説明

エンボスシートの製造装置およびエンボスシートの製造方法

【課題】転写率および生産性の高いエンボスシートの製造装置およびその方法を提供すること。
【解決手段】エンボスロール300は、外周表面にエンボスパターンが形成された回転ドラム310と、回転ドラム310の両側に取り付けられたシールリング320と、回転ドラム310およびシールリング320を支持する長手状の支持部材330と、回転ドラム310の内部で支持部材330に固定された加熱手段としての加熱装置340と、回転ドラム310の内部に貯められた冷却手段としての冷却オイル350と、冷却オイル350を循環させる循環装置360と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスシートの製造装置およびエンボスシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂シートの表面にマイクロエンボスパターンが形成されたシート(以下、エンボスシート)として、液晶テレビ等に用いられる光拡散板やレンチキュラーレンズシート等のレンズ機能シートが使用されている。
このようなエンボスシートの製造方法としては、外周面にエンボスパターンが形成されたロールを使用して型をシートに転写する方法がある。この場合、シートをロールに転写する際はシートを高温にし、転写されたシートをロールから剥離する際にはシートを低温にすることが効率的である。
【0003】
例えば、特許文献1では、エンボスパターン形成面を有するロール本体の内部に加熱用熱媒体または冷却用熱媒体が流れる複数の流路がロール本体の外周面の近傍に沿って形成されている。これは、ロールの回転に応じて流路に流す熱媒体を制御することでシートを加熱したり冷却したりしている。
【0004】
また、特許文献2には、外殻を形成する外筒と熱媒が流れる内筒からなるロールが記載されている。内筒は2つに分けられ、2系統の熱媒を同一ロール中に流す構成とし、特定の位置が特定の温度となるようにコントロールされている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−6399号公報
【特許文献2】特開平8−1811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、複数の流路はロールの外周面の近傍に任意の間隔で形成されているため、ロールの外周面を均一に加熱または冷却することができなかった。したがって、熱効率が悪く、転写率が十分ではないという問題があった。また、生産性も不十分であった。
特許文献2では、外筒と内筒との間には加工精度等により隙間が生じてしまうため、熱効率が悪く、転写率および生産性に問題があった。
さらに、特許文献1および特許文献2では、ロールの特定の位置で特定の温度にコントロールする必要があるため、ロールに精密な加工を施さなければならず、その加工処理とメンテナンスとが煩雑となっていた。
【0007】
本発明の目的は、転写率および生産性の高いエンボスシートの製造装置およびエンボスシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエンボスシートの製造装置は、表面にエンボスパターンが形成されたシートを製造するエンボスシートの製造装置であって、外周表面にエンボスパターンが形成された略円筒形状の回転ドラムと、前記回転ドラムの略中心を貫通し、回転可能に長手方向が水平方向となる状態に前記回転ドラムを支持する長手状の支持部材と、前記支持部材に固定され、前記回転ドラム内の前記支持部材の上部において前記回転ドラムの内周表面に当接する曲面状の加熱面を有する加熱手段と、前記回転ドラム内の前記支持部材の下部に貯められた冷却媒体により冷却可能な冷却手段と、を備えたエンボスロールと、前記シートを介して前記回転ドラムに当接する賦形ロールおよび剥離ロールと、を具備したことを特徴とする。
【0009】
この発明では、略円筒形状の回転ドラムの内部に加熱手段と冷却手段とが内蔵される。
加熱手段は回転ドラム内部の上部において回転ドラムを貫通する支持部材に固定され、特定の位置に固定された状態となる。加熱手段の加熱面は回転ドラムの内周表面に当接する状態に曲面状に形成され、回転ドラムの内周表面に対して摺動可能とされている。
冷却手段としては回転ドラム内部の下部に冷却媒体が貯められている。冷却媒体としては、伝熱性の高い液体を用いることが好ましく、例えば、一般に使用される潤滑油等を例示することができる。
【0010】
そして、回転ドラムのみが支持部材を回転軸として回転する。回転ドラムが回転すると、回転ドラム内部の下部に貯められた冷却媒体により、回転ドラムが1回転する間もその内周側に冷却媒体が付着した状態となる。すなわち、加熱手段の加熱面と回転ドラムの内周表面との間に冷却媒体の層が形成される。なお、冷却媒体は、回転ドラムの下部においては冷却されているが、加熱手段と接触することにより高温に加熱される。
