説明

オートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡

【課題】オートフォーカス制御時に対物レンズと標本の衝突を防止する機能を有する焦点位置調節レンズを備えたオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡を提供すること。
【解決手段】フォーカス用の光源からの光に基づく光像を対物レンズを介し観察対象物上に結像させるフォーカス用照明光学系5と、前記観察対象物からの前記光像の反射光を前記対物レンズを介して受光し前記光像の反射像を光電変換器30の受光面に結像させるフォーカス用結像光学系7と、前記フォーカス用結像光学系の光軸上に設置され、前記光軸方向に移動可能な焦点位置調節レンズ8を有し、前記光電変換器の信号により前記対物レンズの焦点位置を調節するとき、前記対物レンズの特性に基づき前記焦点位置調節レンズの前記光軸方向の移動範囲を制限する焦点位置調節レンズ移動制御部を有するオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡のオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物顕微鏡において、スリット状の光像を照明光を標本に照射し、その反射光を用いて対物レンズの前側焦点に標本の観察位置を位置決めし、かつ焦点検出光学系に設けられた焦点位置調節レンズを焦点検出光学系の光軸に沿って移動させることにより、対物レンズの前側焦点を標本に対して移動するオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−70276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されているオートフォーカス装置では、焦点位置調節レンズを焦点検出光学系の光軸に沿って移動させた際、オートフォーカス制御に使用するカバーガラスやカバーガラスと標本との境界面における反射像以外の別の光像(本明細書中では以後、迷光と記す)を生じる対物レンズがあることが判明した。このような対物レンズを使用してオートフォーカス制御を行うと、誤った焦点検出情報に基づきオートフォーカス制御を行うため、対物レンズが標本に衝突する虞がある。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みて行われたものであり、オートフォーカス制御時に対物レンズと標本の衝突を防止する機能を有する焦点位置調節レンズを備えたオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、フォーカス用の光源と、前記光源からの光に基づく光像を対物レンズを介し観察対象物上に結像させるフォーカス用照明光学系と、前記観察対象物からの前記光像の反射光を前記対物レンズを介して受光し前記光像の反射像を光電変換器の受光面に結像させるフォーカス用結像光学系と、前記フォーカス用結像光学系の光軸上に設置され、前記光軸方向に移動可能な焦点位置調節レンズを有し、前記光電変換器の信号により前記対物レンズの焦点位置を調節するオートフォーカス装置において、前記対物レンズの特性に基づき前記焦点位置調節レンズの前記光軸方向の移動範囲を制限する焦点調節レンズ移動制御部を有することを特徴とするオートフォーカス装置を提供する。
【0006】
また、本発明は、前記オートフォーカス装置を有することを特徴とする顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オートフォーカス制御時に対物レンズと標本の衝突を防止する機能を有する焦点位置調節レンズを備えたオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施の形態に関し図面を参照しつつ説明する。
【0009】
図1は、本発明にかかるオートフォーカス装置を搭載した顕微鏡の概略構成図である。この顕微鏡は、観察の対象物である標本の拡大像を形成して観察に使用するものであり、図3等に示すように観察の対象物である標本18は水等の媒質に浸された状態でカバーガラス14およびスライドガラス15に挟まれてステージ11上に載置されている。
【0010】
図1において、本発明に係る顕微鏡の光学系は、標本の上部に配置されている観察光学系3と、その側方に配置された本発明に係るオートフォーカス装置の光学系であるフォーカス用照明光学系5およびフォーカス用結像光学系7により構成されている。
【0011】
