説明

カラーバランス調整装置

【課題】フロントガラスや光学フィルタ等を介して撮像装置で撮像された画素のR、G、Bの値を適切に補正して調整することが可能なカラーバランス調整装置を提供する。
【解決手段】カラーバランス調整装置1は、撮像装置10から入力された画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて各画素ごとに色温度指標値Tを算出する色温度算出手段2と、各画素のR、G、Bの値に基づいて各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定する判定手段3と、無彩色の画素と有彩色の画素とに対して互いに異なる態様で予め設定された色温度指標値Tと補正量との関係に従って、各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて前記関係を使い分けて色温度指標値Tに基づくR、G、Bの値に対する補正量を算出し、補正量に従って画素ごとのR、G、Bの値の調整を行う調整手段4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーバランス調整装置に係り、特に、撮像装置により撮像された画像における各画素のR、G、Bの原色信号の値を調整するカラーバランス調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサを用いて電気的に撮像を行う撮像装置では、通常、ある光源下で撮像された白色が色の偏りのない白色に撮像されるようにR(赤)、G(緑)、B(青)の各原色信号のバランスを調整する処理、すなわちホワイトバランス調整処理が行われる。
【0003】
その際、撮像装置の各画素で撮像された色が、ある温度の黒体(完全放射体)から放射される光の色と対応してそのときの黒体の温度を用いて色温度として表現されることはよく知られている。そして、通常、白色を撮像した画素のR、G、Bの値が、黒体放射軌跡すなわち各色温度で黒体から放射される光の色度図上の分布にのるように、R、G、Bの値に対する各補正量を算出し、その補正量に基づいて画素ごとのR、G、Bの値の調整が行われる。
【0004】
また、特許文献1では、測光処理を行って、プリズム回折格子により波長ごとに分光された光の分光エネルギー分布から色度座標等を算出し、色度座標の黒体放射軌跡との偏差が許容範囲内である場合に色温度に基づいてホワイトバランスの調整を行うことが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献2では、R、G、Bの値を国際照明委員会が定めたCIE(1931)XYZ表色系における3刺激値X、Y、Zに一旦変換して色変換を行った後、色変換されたX、Y、ZをR、G、Bの値に再び戻すことでホワイトバランス調整処理を行うことが提案されている。
【0006】
一方、白色やグレー、黒色以外の赤や緑、青等の有彩色を撮像した画素のR、G、Bの値を調整する処理、すなわちカラーバランス調整処理では、通常、上記のようなホワイトバランス調整処理における補正量をそのまま有彩色にも適用してR、G、Bの値の調整が行われることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−54678号公報
【特許文献2】特許第3105633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、これらの従来のホワイトバランス調整処理やカラーバランス調整処理では、撮像装置固有のR、G、B感度が合うように予め調整されており、R、G、Bのバランスがほぼ揃っていることが前提となっている。そのため、色温度のみを考慮して補正量を算出することが可能となっていた。
【0009】
しかしながら、撮像装置に赤外カットフィルタや偏光フィルタ等の光学フィルタが装着されていたり、撮像装置を車両の車室内に取り付けてフロントガラス等を介して車両前方を撮像するような場合、撮像装置固有のR、G、B感度が合うように予め調整されていても、光学フィルタやフロントガラス等の影響で、例えば白い物体を被写体として撮像した場合にR、G、Bのバランスが崩れている場合がある。
【0010】
そのため、上記の従来のカラーバランス調整処理のように、赤や緑、青等の有彩色を撮像した画素のR、G、Bの値を調整する際に、ホワイトバランス調整処理における補正量をそのまま適用してしまうと、光学フィルタやフロントガラス等の影響でR、G、Bのバランスが崩れているために、適正なカラーバランス調整ができない虞がある。
【0011】
しかし、このようなカメラシステムにおいても、白色やグレー等の無彩色と赤や緑、青等の有彩色を的確に調整して撮像することができないと、それにより撮像された画像に基づいて被写体の色を誤って認識してしまうという問題が生じる。例えば、撮像装置を車両に搭載して信号を検出するような場合、赤信号の色を赤と認識できなくなるといった問題が生じ得る。また、例えば、撮像装置を自律的に行動するロボット等に搭載した場合に、ロボット等が被写体の色を誤って認識してしまい被写体を的確に認識できないといった問題が生じ得る。
【0012】
なお、以下では、上記の無彩色に対するホワイトバランス調整と有彩色に対するカラーバランス調整をまとめてカラーバランス調整と表現する。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、フロントガラスや光学フィルタ等を介して撮像装置で撮像された画像の各画素のR、G、Bの値を適切に補正して調整することが可能なカラーバランス調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の問題を解決するために、第1の発明は、
撮像装置により撮像された画像のカラーバランス調整装置において、
前記撮像装置から入力された前記画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて各画素ごとに色温度指標値を算出する色温度算出手段と、
前記画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて前記各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定する判定手段と、
前記無彩色の画素と前記有彩色の画素とに対して互いに異なる態様で予め設定された前記色温度指標値と補正量との関係に従って、前記各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて前記関係を使い分けて前記色温度指標値に基づくR、G、Bの値に対する前記補正量を算出し、前記補正量に従って前記画素ごとのR、G、Bの値の調整を行う調整手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、第1の発明のカラーバランス調整装置において、前記無彩色の画素に対する前記R、G、Bの値の補正量は、白色を撮像する条件の下で前記撮像装置の分光感度特性と黒体放射による相対強度とを乗算した値を所定の波長範囲で積分した場合の各色温度指標値ごとの前記R、G、Bの相対強度の各理論値のうち、各色温度指標値ごとに前記相対強度が2番目に大きい前記理論値を基準として算出された前記各理論値の比率の逆数として各色温度指標値ごとに設定されることを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