したがって、熱効率が向上して加熱面の熱が均一に回転ドラムに伝わり、樹脂シートを均一に加熱することができ、熱ムラの発生を防止することができる。特に、加工精度の問題によりエンボスロールと加熱面との間に多少の隙間が生じていたとしても、冷却媒体の層により回転ドラムを均一に加熱することができる。これにより、ムラのないエンボス加工を施すことができるとともに、転写率の高いエンボスシートを製造することができる。
【0011】
また、曲面状の加熱面により、エンボスロールの回転に伴って移動中の樹脂シートは十分に加熱溶融される。したがって、賦形ロールでエンボスパターンを容易に転写することができ、転写スピードが速い。すなわち、生産性の向上を図ることができる。
さらに、加熱手段と冷却手段が回転ドラムに内蔵されているため、製造装置の小型化を図ることができる。
そして、この発明では、回転ドラムを回転させるだけで加熱および冷却ができるので、製造装置を稼動させる際の手間を大幅に省略することができるとともに、メンテナンスも簡単に行うことができる。
【0012】
本発明のエンボスシートの製造装置において、前記回転ドラムは、駆動装置によって回転することが好ましい。
【0013】
駆動装置は、回転ドラムを回転させるものであれば特に限定されない。
このため、様々なタイプの駆動装置を利用することができるので、有用性が高い。
また、回転ドラムと駆動装置とが別の装置であるため、メンテナンスが容易となる。
【0014】
本発明のエンボスシートの製造装置において、前記冷却手段は、前記冷却媒体を循環させる循環装置を有することが好ましい。
【0015】
この発明では、回転ドラムの下部に貯められた冷却媒体を循環装置により循環させている。冷却媒体は、その一部が回転ドラムの回転によって加熱装置にも供されて温度が上昇するが、循環装置で冷却媒体を循環させ、循環の途中で所定の温度に冷却することにより、冷却媒体の温度を一定に保つことができる。その結果、樹脂シートを確実に冷却することができ、剥離性の高い製造装置を提供することができる。
【0016】
本発明のエンボスシートの製造方法は、前述の製造装置を用いてエンボスシートを製造するエンボスシートの製造方法であって、前記シートを前記エンボスロールに供給する供給工程と、前記加熱手段により、前記シートを加熱する加熱工程と、前記賦形ロールにより、前記シートを賦形する賦形工程と、前記冷却手段により、前記シートを冷却する冷却工程と、前記剥離ロールにより、前記シートを前記回転ドラムの外周表面から剥離する剥離工程と、を実施することを特徴とする。
【0017】
この発明では、供給工程、加熱工程、賦形工程、冷却工程および剥離工程を経てエンボスシートが製造される。具体的には、供給工程により樹脂シートがエンボスロールに供給され、加熱工程により樹脂シートが加熱され、賦形工程により加熱された樹脂シートにエンボスパターンを転写し、冷却工程により樹脂シートを冷却し、剥離工程により冷却された樹脂シートをエンボスロールから剥離する。
このように、賦形工程を実施する前に加熱工程において樹脂シートを十分に加熱するので、転写率の高いエンボスシートを提供することができるとともに、転写スピードを速くすることができ、生産性の向上を図ることができる。
また、剥離工程の前に冷却工程において樹脂シートを十分に冷却するので、剥離を容易に行うことができ、樹脂シートをエンボスロールからスムーズに剥離することができる。すなわち、剥離面の美しい高品質なエンボスシートを提供することができる。
【0018】
本発明のエンボスシートの製造方法において、前記加熱工程は、90℃以上250℃以下の温度で前記シートを加熱することが好ましい。
【0019】
加熱温度は、シートに使用されている樹脂やシートの厚みに応じて適宜調整されることが好ましく、90℃以上250℃以下の範囲内に調整される。具体的には、シートに使用されている樹脂に含まれる非晶性ポリマーのガラス転移点(Tg)以上であることが好ましい。加熱温度が90℃未満であると、樹脂が十分に溶融しないため転写が不十分となるおそれがある。一方、加熱温度が250℃を超えると、転写が難しくなる。
したがって、加熱温度を90℃以上250℃以下とすることで、シートがエンボスパターンを転写するのに十分に溶融され、転写率の高いエンボスシートを提供することができる。
【0020】
本発明のエンボスシートの製造方法において、前記冷却工程は、前記冷却媒体の温度を20℃以上170℃以下とすることが好ましい。
【0021】
冷却媒体の温度は、シートに使用されている樹脂や加熱装置の温度によって適宜調整されることが好ましく、20℃以上170℃以下の範囲内に調整される。
