説明

オクラの莢から単離したペクチンの多糖類

本発明はオクラの実の莢から高分子量のペクチン様多糖類を製造する方法に関する。当該高分子ペクチン様多糖類は、緩衝液に溶解すると粘弾性特性を示し、眼科手術、皮膚科および整形外科のような応用面で非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の分野)
本発明は高分子量多糖類を製造する方法に関する。本発明は更に眼科手術、皮膚科および整形外科における前記多糖類の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
ビスコサージャリーは、壊れやすい組織を保護、取扱および分離するための手術用装備または移植片として外科処置を補助するのに粘弾性液(または粘弾性物(viscoelastics))が使用される手術を表すのにしばしば使われる用語である。粘弾性物という用語は非常に幅広く、眼科、皮膚科および整形外科におけるような応用のための物質が含まれる。
【0003】
オフサルミックビスコサージカルデバイス(OVDs)は通常眼科学で使用される粘弾性液体のための好まれる専門用語である(Arshinoff S.,“New terminology:Ophthalmic viscosurgical devices”、J.Cataract Refract Surg(2000)26:627〜628。OVDsは通常様々な異なる眼科手術、特に白内障手術および眼球内レンズの移植に使用される。
【0004】
眼のレンズの混濁は、老人で一般的に進行する白内障を引き起こす。白内障手術は一般的に眼のレンズの除去が含まれる。当該手術にOVDsを用いる主な目的は深前房を維持し、角膜内皮を保護し、そして手術処置を容易にするのが主な目的である。当該内皮を保護するため、粘弾性デバイスは良好な皮膜性を有せねばならない。更に、当該粘弾性物質は視覚化を妨げないために透明でなければならない。炎症反応を避け、眼球内圧の許されない増加を避けるため、当該物質に毒性がないことが非常に重要なことである。
【0005】
望ましい粘弾性物質は比較的注入が容易なものである。レオロジー的な性質の疑似塑性は注入の容易さに影響する。疑似塑性材料の粘度はせん断速度が増すに従い減少する。高せん断速度で高粘度でありすぎると、当該粘弾性物質は注入が難しくなる。加えて、当該手術器具は手術においてOVD中で容易に作動しない。望ましい粘弾性物質は眼の内外で器具の操作、眼球内レンズ(IOL)の注入および配置を妨害しない。そこで、最も適した物質は高せん断速度にては低粘度を有する。
【0006】
手術において、当該粘弾性物は切り込みから漏れ出てはならず、好ましくは当該物質が手術の異なる工程、特に前房が陽圧である場合に保持される。水晶体超音波乳化吸引術の間で保持に影響するパラメーターは凝集性である。凝集性生成物は簡単に吸引されるので、手術の間に眼の中に維持するのはより難しいはずである。分散性生成物はよりよく保持されるが、除去する際には難しさが生じる。望ましいのは、粘弾性物質が簡単に除去されることである(H.B.Dick,O.Schwenn“Viscoelastics in ophthalmic surgery”(2000),Springer−Verlag Berlin Heidelberg New Yorkを参照)。
【0007】
様々な重合体組成物の粘性物質が動物およびヒトの眼には以前から使用され、前房深を維持する目的に供された。MeyerとPalmerは硝子体液からヒアルロン酸を1934年に単離した。科学者のEndre Balazsはヒアルロン酸が人工的水晶体の開発において理想的な物質であることを見出し、この発見が最終的に前眼部手術においてヒアルロン酸の実装を導いた(上記H.B.Dick等を参照)。OVDsとして使用する異なる粘弾性物質がある。よく通常に使用されているのは、以下の物質である:ヒアルロン酸ナトリウム(NaHa)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。
【0008】
ヒアルロナンまたはヒアルロン酸とも呼ばれるヒアルロネートは、直線的なポリアニオン性のペクチン様多糖類分子でほぼすべての脊椎動物の結合組織に見いだされる。当該分子はグルクロン酸およびN−アセチル−D−グルコサミンからなる。これはプロトン化した酸の形ではなくほぼ通常的にポリアニオンとして存在するので、ヒアルロネートと呼ばれる。ヒアルロネートは広く脊椎動物中に分布し、ある種の細菌株の細胞壁の成分である。眼の中には高濃度のNaHaがある。NaHaは体中で完全に代謝され、前房中に残存する少量も眼科手術後には体中で分解される。NaHaの最も重要な機能は細胞と組織の安定化、衝撃吸収および胚発生における使用である(上記H.B.Dick等およびT.C.Laurent“The chemistry,Biology and medical applications of hyaluronan and its derivatives”,Wenner−Gren international series,vol.72,1990参照。現在ヒアルロン酸(HA)の抽出のための種々な既存の方法および起源がある。
