説明

オーディオ信号の帯域を拡張するための装置および信号処理プログラム

【課題】オーディオ信号のデジタル化で失われた高音域の情報を補うことにより帯域を拡張し、人間の耳に快適な音質に改善すること。
【解決手段】所定の量子化数で量子化する量子化器102と、量子化器の入出力の差を算出する第1の加算器103と、第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する信号処理器104と、入力されるオーディオ信号と第1の信号処理器の出力との差を算出して量子化器に入力する第2の加算器101とでデルタシグマ変調器105を構成し、量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器106と、レベル検出器の出力と第1の加算器の出力を乗算する乗算器107と、乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタ108と、バンドパスフィルタの出力を増幅または減衰させるアッテネータ109と、量子化器の出力とアッテネータの出力とを加算する第3の加算器110とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ機器におけるオーディオ信号、特に高音域の音質の向上を図り、人間の耳に快適なオーディオ信号を再生できるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置および信号処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号再生装置に於いて、記録媒体からの読出し信号の低次高調波成分だけでなく、高次高調波成分を簡単な構成で生成して読出し信号に加えることにより、自然な再生音を得ることを目的とした従来技術のオーディオ信号再生装置が、特許文献1において開示されている。そのオーディオ信号再生装置の構成を図10に示す。図10に於いて、オーディオ再生信号は、LPF1001と、絶対値回路1003と乗算器1004で構成される高調波生成回路1002と、HPF1005と、加算器1006と、D/A変換器1007とを備えて構成される。
【0003】
まず、入力されたオーディオ信号は、LPF1001でオーバーサンプリング処理される。オーバーサンプリング処理されたオーディオ信号を基に、絶対値回路1003と乗算器1004で構成される高調波生成回路1002は高調波を生成する。そして、生成された高調波信号はHPF1005にて所定の帯域を通過させ、加算器1006にて、オーバーサンプリングされたオーディオ信号と加算し、D/A変換器1007にてアナログ信号に変換し、帯域拡張したオーディオ信号を出力する。
【特許文献1】特開平7−93900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上説明した従来技術では、入力されたオーディオ信号を基に高調波を生成し、入力されたオーディオ信号に付加することにより高音域を拡大している。しかしながら、上述の従来技術のオーディオ信号再生装置においては、以下に示す問題点を有していた。
【0005】
(1)デジタルオーディオ信号に限定した内容であり、オーディオ再生装置で、ラジオ音声、外部入力等によるアナログオーディオ信号に対応するには、A/D変換器が別途必要になり現実的でない。
【0006】
(2)再生装置に特化した形であり、アナログ信号のデジタル化における情報欠落を補完して高音質に記録することができない。
【0007】
(3)入力オーディオ信号を広帯域処理した後に、再生処理(D/A変換)を実施するため、オーディオ再生装置全体で見た場合、同一機能ブロックが重複して無駄が多い。
【0008】
本発明の目的は、以上の問題点を解決し、デルタシグマ変調器の構成を拡張して、高音域の帯域を拡張するため、入力信号がアナログ信号であってもデジタル信号であっても簡単な構成で実現できる。更に、デジタルアンプの構成に近いため、デジタルアンプの音質改善が可能であると共に、再生系における同一機能ブロックの重複を避けることができる自然な音質を持つオーディオ信号の帯域を拡張するための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、第1の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、所定の量子化数で量子化する量子化器と、量子化器の入出力の差を算出する第1の加算器と、第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する第1の信号処理器と、入力されるオーディオ信号と第1の信号処理器の出力との差を算出して量子化器に入力する第2の加算器とで構成したデルタシグマ変調器と、量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器と、レベル検出器の出力と第1の加算器の出力を乗算する乗算器と、乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタと、量子化器の出力とバンドパスフィルタの出力とを加算する第3の加算器とを備えたものであり、オーディオ信号の高域に、信号レベルに同期した量子化雑音を付加することにより、帯域を拡張する。
【0010】
