【0170】
動物での研究
動物での手法はすべて、ボストン・チルドレンズ・ホスピタル・ガイドラインを遵守して行われ、プロトコルはインスティテューショナル・アニマル・ケア・アンド・ユース・コミッティーによる認可を受けた。オス(24-27g)の免疫コンピテントなC57B1/6Jマウス(メリーランド州バーハーバー、ジャクソン・ラボラトリーズ)及び免疫無防備状態のSCIDマウス(マサチューセッツ州ボストン、マサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル)を用いた。マウスは7乃至9週齢だった。これらを順応させ、バリア内飼育施設で5匹の群にしてケージに入れ、動物用固形飼料及び水を適宜、与えた。動物を、全ての手術法前にイソフルラン(イリノイ州ディアフィールド、バクスター)の吸入により麻酔し、完全に回復するまで観察した。動物は致死量のCO2で窒息させることにより安楽死させた。
【0171】
腫瘍モデル
BxPC-3及びLLC細胞を上に解説した通りに細胞培養で成長させた。細胞濃度は50×106細胞/mlになるように調節された。腫瘍細胞の注射前に、マウスを剃毛し、背側の皮膚をエタノールで清浄にした。5×106個の腫瘍細胞の0.1ml RPMI-1640(BxPC-3の場合)又はDMEM懸濁液をマウスの背側の正中線近傍に皮下(s.c.)注射した。BxPC-3細胞をSCIDマウスに、そしてLLCをC57Bl/6Jマウスに移植した。
【0172】
ルイス肺癌(600乃至800mm3の腫瘍)を安楽死させ、腫瘍を覆っている皮膚をベータダイン及びエタノールで清浄した。腫瘍組織を無菌条件下で切除した。生存腫瘍組織をふるいと、直径22乃至30ゲージの一連の順に小さくなった皮下針とを通過させることにより、腫瘍細胞を0.9%の通常の生理食塩水に入れた懸濁液を作製した。最終的な濃度を1×107細胞/mlに調節し、その懸濁液を氷上に置いた。腫瘍細胞の注射を上に解説した通りに行った。
【0173】
マウスの重さを量り、腫瘍の二つの直径を、3乃至5日毎にダイアル測径器で測定した。体積をa2×b×0.52(aは最も短い直径であり、bは最も長い直径である)の式を用いて判定した。データは、処理済腫瘍のコントロールに対する(T/C)体積で表されている。各実験の終了時に、マウスをCO2窒息で安楽死させた。腫瘍を10%緩衝ホルマリン(ニュージャージー州フェア・ローン、フィッシャー・サイエンティフィック社)で固定し、パラフィン包埋した。
【0174】
腫瘍を持つマウスの処理には、腫瘍体積を成長させてほぼ100mm3にし、マウスを無作為化した。一回の大量皮下注射により処理を行った。ペプチドは一日当たり二回、投与された(12時間毎)。ペプチドに関して指示された用量は、ペプチドの純度について補正された(ほぼ70%)。例えば、4 mg/kg/dのペプチドを注射されたマウスは、実際には、補正後で2.8 mg/kg/dを注射された。独立スチューデントのt検定を統計解析に用いた。
【0175】
免疫組織化学
腫瘍を4℃の10%緩衝ホルマリンで一晩、固定した。翌日、腫瘍をPBSで三回、洗浄し、パラフィン包埋した。切片(5μm)を、40μg/mlのプロティナーゼK(ロシュ・ダイアグノスティックス社)の0.2 M Tris-HCl緩衝液(pH7.6)溶液中で25分間かけて37℃で透過性にし、PBSで洗浄した。PECAM(1:250)は4℃で一晩、インキュベートした。染色は、ティラミド(原語:tyramide)シグナル増幅直接及び間接キット(マサチューセッツ州ボストン、NENライフ・サイエンス・プロダクツ社)を用いて増幅された。切片を400倍の倍率でNIKON TE300顕微鏡を用いて撮影した。血管密度(三つの視野の平均)はIPLabソフトウェアにより判定された。独立スチューデントのt検定を統計解析に用いた。
【0176】
細胞遊走検定
HMVEC-d細胞の運動応答を、改良されたボイデン・チャンバを用いて検定した。細胞をT75-cmフラスコに、一フラスコ当たり0.5×106個の細胞になるようにプレートし、遊走検定までに48時間(~70%コンフルエント、成長させた。細胞接着を促すために、トランスウェル(8mmのポア;コスター社)の上側のメンブレンをフィブロネクチン(10mg/ml;、マサチューセッツ州ベッドフォード、ベクトン・ディッキンソン社)で1時間、37℃で被膜した。被膜後のメンブレンをPBSですすぎ、使用直前に空気乾燥した。細胞をトリプシン処理で剥がし、トリプシン処理中和溶液(クロンテックス社)で処理し、0.1%のBSAを含有する無結成内皮基礎培地(EBM;クロンテックス社)で最終濃度1×106個の細胞になるように再懸濁させた。次に細胞(0.2ml中200,000)を、提示した濃度のエンドスタチン又はペプチドを含有する0.2mlのEBM/BSAで処理した。