、第2の発明のカラーバランス調整装置において、前記調整手段は、前記判定手段により無彩色の画素と判定された前記画素のうち、RとGとBの値が全て等しい画素を前記補正量によるR、G、Bの値の調整の対象から除外し、それ以外の前記画素について前記補正量によるR、G、Bの値の調整を行うことを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明のカラーバランス調整装置において、前記有彩色の画素に対する前記R、G、Bの値の補正量は、前記撮像装置の分光感度特性においてR、G、Bのそれぞれについて感度が高い波長範囲でそれぞれ前記撮像装置の分光感度特性と黒体放射による相対強度とを乗算した値を積分した場合の各色温度指標値ごとの前記R、G、Bの相対強度の各理論値で、基準色温度における前記R、G、Bの相対強度の各理論値をそれぞれ除算して算出される色温度に対する補正量と、各色温度指標値ごとの前記R、G、Bの相対強度の各理論値のうち、各色温度指標値ごとに前記相対強度が2番目に大きい前記理論値を基準として算出された前記各理論値の比率の逆数として算出されるR、G、Bに対する補正量と、を乗算した値として各色温度指標値ごとに設定されることを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、第4の発明のカラーバランス調整装置において、前記撮像装置の分光感度特性においてR、G、Bのそれぞれについて感度が高い波長範囲は、R、G、Bについて同一の波長幅の波長範囲として設定されることを特徴とする。
【0019】
第6の発明は、第4または第5の発明のカラーバランス調整装置において、前記調整手段は、前記判定手段により有彩色の画素と判定された前記画素について、R、G、Bの値のうち最も大きい色成分のみを調整の対象とし、前記最も大きい色成分の値と最も小さい色成分の値との差が所定の第1閾値以上である場合には前記最も大きい色成分の値に当該色成分に対する前記補正量を乗算し、前記差が前記所定の第1閾値より小さい値に設定された第2閾値以下である場合には前記最も大きい色成分の値を調整せず、前記差が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値である場合には、前記差に応じて前記補正量を線形補間した値を当該最も大きい色成分の値に乗算して、R、G、Bの値の調整を行うことを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明のカラーバランス調整装置において、前記判定手段は、前記画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて、|R−G|、|R−B|、|B−G|がそれぞれ所定の閾値以下であるという条件を満たす場合に、当該画素が無彩色の画素であると判定し、それ以外の場合に当該画素が有彩色の画素であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、撮像装置で撮像された画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて当該画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定した上で、無彩色の画素と有彩色の画素とに対して互いに異なる態様で予め設定された色温度指標値と補正量との関係に従い、画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて上記の関係を使い分け、すなわち例えば参照する無彩色用のテーブルと有彩色用のテーブルとを使い分けて、色温度指標値に基づいてR、G、Bの値に対する補正量を算出し、補正量に従って画素ごとのR、G、Bの値の調整を行う。
【0022】
そのため、画素が、無彩色の被写体が撮像された画素か、有彩色の被写体が撮像された画素かに応じて適切に画素のR、G、Bの値を調整することが可能となり、例えば、車両のフロントガラスや防護板等の透過部材や赤外カットフィルタや偏光フィルタのような光学フィルタ等が撮像装置の前方に介在するカメラシステムにおいても、撮像装置で撮像された画像の各画素のR、G、Bの値を的確に補正して調整することが可能となる。
【0023】
また、そのため、このようなカメラシステムにおいても、白色やグレー等の無彩色と赤や緑、青等の有彩色を的確に調整して撮像することが可能となり、それにより撮像された画像に基づいて被写体の色を的確に認識することが可能となる。そして、例えば、撮像装置を車両や自律的に行動するロボット等に搭載して被写体を検出するような場合に、被写体の色を的確に認識して、被写体を的確に検出することが可能となる。
【0024】
第2の発明によれば、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量を、各色温度指標値ごとのR、G、Bの相対強度の各理論値のうち相対強度が2番目に大きい理論値を基準として算出された各理論値の比率の逆数として設定することで、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量が、相対強度が最も大きい理論値や最も小さい理論値に引きずられて特定の色成分に偏ることを的確に防止することが可能となり、前記各発明の効果をより的確に発揮させることが可能となる。
【0025】
第3の発明によれば、例えば、車両のフロントガラスや赤外カットフィルタのように、撮像装置の前方に介在する透過部材や光学フィルタ等により白色等が着色されずに撮像されるような場合には、無彩色の被写体を撮像した画素からは出力されるR、G、Bの値は同じような値になるため、画素から出力されたRとGとBの値が全て等しい値であれば、それは白色やグレー等の無彩色が撮像された画素であると判断することができ、調整を行う必要がない。
【0026】
そのため、前記各発明の効果に加え、出力したRとGとBの値が全て等しい値である画素を調整の対象から除外することで、R、G、Bの値の調整処理を軽くすることが可能となり、処理をより高速に行うことが可能となる。
【0027】
第4の発明によれば、有彩色の画素に対して、無彩色の画素に対する態様とは異なる態様で予め設定された色温度指標値と補正量との関係に従って、有彩色の画素に応じた調整のしかたで有彩色の画素のR、G、Bの値を的確に補正して調整することが可能となり、前記各発明の効果をより的確に発揮させることが可能となる。
【0028】
第5の発明によれば、有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量を、特定の色成分に偏ることなく的確に算出することが可能となり、有彩色の画素に対する調整を的確に行うことが可能となる。そのため、前記各発明の効果をより的確に発揮させることが可能となる。
【0029】
第6の発明によれば、有彩色の画素のR、G、Bの値の中で特定の色成分が大きい場合にはその色成分を調整し、有彩色の画素のR、G、Bの値にさほど大きな差がなく無彩色に近い色の場合には調整を行わず、その中間の場合には補正量を線形補間等により修正して適用する。このようにして有彩色の画素のR、G、Bの値の調整を行うことで、有彩色の画素に対する調整をより的確に行うことが可能となり、前記各発明の効果をより的確に発揮させることが可能となる。
【0030】