フォーカス用照明光学系5は、その光軸上に、LED光源20側から順に、第1コレクタレンズ21、スリット板22、第2コレクタレンズ23、第1瞳制限マスク24、第1ハーフミラー25、焦点位置調節レンズ8及び可視光カットフィルタ10が配設されて構成されている。スリット板22の中央部には長方形の細長いスリット開孔22aが形成されており、スリット板22は、スリット開孔22aの長手方向が図1において紙面に垂直方向に延びるように光軸を中心に配設されている。
【0012】
LED光源20から出射された赤外光(近赤外光)は第1コレクタレンズ21で集光されてスリット板22に入射し、標本面(カバーガラス14と標本が浸された媒質との境界面)と共役位置に配置したスリット板22のスリット開孔22aを通り、第2コレクタレンズ23で平行光に変換され、第1瞳制限マスク24に照射される。
【0013】
第1瞳制限マスク24は、瞳の半分を遮光するものであり、光軸を中心にスリット状の赤外光の長手方向の中心線にそって半分が遮光されるように配設されている。第1瞳制限マスク24を通過した赤外光Laは、第1ハーフミラー25を透過する。なお、第1ハーフミラー25は、フォーカス用照明光学系5とフォーカス用結像光学系7の光軸が交差する点に配設されており、赤外光の一部を反射して、他の一部を透過するものであり、後述するように、フォーカス用結像光学系7でも共用されている。
【0014】
フォーカス用照明光学系5と観察光学系3の光軸が交差する点には、ダイクロイックミラー16が配設されており、後述するように観察光学系3でも共用されている。ダイクロイックミラー16は、観察光学系3の観察光路上のアフォーカル系に配設され、赤外光を反射して可視光や蛍光を透過する作用をする。第1ハーフミラー25を透過した赤外光Laは焦点位置調節レンズ8を透過した後、可視光カットフィルタ10で赤外光Laに含まれる可視光成分が除去された後、ダイクロイックミラー16で反射されて対物レンズ12方向に反射され(赤外光Lb)、対物レンズ12によって標本に集光されて照射される。なお、対物レンズ12は、後述するように観察光学系3でも共用されている。また、焦点位置調節レンズ8については後述する。
【0015】
観察光学系3は、標本側から順に、対物レンズ12、ダイクロイックミラー16、赤外光カットフィルタ18、第2ハーフミラー17および第2対物レンズ13が配設されて構成されており、さらに第2対物レンズ13の先には図示しないが接眼レンズが配設されて構成されている。
【0016】
また、図示しないが、ステージ11上に載置された標本を照明する照明装置が設けられている。この照明装置は、透過型または落射型であり、透過型の照明装置の場合はステージ11の下方に配置され、落射型の照明装置の場合はステージ11の上方に配置される。
【0017】
照明装置から照射された光は標本を透過して観察光となり、対物レンズ12を経て、ダイクロイックミラー16を透過し、赤外光カットフィルタ18で赤外光が除去されて、第2ハーフミラー17に入射する。
【0018】
第2ハーフミラー17に入射した観察光は、一部が反射され第2対物レンズ13および接眼レンズで標本の観察像が結像され、観察に供せれる。また、第2ハーフミラー17を透過した一部の観察光を、カメラ用対物レンズ36とカメラ用リレーレンズ37を通し、カメラ用CCDセンサ38の撮像面に結像させ、カメラ用信号処理部39で処理して標本の画像をモニタ(図示せず)に投影する。
【0019】
フォーカス用結像光学系7は、フォーカス用照明光学系5によりステージ11上の標本に照射されて反射するスリット状の赤外光を受光するものである。ここで、ステージ11上の標本はカバーガラス14によって覆われているため、対物レンズ12で結像された焦点検出用の赤外光は、カバーガラス14の表面やカバーガラス14と標本の境界面(標本面)で反射する。カバーガラス14や標本面等で反射した赤外光は、対物レンズ12で平行光に変換され(赤外光Lc)、ダイクロイックミラー16で反射され(赤外光Ld)、さらに可視光カットフィルタ10及び焦点位置調節レンズ8を通り、フォーカス用照明光学系5の光軸に対して略45度傾けて配設された第1ハーフミラー25に入射し、第1ハーフミラー25で一部が反射されフォーカス用結像光学系7に入射する。
【0020】
フォーカス用結像光学系7は、フォーカス用照明光学系5側から光軸に沿って順に、第1ハーフミラー25、オートフォーカス用対物レンズ26、オートフォーカス用リレーレンズ27、第2瞳制限マスク28、オートフォーカス用リレーレンズ27、シリンドリカルレンズ29およびオートフォーカス用CCDセンサ30が配設されて構成されている。
【0021】
第1ハーフミラー25で反射された赤外光Ldは、オートフォーカス用対物レンズ26で集光して結像光に変換されスリット像を結像する。オートフォーカス用リレーレンズ27,27は、オートフォーカス用対物レンズ26によって結像されたスリット像(赤外光Le)をリレーし、シリンドリカルレンズ29を経て、オートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面にスリット像を再結像する。
