説明

エンドチューブ及びその製造方法

【課題】低コストで所望の強度を確保できるエンドチューブを提供する。
【解決手段】エンドチューブ20は、3つのパイプ状部品30’、40’、50’をフリクション溶接した後に仕上げ加工して製造される。これら3つの部品30’、40’、50’は、溶接面32’と42’、及び溶接面44’と52’をフリクション溶接することにより、一体化された1つのエンドチューブ20’になる。このエンドチューブ20’を仕上げ加工してエンドチューブ20が製造される。仕上げ加工は機械加工によって実施される。この機械加工の際に、フリクション溶接で発生したバリを取り除く。これにより、溶接部62(溶接面32’と42’の接合部)、溶接部64(溶接面44’と52’の接合部)への応力集中はほぼ無くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車軸(アクスル)を覆うアクスルケースの長手方向両端部に固定されるエンドチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックなどの車両に搭載されたエンジンの駆動力をタイヤに伝達するための部品の一つとして、種々のギアなどが組み付けられた車軸(アクスル)が広く知られている。車軸は通常、アクスルケースで覆われており、その長手方向両端部には軸受やハブが取り付けられる。このため、アクスルケースの長手方向両端部にはエンドチューブが溶接で固定されている。エンドチューブの横断面は環状(リング状)であり(例えば、特許文献1参照。)、このエンドチューブは熱間鍛造によって作製された熱間鍛造品である。
【特許文献1】特開平10−249468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようにエンドチューブは熱間鍛造品であるので後処理として、熱処理(調質など)が必要となることがある。さらに、エンドチューブの強度を保つために炭素含有量の多い材料を用いた場合は、アクスルケースとの溶接部に溶接割れが発生するおそれがある。さらにまた、エンドチューブの長さを変更する場合は、熱間鍛造の型を作製し直す必要があり、少量多品種ではコスト高となる。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑み、低コストで所望の強度を確保できるエンドチューブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明のエンドチューブは、車両の車軸を覆うアクスルケースの長手方向の両端部に固定されるエンドチューブにおいて、
(1)前記長手方向に直交する方向に広がる溶接面をもつ複数のパイプ状部品からなり、
(2)これら各パイプ状部品の前記溶接面同士をフリクション溶接によって溶接してなることを特徴とするものである。
【0006】
ここで、
(3)前記フィリクション溶接によって発生するバリは、機械加工によって取り除かれたものであってもよい。
【0007】
さらに、
(4)前記複数のパイプ状部品は、同一の材質であってもよい。
【0008】
さらにまた、
(5)前記複数のパイプ状部品は、互いに異なる材質であってもよい。
【0009】
さらにまた、
(6)前記複数のパイプ状部品のうち隣接する2つのパイプ状部品は、それらの溶接部を覆うように軸受のインナーレースが固定されるものであってもよい。
【0010】
さらにまた、
(7)前記複数のパイプ状部品のうちの少なくともいずれか一つは、冷間塑性加工によって作製されたものであってもよい。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明のエンドチューブ製造方法は、車両の車軸を覆うアクスルケースの長手方向の両端部に固定されるエンドチューブを製造するエンドチューブ製造方法において、
(8)前記長手方向に直交する方向に広がる溶接面をもつ、前記エンドチューブを構成する複数のパイプ状部品を作製し、
(9)前記複数のパイプ状部品の前記溶接面同士をフリクション溶接し、
(10)これら溶接したものを仕上げ加工すると共にフリクション溶接によって発生したバリを取り除くこによりエンドチューブを製造することを特徴とするものである。
【0012】
