説明

オルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法、オルガノシロキサンオリゴマー組成物、ポリオルガノシロキサン硬化被膜の製造方法、及びポリオルガノシロキサン硬化被膜

【課題】耐擦傷性や、耐クラック性、基材との密着性等に優れる硬化被膜を得るために、貯蔵安定性等の優れたオルガノシロキサンオリゴマーの製造方法を提供する。
【解決手段】実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、オルガノシランを、該オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で1.0以上5.0以下の量であって、且つ、必要に応じてpH調整剤で調整されたpHが5.0以上8.0以下の水の存在下で、加水分解・縮合反応させた後、反応系のpHを3.0以上5.5以下の範囲に調整するオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管時の安定性に優れるオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法、オルガノシロキサンオリゴマー組成物、これを用いたポリオルガノシロキサン硬化被膜の製造方法、及びポリオルガノシロキサン硬化被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替として、耐破砕性、軽量性に優れるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明プラスチック材料が広く使用されている。しかし、透明プラスチック材料はガラスに比較して硬度が低いので、その成形品は表面に傷を受け易い。このため、成形品の表面にハードコート剤をコーティングすることが一般的に行われている。このハードコート剤にはメラミン系塗料、多官能アクリレート系塗料、シリコン系塗料等が広く用いられており、これらの中で、シリコン系塗料を用いて形成した被膜は、基本骨格がガラスと同じシロキサン結合を有し、シロキサン結合の結合エネルギーは、有機物ポリマーの基本骨格である炭素−炭素間結合や炭素−酸素間結合のそれより高いため、より高い耐擦傷性と耐候性を有することが期待されている。
【0003】
シリコン系塗料は、オルガノシランをゲル化しない程度に重合させたオルガノシロキサンオリゴマーを原料とし、原料のオルガノシロキサンオリゴマーの構造によって、製造されるハードコート膜の耐擦傷性や耐クラック性等の性質が大きく変わることが知られている。また、シリコン系塗料においては、オルガノシロキサンオリゴマーは製造後、保管中に縮合反応が進行し重合度が変化することがあり、その重合度によっては得られるハードコート膜において所望の耐擦傷性が得られなくなるという、オルガノシロキサンオリゴマーの保管時の安定性に起因する問題がある。
【0004】
オルガノシロキサンオリゴマーの保管時の安定性を図るため、陽イオン交換樹脂を触媒として合成したオルガノシロキサンオリゴマーを用いて、合成終了後のpHを特定の領域に調整する方法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この方法にて得られるシロキサンオリゴマーを原料として硬化被膜を形成した場合、ろ過をしても除去しきれない陽イオン交換樹脂が硬化被膜に残存するため、硬化被膜中に残存した陽イオン交換樹脂が基材と硬化被膜との密着を阻害する。そのため、硬化被膜の基材との密着性が低下するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−20826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、保管時の安定性に優れるオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法や組成物を提供し、これを用いて得られるポリオルガノシロキサン硬化被膜やその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、オルガノシランに所定のpHに調整した水を、所定の割合で添加し、加水分解・縮合を行い、その後、反応系を所定のpHに調整することにより、得られるオルガノシロキサンオリゴマー組成物が安定性を有し、保管時に縮合反応の進行を抑制することができ、かつこれを原料として作製した硬化被膜が基材との密着性に優れるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、オルガノシランを、該オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で1.0以上5.0以下の量であって、且つ、必要に応じてpH調整剤で調整されたpHが5.0以上8.0以下の水の存在下で加水分解・縮合反応させた後、反応系のpHを3.0以上5.5以下の範囲に調整するオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