説明

オリゴマー固体酸、並びにそれを含む高分子電解質膜、膜電極接合体及び燃料電池

【課題】高分子電解質膜にイオン伝導性を付与することができ、高分子電解質膜から容易に離脱しないオリゴマー固体酸及びそれを含む高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】(i)末端にイオン伝導性末端基を有するオリゴマー固体酸巨大分子、及び(ii)イオン伝導性末端基をイオン伝導に必要な最小限に保有してスウェリングを抑制し、オリゴマー固体酸を均一に分布させることによって、イオン伝導度を補完した高分子電解質膜である。該高分子電解質膜は、イオン伝導性末端基の数を最少化してスウェリングを抑制した高分子マトリックスを使用することによって、メタノールクロスオーバーを最小化できる。また、表面にイオン伝導性末端基を有し、体積が大きくて、よく流出されないオリゴマー固体酸巨大分子を均一に分布させてイオン伝導度を著しく向上させることによって、無加湿条件下でも優れたイオン伝導度を持続的に表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴマー固体酸、並びにそれを含む高分子電解質膜、膜電極接合体及び燃料電池に係り、さらに具体的には、イオン伝導度を著しく向上させるオリゴマー固体酸、及びメタノールクロスオーバーを最小化しつつイオン伝導度を極大化させ、優れたイオン伝導度を持続的に表し得る高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスのような炭化水素系の物質内に含まれている水素及び酸素の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する電気化学装置である。燃料電池のエネルギーの切り替え工程は、非常に効率的かつ環境に優しいので、最近数十年間注目されてきており、多様な種類の燃料電池の作成が試みられてきた。
【0003】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって、リン酸型燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cells:PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(Molten Carbonate Fuel Cells:MCFC)、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Full Cells:SOFC)、高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cells:PEMFC)及びアルカリ型燃料電池(Alkaline Full Cells:AFC)等に分類される。これらのそれぞれの燃料電池は、根本的に同じ原理により作動するが、使用される燃料の種類、運転温度、触媒、電解質などが相異なる。このうちPEMFCは、小規模据え置き型発電装備だけでなく、輸送システムにも最も有望なものであると知られている。これは、PEMFCが有する低温作動、高出力密度、迅速な始動、及び出力要求の変化に対する機敏な応答のような長所に起因する。
【0004】
PEMFCの中心部は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)である。MEAは、通常、高分子電解質膜と、その両面に付着されてそれぞれカソード及びアノードの役割を行う2個の電極とから構成される。
【0005】
高分子電解質膜は、酸化剤と還元剤との直接接触を防止する隔離膜の役割、及び二つの電極を電気的に絶縁する役割を行うだけでなく、プロトン伝導体の役割も担当する。したがって、優れた高分子電解質膜は、(1)高いプロトン伝導度、(2)高い電気絶縁性、(3)低い反応物透過性、(4)燃料電池運転条件で優れた熱的、化学的、機械的安定性、及び(5)低コストなどの条件を備えなければならない。
【0006】
前記のような条件を満たすために、多様な高分子電解質膜が開発され、ナフィオン膜のような高フッ化ポリスルホン酸膜は、優れた耐久性及び性能によって、現在、標準的な地位を占めている。しかし、ナフィオン膜は、良好な作動のためには十分に加湿し、水分の損失を防止するために、80℃以下で使用され、また、酸素(O)により主鎖の炭素−炭素結合が攻撃されて、燃料電池の作動条件で不安定であるという短所がある。
【0007】
また、DMFCの場合、メタノール水溶液が燃料としてアノードに供給されるが、未反応メタノール水溶液の一部は、高分子電解質膜に浸透する。高分子電解質膜に浸透したメタノール水溶液は、電解質膜にスウェリング現象を起こしつつ広がってカソード触媒層まで伝えられる。このような現象を‘メタノールクロスオーバー’というが、水素イオンと酸素との電気化学的還元が進められねばならないカソードでメタノールの直接酸化を起こすため、カソードの電位を低下させ、その結果、電池の性能を深刻に低下させうる。
【0008】
このような問題は、メタノールだけでなく、他の極性有機燃料を含む液体燃料を使用する燃料電池に共通する問題である。
【0009】
このような理由によって、メタノール、エタノールのような極性有機液体燃料のクロスオーバーを遮断するための努力が活発に進められてきており、無機物を利用したナノ複合素材を利用して物理的に遮断する方法など、多様な方法が試みられている。
【0010】
一方、従来は、高分子マトリックスにイオン伝導性物質として体積の大きなオリゴマーを利用するための試みはなかった。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,741,408号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、高分子電解質膜にイオン伝導性を付与することができ、高分子電解質膜から容易に離脱しないオリゴマー固体酸を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、上記オリゴマー固体酸を含み、加湿せずとも優れたイオン伝導度を表し、メタノールクロスオーバーの非常に少ない高分子電解質膜を提供することにある。
【0014】
また、本発明のさらに他の目的は、前記高分子電解質膜を備える膜電極接合体を提供することにある。
【0015】
また、本発明のさらに他の目的は、前記高分子電解質膜を備える燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によれば、(a)10〜70の重合度を有する主鎖と、(b)前記主鎖の反復単位に結合されて、下記化学式1の構造を有する側鎖と、を有するオリゴマー固体酸が提供される。
【0017】
【化1】

