説明

カラートリートメントにより損傷した毛髪を処置する方法

1本以上の毛幹を処置する方法が開示され、各毛幹は、キューティクル層、および上記キューティクル層中に囲まれた皮質を含む。上記方法は、孔径約5Å〜約5000Åを有する上記毛幹に浸透し得る1種以上のポリマーを選択する工程;および上記毛幹に、上記ポリマーを含む、有効量の組成物を塗布することによって、上記毛幹を処置する工程を包含する。別の実施形態において、上記処置の目的は、上記毛幹に栄養を与え、そして/または修復することである。別の実施形態において、上記処置の目的は、上記毛髪の引張強度を改善することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2008年3月3日に出願された米国特許出願番号12/041,081の一部継続出願であり、本願は、この米国特許出願からの出願優先権を主張する。この米国特許出願の開示は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
人気のあるもしくは有名人のファッショントレンドのいずれかの後を追って、ますます多くの消費者が、流行のヘアスタイルを追い求めるためにヘアトリートメントを使用する。カラートリートメントとしては、ヘアカラーリング、ハイライティング、およびブリーチングが挙げられる。これらのヘアスタイル技術は、消費者の必要性を大いに満たすが、それらはまた、特に、上記処置が繰り返し使用される場合に、ひどい毛髪の損傷を引き起こす。さらに、上記毛髪に対する種々の毎日の行為(例えば、ヘアブラッシング、ヘアブロー−乾燥、および日光への曝露)は、より大きな損傷を上記毛髪に与える。
【0003】
化学的な処置および/もしくはUVへの曝露は、毛髪の損傷を引き起こし、このことは、上記毛髪のキューティクルの多孔性および開き(swelling)の増大を生じることは、一般に受け入れられている。なぜなら、毛髪に損傷が生じた場合に、毛髪は、粗く、硬く、かつ艶がなくなる(dull)からである。さらに、毛髪は、上記毛髪の皮質において損傷が生じた場合に、その引張強度をゆるめる。なぜなら、上記皮質は、ヒトの毛髪の引張特性を主に担うと考えられているからである。上記毛髪のキューティクルは、機械的ねじれ特性(torsional mechanical properties)において重要な要因であるが、長軸方向への機械的強度を増強する(bulk)ことに対するその寄与は、小さい。従って、引張強度の測定は、毛髪の損傷の評価法であるだけでなく、損傷が上記皮質へと浸透したか否かを決定するための指標でもある。損傷を受けた毛髪の本来の質に戻す方法のうちの1つは、その低下した引張強度を元に戻すことである。
【0004】
従って、上記問題のうちの少なくともいくつかに対処する、毛髪を処置する方法が、望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本開示は、1本以上の毛幹を処置する方法を提供し、各毛幹は、損傷した毛髪のキューティクル層、および上記キューティクル層に囲まれた皮質を含み、上記方法は、孔径約5Å〜約5,000Åを有する上記毛幹に浸透し得る1種以上のポリDADMACポリマーを選択する工程;および上記毛幹に、上記ポリマーを含む、有効量の組成物を塗布することによって、上記毛幹を処置する工程を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、コントロール(ポリマーを添加しない)に対するポリマーIIの引張強度の統計学的分析を示す。
【図2】図2は、コントロール(ポリマーを添加しない)に対するポリマーIおよびポリマーIIの引張強度増分を示す。
【図3】図3は、コントロール(ポリマーを添加しない)に対するポリマーIVの引張強度の統計学的分析を示す。
【図4】図4は、ポリマーIIおよびコントロール(ポリマーを添加しない)で処置された毛髪の表面積分析研究を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(発明の詳細な説明)
定義:「ポリDADMAC」とは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を意味する。
【0008】
化学損傷毛髪とは、毛髪損傷が、ヘアパーマ、ヘアハイライト、ヘアカラー、および縮毛矯正剤が挙げられる、化学物質での処理によって引き起こされることを意味する。
【0009】
熱損傷毛髪とは、毛髪損傷が、ヘアブロードライヤー、熱による髪のセットが挙げられる、熱処理によって引き起こされることを意味する。
【0010】
UV損傷毛髪とは、毛髪損傷が、過剰なUV曝露によって引き起こされることを意味する。
【0011】
上記のように、1本以上の毛幹が、孔径約5Å〜約5000Åを有する毛幹に浸透し得る1種以上のポリマーで処置される。
【0012】
一実施形態において、上記毛幹の孔径は、約10Å〜約1000Åの間である。
【0013】