、オルガノシランに、該オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で1.0以上5.0以下の量であって、且つ、必要に応じてpH調整剤で調整されたpHが5.0以上8.0以下の水を添加して、実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、加水分解・縮合反応させた後、反応系のpHを3.0以上5.5以下に調整して得られるオルガノシロキサンオリゴマー組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて基材上に形成した被膜を、活性エネルギー線の照射又は加熱により、重合硬化するポリオルガノシロキサン硬化被膜の製造方法や、上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて基材上に形成した被膜を、活性エネルギー線の照射又は加熱により、重合硬化して得られるポリオルガノシロキサン硬化被膜に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法は、貯蔵安定性の優れたオルガノシロキサンオリゴマーや、その組成物を得ることができ、これを用いることにより、耐擦傷性や、耐クラック性、基材との密着性に優れる硬化被膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法は、実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、オルガノシランを、該オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で1.0以上5.0以下の量であって、且つ、必要に応じてpH調整剤で調整されたpHが5.0以上8.0以下の水の存在下で、加水分解・縮合反応させた後、反応系のpHを3.0以上5.5以下の範囲に調整することを特徴とする。
【0013】
上記オルガノシランとして、具体的には、例えば、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、p−ビニルフェニレントリエトキシシラン、p−ビニルフェニレントリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、オルガノシロキサンオリゴマーの合成工程における反応性、硬化被膜の耐擦傷性と耐クラック性のバランスから、メチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランを好ましいものとして挙げることができる。
【0014】
本発明のオルガノシロキサンオリゴマー組成物は、必要に応じてpH調整剤で調整された水の存在下でオルガノシランを加水分解・縮合反応させて、製造される。
上記水のpHは5.0以上8.0以下に調整され、6.0以上7.5以下に調整されることが好ましい。
加水分解・縮合反応に使用される水のpHを、必要に応じてpH調整剤を用いて上記範囲に調整する方法としては、反応系に添加する前に、予め水のpHを、pH調整剤を用いて5.0以上8.0以下に調整した後に、反応系にpH調整された水を添加する方法と、水とpH調整剤を別々に反応系に添加する方法等があげられる。貯安性に優れるオリゴマー組成物が得られる点から、反応系に添加する前に、予め水のpHを調整しておく方が好ましい。
また、後者の方法の場合、例えば、pHが5.0以上8.0以下の水を添加した後に、pH調整剤を添加する場合、合成があまり進まない段階で反応系の水のpHを5.0以上8.0以下に調整でき、貯蔵安定性の良いオリゴマー組成物が得られる点で、水の添加からpH調整剤添加までの時間が短い方好ましい。
加水分解・縮合反応を上記pHの水中で行い、得られるオルガノシロキサンオリゴマーの反応系のpHを後述する範囲に調整することにより、オルガノシロキサンオリゴマーの保管時の安定性を著しく向上させることができる。
【0015】
本発明のオルガノシロキサンオリゴマー組成物は、実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、オルガノシランを加水分解・縮合反応させて、製造される。
本発明において、「実質的にイオン交換樹脂の非存在下」とは、オルガノシラン、溶剤、水からなる液体状態であるオルガノシロキサンオリゴマーの反応系に対して不溶なイオン交換樹脂を添加しないことを意味しており、反応系内に溶解するイオン交換樹脂が微量存在するのは、何ら差し支えない。
【0016】
なお、本発明において、pH調整剤はオルガノシラン、溶剤、水からなる液体状態であるオルガノシロキサンオリゴマーの反応系に対して可溶な物質であることが好ましい。このpH調整剤としては、液体であっても固体であってもよい。