【0022】
なお、第2瞳制限マスク28は、瞳の半分を遮光するように配設されており、遮光される領域は、第1瞳制限マスク24によって遮光される領域に対応している。また、シリンドリカルレンズ29は、所定方向のみに屈折作用を持つレンズであり、赤外光Leを図1において紙面に対して垂直方向(スリット像の長手方向)に圧縮して、オートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面に結像させる作用をする。なお、オートフォーカス用CCDセンサ30は、複数の受光部が1次元に配列されたラインセンサ、または、2次元に配列されたエリアセンサで構成することが可能である。
【0023】
なお、フォーカス用照明光学系5において、LED光源20から出射した光をスリット板22のスリット開孔22aを通してスリット状にしてスリット開孔22aの像を標本に照射している。これは、スポット光とした場合、標本面等に段差部分があると、その反射光が散乱して理想的な光量信号を得ることができないためであるが、標本面等の状態によってはこのスリット板22を無くし、上述の方法でLED光源20の像を標本に照射してオートフォーカス制御をすることも可能である。また、第1コレクタレンズ21はなくても実現可能である。
【0024】
本発明に係るオートフォーカス装置において使用する焦点位置調節レンズ8について説明する。焦点位置調節レンズ8は図1に示すように、ダイクロイックミラー16と第1ハーフミラー25の間のフォーカス用照明光学系5とフォーカス用結像光学系7との共通光路上に位置しアフォーカル系に配設されている。
【0025】
また、焦点位置調節レンズ8には焦点位置調節レンズ駆動部9が取り付けられており、図示しないが、焦点位置調節レンズ8を光軸に沿って前後に移動可能とする焦点位置調節レンズ用DCモータと、倍率の異なる複数の焦点位置調節レンズ8を交換可能とする焦点位置調節レンズ用電動ターレットで構成されている。焦点位置調節レンズ駆動部9は後述するCPU41の焦点位置調節レンズ移動制御部を介して移動が制御されている。また、焦点位置調節レンズ8を光軸方向に移動した時に、対物レンズ12と標本18との衝突を防止するためのリミットセンサーHL1(−)及びHL2(+)(図5参照)が配設されている。
【0026】
また、後述する顕微鏡の入力部には焦点位置調節レンズ8を光軸に沿って移動させる焦点位置調節レンズ操作ダイアル51と不図示の焦点位置調節レンズ切り替えスイッチが配設されおり、観察者は焦点位置調節レンズ操作ダイアル51を操作すると、これに結合されたエンコーダ61(図6参照)からの信号に基づき焦点位置調節レンズ8を光軸にそって往復移動させることができる。また、焦点位置調節レンズ切り替えスイッチにより、焦点位置調節レンズ用電動ターレットに装着された複数の焦点位置調節レンズ8から任意の焦点位置調節レンズ8を選択して切り替えることができる。
【0027】
焦点位置調節レンズ8の作用について、図2及び図3を用いて説明する。なお、図2及び図3では説明に必要な構成部品のみを図示している。また、図においてオートフォーカス用照明光を直線で示し、観察光学系3における観察光を点線で示している。
【0028】
焦点位置調節レンズ8は、対物レンズ12で標本18に集光照射されるスリット像(オートフォーカス用照明光)の結像位置aを光軸に沿ってずらし、同時に、標本18で反射し、オートフォーカス用CCDセンサー30の撮像面に再結像するスリット像の結像位置を光軸に沿ってずらす働きをする。
【0029】
以下、オートフォーカス制御を行いながら、標本18における実際に観察したい位置に対物レンズ12の観察光学系3の焦点fを合わす方法について説明する。焦点位置調節レンズ8は凸レンズ8aと凹レンズ8bとを有し、一方のレンズが光軸上に固定され、他方のレンズが光軸に沿って移動可能に配置されて構成することができる。なお、変形例としては、凸レンズ8aと凹レンズ8bを光軸に沿って移動可能に構成しても良い。なお、以降の説明では、凸レンズ8aが物体側に固定され、その後方に凹レンズ8bが光軸に沿って移動可能に配置されている場合について説明する。
【0030】