【0009】
高分子量のヒアルロン酸は現在市販され、通常は鶏のトサカから抽出される。高分子量のヒアルロナンについて動物組織からの他の起源には臍帯、硝子体液および滑液のように幾つかある。研究の結果は異なる起源から単離したNaHaは異なる不純物を含有していることを示す。臍帯およびウシ硝子体液からのNaHaは鶏のトサカからのNaHaより高い核酸およびタンパク質の含量を有する(Shiedlin等,“Evaluation of hyaluronan from different sources:Streptococcus zooepidemicus、rooster comb,bovine vitreous and human umbilical cord”,Biomacromolecules 2004 5(6):2122〜7)。しかしながら、医療的応用における動物由来に関する1つの問題は炎症反応を生じる危険性である。現在、市場は鳥インフルエンザを高い可能性のある脅威であると考えている。更に、動物起源を公然と使用するには倫理的側面で複雑である。
【0010】
溶血性streptococci AとBおよびbacillus subtilusはヒアルロネートを製造するために商業的に使用されている細菌である(WO 2005098016およびUS 4141973参照)。streptococciおよびbacillus subtilusの発酵によりNaHaを製造すると、当該分子量は鶏のトサカからの抽出物と比較して相当低い。更に、核酸およびタンパク質の含量は鶏のトサカから単離したNaHaより高い。
【0011】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMCはヒアルロン酸の代替物である。本来メチルセルロースは例えば綿および木材に広く分布しているが、動物やヒトには存在しない。ヒドロキシプロピルメチルセルロースはメチルセルロースから製造される。HPMCはグルコースの長鎖からなり、そのヒドロキシ基はメトキシ−およびヒドロキシプロピル側鎖で置換されている。HPMCは動物やヒトには存在していないので、それは生理的なものではないことを意味している。従って、倫理的側面は動物起源が使用されるときと比べて問題でない。しかしながら、HPMCが眼科用粘弾性デバイスとして使用される際の一つの問題は前房において完全には代謝されないことである。更に、HPMCにおける植物繊維は炎症性反応を生じる可能性がある。加えて、HPMCの疑似塑性はヒアルロン酸ナトリウムの生成物の多くにおけるより顕著に低い。概して、せん断速度0における粘度はヒアルロン酸に基づく生成物がHPMCに基づく生成物より数倍大きい。更に、ヒアルロン酸に基づく生成物の分子量はHPMCの分子量より顕著に高い。手術後に粘弾性生成物の除去、特にHPMCを吸引する際に難しさが生じる。
【0012】
結論として、眼科、皮膚科および整形外科において上記の問題を起こさない代替粘弾性物質についての必要性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
(本発明の概要)
そこで、本発明の目的は粘弾性物質を製造する方法を提供してこの必要性を満足させることである。
【0014】
本発明の他の目的は、粘弾性組成物を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は眼科、皮膚科および整形外科で使用する粘弾性組成物を提供することである。
【0016】
本発明のこれらおよび他の目的は添付請求項にて請求するような本発明の態様を満足させることである。そこで、最初の態様では、本発明はオクラの実の莢からペクチン様多糖類を製造する方法を提供するが、これは:
a)オクラの実の莢を細かく分割し、
b)分割した実の莢および水性抽出媒体の混合物を調製し、前記混合物は4から12の範囲内のpHを有し、
c)当該分割した実の莢から当該抽出媒体へペクチン様多糖類の抽出が生じるのに十分な時間、当該水性混合物を放置させ、
d)当該水性混合物から当該分割した実の莢を分離してペクチン様多糖類の水性抽出物を形成させ、
e)当該抽出物に塩を添加し、
f)ろ過材を通して当該抽出物をろ過し、及び、
g)当該ろ過抽出物から水混和性有機溶媒によりペクチン様多糖類を沈殿させてペクチン様多糖類の沈殿を形成させ、前記沈殿操作は場合により1回以上の繰り返す、
ことを含んでいる。
【0017】
