説明

カバーフィルム

【課題】ヒートシール性、剥離強度の安定性及び透明性に優れ、且つ高速剥離の際の「フィルム切れ」を起こしにくいカバーフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも二軸延伸ポリエステルからなる(A)基材層、直鎖状低密度ポリエチレンからなる(B)中間層、及び(C)シーラント層を有する積層カバーフィルムで、(C)シーラント層が下記の(a)成分を70〜90質量%、(b)成分を30〜10質量%含有する。(a)成分:スチレンユニットが20〜60質量%のスチレン共重合樹脂組成物(b)成分:非帯電性カリウムアイオノマー(a)成分としては、スチレン−ブタジエン共重合体に水素添加したSEBSが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の包装体に使用するカバーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、使用される電子部品についても小型高性能化が進んでいる。電子機器の組み立て工程においてはプリント基板上に部品を自動的に実装することが行われている。自動実装に際し、電子部品を順次供給していくためにテーピング包装が一般的に行われている。テーピング包装は一定間隔で電子部品を収納する窪みを有した成形テープの窪み部に電子部品等を収納後、成形テープの上面に蓋材としてカバーフィルムを重ねてシールバー等でカバーフィルムの両端を長さ方向にヒートシールするものである。従来から、カバーフィルム材としては二軸延伸したポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」という)を基材にシーラント層にホットメルト層を積層したものなどが使用されている。
【0003】
このようなカバーフィルムとポリスチレン、ポリ塩化ビニルあるいはポリカーボネートなどからなる窪みを有するキャリアテープ等に収納された部品は、電子機器等の製造工程の部品の実装時には、カバーフィルムが自動剥離装置により剥離され、部品は自動取り出し機により取り出された後、回路基板等に実装される。
【0004】
カバーフィルムは、透明性が良好であることや、前記のキャリアテープに対する安定したシール強度(剥離強度)を有することが要求される。一方で近年では実装速度の急激な高速化に伴い、カバーフィルムの剥離速度も0.1秒以下/タクトと極めて高速化していて、剥離の際にはカバーフィルムに大きな衝撃的な応力が加わる状況になってきている。その結果として、カバーフィルムが切断してしまう、「フィルム切れ」と呼ばれる問題が浮かび上がってきており、この解決が重要な課題となってきている。
【0005】
フィルム切れの対策として、二軸延伸したポリエステルフィルムなどの基材層とシーラント層の間にポリプロピレンやナイロンやポリウレタン、エチレン−α−オレフィンなどの耐衝撃性や引裂伝播抵抗に優れた層を設ける方法(例えば特許文献1〜3参照)や、基材層を多層化する方法が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、これらの方法においても、依然として高速剥離において「フィルム切れ」が発生することがあり、よりフィルムの切れ強度が高いカバーフィルムが求められている。
【0006】
また、前記のような高速剥離においては、剥離による静電気の発生が激しいため、前記の切れ強度向上させることに加えて、剥離時の静電気障害を抑制することが求められており、その上でヒートシール性、剥離強度の安定性、及び透明性といったカバーテープに要求される特性を満足するカバーテープであることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−142788号公報
【特許文献2】特開2000−327024号公報
【特許文献3】特開2006−347603号公報
【特許文献4】特開平9−156684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヒートシール性、剥離強度の安定性、及び透明性に優れ、更に高速剥離の際の「フィルム切れ」を起こしにくく、且つ剥離による静電気障害の発生を抑制したカバーフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、主としてシーラント層の樹脂組成について鋭意検討した結果、本発明に至った。即ち本発明は、少なくとも(A)基材層、(B)中間層及び(C)シーラント層を有し、それぞれの層が下記の要件を有するカバーフィルムである。
(A)基材層が二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる。