図2(a)に示すように、対物レンズ12の観察光学系3の焦点fがカバーガラス14と標本18の境界面(以下、「標本面14b」と呼ぶ)に合っている状態で、スリット開孔22aを通して標本18に照射されるオートフォーカス用スリット像の結像位置aが同じく標本面14bに合い、且つ、その反射像の焦点がオートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面に合うように焦点位置調節レンズ8(凹レンズ8b)の位置を調節する(この位置を焦点位置調節レンズ8によるスリット像の「オフセットゼロの位置」と呼ぶ)。この状態ではスリット像が対物レンズ12の観察光学系3の焦点fつまり標本面14bに結像し、その反射光はオートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面に結像している状態である。また、この状態では焦点位置調節レンズ8は単に望遠系となっており、焦点位置調節レンズ8の前後ではオートフォーカス用照明光は共に平行光束となっている。この状態で後述するオートフォーカス制御をかけると常に標本面14bに対物レンズ12の観察光学系3の焦点fが合っている状態に制御される。
【0031】
次に焦点位置調節レンズ8(凹レンズ8b)を光軸に沿って前後に移動し、オートフォーカス用スリット像を移動させて、オートフォーカス用スリット像の結像位置aと対物レンズ12の観察光学系3の焦点位置fをずらす(オフセットさせる)。例えば、図2(b)に示すように凹レンズ8bを後方(凸レンズ8aから離れる方向)に距離xだけ移動させると、オートフォーカス用スリット像の結像位置aは標本面14bより対物レンズ12側に所定の距離(この距離を「オフセット量OS」と呼ぶ)だけ移動する。この状態で、後述するオートフォーカス制御を行うと、ステージ11が移動するために標本面14bが移動して、図2(c)に示すように、オートフォーカス用スリット像の結像位置aが標本面14bに一致する。この時、対物レンズ12の観察光学系3の焦点fはオフセット量OSだけ標本の中に移動し、例えば、図3に示すように標本18内の点Pに一致させることができる。
【0032】
このとき、焦点位置調節レンズ8を構成する凹レンズ8bの移動量xと、標本面14bでのオフセット量OSは、対物レンズ12の倍率(焦点距離)に応じて決まる。顕微鏡装置として必要なオフセット量OSは、標本の構成上、50μm程度必要とされる。液浸対物レンズの場合、カバーガラスの下面の反射率は、媒質がオイルの場合ほぼ0であり、水の場合も上面(標本面)と同じ反射率となり、一般に40倍以上の高倍で開口数も大きく標本側の焦点深度は非常に浅いためカバーガラス下面の反射はオートフォーカス制御にとって妨げとはならない。また、本発明に係るオートフォーカス装置は一般的ないわゆる乾燥系対物レンズにも対応可能であるが、乾燥系の場合は、カバーガラス下面の反射率は上面の10倍以上となり焦点深度が比較的深いことから本来のカバーガラス上面をオートフォーカス基準面とするのは困難となる。従って、信号として10倍以上大きいカバーガラス下面を基準面とするのが適当となる。この場合、オフセット量は高倍/液浸対物レンズのオフセット量(50μm)に比べて非常に大きくなる(例えば、カバーガラス厚170μm+50μm)が、焦点位置調節レンズ8の適当な設定によりカバーガラス下面を基準とするような大きなオフセット量の設定が可能となる。
【0033】
以上のように、焦点位置調節レンズ8を凸レンズ8aと凹レンズ8bとで構成することにより、従来よりあるオートフォーカス装置にこの焦点位置調節レンズ8を組み込むことにより簡単な構成でオートフォーカス用照明光の結像位置aと対物レンズ12の観察光学系3の焦点fをオフセットさせることができる。
【0034】
なお、上述の焦点位置調節レンズ8でずらす(オフセットさせる)ことが可能な距離は、焦点位置調節レンズ8の焦点距離により物理的な制限があるため、その物理的な制限以上にずらしたい場合には、焦点位置調節レンズ8を交換することで対応可能である。例えば、焦点距離の長いものに交換することにより長いずらし量を実現することができる。なお、焦点位置調節レンズ8を焦点距離の違うレンズに交換した場合、オフセットゼロの位置を決めるために、焦点位置調節レンズ8の位置を調節する必要がある。
【0035】
また、上記構成では焦点位置調節レンズ8をダイクロイックミラー16と第1ハーフミラー25の間、すなわちフォーカス用照明光学系5とフォーカス用結像光学系7の共通光路上に配設し、標本18に集光照射されるスリット像と標本18(標本面14b)で反射してオートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面に再結像するスリット像の両方の焦点位置を光軸方向にずらしていたが、第1ハーフミラー25と第1瞳制限マスク24の間、すなわち、フォーカス用照明光学系5に焦点位置調節レンズを配設して標本18に集光照射されるスリット像の焦点位置aを光軸方向にずらすことで実現することも可能である。また、第1ハーフミラー25とオートフォーカス用第2対物レンズ26の間、すなわち、フォーカス用結像光学系7に焦点位置調節レンズを配設して、オートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面に再結像するスリット像の焦点位置aを光軸方向にずらすことで実現することも可能である。