冷却媒体の温度が20℃未満であると、結露が発生するおそれがある。一方、冷却媒体の温度が170℃を超えると、十分に冷却することができず剥離不良となる。
したがって、冷却媒体の温度を20℃以上170℃以下とすることにより、剥離性が向上し、剥離面の美しいエンボスシートを提供することができる。また、エンボスシートをスムーズに剥離することができるので、生産性も向上する。
【0022】
本発明のエンボスシートの製造方法において、前記賦形工程は、0.5MPa以上50MPa以下の圧力で前記シートを賦形することが好ましい。
【0023】
この発明では、賦形工程において、賦形ロールの圧力を0.5MPa以上50MPa以下とすることにより、転写率の高いエンボスシートを提供することができる。
なお、賦形ロールの圧力が0.5MPa未満であると、エンボスパターンを十分に転写することができない。一方、賦形ロールの圧力が50MPaを越えると、転写不良となるおそれがある。なお、賦形ロールの圧力のより好ましい範囲は10MPa以上30MPa以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態にかかる製造装置の全体を示す斜視図、図2は図1のII−II断面図、図3は図1のIII−III断面図、図4は本発明の実施形態にかかる製造装置を示す側面図である。
【0025】
〔1.熱可塑性樹脂シート〕
熱可塑性樹脂シート10に使用される熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロポリオレフィン樹脂、アクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂には、光拡散剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、およびその他公知の各種添加剤を添加することができる。
【0026】
光拡散剤としては、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、シリカ、石英、酸化チタンおよび酸化亜鉛のうち少なくとも1種を用いることができる。これらの光拡散剤は、その平均粒子径が1μm200μm以下、より好ましくは3μm以上100μm以下の粒子(ビーズ、粉末)、および、その繊維長/繊維径(L/D)が2以上100以下程度の粒子のうち少なくともいずれか一方を満たすものが好ましい。
【0027】
光拡散剤の添加量は、光学特性に沿って光拡散機能を調整して選定すればよいが、例えば、熱可塑性樹脂100質量部に対して光拡散剤を0.01質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上3質量部以下の範囲で添加することができる。
紫外線吸収剤および赤外線吸収剤としては、公知のものを使用することができる。
【0028】
熱可塑性樹脂シート10の厚みは、50μm以上800μm以下が好ましい。熱可塑性樹脂シート10の厚みが50μm未満であると、エンボス加工後のシートが薄くなりすぎるおそれがある。また、熱可塑性樹脂シート10の厚みが800μmを超えると、エンボスロール300に熱可塑性樹脂シート10が沿わなくなり、転写が不十分となるおそれがある。なお、熱可塑性樹脂シートの厚みのより好ましい範囲は100μm以上600μm以下である。
【0029】
〔2.製造装置の構成〕
図1に示すように、製造装置100は、熱可塑性樹脂シート10にエンボスパターンを転写する転写装置200と、転写装置200を駆動させる駆動装置700とを具備している。
【0030】
〔2−1.転写装置の構成〕
転写装置200は、外周面にエンボスパターンが形成された略円柱形状のエンボスロール300と、エンボスロール300に熱可塑性樹脂シート10を導入する抑えロール400と、第1補助ロール410と、第2補助ロール420と、エンボスロール300に対して熱可塑性樹脂シート10を押圧する賦形ロール500と、エンボスロール300から熱可塑性樹脂シート10を剥離する剥離ロール600と、を備えている。
【0031】
エンボスロール300は、図2および図3に示すように、外周表面にエンボスパターンが形成された回転ドラム310と、回転ドラム310の両側に取り付けられたシールリング320と、回転ドラム310およびシールリング320を支持する長手状の支持部材330と、回転ドラム310の内部で支持部材330に固定された加熱手段としての加熱装置340と、回転ドラム310の内部に貯められた冷却オイル350と、冷却オイル350を循環させる循環装置360と、を備えている。
【0032】