第7の発明によれば、例えば、車両のフロントガラスや赤外カットフィルタのように、撮像装置の前方に介在する透過部材や光学フィルタ等により白色等が着色されずに撮像されるような場合には、無彩色の被写体を撮像した画素からは出力されるR、G、Bの値は同じような値になる。そのため、|R−G|等の値がそれぞれ所定の閾値以下であるという条件を満たす場合に当該画素が無彩色の画素であると判定するように構成すれば、無彩色の画素と有彩色の画素とを的確かつ簡便に判別することが可能となり、前記各発明の効果をより的確に発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係るカラーバランス調整装置等の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係るモデル式で算出された黒体放射軌跡を表す図である。
【図3】画素のR、G、Bに対応する点およびその点から黒体放射軌跡上に下ろした垂線を説明する図である。
【図4】白色を撮像した場合に本実施形態に係るモデル式で算出された色温度に依存するR、G、Bの相対強度の各理論値を表す図である。
【図5】図4の各理論値に基づいて算出された各理論値の相対強度が2番目に大きい理論値に対する比率を表す図である。
【図6】図5の各理論値の比率から算出された無彩色の画素に対するR、G、Bの値の各補正量の一部を表す図である。
【図7】フロントガラス等を含む撮像装置の波長に対する分光感度特性等を表す図である。
【図8】Rについて設定されたInput(λ)を用いて本実施形態に係るモデル式で算出された色温度に依存するR、G、Bの相対強度の各理論値を表す図である。
【図9】各Input(λ)を用いて本実施形態に係るモデル式でそれぞれ算出されたR、G、Bの相対強度の各理論値をあわせて表す図である。
【図10】図9の各理論値等から算出された有彩色の画素に対するR、G、Bの値の各補正量の一部を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るカラーバランス調整装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0033】
なお、以下では、カラーバランス調整装置1や撮像装置10等が車両に搭載されている場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば自律的に行動するロボットに搭載されたカメラ等で撮像された画像のカラーバランス調整に用いることができる。
【0034】
本実施形態に係るカラーバランス調整装置1は、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース等がバスに接続されたコンピュータで構成されており、図1に示すように、色温度算出手段2や判定手段3、調整手段4を備えている。
【0035】
また、カラーバランス調整装置1は、撮像装置10により撮像された画像の各画素のR(赤)、G(緑)、B(青)のカラーバランスを調整するようになっている。以下、カラーバランス調整装置1の各手段2〜4について説明する前に、撮像装置10等について説明する。
【0036】
撮像装置10は、本実施形態では、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサが内蔵されたカメラ等の単眼の撮像装置が用いられているが、複数設けられた撮像装置のうちの単数または複数の撮像装置により撮像された単数または複数の画像に対して本発明に係る処理を施すように構成することも可能である。
【0037】
図示を省略するが、本実施形態では、撮像装置10は、車両のフロントガラス内側の例えばルームミラー近傍に設置されており、車両前方を撮像して、道路面上に標示された車線(追い越し禁止線や路側帯と車道とを区画する区画線等の道路面上に標示された連続線や破線)や先行車両等の車両、歩行者、信号等を撮像する。
【0038】
また、撮像装置10には、図示しないフォーカスレンズやズームレンズ等を含む撮像レンズや絞り、シャッタ等が設けられており、また、赤外カットフィルタや偏光フィルタ等の光学フィルタが必要に応じて装着されている。また、撮像装置10では、一定のサンプリング周期ごとに画像が撮像され、画像がCCD等のイメージセンサで画像のR(赤)、G(緑)、B(青)の各色の光が光電変換されて、画素ごとのR、G、Bのアナログ値が出力されるようになっている。
【0039】
変換部11は、A/Dコンバータ等で構成されており、撮像装置10から画素ごとのR、G、Bのアナログ値が入力されると、R、G、Bの各アナログ値をそれぞれデジタル値に変換して画像補正部12に出力するようになっている。画像補正部12は、送信されてきたアナログ値のR、G、Bの値に対してずれやノイズの除去、輝度の補正等の画像補正を行い、画像補正した画素ごとのR、G、Bの値をカラーバランス調整装置1に出力するようになっている。
【0040】
カラーバランス調整装置1の色温度算出手段2は、撮像装置10から入力された画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて、画素ごとに色温度指標値Tを算出するようになっている。
【0041】
以下、まず、色温度算出手段2でR、G、Bの値に基づく色温度指標値Tの算出に用いられるモデル式や理論値、色度図について説明する。本実施形態では、色温度算出手段2は、後述するように、このモデル式や理論値から得られる色度図に基づいて、実際の各画素のR、G、Bの値から色温度指標値Tを算出するようになっている。なお、このモデル式等は公知のものである。
【0042】
まず、下記の(1)式は、車両のフロントガラス等を介してCCDカメラ等の撮像装置10で撮像が行われた際に撮像装置10から出力されるR、G、Bの相対強度の理論値(モデル値)I、I、Iを算出するモデル式である。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、Ωは波長λについての積分範囲を表し、可視光領域を含む波長領域で積分される。また、例えば波長が750nm以上の赤外光の透過をカットする赤外カットフィルタが用いられているような場合には、750nm以下の波長範囲で積分される。Ftglass(λ)は撮像装置10が搭載された車両のフロントガラスの透過特性を表す関数であり、OPTfilter(λ)は赤外カットフィルタ等の光学フィルタの透過特性を表す関数である。
【0045】
また、[r(λ)、g(λ)、b(λ)]は撮像装置10に用いられているCCDイメージセンサ等の分光感度特性を表すR、G、Bごとの関数であり、上記(2)式で表されるM(λ)は黒体放射による相対強度を表す式である。なお、上記(2)式におけるC、Cは、それぞれ、
=3.7418×10−16[Wm
=1.4388×10−2[mK]
であり、Tは色温度[K]を表す。
【0046】
また、Input(λ)は入射光の分光特性を表す関数であり、入射光が白色である場合には、Input(λ)としては全ての波長λに対して1を与える関数であり、入射光が赤や緑、青等の各色の有彩色である場合には、それぞれの波長領域について特徴を有する関数が用いられる。そして、Input(λ)を各色について適切に変えることで、各色の光が撮像装置10の各画素に入射された場合に撮像装置10から出力されるR、G、Bの相対強度の理論値I、I、Iが上記(1)式に従ってそれぞれ算出される。
【0047】