当該方法は工程をいずれの順番で行ってもよい。好ましくは、当該方法はa)からg)を連続的順番で実施する。
【0018】
当該方法が連続的に行う場合、工程d)の後に工程d)で分離したオクラの実の莢を用いて1回以上工程b)〜d)を繰り返してもよく、工程d)で得られた2つ以上の水性抽出物は工程e)の前で混合することができる。
【0019】
オクラからのペクチン様多糖類の抽出と精製用には異なる方法が存在する。例えば、US 4154822は植物組織からの多糖類材料の抽出、精製および沈殿についての方法を記載しており、均一化、数工程の遠心分離、透析および段階的沈殿操作を含んでいる。US 6124248では、分類学上のMalvaceae科からの種のような粘液質植物からの粘液を抽出する方法が記載されている。当該粘液は潤滑剤および/または冷却剤として使用する。当該方法は数回の抽出循環に基づき、更なる沈殿の工程はない。しかしながら、これらの方法は本発明による方法よりは面倒である。更に、それらはより経費がかかり、収率がより低くなる。加えて、高速度および500℃のような高温での遠心分離工程を含むこれまでの方法は粘弾性特性の面を失う危険性が含まれる。本発明による方法はこれらの問題を解決する。
【0020】
本発明の他の態様によれば、ペクチン様多糖類の構造→2−α−L−Rha−(1→4)−α−D−GalAiv−(1→2)[β−D−Galvi−(1→4)−β−D−Gal−(1→4)]α−L−Rhaiii−(1→4)−α−D−GalAii−(1→で、1.5EU/ml未満のエンドトキシンのレベルを有するペクチン様多糖類が提供される。
【0021】
オクラは普通名詞Abelmoschus Esculentus(Hibiscus Esculentusと同義語)である。他の普通名詞はレディーズフィンガー、オクラまたはビンディである。オクラはMalvaceae科に属する。当該植物の花はハイビスカス様で、開花したあと食用になる莢が形成される。オクラの実は5角形、小さく、円筒状莢、2〜12インチで粘性物質を含有する。その粘液は通常料理において増粘剤として使用される。オクラの料理での使用は医療分野とともに長い歴史がある。
【0022】
オクラの実の莢の粘液から単離したペクチン様多糖類は生理的緩衝液に溶かすと粘弾性物質として使用するのに適した粘弾性特性を有することを、本発明者は見出した。
【0023】
用語「生理的緩衝液」は緩衝溶液または少量の酸または塩基の添加あるいは希釈におけるヒドロニウムイオンおよび水酸化物イオン濃度(および結局はpH)の変化に抵抗する溶液に関する。当該緩衝溶液には、これに限らないが、リン酸緩衝液、カリウム緩衝液、酢酸およびカルシウム緩衝液が含まれる。
【0024】
本発明の中で生理的緩衝液として使用できる幾つかの溶液は、当技術分野の当事者であれば知っている。
【0025】
更に、本発明の発明者は生理的緩衝液に溶解したオクラからのペクチン様多糖類のレオロジー的特性はHPMCよりもヒアルロン酸のレオロジー的特性を呈することを見出した。
【0026】
更に他の態様によれば、上で言及した構造のペクチン様多糖類および水および/または生理的緩衝液を含む医薬用組成物提供する。
【0027】
本発明のペクチン様多糖類は薬剤としても使用可能である。
【0028】
本発明は、白内障のような眼科の疾患、整形外科の疾患および皮膚科の疾患の手術による治療用の医薬組成物製造のための前記ペクチン様多糖類の使用にも関する。
【0029】
更に、本発明は上記疾患の治療方法に関する。
【0030】
「治療」は疾患の症状を軽減、または例えば粘弾性生成物の手術への使用において手術を容易にするいずれの治療も意味する。
【0031】
本発明のペクチン様多糖類は整形外科手術、皮膚科または薬物送達にも使用できる。
【0032】
本発明はまた化粧品、即ち非医療目的での応用におけるペクチン様多糖類の使用に関する。
【0033】
更に他の態様では、本発明は粘性医薬用組成物の製造のための方法に関する。
【0034】
当該粘弾性は主に当生成物の高分子量によってきまる。当該粘弾性特性が溶解したペクチン様多糖類を、例えば眼科、整形外科および皮膚科で使用するのに適したものにする。望ましい粘弾性特性を得るために当該分子量は少なくとも1×10Daでなければならない。本発明のペクチン様多糖類はこの基準を満足させる。
【0035】
本発明の将来的および他の態様は以下の詳細な説明から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0036】
(本発明の詳細な説明)
