説明

オートテンショナ

【課題】補機ベルトの張力が過大となったときに、ロッドがシリンダ内に過度に押し込まれにくいオートテンショナを提供する。
【解決手段】シリンダ9の底8に形成したスリーブ嵌合凹部11にスリーブ10の下部外周を嵌め合わせ、そのスリーブ10内にロッド12を摺動可能に挿入してシリンダ9内を圧力室13とリザーバ室14に区画し、チェックバルブ21を設けた第1通路20を介して圧力室13とリザーバ室14を連通し、絞り隙間23を設けた第2通路22を介して圧力室13とリザーバ室14を連通し、ロッド12の上端に固定したばね座16を、ロッド12がスリーブ10から突出する方向に付勢するリターンスプリング18を設けたオートテンショナ5において、リターンスプリング18を、直径が互いに異なり、並列に配置された2本のコイルばね18A,18Bで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オルタネータ等の自動車補機を駆動するベルトの張力保持に用いられるオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機、たとえばオルタネータやカーエアコンやウォータポンプなどは、その回転軸がエンジンのクランクシャフトに補機ベルトで連結されており、その補機ベルトを介して駆動される。この補機ベルトの張力を適正範囲に保つために、一般に、支点軸を中心として揺動可能に設けたプーリアームと、そのプーリアームに回転可能に取り付けたテンションプーリと、そのテンションプーリを補機ベルトに押さえ付ける方向にプーリアームを付勢するオートテンショナとからなる張力調整装置が使用される。
【0003】
この張力調整装置に組み込まれるオートテンショナとして、下部に底を有するシリンダ内に作動油を溜め、そのシリンダの底に形成したスリーブ嵌合凹部にスリーブの下部外周を嵌め合わせ、そのスリーブ内にロッドを摺動可能に挿入してシリンダ内を圧力室とリザーバ室に区画し、前記ロッドの上端に固定したばね座を、前記ロッドがスリーブから突出する方向に付勢するリターンスプリングを設けたものが知られている(特許文献1)。
【0004】
このオートテンショナは、リターンスプリングのばね荷重が補機ベルトの張力とつり合う位置までロッドが移動することにより、補機ベルトの張力変動を吸収する。
【0005】
また、圧力室の下部とリザーバ室の下部は、リザーバ室側から圧力室側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブを設けた第1通路を介して連通しており、ロッドがスリーブから突出する方向(以下、「突出方向」という)に移動すると、圧力室内の圧力が低下して前記チェックバルブが開き、第1通路を通ってリザーバ室側から圧力室側に作動油が流れる。そのため、突出方向には、ロッドが速やかに移動する。
【0006】
また、圧力室の上部とリザーバ室の上部は、作動油の流量を制限する絞りを設けた第2通路を介して連通しており、ロッドがスリーブ内に押し込まれる方向(以下、「押し込み方向」という)に移動すると、圧力室内の圧力が上昇して前記チェックバルブが閉じ、圧力室内の作動油が第2通路を通って流出する。このとき、第2通路を流れる作動油の粘性抵抗によってダンパー作用が生じるので、ロッドはゆっくりと移動する。
【0007】
ところで、車両が信号などで一時停止したときに、エンジンが自動的に停止するアイドルストップ対応車においては、補機ベルトに接続されるオルタネータとして、モータと発電機の両方の機能を有するモータジェネレータが搭載されている。このモータジェネレータは、エンジン始動時はモータとして作動し、その回転が補機ベルトを介してクランクシャフトに伝達することにより、エンジンを始動させる。一方、エンジン作動中は発電機として作動してバッテリの充電等を行なう。
【0008】
このようなアイドルストップ対応車においては、エンジン作動中はクランクシャフトが駆動軸として補機ベルトを駆動し、一方、エンジン始動時はモータジェネレータが駆動軸として補機ベルトを駆動するので、エンジン作動中に補機ベルトの弛み側となる部分が、エンジン始動時には張り側となる。そのため、エンジン作動中に補機ベルトの弛み側となる部分の張力をオートテンショナで保持する場合、エンジン始動時にロッドがシリンダ内に過度に押し込まれ、その結果、テンションプーリが大きく移動して補機ベルトにスリップが生じ、エンジンが円滑に始動できない可能性がある。