回転ドラム310は、円筒形状の外周壁311によって形成され、外周壁311の外周表面311Aには図示しないエンボスパターンが形成されている。また、回転ドラム310の両側の開口端部313の内周面には、後述のシールリング320と嵌合する図示しない凸部が形成されている。
外周壁311は、熱伝導性の高い材料で形成されることが好ましく、例えば、鉄、ステンレス等が用いられる。
外周表面311Aに形成されるエンボスパターンとしては、所定の間隔、深さ、模様で凸凹状の各種パターンを採用でき、例えば、格子状、三角形状、のこぎり形状が任意の分布となるエンボスを例示することができる。このようなエンボスパターンの形状、エンボス面積率などは、エンボスパターンを形成するシートの融点、厚み、加工速度、風合いや外観などにより適宜選定可能である。
開口端部313は、図示しない凸部と後述のシールリング320とが嵌合することにより、回転ドラム310の内部を閉塞する。
このような回転ドラム310は、外周壁311の内周側に内部空間を有し、この内部空間に後述の加熱手段および冷却手段が内蔵される。
【0033】
シールリング320は、回転ドラム310の径と略同じ径を有する円盤形状に形成されている。シールリング320の中央には、回転ドラム310の内部空間とは反対の方向に突出した円柱形状の突起部321が形成され、突起部321には、後述の支持部材330が貫通する円柱形状の長孔部322が形成されている。シールリング320の回転ドラム310に装着される側には、回転ドラム310の開口端部313と嵌合する図示しない凹部が形成されている。
このようなシールリング320は、回転ドラム310の両側の開口端部313に嵌合して、回転ドラム310の内部を閉塞する。
【0034】
支持部材330は、長手状の円柱形状に形成され、回転ドラム310に嵌合された2つのシールリング320の長孔部322に摺動可能に嵌挿され、支持部材330の長手方向が水平方向となる状態に回転ドラム310およびシールリング320を支持している。すなわち、回転ドラム310は、支持部材330を回転軸として鉛直方向に回転する。
また、支持部材330は、シールリング320の長孔部322と摺動可能に当接する嵌挿部331と、嵌挿部331の端部331Aから回転ドラム310の内部に導通する切欠孔332と、を有している。切欠孔332には、後述の循環配管361および362が嵌挿される。
ここで、回転ドラム310の内部空間において、支持部材330から上部を上部空間、支持部材330よりも下部を下部空間とする。
【0035】
加熱装置340は、回転ドラム310内部の上部空間に設けられ、回転ドラム310の外周壁311を加熱する加熱面341と、加熱面341に連続して形成された本体部342と、本体部342を支持部材330に固定する固定部材343と、を有している。
加熱面341は、回転ドラム310の上部空間において、外周壁311の内周面に沿った曲面状に形成されている。加熱面341と外周壁311とは摺動可能に当接していることが好ましい。また、加熱面341は、外周壁311の外周面における熱可塑性樹脂シート10の導入点から賦形ロール500に至る範囲に対応する外周壁311の内周面に沿って設置される。
【0036】
本体部342は、加熱面341に連続して加熱面341の内周側に設置され、図示しない電源からの電力が供給される。この電力により加熱面341を均一に所定の温度に加熱する。加熱温度は、90℃以上250℃以下の範囲で調整可能とされているが、熱可塑性樹脂シート10に使用される樹脂の種類に応じて適宜調整すればよい。例えば、加熱温度は非晶性ポリマーのガラス転移点(Tg)以上であることが好ましい。加熱温度が90℃未満であると、樹脂が十分に溶融しないため転写が不十分となるおそれがある。一方、加熱温度が250℃を超えると、転写が難しくなる。
固定部材343は、本体部342に取り付けられ、本体部342を支持する状態で支持部材330にねじ等により固定されている。固定部材343の位置を調整することにより、加熱面341が外周壁311に当接するように調節可能となっている。
このような加熱装置340としては、ヒータなどを用いることができる。
【0037】
冷却オイル350は、回転ドラム310を内部から冷却するものであれば特に限定されないが、一般に使用される潤滑油、例えば、鉱物系熱媒体油等を使用することができる。冷却オイル350は回転ドラム310の下部空間に貯められ、20℃以上200℃以下の範囲の温度に調整される。冷却オイル350の温度は、熱可塑性樹脂シート10に使用される樹脂の種類および加熱装置340の温度に応じて適宜選定すればよいが、非晶性ポリマーのガラス転移点(Tg)未満とすることが好ましい。冷却温度が20℃未満であると、結露が発生するおそれがあり、また、冷却温度の保持が困難となり転写不良を起こす可能性がある。一方、冷却温度が200℃を超えると、熱可塑性樹脂シート10の冷却が不十分となり剥離が困難となるおそれがある。
