説明

オキシカロテノイドの調製方法

アスタキサンチン(3,3´−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4´−ジオン)を、合成か天然由来かに関わらずゼアキサンチン(3,3´−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−3,3´−ジオール)のシリル化誘導体から調製する高収率プロセスである。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アスタキサンチンは、様々な海藻、細菌、真菌及び一部の動物に天然に存在し、タンパク質とある種の複合体を形成することが多い。また、Adonis annua L.等の植物、またフラミンゴ、ウズラ等の一部の鳥及びその他の種に見られる。
【0002】
加えて、アスタキサンチンは、その遊離型でまたはモノ若しくはジエステル誘導体として見ることができる。
【0003】
通常、天然源に見られるこのカロテノイドの量はごくわずかであることから、商業用には別の天然源、例えばオキアミ、甲殻類の副産物、遺伝子組み換えマリーゴールド及びその他に依存している。加えて、Phaffia rhodozyma及び海藻Haematococcus pluvialisの小麦発酵抽出物から単離したアスタキサンチンの使用も増加しつつある。微小藻類Chlorococcum種は、アスタキサンチン及びその他のカロテノイド(カンタキサンチン、アドニキサンチン等)の有望な供給源と考えられる。
【0004】
このカロテノイドは一般に、このカロテノイドをデノボ合成しない一部のサケ科の魚を、市場で好まれるピンクの色調にする着色に使用されてきた。また、このカロテノイドは甲殻類の着色にも利用されているが、これらの用途においてはその免疫賦活活性及び抗酸化活性が最も評価されている。免疫賦活活性及び抗酸化活性は、魚、甲殻類の健康に大きく影響することから、集約養殖の際の生存率の上昇につながる。その他のオキシカロテノイド(カンタキサンチン、エキネノン、アドニキサンチン等)も実際には同じ目的で使用される。
【0005】
アスタキサンチンが大半のカロテノイドより優れた抗酸化活性を示すことは実証されていて(非特許文献1)、現在はヒトによる摂取用にもうまく利用されている。アスタキサンチンの強力な抗酸化性は、実験動物及び臨床試験の両方において示されたその様々な生物活性に関係している。アスタキサンチンは、ヒトの健康及び栄養において大きな可能性と有望な用途を有する。アスタキサンチンの最も重要な活性には、その抗酸化/抗炎症性、がん、糖尿病、免疫系/眼球の健康、ヒトの健康の促進(降圧/神経保護作用の潜在性を含む)へのその効果及び食事性アスタキサンチンの血圧、脳卒中、血管性認知症への効果が含まれる(非特許文献2)。
【0006】
何十年もの間、アスタキサンチンは、DSM(Roche)及びBASF等の会社による、時間がかかり高コストの手順を経て、異性体のラセミ混合物(3R、3´R)、(3R、3´S)、(3S、3´S)の形態で合成で得られてきた。この結果、このカロテノイドは極めて高価なものとなった。合成アスタキサンチンは、生体内で産生されるものと同じ分子であり、異性体(3S、3S´)、(3R、3R´)及び(3R、3R)それぞれの1:2:1の混合物から成る。
【0007】
しかしながら、1967年、アスタセン(astacene)からアスタキサンチンを得る方法が発表され(非特許文献3)、シリル化剤を使用したカンタキサンチンからのアスタキサンチンの合成に加えて(非特許文献4)、ゼアキサンチンジメチルエーテルの酸化によって、アスタキサンチンジメチルエーテルも得られている(非特許文献5)。最近では、ゼアキサンチンからアスタキサンチンをこれも一段法で酸化剤(臭素酸ナトリウム、過酸化水素等)を使用して得ることがニュースになり、比較的成功したものの収率は極めて低く(特許文献1、2、3)、20〜30%であると報告された。のちに、制御された反応を通じてカロテノイドアリールエステルまたはオキシメチルエーテルを生成する、食用着色料としてのアスタキサンチンの合成が報告された(特許文献4)。得られる化合物は、水性媒体中、クロムVI、マンガン及びこれらの混合物の塩または錯体によって酸化される。同様の手順が早期にTorres−Cardonaによって報告されていて、エステル化されたゼアキサンチンを使用してエステル化アスタキサンチンを生成している(原料として主にゼアキサンチンジアセテート)(特許文献5)。
【0008】