(B)中間層が直鎖状低密度ポリエチレン樹脂からなる。
(C)シーラント層が、(a)スチレン共重合樹脂組成物70〜90質量%と、(b)非帯電性カリウムアイオノマー30〜10質量%を含有した樹脂組成物からなり、(a)スチレン共重合樹脂組成物中のスチレンユニットの比率が、(a)100質量%に対して20〜60質量%である。
更に本発明の一の構成として(C)シーラント層を構成する(a)スチレン共重合樹脂組成物が、スチレンユニットに加えて、オレフィンユニット、ジエンユニット及び水素添加されたジエンユニットから選択された一種以上のユニットを含有していることが好ましい。一方で本発明の第二の構成として、(C)シーラント層を構成する(a)スチレン共重合樹脂組成物が、下記の(イ)〜(ニ)からなるカバーフィルムが好ましい。
( イ ) スチレン系炭化水素6 5 質量% 以上9 0 質量% 未満と共役ジエン炭化水素1 0 質量% 以上3 5質量% 未満からなる、スチレン系炭化水素と共役ジエンの共重合体: 30〜50%
( ロ ) スチレン系炭化水素1 0 質量% 以上5 0 質量% 未満と共役ジエン炭化水素5 0 質量% 以上9 0質量% 未満からなる、スチレン系炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体:1 0 〜 3 5 質量%
( ハ ) エチレン− α − オレフィンランダム共重合体: 1 0 〜 3 5 質量%
( ニ ) 耐衝撃性ポリスチレン: 5 〜 2 5 質量%
更に、(C)シーラント層を構成する(b)非帯電性カリウムアイオノマーが、不飽和カルボン酸としてアクリル酸またはメタクリル酸を用いたものであることが好ましい。
本発明は前記のカバーフィルムを用いたキャリアテープ体を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカバーフィルムは、ヒートシール性や剥離強度の安定性、透明性に優れ、かつキャリアテープからの高速剥離時の際の「フィルム切れ」の発生を十分抑制することのでき、合わせて剥離の際の静電気障害も抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカバーテープは、少なくとも(A)基材層、(B)中間層及び(C)シーラント層を有する積層フィルムからなる。
【0012】
本発明において基材層(A)は、前記の高速剥離時のフィルム切れを抑止する目的や、耐熱性、機械的強度、透明性の観点からポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする二軸延伸フィルムが用いられる。また、カバーテープの基材層側表面の帯電防止の目的で基材層表面に帯電防止剤が塗布されたものや、基材層(A)と中間層(B)の接着性を高める目的で、基材層(A)の中間層(B)側の表面にコロナ処理やアンカーコート等の易接着処理などを施したものを用いることが出来る。基材層(A)は、薄すぎるとカバーフィルム剥離時の「フィルム切れ」が発生しやすくなり、一方厚すぎるとカバーフィルムの接着性の低下を招きやすいため、通常12〜25μm厚みのものを好適に用いることが出来る。
【0013】
中間層(B)は、少なくとも直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)樹脂からなる層を有することが必要である。(A)基材層と(C)シーラント層の間に(B)中間層を配置する構成は、カバーテープにおいて一般的な構成であり、従来のカバーテープにおいては、カバーテープをキャリアテープ表面にヒートシールする際にクッション性を持たせる意味で、各種のポリエチレン樹脂やエチレンと各種の成分の共重合体が中間層(B)に用いられている。本発明のカバーテープにおいては、「フィルム切れ」の抑制の課題を達成する為の一つの技術要件として、柔軟性があり、常温での引裂き強度が高い直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いる必要がある。
【0014】
LLDPEとしてはチグラー型触媒またはメタロセン系触媒で重合された、エチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられ、α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等の直鎖状モノオレフィン、3−メチル1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1,2−エチル−1−ヘキセン、2,2,4−トリメチル−1−ペンテン等の分岐鎖モノオレフィン、スチレン等の芳香核で置換されたモノオレフィン等が挙げられる。これらの共重合体の中で、密度が0.905〜0.935(10kg/m)のものが好ましく、特に1−ヘキセンを共重合したものが好ましい。