【0018】
ここで、EからEn−1は、それぞれ独立的に下記化学式2から化学式6の有機基のうち何れか一つである。
【0019】
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0020】
前記化学式4から化学式6で、各Ei+1は、互いに独立的なものであって、同じであってもよく、異なってもよく、(i)世代であるEと結合する(i+1)世代Ei+1の数は、Eに存在する可能な結合の数と同じであり、nは、分枝単位の世代を表し、2から4の整数であり、Eは、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つである。
【0021】
ここで、「(i)世代であるEと結合する(i+1)世代Ei+1の数は、Eに存在する可能な結合の数と同じであり」をより詳しく説明すると、以下の通りである。すなわち、nは反復単位の全体の世代数を示す変数であり、例えば、nが2である場合は全体の世代数が2まで存在することを意味しており、nが4である場合は全体の世代数が4まで存在することを意味している。Eのiは全体の世代数中の任意の世代数を示す。すなわち、化学式2と化学式3の場合にはEに存在するEi+1との可能な結合の数が1つであり、化学式4と化学式5の場合にはEに存在するEi+1との可能な結合の数が2つであり、化学式6の場合にはEに存在するEi+1との可能な結合の数が3つであることを示している。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によれば、側鎖の末端に、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つ以上を有する高分子マトリックスと、高分子マトリックスの間に均一に分布する上記オリゴマー固体酸とを含む高分子電解質膜が提供される。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の第3の観点によれば、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜とを備える膜電極接合体において、前記電解質膜が上記高分子電解質膜である膜電極接合体が提供される。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明の第4の観点によれば、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜とを備える燃料電池において、前記電解質膜が上記高分子電解質膜である燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の固体酸によれば、メタノールクロスオーバーの側面で大きく犧牲にせずとも、イオン伝導度の著しい向上をもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明のオリゴマー固体酸について詳細に説明する。
【0028】
本発明は、(a)10〜70の重合度を有する主鎖と、(b)前記主鎖の反復単位に結合され、下記化学式1の構造を有する側鎖とを有するオリゴマー固体酸を提供する。
【0029】
【化7】

【0030】
ここで、E、E及びEは、それぞれ独立的に上記化学式2から化学式6の有機基のうち何れか一つである。
【0031】
本発明のオリゴマー固体酸は、そのサイズが非常に大きいため、高分子マトリックスの間に分布させる場合、スウェリングによる流出がほとんどなく、末端に付着された−OH、−COOH、−SOH、−OPO(OH)のような酸性作用基が高いイオン伝導度を付与するため、高分子電解質膜にイオン伝導度を付与する手段として利用できる。
【0032】
本発明のオリゴマー固体酸は、主鎖は、重合度が10〜70であり、20〜50であることが望ましい。主鎖の重合度が10未満であれば、側鎖まで含んだ総分子量が10,000未満である可能性が高くなるが、この場合、分子のサイズが十分に大きくなく、オリゴマー固体酸が流出される可能性が高い。また、主鎖の重合度が70を超えれば、側鎖まで含んだ全体分子量が40,000を超える可能性が高くなるが、この場合、物性の調節が難しく、高分子膜内でマトリックスとの相分離により形成された固体酸は、粒径が過度に大きくなるという問題点がある。
【0033】
前記主鎖の反復単位は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリアミド酸エステル、またはポリアニリンの反復単位でありうる。
【0034】
特に、前記主鎖の反復単位は、下記化学式7から化学式9のうち何れか一つでありうるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
【化8】

