説明

カルビノール基含有シリコーンの製造方法及びヒドロシリル化反応における脱水素反応抑制方法

【課題】1分子中に末端に二重結合と炭素原子に結合した水酸基を有する化合物と片末端SiH基含有ポリシロキサンとの付加反応により得られる片末端カルビノール基含有シリコーンを高純度で製造する方法、及び上記反応において、従来技術では生成抑制できなかった、SiH基と水酸基との脱水素由来成分の低減化を目的とする、ヒドロシリル化反応における脱水素反応抑制方法を提供する。
【解決手段】1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端SiH基含有ポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、該ヒドロシリル化反応をフェノール化合物の存在下に行うことを特徴とするカルビノール基含有シリコーンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留等の精製工程なしでも、簡便に高純度のカルビノール基含有シリコーンを製造する方法、及び該製造において、ヒドロシリル化反応時の脱水素反応抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1分子中に末端に二重結合と炭素原子に結合した水酸基をそれぞれ1個有する化合物と片末端にSiH基を含有するポリシロキサン、一例として下記一般式[II]で示される化合物と下記一般式[I]で示される片末端ハイドロジェンシロキサンとの付加反応により、片末端にカルビノール基を有するシリコーン化合物を製造することは既に知られている。
【化1】


(式中、R’は炭素数1〜4のアルキル基であり、R”は水素原子又はメチル基であり、Meはメチル基であり、mは0〜500の整数、pは0〜20の整数、qは0〜30の整数、rは0〜30の整数である。)
【0003】
しかし、中和された白金触媒を使用し、中性条件で上記反応を行っても、目的の付加反応のほかにSiH基と水酸基との脱水素反応が起こり、該脱水素由来成分が3%以上生成するという問題があった。
【0004】
脱水素由来成分を除去し、目的の付加反応成分を取り出すためには、精密な減圧蒸留を行う必要があり、これにより多大なコストアップになる。
【0005】
また、特許第3108427号公報(特許文献1)には、高純度カルビノール基含有オルガノポリシロキサンの製造方法が開示されている。しかし、この製造方法は、水酸基をトリメチルシリル化によりあらかじめ保護し、付加反応後に脱トリメチルシリル化する方法であり、簡便な製造方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3108427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、1分子中に末端に二重結合と炭素原子に結合した水酸基を有する化合物と片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとの付加反応により得られる片末端カルビノール基含有シリコーンを高純度で製造する方法を提供するものである。
更に、本発明は、上記反応において、従来技術では生成抑制できなかった、SiH基と水酸基との脱水素由来成分の低減化を目的とする、ヒドロシリル化反応における脱水素反応抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、フェノール化合物を存在させることにより、カルビノール基含有シリコーンを高純度で得ることができることを知見した。
即ち、上記ヒドロシリル化反応時に、フェノール化合物を存在させると、反応機構は不明ながら触媒中の白金の電子状態が変化し、脱水素反応が抑制され、脱水素由来成分が減少することを見出し、本発明を完成したものである。
【0009】
従って、本発明は、下記に示すカルビノール基含有シリコーンの製造方法及びヒドロシリル化反応における脱水素反応抑制方法を提供する。
〔請求項1〕
1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、該ヒドロシリル化反応をフェノール化合物の存在下に行うことを特徴とするカルビノール基含有シリコーンの製造方法。
〔請求項2〕
片末端にSiH基を含有するポリシロキサンが、下記一般式[I]で示される片末端ハイドロジェンシロキサンであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【化2】


(式中、R’は炭素数1〜4のアルキル基であり、Meはメチル基であり、mは0〜500の整数である。)
〔請求項3〕
1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物が、下記一般式[II]で示される化合物である請求項1又は2記載の製造方法。
【化3】


(式中、R”は水素原子又はメチル基であり、Meはメチル基であり、pは0〜20の整数、qは0〜30の整数、rは0〜30の整数である。)
〔請求項4〕
フェノール化合物が、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン又はハイドロキノンモノメチルエーテルであることを特徴とする請求項1,2又は3記載の製造方法。
〔請求項5〕
ヒドロシリル化反応後、未反応の1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物を除去し、更に溶剤ストリップ除去後のカルビノール基含有シリコーンのガスクロマトグラフィー分析により測定した純度が97%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
〔請求項6〕
1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、該ヒドロシリル化反応をフェノール化合物の存在下で行うことを特徴とする上記ヒドロシリル化反応における脱水素反応の抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、付加反応時の脱水素反応が抑制されることにより、該脱水素由来成分の生成が抑制され、これによりカルビノール基含有シリコーンを高純度で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカルビノール基含有シリコーンの製造方法は、1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、該ヒドロシリル化反応をフェノール化合物の存在下に行うことを特徴とするものである。この方法により、ヒドロシリル化反応時のSiH基と水酸基との脱水素反応が抑制され、該カルビノール基含有シリコーン(水酸基含有シリコーン)を高純度で製造することができる。
【0012】
ここで、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとしては、片末端がSiH基で封鎖されたシロキサンであれば特に制限されないが、下記一般式[I]で示される片末端ハイドロジェンシロキサンが好適に使用される。
【化4】