細胞を20分間、37℃で時折、震盪しながらインキュベートした。細胞(1000μl中50,000)を該トランスウェルの上側のチャンバに加えた。EBM、又はVEGF(5ng/ml)を添加したEBMを、下側のチャンバに加え、細胞を下側のチャンバに向かって4時間、5%のCO2を含有する加湿したインキュベータ内で遊走させた。トランスウェルのフィルタをPBSで一回、すすぎ、固定し、メーカのプロトコルにしたがってDiff-Quik染色キット(バクスター社)を用いて染色した。遊走しなかった細胞を上側のチャンバから綿棒で取り除いた。染色したフィルタをチャンバから切り取り、スライド上にPermount(フィッシャー社)を用いて載せた。遊走した細胞の数を顕微鏡(各メンブレンの三つの視野を、40倍の対物レンズを用いてとらえた)を用いて測定し、画像をCCDカメラでSPOTソフトウェアを用いてとらえた。メンブレン一枚あたりの総遊走数を、とらえられた画像から、Scionイメージ・ソフトウェア(米国国立保健研究所)を用いて定量した。実験はすべて、三重にして行われた。独立スチューデントのt検定を統計解析に用いた。
【0177】
マイルズ血管透過性検定(マイルズ検定)
SCIDマウスにヒトエンドスタチン(EntreMed;100mg/kg/d)、マウスFc-エンドスタチン(20mg/kg/d)、ペプチド(14mg/kg/d又は2.8mg/kg/d)、及び生理食塩水(200μl)(n=15)を5日間、マイルズ検定(25)を行う前に皮下(s.c.)注射した。簡単に説明すると、エヴァンの青色染料(1% PBS溶液を100μl)をマウスに静脈内(i.v.)注射した。10分後、50μlのヒト組換えVEGF(1ng/μl)又はPBSを、予め剃毛した背中側皮膚に皮内注射した。20分後、動物を安楽死させ、染料の漏出から生じた青色の点を含んだ皮膚領域を切り取った。ホルムアミドと一緒に5日間、室温でインキュベートすることにより、前記のエヴァンの青色染料をこの皮膚から抽出し、抽出された染料の吸光度を620nmで分光計で測定した。独立スチューデントのt検定を統計解析に用いた。
【0178】
統計法
データは、平均+S.D.で表されている。統計学的有意度は、スチューデントのt検定を用いて評価された。P<0.05が統計上有意とみなされた。
【0179】
引用による援用
引用された参考文献(本出願全般を通じて引用された文献、GenBank受託番号、発行済み特許、公開済み特許出願)の内容を、引用をもってここに援用することを明示しておく。
【0180】
均等物
当業者であれば、ごく慣例的な実験を用いるのみで、ここに解説された本発明の具体的な実施態様の均等物を数多く、認識され、又は確認できることであろう。このような均等物は、以下の請求の範囲の包含するところであると意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、ヒト膵臓癌(BxPC-3)のヒトエンドスタチン・ペプチドによる治療を示すグラフである。
【図2】図2A−Cは、エンドスタチンのN末端ドメインがその抗腫瘍特性を担うことを示すグラフである。図2Aは、マウスFc-エンドスタチン及びマウスペプチドP1、P2、P5、及びP6(それぞれmP1、mP2、mP5及びmP6)によるLLCの治療を示すグラフである。図2BはCD31染色を示すLLC切片の画像である。図2Cは血管密度(*p<0.015対PBS(コントロール))の判定を示すグラフである。そして図2D は、エンドスタチンの結晶構造を示す概略図である。
【図3】図3A−Eは、エンドスタチンの亜鉛結合部位が抗腫瘍活性にとって重要であることを示すグラフである。図3Aは、mP1及びmP1−H1/3Aの概略図である。図3Bは、mP1及びmP1−H1/3Aへの亜鉛結合を示すグラフである。図3Cは、mP1及びmP1−H1/3AによるLLCの治療を示すグラフである。図3Dは、CD31で染色したLLC腫瘍切片の画像を示す。そして図3Eは、血管密度の判定を示すグラフである。
【図4】図4は、4日目、7日目、10日目及び14日目に、亜鉛有り又はなしで、LLCをmP1又はmP1−H1/3Aで一日に二回処理されたマウスの腫瘍体積を示すグラフである。
【図5】図5は、エンドスタチン・ペプチドによる内皮細胞遊走の阻害を示すグラフである。
【図6】図6A及びBは、エンドスタチン・ペプチドによるVEGF誘導性透過性の阻害を示す。図6Aは、ホルムアミドと一緒に室温で5日間インキュベートすることにより皮膚から抽出されたエヴァンの青色染料を、620nmで測定したときの定量を示すグラフである。そして図6Bは、マイルズ検定の代表的画像を示す(VはVEGFであり、PはPBSである)。
