説明

カテーテル又はバルーンカテーテルをコーティングするための方法及び装置

【課題】本発明は、目標を定めてカテーテルをコーティングするための方法及び装置に関する。本発明の課題は、カテーテル及びバルーンカテーテルの連続的で且つ均等なコーティングを可能にする方法及び装置を開発することである。この際、必要とされる特別な前処理を伴うことなく市販のカテーテルが使用される。
【解決手段】カテーテル又はバルーンカテーテルをコーティングするための本発明に従う方法は、a.前記カテーテルは、配量された量のコーティング溶液を含むコーティング装置により、一様な間隔で完全に又はほぼ完全に、次のように半径方向において包囲され、b.即ち、前記コーティング溶液が前記カテーテルと前記コーティング装置との間の空間を完全に満たし、そして前記カテーテルを軸方向の部分区間において完全に被覆するように半径方向において包囲され、c.前記コーティング装置は、軸方向において複数回にわたり前記カテーテルの表面にわたって移動され、そして、d.個々のコーティング過程の間には、施された前記コーティング溶液の目標を定めた部分的な乾燥が行われる、ことにより特徴付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル又はバルーンカテーテルを適切に(目標を定めて gezielt)コーティングするための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術とその問題点)
狭窄症の治療は、該当する血管を再び広げるために、ステント(ステンレスなどの金属でできたメッシュ状(網目状)の筒)を設定することにより及び/又は所謂バルーンカテーテル(先端が風船状となっており血管の内部で膨らますことのできるカテーテル)を使用することにより行われる。その点に関して近年になって著しい成果が得られている。それによると多く場合、狭窄開始前の値の90%を超えるまで血管管腔(血管の内側の空間 Gefaesslumen)の拡大を達成することができる。
【0003】
しかしながら過去において多数の患者は術後数ヵ月後には新たな狭窄(再狭窄)を発症している。このことは主として、血管壁の強制的な拡張に誘起された特に平滑筋細胞の過剰な増殖の結果である。傷口の治癒後、平滑筋細胞の増殖は、直ぐに止まることはなく、従って多くの場合、再狭窄をもたらすことになる。この現象には、抗再狭窄作用物質を用いてステント或いはバルーンカテーテルをコーティングすることより対抗措置をとることができる。
【0004】
通常、バルーンカテーテル及びステントは、血管狭窄の箇所に到達するまでに血管内で比較的長い距離を進んでいかなくてはならない。この際、目標箇所の到達前における作用物質の予定より早期の放出(解離 Abloesung)を防止すること、及び作用物質が血管狭窄箇所において予め定められた規定量をもって提供されることを保証することが重要である。
【0005】
バルーンカテーテルを単独で使用する場合には、バルーンの膨張時における血管壁との接触時間が数秒から数分に限られているという難しさが加わる。つまり、バルーンに存在する接触面を一様なコーティングによりできるだけ完全に利用し、作用物質を高い生物学的利用能をもって提供することが必要不可欠である。
【0006】
多くの場合、動脈の狭窄は大きな石灰化(Verkalkung)と関連している。該当する血管は、極めて高い押圧力(Druck)によってのみ再びその本来の管腔状態へ広げられる。この目的のために、膨張(Dilatation)により堅固な円筒の形状となる耐圧性のバルーンが挿入され、該堅固な円筒が血管壁に密接し、該堅固な円筒の外側に塗布された作用物質を適切な高い押圧力で血管壁に対して押し付ける。
【0007】
同じ方法を用い、血管を広げることの必要性を伴うことなく局部的な薬剤投与も行うことができる。例えば、もはや狭窄とは関連していない血管壁の変化(例えば易損性プラークや蓄積した血栓など)の場合である。他の例は、機械的な手段又は熱的な方法を用いた血管の治療である。これらのケースにおいて血管壁の過度の伸張や血管壁の過度の伸張と関連した血管壁の損傷は望まれるものではない。従って使用されるバルーンは、非規則的な血管壁に完全には密接せず、作用物質は比較的低い押圧力で血管壁に対して押し付けられる。
【0008】
(先行技術文献の開示)
ステントにおいて作用物質の予定より早期の放出を防止すべき解決策は、多くの刊行物において提案されている。1つの可能性は、作用物質を小さな穴(キャビティ)内に収容し、保護コーティングにより早期の放出を防止することにある(特許文献1、特許文献2)。同様に、作用物質層上に、膨張により開く非弾性被覆層を設けるという可能性がある(特許文献3)。それに対し、特許文献4は、作用物質層と該作用物質層上に位置する吸収可能な犠牲層との組み合わせを記載している。