このため、上述したように、今日、別のカロテノイドからのアスタキサンチンの合成の例は極めて少ない。基質としてのゼアキサンチンの場合、主にそのヒドロキシル基が事実上どんな酸化剤にも反応することを理由として合成手順の分解度が高くなってしまい、収率は極めて低くなる。したがって、本明細書に記載のプロセスは追加工程を含み、この工程は、ゼアキサンチンのヒドロキシル基をまず保護し、次に脱保護及び酸化を記載の技法で同時に行うことによって高収率でアスタキサンチンを生成する工程に進むことから成り、酸化工程の改善のための触媒及び相間移動剤の使用を含む。保護基工程を省略すると、エキネノン、アドニキサンチン及びその他のカロテノイドが得られる。
【0009】
本明細書に記載のプロセスのための原料としてのゼアキサンチンを得るための主な天然源の一部は(Sajilataら)、黄トウモロコシ、オレンジパプリカ、オレンジジュース、ハネデュー、マンゴー、遺伝子組み換えマリーゴールド及び鶏卵卵黄である。ゼアキサンチンは、Delonix regia(グルモール(Gul Mohr))の花の葯中の全カロテノイドの約90%を占める。ゼアキサンチンは、低温圧搾されたマリオンベリー、ボイセンベリー、レッドラズベリー及びブルーベリーシードオイルにおける主要カロテノイドでもある。ゼアキサンチンは、アプリコット、桃、カンタループ及び様々なピンクグレープフルーツ(種無しルビー種)からの抽出物中にも確認されている。
【0010】
カプサンシン及びゼアキサンチンとの立体化学的関係及びCapsicum種中のこの2種類の色素の同時発生は、この2種類の色素間に密接な生物発生的な関係があることを示唆している。全色素含有量中、ゼアキサンチンは、Capsicum annuumの赤、オレンジ及び黄色の変種においてそれぞれ約6.5%、7.3%及び15.9%を占める。
【0011】
トウモロコシにおいて、キサントフィルは殆どが角質胚乳に見られる。総キサントフィル含有量は、11〜30mg/kgと推定される。漢方において視力の改善に使用される小さな果実であるクコ(Lycium chinese)は、1g/kg湿重量に迫る濃度のゼアキサンチンジパルミテートを含有する。
【0012】
微生物由来のキサントフィルの供給源の中でも、Flavobacterium種がゼアキサンチンを基本的にその唯一のカロテノイドとして産生することが報告されている。Flavobacteriumによって生成されるこの色素は、95〜99%のゼアキサンチンから成る。Flavobacterium産生ゼアキサンチンは、トウモロコシ由来のゼアキサンチンと同じである。非光合成細菌であるErwinia herbicolaは、極性カロテノイド、主にゼアキサンチンのモノ−、ジグルコシドの蓄積により黄色い。緑藻Neospongiococcum excentricumは、最高0.65%のキサントフィル(乾燥質量基準)を産生すると判明している。Dunaliella salinaから生み出されたゼアキサンチン過剰産生変異株zea1を、商業利用に考慮することもできる。ゼアキサンチンは、Synechocystis種PCC6714の外膜の天然構成成分である。
【0013】
微小藻類Microcystis aeruginosaは、生理活性カロテノイドゼアキサンチンを産生すると報告されている。また、藍藻Spirulinaは、そのカロテノイドの1つとしてゼアキサンチンを有する。Zeaxanthinibacter enoshimensisは、日本の江の島の海水から単離されたFlavobacteriaceae科のゼアキサンチン産生海洋細菌である。Mesoflavibacter zeaxanthinifaciensは、Flavobacteriaceae科の別の新規のゼアキサンチン産生海洋細菌である。紅藻Corallina officinalis、C.elongate及びJania種のカロテノイドは、β−カロテン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、9−cis−フコキサンチン、フコキサンチノール、9−cis−フコキサンチノール及び2種類のエピマームタトキサンチンから構成されると報告されている。共生藍藻Cyanophora paradoxa及びGlaucocystis nostochinearumは、β−カロテン及びゼアキサンチンしか合成しない。藍色細菌Anacystis nidulansのチラコイドは、ゼアキサンチンをその主要カロテノイドの1つとして有することが報告されている。Dunaliella parva、Erythrotrichia carnea、Dunaliella bardawil、Prochloron種及びPleurochloris commutataは、ゼアキサンチンのその他の微生物供給源の一部である。
【0014】
