説明

オイルパン装置

【課題】オイルパン部分とバッフルプレートを一体に構成することにより、バッフルプレートの耐離脱性に対する信頼性を向上させたオイルパン装置の提供。
【解決手段】エンジン下方に位置しており、オイルパン部分(1)と、その下方のタンク部分(2)とを有し、オイルパン部分(1)の底部(11)は平坦な形状をしており且つオイル落下用の開口部(12)が形成されており、タンク部分(2)の上面(22)はオイル流動に対する抵抗部を構成すると共に、オイル落下用の開口部(23)が形成されており、オイルパン部分(1)の底部(11)とタンク部分(2)の上面(22)とが接合されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンのエンジンオイルを貯留するためのオイルパンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8及び図9に示すように、オイルパン100内部には、油面の位置変動や波立ちを抑える目的でバッフルプレート3が設けられている。バッフルプレート3を設ける場合、通常オイルパン100本体と別部品のバッフルプレート3をスポット溶接(Wpで示す位置)などで固着させているが、薄板での溶接構造と溶着面積が少ない等が原因して、所謂「スポット抜け」が生じ、バッフルプレート3のオイルパン100内部での耐離脱性に対する信頼性が問題となっている。
又、信頼性を確保するためにはスポット打点を増加させなくてはならず、限られたプレートの接触面積内で行うには困難が伴うと共に、コスト上昇の要因ともなっている。
【0003】
オイルパンの剛性を高めるためにオイルパン底面に取付けた底カバーにバッフルプレートを連続状に一体成形して構成した技術がある(特許文献1参照)。しかし、係る技術におけるバッフルプレートはオイルパン外部に位置し、エンジンオイルに対するバッフルの機能はない。即ち、バッフルプレートの機能はオイルパン底部(裏面)の剛性アップである。
【特許文献1】特開2003−35123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、オイルパン部分とバッフルプレートを一体に構成することにより、バッフルプレートの耐離脱性に対する信頼性を向上させたオイルパン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のオイルパン装置(A)は、エンジン下方に位置しており、オイルパン部分(1)と、その下方のタンク部分(2)とを有し、オイルパン部分(1)の底部(11)は平坦な形状をしており且つオイル落下用の開口部(12)が形成されており、タンク部分(2)の上面(22)はオイル流動に対する抵抗部を構成すると共に、オイル落下用の開口部(23)が形成されており、オイルパン部分(1)の底部(11)とタンク部分(2)の上面(22)とが接合されていることを特徴としている(請求項1)。
【0006】
ここで、前記オイルパン部分(1)は板金製であるのが好ましい(請求項2)。
【0007】
また、前記タンク部分(2)は上型部材(20)と下型部材(30)とを有し、上型部材(20)と下型部材(30)とがシールされて接合されているのが好ましい(請求項3)。
【0008】
或いは、前記接合箇所は接触境界部が全周に亙って溶接で接合されているのが好ましい(請求項4)。
【0009】
そして、前記オイルパン部分(1)と前記タンク部分(2)は耐熱性材料で構成されているのが好ましい。(請求項5)。
【0010】
それに加えて、前記タンク部分(2)は一体成形されている様にすることが可能である(請求項6)。即ち、上型部材と下型部材の二つの構成部材ではなく、例えば耐熱樹脂等で一個のタンクに形成されていても良い。
【0011】
本発明のオイルパン装置(A)の製造方法は、平坦な形状で且つオイル落下用の開口部(12)が設けられた底部(11)を有するオイルパン部分(1)を形成する工程(図4で示す工程)と、オイル流動に対する抵抗部を構成し(抵抗部を残し)且つオイル落下用の開口部(23)が設けられた上面(22)を有するタンク部分(2)を形成する工程(図5で示す工程)と、オイルパン部分(1)の底部(11)とタンク部分(2)の上面(22)とを液密にシールされた状態に接合する接合工程(図7で示す工程)、とを有している(請求項7)。
【0012】
また、本発明のオイルパン装置の製造方法は、オイルパン部分(1)とタンク部分(2)とは板金製であり、タンク部分(2)は上型部材(20)と下型部材(30)とからなり、オイル流動に対する抵抗部とオイル落下用の開口部(23)をタンク部分(2)の上型部材に成形する工程(図5で示す工程)と、タンクの上型部材(20)と下型部材(30)とを液密にシールされた状態に接合する接合工程(図6で示す工程)とを有している(請求項8)。
【0013】
そして、前記接合工程では、接触境界部全周に亙って溶接が為される(請求項9)。溶接方法としては、突合せ溶接、或いはシーム溶接とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオイルパン装置(A)によれば、オイルパン部分(1)とバッフルプレートを兼ねるタンク部分(2)の上型部材(20)が前記接合工程では、接触境界部全周に亙って溶接により一体に接合されているので、バッフルプレート、即ちタンク部分2(の上型部材20)はオイルパンから離脱することはなく、耐離脱性に対する信頼性が飛躍的に向上する。