第2の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、所定の量子化数で量子化する量子化器と、量子化器の入出力の差を算出して量子化器に入力する第1の加算器と、第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する第1の信号処理器と、入力されるオーディオ信号と第1の信号処理器の出力との差を算出する第2の加算器とで構成したデルタシグマ変調器と、量子化器の出力を基に高調波を生成する第2の信号処理器と、量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器と、レベル検出器の出力と第2の信号処理器の出力を乗算する乗算器と、乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタと、量子化器の出力とバンドパスフィルタの出力とを加算する第3の加算器とを備えたものであり、オーディオ信号の高域に、高調波を付加することにより、帯域を拡張する。
【0011】
第3の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、所定の量子化数で量子化する量子化器と、量子化器の入出力の差を算出して量子化器に入力する第1の加算器と、第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する第1の信号処理器と、入力されるオーディオ信号と第1の信号処理器の出力との差を算出する第2の加算器とで構成したデルタシグマ変調器と、量子化器の出力を基に高調波を生成する第2の信号処理器と、第2の信号処理器の出力と第1の加算器の出力を加算する第4の加算器と、量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器と、レベル検出器の出力と第4の加算器の出力を乗算する乗算器と、乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタと、量子化器の出力と前記バンドパスフィルタの出力とを加算する第3の加算器とを備えたものであり、オーディオ信号の高域に、信号レベルに同期した量子化雑音および高調波を付加することにより、帯域を拡張する。
【0012】
第4の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、第3の加算器の出力を電力増幅する電力増幅器と、電力増幅器の出力から所定の帯域を通過させるローパスフィルタとを備えたものであり、電力増幅器の帯域を拡張する。
【0013】
第5の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、入力されるオーディオ信号は、デジタル信号であり、入力されるオーディオ信号を前記入力されるオーディオ信号の持つ帯域以上の帯域を有する量子化器の量子化数に再量子化されたデジタルオーディオ信号を出力するものであり、デジタルオーディオ信号の帯域を拡張する。
【0014】
第6の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、入力されるオーディオ信号は、アナログ信号であり、入力されるオーディオ信号を入力されるオーディオ信号の持つ帯域以上の帯域を有する量子化器の量子化数を持つデジタル信号に変換したオーディオ信号を出力するものであり、アナログオーディオ信号の帯域を拡張する。
【0015】
第7の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、バンドパスフィルタの出力レベルを調整可能としたものであり、第3の加算器で加算する2つの信号のレベルを相対的に調整できる。
【0016】
第8の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、バンドパスフィルタの低域側の遮断特性を調整可能としたものであり、ユーザーによる音質の選択が出来る。
【0017】
第9の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、バンドパスフィルタの高域側の遮断特性を−6dB/octもしくは−12dB/octとしたものである。
【0018】
第10の発明に係る信号処理プログラムは、第1乃至第3の発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の各構成要素の機能をコンピュータで実行させるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るオーディオ信号の帯域を拡張するための装置によれば、入力されるオーディオ信号をデルタシグマ変調器により所定の量子化数を有するデジタル信号に変換する。その際に発生する量子化雑音をデルタシグマ変調器の出力を基にレベル調整を行い、帯域通過フィルタで帯域制限を行い、入力されたオーディオ信号に加算することにより、帯域拡張を行っている。
【0020】
入力されるアナログオーディオ信号を高精度なデジタル信号に変換する、或いは入力されるデジタル信号を再量子化して高精度なアナログ信号に変換するのに活用されているデルタシグマ変調(シグマデルタ変調)の構成を有するため、入力するオーディオ信号がアナログ信号でもデジタル信号でも入力されたオーディオ信号の帯域が拡張できる効果を有している。
【0021】