【0009】
バルーンカテーテルにおいても作用物質を用いたコーティングが提案されてきた。しかし、比較的大きな表面(表面積)並びに折り畳まれた構造ないしすぼめられた構造(gefaltete Struktur)をもつため、実現することは困難である。それに加え、短い接触時間に起因し、カテーテルから血管壁への作用物質の迅速な供与が必要不可欠である。
【0010】
血管とバルーンカテーテルとの接触が短時間である場合にも信頼性をもって再狭窄を防止する可能性が初めて特許文献5において開示された。そこでは、血管壁との接触時に作用物質を直ちに生物学的利用可能な形で利用可能とさせるバルーンカテーテルが記載されている。
【0011】
先行技術の多くの文献では、作用物質について、そしてステント及び/又はバルーンカテーテルのコーティングに適した様々な材料から成る複雑な組み合わせについて記載されている。
【0012】
特許文献6では、先ずは膨張されてその後に再び収縮されるひだ付きバルーンを、薬剤用作用物質を封入することのできるマイクロカプセルを用いてコーティングすることを開示している。この実施形態の短所は、マイクロカプセルの大部分が血管内へバルーンカテーテルを挿入する際にバルーン表面から剥れてしまい、ひだ内のカプセルだけが血管の所定箇所へ達するということにある。膨張時に使用可能なマイクロカプセルの量、従って放出される作用物質量は分からない。
【0013】
特許文献7は、バルーンカテーテルのひだに目標を定めて作用物質を設ける可能性を開示している。この実施形態では作用物質の全備蓄量が血管の所定箇所へ達する。
【0014】
しかし両方の前記実施形態(特許文献6及び7)において作用物質は、バルーン表面の一部分を介してのみ血管壁へもたらされる。この方式では、必要不可欠な量の作用物質が血管壁の全ての該当箇所に到達することを保証することはできない。
【0015】
特許文献8では、親油性薬剤が、噴霧、浸漬、又は吸収により、膨張されるバルーンの構造化表面(パターン化表面)、特にざらざらとした粗い表面上へ塗布される。薬剤とバルーン表面との間の親水性層により、作用物質の放出(解離)が容易化されるとされている。
【0016】
カテーテル及びバルーンカテーテルをコーティングするための既述の解決策の多くは、作用物質の解放(Freisetzung)を遅らせるキャリア(Traeger)に依拠している。しかしバルーン表面とその周辺の組織との間の接触時間は比較的短い。
【0017】
それに対し、特許文献9は、少なくとも1つ(一種)の作用物質が直ちに解放されるようバルーンカテーテルをコーティングする技術を開示している。そこでは複数の作用物質と複数の輸送媒体から成る様々な組成が記載されている。
【0018】
特許文献10では、一般的なものとして、容積測定装置と放出装置を用いてバルーンカテーテルをコーティングする技術が開示されている。そこではコーティングのために極めて多くの様々な方法が使用される。しかし、そこに記載された全ての方法が同じ品質特性の表面をもたらすわけではないことが分かっている。
【0019】
特許文献11では、コーティングの際に生じる過剰部分をガス噴流を用いて除去する可能性が開示されている。もっとも、この種の過剰部分を既にコーティング処理中に回避し、事後的な処理を余分なものとすることが有利である。ガス噴流を用いた処理中におけるコーティングの乾燥は、完全には回避することができない。従ってシステムの校正(Kalibrierung)には極めて手間がかかるが、その理由は、一方では、弱すぎるガス噴流は、硬くなっていく層の過剰部分をもはや除去することはできず、他方では、強すぎるガス噴流は、コーティングすべき対象物がもはや完全には被覆されていないかたちで層の損傷を発生させてしまうためである。
【0020】
特許文献12は、垂直に立てられた医療用製品の上端部へコーティング溶液が供給されることにより医療用製品をコーティングする方法を開示している。この方法においてコーティング溶液の分配は重力に基づく流れプロセスにより行われる。この発明の長所は、自動化の良好な可能性である。医療用製品、特にステントでは、均等なコーティングがとても重要であるが、特にはステントの表面にわたる含有作用物質の極めて均等な分配がとても重要である。しかしこの方法においてはコーティング溶液の均等な分配が問題である。このことは、特にステントやバルーンカテーテルのように構造化(パターン化)の顕著な対象物に該当する。コーティング溶液による盛上がり部分や液滴部分の形成は、重力に基づく流動技術において実質的に防止することは不可能であり、例えば特許文献11によるような補助的な方法が用いられなくてはならない。