以降はペクチン様多糖類と称する本物質は、天然に生じる高分子のペクチン様多糖類でガラクトースとラムノースからなる。ペクチン様多糖類はオクラの実の莢中に見いだされる。当該物質は実の組織から抽出され、精製される。当該物質は安定で生理的食塩水に容易に溶解する。当該ペクチン様多糖類の分子量は10Da程度であると報告されている(心拍出量の亢進用の多糖類、US 4154822)。以下に記載する方法によれば、少なくとも1×10Da、好ましくは1.5×10〜6.5×10Daの分子量が水抽出でオクラの実の莢から得られる。
【0037】
抽出媒体のpHはペクチン様多糖類の収率に影響する。アルカリ条件側のpHがより高い収率を生じる。あまりに高いpHではペクチン様多糖類を分解するので、生成物の分子量にも影響を与える。抽出の媒体のpHは4〜12の間隔にすべきである。好ましくは、当該pHは6〜12または8〜12あるいは10〜12の間である。当該抽出媒体のアルカリ性は種々のアルカリ性物質、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのような無機アルカリ類または有機塩基が含まれる。アルカリ性物質の混合物であっても使用できる。
【0038】
抽出の温度は抽出の時間に影響する。抽出の温度範囲は15〜40℃内である。19〜21℃が抽出に好ましい温度範囲である。
【0039】
当該抽出を実施するのに必要な時間はpH、温度、時間および実の莢組織の性質などの因子に依存する。オクラの薄片からのペクチン様多糖類の拡散が制限因子と思われる。そこで当該実の莢組織の大きさと厚さが決定的に重要である。抽出前のオクラ実の莢の薄片化が相当重要である。薄片が厚いほど抽出の時間が長くなる。オクラ実の薄片の抽出の時間は4〜48時間、好ましくは6〜24時間の範囲が良い。オクラ1〜3mm厚さである実薄片の抽出の好ましい時間は24時間である。しかしながら、6時間のような短時間でも非常に良好な結果を生じた。
【0040】
抽出の効率はpH、時間、実の材料と抽出媒体の比、攪拌力および液体と組織の比のような幾つかの因子に依存する。1回または2回抽出の工程を繰り返すことにより、できる限りの高い収率を得ることが可能である。好ましくは、当該抽出は少なくとも1回繰り返す。更に、抽出中はゆっくりとした混合が好ましい。
【0041】
攪拌の速度は好ましくは少なくとも2rpmである。
【0042】
抽出液体の実組織との比の選択に関して、含まれる幾つかの重要な態様がある。抽出液の量は実の莢の全ての薄片を覆わなければならない。液体の量はペクチン様多糖類が低濃度になるのであまり多くてもいけない。抽出物低濃度では沈殿させるのに多くの溶液量が必要となる。
【0043】
そこで、オクラの実の莢と水系抽出媒体の間の比は1:1〜1:8の範囲内がよい。
【0044】
当該抽出物はろ過材を通過させて精製する。好ましくはセルロース系ろ過材を通してろ過して行う。当該ろ過材は好ましくは0.5ミクロン、好ましくは0.22ミクロン以下の網目サイズを有する。これが低いエンドトキシンを伴う発明のペクチン様多糖類を提供する。更に、当該多糖類組成物は澄んだ透明な溶液を与え、眼科手術で使用するのに適している。
【0045】
当該ペクチン様多糖類の沈殿は水に可溶な溶媒で、アセトン、エタノール、イソプロパノールなどのようなもので行われる。沈殿は酢酸、塩酸、硫酸などのような酸、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カリウムなどのような塩の存在で行うことができる。当該塩を少なくとも0.5%(w/v)の量で添加する。ペクチン様多糖類およびその塩の沈殿物は通常繊維形または粉末である。当該生成物を洗浄するには沈殿で使用したのと同じ溶媒が使用できる。当該生成物を溶解しない他の溶媒は洗浄に使用することができる。
【0046】
洗浄後、当該生成物はエタノール、アセトンなどのような有機溶媒中に保存できる。当該洗浄した生成物は、例えば真空乾燥機またはデシケーター中で乾燥もできる。
【0047】
本発明による多糖類は水または生理的緩衝液中に溶解すると本質的に透明な溶液を提供する。これは当該多糖類をOVDとして使用するときに、眼中の手術において何が起きるか医者が目で見ながら行うことが必要なので非常に重要である。
【0048】
ペクチン様多糖類および水を含んでいる医薬用組成物は容易に調製できる。それは生理緩衝液も含有することができる。
【0049】
更に、当該医薬用組成物は0.1〜20%のペクチン様多糖類を含むことができる。それは1.0m/kg(1.0×10Daの分子量に相当する)より大きな固有粘度ηを有するであろう。
【0050】
加えて、上で説明したペクチン様多糖類はいかなる眼科疾患の手術による治療にも使用できるであろう。当該眼科疾患は白内障であってもよい。
【0051】
当該医薬用組成物はオフサルミックビスコサージカルデバイス(OVD)として使用もできる。ペクチン様多糖類の高粘度および高純度は、当該ペクチン様多糖類が動物起源ではないことおよびそれにより患者において炎症性反応を起こしにくいことと組合さって、ペクチン様多糖類がOVDとして使用するのに適することになる。