更に、デルタシグマ変調器の出力を電力増幅することでデジタルアンプが容易に構成できるため、デジタルアンプの再生信号の帯域拡張が容易となり、デジタルアンプの高音質化が容易となる。また、デジタルアンプで再生帯域の拡張ができるため複数の再生装置で同一の機能を重複することが無くなる効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の構成ブロック図である。図1において、T1は入力端子、T2は出力端子、101,103,110は加算器、107は乗算器、109はアッテネータ、102は量子化器、105はデルタシグマ変調器、104は第1の信号処理器としての信号処理ブロック、106はレベル検出器、108はバンドパスフィルタ(BPF)である。図1を用いて本発明の実施の形態1の動作を説明する。
【0024】
オーディオ信号は、入力端子T1を経由して入力される。入力されたオーディオ信号は、101〜104で構成されるデルタシグマ変調器105にて所定のサンプリング周波数と所定の量子化数を持つデジタル信号に変換される。すなわち、加算器103で量子化器102の入出力差(量子化雑音、量子化ノイズ)を算出し、この量子化雑音を所定の伝達特性(H(z-1))を持つ信号処理ブロック104で処理した後、加算器101は入力端子T1からの入力信号と信号処理ブロック104の出力信号との差を算出し、量子化器102に入力する構成を有している。この様な量子化雑音をある伝達特性で処理して帰還する構成を有することで所望のオーディオ帯域では量子化雑音のレベルが小さくなる様に周波数特性を変化させている。例えば、デルタシグマ変調器105の入力信号をx、出力をy、量子化雑音をNq、信号処理ブロック104の伝達関数をH(z-1)とすると、
y=x+(1−H(z-1))Nq
となる。H(z-1)=z-1とすれば、デルタシグマ変調器105の出力は、
y=x+(1−z-1)Nq
と表され、1次のノイズシェーピング特性を持つことになる。
【0025】
デルタシグマ変調器は、より少ない量子化数で高ダイナミックレンジを得るための手段として公知であり、ここでは詳細の説明は省略する。
【0026】
次に、デルタシグマ変調器105で発生する量子化雑音(加算器103の出力)は、デルタシグマ変調器105が高ダイナミックレンジを有するものであれば、入力との相関が少ない広帯域な無相関ノイズとしての性質を持つ。
【0027】
一方、レベル検出器106は、デルタシグマ変調器105の出力信号の所定帯域の信号レベルを検出する。この検出結果を量子化雑音(加算機103の出力)に乗算器107にて乗算することで、量子化雑音がデルタシグマ変調器105の出力信号の信号レベルに同期した形になる。そして、乗算器107の出力は、バンドパスフィルタ108で所定の帯域のみを通過させる。そして、アッテネータ109でレベルを増加減した後、加算器110にてデルタシグマ変調器105の出力信号に加算して、出力端子T2を介して出力する。
【0028】
以上の様な構成の本発明の実施の形態1に対して、デジタルオーディオ信号を入力した場合を説明する。
【0029】
再生したいデジタルオーディオ信号は、図2に示すオーバーサンプリング型低域通過フィルタ(オーバーサンプリング型LPF)にてオーバーサンプリングされる。図3は、オーバーサンプリング型低域通過フィルタ(オーバーサンプリング型LPF)201の動作説明図である。
【0030】
図2において、ディジタルオーディオ信号がオーバーサンプリング型低域通過フィルタ201に入力される。このディジタルオーディオ信号は、例えばコンパクトディスク(CD)から再生された信号であり、このとき、当該信号は、サンプリング周波数fs=44.1kHzと、語長(量子化数)=16ビットとを有する信号である。オーバーサンプリング型低域通過フィルタ201は、図2に示すように、オーバーサンプリング回路202と、デジタル低域通過フィルタ(LPF)203とを備えて構成され、入力されたデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数fsをp倍(pは、2以上の正の整数である。)し、かつ周波数fs/2から周波数pfs/2までの不要な帯域の信号を60dB以上減衰させるディジタルフィルタ回路である。
【0031】
例えば、p=2であるとき、サンプリング周波数fs(サンプリング周期Ts=1/fs)を有するデジタルオーディオ信号は、オーバーサンプリング回路202に入力され、オーバーサンプリング回路202は、入力されたディジタルオーディオ信号のデータD1に対して、図3に示すように、各隣接する2つのデータD1の中間位置(時間軸に対して)にサンプリング周期TsでゼロデータD2を挿入して補間することによりオーバーサンプリング処理を実行して、サンプリング周波数2fs(サンプリング周期Ts/2)を有するディジタルオーディオ信号に変換した後、デジタル低域通過フィルタ203に出力する。デジタル低域通過フィルタ203は、(a)周波数0〜0.45fsの通過帯域と、(b)周波数0.45fs〜fsの阻止帯域と、(c)周波数fs以上で60dB以上の減衰量とを有して、入力ディジタルオーディオ信号を低域通過ろ波することにより、上記オーバーサンプリング処理により発生される折り返し雑音を除去するように帯域制限して、実質的に入力デジタルオーディオ信号の持つ有効な帯域(周波数0〜0.45fs)のみを通過させるものである。
【0032】
図1の構成に入力する場合のオーバーサンプリング率pは、デルタシグマ変調器105の所望スペックと量子化器102の量子化数及び信号処理ブロック104の特性によって決定される。一般的にはp≧32となる。