【0009】
そこで、このアイドルストップ対応車の円滑なエンジン始動を図ることを目的として、特許文献1に記載のオートテンショナは、前記第2通路に電磁開閉弁を組み込んでおり、この電磁開閉弁に通電して第2通路を閉じることによって、押し込み方向へのロッドの移動を阻止することができるようになっている。そのため、電磁開閉弁に通電すると、エンジン始動時に補機ベルトの張力が大きくなってもロッドの位置が固定され、補機ベルトのスリップを防止することが可能である。
【0010】
しかし、このオートテンショナを使用した場合でも、電磁開閉弁に通電するタイミングが遅れたり、電磁開閉弁が故障したりすると、ロッドがシリンダ内に過度に押し込まれる可能性があり、この場合、補機ベルトにスリップが生じて、エンジンが円滑に始動できないおそれがある。
【0011】
そこで、ロッドがシリンダ内に過度に押し込まれるのを防止するため、ばね定数の大きいばねをリターンスプリングとして用いることが考えられるが、このようにすると、ロッドのストロークに対するリターンスプリングのばね荷重の変化が大きすぎて、補機ベルトの張力が不安定となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−016932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、補機ベルトの張力が過大となったときに、ロッドがシリンダ内に過度に押し込まれにくいオートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、直径が互いに異なり、並列に配置された複数本のコイルばねで前記リターンスプリングを構成した。このようにすると、無負荷時の高さが互いに異なる複数本のコイルばねを組み合わせることにより、ロッドが通常のストローク範囲にあるときは、ロッドのストロークに対するばね荷重の変化が緩やかであり、ロッドが大きく押し込まれた状態では、ばね荷重が十分に増加してロッドの過度の押し込みを防止するリターンスプリングを得ることができる。
【0015】
前記複数本のコイルばねは、隣り合うコイルばねのコイルの巻き方向を逆にすると、そのコイルばね同士が噛み合うのを防止することができる。
【0016】
また、前記複数本のコイルばねのうち、最も小径のコイルばねは、前記スリーブの外周に嵌め合わせると好ましい。このようにすると、最も小径のコイルばねの形状がスリーブで保持され、胴曲がりが生じにくい。
【0017】
また、上下に伸縮可能な筒状のベローズの上部を前記ばね座の外周に嵌め合わせて固定し、そのベローズの下部を前記シリンダの外周に嵌め合わせて固定し、そのベローズでシリンダ内の作動油を密封することができる。この場合、前記ばね座から前記シリンダ内を下方に延びる円筒状のスカートを設け、前記複数本のコイルばねのうち、最も大径のコイルばねを前記スカート内に嵌め込むと好ましい。このようにすると、最も大径のコイルばねの上部外周がスカートで覆われるので、ベローズがコイルばねに接触して傷つくのを防止することができる。
【0018】
また、前記ばね座から前記シリンダ内を下方に延びる円筒状のスカートを設け、そのスカートに摺接する環状のシール部材を前記シリンダの内周に装着し、そのシール部材でシリンダ内の作動油を密封してもよい。この場合も、前記複数本のコイルばねのうち、最も大径のコイルばねを前記スカート内に嵌め込むと好ましい。このようにすると、最も大径のコイルばねの径方向位置をスカートで保つことができる。
【0019】
前記第2通路は、前記ロッドとスリーブの摺動面間に形成される環状の絞り隙間と、その絞り隙間からロッドの内部とばね座の内部とを順に通ってリザーバ室に連通する油通路とで構成し、その第2通路の電磁開閉弁を前記ばね座に組み込むことができる。このようにすると、その電磁開閉弁で第2通路を閉じることにより、押し込み方向へのロッドの移動を阻止することができる。そのため、エンジン始動時に第2通路を閉じると、補機ベルトの張力が大きくなってもロッドの位置が固定され、補機ベルトのスリップを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