別の実施形態において、上記処置の目的は、上記毛幹に栄養を与え、そして/または修復することである。
【0014】
別の実施形態において、上記処置の目的は、上記毛髪の引張強度を改善することである。
【0015】
一般に、上記利用されるポリマーは、上記毛幹の皮質へと浸透するに十分な大きさであるべきであるが、上記皮質から容易に移動しない。当業者は、ポリマーが、過度の実験なくして、この個々の基準を満たすか否かを決定し得る。従って、線状、分枝状、超分枝状(hyperbranched)、もしくは樹枝状であるポリマーが、この基準を満たし得る。
【0016】
ポリマーのうちの種々のタイプおよびコンホメーションが、毛幹を処置するために利用され得る。
【0017】
一実施形態において、上記ポリDADMACポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0018】
別の実施形態において、上記ポリDADMACポリマーは、カチオン性ポリマーからなる群より選択される。
【0019】
別の実施形態において、上記ポリDADMACポリマーは、ポリDADMAC、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0020】
別の実施形態において、上記ポリマーは、ポリDADMAC(ここでポリDADMACについての重量平均分子量の範囲の上限は、15,000ダルトン未満である)を除いて、約300ダルトン〜約80,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0021】
別の実施形態において、上記ポリDADMACは、約1,500から15,000未満の重量平均分子量を有する。
【0022】
別の実施形態において、上記ポリDADMACの重量%についての範囲は、上記組成物中の活性物質に基づいて、0.1重量%〜約10重量%である。
【0023】
別の実施形態において、上記ポリDADMACは、約1,200ダルトン〜約5,700ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0024】
別の実施形態において、上記ポリ(アクリル酸ナトリウム)は、約300ダルトン〜約30,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0025】
別の実施形態において、上記ポリ(アクリル酸ナトリウム)は、約3,000ダルトン〜約15,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0026】
毛幹は、例えば、毛髪の過剰な加工、より具体的には、カラーリングされた毛髪、縮毛矯正された毛髪、過剰にブリーチングされた毛髪、毛髪へのUV曝露、毛髪の熱処理、および/または環境ストレスによって、種々の様式で損傷を受ける。
【0027】
一実施形態において、上記ポリマーは、化学的に損傷された毛髪、および/またはUVにより損傷された毛髪、および/または熱的に損傷された毛髪を処理するために利用される。
【0028】
別の実施形態において、上記ポリマーは、毛髪が損傷を受けることを防止するため、または毛髪が損傷を受ける速度を抑止するため、または損傷した毛髪を修復するために、利用され得る。
【0029】
上記組成物は、1種以上の美容的に受容可能な(cosmetically acceptable)賦形剤をさらに含み得る。美容的に受容可能な賦形剤は、非毒性の、非刺激性の物質であり、この物質は、本発明の1種以上のポリマーと混合されると、これらのポリマーを、毛髪への塗布に、より適したものにする。
【0030】
一実施形態において、上記賦形剤は、水、サッカリド、界面活性剤、保湿剤、ワセリン、ミネラルオイル、脂肪アルコール、脂肪エステル軟化剤、ワックスおよびシリコーン含有ワックス、シリコーンオイル、シリコーン流体、シリコーン表面活性剤、揮発性炭化水素オイル、四級窒素化合物、アミン官能基化シリコーン、コンディショニングポリマー(conditioning polymer)、レオロジー改変剤、抗酸化剤、日焼け止め剤(sunscreen active agent)、約C10〜C22のモノ長鎖アミン、約C10〜C22のジ長鎖アミン、約C10〜C22のトリ長鎖アミン、約C10〜C22の長鎖脂肪アミン、脂肪アルコール、エトキシ化脂肪アルコールおよび二つの尾部があるリン脂質(di−tail phospholipid)からなる群より選択される。
【0031】
上記ポリDADMACポリマーを含む組成物は、種々の形態にあり得る。当業者は、上記ポリマーを、美容的に受容可能な賦形剤および/もしくは組成物の他の成分とともに調合する方法を認識している。
【0032】