【化9】

【化10】

【0036】
前記主鎖の反復単位に結合される側鎖は、下記化学式10から化学式15のうち何れか一つでありうるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【0038】
化学式10から化学式15で、Rは、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つである。
【0039】
本発明のオリゴマー固体酸の分子量は、10,000から40,000であることが望ましい。もし、分子量が10,000より少なければ、分子のサイズが十分に大きくなく、高分子電解質膜から流出されるおそれがあり、分子量が40,000より多ければ、物性の調節が難しく、マトリックスとの相分離によって形成された固体酸は、粒径が過度に大きくなるという問題点がある。
【0040】
以下では、本発明のオリゴマー固体酸のうち、代表的なものの製造過程を通じて本発明をさらに詳細に説明する。下記製造方法は、本発明のオリゴマー固体酸のうち、単に代表的なものの製造過程を表すものであり、これに限定されるものではない。
【0041】
まず、下記反応式1のように、側鎖を構成する単量体を合成できる。
【0042】
【化17】

【0043】
側鎖を構成する単量体は、前記反応式1の方法を繰り返すことによって、複数の世代を有する単量体として製作してもよい。
【0044】
その後、下記反応式2のように、前記単量体を、主鎖を構成する化合物と反応させて、本発明のオリゴマー固体酸を製造できる。
【0045】
【化18】

【0046】
ここで、pは、主鎖を構成する前記化合物の分子量が2,000から8,000になるように決定される整数である。
【0047】
末端に作用基を−COOH、−OH、または−OPO(OH)を持たせる場合には、枝構造の合成時に−COOH、−OH、または−OPO(OH)の作用基がアルキル基で保護された構造、すなわち、−COOR、−OR、または−OPO(OR)構造を有するベンジルハライド化合物から出発して、低分子量のポリマーを製造した後、アルキル基を脱離させる方法で製造できる。ここで、Rは、例えば、炭素数1から5の1価のアルキル基である。
【0048】
以下では、本発明の高分子電解質膜について詳細に説明する。
【0049】
本発明は、側鎖の末端に、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つ以上を有する高分子マトリックスと、高分子マトリックスの間に均一に分布する上記オリゴマー固体酸とを含む高分子電解質膜を提供する。
【0050】
前記高分子マトリックスは、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、またはポリエーテルエーテルケトンのような高分子物質でありうる。
【0051】
前記のような高分子マトリックスの全域にわたって本発明のオリゴマー固体酸が均一に分布することによって、本発明の高分子電解質膜は、イオン伝導度を有する。すなわち、高分子マトリックス側鎖の末端に付着された酸性作用基と、オリゴマー固体酸の表面に存在する酸性作用基とが共に作用して、高いイオン伝導度を付与することができる。
【0052】
また、従来において、高分子電解質膜のマトリックスを形成する高分子に、例えば、スルホン基のようなイオン伝導性末端基を多量に付着することがスウェリングの原因となったこととは異なり、前記高分子マトリックスは、イオン伝導性末端基を、イオン伝導に必要な最少量のみを付着することによって、水分によるスウェリングを最小化することができる。
【0053】
特に、前記高分子マトリックスは、下記化学式16の高分子樹脂でありうる。
【0054】
【化19】

ここで、Mは、下記化学式17の反復単位である。
【0055】
【化20】

前記化学式17で、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Zは、2価の芳香族または脂肪族有機基である。
【0056】
また、Nは、下記化学式18の反復単位である。
【化21】

前記化学式18で、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Z’は、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、j及びkは、それぞれ独立的に1から6の整数であり、Rは、−OH、−SOH、−COOH、−OPO(OH)のうち何れか一つである。
【0057】
m及びnは、それぞれ独立的に30から5000であり、m:nの比率は、2:8から8:2であり、望ましくは、4:6から6:4である。
【0058】
前記m:nの比率が、2:8から8:2を逸脱して、mが2以下であれば、水によるスウェリング及びメタノールクロスオーバー特性が向上し、mが8以上であれば、水素イオン伝導度が低すぎて、固体酸の添加によっても適正レベルのプロトン伝導度を確保し難い。
【0059】
前記化学式16の高分子樹脂の反復単位であるM及びNは、さらに具体的にそれぞれ下記化学式24及び化学式25で表示される構造を有しうる。
【0060】
【化22】

【化23】

【0061】
前記化学式25で、j及びkは、それぞれ独立的に1から6の整数であり、Rは、−OH、−SOH、−COOH、−OPO(OH)のうち何れか一つである。
【0062】
前記化学式16の高分子マトリックスの製造方法は、特に限定されないが、下記反応式3のように製造できる。
【0063】
【化24】