加えて、合成で調製されるゼアキサンチンもある。合成のゼアキサンチンは、trans−ゼアキサンチン及び少量のcis−ゼアキサンチン、12´−アポ−ゼアキサンチナール、ジアトキサチン及びパラシロキサチンから構成される。
【0015】
合成プロセスで調製されたゼアキサンチンには幾つかの欠点がある。典型的には多数の反応工程を必要とし、各工程の収率は100%より低いため、多段階処理後のゼアキサンチンの最終的な収率が比較的悪くなる傾向がある。加えて、化学合成ではゼアキサンチンの望ましくないS−S、S−R立体異性体及び様々な変換産物、例えば酸化ゼアキサンチン及び直鎖部または末端環中の二重結合の1つ以上を失ったゼアキサンチン分子がもたらされる傾向がある。
【0016】
主にマリーゴールドの抽出物由来のルテインの異性化から得られる半合成ゼアキサンチンも考慮しなくてはならない。これらの場合における一般原則として、ルテインは、強塩基の存在下で比較的長時間にわたって加熱される。しかしながら、この異性化反応は完了には至らない。強塩基反応条件下での水の除去により、無水二次生成物が生成される(非特許文献6)。
【0017】
天然源からのルテインは通常、(3R、3´R)−ゼアキサンチンを伴い、必ず(3R、3´R、6´R)キラリティを有し、ルテインから調製されたゼアキサンチンは必ず(3R、3´S)キラリティを有し、これがイプシロン/ベータ配置の主な欠点であるが(特許文献6)、酸化工程における基質として使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6372946号
【特許文献2】米国特許第6376717号
【特許文献3】メキシコ特許出願第03009685号
【特許文献4】スペイン特許第2223270号
【特許文献5】米国特許第7291749号
【特許文献6】米国特許第6420614号
【特許文献7】米国特許第7150890号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.48,1150
【非特許文献2】J Nat Prod.,69,443
【非特許文献3】Chem Comm.49
【非特許文献4】J.Org.Chem.43,1599
【非特許文献5】J.Org.Chem.,32.180
【非特許文献6】Pure Appl.Chem.,74,1369
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、ゼアキサンチンのための保護基として、−O−Si(CH、−O−Si(CH−CH、−O−Si(イソプロピル)、−O−Si(CHCH(イソプロピル)、−O−Si(CH(tert−ブチル)、−O−Si(CH(n−ヘキシル)等のシリルエーテルの利用について記載する。これらの保護基は、加水分解によってヒドロキシル基に再度変換可能である。
【0021】
このような保護は、ヒドロキシル基の著しい酸化を回避するために必要である。続いて、シリル誘導体を、脱保護及び酸化のプロセスに供し、一段階手順でのこの脱保護及び酸化によって、触媒及び相間移動剤を使用する場合、アスタキサンチンは高い収率で生成される。
【0022】
好ましい酸化系の一部は、好ましい触媒及び相間移動剤の存在下のヨード安息香酸、過酸化ニッケル、ジョーンズ試薬、コリンズ試薬、ピリジニウムクロロクロメート(PCC)、ビピリジニウムクロロクロメート、ベンジル−トリメチル−アンモニウムクロロクロメート、ピリジニウムフルオロクロメート、ピリジニウムジクロメート、トリメチルシリルクロロクロメート、クロム酸、HOBr、HOCl、N−ブロモスクシンイミド、次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸tert−ブチル、次亜塩素酸ナトリウムまたはカルシウム、次亜塩素酸テトラブチルアンモニウム、N−クロロスクシンイミド、過塩素酸塩、臭素酸塩、塩素酸塩、ヨウ素酸塩及び過ヨウ素酸塩、二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、2,3−ジクロロ−5,6−ジ−シアノキノン、p−クロラニル、酸化銀、炭酸銀、四酢酸鉛、アルミニウムイソプロポキシド、過安息香酸及びそのハロゲン化誘導体等である。
【0023】
トリメチルシロキシ(TMS−O)基、トリエチル基、tert−ブチルジフェニル基、tert−ブチルジメチルシロキシ基及び市販の同等のシリル化混合物が、ゼアキサンチン中のヒドロキシル基の保護に好まれる。
【0024】
本プロセスは、極めて穏やかな反応条件下で行われ、温度は−30℃〜室温の範囲であり、またはロゲン化触媒、例えばヨウ素、臭素の塩、二酸化セレン、五酸化バナジウム、四酸化オスミウム、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸第二セリウム、四酸化ルテニウム、塩化ルテニウム(III)または同じく適当なこれらの混合物の存在下で行われる。