【0021】
特許文献13及び特許文献14は、コーティングをもつべきではない領域を省く可能性をもった、チューブ形状又はワイヤに類似の医療用製品をコーティングするための装置と方法を記載している。この方法により、医療用製品の様々な領域へ様々なコーティングを施すことも可能である。この目的のために、コーティング溶液が流れ出さないように医療用製品を端部において包囲するチャンバが使用される。この際、コーティングは、チャンバ内においてコーティング溶液を提供及び排出することによるか、又はチャンバと医療用製品の相対運動により行うことができる。しかしこの解決策は同時に複数の短所を有している。端部におけるチャンバの密閉は技術的に極めて複雑であるが、その理由は、例えばステントのように医療用製品の多くが顕著に構造化(パターン化)されているか、又は例えばバルーンカテーテルのようにその本質上ひだを有するためである。チャンバと医療用製品の相対運動の際には、密閉機能により、新たなコーティング又は既存のコーティング又は医療用製品自体もが損傷される可能性がある。同様に、チャンバ内に残るコーティングの残留物や、チャンバを開く際に起きる密閉箇所のコーティングの損傷も、問題を呈する。
【0022】
特許文献15では、2つの噴霧ヘッドを用いて異なる2つのコーティング溶液を施すことができる可能性が開示されている。しかし噴霧法は、特許文献15の開示内容からは克服することのできない複数の短所を有する。均等なコーティングのために噴霧ヘッドとコーティングすべき対象物とが縦軸線に沿って移動されなくてはならないだけでなく、対象物の回転運動も又はそれに呼応する噴霧ヘッドの運動も行われなくてはならない。対象物に施される物質の正確な量を保証することは極めて困難であるが、その理由は、噴霧時には常に物質の一部分がコーティングすべき対象物には達しないためである。しかし正に医療用の作用成分においてこのことは重大な問題である。
【0023】
コーティング溶液のために可能な組成は、背景技術の上記各特許文献において詳細に記載されている。また上記各特許文献においてコーティングのための方法は、先ず第一に、カテーテルバルーンのひだに目標を定めてコーティング溶液を充填すること及び/又はコーティング溶液の所定量を塗布することに観点が置かれている。
【0024】
同様にバルーンの表面構造について、構造化(パターン化)にせよ補助的な処理にせよ、多くの可能性が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】US 2004/0071861 A
【特許文献2】WO 2003/035131 A
【特許文献3】WO 2000/45744 A1
【特許文献4】DE 102007010354 A1
【特許文献5】WO 2002/076509 A2
【特許文献6】EP 0519063 B1
【特許文献7】WO 2007/090385 A2
【特許文献8】WO 2004/006976 A
【特許文献9】DE 102007036685 A1
【特許文献10】WO 2008/086794 A2
【特許文献11】US 6,322,847 B1
【特許文献12】US 2006/0029720 A1
【特許文献13】US 6,406,754 B2
【特許文献14】US 6,254,921 B1
【特許文献15】US 2007/0128343 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
背景技術における上記各特許文献では、表面の構造(ストラクチャ)及び品質(クオリティ)に対するコーティング方法の影響が十分には考察されていない。同様に、周囲条件(環境条件)について、更には表面の品質特性に対して決定的な影響をもつ別のプロセスパラメータについても十分には考察されていない。
【0027】
本発明の課題は、カテーテル及びバルーンカテーテルの連続的で且つ一様なコーティングを可能にする方法及び装置を開発することである。本発明では、必要とされる特別な前処理を伴うことなく市販のカテーテルが使用される。
【課題を解決するための手段】
【0028】
カテーテル又はバルーンカテーテルをコーティングするための本発明に従う方法は、
a.前記カテーテルは、配量(ないし定量)された量のコーティング溶液を含むコーティング装置により、一様な間隔で完全に又はほぼ完全に、次のように半径方向において包囲され、