【0064】
以下では、前記高分子電解質膜を備える膜電極接合体について詳細に説明する。
【0065】
本発明は、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜とを備える膜電極接合体において、前記電解質膜が、上述した本発明の高分子電解質膜である膜電極接合体を提供する。
【0066】
触媒層及び拡散層を備える前記カソード及びアノードは、燃料電池の分野に広く知らされたものでありうる。また、前記電解質膜は、上述した本発明の高分子電解質膜である。本発明の高分子電解質膜は、単独で電解質膜として使用されてもよく、イオン伝導性を帯びる他の膜と結合して使用されてもよい。
【0067】
以下では、前記高分子電解質膜を備える燃料電池について詳細に説明する。
【0068】
本発明は、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜とを備える燃料電池において、前記電解質膜が上述した本発明の高分子電解質膜である燃料電池を提供する。
【0069】
触媒層及び拡散層を備える前記カソード及びアノードは、燃料電池の分野に広く知らされたものでありうる。また、前記電解質膜は、上述した本発明の高分子電解質膜である。本発明の高分子電解質膜は、単独で電解質膜として使用されてもよく、イオン伝導性を帯びる他の膜と結合して使用されてもよい。
【0070】
このような燃料電池の製造は、各種の文献に開示されている通常的な方法を利用できるので、本明細書では、燃料電池の製造方法についての詳細な説明を省略する。
【0071】
本発明の高分子電解質膜は、イオン伝導性末端基の数を最少化して、スウェリングを抑制した高分子マトリックスを使用することによって、メタノールクロスオーバーを最小化し、表面にイオン伝導性末端基を有し、かつ体積が大きくて流出され難いオリゴマー固体酸巨大分子を均一に分布させてイオン伝導度を著しく向上させることによって、無加湿条件下でも優れたイオン伝導度を持続的に表す効果がある。
【実施例】
【0072】
以下、具体的な実施例及び比較例をもって本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明するが、下記の実施例は、単に本発明をさらに明確に理解させるためのものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0073】
(実施例1)
臭化ベンジル0.38モル及び3,5−ジヒドロキシベンジルアルコール0.18モルと、KCO 0.36モル及び18−クラウン−6 0.036モルと共にアセトンに溶解させて24時間還流させた。前記混合物を常温まで冷却させた後、アセトンを蒸留させて除去し、酢酸エチル/水酸化ナトリウム溶液で抽出して分離した。分離した有機層を、MgSOを利用して乾燥させ、溶媒を蒸留させて除去した。結果物を、エーテル/ヘキサンで再結晶して精製し、白色結晶性固体として37gの下記化学式19の化合物を得た(収率:67%)。下記化学式19の化合物の構造を、核磁気共鳴(NMR)分析を利用して確認し、その結果を図1に表した。
【0074】
【化25】

【0075】
前記化学式19の化合物20g(0.065モル)を0℃でベンゼン50mlに溶解させ、PBr 6.4g(0.0238モル)をベンゼンに溶解させた溶液を、前記溶液に適加して15分間攪拌した。その後、室温に昇温させた後に2時間攪拌し、前記混合物を氷槽に入れて、ベンゼンを蒸留させて除去した。その後、水溶性の相を酢酸エチルで抽出し、有機層を、MgSOを利用して乾燥させ、溶媒を蒸留して除去した。結果物をトルエン/エタノールで再結晶して精製し、白色結晶性固体として19gの下記化学式20の化合物を得た(収率:79%)。下記化学式20の化合物の構造を、核磁気共鳴(NMR)分析を利用して確認し、その結果を図2に表した。
【0076】
【化26】

【0077】
前記のように合成した化学式20の化合物8.4gと、商用のポリヒドロキシスチレン(PHSt:下記化学式21の化合物、Mw=3000、日本曽達(株))2.42gとを、KCO2.8g及び18−クラウン−6 1.1gと共にテトラヒドロフラン(THF)200mLに溶解させて24時間還流させた。その後、前記反応混合物を常温まで冷却させた後、アセトンを蒸留させて除去し、トルエン/水酸化ナトリウム溶液で抽出して分離した。分離したトルエン層を、MgSOを利用して乾燥させ、トルエンを蒸留させて50mLに濃縮した。結果物をエタノールに沈殿させて、白色の結晶性固体として8.2gの下記化学式22の化合物を得た(収率:76%)。下記化学式22の化合物の構造を、核磁気共鳴(NMR)分析を利用して確認し、その結果を図3に表した。
【0078】
【化27】

【化28】

【0079】
前記のように製造した化学式22の化合物(オリゴマー固体酸前駆体)5gを硫酸15mLに完全に溶解させた後、発煙硫酸(SO 60%)5mLを添加し、80℃で12時間反応させた後、エーテルで沈殿を形成させた。沈殿物をろ過した後に水に溶解させて、透析メンブレンに入れて精製して、下記化学式23の化合物を得た。下記化学式23の化合物の構造を、赤外線分光分析(FT−IR)を通じて確認し、これを図4に表した。
【0080】
【化29】