フリクション溶接(摩擦溶接)とは、例えば、二つの被溶接部の表面を接触させて加圧しながら、一方を固定して他方の溶接面を回転させて摩擦熱によって接合する溶接をいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数のパイプ状部品を溶接してエンドチューブを製造するので、熱間鍛造は不要となる。また、エンドチューブの長さを変更する場合は、複数のパイプ状部品のうちのいずれかのパイプ状部品の長さを変更すればよい(又は、複数のパイプ状部品のいずれかを使用しなければよい)ので型を作製する必要がなく、この点からも低コスト化が図られる。さらに、アクスルケースに溶接されるパイプ状部品の材料として、炭素含有量の少ない材料を選択できるので、溶接部の溶接割れ発生を防止できる。しかも、信頼性の高いフリクション溶接を施すので高品質のエンドチューブを得られる。さらにまた、複数のパイプ状部品の使用位置に応じて各パイプ状部品の材料を適宜に選択できるので材料選択の自由度が増し、選択した材料によっては、エンドチューブを製造した後に熱処理をせずに済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、アクスルケースの長手方向両端部に固定されるエンドチューブに実現された。
【実施例1】
【0015】
図1を参照して、本発明のエンドチューブが固定されたドライブアクスルケースを説明する。図1は、本発明のエンドチューブが固定されたドライブアクスルケースを示す斜視図である。
【0016】
ドライブアクスルケース10の長手方向(矢印A方向)中央部には、差動ギアなどが収容される差動ギア用空洞12が形成されている。また、長手方向両端部にはそれぞれ、本発明の一例のエンドチューブ20、20が溶接によってドライブアクスルケース10に固定されている。2つのエンドチューブ20、20にはそれぞれ軸受(図示せず)が取り付けられる。また、エンドチューブ20、20の近傍には、ブレーキ取付用フランジ14が嵌め込まれて接合されている。
【0017】
図2から図4までを参照して、エンドチューブ20の構造や製造方法について説明する。
【0018】
図2は、エンドチューブの構成部品となる素材を示す斜視図であり、3つの構成部品(パイプ状部品)は分割された状態である。図3は、図2に示す3つのパイプ状部品をフリクション溶接した後に仕上げ加工して製造したエンドチューブを示す斜視図である。図4は、図3のB―B断面図である。図2では、エンドチューブに仕上げ加工する前の素材の状態であるので、各部品には「’」を付けており、仕上げ加工後の各部品とは区別している。
【0019】
エンドチューブ20は、3つのパイプ状部品30’、40’、50’をフリクション溶接した後に仕上げ加工して製造される。ここでは、3つの部品を、これらのなかで外径の最も小さい小径部品30’、中央に位置する中央部品40’、及び、これらのなかで外径の最も大きい大径部品50’としている。小径部品30’及び中央部品40’の材質(材料)は、必要とされる強度に応じて選択されるが、例えば非調質鋼など材質の選択によっては仕上げ加工後の熱処理を不要にできる。3つのパイプ状部品30’、40’、50’を同一の材質にしても良く、互いに異なる材質にしてもよい。
【0020】
小径部品30’は、長手方向に亘って一様な内径と外径をもつパイプ状のものである。小径部品30’には、中央部品40’の溶接面42’にフリクション溶接される溶接面32’が形成されている。この溶接面32’は、ドライブアクスルケース10の長手方向に直交する方向に広がっている。
【0021】
中央部品40’は、パイプを素材とした冷間鍛造成形によって肉厚分布がつくように(必要な部位の肉厚が厚くなるように)作製される。中央部品40’は冷間鍛造成形することにより加工硬化するので、用途によっては仕上げ加工後に熱処理が不要となる。中央部品40’を冷間鍛造成形によって作製するためには、中央部品40’の長さが成形の可否を左右する。冷間鍛造成形の際は、材料を長手方向(矢印A方向)に移動させる剪断変形、及びしごき成形が材料に作用して中央部品40’が作製される。中央部品40’の長手方向(矢印A方向)両端面は、ドライブアクスルケース10の長手方向に直交する方向に広がった溶接面42’、44’となっている。溶接面42’は、小径部品30’の溶接面32’と同じ外径及び内径の環状のものであり、これらは上記のようにフリクション溶接される。溶接面44’は、大径部品50’の溶接面52’にフリクション溶接される。
【0022】
大径部品50’は通常、オイルのシールが主目的とされるので、S45C(JIS)のような高強度材を使用せずに、炭素含有量の少ない材料(例えばSTKM13A)から作製する。大径部品50’はドライブアクスルケース10の本体に直接に溶接されるので、大径部品50’を炭素含有量の少ない材料にすることにより溶接割れを確実に防止できる。大径部品50’の長手方向(矢印A方向)両端面は、ドライブアクスルケース10の長手方向に直交する方向に広がった溶接面52’、54’となっている。溶接面52’は、中央部品40’の溶接面44’と同じ外径及び内径の環状のものであり、これらは上記のようにフリクション溶接される。溶接面54’は、ドライブアクスルケース10に溶接される。
【0023】