【0033】
上記のようにオーバーサンプリングされたデジタルオーディオ信号は、入力端子T1を介して入力される。デルタシグマ変調器105で発生する量子化雑音(入力信号がデジタル信号の場合、再量子化雑音、再量子化ノイズと呼ばれる)は、デルタシグマ変調器105を高性能なものに設計すると、擬似的に入力信号と無相関な広帯域なランダム雑音信号とみなせる。
【0034】
一方、レベル検出器106は、デルタシグマ変調器105の出力信号の所定の帯域(仮に入力信号がCDであれば、10〜20kHz)をフィルタで抽出し、抽出した信号のレベルを求める。ここで、検出する信号のレベルとしては、瞬時値、平均値、エンベロープ等があるが、エンベロープが望ましい。レベル検出器106で検出した信号レベルを乗算器107にて、量子化雑音(加算機103の出力)に乗算する。そして、BPF108にて帯域制限されて帯域拡張信号として生成される。そして、アッテネータ109でレベルを増加減することで調整した後、加算器110にてデルタシグマ変調器105の出力信号に加算する。
【0035】
従って、本実施の形態1によれば、デルタシグマ変調器で発生した量子化雑音を用いて帯域拡張信号を生成し、原信号に加算して帯域拡張できるという特有の効果を有している。
【0036】
ここで、デジタル帯域通過フィルタ(BPF)108は、図4に示すように、高域通過フィルタ(HPF)401と、低域通過フィルタである1/f特性フィルタ402とを縦続接続して構成され、例えば、入力されるディジタルオーディオ信号がCDプレイヤーなどからの圧縮されていないデジタル信号であるとき、帯域通過フィルタ108は好ましくは以下の仕様を有する。
(1)低域側のカットオフ周波数fLC=概略fs/2。
(2)低域側の遮断特性は周波数fs/4で80dB以上の減衰量。その減衰量は、原音の量子化数に基づくSN比近辺となる。例えば原音の量子化数が16ビットであれば、理論SNは98dBとなるので、好ましくは、80〜100dB以上の減衰量を有する。ここで、低域側の遮断特性が緩やかなほど、ソフトな音質となる一方、低域側の遮断特性が急峻なほど、シャープな音質傾向となる。後者の場合、原音の音質傾向を損なうことなく、帯域拡張の効果が出る。従って、デジタル高域通過フィルタ401の、上記低域側の遮断特性を、外部のコントローラからユーザの指示信号に従って例えば上記の2つの特性の間で選択的に変化できるように切り換え可能にすることが好ましい。
(3)高域側のカットオフ周波数fHC=概略fs/2。
(4)高域側の遮断特性は−6dB/oct(図5参照)。
【0037】
ここで、1/f特性フィルタ402は、図5に示すように、周波数0からfs/2までの帯域B1よりも高い、周波数fs/2からp・fs/2までの帯域B2において−6dB/octの傾斜を有する減衰特性を備えた、いわゆる1/f特性の低域通過フィルタである。ここで、pはオーバーサンプリング率である。
【0038】
帯域通過フィルタ108は、入力されるデジタル信号を上述のように帯域通過ろ波して、帯域通過ろ波後のデジタル帯域拡張信号をアッテネータ109を介して加算器110に出力する。さらに、加算器110は、アッテネータ109からのデジタル帯域拡張信号を、デルタシグマ変調器105からのデジタルオーディオ信号に加算することにより、原音のデジタルオーディオ信号に加えてデジタル帯域拡張信号を含むデジタルオーディオ信号を出力端子T2を介して出力する。
【0039】
ここで、アッテネータ109はレベル制御回路であって、入力される信号のレベル(振幅値)を、制御信号に基づいた増幅度(当該増幅度は正の増幅処理もあるが、負の減衰処理も可能である。)で変化させ、入力信号の信号レベルを増加減する。アッテネータ109は、デルタシグマ変調器105からのデジタルオーディオ信号のレベルと、帯域通過フィルタ108からのデジタル帯域拡張信号のレベルとを相対的に調整するために用いられる。この調整は、好ましくは、加算器110において、例えば周波数fs/2においてこれら2つの信号のレベルが実質的に一致するように、すなわちスペクトルの連続性を保持するように設定される。
【0040】
以上の実施の形態1においては、1/f特性フィルタ402を用いているが、本発明はこれに限らず、1/f特性フィルタ402に代えて、図6の減衰特性を有する1/f特性フィルタを備えてもよい。ここで、1/f特性フィルタは、図6に示すように、周波数0からfs/2までの帯域B1よりも高い、周波数fs/2からp・fs/2までの帯域B2において−12dB/octの傾斜を有する減衰特性を備えた、いわゆる1/f特性の低域通過フィルタである。
【0041】
以上の実施の形態1においては、入力されるデジタルオーディオ信号がCDプレイヤーなどからの圧縮されていないデジタル信号であるときの帯域通過フィルタ108の好ましい仕様について説明したが、入力されるデジタルオーディオ信号が、MD(Mini Disc)プレイヤーからのデジタル信号(以下、MD信号という。)、もしくは、MPEG−4のオーディオ信号で用いられるAAC(Advanced Audio Coding)により圧縮符号化されたデジタルオーディオ信号(以下、AAC信号という。)であるときは、帯域通過フィルタ108の低域側及び高域側のカットオフ周波数fs/2を、これらの圧縮音声信号の再生帯域上限周波数に設定することが好ましい。ここで、MD信号及びAAC信号のサンプリング周波数fsは例えば44.1kHz又は48kHzであり、AAC信号のハーフレート信号の場合のサンプリング周波数fsは22.05kHz又は24kHzである。前者の場合において、再生帯域上限周波数は概ね10kHzないし18kHzであり、後者の場合において、再生帯域上限周波数は概ね5kHzないし9kHzである。