このLLDPEからなる中間層の厚みは、前記の「フィルム切れ」強度の観点から、15〜45μmの範囲が一般的であり、好ましくは20〜40μmである。
【0015】
本発明の中間層(B)は、前記のようにLLDPE層を有することが必要であるが、基材層(A)と中間層(B)となるLLDPEフィルムをサンドラミによって積層するような場合に、これらの層の間に例えば低密度ポリエチレン(LDPE)層を設け積層したものであっても良い。
【0016】
中間層(B)に積層されるシーラント層(C)は、(a)スチレン系共重合樹脂組成物70〜90質量%、(b)非帯電性カリウムアイオノマーを30〜10質量%含有する樹脂組成物で構成される。(a)スチレン系共重合樹脂組成物としては、たとえば汎用のポリスチレン、スチレン−ブタジエングラフト共重合体、スチレンユニットに加えて、オレフィンユニット、ジエンユニット及び水素添加されたジエンユニットから選択された一種以上のユニットを含有している樹脂であり、(a)成分100質量%に対して20〜60質量%の範囲でスチレンユニットを含有する樹脂組成物を用いる。スチレンユニットが20質量%未満の場合には、ヒートシールした際に、目的とする剥離強度よりも高くなりやすく、又、フィルムのブロッキングが生じやすい。60質量%を超えると、シール性が低下するばかりか本発明の課題である十分なフィルム切れ性が得られない。
前記の(a)スチレン系共重合樹脂組成物のうち、本発明の一つの構成としては、スチレン−ブタジエンブロック(SBS)共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体に水素添加したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)やスチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン(SBBS)等の一種以上を含有する樹脂組成物であり、中でもスチレン−ブタジエン共重合体に水素添加したSEBSが好ましい。
【0017】
又本発明の第二の構成としては、(a)スチレン共重合樹脂組成物が、下記の(イ)〜(ニ)であるカバーフィルムが挙げられる。
( イ ) スチレン系炭化水素6 5 質量% 以上9 0 質量% 未満と共役ジエン炭化水素1 0 質量% 以上3 5質量% 未満からなる、スチレン系炭化水素と共役ジエンの共重合体:30〜50質量%(以下、「SBS(1)」と記す。)
( ロ ) スチレン系炭化水素1 0 質量% 以上5 0 質量% 未満と共役ジエン炭化水素5 0 質量% 以上9 0質量% 未満からなる、スチレン系炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体:1 0 〜 3 5 質量%(以下、「SBS(2)」と記す。)
( ハ ) エチレン− α − オレフィンランダム共重合体: 1 0 〜 3 5 質量%(以下「Etα」と記す。)
( ニ ) 耐衝撃性ポリスチレン: 5 〜 2 5 質量%(以下「HIPS」と記す。)
【0018】
(a)スチレン共重合樹脂組成物の第二の構成に於いて、(イ)のSBS(1)の含有量は、シーラント層100質量%に対して30〜50質量%が好ましい。30質量%未満では、製膜時にフィルムの厚みムラを生じやすく良好なフィルムが得られにくい場合がある。一方、SBS(1)の含量が50質量%を超えると、カバーフィルムをヒートシールする際に十分な剥離強度を得るのが困難になる場合がある。
(ロ)のSBS(2)の含有量は1 0 〜 3 5 質量%が好ましい。10質量%未満の場合には、シーラント層の柔軟性が損なわれる場合があり、一方、SBS(2)の含有量が35質量%を超えると、カバーフィルムをヒートシールする際に十分な剥離強度を得るのが困難になる場合がある。
【0019】
(a)スチレン共重合樹脂組成物の(ハ)の成分のEtαの含有量は、10〜35質量%が好ましく、この成分(ハ)の添加量を前記の範囲で調整することによりカバーフィルムを剥離する時の剥離強度のバラツキを抑えることができる。成分(ハ)に含まれるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどが挙げられる。その中でも、プロピレン、1−ブテンを好適に用いることができる。
【0020】