【0025】
本発明の基本的な目的は、ゼアキサンチンからアスタキサンチンを70%以上の収率で得るための手順を提供することによって、世界市場で現在流通しているものより経済的に入手しやすく品質が同じである生成物を得ることを可能とすることである。このようにして調製されたアスタキサンチンは、農業、養鶏業において、またヒトによる摂取のための栄養補助食品として、主にサケ科の魚、甲殻類及びその他の水生種の着色において有用である。
【0026】
本発明の別の目的は、イソゼアキサンチンを使用した場合に、幾つかのオキシカロテノイド、例えばアドニキサンチン、β−クリプトキサンチン及びカンタキサンチンを得るための手順を提供することである。
【0027】
スキーム1は、ヒドロキシル基を保護する場合にどのようにしてゼアキサンチンからアスタキサンチンへと変換されるかを示す。
【0028】
【化1】

【発明を実施するための形態】
【0029】
使用するゼアキサンチンは純度100%または90%を超えるゼアキサンチンを含有する、濃縮物1kg当たり400gを超えるカロテノイドを含有する生成物の形態であり得る。これらは通常、天然源由来であることから、色素は、プロセス全体に差し障ることのない脂っぽいマトリックス状であることが多い。
【0030】
第1段階において、ゼアキサンチンを溶媒に溶解させる。溶媒は好ましくはピリジンであるが、ハロゲン化溶媒、例えば塩化メチレン、四塩化炭素及びクロロホルムも適している。
【0031】
ゼアキサンチンが一旦溶解したら、このカロテノイドをトリメチルクロロシランまたはいずれの市販のシリル化混合物と室温で反応させる。反応終了後、ゼアキサンチントリメチルシリルエーテルを含有する混合物を最初と同じ条件下で維持し、脱保護及び酸化のプロセスを継続する。最低量の触媒を前出の反応からの混合物に添加し、次に好ましい酸化剤であるピリジニウムクロロクロメートを添加する。
【0032】
反応の進行状況をTLCで監視し、反応が一旦終了したら(ゼアキサンチントリメチルシリルエーテルの完全な消失によって証明される)、有機相のデカンテーションを行い、次に真空蒸発による溶媒の回収に進む。
【0033】
アスタキサンチンを含有する固形残留物を再度エタノールに溶解させ、蒸発させる。これには2つの目的があって、その他の揮発性残留物を除去することと、アルコールを回収しながらcis異性体を最小限に抑えることを目的としたカロテノイドのcis−trans熱異性化を行うことである。このようにして、アスタキサンチンの様々な幾何異性体間の一定の割合も確保される。
【0034】
ゼアキサンチンは、溶媒100重量部に対してカロテノイド1部の割合で溶媒に溶解させられるが、キサントフィル1部に対して20〜50部の溶媒の使用が好ましい。
【0035】
大気条件下または酸素不在下に関係なく内部大気の制御が可能となるように、色素と溶媒との混合物を封止した反応器内でしっかりと振盪する。プロセスの温度は−30℃〜室温または15〜15℃に維持されるが、そのヒドロキシル基保護段階及びその酸化段階の両方において0〜10℃でプロセスを行うことが好ましい。
【0036】
触媒は、色素の0.1〜2重量%の範囲の量で使用されるが、0.5〜1.0%を事前に溶媒の一部に溶解させて使用するのが好ましい。
【0037】
酸化剤の場合、ゼアキサンチン1部当たり最高10部の酸化剤を使用してきたが、カロテノイド1部当たり3〜5部の酸化剤を使用することが好ましい。
【0038】
相間移動剤は、キサントフィルの0.01〜1重量%の範囲の量で使用される。
【0039】
ヒドロキシル基保護段階及び酸化段階は共に15分〜5時間の反応で行われるが、好適な条件下、1〜3時間で行うことも可能である。保護剤またはシリル化剤を、ゼアキサンチン1部当たり10部の量で使用するが、3〜6部の使用が好ましい。
【0040】
以下で様々な実施例を挙げて記載のプロセスについて説明するが、これらの実施例は発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0041】
実施例1:
18gのゼアキサンチンを、750mlのクロロホルム中に分散させ、続いて1gの臭化テトラブチルアンモニウムを、250mlの脱イオン水中の13gの臭素酸ナトリウム及び0.5gの塩化ルテニウム(III)から調製した溶液に添加し、pHを2.5に調節した。この混合物を20℃で撹拌し、反応は120分後に終了した。暗赤色の反応混合物を飽和炭酸ナトリウム水溶液、次に20%亜硫酸塩水溶液で処理した。
【0042】