【0042】
次に入力信号がアナログオーディオ信号の場合を説明する。入力信号がアナログの場合、図2に示すオーバーサンプリング型LPFは使用せずに、入力端子T1に入力されて、デルタシグマ変調器105にて、デジタル信号に変換される。この場合も、量子化器102で発生する量子化雑音を帯域拡張信号に用い、レベル検出器106で検出した信号と乗算し、バンドパスフィルタ108で帯域制限を施し、アッテネータ109でレベル調整を行い、加算器110にてデルタシグマ変調器105の出力に加算して、出力端子T2を介して出力する構成を有する。入力信号をデジタル信号に変換した後、帯域を拡張することで、基の信号以上に帯域拡張できる。それによって、音質の制御が可能となる特有の効果を有している。
【0043】
更に、図1の出力信号を図7に示す構成に入力することで、D級電力増幅器(デジタルアンプ)を構成できる。
【0044】
図7において、701は入力信号を1ビットのパルス幅信号に変換するPWM、702は、PWM701の出力信号を基に、電力増幅デバイス703及び704を駆動するための信号を生成するドライバーで、ドライバー702と電力増幅デバイス703,704で電力増幅器705を構成する。706はコイル、707はコンデンサでローパスフィルタ708を構成する。
【0045】
すなわち、図1に示す出力端子T2からの出力信号は、デルタシグマ変調器105の量子化器102の量子化数によっても異なるが、図7に示す波形Aの様な多値の信号とする。
【0046】
この信号は、PWM701により、振幅方向の諧調がパルス幅として表現される波形Bに示すような、2値(1ビット)の信号に変換される。そして、電力増幅器705にて電力増幅され波形Cのようになる。次に、所望の特性を持つ(通常は、オーディオ帯域を通過させる)ローパスフィルタ708でろ波されて、波形Dの様なアナログ信号に変換されて、出力端子を経由して負荷(図示していない、通常スピーカ或いはヘッドホーン)に電力を供給する。
【0047】
以上の様な構成で、アナログ入力信号、デジタル入力信号の双方に対応でき且つ再生帯域が広いD級電力増幅器を提供できるという特有の効果を有している。
【0048】
以上説明したように、本発明に係る実施の形態1によれば、入力された信号(アナログ信号またはデジタル信号)を量子化する際に発生する量子化雑音を帯域通過フィルタで帯域制限を行い、レベル制御した後、量子化されたオーディオ信号に加算することにより、帯域拡張を行っている。奇数次高調波成分のみを発生させる従来技術と比較して、本発明の実施の形態1では、広帯域なランダムノイズを用いて帯域拡張信号を生成するため、固有の高調波構造を有さないため自然な感じが得られ、音質上違和感や劣化が無く、オーディオ信号の帯域を拡張できる効果を有している。
【0049】
また、従来例のように帯域拡張を行った後にD/A変換するのではなく、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、或いは、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器を構成するのに用いられるデルタシグマ変調器で発生する量子化雑音を用いて帯域拡張信号を生成して、帯域拡張を行う。このようにA/D変換或いはD/A変換の中で帯域拡張ができるため、ローコスト、省電力で帯域拡張ができる効果と、入力信号がアナログであってもデジタルであっても実現可能な効果を有している。
【0050】
更に、上述のようにデルタシグマ変調器を応用した構成であるため、デジタルアンプ(D級アンプ)での帯域拡張の実現が容易である効果を有している。
【0051】
なお、本実施の形態1では、T2からの出力信号を多値のデジタル信号として説明したが、2値のデジタル信号の場合は、PWM701を経由せずに、直接ドライバ702に入力すればよいことは言うまでもない。
【0052】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2におけるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の構成ブロック図である。図8において、実施の形態1で説明したものと同じ番号が記載されているブロックは、同一の機能を有しているため、本実施の形態2では説明を省略する。デルタシグマ変調器105から出力された信号は、第2の信号処理器としての非線形処理ブロック801にて、非線形処理されることで、高調波を生成する。この高調波を含む非線形処理ブロック801の出力信号は、レベル検出器106の出力との積を乗算器107で行い、バンドパスフィルタ108にて所望の帯域を取り出し、帯域拡張信号を生成して、アッテネータ109にてレベルを増加減することで調整を行い、加算器110にて、デルタシグマ変調器105の出力と加算する構成を持つ。
【0053】
ここで高調波を生成する非線形処理ブロック801は、例えば、入力信号を半波整流、全波整流、二乗等の処理をする簡単な構成でも良い。また、オーディオ増幅器が発生する高調波構造や楽器が発生する高調波構造等をシミュレートして発生させても良い。
【0054】