【図7】図7は、mP1エンドスタチン・ペプチドmP1、mP1−15、mP1-20又はPBSが投与されたマウスにおける腫瘍体積を、治療開始後の日数の関数で示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2又は4の約12個のアミノ酸から成る抗血管新生性ペプチド。
【請求項2】
配列番号2又は4の約15個のアミノ酸から成る、請求項1に記載の抗血管新生性ペプチド。
【請求項3】
配列番号2又は4の約18個のアミノ酸から成る、請求項1に記載の抗血管新生性ペプチド。
【請求項4】
配列番号6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、125、126、127、128、129、130 及び131から成る群より選択される、請求項1に記載の抗血管新生性ペプチド。
【請求項5】
配列番号2又は4である、請求項1に記載の抗血管新生性ペプチド。
【請求項6】
薬学的に許容可能な担体と、有効量の、請求項1に記載の抗血管新生性ペプチドとを含む、医薬組成物。
【請求項7】
第二のペプチドを付加的に含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
有効量の亜鉛を付加的に含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗血管新生性ペプチドが配列番号2又は4である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の抗血管新生性ペプチドをコードする核酸。
【請求項11】
配列番号1、3又は5に記載の36個のヌクレオチドから成る核酸。
【請求項12】
配列番号1、3又は5に記載の60個のヌクレオチドから成る核酸。
【請求項13】
配列番号 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103、105、107、109、111、113、115、117、119、121 及び123から成る群より選択される、請求項10に記載の核酸。
【請求項14】
請求項10に記載の核酸を含むベクタ。
【請求項15】
請求項14に記載のベクタと、薬学的に許容可能な担体とを含む、医薬組成物。
【請求項16】
請求項5に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、前記対象における血管新生関連疾患を治療又は防止する方法。
【請求項17】
請求項8に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、前記対象における血管新生関連疾患を治療又は防止する方法。
【請求項18】
請求項9に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、前記対象における血管新生関連疾患を治療又は防止する方法。
【請求項19】
請求項15に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、前記対象における血管新生関連疾患を治療又は防止する方法。
【請求項20】
前記血管新生関連疾患が、アテローム性硬化症、血管腫、充実腫瘍、白血病、転移、血管拡張乾癬強皮症、化膿性肉芽腫、心筋の血管新生、プラークの新血管新生、冠状動脈側副路、大脳側副路、動静脈奇形、虚血性四肢血管新生、角膜疾患、ルベオーシス、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、水晶体後方線維増殖症、関節炎、糖尿病性血管新生、黄斑部変性、創傷治癒、消化性潰瘍、骨折、ケロイド、類天疱瘡、トラコーマ、脈管形成、及び血球新生からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−525972(P2007−525972A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524938(P2006−524938)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/028143
【国際公開番号】WO2005/021756
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506069273)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (5)
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S MEDICAL CENTER CORPORATION
【住所又は居所原語表記】300 Longwood Avenue, Boston,MA 02115 (US).
【Fターム(参考)】