有機相のデカンテーションを行い、まず2%の重炭酸塩水溶液、続いて脱イオン水で2回洗浄する。100mgのα−トコフェノール、50mgのBHT及び100mlの大豆油をこの有機相に添加し、次に蒸発により溶媒及び1kg当たり50gの色素を含有するアスタキサンチン油懸濁液を回収する。
【0043】
この懸濁液をUltra Turrax(IKA T−25)ホモジナイザを使用して均質化することによって、サケ科の魚及び甲殻類の飼料への配合に絶好の0.2〜2ミクロンのキサントフィル結晶分布サイズを得る。
【0044】
実施例2:
室温の500mlのピリジンを、機械撹拌装置を備えた1Lガラス反応器に装入し、次に10gのゼアキサンチンを添加する。この混合物を、均質になるまでしっかりと振盪する。混合物の温度を20℃に調節し、次に15mlのtert−ブチルジメチルシリルクロリド溶液を添加する。5時間にわたる反応後、ピリジンに溶解させた250mgの金属ヨウ素を、振盪を継続しながら添加する。8gのピリジニウムクロロクロメートをゆっくりと添加し、反応を更に2時間にわたって継続する。TLCがゼアキサンチンを検出しなくなれば反応は完了したと考えられ、有機相のデカンテーションを行う。固形残留物を50mlの追加のピリジンで洗浄し、洗浄後にデカンテーションを行い、残留固形物を廃棄する。
【0045】
有機相を蒸発させて溶媒を回収し、次にピリジンが10%未満だとしても100mlのエタノールを残留物に添加し、蒸発をほぼ乾燥するまで継続する。次に、残留物を、pH4.5にまで酢酸で酸性化させた300mlの40℃の水で洗浄し、洗浄水を廃棄する。追加の洗浄を行い、再度洗浄液を廃棄する。
【0046】
得られた固形物は約6.1gのアスタキサンチンを含有し、150mgのBHTを添加した200mlの赤オレインと混合され、結晶サイズ分布0.2〜2.0ミクロンが得られるまで粉砕される(IKAコロイドミル、MK2000)。得られた懸濁液を、Ultra Turraxホモジナイザ(IKA Ultra Turrax T−25)を使用して均質化する。
【0047】
実施例3:
マリーゴールドのルテインに関する公表済みの異性化方法で得られた生成物を、出願人が特許を付与された方法(特許文献7)を使用して、カロテノイドが合計600gで、そのうちの98%がゼアキサンチンである濃縮物が得られるまで精製する。
【0048】
このようにして得られた材料を実施例2に記載のプロセスに供し、最終的に7.3gのアスタキサンチンを得る。これは最初のカロテノイド総量に対して約66%の収率である。加えて、少量のアドニキサンチン及びβ−クリプトキサンチンが得られる。
【0049】
実施例4:
5.8gの合成ゼアキサンチンを1.0Lの塩化メチレンに室温で溶解させ、次に25mlのトリメチルクロロシランを添加する。2時間にわたる反応後、同じ溶媒に溶解させた50mgのヨウ素を添加し、しっかりと振盪を継続する。
【0050】
4gのピリジニウムジクロメートを100mlの水に溶解させ、前出の混合物に添加する。次に、ゼアキサンチンが完全に消失するまで(TLCで監視する)5%の酢酸溶液をゆっくりと添加する。
【0051】
反応が一旦終了したら、有機相を分離し、次にまず200mlの10%のチオ硫酸ナトリウム水溶液、次に200mlの水で洗浄する。溶媒を回収し、残留物を再度エタノールに溶解させ、またアルコールを回収しながら熱異性化に供する。最終残留物は約4.1gのアスタキサンチンを含有し、これは70%近い収率を表す。
【0052】
実施例5:
濃縮物1kg当たり700gのカロテノイドを含有する(そのうちの95%がゼアキサンチン)黄トウモロコシキサントフィルの15gの精製濃縮物を、1.0Lのクロロホルムに溶解させる。混合物の温度を調節し、次に50mlのtert−ブチルジフェニルシリルクロリドを添加する。ヒドロキシル基保護反応を5時間に延長し、次に100mgの塩化ルテニウム(III)を、振盪を継続しながら添加する。次に、25gのビピリジニウムクロロクロメートを添加し、ゼアキサンチンが完全に消失するまで同じ反応温度を維持する。反応器は全プロセスにわたって不活性雰囲気中に維持されている。200mlの軟水で洗浄し、水相を廃棄し、次に有機相を200mlの15%のチオ硫酸ナトリウム水溶液で処理することによって第1洗浄を行う。洗浄水の廃棄後、再度200mlの2%の重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、洗浄水を廃棄し、続いて最後にもう1度同じ条件下、ただし今回は水だけで洗浄を行う。洗浄は全て室温で行われる。
【0053】
溶媒を回収し、残留物を前出の実施例に記載の熱異性化に供することによって最終的に7gのアスタキサンチンを得る。これは約70%の収率に対応する。