なお、本発明において、無彩色とは、白色やグレー(灰色)、黒色等の、いわゆる色みのない明度のみを有する色をいい、有彩色とは、赤や緑、青等の、いわゆる色みがあり明度や色相、彩度を有する色をいう。また、上記(1)式で表されるモデル式は、上記のように車両のフロントガラスの透過特性Ftglass(λ)やカメラレンズに装着する光学フィルタの透過率特性OPTfilter(λ)、CCDイメージセンサ等の分光感度特性[r(λ)、g(λ)、b(λ)]など、カメラシステム上固有となる各特性を反映できる利点がある。
【0048】
ここで、上記の(1)式で表されるモデル式のInput(λ)に白色を撮像した場合の関数すなわちInput(λ)=1を代入して演算し、算出された理論値I、I、Iから色度I/I、I/Iを算出する。そして、横軸に色度I/I、縦軸に色度I/Iをとった色度図上にプロットすると、上記のようなカメラシステムにおける黒体放射軌跡が、例えば図2に示すように、色温度Tをパラメータとして得られる。
【0049】
本実施形態では、色温度算出手段2は、図2に例示された色度図に基づいて、実際に撮像された画像の各画素のR、G、Bの値から色温度指標値Tを算出するようになっている。なお、上記の色度図は予め算出され、色度図に対応するテーブルがカラーバランス調整装置1のROM等の記憶手段に予め記憶されている。
【0050】
色度はR、G、Bの比であるからB/R≒I/I、B/G≒I/Iが成り立つ。そこで、色温度算出手段2は、ROM等から図2に示した色度図を読み出し、画像の各画素のR、G、B値からB/R、B/Gの値を算出して、色度図上にプロットする(図3の黒丸参照)。
【0051】
プロットした点が黒体放射軌跡上にあれば、その点における色温度Tを当該画素の色温度Tとして推定することができる。また、図3に示したように、プロットした点が黒体放射軌跡から離れた位置にプロットされる場合には、プロットされた点から黒体放射軌跡上まで垂線を下ろし、黒体放射軌跡と垂線との交点における色温度Tを当該画素の色温度Tとして推定することができる。
【0052】
本実施形態では、色温度算出手段2は、このようにして推定された色温度Tを当該画素における色温度指標値Tとして算出するようになっている。また、色温度算出手段2は、この色温度指標値Tの算出を画像の各画素について行うようになっている。
【0053】
判定手段3は、画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて、各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定するようになっている。
【0054】
具体的には、本実施形態では、判定手段3は、画素のR、G、Bの値が下記(3)〜(5)式を同時に満たす場合に、当該画素が無彩色の画素であると判定し、それ以外の場合、すなわち画素のR、G、Bの値が下記(3)〜(5)式のいずれか1つでも満たさない場合には当該画素が有彩色の画素であると判定するようになっている。
|R−G|≦Tha …(3)
|R−B|≦Thb …(4)
|B−G|≦Thc …(5)
【0055】
なお、上記(3)〜(5)式の閾値Tha、Thb、Thcは同一の値であってもよく、また、異なる値であってもよい。本実施形態では、画素のR、G、Bの値が例えば0〜255の256階調のデジタル値である場合、閾値Tha〜Thcは例えば20に設定されている。
【0056】
また、当該画素が有彩色の画素であると判定するための条件は、フロントガラスや防護板等のように光を透過する透過部材の透過特性や装着する光学フィルタの透過率特性、CCDイメージセンサ等の撮像装置10の分光感度特性等のカメラシステム固有の特性等に応じて適宜設定される。
【0057】
調整手段4は、色温度算出手段2により算出された各画素についての色温度指標値Tに基づいて当該画素のR、G、Bの値を補正するための補正量を算出し、そのR、G、Bの値の補正量に従って画素ごとのR、G、Bの値の調整を行うようになっている。
【0058】
その際、本発明では、各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて色温度指標値Tと補正量との関係が異なった態様で予め設定されており、調整手段4は、各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて、用いる上記関係を使い分け、後述する無彩色用または有彩色用の各テーブルを参照して補正量を算出するようになっている。
【0059】
まず、画素の色が無彩色、すなわち白色やグレー、黒色等の色みのない明度のみを有する色である場合の色温度指標値Tと補正量との関係は、上記(1)式で表されるモデル式において、白色を撮像した場合のInput(λ)=1を代入して算出される理論値I、I、Iに基づいて予め設定される。
【0060】
すなわち、上記(1)式にInput(λ)=1を代入してR、G、Bの相対強度の理論値I、I、Iを算出すると、上記(2)式で表される黒体放射の相対強度を表すM(λ)が色温度Tに依存するため、図4に示すように、理論値I、I、Iも色温度Tに依存する値として算出される。そして、画素の色が白色等の無彩色になるためにはI=I=Iであることが必要である。そこで、各理論値I、I、Iを揃えるように、各色温度T(すなわち各色温度指標値T)ごとに補正量C、C、Cが算出されるようになっている。
【0061】
その際、本実施形態では、特定の色成分(すなわちRまたはGまたはB)への偏りを防止することに配慮して、各色温度Tにおける理論値I、I、Iのうち、相対強度が2番目に大きい理論値を基準として各理論値I、I、Iの比率の逆数を各色温度Tごとに算出し、この逆数を無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cとして予め算出して設定するようになっている。
【0062】
具体的には、上記(1)式にInput(λ)=1を代入して算出される理論値I、I、Iが図4に示したように色温度Tに依存する場合、各色温度Tにおいて相対強度が2番目に大きい理論値を基準として1とした場合、各理論値I、I、Iの比率r、r、rは図5に示すように各色温度Tごとに算出される。
【0063】
そして、このようにして算出された各理論値I、I、Iの比率r、r、rの逆数がR、G、Bの値の補正量C、C、Cとして図6に示すように各色温度Tごとに算出される。なお、図6では見やすさを考慮して、補正量C、C、Cが色温度3500K〜8000Kの範囲でしか示されていないが、図2〜図5に示したように、各理論値I、I、Iが例えば色温度2000K〜12500Kの範囲で計算されている場合には補正量C、C、Cはその全範囲で算出される。
【0064】
本実施形態では、このようにして各色温度T(すなわち各色温度指標値T)ごとに算出された無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cのテーブル(すなわち無彩色用のテーブル)が、カラーバランス調整装置1のROM等の記憶手段に予め記憶されている。
【0065】
調整手段4は、判定手段3がある画素について無彩色の画素であると判定し、色温度算出手段2が当該画素の色温度指標値がTであると算出すると、無彩色用のテーブルを参照して色温度指標値Tにおける補正量C、C、Cを算出し、当該画素のR、G、Bの値に各補正量C、C、Cをそれぞれ乗算して画素ごとのR、G、Bの値の調整を行うようになっている。
【0066】
なお、参照した無彩色用のテーブルに当該色温度指標値Tにおける補正量C、C、Cが対応付けられていない場合には、例えば当該色温度指標値Tの近傍の色温度Tにおける補正量C、C、Cから線形補間等により当該色温度指標値Tにおける補正量C、C、Cを算出する。