一実施形態において、上記組成物は、シャンプー、コンディショナー、パーマネントウェーブ、縮毛矯正剤、ヘアブリーチ、ヘアディタングリングローション(hair detangling lotion)、スタイリングジェル、スタイリンググレーズ(styling glaze)、スプレーフォーム、スタイリングクリーム、スタイリングワックス、スタイリングローション、ムース、スプレージェル、ポマード、ヘアカラーリング調製物、一時的および永続的ヘアカラー、カラーコンディショナー、ヘアライトナー(hair lighteners)、着色用および非着色用ヘアリンス、毛髪用染料、ヘアウェーブセット(hair wave set)、パーマネントウェーブ、カール、直毛剤、ヘアグルーミング助剤(hair grooming aid)、ヘアトニック、ヘアドレッシング(hair dressing)および酸化製品、スプリッツァー(spritze)、スタイリングワックスおよび香油(balm)からなる群より選択される。
【0033】
以下の実施例は、限定することを意味しない。
【実施例】
【0034】
この実施例の節については、ポリマーの重量平均分子量を、サイズ排除クロマトグラフィー/マルチアングルレーザー光散乱(もしくはSEC/MALLS)技術によって決定した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、TSK−GEL PWカラム(TOSOH BIOSCIENCE製)のシリーズ、マルチアングルレーザー光散乱検出器(MALLS,モデル:DAWN DSP−F)および干渉型屈折計(interferometric refractometer)(OPTILAP DSP)(Wyatt Technology製)を使用することによって、行った。データ収集および分析を、ASTRAソフトウェア(Wyatt Technology製)で行った。
【化1】

【0035】
実施例の詳細
a.引張強度測定
引張強度試験を、化学的に損傷を受けた毛髪に対して行った。そのプロトコルは、以下の工程を含んでいた。
【0036】
損傷を受けたことのない(Virgin)褐色の毛髪を、6%過酸化水素溶液(1.7%水酸化アンモニウムおよび10%尿素を含む)中に、40±1℃で15分間浸漬することによって、ブリーチした。次いで、上記ブリーチした毛髪を、1%(固体)ポリマー溶液中で、5分間処置し、脱イオン水下で10秒間すすいだ。
【0037】
40本の毛髪の束(strand)の直径を、各処置したものから無作為に選択し、未処置の(「コントロール」)試験群を、Fiber Dimensional Analysis System(Mitutoyo,Model LSM 5000)を使用して測定した。上記毛髪サンプルを、湿潤条件において引張強度を測定するために、DiaStron Miniature Tensile Tester(モデル170/670)に配置した。毛髪直径を正規化する全仕事量(work force)を、DiaStronソフトウェア(MTTWIN Application Software Version 5.0)を使用することによって計算した。40本の毛髪の束から得た平均値を、Tukey HSD統計分析を使用して分析して、全ての試験対を比較した(JMP統計ソフトウェア(SAS Institute,Cary,NC,U.S)のANOVA一元配置分散分析)。上記試験結果および統計分析を、以下の表および図にまとめる。カチオン性ポリマーについての結果を表1および表2に示す。アニオン性ポリマーについての結果を表3および表4に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

表1、表2、および図1から、ポリマーIIの低い分子量は、引張強度を約17%有意に改善することが明らかであり、一方で、統計学的分析は、コントロールとポリマーIVとの間で引張強度に有意な差がないことを示す(図3)。実験を、ポリマーI(低分子量ポリDADMAC)を用いて実施した。それらの結果を図2に示す。これらの結果は、低分子量ポリマーの浸透が、損傷した毛髪の失われた引張強度を回復させ得ることを示す。
【0040】
b. 表面積測定
処置毛束および未処置毛束の両方に対して、表面積分析もまた行って、低分子量ポリマー種が上記毛幹に浸透したか否かを理解した。そのプロトコルは、以下の工程を含んでいた。
【0041】
表面積分析を、窒素吸着分析を介して行った。毛髪サンプルに対する窒素吸着分析を、Quantachrome Autosorb−1C機器を使用して行った。サンプルを、非常に小さな小片に切り分け、次いで、サンプルセル(ここで上記小片は、145℃で0.5時間にわたって真空下で配置される)に添加した。正確な測定値を得るためには、完全な水の除去が必要である。この理由のため、145℃が使用された。この値は、約125℃で脱水ピークが出現する示差走査熱量測定(DSC)から回収されたデータに基づく。5−pt BET(Brunauer−Emmett−Teller)表面積分析を、全てのサンプルに対して使用した。表面積の減少は、上記低分子量ポリマーが、上記毛髪に浸透し、上記毛幹全体に分布しているその孔空間をふさいだことを示す。
【0042】