【0052】
更に、当該ペクチン様多糖類は整形外科の手術或いは薬物送達において使用することもできる。上で述べたペクチン様多糖類が高粘度と高純度なので、当該発明の多糖類が当該使用に適するようになるが、それは実施例にてより詳細に説明する。
【0053】
当該ペクチン様多糖類または当該医薬用組成物は、皮膚科疾患の手術での治療のような皮膚科での応用で使用することができる。
【0054】
当該ペクチン多糖類は、例えばシワの軽減およびシワをのばす目的の化粧品への応用にても使用することができる。当該応用は非医療分野である。
【0055】
当該ペクチン様多糖類を化粧品への応用で使用すると、化粧品処方または製品の形では、例えばフェイシャルローションの形をとる。
【0056】
また当該ペクチン様多糖類は、例えば注射器を用いた投与のように皮下投与用に処方される。
【0057】
当該組成物またはペクチン様多糖類は関節を侵す疾患の治療用の方法において、当該治療が必要なヒトまたは動物に当該ペクチン様多糖類、または医薬用組成物を治療的効果ある量で投与して使用することができる。治療効果ある量とは、患者を治療し、前記疾患や病気の患者の症候群を軽減するのに十分な量を意味する。
【0058】
当該組成物またはペクチン様多糖類は、皮膚科学的または外見上の傷害の治療における方法でも、当該治療を必要とするヒトまたは動物にペクチン様多糖類を治療上効果的な量で投与する方法で用いることもできる。治療的に効果量とは患者を治療する、または前記疾患の患者症候群を軽減することを意味する。
【0059】
更に、当該ペクチン様多糖類は治療を必要とするヒトまたは動物に治療上効果的な量でペクチン様多糖類を投与して白内障を治療するための方法において使用できる。治療的に効果量とは患者を治療し、または前記疾患の患者症候群を軽減するのに十分な量を意味する。
【0060】
本発明によれば、粘性のある医薬用組成物を製造するための方法も提供するが、これには:
a)オクラの実の莢を細かく分割し、
b)当該分割した実の莢の水性混合物を調製し、前記混合物は4から12の範囲内のpHを有し、
c)当該分割した実の莢からペクチン様多糖類の抽出が生じるのに十分な時間、当該水性混合物を放置し、
d)当該水性混合物から当該分割した実の莢を分離してペクチン様多糖類の水性抽出物を形成させ、
e)当該抽出物に塩を添加し、
f)ろ過材を通して当該抽出物をろ過し、
g)当該ろ過抽出物から水混和性有機溶媒により前記ペクチン様多糖類を沈殿させてペクチン様多糖類の沈殿物を形成させ、前記沈殿操作は場合により1回以上繰り返し、及び、
h)前記ペクチン様多糖類の沈殿物を水および/または生理的緩衝液に溶解して粘性医薬用組成物を形成させる、
ことが含まれる。
【0061】
オクラの実の莢からペクチン様多糖類を製造するための方法と同じ条件、例えば、当該混合物のpHは好ましくは6から12、より好ましくは8から12、及び、かなり好ましくは10から12の範囲内のpHである、を上の方法に応用する。
【0062】
当該粘性の医薬用組成物は1.0m/kgより大きな固有粘度、ηを有するのが良い。
【0063】
一つの実施態様によれば、上記方法において当該粘性医薬用組成物はオフサルミックビスコサージカルデバイスである。
【0064】
NMR(1Dおよび2D)、元素分析およびHPLCによる糖分析により当該物質を同定した。
【0065】
ペクチン様多糖類は、KinberleyとBuchanan−Smith(Kimberley and Buchanan−Smith,“A colorimetric Method for the Quantification of Uronic Acids and a Specific Assay for Galacturonic acid”,Analytical Biochemistry 201,190−196(1992)に記載されているカルバゾール定量法で測定される。
【0066】
当該タンパク質含量はLowryのフェノール試薬法で定量される。
【0067】
無菌性はEuropean Pharmacopeia中の方法2.6.1で管理される。当該エンドトキシン値は同じように測定される。
【0068】
弾性係数G’および粘性係数G’’の測定によりレオロジー特性化が行われる。
【0069】
固有粘度は従来方法で測定される。
【0070】
精製した繊維は例えば生理食塩緩衝液の中に溶解する。当該物質は0.1%〜20%(v/v)の間の濃度で容易に溶解する。
【0071】
以下の実施例はオクラの実の莢からペクチン様多糖類を調製する好ましい方法および当該多糖類の応用について説明する。
【実施例】
【0072】
(例1)