上記式[I]中、R’は炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。Meはメチル基であり、mは0〜500、好ましくは0〜200、より好ましくは0〜100の整数である。
【0013】
本発明に使用する片末端ハイドロジェンシロキサンは、比較的高純度のものが使用される。具体的には、ガスクロマトグラフィーにより測定した純度が95%以上、特に98%以上であることが好ましい。片末端ハイドロジェンシロキサンの純度が低すぎると目的とするカルビノール基含有シリコーンの純度が低下する場合がある。なお、実施例のSi5量体カルビノール基含有シリコーンを製造する際にはガスクロマトグラフィーにより測定した純度が99%以上の片末端ハイドロジェンシロキサンが使用される。
【0014】
また、1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上、好ましくは1個有する化合物としては、下記一般式[II]で示される化合物が好適に使用される。
【化5】


上記式[II]中、R”は水素原子又はメチル基であり、Meはメチル基である。pは0〜20の、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10の整数、qは0〜30、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜10の整数、rは0〜30、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜10の整数である。p+q+rは、1〜80、特に1〜30であることが好ましい。
【0015】
1分子中に末端に二重結合と炭素原子に結合した水酸基を有する化合物としては、アリルアルコール、メタリルアルコール、ペンテノール、ヘキセノール、デセノール等の不飽和アルコール、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノメタリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノメタリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノメタリルエーテル、テトラエチレングリコールモノアリルエーテル、テトラエチレングリコールモノメタリルエーテル等のポリオキシエチレン化合物、プロピレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノメタリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノメタリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノメタリルエーテル、テトラプロピレングリコールモノアリルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメタリルエーテル等のポリオキシプロピレン化合物、更にはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物などが例示できる。
【0016】
1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端SiH基含有ポリシロキサンとの反応割合は、1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を有する化合物が過剰量となる割合で反応させることが好ましく、具体的には、片末端SiH基含有ポリシロキサン1モルに対して1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物が1.1〜10モルとなる量であることが好ましく、特に1.2〜5モルとなる量であることが好ましい。
【0017】
白金系触媒(ヒドロシリル化触媒)としては、白金属触媒、特に塩化白金酸から誘導される白金触媒が使用される。この際、塩化白金酸のクロルが残存していると、反応系が酸性になり、脱水素反応を増加させるので、重曹中和する必要がある。白金触媒の安定性向上の点で、クロルを重曹で完全中和した、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサンで白金と錯体を形成させたものが反応触媒として最も好適である。
白金系触媒の添加量は、通常のヒドロシリル化反応に用いられる触媒量でよく、具体的には、片末端SiH基含有ポリシロキサンと1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物の合計に対して0.1〜1,000ppm、特に1〜500ppmであることが好ましい。
【0018】
上記反応時に添加するフェノール化合物としては、酸化防止剤、重合禁止剤として使用されるヒンダードフェノール化合物が特に好ましい。ヒンダードフェノール化合物として、具体的には、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,5−ジ−t−アミル−ハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチル−ハイドロキノンなどが挙げられる。
また、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等は、嵩高い置換基を有さず、ヒンダードフェノールとは言えないが重合禁止効果があり、これらも好適に使用することができる。
【0019】
フェノール化合物の添加量は、添加有効量であればよいが、具体的には片末端SiH基含有ポリシロキサンと1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物の合計に対して0.1〜10,000ppm、特に1〜1,000ppmであることが好ましい。
フェノール化合物の添加量が少なすぎると脱水素反応抑制効果が不十分となることがあり、多すぎると副反応物が生成することがある。
【0020】
付加反応の際、溶剤は使用してもしなくてもよいが、使用する場合は活性水素を持たないものが好ましい。このような溶剤としては特に限定されないが、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物が好適に使用できる。
【0021】
上記反応は、原料を全て仕込み、一括で反応させてもよいが、片末端ハイドロジェンシロキサンに対して過剰量の1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、白金系触媒、フェノール化合物、及び必要により溶剤を仕込み、ここへ片末端ハイドロジェンシロキサンを滴下反応させることが、脱水素反応が抑制されることから最も好ましい。
【0022】
反応温度は20〜160℃、より好ましくは50〜120℃が好適である。反応温度が低すぎるとヒドロシリル化反応の進行が遅すぎる場合があり、高すぎると脱水素反応が生成し、目的物の純度が低下する場合がある。
また、反応時間は特に制限されないが、好ましくは30分〜1日、より好ましくは1〜10時間、特に2〜8時間とすることが好ましい。
【0023】
上記反応後、過剰の1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物(原料カルビノール)を除去し、溶剤ストリップ除去することにより、下記一般式[III]で示されるカルビノール基含有シリコーンを製造することができる。
【化6】