【0067】
また、本実施形態のように、透過部材が車両のフロントガラスであり、光学フィルタとして可視光領域にはほとんど影響を与えない赤外カットフィルタや偏光フィルタが用いられている場合、すなわち、いわば白色が特定の色に着色されずに撮像される場合には、白色を撮像した画素から出力されるRとGとBの値は同じ値になる。そのため、画素から出力されたRとGとBの値が全て等しい値であれば、それは白色やグレー等の無彩色が撮像された画素であると判断することができる。
【0068】
そこで、R、G、Bの値の調整処理を軽くするために、調整手段4では、判定手段3で無彩色の画素と判定された画素のうち、RとGとBの値が全て等しい画素を上記のような補正量C、C、CによるR、G、Bの値の調整の対象から除外し、それ以外の無彩色の画素と判定された画素について補正量C、C、CによるR、G、Bの値の調整を行うように構成することが可能である。
【0069】
一方、画素が有彩色の画素である場合の色温度指標値T(色温度T)と補正量との関係(すなわち有彩色用のテーブル)は、上記の画素が無彩色である場合の色温度指標値T(色温度T)と補正量との関係(すなわち無彩色用のテーブル)とは異なった態様で予め設定される。
【0070】
一般的に、画素の色が有彩色、すなわち赤や緑、青等のいわゆる色みがあり明度や色相、彩度を有する色である場合のカラーバランス調整では、上記(1)式で表されるモデル式のInput(λ)として所定の関数を設定し、そのInput(λ)の下で上記(1)式の積分を実行して算出された理論値I、I、Iに基づいて画素のR、G、Bの値の調整が行われる。
【0071】
しかし、実際には、適切なInput(λ)を設定することは必ずしも容易ではない。そこで、本実施形態では、R、G、Bに対応してそれぞれ設定されるInput(λ)を単純な形で設定するようになっている。
【0072】
ここで、実際のフロントガラスや光学フィルタ、CCDイメージセンサ等の撮像装置10のカメラシステムで、各波長λに対してR、G、Bがどのような分光感度特性になっているかを調べるために、下記(6)式を用いて計算を行うと、例えば図7に示すようなR(λ)、G(λ)、B(λ)の波長λに対する分光感度特性が得られる。
【0073】
【数2】

【0074】
なお、本実施形態では、前述したように750nm以上の赤外光の透過をカットする赤外カットフィルタが用いられており、図7の分光感度特性においても、750nm以上の波長の光がカットされている。図7の分光感度特性を見ると、R(λ)、G(λ)、B(λ)はそれぞれ感度のピークを有し、そこから長波長側と短波長側に裾野が広がっている。また、R(λ)は長波長領域に、G(λ)は中波長領域に、B(λ)は短波長領域にそれぞれ3つに別れて分布している。
【0075】
そこで、本実施形態では、R(λ)、G(λ)、B(λ)についてそれぞれ感度が高い波長範囲を設定する。その際、同一の波長幅の波長範囲で区切るように設定する。図7の例では、例えば、R(λ)は560〜750nm、G(λ)は465〜655nm、B(λ)は370〜560nmの波長幅が190nmの各波長範囲に区切る。
【0076】
そして、このR(λ)、G(λ)、B(λ)の各波長範囲に対応して、Input(λ)を下記(7)〜(9)式のようにそれぞれ設定する。
R:Input(λ)=1(560nm≦λ≦750nm)
=0(上記以外の波長λ) …(7)
G:Input(λ)=1(465nm≦λ≦655nm)
=0(上記以外の波長λ) …(8)
B:Input(λ)=1(370nm≦λ≦560nm)
=0(上記以外の波長λ) …(9)
【0077】
すなわち、各Input(λ)をR、G、Bについてそれぞれ設定された上記の波長範囲で1となり、他の波長範囲では0となる、いわば矩形状の関数として設定する。
【0078】
続いて、これらのInput(λ)を上記(1)式に代入して積分を実行すると、例えばRについてのInput(λ)を用いて計算を行った場合、黒体放射の相対強度を表すM(λ)が上記(2)式で表されるように色温度Tに依存することに起因して、図8に示すように色温度Tに依存する理論値I、I、Iが算出される。しかし、図8はRについてのInput(λ)を用いた計算結果であり、有意な情報を有するのは理論値Iのみである。
【0079】
また、G、BについてのInput(λ)を用いてそれぞれ計算を行い、同様にして、有意な情報を有する理論値I、Iを算出する。R、G、Bについての各Input(λ)をそれぞれ用いて算出された色温度Tにそれぞれ依存する理論値I、I、Iをあわせて表すと、図9のグラフのように表すことができる。
【0080】
本実施形態では、この図9に示される各色温度TごとのR、G、Bの相対強度の各理論値I、I、Iを用いて、画素の色が無彩色の場合の補正量C、C、Cの算出と同様にして、画素の色が有彩色の場合のR、G、Bの値に対する補正量C、C、Cが算出されるようになっている。
【0081】
すなわち、図9に示すように算出した各色温度TごとのR、G、Bの各理論値I、I、Iのうち、各色温度Tごとに相対強度が2番目に大きい理論値を基準として各理論値I、I、Iの比率を算出し、算出した各理論値I、I、Iの比率の逆数として画素のR、G、Bに対する補正量C、C、Cが算出される。
【0082】
本実施形態では、画素の色が有彩色の場合には、さらに、色温度に対する補正量C、C、Cを算出するようになっている。
【0083】
画素の色が有彩色である場合、例えば曇天時や雨天時、日陰等のように画像が暗く撮像されるような状況では、画素の色も暗く撮像され、画素の色がどのような色であるかを認識しづらくなる。この色温度に対する補正量C、C、Cは、そのような状況においても画素の色を的確に認識できるように変換するための補正量であり、色温度T(色温度指標値T)での画素のRやGやBの値を、晴天時の白色に相当する基準色温度すなわち5500Kの状態におけるR5500K、G5500K、B5500Kの値に近づけるように変換するための補正量である。
【0084】
すなわち、色温度に対する補正量C、C、Cはそれぞれ、
=IR5500K/I(T) …(10)
=IG5500K/I(T) …(11)
=IB5500K/I(T) …(12)
で算出される。なお、IR5500K等およびI(T)等は、図9に示したように算出された各理論値I等における色温度Tが5500KおよびTのときの値である。
【0085】
そして、本実施形態では、画素の色が有彩色である場合の画素のR、G、Bの値の補正量として、それぞれ画素の色が有彩色の場合のR、G、Bに対する補正量C、C、Cと色温度に対する補正量C、C、Cとを乗算したC、C、Cが用いられるようになっている。
【0086】
図9に示した例の場合、R、G、Bの値の補正量C、C、Cはそれぞれ図10に示すように各色温度Tごとに算出される。なお、図10においても、見やすさを考慮して、補正量C等が色温度3500K〜8000Kの範囲でしか示されていないが、図8や図9に示したように、各理論値I、I、Iが例えば色温度2000K〜12500Kの範囲で計算されている場合には補正量C等もその全範囲で算出される。
【0087】
補正量C等の色温度Tに対する特性は、画素の色が無彩色である場合の補正量C等(図6参照)の場合に比べて、色温度に対する補正量C等が乗算されている分だけ特性曲線が湾曲した形状になっている。
【0088】