b.即ち、前記コーティング溶液が前記カテーテルと前記コーティング装置との間の空間を完全に満たし、そして前記カテーテルを軸方向の部分区間において完全に被覆するように半径方向において包囲され、
c.前記コーティング装置は、軸方向において複数回にわたり前記カテーテルの表面にわたって(相対的に)移動され、そして、
d.個々のコーティング過程の間には、施された(付着された)前記コーティング溶液の目標を定めた部分的な乾燥が行われる
ことにより特徴付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上記処理工程に引き続き、従来技術による完全な乾燥が行われる。
【0030】
補助的に、コーティング溶液の流動方向(Flussrichtung)に対向するガス流を発生させるための装置(ガス流発生装置)によりガス流が発生され、該ガス流は、コーティング溶液の滞留増大(こぶ状の蓄積)及び/又は例えばカテーテルの終端点における液滴形成を防止する。特に好ましくはこの方法ステップは、バルーンカテーテルにおいてバルーンの終端部において適用される。
【0031】
前記ガス流は、ガス又はガス状混合物(Gasgemisch)から成り、ガス流の流れは、一様に行われる又は方向及び強さに関して時間的な変化をもって行われ、また温度に関して時間的に可変に影響を及ぼす(制御される)ことが可能である。
【0032】
個々のコーティング過程の間のコーティングの部分的な乾燥も、コーティングの最終的な乾燥も、補助的な第2の空気流により支援することができる。空気流の温度及び強さを介し、所定の単位時間あたりの乾燥の度合いを調節することができ、従ってコーティング過程の時間的な長さに適合させることができる。
【0033】
或いはまた乾燥プロセスを圧力比率の変化により支援することもできる。同様に当業者にとって周知の他の方法を適用することも可能である。
【0034】
カテーテルのコーティングは、部分的な及び完全な乾燥を含め、複数回(幾度も)反復させることができる。この際、コーティング溶液の交換が可能である。
【0035】
別の実施形態では、軸方向の(相対的な)移動が、カテーテルの移動により、又は該カテーテルを包囲するコーティング装置の移動により、又はこれらの移動の組み合わせにより行われる。カテーテルは、固定配置されている、又は自身の縦軸線の周りで回転(自転)される。
【0036】
コーティング溶液は、少なくとも1つ(一種)の薬理作用物質と、選択的に1つ又は複数の添加剤と、或いは添加剤を含有せず、そして少なくとも1つの溶剤とを、規定の組成をもって含有する。コーティング溶液は、連続的に又は非連続的に規定されて新たに更新ないし補充される。
【0037】
バルーンカテーテルがコーティングされる場合には、該バルーンカテーテルが加熱により(個々の)コーティング過程前及び/又はコーティング過程中に部分的に広げられる(膨らまされる)。該加熱は、均等に、空間的な分布(分散)及び/又は時間的な変化をもって、周辺部の加熱により、又は保持装置の加熱により、又は放射熱により、又はバルーンカテーテルへの加熱ガス流により行われる。バルーンカテーテルを部分的に広げる(膨らます)ことにより、コーティング溶液はバルーンのひだの内側にも達し、コーティング溶液に含有される作用物質がバルーンカテーテルの適用時に全表面上でその作用を発揮することができる。
【0038】
本発明に従うコーティング装置は、カテーテルを完全に又は部分的に半径方向において、次のように包囲する、即ち、該カテーテルと該コーティング装置との間に一定の半径方向の間隔が得られるようにされ、該間隔は、該カテーテルの表面と該コーティング装置との間の接触を確実に防止するためには十分に大きい間隔であるが、コーティングのために最小限必要な量のコーティング溶液が該間隔により形成される空間を満たすことのできるほど小さい間隔である。軸方向においてコーティング装置の延在する長さは、コーティングすべき対象物の長さと比べて比較的小さい。
【0039】
カテーテルを包囲するコーティング装置は、リング状部材として、又はチューブ状部材として、又はコイル状部材として構成されている。該コーティング装置は、細い隙間(スリット)をもつこともでき、金属材料及び/又は非金属材料から構成される。またカテーテルを包囲するコーティング装置の表面は、コーティングされており及び/又は補助的な構造(Struktur)が設けられている。
【0040】
カテーテルは、該カテーテルが押し込まれる保持具(例えばワイヤなど)を用い、保持装置において固定される。コーティング装置は、複数回にわたり軸方向においてカテーテルにわたって移動される。カテーテルの終端部において、コーティング溶液の滞留増大(蓄積)及び/又は液滴形成を防止するガス流を発生させることができる。加熱されたガス流は、個々のコーティング過程の間の部分的な乾燥及び最終的な乾燥を支援する。