この発明のオートテンショナは、ロッドが通常のストローク範囲にあるときは、ロッドのストロークに対するリターンスプリングのばね荷重の変化が緩やかであり、ロッドが大きく押し込まれた状態では、リターンスプリングのばね荷重が十分に増加してロッドの過度の押し込みを防止する。そのため、補機ベルトの張力が過大となったときに、ロッドがシリンダ内に過度に押し込まれにくく、補機ベルトのスリップを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の第1実施形態のオートテンショナを組み込んだ張力調整装置を示す正面図
【図2】図1に示すオートテンショナの拡大断面図
【図3】図2のリターンスプリング上端近傍の拡大断面図
【図4】図3に示すロッドをストロークエンドまで突出させた状態を示す図
【図5】この発明の第2実施形態のオートテンショナを組み込んだ張力調整装置を示す正面図
【図6】図5のVI−VI線に沿った拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、アイドルストップ対応車の補機ベルト1の張力調整装置を示す。この張力調整装置は、エンジンブロック(図示せず)に固定された支点軸2を中心として揺動可能に支持されたプーリアーム3と、プーリアーム3に回転可能に取り付けたテンションプーリ4とを有する。
【0023】
プーリアーム3には、この発明の第1実施形態に係るオートテンショナ5の一端が連結軸6を介して回転可能に連結され、オートテンショナ5の他端が、エンジンブロックに固定された支点軸7で支持されている。オートテンショナ5は、テンションプーリ4を補機ベルト1に押さえ付ける方向にプーリアーム3を付勢している。補機ベルト1は、エンジン作動中、図示しないクランクシャフトで駆動され、テンションプーリ4は、このとき補機ベルト1の弛み側となる部分に接触している。
【0024】
図2に示すように、オートテンショナ5は、下部に底8を有するシリンダ9を有し、そのシリンダ9内に作動油が溜められている。また、シリンダ9内には、シリンダ9と同軸にスリーブ10が挿入され、そのスリーブ10の下部外周が、シリンダ9の底8に形成されたスリーブ嵌合凹部11に嵌め合わされている。スリーブ10内には、ロッド12が軸方向に摺動可能に挿入されており、そのロッド12とスリーブ10によって、シリンダ9内が圧力室13とリザーバ室14に区画されている。
【0025】
ロッド12は、スリーブ10の上部内周に取り付けられた止め輪15よりも下側で摺動する摺動軸部12Cと、その摺動軸部12Cの上方に連なってスリーブ10から突出する小径軸部12Bと、その小径軸部12Bの上方に連なる大径軸部12Aとからなる。ここで、小径軸部12Bは、止め輪15の内径よりも小径の部分であり、大径軸部12Aは、止め輪15の内径よりも大径の部分である。
【0026】
このロッド12は、大径軸部12Aの下端を止め輪15で係止することによって、スリーブ10内に押し込まれる方向のロッド12の移動ストロークが規制され、また、摺動軸部12Cの上端を止め輪15で係止することによって、スリーブ10から突出する方向のロッド12の移動ストロークが規制されている。
【0027】
ロッド12の上端には、ばね座16が固定されている。シリンダ9とばね座16の間の環状開口は、上下に伸縮可能な筒状のゴム製ベローズ17で閉鎖されている。ベローズ17の上部内周は、ばね座16の外周に嵌め合わされ、ベローズ17の下部内周は、シリンダ9の外周に嵌め合わされており、このベローズ17で、シリンダ9内の作動油が密封されている。
【0028】
ばね座16とシリンダ9の底8との間には、リターンスプリング18が組み込まれている。リターンスプリング18は、シリンダ9内に並列に配置された第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bとからなる。第2コイルばね18Bは、第1コイルばね18Aよりも直径が大きく、第1コイルばね18Aの外周を囲むように同軸に配置されている。第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bは、その下端がシリンダ9の底8で支持され、上端がばね座16を押圧しており、その押圧によって、ロッド12がスリーブ10から突出する方向にばね座16を付勢している。
【0029】
第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bは、その巻き方向が互いに逆(図では、第1コイルばね18Aが左巻き、第2コイルばね18Bが右巻き)となるように形成されており、これにより、隣り合う第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bが互いに噛み合うのを防止している。