本実施形態では、上記のようにして各色温度T(すなわち各色温度指標値T)ごとに算出された有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cのテーブル(すなわち有彩色用のテーブル)が、カラーバランス調整装置1のROM等の記憶手段に予め記憶されている。
【0089】
また、調整手段4は、本実施形態では、判定手段3がある画素について有彩色の画素であると判定した場合、無彩色の画素の場合とは異なり、有彩色の画素と判定された当該画素のR、G、Bの値のうち、最も大きい色成分のみを調整の対象とし、値が2番目に大きい色成分や最も小さい色成分については調整を行わないようになっている。
【0090】
以下、画素のR、G、Bの値のうち、最も大きい色成分がR(すなわちR>GかつR>B)であり、Bが最も小さい色成分である場合について説明する。なお、他の色成分が最大或いは最小の場合も同様に説明される。
【0091】
まず、最も大きい色成分Rと最も小さい色成分Bとの差に応じて、調整のしかたを3つに場合分けする。
【0092】
[調整1]画素のR、Bの値から算出されるR−Bが、予め大きな値に設定された第1閾値Th1以上である(すなわちR−B≧Th1)場合には、当該画素は赤みがかった色をしており、調整手段4は、有彩色用のテーブルを参照して、色温度算出手段2が算出した当該画素の色温度指標値がTにおけるRの補正量Cを算出し、画素のRの値に補正量Cを乗算してRの値を補正して調整を行う。
【0093】
なお、第1閾値Th1は、画素のR、G、Bの値が0〜255の256階調のデジタル値である場合には例えば100等に設定される。また、参照した有彩色用のテーブルに当該色温度指標値Tにおける補正量Cが対応付けられていない場合には、例えば当該色温度指標値Tの近傍の色温度Tにおける補正量Cから線形補間等により当該色温度指標値Tにおける補正量Cを算出する。
【0094】
[調整2]画素のR、Bの値から算出されるR−Bが、予め小さな値に設定された第2閾値Th2以下である(すなわちR−B≦Th2)場合には、当該画素は無彩色に近い色をしており、調整手段4は、この場合は、値が最も大きい色成分Rに対して補正を行わないようになっている。すなわち、この場合、補正量はCではなく1とされる。
【0095】
最も大きい色成分Rと最も小さい色成分Bとの差が例えば20以下であれば、最も大きい色成分Rと2番目に大きい色成分Gとの差や、2番目に大きい色成分Gと最も小さい色成分Bとの差も20以下となる。そのため、本実施形態では、このような場合には上記の(3)〜(5)式を満たすため、上記のように当該画素は判定手段3により無彩色の画素であると判定され、調整手段4は、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cを用いて当該画素のR、G、Bの値の調整を行う。
【0096】
それに対し、上記の調整2では、調整手段4は、値が最も大きい色成分Rに対して補正を行わず、値が2番目に大きい色成分Gや最も小さい色成分Bについても調整を行わない。そのため、本実施形態では、最も大きい色成分Rと最も小さい色成分Bとの差が20より大きく第2閾値Th2以下であるような画素帯に、いわば不感帯が設けられているような状態となっている。
【0097】
従って、このような不感帯をどの程度の画素範囲に設けるかに応じて第2閾値Th2の値が適宜設定される。すなわち、不感帯をある程度大きくとる場合には、第2閾値Th2は例えば25や30等の値に設定され、不感帯を設けない場合には、第2閾値Th2は上記の閾値Tha〜Thcと同様に20に設定される。なお、後者の場合には、結局、上記の調整2が行われる余地がないことになる。
【0098】
[調整3]画素のR、Bの値から算出されるR−Bが、上記の第2閾値Th2より大きく第1閾値Th1より小さい(すなわちTh2<R−B<Th1)場合、すなわち上記の調整1と調整2との中間の場合には、調整手段4は、R−Bの大きさに応じて、上記の調整1における補正量Cと調整2における補正量1とを線形補間して補正量C**を算出し、画素のRの値に算出した補正量C**を乗算してRの値を補正して調整を行う。
【0099】
この場合、補正量C**は、線形補間により、
**=1+(C−1)×(R−B)/(Th1−Th2)…(13)
を演算することにより算出することができる。なお、この場合も、参照した有彩色用のテーブルに当該色温度指標値Tにおける補正量Cが対応付けられていなければ線形補間等により補正量Cが算出される。
【0100】
次に、本実施形態に係るカラーバランス調整装置1の作用について説明する。
【0101】
前述した従来のカラーバランス調整では、撮像装置固有のR、G、B感度が合うように予め調整され、R、G、Bのバランスがほぼ揃っている撮像装置に対して、ホワイトバランス調整処理における補正量をそのまま有彩色にも適用して、画素のR、G、Bの値の調整を行うことができた。
【0102】
しかし、本実施形態のように、入射光が、車両のフロントガラスや防護板等の透過部材や、赤外カットフィルタや偏光フィルタ等の光学フィルタを介してCCDイメージセンサ等の撮像装置10に入射されるカメラシステムの場合、撮像装置10の固有のR、G、B感度が合うように予め調整されていたとしても、ホワイトバランス調整処理における補正量、すなわち無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cをそのまま有彩色に適用して画素のR、G、Bの値を的確に調整することが必ずしも十分にはできない。
【0103】
そこで、本実施形態では、上記のように、判定手段3で、画素のR、G、Bの値に基づいて画素を無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定して分け、無彩色の画素と有彩色の画素とに対して互いに異なる態様で予め設定された色温度指標値Tと補正量との関係、すなわち前述した無彩色用のテーブルと有彩色用のテーブルとを使い分けてR、G、Bの値の調整を行う。
【0104】
前述したように、画素が無彩色であるか有彩色であるかを分ける基準として、本実施形態では、上記(3)〜(5)式の判定条件に従って判定されるように構成されている。これは、車両のフロントガラスの透過特性や赤外カットフィルタ等の光学フィルタの透過率特性が、少なくとも可視光領域では被写体の本来の色をそのままCCDイメージセンサ等に到達させるものであることに基づいている。
【0105】
すなわち、フロントガラスが無色透明で、白色の光がフロントガラス等を透過する際に特定の色(例えば赤)に着色させずに白色のままCCDイメージセンサ等に撮像されるように形成されており、また、光学フィルタが可視光領域の光を全て透過させるように構成されていることに基づく。そして、上記(3)〜(5)式において閾値Tha等が20に設定される場合、無彩色と判定する波長範囲をかなり狭く設定していることになる。
【0106】
しかし、上記のモデルにおいても、フロントガラスの透過特性Ftglass(λ)や光学フィルタの透過率特性OPTfilter(λ)、CCDイメージセンサ等の分光感度特性[r(λ)、g(λ)、b(λ)]等の関係次第で、例えば図4に示したように、色温度Tが白色に相当する5500Kで、理論値IとIは同程度の相対強度となるが理論値Iは理論値I、Iよりもやや小さい値となる場合もある。
【0107】
そこで、例えば上記(1)式に従って算出される理論値I、I、Iに応じて、上記の画素が無彩色の画素であると判定する条件を、例えば、
|R−G|≦20
0≦R−B≦40