【0054】
実施例6:
室温の500mlのピリジンを、機械撹拌装置を備えた1Lガラス反応器に装入し、次に10gのイソゼアキサンチンを添加する。この混合物を、均質になるまでしっかりと振盪し、次にピリジンに溶解させた250mgの金属ヨウ素を、振盪を継続しながら添加する。20gのピリジニウムクロロクロメートをゆっくりと添加し、反応を更に2時間にわたって継続する。TLCがイソゼアキサンチンを検出しなくなれば反応は完了したと考えられ、有機相のデカンテーションを行う。固形残留物を50mlの追加のピリジンで洗浄し、洗浄後にデカンテーションを行い、残留固形物を廃棄する。
【0055】
有機相を蒸発させて溶媒を回収し、次にピリジンが10%未満だとしても100mlのエタノールを残留物に添加し、蒸発をほぼ乾燥するまで継続する。次に、残留物を300mlの40℃の水で洗浄し、洗浄水を廃棄する。追加の洗浄を行い、再度洗浄液を廃棄する。得られた固形物は約6.1gのカンタキサンチンを含有する。
【0056】
実施例7:
室温の800mlのジクロロメタンを、機械撹拌装置を備えた2Lガラス反応器に装入し、次に20gのゼアキサンチンを添加する。この混合物を、分散が完了するまでしっかりと振盪し、次に同じ溶媒に溶解させた50mgの四酸化オスミウムを、振盪を継続しながら添加する。14.5gの臭素酸カリウムを300mlの水に溶解させ、反応器内に加え、次に混合温度を10℃に調節する。相間移動剤セチルトリメチルアンモニウムブロミドの使用によって、親水性酸化剤と、塩化メチレンに溶解させた親油性カロテノイドゼアキサンチンとを接触させた。硫酸25%の溶液を、TLCがゼアキサンチンを検出しなくなるまでシリンジで滴加した。赤みがかったこの反応混合物を飽和炭酸ナトリウム水溶液、次に20%の亜硫酸塩水溶液で処理した。
【0057】
反応が終了したと考えられたら、有機相のデカンテーションを行う。固形残留物を50mlの追加のジクロロメタンで洗浄し、洗浄後にデカンテーションを行い、残留固形物を廃棄する。
【0058】
有機相を蒸発させて溶媒を回収し、次にジクロロメタンが10%未満だとしても100mlのエタノールを残留物に添加し、蒸発をほぼ乾燥するまで継続する。次に、残留物を、300mlの40℃の水で洗浄し、洗浄水を廃棄する。追加の洗浄を行い、再度洗浄液を廃棄する。得られた固形物は約12gのアスタキサンチンを含有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンをゼアキサンチンから調製する方法であって、
ゼアキサンチンのヒドロキシル基の保護体を使用し、後に酸化剤、触媒及び相間移動剤を添加し、これらの脱保護及び酸化を一段階手順で同時に行うことによってアスタキサンチンを得る
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ゼアキサンチンが、合成、天然または半合成由来である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ゼアキサンチンのヒドロキシル基のための保護基がシリルエーテルである
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
保護基が、シリル誘導体、例えばトリエチルジフェニルシロキシ、tert−ブチルジフェニルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ、トリメチルシロキシまたはこれらと同様のものまたはこれらの混合物である
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
酸化剤が、ヨード安息香酸、過酸化ニッケル、ジョーンズ試薬、コリンズ試薬、ピリジニウムクロロクロメート(PCC)、ビピリジニウムクロロクロメート、ベンジル−トリメチル−アンモニウムクロロクロメート、ピリジニウムフルオロクロメート、ピリジニウムジクロメート、トリメチルシリルクロロクロメート、クロム酸、ハイポハロゲン酸、N−ブロモスクシンイミド、次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸tert−ブチル、次亜塩素酸ナトリウムまたはカルシウム、次亜塩素酸テトラブチルアンモニウム、N−クロロスクシンイミド、過塩素酸塩、臭素酸塩、塩素酸塩、ヨウ素酸塩及び過ヨウ素酸塩、二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、2,3−ジクロロ−5,6−ジ−シアノキノン、p−クロラニル、酸化銀、炭酸銀、四酢酸鉛、アルミニウムイソプロポキシド、過安息香酸及びそのハロゲン化誘導体から選択される