【0038】
循環装置360は、冷却オイル350を循環させるための装置であり、回転ドラム310の内部に挿入された循環配管361、362と、図示しない循環ポンプとを備えている。循環配管361は、一端が循環ポンプに接続し、シールリング320の長孔部322および支持部材330の切欠孔332を挿通して、他端が回転ドラム310の内部に貯められた冷却オイル350に浸漬されている。循環配管362は、一端は回転ドラム310の内部に貯められた冷却オイル350に浸漬され、シールリング320の長孔部322および支持部材330の切欠孔332を挿通し、他端は循環ポンプに接続されている。
冷却オイル350は、循環ポンプにより回転ドラム310内部、循環配管362、循環ポンプ、循環配管361の順に循環する。なお、循環配管361および循環配管362を循環する冷却媒体を所定の温度に冷却するなどして、冷却オイル350を一定の温度に保つことができる。
【0039】
抑えロール400は、熱可塑性樹脂シート10を介してエンボスロール300に当接するように設けられる。そして、供給された熱可塑性樹脂シート10をエンボスロール300へ導入する。抑えロール400と熱可塑性樹脂シート10とエンボスロール300との接点が導入点となる。
第1補助ロール410は、熱可塑性樹脂シート10を介してエンボスロール300に当接するように設けられ、抑えロール400を補助する。
第2補助ロール420は、賦形ロール500と剥離ロール600との間に設けられる。
第2補助ロール420は、熱可塑性樹脂シート10を介してエンボスロール300に当接させてもよい。なお、第2補助ロール420駆動装置700の一部としても動作する。
【0040】
賦形ロール500は、金属ロール510の外周表面に弾性材520が被覆されている。弾性材520としては、シリコーンゴム等が好適に用いられ、厚みが1mm以上50mm以下の範囲のものであることが好ましい。弾性材520の厚みが1mm未満であると、熱可塑性樹脂シート10に加える圧力が大きくなりすぎて転写不良となる。また、弾性材520の厚みが50mmを超えると、所定の圧力を加えることが難しくなり転写不良となる。弾性材520の厚みのより好ましい範囲は2mm以上10mm以下である。
【0041】
そして、賦形ロール500は、エンボスロール300に導入された熱可塑性樹脂シート10をエンボスロール300側に押圧することにより、熱可塑性樹脂シート10にエンボスロール300のエンボスパターンを転写する。このときの線圧は、0.5MPa以上50MPa以下であることが好ましく、より好ましくは10MPa以上30MPa以下である。線圧が0.5MPa未満であると、エンボスパターンを十分に転写できない。一方、線圧が50MPaを越えると、転写装置200の機械的保持が困難となる。
【0042】
また、賦形ロール500には、図示しない温度制御装置が備えられている。温度は、20℃以上170℃以下の範囲で設定可能なものであることが好ましく、加熱装置340の温度と異なる温度に調整する。すなわち、熱可塑性樹脂シート10の転写面(加熱装置340側)と非転写面(賦形ロール500側)とで温度を変化させることで、転写を良化することができる。
このように、賦形ロール500で賦形する際の温度および圧力は、熱可塑性樹脂シート10の融点、厚み、加工速度、風合いや外観などにより適宜調整することができる。
【0043】
剥離ロール600は、エンボスロール300の熱可塑性樹脂シート10を剥離する部分に設けられ、エンボスロール300の外周表面311Aに沿って回転してきた熱可塑性樹脂シート10を剥離する方向にガイドする。
【0044】
〔2−2.駆動装置の構成〕
駆動装置700は、図4に示すように、電力を供給するモータ710と、モータ710に接続されたモータ歯車720と、第2補助ロール420の一方の端部に設けられた第1歯車730と、剥離ロール600の一方の端部に設けられた第2歯車740と、モータ歯車720、第2補助ロール420および剥離ロール600に巻装されたエンドレスベルト750と、エンボスロール300の一方の端部に設けられた第3歯車760と、を備えている。
【0045】
モータ710は、図示しない電源に接続され、モータ歯車720を回転させる。
モータ歯車720は、モータ710から延設された軸部711の端部に設けられ、軸部711の回転に伴って回転する。モータ歯車720の外周面には噛合歯721が形成されている。
第1歯車730は、第2補助ロール420の一方の端部に設けられ、外周面には噛合歯731が形成されている。なお、第2補助ロール420には、第1歯車730に隣接して凹部が形成されている。