pH調整剤としては、具体的には、酸性側に調整するpH調整剤として、酢酸、マンデル酸、クエン酸、乳酸等のカルボン酸、炭酸、リン酸等の弱酸やそのアンモニウム塩等の塩、塩酸等、塩基側に調整するpH調整剤として、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムなどの弱塩基、アンモニア、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
ここで、pH調製剤を含む水も、水溶液ではなく、便宜的に水と称する。
【0017】
上記水のpHは、pH計(メトラー・トレド株式会社製、MP230)を用いた測定方法による測定値を採用することができる。
【0018】
上記「水」に用いる水は、イオン交換水を用いることが好ましい。その使用量は、オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で、1.0以上5.0以下の量の範囲であり、好ましくは、1.5以上2.5以下の量である。使用する水の量が上記範囲であれば、得られるオルガノシロキサンオリゴマーは貯蔵安定性に優れ、これを原料として製造された硬化被膜は、優れた耐擦傷性を有する。
なお、本発明において、オルガノシランの加水分解に必要な理論水量とは、アルコキシ基等の加水分解可能な基の全てを加水分解するために必要な理論水量を示す。
【0019】
上記オルガノシランと上記水を添加して進行させる加水分解・縮合反応はシロキサン結合を形成する反応でありその条件としては、特に限定されるものではないが、40℃から95℃で行うことが好ましく、より好ましくは、60℃から90℃である。40℃以上であれば、反応の進行速度が速く生産性を向上させることができ、また、95℃以下であれば、反応が暴走するのを抑制し、制御が容易であるため、好ましい。反応時間は、反応温度、用いる水のpHによっても異なるが、例えば、15分〜10時間を挙げることができ、20分〜8時間を好ましい範囲として挙げることができる。反応時間を15分〜10時間の範囲とすることで得られたオルガノシロキサンオリゴマーは、これを原料とした硬化被膜を製造した際、耐擦傷性において良好なものとなる。また、オルガノシランに添加する水は一度に添加することも、数段階に分割して添加することも可能である。オルガノシランの加水分解・縮合反応は反応生成物の分子量が所望の範囲に達した時点で、反応系の温度を常温以下に冷却すること等により終了させることができる。
【0020】
得られるオルガノシロオキサンオリゴマー(組成物)の平均分子量としては、GPC法によるポリスチレン換算による重量平均分子量が500〜2000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、800〜1700の範囲内である。重量平均分子量が500以上であれば、オルガノシロキサンオリゴマーは、冷蔵保管においてその加水分解・縮合反応の進行が抑制され、貯蔵安定性に優れ、2000以下であれば、これを原料として得られる硬化被膜が優れた耐擦傷性を有する。
【0021】
上記加水分解・縮合反応後の反応系のpHを3.0以上5.5以下に調整する。また、4.0以上5.4以下に調整することがより好ましい。反応系のpHが3.0以上5.5以下の範囲に調整されれば、オルガノシロキサンオリゴマーの冷蔵保管時の加水分解・縮合反応の進行が抑制され安定性を向上させることができ、長期保管後のオルガノシロキサンオリゴマーを原料として利用した場合でも、得られる硬化被膜は高い耐擦傷性を有する。反応系のpHは上記水と同様のpH調整剤を用いて調整することができる。
【0022】
本発明のオルガノシロキサンオリゴマー組成物は、上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法によって得られるオルガノシロキサンオリゴマーを含む組成物である。
【0023】
上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物は、上記pH調整されたオルガノシロキサンオリゴマーの他、活性エネルギー線照射による硬化被膜形成に用いる場合は、活性エネルギー線を照射されることにより酸を発生する活性エネルギー線感応性酸発生剤を含有することが好ましい。これらのうち、可視光線、紫外線により酸を発生する光感応性酸発生剤、熱線により酸を発生する熱感応性酸発生剤が好ましく、活性が高い点、プラスチック材料に熱劣化を与えない点から、光感応性酸発生剤がより好ましい。
【0024】
光感応性酸発生剤としては、ジフェニルヨードニウム系化合物、トリフェニルスルホニウム系化合物、芳香族スルホニウム系化合物、ジアゾジスルホン系化合物等を用いることができる。具体的には、上市されているイルガキュア250(チバ・ジャパン(株)製、製品名)、アデカオプトマーSP−150や、SP−170(旭電化工業(株)製、製品名)、サイラキュアUVI−6970、サイラキュアUVI−6974、サイラキュアUVI−6990や、サイラキュアUVI−6950、サイラキュアUVI−6992(ダウケミカル日本(株)製、製品名)、DAICATII(ダイセル化学工業(株)製、製品名)、UVAC1591(ダイセル・サイテック(株)製、製品名)、CI−2734、CI−2855、CI−2823や、CI−2758(日本曹達(株)製、製品名)、サンエイドSI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L、SI−150Lや、SI−180L(三新化学工業(株)製、製品名)、CPI−100Pや、CPI−101A(サンアプロ(株)製、製品名)を挙げることができる。