【0036】
顕微鏡の制御系は、フォーカス位置検出のためのオートフォーカス用信号処理部31、ステージ11を上下動させるステージ駆動部34、対物レンズ12を交換するための電動レボルバを駆動する電動レボルバ駆動部35およびそれらを制御するためのCPU41、メモリ42、入力部43で構成されている。
【0037】
オートフォーカス用CCDセンサ30が検出したスリット像の信号は、オートフォーカス用信号処理部31に出力され、CPU41により処理され、対物レンズ12に対する標本18の焦点情報が検出される。この焦点情報に関する信号は、CPU41によりステージ駆動部34に送られ、ステージ11の位置を光軸に沿って上下動させることにより対物レンズ12の観察光学系3の焦点fに標本を位置決めする。
【0038】
なお、オートフォーカス用CCDセンサ30の撮像面の中でスリット像が形成される位置は、ステージ11の光軸に沿った上下動によって、標本18やカバーガラス14の位置が変わると、それに合わせて、スリット像の短手方向に移動する。このようなオートフォーカス用CCDセンサ30で検出されたスリット像からステージ11の移動方向を制御する。
【0039】
ステージ駆動部34は、図1には図示しないがステージ11に取り付けられたステージ駆動用DCモータと、ステージ駆動用DCモータを回転させるステージ駆動用モータドライバと、ステージ駆動用DCモータの回転角を検出するロータリエンコーダと、ロータリエンコーダの検出結果に基づいてステージ11の上下動をカウントするアップ/ダウンカウンタとで構成されている。
【0040】
オートフォーカス制御はCPU41で処理され、制御信号は上下動制御信号と速度制御信号としてステージ駆動用モータドライバに出力され、この信号に基づいてステージ駆動用DCモータは駆動される。アップ/ダウンカウンタのカウント結果は、上下動位置信号としてCPU41に出力される。ステージ11はステージ駆動用DCモータが回転すると、その回転角に応じて光軸に沿って上下動する。そして、ステージ11に載置された標本もカバーガラス14、スライドガラス15とともに上下動し、標本と対物レンズ12との位置関係が調節される。
【0041】
図1には1本の対物レンズ12のみを示したが、本実施形態の顕微鏡は、倍率が異なる複数の対物レンズ12によって構成可能である。複数の対物レンズ12は、図示しないが電動レボルバに装着されており、電動レボルバはこれを回転駆動する電動レボルバ駆動部35に接続される。電動レボルバ駆動部35には、図示しないが電動レボルバに取り付けられた電動レボルバ駆動用DCモータと、CPU41からの回転制御信号に基づいて電動レボルバ駆動用DCモータを回転させる電動レボルバ駆動用モータドライバとが設けられている。電動レボルバは、上記した電動レボルバ駆動用DCモータの回転に応じて回転する。そして、電動レボルバに装着された複数の対物レンズ12もともに回転し、いずれか1つの対物レンズ12が顕微鏡の観察光路上に位置決めされる。電動レボルバ駆動部35には、電動レボルバのレボルバ穴(例えば6個)のうち、顕微鏡の観察光路上に位置決めされたレボルバ穴の番号(1〜6)を検知するセンサ(図示せず)が設けられている。
【0042】
入力部43には、焦点位置調節レンズ操作ダイアル51、図示しないが、キーボード、対物レンズ切り替えスイッチ、オートフォーカス制御開始スイッチ、合焦位置記憶スイッチ、アップ/ダウン微調整スイッチ及び上述の焦点位置調節レンズ8を操作するスイッチ等が設けられている。
【0043】
キーボードは、電動リボルバにセットされている複数の対物レンズ12の情報を入力する時等に使用される。キーボードから入力された複数の対物レンズ12のそれぞれのデータは、メモリ42に記憶される。また、合焦位置記憶スイッチによって取得された合焦位置情報もメモリ42に記憶される。
【0044】
対物レンズ切り替えスイッチは、顕微鏡の観察光路上に位置決めされた対物レンズ12を別の対物レンズ12に切り替えるときに使用される。CPU41は、対物レンズ切り替えスイッチから入力された切り替え信号に基づいて電動レボルバ駆動部35を制御し、切り替え信号によって指定された対物レンズを顕微鏡の観察光路上に位置決めする。
【0045】
オートフォーカス制御開始スイッチは、顕微鏡におけるオートフォーカス制御の開始を指示する時に使用される。CPU41は、オートフォーカス制御開始スイッチが操作されると、既に説明したスリット投影式オートフォーカス制御の実行を開始し、標本18が対物レンズ12の焦点に位置決めされる。
【0046】