【0081】
(実施例2)
反応式3に表示された方法で製造され、m:nの比率が5:5である化学式16の高分子マトリックス100質量部と、化学式23のオリゴマー固体酸6.7質量部とをN−メチルピロリドン(NMP)に完全に溶解させた後、110℃でキャスティングして高分子電解質膜を製造した。
【0082】
(実施例3)
化学式23のオリゴマー固体酸を10質量部を使用したことを除いては、前記実施例2と同じ方法で高分子電解質膜を製造した。
【0083】
前記のように製造した高分子電解質膜、及び固体酸を含んでいない高分子膜に対して、それぞれイオン伝導度及びメタノールクロスオーバーを測定した。その結果を下記表1に表した。
【0084】
【表1】

【0085】
前記表1から分かるように、本発明のオリゴマー固体酸を添加することによって、メタノールクロスオーバーが若干上昇したが、イオン伝導度は、メタノールクロスオーバーが上昇した比率に比べて著しく向上した。したがって、本発明の固体酸を利用すれば、メタノールクロスオーバーの側面で大きく犧牲にならずとも、イオン伝導度の著しい向上をもたらす。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、燃料電池に関連した技術分野に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】化学式19の化合物の構造を確認するために行った核磁気共鳴(NMR)分析結果を示すグラフである。
【図2】化学式20の化合物の構造を確認するために行った核磁気共鳴の分析結果を示すグラフである。
【図3】化学式22の化合物の構造を確認するために行った核磁気共鳴の分析結果を示すグラフである。
【図4】化学式23の化合物の構造を確認するために行った赤外線分光分析(FT−IR)結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)10〜70の重合度を有する主鎖と、
(b)前記主鎖の反復単位に結合されて、下記化学式1の構造を有する側鎖と、
を有することを特徴とする、オリゴマー固体酸。
【化1】

(ここで、EからEn−1は、それぞれ独立的に下記化学式2から化学式6の有機基のうち何れか一つであり、
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

前記化学式4から化学式6で、各Ei+1は、互いに独立的なものであって、同じであってもよく、異なっていてもよく、
(i)世代であるEと結合する(i+1)世代Ei+1の数は、Eに存在する可能な結合の数と同じであり、
nは、分枝単位の世代を表し、2から4の整数であり、
は、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つである。)
【請求項2】
前記反復単位は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリアミド酸エステル、またはポリアニリンの反複単位であることを特徴とする、請求項1に記載のオリゴマー固体酸。
【請求項3】
前記反復単位は、下記化学式7から化学式9のうち何れか一つであることを特徴とする、請求項2に記載のオリゴマー固体酸。
【化7】

【化8】

【化9】

【請求項4】
前記側鎖は、下記化学式10から化学式15のうち何れか一つであることを特徴とする、請求項1に記載のオリゴマー固体酸。
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

前記化学式10から化学式15で、Rは、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つである。
【請求項5】
分子量は、10,000から40,000であることを特徴とする、請求項1に記載のオリゴマー固体酸。
【請求項6】
側鎖の末端に、−SOH、−COOH、−OH、または−OPO(OH)のうち何れか一つ以上を有する高分子マトリックスと、前記高分子マトリックスの間に均一に分布する請求項1に記載のオリゴマー固体酸と、を含むことを特徴とする、高分子電解質膜。
【請求項7】
前記高分子マトリックスは、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、またはポリエーテルエーテルケトンのうち、何れか1種以上であることを特徴とする、請求項6に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記高分子マトリックスは、下記化学式16の高分子樹脂であることを特徴とする、請求項6に記載の高分子電解質膜。
【化16】

(ここで、Mは、下記化学式17の反復単位であり、
【化17】

前記化学式17で、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Zは、2価の芳香族または脂肪族有機基であり、
Nは、下記化学式18の反復単位であり、
【化18】

前記化学式18で、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Z’は、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、j及びkは、それぞれ独立的に1から6の整数であり、Rは、−OH、−SOH、−COOH、−OPO(OH)のうち何れか一つであり、
m及びnは、それぞれ独立的に30から5000であり、
m:nの比率は、2:8から8:2である。)
【請求項9】
触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜と、を備える膜電極接合体において、
前記電解質膜が、請求項6から請求項8のうち何れか1項に記載の高分子電解質膜であることを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項10】
触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜とを備える燃料電池において、
前記電解質膜が、請求項6から請求項8のうち何れか1項に記載の高分子電解質膜であることを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−106999(P2007−106999A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276904(P2006−276904)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】