(a)スチレン共重合樹脂組成物の(ニ)のHIPSの含有量は、5〜25質量%が好ましく、この範囲の添加量とすることで、製膜したフィルムのブロッキングを低減することができる。5質量%未満であると製膜したフィルムがブロッキングしやすくなることがあり、またヒートシールしたカバーフィルムを剥離する際の剥離強度が高くなる恐れがある。一方、成分(ニ)が25質量%を超えるとカバーフィルムの透明性が低下する傾向にあり、あるいは十分な接着強度が得られにくい恐れがある。
【0021】
シーラント層(C)に用いられる(b)非帯電性カリウムアイオノマー(以下「KIO」と記す)は、エチレンと不飽和カルボン酸、または更に任意成分として他の単量体とからなるエチレン共重合体の一部または全部がカリウムで中和されたカリウムアイオノマーであって、シール層に十分な非帯電性を付与するもの、例えば23℃、30%RHにおける表面抵抗率が1013 Ω以下、好ましくは1012 Ω以下となるようなものである。このような非帯電性KIOは、シーラント層中に含有される他の添加剤によっても異なるが、不飽和カルボン酸含量と中和度を適当な範囲に調整することによって得ることができる。ここに不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルなどを例示できるが、とくにアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また共重合成分となりうる上記他の単量体としては、上述したビニルエステルや不飽和カルボン酸エステルを代表例として挙げることができる。このような他の単量体は、上記共重合体中、例えば0〜30重量%の割合で含有することができる。
非帯電性KIO(b)はシーラント層(C)100質量%に対して30〜10質量%含有される。この(b)成分が10質量%未満では、前記のシーラント層(C)の表面抵抗率を得ることが困難であり、30質量%を超えるとカバテープのシール性が低下し不十分となる。
【0022】
本発明のカバーフィルムを製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば、シーラント層(C)はインフレーション法、Tダイ法、キャスティング法、あるいはカレンダー法などの方法により、フィルム化することができる。シーラント層(C)を構成する各成分はヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、マゼラー等の混合機を用いてブレンドし、これを直接押出機でフィルム化するか、あるいはブレンド物を一度単軸あるいは二軸の押出機で混練押し出ししてペレットを得た後、ペレットを更に押出機で押し出してフィルム化する方法などが可能である。
また、中間層(B)を構成するLLDPE樹脂とシーラント層(C)を構成する樹脂を、それぞれ別の単軸または二軸の押出機を用いて溶融混練し、両者をフィードブロックやマルチマニホールドダイを介して積層一体化した後、Tダイから押し出しすることにより、中間層(B)とシーラント層(C)が積層された二層フィルムを得ることも可能である。
【0023】
本発明のカバーフィルムは、少なくとも二軸延伸PETフィルムからなる基材層(A)、LLDPEからなる層(B)、シーラント層(C)を有するカバーフィルムであり、各層を積層する方法は特に限定されるものではなく、周知のドライラミネート、押出ラミネート、共押出当の手段の内から適切な方法を選択して用いるもとができる。また必要に応じて、各層の接着を目的としたアンカーコート剤層やポリオレフィン樹脂などの層を含むことも可能である。また、(A)層と(B)層の間、あるいは(B)層と(C)層の間に、カバーフィルムの帯電防止を目的とした帯電防止層を設けることも出来る。
【0024】
カバーフィルムの全体の厚さは40〜100μmの範囲を好適に用いることができる。カバーフィルムの全体の厚さが40μm未満の場合には、カバーフィルムが薄いため取り扱いが難しく、また、カバーフィルム剥離時にフィルムが切れ易くなる恐れがある。一方、カバーフィルム全体の厚さが100μmを超えるとヒートシールが困難になる場合がある。
【0025】
本発明のカバーテープを用いてヒートシールする対象となるキャリアテープの材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC),ポリスチレン(PS)、ポリエステル(A−PET、PEN、PET−G、PCTA)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリロニトリル(PAN)アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)などのシート成形が容易な材料が適用できる。これら樹脂の単独、および/またはこれらを主成分とする共重合樹脂、または、混合体(アロイを含む)、若しくは複数層からなる積層体であっても良い。これらシートの厚さは、通常、30〜1000μm程度が適用できるが、50〜700μmが好適で、80〜300μmが最適である。これ以上の厚さでは、成形性が悪く、これ以下では、強度が不足する。該シートへは、必要に応じて、充填剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、導電剤などの添加剤を加えても良い。