【0041】
本発明による方法は、カテーテル及びバルーンカテーテルのコーティングに適しているのみならず、他の全てのカテーテルや、比較的一定の直径を有する好ましくはロール形状の他の全ての医療用機器のコーティングにも適している。
【0042】
好ましくは、コーティング装置に含まれたコーティング溶液は、複数のコーティング過程と乾燥過程とから構成することのできる1回のコーティング(サイクル)中に、完全に使い切られる。複数回のコーティング(サイクル)が相次いで連続する場合には、コーティングの開始時におけるコーティング溶液を用いたコーティング装置の湿潤が、コーティングの終了時における湿潤に対応するので、使い切られたコーティング溶液の量から極めて正確に、得られたコーティング(コーティングの特性)を検出することができる。このことは、従来技術から公知の浸漬方法や噴霧方法では不可能なことである。層厚が比較的大きい場合には、コーティング装置に対し、コーティング過程中にも、同様に正確に配量(計量)された量のコーティング溶液を補充することができる。
【0043】
個々のコーティング過程の間(即ちコーティング過程と次のコーティング過程の間)におけるコーティング溶液の部分的な乾燥により、既存のコーティングは次のコーティング過程の際に(未乾燥により)一緒に連行(寄せ集め)されることはない又は破壊されることはない。それにより、層厚が幅広い範囲で選択可能であると共に極めて一様なコーティングが達成され、このようなコーティングは、他の方法(例えば特許文献12)では不可能である。また余分なコーティング溶液を事後的に除去すること(例えば特許文献11)は不必要である。
【0044】
個々のコーティング過程の間におけるコーティング溶液の部分的な乾燥の度合いにより、個々のコーティング過程に基づく複数の層が再び単独の1つの層に結合される(乾燥の度合いが低い場合)か否か、又は個々の層が横断面において十分に維持される(乾燥の度合いが高い場合)か否かを調節(制御)することができる。
【0045】
同様に、他のコーティング溶液を用いた場合も含め、全コーティング過程の反復も可能である。この際(各コーティング過程の間の)中間時間において部分的な乾燥が有利であるのか完全な乾燥が有利であるのかは、使用されるコーティング溶液と、目標とされる全ての層の状態に依存する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】カテーテルを完全には覆っていないコーティング装置を用いた本発明による解決策を示す図である。
【図2】保持装置と、ガス流を発生させるための装置とを用いた本発明による解決策を示す図である。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の具体的な実施例について図面を参照して説明する。
【0048】
図1に図示された、カテーテルをコーティングするためのコーティング装置2は、カテーテル1を完全に又は部分的に半径方向において包囲する。図1ではカテーテル1がコーティング装置2により完全には覆われていない実施例が示されている。カテーテル1とコーティング装置2との間には一定の規定間隔があり、それによりコーティング装置2の内側の半径方向のサイズ(寸法)は、例えば畳まれたないしすぼめられたバルーンの直径よりも大きい。コーティング装置2は様々な実施形態をもつことができ、例えば、リング状部材、チューブ状部材、コイル状部材、又は他の適した形状をもつことができる。またコーティング装置2は、金属材料から及び/又は非金属材料から作ることができる。カテーテルバルーンの軸方向に延在する長さに対してコーティング装置2の幅は僅かである(図2)。
【0049】
カテーテル1を包囲するコーティング装置2の表面、特に内側の表面は、コーティングされていることができ及び/又は補助的な構造を設けることができる。
【0050】
カテーテル1を包囲するコーティング装置2(の中空部)には規定量のコーティング溶液3が満たされ、該コーティング溶液3は、コーティング中に同じく規定量により新たに補充される。この新たな補充は連続的に又は非連続的に行うことができる。コーティング溶液3は、少なくとも1つ(一種)の薬理作用物質と、選択的に1つ又は複数の添加剤と、少なくとも1つの溶剤とを、規定の組成をもって含有している。
【0051】