光感応性酸発生剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記活性エネルギー線感応性酸発生剤の配合量は特に限定されないが、オルガノシロキサンオリゴマー100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内が好ましい。0.01質量部以上であれば、活性エネルギー線の照射によってオルガノシロキサンオリゴマーが十分に硬化し、良好な硬化被膜が得られ、また、10質量部以下であれば、硬化被膜の着色が抑制され、表面硬度や耐擦傷性が良好となる。
【0025】
上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物には、その他、必要に応じて、有機物ポリマー、有機物ポリマー微粒子、コロイダルシリカ、コロイド状金属、充填剤、染料、顔料、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、ゲル粒子、微粒子粉等を含有させてもよい。
【0026】
また、上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物には、固形分濃度調整、分散安定性向上、塗布性向上、基材への密着性向上等を目的として、有機溶剤を含有することが好ましい。ここで、固形分濃度とは、完全に加水分解・縮合させたと仮定した際に得られるシロキサン化合物の溶液全体に対する質量百分率を意味する。
かかる有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、セロソルブ類、芳香族化合物類等を用いることができる。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−フェノキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記有機溶剤の含有量は、固形分の合計100質量部に対して10〜1000質量部の範囲内が好ましい。上記有機溶剤の含有量が、固形分の合計100質量部に対して10質量部以上であれば、組成物が高粘度となり良好な塗工膜の形成が困難となることを抑制することができる。また、上記有機溶剤の含有量が、固形分の合計100質量部に対して1000質量部以下であれば、硬化被膜を充分な厚さに形成することができ、優れた耐擦傷性を有するものとなる。ここで、「固形分」とは、完全に加水分解・縮合させたと仮定した際に得られるシロキサン化合物を意味する。
【0028】
本発明のポリオルガノシロキサン硬化被膜は、上記オルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて形成した被膜を、活性エネルギー線の照射又は加熱により、重合硬化する製造方法によって得られる。
【0029】
オルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて一次成形体の被膜を形成する方法としては、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、スクリーン、スピンコート法、フローコート法、静電塗装、浸漬法等を使用することができる。
【0030】
被膜の重合硬化は、活性エネルギー線を照射して、又は加熱により行う。
被膜の硬化に用いる活性エネルギー線としては、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線等を挙げることができる。これらのうち、紫外線、可視光線を、光感応性の酸発生剤と組み合わせて使用することが、重合速度が速い点、基材の劣化が比較的少ない点から好ましい。具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマーレーザー、太陽等を光源とする活性エネルギー線を挙げることができる。これらの活性エネルギー線は、一種類を単独で使用してもよく、異なるものを複数種使用してもよい。異なる複数種の活性エネルギー線を使用する場合は、同時に照射しても、順番に照射することもできる。
【0031】
被膜の重合硬化は、剥離性を有する素材を用いて、被膜を積層する基材とは別個に一次被膜を形成し、基材表面に被膜のみを転写させて積層体を製造することも可能である。
【0032】
活性エネルギー線の照射量としては、例えば、100〜5000mJ/cm2を挙げることができる。
【0033】
また、本発明の組成物から形成される被膜を活性エネルギー線の照射によって硬化させる場合、活性エネルギー線の照射前に被膜を加熱して、溶剤を揮発させることにより、硬化被膜の耐擦傷性を向上させることができる。