以上説明したように、本発明に係る実施の形態2によれば、入力された信号(アナログ信号またはデジタル信号)をデルタシグマ変調器で量子化し、その出力を基に高調波を生成し、帯域通過フィルタで帯域制限を行い、レベル制御した後、デルタシグマ変調器の出力オーディオ信号に加算することにより、帯域拡張を行っている。
【0055】
本実施の形態は、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換、或いは、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換をデルタシグマ変調方式とし、その構成するのに用いられるデルタシグマ変調器に高調波を発生するブロックを付加して帯域制限することで帯域拡張信号を生成して、デルタシグマ変調器の出力に加算するという簡単な構成で実現できるため、ローコスト、省電力で帯域拡張ができる効果と、入力信号がアナログであってもデジタルであっても実現可能な効果を有している。
【0056】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3におけるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の構成ブロック図である。図9において、実施の形態1及び2で説明したものと同じ番号が記載されているブロックは、同一の機能を有しているため、本実施の形態3では説明を省略する。デルタシグマ変調器105から出力された信号は、非線形処理ブロック801にて、非線形処理されることで、高調波を生成する。この高調波を含む非線形処理ブロック801の出力信号は、アッテネータ901でレベルを増加減する。また、デルタシグマ変調器105で発生する量子化雑音(加算器103の出力)はアッテネータ902でレベルが増加減される。そして、アッテネータ901,902の出力は、加算器903で加算される。そして、この加算結果は、レベル検出器106の出力との積を乗算器107で行い、バンドパスフィルタ108にて所望の帯域を取り出し、帯域拡張信号を生成して、アッテネータ109にてレベルを増加減することで調整を行い、加算器110にて、デルタシグマ変調器105の出力と加算する構成を持つ。
【0057】
ここで帯域拡張信号として、デルタシグマ変調器105の出力を基に高調波を生成した信号に、デルタシグマ変調器105で発生する量子化雑音用いた広帯域ランダムノイズを加算したものを帯域制限して帯域拡張信号を生成している。
【0058】
そのため、実施の形態1及び2で述べた作用効果に加えて、原音(入力信号)に基づいて生成したランダム信号を帯域拡張信号として使用することで、高調波のみの帯域拡張信号に比べて、より自然に聴こえるという特有の効果を有している。
【0059】
以上の実施の形態1から3においては、オーディオ信号の帯域を拡張するための装置を、ハードウエアのディジタル信号処理回路で構成しているが、本発明はこれに限らず、例えば、図1、図8及び図9の構成を信号処理プログラムで実現して、当該信号処理プログラムをDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)により実行してもよい。
【0060】
なお、図1、図8及び図9におけるアッテネータ109,901,902は、他のブロックにレベルを増加減できる機能があれば、省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明にかかるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置は、オーディオ機器におけるオーディオ信号、特に高音域の音質の向上を図り、人間の耳に快適なオーディオ信号の再生が可能になるので、A/D変換器、D/A変換器並びにデジタルアンプの高音質化
等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1におけるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の構成を示すブロック図
【図2】オーバーサンプリング型LPF201の構成を示すブロック図
【図3】オーバーサンプリングの動作の説明図
【図4】バンドパスフィルタ108の構成を示すブロック図
【図5】バンドパスフィルタ108の特性の説明図
【図6】バンドパスフィルタ108の特性の説明図
【図7】D級電力増幅器の構成を示すブロック図
【図8】本発明の実施の形態2におけるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の構成を示すブロック図
【図9】本発明の実施の形態3におけるオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の構成を示すブロック図
【図10】従来技術のオーディオ信号再生装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0063】
101 加算器
102 量子化器
103 加算器
104 信号処理ブロック
105 デルタシグマ変調器
106 レベル検出器
107 乗算器
108 バンドパスフィルタ
109 アッテネータ
110 加算器
705 電力増幅器
708 ローパスフィルタ
801 非線形処理ブロック
901,902 アッテネータ
903 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の量子化数で量子化する量子化器と、