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
触媒が、ハロゲン化触媒、好ましくは、ヨウ素、臭素の塩、塩化第二鉄、二酸化セレン、五酸化バナジウム、四酸化オスミウム、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸第二セリウム、四酸化ルテニウム、塩化ルテニウム(III)またはこれらの混合物から選択される
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
相間移動剤が、四級アンモニウム塩、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド、同様の四級ホスホニウム塩、スルホニウム塩またはこれらの混合物を含む
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒が、ピリジンであり、ハロゲン化炭化水素、好ましくは、四塩化炭素、塩化メチレン及びクロロホルムを使用し得る
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
酢酸、水またはアセトニトリル等の共溶媒を使用可能であり、ベンゼン及びそのハロゲン化誘導体またはその混合物が含まれる
請求項1または8に記載の方法。
【請求項10】
シリル化剤を、ゼアキサンチン1部当たり10部の割合、好ましくはゼアキサンチン1部当たり4〜6部の割合で使用する
請求項1、3、4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酸化剤を、ゼアキサンチンを含有する基質1部当たり3〜5部の割合、好ましくは、ゼアキサンチン1部当たり0.5〜2部使用する
請求項1または5に記載の方法。
【請求項12】
ゼアキサンチンのヒドロキシル基を保護するための反応の温度が、−30〜30℃、好ましくは−15〜15℃、より好ましくは0〜10℃である
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
反応時間が15分〜24時間、好ましくは8〜18時間、より好ましくは2〜5時間である
請求項1または12に記載の方法。
【請求項14】
ゼアキサンチンの脱保護及び酸化のための反応の温度が、−30〜30℃、好ましくは−15〜15℃、より好ましくは0〜10℃である
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
脱保護及び酸化の時間が15分〜24時間、好ましくは8〜18時間、より好ましくは2〜5時間である
請求項1、12、13、14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
得られたアスタキサンチンを、極性溶媒の存在下での熱異性化のプロセスに供する
請求項1に記載の方法。
【請求項17】
酸化基質としてイソゼアキサンチンを使用しカンタキサンチンを得る
請求項1に記載の方法。
【請求項18】
異性化の温度が40〜70℃である
請求項1または16に記載の方法。
【請求項19】
極性溶液が、C2〜C5アルコールまたはケトン、好ましくはアセトンである
請求項1または16に記載の方法。
【請求項20】
大気条件または不活性雰囲気中で実行可能である
請求項1に記載の方法。
【請求項21】
得られたアスタキサンチンを、サケ科の魚、甲殻類及び鳥の着色に利用し得る
請求項1に記載の方法。
【請求項22】
得られたアスタキサンチンを、サケ科の魚、甲殻類及び鳥において抗酸化剤及び免疫賦活剤として使用し得る
請求項1に記載の方法。
【請求項23】
得られたアスタキサンチンを、ヒトが摂取するための栄養補助食品として使用し得る
請求項1に記載の方法。
【請求項24】
得られたアスタキサンチンを、ペット用飼料の配合に使用し得る
請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2012−509307(P2012−509307A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536957(P2011−536957)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003141
【国際公開番号】WO2010/058235
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511121218)インノバ アンディナ エス.エー. (1)
【氏名又は名称原語表記】INNOVA ANDINA S.A.
【Fターム(参考)】