0≦G−B≦40
等のように設定することも可能である。
【0108】
また、自律的に行動するロボットにCCDイメージセンサ等の撮像装置10を搭載するような場合、例えば撮像装置10の前方に設置する防護板等が車両のフロントガラスのように無色透明であるとは限らず、白色の光が防護板等を透過する際に特定の色に(例えば赤く)着色されて撮像されるような場合もある。そのような場合には、この特定の色(赤)に対応するR、G、Bの値を出力する画素や、その近傍のR、G、Bの値を出力する画素が無彩色の画素であると判定されるように、画素のR、G、Bの値に対する条件が設定される。
【0109】
また、上記のようなモデルによらず、実際のフロントガラスや防護板等の透過部材や光学フィルタ、CCDイメージセンサ等の撮像装置10のカメラシステムで白色等の無彩色のカラーチャート等を撮像させ、その際に出力される各画素のR、G、Bの値を計測し、それに基づいて画素が無彩色の画素であると判定する条件を予め設定することも可能である。
【0110】
そして、画素が無彩色であると判定された場合には、調整手段4で、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cを用いて画素のR、G、Bの値が補正され調整される。その際、上記のように防護板等が着色されている等して白色の光が防護板等を透過する際に特定の色に(例えば赤く)着色されて撮像されるような場合には、この特定の色(赤)に対応するR、G、Bの値を出力する画素のR、G、Bの値が、R=G=Bとなるように、すなわち白色やグレー等の無彩色に相当する色になるように調整される。また、そのように調整されるように無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cが予め設定される。
【0111】
従って、上記のような場合、着色された防護板等を介して人間の目で外界を見た場合には、全体的に赤みがかって見え、本来白色の物も赤く見えるが、調整された後の当該画素のR、G、Bの値は白色やグレー等の無彩色になる。
【0112】
このような調整を行うことで、本実施形態のように、車両のフロントガラスや防護板等の透過部材や赤外カットフィルタや偏光フィルタ等の光学フィルタが介在するカメラシステムにおいても、無彩色の被写体が撮像された画素から出力されるR、G、Bの値を無彩色に相当するR、G、Bの値に的確に調整することが可能となる。
【0113】
なお、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cには、有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cのように色温度に対する補正量C、C、Cが乗算されていない。しかし、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cにおいて色温度に対する補正量が考慮されていないわけではない。
【0114】
図4に示したように、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cの算出に用いられる上記(1)式に基づくR、G、Bの相対強度の理論値I、I、Iを見ると、色温度Tが低い場合には理論値I、Iに比べて理論値Iが大きな値となっており、色温度Tが高い場合には理論値I、Iよりも理論値Iが大きくなっている。
【0115】
そのため、無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cに既に色温度に対する補正量が含まれていると考えられる。なお、図4において、色温度Tが白色に相当する5500Kのときの理論値I、I、IがI=I=Iになっていない理由は、主にフロントガラスの透過特性や光学フィルタの透過率特性によるものと考えられる。
【0116】
一方、画素が有彩色である場合に、上記の無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cを用いて画素のR、G、Bの値を調整すると、例えば、有彩色の画素の彩度が落ち、本来カラーで撮像されるべき画像がモノクロ状の画像に補正されてしまう場合がある。そして、このように撮像されてしまうと、撮像された画像に基づいて被写体の色を誤って認識してしまう等の問題が生じることは前述した通りである。
【0117】
そこで、本実施形態では、前述したように、有彩色の画素であると判定された画素に対する調整は、上記の無彩色の画素に対する調整とは異なる態様で行われるように構成されている。そして、有彩色用のテーブルが参照され、有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量C、C、Cを用いて画素のRやGやBの値が補正されて調整されるようになっている。
【0118】
その際、有彩色の画素におけるR、G、Bに対する補正量C、C、Cにおいても、図9に示したように、R、G、Bの理論値I、I、Iは、色温度Tが低い場合には理論値I、Iに比べて理論値Iが大きな値となっており、色温度Tが高い場合には理論値I、Iよりも理論値Iが大きくなっているため、有彩色の画素におけるR、G、Bに対する補正量C、C、Cにも既に色温度に対する補正量が含まれていると考えられる。
【0119】
その上で、さらに色温度に対する補正量C、C、Cを乗算して、有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量をC、C、Cとする理由は、前述したように、例えば曇天時や雨天時、日陰等のように画素の色も暗く撮像されるような場合においても画素の色を的確に認識できるように変換するために、色温度T(色温度指標値T)での画素のRやGやBの値を、晴天時の白色に相当する5500Kの状態におけるR5500K、G5500K、B5500Kの値に近づけるように変換するためである。
【0120】
従って、有彩色の画素におけるR、G、Bに対する補正量C、C、Cを用いて、例えば曇天時等のように画素の色も暗く撮像されるような場合においても画素の色を的確に認識できるように調整されるのであれば、有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量としてC、C、Cを用いるように構成することも可能である。
【0121】
ただし、その場合でも、補正量C、C、Cの算出のしかたは、Input(λ)を全ての波長λに対して1として計算する無彩色の場合とは異なる手法で算出され、例えば、本実施形態のように、Input(λ)を上記(7)〜(9)式のように設定して算出したR、G、Bの相対強度の理論値I、I、Iに基づいて算出される。
【0122】
なお、本実施形態の調整手段4では、有彩色の画素に対して、当該画素のR、G、Bの値のうち最も大きい色成分のみを調整の対象とし、値が2番目に大きい色成分や最も小さい色成分については調整を行わない場合について説明したが、その理由は、画素の色には最も大きい色成分が最も強く反映されており、最も大きい色成分を調整すれば画素の色の調整としては十分であるためであり、演算処理を軽くして高速に行うためである。
【0123】
従って、演算処理の高速化を図る必要がないような場合には、例えば、最も大きい色成分の値と2番目に大きい色成分の値との間にほとんど差がないような場合に両方の色成分に対してともに補正するように構成することも可能であり、或いは、3つの色成分について全て補正を行うように構成することも可能である。
【0124】