(式中、R’、R”、Me、m、p、q、rは上記と同じである。)
【0024】
なお、上記反応において、片末端SiH基含有ポリシロキサン中のSiH基と1分子中に末端に二重結合を1個及び炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物中の水酸基との脱水素反応により極少量ではあるが副生成物が製造される。このような脱水素反応由来の化合物としては、例えば、以下のようなものが例示される。
【化7】


(式中、R’、R”、Me、m、p、q、rは上記と同じである。)
【0025】
本発明においては、付加反応時に前述したフェノール化合物を共存させることで、脱水素反応が抑制され、上述した脱水素反応由来の副生成物が3質量%以下、特に2質量%以下、とりわけ1質量%以下に抑えられる。これにより、蒸留等の精製工程なしで、簡便に高純度のカルビノール基含有シリコーンを得ることができ、本発明の製造方法により得られるカルビノール基含有シリコーン(少量の付加異性体を含む)の純度は、上記ヒドロシリル化反応後、過剰の原料カルビノールを除去し、更に溶剤ストリップ除去した後において、97質量%以上、特に98質量%以上と高純度のものである。
【0026】
なお、本発明において、カルビノール基含有シリコーンの純度は、以下の測定法により求めた。
カルビノール基含有シリコーン[III]純度測定法(GC法)
ガスクロマトグラフィー(GC)による測定は、Agilent社ガスクロマトグラフ(FID検出器)を使用した。
キャピラリーカラム:J&W社 HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(5分)→10℃/分→250℃(保持)
注入口温度250℃、検出器温度FID300℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0ml/分)
スプリット比:50:1 注入量:1μL
【0027】
本発明の製造方法により得られたカルビノール基含有シリコーンの用途としては特に限定されないが、例えば、一例を挙げると、(メタ)アクリル酸クロライドと反応させ、(メタ)アクリルシリコーンモノマーに誘導される。この(メタ)アクリルシリコーンモノマーは、他の親水性モノマーと共重合することで、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズとして好適なポリマーとなり得る。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、下記例において、%は質量%を示す。また、下記式において、Meはメチル基、Buはブチル基を示す。
【0029】
[実施例1]
[III]−1の合成
ジエチレングリコールモノアリルエーテル146g(1mol)、及び脱水トルエン200gを、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。
塩化白金酸重曹中和・ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)を0.38g、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)を0.03g添加し、滴下ロート中の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン(純度99.5%)206g(0.5mol)を1時間で滴下した。内温は85℃まで上昇した。100℃で1時間熟成後に反応物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、原料モノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンのピークが消失し、反応は完結していた。
次に、200gの5%ぼう硝水を加え、攪拌水洗し、静置分離した。過剰のジエチレングリコールモノアリルエーテルは有機層より水層に移行した。更に5%ぼう硝水200gで2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして下記式で示されるカルビノール基含有シリコーン[III]−1を240g(収率86.0%)得た。[III]−1のガスクロマトグラフィー分析により測定した純度(付加異性体を含む純度)は98.5%であった。
【化8】


なお、[III]−1の内訳は、下記の通りである。
【化9】

【0030】
[比較例1]
[III]−1の合成
ジエチレングリコールモノアリルエーテル146g(1mol)、及び脱水トルエン200gを、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。
塩化白金酸重曹中和・ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)を0.38g添加し、滴下ロート中の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン(純度99.5%)206g(0.5mol)を1時間で滴下した。内温は85℃まで上昇した。100℃で1時間熟成後に反応物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、原料モノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンのピークが消失し、反応は完結していた。
次に、200gの5%ぼう硝水を加え、攪拌水洗し、静置分離した。過剰のジエチレングリコールモノアリルエーテルは有機層より水層に移行した。更に5%ぼう硝水200gで2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして下記式で示されるカルビノール基含有シリコーン[III]−1を235g(収率84.2%)得た。[III]−1のガスクロマトグラフィー分析により測定した純度は96.0%であった。
【0031】
【化10】