【0026】
本発明の包装体であるキャリアテープ体は、例えばエンボスキャリアテープのエンボス部に電子部品等を収納した後にカバーテープをヒートシールしたものであり、電子部品等の内容物の輸送、保管 及び電子機器への実装時にはカバーテープを剥離してロボット等で該電子部品を取り出して用いるものである。前記のカバーテープをキャリアテープに熱融着させる方法は特に限定されるものではないが、一般的にキャリアテープ表面に熱融着されるカバーテープのヒートシール層にその樹脂の軟化温度以上の熱量を加え、且つ、ある一定の圧力をかけることができるシールコテと呼ばれる部材を用いる。前記シールコテをカバーテープの上からキャリアテープに押しつける形でカバーテープをキャリアテープ表面に熱融着させる方法としては、エンボスキャリアテープを搬送させながら複数回に渡ってシールコテを押しつける反復シール法や、カバーテープ側にシールコテをあて続けて熱融着する連続シール法を適用することができる。
【0027】
カバーテープは、キャリアテープに対する高い熱融着性と、カバーテープ内の前記の各層間の適度な強度で安定した剥離強度を有することが重要である。従って、中間層およびヒートシール層を構成する樹脂組成物は、このような観点から前記の樹脂組成物からそれぞれ選択される。このことによって次に内容物である電子部品等を取り出すために、キャリアテープからカバーテープを剥離する際には、カバーテープはキャリアテープとの界面における界面剥離によって、安定した剥離強度で剥離することができる。前記のように近年に於いては、実装速度の急激な高速化に伴い、カバーフィルムの剥離速度も0.1秒以下/タクトと極めて高速化している。剥離の際にはカバーフィルムに大きな衝撃的な応力が加わる。
本発明のカバーフィルムは、従来のカバーフィルムに比べてこのような高速の剥離におけるテープ切れを抑制することができる。
【0028】
本発明の電子部品用のカバーフィルムは、これを使用することにより、チップ型電子部品の保管、輸送、実装中に電子部品が汚染することを防止し、実用的な剥離強度を容易に得るためのヒートシール性、容易に取り出せるための易開封性に優れ、また透明性に優れるために充填したチップ型電子部品を視認することが可能であり、また高速剥離の際に起こりやすいカバーフィルムの「フィルム切れ」を極力少なくすることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。各実施例および比較例の結果を表1〜4に纏めて示した。
本発明の実施例および比較例は、以下の原料を用いて行った。
(シーラント層(C)樹脂組成物(a)に用いた樹脂)
樹脂 St含有量(質量%)
(1)SEBS1:「タフテック1041」 旭化成ケミカルズ社製 30
(2)SEBS2:「タフテック1051」 旭化成ケミカルズ社製 42
(3)SEBS3:「タフテック1052」 旭化成ケミカルズ社製 20
(4)SEBS4:「タフテック1043」 旭化成ケミカルズ社製 67
(5)SBS1 :「デンカクリアレン」 電気化学工業社製 83
(6)SBS2 :「TR2000」 JSR社製 40
(7)Etα1 :「タフマーA4085」 三井化学社製 −
(8)HIPS1:「トーヨースチロールH870 」 東洋スチレン社製 91
(中間層(B)の樹脂)
(9)LLDPE1:「ハーモレックスNF464N」 日本ポリエチレン社製
(10)LLDPE2:「ハーモレックスNH745N」 日本ポリエチレン社製
(11)LDPE1:「UBEポリエチレンR−500」 宇部丸善ポリエチレン社製
(帯電防止剤)
(12)KIO−1:「エンテイラAS MK440」 三井・テ゛ュホ゜ンケミカル社製
(13)カチオン型帯電防止剤:「エレガン」 日本油脂社製
(14)ポリエーテルエステルアミド:「ペレスタット」 三洋化成社製
尚、上記の(1)〜(14)のうち記号で示した樹脂については、以降その記号で表示する。
【0030】
(実施例1〜3)