オクラの実の莢を約2mmに薄く切る。純水中0.5M NaOHを5リットル加える。当該混合物を室温(20℃)でpH11にて24時間ゆっくりと攪伴する。残存実の組織はナイロン網を通すろ過により当該抽出物から分離する。当該抽出物は冷却室に4〜8℃の温度で保存する。
【0073】
当該ペクチン様多糖類含量は56.23%、タンパク質含量は0.016%および固有粘度は3.40m/kgである。
【0074】
二回目の抽出は同じオクラ実材料を用いて実施する。当該実組織に3リットルの精製水を加え、pHは11である。当該抽出時間は室温で緩やかに攪伴しながら24時間である。当該形成した抽出物は最初の抽出物と同じに処理する。当該ペクチン様多糖類含量は51.68%、タンパク質含量は<0.010mg/mgおよび当該固有粘度は4.26m/kgである。
【0075】
三回目の抽出は二回目と同じに行う。当該ペクチン様多糖類含量は47.56%、タンパク質含量<0.010mg/mgおよび当該固有粘度は4.01m/kgである。
【0076】
かくして得た三回の抽出物を一つの液にして、0.58%食塩を添加する。当該溶液は0.2μmセルロースろ過材を通してろ過する。
【0077】
当該ペクチン様多糖類をエタノールで沈殿させ、それにより白色糸状繊維質物質が生じる。そののち、当該繊維をエタノールおよびアセトンで洗浄する。
【0078】
当該繊維を真空乾燥機で48〜72時間乾燥する。
【0079】
当該乾燥繊維の全乾燥重量は10.72gである。最終的に当該繊維を分析すると、ペクチン様多糖類含量は58%で、固有粘度は4.42m/kgである。当該タンパク質含量は<0.10mg/mlである。
【0080】
(例2)
例2は、抽出中におけるpHの点を除き例1で記述した方法に従って行う。当該pHは酢酸で4〜5に調節する。
【0081】
当該繊維の全乾燥重量は9.773gである。最終的に当該繊維を分析するとペクチン様多糖類含量は57.05%で、タンパク質の含量は0.36mg/gおよび当該固有粘度は3.40m/kgである。
【0082】
(例3)
例3は、抽出中におけるpHの点を除き例1で記述した方法に従って行う。当該pHは酢酸で7〜8に調節する。
【0083】
当該繊維の全乾燥重量は5.070gである。最終的に当該繊維を分析するとペクチン様多糖類含量は48.10%で、タンパク質の含量は0.084mg/gおよび当該固有粘度は0.98m/kgである。
【0084】
【表1】

【0085】
表1では、pH11で最も高い分子量を与えることが明らかに見ることができる。
【0086】
要約すると、当該新方法はオクラ実の莢から高分子量のペクチン様多糖類を高収率で抽出および精製するための簡単で、改良された工程である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
(応用分野)
【0088】
(例4)
(眼科手術における粘弾性物質の利用)
眼科手術における粘弾性体の主な機能は前房を保持し、機械的負担から内皮を保護することである。理論的に、粘度が高ければ高いほど安静時の前房深度の維持がより良好である。オクラから抽出した物質は生理的な緩衝液に溶解すれば粘弾性組成物となる。眼科手術において、当該粘弾性組成物を必要とする病気のヒトまたは動物の深前房に注入する。当該溶液の効果量は通常0.55mlと0.85mlの間である。炎症反応を避けるために当該物質が無菌で無発熱物質であることは非常に重要である。そこで、当該組成物のエンドトキシンのレベルは1.5EU/ml未満である。
【0089】
(例5)
(皮膚科)
Hibiscus Esculentusからの抽出物は化粧品処方に応用されるとヒアルロン酸合成に対する促進剤として作用することが示された(JP2004051533 Hyaluronic Acid Synthesis Promoter)。ヒアルロン酸と同じように、オクラから抽出される粘弾性物質は皮膚科で応用できる。オクラの医薬組成物は抗シワの注射可能なゲルとして使用することができる。そこで当該組成物を患者の顔の皮下に効果量で注射して、目に見えるシワを低減させる。
【0090】
(例6)
(形成外科)
Hibiscus Esculentusから抽出した物質の粘弾性特性は当該治療を必要とする病気のヒトまたは動物に関する膝、腰または肩などの変形性関節炎の関節を滑らかにするために使用できた。生理的緩衝液に溶解して医薬組成物を形成させたオクラからのペクチン様多糖類を患者の侵襲された関節に注入する。当該組成物の膝に注入する量は約2mlである。
【0091】
(例7)
(薬物送達)