加熱の温度としては、50℃〜180℃にすることが好ましく。60℃〜130℃とすることがより好ましい。50℃以上であれば、溶剤の揮発速度が速くなり、生産性が良くなるので好ましく、180℃以下であれば、硬化被膜が光感応性の酸発生剤が加熱によって失活することがないので好ましい。
活性エネルギー線の照射前の加熱時間は、1分〜30分であることが好ましく、より好ましい範囲は3分〜20分である。1分以上であると、溶剤が十分に揮発するために、得られる硬化被膜の耐擦傷性が向上するので好ましい。また、30分以下であると、生産性が向上するので好ましい。
【0034】
活性エネルギー線の照射後、被膜を加熱することで、被膜の重合硬化をさらに進めて、耐擦傷性を高めることが可能である。活性エネルギー線の照射後の加熱の温度としては、50℃〜200℃にすることが好ましく。60℃〜150℃とすることがより好ましい。50℃以上であれば、重合の促進効果が高いために望ましい。また、200℃以下であれば、温度差による硬化被膜の膨張や収縮に起因したクラックの発生を抑制できるため、好ましい。
【0035】
活性エネルギー線の照射後の被膜への加熱時間は、1分〜60分であることが好ましく、より好ましい範囲は3分〜30分である。1分以上であると、硬化の促進に効果が高く、高い耐擦傷性を有した硬化膜が得られる。また、60分以下であると、生産性が向上するので好ましい。
【0036】
被膜の加熱には、例えば熱風炉、電気炉、蒸気乾燥炉、赤外線照射、誘導加熱などを用いることができる。
【0037】
被膜の重合硬化のために加熱を行なう場合、加熱温度としては、60〜170℃が好ましく、より好ましくは80〜130℃、加熱時間としては、30分〜5時間が好ましく、より好ましくは1〜3時間である。
【0038】
被膜の重合硬化のために加熱を行なう場合、比較的低い温度で、速く硬化させるために、硬化促進剤を用いることができる。この場合の硬化促進剤としては、例えばカルボン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、過塩素酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アセチルアセトン酸の金属塩、第四級アンモニウム、第四級アンモニウム塩などの塩基性化合物、酢酸、ナフテン酸、オクチル酸、塩酸、硝酸、亜硝酸、亜硫酸などの酸性化合物が使用可能である。
【0039】
本発明によって得られるオルガノシロキサンオリゴマーは、冷蔵保管での貯蔵安定性に優れる。なお、冷蔵保管時の温度は2〜10℃であることが好ましい。
【0040】
硬化被膜の厚さとしては、例えば、0.5〜100μm等を挙げることができる。
【0041】
このような硬化被膜は、有機質、無機質を問わず、種々の基材に適用することができる。具体的には、例えば、各種プラスチック、金属、紙、木質材、無機質材、電着塗装板、ラミネート板等を挙げることができる。特にプラスチック基材、具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメタクリルスチレン等に好適である。上記基材には、被膜との接着性を向上させるため、プライマー層を形成することもできる。
【0042】
このようにして形成される硬化被膜は、耐擦傷性、耐クラック性に優れ、透明であり、耐熱性を有し、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、タッチパネル、太陽電池、電子ペーパー等のエレクトロニクスデバイスのプラスチック基板、ヘッドランプカバー等の自動車部品、車両用プラスチック窓材等の各種用途に好適である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を示し、具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
[イオン交換水の調製]
実施例、比較例に用いる全てのイオン交換水は、水道水を純粋装置システム(日本ミリポア株式会社製、Elix)によって一次処理した後、超純粋装置システム(日本ミリポア株式会社製、Milli−Q)によって二次処理することで製造した。
【0044】
[実施例1]
[オルガノシロキサンオリゴマー組成物の調製]
オルガノシランとして、メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量136)90g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、分子量198)10gに、溶剤として、イソプロピルアルコール77.2gをナス型フラスコに加え、ナス型フラスコの上部を還流しつつ、80℃熱浴中で攪拌しながら加温した。溶液が80℃に達した後、そのナス型フラスコに、pHが5.8のイオン交換水77.0gを加えて反応を開始した。GPC法による重量平均分子量(ポリスチレン換算)が1000〜1700の範囲内であることを確認した後、ナス型フラスコを熱浴から取り出し、直ちに0℃の氷浴中で室温以下まで冷却した。室温以下まで冷却した時点で反応終了とした。反応終了後の反応系に、マンデル酸をpH計(メトラー・トレド株式会社製、MP230)を用いてpHを測定しながら少量ずつ添加し、pHが4.5となった時点で添加を止めて、オルガノシロキサンオリゴマー組成物を調製した。組成物中のオルガノシロキサンオリゴマーの固形分濃度は20質量%であった。得られたオルガノシロキサンオリゴマー組成物について、以下の方法により貯蔵安定性の評価を行った。