なお、[III]−1の内訳は、下記の通りである。
【化11】

【0032】
[実施例2]
[III]−2の合成
エチレングリコールモノアリルエーテル102g(1mol)、及び脱水トルエン200gをジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。
塩化白金酸重曹中和・ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)を0.38g、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)を0.03g添加し、滴下ロート中の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン(純度99.5%)206g(0.5mol)を1時間で滴下した。内温は85℃まで上昇した。100℃で1時間熟成後に反応物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、原料モノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンのピークが消失し、反応は完結していた。
次に、200gの5%ぼう硝水を加え、攪拌水洗し、静置分離した。過剰のエチレングリコールモノアリルエーテルは有機層より水層に移行した。更に5%ぼう硝水200gで2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして下記式で示されるカルビノール基含有シリコーン[III]−2を231g(収率89.9%)得た。[III]−2のガスクロマトグラフィー分析により測定した純度は98.8%であった。
【0033】
【化12】


なお、[III]−2の内訳は、下記の通りである。
【化13】

【0034】
[比較例2]
[III]−2の合成
エチレングリコールモノアリルエーテル102g(1mol)、及び脱水トルエン200gをジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。
塩化白金酸重曹中和・ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)を0.38g添加し、滴下ロート中の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン(純度99.5%)206g(0.5mol)を1時間で滴下した。内温は85℃まで上昇した。100℃で1時間熟成後に反応物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、原料モノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンのピークが消失し、反応は完結していた。
次に、200gの5%ぼう硝水を加え、攪拌水洗し、静置分離した。過剰のエチレングリコールモノアリルエーテルは有機層より水層に移行した。更に5%ぼう硝水200gで2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして下記式で示されるカルビノール基含有シリコーン[III]−2を228g(収率88.7%)得た。[III]−2のガスクロマトグラフィー分析により測定した純度は95.6%であった。
【0035】
【化14】


なお、[III]−2の内訳は、下記の通りである。
【化15】

【0036】
[実施例3]
[III]−1の合成
ジエチレングリコールモノアリルエーテル146g(1mol)、及び脱水トルエン200gを、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた1Lフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。
塩化白金酸重曹中和・ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)を0.38g、BHTに替え、MQ(ヒドロキノンモノメチルエーテル)を0.03g添加し、滴下ロート中の1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン(純度99.5%)206g(0.5mol)を1時間で滴下した。内温は85℃まで上昇した。100℃で1時間熟成後に反応物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、原料モノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンのピークが消失し、反応は完結していた。
次に、200gの5%ぼう硝水を加え、攪拌水洗し、静置分離した。過剰のジエチレングリコールモノアリルエーテルは有機層より水層に移行した。更に5%ぼう硝水200gで2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして下記式で示されるカルビノール基含有シリコーン[III]−1を245g(収率87.8%)得た。[III]−1のガスクロマトグラフィー分析により測定した純度は98.0%であった。
【0037】
【化16】


なお、[III]−1の内訳は、下記の通りである。
【化17】

【0038】
以上のように、実施例1〜3は、目的カルビノール基含有シリコーンの純度が97%以上であり、フェノール化合物を添加しない比較例との差は歴然である。
蒸留精製等の追加精製なしに、例えば一例を挙げると、コンタクトレンズ用のアクリル原料中間体として使用できるので、本カルビノール基含有シリコーンの製造方法は極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、該ヒドロシリル化反応をフェノール化合物の存在下に行うことを特徴とするカルビノール基含有シリコーンの製造方法。
【請求項2】
片末端にSiH基を含有するポリシロキサンが、下記一般式[I]で示される片末端ハイドロジェンシロキサンであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【化1】


(式中、R’は炭素数1〜4のアルキル基であり、Meはメチル基であり、mは0〜500の整数である。)
【請求項3】
1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物が、下記一般式[II]で示される化合物である請求項1又は2記載の製造方法。
【化2】


(式中、R”は水素原子又はメチル基であり、Meはメチル基であり、pは0〜20の整数、qは0〜30の整数、rは0〜30の整数である。)
【請求項4】
フェノール化合物が、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン又はハイドロキノンモノメチルエーテルであることを特徴とする請求項1,2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
ヒドロシリル化反応後、未反応の1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物を除去し、更に溶剤ストリップ除去後のカルビノール基含有シリコーンのガスクロマトグラフィー分析により測定した純度が97%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
1分子中に末端に二重結合を1個と炭素原子に結合した水酸基を1個以上有する化合物と、片末端にSiH基を含有するポリシロキサンとを、白金系触媒を用いてヒドロシリル化するに際し、該ヒドロシリル化反応をフェノール化合物の存在下で行うことを特徴とする上記ヒドロシリル化反応における脱水素反応の抑制方法。

【公開番号】特開2012−236887(P2012−236887A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105758(P2011−105758)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】