アップ/ダウン微調整スイッチは、手動操作によってステージ11の上下動を微調整する時に使用される。CPU41は、アップ/ダウン微調整スイッチから入力された微調整信号に基づいてステージ11を位置決めする。なお、アップ/ダウン微調整スイッチの操作は、操作者が顕微鏡の第2対物レンズ13および接眼レンズを介して標本の像を観察しながら行うものである。そして操作者にとってコントラストの高い像が良好に観察できた時点で、アップ/ダウン微調整スイッチの操作を終了し、ステージ11が位置決めされる。この時、本実施形態の顕微鏡では、標本の中の任意の面が対物レンズ12の焦点fに一致している。
【0047】
このような構成によれば、焦点位置調節レンズ8を前記オフセットゼロの位置からオートフォーカス制御をさせながら光軸に沿って移動させることにより、対物レンズ12の焦点の位置を自由に、且つ、標本面14bでのオートフォーカス用スリット像の反射量に関わりなく任意の位置までずらすことが可能である。また、標本面14bから常に一定の距離だけ光軸方向に離れたところに対物レンズ12の焦点fを合わせることができるため、標本18をステージ上で移動して標本18の別の部分を観察する場合や、別の標本18に交換して観察をする場合等に効率の良い作業が可能となる。
【0048】
しかしながら、焦点位置調節レンズ8を光軸に沿って移動させることによってオフセット量OSを与える際に、光路中に挿入された対物レンズ12の種類によって焦点検出用スリット像からの反射光(図4のS1)以外の反射光(図4のS2)が迷光となって焦点検出光学系7に入射しオートフォーカス用CCDセンサー30で検出され、その結果オートフォーカス制御が誤動作し、対物レンズ12と標本18とが衝突する虞があることが判明した。ここで図4はオートフォーカス用CCDセンサーからの出力を模式的に示している。
【0049】
対物レンズ12の違いによる迷光の発生の仕方は、以下の3つに分類される。
(1)焦点位置調節レンズ8の移動範囲の全域にわたって迷光が発生しない対物レンズ。
(2)焦点位置調節レンズ8の限られた移動範囲では迷光が発生せず、この範囲を超えて移動すると迷光が発生する対物レンズ。
(3)焦点位置検出レンズ8の全移動範囲で迷光が発生する対物レンズ。
【0050】
上記分類(1)から分類(3)の対物レンズのうち、分類(3)の対物レンズは本オートフォーカス制御では使用できないものである。
【0051】
一方、分類(1)の対物レンズは、本オートフォーカス制御に好適な対物レンズであり、これまではこのような対物レンズを選択して使用することで、誤動作による衝突を防止していた。しかし、このように対物レンズを選別して使用するため、使える対物レンズが限定されてしまうと言う問題がある。
【0052】
分類(2)の対物レンズは限られた移動範囲では使用可能なものである。そこで、この分類(2)の対物レンズを使用可能にすることによって対物レンズの選択の幅を広げることが可能になる。本実施の形態に係るオートフォーカス装置は、分類(1)に加えて分類(2)の対物レンズをも使用可能にするものである。
【0053】
本実施の形態にかかるオートフォーカス装置では、光路中に挿入された対物レンズ12の種類(分類(1)〜(3))を判定して、迷光によって焦点検出が誤動作し対物レンズ12と標本14とが衝突することを防止することを可能にしている。これは、対物レンズ12の種類によって焦点位置調節レンズ8の光軸上での移動範囲を迷光の発生しない範囲に制限することで可能にしている。
【0054】
図5は、焦点位置調節レンズの移動に伴う焦点検出誤動作を防止するための処理を概念的に示す図であり、
図5において、焦点位置調節レンズ8を移動した際、迷光が発生しない範囲(図5中の範囲C)と迷光が発生する範囲(図5中の範囲B及びD)の境界値SL1、及びSL2を対物レンズ毎に前もって測定してメモリ42中に記憶させておき、対物レンズが選択された時にこれらの値をメモリ42から読み出して焦点位置調節レンズ8の移動範囲を制限することで、オートフォーカス制御の誤動作を防止することを可能にしている。ここで、SL1、SL2はソフトリミット値を表し、焦点位置調節レンズ8の移動をソフト的に制限する値である。SL1とSL2との間の範囲Cは迷光が存在せず良好にオートフォーカス制御を行える範囲である。HL1、HL2はハードリミット値を表し、顕微鏡に設けられているセンサーの位置で決められている。メカリミットは機械的に移動を制限するものであり、これ以上は焦点位置調節レンズ8を移動することができない。
【0055】
なお、焦点位置調節レンズ8のオフセットゼロ位置を原点として、SL1をマイナス側、SL2をプラス側のソフトリミット値としている。例えば、対物レンズ12にPlanApo DM20X(位相差観察用対物レンズ)を用いた場合、オフセットゼロの位置に対し、SL1はマイナス2.1mm、SL2はプラス2.2mmとなる。
【0056】