コーティング溶液3は、カテーテル1を包囲するコーティング装置2のサイズ(寸法)に対応して、該カテーテル1を完全に半径方向において被覆し、軸方向においてカテーテル1の表面にわたって移動され、それによりコーティング溶液3の規定量が施される(塗布される)。軸方向の移動は、カテーテル1が該カテーテル1を包囲するコーティング装置2内を通って移動するか、又は該コーティング装置2がカテーテル1にわたって移動されることにより行われる。別の可能性として、カテーテル1と該カテーテル1を包囲するコーティング装置2との双方が移動されることもできる。同様にカテーテル1は自身の縦軸線の周りで回転(自転)することもでき、又は回転せずに固定配置とすることもできる。
【0052】
既にコーティング中にコーティング溶液3の部分的な乾燥が行われる。この乾燥プロセスは、加熱により加速させることができる。本実施形態において部分的な乾燥は、個々のコーティング過程の間(zwischen)において、送風機8又は他の適した装置から送り出される加熱空気(熱風)9により加速される。
【0053】
カテーテル1を包囲するコーティング装置2は、複数回軸方向においてカテーテル1にわたって移動することができ、それによりバルーンカテーテルのバルーンには完全にコーティング溶液3の層が設けられる。反復される層の乾燥と湿潤により、一方では次のコーティング過程の際に既存層の破壊が防止され、他方ではコーティングの終了時に極めて均質で一様な層が形成される。
【0054】
一実施形態においてカテーテル1はバルーンカテーテル(図2)であり、この際、バルーンカテーテルのバルーン4がコーティングされる。畳まれたないしすぼめられたバルーンの部分的な膨張(Inflation)が加熱により行われる。バルーンカテーテルの加熱にのためには複数のファクタを考えることができる:周辺部の加熱、又は保持装置6の加熱、又は放射熱、又はバルーンカテーテル上への加熱ガス流、又は加熱のために利用可能な他の方式である。該加熱は、一様に、空間的な(温度)分布及び/又は時間的な変化をもって行うことができる。
【0055】
均質なコーティングを保証するために、コーティング溶液3の流動方向に対向して流れるガスが、ガス流を発生させるための装置(ガス流発生装置)7により導入される。このガス流の流れは、一様に行われるか又は方向及び強さに関して時間的な変化をもって行われる。
【0056】
コーティング装置2により一様性の高い層が生成され、この際、被覆(塗布)される作用物質量は極めて正確に再現可能に規定することができる。
【0057】
<実施例1> 薬理作用物質と結合剤とを用いたバルーンカテーテルのバルーンのコーティング
【0058】
先ず、薬理作用物質(例えば再狭窄を防止するための薬剤)と、結合剤(例えばシェラック)と、溶剤(好ましくは易揮発性アルコール)とから成る溶液が従来技術に従って作られる。
【0059】
使用されるバルーンカテーテルのカテーテル1は、前端部において開口部をもったチューブ状部材(管状部材)の形状を有する。この開口部内へ細いワイヤ5が挿入される。引き続きカテーテル1は、両側の保持装置6の間にバルーンが位置するようにコーティング装置2に対して張設(締付け固定)される。
【0060】
バルーンの周辺部は、送風機8からの熱風9を用いて加熱される。また従来技術から公知の他の各方式を使用することもできる。この際、選択される温度は、コーティング溶液3の組成に依存する。同時に、加熱によりバルーンのひだが僅かに起き上がり(sich aufrichten)、それにより全表面の一様なコーティングが可能となっている。
【0061】
保持装置6の両側端部の方向から、均質なバルーンコーティングを保証するために、ガス流を発生させるための装置(ガス流発生装置)7によりバルーン中央に向かって補助的に各々のガス流(図2においては計4箇所から)が発生される。
【0062】
この実施例においてカテーテル1を包囲するコーティング装置2は、完全には閉じられていない(即ちスリット付きの)リング状部材であり、それにより該リング状部材は、バルーンカテーテル1が張設された状態において、カテーテル1を介して(ないしカテーテル1の周りに)、又はワイヤ5を介して、又はバルーン4を介して(リング状部材の中空部内へ)挿入されることができる(図1)。該リング状部材は、バルーンが(半径方向において)該リング状部材の中央に位置するように位置付けられる。正確には配量された量のコーティング溶液3がリング状部材へ提供され、それにより、コーティングすべきバルーンの周囲に均等な薄層が形成される。該リング状部材は、バルーンの両側端部の間において均等に往復移動される。この際、全過程はカメラを介して監視される。
【0063】