【0015】
タンク部分(2)の上型部材(20)がバッフルプレートを兼ねるので、コスト上昇が抑制される。
【0016】
従来のような板状体のバッフルプレートと異なり、シェル構造のタンク部分(2)の上型部材(20)がバッフルプレートを構成しているので、強度は格段に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0018】
図1〜図3は、順に当該オイルパン装置Aの平面図、側面図、正面図を示している。
【0019】
図2を参照して、当該オイルパン装置Aはトレイ状のオイルパン部分1とそのオイルパン部分1の底部11の裏面(図示の垂直方向下側)に接合されたタンク部分2とによって構成されている。
【0020】
オイルパン部分1は図示の左方が右方に比べて深く、底部11は基本面が、左方側が下がる平面を成している。尚、オイルパン部分1の上方の開放部の外縁部にはフランジ部14が水平方向外方に向かって形成されている。
【0021】
前記タンク部分2は、上型部材20と下型部材30とから構成されている。
その上型部材20と下型部材30とは、共に各面が交差する領域が円弧によって丸められた6面体(直方体)であって、その6面体の一面のみが開放された箱型形状であり、開放された一面は水平方向外方に向かってフランジ21(上型部材20側)、フランジ31(下型部材30側)が形成されている。
【0022】
そのフランジ21とフランジ31は同様の形状であり、フランジ先端部が溶接によって液密に接合され、容器(タンク)状に形成されている。
即ち、接合面Fwから上方に見る上型部20の投影面と、接合面から下方に見る下型部の投影面30とは同様である。
前記溶接方法は、例えば突合せ溶接が好ましいが、フランジ面21、31を重ねてシーム溶接によって接合しても良い。
【0023】
前記タンク部分2の上型部材20の上面22には、前記オイルパン部分1の底部11の傾斜と同じ傾斜が与えられている。
一方、タンク部分2の下側部材30の底部32には、オイルパン底部11およびタンク上型部材20の上面22とは反対側に図示の右方側が深くなるような傾斜が与えられている。
【0024】
オイルパン部分1とタンク部分2の接合に際しては、タンク部分2の左方先端部をオイルパン部分1の先端部近傍に配置し、タンク部分2の上面22をオイルパン1の底部11の裏面に接触させた後、互いの接触境界部分を、例えば、隅肉溶接Wcによって全周溶接している(図2及び図3参照)。
【0025】
前記オイルパン部分1の底部11でタンク部2の上型部分20の上面22に含まれる領域には図示の例では、4隅が円弧によって丸められた四角な孔(窓)12が形成されている(図1参照)。
【0026】
一方、タンク部分2の上型部材20の上面22で、前記四角な窓12の領域には、図示の例では3隅が円弧によって丸められた三角の孔(窓)23が形成されている(図1参照)。
即ち、オイルパン部分1とタンク部2とはその三角の孔23によって連通している。
【0027】
前記オイルパン部分1の底部11には剛性確保のために断面形状(図示せず)が部分円弧のビード13が複数形成されている。尚、図3ではビード13は省略されている。
【0028】
一方、タンク部分2の下型30の底部32にも剛性確保のために断面形状が部分円弧のビード33が複数形成されている(図3参照)。
尚、図示はしていないが、タンク部分2の上型部材20の上面22にも下方向に凸のビードを形成しても良い。
【0029】
次に、図4〜図7を参照して本実施形態におけるオイルパン装置Aの製造工程について以下に説明する。
【0030】
先ず、最初の工程である図4は、オイルパン部分1を図示では明確ではないが、プレス機によってプレス成形する状態を示している。
尚、図4では、オイルパンの素材である薄板鋼板は、図示しないダイ(プレス下型)に載置され、ポンチP1(プレス上型)によって既に成形されており、今まさにポンチP1を、成形されたオイルパン1から抜き出す状態を示している。
図4中、ポンチP1の先端部(突起)P12は、オイルパン1の前記四角な窓12と同じ形状であって、プレス成形の際に同時にその窓12を打ち抜き加工している。
【0031】
次の工程である図5では、タンクの上型部材20をオイルパン部分1の時と同様、プレス機によってプレス成形する状態を示している。
図5では、タンクの上型部材20の素材である薄板鋼板は、図示しないダイ(プレス下型)に載置され、ポンチP20(プレス上型)によって既に成形されており、今まさにポンチP20を、成形されたタンクの上型部材20から抜き出す状態を示している。
図5では、図2,3とは異なって、上型部材20の上面22が下方側に反転された状態で示されている。
図5中、ポンチP20の先端部P23は、上型部材20の前記三角の窓23と同じ形状であって、プレス成形の際に同時にその窓23を打ち抜き加工している。
【0032】
タンク部分2の下型部材30のプレス成形の工程も、上述した上型部材20と同様にして行われるが、下側部材30には抜き窓が無く(プレス機のポンチにも打ち抜き用の突起は無い)、打ち抜き加工は含まれない。
【0033】
次の工程図である図6では、タンク部材2の上型20及び下型30が開口部側のフランジ21,31を合わされ、図示しない治具によって仮止めされる。