シーラント層(C)を構成するスチレン共重合樹脂組成物(a)として、前記SEBS1「タフテックH1041」(旭化成ケミカルズ社製、スチレン含量30質量%)とKIO−1「エンティラAS MK440」(三井・デュポンポリケミカル社製、)を表1に示した組成でブレンドした樹脂と、中間層(B)の樹脂としてLLDPE1「ハーモレックスNF464N」(日本ポリエチレン社製)を用いて、それぞれ個別のφ40mmの単軸押出機から押出し、マルチマニホールドダイで積層して、シーラント層(C)厚さが10μm、中間層(B)厚さが20μmのシーラント層(C)/中間層(B)の構成からなる厚み30μmの二層フィルムを作製した(引取速度:15m/分)。その後、中間層(B)の表面にウレタン系のアンカーコート剤を乾燥厚みが2μmになるように塗工した、基材層(A)となる二軸延伸PETフィルム(厚さ16μm)とドライラミネートにより積層することにより、総厚さ48μmのカバーフィルムを得た。
【0031】
(実施例4)
シーラント層(C)/中間層(B)の構成からなる二層フィルムと基材層(A)となる二軸延伸PETフィルムの積層を、基材層(A)の積層面にウレタン系のアンカーコート剤を塗布して、前記LLDPE2「ハーモレックスNH745N」をサンド樹脂(厚さ13μm)として用いたサンドラミ法によって、総厚み59μmとした以外は、実施例1と同様にしてカバーフィルムを得た。
(実施例5〜7)
表1に記載したシーラント層(C)の樹脂を用いた以外は、実施例4と同様の方法に従い表1の構成のカバーフィルムを得た。
(実施例8〜11)
スチレン共重合樹脂組成物(a)として、前記の(5)〜(8)を、(b)としてKIO−1を用いて、表2に示された組成になるようにそれぞれ配合し、φ40mmの単軸押出機を用いて200℃で混練し、シーラント層(C)を構成する樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をシーラント層(C)に用いた以外は、実施例4と同様にしてカバーフィルムを得た。
【0032】
(比較例1)
シーラント層(C)として前記SEBS1の樹脂のみを用い、積層フィルムを作成した後に、シーラント層(C)の表面をコロナ処理した後に、カチオン型帯電防止剤(日本油脂社製、「エレガン」)の希釈溶液を固形分塗工量が100mg/平方メートルになるように、グラビアコーターにより塗工/乾燥した以外は、実施例4と同様にしてカバーフィルムを得た(表3)。
(比較例2)
KIO−1の変わりにポリエーテルエステルアミド(三洋化成社製、「ペレスタット」を用いた以外は実施例4と同様にしてカバーフィルムを得た(表3)。
(比較例3〜6)
シーラント層(C)の樹脂組成を表3に記載したものとした以外は、実施例4と同様にしてカバーフィルムを得た。
(比較例7)
中間層(B)の樹脂としてLDPE「UBEポリエチレンR−500」を用いた以外は実施例4と同様にしてカバーフィルムを得た。
(比較例8〜11)
シーラント層(C)を表4に記載したものとした以外は、実施例9と同様にしてカバーフィルムを得た。
【0033】
(評価方法)
前記の各実施例及び各比較例で作製したカバーフィルムについて、下記に示す評価を行った。
(1)フィルム切れ性
テーピング機(システメーション社、ST−60)を使用し、シールヘッド巾0.5mm×2、シールヘッド長32mm、シール圧力3.5MPa、送り長16mm、シール時間0.5秒×2(ダブルシール)にて、シールヘッド温度を調整することにより、平均剥離強度が1.5Nおよび2.0Nとなる様に、21.5mm巾のカバーフィルムを24mm巾のポリスチレンからなる電子部品キャリアテープにシールした。図1に示したようにカバーフィルム4をシールしたキャリアテープ3を550mmの長さで切り取り、両面粘着テープ2を貼った垂直な壁1にキャリアテープ3のポケット底部を貼り付けた。貼り付けてあるキャリアテープ2の上部からカバーフィルム3を50mm剥がし、カバーフィルム3をクリップ5で挟み、このクリップ5に質量1000gの重りを取り付けた。その後、重りを自然落下させた時に、剥離強度2.0Nでもカバーフィルム4が切れなかったものを「優」、剥離強度1.5Nでカバーフィルム4が切れなかったものを「良」、剥離強度が1.5Nで切れが観察されたものを「不良」として表記した。
(2)表面抵抗率
三菱化学社のハイレスタUP MCP−HT40を使用しJIS K6911の方法にて、雰囲気温度23℃、雰囲気湿度50%RH、印加電圧500Vでシーラント面の表面抵抗値を測定した。
【0034】
(3)曇価
JIS K 7105:1998に準ずる測定法Aによる積分球式測定装置を用いて曇価を測定した。カバーフィルムの曇価が40%以上の場合、カバーテープで電子部品を包装した後に内容物が正しく挿入されているかを検査する工程において、内容物の確認が困難になる場合がある。
(4)シール性