第2歯車740は、剥離ロール600の一方の端部に設けられ、外周面には噛合歯741が形成されている。なお、剥離ロール600には、第2歯車に隣接して凹部が形成されている。
【0046】
エンドレスベルト750は、モータ歯車720、第2補助ロール420および剥離ロール600に巻装される。具体的には、モータ歯車720の噛合歯721、第2補助ロール420に形成された凹部および剥離ロール600に形成された凹部に噛合し、モータ歯車720の回転を第2補助ロール420および剥離ロール600に伝達して第1歯車730および第2歯車740を回転させる。
第3歯車760は、エンボスロール300の一方の端部に設けられ、外周面には噛合歯761が形成されており、噛合歯761が第1歯車730の噛合歯731および第2歯車740の噛合歯741に噛合する状態となっている。
【0047】
このような駆動装置700は、モータ710の駆動によるモータ歯車720の回転に伴ってエンドレスベルト750を介して第1歯車730および第2歯車740が回転し、第1歯車730および第2歯車740と噛合している第3歯車760が回転する。したがって、第3歯車760に固定されているシールリング320および回転ドラム310が同時に回転する。
【0048】
〔3.製造装置の動作〕
次に、製造装置100の動作について説明する。
まず、駆動装置700の図示しない電源を入れ、モータ710の駆動によりエンボスロール300を回転させる。そして、エンボスロール300と抑えロール400との間に、厚み0.3mmの熱可塑性樹脂シート10を導入する。
【0049】
熱可塑性樹脂シート10は、抑えロール400により導入点でエンボスロール300の外周表面311Aに接触し、エンボスロール300の回転に伴って移動する。
エンボスロール300の外周表面311Aは内部に設置された加熱装置340により均一に加熱されており、これに伴って熱可塑性樹脂シート10が加熱される。
そして、移動中に加熱された熱可塑性樹脂シート10は、賦形ロール500により線圧10MPa以上30MPa以下で押圧され、賦形される。
その後移動した熱可塑性樹脂シート10は、エンボスロール300の内部に貯められた冷却オイル350によって冷却され、エンボスロール300と剥離ロール600との間に導入され、剥離ロール600の回転に伴ってエンボスロール300の外周表面311Aから剥離され、巻き取りロールに巻装される。
なお、熱可塑性樹脂シート10の引き取り速度は、1m/min以上10m/min以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは5m/min以上10m/min以下である。
【0050】
このとき、エンボスロール300の内部では、下部空間に冷却オイル350が貯められているので、エンボスロール300が回転すると、外周壁311の内周側には冷却オイル350が付着した状態となる。そして、回転ドラム310の外周壁311と加熱装置340の加熱面341との間に冷却オイル350の層、すなわちオイルの層が形成される。
そして、外周壁311と加熱装置340の加熱面341との間に供されて加熱されたオイルは、エンボスロール300の回転に伴って冷却オイル350として再度貯められる。そして、冷却オイル350は、循環装置360による循環により一定の温度に冷却されるため、常に一定の温度で維持されている。
【0051】
〔4.本実施形態の作用効果〕
したがって、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、エンボスロール300の内部に設けられた加熱装置340の加熱面341が、外周表面311Aの内周側に当接するように曲面状に形成されている。
したがって、エンボスロール300の外周表面311Aを均一に加熱することができるので、熱可塑性樹脂シート10が均一に加熱され、エンボスパターンの転写が良好となる。
【0052】
(2)また、エンボスロール300内部の下部空間には冷却オイル350が貯められており、回転ドラム310が回転すると、外周壁311の内周側にはオイルが付着した状態となるため、外周壁311と加熱面341との間に冷却オイル350の層が形成される。
したがって、熱効率が向上し、加熱面341の熱が均一に外周壁311に伝わり、熱可塑性樹脂シート10を均一に加熱することができるので、熱ムラの発生を防止することができる。特に、加工精度の問題によりエンボスロール300と加熱面341との間に多少の隙間が生じていたとしても、オイルの層により外周壁311を均一に加熱することができる。これにより、ムラのないエンボス加工を施すことができるとともに、転写率の高いエンボスシートを製造することができる。
【0053】