熱風の供給によりコーティングの部分的な乾燥が行われ、従って新たな湿潤の度に、既に乾き始めた層(angetrocknete Schicht)の新たな部分溶解(Anloesung)が行われる。つまり一方では、次のコーティング過程の際に既存層の破壊が防止され、他方ではコーティングの終了時に極めて均質で一様な層が形成される。
【0064】
溶液が使い果たされると、バルーン表面上に作用物質の目標量が得られるに至るまでの間、正確に配量された量のコーティング溶液3が繰り返して補充される。そのために必要なコーティング溶液3の量は、コーティング溶液3における作用物質の選択された濃度と、広げられた状態におけるバルーンの表面積と、単位面積における作用物質の目標量とから得られる。
【0065】
コーティング後にバルーンは更に数分間、後乾燥され、公知の従来技術に従ってパッキングされ、殺菌消毒される。
【0066】
<実施例2> 親水性物質を用いたバルーンカテーテルのコーティング
【0067】
親水性物質(例えばシェラック)と、溶剤(好ましくは易揮発性アルコール)とから成る溶液が作られる。該溶液は、従来技術による配量装置を用い、コーティング過程のために必要な量をもって準備される。そのために必要なコーティング溶液3の量は、該溶液内の親水性物質の選択された濃度と、バルーンの表面積と、単位面積における該親水性物質の目標量とから得られる。
【0068】
この実施例においてカテーテル1を包囲するコーティング装置2は(軸方向幅の)短い完全なチューブ片(管状片、図2)である。コーティング装置2は、側方から、カテーテル1が(半径方向において)大よそ該チューブ片の中央に位置するようにカテーテル1を介して挿入(外挿)される。カテーテル1の周辺部は、熱風を用いて加熱される。この際、選択される温度は、コーティング溶液3の組成に依存する。その後、該チューブ片は、バルーンの両側端部の間において一様に往復移動される。この際、予め配量された量が使い果たされるまでの間、常にコーティング溶液3が供給される。この際、全過程はカメラを介して監視される。
【0069】
熱風の供給によりコーティングの迅速な乾燥が行われ、従って新たな湿潤の度に、既に乾き始めた層の新たな部分溶解が行われる。それにより極めて一様な表面が形成される。
【0070】
コーティング後にはカテーテルを更に後乾燥することができ、引き続き、従来技術に従ってパッキングされ、殺菌消毒される。
【符号の説明】
【0071】
1. カテーテル
2. コーティング装置
3. コーティング溶液
4. バルーンカテーテル
5. ワイヤ(保持具)
6. 保持装置
7. ガス流発生装置
8. 送風機
9. 熱風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル又はバルーンカテーテルをコーティングするための方法であって、
a.前記カテーテル(1)は、配量された量のコーティング溶液(3)を含むコーティング装置(2)により、一様な間隔で完全に又はほぼ完全に、次のように半径方向において包囲され、
b.即ち、前記コーティング溶液(3)が前記カテーテル(1)と前記コーティング装置(2)との間の空間を完全に満たし、そして前記カテーテル(1)を軸方向の部分区間において完全に被覆するように半径方向において包囲され、
c.前記コーティング装置(2)は、軸方向において複数回にわたり前記カテーテル(1)の表面にわたって移動され、そして、
d.個々のコーティング過程の間には、施された前記コーティング溶液(3)の目標を定めた部分的な乾燥が行われること
を特徴とする方法。
【請求項2】
ガス流を発生させるための補助的な装置(7)を用い、前記コーティング溶液(3)の流動方向に対向するガス流が発生され、該ガス流は、前記コーティング溶液(3)の滞留増大及び/又は前記カテーテル又はバルーンカテーテル(1)の終端点における液滴形成を防止すること
を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス流は、ガス又はガス状混合物から成り、一様に又は方向及び強さに関して時間的な変化をもって発生され、そして温度に関して時間的に可変に制御されること
を特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
複数のコーティング過程の間のコーティングの部分的な乾燥及びコーティングの終了時の最終的な乾燥は、ガス又はガス状混合物(9)の補助的な流れによる加熱によって加速されること
を特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
複数のコーティング過程の間のコーティングの部分的な乾燥及びコーティングの終了時の最終的な乾燥は、可変圧力を有する室内でコーティングが行われることにより加速されること