【0045】
GPC法による測定は、分析カラムとして、TSK−GEL GMHXL(東ソー(株)社製)2本、TSK−GEL G1000HXL(東ソー(株)社製)1本を連結して使用し、溶離液はテトラヒドロフラン(流速1.0ml/min)、カラム温度は40℃とし、検出器としてRefractive Index検出器2414(Waters社製)を使用した。
【0046】
[貯蔵安定性]
庫内温度が6℃程度の冷蔵庫にてオルガノシロキサンオリゴマー組成物を一定期間保管した後、オルガノシロキサンオリゴマーについてGPC法により、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定した。オルガノシロキサンオリゴマー組成物の合成8時間以内に測定したMwの値Mwbに対する保管後の重量平均分子量Mwの比の値に基づき、Mwの変化を、以下の基準により評価した。結果を表2に示す。
A:Mw/Mwb≦1.5(構造変化小さい)
C:Mw/Mwb>1.5(構造変化大きい)
[硬化被膜の製造]
オリゴマー合成後8時間以内、2週間経過、8週間経過の時点で、それぞれのオルガノシロキサンオリゴマー組成物100gに、1−メトキシ−2−プロパノール(以下「PGM」という)9.4g、γ−ブチロラクトン9.4g、光感応性酸発生剤(サンエイドSI−100L:三新化学工業(株)製)1.62g、レベリング剤としてシリコン系界面活性剤(L−7001:東レ・ダウコーニング(株)製)0.02gを混合し、コーティング用組成物を調製した。得られたコーティング用組成物を、長さ10cm、幅10cm、厚さ3mmのアクリル板(アクリライトEX:三菱レイヨン株式会社製)上に適量滴下し、バーコーティング法(バーコーターNo.26使用)にて塗布し、乾燥機にて90℃で10分間乾燥した。
【0047】
さらに、高圧水銀灯(ハンディーUV−1200、QRU−2161型:株式会社オーク製作所製)にて、約1,000mJ/cm2の紫外線を照射し、膜厚約5μmの硬化被膜を得た。紫外線照射量は、紫外線光量計(UV−351型:株式会社オーク製作所製)でピーク感度波長360nmにて測定した。その後、乾燥機にて90℃で10分間乾燥し硬化被膜を得た。得られた硬化被膜は外観が良好であり、基材への密着性に優れ、クラックの発生も見られなかった。得られた硬化被膜について以下のように耐擦傷性の評価を行った。いずれも貯蔵安定性、耐擦傷性に優れていた。
【0048】
[硬化被膜の耐擦傷性]
硬化被膜を有するアクリル板の表面を、#0000スチールウールで、9.8×104Paの圧力を加えて10往復擦り、1cm×3cmの範囲に発生した傷の程度を観察し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:光沢面はあるが、1〜9本のキズがある。
B:光沢面はあるが、10〜49本のキズがある。
C:光沢面はあるが、50〜99本のキズがある。
また、JIS K7136に準じて、耐擦傷性試験の前後でヘイズ値を測定し、ヘイズの増分値をΔHzとして評価した。結果を表2に示す。
【0049】
[密着性]
アクリル板表面の硬化被膜へ、カミソリの刃で1mm間隔に縦横11本ずつの切れ目を入れて100個のマス目を作り、セロハンテープを良く密着させた後、45度手前方向に急激に剥がし、硬化被膜が剥離せずに残存したマス目数を計測して、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
○:剥離したマス目がない(密着性良好)。
△:剥離したマス目が1〜5個(密着性中程度)。
×:剥離したマス目が6個以上(密着性不良)。
【0050】
[実施例2]
反応終了後の反応系に添加するマンデル酸をpH計(メトラー・トレド株式会社製、MP230)を用いてpHを測定しながら少量ずつ添加し、pHが5.0となった時点で添加を止めたこと以外は実施例1と同様にして、オルガノシロキサンオリゴマー組成物を調製し、3種類の硬化被膜を形成し、オルガノシロキサンオリゴマー組成物の貯蔵安定性の評価を行い、硬化被膜の耐擦傷性、密着性の評価を行った。結果を表2に示す。いずれの硬化被膜も外観が良好であり、基材への密着性に優れ、クラックの発生も見られなかった。いずれも貯蔵安定性、耐擦傷性に優れていた。
【0051】
[比較例1]
反応終了後の反応系にマンデル酸を添加せず、即ち、pHを所定の範囲に調整する処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、オルガノシロキサンオリゴマー組成物を調製し、硬化被膜を形成し、オルガノシロキサンオリゴマー組成物の貯蔵安定性の評価を行い、3種類の硬化被膜の耐擦傷性、密着性の評価を行った。結果を表2に示す。