上記表面分析研究の結果は、図5に示される。図5の気体収着分析は、ポリマーIIで処置した毛幹の表面積の顕著な減少を示し、これは、上記毛幹への低分子量ポリマーの効率的な浸透を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本以上の毛幹を処置する方法であって、各毛幹は、化学物質、UV、熱および環境により損傷を受けた毛髪のキューティクル層、および該キューティクル層に囲まれた皮質を含み、該方法は、約5Å〜約5000Åの孔径を有する毛幹に浸透し得る1種以上のポリDADMACポリマーを選択する工程;および該ポリDADMACポリマーを含む有効量の組成物を該毛幹に塗布することによって該毛幹を処置する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記ポリDADMACポリマーが、15,000ダルトン未満の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学物質による損傷が、前記毛髪のブリーチング、ハイライティング、縮毛矯正またはカラーリングを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、ホモポリマー、コポリマー、およびターポリマー、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、カチオン性ポリマーからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが線状である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリDADMAC、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリDADMACは、約1,200ダルトンから15,000ダルトン未満の重量平均分子量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリDADMACの重量%が、前記組成物中の活性物質に基づいて、約0.1%〜約10%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリ(アクリル酸ナトリウム)が、約300ダルトン〜約30,000ダルトンの重量平均分子量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリ(アクリル酸ナトリウム)が、約300ダルトン〜約6,000ダルトンの重量平均分子量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が1種以上の美容的に受容可能な賦形剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記賦形剤が、水、サッカリド、界面活性剤、保湿剤、ワセリン、ミネラルオイル、脂肪アルコール、脂肪エステル軟化剤、ワックスおよびシリコーン含有ワックス、シリコーンオイル、シリコーン流体、シリコーン表面活性剤、揮発性炭化水素オイル、四級窒素化合物、アミン官能基化シリコーン、コンディショニングポリマー、レオロジー改変剤、抗酸化剤、日焼け止め剤、約C10〜C22の二本の長鎖アミン、約C10〜C22の長鎖脂肪アミン、脂肪アルコール、エトキシ化脂肪アルコールおよび二つの尾部があるリン脂質からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、シャンプー、コンディショナー、パーマネントウェーブ、ヘアブリーチ、ヘアディタングリングローション、スタイリングジェル、スタイリンググレーズ、スプレーフォーム、スタイリングクリーム、スタイリングワックス、スタイリングローション、ムース、スプレージェル、ポマード、ヘアカラーリング調製物、一時的および永続的ヘアカラー、カラーコンディショナー、ヘアライトナー、着色用および非着色用ヘアリンス、毛髪用染料、ヘアウェーブセット、パーマネントウェーブ、カール、直毛剤、ヘアグルーミング助剤、ヘアトニック、ヘアドレッシングおよび酸化製品、スプリッツァー、スタイリングワックスおよび香油からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記孔径が約5Å〜約5,000Åである、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−514042(P2012−514042A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544579(P2011−544579)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/069670
【国際公開番号】WO2010/078311
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(506347528)ルブリゾル アドバンスド マテリアルズ, インコーポレイテッド (74)
【Fターム(参考)】