(3)さらに、冷却オイル350は、循環装置360によりエンボスロール300の内部と外部とで循環されている。すなわち、エンボスロール300の回転により加熱工程に供されたオイルは循環装置360により循環され、所定の温度に冷却される。
したがって、回転ドラム310の下部空間に貯められた冷却オイル350は常に一定の温度を維持することができ、確実に冷却を実施することができる。
【0054】
(4)そして、熱可塑性樹脂シート10を導入する際に、抑えロール400により熱可塑性樹脂シート10をエンボスロール300の外周表面311Aに密着させることとした。これにより、熱可塑性樹脂シート10とエンボスロール300の外周表面311Aとの間に空気が入るのを防ぐことができ、高品質のエンボスシートを提供することができる。
【0055】
(5)また、回転ドラム310の内部に加熱手段である加熱装置340と冷却手段である冷却オイル350とが装備されているので、回転ドラム310を回転させるだけの簡単な操作で加熱および冷却を行うことができるとともに、装置の小型化を図ることができる。
【0056】
(6)従来、熱可塑性樹脂シート10として拡散板のような厚いシートにエンボスパターンを転写する際は、エンボスロール300と賦形ロール500とによるプレス転写を行っていた。この場合、プレスした一瞬での転写となるため、線圧を30MPaと高い圧力で行ったとしても転写率が不十分であり、例えば、80%の転写率を得るためにはシートの引き取り速度を2m/min以上4m/min以下の遅い速度にしなければならなかった。
本実施形態では、熱可塑性樹脂シート10がエンボスロール300に導入されてから賦形ロール500で賦形されるまでの間に加熱および転写されるので、加熱転写される時間が長くなり、賦形ロール500の圧力が10MPa以上30MPaであっても、転写率を80%程度まで向上させることができる。すなわち、高い転写率を有するとともに、引き取り速度を速くすることができるので、生産性に優れている。
【0057】
〔5.本実施形態の変形例〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0058】
前述の実施形態では、駆動装置700を用いたが回転ドラム310を回転させるものであればこれに限られない。例えば、図5に示すように、駆動装置800を用いてもよい。
駆動装置800は、電力を供給するモータ810と、モータ810に接続されたモータ歯車820と、シールリング320の突起部321の外周に設けられた歯車830と、モータ歯車820と歯車830とに巻装されたエンドレスベルト840と、を備えている。このような構成であれば、モータ810の駆動によるモータ歯車820の回転に伴ってエンドレスベルト840を介して歯車830が回転する。したがって、歯車830に固定されているシールリング320および回転ドラム310が同時に回転する。
このように、様々なタイプの駆動装置を用いることができるので、汎用性が高い。
【0059】
また、前述の実施形態では、成型された熱可塑性樹脂シート10をエンボスロール300に導入したが、熱可塑性樹脂シート10の材料である溶融樹脂をそのままエンボスロール300に供給して転写を行っても良い。
【0060】
さらに、前述の実施形態では、抑えロール400を一箇所に設けたが、複数箇所に設けてもよい。これにより、熱可塑性樹脂シート10をエンボスロール300の外周表面311Aにより密着させることができる。
【0061】
そして、前述の実施形態では、回転ドラム310の外周表面311Aにエンボスパターンが形成されているが、回転ドラム310の外周表面311Aに着脱可能な部材の表面にエンボスパターンを形成し、この部材の表面に熱可塑性樹脂シート10を密着させることでエンボスパターンを転写してもよい。この場合、着脱可能な部材は、耐熱性のある接着剤等を介して回転ドラム310の外周表面311Aに圧着してもよいし、物理的に着脱可能な部材を回転ドラムに装着させてもよい。
このように、エンボスパターンが形成された部材を回転ドラム310に着脱可能にすることにより、1つの装置で複数のエンボスパターンのシートを簡便に製造することができ、有用性が高い。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の実施例について説明する。
前述の実施形態の製造装置100において、以下の表1に示す温度、圧力および引取速度の条件でエンボスシートを作製し、転写率を測定した。転写率は、エンボスパターンが形成された樹脂シートの表面の凸部の高さをエンボスロール表面のエンボスの深さで除した比率として算出した。なお、エンボスパターンの高さの測定には、デジタルマイクロスコープVHX−900(キーエンス社製)を用いた。
なお、その他の条件については以下の通りである。
エンボスパターンの形状:深さ20μmののこぎり形状