以上のように、本実施形態に係るカラーバランス調整装置1によれば、各画素のR、G、Bの値に基づいて当該画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定した上で、無彩色の画素と有彩色の画素とに対して互いに異なる態様で予め設定された色温度指標値Tと補正量との関係に従って、画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて上記の関係を使い分け、すなわち参照する無彩色用のテーブルと有彩色用のテーブルとを使い分けて、色温度指標値Tに基づいてR、G、Bの値に対する補正量を算出し、補正量に従って画素ごとのR、G、Bの値の調整を行う。
【0125】
そのため、画素が、無彩色の被写体が撮像された画素か、有彩色の被写体が撮像された画素かに応じて適切に画素のR、G、Bの値を調整することが可能となり、車両のフロントガラスや防護板等の透過部材や赤外カットフィルタや偏光フィルタのような光学フィルタ等が撮像装置10の前方に介在するカメラシステムにおいても、撮像装置10で撮像された画像の各画素のR、G、Bの値を的確に補正して調整することが可能となる。
【0126】
また、そのため、このようなカメラシステムにおいても、白色やグレー等の無彩色と赤や緑、青等の有彩色を的確に調整して撮像することが可能となり、それにより撮像された画像に基づいて被写体の色を的確に認識することが可能となる。そして、例えば、撮像装置10を車両や自律的に行動するロボット等に搭載して被写体を検出するような場合に、被写体の色を的確に認識して、被写体を的確に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0127】
1 カラーバランス調整装置
2 色温度算出手段
3 判定手段
4 調整手段
10 撮像装置
、C、C 無彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量
、C、C 色温度に対する補正量
、C、C 有彩色の画素に対するR、G、Bの値の補正量
Ftglass(λ) 車両のフロントガラスの透過特性(撮像装置の分光感度特性)
、I、I R、G、Bの相対強度の各理論値
M(λ) 黒体放射による相対強度
OPTfilter(λ) 光学フィルタの特性(撮像装置の分光感度特性)
、r、r 各理論値の比率
[r(λ)、g(λ)、b(λ)] 分光感度特性(撮像装置の分光感度特性)
色温度指標値
Th1 第1閾値
Th2 第2閾値
Tha〜Thc 所定の閾値
Ω 波長についての積分範囲(所定の波長範囲)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置により撮像された画像のカラーバランス調整装置において、
前記撮像装置から入力された前記画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて各画素ごとに色温度指標値を算出する色温度算出手段と、
前記画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて前記各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかを判定する判定手段と、
前記無彩色の画素と前記有彩色の画素とに対して互いに異なる態様で予め設定された前記色温度指標値と補正量との関係に従って、前記各画素が無彩色の画素であるか有彩色の画素であるかに応じて前記関係を使い分けて前記色温度指標値に基づくR、G、Bの値に対する前記補正量を算出し、前記補正量に従って前記画素ごとのR、G、Bの値の調整を行う調整手段と、
を備えることを特徴とするカラーバランス調整装置。
【請求項2】
前記無彩色の画素に対する前記R、G、Bの値の補正量は、白色を撮像する条件の下で前記撮像装置の分光感度特性と黒体放射による相対強度とを乗算した値を所定の波長範囲で積分した場合の各色温度指標値ごとの前記R、G、Bの相対強度の各理論値のうち、各色温度指標値ごとに前記相対強度が2番目に大きい前記理論値を基準として算出された前記各理論値の比率の逆数として各色温度指標値ごとに設定されることを特徴とする請求項1に記載のカラーバランス調整装置。
【請求項3】
前記調整手段は、前記判定手段により無彩色の画素と判定された前記画素のうち、RとGとBの値が全て等しい画素を前記補正量によるR、G、Bの値の調整の対象から除外し、それ以外の前記画素について前記補正量によるR、G、Bの値の調整を行うことを特徴とする請求項2に記載のカラーバランス調整装置。
【請求項4】
前記有彩色の画素に対する前記R、G、Bの値の補正量は、前記撮像装置の分光感度特性においてR、G、Bのそれぞれについて感度が高い波長範囲でそれぞれ前記撮像装置の分光感度特性と黒体放射による相対強度とを乗算した値を積分した場合の各色温度指標値ごとの前記R、G、Bの相対強度の各理論値で、基準色温度における前記R、G、Bの相対強度の各理論値をそれぞれ除算して算出される色温度に対する補正量と、各色温度指標値ごとの前記R、G、Bの相対強度の各理論値のうち、各色温度指標値ごとに前記相対強度が2番目に大きい前記理論値を基準として算出された前記各理論値の比率の逆数として算出されるR、G、Bに対する補正量と、を乗算した値として各色温度指標値ごとに設定されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカラーバランス調整装置。
【請求項5】
前記撮像装置の分光感度特性においてR、G、Bのそれぞれについて感度が高い波長範囲は、R、G、Bについて同一の波長幅の波長範囲として設定されることを特徴とする請求項4に記載のカラーバランス調整装置。
【請求項6】
前記調整手段は、前記判定手段により有彩色の画素と判定された前記画素について、R、G、Bの値のうち最も大きい色成分のみを調整の対象とし、前記最も大きい色成分の値と最も小さい色成分の値との差が所定の第1閾値以上である場合には前記最も大きい色成分の値に当該色成分に対する前記補正量を乗算し、前記差が前記所定の第1閾値より小さい値に設定された第2閾値以下である場合には前記最も大きい色成分の値を調整せず、前記差が前記第1閾値と前記第2閾値との間の値である場合には、前記差に応じて前記補正量を線形補間した値を当該最も大きい色成分の値に乗算して、R、G、Bの値の調整を行うことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のカラーバランス調整装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記画像の各画素のR、G、Bの値に基づいて、|R−G|、|R−B|、|B−G|がそれぞれ所定の閾値以下であるという条件を満たす場合に、当該画素が無彩色の画素であると判定し、それ以外の場合に当該画素が有彩色の画素であると判定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のカラーバランス調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−272934(P2010−272934A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120811(P2009−120811)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】