テーピング機(システメーション社、ST−60)を使用し、シールヘッド巾0.5mm×2、シールヘッド長32mm、シール圧力3.5MPa、送り長16mm、シール時間0.5秒×2(ダブルシール)にてシールヘッド温度130℃にて21.5mm巾のカバーフィルムをポリスチレン製キャリアテープ(電気化学工業社製)にヒートシールした。24時間放置後、毎分300mmの速度、剥離角度180°でカバーフィルムを剥離し、時の平均剥離強度が0.3〜0.6Nの範囲にあるものを「優」とし、平均剥離強度が0.15〜1.0Nの範囲にあるものを「良」とし、上記以外の平均剥離強度のものを「不良」として表記した。
(5)剥離強度の経時安定性
テーピング機(システメーション社、ST−60)を使用し、シールヘッド巾0.5mm×2、シールヘッド長32mm、シール圧力3.5MPa、送り長16mm、シール時間0.5秒×2(ダブルシール)にて、シールヘッド温度を調整することにより、平均剥離強度が0.4Nとなる様に、21.5mm巾のカバーフィルムを24mm巾のポリスチレン製キャリアテープ(電気化学工業社製)にヒートシールした。更に促進環境試験として高温多湿環境下52℃95%R.Hにシールしたキャリアテープ体を7日間保管して取出した後、23℃50%R.Hの環境下にて24時間放置後、剥離強度を測定した。高温多湿環境に保管後の剥離強度の変化が0.2N以下のものを優、0.3N以下のものを良、上記以外のものを不良として表記した。
【0035】
本発明により提供されるカバーフィルムは、実用的な剥離強度を容易に得るためのヒートシール性、及び電子部品を視認することが可能な透明性に優れ、更に、高速剥離の際に起こりやすいカバーフィルムの「フィルム切れ」を少なくすることができる。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】フィルム切れ性試験方法
【符号の説明】
【0041】
1.壁
2.両面粘着テープ
3.キャリアテープ
4.カバーフィルム
5.クリップ
6.紐
7.重り


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)基材層、(B)中間層及び(C)シーラント層を有し、それぞれの層が下記の要件を有するカバーフィルム。
(A)基材層が二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる。
(B)中間層が直鎖状低密度ポリエチレン樹脂からなる。
(C)シーラント層が、(a)スチレン共重合樹脂組成物70〜90質量%と、(b)非帯電性カリウムアイオノマー30〜10質量%を含有した樹脂組成物からなり、(a)スチレン共重合樹脂組成物中のスチレンユニットの比率が、(a)100質量%に対して20〜60質量%である。
【請求項2】
(C)シーラント層を構成する(a)スチレン共重合樹脂組成物が、スチレンユニットに加えて、オレフィンユニット、ジエンユニット及び水素添加されたジエンユニットから選択された一種以上のユニットを含有している、請求項1に記載のカバーフィルム。
【請求項3】
(C)シーラント層を構成する(a)スチレン共重合樹脂組成物が、下記の(イ)〜(ニ)からなる請求項1または請求項2に記載のカバーフィルム。
( イ ) スチレン系炭化水素6 5 質量% 以上9 0 質量% 未満と共役ジエン炭化水素1 0 質量% 以上3 5質量% 未満からなる、スチレン系炭化水素と共役ジエンの共重合体: 30〜50質量%
( ロ ) スチレン系炭化水素1 0 質量% 以上5 0 質量% 未満と共役ジエン炭化水素5 0 質量% 以上9 0質量% 未満からなる、スチレン系炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体:1 0 〜 3 5 質量%
( ハ ) エチレン− α − オレフィンランダム共重合体: 1 0 〜 3 5 質量%
( ニ ) 耐衝撃性ポリスチレン: 5 〜 2 5 質量%
【請求項4】
(C)シーラント層を構成する(b)非帯電性カリウムアイオノマーが、不飽和カルボン酸としてアクリル酸またはメタクリル酸を用いたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のカバーフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のカバーフィルムを用いた、キャリアテープ体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−173673(P2010−173673A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16863(P2009−16863)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】