図6は制御ブロック図である。CPU41からの対物レンズ交換信号に基づいて電動リボルバが回転し選択された対物レンズ12を光路上に挿入する。この時CPU41はレボルバ穴に設けられたセンサーによって選択した対物レンズ12のソフトリミット値SL1、SL2等の情報をメモリ42から読み取り焦点位置調節レンズ8のソフトリミット値を設定する。また、焦点位置調節レンズ駆動部9からの位置情報に基づき焦点位置調節レンズ8の光軸上の位置が判断される。CPU41は焦点位置調節レンズ8の位置が範囲C内にあるときには、回転信号ON/OFF62をONにして、焦点位置調節レンズ操作ダイアル51に接続されたエコーダ61からの信号に基づき焦点位置調節レンズ8を光軸に沿ってプラス方向またはマイナス方向に移動する。そして、焦点位置調節レンズ8の位置がソフトリミットSL1またはSL2に一致した時、回転信号ON/OFF62をOFFにして焦点位置調節レンズ操作ダイアル51の操作にかかわらず焦点位置調節レンズ8の移動を停止する。また、焦点位置調節レンズ8が移動可能範囲を超えることをアラーム(赤色燈などの点滅)で検察者に知らせるようにする。
【0057】
ここで、ソフトリミットSL1の位置では、焦点位置調節レンズ8が範囲Cから範囲B方向に移動する操作に対して焦点位置調節レンズ8の移動が停止され、範囲C方向に戻る操作に対して移動可能に制御される。一方、ソフトリミットSL2の位置では、焦点位置調節レンズ8が範囲Cから範囲D方向に移動する操作に対して焦点位置調節レンズ8の移動が停止され、範囲C方向に戻る操作に対して移動可能に制御される。また、範囲Bや範囲Dに焦点位置調節レンズ8が存在する場合にはアラームを表示して観察者に知らせる。
【0058】
この結果、光路に挿入された対物レンズ12に対応して焦点位置調節レンズ8の移動範囲を迷光の発生しない領域(範囲C)に制限することができるので、オートフォーカス制御の誤動作による対物レンズ12と標本18との衝突を防止することができる。
【0059】
図7は、対物レンズ12を切替えた時の焦点位置調節レンズ8の連動を説明するフローチャートである。
【0060】
(ステップA1)
CPU41から電動レボルバに信号を送り、電動レボルバ駆動部35を介して電動レボルバを回動し対物レンズ12を光路から外す。
【0061】
(ステップA2)
電動レボルバ駆動部35を介して別の対物レンズ12が光路に挿入されたことを検出する。
【0062】
(ステップA3)
電動レボルバ上のレボルバ穴の番地(センサー)からの信号を読み出し、CPU41はメモリ42に予め記憶されているレボルバ穴と対物レンズ12の関係を読み出し、対物レンズ12の種類が未知か既知かの判断をする。
【0063】
(ステップA4)
対物レンズ12が未知のものである(焦点位置調節レンズの可動範囲(範囲C)が未設定)場合は、オートフォーカス制御不可としてその表示をし対物レンズ12の切替処理を終了する。
【0064】
(ステップA5)
切替えられた対物レンズ12が既知のものである場合、焦点位置調節レンズ8の可動範囲(範囲C)が設定されているか、設定されていないかを判断ずる。
【0065】
(ステップA6)
焦点位置調節レンズ8の可動範囲(範囲C)が設定されていない場合は、焦点位置調節レンズ8を初期位置(オフセットゼロ位置)に移動し、対物レンズ12の切替処理を終了する。
【0066】
(ステップA7)
焦点位置調節レンズ8の可動範囲(範囲C)が設定されている場合は、焦点位置調節レンズ8を対物レンズ12の切替前に記憶した焦点位置調節レンズ8の位置に設定し、さらに焦点位置調節レンズ8の可動範囲を変更して対物レンズ12の切替処理を終了する。
【0067】
以上のような処理を行うことにより対物レンズ12の交換に伴う焦点位置調節レンズ8の可動範囲を自動で設定でき、対物レンズ12と標本の衝突を防止することができると共に、対物レンズ12の交換を迅速に行うことが可能になる。
【0068】
この様に、本発明によれば、焦点位置調節レンズを移動した時に、迷光を生じない移動範囲を有する対物レンズをオートフォーカス制御に使用することが可能になり、対物レンズの選択の幅を広げることを可能にするオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡を提供することが可能になる。
【0069】
また、本発明によれば、対物レンズ毎に焦点位置調節レンズの移動範囲を決めることができ、焦点位置調節レンズの移動過多による対物レンズと標本との衝突を防止することを可能にするオートフォーカス装置とこれを有する顕微鏡を提供することが可能になる。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。本発明の実施例では焦点位置調節レンズ操作ダイアル51により焦点位置調節レンズ8の位置を移動していたが、手動で操作するようにすることも可能である。また、焦点位置をずらす量を調節するために焦点位置調節レンズ8を交換可能としていたが、固定の焦点位置調節レンズ8だけで実現することも可能である。このような構成によれば、焦点位置調節のための構造が簡単になり、制御系も簡単にすることができ、オートフォーカス装置を小型化し、また、コストを低くすることができる。