を特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カテーテル(1)のコーティングは、部分的な及び完全な乾燥を含め、複数回反復されること
を特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
バルーンカテーテルがコーティングされ、該バルーンカテーテルは、加熱によりコーティング過程前及び/又はコーティング過程中に部分的に広げられること
を特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱は、一様に、空間的な分布及び/又は時間的な変化をもって、周辺部の加熱により、又は保持装置の加熱により、又は放射熱により、又はバルーンカテーテルへの加熱ガス流により行われること
を特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
軸方向の前記移動は、前記カテーテル(1)の移動により、又は該カテーテルを包囲するコーティング装置(2)の移動により、又はこれらの移動の組み合わせにより行われること
を特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カテーテル(1)は、固定配置されているか、又は自身の縦軸線の周りで回転されるかすること
を特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティング溶液(3)は、少なくとも1つの薬理作用物質と、選択的に1つ又は複数の添加剤と、或いは添加剤を含有せず、そして少なくとも1つの溶剤とを、規定の組成をもって含有すること
を特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティング溶液(3)は、連続的に又は非連続的に規定されて補充されること
を特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
カテーテル又はバルーンカテーテルをコーティングするための装置であって、
a.前記カテーテル(1)を包囲するコーティング装置(2)が、リング状部材として、チューブ状部材として、又はコイル状部材として構成されること、
b.前記カテーテル(1)は、該カテーテル(1)が外挿される保持具(5)を用い、保持装置(6)に固定されること、
c.前記コーティング装置(2)は、複数回にわたり軸方向において前記カテーテル(1)にわたって移動されること、
d.複数のコーティング過程の間の部分的な乾燥及び最終的な乾燥を支援する加熱ガス流(9)が送風機(8)を用いて発生されること、
e.前記カテーテル(1)の終端部において、コーティング溶液の滞留増大及び/又は液滴形成を防止するガス流が、ガス流を発生させるための装置(7)を用いて発生されること、
を特徴とする装置。
【請求項14】
前記カテーテル(1)を包囲する前記コーティング装置(2)は、狭いスリットをもつこと
を特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記カテーテル(1)を包囲する前記コーティング装置(2)は、金属材料及び/又は非金属材料から構成されること
を特徴とする、請求項13又は14に記載の装置。
【請求項16】
前記カテーテル(1)を包囲する前記コーティング装置(2)の表面は、コーティングされている及び/又は補助的な構造が設けられていること
を特徴とする、請求項13〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
複数のコーティング過程の間の部分的な乾燥及び最終的な乾燥は、可変圧力を有する室内でコーティングが行われることにより支援されること
を特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−529945(P2012−529945A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515483(P2012−515483)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058493
【国際公開番号】WO2010/146096
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(502274185)ドット ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】