上述したようにエンドチューブ20’の3つの素材(部品)30’、40’、50’は、溶接面32’と42’、及び溶接面44’と52’をフリクション溶接することにより、一体化された1つのエンドチューブ20’になる。このエンドチューブ20’を仕上げ加工して、図3,4に示すようなエンドチューブ20が製造される。仕上げ加工は機械加工によって実施される。この機械加工の際に、フリクション溶接で発生したバリを取り除く。これにより、図3,4に示す溶接部62(溶接面32’と42’の接合部)、溶接部64(溶接面44’と52’の接合部)への応力集中はほぼ無くなる。
【0024】
上記した溶接面32’、42’、44’、52’の位置(即ち、3つの部品30’、40’、50’の長さ)は任意に決めて良い。しかし、エンドチューブ20には通常、軸受が嵌め込まれて固定されるので、図3、4に示すようにこの軸受のインナーレース70が溶接部62を覆うような位置を溶接面32’、42’の位置にすることが好ましい。更には、インナーレース70の中央が溶接部62に重なるように溶接面32’、42’を決めることが好ましい。このようにすることにより、インナーレース70によって溶接部62が補強されることとなり、インナーレース70は補強材としても機能も奏する。
【0025】
上述したようにエンドチューブ20は3つの部品30、40、50から製造されるので、中央部品40はそのままにして、小径部品30及び(又は)大径部品50の長さを変更することにより、エンドチューブ20の長さ変更に容易に対応でき、熱間鍛造で製造する場合のように型を作製し直す必要が無い。従って、多品種少量生産向きのエンドチューブ20ともいえ、熱間鍛造をせずに済むので、環境に優しい製造工程となる。また、3つのパイプ状部品をフリクション溶接で一体的に接合したが、2つのパイプ状部品又は4つ以上のパイプ状部品でエンドチューブ20を製造してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のエンドチューブが固定されたドライブアクスルケースを示す斜視図である。
【図2】エンドチューブの構成部品となる素材を示す斜視図である。
【図3】図2に示す3つのパイプ状部品をフリクション溶接した後に仕上げ加工して製造したエンドチューブを示す斜視図である。
【図4】図3のB―B断面図である。
【符号の説明】
【0027】
20 エンドチューブ
30 小径部品
40 中央部品
50 大径部品
62,64 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸を覆うアクスルケースの長手方向の両端部に固定されるエンドチューブにおいて、
前記長手方向に直交する方向に広がる溶接面をもつ複数のパイプ状部品からなり、
これら各パイプ状部品の前記溶接面同士をフリクション溶接によって溶接してなることを特徴とするエンドチューブ。
【請求項2】
前記フィリクション溶接によって発生するバリは、機械加工によって取り除かれたものであることを特徴とする請求項1に記載のエンドチューブ。
【請求項3】
前記複数のパイプ状部品は、同一の材質であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンドチューブ。
【請求項4】
前記複数のパイプ状部品は、互いに異なる材質であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンドチューブ。
【請求項5】
前記複数のパイプ状部品のうち隣接する2つのパイプ状部品は、それらの溶接部を覆うように軸受のインナーレースが固定されるものであることを特徴とする請求項1から4までのうちのいずれか一項に記載のエンドチューブ。
【請求項6】
前記複数のパイプ状部品のうちの少なくともいずれか一つは、冷間塑性加工によって作製されたものであることを特徴とする請求項1から5までのうちのいずれか一項に記載のエンドチューブ。
【請求項7】
車両の車軸を覆うアクスルケースの長手方向の両端部に固定されるエンドチューブを製造するエンドチューブ製造方法において、
前記長手方向に直交する方向に広がる溶接面をもつ、前記エンドチューブを構成する複数のパイプ状部品を作製し、
前記複数のパイプ状部品の前記溶接面同士をフリクション溶接し、
これら溶接したものを仕上げ加工すると共にフリクション溶接によって発生したバリを取り除くこによりエンドチューブを製造することを特徴とするエンドチューブ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−166696(P2009−166696A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7542(P2008−7542)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】