【0030】
第1コイルばね18Aは、スリーブ10の外周に軸方向に摺動可能に嵌め合わされている。そのため、第1コイルばね18Aの形状がスリーブ10で保持され、胴曲がりが生じにくい。
【0031】
図3に示すように、ばね座16からシリンダ9内を下方に延びる円筒状のスカート19が、ばね座16と一体に形成されており、そのスカート19内に第2コイルばね18Bが軸方向に摺動可能に嵌め込まれている。スカート19は、第2コイルばね18Bの上部外周を覆い、ベローズ17が第2コイルばね18Bに接触して傷つくのを防止している。また、スカート19は、第2コイルばね18Bの径方向位置を保つ。
【0032】
図4に示すように、第2コイルばね18Bは、第1コイルばね18Aよりも無負荷時の高さが低くなるように形成されている。第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bからなるリターンスプリング18は、ロッド12が通常のストローク範囲にあるときは、第1コイルばね18Aが主としてばね荷重を発揮するので、ロッド12のストロークに対するばね荷重の変化が緩やかであり、また、ロッド12が大きく押し込まれた状態では、第2コイルばね18Bのばね荷重が大きくなるので、第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bを合わせたばね荷重が十分に増加して、ロッド12の過度の押し込みを防止する。
【0033】
図2に示すように、スリーブ嵌合凹部11とスリーブ10の嵌合面間には、圧力室13の下部とリザーバ室14の下部を連通する第1通路20が形成されている。また、スリーブ10の下部には、圧力室13側からリザーバ室14側への第1通路20の作動油の流れを防止するチェックバルブ21が組み込まれている。
【0034】
圧力室13の上部とリザーバ室14の上部は、第2通路22を介して連通している。第2通路22は、スリーブ10とロッド12の摺動面間に形成された環状の絞り隙間23と、その絞り隙間23からロッド12の内部とばね座16の内部とを順に通ってリザーバ室14に連通する油通路24とからなる。
【0035】
ここで、摺動軸部12Cの外周にはOリング25が取り付けられ、このOリング25によって摺動軸部12Cとスリーブ10の摺動面間がシールされている。また、摺動軸部12Cの外周には、Oリング25よりも下側に油通路24の圧力室13側の端部が開口している。絞り隙間23は、第2通路22の作動油の流量を制限する絞りとして機能する。
【0036】
ばね座16には、圧力室13側からリザーバ室14側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブ26と、通電・非通電の切り換えによって第2通路22を開閉する電磁開閉弁27とが組み込まれている。
【0037】
次に、オートテンショナ5の動作例を説明する。このオートテンショナ5は、エンジンを始動するときは、電磁開閉弁27に通電して第2通路22を閉じた状態で使用し、エンジン作動中は、電磁開閉弁27の通電を遮断して第2通路22を開いた状態で使用する。
【0038】
エンジン作動中、補機ベルト1の張力が小さくなると、補機ベルト1の張力とリターンスプリング18の付勢力がつり合う位置までロッド12がスリーブ10から突出し、補機ベルト1の弛みを吸収する。このとき、圧力室13内の圧力が低下してチェックバルブ21が開き、第1通路20を通ってリザーバ室14から圧力室13に作動油が流れるので、ロッド12は速やかに移動する。
【0039】
一方、エンジン作動中に、補機ベルト1の張力が大きくなると、補機ベルト1の張力とリターンスプリング18の付勢力がつり合う位置までロッド12がスリーブ10内に押し込まれ、補機ベルト1の緊張を吸収する。このとき、圧力室13内の圧力が上昇してチェックバルブ21が閉じ、圧力室13内の作動油が第2通路22を通ってリザーバ室14に流出し、その作動油の粘性抵抗によってダンパー力が生じるので、ロッド12はゆっくりと移動する。
【0040】
エンジンを始動するときは、補機ベルト1のテンションプーリ4が接触する部分が張り側となるので、補機ベルト1の張力が急激に大きくなるが、このとき、電磁開閉弁27が第2通路22を閉じているので、押し込み方向にはロッド12が移動しない。そのため、テンションプーリ4の位置が固定され、補機ベルト1のスリップが発生しにくい。