前記量子化器の入出力の差を算出する第1の加算器と、
前記第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する第1の信号処理器と、
入力されるオーディオ信号と前記第1の信号処理器の出力との差を算出して前記量子化器に入力する第2の加算器と
で構成したデルタシグマ変調器と、
前記量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器と、
前記レベル検出器の出力と前記第1の加算器の出力を乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタと、
前記量子化器の出力と前記バンドパスフィルタの出力とを加算する第3の加算器とを備えたオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項2】
所定の量子化数で量子化する量子化器と、
前記量子化器の入出力の差を算出する第1の加算器と、
前記第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する第1の信号処理器と、
入力されるオーディオ信号と前記第1の信号処理器の出力との差を算出して前記量子化器に入力する第2の加算器と
で構成したデルタシグマ変調器と、
前記量子化器の出力を基に高調波を生成する第2の信号処理器と、
前記量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器と、
前記レベル検出器の出力と前記第2の信号処理器の出力を乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタと、
前記量子化器の出力と前記バンドパスフィルタの出力とを加算する第3の加算器とを備えたオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項3】
所定の量子化数で量子化する量子化器と、
前記量子化器の入出力の差を算出する第1の加算器と、
前記第1の加算器の出力を所定の伝達特性で処理する第1の信号処理器と、
入力されるオーディオ信号と前記第1の信号処理器の出力との差を算出して前記量子化器に入力する第2の加算器と
で構成したデルタシグマ変調器と、
前記量子化器の出力を基に高調波を生成する第2の信号処理器と、
前記第2の信号処理器の出力と前記第1の加算器の出力を加算する第4の加算器と、
前記量子化器の出力の所定の帯域のレベルを検出するレベル検出器と、
前記レベル検出器の出力と前記第4の加算器の出力を乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力の所定の帯域を通過させるバンドパスフィルタと、
前記量子化器の出力と前記バンドパスフィルタの出力とを加算する第3の加算器とを備えたオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項4】
前記第3の加算器の出力を電力増幅する電力増幅器と、
前記電力増幅器の出力から所定の帯域を通過させるローパスフィルタとを備えたことを特徴とする請求項1乃至3記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項5】
前記入力されるオーディオ信号は、デジタル信号であり、前記入力されるオーディオ信号を前記入力されるオーディオ信号の持つ帯域以上の帯域を有する前記量子化器の量子化数に再量子化されたデジタルオーディオ信号を出力することを特徴とする請求項1乃至4記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項6】
前記入力されるオーディオ信号は、アナログ信号であり、前記入力されるオーディオ信号を前記入力されるオーディオ信号の持つ帯域以上の帯域を有する前記量子化器の量子化数を持つデジタル信号に変換したオーディオ信号を出力することを特徴とする請求項1乃至4記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項7】
前記バンドパスフィルタの出力レベルを調整可能としたことを特徴とする請求項1乃至3記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項8】
前記バンドパスフィルタの低域側の遮断特性を調整可能としたことを特徴とする請求項1乃至3記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項9】
前記バンドパスフィルタの高域側の減衰特性を−6dB/octもしくは−12dB/octとしたことを特徴とする請求項1乃至3記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置。
【請求項10】
請求項1乃至3記載のオーディオ信号の帯域を拡張するための装置の各構成要素の機能をコンピュータで実行させるための信号処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−334173(P2007−334173A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168319(P2006−168319)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】