【0071】
また、上記実施の形態では対物レンズ12の焦点fに標本18を合焦させるために、ステージ11を光軸に沿って上下に移動していたが、ステージ11は固定とし、対物レンズ12を含む観察光学系3を光軸に沿って上下に移動するような構成とすることも可能である。
【0072】
なお、上述の実施の形態は例に過ぎず、上述の構成や形状に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る顕微鏡の光学系および制御系の構成を模式的に示す図である。
【図2】焦点位置調節レンズを移動した時のスリット像の合焦状態を表す図であり、(a)はオフセット量0の状態であり、(b)は焦点位置調節レンズを移動したときの状態であり、(c)は焦点位置が調節された状態である。
【図3】焦点位置調節レンズにより、合焦位置が調整された状態を模式的に示す図である。
【図4】オートフォーカス用CCDセンサにおける、結像信号S1と迷光信号S2を模式的に示す。
【図5】焦点位置調節レンズの移動可能範囲を模式的に示す。
【図6】焦点位置調節レンズ駆動のブロック図。
【図7】対物レンズ12を切替えた時の焦点位置調節レンズ8の連動を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
3 観察光学系
5 フォーカス用照明光学系
7 フォーカス用結像光学系
8 焦点位置調節レンズ
9 焦点位置調節レンズ駆動部
10 可視光カットフィルタ
11 ステージ
12 対物レンズ
13 第2対物レンズ
14 カバーガラス
15 スライドガラス
16 ダイクロイックミラー
17 第2ハーフミラー
18 標本
20 LED光源
21 LED光源
22 スリット板
23 第2コレクタレンズ
24 第1瞳制限マスク
25 第1ハーフミラー
26 オートフォーカス用対物レンズ
27 オートフォーカス用リレーレンズ
28 第2瞳制限マスク
29 シリンドリカルレンズ
30 オートフォーカス用CCDセンサ
31 オートフォーカス用信号処理部
34 ステージ駆動部
35 電動リボルバ駆動部
36 カメラ用対物レンズ
37 カメラ用リレーレンズ
38 カメラ用CCDセンサー
41 CPU
42 メモリ
43 入力部
51 焦点位置調節レンズ操作ダイアル
61 エンコーダ
62 回転信号ON/OFF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーカス用の光源と、
前記光源からの光に基づく光像を対物レンズを介し観察対象物上に結像させるフォーカス用照明光学系と、
前記観察対象物からの前記光像の反射光を前記対物レンズを介して受光し前記光像の反射像を光電変換器の受光面に結像させるフォーカス用結像光学系と、
前記フォーカス用結像光学系の光軸上に設置され、前記光軸方向に移動可能な焦点位置調節レンズを有し、
前記光電変換器の信号により前記対物レンズの焦点位置を調節するオートフォーカス装置において、
前記対物レンズの特性に基づき前記焦点位置調節レンズの前記光軸方向の移動範囲を制限する焦点位置調節レンズ移動制御部を有することを特徴とするオートフォーカス装置。
【請求項2】
特性の異なる複数の対物レンズ毎に前記移動範囲の制限値を記憶する記憶手段と、
前記特性の異なる複数の対物レンズを光軸上に交換可能にする対物レンズ交換手段と、
前記光軸上に配置された前記対物レンズを検知する検知手段と、
前記焦点位置調節レンズの光軸方向の移動範囲を制御する焦点位置調節レンズ移動制御部を有し、
前記焦点位置調節レンズ移動制御部は、前記記憶手段に記憶されている前記検知手段で検知された前記対物レンズに対応する前記制限値に基づき、前記焦点位置調節レンズの移動を制限することを特徴とする請求項1に記載のオートフォーカス装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のオートフォーカス装置を有することを特徴とする顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−148161(P2007−148161A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344482(P2005−344482)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】