交差結合したヒアルロン酸は特に除放性薬物伝達である薬物伝達について使用される。当該活性薬剤は分子網中に捕らわれており、そこから処置したヒトまたは動物の体内にゆっくりと放出される。オクラから抽出されたペクチン様多糖類物質は分子網として活性薬剤をゆっくりと放出する機能が期待される。使用されるペクチン様多糖類の量は当技術分野の当事者であれば場合により決定できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)オクラの実の莢を細かく分割し、
b)前記分割した実の莢および水性抽出媒体の水性混合物を調製し、前記混合物は4から12の範囲内のpHを有し、
c)前記分割した実の莢から前記抽出媒体へペクチン様多糖類の抽出が生じるのに十分な時間、前記水性混合物を放置し、
d)前記水性混合物から前記分割した実の莢を分離してペクチン様多糖類の水性抽出物を形成させ、
e)前記抽出物に塩を添加し、
f)ろ過材を通して前記抽出物をろ過し、及び、
g)前記ろ過抽出物から水混和性有機溶媒により前記ペクチン様多糖類を沈殿させてペクチン様多糖類の沈殿物を形成させ、前記沈殿操作は場合により1回以上繰り返す、
ことを含む、オクラの実の莢からペクチン様多糖類を製造する方法。
【請求項2】
工程a)からg)を連続した順序で実施する、請求項1の方法。
【請求項3】
工程d)の後に、工程d)で分離したオクラの実の莢を用いて工程b)〜d)を1回またはそれ以上繰り返し、工程d)で得た2つまたはそれ以上の水性抽出物を工程e)実施前に混ぜ合わせる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ろ過材は0.5μm未満のメッシュサイズを有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ろ過材はセルロース系ろ過材である、請求項1〜4のいずれ1項に記載かの方法。
【請求項6】
前記濾過は≦0.22μmのメッシュサイズを有するセルロースろ過材で実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記実の莢と前記水性抽出媒体の重量比が1:1から1:8の範囲である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記抽出中において前記水性混合物を少なくとも2rpmの速度で攪伴する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記沈殿物を有機溶媒中で保存する工程を更に含む、請求項1〜8のいずれかの方法。
【請求項10】
前記沈殿物を乾燥する工程を更に含む、請求項1〜9のいずれかの方法。
【請求項11】
前記水性混合物のpHが8から12の範囲内である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性混合物のpHが10から12の範囲内である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抽出を4〜48時間実施する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記抽出中の温度が15から40℃の範囲内である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記塩を少なくとも0.5%(w/v)の量で添加する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記塩がアルカリ金属塩である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
構造が→2‐α‐L‐Rha‐(1→4)‐α‐D‐GalAiv‐(1→2)[β‐D‐Galvi‐(1→4)‐β‐D‐Gal‐(1→4)]α‐L‐Rhaiii‐(1→4)‐α‐D‐GalAii(1→、であるペクチン様多糖類であって、1.5EU/ml未満のエンドトキシンのレベルを有するペクチン様多糖類。
【請求項18】
少なくとも1×10Daの平均分子量を有する、請求項17に記載のペクチン様多糖類。
【請求項19】
水または生理的緩衝液に溶解すると本質的に透明な溶液を与える、請求項17または18に記載のペクチン様多糖類。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類および水を含んでいる医薬用組成物。
【請求項21】
請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類および生理的緩衝液を含む医薬用組成物。
【請求項22】
0.1〜20%のペクチン様多糖類を含む、請求項20または21に記載の医薬用組成物。
【請求項23】
1.0m/kgより大きな固有粘度ηを有する、請求項20〜22のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項24】