得られた硬化被膜は外観が良好であり、基材への密着性に優れ、クラックの発生も見られなかった。しかしながら、反応終了後のオリゴマー組成物のpHを3.0以上5.5以下に調整しなかったため、オリゴマー合成後2週間経過以降は、貯蔵安定性、耐擦傷性が悪化した。
【0052】
[比較例2]
反応終了後の反応系に添加するマンデル酸をpHが5.0になるまで添加したこと以外は比較例2と同様にして、オルガノシロキサンオリゴマー組成物を調製し、硬化被膜を形成し、オルガノシロキサンオリゴマー組成物の貯蔵安定性の評価を行い、3種類の硬化被膜の耐擦傷性、密着性の評価を行った。結果を表3に示す。得られた硬化被膜は外観が良好であり、基材への密着性に優れ、クラックの発生も見られなかった。オリゴマー合成後1週間経過で耐擦傷性が悪化し、2週間経過で貯蔵安定性も悪化した。
【0053】
[比較例3]
オルガノシランとして、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、分子量136)90g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、分子量198)10gに、溶剤として、イソプロピルアルコール77.2gをナス型フラスコに加え、ナス型フラスコの上部を還流しつつ、80℃熱浴中で攪拌しながら加温した。ビーカーにpHが5.8のイオン交換水25.6gと陽イオン交換樹脂(商品名:アンバーライトIR−120B(H+型)(オルガノ株式会社製))0.22gを混合し、攪拌した後、pHを測定するとpH=5.1であった。このビーカーに採った陽イオン交換樹脂とイオン交換水を、溶液の温度が80℃に達したナス型フラスコに加えて反応を開始した。反応開始から30分経過後、pHが5.8のイオン交換水12.8gを添加し、さらに合成を進め、GPC法による重量平均分子量(ポリスチレン換算)が500〜1700の範囲内であることを確認した後、ナス型フラスコを熱浴から取り出し、直ちに0℃の氷浴中で室温以下まで冷却したものに、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Whatman社製GD/Xシリンジフィルター、メンブレン材質はPTFE)を用いてろ過を行なった。これにpHが5.8のイオン交換水38.5gを加えることでオルガノシロキサンオリゴマーの固形分濃度を20質量%に調整した。これに酢酸ナトリウムをpH計(メトラー・トレド株式会社製、MP230)を用いてpHを測定しながら少量ずつ添加し、pHが5.1となった時点で添加を止めた。このようにして得られた、pHが5.1であるオルガノシロキサンオリゴマー組成物について、経過時期を変えた以外は実施例1と同様にして、分子量変化による貯蔵安定性の評価を行った。また、各経過時期のオルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて、硬化被膜を形成して、耐擦傷性、密着性の評価を行った。結果を表4に示す。得られた硬化被膜は外観が良好であり、クラックの発生も見られなかったが、密着性が不良であった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、オルガノシランを、該オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で1.0以上5.0以下の量であって、且つ、必要に応じてpH調整剤で調整されたpHが5.0以上8.0以下の水の存在下で、加水分解・縮合反応させた後、反応系のpHを3.0以上5.5以下の範囲に調整するオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項2】
オルガノシランに、該オルガノシランの加水分解に必要な理論水量に対してモル比で1.0以上5.0以下の量であって、且つ、pHが5.0以上8.0以下の水を添加して、実質的にイオン交換樹脂の非存在下で、加水分解・縮合反応させた後、反応系のpHを3.0以上5.5以下に調整して得られるオルガノシロキサンオリゴマー組成物。
【請求項3】
請求項1記載のオルガノシロキサンオリゴマー組成物の製造方法にて得られたオルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて基材上に形成した被膜を、活性エネルギー線の照射又は加熱により、重合硬化するポリオルガノシロキサン硬化被膜の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載のオルガノシロキサンオリゴマー組成物を用いて基材上に形成した被膜を、活性エネルギー線の照射又は加熱により、重合硬化して得られるポリオルガノシロキサン硬化被膜。

【公開番号】特開2011−246702(P2011−246702A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97462(P2011−97462)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】