【0041】
ここで、電磁開閉弁27に通電するタイミングが遅れた場合や、電磁開閉弁27が故障した場合、補機ベルト1の張力によってロッド12がスリーブ10に大きく押し込まれるが、この場合、リターンスプリング18のばね荷重が十分に増加するので、ロッド12の過度の押し込みを防止することができる。
【0042】
ところで、ロッド12の過度の押し込みを防止するために、ばね定数の大きい単一のコイルばねをリターンスプリング18として用いることが考えられるが、このようにすると、ロッド12のストロークに対するリターンスプリング18のばね荷重の変化が大きすぎて、補機ベルト1の張力が不安定となるおそれがある。
【0043】
これに対し、このオートテンショナ5は、ロッド12が通常のストローク範囲にあるときは、ロッド12のストロークに対するリターンスプリング18のばね荷重の変化が緩やかであり、補機ベルト1の張力が安定する。しかも、ロッド12が大きく押し込まれた状態では、リターンスプリング18のばね荷重が十分に増加してロッド12の過度の押し込みを防止するので、補機ベルト1の張力が過大となったときに、ロッド12がシリンダ9内に過度に押し込まれにくく、補機ベルト1のスリップを防止することができる。
【0044】
図5、図6に、この発明の第2実施形態のオートテンショナ31を示す。第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
図6に示すように、ロッド12の下部外周に形成された止め輪溝32に、C形リング状の止め輪33が装着されている。また、スリーブ10の内周には、上側を小径とする段部34が形成されており、その段部34で止め輪33を係止することによって、スリーブ10から突出する方向のロッド12の移動ストロークを規制するようになっている。
【0046】
ばね座16には、二重円筒状のスカート35が取り付けられている。スカート35は内筒35Aと外筒35Bからなり、内筒35Aは、ばね座16からシリンダ9内を下方に延びる円筒状に形成されている。シリンダ9の内周には、内筒35Aの外周に摺接する環状のシール部材36が装着され、そのシール部材36でシリンダ9内の作動油が密封されている。シール部材36としては、例えば、オイルシールや、Oリング、Xリング等を使用することができる。
【0047】
リターンスプリング18は、第1実施形態と同様、シリンダ9内に並列に配置された第1コイルばね18Aと第2コイルばね18Bからなる。第2コイルばね18Bは、スカート35の内筒35Aに軸方向に摺動可能に嵌め込まれており、これにより、第2コイルばね18Bの径方向位置が保たれている。
【0048】
スリーブ嵌合凹部11とスリーブ10の嵌合面間には、圧力室13の下部とリザーバ室14の下部を連通する第1通路20が形成されている。スリーブ10の下部内周には、シールリング37が軸方向に摺動可能に設けられており、そのシールリング37で、第1通路20の圧力室13側の開口が閉鎖可能となっている。ここで、シールリング37は、圧力室13側からリザーバ室14側への第1通路20の作動油の流れを防止するチェックバルブとして機能する。
【0049】
スリーブ10とロッド12の摺動面間には、圧力室13の上部とリザーバ室14の上部を連通する第2通路22が設けられている。第2通路22は、その流路面積が小さく、作動油の流量を制限する絞りとして機能する。
【0050】
このオートテンショナ31は、第1実施形態と同様、ロッド12が通常のストローク範囲にあるときは、ロッド12のストロークに対するリターンスプリング18のばね荷重の変化が緩やかであり、ロッド12が大きく押し込まれた状態では、リターンスプリング18のばね荷重が十分に増加してロッド12の過度の押し込みを防止する。そのため、補機ベルト1の張力が過大となったときに、ロッド12がシリンダ9内に過度に押し込まれにくく、補機ベルト1のスリップを防止することができる。
【0051】
上記各実施形態では、リターンスプリング18が2本のコイルばね18A,18Bからなるオートテンショナを例に挙げて説明したが、リターンスプリング18は、2本以上のコイルばねで構成してもよい。
【符号の説明】
【0052】
5 オートテンショナ
8 底
9 シリンダ
10 スリーブ
11 スリーブ嵌合凹部
12 ロッド
13 圧力室
14 リザーバ室
16 ばね座
17 ベローズ