樹脂シート:厚み0.3mmのポリカーボネートシート(出光ユニテック社製、商品名「LC320F」)
冷却媒体:鉱物系熱媒体油(出光興産社製、グレード名「ダフニーサーミックオイル32」)
【0063】
【表1】

【0064】
表1からわかるように、実施例1〜4では、10m/minという速い引取速度で製造できるとともに、転写率80%以上という高い転写率を得ることができた。
一方、比較例1では剥離不良となり、比較例2〜4では、高い転写率が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、液晶テレビ等の部材に用いられる光拡散板やレンチキュラーレンズシート等の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態にかかる製造装置の全体を示す斜視図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】図1のIII−III断面図。
【図4】本発明の実施形態にかかる製造装置を示す側面図。
【図5】前記実施形態の変形例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0067】
100…製造装置
200…転写装置
300…エンボスロール
310…回転ドラム
320…シールリング
321…突起部
322…長孔部
330…支持部材
340…加熱装置
341…加熱面
342…本体部
350…冷却オイル
360…循環装置
400…抑えロール
410…第1補助ロール
420…第2補助ロール
500…賦形ロール
600…剥離ロール
700…駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にエンボスパターンが形成されたシートを製造するエンボスシートの製造装置であって、
外周表面にエンボスパターンが形成された略円筒形状の回転ドラムと、
前記回転ドラムの略中心を貫通し、回転可能に長手方向が水平方向となる状態に前記回転ドラムを支持する長手状の支持部材と、
前記支持部材に固定され、前記回転ドラム内の前記支持部材の上部において前記回転ドラムの内周表面に当接する曲面状の加熱面を有する加熱手段と、
前記回転ドラム内の前記支持部材の下部に貯められた冷却媒体により冷却可能な冷却手段と、を備えたエンボスロールと、
前記シートを介して前記回転ドラムに当接する賦形ロールおよび剥離ロールと、を具備したことを特徴とするエンボスシートの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンボスシートの製造装置において、
前記回転ドラムは、駆動装置によって回転することを特徴とするエンボスシートの製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエンボスシートの製造装置において、
前記冷却手段は、前記冷却媒体を循環させる循環装置を有することを特徴とするエンボスシートの製造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造装置を用いてエンボスシートを製造するエンボスシートの製造方法であって、
前記シートを前記エンボスロールに供給する供給工程と、
前記加熱手段により、前記シートを加熱する加熱工程と、
前記賦形ロールにより、前記シートを賦形する賦形工程と、
前記冷却手段により、前記シートを冷却する冷却工程と、
前記剥離ロールにより、前記シートを前記回転ドラムの外周表面から剥離する剥離工程と、を実施することを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のエンボスシートの製造方法において、
前記加熱工程は、90℃以上250℃以下の温度で前記シートを加熱することを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のエンボスシートの製造方法において、
前記冷却工程は、前記冷却媒体の温度を20℃以上170℃以下とすることを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法において、
前記賦形工程は、0.5MPa以上50MPa以下の圧力で前記シートを賦形することを特徴とするエンボスシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−42622(P2010−42622A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209033(P2008−209033)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】