薬剤として使用する、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類。
【請求項25】
眼科疾患の手術による治療用の医薬組成物の製造のための、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項26】
前記眼科疾患が白内障である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
整形外科疾患の手術による治療用の医薬組成物の製造のための、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項28】
皮膚科疾患の手術による治療用の医薬組成物の製造のための、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項29】
オフサルミックビスコサージカルデバイス(OVD)としての、請求項20〜23のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項30】
整形外科手術における、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項31】
薬物送達における、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項32】
皮膚科での応用のための、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項33】
化粧品での応用のための、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類の使用。
【請求項34】
眼科疾患の手術による治療用の、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類。
【請求項35】
前記眼科疾患が白内障である、請求項34に記載のペクチン様多糖類。
【請求項36】
整形外科疾患の手術による治療用の、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類。
【請求項37】
皮膚科疾患の手術による治療用の、請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類。
【請求項38】
請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類をヒトまたは動物に治療効果量で投与する、眼科疾患の手術による治療用の方法。
【請求項39】
前記眼科疾患が白内障である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類をヒトまたは動物に治療効果量で投与する、整形外科疾患の手術による治療用の方法。
【請求項41】
請求項17〜19のいずれか1項に記載のペクチン様多糖類をヒトまたは動物に治療効果量で投与する、皮膚科疾患の手術による治療用の方法。
【請求項42】
a)オクラの実の莢を細かく分割し、
b)前記分割した実の莢の水性混合物を調製し、前記混合物は4から12の範囲内のpHを有し、
c)前記分割した実の莢からペクチン様多糖類の抽出が生じるのに十分な時間、前記水性混合物を放置し、
d)前記水性混合物から前記分割した実の莢を分離してペクチン様多糖類の水性抽出物を形成させ、
e)前記抽出物に塩を添加し、
f)ろ過材を通して前記抽出物をろ過し、
g)水混和性の有機溶媒により前記ろ過抽出物から、前記ペクチン様多糖類を沈殿させてペクチン様多糖類沈殿物を形成させ、前記沈殿操作は場合により1回以上繰り返し、及び、
h)前記ペクチン様多糖類の沈殿物を水および/または生理的緩衝液に溶解して粘性医薬用組成物を形成させる、
ことを含む、粘性医薬用組成物の製造方法。
【請求項43】
前記粘性医薬用組成物は1.0m/kgより大きな固有粘度ηを有する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記粘性医薬用組成物はオフサルミックビスコサージカルデバイスである、請求項42または43に記載の方法。

【公表番号】特表2009−536232(P2009−536232A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508249(P2009−508249)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004100
【国際公開番号】WO2007/128578
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(508332092)ボーフス バイオテック エービー (1)
【Fターム(参考)】