そして仮止めされた状態で、フランジ21,31の先端を全周に亙って液密に突合せ溶接Wする。尚、図6における符号5は溶接棒の先端を示す。
又、図示では示さないが、フランジ21,31の幅を増加させ、フランジ二面を圧着するようにシーム溶接してもよい。
【0034】
最終工程である図7では、図6の工程で一体化されたタンク部分2をオイルパン部分1の底部11に接合する工程を示している。
オイルパン部分の底部11とタンク部分2の上型部材20上面22との接する境界部を全周に亙って、図示の例では液密に隅肉溶接Wcを施す。
【0035】
図4〜図7の工程は、オイルパン部分1及びタンク部分2が共に板金で構成されていることを条件とするが、タンク部分を例えば耐熱性の樹脂で一体に形成し、オイルパン部分1とタンク部分の接合は、例えばエポキシ系の接着剤で液密に接合しても良い。
【0036】
上述したように、本実施形態のオイルパン装置及びその製造方法によれば、オイルパン部分1とバッフルプレートを兼ねるタンク部分2の上型部材20が接合工程では、接触境界部全周に亙って溶接により一体に接合されているので、バッフルプレート、即ちタンク部分2の上型部材20はオイルパン部分1から離脱することはなく、耐離脱性に対する信頼性が飛躍的に向上する。
【0037】
また、タンク部分2の上型部材20がバッフルプレートを兼ねるので、コスト上昇が抑制される。
【0038】
更に、従来のような板状体のバッフルプレートと異なり、シェル構造のタンク部分2の上型部材20がバッフルプレートを形成しているので、強度は格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態であるオイルパン装置の平面図。
【図2】本発明の実施形態であるオイルパン装置の側断面図。
【図3】本発明の実施形態であるオイルパン装置の正面図。
【図4】本発明の実施形態であって当該オイルパン装置の製造のオイルパンのプレス成形工程を示す工程図。
【図5】本発明の実施形態であって当該オイルパン装置の製造のタンク部分のプレス成形工程を示す工程図。
【図6】本発明の実施形態であって当該オイルパン装置の製造においてタンク部分の上型部材・下型部材の一体接合工程を示す工程図。
【図7】本発明の実施形態であって当該オイルパン装置の製造においてオイルパン部分1とタンク部分の接合工程を示す工程図。
【図8】従来技術におけるオイルパンの上面図。
【図9】図8に対応する側断面図。
【符号の説明】
【0040】
A・・・オイルパン装置
W・・・突合せ溶接
Wc・・・隅肉溶接
1・・・オイルパン部分
2・・・タンク部分
5・・・溶接棒
11・・・底部
12・・・四角な窓
13・・・ビード
14・・・フランジ
20・・・上型部材
21・・・フランジ
22・・・上面
23・・・三角の窓
30・・・下側部材
31・・・フランジ
32・・・底部
33・・・ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン下方に位置しており、オイルパン部分と、その下方のタンク部分とを有し、オイルパン部分の底部は平坦な形状をしており且つオイル落下用の開口部が形成されており、タンク部分の上面はオイル流動に対する抵抗部を構成すると共に、オイル落下用の開口部が形成されており、オイルパン部分の底部とタンク部分の上面とが接合されていることを特徴とするオイルパン。
【請求項2】
前記オイルパン部分は板金製である請求項1のオイルパン装置。
【請求項3】
前記タンク部分は上型部材と下型部材とを有し、上型部材と下型部材とがシールされて接合されている請求項2のオイルパン装置。
【請求項4】
前記接合箇所は接触境界部が全周に亙って溶接で接合されている請求項1〜3の何れか1項のオイルパン装置。
【請求項5】
前記オイルパン部分と前記タンク部分は耐熱性材料で構成されている請求項1、2のオイルパン装置。
【請求項6】
前記タンク部分は一体成形されている請求項1、5の何れかのオイルパン装置。
【請求項7】
平坦な形状で且つオイル落下用の開口部が設けられた底部を有するオイルパン部分を形成する工程と、オイル流動に対する抵抗部を構成し且つオイル落下用の開口部が設けられた上面を有するタンク部分を形成する工程と、オイルパン部分の底部とタンク部分の上面とを液密にシールされた状態に接合する接合工程、とを有することを特徴とするオイルパン装置の製造方法。
【請求項8】
オイルパン部分とタンク部分とは板金製であり、タンク部分は上型部材と下型部材とからなり、オイル流動に対する抵抗部とオイル落下用の開口部をタンク部分の上形部分に成形する工程と、タンクの上型部材と下型部材とを液密にシールされた状態に接合する接合工程とを有する請求項7のオイルパン装置の製造方法。
【請求項9】
前記接合工程では、接触境界部全周に亙って溶接が為される請求項8、9の何れかのオイルパン装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−274813(P2006−274813A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90661(P2005−90661)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】