18 リターンスプリング
18A 第1コイルばね
18B 第2コイルばね
19 スカート
20 第1通路
21 チェックバルブ
22 第2通路
23 絞り隙間
24 油通路
27 電磁開閉弁
31 オートテンショナ
35 スカート
36 シール部材
37 シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に底(8)を有するシリンダ(9)内に作動油を溜め、そのシリンダ(9)の底(8)に形成したスリーブ嵌合凹部(11)にスリーブ(10)の下部外周を嵌め合わせ、そのスリーブ(10)内にロッド(12)を摺動可能に挿入してシリンダ(9)内を圧力室(13)とリザーバ室(14)に区画し、リザーバ室(14)側から圧力室(13)側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブ(21,37)を設けた第1通路(20)を介して前記圧力室(13)とリザーバ室(14)を連通し、作動油の流量を制限する絞り(23)を設けた第2通路(22)を介して前記圧力室(13)とリザーバ室(14)を連通し、前記ロッド(12)の上端に固定したばね座(16)を、前記ロッド(12)がスリーブ(10)から突出する方向に付勢するリターンスプリング(18)を設けたオートテンショナにおいて、
前記リターンスプリング(18)が、直径が互いに異なり、並列に配置された複数本のコイルばね(18A,18B)からなることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記複数本のコイルばね(18A,18B)の無負荷時の高さが互いに異なる請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
隣り合うコイルばね(18A,18B)のコイルの巻き方向を互いに逆とした請求項1または2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記複数本のコイルばね(18A,18B)のうち、最も小径のコイルばね(18A)を前記スリーブ(10)の外周に嵌め合わせた請求項1から3のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項5】
上下に伸縮可能な筒状のベローズ(17)の上部を前記ばね座(16)の外周に嵌め合わせて固定し、そのベローズ(17)の下部を前記シリンダ(9)の外周に嵌め合わせて固定し、そのベローズ(17)でシリンダ(9)内の作動油を密封した請求項1から4のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記ばね座(16)から前記シリンダ(9)内を下方に延びる円筒状のスカート(19)を設け、前記複数本のコイルばね(18A,18B)のうち、最も大径のコイルばね(18B)を前記スカート(19)内に嵌め込んだ請求項5に記載のオートテンショナ。
【請求項7】
前記ばね座(16)から前記シリンダ(9)内を下方に延びる円筒状のスカート(35)を設け、そのスカート(35)に摺接する環状のシール部材(36)を前記シリンダ(9)の内周に装着し、そのシール部材(36)でシリンダ(9)内の作動油を密封した請求項1から4のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項8】
前記複数本のコイルばね(18A,18B)のうち、最も大径のコイルばね(18B)を前記スカート(35)内に嵌め込んだ請求項7に記載のオートテンショナ。
【請求項9】
前記第2通路(22)を、前記ロッド(12)とスリーブ(10)の摺動面間に形成される環状の絞り隙間(23)と、その絞り隙間(23)からロッド(12)の内部とばね座(16)の内部とを順に通ってリザーバ室(14)に連通する油通路(24)とで構成し、その第2通路(22)の電磁開閉弁(27)を前記ばね座(16)に組み込んだ請求項1から8のいずれかに記載のオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−249273(P2010−249273A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101012(P2009−101012)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】